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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】水硬性組成物用分散剤及び水硬性組成物
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/02 20060101AFI20250204BHJP
   C04B 24/32 20060101ALI20250204BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20250204BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20250204BHJP
【FI】
C04B24/02
C04B24/32 Z
C04B24/26 B
C04B24/26 E
C04B24/26 H
C04B28/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024182027
(22)【出願日】2024-10-17
【審査請求日】2024-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2024159010
(32)【優先日】2024-09-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 和寿
(72)【発明者】
【氏名】古田 章宏
(72)【発明者】
【氏名】中島 郁香
(72)【発明者】
【氏名】井出 竜司
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-533361(JP,A)
【文献】特開2007-119337(JP,A)
【文献】特開2015-157761(JP,A)
【文献】特開2012-171819(JP,A)
【文献】特開2012-166978(JP,A)
【文献】特開2011-225411(JP,A)
【文献】特開2012-171818(JP,A)
【文献】特開2002-121056(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 7/00-28/36
C08F 2/00-301/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される化合物から形成される構成単位(1)、及び、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、イタコン酸、イタコン酸無水物、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも一つを含む化合物から形成される構成単位(2)を有するポリマー(P)と、
炭素数2~24の1~4価の脂肪族アルコール1モルに対して、炭素数2~4のアルキレンオキサイドを1~500モル付加させた化合物であるエーテル化合物(A)と、
を含有し、
前記ポリマー(P)の質量平均分子量が、5000~5000000であり、
前記ポリマー(P)に対する前記エーテル化合物(A)の質量比の値(A/P)が0超で0.25以下であることを特徴とする水硬性組成物用分散剤。
【化1】
(一般式(1)中、Xは、炭素数6~24のアルケニル基であり、AOは、炭素数2~4のアルキレンオキシ基であり、nは、1~500の整数であり、Yは、水素原子、又は炭素数1~24の炭化水素基である。)
【請求項2】
前記ポリマー(P)は、ナトリウム塩換算した前記構成単位(2)に対する前記構成単位(1)の質量比の値(前記構成単位(1)/ナトリウム塩換算した前記構成単位(2))が、99/1~50/50である、請求項1に記載の水硬性組成物用分散剤。
【請求項3】
前記一般式(1)中、Xが、炭素数8~18のアルケニル基である、請求項1に記載の水硬性組成物用分散剤。
【請求項4】
前記エーテル化合物(A)が、不飽和結合を有する炭素数8~18の1価の脂肪族アルコール1モルに対して、炭素数2~4のアルキレンオキサイドを1~500モル付加させた化合物であり、
前記アルキレンオキサイド中のエチレンオキサイドの質量比が、60質量%以上である、請求項1に記載の水硬性組成物用分散剤。
【請求項5】
前記ポリマー(P)に対する前記エーテル化合物(A)の質量比の値(A/P)が、0.01~0.20である、請求項1に記載の水硬性組成物用分散剤。
【請求項6】
