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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】セルロース微細繊維及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20250203BHJP
   C08B 5/00 20060101ALI20250203BHJP
   C08B 15/06 20060101ALI20250203BHJP
【FI】
D21H11/18
C08B5/00
C08B15/06
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023073946
(22)【出願日】2023-04-28
(62)【分割の表示】P 2018096106の分割
【原出願日】2018-05-18
(65)【公開番号】P2023095921
(43)【公開日】2023-07-06
【審査請求日】2023-05-22
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松末 一紘
【審査官】山下 航永
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-066272(JP,A)
【文献】特開2017-057291(JP,A)
【文献】特開2013-127141(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185505(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170908(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/062502(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 1/00 - 37/18
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21H 11/00 - 27/42
D21J 1/00 - 7/00
D06M 10/00 - 23/18
D01F 2/00 - 2/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維幅が1~200nmであり、
セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されてリンオキソ酸のエステルが導入されており、
前記構造式(1)に示す官能基の導入量が、セルロース繊維1gあたり2.0mmolを超え、かつ軸比が3~1000000であ
前記セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、カルバメート基で置換されてカルバメートが導入されており、
前記カルバメート基の導入量が、前記セルロース繊維1gあたり、0.69~2.34mmolである、
ことを特徴とするセルロース微細繊維。
[構造式(1)]
【化1】
構造式(1)において、a,b,m,nは自然数である。
A1,A2,・・・,AnおよびA’のうちの少なくとも1つはO-であり、残りはR、OR、NHR、及び、なしのいずれかである。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。αは有機物又は無機物からなる陽イオンである。
【請求項2】
結晶化度が50~100%である、
請求項1に記載のセルロース微細繊維。
【請求項3】
分散液の光透過度率(固形分0.2%溶液)が50.0%以上である、
請求項1に記載のセルロース微細繊維。
【請求項4】
濃度を1質量%(w/w)とした場合における分散液のB型粘度が10~300000cpsである、
請求項1に記載のセルロース微細繊維。
【請求項5】
前記セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、下記構造式(2)に示す官能基で置換されてホスホン酸のエステルが導入されており、
前記構造式(2)に示す官能基の導入量が、セルロース繊維1gあたり2.0mmolを超え、かつ3.4mmol以下であ
請求項1に記載のセルロース微細繊維。
[構造式(2)]
【化2】
構造式(2)において、αは、なし、R、及びNHRのいずれかである。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。βは有機物又は無機物からなる陽イオンである。
【請求項6】
請求項1に記載のセルロース微細繊維を製造するにあたり、
セルロース繊維に、ホスホン酸類を含む添加物(A)並びに尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方を含む添加物(B)からなるpH2.0以上、かつ3.0未満の溶液を添加し、加熱し、解繊する、
前記セルロース繊維のヒドロキシ基の一部を、カルバメート基で置換してカルバメートを導入しており、
前記カルバメート基の導入量を、前記セルロース繊維1gあたり、0.69~2.34mmolとする、
