(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】水中ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 13/08 20060101AFI20250203BHJP
【FI】
F04D13/08 B
(21)【出願番号】P 2022103010
(22)【出願日】2022-06-27
【審査請求日】2024-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000143961
【氏名又は名称】株式会社桜川ポンプ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】下村 通生
(72)【発明者】
【氏名】春田 真吾
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-164696(JP,A)
【文献】特開2021-055656(JP,A)
【文献】特開2017-142019(JP,A)
【文献】特開2017-072402(JP,A)
【文献】特開2021-099084(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ軸が鉛直方向に向けて設置される縦型水中ポンプであって、
前記モータ軸を有するモータが収容されたモータ室と、
前記モータ軸に取り付けられた羽根車を収容するポンプ室と、
前記モータ室と前記ポンプ室との間に設けられ、前記モータ軸を軸封する軸封装置と、
前記モータ室と前記ポンプ室との間に配設され、前記軸封装置
及び潤滑油を収容
するオイル室と、
前記軸封装置から前記モータ室側へ漏れ出た液体が順次流入して貯留されるように設けられた複数の漏液溜部を有する浸水溜室と、
前記複数の漏液溜部の其々に設けられ、前記複数の漏液溜部の其々において流入した液体を検知する其々の浸水検知器と、
を備え
、
前記浸水溜室は、前記軸封装置の上部に嵌合されて前記モータ軸を囲む環状溝部を備え、
前記複数の漏液溜部は、其々、前記環状溝部に設けられた流入口を介して前記環状溝部に連通して設けられるとともに、横並びで配置されている、
前記縦型水中ポンプ。
【請求項2】
前記複数の漏液溜部の間に越流壁が介在され
、
前記越流壁は、前記環状溝部の底面から隆起して前記流入口を囲むように形成されている、請求項1に記載の
縦型水中ポンプ。
【請求項3】
前記複数の漏液溜部の其々に設けられている浸水検知器が、互いに同じ高さ位置に配置されている、請求項1又は2に記載の縦型水中ポンプ。
【請求項4】
モータ軸が鉛直方向に向けて設置される縦型水中ポンプであって、
前記モータ軸を有するモータが収容されたモータ室と、
前記モータ軸に取り付けられた羽根車を収容するポンプ室と、
前記モータ室と前記ポンプ室との間に設けられ、前記モータ軸を軸封する軸封装置と、
前記モータ室と前記ポンプ室との間に配設され、前記軸封装置及び潤滑油を収容するオイル室と、
前記軸封装置から前記モータ室側へ漏れ出た液体が順次流入して貯留されるように設けられた複数の漏液溜部を有する浸水溜室と、
前記複数の漏液溜部の其々に設けられ、前記複数の漏液溜部の其々において流入した液体を検知する其々の浸水検知器と、
を備え、
前記浸水溜室は、
前記モータ軸を囲むドーナツ形の凹部を有し、前記軸封装置の上部に嵌合され、前記凹部内に設けられた越流壁によって前記複数の漏液溜部が仕切られ
、其々の漏液溜部が水平方向に連設されている、
前記縦型水中ポンプ。
【請求項5】
前記越流壁が複数設けられ、3つ以上の前記漏液溜部を有する、請求項
4に記載の
縦型水中ポンプ。
【請求項6】
前記複数の越流壁は、互いの高さが異なる、請求項5に記載の
縦型水中ポンプ。
【請求項7】
前記複数の漏液溜部は、互いに離間配置され、流路によって互いに接続されている、請求項1
又は4に記載の
