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特許7628654ラップド結合Vベルトおよびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-01-31
(45)【発行日】2025-02-10
(54)【発明の名称】ラップド結合Vベルトおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F16G 5/06 20060101AFI20250203BHJP
   F16G 5/20 20060101ALI20250203BHJP
   B29D 29/10 20060101ALI20250203BHJP
【FI】
F16G5/06 D
F16G5/20 A
B29D29/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024193031
(22)【出願日】2024-11-01
【審査請求日】2024-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2023195203
(32)【優先日】2023-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】高場 晋
【審査官】金田 直之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-37257(JP,A)
【文献】特開2022-102656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/20
F16G 5/06
B29D 29/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト本体部が外被布で被覆された複数のラップドVベルト部と、前記複数のラップドVベルト部を各ラップドVベルト部の外周面で連結するタイバンドとを含むラップド結合Vベルトであって、
前記ラップドVベルト部の外周面が、前記外被布で被覆された被覆領域と、被覆されていない非被覆領域とを有し、
前記被覆領域が、外周面の少なくとも一方の側部に形成され、この被覆領域を被覆する外被布が、前記ラップドVベルト部の側面も被覆している、ラップド結合Vベルト。
【請求項2】
前記被覆領域および非被覆領域が、ベルト長さ方向に延びて形成されている、請求項1記載のラップド結合Vベルト。
【請求項3】
前記被覆領域が、外周面の両側部に形成されている、請求項1または2記載のラップド結合Vベルト。
【請求項4】
前記非被覆領域の面積割合が、前記ラップドVベルト部の外周面の面積に対して、25~95%である、請求項1または2記載のラップド結合Vベルト。
【請求項5】
前記ベルト本体部が、1~3層の外被布で被覆されている、請求項1または2記載のラップド結合Vベルト。
【請求項6】
前記ベルト本体部が、複数層の外被布で被覆されている、請求項1または2記載のラップド結合Vベルト。
【請求項7】
前記ベルト本体部が、複数層の外被布で被覆され、
前記複数層の外被布のうち、最も外側に位置する第1の外被布が、外周面で前記被覆領域を形成し、
この第1の外被布よりも内側に位置する1または複数の第2の外被布が、外周面を被覆しない、請求項1または2記載のラップド結合Vベルト。
【請求項8】
前記タイバンドが、少なくとも繊維を含む、請求項1または2記載のラップド結合Vベルト。
【請求項9】
ベルト本体部前駆体を外被布前駆体で被覆して、ラップドVベルト部前駆体を形成する被覆工程と、
前記被覆工程で得られた複数本の前記ラップドVベルト部前駆体の外周面を、タイバンド前駆体で連結する連結工程とを少なくとも含む、ラップド結合Vベルトの製造方法であって、
前記被覆工程において、前記ベルト本体部前駆体の内周面および両側面を被覆するとともに、側面を被覆する外被布前駆体で外周面の少なくとも一方の側部を被覆し、かつ、外周面の一部の領域を被覆しない、請求項1または2記載のラップド結合Vベルトの製造方法。
【請求項10】
前記被覆工程で得られたラップドVベルト部前駆体の外周面側を被覆する外被布前駆体を切除または除去する除去工程を含まない、請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
前記被覆工程において、前記外被布前駆体の幅が、前記ベルト本体部前駆体の長さ方向に垂直な断面形状の周囲長よりも短く、かつ、前記外被布前駆体の幅方向をベルト長さ方向に垂直な方向に向けて被覆する、請求項9記載の製造方法。
【請求項12】
前記被覆工程において、前記ベルト本体部前駆体の内周面と、両側面と、外周面の少なくとも一方の側部とを切れ目のない外被布前駆体で少なくとも被覆する、請求項9記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のラップドVベルト部が幅方向に連結したラップド結合Vベルトおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動力を伝達する伝動用ベルトとして、Vベルト、Vリブドベルト、平ベルトなどの摩擦伝動ベルトが知られている。Vベルトには、摩擦伝動面(V字状側面)が露出したゴム層であるローエッジ(Raw-Edge)タイプ(ローエッジVベルト)と、摩擦伝動面が外被布で覆われたラップド(Wrapped)タイプ(ラップドVベルト)とがある。これらのVベルトは、一般産業用機械、農業機械に広く一般的に用いられている。
【0003】
なお、農業機械などの用途では、摩擦伝動面を含めてベルト全面を全周に亘って外被布(カバー布)で覆ったラップドVベルトが用いられる。その理由は、摩擦伝動面が露出したゴム層であるローエッジVベルトを用いると、伝動面の摩擦係数が高くベルトにかかるストレスが大きくなり早期切断に繋がったり、ベルトが排ワラ、石、木材などを巻き込んだ場合には、伝動面にかかる急激な衝撃によってベルトや伝動機構全体が損傷する虞があるためである。ラップドVベルトを用いることで、伝動面の摩擦係数が小さくなり、適度にスリップしてベルトにかかるストレスや衝撃が緩和される。また、伝動面が保護されて損傷しにくくなる。
【0004】
欧米の大規模な農場で使用される大型の農業機械では、莫大な動力を伝達する必要があり、複数のVベルトを同時に用いる必要が生じる。すなわち、ベルト伝動機構のプーリに対して複数のVベルトを並列させた状態で巻き掛け(多本掛けして)、回転走行させる必要がある。Vベルトを多本掛けして使用する場合、並列した複数のVベルト間において張力差が生じ、安定した動力伝達が損なわれる虞がある。さらには、隣り合うVベルト同士の接触により、ベルトの内周側と外周側とが反転して逆構造となる現象(転覆)が発生する虞がある。
【0005】
そのため、複数のVベルトを並列して走行させる場合、Vベルトと同様の構成を有する環状のVベルト部が、ベルト幅方向に複数連結されて構成された結合ベルト(結合Vベルト)が用いられる。この結合Vベルトでは、複数のVベルト部が並列に並んだ状態でタイバンド(布帛などの結合部材)により連結または結合された形態で構成される。Vベルト部としては、外被布(カバー布)で被覆されたラップドVベルト(ラップドVベルト部)を用いる場合がある。このようなラップドVベルト部をタイバンド(結合部材)で連結した代表的なラップド結合Vベルトについて、概略部分断面斜視図として図1に示す。
【0006】
図1に示すように、このラップド結合Vベルト100は、間隔をおいて平行に並んだ2本のラップドVベルト(ラップドVベルト部)101を備え、2本のラップドVベルト101は、各外周面を布帛で形成された結合部材(タイバンド)102で連結している。各ラップドVベルト101は、ベルト外周側の伸張ゴム層104、ベルト内周側の圧縮ゴム層103、および前記伸張ゴム層104と圧縮ゴム層103との間にベルト長手方向(周長方向、図中のA方向)に沿って埋設された芯体105で形成された無端状のベルト本体(ベルト本体部)と、このベルト本体の周囲をベルト周方向の全長に亘って被覆している外被布106(織物、編物、不織布など)とで形成されている。この例では、芯体105は、ベルト幅方向(図中のB方向)に所定間隔で配列した心線(撚りコード)であり、伸張ゴム層104と圧縮ゴム層103とに接して、両層の間に介在している。
【0007】
より具体的には、特公昭47-34432号公報(特許文献1)に開示されるラップド結合Vベルトが挙げられる。特許文献1に開示されるような従来のラップド結合Vベルトの概略部分断面図(ベルト長さ方向に垂直な断面図)を図2に示す。
【0008】
図2に示す従来のラップド結合Vベルト111では、ベルト幅方向(図1中のB方向)に間隔をおいて、平行に並んだ複数本(図中では2本)のラップドVベルト部Vがタイバンド(結合部材)Tで連結されており、各ラップドVベルト部Vは、ベルト内周側から外周側に向かって圧縮ゴム層112、芯体113、伸張ゴム層114の順に積層された積層構造が、断面逆台形状でベルト長さ方向(周長方向、図1中のA方向)に延びる無端状のベルト本体部と、このベルト本体部の周囲を被覆する外被布(カバー布)115とで構成されている。この外被布115は、切れ目のない(1枚の連続した)布帛で形成され、ベルト本体部の全面(ベルト内周面、両側面および外周面)を被覆しており、内周側で外被布115を重ね合わせ、二層構造を形成している。
【0009】
しかし、このような従来のラップド結合Vベルト111では、ラップドVベルト部VとタイバンドTとが剥離し易いという問題を抱えている。すなわち、ラップドVベルト部Vは、ベルト本体部の全面が外被布115で被覆されており、外周面側を被覆する外被布115aを介してタイバンドTと結合または連結されているため、特に、タイバンドTが布帛で形成される場合などでは、布同士の接着となり、高い接着力で結合または連結するのは困難である。
【0010】
その対策として、ラップドVベルト部の外周面(背面)側からゴム層を露出させることにより、ラップドVベルト部とタイバンドとの接着力を向上させる試みがなされている。例えば、特開2020-37257号公報(特許文献2)には、外被布で被覆された未加硫ゴムベルトの外周側の部分を周方向に亘って切除してゴム層を露出させ、加硫工程において、ゴム層が露出した未加硫ゴムベルトを並列に複数並べた状態で外周側に補強布(タイバンド)を配置して加硫することにより、未加硫ゴムベルトから露出するゴム層と補強布(タイバンド)とが加硫によって結合されるため、外被布と補強布(タイバンド)とを接着させた従来のものよりも接着強度を向上できることが記載されている。また、特開2022-102656号公報(特許文献3)には、半加硫状態にした環状の積層構造体(ベルト本体部前駆体)の上部を砥石またはサンドペーパでバフ加工して補強布(外被布)を除去して半加硫状態の積層構造体を露出させ、上記バフ加工した複数の環状の積層構造体の凹凸のある表面にタイバンドを貼り付け、上記タイバンドが貼り付けられた半加硫状態の複数の環状の積層構造体を完全に加硫する構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特公昭47-34432号公報
【文献】特開2020-37257号公報
【文献】特開2022-102656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
図3に特許文献2~3に開示されたラップド結合Vベルトの概略部分断面図を示す。図3に示すラップド結合Vベルト121では、ラップドVベルト部Vの全面を被覆していた外被布125のうち、外周面側が切除または除去されている点で、図2に示すラップド結合Vベルト111とは異なっている。すなわち、ラップド結合Vベルト121は、ベルト幅方向に間隔をおいて、平行に並んだ複数本(図中では2本)のラップドVベルト部Vが、ベルト内周側から外周側に向かって圧縮ゴム層122、芯体123、伸張ゴム層124の順に積層されたベルト本体部と、このベルト本体部の内周面および両側面を被覆する2段の外被布125とで構成されている。2段の外被布125は内周側で重ね合わされているが、タイバンドTとの連結前の段階では、図2に示すラップド結合Vベルト111の外被布115のように、切れ目のない(1枚の連続した)布帛で形成されていたものである。すなわち、外被布125は、元々ベルト本体部の周囲(外周側も含む全面)を被覆していた1枚の連続した布帛であったが、ラップドVベルト部Vの外周面側を切除することで2つに分割されている。外周面側の切除により伸張ゴム層124が露出し、この露出した伸張ゴム層124の外周面側表面124aがタイバンドTと直接接触しているため、加硫工程により高い接着力でタイバンドTと結合または連結できる。
【0013】
しかし、特許文献2および特許文献3に開示される製造方法では、ラップドVベルト部を外被布で被覆した後に外周面(背面)側からゴム層を露出させる工程が必要であり、特許文献3ではさらに半加硫状態とする工程も必要であるために、工程が複雑になるとともに、材料のロスが発生するというコスト面でのデメリットがあった。また、ラップドVベルト部の背面から外被布が完全に除去されるために、ラップドVベルト部の側面では、タイバンドとの境界部分(図3中の125a)から外被布が剥離し易くなるという構造的な欠点もあった。
【0014】
従って、本発明の目的は、ラップドVベルト部とタイバンドとの接着力を向上できるとともに、ラップドVベルト部の側面とタイバンドとの境界部分での外被布の剥離を抑制できるラップド結合Vベルト、およびその製造方法を提供することにある。
【0015】
本発明の他の目的は、ラップドVベルト部とタイバンドとの接着力を向上できるとともに、生産性も向上可能なラップド結合Vベルト、およびその製造方法を提供することにある。
【0016】
本発明のさらに他の目的は、ラップドVベルト部とタイバンドとの接着力を向上できるとともに、耐摩耗性および耐側圧性にも優れたラップド結合Vベルト、およびその製造方法を提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、ラップドVベルト部とタイバンドとの剥離を抑制でき、耐久性(耐久寿命)に優れたラップド結合Vベルト、およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ラップドVベルト部の外周面において、外被布で被覆された被覆領域と、被覆されていない非被覆領域とを形成するとともに、ラップドVベルト部側面を被覆する外被布で外周面の側部を被覆して被覆領域を形成すると(側面から外周面側に折り込むように被覆すると)、タイバンドとの接着力を有効に向上できるのみならず、タイバンドとの境界部分における外被布の剥離も抑制できることを見いだし、本発明を完成した。すなわち、本発明は、下記態様などを含んでいてもよい。
【0019】
態様[1]:ベルト本体部が外被布で被覆された複数のラップドVベルト部と、前記複数のラップドVベルト部を各ラップドVベルト部の外周面で連結するタイバンドとを含むラップド結合Vベルトであって、
前記ラップドVベルト部の外周面が、前記外被布で被覆された被覆領域と、被覆されていない非被覆領域とを有し、
前記被覆領域が、外周面の少なくとも一方の側部に形成され、この被覆領域を被覆する外被布が、前記ラップドVベルト部の側面も被覆している、ラップド結合Vベルト。
【0020】
態様[2]:前記被覆領域および非被覆領域が、ベルト長さ方向に延びて形成されている、態様[1]記載のラップド結合Vベルト。
【0021】
態様[3]:前記被覆領域が、外周面の両側部に形成されている、態様[1]または[2]記載のラップド結合Vベルト。
【0022】
態様[4]:前記非被覆領域の面積割合が、前記ラップドVベルト部の外周面の面積に対して、25~95%(例えば25~85%)である、態様[1]~[3]のいずれかに記載のラップド結合Vベルト。
【0023】
態様[5]:前記ベルト本体部が、1~3層の外被布で被覆されている、態様[1]~[4]のいずれかに記載のラップド結合Vベルト。
【0024】
態様[6]:前記ベルト本体部が、複数層の外被布で被覆されている、態様[1]~[5]のいずれかに記載のラップド結合Vベルト。
【0025】
態様[7]:前記ベルト本体部が、複数層の外被布で被覆され、
前記複数層の外被布のうち、最も外側に位置する第1の外被布が、外周面で前記被覆領域を形成し(外周面の一部の領域を被覆し)、
この第1の外被布よりも内側に位置する1または複数の第2の外被布が、外周面を被覆しない(前記被覆領域を形成しない)、態様[1]~[6]のいずれかに記載のラップド結合Vベルト。
【0026】
態様[8]:前記タイバンドが、少なくとも繊維を含む、態様[1]~[7]のいずれかに記載のラップド結合Vベルト。
【0027】
態様[9]:ベルト本体部前駆体を外被布前駆体で被覆して、ラップドVベルト部前駆体を形成する被覆工程と、
前記被覆工程で得られた複数本の前記ラップドVベルト部前駆体の外周面を、タイバンド前駆体で連結する連結工程とを少なくとも含む、ラップド結合Vベルトの製造方法であって、
前記被覆工程において、前記ベルト本体部前駆体の内周面および両側面を被覆するとともに、側面を被覆する外被布前駆体で外周面の少なくとも一方の側部を被覆し、かつ、外周面の一部の領域を被覆しない、態様[1]~[8]のいずれかに記載のラップド結合Vベルトの製造方法。
【0028】
態様[10]:前記被覆工程で得られたラップドVベルト部前駆体の外周面側を被覆する外被布前駆体を切除または除去する除去工程を含まない、態様[9]記載の製造方法。
【0029】
