(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】電極埋設部材、その製造方法、および基板保持部材
(51)【国際特許分類】
H05B 3/03 20060101AFI20250204BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20250204BHJP
H05B 3/74 20060101ALI20250204BHJP
H05B 3/02 20060101ALI20250204BHJP
【FI】
H05B3/03
H01L21/68 N
H05B3/74
H05B3/02 B
(21)【出願番号】P 2020209027
(22)【出願日】2020-12-17
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004554
【氏名又は名称】弁理士法人i-MIRAI
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【氏名又は名称】藤田 正広
(72)【発明者】
【氏名】大木 敬介
【審査官】杉山 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-332560(JP,A)
【文献】特開平04-087181(JP,A)
【文献】国際公開第2020/105521(WO,A1)
【文献】特開2020-161589(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/03
H01L 21/683
H05B 3/74
H05B 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極埋設部材であって、
セラミックス焼結体からなる平板状の基体と、
前記基体に埋設された電極と、
前記電極に電気的に接続され、前記基体に埋設された接続部材と、を備え、
前記電極は、Mo炭化物で構成され、
前記接続部材は、W金属を含
み、前記接続部材は、表面に0μmより大きく20μm以下のW炭化物層を有することを特徴とする電極埋設部材。
【請求項2】
前記接続部材に接触し、Mo、Mo炭化物、またはMo及びMo炭化物の組み合わせのいずれかからなる第1の部材をさらに備えることを特徴とする請求項1
に記載の電極埋設部材。
【請求項3】
前記第1の部材は、コーティング層であることを特徴とする請求項
2に記載の電極埋設部材。
【請求項4】
請求項1から請求項
3のいずれかに記載の電極埋設部材と、
前記接続部材と電気的に接続された端子と、を備えることを特徴とする基板保持部材。
【請求項5】
セラミックス焼結体で形成された電極埋設部材の製造方法であって、
セラミックス原料粉から複数のセラミックス成形体を形成する成形体形成工程と、
前記複数のセラミックス成形体を所定の温度以上、所定の時間以上脱脂処理して複数のセラミックス脱脂体を作製する脱脂工程と、
Moワイヤーを織り込んだメッシュで形成された電極、およびWで形成された接続部材を準備する準備工程と、
前記電極、前記接続部材、および前記複数のセラミックス脱脂体を組み合わせて、平板状に形成され、電極および接続部材が埋設された電極埋設部材前駆体を形成する前駆体形成工程と、
前記電極埋設部材前駆体を、800℃
から1500℃
まで14時間以上
かけて昇温する熱処理工程と、
熱処理後の前記電極埋設部材前駆体を、前記電極埋設部材前駆体の主面に垂直方向に一軸加圧焼成して電極埋設部材を
得る焼成工程と、を備えることを特徴とする電極埋設部材の製造方法。
【請求項6】
前記準備工程において、Moで形成された第1の部材をさらに準備し、
前記前駆体形成工程において、前記第1の部材を前記接続部材に接触させて配置し、前記第1の部材を前記電極埋設部材に埋設することを特徴とする請求項
5に記載の電極埋設部材の製造方法。
【請求項7】
前記準備工程において準備する前記接続部材は、Moでコーティングされていることを特徴とする請求項
5または請求項
6に記載の電極埋設部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極埋設部材、その製造方法、および基板保持部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造装置用の部材としてセラミックス焼結体に電極が埋設されたサセプタ-、静電チャックまたはセラミックスヒータ等の電極埋設部材が提案されている。
【0003】
特許文献1には、ヒータ電極層の抵抗値の基板内ばらつきが小さくて、半導体ウェハを均一に加熱できるセラミックヒータを提供することを目的として、一炭化一タングステン粒子を含む導電性ペーストを用いて、窒化アルミニウム製のグリーンシートにヒータ電極層5を形成し、次いで、グリーンシートの熱処理工程を行い、この工程では、不活性ガス雰囲気下にて一炭化二タングステンの生成温度よりも低い温度域でグリーンシートを加熱し、その後、グリーンシートを完全に焼結させる本焼成工程を行い、セラミックヒータを完成する技術が開示されている
【0004】
