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特許7628634表面処理装置,基体接合装置,表面処理方法,基体接合方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】表面処理装置,基体接合装置,表面処理方法,基体接合方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20250203BHJP
   H05H 1/46 20060101ALI20250203BHJP
【FI】
H01L21/302 101H
H01L21/302 101C
H05H1/46 L
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024012659
(22)【出願日】2024-01-31
【審査請求日】2024-11-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520472664
【氏名又は名称】明電ナノプロセス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】篠 竜徳
(72)【発明者】
【氏名】西口 哲也
(72)【発明者】
【氏名】外山 栄太郎
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-7593(JP,A)
【文献】特表2020-502797(JP,A)
【文献】特開2023-99298(JP,A)
【文献】特開2012-49266(JP,A)
【文献】特開2017-79316(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H05H 1/46
H01L 27/12
H01L 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体を収容可能なチャンバと、
前記チャンバの外周側に配置された容器を有し、当該容器内に反応性ガスを吸気して当該反応性ガスのプラズマを発生可能なプラズマ発生部と、
前記チャンバ内に不飽和炭化水素ガスを供給可能な不飽和炭化水素ガス供給部と、
前記チャンバ内にオゾンガスを供給可能なオゾンガス供給部と、
前記チャンバ内のガスを吸気して当該チャンバの外周側に排出可能なガス排出部と、
を備え、
前記容器は、前記反応性ガスのプラズマによって発生した活性種を、前記チャンバ内に供給可能なことを特徴とする表面処理装置。
【請求項2】
前記反応性ガスは、酸素,アルゴン,窒素のうち少なくとも一つを含有していることを特徴とする請求項1記載の表面処理装置。
【請求項3】
前記反応性ガスのプラズマは、誘導結合型プラズマであることを特徴とする請求項1記載の表面処理装置。
【請求項4】
前記チャンバは、当該チャンバ内に収容された状態の前記基体に対向する位置に、シャワーヘッドが設けられており、
前記シャワーヘッドは、
前記不飽和炭化水素ガス供給部による前記不飽和炭化水素ガスの供給流路と、
前記オゾンガス供給部による前記オゾンガスの供給流路と、
が設けられていることを特徴とする請求項1記載の表面処理装置。
【請求項5】
前記プラズマ発生部における前記反応性ガスのプラズマの出力エネルギーと、
前記不飽和炭化水素ガス供給部における前記不飽和炭化水素ガスの供給流量と、
前記オゾンガス供給部における前記オゾンガスの供給流量と、
前記ガス排出部による前記チャンバ内のガスの排出流量および当該チャンバ内の圧力と、
を制御可能な制御部を、更に備えていることを特徴とする請求項1記載の表面処理装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記反応性ガスのプラズマの出力エネルギーを50W~200Wの範囲内に設定するように制御でき、
当該反応性ガスのプラズマが発生している状態において、前記チャンバ内の圧力を0.01Pa~100Paの範囲内に設定するように制御できる、
ことを特徴とする請求項5記載の表面処理装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記チャンバ内に前記不飽和炭化水素ガスおよび前記オゾンガスが供給されている状態において、当該チャンバ内の圧力を1000Pa以下に設定するように制御できることを特徴とする請求項5記載の表面処理装置。
【請求項8】
請求項1~7の何れかに記載の表面処理装置を備え、
前記チャンバは、2個の前記基体を接合対象として当該チャンバ内にそれぞれ支持する支持部を、備え、
前記支持部は、前記各基体を、それぞれの被接合面が互いに対向した姿勢で、当該対向する方向に対して接離自在に移動できるように支持することを特徴とする基体接合装置。
【請求項9】
請求項1~7の何れかに記載の表面処理装置を用いた方法であって、
前記チャンバ内に収容した前記基体の表面を活性化する活性化工程と、
前記活性化工程後の前記基体の表面に水酸基を形成する水酸基形成工程と、
を有し、
前記活性化工程は、前記容器内に反応性ガスを吸気して当該反応性ガスのプラズマを発生し、当該反応性ガスのプラズマによって発生した活性種を前記チャンバ内に供給することにより、前記基体の表面を活性化し、
前記水酸基形成工程は、前記チャンバ内に収容した前記基体の表面に対し、前記不飽和炭化水素ガスおよびオゾン濃度50体積%超の前記オゾンガスをそれぞれ供給することにより、当該不飽和炭化水素ガスおよび当該オゾンガスの両者のラジカル反応により発生するOHラジカルを当該基体の表面に曝露して、当該基体の表面に対して水酸基を形成することを特徴とする表面処理方法。
【請求項10】
前記活性化工程において、前記反応性ガスのプラズマによって発生した活性種による前記基体の表面の活性化深度が、1nm~100nmの範囲内であることを特徴とする請求項9記載の表面処理方法。
【請求項11】
請求項1~7の何れかに記載の表面処理装置を用い、前記基体を接合対象として接合する方法であって、
前記チャンバ内に収容した前記基体の被接合面を活性化する活性化工程と、
前記活性化工程後の前記基体の被接合面に水酸基を形成する水酸基形成工程と、
前記水酸基を形成した2個の前記基体を被接合面にて重ね合わせて積層する積層工程と、