ことを特徴とするセルロース微細繊維の製造方法。
【請求項7】
前記セルロース繊維に水酸化塩類も添加するものとし、かつ、前記加熱を100~160℃で行い、その後に前記セルロース繊維を洗浄する、
請求項に記載のセルロース微細繊維の製造方法。
【請求項8】
前記添加物(B)の添加量は、前記添加物(A)1molに対して0.5 ~10molである、
請求項に記載のセルロース微細繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース微細繊維及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、物質をナノメートルレベルまで微細化し、物質が持つ従来の性状とは異なる新たな物性を得ることを目的としたナノテクノロジーが注目されている。例えば、セルロース系原料であるパルプは、化学処理、粉砕処理等することでセルロース微細繊維(セルロースナノファイバー)としている。セルロース微細繊維は、強度、弾性、熱安定性等に優れるため、例えば、ろ過材、ろ過助剤、イオン交換体の基材、クロマトグラフィー分析機器の充填材、樹脂及びゴムの配合用充填剤等としての工業上の用途や、口紅、粉末化粧料、乳化化粧料等の化粧品の配合剤の用途における利用が期待されている。また、セルロース微細繊維は、水系分散性に優れているため、食品、化粧品、塗料等の粘度の保持剤、食品原料生地の強化剤、水分保持剤、食品安定化剤、低カロリー添加物、乳化安定化助剤などの多くの用途における利用が期待されている。
【0003】
このようなセルロース微細繊維を得るためには、セルロース系原料を高圧式ホモジナイザー、高速回転式ホモジナイザー、超音波ホモジナイザーなどで機械的に解繊する方法が存在する。しかしながら、この方法では、解繊を進めるのに大きなエネルギーが必要であり、また、セルロース繊維が損傷してしまう。
【0004】
そこで、特許文献1は、セルロース繊維の損傷が少ないセルロース微細繊維の製造方法を提案しており、繊維を解繊(攪拌)するにあたって、市販のブレンダー、ミキサー等を使用することもできるとしている。しかしながら、同文献の方法による場合、セルロース微細繊維を分散することで得られる分散液について光透過度や粘度を高めるには解繊時間を長くする必要があり、解繊時間を長くするとセルロース繊維の損傷が大きくなってしまう。特に、食品や化粧品等の用途においては、分散液の光透過度が高いことは必須の条件ともされており、セルロース微細繊維の用途を広げるうえで、光透過度を高めるとの課題を避けて通ることはできない。
【0005】
また、セルロース微細繊維の製造方法としては、解繊に先立って「セルロースの水酸基の一部に多塩基酸無水物を半エステル化してカルボキシル基を導入することにより、多塩基酸半エステル化セルロースを調製する」方法が提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
さらに、同文献による方法では微細化が不十分であるとして、解繊に先立って「リンオキソ酸或いはそれらの塩から選ばれる少なくとも1種の化合物により、セルロースを含む繊維原料を処理する」方法が提案されている(特許文献3参照)。同文献は、同文献による方法によると1~1000nmの繊維幅を有し、かつ繊維を構成するセルロースのヒドロキシ基の一部が所定の官能基で置換されて、リンオキソ酸基が導入された微細繊維状セルロースが得られるとしている。しかしながら、本発明者等が知見するところによると、同文献の方法によって得られたセルロース微細繊維の分散液は、光透過度や粘度の点で改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2010-216021号公報
【文献】特開2009-293167号公報
【文献】特開2013-127141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、セルロース微細繊維を分散液とした場合において、当該分散液の光透過度及び粘度が極めて高いものとなるセルロース微細繊維及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前述した特許文献3の方法について、何故、光透過度や粘度が不十分になるのかを種々検討した。結果、セルロース繊維1gあたりに対するリンオキソ酸の導入量(モル量)にポイントがあることを知見するに至った。この点、同文献は、「繊維原料のセルロースのヒドロキシ基(-OH基)におけるリンオキソ酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1~2.0mmolが好ましく、0.2~1.5mmolがより好ましい」としている。しかしながら、後述する実施例に示すように、リンオキソ酸基の導入量は2.0mmolを超える方が好ましい。また、同検討の過程で、本発明者等は、リンオキソ酸の導入量は、単に添加するリンオキソ酸の量を規定すれば足りるというものではないことも知見した。実際に導入されるリンオキソ酸基の量は、製造条件にも依存する。なお、特許文献3の方法による場合、一度の反応で導入することができるリンオキソ酸基の量は多く見積もっても2.0mmol/gまでであると考えられ、この導入量では分散液の光透過度や粘度が十分なものにはならない。特許文献3の方法でリンオキソ酸の導入量が2.0mmolを超えるようにするのであれば、繰り返し反応を行う必要があり、したがって、同文献は、そもそもリンオキソ酸の導入量が2.0mmolを超えるようにすることを想定していなかったと考えられる。