態様[11]:前記被覆工程において、前記外被布前駆体の幅が、前記ベルト本体部前駆体の長さ方向に垂直な断面形状の周囲長よりも短く、かつ、前記外被布前駆体の幅方向をベルト長さ方向に垂直な方向に向けて被覆する、態様[9]または[10]記載の製造方法。
【0030】
態様[12]:前記被覆工程において、前記ベルト本体部前駆体の内周面と、両側面と、外周面の少なくとも一方の側部とを切れ目のない(1枚の連続した)外被布前駆体で少なくとも被覆する、態様[9]~[11]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明では、ラップドVベルト部の外周面において、外被布で被覆された被覆領域と、被覆されていない非被覆領域とを形成し、かつ、ラップドVベルト部側面を被覆する外被布で外周面の少なくとも一方の側部を被覆して被覆領域を形成する(側面から外周面側に折り込むように被覆する)ため、ラップドVベルト部とタイバンドとの接着力を有効に向上できるとともに、ラップドVベルト部の側面とタイバンドとの境界部分における外被布の剥離を有効に抑制することもできる。さらに、前記接着力の向上と、生産性の向上(または不良率の低減)を両立することもできる。これらに加えて、さらに、耐摩耗性の向上および耐側圧性の向上を充足することもできる。しかも、ラップドVベルト部とタイバンドとの剥離を抑制でき、耐久性(耐久寿命)に優れたラップド結合Vベルトを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、従来のラップド結合Vベルトの一例を示す概略部分断面斜視図である。
図2図2は、従来のラップド結合Vベルトの他の例を示す概略部分断面図である。
図3図3は、従来のラップド結合Vベルトのさらに他の例を示す概略部分断面図である。
図4図4は、本発明のラップド結合Vベルトの一例を示す概略部分断面図である。
図5図5は、本発明のラップド結合Vベルトの他の例を示す概略部分断面図である。
図6図6は、本発明のラップド結合Vベルトのさらに他の例を示す概略部分断面図である。
図7図7は、本発明のラップド結合Vベルトの別の例を示す概略部分断面図である。
図8図8は、実施例、参考例および比較例で得られたラップド結合Vベルトの非被覆領域の割合と、タイバンドの剥離力との関係を示すグラフである。
図9図9は、実施例、参考例で得られたラップド結合Vベルトの耐摩耗性(摩耗率)の評価に使用した2軸走行試験機のレイアウトを示す概略図である。
図10図10は、実施例、参考例で得られたラップド結合Vベルトの耐久寿命の評価に使用した3軸走行試験機のレイアウトを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に、必要により添付図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一のまたは機能が共通する要素(または部材)には同じ符号を付す場合がある。
【0034】
本発明のラップド結合Vベルトは、ベルト本体部が外被布で被覆された複数のラップドVベルト部と、前記ラップドVベルト部を各外周面で連結するタイバンドとを含み、ラップドVベルト部の外周面が、外被布で被覆された被覆領域と、被覆されていない非被覆領域とを有している。本発明のラップド結合Vベルトの一例として、概略部分断面図を図4に示す。
【0035】
図4に示すラップド結合Vベルト1では、ラップドVベルト部V(またはベルト本体部)の外周面が、外被布5で被覆された被覆領域5aと、被覆されていない非被覆領域(伸張ゴム層4が露出した部分)4aとを備えている点で、図1~3に示す従来のラップド結合Vベルトとは異なっている。
【0036】
すなわち、ラップド結合Vベルト1は、ベルト幅方向に間隔をおいて、平行に並んだ複数本(図中では2本)のラップドVベルト部Vが、ベルト内周側から外周側(背面側)に向かって圧縮ゴム層2、芯体(芯体層または心線)3、伸張ゴム層4の順に積層されたベルト本体部と、このベルト本体部の周囲を被覆する外被布5とで構成され、この外被布5が、ベルト内周面と、両側面と、外周面の一部の領域とを被覆することで、ラップドVベルト部Vの外周面側に前記被覆領域5aおよび非被覆領域(伸張ゴム層4の露出部)4aが形成されている。
【0037】
なお、被覆領域5aおよび非被覆領域(伸張ゴム層4の露出部)4aはベルト長さ方向に延びて形成されており、他の要素(圧縮ゴム層2、芯体3、伸張ゴム層4、外被布5およびタイバンド(結合部材)T)と同様に、ベルト長さ方向または周方向の全長または全周にわたって形成されているのが好ましい。
【0038】
このラップド結合Vベルト1では、非被覆領域4aにおいて露出した伸張ゴム層4の露出部(露出面)がタイバンドTと直接接触できるため、伸張ゴム層4を形成する際の架橋によって高い接着力でタイバンドTと結合または連結できる。
【0039】
また、非被覆領域(伸張ゴム層4の露出部)4aはベルト外周面の中央部または内部(外周面において、ベルト幅方向の両端部から離間した内側の領域)に形成され、被覆領域5aはベルト外周面の両側部(外周面において、ベルト幅方向の両端部近傍の領域)に形成されている。この例では、外被布5が切れ目のない(連続した)布帛で形成されているため、ベルト内周面、両側面、および外周面の一部の領域(外周面の両側部の被覆領域5a)は切れ目なく(連続した形態で)被覆されている。そのため、ベルト内周面および両側面を被覆する外被布5の端部が、ベルト本体部およびタイバンドTの間に被覆領域5aとして折り込まれた(または埋設された)ような形態になっている。このように、外被布5の端部が折り込まれた(または埋設された)形態(すなわち、被覆領域5aを被覆する外被布5が、前記ラップドVベルト部Vの側面も被覆している形態)では、外被布5の端部がプーリなどと接触しないため、図3に示す従来のラップド結合Vベルト121とは異なって、ラップドVベルト部Vの側面とタイバンドTとの境界部分における外被布5の剥離を有効に抑制できる。
【0040】
さらに、この例のように、ベルト断面(ベルト長さ方向に垂直な断面)の周方向において、外被布が切れ目のない(連続した)布帛で形成されていると、製造方法の項で後述する被覆工程において、1枚の連続した外被布前駆体(布帛)でベルト長さ方向に沿って連続的に被覆できるため、生産性を有効に向上できる。
【0041】
なお、この例では、外被布5として、ベルト断面(ベルト長さ方向に垂直な断面)の周方向において切れ目のない(1枚の連続した)布帛を用いているが、2以上の布帛の端部を接合(連結)または部分的に重ね合わせて接合した布帛を用いてもよい。例えば、図4における外被布5を、2枚の布帛がベルト内周面または一方の側面で重ね合わせて(例えば、図3に示す従来のラップド結合Vベルト121の外被布125のように、ベルト内周面で重ね合わせて)接合された形態としてもよい。すなわち、一方の布帛が、ベルト内周面、一方の側面および一方の被覆領域を連続的に被覆し、この布帛とベルト内周面で接合された他方の布帛が、ベルト内周面、他方の側面および他方の被覆領域を被覆してもよい。このような態様では、圧縮ゴム層の内周面側に補強布層などを設けたベルト本体部を形成しなくても、ベルト内周面側を有効に補強できる。
【0042】
図5に本発明のラップド結合Vベルトの他の例の概略部分断面図を示す。図5に示すラップド結合Vベルト11では、外周面の一方の側部に被覆領域15aを形成し、他方の側部には被覆領域を形成しなかった点(外周面の一方の側部のみに形成された被覆領域15a以外の残部を非被覆領域14aとした点)で、図4に示すラップド結合Vベルト1と異なっている。そのため、圧縮ゴム層12および芯体13は前記ラップド結合Vベルト1の圧縮ゴム層2および芯体3と同様であり、伸張ゴム層14および外被布15は、それらの形状が非被覆領域14aおよび被覆領域15aに対応して異なっていること以外は、伸張ゴム層4および外被布5と同様である。このような態様では、非被覆領域14aの面積が大きく、接着力をより有効に向上できる。
【0043】
また、一方の側部に被覆領域を形成する場合、ラップド結合Vベルトのベルト幅方向の最も外側[すなわち、ベルト幅方向の最も外側(両端)のラップドVベルト部において、ベルト幅方向外側の外周面側部]で被覆領域を少なくとも形成するのが好ましい。例えば、2本のラップドVベルト部を有するラップド結合Vベルトの場合、図5に示すような位置関係でベルト幅方向の両端に被覆領域を少なくとも形成するのが好ましい。このような態様では、外被布の剥離を有効に抑制できる。すなわち、ラップド結合Vベルトの背面(タイバンド側)にアイドラプーリやテンションプーリ(テンショナ)などを備えたレイアウトで使用する場合、ベルト幅方向の両端部は、これらのプーリのフランジ部[ベルトの逸脱を防止するためにプーリの厚み方向(軸方向)両側部に形成された規制部または規制壁]との接触頻度が高くなり易い。そのため、ベルト幅方向の最も外側では外被布がより剥離し易い傾向にあるが、ベルト幅方向の最も外側(両端)に被覆領域を形成することで、外被布の剥離を有効に抑制できる。
【0044】
図6に本発明のラップド結合Vベルトのさらに他の例の概略部分断面図を示す。図6に示すラップド結合Vベルト21は、外被布を2層とした点で図4に示すラップド結合Vベルト1と異なっており、他の構成(圧縮ゴム層22、芯体23など)はラップド結合Vベルト1と同様である。図6のラップド結合Vベルト21では、ベルト本体部の周囲が、外側に位置する第1の外被布(外側外被布)25と、この第1の外被布よりも内側(ベルト本体部側)に位置する第2の外被布(内側外被布)26とで被覆されている。内側の第2の外被布26は、図4のラップド結合Vベルト1における外被布5と同様に、切れ目のない(連続した)布帛で形成され、ベルト内周面、両側面、および外周面の一部の領域(外周面の両側部の被覆領域)26aを切れ目なく(連続した形態で)被覆しており、この第2の外被布26に沿って、切れ目のない(連続した)布帛で形成された第1の外被布25がベルト外側(第2の外被布26の外側)を同様に被覆して、ベルト外周面の両側部の被覆領域25aを形成している。このように外被布を複数層とした態様では、Vベルト部側面において外被布の摩耗が進行しても、ベルト本体部のゴムが露出するのを有効に防止できる。
【0045】
なお、この例においても図4のラップド結合Vベルト1と同様に、非被覆領域24a[伸張ゴム層24の露出部(露出面)]がタイバンドTと直接接触できるため、架橋によって高い接着力でタイバンドTと結合または連結できる。また、被覆領域25a,26aを被覆する外被布25,26がベルト側面も被覆する(すなわち、外被布25,26の端部がタイバンドTとの境界部分で折り込まれるまたは埋設される)ため、境界部分における外被布25,26端部からの剥離を有効に抑制できる。さらに、製造方法の項で後述する被覆工程において、生産性を有効に向上できる。
【0046】
また、この例では、双方の外被布25,26は、ベルト本体部外周面の同じ領域を被覆しているが、外被布を複数層とする場合、複数の外被布は互いに同一のまたは異なる領域を被覆して被覆領域を形成していてもよい。例えば、第1の外被布(外側外被布)25の各被覆領域25aが、第2の外被布(内側外被布)26の各被覆領域26aよりも外周面中央部側まで延びて形成された形態[外周面の一方の側部から他方の側部に向かって、被覆領域25a(26aと積層)、被覆領域25a(単層)、非被覆領域24a、被覆領域25a(単層)、被覆領域25a(26aと積層)の順に並ぶ形態]であってもよく;一方の側部では被覆領域25aが被覆領域26aよりも外周面中央部側まで延びて形成され、他方の側部では被覆領域26aが被覆領域25aよりも外周面中央部側まで延びる形態[外周面の一方の側部から他方の側部に向かって、被覆領域25a(26aと積層)、被覆領域25a(単層)、非被覆領域24a、被覆領域26a(単層)、被覆領域25a(26aと積層)の順に並ぶ形態]であってもよい。また、複数層の外被布のうち、必ずしも全ての外被布が被覆領域を形成していなくてもよい。
【0047】
例えば、図7に本発明のラップド結合Vベルトの別の例の概略部分断面図を示す。図7に示すラップド結合Vベルト31は、内側に位置する第2の外被布(内側外被布)36がベルト外周面を被覆していない(被覆領域を形成していない)点で図6に示すラップド結合Vベルト21と異なっており、他の構成(圧縮ゴム層32、芯体33など)は前記ラップド結合Vベルト21(または1)と同様である。すなわち、図7のラップド結合Vベルト31では、内側に位置する第2の外被布(内側外被布)36は、外周面側で被覆領域を形成することなく、ベルト内周面および両側面のみを切れ目のない(連続した)布帛で被覆するのに対して、外側に位置する第1の外被布(外側外被布)35では、切れ目のない(連続した)布帛がベルト内周面および両側面を被覆するとともに、外周面の両側部も被覆して被覆領域35aを形成している(布帛の両端部がタイバンドTとの境界部分で折り込まれまたは埋設されている)。このような態様では、図6のラップド結合Vベルト21と同様に、Vベルト部側面において外被布の摩耗が進行しても、複数層の外皮布によりベルト本体部のゴムが露出するのを有効に防止できるだけでなく、被覆領域が単層の外被布で形成されるため、ベルトの屈曲性が低下するのを有効に抑制できる。また、外被布の材料費も削減でき、コスト的にも有利である。
【0048】
なお、ベルト屈曲性が良好である(小さい力で曲げられる)と、屈曲により発生する応力が小さいために亀裂が発生し難く耐久性を向上できる傾向にあるとともに、屈曲のために消費される(発熱して散逸する)エネルギーが少なくなるため、伝動効率を向上できる傾向にある。
【0049】
なお、この例においても図6(または図4)のラップド結合Vベルト21(または1)と同様に、非被覆領域34a[伸張ゴム層34の露出部(露出面)]がタイバンドTと直接接触できるため、架橋によって高い接着力でタイバンドTと結合または連結できる。また、被覆領域35aを被覆する第1の外被布(外側外被布)35がベルト側面も被覆する(すなわち、外側に位置する第1の外被布35の端部がタイバンドTとの境界部分で折り込まれるまたは埋設される)ため、第2の外被布(内側外被布)36の端部が折り込まれていなくても、境界部分において外被布端部からの剥離を有効に抑制できる。さらに、製造方法の項で後述する被覆工程において、生産性を有効に向上できる。
【0050】
また、図7における外被布は、最も外側の第1の外被布(外側外被布)35と、その内側の第2の外被布(内側外被布)36との2層で構成されているが、必ずしも2層である必要はなく、内側の第2の外被布が複数積層されていてもよい。内側の第2の外被布が複数層である場合、第2の外被布の少なくとも1層がベルト外周面側を被覆する被覆領域を形成していてもよいが、ベルトの屈曲性向上や材料費削減の観点から、複数の第2の外被布(内側外被布)の全てが被覆領域を形成することなく、最も外側の第1の外被布(外側外被布)のみが被覆領域を形成するのが好ましい。そのため、1または複数の第2の外被布(内側外被布)は、ベルト外周面を被覆することなく、ベルト内周面および両側面から選択された少なくとも一部の領域(好ましくはベルト内周面および両側面)を被覆するのが好ましい。
【0051】
[外被布]
外被布(カバー布)は、慣用の布帛で形成されている。布帛としては、例えば、織布、編布(緯編布、経編布)、不織布などの布材などが挙げられる。これらのうち、平織、綾織、朱子織などの形態で製織した織布、経糸と緯糸との交差角が90°を超え120°以下程度の広角度で製織した織布、編布などが好ましく、一般産業用や農業機械用の伝動ベルトのカバー布として汎用されている織布[経糸と緯糸との交差角が直角である平織布、経糸と緯糸との交差角が90°を超え120°以下程度の広角度である平織布(広角度帆布)]が特に好ましい。さらに、耐久性が要求される用途では、広角度帆布であってもよい。
【0052】
なお、外被布は、屈曲性の観点から、経糸および緯糸の延びる方向が、ベルト長さ方向と交差する方向となるように配置するのが好ましく、経糸および緯糸の方向が、ベルト長さ方向に対して、それぞれ、例えば45~75°(例えば50~70°)、好ましくは55~65°程度となるように配置してもよい。
【0053】
布帛を構成する繊維としては、例えば、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維など)、ポリアミド系繊維(ポリアミド6繊維、ポリアミド66繊維、ポリアミド46繊維、アラミド繊維など)、ポリエステル系繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維など)、ビニルアルコール系繊維(ポリビニルアルコール繊維、エチレン-ビニルアルコール共重合体繊維、ビニロン繊維など)、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維などの合成繊維;セルロース系繊維(セルロース繊維または綿、セルロース誘導体の繊維など)、麻、羊毛などの天然繊維;炭素繊維などの無機繊維が汎用される。これらの繊維は、単独で使用した単独糸であってもよく、二種以上を組み合わせた混紡糸であってもよい。
【0054】
これらの繊維のうち、機械的特性および経済性に優れる点から、ポリエステル系繊維とセルロース系繊維との混紡糸が好ましい。
【0055】
ポリエステル系繊維は、ポリアルキレンアリレート系繊維であってもよい。ポリアルキレンアリレート系繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリC2-4アルキレン-C8-14アリレート系繊維などが挙げられる。