縦型水中ポンプ。
【請求項8】
前記複数の漏液溜部は、前記モータ軸を中心とする半径方向に連設されている、請求項4に記載の
縦型水中ポンプ。
【請求項9】
前記複数の漏液溜部は、前記モータ軸の軸線周りの周方向に連設されている、請求項1
又は4に記載の
縦型水中ポンプ。
【請求項10】
前記浸水検知器の検知信号を検出する検出回路を更に備え、
前記検出回路は、前記浸水検知器の各々を並列接続する並列回路と、前記並列回路内で前記各々の浸水検知器に直列接続された既知抵抗値の抵抗と、水中ポンプの外部に配設されて前記並列回路の両端の電気特性を測定する測定部と、を備える、
請求項1
又は4に記載の
縦型水中ポンプ。
【請求項11】
前記浸水検知器の検知信号を検出する検出回路を更に備え、
前記検出回路は、前記浸水検知器の各々を並列接続する並列回路と、前記並列回路内で最後段の浸水検知器以外の各々の浸水検知器に直列接続された既知抵抗値の抵抗と、水中ポンプの外部に配設されて前記並列回路の両端の電気特性を測定する測定部と、を備える、
請求項1
又は4に記載の
縦型水中ポンプ。
【請求項12】
二つ以上の前記浸水検知器の其々が其々の前記漏液溜部において浸水を検知するまでの時間と、浸水した其々の前記漏液溜部の既知容積とから、水中ポンプの運転時間と漏液溜部の容積と
の関係の近似関数を演算し、前記近似関数に基づいて次の浸水検知器が浸水を検知する迄の予測時間を算出する検知予測回路を、更に備える、請求項1
又は4に記載の
縦型水中ポンプ。
【請求項13】
前記検知予測回路は、最後段の前記浸水検知器が浸水を検知する予測時間を算出する、請求項12に記載の
縦型水中ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚水処理や土木分野等で用いられる水中ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の水中ポンプとして、例えば
図25に示すように、モータ軸2aを有するモータ2が収容されたモータ室3と、モータ軸2aに取り付けられた羽根車4を収容するポンプ室5と、モータ室3とポンプ室5との間に設けられ、モータ軸2aを軸封する軸封装置6と軸封油Lを収容するオイル室7と、オイル室7とモータ室3との間に設けられ、軸封装置6から漏れ出た液体(軸封油、水、それらの混合液)を溜める浸水溜室8と、軸封装置6から浸水溜室8内に侵入した液体を2段階で検知する2つの浸水検知器9a、9bと、を備える水中ポンプ1が知られている(特許文献1等)。
【0003】
軸封装置6は、ポンプ室5からモータ室3側への浸水を防ぐものであるが、摺動部品である軸封装置6の経年劣化等によって軸封装置6からモータ室3側へ浸水した場合に、軸封装置6からの浸水による液漏れを浸水溜室8に貯留し、貯留した液体を上下の浸水検知器9a、9bによって2段階で検出することができる。
図25において、下部の浸水検知器9aは電極棒で構成され、上部の浸水検知器9bはフロートスイッチで構成されている。フロートスイッチは浸水溜室8内に侵入した液体の液面レベルを検出し、電極棒は、絶縁抵抗を測定することにより、導電性である水の侵入を検出する。
【0004】
上下2段の浸水検知器9a、9bを設けることにより、下段の浸水検知器9aが浸水を検出した時点で軸封装置6の交換準備をしておき、上段の浸水検知器9bが浸水を検出した時点で直ちに水中ポンプを停止させて軸封装置6の交換作業を開始することができるため、軸封装置6を迅速に交換し、水中ポンプ1の停止時間を出来るだけ短くすることができる(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の水中ポンプは、浸水検知器を上下2段で検知するために、浸水溜室の高さ方向のスペースが必要となり、浸水溜室を高さ方向に長くする必要があるため、水中ポンプが嵩高になる。
【0007】