特許文献1は、タングステン炭化物のなかで最も比抵抗の小さい一炭化一タングステン(WC)粒子を含む導電性ペーストをあらかじめ用いて、グリーンシートにヒータ電極層を形成している。このような導電性ペーストを用いて熱処理工程を行えば、粒子中に炭素分を全く含まない従来の導電性ペーストに比較して、グリーンシートにおける不均一な炭化反応が起こりにくく、この後、グリーンシートは非酸化性雰囲気下にて本焼成時よりも低い温度域で加熱され、シート中に含まれる有機物が分解・除去されるので、その結果、本焼成を行うのに適した状態のグリーンシートが得られ、これを本焼成することによりヒータ電極層の抵抗値の基板内ばらつきが小さい窒化アルミニウム製の焼結体を得ることができると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
セラミックス製の焼結体に、Mo製の電極とW製の接続部材を同時にセラミックス成形体に埋設して焼成して作製すると、原料、ジグや環境から混入するC成分がMo製の電極、W製の接続部材と不可避に反応してしまう。その際、例えば、電極の抵抗値を大きくするためにMoの炭化を積極的に促進させると、接続部材のWも同時に炭化が進行してしまい、接続部材自体が高抵抗化し電極と(外部)端子を電気的に接続する機能が劣化しまう。さらに炭化することによって接続部材自体が脆化し、その後端子を接続部材にロウ付けすると、クラックが発生しやすくなり端子強度が低下する事態が生じていた。そこでMo製の電極とW製の接続部材を同時にセラミックス成形体に埋設して焼成する際に、Mo製電極とW製接続部材の炭化を同時に制御し、上記機能劣化を抑制した電極埋設部材およびその製造方法が望まれていた。
【0007】
しかしながら、特許文献1は、電極層の炭化を制御しているものの、電極層を積極的に炭化させることを目的としておらず、また、電極層と接続部材の両方の炭化を制御することはできない。
【0008】
本発明者らは、炭化が開始する温度がMoとWで異なることに注目し、Moが炭化する温度以上かつWが炭化する温度以下の温度で熱処理することで、Mo電極の炭化を促進させつつW接続部材の炭化を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、電極の抵抗を高くすることができ、電極設計の自由度を高くすることができると共に、接続部材の抵抗を低く保つことができ、接続部材を介した電気的接続の信頼性を向上することができる電極埋設部材、その製造方法、および基板保持部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の電極埋設部材は、電極埋設部材であって、セラミックス焼結体からなる平板状の基体と、前記基体に埋設された電極と、前記電極に電気的に接続され、前記基体に埋設された接続部材と、を備え、前記電極は、Mo炭化物で構成され、前記接続部材は、W金属を含み、前記接続部材は、表面に0μmより大きく20μm以下のW炭化物層を有することを特徴としている。
【0011】
このように、電極をMo炭化物で構成することで、電極の抵抗を高くすることができ、電極設計の自由度を高くすることができると共に、接続部材をW金属を含むものとすることで、接続部材の抵抗を低く保つことができ、接続部材を介した電気的接続の信頼性を向上することができる。
【0012】
(2)上述のように、本発明の電極埋設部材において、前記接続部材は、表面に0μmより大きく20μm以下のW炭化物層を有することを特徴としている。
【0013】
このように、接続部材の表面の炭化物層をごく薄くすることで、接続部材の高抵抗化を抑制することができ、接続部材を介した電気的接続の信頼性をさらに向上することができると共に、接続部材の脆化を抑制することができ、接続部材にクラックが発生する虞を低減することができる。
【0014】
(3)また、本発明の電極埋設部材は、前記接続部材に接触し、Mo、Mo炭化物、またはMo及びMo炭化物の組み合わせのいずれかからなる第1の部材をさらに備えることを特徴としている。
【0015】
これにより、接続部材の炭化をより抑制することができ、接続部材を介した電気的接続の信頼性をさらに向上することができると共に、接続部材にクラックが発生する虞をさらに低減することができる。
【0016】
(4)また、本発明の電極埋設部材において、前記第1の部材は、コーティング層であることを特徴としている。
【0017】
これにより、接続部材の炭化をより抑制することができ、接続部材を介した電気的接続の信頼性をさらに向上することができると共に、接続部材にクラックが発生する虞をさらに低減することができる。
【0018】
(5)また、本発明の基板保持部材は、上記(1)から(4)のいずれかに記載の電極埋設部材と、前記接続部材と電気的に接続された端子と、を備えることを特徴としている。
【0019】
これにより、電極設計の自由度が高く、接続部材を介した電気的接続の信頼性が向上した電極埋設部材を使用した基板保持部材を構成でき、端子と接続部材との接続の不具合の発生の虞を低減できる。
【0020】