【0056】
セルロース系繊維には、セルロース繊維(植物、動物またはバクテリアなどに由来するセルロース繊維)、セルロース誘導体の繊維が含まれる。セルロース繊維としては、例えば、木材パルプ(針葉樹、広葉樹パルプなど)、竹繊維、サトウキビ繊維、種子毛繊維(綿繊維(コットンリンター)、カポックなど)、ジン皮繊維(麻、コウゾ、ミツマタなど)、葉繊維(マニラ麻、ニュージーランド麻など)などの天然植物由来のセルロース繊維(パルプ繊維);ホヤセルロースなどの動物由来のセルロース繊維;バクテリアセルロース繊維;藻類のセルロースなどが例示できる。セルロース誘導体の繊維としては、例えば、セルロースエステル繊維;再生セルロース繊維(レーヨン、キュプラ、リヨセルなど)などが挙げられる。
【0057】
ポリエステル系繊維とセルロース系繊維との質量割合は、例えば前者/後者=90/10~10/90、好ましくは80/20~20/80、さらに好ましくは70/30~30/70(特に60/40~40/60)程度である。
【0058】
布帛を構成する繊維の平均繊度は、例えば5~30番手、好ましくは10~25番手、さらに好ましくは15~25番手程度である。
【0059】
布帛(原料布帛)の目付量は、例えば100~500g/m、好ましくは200~400g/m、さらに好ましくは250~300g/m程度である。
【0060】
布帛(原料布帛)が織布の場合、布帛の糸密度(経糸密度、緯糸密度)は、例えば60~100本/50mm、好ましくは65~90本/50mm、さらに好ましくは70~80本/50mm程度である。
【0061】
外被布は、ベルト本体部との接着性を向上させるために、慣用の接着処理(または表面処理)[例えば、接着成分を含む処理液などによる処理]が施されていてもよい。接着処理に用いる接着成分(または表面処理剤)としては、例えば、イソシアネート(ポリイソシアネート化合物)、エポキシ樹脂(エポキシ化合物)、シランカップリング剤、アミノ樹脂、ゴム成分(ゴムラテックスまたはゴム糊など)、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とゴムまたはラテックス(L)とを含むRFL液[例えば、レゾルシン(R)とホルムアルデヒド(F)とが縮合物(RF縮合物)を形成し、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴムなどのゴム成分を含むRFL液]などが挙げられる。これらは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもでき、同一または異なる接着成分で複数回に亘り順次に処理してもよい。
【0062】
これらの接着成分のうち、ゴム成分、RFL液、またはこれらの組合せが好ましい。また、ゴム成分は、ベルト本体部(伸張ゴム層、圧縮ゴム層など)のゴム成分と同種(好ましくは同一)のゴム成分を含む接着成分が好ましい。
【0063】
ゴム成分による接着処理は、例えば、ゴム成分を含むゴム組成物を溶剤に溶かしたゴム糊に布帛をソーキング(浸漬)する処理、固形状の前記ゴム組成物を布帛にフリクション(擦り込み)する処理などの接着処理であってもよい。接着処理は、布帛の少なくとも一方の表面を処理すればよく、少なくともベルト本体部と接触する面(特に両面)を処理するのが好ましい。
【0064】
外被布に付着させるゴム組成物(接着処理用のゴム組成物)を構成するゴム成分としては、後述する伸張ゴム層の項で例示するゴム成分と好ましい態様を含めて同様のゴム成分などが挙げられる。接着処理用のゴム組成物中のゴム成分は、伸張ゴム層および/または圧縮ゴム層を形成する架橋ゴム組成物中のゴム成分と同種(特に、同一)のゴム成分であるのが好ましい。
【0065】
また、接着処理用のゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、必要に応じて、慣用の添加剤を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。添加剤としては、例えば、後述する伸張ゴム層の項で例示する添加剤と好ましい態様を含めて同様の添加剤などが挙げられる。
【0066】
接着処理後の布帛(処理布帛)の目付量は、例えば300~800g/m、好ましくは400~600g/m、さらに好ましくは450~550g/m程度である。
【0067】
外被布の平均厚み(多層の場合、各層の平均厚み)は、例えば0.4~2mm、好ましくは0.45~1.4mm、さらに好ましくは0.5~1mm(例えば0.55~0.8mm)程度である。外被布の厚みが薄すぎると、耐摩耗性が低下する虞があり、厚すぎると、ベルトの屈曲性が低下する虞がある。
【0068】
伝動面である外被布の摩擦係数は、例えば0.9~1、好ましくは0.91~0.96、さらに好ましくは0.92~0.95程度である。なお、本明細書および特許請求の範囲において、摩擦係数は、特開2022-85864号公報に記載の方法で測定できる。
【0069】
外被布は、ベルト外周面側において、被覆領域と、非被覆領域とを形成できれば、1枚の外被布で形成された単層であってもよく、耐摩耗性をより向上し易い観点から、複数枚の外被布が積層された多層または複数層(例えば2~5層、好ましくは2~4層、さらに好ましくは2~3層程度、特に2層)であってもよいが、生産性や耐側圧性などの点から、1~3層[例えば、単層(1プライ)または2層(2プライ)]が好ましく、生産性、耐摩耗性および耐側圧性のバランスが良好で、耐久性に優れる観点から、2~3層がさらに好ましく、2層が特に好ましい。外被布の層数が多すぎると、生産性が低下し易くなるとともに、耐側圧性も低下(それに伴って耐久性も低下)する虞があり、少なすぎると、後述する製造方法に基づいて製造する際に、被覆工程でベルト側面(伝動面)に外被布で被覆されていない箇所が生じ易く(側面からゴムが露出し易く)、生産性や耐摩耗性が低下する虞があるのみならず、ベルト走行中に摩耗した外被布からゴムが滲出または露出し易く、それに伴うプーリとの摩擦係数の増加および発熱(発熱によるラップドVベルト部とタイバンドとの接着力の低下)により、耐久性が低下する虞がある。
【0070】
外被布が複数層(複数枚の外被布が積層された形態)である場合、複数の外被布はそれぞれ、ベルト本体部の外周面において、互いに同一のまたは異なる領域を被覆して被覆領域を形成していてもよい。また、複数層の外被布のうち、必ずしも全ての外被布が被覆領域を形成していなくてもよく、少なくとも1層の外被布が被覆領域を形成していればよい。例えば、最も外側(プーリ側)に位置する第1の外被布が、ベルト外周面を少なくとも被覆し(被覆領域を形成し)、この第1の外被布(外側外被布)よりも内側(ベルト本体部側)に位置する1または複数の第2の外被布(内側外被布)は、外周面を被覆してもよいが、ベルト屈曲性や材料費削減の観点から、外周面を被覆しない(被覆領域を形成しない)のが好ましい。
【0071】
少なくともベルト内周面および両側面を被覆する外被布は、通常、ベルト長さ方向に延びて形成されている。ベルト外周面において、少なくとも外被布で被覆された被覆領域および被覆されていない非被覆領域は、必ずしもベルト長さ方向に延びて形成されていなくてもよいが、生産性の観点から、ベルト長さ方向に延びて形成されているのが好ましい。外被布を形成する布帛(外被布が複数層の場合は、各層を形成する布帛)は、ベルト断面(ベルト長さ方向に垂直な断面)の周方向および/またはベルト長さ方向において、切れ目のない(1枚の連続した)布帛であるのが好ましい。すなわち、外被布を形成する布帛は、少なくともベルト内周面および両側面[好ましくは、さらに外周面の少なくとも一方の側部(特に、両側部)]を、ベルト長さ方向の全長に亘って被覆可能な1枚の連続した布帛であるのが好ましい。
【0072】
なお、本願において、切れ目のないまたは連続した布帛(外被布または外被布前駆体)とは、被覆工程前(または外被布前駆体)の状態において、独立して巻取り可能な1枚の布帛である限り、接合部(連結部)などを有していてもよいことを意味し、例えば、2以上の布帛の端部を接合(連結)または部分的に重ね合わせて接合した布帛も包含する。
【0073】
被覆領域は、ベルト長さ方向の垂直断面において、ベルト外周面の少なくとも一方の側部(タイバンドとの接着性と、生産性とをより両立し易い点で、好ましくは両側部)に形成されているのが好ましく、この被覆領域(ベルト外周面の側部)を被覆する外被布がベルト側面も被覆する、すなわち、ベルト側面を被覆する外被布の端部がタイバンドとの境界部分において折り込まれているまたは埋設されていると、境界部分から外被布端部が剥離するのを有効に抑制できる点で好ましい。
【0074】
非被覆領域の面積割合は、ラップドVベルト部(架橋後のラップドVベルト部)の外周面の面積(被覆領域および非被覆領域の合計面積)に対して、例えば1~99%(例えば15~97%、好ましくは25~95%)程度であってもよく、また、10~90%(例えば20~90%)程度であってもよく、より好ましくは25~85%(例えば26~83%)、さらに好ましくは30~80%(例えば40~70%)程度であってもよいが、タイバンドとの接着性、耐摩耗性(特に、タイバンドとの境界部分における外被布の剥離抑制し易さ)および生産性(特に、被覆工程における作業性および歩留まりの高さ)のバランスに優れる観点から、特に好ましくは50~90%(例えば55~85%、好ましくは60~80%、さらに好ましくは65~75%)であってもよい。前記面積割合は、外被布が単層(1層)または複数層(特に、単層)である態様における面積割合であってもよい。また、外被布が複数層(例えば2~4層、好ましくは2~3層、特に2層)である場合、非被覆領域の面積割合は、ラップドVベルト部の外周面の面積に対して、例えば20~98%(例えば25~95%)程度であってもよく、好ましくは30~97%(例えば40~95%)、より好ましくは45~96%(例えば50~95%、好ましくは55~85%、なかでも60~80%)、さらに好ましくは60~95%(例えば65~93%、好ましくは65~75%)、なかでも好ましくは68~92%(例えば70~90%)程度であってもよく、タイバンドとの接着性、耐摩耗性(特に、タイバンドとの境界部分における外被布の剥離抑制し易さ)および生産性(特に、被覆工程における作業性および歩留まりの高さ)のバランスに優れる観点から、特に好ましくは50~90%(例えば55~85%、好ましくは60~80%、さらに好ましくは65~75%)程度であってもよい。非被覆領域の割合が少なすぎると、タイバンドとの接着力(または剥離力)を十分に確保できない虞があり、非被覆領域の割合が多すぎると、例えば、後述する製造方法に基づいて製造する際に、被覆工程で外被布をベルト本体部に対して位置合わせし難くなって、ベルト側面(伝動面)において外被布で被覆されていない箇所が生じ易くなる(生産性が低下する)虞がある。なお、ラップド結合Vベルトにおいて、ベルト側面(伝動面)でゴムが露出してしまうと、ベルト側面の摩擦係数が局所的に高くなって、周方向における特性または性質が不均一となったり、耐摩耗性や耐発音性が大きく低下したりする虞があり、ラップド結合Vベルトの用途に利用できない場合がある。しかし、外被布が複数層である場合、非被覆領域の割合が比較的多くても、外被布で被覆されていない箇所が生じる(生産性が低下する)のを有効に抑制し易い傾向にある。
【0075】
なお、本願において、非被覆領域の面積割合は、後述する実施例に記載の方法に従って測定できる。
【0076】
[ベルト本体部]
ベルト本体部は、内周面と、両側面と、外周面の一部の領域とを外被布により被覆され、ラップドVベルト部を形成している。例えば、ラップドVベルト部は、内周側の圧縮ゴム層、外周側の伸張ゴム層、およびその間に介在する、心線を埋設した芯体層(接着ゴム層)を有する無端状でV字状断面のベルト本体(ベルト本体部)と、このベルト本体のV字状断面の周囲をベルト長さ方向(ベルト周方向)の全長に渡って被覆する前記外被布(カバー布)とからなり、前記外被布で被覆されたV字状断面の左右の両側面が摩擦伝動面とされたVベルト(Vベルト部)であってもよい。なお、V字状断面において、ベルト幅が広い側を外周側、ベルト幅が狭い側を内周側とする。また、必要に応じて、圧縮ゴム層の内周面側に、ベルト長さ方向に沿って形成された補強布層を含んでいてもよい。
【0077】
ラップドVベルト部(ベルト本体部)の外周面側(伸張ゴム層の表面)では、外被布で被覆されていない非被覆領域が形成されて伸張ゴム層が露出しており、この露出した伸張ゴム層が、架橋(後述する製造方法における連結工程)の際にタイバンドと強固に接着または結合できるため、十分な接着力(剥離力)を確保できる。
【0078】
(伸張ゴム層)
伸張ゴム層は、ラップドVベルトのゴム組成物(ゴム成分を含むゴム組成物)として慣用的に利用されている加硫または架橋ゴム組成物で形成されていてもよい。
【0079】
ゴム成分
伸張ゴム層を形成する架橋ゴム組成物中のゴム成分としては、公知の加硫または架橋可能なゴムおよび/またはエラストマーから選択でき、例えば、ジエン系ゴム[天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム(CR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム(ニトリルゴム);水素化ニトリルゴム(水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマーを含む)などの前記ジエン系ゴムの水添物など]、オレフィン系ゴム[例えば、エチレン-α-オレフィン系ゴム(エチレン-α-オレフィンエラストマー)、ポリオクテニレンゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体ゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、アルキル化クロロスルホン化ポリエチレンゴムなど]、エピクロルヒドリンゴム、アクリル系ゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム、フッ素ゴムなどが例示できる。これらのゴム成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0080】
これらのうち、架橋剤(または加硫剤)および架橋促進剤(または加硫促進剤)が拡散し易い点から、エチレン-プロピレン共重合体(EPM)、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)などのエチレン-α-オレフィンエラストマー(エチレン-α-オレフィン系ゴム)、クロロプレンゴムが汎用され、特に、変速ベルトなど高負荷環境で用いる場合、機械的強度、耐候性、耐熱性、耐寒性、耐油性、接着性などのバランスに優れる点から、クロロプレンゴム、EPDMが好ましい。クロロプレンゴムは、硫黄変性タイプであってもよく、非硫黄変性タイプであってもよい。また、クロロプレンゴムよりも耐熱性に優れ、耐候性にも優れるとともに、補強剤の高充填が可能で機械的強度を高め易い点から、EPDMなどのエチレン-α-オレフィンエラストマーが特に好ましい。EPDMなどのエチレン-α-オレフィンエラストマーは、クロロプレンなどに比べて接着性が低い傾向にあり、タイバンドとの剥離が生じ易い。しかし、本発明のラップド結合Vベルトでは、伸張ゴム層のゴム成分としてEPDMなどのエチレン-α-オレフィンエラストマーを用いても、高い接着力でタイバンドと接着でき、タイバンドの剥離を有効に抑制できる。
【0081】
ゴム成分がEPDMなどのエチレン-α-オレフィンエラストマーを含む場合、ゴム成分中のエチレン-α-オレフィンエラストマー(特に、EPDM)の割合は、例えば50質量%以上(特に80~100質量%程度)であってもよく、100質量%(EPDMなどのエチレン-α-オレフィンエラストマーのみ)が特に好ましい。
【0082】
エチレン-α-オレフィンエラストマーにおいて、エチレン-α-オレフィンエラストマー中のエチレンの含有率(エチレン単位の割合)は30質量%以上であってもよく、例えば35~70質量%、好ましくは40~60質量%、さらに好ましくは45~55質量%程度であってもよい。エチレン含有率が多すぎると、加工性および耐亀裂性が低下する虞がある。
【0083】
なお、本願において、エチレン含有率は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを構成する全単位中のエチレン単位の質量割合を意味し、慣用の方法により測定できるが、モノマーとしてのエチレンに基づく割合であってもよい。
【0084】
さらに、本願において、エチレン-α-オレフィンエラストマーが複数種である場合、エチレン含有率は質量比に基づく平均値(平均エチレン含有率)を意味する。すなわち、平均エチレン含有率は、それぞれのエチレン-α-オレフィンエラストマーのエチレン含有率と質量分率との積の合計である。
【0085】
エチレン-α-オレフィンエラストマーにおいて、エチレンとα-オレフィンとの割合(質量比)は、前者/後者=40/60~90/10、好ましくは45/55~80/20、さらに好ましくは50/50~70/30、より好ましくは50/50~60/40程度であってもよい。
【0086】
エチレン-α-オレフィンエラストマー(特に、EPDMなどのエチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体)のジエン含有率(特に、エチリデンノルボルネン含有率)は、例えば0.1~15質量%、好ましくは1~10質量%、さらに好ましくは2~8質量%、より好ましくは3~7質量%、最も好ましくは4~6質量%程度であってもよい。ジエン含有率が多すぎると、高度な耐熱性が担保できない虞がある。ジエン含有率が少なすぎると、加工性および耐亀裂性が低下する虞がある。
