(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】成形体ならびにその前駆体、製造方法および用途
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20250203BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20250203BHJP
H01G 4/32 20060101ALI20250203BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/22
H01G4/32 521G
H01G4/32 561C
(21)【出願番号】P 2021574595
(86)(22)【出願日】2021-01-12
(86)【国際出願番号】 JP2021000663
(87)【国際公開番号】W WO2021153213
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-11-15
(31)【優先権主張番号】P 2020014057
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】磯部 豊
(72)【発明者】
【氏名】石川 慎介
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/117156(WO,A1)
【文献】特許第6775053(JP,B2)
【文献】国際公開第2017/098996(WO,A1)
【文献】特開2018-048276(JP,A)
【文献】特開2017-014406(JP,A)
【文献】特開2016-222750(JP,A)
【文献】特開2006-104302(JP,A)
【文献】特許第6264897(JP,B2)
【文献】特開2018-006052(JP,A)
【文献】特開2007-332224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 2/48
H01G 4/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂と誘電体フィラーとを含み、
前記誘電体フィラーがチタン含有複合金属酸化物で形成された無機フィラーであり、
前記誘電体フィラーが凝集した領域である凝集部と、前記凝集部以外の領域である非凝集部とで形成され、かつ前記凝集部における誘電体フィラーの存在割合が、前記非凝集部との少なくとも界面近傍において、界面に向かって漸減する成形体。
【請求項2】
樹脂が光硬化性樹脂の硬化物である請求項1記載の成形体。
【請求項3】
光硬化性樹脂がカチオン重合性化合物である請求項2記載の成形体。
【請求項4】
誘電体フィラーの割合が、樹脂100質量部に対して0.1~100質量部である請求項1~
3のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項5】
フィルム状である請求項1~
4のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項6】
複数の凝集部がパターン形状を形成し、かつ前記複数の凝集部のうち少なくとも1つの凝集部が厚み方向に延びて貫通した形態に形成されている請求項
5記載の成形体。
【請求項7】
誘電フィルムである請求項1~
6のいずれか一項に記載の成形体。
【請求項8】
樹脂前駆体および誘電体フィラーを含む液状前駆体の一部の領域に活性エネルギーを付与して前記誘電体フィラーを凝集させて前駆成形体を得る凝集工程を含む請求項1~
7のいずれか一項に記載の成形体の製造方法。
【請求項9】
凝集工程を経た前駆成形体の未硬化の領域に活性エネルギーを付与して重合を完結させる重合完結工程を含む請求項
8記載の製造方法。
【請求項10】
液状前駆体が光酸発生剤を含み、活性エネルギーが活性光線である請求項
8または
9記載の製造方法。
【請求項11】
請求項
8~
10のいずれか一項に記載の製造方法で得られた成形体。
【請求項12】
光硬化性樹脂と誘電体フィラーとを含み、
前記誘電体フィラーがチタン含有複合金属酸化物で形成された無機フィラーであり、前記誘電体フィラーが凝集した領域である凝集部と、前記凝集部以外の領域である非凝集部とを有する成形体を形成するための液状前駆体であって、光硬化性樹脂および誘電体フィラーを含む液状前駆体。
【請求項13】
樹脂、セラミックスまたは金属で形成された基材と、請求項1~
7および
11のいずれか一項に記載の成形体とが接合された接合体。
【請求項14】
コンデンサである請求項
13記載の接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、樹脂中に誘電体フィラーが凝集した領域を有する成形体ならびにその前駆体、製造方法および用途に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電材料は、電圧が負荷されると、電気分極が起こり、電気を蓄える性質を有しているため、電気・電子機器において、コンデンサ(キャパシタ)、レジスタ、インダクタなどの受動素子部品として広く利用されている。また、これらの用途で使用される誘電材料は、通常、シート状であり、機械的強度や耐久性が要求される上に、ロール状に巻回された形態であることも多く、柔軟性も要求される。そのため、誘電材料としては、樹脂中に誘電体フィラーを含有させた複合誘電材料も開発されているが、複合誘電材料においては、電気特性と機械的特性とはトレードオフの関係にあり、誘電体フィラーの割合を増加して比誘電率を向上させると、誘電材料の機械的特性は低下する。近年、スマートフォンなどのモバイル機器の普及により、電子部品の高密度化、小型化が進んでいるため、複合誘電材料にも、比誘電率の向上(高誘電率化)と柔軟性などの機械的特性との両立が求められている。
【0003】
特開2018-6052号公報(特許文献1)には、樹脂からなるマトリックス粒子の周囲に誘電体フィラーからなる被膜が形成され、前記誘電体フィラーが三次元的にネットワークを形成した誘電体複合材料が開示されている。
【0004】
特許第6264897号公報(特許文献2)には、樹脂の溶融液と、分散媒中に分散させた無機フィラーの分散液とを混合し、超音波振動によって無機フィラーを樹脂に分散させた塗料を塗工することにより、不均一状態で樹脂に無機フィラーが分散した高誘電率フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-6052号公報
【文献】特許第6264897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1および2の誘電体複合材料および高誘電率フィルムは、構造制御が容易ではなく、簡便性および生産性が低い上に、高誘電率化も十分ではない。なお、特許文献1では、
図1の断面模式図で表される並列モデルは、少量の誘電体フィラーを用いて製造することは容易ではなく、現実的でないモデルとして記載されている。
【0007】
従って、本開示の目的は、樹脂中で誘電体フィラーが凝集した領域を有する成形体を簡便に製造できる方法を提供することにある。
【0008】
本開示の他の目的は、誘電体フィラーの凝集領域が各種形状またはパターン状に形成されている成形体ならびにその前駆体、製造方法および用途を提供することにある。
【0009】
本開示のさらに他の目的は、厚み方向に横断または貫通する形態のフィラー凝集領域を有するフィルム状成形体ならびにその前駆体、製造方法および用途を提供することにある。
【0010】
本開示の別の目的は、柔軟性(または靭性)などの機械的特性と高誘電率特性とを両立できるフィルム状成形体ならびにその前駆体、製造方法および用途を提供することにある。
【0011】
本開示のさらに別の目的は、高誘電率特性、低誘電損失および耐熱性を向上できるフィルム状成形体ならびにその前駆体、製造方法および用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を達成するためさらに鋭意検討した結果、樹脂前駆体および誘電体フィラーを含む液状前駆体の一部の領域に活性エネルギーを付与すると、前記誘電体フィラーを特定の領域に凝集でき、樹脂中で誘電体フィラーが凝集した領域を有する成形体を簡便に製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本開示の成形体は、樹脂と誘電体フィラー(または誘電体粒子)とを含み、前記誘電体フィラーが凝集した領域である凝集部と、前記凝集部以外の領域である非凝集部とで形成され、かつ前記凝集部における誘電体フィラーの存在割合が、前記非凝集部との少なくとも界面近傍において、界面に向かって漸減する。前記樹脂は光硬化性樹脂の硬化物であってもよい。前記光硬化性樹脂はカチオン重合性化合物であってもよい。前記誘電体フィラーはチタン含有複合金属酸化物で形成された無機フィラーであってもよい。前記誘電体フィラーの割合は、前記樹脂100質量部に対して0.1~100質量部であってもよい。前記成形体は、フィルム状であってもよい。前記フィルム状成形体は、複数の凝集部がパターン形状を形成し、かつ前記複数の凝集部のうち少なくとも1つの凝集部が厚み方向に延びて貫通した形態に形成されていてもよい。前記成形体は、誘電フィルムであってもよい。
【0014】
本開示には、樹脂前駆体および誘電体フィラーを含む液状前駆体の一部の領域に活性エネルギーを付与して前記誘電体フィラーを凝集させて前駆成形体を得る凝集工程を含む前記成形体の製造方法も含まれる。この製造方法は、凝集工程を経た前駆成形体の未硬化の領域に活性エネルギーを付与して重合を完結させる重合完結工程を含んでいてもよい。前記製造方法において、前記液状前駆体は光酸発生剤を含んでいてもよく、前記活性エネルギーは活性光線であってもよい。また、本開示には、前記製造方法で得られた成形体も含まれる。
【0015】
本開示には、光硬化性樹脂と誘電体フィラーとを含み、前記誘電体フィラーが凝集した領域である凝集部と、前記凝集部以外の領域である非凝集部とを有する成形体を形成するための液状前駆体であって、光硬化性樹脂および誘電体フィラーを含む液状前駆体も含まれる。
【0016】
本開示には、樹脂、セラミックスまたは金属で形成された基材と、前記成形体とが接合された接合体も含まれる。この接合体は、コンデンサであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本開示では、樹脂前駆体および誘電体フィラーを含む液状前駆体の一部の領域に活性エネルギーを付与するため、樹脂中で誘電体フィラーが凝集した領域を有する成形体を簡便に(効率良く)製造できる。また、所望の型やパターン状のマスクなどを用いれば、誘電体フィラーの凝集領域が各種形状またはパターン状に形成されている成形体も簡便にまたは精度良く製造できる。さらに、厚み方向に横断または連続する形態のフィラー凝集領域(並列接続モデルと称される厚み方向に誘電体が連続する高誘電率構造:例えば、特許文献1に記載されている
図1に示す構造等)を有するフィルム状(またはシート状)成形体も簡便に製造できる。そのため、フィルム状成形体の厚み方向に誘電特性を有効に発現できる。また、誘電体フィラーの添加量が少なくても効率的に誘電特性を付与できるため、フィルム状成形体の柔軟性(または靭性)などの機械的特性と高誘電率特性とを両立できる。さらに、高誘電率特性、低誘電損失および耐熱性も優れた成形体も得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、特許文献1において製造が容易でないと記載されている複合材料の断面模式図である。
【
図2】
図2は、凝集部における誘電体フィラー濃度の不均一性を説明するために示した本発明のシート状成形体の概略部分縦断面図である。
【
図3】
図3は、実施例で使用したフォトマスクのパターン形状を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例で使用したフォトマスクの他のパターン形状を示す図である。
【
図5】
図5は比較例1で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD(電荷結合素子)写真である。
【
図6】
図6は、比較例2で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図7】