水硬性結合材、水、及び、請求項1~5のいずれか一項に記載の水硬性組成物用分散剤を含有することを特徴とする水硬性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水硬性組成物用分散剤及び水硬性組成物に関する。更に詳しくは、分散性が高く水硬性組成物の粘性を低減することができる水硬性組成物用分散剤及び水硬性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水硬性組成物用分散剤は、コンクリート等の水硬性組成物に流動性を付与する機能を有している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この水硬性組成物用分散剤としては、例えば、ナフタレン系化合物、ポリカルボン酸系化合物などが知られている。
【0004】
更に、近年、川砂等の良質な骨材が枯渇していることに伴い、従来は積極的に使用されていなかった種類の骨材(質が劣る骨材)の使用割合が増えつつある。そのような骨材(川砂等に比べて質が劣る骨材)を用いた水硬性組成物は、通常の水結合材比(W/B)であっても粘性が高くなってしまい、作業性が悪くなることが知られている。
【0005】
そのような状況から、特許文献2,3などのように水硬性組成物の粘性を低減するもの(減水剤、混和剤)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2021-24751号公報
【文献】中国特許出願公開第115010875号明細書
【文献】中国特許出願公開第115960320号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の減水剤及び特許文献3に記載の混和剤は、水硬性組成物の粘性を低減する効果が未だ十分でなく、更なる改良の余地があった。
【0008】
つまり、水硬性組成物の粘性を更に低減することができる(仮に川砂等に比べて質が劣る骨材を使用したとしても更に粘性を低減することができる)分散剤(水硬性組成物用分散剤)の開発が望まれていた。
【0009】
本発明は、上記実情に鑑み、分散性が高く水硬性組成物の粘性を低減することができる水硬性組成物用分散剤を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、所定のポリマー及び所定のエーテル化合物を用い、これらの比率(所定のエーテル化合物/所定のポリマー)を所定の範囲とすることによって上記課題を解決できることを見出した。本発明によれば、以下の水硬性組成物用分散剤及び水硬性組成物が提供される。
【0011】
[1] 下記一般式(1)で示される化合物から形成される構成単位(1)、及び、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、イタコン酸、イタコン酸無水物、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも一つを含む化合物から形成される構成単位(2)を有するポリマー(P)と、
炭素数2~24の1~4価の脂肪族アルコール1モルに対して、炭素数2~4のアルキレンオキサイドを1~500モル付加させた化合物であるエーテル化合物(A)と、
を含有し、
前記ポリマー(P)の質量平均分子量が、5000~5000000であり、
前記ポリマー(P)に対する前記エーテル化合物(A)の質量比の値(A/P)が0超で0.25以下であることを特徴とする水硬性組成物用分散剤。
【0012】
【化1】
(一般式(1)中、Xは、炭素数6~24のアルケニル基であり、AOは、炭素数2~4のアルキレンオキシ基であり、nは、1~500の整数であり、Yは、水素原子、又は炭素数1~24の炭化水素基である。)
【0013】
[2] 前記ポリマー(P)は、ナトリウム塩換算した前記構成単位(2)に対する前記構成単位(1)の質量比の値(前記構成単位(1)/ナトリウム塩換算した前記構成単位(2))が、99/1~50/50である、前記[1]に記載の水硬性組成物用分散剤。
【0014】
[3] 前記一般式(1)中、Xが、炭素数8~18のアルケニル基である、前記[1]に記載の水硬性組成物用分散剤。
【0015】
[4] 前記エーテル化合物(A)が、不飽和結合を有する炭素数8~18の1価の脂肪族アルコール1モルに対して、炭素数2~4のアルキレンオキサイドを1~500モル付加させた化合物であり、
前記アルキレンオキサイド中のエチレンオキサイドの質量比が、60質量%以上である、前記[1]に記載の水硬性組成物用分散剤。
【0016】
[5] 前記ポリマー(P)に対する前記エーテル化合物(A)の質量比の値(A/P)が、0.01~0.20である、前記[1]に記載の水硬性組成物用分散剤。
【0017】
