(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】電極、電極の製造方法、イオンセンサ、生体内成分測定装置及び生体内成分測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20250203BHJP
G01N 27/333 20060101ALI20250203BHJP
【FI】
G01N27/30 Z
G01N27/333 331G
G01N27/333 331F
G01N27/333 331E
G01N27/333 331H
(21)【出願番号】P 2021569834
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048407
(87)【国際公開番号】W WO2021140933
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2020003117
(32)【優先日】2020-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 兼一
(72)【発明者】
【氏名】小島 順子
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-018578(JP,A)
【文献】特開2018-080963(JP,A)
【文献】特開平04-019554(JP,A)
【文献】国際公開第2008/032790(WO,A1)
【文献】特開2003-329644(JP,A)
【文献】特表2019-505961(JP,A)
【文献】特開2015-076210(JP,A)
【文献】KOMABA, S. et al.,All-solid-state ion-selective electrodes with redox-active lithium, sodium, and potassium insertion materials as the inner solid-contact layer,Analyst,2017年,Vol.142,p.3857-3866
【文献】SAUVAGE, F. et al.,Study of the potentiometric response towards sodium ions of Na0.44-xMnO2 for the development of selective sodium ion sensors,Sensors and Actuators B,2007年,Vol.120,p.638-644
【文献】TANI, Y. et al.,Alkali Metal Ion-Selective Electrodes Based on Relevant Alkali Metal Ion Doped Manganese Oxides,Mikrochim. Acta,1998年,Vol.129,p.81-90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/30
G01N 27/333
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物及び固体電解質を含有し且つ静電塗布で形成された内部固体層と、
電極材と、
を含む、電極。
【請求項2】
金属酸化物及び固体電解質を含有する内部固体層と、
イオン選択膜と、
電極材と、
を含む、電極。
【請求項3】
前記固体電解質がイオン伝導性セラミックスである、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
前記固体電解質がナトリウムイオン又はカリウムイオン伝導性セラミックスである、請求項1~3のいずれか一項に記載の電極。
【請求項5】
前記固体電解質がβ”アルミナ又はβアルミナである、請求項1~4のいずれか一項に記載の電極。
【請求項6】
前記金属酸化物がイオン-電子伝導体である、請求項1~5のいずれか一項に記載の電極。
【請求項7】
前記金属酸化物がナトリウムイオン又はカリウムイオンに対するイオン-電子伝導体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の電極。
【請求項8】
前記金属酸化物がM
xMnO
2(MはNa又はKを示し、xは任意の正数を示す。)である、請求項7に記載の電極。
【請求項9】
前記xが0.2~0.5である、請求項8に記載の電極。
【請求項10】
前記固体電解質及び前記金属酸化物が粒子状である、請求項1~9のいずれか一項に記載の電極。
【請求項11】
前記固体電解質の平均粒径が前記金属酸化物の平均粒径より小さい、請求項10に記載の電極。
【請求項12】
前記内部固体層における前記金属酸化物と前記固体電解質との質量比(金属酸化物:固体電解質)が2:1~1:2である、請求項1~11のいずれか一項に記載の電極。
【請求項13】
前記内部固体層が結着剤及び導電剤を含有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の電極。
【請求項14】
前記結着剤が、
(a)ポリフッ化ビニリデン、
(b)スチレンブタジエンラテックス及びカルボキシメチルセルロースを含有する混合剤、
(c)ポリアミド、ポリイミド、及びカルボジイミドを含有する混合剤、
(d)ポリテトラフルオロエチレン、並びに
(e)アクリルエマルジョン
からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項13に記載の電極。
【請求項15】
前記導電剤が、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボン粉末、及びグラファイト粉末からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項13又は14に記載の電極。
【請求項16】
前記電極材上に直接、前記内部固体層が配置されている、請求項1~15のいずれか一項に記載の電極。
【請求項17】
イオン選択膜をさらに含む、請求項1に記載の電極。
【請求項18】
前記イオン選択膜がイオノフォアを含有する、請求項2又は17に記載の電極。
【請求項19】
前記内部固体層上に直接、前記イオン選択膜が配置されている、請求項2、17又は18に記載の電極。
【請求項20】
イオン液体ゲル膜をさらに含む、請求項1~19のいずれか一項に記載の電極。
【請求項21】
前記内部固体層上に直接、前記イオン液体ゲル膜が配置されている、請求項20に記載の電極。
【請求項22】
前記電極材が、白金、金、銀、パラジウム、アルミニウム、ニッケル、及び炭素からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1~21のいずれか一項に記載の電極。
【請求項23】
電極材上に、金属酸化物及び固体電解質を含有する内部固体層を形成することを含み、且つ前記内部固体層の形成方法が静電塗布である、電極の製造方法。
【請求項24】
電極材上に、金属酸化物及び固体電解質を含有する内部固体層を形成すること、及び前記内部固体層上に、イオン選択膜を形成すること、を含む、電極の製造方法。
【請求項25】
前記内部固体層上に、イオン選択膜又はイオン液体ゲル膜を形成することを含む、請求項
23に記載の製造方法。
【請求項26】
絶縁基板、並びに該絶縁基板上に配置されてなるイオン選択性電極及び参照電極を含み、
前記イオン選択性電極が請求項2及び17~19のいずれか一項に記載の電極である
、イオンセンサ。
【請求項27】
絶縁基板、並びに該絶縁基板上に配置されてなるイオン選択性電極及び参照電極を含み、
前記参照電極が請求項20又は21に記載の電極である
、イオンセンサ。
【請求項28】
被検者から採取された組織液に含まれるナトリウムイオン濃度を測定する、請求項26
又は27に記載のイオンセンサを含む、生体内成分測定装置。
【請求項29】
被検者から採取された組織液に含まれるナトリウムイオン濃度を、請求項26
又は27に記載のイオンセンサにより測定することを含む、生体内成分測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極、電極の製造方法、イオンセンサ、生体内成分測定装置及び生体内成分測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体型のイオン選択性電極及びこれを用いたイオンセンサが知られている。例えば、非特許文献1には、二次電池用電極材料として用いられるインサーション材料(Na0.33MnO2、LiaFePO4、KbMnO2・mH2O)を内部固体層として使用した全固体型イオン選択性電極が開示されている。これは、白金電極上に、Na0.33MnO2、LiaFePO4、又はKbMnO2・mH2Oと導電剤(アセチレンブラック)及び結着剤(PVDF)とを混合してなる内部固体層を積層し、さらにその上に、基材(ポリ塩化ビニル)にイオノフォア、可塑剤及びアニオン排除剤を配合してなるイオン選択膜を積層して形成した電極である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Shinichi Komaba, et al.,“All-solid-state ion-selective electrodes with redox-active lithium, sodium, and potassium insertion materials as the inner solid-contact layer ”Analyst, 142(20), 3857-3866 (2017).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、より高品質の電極を得るべく研究を進める中で、イオンセンサの従来型の電極は、複数回の繰返し使用及び/又は長時間の使用により電位が不安定になり、電位が変化してしまうことを見出した。この電位不安定性は校正頻度の増加、電極の交換頻度の増加に繋がってしまう。このため、従来のイオンセンサは、毎回の測定毎もしくは決められた時間間隔で複数回測定する毎に校正を行っている。 そこで、本発明は、イオンセンサにおける繰返し使用及び/又は長時間の使用に対する電位安定性がより高い電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題に鑑みて鋭意研究を進めた結果、金属酸化物及び固体電解質を含有する内部固体層と、電極材とを含む、電極、であれば上記課題を解決できることを見出した。本発明者は、この知見に基づいてさらに研究を進めた結果、本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、下記の態様を包含する。
【0007】
項A.金属酸化物及び固体電解質を含有する内部固体層と、電極材とを含む、電極.
項B.電極材上に、金属酸化物及び固体電解質を含有する内部固体層を形成することを含む、電極の製造方法.
項C.絶縁基板、及び該絶縁基板上に配置されてなる項Aに記載の電極を含む、イオンセンサ.
項D.被検者から採取された組織液に含まれるナトリウムイオン濃度を測定する、項Cに記載のイオンセンサを含む、生体内成分測定装置.
項E.被検者から採取された組織液に含まれるナトリウムイオン濃度を、項Cに記載のイオンセンサにより測定することを含む、生体内成分測定方法.