(6)また、本発明の電極埋設部材の製造方法は、セラミックス焼結体で形成された電極埋設部材の製造方法であって、セラミックス原料粉から複数のセラミックス成形体を形成する成形体形成工程と、前記複数のセラミックス成形体を所定の温度以上、所定の時間以上脱脂処理して複数のセラミックス脱脂体を作製する脱脂工程と、Moワイヤーを織り込んだメッシュで形成された電極、およびWで形成された接続部材を準備する準備工程と、前記電極、前記接続部材、および前記複数のセラミックス脱脂体を組み合わせて、平板状に形成され、電極および接続部材が埋設された電極埋設部材前駆体を形成する前駆体形成工程と、前記電極埋設部材前駆体を、800℃以上1500℃以下で14時間以上熱処理をする熱処理工程と、熱処理後の前記電極埋設部材前駆体を、前記電極埋設部材前駆体の主面に垂直方向に一軸加圧焼成して電極埋設部材を焼成する焼成工程と、を備えることを特徴としている。
【0021】
これにより、熱処理工程において電極の炭化が促進され電極全体をMo炭化物で構成することができると共に、接続部材をほとんど炭化させないようにすることができる。その結果、電極の抵抗を高くすることができ、電極設計の自由度を高くすることができると共に、接続部材の抵抗を低く保つことができ、接続部材を介した電気的接続の信頼性を向上することができる。
【0022】
(7)また、本発明の電極埋設部材の製造方法は、前記準備工程において、Moで形成された第1の部材をさらに準備し、前記前駆体形成工程において、前記第1の部材を前記接続部材に接触させて配置し、前記第1の部材を前記電極埋設部材に埋設することを特徴としている。
【0023】
これにより、接続部材の炭化をより抑制することができ、接続部材の高抵抗化を抑制することができ、接続部材を介した電気的接続の信頼性をさらに向上することができると共に、接続部材の脆化を抑制することができ、接続部材にクラックが発生する虞を低減することができる。
【0024】
(8)また、本発明の電極埋設部材の製造方法において、前記準備工程において準備する前記接続部材は、Moでコーティングされていることを特徴としている。
【0025】
これにより、接続部材の炭化をより抑制することができ、接続部材の高抵抗化を抑制することができ、接続部材を介した電気的接続の信頼性をさらに向上することができると共に、接続部材の脆化を抑制することができ、接続部材にクラックが発生する虞を低減することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、電極埋設部材の電極をMo炭化物で構成することで、電極の抵抗を高くすることができ、電極設計の自由度を高くすることができると共に、接続部材をW金属を含むものとすることで、接続部材の抵抗を低く保つことができ、接続部材を介した電気的接続の信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】第1の実施形態に係る電極埋設部材の一例を示す断面図である。
【
図2】第1の実施形態に係る基板保持部材の一例を示す断面図である。
【
図3】第1の実施形態に係る電極埋設部材の製造方法を示すフローチャートである。
【
図4】(a)~(d)それぞれ第1の実施形態に係る電極埋設部材の製造工程の一段階を模式的に示す断面図である。
【
図5】(a)~(c)それぞれ第1の実施形態に係る基板保持部材の製造工程の一段階を模式的に示す断面図である。
【
図6】第2の実施形態に係る電極埋設部材の一例を示す断面図である。
【
図7】第2の実施形態に係る電極埋設部材の変形例を示す部分断面図である。
【
図8】第2の実施形態に係る基板保持部材の一例を示す断面図である。
【
図9】実施例および比較例の製造条件および測定結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0029】
[第1の実施形態]
[電極埋設部材の構成]
まず、本実施形態に係る電極埋設部材の構成を説明する。
図1は、本実施形態に係る電極埋設部材の一例を示す断面図である。本実施形態に係る電極埋設部材100は、基体110と、電極120と、接続部材130と、を備える。電極埋設部材100は、ヒーター、静電チャック等に適用される。
【0030】
基体110は、セラミックス焼結体からなり、平板状に形成され、一方の主面に基板を載置する載置面112を有する。基体110の材質は、用途に応じて様々な材料を使用することができる。例えば、AlN、Al2O3、Si3N4、SiCなどを使用することができる。また、基体110の形状は、円板状、多角形状、楕円状など、様々な形状にすることができる。
【0031】
基体110を形成するセラミックス焼結体は、AlNを主成分とすることが好ましい。AlNを主成分とするとは、セラミックス焼結体にAlNが90wt%以上含まれることをいう。AlNセラミックスは、熱伝導率をあげるために2a族元素や3a族元素の酸化物からなる焼結助剤を添加することが多い。一般的に、焼結助剤の添加量は、量を増やすと熱伝導率が高くなるが、一定量以上添加すると熱伝導率の低下を引き起こすことが知られている。したがって、2a族元素や3a族元素の酸化物からなる焼結助剤の含有量は、10wt%以下とすることが望ましい。2a族元素の添加物としては、Mg、Ca、Sr、Ba等が挙げられ、3a族元素の添加物としては、Y、La、Sm、Ce等が挙げられる。
【0032】
AlNを主成分とするセラミックス焼結体は、熱伝導率が高く、耐熱性、耐プラズマ性に優れており、添加する焼結助剤の種類や量を調整することで、容易に熱伝導率を調整することができる。そのため、AlNを主成分とするセラミックス焼結体により基体110を形成することで、熱伝導率が調整され、耐熱性、耐プラズマ性に優れた基体110を構成できる。