[6] 水硬性結合材、水、及び、前記[1]~[5]のいずれかに記載の水硬性組成物用分散剤を含有することを特徴とする水硬性組成物。
【発明の効果】
【0018】
本発明の水硬性組成物用分散剤は、分散性が高く水硬性組成物の粘性を低減することができるという効果を奏するものである。
【0019】
本発明の水硬性組成物は、本発明の水硬性組成物用分散剤を含有することによって、粘性が低減されるという効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。しかし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し適宜変更、改良等が加えられ得ることが理解されるべきである。なお、以下の実施例等において、別に記載しない限り、%は質量%を、また部は質量部を意味する。
【0021】
(1)水硬性組成物用分散剤:
本発明の水硬性組成物用分散剤は、下記一般式(1)で示される化合物から形成される構成単位(1)、及び、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、イタコン酸、イタコン酸無水物、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも一つを含む化合物から形成される構成単位(2)を有するポリマー(P)と、炭素数2~24の1~4価の脂肪族アルコール1モルに対して、炭素数2~4のアルキレンオキサイドを1~500モル付加させた化合物であるエーテル化合物(A)と、を含有している。そして、ポリマー(P)の質量平均分子量は、5000~5000000であり、ポリマー(P)に対するエーテル化合物(A)の質量比の値(A/P)が0超で0.25以下のものである。
【0022】
【化2】
(一般式(1)中、Xは、炭素数6~24のアルケニル基であり、AOは、炭素数2~4のアルキレンオキシ基であり、nは、1~500の整数であり、Yは、水素原子、又は炭素数1~24の炭化水素基である。)
【0023】
この水硬性組成物用分散剤は、分散性が高く水硬性組成物の粘性を低減することができる。更には、水硬性組成物の調製時における練り上がるまでの時間を早くすることができる。
【0024】
(1-1)ポリマー(P):
ポリマー(P)は、構成単位(1)及び構成単位(2)を含むものであり、所定の質量平均分子量を有するものである。以下に、ポリマー(P)の構成単位(1)、構成単位(2)及び質量平均分子量について説明する。
【0025】
(1-1a)構成単位(1):
構成単位(1)は、一般式(1)で示される化合物から形成される構成単位であり、特に、一般式(1)におけるXは炭素数6~24のアルケニル基である。このようにポリマー(P)は、一般式(1)におけるXのアルケニル基の炭素数が大きいものである。
【0026】
上記の通り一般式(1)におけるXは、炭素数6~24のアルケニル基であり、炭素数8~18のアルケニル基であることが好ましく、8~9であることが更に好ましい。
【0027】
なお、アルケニル基とは、少なくとも1個の非芳香族性の炭素-炭素二重結合を有する直鎖状、分岐状、または環状の1価の脂肪族不飽和炭化水素基である。これらの中でも、直鎖状のものが好ましい。
【0028】
炭素数6~24のアルケニル基としては、具体的には、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基、ノネニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘネイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、テトラコセニル基などを挙げることができる。
【0029】
一般式(1)におけるAOは、炭素数2~4のアルキレンオキシ基(但し、当該アルキレンオキシ基が複数存在する場合、1種単独又は2種以上とすることができる)である。これらのうち、炭素数2のアルキレンオキシ基であることが好ましい。
【0030】
一般式(1)におけるnは、AOの平均付加モル数である。そして、nは、1~500の数あり、2~300の数であることが好ましく、5~150の数であることがより好ましい。
【0031】
一般式(1)におけるYは、水素原子、又は炭素数1~24の炭化水素基であり、これらのうち、水素原子、または炭素数1~4の炭化水素基であることが好ましく、水素原子または炭素数1の炭化水素基であることがより好ましい。
【0032】
(1-1b)構成単位(2):