図7は、実施例1で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図8】
図8は、実施例2で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図9】
図9は、実施例3で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図10】
図10は、実施例4で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図11】
図11は、実施例5で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図12】
図12は、実施例6で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図13】
図13は、実施例7で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図14】
図14は、実施例8で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図15】
図15は、実施例9で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図16】
図16は、実施例10で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図17】
図17は、実施例11で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図18】
図18は、実施例12で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図19】
図19は、実施例13で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図20】
図20は、実施例14で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図21】
図21は、実施例15で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図22】
図22は、実施例16で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図23】
図23は、実施例17で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図24】
図24は、実施例18で得られたフィルムの表面((a)100倍、(b)400倍)のCCD写真である。
【
図25】
図25は、比較例4で得られたフィルムの表面(100倍)のCCD写真である。
【
図26】
図26は、実施例19で得られたフィルムの表面(100倍)のCCD写真である。
【
図27】
図27は、実施例20で得られたフィルムの表面(100倍)のCCD写真である。
【
図28】
図28は、実施例21で得られたフィルムの表面(100倍)のCCD写真である。
【
図29】
図29は、比較例5で得られたフィルムの表面(100倍)のCCD写真である。
【
図30】
図30は、実施例22で得られたフィルムの表面(100倍)のCCD写真である。
【
図31】
図31は、実施例23で得られたフィルムの表面(100倍)のCCD写真である。
【
図32】
図32は、実施例24で得られたフィルムの表面(100倍)のCCD写真である。
【
図33】
図33は、比較例6で得られたフィルムの表面(100倍)のCCD写真である。
【
図34】
図34は、実施例25で得られたフィルムの表面(100倍)のCCD写真である。
【
図35】
図35は、実施例26で得られたフィルムの表面(100倍)のCCD写真である。
【
図36】
図36は、実施例27で得られたフィルムの表面(100倍)のCCD写真である。
【
図37】
図37は、比較例7で得られたフィルムの表面(100倍)のCCD写真である。
【
図38】
図38は、実施例28で得られたフィルムの表面(100倍)のCCD写真である。
【
図39】
図39は、実施例29で得られたフィルムの表面(100倍)のCCD写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[成形体]
本開示の成形体は、樹脂と誘電体フィラーとを含み、かつ前記誘電体フィラーが凝集した領域である凝集部と、前記凝集部以外の領域である非凝集部(またはマトリックス部)とで形成された成形体であるが、このような構造を有する成形体(複合成形体)は、樹脂前駆体および誘電体フィラーを含む液状前駆体の一部の領域に活性エネルギーを付与して前記誘電体フィラーを凝集させる凝集工程を経ることにより得られる。本開示では、凝集工程において、活性エネルギーが付与された領域で前記樹脂前駆体が重合しつつ、前記誘電体フィラーが重合に伴って移動して凝集部を形成していると推測できる。誘電体フィラーは、配合の組み合わせや製造条件の選択によって、活性エネルギーの付与されていない領域に移動させることもでき、活性エネルギーの付与されている領域に移動させることもできる。
【0020】
(樹脂)
樹脂としては、活性エネルギーによって重合可能な樹脂であればよく、重合によって得られた樹脂は熱可塑性樹脂であってもよいが、誘電体フィラーを凝集させ易い点から、活性エネルギーによって硬化可能な硬化性樹脂の硬化物が好ましい。
【0021】
硬化性樹脂としては、カチオン重合性化合物および/またはラジカル重合性樹脂などが挙げられる。これらのうち、生産性などの点から、カチオン重合性化合物が好ましい。カチオン重合性化合物は、反応速度が誘電体フィラーの移動(凝集)に対して適しているためか、所望の成形体を簡便にまたは精度よく調製することができる。また、カチオン重合は、空気中など酸素存在下で反応させることができ、さらには、暗反応(または後重合)などを利用することで硬化性の制御も容易であるため、生産性に優れている。
【0022】
カチオン重合性化合物は少なくとも1つのカチオン重合性基を有する限り特に制限されず、1つのカチオン重合性基を有する単官能カチオン重合性化合物であってもよく、2以上の同一または異なるカチオン重合性基を有する多官能カチオン重合性化合物であってもよい。硬化性や樹脂強度(または硬さなどの成形体強度)の観点から、通常、多官能カチオン重合性化合物がよく利用される。多官能カチオン重合性化合物である場合、カチオン重合性基の数は、例えば、2~10程度の範囲から選択でき、例えば2~8(例えば2~6)、好ましくは2~4、さらに好ましくは2~3、特に2であってもよい。
【0023】
カチオン重合性基としては、例えば、エポキシ(オキシラン環)含有基、オキセタン環含有基、ビニルエーテル基などが挙げられる。
【0024】
エポキシ含有基としては、オキシラン環骨格を少なくとも有する基であればよく、例えば、エポキシ基(またはオキシラン-2-イル基)、2-メチルオキシラン-2-イル基、グリシジル含有基(例えば、グリシジル基、2-メチルグリシジル基など)、脂環式エポキシ基(例えば、3,4-エポキシシクロヘキシル基などのエポキシシクロアルキル基、3,4-エポキシ-6-メチルシクロヘキシル基などのアルキル-エポキシシクロアルキル基など)などが挙げられる。
【0025】
オキセタン環含有基としては、オキセタン環骨格を少なくとも有する基であればよく、例えば、オキセタニル基(3-オキセタニル基など)、アルキルオキセタニル基(例えば、3-メチル-3-オキセタニル基、3-エチル-3-オキセタニル基などのC1-4アルキルオキセタニル基など)などが挙げられる。
【0026】
これらのカチオン重合性基は、単独でまたは2種以上組み合わせて有していてもよい。これらのカチオン重合性基のうち、誘電体フィラーの凝集に適した硬化性や生産性などの観点から、グリシジル含有基、脂環式エポキシ基などのエポキシ含有基がよく利用される。
【0027】
代表的なカチオン重合性化合物としては、エポキシ含有基を有するエポキシ化合物、オキセタン環含有基を有するオキセタン化合物、ビニルエーテル基を有するビニルエーテル化合物、エポキシ含有基、オキセタン環含有基、ビニルエーテル基から選択された2種以上のカチオン重合性基を有する多官能化合物などが挙げられる。
【0028】
これらのカチオン重合性化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのカチオン重合性化合物のうち、エポキシ化合物、オキセタン化合物などの前記エポキシ含有基、オキセタン環含有基から選択された少なくとも1種のカチオン重合性基を有する化合物がよく利用され、なかでも、少なくともエポキシ基を有する化合物が好ましく、誘電体フィラーの凝集に適した硬化性や生産性などの観点から、エポキシ化合物がさらに好ましい。
【0029】
前記エポキシ化合物としては、カチオン重合性基として、1つのエポキシ含有基を有する単官能エポキシ化合物、2以上のエポキシ含有基を有する多官能エポキシ化合物が挙げられる。これらのエポキシ化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0030】
単官能エポキシ化合物としては、例えば、グリシジル基(または2-メチルグリシジル基)を有する単官能グリシジル型エポキシ化合物、脂環式エポキシ基を有する単官能脂環式エポキシ化合物などが挙げられる。単官能グリシジル型エポキシ化合物としては、例えば、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、トリデシルグリシジルエーテルなどのアルキルグリシジルエーテル;フェニルグリシジルエーテル、アルキルフェニルグリシジルエーテル(トリルグリシジルエーテル、t-ブチルフェニルグリシジルエーテルなど)などのアリールグリシジルエーテル;エチレングリコールモノグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールモノグリシジルエーテル、ジエチレングリコールモノグリシジルエーテルなどの(ポリ)アルキレングリコールモノグリシジルエーテル;2,3-エポキシ-1-プロパノール(又はグリシドール);グリシジル(メタ)アクリレート;グリシジルオキシエチル(メタ)アクリレートなどのグリシジルオキシアルキル(メタ)アクリレート;2-(2-グリシジルオキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレートなどのグリシジルオキシ(ポリ)アルコキシアルキル(メタ)アクリレート;これらの化合物におけるグリシジル基を2-メチルグリシジル基とした化合物などが挙げられる。
【0031】
単官能脂環式エポキシ化合物としては、例えば、1,2-エポキシシクロヘキサン、置換エポキシシクロヘキサン(例えば、1,2-エポキシ-4-ヒドロキシメチルシクロヘキサン、1,2-エポキシ-4-ビニルシクロヘキサン、3,4-エポキシ-シクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、アリル-3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートなど)などが挙げられる。
【0032】
多官能エポキシ化合物としては、例えば、グリシジル基(および/または2-メチルグリシジル基)を有する多官能グリシジル型エポキシ化合物、少なくとも1つの脂環式エポキシ基を有する多官能脂環式エポキシ化合物などが挙げられる。なお、本明細書および特許請求の範囲において、グリシジル基および脂環式エポキシ基の双方を有するエポキシ化合物は、脂環式エポキシ化合物に分類する。
【0033】
多官能グリシジル型エポキシ化合物としては、例えば、グリシジルエーテル型エポキシ化合物(またはグリシジルエーテル型エポキシ樹脂)、グリシジルエステル型エポキシ化合物(またはグリシジルエステル型エポキシ樹脂)、グリシジルアミン型エポキシ化合物(またはグリシジルアミン型エポキシ樹脂)、複素環式グリシジル型エポキシ化合物などが挙げられる。
【0034】
グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、例えば、ジグリシジルフタレート、ジグリシジルテトラヒドロフタレート、ジグリシジルヘキサヒドロフタレートなどのジグリシジルフタレート類;グリシジル(メタ)アクリレートの単独又は共重合体;これらの化合物におけるグリシジル基を2-メチルグリシジル基とした化合物などが挙げられる。