【0033】
電極120は、基体110に埋設され、Mo炭化物で構成される。このように、電極120をMo炭化物で構成することで、電極120の抵抗を高くすることができ、電極設計の自由度を高くすることができる。電極120がMo炭化物で構成されるとは、EPMA分析において電極120の断面全面の元素マッピング分析を行ない、ZAF法によりCおよびMoをatom%換算で定量し、C/(C+Mo)比が0.20以上となっていることをいう。
【0034】
電極120は、ワイヤーを織り込んだメッシュで形成されることが好ましい。また、メッシュを形成するワイヤーは、線径が0.02mm以上0.15mm以下であることが好ましい。MoやMo炭化物は融点が高く加工が難しいので、線径が0.02mm未満のワイヤーは、製造が困難である。また、線径が0.15mmより大きいワイヤーを織り込んでメッシュを形成すると、焼結時にワイヤーに圧裂(クラック)が生じる虞が高くなる。また、ワイヤーの交点部分のメッシュの厚みは0.25mmより大きくなり、電極120の上部のセラミックスを薄い絶縁層として構成する場合に、絶縁層にクラックを生じさせる虞が増大する。このように、十分に細いワイヤーで電極120を構成することで、焼結時にワイヤーに圧裂が生じる虞をより低減することができ、また、電極120の上部のセラミックスを薄い絶縁層として構成しても、絶縁層にクラックを生じさせる虞をより低減させることができる。
【0035】
基体110は、複数の電極を備えていてもよい。例えば、ヒーター用電極と静電吸着用電極とを備えることで、電極埋設部材100は、ヒーター付静電チャックとして使用できる。その場合、少なくとも一方の電極が、本発明の電極120であればよい。2以上の電極が本発明の電極120であってもよい。
【0036】
接続部材130は、基体110に埋設され、電極120に電気的に接続される。これにより、接続部材130を介して電極120に電気を供給できる。接続部材130は、W金属を含む。接続部材130がW金属を含むとは、EPMAのZAF法による定量分析において接続部材130の断面からWが0.9以上検出されることによって確認されることをいう。
【0037】
接続部材130の厚みは、0.2mm以上5mm以下であることが好ましい。0.2mmより小さい場合、端子140を接続するために端子穴142を設ける際に、破損する虞が増大する。5mmより大きい場合、基体110のセラミックスとの焼成時の収縮率の差や使用時の熱膨張率の差によって、基体110にクラックが入る虞が増大する。
【0038】
接続部材130は、表面に0μmより大きく20μm以下のW炭化物層を有することが好ましい。このように、接続部材130の表面の炭化物層をごく薄くすることで、接続部材130の高抵抗化を抑制することができ、接続部材130を介した電気的接続の信頼性をさらに向上することができると共に、接続部材130の脆化を抑制することができ、接続部材130にクラックが発生する虞を低減することができる。本発明の製造方法はWの炭化が進みにくいので、接続部材130の表面のW炭化物層を薄くすることができる。
【0039】
本発明の電極埋設部材は、電極をMo炭化物で構成することで、電極の抵抗を高くすることができ、電極設計の自由度を高くすることができると共に、接続部材をW金属を含むものとすることで、接続部材の抵抗を低く保つことができ、接続部材を介した電気的接続の信頼性を向上することができる。
【0040】
[基板保持部材の構成]
図2は、第1の実施形態に係る基板保持部材の一例を示す断面図である。本実施形態に係る基板保持部材200は、本実施形態に係る電極埋設部材100に端子穴142を設け、端子140を備えたものである。端子140は、接続部材130と電気的に接続される。これにより、電極120に給電することができる。端子140は、Niなどで形成することができる。端子140は、接続部材130とAuロウなどでロウ付けされる。接続部材130と端子140との間にコバールなどで形成された中間部材150を設けてもよい。
【0041】
本発明の基板保持部材は、電極設計の自由度が高く、接続部材を介した電気的接続の信頼性が向上した電極埋設部材を使用した基板保持部材を構成でき、端子と接続部材との接続の不具合の発生の虞を低減できる。
【0042】
[電極埋設部材の製造方法]
次に、本実施形態に係る電極埋設部材の製造方法を説明する。
図3は、本発明の第1の実施形態に係る電極埋設部材の製造方法を示すフローチャートである。本発明の第1の実施形態に係る電極埋設部材の製造方法は、
図3に示すように、成形体形成工程STEP1、脱脂工程STEP2、準備工程STEP3、前駆体形成工程STEP4、熱処理工程STEP5、および焼成工程STEP6を備えている。なお、以下では成形体を積層して製造する成形体ホットプレス法による製造方法を説明するが、本発明は熱処理工程STEP5の温度および時間が重要であり、その他の工程は別の方法に置き換えてもよい。
【0043】
図4(a)~(d)は、それぞれ本実施形態に係る電極埋設部材の製造工程の一段階を模式的に示す断面図である。
図4(a)~(d)は、
図1の電極埋設部材を製造する場合について示している。
【0044】
成形体形成工程STEP1では、セラミックス原料粉から複数のセラミックス成形体11、12を形成する。なお、