【0087】
なお、本願において、ジエン含有率は、エチレン-α-オレフィンエラストマーを構成する全単位中のジエンモノマー単位の質量割合を意味し、慣用の方法により測定できるが、モノマーに基づく割合であってもよい。
【0088】
未架橋のエチレン-α-オレフィンエラストマーのムーニー粘度[ML(1+4)125℃]は、例えば10~85(例えば12~50)、好ましくは15~30、さらに好ましくは18~25程度であってもよい。ムーニー粘度が高すぎると、加工性および耐亀裂性が低下する虞がある。
【0089】
なお、本願において、ムーニー粘度[ML(1+4)125℃]は、JIS K 6300-1(2013)に準じた方法で測定でき、試験条件は、L形ロータを使用し、試験温度125℃、予熱1分、ロータ作動時間4分である。ムーニー粘度は、キャビティ内において表面に溝が設けられたロータと接するように未架橋のエチレン-α-オレフィンエラストマーを充填し、ロータを回転させるのに必要なトルクを測定することにより、ゴムの流動性(加工のしやすさ)を表す指標として用いられる。
【0090】
さらに、本願において、エチレン-α-オレフィンエラストマーが複数種である場合、ムーニー粘度は質量比に基づく平均値(平均ムーニー粘度)を意味する。すなわち、平均ムーニー粘度は、それぞれのエチレン-α-オレフィンエラストマーのムーニー粘度と質量分率との積の合計である。
【0091】
添加剤
前記架橋(加硫)ゴム組成物は前記ゴム成分に加えて、必要に応じて、慣用の添加剤を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。添加剤としては、例えば、フィラー、短繊維、架橋剤(または加硫剤)、共架橋剤または架橋助剤(または加硫助剤)、架橋促進剤(または加硫促進剤)、架橋遅延剤(または加硫遅延剤)、金属酸化物(酸化カルシウム、酸化バリウム、酸化鉄、酸化銅、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛など)、軟化剤(パラフィン系オイル、ナフテン系オイルなどのオイル類など)、加工剤または加工助剤(例えば、ステアリン酸などの脂肪酸、ステアリン酸金属塩などの脂肪酸金属塩、ステアリン酸アマイドなどの脂肪酸アマイド、ワックス、パラフィンなど)、可塑剤[脂肪族カルボン酸系可塑剤(アジピン酸エステル系可塑剤、セバシン酸エステル系可塑剤など)、芳香族カルボン酸エステル系可塑剤(フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤など)、オキシカルボン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、エーテル系可塑剤、エーテルエステル系可塑剤など]、接着性改善剤[例えば、レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物(RF縮合物)、アミノ樹脂(窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの縮合物、例えば、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサアルコキシメチルメラミン(ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサブトキシメチルメラミンなど)などのメラミン樹脂、メチロール尿素などの尿素樹脂、メチロールベンゾグアナミン樹脂などのベンゾグアナミン樹脂など)、これらの共縮合物(レゾルシン-メラミン-ホルムアルデヒド共縮合物など)など]、粘着付与剤、カップリング剤(シランカップリング剤など)、老化防止剤(酸化防止剤、熱老化防止剤、屈曲き裂防止剤、オゾン劣化防止剤など)、安定剤(紫外線吸収剤、熱安定剤など)、難燃剤、着色剤、滑剤、帯電防止剤などを含んでいてもよい。なお、金属酸化物は、ゴム成分の種類などに応じて、架橋剤として作用してもよい。また、接着性改善剤において、レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物およびアミノ樹脂は、レゾルシンおよび/またはメラミンなどの窒素含有環状化合物とホルムアルデヒドとの初期縮合物(プレポリマー)であってもよい。
【0092】
前記フィラーとしては、例えば、カーボンブラック、シリカ、クレイ、炭酸カルシウム、タルク、マイカなどが挙げられる。フィラーは、補強性フィラーを含む場合が多く、このような補強性フィラーは、カーボンブラック、シリカ(補強性シリカ)などであってもよい。なお、通常、シリカの補強性は、カーボンブラックの補強性よりも小さい。これらのフィラーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのフィラーのうち、カーボンブラック、シリカなどの補強性フィラー、クレイが好ましく、少なくとも補強性フィラーを含むのがさらに好ましく、特に、カーボンブラックとシリカとを組み合わせて含むのが好ましい。
【0093】
カーボンブラックは、ASTMにより「N0**」~「N9**」に分類(ヨウ素吸着量に基づき分類)され、従来、ゴム製品の性能などに基づいてもSAF、HAF、GPFなどに分類されており、一次粒子径の小さいN110(SAF)、N220(ISAF)、N330(HAF)などはハードカーボンと称され、一次粒子径の大きいN550(FEF)、N660(GPF)、N762(SRF)などはソフトカーボンと称されることもある。これらのカーボンブラックは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、SRF、ISAF、HAFが好ましく、SRFなどのソフトカーボンがさらに好ましい。
【0094】
ソフトカーボンの平均一次粒子径は、例えば42~100nm、好ましくは45~80nm、さらに好ましくは50~75nm、より好ましくは60~70nmであってもよい。一方、ハードカーボンの平均一次粒子径は、例えば10~38nm、好ましくは15~35nm、さらに好ましくは20~33nm、より好ましくは25~30nmであってもよい。
【0095】
カーボンブラックのDBP吸収量は、例えば50~500mL/100g程度の範囲から選択でき、好ましくは60~120mL/100g(例えば60~80mL/100g)程度であってもよい。
【0096】
なお、本願において、カーボンブラックのDBP吸収量は、JIS K 6217-4(2017)に準じ、非圧縮試料について測定できる値(OAN)を意味する。
【0097】
カーボンブラックのヨウ素吸着量は、例えば5~200g/kg、好ましくは10~140g/kg(例えば15~130g/kg)、さらに好ましくは20~30g/kg程度であってもよい。
【0098】
なお、本願において、カーボンブラックのヨウ素吸着量は、ASTM D1510-17の標準試験法に準拠して測定できる。
【0099】
カーボンブラックのBET比表面積は、例えば10~400m/g、好ましくは15~150m/g(例えば20~120m/g)、さらに好ましくは25~40m/g程度であってもよい。
【0100】
なお、本願において、BET比表面積とは、BET法により窒素ガスを用いて測定した比表面積を意味する。
【0101】
シリカには、乾式シリカ、湿式シリカ、表面処理したシリカなどが含まれる。また、シリカは、製法によって、例えば、乾式法ホワイトカーボン、湿式法ホワイトカーボン、コロイダルシリカ、沈降シリカなどにも分類できる。これらのシリカは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのシリカのうち、表面シラノール基を有するシリカ(無水ケイ酸、含水ケイ酸)が好ましく、表面シラノール基の多い含水ケイ酸はゴム成分との化学的結合力が強い。
【0102】
シリカのBET法による窒素吸着比表面積は、例えば50~400m/g、好ましくは70~300m/g、さらに好ましくは100~250m/g、より好ましくは150~200m/gである。
【0103】
フィラー(特に補強性フィラー)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば10~100質量部、好ましくは20~80質量部(例えば50~70質量部)程度であってもよい。補強性フィラーの割合は、フィラー全体に対して例えば50質量%以上であってもよく、好ましくは75質量%以上(例えば80質量%以上)、さらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。カーボンブラック(特にソフトカーボン)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば0~100質量部(例えば5~80質量部)、好ましくは5~15質量部程度であってもよい。シリカの割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば0~100質量部(例えば10~90質量部)、好ましくは25~75質量部(例えば40~60質量部)程度であってもよい。カーボンブラック(特にソフトカーボン)およびシリカの双方を含む場合、両者の割合は、例えば前者/後者(質量比)=5/95~25/75、好ましくは10/90~20/80程度であってよい。カーボンブラックが多すぎたり、シリカが少なすぎたりすると、粘着性が低下してタイバンドや外被布が剥離し易くなる虞がある。
【0104】
前記短繊維としては、例えば、前記外被布の項において、布帛を構成する繊維として例示した繊維などが挙げられる。これらの短繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの短繊維のうち、ポリエステル系繊維(PET繊維などのポリアルキレンアリレート系繊維など)、セルロース系繊維(綿など)、またはこれらの組合せなどが好ましい。ポリエステル系繊維(PET繊維などのポリアルキレンアリレート系繊維など)とセルロース系繊維(綿など)とを組み合わせる場合、両者の割合は、例えば前者/後者(質量比)=50/50~80/20、好ましくは60/40~70/30程度であってもよい。
【0105】
短繊維の平均繊維径は、例えば2μm以上、好ましくは2~100μm程度であってもよい。短繊維の平均長さは、例えば1~20mm、好ましくは1.5~10mm、さらに好ましくは2~8mm(例えば2.5~6.5mm)程度である。
【0106】
ゴム組成物中の短繊維の分散性や接着性の観点から、短繊維は、慣用の接着処理(または表面処理)[例えば、接着成分を含む処理液などによる処理]が施されていてもよい。接着処理に用いる接着成分(または表面処理剤)としては、例えば、前記外被布の項において例示した成分と同様の成分などが挙げられる。これらは、単独でまたは二種以上組み合わせてもよく、短繊維を同一または異なる接着成分で複数回に亘り順次に処理してもよい。
【0107】
短繊維は、プーリからの押圧に対するベルトの圧縮変形を抑制するため(耐側圧性を向上する観点から)、ベルト幅方向に配向してゴム組成物(ゴム層)中に埋設されていてもよい。
【0108】
短繊維の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば0~50質量部(例えば20~40質量部)、好ましくは0~30質量部(特に、0質量部)程度であってもよい。短繊維の割合が多すぎると、タイバンドとの接着性が低下したり、屈曲性が低下したりする虞がある。
【0109】
架橋剤(または加硫剤)としては、ゴム成分の種類に応じて慣用の成分が使用でき、例えば、有機過酸化物(ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、ジアルキルパーオキサイド、好ましくは1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼンなどのジアルキルパーオキサイドなど)、硫黄系加硫剤[例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、塩化硫黄(一塩化硫黄、二塩化硫黄など)、好ましくは粉末硫黄など]などが挙げられる。これらの架橋剤(または加硫剤)は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの架橋剤(または加硫剤)のうち、タイバンドとの接着力(または剥離力)を向上し易い点から、少なくとも有機過酸化物を含むのが好ましく、有機過酸化物と硫黄系加硫剤との組合せがさらに好ましい。
【0110】
架橋剤(または加硫剤)の割合は、架橋剤(または加硫剤)およびゴム成分の種類に応じて、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば1~20質量部(例えば1.5~10質量部)程度の範囲から選択してもよく、好ましくは2~8質量部(例えば4~7質量部)程度であってもよい。有機過酸化物の割合は、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば0~10質量部(例えば1~8質量部)程度、好ましくは3~7質量部程度であってもよい。硫黄系加硫剤の割合は、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば0~5質量部(例えば1~3質量部)程度、好ましくは0.3~0.7質量部程度であってもよい。有機過酸化物および硫黄系加硫剤の双方を組み合わせる場合、両者の割合は、例えば、前者/後者(質量比)=80/20~99/1、好ましくは85/15~95/5程度であってもよい。有機過酸化物の割合が少なすぎると、耐熱性を向上し難くなる虞がある。
【0111】
共架橋剤(架橋助剤または共加硫剤co-agent)としては、公知の架橋助剤、例えば、多官能(イソ)シアヌレート[例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート(TAC)など]、ポリジエン(例えば、1,2-ポリブタジエンなど)、不飽和カルボン酸の金属塩[例えば、(メタ)アクリル酸亜鉛、(メタ)アクリル酸マグネシウムなどの(メタ)アクリル酸多価金属塩]、オキシム類(例えば、キノンジオキシムなど)、グアニジン類(例えば、ジフェニルグアニジンなど)、多官能(メタ)アクリレート[例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレートなどのアルカンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート]、ビスマレイミド類(脂肪族ビスマレイミド、例えば、N,N’-1,2-エチレンジマレイミド、N,N′-ヘキサメチレンビスマレイミド、1,6’-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)シクロヘキサンなどのアルキレンビスマレイミド;アレーンビスマレイミドまたは芳香族ビスマレイミド、例えば、N,N’-m-フェニレンジマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレジマレイミド、4,4’-ジフェニルメタンジマレイミド、2,2-ビス[4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジフェニルエーテルジマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンジマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼンなど)などが挙げられる。これらの共架橋剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの共架橋剤のうち、多官能(イソ)シアヌレート、多官能(メタ)アクリレート、ビスマレイミド類(N,N’-m-フェニレンジマレイミドなどのアレーンビスマレイミドまたは芳香族ビスマレイミド)が好ましく、ビスマレイミド類を用いる場合が多い。
【0112】
ビスマレイミド類などの共架橋剤(架橋助剤)の割合は、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば0.1~15質量部(例えば0.5~1.5質量部)、好ましくは5~15質量部(例えば7~13質量部)程度であってもよい。共架橋剤(架橋助剤)(特にビスマレイミド類など)が少なすぎると、機械的物性を向上し難くなる虞がある。
【0113】
架橋促進剤(または加硫促進剤)としては、例えば、チウラム系促進剤[例えば、テトラメチルチウラム・モノスルフィド(TMTM)、テトラメチルチウラム・ジスルフィド(TMTD)、テトラエチルチウラム・ジスルフィド(TETD)、テトラブチルチウラム・ジスルフィド(TBTD)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(DPTT)、N,N’-ジメチル-N,N’-ジフェニルチウラム・ジスルフィドなど]、チアゾ-ル系促進剤[例えば、2-メルカプトベンゾチアゾ-ル、2-メルカプトベンゾチアゾ-ルの亜鉛塩、2-メルカプトチアゾリン、ジベンゾチアジル・ジスルフィド(MBTS)、2-(4’-モルホリノジチオ)ベンゾチアゾールなど]、スルフェンアミド系促進剤[例えば、N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミド(CBS)、N,N’-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアジルスルフェンアミドなど]、グアニジン類(ジフェニルグアニジン、ジo-トリルグアニジンなど)、ウレア系またはチオウレア系促進剤(例えば、エチレンチオウレアなど)、ジチオカルバミン酸塩類、キサントゲン酸塩類などが挙げられる。これらの架橋促進剤(または加硫促進剤)は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの架橋促進剤(または加硫促進剤)のうち、TMTD、CBS、MBTSなどが好ましい。