【0035】
グリシジルアミン型エポキシ化合物としては、例えば、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、テトラグリシジルメタキシリレンジアミン、テトラグリシジルビスアミノメチルシクロヘキサンなどのテトラグリシジルジアミン類;ジグリシジルアニリン、ジグリシジルトルイジン、N,N-ジグリシジル-2,4,6-トリブロモアニリン、トリグリシジル-p-アミノフェノール、トリグリシジル-m-アミノフェノールなどのグリシジルアニリン類;これらの化合物におけるグリシジル基を2-メチルグリシジル基とした化合物などが挙げられる。
【0036】
複素環式グリシジル型エポキシ化合物としては、例えば、トリグリシジルイソシアヌレートなどのイソシアヌレート型エポキシ化合物;ジグリシジルヒダントインなどのヒダントイン型エポキシ化合物;これらの化合物におけるグリシジル基を2-メチルグリシジル基とした化合物などが挙げられる。
【0037】
これらの多官能グリシジル型エポキシ化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのうち、誘電体フィラーの凝集に適した硬化性や生産性などの観点から、グリシジルエーテル型エポキシ化合物が好ましい。
【0038】
グリシジルエーテル型エポキシ化合物として代表的には、芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂環族グリシジルエーテル型エポキシ化合物、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ化合物などが挙げられる。
【0039】
芳香族グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、芳香族ポリオールまたはそのアルキレンオキシド付加体のポリグリシジルエーテルなどが挙げられ、例えば、ビまたはビスフェノール型エポキシ化合物(例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールAD型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物などの慣用のビスフェノール類のジグリシジルエーテル、p,p’-ビフェノールなどのビフェノール類のジグリシジルエーテルなど);ノボラック型エポキシ樹脂(例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂など);ポリヒドロキシアレーンのポリグリシジルエーテル[例えば、ビス(グリシジルオキシ)ベンゼン、ビス(グリシジルオキシ)ナフタレンなど];テトラキスフェノール型エポキシ化合物[例えば、テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタンなど];これらの化合物に対応する芳香族ポリオールのC2-4アルキレンオキシド付加体のポリグリシジルエーテル;これらの化合物におけるグリシジル基を2-メチルグリシジル基とした化合物などが挙げられる。
【0040】
脂環式グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、脂環族ポリオールまたはそのアルキレンオキシド付加体のポリグリシジルエーテルなどが挙げられ、例えば、前記芳香族グリシジルエーテル化合物の水添物[例えば、水添ビまたはビスフェノール型エポキシ化合物(水添ビスフェノールA型エポキシ化合物などの慣用のビスフェノール類の水添物のジグリシジルエーテルなど);水添ノボラック型エポキシ樹脂など];1,4-ビス(グリシジルオキシ)シクロヘキサンなどのビス(グリシジルオキシ)C5-10シクロアルカン;1,4-シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテルなどのビス(グリシジルオキシC1-4アルキル)C5-10シクロアルカン;これらの化合物に対応する脂環式ポリオールのC2-4アルキレンオキシド付加体のポリグリシジルエーテル;これらの化合物におけるグリシジル基を2-メチルグリシジル基とした化合物などが挙げられる。
【0041】
これらのグリシジルエーテル型エポキシ化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのうち、低粘度で誘電体フィラーの凝集を促進し易い点などから、脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ化合物が好ましい。
【0042】
脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、例えば、脂肪族多価アルコール(脂肪族ポリオール)またはその縮合物(又は多量体)のポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ化合物を形成するための脂肪族多価アルコールとしては、例えば、脂肪族ジオール[例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオールなどの直鎖状または分岐鎖状C2-12アルカンジオールなど];3価以上の脂肪族ポリオール[例えば、トリメチロールプロパンなどのポリメチロールアルカン;グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトールなどの糖アルコール;これらのアルキレンオキシド付加体など]などが挙げられる。なお、脂肪族多価アルコールの縮合物は、これらの脂肪族多価アルコールが単独でまたは2種以上組み合わせて縮合された化合物であってもよい。
【0043】
脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ化合物として代表的には、2価のグリシジルエーテル型化合物、3価以上のグリシジルエーテル型化合物が挙げられる。2価のグリシジルエーテル型化合物としては、例えば、下記式(1)で表される(ポリ)アルキレングリコールジグリシジルエーテル;トリメチロールプロパンジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールジグリシジルエーテルなどの前記3価以上の脂肪族ポリオールまたはそのポリオールを含む縮合物のジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0044】
【0045】
(式中、A1は直鎖状または分岐鎖状アルキレン基、mは1以上の整数、R1はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を示す)。
【0046】
前記式(1)において、A1で表される直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基、2,2-ジメチルプロパン-1,3-ジイル基(ネオペンチレン基)、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-12アルキレン基(例えば、直鎖状または分岐鎖状C2-10アルキレン基)、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C2-8アルキレン基(例えば、直鎖状または分岐鎖状C3-7アルキレン基)、さらに好ましくはエチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-7アルキレン基(例えば、テトラメチレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレン基、好ましくは直鎖状または分岐鎖状C3-6アルキレン基、特に直鎖状または分岐鎖状C4-6アルキレン基)などが挙げられる。
【0047】
繰り返し数mは1以上の整数であればよく、例えば1~30(例えば1~15)程度の整数から選択でき、例えば1~10(例えば1~8)、好ましくは1~6(例えば1~4)、さらに好ましくは1~3(例えば1または2)、特に1であってもよい。mが大きすぎると、液状前駆体の粘度が上昇して誘電体フィラーの制御性が低下する虞がある。また、mが2以上である場合、複数のアルキレン基A1の種類は、互いに同一または異なっていてもよい。
【0048】
R1は水素原子またはメチル基のいずれであってもよく、通常、水素原子である場合が多い。R1の種類は互いに異なっていてもよいが、通常、同一である。
【0049】
前記式(1)で表される(ポリ)アルキレングリコールジグリシジルエーテルとして、具体的には、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,2-ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,5-ペンタンジオールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、1,8-オクタンジオールジグリシジルエーテル、1,10-デカンジオールジグリシジルエーテルなどの直鎖状または分岐鎖状C2-12アルキレングリコール-ジグリシジルエーテル;ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテルなどの(ジ乃至ペンタ)直鎖状または分岐鎖状C2-12アルキレングリコール-ジグリシジルエーテル;これらの化合物のグリシジルオキシ基を2-メチルグリシジルオキシ基に置換した化合物などが挙げられる。
【0050】
前記式(1)で表される(ポリ)アルキレングリコールジグリシジルエーテルは、単独で又は2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのうち、mが1であるアルキレングリコールジグリシジルエーテルが好ましく、なかでも、エチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどの直鎖状または分岐鎖状C2-8アルキレングリコール-ジグリシジルエーテル(例えば、直鎖状または分岐鎖状C3-7アルキレングリコール-ジグリシジルエーテル)、特に、直鎖状または分岐鎖状C2-6アルキレングリコール-ジグリシジルエーテル(例えば、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどの直鎖状または分岐鎖状C4-6アルキレングリコール-ジグリシジルエーテル、好ましくはネオペンチルグリコールなどの分岐鎖状C4-6アルキレングリコール-ジグリシジルエーテルなど)が好ましい。
【0051】
一方、3価以上のグリシジルエーテル型化合物としては、例えば、(ポリ)トリメチロールプロパントリ乃至ペンタグリシジルエーテル[例えば、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジトリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ジトリメチロールプロパンテトラグリシジルエーテルなどのモノ乃至トリ(トリメチロールプロパン)トリ乃至ペンタグリシジルエーテルなど];(ポリ)グリセリンポリグリシジルエーテル[例えば、グリセリントリグリシジルエーテル、ジグリセリントリグリシジルエーテル、ジグリセリンテトラグリシジルエーテルなどのモノ乃至トリ(グリセリン)トリ乃至ペンタグリシジルエーテルなど];(ポリ)ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル[例えば、ペンタエリスリトールトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールヘキサグリシジルエーテルなどのモノ乃至トリ(ペンタエリスリトール)トリ乃至オクタグリシジルエーテルなど]などの3価以上のポリオール又はその縮合物(あるいはそれらのC2-4アルキレンオキシド付加体)のポリグリシジルエーテル;これらの化合物におけるグリシジル基を2-メチルグリシジル基とした化合物などが挙げられる。
【0052】
これらの脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの脂肪族グリシジルエーテル型エポキシ化合物のうち、2価のグリシジルエーテル型化合物、なかでも、誘電体フィラーの制御性を向上し易く、調達も容易な点などから、前記式(1)で表される(ポリ)アルキレングリコールジグリシジルエーテル(特に、アルキレングリコールジグリシジルエーテル)がよく利用される。