図4ではセラミックス成形体は2の部材に分かれているが、設計に応じて3以上であってもよい。例えば、セラミックス原料粉末にバインダ、可塑剤、分散剤などの添加剤を適宜添加して混合して、スラリーを作製し、スプレードライ法等により顆粒(セラミックス原料粉)を造粒後、加圧成形して複数のセラミックス成形体11、12を形成することができる。このようにバインダを用いた製法をとる場合、バインダ由来のC成分が後述する脱脂工程後もセラミックス脱脂体内に100ppm~500ppm程度残ることとなる。このC成分が炭化の原因となると推定される。本発明は、電極のMoを十分に炭化させる必要があるので、この程度のC成分が脱脂体内に残っていることが好ましい。セラミックス原料粉には、必要に応じて焼結助剤となる粉末が添加されてもよい。
【0045】
セラミックス原料粉末は、高純度であることが好ましく、その純度は、好ましくは96%以上、より好ましくは98%以上である。また、セラミックス原料粉末の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上1.0μm以下である。
【0046】
混合方法は、湿式、乾式の何れであってもよく、例えばボールミル、振動ミルなどの混合器を用いることができる。また、成形方法としては、例えば、一軸加圧成形や冷間静水等方圧加圧(CIP:Cold Isostatic Pressing)法などの公知の方法を用いればよい。なお、セラミックス成形体を形成する方法は、加圧成形に限らず、例えば、グリーンシート積層、または鋳込み成形であっても適用が可能であり、これらを適宜脱脂、またはさらに仮焼する工程により、セラミックス成形体を製造することができる。また、粉末ホットプレス法により電極埋設部材前駆体を形成してもよい。
【0047】
複数のセラミックス成形体11、12は、成形後、機械加工により成形体の形状が整えられてもよい。また、
図4(b)に示されるように、セラミックス成形体12の片面(他のセラミックス成形体11との接合面)に、電極120および接続部材130の形状に合わせた形状の凹部が形成されてもよい。凹部はセラミックス成形体11に設けられてもよいし、両方に設けられてもよい。機械加工は、脱脂後に行なってもよい。
【0048】
脱脂工程STEP2では、複数のセラミックス成形体11、12を所定の温度以上、所定の時間以上脱脂処理して複数のセラミックス脱脂体21、22を作製する。セラミックス成形体11、12は、例えば、400℃以上800℃以下の温度で熱処理され、セラミックス脱脂体21、22となる。脱脂時間は、1時間以上120時間以下であることが好ましい。脱脂には、大気炉または窒素雰囲気炉を用いることができるが、バインダの不要な成分を除去するためには大気炉の方が好ましい。
【0049】
準備工程STEP3では、Moワイヤーを織り込んだメッシュで形成された電極120、およびWで形成された接続部材130を準備する。
【0050】
電極120の材質は、Moを主成分とする。Moを主成分とするとは、純度が98wt%以上であることを示し、他の遷移金属や希土類の単体またはその化合物およびCの合計が2wt%以下であることを示す。Moを主成分とする電極120が後述する熱処理工程STEP5および焼成工程STEP6を経ることにより、Mo炭化物で構成される電極120となる。また、電極120は、電極埋設部材100の設計に応じた形状に加工されたものを準備する。形状は、炭化のしやすさを考慮してワイヤーを織り込んだメッシュであることが好ましい。電極120の形状がメッシュ状である場合、メッシュを形成するワイヤーの線径は、0.02mm以上0.15mm以下であることが好ましい。
【0051】
接続部材130の材質は、Wを主成分とする。Wを主成分とするとは、純度が97wt%以上であることを示し、他の遷移金属や希土類の単体またはその化合物およびCの合計が3wt%以下であることを示す。Wを主成分とする接続部材130は、後述する熱処理工程STEP5および焼成工程STEP6を経ても炭化が進みにくいため、W金属を含む接続部材130となる。また、接続部材130は、電極埋設部材100の設計に応じた形状に加工されたものを準備し、設計に応じた位置に埋設する。
【0052】
前駆体形成工程STEP4では、準備した電極120、接続部材130、および複数のセラミックス脱脂体21、22を組み合わせて、平板状に形成され、電極120および接続部材130が埋設された電極埋設部材前駆体30を形成する。
【0053】
熱処理工程STEP5では、形成された電極埋設部材前駆体30を、800℃以上1500℃以下で14時間以上熱処理をする。これにより、電極120は、Moの炭化が進みMo炭化物となる。一方、Wの炭化温度より低い温度で熱処理をしているので、接続部材130のWは炭化が進みにくい。
【0054】
焼成工程STEP6では、熱処理された電極埋設部材前駆体30を、主面(載置面)に垂直方向に一軸加圧焼成して電極埋設部材100を得る。加圧する力は、1MPa以上であることが好ましい。また、焼成温度は、1500℃より大きく2000℃以下であることが好ましい。焼成時間は、1時間以上12時間以下であることが好ましい。焼成雰囲気は、例えば、窒素や不活性ガス雰囲気であるが、真空などの雰囲気であってもよい。これにより、熱処理後の複数のセラミックス脱脂体21が焼結してセラミックス焼結体となり、これらが一体化され、電極120および接続部材130が埋設された電極埋設部材100が得られる。焼成は、熱処理から連続して温度を上げることで行なってもよい。