【0114】
架橋促進剤(または加硫促進剤)の割合は、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば0~15質量部(例えば0.1~10質量部)、好ましくは0~5質量部(例えば1~4質量部)、さらに好ましくは0質量部程度であってもよい。
【0115】
金属酸化物(酸化亜鉛など)の割合は、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば1~20質量部(例えば2~10質量部)、好ましくは3~7質量部程度であってもよい。
【0116】
軟化剤(パラフィン系オイルなどのオイル類)の割合は、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば1~30質量部(例えば2~5質量部)、好ましくは5~15質量部程度であってもよい。軟化剤(特に、パラフィン系オイルなどのオイル類)が少なすぎると、粘着性が低下してタイバンドや外被布が剥離し易くなる虞がある。
【0117】
加工剤または加工助剤(ステアリン酸など)の割合は、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば10質量部以下(例えば0~10質量部)、好ましくは0.1~5質量部(例えば0.5~1.5質量部)程度であってもよい。
【0118】
接着性改善剤(レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物、ヘキサメトキシメチルメラミンなど)の割合は、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば0~20質量部(例えば0~10質量部)、好ましくは0~5質量部、さらに好ましくは0質量部程度であってもよい。
【0119】
老化防止剤としては、例えば、ベンズイミダゾール系老化防止剤(2-メルカプトベンズイミダゾール(MBI)、2-メルカプトメチルベンズイミダゾール、またはこれらの亜鉛塩などの金属塩など)、芳香族第二級アミン系老化防止剤[例えば、4,4’-ジオクチルジフェニルアミン(ODPA)、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン(DCD)など]などが挙げられる。これらの老化防止剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、MBI、ODPAが好ましい。
【0120】
老化防止剤の割合は、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば0~15質量部(例えば0.1~1質量部)、好ましくは2~4質量部程度であってもよい。
【0121】
伸張ゴム層の平均厚みは、例えば0.5~10mm(例えば0.5~1.5mm)、好ましくは0.6~5mm、さらに好ましくは0.7~3mm(特に1~2mm)程度であってもよく、外被布の層数などに応じて適宜調整してもよい。
【0122】
(圧縮ゴム層)
圧縮ゴム層は、ラップドVベルトのゴム組成物として慣用的に利用されている加硫または架橋ゴム組成物(ゴム成分を含む架橋ゴム組成物)で形成されていてもよい。
【0123】
圧縮ゴム層を形成する架橋ゴム組成物中のゴム成分としては、例えば、前記伸張ゴム層の項で例示したゴム成分と好ましい態様を含めて同様のゴム成分などが挙げられる。圧縮ゴム層を形成する架橋ゴム組成物中のゴム成分は、伸張ゴム層を形成する架橋ゴム組成物中のゴム成分と同種(特に、同一)のゴム成分であるのが好ましい。
【0124】
また、圧縮ゴム層を形成する架橋ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、必要に応じて、慣用の添加剤を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。添加剤としては、例えば、前記伸張ゴム層の項で例示した添加剤と好ましい態様を含めて同様の添加剤などが挙げられる。
【0125】
なお、圧縮ゴム層および伸張ゴム層を形成する架橋ゴム組成物は、互いに同一または異なっていてもよい。圧縮ゴム層を形成する架橋ゴム組成物が短繊維を含む場合、短繊維は、プーリからの押圧に対するベルトの圧縮変形を抑制するため(耐側圧性を向上する観点から)、ベルト幅方向に配向してゴム組成物(ゴム層)中に埋設されていてもよい。
【0126】
また、圧縮ゴム層は、単層であってもよく、必要に応じて、複数の層(例えば2層以上、好ましくは2~3層程度)で形成してもよい。圧縮ゴム層を複数層で構成する場合、生産性の点から、好ましくはベルト外周側[芯体層(接着ゴム層)側]の第1圧縮ゴム層と、内周側の第2圧縮ゴム層との2層で構成してもよい。また、複数層で構成する場合、各圧縮ゴム層を形成する架橋ゴム組成物は、互いに同一または異なっていてもよく、好ましくは架橋ゴム組成物中のゴム成分が同種(特に、同一)であってもよい。耐側圧性を向上する観点から、ベルト外周側[芯体層(接着ゴム層)側]の第1圧縮ゴム層を、内周側の第2圧縮ゴム層に比べて高硬度の架橋ゴム組成物で形成してもよく、具体的には、架橋ゴム組成物中の添加剤[例えば、フィラー、短繊維、架橋剤(または加硫剤)、共架橋剤または架橋助剤(または加硫助剤)、架橋促進剤(または加硫促進剤)、金属酸化物、軟化剤、加工剤または加工助剤、可塑剤など]の種類や量を調整して、各圧縮ゴム層の硬度を調整してもよい。
【0127】
圧縮ゴム層全体の平均厚みは、例えば1~12mm、好ましくは2~10mm、さらに好ましくは3~8mm(特に4.5~6mm)程度であってもよく、外被布の層数などに応じて適宜調整してもよい。なお、圧縮ゴム層が2層構造である場合、ベルト外周側の第1圧縮ゴム層の平均厚みは、圧縮ゴム層全体の平均厚みに対して、例えば10~90%(例えば10~60%)程度、好ましくは15~50%(例えば20~40%)程度であってもよい。
【0128】
(芯体層、接着ゴム層)
芯体層は、芯体を含んでいればよく、前述のように、芯体のみで形成された芯体層であってもよい。なお、本願において、芯体層が芯体のみで形成されている場合、ベルト本体中で間隔をおいて配設された芯体を芯体層と称し、このような芯体層は、芯体が伸張ゴム層と圧縮ゴム層との界面に配設された形態だけでなく、伸張ゴム層と圧縮ゴム層との界面に配設された芯体の一部または全部が製造の過程で伸張ゴム層または圧縮ゴム層中に埋設された形態も含む。
【0129】
また、芯体層は、層間の剥離を抑制し、ベルト耐久性を向上できる点から、芯体を含む架橋(加硫)ゴム組成物で形成された芯体層(接着ゴム層)であってもよい。芯体を含む架橋ゴム組成物で形成された芯体層は、通常、接着ゴム層と称され、ゴム成分を含む架橋ゴム組成物で形成された層内に、芯体が埋設されている。接着ゴム層は、伸張ゴム層と圧縮ゴム層との間に介在して、伸張ゴム層と圧縮ゴム層と芯体とを接着する。なお、本願において、芯体層(接着ゴム層)は、芯体の全てが接着ゴム層中に埋設された形態だけでなく、製造の過程で接着ゴム層と伸張ゴム層または圧縮ゴム層との界面に芯体が配設された形態も含む。
【0130】
芯体
芯体層に含まれる芯体は、ベルト幅方向に所定の間隔で配列した心線(撚りコード)が好ましい。心線は、ベルトの長さ方向に延びて配設され、通常、ベルトの長さ方向に平行に所定のピッチで並列的に延びて配設されている。芯体(心線)は、接着ゴム層に埋設される場合、その一部が接着ゴム層に埋設されていればよく、耐久性を向上できる点から、接着ゴム層に心線が埋設された形態(心線の全体が接着ゴム層に完全に埋設された形態)であってもよい。
【0131】
心線を構成する繊維としては、例えば、前記外被布の項において、布帛を構成する繊維として例示した繊維などが挙げられる。これらの繊維は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0132】
これらの繊維のうち、高モジュラスの点から、エチレンテレフタレート、エチレン-2,6-ナフタレートなどのC2-4アルキレン-C6-14アリレートを主たる構成単位とするポリエステル系繊維(ポリアルキレンアリレート系繊維)、ポリアミド系繊維(アラミド繊維など)などの合成繊維、炭素繊維などの無機繊維などが汎用され、ポリエステル系繊維(特に、ポリエチレンテレフタレート系繊維、ポリエチレンナフタレート系繊維)、ポリアミド系繊維(特に、アラミド繊維)が好ましく、さらに好ましくはアラミド繊維などのポリアミド系繊維である。
【0133】
これらの繊維は、複数のフィラメントを含むマルチフィラメント糸の形態で使用されてもよい。マルチフィラメント糸の繊度は、例えば1000~3000dtex(例えば1200~2000dtex)程度であってもよい。マルチフィラメント糸は、例えば100~3000本(例えば500~2000本)程度のフィラメントを含んでいてもよく、好ましくは700~1300本程度のフィラメントを含んでいてもよい。
【0134】
心線としては、通常、マルチフィラメント糸を使用した撚りコード(例えば、諸撚り、片撚り、ラング撚りなど、好ましくは諸撚り)を使用できる。心線の平均線径(撚りコードの直径)は、例えば0.5~3mmであってもよく、好ましくは0.6~2.5mm、さらに好ましくは0.7~2mm程度である。撚りコードの総繊度は、例えば10000~50000dtex(例えば22000~28000dtex)程度であってもよい。撚りコードは、例えば1000~30000本(例えば5000~25000本)程度、好ましくは10000~20000本(例えば12000~18000本)程度のフィラメントを含んでいてもよい。撚りコードの下撚り糸の撚り係数は、例えば2~4(例えば2.5~3.5)程度であってもよく、上撚り糸の撚り係数は、例えば2~4(例えば2.5~3.5)程度であってもよい。
【0135】
心線は、接着ゴム層中に埋設させる場合、接着ゴム層を形成する架橋ゴム組成物との接着性を向上させるため、慣用の接着処理(または表面処理)[例えば、接着成分を含む処理液などによる処理]が施されていてもよい。接着処理に用いる接着成分(または表面処理剤)としては、例えば、前記外被布の項において例示した成分と同様の成分などが挙げられる。これらは、単独でまたは二種以上組み合わせてもよく、同一または異なる接着成分で複数回に亘り順次に処理してもよい。
【0136】
前記接着ゴム層は、ラップドVベルトのゴム組成物として慣用的に利用されている加硫または架橋ゴム組成物(ゴム成分を含む架橋ゴム組成物)で形成されていてもよい。
【0137】
接着ゴム層を形成する架橋ゴム組成物中のゴム成分としては、例えば、前記伸張ゴム層の項で例示したゴム成分と好ましい態様を含めて同様のゴム成分などが挙げられる。接着ゴム層を形成する架橋ゴム組成物中のゴム成分は、伸張ゴム層および/または圧縮ゴム層を形成する架橋ゴム組成物中のゴム成分と同種(特に、同一)のゴム成分であるのが好ましい。
【0138】
また、接着ゴム層を形成する架橋ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、必要に応じて、慣用の添加剤を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。添加剤としては、例えば、前記伸張ゴム層の項で例示した添加剤と好ましい態様を含めて同様の添加剤などが挙げられる。
【0139】
接着ゴム層の平均厚みは、例えば0.2~5mm(例えば0.3~3mm)、好ましくは0.3~2mm(例えば0.5~1.5mm)程度であってもよく、外被布の層数などに応じて適宜調整してもよい。
【0140】
(補強布層)
ベルト本体部は、必要に応じて、圧縮ゴム層の内周面(内周側の表面)側に積層された補強布層を含んでいてもよい。すなわち、各ラップドVベルト部は、必要に応じて、圧縮ゴム層の内周面(内周側の表面)と外被布との間に補強布層をさらに含んでいてもよいが、含んでいなくてもよい。
【0141】
補強布層は、例えば、慣用の布帛で形成してもよく、布帛としては、前記外被布の項において例示した布帛と好ましい態様を含めて同様であってもよい。
【0142】
補強布層を形成する布帛は、圧縮ゴム層および外被布との接着性を向上させるために、慣用の接着処理(または表面処理)[例えば、接着成分を含む処理液などによる処理]が施されていてもよい。接着処理に用いる接着成分(または表面処理剤)としては、例えば、前記外被布の項において例示した成分と同様の成分などが挙げられる。これらは、単独でまたは二種以上組み合わせてもよく、同一または異なる接着成分で複数回に亘り順次に処理してもよい。好ましい布帛は、ゴム成分が付着した布帛であり、例えば、ゴム成分を含むゴム組成物を溶剤に溶かしたゴム糊に布帛をソーキング(浸漬)する処理、固形状の前記ゴム組成物を布帛にフリクション(擦り込み)する処理などの接着処理を施した布帛などであってもよく、前記ゴム組成物も好ましい態様を含めて前記外被布の項におけるゴム組成物と同様のゴム組成物が挙げられる。接着処理は、布帛の少なくとも一方の表面を処理すればよく、少なくとも圧縮ゴム層と接触する面を処理するのが好ましく、両面を処理するのが特に好ましい。
【0143】
補強布層の平均厚みは、例えば0.4~2mm、好ましくは0.5~1.4mm、さらに好ましくは0.6~1.2mm程度である。補強布層の厚みが薄すぎると、耐摩耗性の向上効果が低下する虞があり、厚すぎると、ベルトの屈曲性が低下する虞がある。
【0144】
[タイバンド(結合部材)]
タイバンドとしては、慣用の結合Vベルトのタイバンドを利用でき、例えば、ゴム組成物(ゴム成分を含む架橋ゴム組成物)や、帆布などの織布、スダレ(スダレ織物)、ネット(網状構造体またはメッシュ)などの繊維構造体(または布帛)、これらの組合せなどが挙げられる。ラップド結合Vベルトの輪断を有効に抑制できる点から、タイバンドは少なくとも繊維を含むのが好ましい。
【0145】
タイバンドが繊維を含む場合、通常、ラップドVベルト部との接着力(剥離力)が低下し易いことが多いが、本発明のラップド結合Vベルトでは、ラップドVベルト部外周面の非被覆領域との間で高い接着力を確保できるため、接着性と耐輪断性とを両立でき、ラップド結合Vベルトの耐久性を有効に向上できる。
【0146】
繊維を含むタイバンドとしては、例えば、短繊維を含むゴム組成物(例えば、前記伸張ゴム層の項で例示したゴム成分および短繊維を含むゴム組成物)であってもよいが、少なくとも繊維構造体(特に、帆布、スダレなど)を含むのが好ましい。そのため、タイバンドは、繊維構造体を含む連結補強層を少なくとも有していてもよく、必要に応じて、連結補強層の外周側に積層された保護層を備えていてもよい。
【0147】
(連結補強層)
連結補強層は、少なくとも前記繊維構造体(または布帛)を含んでいればよく、繊維構造体は、単独でまたは二種以上組み合わせてもよい。繊維構造体のうち、輪断抑制とベルト長さ方向に対する屈曲性(可撓性)とを両立でき、かつ生産性とのバランスにも優れる点から、スダレ織物が好ましい。
【0148】
スダレ織物の中でも、ベルト幅方向に作用する引張力に対する抵抗力をより向上できる点から、ベルト幅方向に延びる複数の糸状体を含むスダレ織物が好ましく、ベルト幅方向に延びる複数の第1の糸状体(糸条体)と、この複数の第1の糸状体よりも糸密度(配列密度)が低く、ベルト幅方向と交差する方向に延びる複数の第2の糸状体とを含むスダレ織物を用いるのが特に好ましい。
【0149】
なお、本願において、ベルト幅方向に延びる糸状体は、ベルト幅方向に略平行に延びる糸状体を意味する。さらに「略平行」とは、糸状体が延びる方向とベルト幅方向とがなす角度が、例えば10°以下(例えば0~5°)程度、好ましくは3°以下(例えば0~1°、特に略0°)程度であることを意味する。
【0150】
第1の糸状体の糸密度(ベルト長さ方向5cm当たりの糸本数)は、例えば10~300本/50mm、好ましくは50~200本/50mm、さらに好ましくは80~180本/50mm、より好ましくは100~150本/50mm、最も好ましくは110~130本/50mmである。
【0151】
第2の糸状体の糸密度は、例えば1~30本/50mm、好ましくは2~10本/50mm、さらに好ましくは2~8本/50mm、より好ましくは3~7本/50mm、最も好ましくは4~6本/50mmである。
【0152】
第1および第2の糸状体を構成する繊維としては、例えば、前記外被布の項において、布帛を構成する繊維として例示した繊維などが挙げられる。前記繊維のうち、第1の糸状体としては、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維が好ましく、ポリアミド66繊維などの脂肪族ポリアミド繊維が特に好ましい。第2の糸状体としては、セルロース系繊維が好ましく、綿繊維などのセルロース繊維が特に好ましい。
【0153】