【0053】
前記多官能脂環式エポキシ化合物は、2以上のエポキシ含有基を有し、かつ少なくとも1つが脂環式エポキシ基である化合物であればよい。代表的には、1つの脂環式エポキシ基と1以上の非脂環式エポキシ基とを有する化合物[例えば、1,2:8,9-ジエポキシリモネン(または1-メチル-4-(2-メチルオキシラニル)-7-オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、ARKEMA社製「LIMONENE DIOXIDE」)などの脂環式エポキシ基とエチレンオキシド基とをそれぞれ1つずつ有する化合物など];2つの脂環式エポキシ基を有する化合物;3以上の脂環式エポキシ基を有する化合物などが挙げられる。
【0054】
2つの脂環式エポキシ基を有する化合物としては、下記式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0055】
【0056】
(式中、Xは単結合または連結基を示し、シクロヘキセンオキシド基は、それぞれ置換基を有していてもよい)。
【0057】
式(2)において、Xで表される連結基としては、例えば、二価の炭化水素基、炭素-炭素二重結合の一部または全部がエポキシ化されたアルケニレン基、カルボニル基(-CO-)、エーテル結合(-O-)、エステル結合(-COO-)、カーボネート基(-O-CO-O-)、アミド基(-CONH-)、およびこれらが複数個連結した基などが挙げられる。
【0058】
上記二価の炭化水素基としては、例えば、直鎖状または分岐鎖状C1-18アルキレン基、二価のC3-18脂環式炭化水素基等が挙げられる。直鎖状または分岐鎖状C1-18アルキレン基としては、例えば、メチレン基、メチルメチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基などが挙げられる。二価のC3-18脂環式炭化水素基としては、例えば、1,2-シクロペンチレン基、1,3-シクロペンチレン基、シクロペンチリデン基、1,2-シクロヘキシレン基、1,3-シクロヘキシレン基、1,4-シクロヘキシレン基、シクロヘキシリデン基等のシクロアルキレン基(シクロアルキリデン基を含む)などが挙げられる。
【0059】
上記炭素-炭素二重結合の一部又は全部がエポキシ化されたアルケニレン基(「エポキシ化アルケニレン基」と称する場合がある)におけるアルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、ブタジエニレン基、ペンテニレン基、ヘキセニレン基、ヘプテニレン基、オクテニレン基などの直鎖状または分岐鎖状C2-8アルケニレン基等が挙げられる。特に、上記エポキシ化アルケニレン基としては、炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化されたアルケニレン基が好ましく、より好ましくは炭素-炭素二重結合の全部がエポキシ化されたC2-4アルケニレン基である。
【0060】
これらのうち、Xとしては、カルボニルオキシメチレン基などが好ましい。
【0061】
上記式(2)において、2つのシクロヘキセンオキシド基には、それぞれ独立して置換基が結合していてもよく、前記置換基としては、例えば、ハロゲン原子、C1-10アルキル基、C1-10アルコキシ基、C2-10アルケニルオキシ基、C6-14アリールオキシ基、C7-18アラルキルオキシ基、C1-10アシルオキシ基、C1-10アルコキシカルボニル基、C6-14アリールオキシカルボニル基、C7-18アラルキルオキシカルボニル基、エポキシ基含有基、オキセタン環含有基、C1-10アシル基、イソシアナート基、スルホ基、カルバモイル基、オキソ基などが挙げられる。シクロヘキセンオキシド基には、前記置換基が結合していないのが好ましい。
【0062】
上記式(2)で表される化合物の代表的な例としては、(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、1,2-エポキシ-1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタン、2,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)プロパン、1,2-ビス(3,4-エポキシシクロヘキサン-1-イル)エタンや、下記式(2-1)~(2-8)で表される化合物などが挙げられる。
【0063】
【0064】
(式中、LはC1-8アルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基などの直鎖状又は分岐鎖状C1-3アルキレン基)を示し、n1及びn2はそれぞれ1~30の整数を示す)。
【0065】
前記3以上の脂環式エポキシ基を有する化合物としては、例えば、下記式(2-9)(2-10)で表される化合物などが挙げられる。
【0066】
【0067】
(式中、n3~n8は、それぞれ独立して1~30の整数を示す)。
【0068】
これらの多官能脂環式エポキシ化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらの多官能脂環式エポキシ化合物のうち、前記式(2)で表される化合物などの2つの脂環式エポキシ基を有する化合物が好ましく、なかでも、Xがカルボニルオキシメチレン基である3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート(前記式(2-1)で表される化合物)が好ましい。
【0069】
前記多官能グリシジル型エポキシ化合物および多官能脂環式エポキシ化合物とは異なる他の多官能エポキシ化合物としては、例えば、ポリオール(トリメチロールプロパンなど)の1,2-エポキシ-4-(2-オキシラニル)シクロヘキサン付加体(例えば、(株)ダイセル製「EHPE3150」など)などが挙げられる。
【0070】
これらの多官能エポキシ化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのエポキシ化合物のうち、通常、硬化性や生産性の観点から多官能エポキシ化合物がよく利用される。多官能エポキシ化合物のうち、誘電体フィラーの凝集に特に適した硬化性や生産性などの観点から、多官能グリシジル型エポキシ化合物、多官能脂環式エポキシ化合物が好ましく、さらに好ましくはグリシジルエーテル型エポキシ化合物、2つの脂環式エポキシ基を有する化合物、より好ましくは前記式(1)で表される(ポリ)アルキレングリコールジグリシジルエーテル、前記式(2)で表される2つの脂環式エポキシ基を有する化合物である。
【0071】
さらに、誘電体フィラーの制御性に優れるとともに、成形体の柔軟性も向上できる点から、多官能脂環式エポキシ化合物と多官能グリシジル型エポキシ化合物との組み合わせが好ましく、前記式(2)で表される2つの脂環式エポキシ基を有する化合物と前記式(1)で表される(ポリ)アルキレングリコールジグリシジルエーテルとの組み合わせが特に好ましい。
【0072】
多官能脂環式エポキシ化合物と多官能グリシジル型エポキシ化合物との質量比は、前者/後者=99/1~1/99の範囲から選択でき、例えば90/10~10/90、好ましくは80/20~20/80、さらに好ましくは70/30~30/70、より好ましくは60/40~40/60である。
【0073】
凝集工程における誘電体フィラーの凝集を促進できる点から、カチオン重合性化合物の25℃における粘度は、例えば500mPa・s以下(例えば1~400mPa・s)程度の範囲から選択でき、例えば2~350mPa・s(例えば3~300mPa・s)、好ましくは4~250mPa・s(例えば5~200mPa・s)、より好ましくは5~150mPa・s(例えば5~100mPa・s)、さらに好ましくは5~80mPa・s(例えば5.5~50mPa・s)であり、これらのなかでも、好ましくは6~30mPa・s(例えば6.5~20mPa・s)、さらに好ましくは7~15mPa・s(例えば7.5~10mPa・s)程度であってもよい。なお、粘度は、慣用の粘度計(例えば、単一円筒形回転粘度計など)を用いて測定できる。
【0074】
カチオン重合性化合物の割合は、液状前駆体中に含まれる樹脂全体に対して、例えば10~100質量%(例えば30~99質量%)程度の範囲から選択でき、例えば50~100質量%(例えば60~98質量%)、好ましくは70~100質量%(例えば80~97質量%)、さらに好ましくは80~100質量%(例えば90~95質量%)、特に95~100質量%(特に、実質的に100質量%)程度であってもよい。カチオン重合性化合物の割合が少なすぎると、凝集工程において、簡便にまたは十分に(または精度よく)凝集部を形成できない虞がある。
【0075】
硬化性樹脂としては、凝集部を形成し易い点から、光硬化性樹脂が好ましく、光カチオン重合性化合物が特に好ましい。
【0076】
(重合開始剤)
成形体(または成形体を形成するための液状前駆体)は、前記樹脂を重合するための重合開始剤をさらに含んでいてもよい。重合開始剤は、樹脂の種類に応じて適宜選択でき、樹脂が硬化性樹脂の場合、ラジカル重合開始剤、カチオン重合開始剤、アニオン重合開始剤であってもよい。好ましい重合開始剤は、カチオン重合開始剤(酸発生剤)である。カチオン重合開始剤には、光酸発生剤および熱酸発生剤が含まれる。
【0077】
光酸発生剤としては、例えば、スルホニウム塩(スルホニウムイオンとアニオンとの塩)、ジアゾニウム塩(ジアゾニウムイオンとアニオンとの塩)、ヨードニウム塩(ヨードニウムイオンとアニオンとの塩)、セレニウム塩(セレニウムイオンとアニオンとの塩)、アンモニウム塩(アンモニウムイオンとアニオンとの塩)、ホスホニウム塩(ホスホニウムイオンとアニオンとの塩)、オキソニウム塩(オキソニウムイオンとアニオンとの塩)、遷移金属錯体イオンとアニオンとの塩、臭素化合物などが挙げられる。これらの光酸発生剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらの光酸発生剤のうち、反応性を向上できる点から、酸性度の高い酸発生剤、例えば、スルホニウム塩が好ましい。
【0078】
スルホニウム塩としては、例えば、トリフェニルスルホニウム塩、トリ-p-トリルスルホニウム塩、トリ-o-トリルスルホニウム塩、トリス(4-メトキシフェニル)スルホニウム塩、1-ナフチルジフェニルスルホニウム塩、2-ナフチルジフェニルスルホニウム塩、トリス(4-フルオロフェニル)スルホニウム塩、トリ-1-ナフチルスルホニウム塩、トリ-2-ナフチルスルホニウム塩、トリス(4-ヒドロキシフェニル)スルホニウム塩、ジフェニル[4-(フェニルチオ)フェニル]スルホニウム塩、[4-(4-ビフェニルチオ)フェニル]-4-ビフェニルフェニルスルホニウム塩、4-(p-トリルチオ)フェニルジ-(p-フェニル)スルホニウム塩などのトリアリールスルホニウム塩;ジフェニルフェナシルスルホニウム塩、ジフェニル4-ニトロフェナシルスルホニウム塩、ジフェニルベンジルスルホニウム塩、ジフェニルメチルスルホニウム塩などのジアリールスルホニウム塩;フェニルメチルベンジルスルホニウム塩、4-ヒドロキシフェニルメチルベンジルスルホニウム塩、4-メトキシフェニルメチルベンジルスルホニウム塩などのモノアリールスルホニウム塩;ジメチルフェナシルスルホニウム塩、フェナシルテトラヒドロチオフェニウム塩、ジメチルベンジルスルホニウム塩などのトリアルキルスルホニウム塩などが挙げられる。これらのスルホニウム塩は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのスルホニウム塩のうち、トリアリールスルホニウム塩が好ましい。
【0079】
カチオンと塩を形成するためのアニオン(対イオン)としては、例えば、SbF6-、PF6-、BF4-、フッ化アルキルフルオロリン酸イオン[(CF3CF2)3PF3-、(CF3CF2CF2)3PF3-など]、(C6F5)4B-、(C6F5)4Ga-、スルホン酸アニオン(トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ペンタフルオロエタンスルホン酸アニオン、ノナフルオロブタンスルホン酸アニオン、メタンスルホン酸アニオン、ベンゼンスルホン酸アニオン、p-トルエンスルホン酸アニオンなど)、(CF3SO2)3C-、(CF3SO2)2N-、過ハロゲン酸イオン、ハロゲン化スルホン酸イオン、硫酸イオン、炭酸イオン、アルミン酸イオン、ヘキサフルオロビスマス酸イオン、カルボン酸イオン、アリールホウ酸イオン、チオシアン酸イオン、硝酸イオンなどが挙げられる。これらのアニオンは、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのアニオンのうち、SbF6-、PF6-、フッ化アルキルフルオロリン酸イオンなどが汎用され、溶解性などの点からはフッ化アルキルフルオロリン酸イオンなどが好ましく、通常、PF6-などであることが多い。