【0010】
以上のような種々の検討、知見に基づいて想到するに至ったのが、上記課題を解決するための以下に示す手段である。
(請求項1に記載の手段)
繊維幅が1~200nmであり、
セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されてリンオキソ酸のエステルが導入されており、
前記構造式(1)に示す官能基の導入量が、セルロース繊維1gあたり2.0mmolを超え、かつ軸比が3~1000000であ
前記セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、カルバメート基で置換されてカルバメートが導入されており、
前記カルバメート基の導入量が、前記セルロース繊維1gあたり、0.69~2.34mmolである、
ことを特徴とするセルロース微細繊維。
[構造式(1)]
【化1】
構造式(1)において、a,b,m,nは自然数である。
A1,A2,・・・,AnおよびA’のうちの少なくとも1つはO-であり、残りはR、OR、NHR、及び、なしのいずれかである。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。αは有機物又は無機物からなる陽イオンである。
【0011】
(請求項2に記載の手段)
結晶化度が50~100%である、
請求項1に記載のセルロース微細繊維。
(請求項3に記載の手段)
分散液の光透過度率(固形分0.2%溶液)が50.0%以上である、
請求項1に記載のセルロース微細繊維。
(請求項4に記載の手段)
濃度を1質量%(w/w)とした場合における分散液のB型粘度が10~300000cpsである、
請求項1に記載のセルロース微細繊維。
【0012】
(請求項5に記載の手段)
前記セルロース繊維のヒドロキシ基の一部が、下記構造式(2)に示す官能基で置換されてホスホン酸のエステルが導入されており、
前記構造式(2)に示す官能基の導入量が、セルロース繊維1gあたり2.0mmolを超え、かつ3.4mmol以下であ
請求項1に記載のセルロース微細繊維。
[構造式(2)]
【化2】
構造式(2)において、αは、なし、R、及びNHRのいずれかである。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。βは有機物又は無機物からなる陽イオンである。
【0013】
(請求項に記載の手段)
請求項1に記載のセルロース微細繊維を製造するにあたり、
セルロース繊維に、ホスホン酸類を含む添加物(A)並びに尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方を含む添加物(B)からなるpH2.0以上、かつ3.0未満の溶液を添加し、加熱し、解繊する、
前記セルロース繊維のヒドロキシ基の一部を、カルバメート基で置換してカルバメートを導入しており、
前記カルバメート基の導入量を、前記セルロース繊維1gあたり、0.69~2.34mmolとする、
ことを特徴とするセルロース微細繊維の製造方法。
【0014】
【0015】
(請求項に記載の手段)
前記セルロース繊維に水酸化塩類も添加するものとし、かつ、前記加熱を100~160℃で行い、その後に前記セルロース繊維を洗浄する、
請求項に記載のセルロース微細繊維の製造方法。
(請求項に記載の手段)
前記添加物(B)の添加量は、前記添加物(A)1molに対して0.5 ~10molである、
請求項に記載のセルロース微細繊維の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、セルロース微細繊維を分散液とした場合において、当該分散液の光透過度及び粘度が極めて高いものとなるセルロース微細繊維及びその製造方法となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は、本発明の一例である。
【0018】
(セルロース微細繊維)
本形態のセルロース微細繊維は、繊維幅が1~200nmであり、かつセルロース繊維のヒドロキシ基(-OH基)の一部が、下記構造式(1)に示す官能基で置換されてリンオキソ酸のエステルが導入(修飾、変性)されており(エステル化)、しかも下記構造式(1)に示す官能基の導入量が、セルロース繊維1gあたり2.0mmol超える(好ましくは2.1mmol以上)ものとされている。より好適には、セルロース繊維のヒドロキシ基の一部がカルバメート基で置換されて、カルバメート(カルバミン酸のエステル)も導入されている。
【0019】
[構造式(1)]
【化1】
【0020】
構造式(1)において、a,b,m,nは自然数である。
【0021】
A1,A2,・・・,AnおよびA’のうちの少なくとも1つはOであり、残りはR、OR、NHR、及びなしのいずれかである。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。αは有機物又は無機物からなる陽イオンである。