また、2段階のみの浸水検知の場合、変化する浸水速度を検出することができず、警告と停止のみであり、警告から停止までの時間が短いと、部品交換の準備等が間に合わず、水中ポンプを長期間可動できない場合がある。
【0008】
さらに、複数の浸水検知器を設けると、浸水検知器毎に信号を送る配線が必要となり、ポンプケーブルが太く、コスト高になり、更に取り回し性が悪く、作業性が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る水中ポンプの一態様は、モータ軸を有するモータが収容されたモータ室と、前記モータ軸に取り付けられた羽根車を収容するポンプ室と、前記モータ室と前記ポンプ室との間に設けられ、前記モータ軸を軸封する軸封装置と、前記モータ室と前記ポンプ室との間に配設され、前記軸封装置の潤滑油を収容するためのオイル室と、前記軸封装置から前記モータ室側へ漏れ出た液体が順次流入して貯留されるように設けられた複数の漏液溜部を有する浸水溜室と、前記複数の漏液溜部の其々に設けられ、前記複数の漏液溜部の其々において流入した液体を検知する其々の浸水検知器と、を備える。
【0010】
前記複数の漏液溜部の間に越流壁が介在され得る。
【0011】
前記浸水溜り室は、前記モータ軸を囲む環状溝部を備え、前記環状溝部に前記複数の漏液溜部が連通して設けられ得る。
【0012】
前記浸水溜室は、前記越流壁によって仕切られることにより、前記複数の漏液溜部が形成され得る。
【0013】
前記越流壁が複数設けられ、3つ以上の前記漏液溜部を有し得る。
【0014】
前記複数の越流壁は、互いの高さが異なり得る。
【0015】
前記複数の漏液溜部は、互いに離間配置され、流路によって互いに接続され得る。
【0016】
前記複数の漏液溜部は、前記モータ軸を中心とする半径方向に連設され得る。
【0017】
前記複数の漏液溜部は、前記モータ軸の軸線周りの周方向に連設され得る。
【0018】
前記水中ポンプは、前記浸水検知器の検知信号を検出する検出回路を更に備え、前記検出回路は、前記浸水検知器の各々を並列接続する並列回路と、前記並列回路内で前記各々の浸水検知器に直列接続された既知抵抗値の抵抗と、水中ポンプの外部に配設されて前記並列回路の両端の電気特性を測定する測定部と、を備えることができる。
【0019】
前記水中ポンプは、前記浸水検知器の検知信号を検出する検出回路を更に備え、前記検出回路は、前記浸水検知器の各々を並列接続する並列回路と、前記並列回路内で最後段の浸水検知器以外の各々の浸水検知器に直列接続された既知抵抗値の抵抗と、水中ポンプの外部に配設されて前記並列回路の両端の電気特性を測定する測定部と、を備えることができる。
【0020】
前記水中ポンプは、二つ以上の前記浸水検知器の其々が其々の前記漏液溜部において浸水を検知するまでの時間と、浸水した其々の前記漏液溜部の既知容積とから、水中ポンプの運転時間と漏液溜部の容積と関係の近似関数を演算し、前記近似関数に基づいて次の浸水検知器が浸水を検知する迄の予測時間を算出する検知予測回路を、更に備えることができる。
【0021】
前記検知予測回路は、最後段の前記浸水検知器が浸水を検知する予測時間を算出することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、浸水溜室に、軸封装置からモータ室側へ漏れ出た液体が順次流入して貯留されるように連設された複数の漏液溜部を備え、各漏液溜室に浸水検知器を設けることにより、浸水溜室の高さ方向の寸法を抑えることができ、水中ポンプの高さ寸法を抑えることができる。
【0023】
また、本発明によれば、上記構成の検知予測回路により、浸水検知器が検知する時刻を予測することができる。
【0024】
また、本発明によれば、上記構成の検出回路により、浸水検知器の配線をコモン配線として、水中ポンプから引き出すポンプケーブル内の配線数を少なくし、ポンプケーブルを細くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明に係る水中ポンプの第1実施形態を示す正面図である。
