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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】基板保持部材
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20250204BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20250204BHJP
【FI】
H01L21/68 P
G03F7/20 501
G03F7/20 521
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021007331
(22)【出願日】2021-01-20
(65)【公開番号】P2022111715
(43)【公開日】2022-08-01
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004554
【氏名又は名称】弁理士法人i-MIRAI
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【弁理士】
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 正広
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 教夫
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-221323(JP,A)
【文献】特開2019-040983(JP,A)
【文献】国際公開第2014/188572(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板保持部材であって、
上面に開口する1または複数の通気孔を有する平板状の基体と、
前記基体の上面から上方に突出して形成される複数の凸部と、を有し、
前記複数の凸部は、
前記基体の上面の外周に沿って環状に形成される環状凸部と、
前記基体の上面から柱状に形成される複数の第1のピン状凸部と、
前記基体の上面から上方に突出する第1凸要素と、前記第1凸要素の上端から上方に突出し柱状に形成される第2凸要素と、によって形成される複数の第2のピン状凸部と、を備え、
前記環状凸部は、前記第1のピン状凸部の上端および前記第2のピン状凸部の上端より前記基体の上面に近い位置に上端を有し、
少なくとも一つの前記第2のピン状凸部は、前記基体の中心を含む所定の領域に形成され
前記基体の上面の前記第1のピン状凸部が形成される領域を第1の領域、前記第2のピン状凸部が形成される領域を第2の領域とするとき、
(第1の領域の凸部の体積/第1の領域の全体の体積)<(第2の領域の凸部の体積/第2の領域の全体の体積)
を満たすことを特徴とする基板保持部材。
【請求項2】
前記所定の領域は、前記基体の中心から外周までの距離の70%以下の距離より内側の範囲に構成され、
前記複数の第2のピン状凸部は、前記所定の領域に形成されることを特徴とする請求項1に記載の基板保持部材。
【請求項3】
前記第2のピン状凸部において、1の前記第1凸要素に対して1の前記第2凸要素が形成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の基板保持部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板保持部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体製造プロセスなどにおいて、半導体ウエハ(シリコンウエハ)などの基板を支持する基板保持部材が用いられている。基板保持部材を構成する基体は、基板の裏面を支持するため、基体の表面に多数の凸部(ピン)を有し、基板の裏面と基体の表面によって形成される空間を真空排気することにより基板を保持する。基体の表面に形成されたピンは、基板と直接的に接触する部分でありパーティクルが生じやすい部分となる。ピンの表面と基板との間にパーティクルが介在してしまうと、基板に局所的な盛り上がりが生じ、基板の面精度の悪化・デフォーカスエラーが発生する。
【0003】
特許文献1では、基体と基板との接触を原因とするパーティクルの発生を極力少なくするため、ピンを先細りの円錐台形状や、径の異なる円柱を積み重ねた形状とすることで、基板との接触比率を低減することが記載されている。