前記積層した状態の各基体を加熱することにより、当該各基体を被接合面にて接合する接合工程と、
を有し、
前記活性化工程は、前記容器内に反応性ガスを吸気して当該反応性ガスのプラズマを発生し、当該反応性ガスのプラズマによって発生した活性種を前記チャンバ内に供給することにより、前記基体の被接合面を活性化し、
前記水酸基形成工程は、前記チャンバ内に収容した基体の被接合面に対し、不飽和炭化水素ガスおよびオゾン濃度50体積%超のオゾンガスをそれぞれ供給することにより、当該不飽和炭化水素ガスおよび当該オゾンガスの両者のラジカル反応により発生するOHラジカルを当該被接合面に曝露して、当該被接合面に対して水酸基を形成し、
前記接合工程は、前記加熱によって前記水酸基を脱水縮合反応させることを特徴とする基体接合方法。
【請求項12】
前記活性化工程において、前記反応性ガスのプラズマによって発生した活性種による前記基体の被接合面の活性化深度が、1nm~100nmの範囲内であることを特徴とする請求項11記載の基体接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理装置,基体接合装置,表面処理方法,基体接合方法に係るものであって、例えば基体を所望通りに親水化し易くし、当該親水化した基体を複数個用いて接合等し易くすることに貢献可能な技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばIoT化に伴う近年の電子デバイスを介した情報量の増大により、半導体デバイスの更なる高度化の要求が高まっている。従来から、半導体デバイスの微細化・集積化の技術開発(Moore’s Law)は進められてきたが、更なる技術進歩(More Than Moore)を図ることが要求され始めており、その一例として3次元積層体(3D-IC)の開発・実用化が挙げられる。
【0003】
例えばデザインルールや機能等の異なる複数個の基体(半導体基板等の接合対象となる基体)を重ね合わせて接合した3次元積層体の場合、単に半導体デバイスの集積度が高められるだけでなく、各基体それぞれが持っている機能(異なる機能)を集積でき、さらに配線距離の低減を図ることにも貢献可能であることから、種々の特長(新たなメリット等)が得られるとされている。
【0004】
3次元積層体の基体(接合対象)の接合においては、接着剤等を用いない接合方法、すなわち直接接合方法が適用されており、近年は、当該基体の被接合面に設けられている電極等も同時に接合可能な態様(ハイブリッド接合)も注目され始めている。
【0005】
直接接合方法の具体例としては、主に、(1)基体の表面(必要に応じて予め平坦化された被接合面等)に水酸基を形成して親水化する工程(以下、単に親水化工程と適宜称する)と、(2)前記水酸基を形成した2個の基体を被接合面にて重ね合わせ積層する工程(以下、単に積層工程と適宜称する)と、(3)前記積層状態において被接合面の水酸基の脱水縮合反応を起こし当該基体を被接合面にて互いに接合する工程(以下、単に接合工程と適宜称する)と、を有したものが挙げられる。
【0006】
親水化工程において、例えば特許文献1では、チャンバ(真空チャンバ等)内において基体の表面をプラズマ処理(エッチング等)して、親水化する構成が開示されている。また、特許文献2では、チャンバ内において基体の表面をプラズマ処理して、水分等を貯留するための貯留部(特許文献2では符号5で示す貯留部)を形成することにより、親水化し易くする構成が開示されている。
【0007】
これら特許文献1,2に示すプラズマ処理では、水分等を用いた水処理(特許文献1では、例えば図8(e)に示すように水分を含んだガスを用いる処理、特許文献2では、例えば段落[0017][0018]に示すように水を貯留する処理)が行われている。
【0008】
なお、前記基体自体に係る技術として、前記のような直接接合方法の他には、当該基体の表面の改質等を行う表面処理方法(例えば特許文献3~6)や、当該基体の表面にCVD法(化学気相成長法)またはALD法(原子層堆積法)により各種薄膜を形成する成膜方法(例えば特許文献7,8)等が存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許3751872号公報
【文献】特許5955866号公報
【文献】特許4905253号公報
【文献】特許5217951号公報
【文献】特許6052470号公報
【文献】特許6057030号公報
【文献】特許6569831号公報
【文献】特許7056710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1,2に示すように単にチャンバ内において基体の表面(被処理面,被接合面等)をプラズマ処理する構成では、当該表面を親水化できたとしても、プラズマによるイオン等がチャンバの内壁面等に衝突する等により、当該チャンバ内に微小なダスト等が発生して基体の表面に付着するおそれがある。このように基体の表面に付着するダスト等は、水処理や水洗浄等によって除去され得るが、当該表面に水分が残存し易くなることが考えられる。
【0011】
例えば、基体を接合対象として、被接合面に前記のようなダスト等が付着あるいは水分が残存している場合には、当該被接合面での接合が困難となるおそれがある。具体例として、接合工程の場合、前記のように残存した水分によって脱水縮合反応が抑制されててしまうため、被接合面が所望通りに接合できなくなることが考えられる。
【0012】
本発明は、前述のような技術的課題に鑑みてなされたものであって、基体の表面にダスト等が付着しないように抑制、および当該基体の表面に水分が残存しないように抑制し、当該基体の表面を所望通り親水化し易くすることに貢献可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明による表面処理装置,基体接合装置,表面処理方法,基体接合方法は、前記の課題の解決に貢献できるものである。
【0014】
まず、表面処理装置の一態様は、基体を収容可能なチャンバと、前記チャンバの外周側に配置された容器を有し、当該容器内に反応性ガスを吸気して当該反応性ガスのプラズマを発生可能なプラズマ発生部と、前記チャンバ内に不飽和炭化水素ガスを供給可能な不飽和炭化水素ガス供給部と、前記チャンバ内にオゾンガスを供給可能なオゾンガス供給部と、前記チャンバ内のガスを吸気して当該チャンバの外周側に排出可能なガス排出部と、を備えている。そして、前記容器は、前記反応性ガスのプラズマによって発生した活性種を、前記チャンバ内に供給可能なことを特徴とする。