【0022】
リンオキソ酸のエステルは、リン原子にヒドロキシル基(ヒドロキシ基)(-OH)及びオキソ基(=O)が結合しており、かつそのヒドロキシル基が酸性プロトンを与える化合物である。リンオキソ酸のエステルはマイナス電荷が高く、したがって、リンオキソ酸のエステルを導入すると、セルロース分子間の反発が強くなり、セルロース繊維の解繊が容易になる。また、リンオキソ酸のエステルと共にカルバメートをも導入すると、分散液の光透過度や粘度が極めて向上する。この点、カルバメートは、アミノ基を有する。したがって、カルバメートを導入すると、リンオキソ酸のエステルと相互作用することになる。結果、カルバメートをも導入すると、分散液の剪断力が高まり、粘度が向上するものと考えられる。
【0023】
導入するリンオキソ酸のエステルとしては、ホスホン酸のエステルがより好ましい。ホスホン酸のエステルを導入した場合は、黄変化が少なくなるため、セルロース微細繊維が分散された分散液の光透過度がより高くなる。また、分散液の粘度も高くなる。ホスホン酸のエステルを導入した場合は、セルロース繊維のヒドロキシ基(-OH基)の一部が下記構造式(2)に示す官能基で置換される。
【0024】
[構造式(2)]
【化2】
【0025】
構造式(2)において、αは、なし、R、及びNHRのいずれかである。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、及びこれらの誘導基のいずれかである。βは有機物又は無機物からなる陽イオンである。
【0026】
リンオキソ酸のエステル、あるいはホスホン酸のエステルの導入量は、セルロース微細繊維1g当たり、2.0mmol超、好ましくは2.1mmol以上、より好ましくは2.2mmol以上である。また、3.4mmol以下、好ましくは3.2mmol以下、より好ましくは3.0mmol以下である。導入量が2.0mmol以下であると、分散液の光透過度や粘度が十分に高まらないおそれがある。他方、導入量が3.4mmolを超えると、セルロース繊維が水に溶解するおそれがある。
【0027】
リンオキソ酸のエステルの導入量は、元素分析に基づいて評価した値である。この元素分析には、堀場製作所製X-Max 50 001を使用する。
【0028】
カルバメートの導入量は、セルロース微細繊維1g当たり、好ましくは0.06~2.34mmol、より好ましくは0.15~1.28mmol、特に好ましくは0.39~1.02mmolである。導入量が0.06mmol未満であると、分散液の光透過度及び粘度が十分に高まらないおそれがある。他方、導入量が2.34mmolを超えると、セルロース繊維が水に溶解するおそれがある。なお、カルバメートの導入量の算出方法は、ケルダール法により行った。
【0029】
セルロース微細繊維の繊維幅(単繊維の平均直径)は、好ましくは1~200nm、より好ましくは2~100nm、特に好ましくは3~50nmである。繊維幅が1nm未満であると、セルロースが水に溶解し、セルロース微細繊維としての物性、例えば、強度や剛性、寸法安定性等を有さなくなるおそれがある。他方、繊維幅が200nmを超えると、可視光の波長の約1/10になるため、セルロース微細繊維を水に分散した場合に(水分散液とした場合に)、可視光の屈折や散乱が生じ、光透過度が不十分であるとされるおそれがある。
【0030】
セルロース微細繊維の繊維幅は、電子顕微鏡を使用して次のように測定する。
まず、固形分濃度0.01~0.1質量%のセルロース微細繊維の水分散液100mlをテフロン(登録商標)製メンブレンフィルターでろ過し、エタノール100mlで1回、t-ブタノール20mlで3回溶媒置換する。次に、凍結乾燥し、オスミウムコーティングして試料とする。この試料について、構成する繊維の幅に応じて5,000倍、10,000倍又は30,000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡SEM画像による観察を行う。この観察においては、観察画像に2本の対角線を引き、更に対角線の交点を通過する直線を任意に3本引く。そして、この3本の直線と交錯する合計100本の繊維の幅を目視で計測する。この計測値の中位径を繊維幅とする。
【0031】
セルロース微細繊維の軸比(繊維長/繊維幅)は、好ましくは3~1,000,000、より好ましくは6~340,000、特に好ましくは10~340,000である。軸比が3未満であると、もはや繊維状とは言えなくなる。他方、軸比が1,000,000を超えると、分散液(スラリー)の粘度が高くなり過ぎるおそれがある。
【0032】
セルロース微細繊維の結晶化度は、好ましくは50~100%、より好ましくは60~90%、特に好ましくは65~85%である。結晶化度が50%未満であると、強度、耐熱性が不十分であるとされるおそれがある。結晶化度は、例えば、パルプ繊維の選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
【0033】
結晶化度は、JIS-K0131(1996)の「X線回折分析通則」に準拠して、X線回折法により測定した値である。なお、セルロース微細繊維は、非晶質部分と結晶質部分とを有しており、結晶化度はセルロース微細繊維全体における結晶質部分の割合を意味する。