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、イオンセンサにおける繰返し使用及び/又は長時間の使用に対する電位安定性がより高い電極を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の電極の一例を示す模式的な断面図である。
【
図2】本発明のイオン選択性電極の一例を示す模式的な断面図である。
【
図3】本発明の参照電極の一例を示す模式的な断面図である。
【
図4】本発明のイオンセンサの一例を示す模式的な断面図である。
【
図5】本発明のイオンセンサの一部の一例を示す模式的な断面図である。
【
図6】本発明のイオンセンサの一例を示す模式的な断面図である。
【
図7】本発明のイオンセンサの一例を示す模式的な断面図である。
【
図8】本発明のイオンセンサの一例を示す模式的な平面図である。
【
図9】(a)は生体内成分測定装置の第1カバーが閉状態のときの斜視図であり、(b)は開状態のときの斜視図である。
【
図10】(a)は生体内成分測定装置の内部の概略構成を側面視で示す説明図であり、(b)は正面視で示す説明図である。
【
図12】(a)はグルコースセンサ及びナトリウムイオンセンサの斜視図であり、(b)は側面図である。
【
図13】内部固体層の断面SEM画像における各材料の配置態様を示す。
【
図14】内部固体層の断面SEM画像における各材料の配置態様を示す。
【
図15】試験例1の電位測定結果を示す。横軸は電解質溶液のNa濃度を示し、縦軸は測定電位を示す。
【
図16】試験例2の電位測定結果を示す。横軸は測定の繰り返し回数を示し、縦軸は1回目の測定電位からの電位変動(絶対値)を示す。
【
図17】試験例3の電位測定結果を示す。横軸は固体電解質の質量比を示す。縦軸はNa濃度2mM溶液を6回、30mM溶液を1回、2mM溶液を1回測定するセットを1セットとして、3セットを連続して実施し、各セットにおいて、電位が安定となる2mM溶液の6回目の電位を測定した場合の、当該電位の3セットの標準偏差を示す。
【
図18】試験例4の電位測定結果を示す。横軸中、「1」は初日の結果を示し、「3」は3日目の結果を示す。縦軸は各日における、最初と最後に取得した同濃度の電解質溶液の測定電位の差(絶対値)を示す。
【
図19】試験例5の電位測定方法の概要を示す模式図である。
【
図20】試験例5の電位測定結果を示す。横軸は電解質溶液のNa濃度を示し、縦軸はNa濃度0.3mMの測定電位からの電位差を示す。
【
図21】試験例5における、市販の内部液を有するAg/AgCl(内部液:飽和KCl)電極に対する実施例5の測定電位を示す。
【
図22】試験例6の電位測定結果を示す。縦軸は、電解質溶液に1時間半浸して、浸した直後と1時間半後の測定電位との差を示す。
【
図23】試験例7の電位測定結果を示す。縦軸は、30mM溶液の電位の標準偏差を示す。
【
図24】試験例8の電位測定結果を示す。横軸は電解質溶液のK濃度を示し、縦軸は測定電位を示す。
【
図25】試験例8’の電位測定結果を示す。縦軸は、最初に測定したK1,10,100mM溶液と、4.8~5時間後に最後に測定したK1,10,100mM溶液の電位変動率を示す。
【
図26】試験例9の電位測定結果を示す。縦軸は、最初に測定したK1,10,100mM溶液と、4.8~5時間後に最後に測定したK1,10,100mM溶液の電位変動率を示す。
【
図27】試験例10の電位測定結果を示す。縦軸は、K10mM溶液の電位の標準偏差を示す。
【
図28】試験例11の電位測定結果を示す。縦軸は、各電極をK1mM溶液で安定化したのち、10mM溶液、100mM溶液、1mM溶液に順に浸し、浸してから1分後の測定電位と最後に測定したK1mM溶液測定時の電位との差の絶対値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0011】
1.電極
本発明は、その一態様において、金属酸化物及び固体電解質を含有する内部固体層と、電極材とを含む、電極(本明細書において、「本発明の電極」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0012】
金属酸化物は、イオンセンサの電極に使用可能なものである限り、特に制限されない。本発明の電極を、イオンセンサにおけるイオン選択性電極として使用する場合、金属酸化物として、好適には、電子の授受に伴い結晶構造内で測定イオンの脱挿入を行うことができるもの(イオン-電子伝導体)を使用することができる。
【0013】
測定イオンとしては、特に制限されないが、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等、好ましくはナトリウムイオン、カリウムイオン等、特に好ましくはナトリウムイオンが挙げられる。
【0014】
金属酸化物は、測定イオンに応じて、適宜選択することができる。金属酸化物として、具体的には、例えばMxMnO2、MxNiO2、MxCoO2、MxNi0.5Mn0.5O2、MxFeO2、M2/3Fe1/3Mn2/3O2、MxNi1/3Co1/3Mn1/3O2、MxNi0.5Ti0.5O2、MxVO2、MxCrO2、MxFePO4(式中、Mは、それぞれ独立に、Na又はKであり、xは任意の正数を示す。)等が挙げられる。これらの中でも、より好ましくはMxMnO2が挙げられ、特に好ましくはNaxMnO2が挙げられる。
【0015】
xは、通常は0<x≦1である。xは、好ましくは0.15~0.66であり、より好ましくは0.2~0.5であり、さらに好ましくは0.22~0.28、0.30~0.36、又は0.41~0.47であり、特に好ましくは0.245~0.255、0.325~0.335、又は0.435~0.445である。
【0016】
金属酸化物の結晶構造は、イオンセンサの電極として使用可能なものである限り、特に制限されない。結晶構造としては、例えば直方晶系結晶構造、正方晶系結晶構造、三方晶系結晶構造、六法晶系結晶構造、立法晶系結晶構造、三斜晶系結晶構造、単斜晶系結晶構造等が挙げられ、これらの中でも好ましくは直方晶系結晶構造が挙げられる。
【0017】
金属酸化物の形態は特に制限されないが、好ましくは粒子状である。金属酸化物の粒子は、例えばリン片状、ロッド状、柱状、球状、楕円体状など任意の形状であり、好ましくはリン片状である。
【0018】
金属酸化物の粒子の平均粒径は、金属酸化物と固体電解質との密着性を高め、イオンセンサの電極としての性能を高めることができるという観点から、好ましくは1~20μm、より好ましくは2~15μm、さらに好ましくは5~12μmである。なお、平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定することができる。
【0019】
金属酸化物は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0020】
金属酸化物の含有量は、内部固体層100質量%に対して、例えば20~70質量%、好ましくは25~65質量%、より好ましくは30~60質量%である。
【0021】
固体電解質は、イオンが伝導可能な固体である限り、特に制限されない。本発明の電極を、イオンセンサにおけるイオン選択性電極として使用する場合、固体電解質として、測定イオンを伝導可能なものを使用することができる。典型的には、固体電解質としては、イオン(測定イオン)伝導性セラミックスを使用することができる。
【0022】
測定イオンとしては、特に制限されないが、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等、好ましくはナトリウムイオン、カリウムイオン等、特に好ましくはナトリウムイオンが挙げられる。
【0023】
固体電解質は、測定イオンに応じて、適宜選択することができる。固体電解質として、具体的には、例えばβ”アルミナ、βアルミナ、ペロブスカイト型酸化物、NASICON型酸化物、ガーネット型酸化物等の酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、安定化ジルコニア、α-ヨウ化銀、ゼオライト(ゼオライトは内部にNaイオン、Kイオン、Hイオンなどカチオンを含むことができる)等が挙げられる。これらの中でも、水に対する安定性が高く、イオンセンサの電極として好適に使用できるという観点から、特に好ましくはβ”アルミナ、βアルミナ、ゼオライト等が挙げられる。
【0024】
β”/βアルミナは、イオン伝導層とスピネルブロックとからなる層状構造を含み、イオン伝導層内でイオン(測定イオン)の移動が起こる。β”アルミナとβアルミナとは結晶構造において相違しており、これらの内β”アルミナの方が、結晶構造内のナトリウムイオン含有量が高く、また、相対的にイオン導電性が高い。β”/βアルミナは、好ましくは、ナトリウムイオンが伝導することができるNa-β”/βアルミナである。Na-β”アルミナは、通常、化学組成がNa2O・xAl2O3(x=5~7)である物質である。また、Na-βアルミナは、通常、化学組成がNa2O・xAl2O3(x=9~11)である物質である。
【0025】
固体電解質の形態は特に制限されないが、好ましくは粒子状である。固体電解質の粒子は、例えばリン片状、ロッド状、柱状、球状、楕円体状など任意の形状である。
【0026】