【0015】
また、前記反応性ガスは、酸素,アルゴン,窒素のうち少なくとも一つを含有していることを特徴としてもよい。また、前記反応性ガスのプラズマは、誘導結合型プラズマであることを特徴としてもよい。
【0016】
また、前記チャンバは、当該チャンバ内に収容された状態の前記基体に対向する位置に、シャワーヘッドが設けられており、前記シャワーヘッドは、前記不飽和炭化水素ガス供給部による前記不飽和炭化水素ガスの供給流路と、前記オゾンガス供給部による前記オゾンガスの供給流路と、が設けられていることを特徴としてもよい。
【0017】
また、前記プラズマ発生部における前記反応性ガスのプラズマの出力エネルギーと、前記不飽和炭化水素ガス供給部における前記不飽和炭化水素ガスの供給流量と、前記オゾンガス供給部における前記オゾンガスの供給流量と、前記ガス排出部による前記チャンバ内のガスの排出流量および当該チャンバ内の圧力と、を制御可能な制御部を、更に備えていることを特徴としてもよい。
【0018】
また、前記制御部は、前記反応性ガスのプラズマの出力エネルギーを50W~200Wの範囲内に設定するように制御でき、当該反応性ガスのプラズマが発生している状態において、前記チャンバ内の圧力を0.01Pa~100Paの範囲内に設定するように制御できる、ことを特徴としてもよい。
【0019】
また、前記制御部は、前記チャンバ内に前記不飽和炭化水素ガスおよび前記オゾンガスが供給されている状態において、当該チャンバ内の圧力を1000Pa以下に設定するように制御できることを特徴としてもよい。
【0020】
基体接合装置の一態様は、前記表面処理装置を備え、前記チャンバは、2個の前記基体を接合対象として当該チャンバ内にそれぞれ支持する支持部を、備え、前記支持部は、前記各基体を、それぞれの被接合面が互いに対向した姿勢で、当該対向する方向に対して接離自在に移動できるように支持することを特徴とする。
【0021】
表面処理方法の一態様は、前記表面処理装置を用いた方法であって、前記チャンバ内に収容した前記基体の表面を活性化する活性化工程と、前記活性化工程後の前記基体の表面に水酸基を形成する水酸基形成工程と、を有しているものである。
【0022】
前記活性化工程は、前記容器内に反応性ガスを吸気して当該反応性ガスのプラズマを発生し、当該反応性ガスのプラズマによって発生した活性種を前記チャンバ内に供給することにより、前記基体の表面を活性化する。
【0023】
そして、前記水酸基形成工程は、前記チャンバ内に収容した前記基体の表面に対し、前記不飽和炭化水素ガスおよびオゾン濃度50体積%超の前記オゾンガスをそれぞれ供給することにより、当該不飽和炭化水素ガスおよび当該オゾンガスの両者のラジカル反応により発生するOHラジカルを当該基体の表面に曝露して、当該基体の表面に対して水酸基を形成することを特徴とする。
【0024】
また、前記活性化工程において、前記反応性ガスのプラズマによって発生した活性種による前記基体の表面の活性化深度が、1nm~100nmの範囲内であることを特徴としてもよい。
【0025】
基体接合方法の一態様は、前記表面処理装置を用い、前記基体を接合対象として接合する方法であって、前記チャンバ内に収容した前記基体の被接合面を活性化する活性化工程と、前記活性化工程後の前記基体の被接合面に水酸基を形成する水酸基形成工程と、前記水酸基を形成した2個の前記基体を被接合面にて重ね合わせて積層する積層工程と、前記積層した状態の各基体を加熱することにより、当該各基体を被接合面にて接合する接合工程と、を有しているものである。
【0026】
前記活性化工程は、前記容器内に反応性ガスを吸気して当該反応性ガスのプラズマを発生し、当該反応性ガスのプラズマによって発生した活性種を前記チャンバ内に供給することにより、前記基体の被接合面を活性化する。
【0027】
前記水酸基形成工程は、前記チャンバ内に収容した基体の被接合面に対し、不飽和炭化水素ガスおよびオゾン濃度50体積%超のオゾンガスをそれぞれ供給することにより、当該不飽和炭化水素ガスおよび当該オゾンガスの両者のラジカル反応により発生するOHラジカルを当該被接合面に曝露して、当該被接合面に対して水酸基を形成する。
【0028】
そして、前記接合工程は、前記加熱によって前記水酸基を脱水縮合反応させることを特徴とする。
【0029】
また、前記活性化工程において、前記反応性ガスのプラズマによって発生した活性種による前記基体の被接合面の活性化深度が、1nm~100nmの範囲内であることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0030】
以上示したように本発明によれば、基体の表面にダスト等が付着しないように抑制、および当該基体の表面に水分が残存しないように抑制し、当該基体の表面を所望通り親水化し易くすることに貢献可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】オゾンガスの濃度とOHラジカルの発生効率との特性図(Siウェハ上のフォトレジストのアッシング効果を指標に、オゾン濃度約100体積%とした場合のアッシングレートを1として規格化した図)。
図2】実施例による表面処理装置1Aを説明するための概略構成図(チャンバ1内等を透視している図)。
図3】実施例による装置1Bを説明するための概略構成図(チャンバ1内等を透視している図)。
図4】検証例1による装置1Cを説明するための概略構成図(チャンバ1内等を透視している図)。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の実施形態の表面処理装置,基体接合装置,表面処理方法,基体接合方法は、例えば特許文献1,2のように単にチャンバ内において基体の表面をプラズマ処理や水処理等する構成(いわゆるダイレクトプラズマ方式の構成;以下、単に従来構成と適宜称する)とは、全く異なるものである。すなわち、本実施形態は、チャンバ内に収容した基体を、いわゆるリモートプラズマ方式によって活性化でき、さらに当該活性化した表面に水酸基を形成できる構成である。