【0034】
セルロース微細繊維の分散液の光透過度率(固形分0.2%溶液)は、好ましくは50.0%以上、より好ましくは60.0%以上、特に好ましくは70.0%以上である。光透過度が50.0%未満であると、光透過度が不十分であるとされるおそれがある。セルロース微細繊維の光透過度は、例えば、パルプ繊維の選定、前処理、解繊等によって調整することができる。
【0035】
光透過度は、0.2%(w/v)のセルロース微細繊維分散液の光透過度(350~880nm光の透過率)をSpectrophotometer U-2910(日立製作所)を用いて測定した値である。
【0036】
セルロース微細繊維の濃度を1質量%(w/w)とした場合における分散液のB型粘度は、好ましくは10~300,000cps、より好ましくは1,000~200,000cps、特に好ましくは16,000~100,000cpsである。
【0037】
B型粘度は、固形分濃度1%のセルロース微細繊維の水分散液について、JIS-Z8803(2011)の「液体の粘度測定方法」に準拠して測定した値である。B型粘度はスラリーを攪拌させたときの抵抗トルクであり、高いほど攪拌に必要なエネルギーが多くなることを意味する。
【0038】
(セルロース微細繊維の製造方法)
本形態の製造方法においては、セルロース繊維に、リンオキソ酸類及びリンオキソ酸金属塩類の少なくともいずれか一方を含む添加物(A)、好ましくは更に尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方を含む添加物(B)からなるpH3未満の溶液を添加し、加熱してセルロース繊維にリンオキソ酸のエステル、好ましくはリンオキソ酸のエステル及びカルバメートを導入する。そして、このリンオキソ酸のエステル等を導入したセルロース繊維を解繊してセルロース微細繊維を得る。
【0039】
また、好ましくは、セルロース繊維に水酸化塩類も添加するものとし、かつ、加熱後、解繊するに先立ってセルロース繊維を洗浄する。
【0040】
(セルロース繊維)
セルロース繊維としては、例えば、植物由来の繊維(植物繊維)、動物由来の繊維、微生物由来の繊維等を使用することができる。これらの繊維は、必要により、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、セルロース繊維としては、植物繊維を使用するのが好ましく、植物繊維の一種であるパルプ繊維を使用するのがより好ましい。セルロース繊維がパルプ繊維であると、セルロース微細繊維の物性調整が容易である。
【0041】
植物繊維としては、例えば、広葉樹、針葉樹等を原料とする木材パルプ、ワラ、バガス等を原料とする非木材パルプ、回収古紙、損紙等を原料とする古紙パルプ(DIP)等を使用することができる。これらの繊維は、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0042】
木材パルプとしては、例えば、広葉樹クラフトパルプ(LKP)、針葉樹クラフトパルプ(NKP)等の化学パルプ、機械パルプ(TMP)、古紙パルプ(DIP)等を使用することができる。これらのパルプは、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0043】
広葉樹クラフトパルプ(LKP)は、広葉樹晒クラフトパルプであっても、広葉樹未晒クラフトパルプであっても、広葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。針葉樹クラフトパルプ(NKP)は、針葉樹晒クラフトパルプであっても、針葉樹未晒クラフトパルプであっても、針葉樹半晒クラフトパルプであってもよい。古紙パルプ(DIP)は、雑誌古紙パルプ(MDIP)であっても、新聞古紙パルプ(NDIP)であっても、段古紙パルプ(WP)であっても、その他の古紙パルプであってもよい。
【0044】
(添加物(A))
添加物(A)は、リンオキソ酸類及びリンオキソ酸金属塩類の少なくともいずれか一方を含む。添加物(A)としては、例えば、リン酸、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム、リン酸二水素リチウム、リン酸三リチウム、リン酸水素二リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウム、亜リン酸、亜リン酸水素ナトリウム、亜リン酸水素アンモニウム、亜リン酸水素カリウム、亜リン酸二水素ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸リチウム、亜リン酸カリウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸トリエチル、亜リン酸トリフェニル、ピロ亜リン酸等の亜リン酸化合物等を使用することができる。これらの添加物は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、リンオキソ酸類の一部又は全部としては、ホスホン酸類を使用するのが好ましい。ホスホン酸類を使用すると、セルロース繊維の黄変化が防止されるので、分散液の光透過度がより向上する。
【0045】