【0080】
光酸発生剤は市販の光酸発生剤を使用できる。市販の光酸発生剤としては、例えば、サンアプロ(株)製「CPI-101A」、「CPI-110A」、「CPI-100P」、「CPI-110P」、「CPI-210S」、「CPI-200K」;ダウ・ケミカル社製「CYRACURE UVI-6990」、「CYRACURE UVI-6992」;ダイセル・オルネクス(株)製「UVACURE1590」;米国サートマー製「CD-1010」、「CD-1011」、「CD-1012」;BASF社製「イルガキュア-264」;日本曹達(株)製「CIT-1682」;ローディアジャパン(株)製「PHOTOINITIATOR 2074」などを利用できる。
【0081】
熱酸発生剤としては、例えば、アリールスルホニウム塩、アリールヨードニウム塩、アレン-イオン錯体、第4級アンモニウム塩、アルミニウムキレート、三フッ化ホウ素アミン錯体などが挙げられる。これらの熱酸発生剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらの熱酸発生剤のうち、反応性を向上できる点から、酸性度の高い酸発生剤、例えば、アリールスルホニウム塩が好ましい。アニオンとしては、光酸発生剤と同様のアニオンなどが挙げられ、SbF6-などのアンチモンのフッ化物イオンであってもよい。
【0082】
熱酸発生剤も市販の熱酸発生剤を使用できる。市販の熱酸発生剤としては、例えば、三新化学工業(株)製「サンエイドSI-60L」、「サンエイドSI-60S」、「サンエイドSI-80L」、「サンエイドSI-100L」や、(株)ADEKA製「SP-66」、「SP-77」などを利用できる。
【0083】
なお、これらの光または熱酸発生剤は、それぞれ光及び熱のいずれの作用によっても酸を発生できる場合がある。
【0084】
これらのカチオン重合開始剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用することもできる。これらのカチオン重合開始剤のうち、フォトマスクなどを利用して凝集部をパターン状に容易に形成できる点から、光酸発生剤が好ましい。
【0085】
重合開始剤(特に、カチオン重合開始剤)の割合は、樹脂の種類などに応じて適宜選択し、液状前駆体の硬化性を調整してもよく、例えば、樹脂(特に、カチオン重合性化合物)の総量100質量部に対して0.01~100質量部程度の範囲から選択でき、例えば0.1~50質量部、好ましくは1~30質量部、さらに好ましくは3~20質量部、より好ましくは5~15質量部、最も好ましくは8~12質量部である。重合開始剤の割合が少なすぎると、硬化反応が進行し難く、凝集工程において誘電体フィラーが凝集し難くなる虞があり、多すぎると、硬化反応が速すぎて、凝集工程で誘電体フィラーの凝集が不十分な状態で硬化してしまう虞があるとともに、コストもかかり生産性の点でも不利である。
【0086】
(誘電体フィラー)
誘電体フィラーとしては、慣用の誘電体フィラー(誘電体粒子または粒状誘電体)を利用できる。慣用の誘電体フィラーは、無機フィラー(または粒子)、有機フィラー(または粒子)に大別できる。
【0087】
無機フィラーの材質には、金属酸化物、金属複合酸化物などが含まれる。金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ランタンなどが挙げられる。複合金属酸化物としては、例えば、チタン酸マグネシウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム(BaTiO3)、チタン酸亜鉛、チタン酸ビスマスなどのチタン金属;ジルコン酸バリウムなどのジルコン酸金属;スズ酸バリウムなどのスズ酸金属;ハフニウム酸バリウムなどのハフニウム酸金属;ニオブ酸リチウムなどのニオブ酸金属;タンタル酸リチウムなどのタンタル酸金属;チタン酸ジルコン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などのチタン酸ジルコン酸金属などが挙げられる。また、チタン酸バリウムなどの複合金属酸化物は、微量成分として、カルシウム、ストロンチウムどのアルカリ土類金属、イットリウム、ネオジム、サマリウム、ジスプロシウムなどの希土類金属をさらに含んでいてもよい。
【0088】
有機フィラーの材質としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-三フッ化エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-四フッ化エチレン共重合体、フッ化ビニリデン-六フッ化ビニリデン共重合体などのフッ化ビニリデン系重合体;ポリアミド5、ポリアミド7、ポリアミド11などの奇数ポリアミド(奇数ナイロン);シアノエチルプルラン、シアノエチルポリビニルアルコール、シアノエチルヒドロキシエチルセルロース、シアノエチルセルロースなどのシアノ樹脂;ポリ尿素;ポリチオ尿素;硫酸トリグリシンなどが挙げられる。
【0089】
これらの材質で形成された誘電体フィラーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、凝集部を形成し易い点から、無機フィラーが好ましく、複合金属酸化物で形成された無機フィラー(複合金属酸化物フィラー)がさらに好ましく、チタン含有複合金属酸化物で形成された無機フィラーがより好ましく、チタン酸アルカリ土類金属で形成された無機フィラーが最も好ましい。また、誘電体フィラーは、凝集部を形成し易い点から、ペロブスカイト構造を有する無機フィラー(特に、ペロブスカイト構造を有する複合金属酸化物で形成された無機フィラー)であってもよい。さらに、誘電体フィラーのうち、成形体の比誘電率を向上できる点から、強誘電体フィラーであってもよい。
【0090】
誘電体フィラーの比誘電率(εr)は100以上であってもよく、例えば500以上、好ましくは1000以上、さらに好ましくは3000以上(例えば3000~10000)であってもよい。
【0091】
誘電体フィラーの形状(一次粒子の形状)は、粒状状であれば特に限定されず、例えば、真球状または略球状などの球状;楕円体(楕円球)状;円錐状、多角錘状などの錘状;立方体状や直方体状などの多角方体状;扁平状、鱗片状、薄片状などの板状;ロッド状または棒状;繊維状、樹針状などの線状;不定形状などが挙げられる。
【0092】
誘電体フィラーの中心粒径(D50)は1μm以上であってもよいが、1μm以下が好ましく、さらに好ましくは0.01~1μmである。中心粒径が小さすぎると、液状前駆体の粘度が上昇し易く凝集工程において誘電体フィラーが凝集し難くなる虞や、界面抵抗(接触抵抗)の影響により誘電性を有効に付与し難くなる虞がある。逆に、大きすぎると、凝集工程において誘電体フィラーが移動し難く凝集が困難になる虞や、誘電体フィラーによっては誘電体フィラー自身の影の影響により光硬化性が低下する虞がある。また、凝集部の誘電体フィラー濃度を効率的に高めるために大きさの違う粒子を意図的に所定の割合で混ぜてもよい。
【0093】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、誘電体フィラーの中心粒径は、一次粒子の中心粒径を意味し、ナノ粒子径分布測定装置((株)島津製作所製「SALD-7500nano」)を用いて体積基準で測定できる。また、画像解析法により求められる。すなわち、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて十分な数(例えば10個以上)の粒子状物質について電子顕微鏡像を撮影し、これらの粒子状物質の最大径、交差径、および厚みを計測し、これを算術平均することにより求められる。
【0094】
誘電体フィラーの割合は、樹脂(または樹脂前駆体)100質量部に対して0.01~300質量部(例えば0.1~100質量部)程度の範囲から選択でき、例えば0.1~80質量部、好ましくは0.2~70質量部である。誘導体フィラーの割合が多くても、誘導体フィラーの凝集を制御でき、誘導体フィラーの割合は、樹脂100質量部に対して、例えば1~300質量部、好ましくは10~200質量部、さらに好ましくは20~100質量部、より好ましくは30~80質量部であってもよい。誘電体フィラーの割合が少なすぎると、成形体の比誘電率を向上できない虞があるが、本開示では、比較的少ない誘電体フィラー量であっても、凝集部を形成することにより比誘電率を向上できる。逆に、多すぎると、液状前駆体の粘度が上昇し易く凝集工程において誘電体フィラーが凝集し難くなる虞や、誘電体フィラーによっては誘電体フィラー自身の影の影響により光硬化性が低下する虞がある。さらには、得られる成形体の柔軟性(または靭性)が低下し易く、脆い成形体となる虞がある。
【0095】
(他の成分)
成形体(または成形体を形成するための液状前駆体)は、樹脂および誘電体フィラーに加えて、必要に応じ、慣用の添加剤などの他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0096】
慣用の添加剤としては、例えば、安定剤(熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、分散剤、帯電防止剤、着色剤、潤滑剤、増感剤(アクリジン類、ベンゾフラビン類、ペリレン類、アントラセン類、チオキサントン類、レーザ色素類など)、増感助剤、硬化促進剤(イミダゾール類、アルカリ金属またはアルカリ土類金属アルコキシド、ホスフィン類、アミド化合物、ルイス酸錯体化合物、硫黄化合物、ホウ素化合物、縮合性有機金属化合物など)、消泡剤、難燃剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。慣用の添加剤の割合は、樹脂(または樹脂前駆体)100質量部に対して、例えば30質量部以下(例えば0.01~30質量部)、好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下であってもよい。
【0097】
(成形体の特性)
成形体の凝集部は、前述のように、活性エネルギーの付与によって前記誘電体フィラーが成形体内部で均一に分散することなく凝集して形成された領域であるが、前記非凝集部(またはマトリックス部)との少なくとも界面近傍において、誘電体フィラーの存在割合が界面に向かって漸減する構造を有している。すなわち、凝集部は、凝集部の全領域において、誘電体フィラーが一定の割合で存在する均質な構造ではなく、凝集部と非凝集部との少なくとも界面近傍において、濃度が徐々に(直線的または曲線的に、あるいは連続的にまたは段階的に)減少する濃度勾配または傾斜構造を有している。特に、界面近傍の構造は、濃度勾配を有するものの、定型的ではないため、ミクロ的な構造の特定は不可能または極めて困難であり、実際的ではない。また、この構造特性を有することで、アンカー効果による界面強度の向上などの本開示に由来する特性を付与できる。このような構造は、デジタルマイクロスコープ(CCD観察像)などによって容易に観察でき、例えば、凝集部の断面または表面を200~1000倍程度の倍率で撮影したCCD写真において、凝集部での誘電体フィラーの存在割合(濃度)が不均一であることは容易に確認できる。
【0098】
また、凝集部での誘電体フィラーの存在割合(濃度)の不均一性は、凝集部内の所定領域の元素分析(または表面分析)または化学種の分析により、誘電体フィラーを構成する元素(誘電体フィラー構成元素ともいう)または化学種を検出することからも確認できる。元素分析の方法(または装置)としては、成形体の形態(誘電体フィラーの種類など)に応じて適宜選択してもよく、例えば、エネルギー分散型X線分光法(EDXまたはEDS)、波長分散型X線分光法(WDX、WDSまたはEPMA)、X線光電子分光分析(XPSまたはESCA)、オージェ電子分光法(AES)、二次イオン質量分析法(SIMS)[飛行時間型二次イオン質量分析法(TOF-SIMS)など]などの慣用の方法が挙げられ、化学種を検出する方法としては、ラマン分光法、赤外分光法(IR)などの慣用の方法が挙げられ、通常、SEM-EDX(SEM-EDS)などのエネルギー分散型X線分光法がよく利用される。