【0055】
このようにすることで、電極の抵抗を高くすることができ、電極設計の自由度を高くすることができると共に、接続部材の抵抗を低く保つことができ、接続部材を介した電気的接続の信頼性を向上することができる電極埋設部材を製造することができる。
【0056】
なお、脱脂工程STEP2と、前駆体形成工程STEP4との間に、セラミックス仮焼体作製工程を設けてもよい。セラミックス仮焼体作製工程を設ける場合、セラミックス脱脂体を1200℃以上1700℃以下の温度で仮焼してセラミックス仮焼体を作製する。これにより、電極埋設部材の外形や電極および接続部材の埋設位置などの寸法精度をより高くすることができる。仮焼時間は、0.5時間以上12時間以下であることが好ましい。仮焼雰囲気は、窒素や不活性ガス雰囲気であることが好ましいが、真空などの雰囲気であってもよい。仮焼体作製工程を設ける場合、機械加工は仮焼体作製工程の後に行なってもよい。
【0057】
[基板保持部材の製造方法]
図5(a)~(c)は、それぞれ本実施形態に係る基板保持部材の製造工程の一段階を模式的に示す断面図である。
図5(a)~(c)は、
図2の基板保持部材を製造する場合について示している。
【0058】
焼成後の電極埋設部材100に端子穴142を設けて、接続部材130の表面を露出させる。このとき、接続部材130の表面に図示しないW炭化物層が形成されている場合、端子穴の範囲のW炭化物層も取り除く。これにより、接続部材130の抵抗の低く保たれたW金属に端子140を接続することができる。露出させた接続部材130にロウ材等で端子140を接続する。端子は、Ni等を用いることができる。また、ロウ材はAuロウ等を用いることができる。接続部材130と端子140との間にコバールなどで形成された中間部材150を配置して、ロウ付けしてもよい。
【0059】
このようにすることで、電極設計の自由度が高く、接続部材を介した電気的接続の信頼性が向上した電極埋設部材を使用した基板保持部材を構成でき、端子と接続部材との接続の不具合の発生の虞を低減できる基板保持部材200を製造することができる。
【0060】
[第2の実施形態]
[電極埋設部材の構成]
次に、第2の実施形態に係る電極埋設部材の構成を説明する。
図6は、本実施形態に係る電極埋設部材の一例を示す断面図である。本実施形態に係る電極埋設部材100は、基体110と、電極120と、接続部材130と、第1の部材160と、を備える。電極埋設部材100は、ヒーター、静電チャック等に適用される。第1の部材160を備えることを除いて、電極埋設部材100の基本的構成は第1の実施形態と同様であるので、異なる部分のみ説明する。
【0061】
第1の部材160は、接続部材130に接触し、Mo、Mo炭化物、またはMo及びMo炭化物の組み合わせのいずれかからなる。これにより、接続部材130の炭化をより抑制することができ、接続部材130を介した電気的接続の信頼性をさらに向上することができると共に、接続部材130にクラックが発生する虞をさらに低減することができる。
【0062】
第1の部材160が板状の部材として設けられる場合、第1の部材160の形状は接続部材130と同様の形状で、厚みは0.2mm以上5mm以下であることが好ましい。0.2mmより小さい場合、形成する工程および配置する工程が難しくなる。5mmより大きい場合、基体110のセラミックスとの焼成時の収縮率の差や使用時の熱膨張率の差によって、基体110にクラックが入る虞が増大する。第1の部材160が板状の部材として設けられる場合、第1の部材160は、接続部材130の端子140と接続される側に配置されることが好ましい。
【0063】
図7は、本実施形態に係る電極埋設部材の変形例を示す部分断面図である。
図6の例では、第1の部材160は、接続部材130とは別の部材として設けられていたが、第1の部材160は、
図7の例のように、接続部材130をコーティングするコーティング層162として設けられてもよい。
【0064】
コーティング層162の厚みは、0.1μm以上100μm以下であることが好ましい。0.1μmより薄い層は、製造が困難であり、またC成分の消費量が少なくなるので、接続部材130の炭化抑制効果が小さくなる。100μmより厚い層を設ける場合は、コーティング層162ではなく別の部材とするほうが容易である。
【0065】
コーティング層162は、接続部材130が板状の部材として形成される場合、接続部材130の炭化を抑制する観点から接続部材130の主面の両面に設けられることが好ましいが、片面のみに設けられてもよい。片面のみに設けられる場合、コーティング層162は、接続部材130の端子140と接続される側に設けられることが好ましい。なお、コーティング層162を設けた接続部材130と、板状の第1の部材160を併用してもよい。
【0066】
これにより、第1の部材160をあらかじめ接続部材130にコーティング層162として設けることができ、製造が容易になると共に、接続部材130のより近傍のC成分を消費することができる。その結果、接続部材130の炭化をより抑制することができ、接続部材130を介した電気的接続の信頼性をさらに向上することができると共に、接続部材130にクラックが発生する虞をさらに低減することができる。