添加物(A)を添加するにあたって、セルロース繊維は、乾燥状態であっても、湿潤状態であっても、スラリーの状態であってもよい。また、添加物(A)は、粉末の状態であっても、水溶液の状態であってもよい。ただし、反応の均一性が高いことから、乾燥状態のセルロース繊維に水溶液の状態の添加物(A)を添加するのが好ましい。
【0046】
添加物(A)の添加量は、セルロース繊維1kgに対して、好ましくは1~10,000g、より好ましくは100~5,000g、特に好ましくは300~1,500gである。添加量が1g未満であると、添加物(A)の添加による効果が得られないおそれがある。他方、添加量が10,000gを超えても、添加物(A)の添加による効果が頭打ちとなるおそれがある。
【0047】
(添加物(B))
添加物(B)は、尿素及び尿素誘導体の少なくともいずれか一方を含む。添加物(B)としては、例えば、尿素、チオ尿素、ビウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素、テトラメチル尿素等を使用することができる。これらの尿素又は尿素誘導体は、それぞれを単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。ただし、尿素を使用するのが好ましい。
【0048】
添加物(B)は、加熱されると、下記の反応式(1)に示すようにイソシアン酸及びアンモニアに分解される。そして、イソシアン酸は反応性が高く、下記の反応式(2)に示すようにセルロースの水酸基及びカルバメートを形成する。したがって、セルロース繊維に添加物(B)を添加するとカルバメートの導入が進む。
【0049】
NH-CO-NH → HN=C=O+NH …(1)
Cell-OH+H-N=C=O → Cell-O-C-NH …(2)
なお、Cellは、セルロース分子を指す。
【0050】
添加物(B)の添加量は、添加物(A)1molに対して、好ましくは0.01~100mol、より好ましくは0.2~20mol、特に好ましくは0.5 ~10molである。添加量が0.01mol未満であると、カルバメートの導入が進まないおそれがある。他方、添加量が100molを超えても、尿素の添加による効果が頭打ちとなるおそれがある。
【0051】
(その他の添加物)
セルロース繊維には、添加物(A)及び添加物(B)のほか、水酸化塩類、特に水酸化ナトリウムを添加するのが好ましい。水酸化塩類は、pH調整剤としての機能を有するほか、浸透圧効果のためにセルロース繊維の解繊がより容易になる。
【0052】
(加熱)
添加物(A)や添加物(B)等を添加したセルロース繊維を加熱する際の加熱温度は、好ましくは100~210℃、より好ましくは100~200℃、特に好ましくは100~160℃である。加熱温度が100℃以上であれば、リンオキソ酸のエステルを導入することができる。ただし、加熱温度が210℃を超えると、セルロースの劣化が急速に進み、着色や粘度低下の要因となるおそれがある。また、加熱温度が160℃を超えると、セルロース微細繊維のB型粘度が低下するおそれや、光透過度が低下するおそれがある。
【0053】
添加物(A)や添加物(B)を添加したセルロース繊維を加熱する際のpHは、好ましくは3.0未満、より好ましくは2.8以下、特に好ましくは2.5以下である。pHが低い方がリンオキソ酸のエステルやカルバメートが導入され易くなる。ただし、pHが2.1未満であると光透過度や粘度が低下する傾向にあり、特にpHが2.0未満であるとセルロース繊維の劣化が急速に進行してしまうおそれがある。したがって、pHは、好ましくは、2.0以上、より好ましくは2.1以上である。
【0054】
添加物(A)や添加物(B)等を添加したセルロース繊維の加熱は、当該セルロース繊維が乾燥するまで行うのが好ましい。具体的には、セルロース繊維の水分率が、好ましくは10%以下となるまで、より好ましくは0.1%以下となるまで、特に好ましくは0.001%以下となるまで乾燥する。もちろん、セルロース繊維は、水分の無い絶乾状態になっても良い。
【0055】
添加物(A)や添加物(B)等を添加したセルロース繊維の加熱時間は、例えば1~1,440分、好ましくは10~180分、より好ましくは30~120分である。加熱時間が長過ぎると、リンオキソ酸のエステルやカルバメートの導入が進み過ぎるおそれがある。また、加熱時間が長過ぎると、セルロース繊維が黄変化するおそれがある。
【0056】
添加物(A)や添加物(B)等を添加したセルロース繊維を加熱する装置としては、例えば、熱風乾燥機、キルン、加熱式混練機、抄紙機、ドライパルプマシン等を使用することができる。
【0057】
(前処理)
セルロース繊維にリンオキソ酸のエステルやカルバメートを導入するに先立って、又はリンオキソ酸のエステルやカルバメートを導入した後において、セルロース繊維には、必要により、叩解等の前処理を施すことができる。セルロース繊維の解繊に先立って当該パルプ繊維に前処理を施しておくことで、解繊の回数を大幅に減らすことができ、解繊のエネルギーを削減することができる。
【0058】
セルロース繊維の前処理は、物理的手法又は化学的手法、好ましくは物理的手法及び化学的手法によることができる。物理的手法による前処理及び化学的手法による前処理は、同時に行うことも、別々に行うこともできる。