第1の糸状体がポリエステル系繊維またはポリアミド系繊維である場合、第1の糸状体の繊度(マルチフィラメント糸などである場合は総繊度)は、例えば100~1000dtex、好ましくは200~800dtex、さらに好ましくは400~600dtexである。
【0154】
第2の糸状体が綿繊維などのセルロース繊維である場合、第2の糸状体の太さ(番手)は、例えば5~100番手、好ましくは10~80番手、さらに好ましくは30~50番手程度である。
【0155】
繊維構造体は、ゴム成分(架橋ゴム組成物)などとの接着性を向上するために、慣用の接着処理(または表面処理)[例えば、接着成分を含む処理液などによる処理]が施されていてもよい。接着処理に用いる接着成分(または表面処理剤)としては、例えば、前記外被布の項において例示した成分と同様の成分などが挙げられる。これらは、単独でまたは二種以上組み合わせてもよく、同一または異なる接着成分で複数回に亘り順次に処理してもよい。
【0156】
繊維構造体の平均厚みは、例えば0.1~0.5mm、好ましくは0.2~0.4mm程度である。繊維構造体の厚みが薄すぎると、層間剥離や輪断の虞があり、厚すぎると、ベルトの屈曲性が低下する虞がある。
【0157】
連結補強層は、繊維構造体(例えば、ゴム成分などの接着処理を施した布帛)で形成されていてもよいが、繊維構造体の剥離の抑制に加えて、層間(ラップドVベルト部および/または保護層との層間)剥離の抑制および輪断抑制(欠損の伝播抑制を含む)の観点から、繊維構造体がゴム成分(連結補強層挟持ゴム)を含むゴム組成物に挟まれる態様(架橋ゴム組成物中に繊維構造体が埋設する態様)とするのが好ましい。
【0158】
連結補強層の架橋ゴム組成物を構成するゴム成分としては、例えば、前記伸張ゴム層の項で例示したゴム成分と好ましい態様を含めて同様のゴム成分などが挙げられる。連結補強層を形成する架橋ゴム組成物中のゴム成分は、伸張ゴム層および/または圧縮ゴム層を形成する架橋ゴム組成物中のゴム成分と同種(例えば、同一)のゴム成分であるのが好ましく、例えば、EPDMなどのエチレン-α-オレフィンエラストマーを含むのが好ましい。
【0159】
エチレン-α-オレフィンエラストマー中のエチレンの含有率(エチレン単位の割合)は25質量%以上(例えば30~70質量%)、好ましくは35~55質量%(例えば40~50質量%)程度であってもよい。エチレン含有率が多すぎると、加工性および耐亀裂性が低下する虞がある。
【0160】
エチレンとα-オレフィンとの割合(質量比)は、例えば、前者/後者=30/70~70/30、好ましくは40/60~60/40、さらに好ましくは45/55~55/45である。
【0161】
エチレン-α-オレフィンエラストマー(特に、EPDMなどのエチレン-α-オレフィン-ジエン三元共重合体)のジエン含有率(特に、エチリデンノルボルネン含有率)は、例えば0.1~15質量%、好ましくは1~12質量%(例えば5~10質量%)、さらに好ましくは6~9質量%(例えば7~8質量%)である。ジエン含有率が多すぎると、高度な耐熱性が担保できない虞がある。ジエン含有率が少なすぎると、加工性および耐亀裂性が低下する虞がある。
【0162】
未架橋のエチレン-α-オレフィンエラストマーのムーニー粘度[ML(1+4)100℃]は、例えば10~85(例えば30~60)、好ましくは35~55(例えば40~50)程度であってもよい。ムーニー粘度が高すぎると、加工性および耐亀裂性が低下する虞がある。
【0163】
なお、本願において、ムーニー粘度[ML(1+4)100℃]は、JIS K 6300-1(2013)に準じた方法で測定でき、試験条件は、L形ロータを使用し、試験温度100℃、予熱1分、ロータ作動時間4分である。ムーニー粘度は、キャビティ内において表面に溝が設けられたロータと接するように未架橋のエチレン-α-オレフィンエラストマーを充填し、ロータを回転させるのに必要なトルクを測定することにより、ゴムの流動性(加工のしやすさ)を表す指標として用いられる。
【0164】
連結補強層の架橋ゴム組成物は前記ゴム成分に加えて、必要に応じて、慣用の添加剤を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。添加剤としては、例えば、前記伸張ゴム層の項で例示した添加剤と同様の添加剤などが挙げられ、フィラー、架橋剤(または加硫剤)、架橋促進剤(または加硫促進剤)、金属酸化物、加工剤または加工助剤、接着性改善剤、老化防止剤などを含むのが好ましい。これらは単独でまたは二種以上組み合わせてもよい。
【0165】
連結補強層の架橋ゴム組成物におけるフィラーとしては、カーボンブラック(HAFなどのハードカーボン)、シリカなどの補強性フィラーが好ましい。フィラー(特に補強性フィラー)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば30~80質量部、好ましくは40~70質量部(例えば50~60質量部)程度であってもよい。補強性フィラーの割合は、フィラー全体に対して例えば50質量%以上であってもよく、好ましくは75質量%以上(例えば80質量%以上)、さらに好ましくは90質量%以上であり、100質量%であってもよい。カーボンブラック(特にハードカーボン)の割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば20~50質量部(例えば25~45質量部)、好ましくは30~40質量部程度であってもよい。シリカの割合は、ゴム成分100質量部に対して、例えば5~40質量部(例えば8~35質量部)、好ましくは10~30質量部(例えば15~25質量部)程度であってもよい。カーボンブラック(特にハードカーボン)およびシリカの双方を含む場合、両者の割合は、例えば前者/後者(質量比)=45/55~80/20、好ましくは55/45~70/30程度であってもよい。
【0166】
連結補強層の架橋ゴム組成物における架橋剤(または加硫剤)としては、硫黄系加硫剤が好ましい。架橋剤(または加硫剤)(特に、硫黄系加硫剤)の割合は、架橋剤(または加硫剤)およびゴム成分の種類に応じて、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば0.1~3質量部(例えば0.3~2質量部)程度、好ましくは0.5~1.5質量部程度であってもよい。
【0167】
連結補強層の架橋ゴム組成物における架橋促進剤(または加硫促進剤)としては、MBTSなどが好ましい。架橋促進剤(または加硫促進剤)の割合は、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば0.1~3質量部(例えば0.3~2質量部)程度、好ましくは0.5~1.5質量部程度であってもよい。
【0168】
連結補強層の架橋ゴム組成物における金属酸化物(酸化亜鉛など)の割合は、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば1~20質量部(例えば2~10質量部)、好ましくは3~7質量部程度であってもよい。
【0169】
連結補強層の架橋ゴム組成物における加工剤または加工助剤(ステアリン酸など)の割合は、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば10質量部以下(例えば0~10質量部)、好ましくは0.1~5質量部(例えば0.5~1.5質量部)程度であってもよい。
【0170】
連結補強層の架橋ゴム組成物における接着性改善剤(レゾルシン-ホルムアルデヒド共縮合物、ヘキサメトキシメチルメラミンなど)の割合は、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば0.1~20質量部(例えば1~10質量部)、好ましくは2~8質量部(例えば3~5質量部)程度であってもよい。
【0171】
連結補強層の架橋ゴム組成物における老化防止剤としては、DCDが好ましい。老化防止剤の割合は、ゴム成分100質量部に対して固形分換算で、例えば0.1~15質量部(例えば1~3質量部)、好ましくは1.5~2.5質量部程度であってもよい。
【0172】
連結補強層は単独(単層)または二種以上組み合わせて使用することができるが、単独(単層)で使用するのが好ましい。
【0173】
連結補強層の平均厚みは、例えば0.4~1.4mm、好ましくは0.5~1mm程度である。布帛層の厚みが薄すぎると、層間剥離や輪断の虞があり、厚すぎると、ベルトの屈曲性が低下する虞がある。
【0174】
(保護層)
タイバンド(結合部材)は連結補強層のみで形成してもよいが、連結補強層中の繊維構造体の損傷(例えば、ベルト背面からの異物などによる損傷)を有効に抑制できる点から、連結補強層の上(ベルト外周面側または最外層)に積層された保護層を備えていてもよい。
【0175】
保護層は、慣用の架橋ゴム組成物のゴムシート(例えば、短繊維を含むゴム組成物のゴムシート)で形成されていてもよく、慣用の布帛(例えば、前記外被布の項で例示した布帛など)で形成されていてもよい。これらの保護層は単独でまたは二種以上組み合わせて使用することもできる。これらの保護層のうち、架橋ゴム組成物で形成された保護層が好ましい。
【0176】
保護層の架橋ゴム組成物中のゴム成分としては、例えば、前記伸張ゴム層の項で例示したゴム成分と好ましい態様を含めて同様のゴム成分などが挙げられる。保護層を形成する架橋ゴム組成物中のゴム成分は、伸張ゴム層を形成する架橋ゴム組成物中のゴム成分と同種(特に、同一)のゴム成分であるのが好ましい。
【0177】
また、保護層を形成する架橋ゴム組成物は、前記ゴム成分に加えて、必要に応じて、慣用の添加剤を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。添加剤としては、例えば、前記伸張ゴム層の項で例示した添加剤と好ましい態様を含めて同様の添加剤などが挙げられる。
【0178】
なお、保護層および伸張ゴム層を形成する架橋ゴム組成物は、互いに同一または異なっていてもよい。保護層を形成する架橋ゴム組成物が短繊維を含む場合、短繊維は、耐輪断性を向上したり、ベルト背面でアイドラプーリやテンショナなどのフランジ部と接触させる際に耐摩耗性を向上できる観点から、ベルト幅方向に配向してゴム組成物(ゴム層)中に埋設されていてもよい。
【0179】
なお、保護層の平均厚みは、例えば0.4~2mm、好ましくは0.8~1.8mm、さらに好ましくは1~1.5mm程度である。保護層の厚みが薄すぎると、繊維構造体の損傷を抑制する効果が低下する虞があり、厚すぎると、ベルトの屈曲性が低下する虞がある。
【0180】
タイバンド(結合部材)は、必要に応じて、保護層を複数層(例えば2~3層)備えていてもよいが、好ましくは1層である。
【0181】
[ラップド結合Vベルトの製造方法]
ラップド結合Vベルトは、未架橋(未加硫)のラップドVベルト部(ラップドVベルト部前駆体)を製造した後、得られた複数本の未加硫ラップドVベルト部(ラップドVベルト部前駆体)をタイバンド(タイバンド前駆体)で連結する連結工程を経て得られる。
【0182】
未架橋(未加硫)のラップドVベルト部(ラップドVベルト部前駆体)を製造する方法としては、例えば、特開平6-137381号公報、WO2015/104778号パンフレットに記載の方法などによって製造できる。具体的には、圧延処理して得られた未加硫の圧縮ゴム層用シートを裁断してマントルにセッティングし、未加硫の第1の接着ゴム層用シートを圧縮ゴム層用シートの上に巻き付けた後、巻き付けた第1の接着ゴム層用シートの上に芯体を巻き付け、さらに巻き付けた芯体の上に未加硫の第2の接着ゴム層用シート、未加硫の伸張ゴム層用シートの順に巻き付ける巻付け工程、得られた環状の積層体をマントル上で切断(輪切り)する切断工程、切断した環状積層体を一対のプーリに架け渡し、回転させながらV形状に切削加工するスカイビング工程(スカイブ工程)、および得られた未加硫のベルト本体部(ベルト本体部前駆体)に対して、その周囲を外被布前駆体[例えば、未架橋のゴム組成物が付着した外被布(布帛)]で覆う外被布被覆工程(被覆工程またはカバー巻き処理)を経て、未加硫のラップドVベルト部(ラップドVベルト部前駆体)を得ることができる。
【0183】
なお、巻付け工程において、圧縮ゴム層を複数層とする場合、複数の圧縮ゴム層用シートを積層した積層シートを裁断してマントルにセッティングしてもよく、また、第1および第2の接着ゴム層用シートは、いずれか一方のみを巻き付けてもよく、いずれも巻き付けなくてもよい(接着ゴム層を形成しなくてもよい)。
【0184】
本発明のラップド結合Vベルトの製造方法は、ベルト本体部前駆体を外被布前駆体で被覆して、ラップドVベルト部前駆体を形成する被覆工程と、この被覆工程で得られた複数本のラップドVベルト部前駆体の外周面を、タイバンド前駆体[例えば、繊維(特に、繊維構造体)および未架橋のゴム組成物を含むタイバンド]で連結する連結工程とを少なくとも含み、前記被覆工程において、ベルト本体部前駆体の内周面および両側面を少なくとも被覆し、外周面の少なくとも一部の領域(前記非被覆領域)を被覆しない製造方法であって、被覆工程で得られたラップドVベルト部前駆体の外周面側を被覆する外被布前駆体を切除または除去する除去工程(特許文献2~3に記載された工程)を含まなくてもよい。そのため、工程を省略でき、耐摩耗性に優れ、タイバンドの剥離も抑制できるラップド結合Vベルトを高い生産性で安価に製造できる。
【0185】
なお、本発明の製造方法では、ラップドVベルト部外周面の全面が非被覆領域である態様(被覆領域を含まない態様)のラップド結合Vベルトを簡便にまたは効率よく製造することもできるが、より一層高い生産性で製造できる点から、被覆領域および非被覆領域を有するラップド結合Vベルトを製造するのが好ましい。
【0186】
被覆工程では、ベルト本体部前駆体の内周面と、両側面と、外周面の少なくとも一方の側部(被覆領域に対応する領域、好ましくは両側部)とを切れ目のない(連続した)外被布前駆体で少なくとも被覆してもよい。また、外被布前駆体の幅は、ベルト本体部前駆体の長さ方向に垂直な断面形状の周囲長(すなわち、前記断面形状における内周面、両側面および外周面の寸法の合計長さ)よりも短くてもよく、非被覆領域の面積割合などに応じて、前記断面形状における内周面および両側面の寸法の合計長さより長くてもよい。この外被布前駆体の幅方向をベルト長さ方向に垂直な方向に向けて(外被布前駆体の長さ方向をベルト長さ方向に向けて)ベルト本体部前駆体を被覆してもよい。
【0187】
従来、ベルト本体部前駆体を外被布前駆体で被覆する場合、例えば、図2に示すように被覆する場合、ベルト本体部前駆体を2つのプーリ間に巻き掛けて回転(走行)させ、この回転するベルト本体部前駆体の外周面側に、ロール状に巻き取られた外被布前駆体を送り出しながら接触(当接)させ、この外周面側に接触した外被布前駆体をベルト本体部前駆体の形に添うようにローラーを押し当てて(外被布前駆体を送り出しつつ、外側からローラーを当ててパイプコンベアのように筒状に丸めていき、ベルト本体部前駆体を包み込むようにして)巻き付け、内周側で外被布前駆体を重ね合わせることでラップドVベルト部前駆体を形成できる。
【0188】
これに対して、本発明では、ベルト本体部前駆体を内周側と外周側とを従来の方法とは反転させて(幅広の面を内周側、幅狭の面を外周側に向けて)2つのプーリ間を回転(走行)させ、所定幅の外被布前駆体(前述のようにベルト本体部前駆体の長さ方向に垂直な断面形状の周囲長よりも短い幅を有する連続した外被布前駆体)を用いて被覆できる。すなわち、回転するベルト本体部前駆体の外周側の幅狭の面(ラップドVベルト部の内周側となる面)に所定幅の外被布前駆体を接触させ、従来と同様にしてベルト本体部前駆体の形に添うようにローラーで押し当てることで、両側面および内周側の幅広の面(ラップドVベルト部の外周側となる面)を被覆するが、外被布前駆体の幅が前記周囲長よりも短いため、内周側の幅広の面(ラップドVベルト部の外周側となる面)では、少なくとも一方の側部(被覆領域に対応)が被覆されるとともに、被覆されない領域(非被覆領域に対応)が形成される。
【0189】
なお、上述したように、切れ目のない外被布前駆体を用いて、ベルト外周側の全面を非被覆領域とするラップドVベルト部前駆体を製造する場合、以下のような理由で外被布前駆体の位置合わせ(外被布前駆体の幅方向両端部と、ベルト本体部前駆体外周面の両端部との位置合わせ)をするのが困難であると考えられる。まず、外被布前駆体は、接着処理によりベタつくため、ベルト本体部前駆体に一度当接させると、位置を修正できない点が挙げられる。加えて、ベルト本体部前駆体は未架橋のゴム組成物であるために柔らかく、スカイブ工程などで歪な形状となり易い。そのため、ベルト本体部前駆体と外被布前駆体とを当接させる際にベルト本体部前駆体を真っすぐ走行させるのが困難で(蛇行し易く)、外被布前駆体との位置ずれが生じ易い。さらに、後述する架橋成形処理(架橋成形工程)において、加圧などにより金型内でゴム組成物が流動し、位置ずれが生じることなどが考えられる。そのため、ベルト外周側の全面を非被覆領域(非被覆領域の割合が100%)とするラップド結合Vベルトを製造しようとすると、位置ずれの影響によって、ベルト長さ方向において、側面が外被布で被覆されない部分が発生し易く、不良率が増加する傾向がある。
【0190】