固体電解質の粒子の平均粒径は、金属酸化物と固体電解質との密着性を高め、イオンセンサの電極としての性能を高めることができるという観点から、本発明の一態様においては、好ましくは0.02~3μm、より好ましくは0.1~1μm、さらに好ましくは0.15~0.5μmである。固体電解質の粒子の平均粒径は、同様の観点から、本発明の別の一態様においては、好ましくは0.02~7、より好ましくは0.05~5、さらに好ましくは0.1~3μmである。なお、平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定することができる。
【0027】
内部固体層においては、固体電解質の平均粒径が金属酸化物の平均粒径より小さいことが好ましい。具体的には、本発明の一態様においては、金属酸化物の平均粒径100に対して、固体電解質の平均粒径は、例えば0.1~30、好ましくは0.5~10、より好ましくは1~5である。本発明の別の一態様においては、金属酸化物の平均粒径100に対して、固体電解質の平均粒径は、例えば0.1~70、好ましくは0.5~60、より好ましくは1~5である。
【0028】
固体電解質は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0029】
固体電解質の含有量は、内部固体層100質量%に対して、例えば15~70質量%、好ましくは20~65質量%、より好ましくは25~60質量%である。
【0030】
内部固体層における金属酸化物と固体電解質との質量比(金属酸化物:固体電解質)は、例えば5:1~1:5、好ましくは2:1~1:2、より好ましくは1.5:1~1:1.5、さらに好ましくは1.2:1~1:1.2、よりさらに好ましくは1.1:1~1:1.1である。
【0031】
内部固体層は、導電剤を含有することが好ましい。これにより、内部固体層の導電性を向上させ、イオンの出入りによる体積変化に対する緩衝作用を向上させ、電極安定性を高めることができる。
【0032】
導電剤としては、特に制限されないが、例えばカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボン粉末、及びグラファイト粉末等の炭素材料、金属繊維等の導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウム等の金属粉末類、酸化亜鉛、チタン酸カリウム等の導電性ウィスカー類、酸化チタン等の導電性金属酸化物、フェニレン誘導体、グラフェン誘導体等の有機導電性材料等を用いることができる。これらの中でも、好ましくは炭素材料が挙げられる。
【0033】
導電剤は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0034】
導電剤の含有量は、内部固体層100質量%に対して、例えば0.1~20質量%、好ましくは1~15質量%、より好ましくは2~10質量%である。
【0035】
内部固体層における金属酸化物(又は固体電解質)と導電剤との質量比(金属酸化物(又は固体電解質):導電剤)は、例えば20:1~1:1、好ましくは15:1~3:1、より好ましくは10:1~6:1である。
【0036】
内部固体層は、結着剤を含有することが好ましい。これにより、内部固体層内の各成分をより強固に結着させることができる。
【0037】
結着剤としては、特に制限されないが、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、アクリルエマルジョン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルスルホン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース等の重合体や、これらの重合体と同様の骨格を持つ類似化合物、さらには複数の重合体からなるの複合剤を用いることができる。これらの中でも、好ましくはポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンラテックス及びカルボキシメチルセルロースを含有する混合剤(SBR/CMC)、ポリアミドイミド及びカルボジイミドを含有する混合剤、ポリテトラフルオロエチレン、アクリルエマルジョン等が挙げられ、より好ましくはポリフッ化ビニリデンが挙げられる。
【0038】
結着剤は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0039】
結着剤の含有量は、内部固体層100質量%に対して、例えば0.1~20質量%、好ましくは1~15質量%、より好ましくは2~10質量%である。
【0040】
内部固体層における金属酸化物(又は固体電解質)と結着剤との質量比(金属酸化物(又は固体電解質):結着剤)は、例えば20:1~1:1、好ましくは15:1~3:1、より好ましくは10:1~6:1である。
【0041】
内部固体層には、上記以外の他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、例えば固体電解質や金属酸化物の作製原料、例えばMnCO3、Na2CO3、Al2O3等が挙げられる。
【0042】
内部固体層における、金属酸化物及び固体電解質の合計含有量(さらに、導電剤、結着剤を含有する場合は、それらも含めた合計含有量)は、内部固体層100質量%に対して、例えば70~100質量%、好ましくは80~100質量%、より好ましくは90~100質量%、さらに好ましくは95~100質量%、よりさらに好ましくは99~100質量%である。
【0043】
内部固体層の層構造は特に制限されない。内部固体層は、単一の組成からなる1つの層からなる単層構造であってもよいし、互いに同一又は異なる組成からなる複数の層からなる複層構造であってもよい。
【0044】
内部固体層の厚みは、導電性が著しく損なわれない限り、特に制限されない。該厚みは、例えば1~200μmである。製造効率、製造コスト等の観点から、該厚みは、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~50μm、さらに好ましくは1~20μmである。
【0045】
電極材は、導電性材料を含有するものである限り、特に制限されない。導電性材料としては、例えば白金、金、銀、銅、炭素、パラジウム、クロム、アルミニウム、ニッケルなどの金属、これらの金属の少なくとも1つを含む合金、これらの金属の塩化物などの金属ハロゲン化物などが挙げられる。これらの中でも、好ましくは白金、金、銀、パラジウム、アルミニウム、ニッケル、炭素等が挙げられる。導電性材料は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0046】
導電性材料の含有量は、電極材100質量%に対して、例えば70~100質量%、好ましくは85~100質量%、より好ましくは95~100質量%である。
【0047】
電極材の形状は特に制限されないが、通常は扁平状である。
【0048】
電極材の層構造は特に制限されない。電極材は、単一の組成からなる1つの層からなる単層構造であってもよいし、互いに同一又は異なる組成からなる複数の層からなる複層構造であってもよい。
【0049】
電極材の厚みは、導電性が著しく損なわれない限り、特に制限されない。該厚みは、例えば1~10μmである。製造効率、製造コスト等の観点から、該厚みは、好ましくは1~5μm。
【0050】
本発明の電極においては、通常、電極材上に直接、又は他の層を介して内部固体層が配置されている。好ましくは、電極材上に直接、内部固体層が配置されている。本発明の電極の一実施形態を
図1に示す。電極においては、電極材が露出しないように、例えば内部固体層を電極材の側面も覆うように配置すること、側壁を設けること等が好ましい。
【0051】
本発明の電極は、好適には、イオン選択性電極、参照電極等として使用することができる。
【0052】
本発明の電極をイオン選択性電極として使用する場合、本発明の電極は、イオン選択膜をさらに含むことが好ましい。イオン選択膜は、イオン選択性物質を含有する。
【0053】
イオン選択性物質としては、従来公知のイオノフォア又は合成物質が広く使用できる。イオン選択性物質は、測定イオンに応じて選択することができる。イオン選択性物質としては、イオノフォアが好適に用いられる。イオノフォアとしては、バリノマイシン,モネシン,ロドプシン,ノナクチン,モナクチン,イオノマイシン、グラミシジンA、ナイジェリシン、CCCP(カルボニルシアニド-m-クロロフェニルヒドラゾン)、FCCP(カルボニルシアニド-p-トリフルオロメトキシフェニルヒドラゾン)、などが挙げられる。また合成物質としては、クラウンエーテル(一群の大環状ポリエーテル),更には非環状のノニルフェノキシポリエタノール等が挙げられる。イオン選択性物質は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。イオン選択性物質としては具体的には、DD16C5、Bis-12Crown-4、12-Crown-4、15-Crown-5、18‐Crown-6、カレックスアレンなどが挙げられる。
【0054】