【
図3】
図1の水中ポンプの縦断面図であって、
図4のA-A線に沿う展開縦断面図である。
【
図6】
図1の水中ポンプの構成要素である浸水溜室の拡大縦断面図であって、
図4及び
図7のA-A線に沿う拡大縦断面図である。
【
図9】
図8の浸水溜室を異なる方向から視た斜視図である。
【
図10】本発明に係る水中ポンプの第2実施形態を示す中央縦断面図である。
【
図13】本発明に係る水中ポンプの浸水検知信号を検出するための回路図である。
【
図14】本発明に係る水中ポンプの他の実施形態の浸水検知回路図である。
【
図15】本発明に係る水中ポンプによる浸水検知器の検知時間と、浸水溜室内の漏液溜部の容積との関係をプロットしたグラフである。
【
図16】本発明に係る水中ポンプによる浸水検知器の検知時間と、浸水溜室内の漏液溜部の容積との関係をプロットしたグラフである。
【
図17】本発明に係る水中ポンプの変更態様を示す部分拡大縦断面図であって、
図18のB-B視断面に対応する部分拡大断面図である。
【
図19】本発明に係る水中ポンプの第3実施形態を示す部分拡大縦断面図であって、
図20のB-B視断面に対応する部分拡大断面図である。
【
図21】本発明に係る水中ポンプの第4実施形態を示す部分拡大縦断面図であって、
図22のB-B視断面に対応する部分拡大断面図である。
【
図23】本発明に係る水中ポンプの第5実施形態を示す部分拡大縦断面図であって、
図24のB-B視断面に対応する部分拡大縦断面図である。
【
図25】従来の水中ポンプを示す中央縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明に係る水中ポンプの実施形態について、以下に
図1~
図24を参照して説明する。なお、従来技術を含め、全図及び全実施例を通じて同一又は類似の構成要素については、同符号を付した。
【0027】
先ず、本発明の第1実施形態に係る水中ポンプについて、
図1~
図9を参照して説明する。本発明の第1実施形態に係る水中ポンプ1は、モータ軸2aを有するモータ2が収容されたモータ室3と、モータ軸2aに取り付けられた羽根車4を収容するポンプ室5と、モータ室3とポンプ室5との間に設けられてモータ軸2aを軸封する軸封装置6と、モータ室3とポンプ室5との間に配設されて軸封装置6の潤滑油Lを収容するオイル室7と、軸封装置6からモータ室3側へ漏れ出た液体が順次流入して貯留されるように設けられた複数の漏液溜部8a、8bを有する浸水溜室8と、複数の漏液溜部8a、8bの其々において流入した液体を検知する浸水検知器9a、9bと、を備えている。
【0028】
水中ポンプ1は、モータ軸2aが鉛直方向に向けて設置される、縦型水中ポンプである。モータ軸2aに回転子2bが固定され、モータ室3の内側に固定子2cが固定されている。
【0029】
水中ポンプ1のケーシング10は、
図3を参照して、複数のケーシングセグメント10a、10b、10c、10d、10eが上下方向に接続されて構成されている。水中ポンプ1の最下部はストレーナ11が接続されている。ケーシングセグメント10aは、羽根車4を収容している。ケーシングセグメント10bには、モータ軸2aを囲むようにしてオイル室7が設けられ、オイル室7内に、軸封装置(メカニカルシール)6が収容され、潤滑油が貯留されている。
【0030】
ケーシングセグメント10bのオイル室7内に、浸水溜室8が収容されている。ケーシングセグメント10cは、モータ軸2aを受けるベアリング16を支持して収容している。ケーシングセグメント10bのオイル室7は、ケーシングセグメント10cによって閉じられている。
【0031】