【0004】
また基板は、半導体製造プロセスにおける薄膜の形成や、研削、研磨などにより、基板がストレスを受けることにより反りが発生する場合がある。反りが生じた基板は、反りのない基板と比較して平坦性よく基板保持部材に吸着することは困難である。
【0005】
特許文献2では、反りを有する基板を平面矯正するため、複数のピンが形成される領域を中心領域と外周領域に区分し、中心領域の深さを外周領域より深く形成することで、中心領域での真空排気の空気抵抗を小さくし、外周部での吸着力を向上することにより、凹状に反った基板を吸着することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-242255号公報
【文献】特開2011-114238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2によれば、外周領域の高さ(深さ)は40μmで、中心領域の高さ(深さ)は100μmとする記載がある。また、特許文献1によれば、ピンの高さは0.1mm以上とすることが記載されており、100μm程度の高さ(深さ)は一般的な値と言える。このことから特許文献2は、中心領域を深くしているイコール外周領域を浅くしているとも言える。
【0008】
いわゆるベルヌーイタイプのピンチャックは、ピンを取り囲むように形成される環状リブ(外周リブ)が、ピンより一定高さ低い。そのため、基板の吸着動作中においては常に基体の外側からは大気が流入している状態にあり、大気の流入と同時にパーティクルの侵入を許してしまう場合がある。このとき、外周領域が浅いと侵入を許したパーティクルの噛みこみリスクが高まり、基板の平坦性が損なわれる場合がある。
【0009】
また、特許文献2の基板保持装置は、外周領域の吸着力が向上することで凹状に反った基板を吸着することを目的としており、凸状に反った基板を平坦性よく吸着することは困難である。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、ベルヌーイタイプの基板保持部材において、吸着力を向上することで様々な撓みまたは反り(凸状、凹状、鞍状など)を有する基板を平坦性高く保持すると共に、デチャック性を調整することができる基板保持部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の基板保持部材は、基板保持部材であって、上面に開口する1または複数の通気孔を有する平板状の基体と、前記基体の上面から上方に突出して形成される複数の凸部と、を有し、前記複数の凸部は、前記基体の上面の外周に沿って環状に形成される環状凸部と、前記基体の上面から柱状に形成される複数の第1のピン状凸部と、前記基体の上面から上方に突出する第1凸要素と、前記第1凸要素の上端から上方に突出し柱状に形成される第2凸要素と、によって形成される複数の第2のピン状凸部と、を備え、前記環状凸部は、前記第1のピン状凸部の上端および前記第2のピン状凸部の上端より前記基体の上面に近い位置に上端を有し、少なくとも一つの前記第2
のピン状凸部は、前記基体の中心を含む所定の領域に形成されることを特徴としている。さらに本発明の基板保持部材は、後述の(3)に記載の技術的特徴を備える。
【0012】
このように、ピン状凸部を第1のピン状凸部(1段ピン)と第2のピン状凸部(2段ピン)で構成することにより、2段ピンを形成した部分の空間体積を小さくすることができ、基板保持部材の吸着面直下の空間体積の調整が可能となる。その結果、吸着力を向上させると共にデチャック性を調整できる。さらに、本発明の基板保持部材は、後述の(3)に記載の技術的効果を奏することができる。


【0013】
(2)また、本発明の基板保持部材において、前記所定の領域は、前記基体の中心から外周までの距離の70%以下の距離より内側の範囲に構成され、前記複数の第2のピン状凸部は、前記所定の領域に形成されることを特徴としている。
【0014】
これにより、中心付近の所定の領域の吸着力が高まるため、様々な反りを有する基板(中凸状、中凹状など)であっても、基体の中心から外周に向かうように基板を平坦性良く吸着することができる。また、環状凸部の外側から侵入するパーティクルの噛みこみリスクを低減することができる。
【0015】