【0033】
具体的には、基体を収容可能なチャンバと、当該チャンバの外周側に配置された容器(以下、単にプラズマ発生容器と適宜称する)を有し当該プラズマ発生容器内に反応性ガスを吸気して当該反応性ガスのプラズマを発生可能なプラズマ発生部と、当該チャンバ内に不飽和炭化水素ガスを供給可能な不飽和炭化水素ガス供給部と、当該チャンバ内にオゾンガスを供給可能なオゾンガス供給部と、当該チャンバ内のガスを吸気して当該チャンバの外周側に排出可能なガス排出部と、を構成しているものである。
【0034】
プラズマ発生容器においては、反応性ガスのプラズマにより発生した活性種(以下、単にプラズマ由来活性種と適宜称する)を、チャンバ内(すなわちダウンストリーム側)に供給可能なことを特徴とする。
【0035】
このような本実施形態によれば、チャンバの内壁面や基体の表面にプラズマによるダメージを与えないように抑制(微小なダスト等が発生しないように抑制)でき、当該基体の表面に水分等が残存しないように抑制することもできる。
【0036】
また、チャンバの外周側のプラズマ発生部で発生させたプラズマ由来活性種を、当該チャンバ内の基体の表面に曝露でき、当該表面のダングリングボンドを増やして活性化させることが可能となる。
【0037】
また、チャンバ内の基体の表面(プラズマ由来活性種により活性化した表面)に、不飽和炭化水素ガスおよびオゾンガスの両者のラジカル反応により発生するOHラジカルを曝露でき、当該基体の表面に対して水酸基を形成(例えば水酸基による分子層を形成)できる。このように基体の表面に水酸基を形成する手法であれば、当該基体の表面において、水分が残存しないように抑制することができる。
【0038】
したがって、基体の表面を所望通りに親水化することが容易となる。また、当該親水化した複数個の基体を接合対象とした場合に、当該各基体を被接合面にて所望通り接合することが容易となる。
【0039】
本実施形態は、前述のように、チャンバ内に収容した基体をリモートプラズマ方式でプラズマ由来活性種によって活性化でき、さらに当該活性化した表面に水酸基を形成できる構成であればよい。すなわち、種々の分野(例えば、直接接合分野,プラズマ分野,チャンバ分野,オゾンガス分野,不飽和炭化水素ガス分野,ラジカル反応分野,表面処理分野等)の技術常識を適宜適用し、必要に応じて先行技術文献等を適宜参照して設計変形することが可能であり、その一例として後述の実施例が挙げられる。なお、後述の実施例では、例えば重複する内容について同一符号を適用する等により、詳細な説明を適宜省略する。
【0040】
≪ラジカル反応に係る参考例≫
例えば特許文献3,4では、不飽和炭化水素ガスとオゾンガスとのラジカル反応により発生するOHラジカル等の活性種(酸化種)を利用して、基体(表面処理対象)の表面に付着しているレジストを除去する技術が開示されている。このレジスト除去技術は、オゾンの特性を利用したものであって、例えば熱エネルギー(加熱)やUV照射を施さなくても、当該オゾンが不飽和炭化水素の炭素の2重結合と反応し易いことを利用したものである。
【0041】
前記のようなラジカル反応を利用したレジスト除去技術は、フォトレジスト等の有機物を除去する効果が高く、例えば熱ダメージ無し,プラズマダメージ無しでフォトレジストのアッシングや表面の有機物除去などに実用化されている。
【0042】
ラジカル反応では、まず初期において炭素の2重結合がオゾン分子によって開裂し、これに伴って発生する不安定なメチレン過酸化物が中間体として、さらに分裂反応を起こし、炭酸ガスや水と共にOHラジカルやギ酸等を発生する。このラジカル反応の一例としては、図1のようにオゾンガスの濃度とOHラジカルの発生効率との特性図で表すことができる。
【0043】
この図1によると、オゾンガスが低濃度(例えば50体積%以下)の場合には、OHラジカルの発生効率も低くなってしまうため、当該OHラジカル等は中間反応において消費され易い。すなわち、OHラジカルの発生が増幅される多段反応パスが少なくなってしまい、所望の表面処理をすることが困難になることが読み取れる。一方、オゾンガスが高濃度の場合には、OHラジカルが高濃度で発生し、さらに多段反応の過程でも多量のOHラジカルが発生し易くなることが読み取れる。
【0044】
また、従来のオゾンガス発生装置(例えば一般的な放電方式のオゾナイザ)では、供給可能なオゾンガスが低濃度(例えば最大オゾン濃度が23体積%程度)であったが、近年、オゾンガスを高濃度で安全に発生させることが可能な装置(例えば、明電舎製のピュアオゾンジェネレータ)が出現したことにより、ラジカル反応を応用した表面処理技術が種々検討され始めている。
【0045】
例えば特許文献5,6では、OHラジカルを利用して基体の表面を酸化し、さらに水酸基を主とする親水基を形成(親水基による分子層)して、当該表面を改質する技術が開示されている。この改質技術では、基体に物理的ダメージ等を与えることなく、当該基体の表面を改質できることとされている。
【0046】
具体的に、特許文献5,6では、チャンバ内に不飽和炭化水素ガスおよびオゾンガスを供給することにより、当該チャンバ内の基体の表面付近にてラジカル反応を起こし、当該ラジカル反応で発生したOHラジカル等によって当該基体の表面を改質する方法が開示されている。また、チャンバにおける基体と対向する位置に設けたシャワーヘッド(特許文献5では符号9、特許文献6では符号10または15)により、不飽和炭化水素ガスおよびオゾンガスを供給し、OHラジカルを基体の表面に効率よく曝露できるようにした構成も開示されている。
【0047】
このシャワーヘッドは、当該シャワーヘッドの内部に、不飽和炭化水素ガス供給流路と、オゾンガス供給流路と、が互いに分離した状態(非連通状態)で設けられているものである。また、シャワーヘッドにおける基体と対向する側の面には、不飽和炭化水素ガス供給流路に連通した噴出孔と、オゾンガス供給流路に連通した噴出孔と、がそれぞれ複数個設けられている。
【0048】
このようなシャワーヘッドを適用することにより、チャンバ内の基体の表面付近にて、不飽和炭化水素ガスおよびオゾンガスのラジカル反応を起こし易くなる。
【0049】