浸水溜室8は、軸封装置6の上部に嵌合されてモータ軸2aを囲む環状溝部8cと、環状溝部8cに連通する複数の漏液溜部8a、8bを備えている。環状溝部8cは、その内周部が、シールパッキンを介して液密状に軸封装置6の上部に嵌合している。漏液溜部8aは、環状溝部8cの底面に開口する流入口8a1を介して連通している。一方、漏液溜部8bは、環状溝部8cの底面から隆起する越流壁8b1に囲まれた流入口8b2を介して環状溝部8cに連通している。
【0032】
漏液溜部8a、8bは、環状溝部8cの周方向に離間して配置されているが、連結して一体的に構成とすることもできる。また、図示しないが、流入口8b2を環状溝部8cの外周壁8c1に開口させて、流入口8b2を流入口8a1より高い位置に設けることにより、越流壁を省くこともできる。
【0033】
このように漏液溜部8a,8bを横並びで配置することにより、浸水検知器9a、9bが同じ高さ位置でも二段検知が可能となり、従来に比して水中ポンプ1の高さ寸法を小さくするとことができる。
【0034】
軸封装置6が劣化等することにより、ポンプ室5からオイル室7側に浸水し、次いで、オイル室7側からモータ室3側へ、モータ軸2aに沿って浸水する。モータ軸2aに沿って侵入した液体は、環状溝部8cに流入し、漏液溜部8aに流入する。環状溝部8cへ流入する液体は、流入当初は、越流壁8b1があるため漏液溜部8bには流入しない。漏液溜部8aが満水となり、環状溝部8cへ流入する液体の水位が越流壁8b1を越えると、漏液溜部8bに液体が流入し始める。
【0035】
このように、漏液溜部8bが満水になってから漏液溜部8bに液体が流入するため、漏液溜部8aの浸水検知器9aが浸水を検知してから、時間差をおいて炉液溜部8bの浸水検知器9bが浸水を検知する。
【0036】
上記構成の水中ポンプ1によれば、軸封装置6からモータ室3側へ漏れ出た液体が順次流入する漏液溜部8a、8bに浸水検知器9a、9bを設けることより、従来のように上下に浸水検知器を設ける場合に比較して、高さ方向の寸法を小さくすることが可能となり、水中ポンプ1を小型化することができる。
【0037】
次に、本発明の第2実施形態に係る水中ポンプ1について、
図10~
図12を参照して説明する。
第2実施形態に係る水中ポンプ1は、上記第1実施形態と同様に、モータ軸2aを有するモータ2が収容されたモータ室3と、モータ軸2aに取り付けられた羽根車4を収容するポンプ室5と、モータ室3とポンプ室5との間に設けられてモータ軸2aを軸封する軸封装置6と、モータ室3とポンプ室5との間に配設されて軸封装置6の潤滑油を収容するオイル室7と、軸封装置6からモータ室3側へ漏れ出た液体が順次流入して貯留されるように設けられた複数の漏液溜部8a、8bを有する浸水溜室8と、複数の漏液溜部8a、8bの其々において流入した液体を検知する浸水検知器9a、9bと、を備えている。
【0038】
水中ポンプ1のケーシング10は、複数のケーシングセグメント10a、10b、10c、10d、10eが上下方向に接続されて構成されている。水中ポンプ1の最下部はストレーナ11が接続されている。ケーシングセグメント10aは、羽根車4を収容している。ケーシングセグメント10aとケーシングセグメント10bとの間は、プレート12によって仕切られている。ケーシングセグメント10bは、蓋板13で閉じられたオイル室7内に、軸封装置(メカニカルシール)6が設けられ、潤滑油が貯留されている。ケーシングセグメント10bには、浸水溜室8を形成する凹部が形成されている。ケーシングセグメント10cは、モータ軸2aを受けるベアリング16を支持して収容し、ベアリング16の上下が蓋板17、18によって閉じられている。
【0039】
軸封装置6が劣化等することにより、ポンプ室5からオイル室7側に浸水し、次いで、オイル室7側からモータ室3側へ、モータ軸2aに沿って浸水する。ケーシングセグメント10bと蓋板18との間には隙間が形成されており、その隙間を介して、オイル室7側からモータ室3側へ、軸封装置6から漏れ出た液体(ポンプ室5の水とオイル室7の潤滑油の混合液)が浸水溜室8に流入する。
【0040】