構成単位(2)は、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、イタコン酸、イタコン酸無水物、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも一つを含む化合物から形成される構成単位である。これらの特定の化合物から形成される構成単位であると、分散性が高く水硬性組成物の粘性を低減することができる。
【0033】
一般式(2)中、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、イタコン酸、イタコン酸無水物、及びそれらの塩のうち、少なくともアクリル酸またはその塩を含むことが好ましい。これらの化合物であると、分散性が更に高く水硬性組成物の粘性をより低減することができる。
【0034】
(構成単位(1)/ナトリウム塩換算した構成単位(2))
ポリマー(P)は、ナトリウム塩換算した構成単位(2)に対する構成単位(1)の質量比の値(構成単位(1)/ナトリウム塩換算した構成単位(2))が、99/1~50/50であることが好ましく、95/5~68/42であることが更に好ましい。このような割合とすることによって、分散性が更に高く水硬性組成物の粘性をより低減することができる。
【0035】
なお、「ナトリウム塩換算した構成単位(2)」におけるナトリウム塩換算については、以下のように行うものとすることができる。即ち、構成単位(2)の不飽和カルボン酸及びそれらの塩を、全て不飽和カルボン酸のナトリウム塩であるものとして換算を行う。例えば、アクリル酸から形成される構成単位であれば、全てアクリル酸ナトリウムから形成される構成単位として換算し、マレイン酸およびマレイン酸無水物から形成される構成単位については、全てマレイン酸ジナトリウムから形成される構成単位として換算する。
【0036】
(1-1c)その他の構造単位:
ポリマー(P)は、上記構成単位(1)及び(2)以外に、その他の構成単位を更に有していてもよい。このようなその他の構成単位としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アリルスルホン酸(塩)、(メタ)アクリルアミド、スチレンなどの化合物から形成されるものを挙げることができる。
【0037】
ポリマー(P)は、その質量平均分子量が5000~5000000であり、5000~1000000であることが好ましく、8000~500000であることが更に好ましい。このような質量平均分子量とすることによって、分散性が高く水硬性組成物の粘性を低減することができる。
【0038】
なお、このポリマー(P)の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにて測定される。
【0039】
水硬性組成物用分散剤中におけるポリマー(P)の含有割合は、特に制限はないが、例えば、10~100質量%とすることができる。
【0040】
(1-2)エーテル化合物(A):
エーテル化合物(A)は、炭素数2~24の1~4価の脂肪族アルコール1モルに対して、炭素数2~4のアルキレンオキサイドを1~500モル付加させた化合物である。そして、このエーテル化合物(A)は、ポリマー(P)に対してその質量比の値(A/P)が0超で0.25以下である。このような条件を満たすことによって、分散性が高く水硬性組成物の粘性を低減することができる。
【0041】
更に、エーテル化合物(A)は、不飽和結合を有する炭素数8~18の1価の脂肪族アルコール1モルに対して、炭素数2~4のアルキレンオキサイドを1~500モル付加させた化合物を必ず含むことが好ましく、このとき、アルキレンオキサイド中のエチレンオキサイド(炭素数2のアルキレンオキサイド)の質量比が、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。このような条件を満たすことによって、分散性が更に高く水硬性組成物の粘性をより低減することができる。
【0042】
また、ポリマー(P)に対するエーテル化合物(A)の質量比の値(A/P)は、0.01~0.20であることが好ましく、0.01~0.18であることが更に好ましい。このような数値範囲とすることによって、分散性が更に高く水硬性組成物の粘性をより低減することができる。
【0043】
なお、エーテル化合物(A)は、ポリマー(P)の合成反応の際における未反応物とすることができるが、エーテル化合物(A)を別途添加してもよい。
【0044】
ここで、上記前者のようにポリマー(P)の合成反応の際における未反応物(未反応のエーテル化合物)をエーテル化合物(A)(具体的にはエーテル化合物(A)の一部)として使用する場合、上記A/Pを満たすためには、ポリマー(P)の合成反応の際における未反応物(未反応のエーテル化合物)の量が、上記A/Pにおける上限値を超えないように合成を行う。そのためには、十分な純度を有した構成単位(1)を形成する化合物、及び構成単位(2)を形成する化合物を用い、適切な方法で重合してポリマー(P)を得る。