(3)また、本発明の基板保持部材において、前記基体の上面の前記第1のピン状凸部が形成される領域を第1の領域、前記第2のピン状凸部が形成される領域を第2の領域とするとき、(第1の領域の凸部の体積/第1の領域の全体の体積)<(第2の領域の凸部の体積/第2の領域の全体の体積)を満たすことを特徴としている。
【0016】
これにより、第2の領域の吸着力を高くすることができ、様々な反りを有する基板であっても平坦性良く吸着することができる。
【0017】
(4)また、本発明の基板保持部材は、前記第2のピン状凸部において、1の前記第1凸要素に対して1の前記第2凸要素が形成されることを特徴としている。
【0018】
これにより、第1凸要素からのパーティクル発生リスクを低減でき、また、パーティクルの基板への噛みこみや付着リスクを低減できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、様々な撓みまたは反りの態様を有する基板を平坦性高く保持すると共に、吸着力およびデチャック性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1の実施形態に係る基板保持部材の上面の一例を示した模式図である。
図2】第1の実施形態に係る基板保持部材の一例を示した部分断面図である。
図3図2における第1の領域および第2の領域を示した部分断面図である。
図4】本発明の第2の実施形態に係る基板保持部材の上面の一例を示した模式図である。
図5】第2の実施形態に係る基板保持部材の一例を示した部分断面図である。
図6図5における第1の領域および第2の領域を示した部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。なお、構成図において、各構成要素の大きさは概念的に表したものであり、必ずしも実際の寸法比率を表すものではない。
【0022】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る基板保持部材について、図1から図3を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施形態に係る基板保持部材の上面の一例を示した模式図である。また、図2は、第1の実施形態に係る基板保持部材の一例を示した部分断面図である。また、図3は、図2における第1の領域および第2の領域を示した部分断面図である。本実施形態に係る基板保持部材100は、基板(ウエハ)Wを吸着保持するための略平板状の基体10を備えている。基体10は、セラミックス焼結体により略平板状に形成されている。基体10は略円板状のほか、多角形板状または楕円板状などのさまざまな形状であってもよい。
【0023】
基体10は、上面12に開口する1または複数の通気孔14を有する。通気孔14が複数ある場合、通気孔14は基体10の内部を通る通気路を介して連通してもよい。通気孔14は、真空吸引装置(図示略)に接続される。図1では、通気孔14が基体の中心16に1か所のみ配置される例を示しているが、これに限定されず、通気孔14の数、位置、形状、および大きさは、後述する環状凸部22等によって定まる吸着面の形状、基板Wの形状や種類、真空吸引した際の吸着力等、基板保持部材100の設計に応じて異なる。
【0024】
基体10は、上面12から上方に突出して形成される複数の凸部20を有する。複数の凸部20は、環状凸部22、第1のピン状凸部24、第2のピン状凸部26を備える。
【0025】
環状凸部22は、基体10の上面の外周に沿って環状に形成される。例えば、基体10が円板状に形成される場合、環状凸部22は、基体10の上面の外周に沿った位置または外周から所定の幅を空けて中心側に寄った位置に、上方から見たとき円環状に連続して形成されることが好ましい。
【0026】
環状凸部の上端22aは、第1のピン状凸部の上端24aおよび第2のピン状凸部の上端26aより基体10の上面12に近い位置にある。すなわち、環状凸部22の高さは、第1のピン状凸部24および第2のピン状凸部26の高さより低い。これにより、基板Wの吸着動作中において、常に基体10の外側から大気が流入することとなり、環状凸部22の近傍でベルヌーイ効果を発揮させ基板Wの縁の沈み込みを抑制できる。また、基板Wとの接触面積を小さくすることができ、パーティクル発生のリスクが低減される。なお、環状凸部22がピン状凸部の上端面より一定量低く形成されることで、基板吸着時に外周から外気が常に導入される状態にあるが、圧力勾配の発生により基板の吸着に十分な真空度が得られる程度の間隔であれば問題ない。
【0027】