以上のようなラジカル反応を適用し構成によれば、例えば従来構成のように水処理を行わなくても、当該基体の表面に水酸基を形成(表面を水酸基で修飾)して親水化することが可能となる。また、基体の表面に水分が残存しないように抑制することも可能となる。
【0050】
さらに、チャンバ内においては、ラジカル反応によるエネルギー(化学反応エネルギー)が作用することはあっても、従来構成のようなプラズマ処理等によるエネルギー(プラズマダメージを与え得るエネルギー)が作用することは回避できる。
【0051】
なお、基体の表面の活性度が低い場合(ダングリングボンドが少ない場合)、単に当該基体の表面付近にて不飽和炭化水素ガスおよびオゾンガスのラジカル反応を起こすだけでは、当該基体の表面に十分な量の水酸基を形成することが困難となり、所望通りに親水化できないこともあり得る。
【0052】
一方、本実施形態においては、たとえ基体の表面の活性度が低い場合であっても、当該基体の表面をリモートプラズマ方式でプラズマ由来活性種によって活性化でき、その活性化した表面に十分な量の水酸基を形成することが容易となり、所望通りに親水化し易くなる。
【0053】
≪実施例≫
<表面処理装置の構成例>
図2に基づいて、実施例による表面処理装置1Aの概略構成例を説明する。この表面処理装置1Aにおいては、基体10を収容可能なチャンバ1と、当該チャンバ1の外周側に配置されたプラズマ発生容器21を有しているプラズマ発生部2と、当該チャンバ1内に不飽和炭化水素ガスを供給可能な不飽和炭化水素ガス供給部3と、当該チャンバ1内にオゾンガスを供給可能なオゾンガス供給部4と、当該チャンバ1内のガスを吸気して当該チャンバ1の外周側に排出可能なガス排出部5と、を主として備えている。
【0054】
図中のチャンバ1の場合、当該チャンバ1内に収容した基体10を支持台61で支持可能な支持部6が、設けられている。また、チャンバ1の上方側においては、支持部6に支持された基体10の被処理面(または被接合面)11と対向するように、シャワーヘッド7が設けられている。
【0055】
図中のプラズマ発生部2の場合、誘導結合型プラズマを発生できる構成となっている。プラズマ発生容器21には、当該プラズマ発生容器21内に反応性ガスを吸気するための吸気配管22が、設けられている。この吸気配管22には、当該吸気配管22を開閉する等により反応性ガスの吸気流量を調整可能な吸入バルブ23が、設けられている。また、プラズマ発生容器21のチャンバ1側(すなわちダウンストリーム側)には、当該プラズマ発生容器21内のガス等(反応性ガスのプラズマの発生後に残存するガス、およびプラズマ由来活性種)を当該チャンバ1内に供給可能な供給配管24が、設けられている。
【0056】
プラズマ発生容器21の外周側には、当該プラズマ発生容器21内にプラズマを発生させるための電極部(例えばプラズマ発生容器21の外周面に沿ってコイル状に延在した電極部)25と、当該電極部25に高周波電力を印加可能な電源26と、が設けられている。
【0057】
不飽和炭化水素ガス供給部3は、不飽和炭化水素ガスを供給するための供給配管31と、当該供給配管31を開閉する等により不飽和炭化水素ガスの供給流量を調整可能な吸入バルブ32と、を備えている。
【0058】
図中の不飽和炭化水素ガス供給部3の場合、供給配管31がシャワーヘッド7に接続されており、当該シャワーヘッド7内の不飽和炭化水素ガス供給流路(図示省略)および噴出口73を介して、不飽和炭化水素ガスをチャンバ1内に供給できる態様となっている。
【0059】
オゾンガス供給部4は、オゾンガスを供給するための供給配管41と、当該供給配管41を開閉する等によりオゾンガスの供給流量を調整可能な吸入バルブ42と、を備えている。
【0060】
図中のオゾンガス供給部4の場合、供給配管41がシャワーヘッド7に接続されており、当該シャワーヘッド7内のオゾンガス供給流路(不飽和炭化水素ガス供給流路とは非連通状態になっている流路;図示省略)および噴出口74を介して、不飽和炭化水素ガスをチャンバ1内に供給できる態様となっている。
【0061】
ガス排出部5は、チャンバ1内のガスを吸気して当該チャンバ1の外周側に排気するための排気配管51と、当該排気配管51を開閉する等により当該チャンバ1内のガスの排出流量を調整可能な排出バルブ52と、当該チャンバ1内のガスを吸気するための吸引力を発生する真空ポンプ(オゾンに耐性のあるドライポンプ等)53と、を備えている。
【0062】
このようなガス排出部5の場合、例えば真空ポンプ53の吸引力によって、チャンバ1内を減圧状態(内圧が大気圧よりも低圧な状態)に維持するように制御して、当該チャンバ1内のガスを吸気し、当該ガスをチャンバ1の外周側に排出することが可能となる。
【0063】
以上示した表面処理装置1Aの各構成要素は、図外の制御部によって適宜制御できるように構成、例えばプラズマ発生部2,不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4,ガス排出部5を適宜制御できるように構成することが挙げられる。
【0064】
例えば、プラズマ発生部2では、吸入バルブ23,電源26等を介して、反応性ガスのプラズマの出力エネルギーの大きさや、チャンバ1内に供給するプラズマ由来活性種の供給流量を適宜設定できるように制御することが挙げられる。プラズマ由来活性種の供給流量については、例えばプラズマ発生容器21において流量計等を適宜用いて流量制御したり、圧力計等を適宜用いて圧力制御等することが可能である。
【0065】
具体例としては、処理対象である基体1の種類や被処理面11の状態(表面粗さや、自然酸化膜の厚さ等の状態)に応じて、当該被処理面11を後述の活性化工程S1により所望の活性化深度(例えば、FT-IR法,XPS法等により測定可能な活性化深度)で活性化できるように、プラズマ由来活性種の供給流量を制御することが挙げられる。より具体的には、プラズマ由来活性種による被処理面11の活性化深度が数nm~数百nm程度(例えば1nm~100nm程度)となるように制御することが挙げられる。
【0066】
このように被処理面11を活性化することにより、後述の水酸基形成工程S2において所望の親水化が達成し易くなり、更に後述の積層工程S3,接合工程S4を経て所望通りに接合することも可能となる。
【0067】