しかし、上記被覆工程のように、外被布前駆体の幅を前記所定の長さに調整して、ベルト内周面および両側面を被覆しつつ、少なくとも一方の側部(好ましくは両側部)において外被布前駆体の端部を外周面側部に折り込むように被覆すると、ベルト側面が外被布で被覆されない部分が生じるのを有効に抑制できるのみならず、除去工程を削減できて材料ロスも生じないため、簡便にまたは効率よく高い生産性でラップドVベルト部前駆体を製造可能である。しかも、得られたラップドVベルト部前駆体では、非被覆領域によりタイバンドとの接着性を向上できるだけでなく、外周面の少なくとも一方の側部(好ましくは両側部)において、側面から折り込まれた形態で被覆領域が形成されるため、タイバンドとの境界部分から外被布が剥離するのを有効に抑制できる。
【0191】
なお、切れ目のない外被布前駆体で無端状に被覆する場合、外被布前駆体の長さ方向の一方の端部と他方の端部とを、重なることなく隣接させてもよく、部分的に重ね合わせてもよく、好ましくは長さ方向両端部を部分的に重ね合わせて無端状に被覆してもよい。
【0192】
被覆工程で得られたラップドVベルト部前駆体は、慣用の方法(連結工程)でタイバンド前駆体(例えば、未架橋のゴム組成物を含むタイバンド)と連結すればよい。例えば、複数本の未加硫ラップドVベルト部(ラップドVベルト部前駆体)が、筒状または環状の下側加硫用モールドに形成された断面逆台形状の溝部に嵌め込まれた後、その径方向外側の部分にタイバンド前駆体がセットされる。タイバンド前駆体のセットでは、幅方向に並べられた複数本の未加硫ラップドVベルト部に対して、周方向に沿ってタイバンド前駆体が巻き掛けられる。上述のようにセットされたタイバンド前駆体および複数本の未加硫ラップドVベルト部(ラップドVベルト部前駆体)は、上側加硫用モールドと下側加硫用モールドとの間で挟まれて加圧されながら架橋または加硫される架橋成形処理(加硫処理)[架橋成形工程(加硫工程)]に供される。この架橋成形処理(加硫処理)により、複数本のラップドVベルト部がタイバンドで連結して結合した架橋スリーブ(加硫スリーブ)が形成される。このようにして形成された架橋スリーブ(加硫スリーブ)が、所定幅に切断されることにより、所定本数のラップドVベルト部を有するラップド結合Vベルトが形成される。
【0193】
架橋成形処理(加硫処理)において、架橋(加硫)温度は、ゴム成分の種類に応じて選択でき、例えば120~200℃、好ましくは150~180℃程度である。架橋成形処理(加硫処理)における圧力は、例えば1~2MPa、好ましくは1~1.5MPa程度であってもよい。なお、短繊維を含む各ゴム層用シートは、カレンダーロールなどで圧延処理する方法などによって、短繊維を圧延方向に配列(配向)させることができる。
【0194】
なお、タイバンド前駆体と各未架橋(未加硫)ラップドVベルト部(ラップドVベルト部前駆体)とは、例えば、接着処理によりタイバンド前駆体や被覆領域の外被布前駆体に付着した接着成分、非被覆領域の露出した伸張ゴム層により互いに結合される。例えば、タイバンドとして、固形状のゴム組成物をフリクション(擦り込み)する処理を施した布帛を用いる場合は、フリクションゴム組成物の架橋(加硫)反応により、タイバンド前駆体と被覆領域の外被布前駆体と非被覆領域の露出した伸張ゴム層とが互いに結合される。すなわち、タイバンド前駆体を未加硫ラップドVベルト部に対してセットする工程には、連結部としてのタイバンドを介して複数の未加硫ラップドVベルト部を互いに結合する未架橋(未加硫)ベルト結合ステップが含まれる。未加硫ベルト結合ステップは、この方法に限定されず、タイバンド用ゴムシート(例えば、連結補強層用シート、保護層用シート、これらの積層体など)を複数層巻き掛けることにより、タイバンドを構成してもよい。
【0195】
ラップド結合VベルトにおけるラップドVベルト部の本数は、2本以上であればよく、例えば2~10本、好ましくは2~8本、さらに好ましくは2~6本である。隣接する各ラップドVベルト部は、ベルト長さ方向に平行に揃えて並んでいればよく、図4などのように間隔をおいて並べる態様に限定されず、間隔をあけずに並べてもよい。生産性などの点から、隣接する各ラップドVベルト部は間隔をおいて並べるのが好ましい。隣接するラップドVベルト部の間隔は、例えば1.7~4.3mm、好ましくは2~4.1mm、さらに好ましくは2.3~3.9mm程度である。なお、ラップドVベルト部の間隔とはベルト外周面における間隔を意味する。タイバンドは、各ラップドVベルト部を連結できればよく、図4などのように各ラップドVベルト部の外周面の全面に接触して一体化することにより連結する態様に限定されず、ラップドVベルト部の外周面がタイバンドと接触しない領域を有していてもよい。ベルト耐久性の点から、各ラップドVベルト部の外周面の全面がタイバンドと接触して一体化するのが好ましい。
【0196】
ラップド結合Vベルトは、大規模な農業機械などの高負荷で長スパン(軸間距離の長い)レイアウトで使用してもよい。各ラップドVベルト部のベルト外周面の幅は、例えば15~60mm程度であってもよく、各ラップドVベルト部の厚みは、例えば10~20mm(例えば10~15mm)であってもよい。
【0197】
ラップド結合Vベルトのベルト全長は、例えば、50インチ以上であってもよく、200インチ(508cm)以上であってもよく、220~500インチ程度であってもよい。
【0198】
ラップド結合Vベルトは、長スパンレイアウトに適しているため、最大スパン長さ(プーリとプーリとの軸間距離)は1000mm以上であってもよく、例えば2000~5000mm程度であってもよい。
【0199】
本発明のラップド結合Vベルトは、高負荷の用途に適しているため、高馬力の機械に適しており、1本のラップドVベルト部に掛かる負荷(基準伝動容量)は10PS以上であってもよく、好ましくは20PS以上、さらに好ましくは22PS以上(例えば22~30PS程度)であってもよい。
【0200】
本発明のラップド結合Vベルトは、ラップドVベルト部とタイバンドとの接着性(密着性)に優れている。ラップドVベルト部とタイバンドとの剥離力(または接着強度)は、例えば50~150N/cm(例えば60~130N/cm)、好ましくは70~125N/cm(例えば80~122N/cm)、さらに好ましくは90~120N/cm(例えば95~120N/cm)程度であってもよい。
【0201】
なお、本願において、ラップドVベルト部とタイバンドとの剥離力(または接着強度)は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0202】
本発明のラップド結合Vベルトは、耐摩耗性に優れている。所定条件下での走行前後におけるラップド結合Vベルトの摩耗率は、例えば0.5~2%(例えば0.7~1.7%)、好ましくは0.8~1.5%(例えば0.9~1.4%)、さらに好ましくは0.95~1.3%(例えば1~1.2%)程度であってもよい。
【0203】
なお、本願において、ラップド結合Vベルトの摩耗率は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0204】
本発明のラップド結合Vベルトは、耐側圧性に優れている。ラップド結合Vベルトのライドアウト変化量は、例えば0.3~0.85mm(例えば0.4~0.75mm)、好ましくは0.43~0.7mm(例えば0.45~0.65mm)、さらに好ましくは0.48~0.6mm(例えば0.49~0.55mm)、特に、0.5~0.52mm程度であってもよい。
【0205】
なお、本願において、ラップド結合Vベルトのライドアウト変化量は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0206】
本発明のラップド結合Vベルトは、耐久性に優れている。ラップド結合Vベルトの耐久寿命は、例えば200h(時間)以上(例えば230~330h)、好ましくは240h以上(例えば250~325h)、さらに好ましくは260h以上(例えば270~320h)、特に、280h以上(例えば290~315h)程度であってもよい。
【0207】
なお、本願において、ラップド結合Vベルトの耐久寿命は、実施例に記載の方法により測定できる。
【実施例
【0208】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、以下に、使用したゴム組成物、心線、外被布前駆体、連結補強層前駆体の原料および調製方法、ベルトの調製方法、ならびに測定方法または評価方法などを示す。
【0209】
[ゴム組成物]
(使用材料)
EPDM1:ダウ・ケミカル社製「NordelIP4520」、ムーニー粘度[ML(1+4)125℃]約20、エチレン含有率50質量%、ジエン含有率(エチリデンノルボルネン含有率)4.9質量%
EPDM2:三井化学(株)製「EPT4045M」、ムーニー粘度[ML(1+4)100℃]約45、エチレン含有率45質量%、ジエン含有率(エチリデンノルボルネン含有率)7.6質量%
綿短繊維:橋本製「綿カット糸」、平均繊維長6mm
ポリエステル短繊維:弘宇短繊維製「PETカット糸」、平均繊維長3mm
カーボンブラックSRF:東海カーボン(株)製「シーストS」、DBP吸収量68mL/100g、BET比表面積27m/g、ヨウ素吸着量26g/kg
カーボンブラックISAF:東海カーボン(株)製「シースト6」、DBP吸収量114mL/100g、BET比表面積119m/g、ヨウ素吸着量121g/kg
カーボンブラックHAF:東海カーボン(株)製「シースト3」、DBP吸収量101mL/100g、BET比表面積79m/g、ヨウ素吸着量80g/kg
クレイ:山陽クレイ工業(株)製「カタルポ」
シリカ:エボニックインダストリーズ AG社製「Ultrasil VN3」、BET比表面積180m/g
パラフィン系オイル:出光興産(株)製「ダイアナプロセスオイルPW90」
老化防止剤MBI(2-メルカプトベンズイミダゾール):大内新興化学工業(株)製「ノクラックMB-O」
老化防止剤ODPA(オクチル化ジフェニルアミン):大内新興化学工業(株)製「ノクラックAD-F」
老化防止剤DCD(4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン):大内新興化学工業(株)製「ノクラックCD」
酸化亜鉛:堺化学工業(株)製「酸化亜鉛2種」
ステアリン酸:日油(株)製「ステアリン酸つばき」
架橋促進剤TMTD(テトラメチルチウラムジスルフィド):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーTT」
架橋促進剤CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
架橋促進剤MBTS(2,2’-ジベンゾチアゾリルジスルフィド):大内新興化学工業(株)製「ノクセラーDM」
共架橋剤MPBM(N,N’-m-フェニレンジマレイミド):大内新興化学工業(株)製「バルノックPM」
接着性改善剤A(レゾルシン・ホルムアルデヒド共縮合物):INDSPEC Chemical Corporation社製「Penacolite Resin(B-18-S)」
接着性改善剤B(へキサメトキシメチルメラミン):SINGH PLASTICISER&RESINS社製「POWERPLAST PP-1890S」
有機過酸化物:1,3-ビス(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン
硫黄(粉末硫黄):美源化学製
【0210】
(未架橋圧延ゴムシート、フリクション用塊状未架橋ゴム組成物の調製)
表1に示す配合のゴム組成物R1~R2をバンバリーミキサーでゴム練りし、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定厚みの未架橋(未加硫)圧延ゴムシートをそれぞれ作製し、圧縮ゴム層用シート、接着ゴム層用シート、伸張ゴム層用シートおよび/または保護層用ゴムシートとした。
【0211】
また、表1に示すゴム組成物R1をバンバリーミキサーでゴム練りし、外被布前駆体を形成するためのフリクション用の塊状未架橋(未加硫)ゴム組成物を調製した。
【0212】
さらに、表1に示す配合のゴム組成物R3をバンバリーミキサーでゴム練りし、この練りゴムをカレンダーロールに通して所定厚みの未架橋(未加硫)圧延ゴムシートを作製し、タイバンド前駆体を形成するための連結補強層用ゴムシートとした。
【0213】
【表1】
【0214】
[心線(処理コード)]
1670dtex(フィラメント数1000)のアラミド繊維束を3本引き揃えて撚り係数3.0でS方向に撚りを加えて下撚り糸を作製し、作製した下撚り糸を5本引き揃えて撚り係数3.0でZ方向に撚りを加えて作製した総繊度25050dtex(フィラメント数15000)、直径1.9mmの撚りコード(諸撚り糸)に接着処理を施した処理コードを心線として用いた。なお、撚り係数TFは以下の式で計算される値である。
【0215】
TF=TN×D0.5/960
【0216】
[式中、TFは撚り係数、TNは1m当たりの撚り数、Dは糸の繊度(tex)を示す。]
【0217】
[外被布前駆体(処理帆布)]
外被布前駆体には、接着処理およびフリクションを施した帆布(処理帆布)を用いた。すなわち、経糸および緯糸としてポリエステル繊維と綿とを質量比50/50で混紡した20s/3(20番手3本撚り)の混紡糸を用い、経糸密度75本/50mm、緯糸密度75本/50mmで平織した目付量280g/mの帆布を、RFL液(レゾルシン2.6質量部、37%ホルマリン1.4質量部、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(日本ゼオン(株)製)17.2質量部、水78.8質量部の混合液)に浸漬し、乾燥した後に、経糸と緯糸とのなす角が120度となるように広角度処理を行った。得られた広角度帆布の表裏両面に、ゴム組成物R1を摺り込む処理(フリクション)を施した処理帆布(目付け約500g/m、厚み約0.6mm)を用いた。
【0218】
[連結補強層前駆体(処理スダレ)]
スダレに接着処理およびゴムシート積層処理を施して連結補強層前駆体とした。詳細には、経糸として470dtexのナイロン66製の片撚りコード(線径0.22mm)、緯糸として40番手の綿糸(線径0.1mm)を用い、経糸密度120本/50mm、緯糸密度5本/50mmで織製したスダレ状の織物を、RFL液(レゾルシン2.6質量部、37%ホルマリン1.4質量部、ビニルピリジン-スチレン-ブタジエン共重合体ラテックス(日本ゼオン(株)製)17.2質量部、水78.8質量部の混合液)に浸漬し、乾燥した後に、表裏両面にゴム組成物R3のタイバンド用ゴムシートを積層した処理スダレ(厚み約0.7mm)を用いた。
【0219】
[比較例1および実施例1~6]
(未架橋ゴムベルト1(伸張ゴム層がR1)の調製)
円筒状ドラムの外周面に巻き付けたR1の圧縮ゴム層用シート(厚み5.4mm)の外周に心線を螺旋状に巻き付け、さらにその外周面にR1の伸張ゴム層用シート(厚み1.6mm)を積層し、未架橋ゴム層と心線とが積層した筒状の未架橋スリーブを形成した。すなわち、未架橋スリーブの最外周面はゴム組成物R1が露出していた。得られた未架橋スリーブを、円筒状ドラムの外周に配置された状態で周方向に切断し、環状の未架橋ゴムベルト1を形成した。
【0220】
(スカイブ工程および外被布被覆工程(被覆工程))
未架橋ゴムベルト1をドラムから取り外し、未架橋ゴムベルトの両側面を所定の角度で切削(スカイブ)し、未架橋ゴムベルトの断面形状を、V字状断面に形成した(スカイブ工程)。V字状断面の未架橋ゴムベルト(ベルト本体部前駆体:伸張ゴム層、芯体(心線)、圧縮ゴム層を含む未架橋Vベルト)に対して、その周囲を外被布前駆体で覆うカバー巻き処理を施し、未架橋ラップドVベルト部1を形成した(被覆工程)。
【0221】
被覆工程では、幅の異なる外被布前駆体を用いて、外被布前駆体の幅方向を、ベルト長さ方向の垂直断面における周方向に向けて(すなわち、外被布前駆体の長さ方向を、ベルト長さ方向に向けて)未架橋ゴムベルトの内周面側から巻き付けることにより、連結工程後(架橋後)のラップドVベルト部の外周面(背面)における非被覆領域の割合が後述する表2に示す割合となるように変化させた。すなわち、実施例1~6は図4で示す形状に形成し、比較例1では図2において、内周面を被覆する外被布を単層とし、かつ外周面側で外被布の両端部を対向させて形成した。
【0222】
なお、外被布前駆体は、経糸および緯糸の方向が、ベルト長さ方向に対してそれぞれ60°傾いた状態となる向きに配置した。
【0223】
(結合Vベルトの調製(連結工程))
得られた6本の未架橋ラップドVベルト部1を、下側架橋用モールドに形成された環状の溝部に嵌め込んだ後、その径方向外側の部分に、前記処理スダレ(連結補強層前駆体)およびR1の保護層用ゴムシート(厚み1.3mm)をタイバンド前駆体としてセットした。すなわち、タイバンド前駆体のセットでは、幅方向に並べられた6本の未架橋ラップドVベルト部の周方向(ベルト長さ方向)に沿って、処理スダレ、保護層用ゴムシートの順に巻き掛け、6本の未架橋ラップドVベルト部に対してタイバンド前駆体をセットした。なお、処理スダレは経糸の長手方向がベルト幅方向に対して略平行となるように、緯糸の長手方向がベルト周方向に対して略平行となるように配置した。
【0224】
このようにセットしたタイバンド前駆体および6本の未架橋ラップドVベルト部1を、上側架橋用モールドと下側架橋用モールドとの間で挟んで1.2MPaまで加圧し、架橋温度160℃で架橋して、6本のラップドVベルト部1(ASABE規格のHB形、ベルト長さ1600mm)がタイバンドで連結して結合した架橋ベルト1を得た。
【0225】
得られた架橋ベルト1を切断し、3本のラップドVベルト部1を有するラップド結合Vベルト1(断面寸法:幅54.6mm×厚み12.7mm)を製造した。
【0226】
[比較例2、実施例7~9および参考例1]