【0045】
なお、ポリマー(P)は、従来公知の方法で合成することができる。従来公知の方法としては、溶媒に水を用いたラジカル重合、溶媒に有機溶媒を用いたラジカル重合、無溶媒のラジカル重合などが挙げられる。
【0046】
ラジカル重合に用いるラジカル重合開始剤は、過酸化ベンゾイル、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過酸化物、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)などのアゾ系化合物のように、重合反応温度下において分解し、ラジカル発生するものであればその種類は特に制限されない。
【0047】
また、促進剤として亜硫酸水素ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、モール塩等のFe(II)塩、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム二水和物、アスコルビン酸などの還元剤や、エチレンジアミン、グリシンなどのアミン化合物も併用することができる。
【0048】
なお、得られるポリマー(P)の質量平均分子量を所望の範囲とするため、連鎖移動剤を使用することもできる。
【0049】
重合反応において、重合温度等の重合条件としては、用いられる重合方法、溶媒、重合開始剤、連鎖移動剤によって適宜決定されるが、重合温度としては、その下限値が0℃以上であることが好ましく、上限値としては150℃以下であることが好ましい。下限値としては、より好ましくは30℃以上であり、更に好ましくは50℃以上である。また、上限値としては、より好ましくは120℃以下であり、更に好ましくは100℃以下である。
【0050】
(1-3)その他の分散剤成分:
本発明の水硬性組成物用分散剤は、ポリマー(P)及びエーテル化合物(A)以外に、その他の分散剤成分を含むことができる。
【0051】
その他の分散剤成分としては、例えば、糖類、オキシカルボン酸塩等からなる凝結遅延成分、リグニンスルホン酸ナトリウム等からなる分散作用を有する成分、陰イオン界面活性剤等からなるAE剤、オキシアルキレン系化合物等からなる消泡剤、アルカノールアミン等からなる硬化促進剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等からなる収縮低減剤、セルロースエーテル系化合物等からなる増粘剤、イソチアゾリン系化合物等からなる防腐剤、亜硝酸塩等からなる防錆剤等などを挙げることができる。
【0052】
なお、その他の分散剤成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0053】
(1-4)水硬性組成物用分散剤の製造方法:
本発明の水硬性組成物用分散剤は、以下のようにして製造することができる。まず、構成単位(1)を形成する化合物と構成単位(2)を形成する化合物を原料としてポリマー(P)を合成する。このとき、ポリマー(P)の原料には、エーテル化合物(A)(即ち、構成単位(1)を形成する化合物)が用いられるが、ポリマー(P)の合成反応後、未反応のエーテル化合物(A)をそのまま用いることができる。その後、所望のA/P(ポリマー(P)に対するエーテル化合物(A)の質量比の値)を満たすように、必要に応じて、エーテル化合物(A)を加える。なお、このとき加えるエーテル化合物(A)は、ポリマー(P)の原料に用いたエーテル化合物(A)と同じ種類であってもよいし、異なるものであってもよい。その後、必要に応じてその他の分散剤成分を加える。
【0054】
(2)水硬性組成物:
本発明の水硬性組成物は、水硬性結合材、水、及び、本発明の水硬性組成物用分散剤を含有するものである。
【0055】
このような水硬性組成物は、本発明の水硬性組成物用分散剤を含有することによって、粘性が低減されたものである。
【0056】
(2-1)水硬性結合材:
水硬性結合材としては、例えば、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等の各種ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等の各種のセメントを挙げることができ、更には、無水石膏、半水石膏、二水石膏等の各種石膏や、高炉スラグ微粉末と水酸化カルシウムの併用したもの等の潜在水硬性を有する粉末とアルカリ刺激剤を併用したものなどを挙げることができる。