【0067】
[基板保持部材の構成]
図8は、本実施形態に係る基板保持部材の一例を示す断面図である。本実施形態に係る基板保持部材200は、本実施形態に係る電極埋設部材100に端子穴142を設け、端子140を備えたものである。このとき、端子穴142の範囲の第1の部材160またはコーティング層162は、取り除くことが好ましい。端子穴142の範囲以外の第1の部材160またはコーティング層162は、そのまま残されていてもよい。第1の部材160またはコーティング層162を取り除いた後の接続部材130の表面に図示しないW炭化物層が形成されている場合、端子穴の範囲のW炭化物層も取り除く。これにより、接続部材130の抵抗の低く保たれたW金属に端子140を接続することができる。
【0068】
[電極埋設部材および基板保持部材の製造方法]
本実施形態に係る電極埋設部材および基板保持部材の製造方法は、第1の実施形態に係る電極埋設部材および基板保持部材の製造方法とほとんど同様であるので、異なる部分のみ説明する。
【0069】
本実施形態に係る電極埋設部材および基板保持部材の製造方法は、準備工程において、電極120、接続部材130に加えて、Mo製の第1の部材160、またはMoコーティングされたWで形成された接続部材130を準備する。
【0070】
これにより、熱処理時および焼成時に接続部材130の近傍のC成分を第1の部材160またはコーティング層162が消費する。その結果、接続部材130の炭化をより抑制することができ、接続部材130を介した電気的接続の信頼性をさらに向上することができると共に、接続部材130にクラックが発生する虞をさらに低減することができる。コーティング層162は、W製の接続部材130に対し、メッキや溶射によって設けることができる。なお、セラミックス成形体またはセラミックス脱脂体に凹部を形成する場合、第1の部材160またはコーティング層162の厚みも考慮して形成することが好ましい。
【0071】
[実施例および比較例]
(実施例1)
5wt%Y2O3を添加したAlNを主成分とするセラミックス原料粉を用いて、CIP成形(圧力1ton/cm2)し、成形体のインゴットを得た。これを機械加工することで、直径340mm、厚み5mmのセラミックス成形体、および直径340mm、厚み30mmのセラミックス成形体を成形した。そして、厚み30mmのセラミックス成形体の一方の面に、成形体の中心を共有し、電極を収納するための直径300mm、深さ0.1mmの凹部を設けた。さらに、端子を形成する所定の位置に、接続部材を収納するための直径8.5mm、深さ0.25mmの凹部を設けた。
【0072】
次に、セラミックス成形体を、550℃、12時間脱脂して、セラミックス脱脂体を作製した。次に、直径294mmのモリブデン製のモリブデンメッシュ(線径0.1mm、平織り、メッシュサイズ♯50)を所定の形状に裁断し、電極を準備した。また、W製のペレットからφ8mm×0.2mmtのサイズの接続部材を2つ作製した。次に、凹部を設けたセラミックス脱脂体の凹部に接続部材および電極を載置し、もう一方のセラミックス脱脂体で挟み、電極埋設部材前駆体を作製した。
【0073】
次に、電極埋設部材前駆体をホットプレス炉に載置して、800℃から1500℃まで14時間の熱処理を行なった。次に、電極埋設部材前駆体の主面(載置面)に垂直な方向に10MPaの力を加えつつ、1800℃、2時間、1軸ホットプレス焼成した。このようにして、電極埋設部材を焼成した。
【0074】
その後、全面に研削、研磨加工を行ない、総厚25mm、絶縁層厚み1.0mm、表面粗さをRa0.4μmのウェハ載置面を形成した。セラミックス基体裏面側より端子位置に接続部材に到達するまで穴径φ5.5mmの平底穴加工を行なった。露出した接続部材底面にロウ材を介して直径5mm、厚み2mmのコバール製の緩衝部材と直径5mm長さ30mmの円柱状Ni製給電端子を設置し、真空炉により1050℃でAu-Ni系ロウ材によるロウ付けを行ない、基板保持部材を完成させた。このようにして、実施例1の基板保持部材を作製した。
【0075】
(実施例2)
実施例2は、実施例1で使用したW製の接続部材に代わり、Wの表面にMoをプラズマ溶射し、厚み20μmコーティングした接続部材を用いた。それ以外は実施例1と同様の条件で実施例2の基板保持部材を作製した。
【0076】
(実施例3)
実施例3は、実施例1のW製の接続部材にMoの部材(第1の部材)を重ねて埋設した。Moの部材はφ8mm×0.8mmtとした。焼成後に、端子穴の範囲のMo部材は加工により除去した。それ以外は実施例1と同様の条件で実施例3の基板保持部材を作製した。
【0077】
(実施例4)
実施例4は、熱処理時間を20時間とした以外、実施例1と同様の条件で実施例4の基板保持部材を作製した。
【0078】
(実施例5)
実施例5は、熱処理時間を12時間とした以外、実施例1と同様の条件で実施例5の基板保持部材を作製した。
【0079】
(比較例1)
比較例1は、長時間の熱処理を行なわなかった。すなわち、800℃~1500℃までの昇温時間を従来と同様の7時間として昇温したのち、1800℃で2時間1軸加圧焼成した。それ以外は実施例1と同様の条件で比較例1の基板保持部材を作製した。
【0080】
(比較例2)