イオン選択膜は、通常、バインダ樹脂を含有する。バインダ樹脂は、特に限定されるものではない。バインダ樹脂は、具体的には、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、シリコンエラストマー、ポリビニルアルコール、セルロースエステル、ポリカーボネート、塩化ビニル/酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル/酢酸ビニル/ビニルアルコール共重合体、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体等が挙げられる。バインダ樹脂は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0055】
イオン選択膜は、好ましくは可塑剤を含有する。可塑剤により、イオン選択膜の柔軟性が高められるため、例えば、イオン選択膜の割れの発生が抑制させることができる。可塑剤としては、特に制限されないが、例えばTEHP(りん酸トリス(2-エチルヘキシル))、NPOE(2-ニトロフェニルオクチルエーテル)、DOP(フタル酸ジオクチル)、DOS(セバシン酸ジオクチル)、DBE(二塩基酸エステル)、BA(アクリル酸ブチル)等が挙げられる。可塑剤は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0056】
イオン選択膜は、好ましくはアニオン排除剤を含有する。アニオン排除剤は、測定イオンに応じて選択することができる。アニオン排除剤としては、例えばテトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸ナトリウム(Na-TCPB)、テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム(K-TCPB)、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸ナトリウム(Na-TFPB)、テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸カリウム(K-TFPB)、テトラフェニルホウ酸カリウム(K-TPB)、テトラフェニルホウ酸ナトリウム(Na-TPB)、テトラキス[3,5-ビス(1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-メトキシ-2-プロピル)フェニル]ホウ酸ナトリウム等のテトラフェニルボレート塩が挙げられる。アニオン排除剤は、1種単独であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0057】
上記成分の含有量は、イオン選択膜が機能できる限りにおいて、特に制限されない。イオン選択膜100質量%に対する含有量は、イオン選択性物質が例えば3~10質量%、バインダ樹脂が例えば15~45質量%、可塑剤が例えば50~80質量%、アニオン排除剤が例えば1~5質量%である。
【0058】
イオン選択膜の層構造は特に制限されない。イオン選択膜は、単一の組成からなる1つの層からなる単層構造であってもよいし、互いに同一又は異なる組成からなる複数の層からなる複層構造であってもよい。
【0059】
イオン選択膜の厚みは、特に制限されない。該厚みは、例えば50~300μmである。
【0060】
イオン選択膜の用途は、特に限定されず、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン等の陽イオン選択膜である。
【0061】
イオン選択膜は、内部固体層上に配置される。好ましくは、内部固体層上に直接、イオン選択膜が配置される。本発明のイオン選択性電極の一実施形態を
図2に示す。イオン選択性電極においては、電極材が露出しないように、例えば内部固体層を電極材の側面も覆うように配置すること、側壁を設けること等が好ましい。また、イオン選択性電極においては、内部固体層が露出しないように、例えばイオン選択膜を内部固体層の側面も覆うように配置すること、側壁を設けること等が好ましい。
【0062】
本発明の電極を参照電極として使用する場合、本発明の電極は、塩橋として機能し、且つ外部イオン濃度の変化の影響を抑制可能な層(本明細書において、「塩橋層」と示すこともある。)をさらに含むことが好ましい。このような層としては、イオン液体ゲル膜を好適に採用することができる。
【0063】
イオン液体としては、特に制限されないが、例えば、陽イオンが、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン、ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、4級アンモニウムカチオン、フォスフォニウムカチオン又はアルゾニウムカチオンの少なくとも1つ以上であり、陰イオンが、[R1SO2NSO2R2]-(R1、R2はそれぞれ炭素数1~5のパーフルオロアルキル基)、フッ素及び4価のホウ素を含むボレートイオン、ビス(2-エチルヘキシル)スルホサクシネイト、AlCl4
-、Al3Cl7
-、NO3
-、BF4
-、PF6
-、CH3COO-、CF3COO-、CF3SO3
-、(CF3SO2)2N-、(CF3SO2)3C-、AsF6
-、SbF6
-、F(HF)n-、CF3CF2CF2CF2SO3
-、(CF3CF2SO2)2N-、又はCF3CF2CF2COO-の少なくとも1つ以上である疎水性イオン液体が挙げられる。
【0064】
疎水性イオン性液体をゲル化する方法としては特に限定されないが、高分子化合物を用いてゲル化することができる。このような高分子化合物としては、例えば、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリブチルアクリレート、ポリビニルピリジン、有機電解質オリゴマー(主鎖カチオン部分がPICPM構造を有するもの等)、ポリ塩化ビニル、その他の合成ゴム等が挙げられる。高分子とともに架橋剤を用いてもよく、例えば、複数のフルオロアルキル化スルホニルアミド基を有する架橋剤と、当該架橋剤とオニウム塩を形成可能な基を有する高分子化合物とを含むゲル化剤等を用いてもよい。また、高分子とともに可塑剤を用いてもよく、例えばポリ塩化ビニルに可塑剤を混合し乾燥させてゲル化してもよい。可塑剤としては、イオン選択膜に使用される上述の可塑剤と同様のものを使用することができる。
【0065】
塩橋層の層構造は特に制限されない。該層は、単一の組成からなる1つの層からなる単層構造であってもよいし、互いに同一又は異なる組成からなる複数の層からなる複層構造であってもよい。
【0066】
塩橋層は、内部固体層上に配置される。好ましくは、内部固体層上に直接、塩橋層が配置される。本発明の参照電極の一実施形態を
図3に示す。参照電極においては、電極材が露出しないように、例えば内部固体層を電極材の側面も覆うように配置すること、側面に側壁を設けること等が好ましい。また、参照電極においては、内部固体層が露出しないように、例えば塩橋層を内部固体層の側面も覆うように配置すること、側面に側壁を設けること等が好ましい。
【0067】
本発明の電極の製造方法は、特に制限されない。好適には、電極材上に、金属酸化物及び固体電解質を含有する内部固体層を形成することを含む方法により、本発明の電極を製造することができる。
【0068】
内部固体層の形成方法は特に制限されない。好ましくは、金属酸化物及び固体電解質を含有する組成物を電極材上に成膜、乾燥することにより、内部固体層を形成することができる。成膜方法としては、静電塗布、ディスペンサでの塗布、スクリーン印刷、スパッタ、蒸着などを採用することができるが、金属酸化物と固体電解質との密着性を高めることができるという観点から、静電塗布が好ましい。
【0069】
イオン選択膜、塩橋層等の他の層の形成方法としては、上記に準じた方法を採用することができる。すなわち、層を構成する各成分を含有する組成物(ペースト、溶液等)を内部固体層上に成膜、乾燥することにより、形成することができる。
【0070】
2.イオンセンサ
本発明は、その一態様において、絶縁基板、及び該絶縁基板上に配置されてなる本発明の電極を含む、イオンセンサ(本明細書において、「本発明のイオンセンサ」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0071】
絶縁基板は、電極の導電性に影響を与えない絶縁性材料を含むものである限り、特に制限されない。絶縁性材料としては、例えばポリビニルアルコール、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートなどのポリエステル系樹脂;ポリイミド;ガラスエポキシ樹脂;ガラス;セラミック;紙などの繊維基材などが挙げられる。
【0072】
本発明の一態様においては、本発明のイオンセンサは、イオン選択性電極である本発明の電極を含む。この場合の模式的な断面図を
図4に示す。
【0073】
参照電極としては、内部液を持つ参照電極、全固体型参照電極等を使用することができる。参照電極として、具体的には、例えばAg/AgCl電極表面に一定のCl濃度が維持されるように設計された(例えば、Clイオンを保持する樹脂膜を供える)電極、塩橋層を含む本発明の電極を使用することができる。後者の場合の本発明のイオンセンサの一部の模式的な断面図を
図5に示す。
【0074】