【0059】
物理的手法による前処理としては、叩解を採用するのが好ましい。セルロース繊維を叩解すると、セルロース繊維が切り揃えられる。したがって、セルロース繊維同士の絡み合いが防止される(凝集防止)。この観点から、叩解は、セルロース繊維のフリーネスが700ml以下となるまで行うのが好ましく、500ml以下となるまで行うのがより好ましく、300ml以下となるまで行うのが特に好ましい。
【0060】
セルロース繊維のフリーネスは、JIS P8121-2(2012)に準拠して測定した値である。また、叩解は、例えば、リファイナーやビーター等を使用して行うことができる。
【0061】
化学的手法による前処理としては、例えば、酸による多糖の加水分解(酸処理)、酵素による多糖の加水分解(酵素処理)、アルカリによる多糖の膨潤(アルカリ処理)、酸化剤による多糖の酸化(酸化処理)、還元剤による多糖の還元(還元処理)等を例示することができる。ただし、化学的手法による前処理としては、酵素処理を施すのが好ましく、加えて酸処理、アルカリ処理、及び酸化処理の中から選択された1又は2以上の処理を施すのがより好ましい。以下、アルカリ処理について、詳しく説明する。
【0062】
アルカリ処理の方法としては、例えば、アルカリ溶液中に、リンオキソ酸のエステル等を導入したセルロース繊維を浸漬する方法が存在する。
【0063】
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、無機アルカリ化合物であっても、有機アルカリ化合物であってもよい。無機アルカリ化合物としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のリンオキソ酸塩等を例示することができる。また、アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等を例示することができる。アルカリ土類金属の水酸化物としては、例えば、水酸化カルシウム等を例示することができる。アルカリ金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等を例示することができる。アルカリ土類金属の炭酸塩としては、例えば、炭酸カルシウム等を例示することができる。アルカリ金属のリンオキソ酸塩としては、例えば、リン酸リチウム、リン酸カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等を例示することができる。アルカリ土類金属のリン酸塩としては、例えば、リン酸カルシウム、リン酸水素カルシウム等を例示することができる。
【0064】
有機アルカリ化合物としては、例えば、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物及びその水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等を例示することができる。具体的には、例えば、例えば、アンモニア、ヒドラジン、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、シクロヘキシルアミン、アニリン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルアンモニウムヒドロキシド、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム等を例示することができる。
【0065】
アルカリ溶液の溶媒は、水及び有機溶媒のいずれであってもよいが、極性溶媒(水、アルコール等の極性有機溶媒)であるのが好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒であるのがより好ましい。
【0066】
アルカリ溶液の25℃におけるpHは、好ましくは9以上、より好ましくは10以上、特に好ましくは11~14である。pHが9以上であると、セルロース微細繊維の収率が高くなる。ただし、pHが14を超えると、アルカリ溶液の取り扱い性が低下する。
【0067】
(洗浄)
リンオキソ酸のエステル等を導入したセルロース繊維は、解繊するに先立って、洗浄するのが好ましい。セルロース繊維を清浄することで、副生成物や未反応物を洗い流すことができる。また、この洗浄が前処理におけるアルカリ処理に先立つものであれば、当該アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量を減らすことができる。
【0068】
セルロース繊維の洗浄は、例えば、水や有機溶媒等を使用して行うことができる。
【0069】
(解繊)
リンオキソ酸のエステル等を導入したセルロース繊維は、洗浄後に解繊(微細化処理)する。この解繊によって、パルプ繊維はミクロフィブリル化し、セルロース微細繊維(セルロースナノファイバー(CNF))となる。
【0070】
セルロース繊維を解繊するにあたっては、当該セルロース繊維をスラリー状にしておくのが好ましい。このスラリーの固形分濃度は、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~10質量%、特に好ましくは1.0~5.0質量%である。固形分濃度が上記範囲内であれば、効率的に解繊することができる。