【0099】
本開示の成形体は、凝集部の少なくとも界面近傍の周辺域において、界面(または界面方向)に向かって誘電体フィラー濃度が減少または漸減しているため、凝集部内の所定領域を元素分析すると、凝集部の少なくとも界面近傍(または周辺域)における誘電体フィラー構成元素の存在割合が低いことが確認できる。
【0100】
代表的な確認方法としては、例えば、まず、凝集部の中心部(凝集部内部のうち、隣接して凝集部を区画する非凝集部との界面から最も遠い部分)および前記凝集部と隣接する非凝集部との界面を厚み方向に沿って横断する成形体断面(または表面)において、凝集部を前記中心部から界面(または界面方向)に向かって3等分(中心部から界面までの距離が等間隔となるように3分割)する。分割した各領域を前記中心部から前記界面へ向かう順に、中央域(中央部、中心部近傍または第1の領域)、中間域(中間部、中間領域または第2の領域)、周辺域(周辺部、界面近傍または第3の領域)とする。これらの領域をそれぞれ元素分析して誘電体フィラーを構成する少なくとも1つの元素の存在割合を測定し、各領域の前記存在割合を比較することにより、周辺域における前記存在割合が少なくとも中間域における前記存在割合よりも低いことが確認できる。なお、前記存在割合は、原子の個数基準(頻度または強度)の割合であってもよいが、通常、原子の質量基準の割合である。本明細書および特許請求の範囲において、具体的な元素分析の方法としては、SEM-EDS(本体 日立ハイテクノロジーズ(株)製「SU5000」;SDD検出器 オックスフォード・インストゥルメンツ製「X-MaxN」)を利用できる。
【0101】
以下、
図2に基づいて、より具体的に説明する。
図2は、本開示の成形体、すなわち、厚み方向に誘電体フィラーが貫通した形態の凝集部1を有するフィルム(またはシート)状成形体の概略部分縦断面図である。すなわち、
図2は、成形体中の任意の凝集部1の中心部4(凝集部の面方向における中心で厚み方向に延びる中心軸)、および前記凝集部1に隣接する非凝集部2との界面3を通り(または横断し)、かつ成形体の厚み方向にほぼ平行な断面(または縦断面)を示している。
【0102】
図中、凝集部内において、前記中心部4から少なくとも一方の界面(図中、中心部4の左側の界面)3に至る(最短で至る)までの領域を、中心部4から界面3までの距離が等間隔となるよう凝集部の幅方向(横方向)に3分割する。分割した領域を前記中心部4側の領域から界面3に向かう順に、中央域1a、中間域1b、周辺域(または界面近傍)1cとする。各領域1a~1cにおいて、無作為に選択した複数(好ましくは3以上)の測定箇所で元素分析して、誘電体フィラー構成元素のうち少なくとも1つの元素の存在割合を測定箇所ごとに求める。得られた前記存在割合の平均値を算出し、測定箇所が属する前記各領域の存在割合として採用する。このようにして得られた前記各領域における誘電体フィラー構成元素の存在割合を比較することで、凝集部での誘電体フィラーの存在割合(濃度)が不均一であることが確認できる。
【0103】
より詳しくは、成形体断面(凝集部の中心部および界面を通る縦断面)の凝集部における誘電体フィラーの分布状態は、横軸を成形体断面における横方向(厚み方向に対して垂直な方向、または凝集部の幅方向)、縦軸を誘電体フィラー構成元素から選択された1つの元素の存在割合(誘電体フィラー濃度)とするグラフにより可視化してもよい。本開示の成形体では誘電体フィラーの移動により凝集部が形成されるためか、前記周辺域における前記存在割合(濃度)が、少なくとも前記中間域における前記存在割合(濃度)よりも低い。そのため、前記グラフ(横軸を一方の周辺域から中央域(または中心部)を通り、他方の周辺域に至るまでの区間としたグラフ)が示す形状(縦断面における凝集部の濃度分布)としては、山形状または正規分布状[中央域の存在割合が高く、周辺域(界面方向)にいくにつれて直線的または湾曲して連続的または段階的に低下する形状];台形状[中央域および中間域の存在割合がほぼ同程度に高く、周辺域にいくにつれて直線的または湾曲して連続的または段階的に低下する形状];カルデラ状[中間域の存在割合が高く、中央域および周辺域にいくにつれて直線的または湾曲して連続的または段階的に低下する形状]などが挙げられ、通常、山形状であることが多い。なお、前記グラフ形状(濃度分布)は、誘電体フィラー構成元素のうち少なくとも1つの元素について満たしていればよく、好ましくは複数の誘電体フィラー構成元素について、さらに好ましくは全ての誘電体フィラー構成元素について満たしていてもよい(以下に記載の存在割合の比についても同じ)。
【0104】
周辺域(第3の領域)における前記存在割合と中間域(第2の領域)における前記存在割合との比は、例えば、第3の領域/第2の領域(質量基準)=1/1.01~1/20(例えば1/1.05~1/15)程度の範囲から選択でき、例えば1/1.1~1/10(例えば1/1.15~1/8)、好ましくは1/1.2~1/7(例えば1/1.25~1/6)、さらに好ましくは1/1.5~1/5(例えば1/2~1/4、好ましくは1/2.5~1/3.5)程度であってもよい。
【0105】
また、周辺域(界面近傍または第3の領域)の前記存在割合は、中央域(第1の領域)の前記存在割合に比べて必ずしも低くなくてもよいが、通常、低いことが多い。そのため、第3の領域における前記存在割合と第1の領域における前記存在割合との比は、例えば、第3の領域/第1の領域(質量基準)=1/1.1~1/20(例えば1/1.2~1/15)程度の範囲から選択でき、好ましくは1/1.3~1/10(例えば1/1.5~1/8)、さらに好ましくは1/2~1/7(例えば1/3~1/6、好ましくは1/3.5~1/5.5)程度であってもよい。第2の領域における前記存在割合と第1の領域における前記存在割合との比は、例えば、第2の領域/第1の領域(質量基準)=1/0.1~1/5(例えば1/0.5~1/4)程度の範囲から選択でき、例えば、1/0.8~1/3(例えば1/1~1/2.5)、好ましくは1/1.1~1/2(例えば1/1.2~1/1.8)程度であってもよい。
【0106】
なお、SEM-EDXで測定する場合、前記存在割合は、誘電体フィラー構成元素から選択された1つの元素の存在比率であってもよく、誘電体フィラーを構成する全ての元素および樹脂を構成する炭素の存在比率の合計に対する誘電体フィラー構成元素から選択された1つの元素の存在比率の比であってもよい。また、元素分析に供する分析試料の調製方法は、前記存在割合の測定結果に影響を及ぼさない方法であれば特に制限されず、慣用の方法、例えば、成形体を切断して前記断面(または観察面)を切り出した後、所定の樹脂中に包埋して、精密研磨する方法などにより調製してもよく、分析方法などに応じて、さらに、樹脂および誘電体フィラーに含まれない元素を観察面に蒸着してもよい。
【0107】
また、上述の説明では、元素分析により誘電体フィラーの存在割合(濃度)の不均一性を確認する方法について説明したが、元素分析に代えて、前記化学種を分析する方法などのフィラーの濃度を検出(または確認)可能な方法を用いてもよい。
【0108】
なお、
図2では断面における領域について説明したが、誘電体フィラーが表面に貫通または露出した形態の凝集部を有する成形体であれば、前記断面に代えて、成形体表面で同様にして領域を設定し、誘電体フィラー構成元素の存在割合を比較してもよい。通常、断面で領域を設定することが多く、断面は任意の断面であってもよいが、厚み方向に対してほぼ平行な断面(縦断面)が好ましい。
【0109】
凝集部の中心部は、凝集部の形態に応じて適宜決定できる。凝集部は後述する製造方法(凝集工程)との関係から、通常、厚み方向または厚み方向に所定の角度をなす方向(好ましくは厚み方向)に延びて形成されることが多い。そのため、前記中心部は、成形体の横断面(厚み方向に対して垂直な断面)における凝集部(または凝集部エレメント)の中心[凝集部の横断面形状の重心または(線状である場合)幅方向の中心]を通り、凝集部が延びる方向(または厚み方向)に沿って延びる中心軸(または中心面)としてもよい。
【0110】
前記横断面における凝集部(または凝集部エレメント)の断面形状は特に制限されず、後述する凝集部の形状に対応する形状であってもよく、例えば、略円状、略楕円状、多角形状(三角形状、正方形状、長方形状など)、線状(直線状または曲線状)、渦巻状、不定形状などが挙げられる。
【0111】
本明細書および特許請求の範囲において、凝集部が、形状および/または方向が同一または異なる複数の凝集部エレメントで形成されている場合[例えば、複数の凝集部エレメントで複雑(または不規則)な形状(例えば、格子状など)の凝集部を形成している場合]、前記複雑形状の凝集部の中心部は、前記凝集部エレメントから選択される少なくとも1つの凝集部エレメントにおける中心部[凝集部エレメントの横断面形状の重心または(線状である場合)幅方向の中心]とすることができる。前記凝集部エレメントは、横断面形状が比較的単純な形状(例えば、上記例示の断面形状など)である場合が多く、凝集部エレメントの具体的な形状としては、例えば、ドット状[円柱状、四角柱状(または直方体状)などの多角柱状など]、線状(直線的または湾曲して延びる壁状)などであってもよい。
【0112】
代表的な前記複雑形状の凝集部としては、例えば、断面コ字状の凝集部[例えば、互いに対向する一対の直方体状エレメント(または所定長さの直線状エレメント)と、これらの一方の端部にそれぞれ接続し、前記一対の直方体状エレメントが対向する方向に延びる直方体状エレメントとで形成された凝集部など];断面ダンベル形状の凝集部(例えば、直方体状エレメントと、このエレメントの両端に接続する一対の円柱状エレメントとで形成された凝集部など);枠状凝集部(例えば、三角枠状凝集部、四角枠状凝集部などの所定領域を壁状の凝集部エレメントで区画した凝集部など);格子状凝集部(例えば、所定間隔をおいて互いに平行に延びる複数の第1の直線状エレメントと、この複数の第1の直線状エレメントと所定角度で交差し、かつ所定間隔をおいて互いに平行に延びる複数の第2の直線状エレメントとで形成された凝集部;ハニカム状または網目状凝集部など)などであってもよい。
【0113】
凝集部では誘電体フィラーが凝集されているため、成形体において、凝集部は、誘電体フィラーの機能を発現させる領域として機能する。そのため、成形体において、凝集部は、用途や目的に応じて、様々な形状および構造に形成されるが、本開示では、活性エネルギーを一部の領域に付与する簡便な方法で、複雑な形状および構造であっても容易に形成できる。
【0114】
凝集部の形状としては、特に限定されず、例えば、線状、柱状(または棒状)、球状、楕円体状、不定形状、面状などが挙げられる。また、凝集部の形状は、前記形状を組み合わせた形状(例えば、格子状など)であってもよく、前記断面形状に対応する形状であってもよい。これらの形状のうち、線状、柱状(円柱状、角柱状など)、面状、格子状、またはこれらの形状を組み合わせた形状がよく利用される。
【0115】
凝集部の形状は、前記形状から選択できるが、生産性が高く、対称性および均質性により成形体の機械的特性も向上できる点から、パターン状(パターンまたはパターン形状)に形成されていてもよい。パターン形状は、1つの凝集部(連続した単一の凝集部)が形成してもよく、通常、互いに分離した複数の凝集部が形成することが多い。パターンとしては、例えば、模様(幾何学的模様など)、柄、記号(またはマーク)、文字、絵、これらの2種以上の組み合わせなどであってもよく、このようなパターン形状により、成形体に意匠性を付与してもよい。代表的なパターンとしては、通常、フィルム状成形体の平面におけるパターンであってもよく、例えば、規則的または不規則的に配列されたドット状、平行にまたは非平行に所定の間隔(例えば、等間隔、互いに異なる間隔など)をおいて配列された直線または曲線状(ライン状)、格子状、井桁状、枠状、うず巻き状、これらの2種以上の組み合わせなどが挙げられる。規則的または不規則的に配列されたドット状凝集部の形状(または厚み方向に垂直な断面の形状)としては、正方形状などの多角形状、円状、星形状、不定形状、これらの2種以上の組み合わせなどが挙げられる。
【0116】