環状凸部22の高さとは、基体10の上面12から環状凸部の上端22aまでの距離をいう。環状凸部22の高さは、第1のピン状凸部24および第2のピン状凸部26の高さに対して、1μm以上5μm以下低いことが好ましい。例えば、第1のピン状凸部24および第2のピン状凸部26の高さが100μmであるとき、環状凸部の高さは95μm以上99μm以下であることが好ましい。
【0028】
環状凸部22の幅は、0.05mm以上8mm以下であることが好ましい。また、環状凸部22の幅は、隣接する第1のピン状凸部24の中心間の距離以下であることが好ましい。環状凸部22は、その断面形状が矩形状のほか、台形状、半球状など様々な形状であってよいが、環状凸部の上端22aは、平面で形成されていることが好ましい。その場合、環状凸部の上端22aの平面(上端面)の表面粗さは、Ra0.20μm以下であることが好ましい。
【0029】
第1のピン状凸部24は、複数形成される。第1のピン状凸部24は、環状凸部22の外側に形成されてもよいが、全て環状凸部22の内側に形成されることが好ましい。第1のピン状凸部24の形状は、円柱形、角柱形等の柱状である。なお、基体10の上面12と第1のピン状凸部24の側面とのなす角が45°以上90°以下であれば、例えば、円錐形、円錐台形、角錐形、角錐台形等であっても柱状であるとみなす。
【0030】
複数の第1のピン状凸部24は、基板Wを支持する。複数の第1のピン状凸部の上端24aは、略面一に形成される。すなわち、複数の第1のピン状凸部の上端24aにより形成される平面(基準面)30が決定される。これにより、複数の第1のピン状凸部の上端24aと基板Wとが当接し、基板Wが支持される。なお、複数の第1のピン状凸部24のうち、上端が基板Wと当接しないものがあってもよい。これは、そのような凸部があっても、周りの第1のピン状凸部24および第2のピン状凸部26の配置によっては、基板Wを支持することが可能だからである。
【0031】
第1のピン状凸部の上端24aは、環状凸部の上端22aより基体10の上面12から遠い位置にある。すなわち、第1のピン状凸部24の高さは、環状凸部22の高さより高い。第1のピン状凸部の上端24aは、所定の大きさの平面になっていることが好ましい。その場合、第1のピン状凸部の上端24aの平面の最大径は、100μm以上500μm以下であることが好ましい。第1のピン状凸部の上端24aの平面の表面粗さは、Ra0.01μm以上0.50μm以下であることが好ましい。
【0032】
第2のピン状凸部26は、環状凸部22の内側に複数形成される。第2のピン状凸部26の形状は、基体10の上面12から上方に突出する第1凸要素26bと、第1凸要素26bの上端から上方に突出した円柱形、角柱形等の柱状に形成される第2凸要素26cと、によって形成される形状である。すなわち、第2のピン状凸部26は2段ピンである。なお、基体10の上面12と第2凸要素26cの側面の延長とのなす角が45°以上90°以下であれば、例えば、第2凸要素26cが円錐形、円錐台形、角錐形、角錐台形等であっても柱状であるとみなす。
【0033】
第1凸要素26bは、第2凸要素26cの下端より径の大きい円柱、角柱、円錐台、角錐台等であることが好ましい。このとき、第1凸要素26bの上端の最大径は、第1のピン状凸部24のどの部分の径より大きいことが好ましい。また、第2凸要素26cの上端(第2のピン状凸部の上端26a)の形状および最大径は、第1のピン状凸部の上端24aの形状および最大径と略等しいことが好ましい。これにより第2のピン状凸部26は、基板Wとの接触面積を増加させることなく、第1のピン状凸部24より全体の体積を大きくすることができ、負圧空間の体積調整を行うことができる。
【0034】
第2のピン状凸部26の全高さHに対し、第1凸要素26bの高さは、0.5H以上0.8H以下とすることが好ましい。このような範囲で第1凸要素26bを形成することにより、負圧空間の体積調整に加えて、第2のピン状凸部26の強度を確保することができる。第2のピン状凸部26の形成領域が基板の最初の吸着部分となる場合が多いため、上記のように強度確保することにより、第2のピン状凸部26が折れるなどの不良を抑制することができる。第1凸要素26bを、0.8Hを超える高さに形成した場合、第2凸要素26cの高さが低くなりすぎてしまい、基板Wの裏面と第1凸要素26bの頂面との距離が近すぎてしまうため、パーティクルの噛みこみリスクの増加や、デチャック性の悪化の原因となる場合がある。
【0035】