本発明の一態様においては、本発明のイオンセンサは、イオン選択性電極である本発明の電極と、参照電極を含む。この場合の模式的な断面図を
図6に示す。
【0075】
本発明の一態様においては、本発明のイオンセンサは、イオン選択性電極である本発明の電極と、参照電極である本発明の電極を含む。この場合の模式的な断面図を
図7に示す。
【0076】
本発明のイオンセンサは、必要に応じて、電極リード等の他の部位を含む。本発明のイオンセンサの好適な形態の例を
図8に示す。
【0077】
本発明のイオンセンサは、好ましくはナトリウムイオンセンサとして使用することができる。
【0078】
本発明のイオンセンサにおける電極に測定対象物(例えば、被検者から採取された組織液、組織液を保持する物質等)を接触し、イオン選択性電極と参照電極との間の電位を測定することにより、得られた測定値に基づいて測定対象物中のイオン濃度を算出することができる。
【0079】
3.生体内成分測定装置
本発明は、その一態様において、被検者から採取された組織液に含まれるナトリウムイオン濃度を測定する、本発明のイオンセンサを含む、生体内成分測定装置(本明細書において、「本発明の生体内成分測定装置」と示すこともある。)に関する。以下に、これについて説明する。
【0080】
本発明の生体内成分測定装置は、本発明のイオンセンサを含み、且つ測定対象物中のナトリウムイオン等のイオン濃度を測定することができるものである限り、特に制限されない。本発明の生体内成分測定装置は、好適には、本発明のイオンセンサと、検出部と、制御手段と、操作表示部と、電源とを(好ましくは、さらにグルコースイオンセンサと、試薬貯留部と、送液部とを)備えている。以下、
図9~
図12を参照しながら、本発明の生体内成分測定装置の好適な一態様について説明する。
【0081】
生体内成分測定装置1は、組織液を収集した組織収集体110が設置される設置部20と、設置部20に設置された組織液収集体110に接触した状態で組織液に含まれる測定対象成分の量を反映した信号を取得するグルコースセンサ21と、設置部20とグルコースセンサ21との相対位置を所定の位置関係へ変動させることにより設置部20に設置された組織液収集体110とグルコースセンサ21とを接触させる移動部60と、を備える。生体内成分測定装置1は、グルコースセンサ21により組織液に含まれるグルコースの量を反映した信号を取得し、組織液中のグルコース濃度を測定する。また、本実施形態では、生体内成分測定装置1は、設置部20に設置された組織液収集体110に接触した状態で組織液に含まれる電解質の量を反映した信号を取得するナトリウムイオンセンサ22をさらに備えるとともに、移動部60は、設置部20とナトリウムイオンセンサ22との相対位置を所定の位置関係へ変動させることにより設置部20に設置された組織液収集体110とナトリウムイオンセンサ22とを接触させることで、組織液に含まれるナトリウムイオンの量を反映した信号を取得し、組織液中のナトリウムイオン濃度を測定する。
【0082】
生体内成分測定装置1は、
図9及び
図10に示すように、検出部2と、試薬貯留部3と、送液部4と、制御手段5と、操作表示部6と、電源7とを少なくとも備えており、これらが筐体10内に設けられている。
【0083】
筐体10の正面上部には、操作表示部6と隣り合う位置に第1カバー11が設けられている。第1カバー11は、プッシュオープン式のカバーであり、押すことにより第1カバー11が起立して、
図9(a)に示す閉状態から
図9(b)に示す開状態となり、組織液収集体110を設置するための設置部20が露出する。また、筐体10の上面には、第2カバー12が設けられている。第2カバー12もプッシュオープン式のカバーであり、図示は省略するが、押すことにより第2カバー12が起立して閉状態から開状態となり、後述する検出部2のグルコースセンサ21及びナトリウムイオンセンサ22が露出する。また、筐体10の正面下部には、第3カバー13が設けられている。第3カバー13を開くと、試薬貯留部3の各種タンクが露出する。
【0084】
検出部2は、組織液収集体110に収集された組織液に含まれる成分(グルコースや電解質)の量に関する信号や汗収集体111に収集された汗に含まれる成分(電解質)の量に関する信号を取得するものである。検出部2は、
図11に示すように、設置部20と、グルコースセンサ21及びナトリウムイオンセンサ22と、駆動部23とを備えている。
【0085】
設置部20は、組織液収集体110及び汗収集体111が設置される。設置部20は、組織液収集体110及び汗収集体111を支持した支持シート114が載置されるサンプルプレート200と、サンプルプレート200が設置されるサンプルステージ201とからなる。
【0086】
サンプルプレート200は、平面視長方形状であり、支持シート114よりも一回り大きい輪郭を有する。サンプルプレート200の上面は平坦面であり、サンプルプレート200上に支持シート114を安定して載置することができる。これにより、組織液収集体110及び汗収集体111の測定時に、組織液収集体110及び汗収集体111に各センサ21,22を良好に接触させることができる。
【0087】
サンプルプレート200の長手方向の一方端側の2つの角部には、小突起2001がそれぞれ設けられている。2つの小突起2001は、組織液収集体110の位置決めを行う位置決め部として機能し、サンプルプレート200上に支持シート114が載置された際に、支持シート114に形成された2つの貫通孔に嵌め込まれる。これにより、支持シート114がサンプルプレート200上で位置ずれすることなく載置されるので、サンプルプレート200に対して組織液収集体110などを適正位置に位置決めすることができる。また、サンプルプレート200の上面の長手方向の他方端側の2つの角部には、支持シート114の厚みと同じ又は僅かに大きい高さを有する立壁2002A,2002Bがそれぞれ設けられている。2つの立壁2002A,2002Bは、サンプルプレート200上に支持シート114が載置された際に、一方の立壁2002Aが支持シート114の切り欠き117に突き当たり、他方の立壁2002Bが支持シート114の切り欠き117とは反対側の側縁に沿う。これにより、支持シート114をサンプルプレート200上の適正位置により効果的に位置決めできる。このように、サンプルプレート200上に支持シート114を位置ずれすることなく保持することで、組織液収集体110及び汗収集体111の測定時に、組織液収集体110及び汗収集体111に各センサ21,22を良好に接触させることができる。
【0088】
さらに、サンプルプレート200の長手方向の他方端側には、水平バー2003が2つの立壁2002A,2002Bに架け渡されており、サンプルプレート200の上面と水平バー2003との間に差込孔2004が形成されている。差込孔2004は、サンプルプレート200上に支持シート114が載置された際に、支持シート114の長手方向の他方端側の部分が差し込まれる。これにより、支持シート114は、水平バー2003によりサンプルプレート200上で浮き上がることが防止され、サンプルプレート200上に安定して載置することができる。これにより、組織液収集体110及び汗収集体111の測定時に、組織液収集体110及び汗収集体111に各センサ21,22を良好に接触させることができる。
【0089】
サンプルステージ201は、平面視長方形状であり、サンプルプレート200よりも一回り大きい輪郭を有する。サンプルステージ201の上面にサンプルプレート200が設置される。サンプルステージ201は、後述する駆動部23の水平移動駆動部230により、水平面に沿ったX方向に往復移動される。これにより、組織液収集体110及び汗収集体111が各センサ21,22の下方位置に搬送される。
【0090】
次に、グルコースセンサ21は、組織液に含まれる測定対象成分であるグルコースの量を反映した信号を取得する成分検出センサであり、取得部として機能する。また、ナトリウムイオンセンサ22は、組織液に含まれる補助成分であるナトリウムイオンの量を反映した信号を取得する成分検出センサであり、第2取得部として機能する。
【0091】
各センサ21,22は、
図12に示すように、例えばプラスチック製の本体部210,220と、本体部210,220にスライド可能に取り付けられた例えばプラスチック製のスライド部211,221と、スライド部211,221に着脱可能に取り付けられた例えばプラスチック製のカートリッジ部216,226と、カートリッジ部216,226の下面に取り付けられた電極部212,222とを備えている。
【0092】
本体部210,220は、上部及び下部を有しかつ上部及び下部の間に段差を有する形状を呈しており、上部の下面に制御手段5に接続される端子213,223が設けられている。本体部210,220の下部には開口が形成されており、この開口からスライド部211,221が突き出ている。本体部210,220内には、圧力吸収部材217,227が備えられている。圧力吸収部材217,227は、例えばコイルばねなどのバネ部材を用いることができる。この圧力吸収部材217,227は、各センサ21,22が組織液収集体110と接触する際の接触圧を一定に調節する圧力調節部61を構成し、上記移動部60に含まれる構成である。スライド部211,221は圧力吸収部材217,227に接続されており、圧力吸収部材217,227の伸縮により本体部210,220に対して上下にスライドする。各センサ21,22が組織液収集体110や汗収集体111と接触する際に、圧力吸収部材217,227が伸縮して電極部212,222が上下に変位することで、組織液収集体110や汗収集体111に接触する電極部212,222の接触圧を一定に調節することができる。よって、組織液収集体110や汗収集体111の形状にばらつきがあっても、電極部212,222を組織液収集体110や汗収集体111に所定の接触圧で接触させることができる。なお、本体部210,220内のスライド部211,221に接続される圧力吸収部材217,227は、1つでなく、複数設けてもよい。