【0071】
セルロース繊維の解繊は、例えば、高圧ホモジナイザー、高圧均質化装置等のホモジナイザー、グラインダー、摩砕機等の石臼式摩擦機、コニカルリファイナー、ディスクリファイナー等のリファイナー、各種バクテリア等の中から1種又は2種以上の手段を選択使用して行うことができる。ただし、セルロース繊維の解繊は、水流、特に高圧水流で微細化する装置・方法を使用して行うのが好ましい。この装置・方法によると、得られるセルロース微細繊維の寸法均一性、分散均一性が非常に高いものとなる。これに対し、例えば、回転する砥石間で磨砕するグラインダーを使用すると、セルロース繊維を均一に微細化するのが難しく、場合によっては、一部に解れない繊維塊が残ってしまうおそれがある。
【0072】
セルロース繊維の解繊に使用するグラインダーとしては、例えば、増幸産業株式会社のマスコロイダー等が存在する。また、高圧水流で微細化する装置としては、例えば、株式会社スギノマシンのスターバースト(登録商標)や、吉田機械興業株式会社のナノヴェイタ\Nanovater(登録商標)等が存在する。また、セルロース繊維の解繊に使用する高速回転式ホモジナイザーとしては、エムテクニック社製のクレアミックス-11S等が存在する。
【0073】
本発明者等は、回転する砥石間で磨砕する方法と、高圧水流で微細化する方法とで、それぞれセルロース繊維を解繊し、得られた各繊維を顕微鏡観察した場合に、高圧水流で微細化する方法で得られた繊維の方が、繊維幅が均一であることを知見している。
【0074】
高圧水流による解繊は、セルロース繊維の分散液を増圧機で、例えば30MPa以上、好ましくは100MPa以上、より好ましくは150MPa以上、特に好ましくは220MPa以上に加圧し(高圧条件)、細孔直径50μm以上のノズルから噴出させ、圧力差が、例えば30MPa以上、好ましくは80MPa以上、より好ましくは90MPa以上となるように減圧する(減圧条件)方式で行うと好適である。この圧力差で生じるへき開現象によって、パルプ繊維が解繊される。高圧条件の圧力が低い場合や、高圧条件から減圧条件への圧力差が小さい場合には、解繊効率が下がり、所望の繊維幅とするために繰り返し解繊(ノズルから噴出)する必要が生じる。
【0075】
高圧水流によって解繊する装置としては、高圧ホモジナイザーを使用するのが好ましい。高圧ホモジナイザーとは、例えば10MPa以上、好ましくは100MPa以上の圧力でセルロース繊維のスラリーを噴出する能力を有するホモジナイザーをいう。セルロース繊維を高圧ホモジナイザーで処理すると、セルロース繊維同士の衝突、圧力差、マイクロキャビテーションなどが作用し、セルロース繊維の解繊が効果的に生じる。したがって、解繊の処理回数を減らすことができ、セルロース微細繊維の製造効率を高めることができる。
【0076】
高圧ホモジナイザーとしては、セルロース繊維のスラリーを一直線上で対向衝突させるものを使用するのが好ましい。具体的には、例えば、対向衝突型高圧ホモジナイザー(マイクロフルイダイザー/MICROFLUIDIZER(登録商標)、湿式ジェットミル)である。この装置においては、加圧されたセルロース繊維のスラリーが合流部で対向衝突するように2本の上流側流路が形成されている。また、セルロース繊維のスラリーは合流部で衝突し、衝突したセルロース繊維のスラリーは下流側流路から流出する。上流側流路に対して下流側流路は垂直に設けられており、上流側流路と下流側流路とでT字型の流路が形成されている。このような対向衝突型の高圧ホモジナイザーを用いると高圧ホモジナイザーから与えられるエネルギーが衝突エネルギーに最大限に変換されるため、より効率的にセルロース繊維を解繊することができる。
【0077】
セルロース繊維の解繊は、得られるセルロース微細繊維の平均繊維幅、平均繊維長、結晶化度、等が、所望の値又は評価となるように行うのが好ましい。
【実施例
【0078】
次に、本発明の実施例について、説明する。
【0079】
セルロース繊維に、リンオキソ酸(ホスホン酸)、水酸化塩類(水酸化ナトリウム)及び尿素を添加し、加熱及び洗浄した後に、解繊してセルロース微細繊維を製造する試験を行った。セルロース繊維としては、針葉樹晒クラフトパルプを使用した。また、解繊は、高圧ホモジナイザーを使用して行った。
【0080】
リンオキソ酸、水酸化ナトリウム及び尿素の添加量、これらの溶液(試薬A)のpH、加熱の温度及び時間、解繊パス回数は、表1に示すとおりとした。得られたセルロース微細繊維の物性については、表2に示した。B型粘度及び光透過度の評価方法は、前述したとおりとした。なお、表1中の尿素の添加量0mmol/gは「添加なし」を、表2中のカルバメート基の導入量0mmol/gは「導入されていないこと」を、比較例3の「-」は「未測定」を意味する。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
(考察)
表2から、リンオキソ酸基の導入量がセルロース繊維1gあたり2.0mmolを超えると、B型粘度及び光透過度のいずれも向上することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明は、セルロース微細繊維及びその製造方法として利用可能である。