本開示の成形体は、連続した単一の凝集部(例えば、格子状パターンを形成する凝集部など)を有していてもよく、互いに分離した複数の凝集部を有していてもよい。これらのうち、凝集部による機能に異方性を付与し易く、かつ誘電体フィラーの割合を低減して成形体の機械的特性を向上させる観点から、複数の凝集部を有するのが好ましい。成形体が複数の凝集部を有する場合、各凝集部の形状は、同一の形状であってもよく、異なる形状であってもよい。本開示では、活性エネルギーの付与領域(重合領域または硬化領域)に対応する各種形状のマスクと、所定の形状に樹脂を成形するための三次元状の型とを組み合わせれば、様々な形状の凝集部を容易に形成することができ、各凝集部の形状が異なる成形体も容易に形成できる。生産性などの点からは、凝集部の形状が略同一である成形体が好ましい。なかでも、複数の凝集部がパターン形状を形成し、かつ前記複数の凝集部のうち少なくとも1つの凝集部が厚み方向に延びて横断(または貫通)した形態に形成されたフィルム状成形体(特に誘電フィルムまたはシート)であってもよい。また、凝集部(厚み方向の両端部)はシート状成形体の表面(特に、表面および裏面の双方)に露出していてもよい。
【0117】
なお、凝集部の幅や径などのサイズ(または厚み方向から見た凝集部の形状における最小幅)は特に制限されず、例えば1mm以上であってもよいが、本開示では比較的小さなサイズ(例えば1mm程度以下)の凝集部を形成できる。そのため、前記凝集部のサイズは0.01~500μm(例えば0.1~300μm)程度の範囲から選択でき、例えば1~200μm以下、好ましくは10~150μm程度であってもよい。
【0118】
本開示の成形体は、一次元状(例えば、繊維状)、二次元状(例えば、板状、シート状、フィルム状など)、三次元状成形体のいずれの形状であってもよい。これらのうち、二次元状がよく利用される。
【0119】
二次元状成形体の厚み(平均厚み)は、例えば0.1μm~1mm程度の範囲から選択でき、例えば0.5~500μm(例えば1~100μm)、好ましくは3~80μm(例えば5~50μm)、さらに好ましくは8~45μm(例えば10~40μm)程度であってもよく、なかでも、自立膜を形成する場合には、例えば5μm以上(例えば10~100μm)、好ましくは20μm以上(例えば25~70μm)、さらに好ましくは30~50μm程度であってもよい。
【0120】
[成形体の製造方法]
本開示の成形体の製造方法は、樹脂前駆体および誘電体フィラーを含む液状前駆体の一部の領域に活性エネルギーを付与して前記誘電体フィラーを凝集させる凝集工程を含む。凝集工程では、一部の領域に活性エネルギーが付与されることにより、樹脂前駆体が重合するととともに、成形体内部で均一に分散されていた誘電体フィラーは移動して液状前駆体内部の一部の領域に凝集する。誘電体フィラーが凝集する前記一部の領域は、活性エネルギーの付与されていない領域(未重合領域または未露光領域)、活性エネルギーの付与されている領域(重合領域または露光領域)のいずれかの領域である。本開示の方法では、配合の組み合わせや製造条件(特に、組み合わせる樹脂と誘電体フィラーの種類)を調整することにより、未重合領域、重合領域のいずれかに凝集させることができる。そのため、目的の凝集形態が決まれば、予め活性エネルギーの付与により、未重合領域、重合領域のいずれの領域に誘電体フィラーが移動する条件または組み合わせであるのか確認した後、未重合領域に移動する場合は目的の凝集形態に相当する領域以外の領域に活性エネルギーを付与し、逆に重合領域に移動する場合は目的の凝集形態に相当する領域に活性エネルギーを付与するだけで簡単に目的のパターンを形成できる。
【0121】
本開示において、誘電体フィラーがこのような挙動を示す詳細なメカニズムは不明であるが、活性エネルギーが付与された領域において、樹脂前駆体が重合して樹脂が生成するにつれて、樹脂成分[樹脂前駆体およびその重合体(硬化物)である樹脂]と誘電体フィラーとの親和性の関係に変化が生じるためであると推定できる。
【0122】
本開示では、このように凝集部を形成するため、フィラーを含む樹脂成形体でよく見られるボイド(樹脂/フィラー界面に生じるボイドなど)の発生が抑制できる。また、重合領域に誘電体フィラーを凝集させた場合、凝集部の厚みは、非凝集部の厚みよりも大きくてもよい。
【0123】
凝集工程において、樹脂前駆体は、樹脂の種類に応じて選択でき、樹脂が熱可塑性樹脂の場合、重合性化合物として熱可塑性樹脂を形成するための単量体(単官能重合性化合物)を含んでいてもよく、樹脂が硬化性樹脂の硬化物(3次元網目状構造を有する硬化物など)である場合、多官能性重合性化合物を含んでいてもよい。
【0124】
液状前駆体は、溶媒(または分散媒)を含んでいなくてもよく、必要に応じて、前記カチオン重合性化合物およびフィラー(および必要に応じて他の添加剤)に加えて、液状前駆体の粘度を低減するために溶媒をさらに含んでいてもよい。
【0125】
溶媒(または分散媒)としては、例えば、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなど)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサンなど)、脂環式炭化水素類(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素類(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭素類(ジクロロメタン、ジクロロエタンなど)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチルなどの酢酸エステル類など)、水、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなど)、セロソルブ類[メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル(1-メトキシ-2-プロパノール)など]、セロソルブアセテート類、スルホキシド類(ジメチルスルホキシドなど)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなど)、カーボネート類[例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート(または炭酸プロピレン)などの環状カーボネート類など]などが例示できる。また、溶媒は混合溶媒であってもよい。これらの溶媒のうち、2-プロパノールなどのアルコール類、炭酸プロピレンなどのカーボネート類、酢酸n-ブチルなどのエステル類などがよく利用される。
【0126】
溶媒の20℃における粘度は、例えば0.5~100mPa・s(例えば0.6~50mPa・s)、好ましくは0.5~20mPa・s(例えば0.7~10mPa・s)、さらに好ましくは0.5~5mPa・s(例えば1~3mPa・s)程度であってもよい。なお、粘度は、慣用の粘度計(単一円筒形回転粘度計など)を用いて測定できる。溶媒の粘度が高すぎると、液状前駆体の粘度を十分に低減できなくなる虞がある。
【0127】
溶媒を含む場合、その割合は、液状前駆体100質量部に対して、例えば300質量部以下(例えば1~200質量部)、好ましくは180質量部以下(例えば50~150質量部)、好ましくは130質量部以下(例えば80~120質量部)程度である。溶媒の量が少なすぎると液状前駆体の粘度を十分に低減できなくなる虞があり、多すぎると、厚みの大きな成形体を調製し難くなる虞がある。
【0128】
活性エネルギーを付与するための液状前駆体は、目的の形状に応じて、型内に充填してもよく、シート状またはフィルム状成形体の場合は塗布してもよい。塗布方法としては、慣用の方法、例えば、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、リバースコーター、バーコーター、コンマコーター、ディップ・スクイズコーター、ダイコーター、グラビアコーター、マイクログラビアコーター、シルクスクリーンコーター法、ディップ法、スプレー法、スピナー法などが挙げられる。
【0129】
活性エネルギーとしては、例えば、レーザーなどによる熱エネルギー、紫外線や電子線などの活性光線などが挙げられる。これらのうち、紫外線や電子線などの活性光線が好ましく、取扱性などの点から、紫外線が特に好ましい。
【0130】
活性エネルギーの付与方法は、活性エネルギーの種類に応じて、エネルギー源(熱源または光源)を選択できる。活性エネルギーが紫外線の場合、光源としては、例えば、紫外線の場合は、Deep UVランプ、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、ハロゲンランプ、レーザー光源(ヘリウム-カドミウムレーザー、エキシマレーザーなどの光源)などを利用できる。
【0131】
活性光線(光エネルギー)として紫外光を利用する場合、その照度は重合性化合物の種類や濃度などに応じて適宜選択してもよく、波長365nmにおける照度、例えば0.1~20mW/cm2(例えば1~18mW/cm2)、好ましくは0.3~15mW/cm2(例えば5~12mW/cm2)、さらに好ましくは0.6~10mW/cm2(例えば6~9.5mW/cm2)程度であってもよい。照射時間は、照度に応じて選択してもよく、例えば1~60分、好ましくは3~25分、さらに好ましくは5~15分程度であってもよい。
【0132】
凝集工程では、液状前駆体の一部の領域に活性エネルギーを付与することにより、付与した領域の樹脂前駆体の重合を開始できるとともに、活性エネルギーを付与していない部分または付与した部分に誘電体フィラーが移動することにより、凝集部と非凝集部とを形成できる。本工程において、樹脂前駆体の重合は完結していてもよく、後述する重合工程において、重合を完結させてもよい。
【0133】
液状前駆体(またはAステージ状前駆体)の一部の領域に活性エネルギーを付与する方法としては、活性エネルギーの種類に応じて適宜選択でき、例えば、熱エネルギーの場合、一部の領域にレーザー光などを照射してもよく、紫外線や電子線などの活性光線の場合、未硬化領域(または未重合領域)への活性光線を遮光できる領域を有するフォトマスクを利用して、一部の領域(硬化領域または重合領域)に活性光線を照射してもよい。
【0134】
シート状成形体を形成する場合、凝集工程において、塗膜などの平面状の液状前駆体に対して所定の角度で斜め方向に活性エネルギーを付与(または照射)してもよいが、通常、平面状の液状前駆体に対して略垂直な方向に照射するのが好ましい。略垂直に照射することにより、シート状成形体の厚み方向に誘電体フィラーを凝集または配向(規則的にまたはランダムに配向)させて、厚み方向(照射方向)に延びて形成され、誘電体フィラーが横断または貫通した形態(または表面で誘電体フィラーが露出した形態)の凝集部を容易に形成できる。
【0135】
本開示の成形体の製造方法は、前記凝集工程に加えて、凝集工程を経た前駆成形体(半固体状前駆成形体または固体状前駆成形体、あるいはBステージ状前駆成形体)の活性エネルギーを付与しなかった領域(未硬化領域または未重合領域)に活性エネルギーを付与して重合を完結させる重合完結工程をさらに含むのが好ましい。重合完結工程を経ることにより、活性エネルギーを付与しなかった領域の樹脂前駆体も重合して樹脂を形成できる。
【0136】
重合完結工程において、活性エネルギーを付与する領域は、凝集工程において活性化エネルギーを付与しなかった領域を含む領域であればよいが、簡便に操作でき、生産性に優れる上に、重合をさらに進行させて成形体の機械的特性を向上できる点から、全領域に活性エネルギーを付与する方法が好ましい。
【0137】
活性エネルギーとしては、凝集工程と同一の活性エネルギーを利用してもよく、通常、活性エネルギーを付与する条件を強くなる方向に変更してもよい。また、照度を段階的に挙げて照射してもよい。活性光線(光エネルギー)を利用する場合、照射時間が長すぎると、生産性が低下するおそれがある。
【0138】
また、樹脂がカチオン重合性化合物である形態では、重合完結工程において、熱エネルギーを付与(またはアニール処理)することにより、カチオン重合性化合物の暗反応(後重合)を利用して重合を完結させてもよい。アニール温度としては、例えば50~200℃(例えば70~180℃)、好ましくは80~150℃(例えば90~130℃)、さらに好ましくは100~120℃程度であってもよい。加熱時間としては、例えば10~120分、好ましくは30~60分程度であってもよい。