浸水溜室8は、モータ軸2aを囲むドーナツ形を有し、軸封装置6の上部にシーリングを介して液密状に嵌合されており、モータ軸2aを中心とする同心円状の越流壁8sによって2つの漏液溜部8aと漏液溜部8bとに仕切られている。複数の漏液溜部8a、8bは、水平方向に連設されるとともに、モータ軸2aを中心とする半径方向に連設されている。漏液溜部8a、8bの底面高さ位置は、同じ高さ位置とされ得る。浸水溜室8に流入した液体は、モータ軸2aに近い側、即ち上流側の漏液溜部8aに流入し、浸水量が増えて漏液溜部8aの液面が上昇すると、越流壁8sをオーバーフローして、モータ軸2aから遠い側即ち下流側の漏液溜部8bに流入する。上流側の漏液溜部8aへの液体の侵入を浸水検知器9aが検知し、次いで、下流側の漏液溜部8bへの液体の侵入を浸水検知器9bが検知する。浸水検知器9a、9bは、好ましくはフロートスイッチであるが、浸水溜室8への液体の流入を検知可能な他の浸水検知器を用いることもできる。
【0041】
軸封装置6が劣化等することにより、ポンプ室5からオイル室7側に浸水し、次いで、オイル室7側からモータ室3側へ、モータ軸2aに沿って浸水する。ケーシングセグメント10bと蓋板18との間には隙間が形成されており、その隙間を介して、オイル室7側からモータ室3側へ、軸封装置6から漏れ出た液体(ポンプ室5の水とオイル室7の潤滑油の混合液)が浸水溜室8に流入する。
【0042】
上記第2実施形態のように水平方向に連設された漏液溜部8a、8bに設けた浸水検知器9a、9bにより2段階で浸水を検知することより、従来のように上下に浸水検知器を設ける場合に比較して、高さ方向の寸法を小さくすることが可能となり、水中ポンプ1を小型化することができる。
【0043】
図13は、上記第1実施形態及び第2実施形態における浸水検知器9a、9bの検出回路19を示す回路図を示している。浸水検知器9a、9bとして、フロートスイッチを用いている。浸水検知器9a、9bが並列接続されるとともに、各々の浸水検知器9a、9bのうち、モータ軸2aに近い前段(上流側)の浸水検知器9aに既知抵抗値の抵抗R1が直列接続され、後段の浸水検知器9bには抵抗が接続されていない。浸水検知器9a、9bが並列接続された並列回路19aの両端の電気特性を測定する測定部19bが設けられている。測定部19bは、水中ポンプ1の外部に設置される制御盤24に設けられている。
【0044】
測定部19bは、例えば、検出回路19に定電流を流す定電流回路と、並列回路19aの両端間の抵抗値を測定する抵抗測定回路とを備えることができる。浸水検知器9aのフロートスイッチがオンした場合と、浸水検知器9a、9bの両方のフロートスイッチがオンした場合とで、測定部19bにより測定される並列回路19aの両端間の抵抗値が異なるため、その抵抗値により浸水検知器9a、9bのフロートスイッチのオンオフ状態を判別できる。既知抵抗R1の抵抗値rの場合、浸水検知器9aがオンすると、並列回路19aの両端間の抵抗値はrとなり、両方の浸水検知器9a、9bがオンすると、並列回路19aの両端間の抵抗値はゼロに近い値となる。
【0045】
浸水検知器9aに続いて浸水検知器9bが浸水を検知してオンになった場合、測定部19bからオン信号(ゼロに近い抵抗値)を制御部20が受け取り、水中ポンプ1の駆動電流を制御する制御部20によりマグネットスイッチ21がオフとなり、水中ポンプ1への給電が遮断され、水中ポンプ1が停止するように構成され得る。最後段(最下流側)の浸水検知器9bがオンになった信号を確実に拾うために、並列回路19aの両端間の抵抗値がゼロに近い値を示すことで、浸水検知器9aのみがオンの場合と両方の浸水検知器9a、9bがオンの場合とで、検出した抵抗値の差が最大ととなり、検出精度が高くなるため好ましい。もちろん、並列接続された全ての浸水検知器に既知抵抗を直列接続することも可能である。並列回路19aの両端間の電気特性を測定する測定部19bは、抵抗測定回路に代えて、電圧測定回路、或いは、電流測定回路を備えることもできる。