不飽和炭化水素ガス供給部3では、吸入バルブ32等を介して、不飽和炭化水素ガスの供給流量を適宜設定できるように制御し、オゾンガス供給部4では、吸入バルブ42等を介して、オゾンガスの供給流量を適宜設定できるように制御することが挙げられる。
【0068】
ガス排出部5では、排出バルブ52,真空ポンプ53等を介して、チャンバ1内のガスの排出流量および当該チャンバ1内の減圧状態を制御することが挙げられる。
【0069】
チャンバ1内の減圧状態は、例えばプラズマ発生部2,不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4から各々のガスを供給している間において、基体10の被処理面11の所望の親水化を実施できる範囲で、適宜調整することが可能である。例えば、排出バルブ52の開度を適宜制御し、真空ポンプ53を適宜稼動させることにより、チャンバ1内の減圧状態を調整することが可能である。
【0070】
具体例として、プラズマ発生部2からのガス(プラズマ由来活性種を含んだガス)を供給する間においては、チャンバ1内を10-2×数Pa~数百Pa以下(例えば0.01Pa~100Pa程度)となるように減圧調整することが挙げられる。
【0071】
不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4から各々のガスを供給している間においては、数千Pa以下(例えば1000Pa程度以下)、好ましくは数百Pa以下、より好ましくは数十Pa以下(例えば50Pa程度以下)になるように、減圧調整することが挙げられる。
【0072】
<表面処理装置1Aによる基体10の親水化の一例>
表面処理装置1Aにより基体10の被処理面11を親水化する場合、例えば以下に示すような活性化工程S1,水酸基形成工程S2を順に行うことが挙げられる。
【0073】
まず、活性化工程S1では、プラズマ発生容器21内に反応性ガスを吸気しながら、電源26の高周波電力を電極部25に印加することにより、当該プラズマ発生容器21内に反応性ガスのプラズマを発生させ、これによりプラズマ由来活性種を発生させる。そして、前記のように発生させたプラズマ由来活性種をチャンバ1内に供給することにより、基体10の被処理面11をプラズマ由来活性種に曝露して活性化する。
【0074】
次に、水酸基形成工程S2では、チャンバ1内の基体10の被処理面11に対し、不飽和炭化水素ガス供給部3の不飽和炭化水素ガスおよびオゾンガス供給部4のオゾンガスをそれぞれ供給する。これにより、基体10の被処理面11付近にて、不飽和炭化水素ガスおよびオゾンガスのラジカル反応を起こし、当該ラジカル反応により発生するOHラジカルを被処理面11に曝露して、当該被処理面11に対して水酸基を形成する。
【0075】
<親水化した基体10の接合の一例>
基体10を接合対象とする場合には、前述のような活性化工程S1,水酸基形成工程S2を行って親水化した被処理面11を被接合面とし、例えば以下に示すような積層工程S3,接合工程S4を順に行って接合することが挙げられる。
【0076】
まず、積層工程S3では、活性化工程S1,水酸基形成工程S2を経て水酸基を形成した2個の基体10を、被処理面11にて重ね合わせて積層(仮接合)する。この積層状態にした各基体10は、被処理面11にて互いに圧接(例えば1MPa以上で圧接)し、十分密着させておくことが好ましい。
【0077】
そして、接合工程S4では、前記積層工程S3にて積層状態にした各基体10を加熱することにより、前記水酸基を脱水縮合反応させる。これにより、各基体10が、被処理面11にて接合されることとなる。
【0078】
<基体10の支持構成等の一例>
活性化工程S1,水酸基形成工程S2,積層工程S3,接合工程S4(以下、適宜纏めて単に工程S1~S4と称する)においては、基体10を支持部6により適宜支持して行うことが挙げられるが、当該支持部6による支持構成等は特に限定されるものではない。例えば、チャンバ1内において、複数個の基体10を支持する支持構成としてもよく、これにより当該各基体10において同時に各工程S1~S4を行うことが可能となる。
【0079】
また、例えば図3に示す装置1Bのように、チャンバ1内に収容した複数個の基体10を移動自在に支持した態様や、当該各基体10を加圧や加温できる態様にしてもよい。
【0080】
図3に装置1Bの場合、当該チャンバ1内において2つの基体10a,10bをそれぞれ支持することが可能な支持部6Bを、備えている。支持部6Bは、2つの基体10a,10bそれぞれを支持し互いに対向して配置されている一対の支持台61a,61bと、当該支持台61a,61bが前記対向する方向(以下、単に対向方向と適宜称する)に対して接離自在に移動できるように当該支持台61a,61bそれぞれの外周縁側を支持する一対の支持アーム62a,62bと、当該支持アーム62a,62bを前記対向方向に沿って回転自在に支持する回転軸63と、を備えたものとなっている。
【0081】
このように構成された支持部6Bは、例えばチャンバ1の外周側の操作部(図示省略)により、回転軸63を軸にして支持アーム62a,62bを回転操作でき、支持台61a,61bを対向方向に接離するように移動できるものとなっている。また、支持台61a,61bには、当該支持台61a,61bに支持された基体10a,10bをそれぞれ加温することが可能な加温部(図示省略)が備えられているものとする。
【0082】
装置1Bにおいては、基体10a,10bを接合対象として適用し、工程S1~S4を適宜行うことが可能である。まず、活性化工程S1を行う場合、図3に示すように、2つの基体10a,10bを、それぞれの一端側面である被処理面(被接合面)11が互いに対向した姿勢で離反して位置するように、支持台61a,61bに支持する。そして、当該支持状態(以下、単に基体支持状態と適宜称する)において、プラズマ発生容器21内に反応性ガスを吸気しながら、電源26の高周波電力を電極部25に印加することにより、当該プラズマ発生容器21内に反応性ガスのプラズマを発生させ、これによりプラズマ由来活性種を発生させる。そして、前記のように発生させたプラズマ由来活性種をチャンバ1内に供給することにより、基体10a,10bそれぞれの被処理面11をプラズマ由来活性種に曝露して活性化する。
【0083】