【0093】
スライド部211,221の下部には開口が形成されており、この開口を介してスライド部211,221の下部にカートリッジ部216,226を装着可能である。スライド部211,221の下部の両側面には、係合孔215,225が形成されている。
【0094】
カートリッジ部216,226は、組織液収集体110などの測定に所定回数供されると使い捨てされる消耗品である。カートリッジ部216,226は、スライド部211,221の各係合孔215,225と対応するように一対の係止爪214,224を備えている。各係合爪214,224がそれぞれ対応する係止孔215,225に係止することで、カートリッジ部216,226はスライド部211,221に保持される。このとき、カートリッジ部216,226は、スライド部211,221に対して定位せずに例えば多少がたつくことで揺動可能に保持されることが好ましい。このカートリッジ部216,226は、各センサ21,22が組織液収集体110と接触する角度を調節する角度調節部62を構成し、上記移動部60に含まれる構成である。これにより、各センサ21,22が組織液収集体110や汗収集体111と接触する際に、組織液収集体110や汗収集体111の表面に沿うようにカートリッジ部216,226がスライド部211,221に対して揺動する。よって、組織液収集体110や汗収集体111に接触する電極部212,222表面の角度を調節可能となり、組織液収集体110や汗収集体111の形状にばらつきがあっても、電極部212,222を組織液収集体110や汗収集体111に良好に接触させることができる。
【0095】
電極部212,222は、一対の作用電極及び対電極と、参照電極とを含んでいる。グルコースセンサ21のグルコース測定用の電極部212は、例えば、作用電極が白金電極にグルコースオキシダーゼ酵素膜が形成されてなり、対電極が白金電極からなる。一方で、ナトリウムイオンセンサ22のナトリウムイオン測定用の電極部222は、例えば、作用電極がナトリウムイオン選択膜を備えたイオン選択性電極からなり、対電極が参照電極からなる。
【0096】
また、グルコースセンサ21は、電極部212に接続される電気回路として図示しないグルコース測定用回路を含み、電極部212が組織液収集体110に接触することによって組織液収集体110に収集された組織液に一定電圧を印加し、そのときの電流を検出値として取得する。この電流値は、組織液中のグルコース濃度に依存する。一方、ナトリウムイオンセンサ22は、電極部222に接続される電気回路として図示しないナトリウムイオン測定用回路を含み、電極部222が組織液収集体110や汗収集体111に接触することによって組織液収集体110に収集された組織液や汗収集体111に収集された汗の電圧を検出値として取得する。この電圧値は、組織液や汗中のナトリウムイオン濃度に依存する。グルコースセンサ21及びナトリウムイオンセンサ22は、制御手段5に接続されており、得られた電流値や電圧値を検出信号として制御手段5に出力する。制御手段5は、検出信号に含まれる電流値や電圧値と、記憶部に記憶されている検量線とに基づいて、グルコース濃度及びナトリウムイオン濃度を測定する。
【0097】
グルコースセンサ21及びナトリウムイオンセンサ22は、取付具24に取り付けられることで検出部2にセットされる。この取付具24は、検出部2のベースプレート14上に設けられた左右一対の側板16(
図11に示す。)に上下移動可能に取り付けられる。枠部240の両側面には、突起243が上下方向に複数設けられており、各突起243が各側板16に形成された長孔状のガイド孔17(
図11に示す。)を上下方向にスライドすることで、取付具24は真っ直ぐ上下方向に移動する。
【0098】
次に、駆動部23は、設置部20に設置された組織液収集体110と各センサ21,22とを接触させるために、本実施形態では、設置部20及び各センサ21,22を移動させるものであり、上記移動部60に含まれる構成である。駆動部23は、設置部20を水平方向に移動させる水平移動駆動部230と、グルコースセンサ21及びナトリウムイオンセンサ22を垂直方向に移動させる垂直移動駆動部231とを含む。垂直移動駆動部231は、グルコースセンサ21及びナトリウムイオンセンサ22のそれぞれに対応して検出部2に設けられている。
【0099】
設置部20は、水平移動駆動部230により、設置位置、第1測定位置、第2測定位置及び第3測定位置の間を搬送される。な
また、設置部20を各測定位置に位置決めする方法としては、各測定位置にフォトセンサなどの物体検出センサを配備し、各測定位置の物体検出センサが設置部20を検出することにより、設置部20が各測定位置に到達したことを検知するように構成してもよい。
【0100】
各センサ21,22は、垂直移動駆動部231により、待機位置、測定位置及び洗浄位置の間を搬送される。
【0101】
また、各センサ21,22を各位置に位置決めする方法としては、取付具24の枠具で取り付けられた位置検出センサを用いてもよい。位置検出センサは、枠部に固定具を介して取り付けられたセンサ支持板に固定されており、取付具24とともに上下方向に移動する。この例では、検出部2の一方の側板16(
図11に示す。)には、位置検出センサ9と対向するようにして、検出板92が固定されている。位置検出センサは、検出板92の上端及び下端を検出することで、垂直移動駆動部231により上下方向に移動する各センサ21,22の最上位の位置(待機位置)及び最下位の位置(洗浄位置)を検出する。
【0102】
次に、試薬貯留部3には、廃液タンクと、洗浄液を貯留する第1タンクと、グルコース用の低濃度校正液を貯留する第2タンクと、グルコース用の高濃度校正液を貯留する第3タンクと、ナトリウムイオン用の中濃度校正液を貯留する第4タンクと、ナトリウムイオン用の高濃度校正液を貯留する第5タンクとが設けられている。第1タンクの洗浄液は、グルコースセンサ21及びナトリウムイオンセンサ22の洗浄に用いられるうえ、ナトリウムイオン用の低濃度校正液としてナトリウムイオンの検量線の作成に用いられる。洗浄液としては、PB-K溶液を例示することができる。第2タンク及び第3タンクのグルコース用の校正液は、グルコースの検量線の作成に用いられる。グルコース用の校正液としては、グルコースを添加したPB-K溶液を例示することができる。PB-K溶液のグルコース濃度としては、低濃度では例えば0.5mg/dLであり、高濃度では例えば10mg/dL~40mg/dLの範囲内で決定される濃度からなる。第4タンク及び第5タンクのナトリウムイオン用の校正液は、ナトリウムイオンの検量線の作成に用いられる。ナトリウムイオン用の校正液としては、食塩水を例示することができる。食塩水のナトリウムイオン濃度としては、中濃度では例えば1mM~2mMの範囲内で決定される濃度からなり、高濃度では例えば20mM~50mMの範囲内で決定される濃度からなる。ナトリウム用の校正液としては、その他にも、例えばTris溶液やPB-K溶液を例示することができる。各タンクの各液体のグルコース濃度又はナトリウムイオン濃度は、制御手段5の記憶部に記憶される。
【0103】
次に、送液部4は、各タンクに貯留された液体を、検出部2に配置されたグルコースセンサ21やナトリウムイオンセンサ22に供給し、送液された液体を廃液タンクに回収するものである。
【0104】
次に、制御手段5は、設置部20に設置された組織液収集体110と各センサ21,22とを接触させるために、駆動部23を制御するものであり、上記移動部60に含まれる構成である。制御手段5は、プロセッサ(例えばCPUなど)とメモリ(例えばROM及びRAMなど)とを有するマイクロコンピュータや、ユーザインターフェース制御用基板、I/O基板及びアナログ基板などの各種信号を処理する回路などを備える。制御手段5は、CPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、検出部2、送液部4、操作表示部6などの各部の動作を制御する。RAMは、ROMに記憶されたプログラムが実行される際のプログラムの展開領域として利用される。制御手段5は、検出部2の駆動部23を制御する制御部、検出部2の各センサ21,22から受け取った測定対象成分(グルコース)の量を反映した信号及び補助成分としての電解質(ナトリウムイオン)の量を反映した信号に基づいて血糖AUCを算出する解析部、及び記憶部などの機能を有する。
【0105】
次に、操作表示部6は、測定開始の指示などを行ったり、解析結果などを表示するためのものである。操作表示部6は、タッチパネル式のディスプレイにより構成することができる。なお、操作表示部6は、操作部と表示部とに分かれていてもよく、この場合、操作部はボタンやスイッチ、キーボード、マウスにより構成することができる。