【0057】
更に、水硬性結合材は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末、石粉、シリカフューム、膨張材等の各種混和材を適宜選択して併用してもよい。
【0058】
(2-2)水硬性組成物用分散剤:
本発明の水硬性組成物において、本発明の水硬性組成物用分散剤の含有割合については特に制限はなく適宜設定することができる。例えば、本発明の水硬性組成物用分散剤の含有割合は、水硬性結合材100質量部に対して、固形分換算で、0.001~3.0質量部とすることができる。
【0059】
(2-3)骨材:
本発明の水硬性組成物は、従来公知の水硬性組成物と同様に、細骨材、及び粗骨材等を含むものとすることができる。
【0060】
細骨材としては、例えば、川砂、山砂、陸砂、海砂、珪砂、砕砂、各種スラグ細骨材等が挙げられるが、粘土質等の微粒成分等を含むものであってもよい。
【0061】
粗骨材としては、例えば、川砂利、山砂利、陸砂利、砕石、各種スラグ粗骨材、軽量骨材等が挙げられる。
【0062】
(2-4)その他の組成物成分:
本発明の水硬性組成物は、効果が損なわれない範囲内で、適宜その他の組成物成分を更に含有していてもよい。このようなその他の組成物成分としては、例えば、糖類やオキシカルボン酸塩等からなる凝結遅延剤、各種減水剤、陰イオン界面活性剤等からなるAE剤、オキシアルキレン系化合物等からなる消泡剤、アルカノールアミン等からなる硬化促進剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル等からなる収縮低減剤、セルロースエーテル系化合物からなる増粘剤、イソチアゾリン系化合物等からなる防腐剤、亜硝酸塩等からなる防錆剤等を挙げることができる。
【0063】
その他の組成物成分の含有割合としては、例えば、水硬性結合材100質量部に対して、固形分換算で0~5質量部とすることができる。
【0064】
本発明の水硬性組成物は、その水と水硬性結合材の比率(水/結合材比)としては従来公知の割合を適宜採用することができるが、例えば、20~70質量%とすることができる。
【0065】
(3)水硬性組成物の硬化体:
本発明の水硬性組成物は、硬化させて硬化物とすることができる。この硬化体は、具体的には、硬化したモルタル(モルタル硬化体)、硬化したコンクリート(コンクリート硬化体)などである。
【0066】
水硬性組成物の硬化体は、従来公知の方法で作製することができる。具体的には、水硬性組成物を型枠等に充填して室温で養生や蒸気による加熱養生等を行う方法などを挙げることができる。
【実施例
【0067】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0068】
(実施例1~17、比較例1~3)
(1)水硬性組成物用分散剤:
まず、実施例1~17及び比較例1~3の水硬性組成物用分散剤に使用したポリマー(P)を構成する構成単位1及び構成単位2を形成する化合物(P1-1~P1-11、P2-1~P2-4)を以下の表1~表2に示す。また、エーテル化合物(A)(A1-1~A1-11、A-12~A-15)を以下の表3に示す。表3中、EOはエチレンオキサイドを、POはプロピレンオキサイドを示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
次に、実施例1~17、比較例1~3の各ポリマー(P)の製造方法を以下に説明する。
【0073】
(製造例1)
具体的には、実施例1のポリマー(P)の製造方法としては、まず、上水道水95.02g、7-オクテン-1-オール1モルに対してEO(エチレンオキサイド)50モルを付加させた化合物210.17gを、温度計、撹拌機、滴下ロート、及び窒素導入管を備えた反応器に仕込み、攪拌しながら均一に溶解した。その後、雰囲気を窒素置換し、反応系の温度をマントルヒーターにて65℃に保持した。
【0074】
次に、30%過酸化水素水溶液2.30gを反応器に仕込んだ。同時に、上水道水38.66gにアクリル酸18.64gとメタクリル酸0.69gを均一に溶解させた水溶液を3時間かけて滴下を開始し、それと同時に、「上水道水18.38gにL-アスコルビン酸0.90gと3-メルカプトプロピオン酸1.15gを溶解させた水溶液」を3.5時間かけて滴下した。その後、1時間、反応系の温度を65℃に維持し、重合反応を終了した。
【0075】
その後、反応系に30%水酸化ナトリウム水溶液をpHが8になるように加え、上水道水にて濃度を調整して、反応混合物(ポリマー(P))の40%水溶液を得た。
【0076】
(その他の製造例)