【0139】
なお、本開示では、液状前駆体を所定の基材に塗布などの方法で接触させた状態で、前記成形体を成形することにより、前記基材と成形体とが接合した接合体(複合成形体)を形成してもよい。
【0140】
基材の材質は特に制限されず、有機材料または無機材料のいずれであってもよい。
【0141】
有機材料としては、例えば、樹脂[例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂、ABS樹脂などのスチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂などのビニル系樹脂、ポリメチルメタクリレートなどの(メタ)アクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、セルロースエステル、セルロースエーテルなどのセルロース誘導体、熱可塑性エラストマーなど];合成ゴム材料(イソプレンゴム、ブチルゴムなど);樹脂またはゴムの発泡体(例えば、発泡ポリウレタン、発泡ポリクロロプレンゴムなど);植物又は動物由来の材料(木材、パルプ、天然ゴム、皮革、毛糸など)などが挙げられる。
【0142】
無機材料としては、例えば、セラミックス(ガラス、シリコン、セメントなど);金属[例えば、金属単体(アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、亜鉛、クロム、チタンなど)、これらの金属を含む合金(アルミニウム合金、鋼(ステンレス鋼など)など)など]などが挙げられる。
【0143】
これらの材質のうち、樹脂(例えば、ポリエステル系樹脂、ポリイミド樹脂など、好ましくはポリイミド樹脂など)、セラミックス(ガラスなど)、金属(銅など)がよく利用される。
【0144】
また、基材の形態(形状)は特に制限されず、例えば、繊維状(糸状、ロープ状、ワイヤー状など)などの一次元形状、板状、シート状、フィルム状、箔状、布又はクロス状(織布、編布、不織布など)、紙状(上質紙、グラシン紙、クラフト紙、和紙など)などの二次元形状、塊状、ブロック状、棒状(円柱状、多角柱状など)、管状などの3次元形状などが挙げられる。
【0145】
これらの形態のうち、板状、シート状、フィルム状、箔状などの2次元形状であることが多い。
【0146】
なお、本明細書に開示された各々の態様は、本明細書に開示された他のいかなる特徴とも組み合わせることができる。
【実施例】
【0147】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。用いた原料は以下の通りであり、得られた積層体を以下の方法で評価した。
【0148】
[原料]
(カチオン重合性化合物)
NPG:ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、四日市合成(株)製「エポゴーセー(登録商標)NPG(D)」、粘度8mPa・s(25℃、カタログ値)
EP1:CEL2021P:3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(3,4-エポキシ)シクロヘキサンカルボキシレート、(株)ダイセル製「セロキサイド2021P」、粘度240mPa・s(25℃)
EP2:(3,4,3’,4’-ジエポキシ)ビシクロヘキシル、粘度60mPa・s(25℃)
(誘電体フィラー)
BaTiO3:チタン酸バリウム微粒子、(株)関東化学製、particle size 約100nm
(開始剤)
CPI-100P:光カチオン重合開始剤、サンアプロ(株)製「CPI(登録商標)-100P」。
【0149】
[使用した冶具および装置]
(基材)
未処理ガラス:厚み1mm、松浪硝子(株)製「S9112」。
【0150】
(マスク)
図3~4に示すパターン形状を有する以下のフォトマスク(No.1~7)
No.1:スクエアまたはスクエアドット、250μm×250μmサイズの正方形状遮光部が250μm間隔で縦横に規則的に配列したフォトマスク(東京プロセスサービス(株)製 5インチ ガラスマスク)
No.2:スクエアまたはスクエアドット、50μm×50μmサイズの正方形状遮光部が150μm間隔で縦横に規則的に配列したフォトマスク(東京プロセスサービス(株)製 5インチ ガラスマスク)
No.3:スクエアまたはスクエアドット、100μm×100μmサイズの正方形状遮光部が100μm間隔で縦横に規則的に配列したフォトマスク(東京プロセスサービス(株)製 5インチ ガラスマスク)
No.4:スクエアまたはスクエアドット、50μm×50μmサイズの正方形状遮光部が50μm間隔で縦横に規則的に配列したフォトマスク(東京プロセスサービス(株)製 5インチ ガラスマスク)
No.5:ラインまたはラインアンドスペース(L/S)、幅100μmのライン状遮光部が100μm間隔で規則的に配列したフォトマスク(東京プロセスサービス(株)製 5インチ ガラスマスク)
No.6:格子状、100μm×100μmサイズの正方形状透光部が100μm間隔で縦横に規則的に配列したフォトマスク(東京プロセスサービス(株)製 5インチ ガラスマスク)
No.7:スクエアまたはスクエアドット、100μm×100μmサイズの正方形状遮光部が市松模様状に規則的に配列したフォトマスク(東京プロセスサービス(株)製 5インチ ガラスマスク)。
【0151】
(装置)
バーコーター:第一理科(株)製 8φ×300mm
スポットUV装置:浜松ホトニクス(株)製「LC8」
デジタルマイクロスコープ:(株)ハイロックス製「KH-8700」
【0152】
[評価方法]
(硬化性)
以下の基準に従って得られたフィルムの硬化性を評価した。
【0153】
○…UV照射(2または3段目)後全体硬化
△…UV照射(2または3段目)後に完全には硬化せず、アニール後全体硬化
×…アニール後も全体硬化せず。
【0154】
(フィラー制御性)
デジタルマイクロスコープによるCCD観察像から、得られたフィルムにおける誘電体フィラーの制御性について、以下の基準に従って相対的に評価した。
【0155】
◎…非凝集部へのフィラー残留量 小
○…非凝集部へのフィラー残留量 中
△…非凝集部へのフィラー残留量 大
×…マスクパターンの転写無し。
【0156】
(誘電率)
前処理工程として、誘電率を測定するフィルムに、イオンスパッタ装置((株)日立ハイテク製「MC1000」)で中心が同じになるように両面に、直径40mmの円形状で白金を蒸着させた。前処理したフィルムについて、以下の条件で誘電率(比誘電率)を測定し、対応する比較例に対する相対値を増加度とした。
規格:JIS C2138に準拠
誘電率測定装置:Cencept42(Novocontrol Technologies社製)
温湿度:23℃、50%RH
電極形状:ガードリングなしの円形電極(直径40mm)
電極配置:試験片の中心と電極の中心とを合わせて配置
試験電圧:1.0V
試験周波数:10Hz~1MHz。
(柔軟性)
得られたコーティング層を有するフィルムを直径5mmのガラス棒に巻き付けて、柔軟性を評価し、割れなかったものを「〇」とした。
【0157】
[比較例1~2]
表1に記載の割合で各成分を混合攪拌し、カチオン重合性化合物、誘電体フィラーおよび開始剤を含む液状前駆体を調製した。調製した液状前駆体を、バーコーターを用いてガラス基材上に塗工し、塗膜を形成した。得られた塗膜に対して、スポットUV装置を用い、表1に記載の条件(照度、照射時間)で、マスクを介することなく、紫外光(波長365nm)を照射した後、さらに照度を上げてマスクを介することなく、紫外光を照射し、表1に記載の膜厚のコーティング層を有するフィルムを調製した。
【0158】
[実施例1~4]
表1に記載の割合で各成分を混合攪拌し、カチオン重合性化合物、誘電体フィラーおよび開始剤を含む液状前駆体を調製した。調製した液状前駆体を、バーコーターを用いてガラス基材上に塗工し、塗膜を形成した。得られた塗膜に対して、スポットUV装置を用い、表1に記載の条件(照度、照射時間)で、マスクを介して紫外光(波長365nm)を照射した後(1段目)、次いでマスクを介することなく紫外光を速やかに照射し(2段目)、表1に記載の膜厚のコーティング層を有するフィルムを調製した。
【0159】
[実施例5~18]
表1に記載の割合で各成分を混合攪拌し、カチオン重合性化合物、誘電体フィラーおよび開始剤を含む液状前駆体を調製した。調製した液状前駆体を、バーコーターを用いてガラス基材上に塗工し、塗膜を形成した。得られた塗膜に対して、スポットUV装置を用い、表1に記載の条件(照度、照射時間)で、マスクを介して紫外光(波長365nm)を照射した後(1段目)、次いでマスクを介することなく紫外光を速やかに照射し(2段目)、さらに照度を上げてマスクを介することなく紫外光を照射し(3段目)、表1に記載の膜厚のコーティング層を有するフィルムを調製した。
【0160】
比較例1~2および実施例1~18で得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0161】
また、得られたフィルムのCCD写真を
図5~24に示す。なお、表面観察像では、透過光による観察のため、フィラー凝集部は黒色(暗色)で示される。
【0162】
【0163】
表1の結果から明らかなように、実施例のフィルムは、硬化性に優れ、誘電体フィラーも十分に制御されていた。
【0164】
[比較例3]
表2に記載の割合で各成分を混合攪拌し、カチオン重合性化合物および開始剤を含む液状前駆体を調製した。調製した液状前駆体を、バーコーターを用いてガラス基材上に塗工し、塗膜を形成した。得られた塗膜に対して、スポットUV装置を用い、表2に記載の条件(照度、照射時間)で、マスクを介することなく、紫外光(波長365nm)を照射し、表2に記載の膜厚のコーティング層を有するフィルムを調製した。
【0165】
[比較例4~7]
表2に記載の割合で各成分を混合攪拌し、カチオン重合性化合物、誘電体フィラーおよび開始剤を含む液状前駆体を調製した。調製した液状前駆体を、バーコーターを用いてガラス基材上に塗工し、塗膜を形成した。得られた塗膜に対して、スポットUV装置を用い、表2に記載の条件(照度、照射時間)で、マスクを介することなく、紫外光(波長365nm)を照射した後、さらに照度を上げてマスクを介することなく、紫外光を照射し、表2に記載の膜厚のコーティング層を有するフィルムを調製した。
【0166】
[実施例19~29]
表2に記載の割合で各成分を混合攪拌し、カチオン重合性化合物、誘電体フィラーおよび開始剤を含む液状前駆体を調製した。調製した液状前駆体を、バーコーターを用いてガラス基材上に塗工し、塗膜を形成した。得られた塗膜に対して、スポットUV装置を用い、表2に記載の条件(照度、照射時間)で、マスクを介して紫外光(波長365nm)を照射した後(1段目)、次いでマスクを介することなく紫外光を速やかに照射し(2段目)、さらに照度を上げてマスクを介することなく紫外光を照射し(3段目)、表2に記載の膜厚のコーティング層を有するフィルムを調製した。
【0167】
比較例3~7および実施例19~29で得られたフィルムの評価結果を表2に示す。また、得られたフィルムのCCD写真を
図25~39に示す。
【表2】
【0168】
表2の結果から明らかなように、実施例のフィルムは、硬化性に優れ、誘電体フィラーも十分に制御され、誘電率も向上した。比誘電率については、比較例に対する相対値を示しているが、実施例では、比較例よりも20%以上も比誘電率が増加した。さらに、実施例で得られた誘電体フィルムは、直径5mmのガラス棒に巻き付けても、割れず、柔軟性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0169】
本開示の成形体は、各種の電気・電子機器、輸送機器などに利用される誘電体として利用でき、特に、コンデンサ(キャパシタ)、レジスタ、インダクタなどの受動素子部品として利用される誘電体として好適である。なかでも、フィルム状成形体は、柔軟性にも優れているため、誘電フィルム(高誘電率絶縁フィルム)として好適であり、家電機器や車載電子機器、産業機器、パワーエレクトロニクス機器などのフィルムコンデンサとして特に好適である。
【符号の説明】
【0170】
1…凝集部
1a…中央域(中央部、中心部近傍または第1の領域)
1b…中間域(中間部、中間領域または第2の領域)
1c…周辺域(周辺部、界面近傍または第3の領域)
2…非凝集部
3…界面
4…凝集部の中心部