【0046】
図13に示すような並列回路19aを含む検出回路19とすることにより、浸水検知器9a、9bの其々の配線を水中ポンプ1のケーシング10から引き出す必要がなく、並列回路19aの両端の2本のコモン線19c、19dを水中ポンプ1から引き出せば足りるため、その分、ポンプケーブル22(
図1、
図10)を細くすることができる。ポンプケーブル22を細くすることで、ポンプケーブル22の取り回し作業が容易になり、また、コストも低減できる。
【0047】
上記第1実施形態及び第2実施形態では、浸水溜室8に2つの漏液溜部8a、8bを備える例を示したが、3以上の漏液溜部を設けることもできる。第2実施形態の変形例としては、2つの越流壁を同心円状に複数設けて、3つ以上の漏液溜部に区画することができる。3以上の漏液溜部を設ける場合、其々の漏液溜部に浸水検知器が設けられ、其々の浸水検知器が並列接続される。
【0048】
例えば、
図14に示すように、越流壁8s、8tによって3つの漏液溜部8a、8b、8cに区画する場合、其々の漏液溜部8、8b、8cに浸水検知器9a、9b、9cが設けられる。浸水検知器9a、9b、9cが並列接続されるとともに、モータ軸2aに近い側の漏液溜部8a、8bの浸水検知器9a、9bに既知抵抗値rの抵抗R1、R2が其々直列接続され、最後段(最下流側)の浸水検知器9cには抵抗が接続されていない。検出回路19により、並列回路19aの両端間の抵抗値が検出される。測定部19bは、浸水検知器9aのみがオンした場合は抵抗値rを測定し、浸水検知器9a及び9bがオンした場合は抵抗値1/2rを測定し、全ての浸水検知器9a、9b、9cがオンした場合は、ゼロに近い抵抗値が測定される。最後段の浸水検知器9cがオンした場合(浸水を検知した場合)、測定部19bからオン信号(ゼロに近い抵抗値)を制御部20が受け取り、制御部20によってマグネットスイッチ21がオフとされ、水中ポンプ1への給電が遮断され、水中ポンプ1が停止する。並列接続された全ての浸水検知器に既知抵抗を直列接続することもできる。
【0049】
図15及び
図16のグラフは、3段階の浸水検知器9a,9b、9cを備える場合に、漏液溜部8a、8b、8cの容積v(横軸)と、浸水検知器9a、9b、9cの運転時間(縦軸)との関係を示している。漏液溜部8a、8b、8cの既知容積va、vb、vcは、何れも200ccである。なお、既知容積は、浸水検知器が検知するときの容積である。上流側の2つの浸水検知器9a、9bにおいて水中ポンプ1が作動開始してから浸水を検知する迄の運転時間が時間軸(縦軸)にプロットされている。
【0050】
上流側の2つの浸水検知器9a、9bの其々が其々の漏液溜部8a、8bにおいて浸水を検知するまでの時間ta,tbと、浸水した其々の漏液溜部8a、8bの既知容積va、vbとを用いて、水中ポンプの運転時間tと漏液溜部の容積vと関係を近似関数t=f(v)で表すことができる。近似関数の演算には、例えば最小二乗法を用いることができる。近似関数t=f(v)に基づいて次の浸水検知器が浸水を検知する迄の予測時間tcを算出することができる。
【0051】
図15のグラフでは、水中ポンプ1の運転開始から最上段(最上流側)の浸水検知器9aが浸水を検知するまでの時間taは1000時間であり、次の浸水検知器9bが水中ポンプ1の運転開始から浸水を検知するまでの時間tbは1200時間である。
図15において、最後段の浸水検知器9cが検知する迄の予測時間は1250時間である。
【0052】
図16のグラフでは、水中ポンプ1の運転開始から最上段(最上流側)の浸水検知器9aが浸水を検知するまでの時間taは300時間であり、次の浸水検知器9bが水中ポンプ1の運転開始から浸水を検知するまでの時間tbは1000時間である。
図16において、最後段の浸水検知器9cが検知する迄の予測時間は2000時間である。
【0053】