【0106】
次に、電源7は、電源プラグ(図示せず)より入力される交流電源電圧を直流電圧に変換して制御手段5に供給する。また、電源7は、その他の各部にも接続され、各々に電力を供給する。
【実施例】
【0107】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0108】
以下の試験例に示す平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置で測定された累積頻度50%の値である。また、各層の厚みは、該当の層を塗布乾燥後、接触式段差計で測定することで得た。
【0109】
試験例1.イオン選択性電極のNaCl濃度に対する電位応答性
<試験例1-1.イオン選択性電極(実施例1)の作製>
イオン選択性電極(実施例1)を次のようにして作製した。セラミック基板上に白金ペーストを積層し、直径5mmの電極材を形成した。電極材上に、金属酸化物(Na0.33MnO2(直方晶系結晶構造)、平均粒径8.9μm、リン片状)、固体電解質(β”アルミナ:Na2Al10.6O15.9、平均粒径0.26μm)、導電剤(AB:アセチレンブラック)、及び結着剤(PVDF:ポリフッ化ビニリデン)を含有するペーストを静電塗布により積層し、膜厚10μmの内部固体層を形成した。内部固体層上に、イオノフォア(DD16C5:16-crown-5 derivative with two decalino subunits)3質量部、可塑剤(TEHP:リン酸トリス(2-エチルへキシル))68質量部、アニオン排除剤(Na-TFPB:テトラキス[3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ホウ酸ナトリウム)1質量部、及び基材(PVC:ポリ塩化ビニル)29質量部を含有するペーストを4回重ねて積層し、膜厚170~190μmのNaイオン選択膜を形成し、イオン選択性電極を得た。
【0110】
イオン選択性電極の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。また、EDXマッピングにより、当該断面における各材料の配置を調べた。内部固体層の断面SEM画像における各材料の配置態様を
図13及び14に示す。金属酸化物粒子の周囲を、金属酸化物よりも粒径の小さい固体電解質粒子が覆っていることが分かった。
【0111】
固体電解質、金属酸化物、導電剤、及び結着剤の内部固体層における質量比率を以下の表に示す。
【0112】
【0113】
<試験例1-2.参照電極の作製>
銀・塩化銀ペーストからなる参照電極をスクリーン印刷法により形成した。ポリビニルアルコール(PVA)膜を銀・塩化銀ペースト上に積層した。)PVA膜に塩化物イオン濃度282mMの溶液を含ませて電位を安定させてから測定に用いた。
【0114】
<試験例1-3.電位測定>
イオン選択性電極(実施例1)及び参照電極からなるイオンセンサを電位差計に接続した後、以下の電解質溶液(NaCl及びKCl混合溶液、Na濃度:0.3mM、2mM、又は50mM、K濃度:280mM、Cl濃度:Na濃度(mM)+280mM)に浸して電位を測定した。電位測定後は、毎回、洗浄液(リン酸K緩衝液、Na濃度:0.3mM、K濃度:280mM)で電極を洗浄した。
【0115】
<試験例1 結果>
結果を
図15に示す。固体電解質及び金属酸化物を含有する内部固体層を備えるイオン選択性電極が、Na濃度に応答することが分かった。
【0116】
試験例2.イオン選択性電極の電位安定性1
<試験例2-1.イオン選択性電極(比較例1)の作製>
固体電解質を使用せず、実施例1と同様にしてイオン選択性電極を得た(比較例1)。以下の電位測定で使用したイオン選択性電極について、内部固体層の質量比率を以下の表に示す。
【0117】
【0118】
<試験例2-2.電位測定>
イオン選択性電極(実施例1及び比較例1)を用いて、電解質溶液としてNa濃度50mMの溶液の代わりに30mMの溶液を使用する以外は試験例1-3と同様にして行った。測定は複数回繰返して行い、各測定後は試験例1-3と同様にして電極を洗浄した。各測定値から、1回目の測定電位からの電位変動(絶対値)を算出した。
【0119】
<試験例2 結果>
結果を
図16に示す。内部固体層において、金属酸化物にさらに固体電解質を加えることにより、繰返し使用に対する電位安定性が向上することが分かった。
【0120】
試験例3.イオン選択性電極の電位安定性2
<試験例3-1.イオン選択性電極(実施例2~3及び比較例2)の作製>
固体電解質の質量比率を変える以外は、実施例1と同様にしてイオン選択性電極(実施例2:固体電解質の質量比率4、実施例3:固体電解質の質量比率12)を得た。さらに、金属酸化物を使用しない以外は、実施例1と同様にしてイオン選択性電極(比較例2)を得た。以下の電位測定で使用したイオン選択性電極について、内部固体層の質量比率を以下の表に示す。
【0121】
【0122】
<試験例3-2.電位測定>
イオン選択性電極(実施例1~3並びに比較例1~2)を用いて、電解質溶液としてNa濃度2mM溶液と30mM溶液を使用する以外は、試験例1-3に準じて行った。本試験では、Na濃度2mM溶液を6回、30mM溶液を1回、2mM溶液を1回測定するセットを1セットとして、3セットを連続して実施した。各セットにおいて、電位が安定となる2mM溶液の6回目の電位を測定し、当該電位の3セットの標準偏差を算出した。
【0123】
<試験例3 結果>
結果を
図17に示す。内部固体層において、金属酸化物にさらに固体電解質を加えることにより、繰返し使用に対する電位安定性が向上することが分かった。さらに、固体電解質を加えても金属酸化物を加えない場合は、電位変動が大きいことが分かった。このことから、繰返し使用に対する電位安定性には、金属酸化物と固体電解質との組合せが重要であることが分かった。
【0124】
試験例4.イオン選択性電極の電位安定性3
<試験例4-1.イオン選択性電極(実施例4)の作製>
固体電解質として、βアルミナ(Na2O-11Al2O3、平均粒径0.26μm)を使用する以外は、実施例1と同様にしてイオン選択性電極(実施例4)を得た。以下の電位測定で使用したイオン選択性電極について、内部固体層の質量比率を以下の表に示す。
【0125】
【0126】
<試験例4-2.電位測定>
イオン選択性電極(実施例1及び4)を用いて、試験例1-3に準じて行った。本試験では、1日中繰返して測定を行い、これを3日間行った。測定値に基づいて、各日における、最初と最後に取得した同濃度の電解質溶液の測定電位の差(絶対値)を算出し、その平均値を求めた。
【0127】
<試験例4 結果>
結果を
図18に示す。固体電解質としてβ”アルミナ及びβアルミナのいずれを使用しても、繰返し使用に対して高い電位安定性が得られることが分かった。
【0128】
試験例5.参照極用電極の電位安定性1
<試験例5-1.参照極用電極(実施例5)の作製>
電極(実施例5)を次のようにして作製した。セラミック基板上に白金ペーストを積層し、直径5mmの電極材を形成した。電極材上に、金属酸化物(Na0.33MnO2(直方晶系結晶構造)、平均粒径8.9μm、リン片状)、固体電解質(β”アルミナ:Na2Al10.6O15.9、平均粒径0.26μm)、導電剤(AB:アセチレンブラック)、及び結着剤(PVDF:ポリフッ化ビニリデン)を含有するペーストを静電塗布により積層し、膜厚10μmの内部固体層を形成した。内部固体層上に、次のようにしてイオン液体ゲル膜を形成した。具体的には、PVDF-HFP(ARKEMA社製、Kynar Flex 2751-00 (HFP 15mol%))とアセトンを1:10(wt)で混合して一晩撹拌し、そこへイオン液体PP13-TFSI(東京化成工業社製、1-メチル-1-プロピルピロリジニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を、PVDF-HFP:PP13-TFSIが2:8になるように添加し、得られた溶液を内部固体層上に塗布して、50℃で乾燥させながら10回積層したのち、150℃で最終乾燥させてイオン液体ゲル膜を形成し、電極を得た。内部固体層における質量比率を以下の表に示す。
【0129】
【0130】
<試験例5-2.電位測定>
イオン選択性電極に代えて電極(実施例5)又は銀・塩化銀ペーストから形成した電極(比較例3)を用いて、電解質溶液としてNa濃度0.3、1、2、10、及び30mMの溶液を使用し、参照電極に市販の内部液を有するAg/AgCl(内部液:飽和KCl)電極を使用する以外は試験例1-3と同様にして行った。測定方法の概要を
図19に示す。
【0131】
<試験例5 結果>
各電解質溶液の測定電位について、Na濃度0.3mMの測定電位からの電位差を算出した結果を
図20に示す。比較例3は内部液を有さないAg/AgCl電極のためCl濃度に応答するが、実施例5はNa濃度およびCl濃度に応答しない結果が得られ、固体電解質及び金属酸化物を含有する内部固体層上にイオン液体ゲル膜を形成することにより、Na濃度およびCl濃度に応答しない電極が得られることが分かった。また、市販の内部液を有するAg/AgCl(内部液:飽和KCl)電極に対する実施例5の測定電位を