(未架橋ゴムベルト2(伸張ゴム層がR2)の調製)
円筒状ドラムの外周面に、R1の第2圧縮ゴム層用シート(厚み3.4mm)、R2の第1圧縮ゴム層用シート(厚み1.5mm)、R1の接着ゴム層用シート(厚み0.5mm)をこの順に積層した後、心線を螺旋状に巻き付け、さらにその外周面にR1の接着ゴム層用シート(厚み0.5mm)、R2の伸張ゴム層用シート(厚み1.1mm)をこの順に積層し、未架橋ゴム層と心線とが積層した筒状の未架橋スリーブを形成した。すなわち、未架橋スリーブの最外周面はゴム組成物R2が露出していた。得られた未架橋スリーブを、円筒状ドラムの外周に配置された状態で周方向に切断し、環状の未架橋ゴムベルト2を形成した。なお、短繊維を含むR2のゴム層では、短繊維の長手方向がベルト幅方向に対して略平行となるように配置した。
【0227】
(スカイブ工程および外被布被覆工程(被覆工程))
未架橋ゴムベルト1に代えて、未架橋ゴムベルト2を用いたこと、また、被覆工程において、ラップドVベルト部の外周面(背面)における非被覆領域の割合を後述する表3に示す割合となるように変化させたこと以外は、[比較例1および実施例1~6]のスカイブ工程および被覆工程と同様にして、未架橋ラップドVベルト部2を形成した。すなわち、実施例7~9は図4で示す形状に形成し、参考例1は図3において、内周面を被覆する外被布が単層となる形状に形成し、比較例2は図2において、内周面を被覆する外被布を単層とし、かつ外周面側で外被布の両端部を対向させて形成した。
【0228】
(結合Vベルトの調製(連結工程))
R1の保護層用ゴムシート(厚み1.3mm)に代えて、R2の保護層用ゴムシート(厚み1.3mm)を用いたこと、また、R2の保護層用ゴムシート中の短繊維の長手方向が、ベルト幅方向に対して略平行となるように配置したこと以外は、[比較例1および実施例1~6]の連結工程と同様にして、6本のラップドVベルト部2(ASABE規格のHB形、ベルト長さ1600mm)がタイバンドで連結して結合した架橋ベルト2を得た。
【0229】
得られた架橋ベルト2を切断し、3本のラップドVベルト部2を有するラップド結合Vベルト2(断面寸法:幅54.6mm×厚み12.7mm)を製造した。
【0230】
[実施例10~12]
実施例4~6(伸張ゴム層:R1、非被覆領域の割合:50%,70%または90%、外被布の層数:1層)における外被布の層数を2層に変更して、図6に示す断面形状を有するラップド結合Vベルトを製造した。すなわち、被覆工程において未架橋ゴムベルト1に対して外被布前駆体のカバー巻き処理を2回施したこと、および断面寸法を実施例4~6と揃えるために、外被布層数の増加に伴って圧縮ゴム層用シートおよび伸張ゴム層用シートの厚みをそれぞれ薄く調整したこと以外は、実施例4~6と同様にして3本のラップドVベルト部1を有するラップド結合Vベルトを製造した。なお、被覆工程では、図6に示す断面形状とするため、外側外被布(第1の外被布)が内側外被布(第2の外被布)に沿うように(第1および第2の外被布の双方が、ベルト本体部外周面の同じ領域を被覆するように)カバー巻き処理を施した。
【0231】
[実施例13~14]
実施例11(伸張ゴム層:R1、非被覆領域の割合:70%、外被布の層数:2層)における外被布の層数を3層(実施例13)または4層(実施例14)に変更したラップド結合Vベルトを製造した。すなわち、被覆工程において未架橋ゴムベルト1に対して外被布前駆体のカバー巻き処理を3回または4回施したこと、および断面寸法を揃えるために、外被布層数の増加に伴って圧縮ゴム層用シートおよび伸張ゴム層用シートの厚みをそれぞれ薄く調整したこと以外は、実施例11と同様にして3本のラップドVベルト部1を有するラップド結合Vベルトを製造した。なお、被覆工程では、図6に準じた断面形状とするため、各外被布が隣り合う外被布に沿うように(全ての外被布が、ベルト本体部外周面の同じ領域を被覆するように)カバー巻き処理を施した。
【0232】
[実施例15~16]
実施例11~12(伸張ゴム層:R1、非被覆領域の割合:70%または90%、外被布の層数:2層)における外被布のうち、内側外被布(第2の外被布)の非被覆領域の割合を100%に変更して、図7に示す断面形状を有するラップド結合Vベルトを製造した。すなわち、被覆工程において、1回目のカバー巻き処理では未架橋ゴムベルト1の外周面を被覆することなく、内周面および両側面のみを外被布前駆体で被覆し、2回目のカバー巻き処理で外側外被布(第1の外被布)の非被覆領域の割合が70%(実施例15)または90%(実施例16)となるように外周面の両側部を被覆したこと以外は、実施例11~12と同様にして3本のラップドVベルト部1を有するラップド結合Vベルトを製造した。
【0233】
[参考例2]
内側外被布(第2の外被布)のみならず、外側外被布(第1の外被布)の非被覆領域の割合も100%に変更したこと(2回目のカバー巻き処理でも、未架橋ゴムベルト1の外周面を被覆することなく、内周面および両側面のみを外被布前駆体で被覆したこと)以外は、実施例15~16と同様にして3本のラップドVベルト部1を有するラップド結合Vベルトを製造した。
【0234】
[ラップドVベルト部側面におけるゴムの露出]
連結工程後(架橋後)に得られたラップド結合VベルトのラップドVベルト部側面において、外被布で被覆されずにゴムが露出した領域の有無を確認した。結果を下記表に示す。
【0235】
[剥離試験]
得られたラップド結合Vベルトを3本のラップドVベルト部に沿って切り離した(3本に分割した)後、タイバンドの剥離力を測定した。具体的には、切り離した無端状のベルトから、ベルト長さ方向に15cm分をカットして剥離試験用サンプルとし、カット面でタイバンドとラップドVベルト部との間に刃物で切込みを入れた後、オートグラフ((株)島津製作所製「AGS-J10kN」)でタイバンドとラップドVベルト部とを引き離す方向(剥離角度180°、すなわち、ラップドVベルト部に対してタイバンドを180°折り返すよう)に引っ張り、ベルト長さ方向に沿って剥離した際の剥離力を測定した。剥離力は、測定された引張力を剥離面の幅[ラップドVベルト部外周面の幅(被覆領域と非被覆領域とを合わせた幅)]で除することにより幅1cm当たりの値とした。
【0236】
なお、剥離試験用サンプルは、前記切り離した無端状のベルトの任意の3箇所から切り出し、3サンプルから得られた値(剥離力)の算術平均値を採用した。また、ラップドVベルト部の側面でゴムの露出部分が見られた場合、側面でゴムが露出していない部分(または区間)における任意の3箇所から剥離試験用サンプルを切り出した。
【0237】
使用条件にもよるが、タイバンドの剥離力が約50N/cm未満になると剥離が発生し易くなると考えられる。結果を下記表および図8に示す。
【0238】
[非被覆領域の割合]
剥離試験後のラップドVベルト部(剥離試験用サンプルからタイバンドを剥離して得られたラップドVベルト部)の中央部分から、ベルト長さ方向に3cm分を観察用サンプルとしてカットし、その剥離面(外周面)を観察した。具体的には、剥離面をマイクロスコープ((株)キーエンス製「VHX-5000」)で撮影し、撮影した画像において非被覆領域と被覆領域とが異なる領域として認識されるように計測ソフト(オリンパス(株)製「Stream」)により解析し、それぞれの領域の面積比から非被覆領域の割合を計算した。
【0239】
3つの剥離試験用サンプルから得られた観察用サンプルのそれぞれについて非被覆領域の割合を計算し、3サンプルから得られた値(非被覆領域の割合)の算術平均値を採用した。結果を下記表に示す。
【0240】
[ライドアウト変化量]
80℃の雰囲気下でラップド結合Vベルトを直径113mmの一対のプーリに掛架し、500Nの軸荷重を作用させた。この際のベルト背面の位置をレーザ変位計で測定して原点(0mm)とした。次に、軸荷重を2000Nまで増加させ、ベルト背面の位置の変化量(ライドアウト変化量)を測定した。ライドアウト変化量が小さい程、耐側圧性に優れると判断できる。結果を下記表に示す。
【0241】
[摩耗率]
図9に示すように、直径180mmの駆動(Dr.)プーリと、直径180mmの従動(Dn.)プーリとからなる2軸走行試験機を用いて、耐摩耗性を評価した。詳しくは、各プーリにラップド結合Vベルトを掛架し、軸荷重を1600N、駆動プーリの回転数を1800rpm、従動プーリの負荷を53N・mとし、23℃の雰囲気温度にてベルトを96時間走行させた。走行前後のベルトの質量を測定し、下記式により質量変化率(摩耗率)を評価した。摩耗率が小さい程、耐摩耗性に優れると判断できる。結果を下記表に示す。
【0242】
摩耗率(%)=[(W-W)/W]×100
【0243】
[式中、Wは、走行前のベルト質量(g)を示し、Wは、走行後のベルト質量(g)を示す。]
【0244】
[耐久寿命]
図10に示すように、直径100mmの駆動(Dr.)プーリ、直径100mmの従動(Dn.)プーリ、直径85mmの背面テンション(Ten.)プーリを備えた3軸走行試験機を用いて、ラップド結合Vベルトの耐久寿命を評価した。詳しくは、各プーリにラップド結合Vベルトを掛架し、背面テンションプーリに対するベルトの接触角を20度に調節した後、従動プーリに588Nの荷重を作用させ、駆動プーリの回転数を3600rpm、従動プーリは無負荷とし、110℃の雰囲気温度にてベルトを寿命まで走行させた際の走行時間[単位:h(時間)]を耐久寿命とした。なお、ベルトの寿命は、ベルト長さ方向において100mm以上の連続する区間でタイバンドが剥離した時点とした。結果を下記表に示す。
【0245】
【表2】
【0246】
【表3】
【0247】
表2~3および図8から明らかなように、実施例1~6(伸張ゴム層がR1)ならびに実施例7~9および参考例1(伸張ゴム層がR2)のいずれの場合においても、ラップドVベルト部の背面全体の面積に対して外被布が被覆していない非被覆領域の面積割合が大きくなるにつれて剥離力は上昇した。しかし、非被覆領域の面積割合が80%を超えると、ラップドVベルト部の側面において外被布で被覆できていない箇所が発生した。伸張ゴム層がR1の場合とR2の場合とを比較すると、R1の方が剥離力が若干高い結果であった。
【0248】
【表4】
【0249】
表4から明らかなように、いずれの実施例においても高い剥離力を示した。また、製造直後のベルトのラップドVベルト部側面におけるゴムの露出が見られないだけでなく、走行後(摩耗率および耐久寿命の評価後)のベルトにおいてもラップドVベルト部側面とタイバンドとの境界部分における外被布の剥離を抑制できたためか、いずれの実施例においても摩耗率が低く抑えられ、耐久寿命も優れていた。
【0250】
実施例10~12は、実施例4~6における外被布を2層に変更した例であり、実施例4~6と同様に、非被覆領域の面積割合が大きくなるにつれて剥離力が上昇した。一方、非被覆領域の面積割合が大きな実施例6(90%)では、ラップドVベルト部の側面において外被布で被覆できていない箇所(ゴムの露出が見られた箇所)がわずかに見られていたのに対し、外被布を2層とした実施例12では、1回目のカバー巻き処理で側面にゴムの露出が生じても、2回目のカバー巻き処理により露出箇所を被覆できるためか、非被覆領域の面積割合が大きいにもかかわらず、ラップドVベルト部側面からゴムを露出させることなく製造できた。また、実施例10~12のライドアウト変化量および摩耗率は同等程度であったが、耐久寿命は、非被覆領域の面積割合が大きな実施例11~12が特に高かった。
【0251】
実施例13~14は、実施例5における外被布を3層または4層に変更した例である。外被布の層数が異なる実施例5,11,13,14を比較すると、いずれも摩耗率は同等程度であったものの、層数の増加に伴ってライドアウト変化量が増加する傾向(張力を作用させた際にベルトがプーリに落ち込み易く、耐側圧性が低下する傾向)が見られ、外被布が3~4層の実施例13~14(特に、実施例14)では耐側圧性が大きく低下した。この理由は定かではないが、外被布の層数の増加により、外被布よりも硬いベルト本体部(硬いゴム部分)の割合が相対的に減少したことに起因するものと推測される。このように耐側圧性が低下した実施例13~14では、走行中にラップドVベルト部がプーリ中心に向かって落ち込む際に、タイバンドから剥離する方向に力が作用し易いためか、耐久寿命がやや低下する傾向にあった。
【0252】
一方、外被布が1層の実施例5は、ライドアウト変化量が最も小さく耐側圧性に優れており、剥離力も摩耗率も実施例11と同等程度であったものの、耐久寿命は外被布が2層の実施例11の方が優れていた。この理由は定かではないが、実施例5では外被布が1層しかないため、摩耗率が同等程度であっても、外被布の摩耗した箇所からベルト本体部のゴムが露出または滲出し易いことが影響したものと考えられる。すなわち、ベルト走行中に生じたゴムの露出または滲出によりプーリとの間で摩擦係数が上昇し、それに伴う大きな発熱によりタイバンドとの接合部における接着力が低下して、タイバンドと剥離し易くなったものと推測される。
【0253】
そのため、外被布が2層の実施例11では、ゴムの露出または滲出を有効に抑制しつつ、耐側圧性にも優れており、実施例5,11,13,14のうちで最も耐久寿命が優れる結果となった。
【0254】
【表5】
【0255】
実施例15~16は、実施例11~12における2層の外被布のうち、内側外被布(第2の外被布)の非被覆領域の割合を100%に変更した例である。すなわち、実施例11~12では、外側外被布(第1の外被布)と内側外被布とが互いに重なり合うように(図6のように)ベルト本体部を被覆しているのに対し、実施例15~16では、図7のように内側外被布がベルト背面を被覆することなく、外側外被布のみが被覆領域を形成している。実施例15~16では、実施例11~12と同様に、高い剥離力を示した。また、実施例15~16においても、製造直後のベルトのラップドVベルト部側面におけるゴムの露出が見られないだけでなく、走行後(摩耗率および耐久寿命の評価後)のベルトにおいてもラップドVベルト部側面とタイバンドとの境界部分における外被布の剥離を抑制できたためか、摩耗率も低く抑えられ、耐久寿命も優れていた。
【0256】
実施例15~16でも、外側外被布(第1の外被布)のみによって形成された非被覆領域の面積割合が大きくなるにつれて、実施例11~12と同様に剥離力が上昇した。また、実施例16では、実施例12と同様に、非被覆領域の面積割合が大きくてもラップドVベルト部側面からゴムを露出させることなく製造できた。実施例15~16のライドアウト変化量および摩耗率は同等程度であったが、耐久寿命は、非被覆領域の面積割合が大きな実施例16の方が高かった。
【0257】
参考例2は、内側外被布(第2の外被布)のみならず、外側外被布(第1の外被布)の非被覆領域の割合も100%に変更した例、すなわち、内側および外側のいずれの外被布でも被覆領域を形成しないように製造した例である。参考例2は、高い剥離力を示すものの、製造直後のベルトのラップドVベルト部側面でゴムが露出しており、また、走行中(摩耗率および耐久寿命の評価中)にラップドVベルト部側面とタイバンドとの境界部分において外被布が剥離し易いためか、摩耗率が高く、耐久寿命が短かった。
【0258】
実施例の中では、実施例11~12および15~16が、タイバンドとの接着性、耐摩耗性、耐側圧性、耐久性および生産性などのバランスの点で優れており、これらを高い水準でバランスよく充足しつつ、より一層生産性に優れる点(被覆工程における作業性がより良好で、歩留まりを向上できる点)から、非被覆領域が70%の実施例11および15が特に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0259】
本発明のラップド結合Vベルトは、コンプレッサー、発電機、ポンプなどの一般産業用機械や、コンバイン、田植え機、草刈り機などの農業機械などに利用できる。また、高負荷で長スパンレイアウトにおいて用いられる高負荷機械に利用してもよく、例えば、欧米などで利用される大型の農業機械、具体的には、耕耘機、野菜移植機、トランスプランタ、バインダー、コンバイン、野菜収穫機、脱穀機、ビーンカッター、とうもろこし収穫機、馬鈴薯収穫機、ビート収穫機などが例示できる。
【符号の説明】
【0260】
1,11,21,31…ラップド結合Vベルト
V…ラップドVベルト部
2,12,22,32…圧縮ゴム層
3,13,23,33…芯体層(芯体、接着ゴム層)
4,14,24,34…伸張ゴム層
4a,14a,24a,34a…非被覆領域
5,15,25,35…外被布(第1の外被布または外側外被布)
26,36…外被布(第2の外被布または内側外被布)
5a,15a,25a,26a,35a…被覆領域
T…タイバンド
【要約】
【課題】ラップドVベルト部とタイバンドとの接着力を向上できるとともに、ラップドVベルト部の側面とタイバンドとの境界部分での外被布の剥離を抑制できるラップド結合Vベルトを提供する。
【解決手段】ベルト本体部が外被布5で被覆された複数のラップドVベルト部Vと、前記複数のラップドVベルト部Vの各外周面を連結するタイバンドTとを含み、前記ラップドVベルト部Vの外周面が、前記外被布5で被覆された被覆領域5aと、被覆されていない非被覆領域4aとを有し、前記被覆領域5aが、外周面の少なくとも一方の側部に形成され、この被覆領域5aを被覆する外被布5が、前記ラップドVベルト部Vの側面も被覆している、ラップド結合Vベルト1を製造する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
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図10