表4に示す構成単位1及び構成単位2の種類及び含有割合(質量%)となるように、原料及び試薬を変えて合成したこと以外は、製造例1と同様にしてポリマー(P)を製造して、実施例2~17、比較例1~3の各ポリマー(P)を得た。
【0077】
なお、各製造例で得られた反応混合物を以下の測定条件でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて分析した。分析結果である質量平均分子量を表4に示す。
【0078】
<測定条件>
装置:Shodex GPC-101(昭和電工社製)
カラム:OHpak SB-G+SB-804 HQ+SB-802.5 HQ(昭和電工社製)
検出器:示差屈折計(RI)
溶離液:50mM硝酸ナトリウム水溶液
流量:0.7mL/分
カラム温度:40℃
試料濃度:試料濃度0.5重量%の溶離液溶液
標準物質:ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール
【0079】
(水硬性組成物用分散剤)
次に、以下のようにして、水硬性組成物用分散剤を調製した。具体的には、まず、ポリマー(P)の製造方法で得られた各反応混合物(ポリマー(P)を含むもの)中に含まれる未反応のエーテル化合物を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で定量し、反応混合物中の未反応のエーテル化合物の量を確認した。その後、ポリマー(P)とエーテル化合物(A)の割合(A/P)が表4に示す値を満たすように、上記反応混合物にエーテル化合物を追加しつつこれらを混合し、上水道水で希釈することで有効成分20%の水硬性組成物用分散剤を調整した。
【0080】
反応混合物のHPLCの測定条件を以下に示す。
<測定条件>
装置:Prominence(島津製作所社製)
カラム:Synergi 4μm Hydro-RP 80A(Phenomenex社製)
検出器:示差屈折計(RI)
溶離液:アセトニトリル/0.1%リン酸イオン交換水溶液=70/30(体積%)
流量:1.0mL/分
カラム温度:55℃
試料濃度:試料濃度1.0質量%の溶離液溶液
【0081】
【表4】
【0082】
表4中、「(A)/(P)」は、ポリマー(P)に対するエーテル化合物(A)の質量比の値(A/P)を示す。
【0083】
(2)水硬性組成物:
次に、調製した各水硬性組成物用分散剤を用いて、水硬性組成物(モルタル、コンクリート)を調製した。
【0084】
(2-1)モルタル(モルタル組成物):
20℃±1℃に温調した恒温室において、JIS R5201準拠のモルタルミキサーに、細骨材(大井川水系産陸砂、但し、2.5mmのふるいにとどまるものを除いたもの)と高炉スラグセメントB種(太平洋セメント製)を加え、上記ミキサーを低速で運転して10秒間攪拌した。その後、添加剤(水硬性組成物用分散剤)を所定量(表7に水硬性組成物用分散剤の添加率を示す)、消泡剤(AFK-2、竹本油脂製)0.1g、水(蒲郡市上水道)を同時に加え、上記ミキサーを低速で運転して各成分を攪拌し、210秒間混練して、モルタル組成物を得た。得られたモルタル組成物の温度を確認したところ、このモルタル組成物の温度は全て20℃±1℃であった。なお、添加剤と消泡剤は水の一部とした。下記表5には、各成分の使用量を示す。
【0085】
【表5】
【0086】
表5中、「W」は蒲郡市水道水を示し、「C」は高炉スラグセメントB種(太平洋セメント・UBE三菱セメント・住友大阪セメント等量混合、密度=3.04g/cm)を示し、「S」は大井川水系陸砂(密度=2.60g/cm)を示す。
【0087】
(2-2)コンクリート(コンクリート組成物):
公称容量55Lの強制二軸ミキサーを用い、このミキサーに表6に示す各成分(表7に水硬性組成物用分散剤の添加率を示す)を添加し、90秒間練混ぜを行って、コンクリート組成物を30L調製した。
【0088】
調製したコンクリート組成物における空気量は、消泡剤(竹本油脂製の商品名 AFK-2)をセメントとフライアッシュの合計質量(B)に対して0.001質量%用いて調整した。なお、表6に示すように、目標スランプフローは65±5cm、目標空気量は2.0%以下とした。また、各分散剤および消泡剤は水の一部として使用した。
【0089】
[空気量(容積%)]
空気量は、練混ぜ直後のコンクリート組成物の空気量について、JIS A 1128に準拠して測定した。
【0090】
【表6】
【0091】