図21に示す。Na濃度およびCl濃度を変えた溶液を測定した場合においても、内部液を有する市販参照電極と実施例5の電位差はほぼ0であり、内部液を有する市販参照電極と同じ性能を有することがわかる。したがってこの電極は、参照電極として使用することができる。
【0132】
試験例6.参照極用電極の電位安定性2
<試験例6-1.参照極用電極(実施例6及び比較例4)の作製>
固体電解質として、βアルミナ(Na2O-11Al2O3、平均粒径0.26μm)を使用する以外は、実施例5と同様にして電極(実施例6)を得た。さらに、固体電解質を使用しない以外は、実施例5と同様にして電極(比較例4)を得た。以下の電位測定で使用した電極について、内部固体層の質量比率を以下の表に示す。
【0133】
【0134】
<試験例6-2.電位測定>
イオン選択性電極に代えて電極(実施例5~6及び比較例4)を用いて、電解質溶液としてNa濃度2mM且つK濃度268mMの溶液を使用し、参照電極に市販の内部液を有するAg/AgCl(内部液:飽和KCl)電極を使用する以外は試験例1-3と同様にして行った。本試験では、各電極を電解質溶液に1時間半浸して、浸した直後と、1時間半後の測定電位を測定し、両者の差を算出した。
【0135】
<試験例6 結果>
結果を
図22に示す。内部固体層において、金属酸化物にさらに固体電解質を加えることにより、長時間の使用に対する電位安定性が向上することが分かった。
【0136】
試験例7.Naイオン選択性電極の電位安定性3
<試験例7-1.Naイオン選択性電極(実施例7及び実施例7’)の作製>
アニオン排除剤をK-TCPBに変える以外は、実施例1と同様にしてNaイオン選択性電極(実施例7)を得た。固体電解質をゼオライト(ゼオラム A-4 100# 東ソー、加工後の平均粒径3μm)に変えた以外は、実施例1と同様にしてNaイオン選択性電極を得た(実施例7’)。以下の電位測定で使用した電極について、内部固体層の質量比率及びNaイオン選択膜中のアニオン排除剤を以下の表に示す。
【0137】
【0138】
<試験例7-2.電位測定>
イオン選択性電極(実施例1、実施例7及び実施例7’)を用いて、電解質溶液としてNa濃度30mM溶液を使用する以外は、試験例1-3に準じて行った。本試験では、Na濃度2mM溶液を2回、0.3mM溶液を1回、2mM溶液を1回、30mM溶液を測定するセットを1セットとして、11セットを連続して実施した。各セットにおいて測定された30mM溶液の電位の標準偏差を算出した。当該電位の3セットの標準偏差を算出し、3センサ分の平均を求めた(実施例7’のみ1センサ分)。
【0139】
<試験例7 結果>
結果を
図23に示す。選択膜中のイオン種に関わらず、また、固体電解質の種類によらず、電位が安定していることが示された。
【0140】
試験例8.Kイオン選択性電極のKイオン濃度応答性1
<試験例8-1.Naイオン選択性電極(実施例8)の作製>
Kイオン選択性電極(実施例8)を次のようにして作製した。セラミック基板上に白金ペーストを積層し、直径5mmの電極材を形成した。電極材上に、金属酸化物(Na0.33MnO2(直方晶系結晶構造)、平均粒径7.3μm、リン片状)、固体電解質(β”アルミナ:Na2Al10.6O15.9、平均粒径0.99μm)、導電剤(AB:アセチレンブラック)、及び結着剤(PVDF:ポリフッ化ビニリデン)を含有するペーストを静電塗布により積層し、膜厚10μmの内部固体層を形成した。内部固体層上に、イオノフォア(バリノマイシン)7質量部、可塑剤(TEHP:リン酸トリス(2-エチルへキシル))65質量部、アニオン排除剤(K-TCPB:テトラキス(4-クロロフェニル)ホウ酸カリウム))1質量部、及び基材(PVC:ポリ塩化ビニル)27質量部を含有するペーストを4回重ねて積層し、膜厚170~190μmのKイオン選択膜を形成し、Kイオン選択性電極を得た。
【0141】
<試験例8-2.電位測定>
Ag/AgClに対して測定し、溶液濃度からAg/AgCl(飽和KCl)に対する電位に換算した。NaCl140mM一定の溶液中でK濃度1,2,4,6,8,10,100mMを測定した。
【0142】
<試験例8 結果>
結果を
図24に示す。Kイオン選択膜を採用することにより、Kイオン濃度も測定できることが分かった。
【0143】
試験例8’.Kイオン選択性電極の電位安定性1
<試験例8’-1.Kイオン選択性電極(実施例9~10及び比較例5)の作製>
固体電解質の質量比率を変える以外は、実施例 8と同様にしてKイオン選択性電極(実施例9:固体電解質の質量比率2.8、実施例10:固体電解質の質量比率1.2)を得た。さらに、固体電解質を使用しない以外は、実施例 8と同様にしてKイオン選択性電極(比較例5)を得た。以下の電位測定で使用したイオン選択性電極について、内部固体層の質量比率及びKイオン選択膜中のアニオン排除剤を以下の表に示す。
【0144】
【0145】
<試験例8’-2.電位測定>
NaCl140mM濃度一定でK1,10,100mMの溶液を測定後、NaCl140mM濃度一定でK1,2,4,6,8,10mMの溶液を測定し、これを1セットとして繰り返し6セット測定したのち、最後にNaCl140mM濃度一定でK1,10,100mMの溶液を測定した。1回の測定あたり、毎回センサーは洗浄液Na140mMで洗浄を行った。最初に測定したK1,10,100mM溶液と、4.8~5時間後に最後に測定したK1,10,100mM溶液の電位変動率を
図25に示す。
【0146】
<試験例8’ 結果>
結果を
図25に示す。βアルミナの添加量が多いほど電位安定性が高まる結果となった。
【0147】
試験例9.Kイオン選択性電極の電位安定性2
<試験例9-1.Kイオン選択性電極(実施例11~13)の作製>
固体電解質をゼオライト(ゼオラム A-4 100# 東ソー、加工後の平均粒径3μm)に変えた以外は実施例 8と同様にしてKイオン選択性電極(実施例11:固体電解質の質量比率8、実施例12:固体電解質の質量比率2.8、実施例13:固体電解質の質量比率1.2)を得た。以下の電位測定で使用したイオン選択性電極について、内部固体層の質量比率及びKイオン選択膜中のアニオン排除剤を以下の表に示す。
【0148】
【0149】
<試験例9-2.電位測定>
試験例8’-2と同様にして行った。
【0150】
<試験例9 結果>
結果を
図26に示す。ゼオライトの添加量が多いほど電位安定性が高まる結果となった。
【0151】
試験例10.Kイオン選択性電極の電位安定性3
<試験例10-1.Kイオン選択性電極(実施例14及び比較例6)の作製>
アニオン排除剤をNa-TFPBに変える以外は、実施例8と同様にしてKイオン選択性電極を得た(実施例14)。実施例8の固体電解質を使用せず、代わりに非固体電解質であるNa2CO3を使用し、Kイオン選択性電極を得た(比較例6)。以下の電位測定で使用したイオン選択性電極について、内部固体層の質量比率及びKイオン選択膜中のアニオン排除剤を以下の表に示す。
【0152】
【0153】
<試験例10-2.電位測定>
Kイオン選択性電極(実施例8,11,14 比較例5,6)を用いて試験例8’に準じて行った。1日の測定の中で、計8回測定したK10mM溶液の電位の標準偏差を算出し、3センサ分の平均を求めた(実施例11のみ1センサ)。
【0154】
<試験例10 結果>
結果を
図27に示す。非固体電解質であるNa
2CO
3では電位が変動するのに対し、固体電解質であるβアルミナ、ゼオライトでは、選択膜中のイオン種に関わらず、電位変動が少ないことが示された。
【0155】
試験例11.参照極用電極の電位安定性3
<試験例11-1.参照極用電極(実施例15及び実施例16)の作製>
PVCと可塑剤の比率を1:2、膜に対してイオン液体[TBMOEP+][C1C1N-]を4質量部をTHF溶液に溶解し、内部固体層上に20μL滴下し、60℃で加熱乾燥させ、イオン液体ゲルのPVC膜を作製した。実施例15では可塑剤をNPOE、実施例16では可塑剤をTEHPとした。なお、TBMOEPは、tributyl(2-methoxyethyl)phosphonium bis- (trifluoromethanesulfonyl)imide(トリブチル(2-メトキシエチル)フォスフォニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)を示す。以下の電位測定で使用したイオン選択性電極について、内部固体層の質量比率及びイオン液体ゲルPVC膜中の可塑剤を以下の表に示す。
【0156】
【0157】
<試験例11-2.電位測定>
イオン選択性電極に代えて電極(実施例15,16)を用いて、電解質溶液としてK濃度1,10,100mM且つNa濃度140mMの溶液を使用し、参照電極に市販の内部液を有するAg/AgCl(内部液:飽和KCl)電極を使用する以外は試験例1-3と同様にして行った。本試験では、各電極をK1mM溶液で安定化したのち、10mM溶液、100mM溶液、1mM溶液に順に浸し、浸してから1分後の測定電位と最後に測定したK1mM溶液測定時の電位との差の絶対値を算出した。
【0158】
<試験例11 結果>
結果を
図28に示す。いずれの可塑剤を利用した場合も、KCl濃度によらず電位差が1mV以下となり、電位が安定していた。
【符号の説明】
【0159】
A 内部固体層
B 電極材
C1 イオン選択膜
C2 塩橋層
D 本発明のイオン選択性電極
E 本発明の参照電極
F 絶縁基板
G 参照電極
1 本発明の生体内成分測定装置