次に、水酸基形成工程S2を行う場合、基体支持状態において、不飽和炭化水素ガス供給部3,オゾンガス供給部4から、それぞれ不飽和炭化水素ガス,オゾンガスを供給する。これにより、基体10a,10bそれぞれの被処理面11付近でラジカル反応が起こり、当該被処理面11に水酸基が形成されることとなる。
【0084】
この後、積層工程S3においては、支持部6Bを操作して、支持台61a,61bを対向方向に接近させることにより、基体10a,10bそれぞれの被処理面11を重ね合わせて積層し互いに圧接することができる。そして、接合工程S4においては、前記積層(圧接)した状態の基体10a,10bを加温部によって加温することにより、水酸基の脱水縮合反応が起こり、各基体10a,10bが被処理面11にて接合されることとなる。
【0085】
したがって、以上のような装置1Bによれば、同一のチャンバ1内において、いわゆるin-situで基体10a,10bの工程S1~S4を行うことができる。すなわち、装置1Bにおいては、単に基体10a,10bの被処理面11を親水化するだけでなく、当該基体10a,10bを接合する装置(基体接合装置)として適用可能となる。
【0086】
例えば、表面処理装置1Aの場合、チャンバ1により活性化工程S1,水酸基形成工程S2を行った後、当該チャンバ1から基体10を取り出して積層工程S3,接合工程S4を行うことが挙げられるが、この場合、基体10の被処理面11には少なからず水分が残存し得ることが考えられる。一方、装置1Bによれば、前記のように工程S1~S4をin-situで行うことができるため、被処理面11に水分が残存しないように抑制し易くなる。
【0087】
<反応性ガス,不飽和炭化水素ガス,オゾンガスの一例>
反応性ガスは、活性化工程S1において当該反応性ガスのプラズマを発生でき、これによりプラズマ由来活性種を発生して基体10の被処理面11を活性化し得るものであればよく、種々の態様が適用可能である。反応性ガスの具体例としては、酸素,アルゴン,窒素等の成分を含有して成るガスが挙げられ、当該成分を複数含有している混合ガスも挙げられる。
【0088】
不飽和炭化水素ガス,オゾンガスは、それぞれ水酸基形成工程S2においてラジカル反応を起こし、被処理面11に対して水酸基を形成し得るものであればよく、種々の態様が適用可能である。
【0089】
不飽和炭化水素ガスの具体例としては、エチレン,プロピレン,アセチレン,ブタジエン,ベンゼン,トルエン,O‐キシレン,スチレン,α‐ブチレン等のガスが挙げられる。また、オゾンガスの具体例としては、オゾン濃度が50体積%超のオゾンガス、より好ましくは高濃度(例えば80体積%以上、あるいは90体積%以上)のオゾンガスが挙げられる。
【0090】
<基体10の一例>
基体10は、活性化工程S1,水酸基形成工程S2によって被処理面11を活性化して水酸基を形成できるものを適用し、当該基体10を接合対象とする場合には、当該活性化工程S1,水酸基形成工程S2の後に積層工程S3,接合工程S4を経て接合できるものを適用することが可能であり、特に限定されるものではないが、必要に応じて、予め当該被処理面11を平坦化処理(例えば、CMP等により、原子レベルで十分小さい表面粗度となるように平坦化処理)しておくことが挙げられる。
【0091】
また、水酸基形成工程S2や接合工程S4がそれぞれ比較的低温で行うことが可能であるため、例えば基体10が基板またはフィルム等の場合、シリコン基板等の比較的耐熱性が高い基板等に限定されることはなく、耐熱性が比較的低い合成樹脂で形成された基板等であってもよい。
【0092】
一例としては、シリコン基板,ガラス基板,GaN基板,SiC基板,ダイヤモンド基板等のようにMEMS,半導体,FPD等に適用されている各種基板や、金属基板,フィルム状基板等や、シリコン酸化膜(SiO膜)が設けられている基板も挙げられ、これらの基板から同種または異種のものを選択して適用することが挙げられる。
【0093】
基体10が樹脂を用いてなる場合、当該樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、アラミド樹脂、オレフィン樹脂、ポリプロピレン、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等を用いたものが挙げられる。
【0094】
その他、PE(ポリエチレン)、PEN(ポリエチレンナフタレート)、POM(ポリオキシメチレン、または、アセタール樹脂)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、ABS樹脂(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン共重合合成樹脂)、PA(ポリアミド)、PFA(4フッ化エチレン、パーフルオロアルコキシエチレン共重合体)、PI(ポリイミド)、PVD(ポリ二塩化ビニル),アクリル樹脂等を用いたものも挙げられる。
【0095】
≪検証例1≫
表面処理装置1Aを、後述の条件(1)~(4)の何れかに従って適用して、基体10の親水化を行った後、当該基体10の被処理面11の水接触角(°)を観察し、その結果を後述の表1に示した。
【0096】
なお、基体10には、一端面側に熱酸化膜が形成されているシリコンウェハを適用し、当該熱酸化膜の表面(親水化前の水接触角が54°の表面)を被処理面11とした。また、活性化工程S1は、反応性ガスとして窒素ガスを適用し、当該反応性ガスのプラズマの出力エネルギーを150W、プラズマ発生容器21内の圧力を200Pa、チャンバ1内の圧力(処理圧力)を10Pa、処理時間8分に設定して行った。
【0097】
水酸基形成工程S2は、不飽和炭化水素ガス,オゾンガスとしてエチレンガス,高濃度オゾン濃度80体積%以上)オゾンガスをそれぞれ適用し、不飽和炭化水素ガスの供給流量を40sccm、オゾンガスの供給流量を200sccm、チャンバ1内の圧力(処理圧力)を40Pa、処理時間1分に設定して行った。
【0098】
条件(1)…活性化工程S1のみを行って親水化(水酸基形成工程S2は省略)。
条件(2)…水酸基形成工程S2のみを行って親水化(活性化工程S1は省略)。
条件(3)…活性化工程S1,水酸基形成工程S2の両方を行って親水化。
条件(4)…活性化工程S1の後、従来構成の水処理を行って親水化(水酸基形成工程S2は省略)。
【0099】
【表1】
【0100】