予測時間tcの算出は、検知予測回路23において行われる。検知予測回路23は、コンピュータ、記憶装置、クロック発生回路、カウンタ回路等を備えることができ、測定部19bからの信号を受け取り、クロック発生回路からのクロックを用いてカウンタ回路で時間ta、tbを計算し、時間ta、tb及び漏液溜部の容積va、vb、vc、近似計算プログラムを記憶装置に記憶しておいて、コンピュータ内の演算装置により近似関数t=f(v)を演算し、近似関数を用いて計算した最後段の浸水検知器9cの予測検知時間を出力することができる。予測検知時間は、例えばモニター等に出力することができる。検知予測回路23は、水中ポンプ1の制御盤内に搭載することができるが、それに限らず他の搭載場所に搭載してもよい。
【0054】
浸水検知器が3つ以上ある場合は、上記のような近似関数を用いた検知予則が可能となる。検知予測は、最後段の浸水検知器が浸水を検知する予測時間を算出することとすれば、水中ポンプ1のメンテナンス時期を予測することができる。
【0055】
また、浸水溜室8は、軸封装置6からモータ室3側へ漏れ出た液体が時間間隔をおいて順次流入して貯留されているように構成されておればよく、その形状は特に限定されない。例えば、上記第2実施形態の平面視円環状の浸水溜室の変更態様として、
図17及び
図18に示すように、浸水溜室8の平面視形状(
図18の形状)を扇形とし、越流壁8sを同心円弧状とすることもできる。
【0056】
図19及び
図20は、本発明の第3実施形態に係る水中ポンプ1を示している。第3実施形態の水中ポンプ1は、浸水溜室8の形態が上記第1,2実施形態と相違する。第3実施形態の浸水溜室8は、軸封装置6に連通する漏液溜部8aと、漏液溜部8と越流壁8sを介してモータ軸2aの軸線周りの周方向に並ぶように連設された漏液溜部8bとを備え、其々の漏液溜部8a、8bに浸水検知器9a、9bが設けられている。第3実施形態では、2つの漏液溜部8a、8bを備えているが、モータ軸2aの周方向に3つ以上の漏液溜部を越流壁を介して連設し、各漏液溜部に浸水検知器を設けることもできる。其々の漏液溜部8a、8bは、水平方向に並んで連設され、其々の底面の高さは同じ高さに設定され得る。
【0057】
図21及び
図22は、本発明の第4実施形態に係る水中ポンプ1を示している。第4実施形態の水中ポンプ1は、上記第3実施形態の変更態様であり、漏液溜部8a、8bが越流壁ではなく、パイプ状又は溝状の流路8pによって接続されて、モータ軸2aの軸線周りの周方向に連設されている点が上記第2実施形態と異なる。第4実施形態では2つの漏液溜部8a、8bを備えているが、モータ軸2aの周方向に3つ以上の漏液溜部を、流路8pを介して連設し、各漏液溜部に浸水検知器を設けることもできる。
【0058】
図23及び
図24は、本発明の第5実施形態に係る水中ポンプ1を示している。第5実施形態の浸水溜室8は、第3実施形態と第4実施形態のハイブリッド型である。第5実施形態の浸水溜室8は、平面視形状が扇形であり、モータ軸2aを中心とする同心円弧状の越流壁8sと、平面視L字状の越流壁8uとによって3つの漏液溜室8a、8b、8cに仕切られている。其々の漏液溜室8a、8b、8cに浸水検知器9a、9b、9cが配設されている。越流壁8sの高さは、越流壁8uの高さより低く設定されている。従って、軸封装置6から漏れ出た液体は、漏液溜室8a、漏液溜室8b、漏液溜室8cの順に越流壁8s,8uをオーバーフローして流入し、貯留される。
【0059】
本発明は、上記実施形態に限定解釈されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0060】
1 水中ポンプ
2a モータ軸
2 モータ
3 モータ室
4 羽根車
5 ポンプ室
6 軸封装置
7 オイル室
8 浸水溜室
8a、8b、8c 漏液溜部
8s、8t、8u 越流壁
8p 流路
9a、9b 浸水検知器
19 検出回路
19a 並列回路
23 検知予測回路