比較例2は、実施例2と同様のMoコーティングした接続部材を用いた。それ以外は比較例1と同様の条件で比較例2の基板保持部材を作製した。
【0081】
(比較例3)
比較例3は、実施例3と同様にW製の接続部材にMoの部材(第1の部材)を重ねて埋設した。それ以外は比較例1と同様の条件で比較例3の基板保持部材を作製した。
【0082】
[性能評価]
(温度分布の測定)
作製した基板保持部材(ヒーター)を評価チャンバー内にインストール後、自己発熱により400℃で温度制御し、表面分布をIRカメラで測定した。測定領域はΦ290mmの範囲内で温度ばらつきはΔT=最大値-最小値として評価した。
【0083】
(抵抗バラツキの評価)
温度分布測定後、ヒーター電極を露出させる抵抗測定用の端子穴を所定の位置に複数箇所設けた。所定の端子穴に露出したヒーター電極にテスターのプローブを接触させ所定の端子間のヒーター抵抗値を8箇所(半径135mmの位置の外周部4ヶ所、半径50mmの位置の内周部4ヶ所)で測定した。8箇所の設計上の抵抗値Rdと測定した抵抗値Rmとの比(Rm/Rd)の(最大値-最小値)/平均値を電極の抵抗バラツキとして評価した。
【0084】
(電極、接続部材の組成分析)
ヒーターを載置面の中心および接続部材の中心を通る垂直な断面で切断し、電極、接続部材の断面を露出させ研磨後、EMPAで元素分析を行ない、XRDで定性分析を行なった。電極の元素分析は、載置面の中心に最も近い位置、外周に最も近い位置、およびその中点に最も近い位置の3箇所の電極について行なった。
【0085】
電極のEPMA分析は、電極の断面をFE-EPMA(電界放出型電子線マイクロアナライザ)による断面の元素マッピング分析を行ない、ZAF法でatom%換算でC/(C+Mo)比で炭化物の判断を行なった。C/(C+Mo)比が0.20以上である場合、Mo炭化物で構成されていると判断し、C/(C+Mo)比が0.20未満である場合、未炭化のMoが残っていると判断した。またXRDでは、μ-XRD(マイクロX線回折)により、断面の領域(電極の径を含む直径約3100μmの領域)のX線回折を行なった。
【0086】
接続部材のEPMA分析は、接続部材の断面の端部をFE-EPMA(電界放出型電子線マイクロアナライザ)による断面の元素マッピング分析を行ない、Cが検出される領域の有無で炭化物の生成を確認するとともに、SEM像による炭化物が生成している領域とそうでない領域のコントラスト差によりW炭化物層の厚みを測定した。
【0087】
実施例1~5は、比較例1と比較して、W接続部材表層の炭化層の厚みを薄くすることができた。これは、800~1500℃までの所要時間を従来の製造方法と比較して十分に長くしたことにより、原料やジグ、環境からのC成分のうち、少なくとも接続部材近傍のC成分をMo電極、Moコーティング層、Moの第1の部材で消費したためであると推定される。このとき同時に、EPMAおよびXRDの両方で、上記3点の全てでヒーター電極のワイヤーがMo炭化物(Mo
2C)となっていることを確認した。なお、
図9のC/(C+Mo)比の値は、上記3点のうち、値が最も小さかった箇所の値を示している。したがって、電極を全て炭化させるための熱処理時間は12時間以上で十分であることが分かった。
【0088】
一方、実施例5は、熱処理時間以外は同一の条件の実施例1および4と比較すると、接続部材の炭化層の厚みが大きくなっていた。接続部材の炭化層は、できるだけ薄い方が好ましいため、熱処理時間は14時間以上であることが好ましく、20時間以上であることがより好ましいことが分かった。なお、熱処理時間が長いほど炭化層の厚みが薄くなるのは、熱処理の間にC成分がMoで消費されるだけでなく、CO等のガスとして排出されているためと推測される。
【0089】
これに対し、比較例1~3は、W接続部材表層の炭化層の厚みが厚くなった。また、同時に、ヒーター電極のワイヤー断面がMoとMo2Cの複合組織となっている箇所があった。Moコーティングした接続部材やMoペレット(第1の部材)を使用した比較例2および3は、比較例1よりは接続部材の炭化層の厚みが薄くなったが、電極全体を炭化させることはできなかったため、電極の抵抗のバラツキは比較例1と同様に大きく、ヒーター表面の温度分布も同様に大きかった。
【0090】
これらの結果、実施例1~5は比較例に比べMoとMo2Cの混在が解消されてヒーター抵抗のバラツキが改善され、ヒーター表面温度分布が改善することが確かめられた。また、W接続部材の炭化を抑制し脆化を抑制できたため、接続部材に端子をロウ付けする信頼性を高めることができることが確かめられた。さらに、本発明の製造方法は、このような電極埋設部材および基板保持部材を製造できることが確かめられた。
【0091】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形および均等物に及ぶことはいうまでもない。また、各図面に示された構成要素の構造、形状、数、位置、大きさ等は説明の便宜上のものであり、適宜変更しうる。
【符号の説明】
【0092】
11、12 セラミックス成形体
21、22 セラミックス脱脂体
30 電極埋設部材前駆体
100 電極埋設部材
110 基体
112 載置面
120 電極
130 接続部材
140 端子
142 端子穴
150 中間部材
160 第1の部材
162 コーティング層
200 基板保持部材