表1に示すように、条件(1)により親水化した基体10の被処理面11は、条件(2)により親水化した場合と比較して、水接触角が小さく抑制されていた。条件(1)の場合、活性化工程S1によって、被処理面11にダングリングボンドの形成や表面窒化が起き、大気中の水分と反応して親水化されたものと考えられる。条件(2)の場合は、水酸基形成工程S2のOHラジカルにより、予め被処理面11に存在していたものと思われるダングリングボンドへの水酸基修飾や有機汚染の除去が少なからず起こったものの、条件(1)の場合と比較して、親水化が不十分であったものと考えられる。
【0101】
一方、条件(3)の場合には、活性化工程S1によって活性化した被処理面11(活性化工程S1によって発生したダングリングボンドや表面窒化した被処理面11)に対し、水酸基形成工程S2のOHラジカルによる水酸基修飾が起こり、大気中の水分を利用せずとも十分な親水化が達成されたものと考えられる。
【0102】
<検証例2>
次に、前記条件(1)~(4)の何れかに従って親水化した基体10を、当該条件(1)~(4)毎に2つ用意し、当該2つの基体10において積層工程S3,接合工程S4を経て接合して、その接合強度(J/m)を観測し、その結果を表2に示した。
【0103】
【表2】
【0104】
表2に示すように、条件(3)により親水化した基体10においては、条件(1),(2),(4)により親水化した場合と比較して、最も高い接合強度が得られた。条件(3)の場合、活性化工程S1によって活性化した被処理面11に対して、水酸基形成工程S2のOHラジカルによる水酸基修飾が効果的に行われたことが考えられる。なお、条件(4)の場合においては、活性化工程S1後の水処理によって被処理面11に余分な水分が残存したため、当該被処理面11での接合が阻害され、接合強度が低くなってしまったものと考えられる。
【0105】
<検証例3>
次に、図4に示す従来構成の装置1Cにおいて、後述の条件(5)~(8)の何れかに従って適用して、検証例1と同様に基体10を親水化した後、検証例2と同様に基体10の接合強度(J/m)を観測し、その結果を後述の表3に示した。
【0106】
図4の装置1Cは、表面処理装置1Aと同様の構成であるが、プラズマ発生部2の替わりに、ダイレクトプラズマ方式のプラズマ発生部2Cを適用した構成となっている。
【0107】
このプラズマ発生部2Cにおいては、反応性ガスを吸気するための吸気配管22がシャワーヘッド7に接続されており、当該シャワーヘッド7内の反応性ガス供給流路(不飽和炭化水素ガス供給流路やオゾンガス供給流路とは非連通状態になっている流路;図示省略)および噴出口75を介して、当該反応性ガスをチャンバ1内に供給できる構成となっている。また、支持台61を電極として適用し、当該支持台61とシャワーヘッド7との両者に対し、電源26の高周波電力を印加できる構成となっている。
【0108】
装置1Cにおいては、まず後述の活性化工程S11を行ってから、水酸基形成工程S2,積層工程S3,接合工程S4を順に行った。この活性化工程S11では、チャンバ1内に反応性ガスを供給しながら、電源26の高周波電力を支持台61とシャワーヘッド7との両者に印加した。これにより、当該チャンバ1内に反応性ガスのプラズマを発生させ、これによりプラズマ由来活性種を発生させて基体10の被処理面11に曝露し活性化した。
【0109】
なお、活性化工程S11は、反応性ガスとして窒素ガスを適用し、当該反応性ガスのプラズマの出力エネルギーを375W、チャンバ1内の圧力(処理圧力)を500Pa、処理時間30秒に設定して行った。
【0110】
条件(5)…活性化工程S11のみを行って親水化(水酸基形成工程S2は省略)。
条件(6)…水酸基形成工程S2のみを行って親水化(活性化工程S11は省略)。
条件(7)…活性化工程S11,水酸基形成工程S2の両方を行って親水化。
条件(8)…活性化工程S11の後、従来構成の水処理を行って親水化(水酸基形成工程S2は省略)。
【0111】
【表3】
【0112】
表3に示すように、条件(5)~(8)により親水化した基体10においては、条件(1)~(4)により親水化した場合と比較して、接合強度が低くなっている傾向となった。条件(5)~(8)の場合、活性化工程S11で発生したプラズマによるイオン等がチャンバ1の内壁面やシャワーヘッド7等に衝突(エッチング等)する等により、当該チャンバ1内に微小なダスト等が発生して、基体10の被処理面11に付着し、所望の接合が阻害されたものと考えられる。
【0113】
なお、条件(8)の場合、基体10の被処理面11に付着したダスト等が水処理によって除去された可能性はある。しかしながら、当該水処理によって被処理面11に余分な水分が残存したため、当該被処理面11での接合が阻害され、接合強度が低くなってしまったものと考えられる。
【0114】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変更等が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変更等が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0115】
10(10a,10b)…基体
11…被処理面(被接合面)
1…チャンバ
2…プラズマ発生部
3…不飽和炭化水素ガス供給部
4…オゾンガス供給部
5…ガス排出部
6…支持部
【要約】
【課題】基体の表面にダスト等が付着しないように抑制、および当該基体の表面に水分が残存しないように抑制し、当該基体の表面を所望通り親水化し易くすることに貢献可能な技術を提供する。
【解決手段】基体10を収容可能なチャンバ1と、チャンバの外周側に配置されたプラズマ発生容器21内に反応性ガスを吸気して当該反応性ガスのプラズマを発生可能なプラズマ発生部2と、チャンバ1内に不飽和炭化水素ガスを供給可能な不飽和炭化水素ガス供給部3と、チャンバ1内にオゾンガスを供給可能なオゾンガス供給部4と、チャンバ1内のガスを吸気してチャンバ1の外周側に排出可能なガス排出部5と、を備える。プラズマ発生容器21は、反応性ガスのプラズマにより発生した活性種を、チャンバ1内(ダウンストリーム側)に供給する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4