表6中、「W」は蒲郡市水道水を示し、「C」は高炉スラグセメントB種(太平洋セメント・UBE三菱セメント・住友大阪セメント等量混合、密度=3.04g/cm)を示し、「FA」はフライアッシュ JIS II種相当(中部フライアッシュ社製、密度=2.39g/cm)を示し、「S」は大井川水系陸砂(密度=2.60g/cm)を示し、「G」は岡崎産砕石(密度=2.66g/cm)を示す。「B」は高炉スラグセメント(C)とフライアッシュ(FA)との混合物である。「s/a」は、細骨材率を示している。
【0092】
【表7】
【0093】
(評価)
モルタル(モルタル組成物)及びコンクリート(コンクリート組成物)について各種評価(粘性、練混ぜ早さ等)を行った。
【0094】
(1)モルタル組成物:
まず、モルタル(モルタル組成物)については、モルタルフロー値(mm)を測定して評価を行った。
[モルタルフロー(mm)]
タッピングを行わないこと以外は、JIS R 5201に準拠して練り上げ直後のモルタルフロー(mm)を測定した。
【0095】
(粘性)
[J14漏斗流下時間(秒)]
土木学会コンクリート標準示方書JSCE-F541の「充てんモルタルの流動性試験方法」に準拠して行った。
【0096】
J14漏斗流下時間(秒)(粘性)については、以下の評価基準(水準)にて評価を行った。
S:21.0秒未満である場合
A:21.0秒以上、23.0秒未満である場合
B:23.0秒以上、25.0秒未満である場合
C:25.0秒以上である場合
【0097】
(練混ぜ早さ(一体化時間(秒)))
モルタルを練り混ぜる際に、水を加えてから練り上がるまでの時間(一体化時間)を測定した。モルタルの練り上がるタイミングは、目視で観察しつつ確認した。
【0098】
モルタルにおける一体化時間(秒)(練混ぜ早さ)については、以下の評価基準(水準)にて評価を行った。
A:140秒未満である場合
B:140秒以上、180秒未満である場合
C:180秒以上である場合
【0099】
(2)コンクリート組成物:
次に、コンクリート(コンクリート組成物)については、スランプフロー(cm)、及び500mmフロー到達時間(秒)を測定して評価(粘性、練混ぜ早さ等)を行った。
【0100】
[スランプフロー(cm)]
練混ぜ直後のコンクリート組成物について、JIS A 1150に準拠して測定した。
【0101】
(粘性)
[500mmフロー到達時間(秒)]
練混ぜ直後のコンクリート組成物について、JIS A 1150に準拠して、スランプフローと同時に付属書JAに準拠し500mmフロー到達時間(秒)を測定した。
【0102】
500mmフロー到達時間(秒)については、以下の評価基準(水準)にて評価を行った。
S:6.5秒未満である場合
A:6.5秒以上、7.0秒未満である場合
B:7.0秒以上、8.0秒未満である場合
C:8.0秒以上である場合
【0103】
(練混ぜ早さ(一体化時間(秒))
コンクリートを練り混ぜる際に、水を加えてから練り上がるまでの時間(一体化時間)を測定した。コンクリートの練り上がるタイミングは、目視で観察しつつ確認した。
【0104】
コンクリートにおける一体化時間(秒)(練混ぜ早さ)については、以下の評価基準(水準)にて評価を行った。
A:60秒未満である場合
B:60秒以上、80秒未満である場合
C:80秒以上である場合
【0105】
(結果)
表7に示すように、本実施例の水硬性組成物用分散剤を添加した水硬性組成物(モルタル、コンクリート)は、分散性が高くその粘性が低減していることが分かる。更には、水硬性組成物における練り上がるまでの時間を早くすることができることも分かる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の水硬性組成物用分散剤は、水硬性組成物に添加することによって、水硬性組成物用の分散剤として使用することができる。本発明の水硬性組成物は、モルタル硬化体やコンクリート硬化体などの水硬性組成物硬化体を作製するものとして採用することができる。
【要約】
【課題】分散性が高く水硬性組成物の粘性を低減することができる水硬性組成物用分散剤を提供する。
【解決手段】一般式(1)で示される化合物から形成される構成単位(1)、及び、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、イタコン酸、イタコン酸無水物、及びそれらの塩から選ばれる少なくとも一つを含む化合物から形成される構成単位(2)を有するポリマー(P)と、炭素数2~24の1~4価の脂肪族アルコール1モルに対して、炭素数2~4のアルキレンオキサイドを1~500モル付加させた化合物であるエーテル化合物(A)と、を含有し、ポリマー(P)の質量平均分子量が、5000~5000000であり、ポリマー(P)に対するエーテル化合物(A)の質量比の値(A/P)が0超で0.25以下であることを特徴とする水硬性組成物用分散剤。
【選択図】なし