複数の第2のピン状凸部26は、基板Wを支持する。複数の第2のピン状凸部の上端26aは、複数の第1のピン状凸部の上端24aと共に略面一に形成される。すなわち、複数の第2のピン状凸部の上端26aにより形成される平面は、複数の第1のピン状凸部の上端24aにより形成される平面(基準面)30と同一平面である。これにより、複数の第2のピン状凸部の上端26aと基板Wとが当接し、基板Wが支持される。なお、複数の第2のピン状凸部26のうち、上端が基板Wと当接しないものがあってもよい。これは、そのような凸部があっても、周りの第1のピン状凸部24および第2のピン状凸部26の配置によっては、基板Wを支持することが可能だからである。
【0036】
第2のピン状凸部の上端26a(第2凸要素26cの上端)は、環状凸部の上端22aより基体10の上面12から遠い位置にある。すなわち、第2のピン状凸部26の基体10の上面12から測定した高さは、環状凸部22の高さより高い。第2のピン状凸部の上端26aは、所定の大きさの平面になっていることが好ましい。その場合、第2のピン状凸部の上端26aの平面の最大径は、100μm以上500μm以下であることが好ましい。第2のピン状凸部の上端26aの平面の表面粗さは、Ra0.01μm以上0.50μm以下であることが好ましい。
【0037】
少なくとも一つの第2のピン状凸部26は、基体の中心16(基体10の上面12の中心)を含む所定の領域に形成される。このように、ピン状凸部を第1のピン状凸部24(1段ピン)と第2のピン状凸部26(2段ピン)で構成することにより、2段ピンを形成した部分の空間体積(負圧空間の体積)を小さくすることができ、基板保持部材の吸着面直下の空間体積の調整が可能となる。その結果、吸着力を向上させると共にデチャック性を調整できる。特に、第2のピン状凸部26を形成した基体の中心16を含む所定の領域の空間体積を低減することができ、真空吸引した際の所定の領域の吸着力を向上させることができる。
【0038】
所定の領域は、基体の中心16から外周までの距離の70%以下の距離より内側の範囲に構成され、複数の第2のピン状凸部26は、所定の領域に形成されることが好ましい。複数の第2のピン状凸部26が所定の領域に形成されるとは、所定の領域の外側に第2のピン状凸部26が形成されないことを意味する。このとき、所定の領域内には、第2のピン状凸部26と第1のピン状凸部24とが混在していてもよい。図1は、基体の中心16から外周までの距離の約50%の距離より内側の範囲(点線の内側の範囲)を所定の領域として、その範囲に第1凸要素26bが含まれるピン状凸部を全て第2のピン状凸部26とした例を示している。
【0039】
これにより、中心付近の所定の領域の吸着力が高まるため、様々な反り(中凸状、中凹状など)を有する基板Wであっても、基体の中心16から外周に向かうように基板Wを平坦性良く吸着することができる。また、環状凸部22の外側から侵入するパーティクルの噛みこみリスクを低減することができる。
【0040】
第2のピン状凸部26において、1の第1凸要素26bに対して1の第2凸要素26cが形成されること、すなわち、第1凸要素26bと第2凸要素26cが一対一に対応することが好ましい。これにより、第1凸要素26bからのパーティクル発生リスクを低減できる。また、発生したパーティクルや外周部から吸い込んだパーティクルが隣接する第1凸要素26b同士の間に落ち込むことにより、パーティクルの基板Wへの噛みこみや付着リスクを低減できる。
【0041】
基体10の上面12の第1のピン状凸部24が形成される領域を第1の領域31、第2のピン状凸部26が形成される領域を第2の領域32とするとき、(第1の領域の凸部の体積/第1の領域の全体の体積)<(第2の領域の凸部の体積/第2の領域の全体の体積)を満たすことが好ましい。これにより、第2の領域32の吸着力を高くすることができ、様々な撓みや反りを有する基板Wであっても平坦性良く吸着することができる。ここで、第2の領域32とは、第2のピン状凸部26を全て含む閉曲線で囲まれた領域である。また、第2の領域32は、所定の領域を含む。第1の領域31とは、環状凸部22の内周の内側で、第2の領域を除く領域である。すなわち、第1の領域には、第1のピン状凸部24のみ形成されている。第2の領域は、第2のピン状凸部26のみ形成されていてもよいし、第1のピン状凸部24が形成されていてもよい。この境界は、隣接するピン状凸部の中心間の中点を通る線とすることができる。
【0042】
第1の領域の凸部の体積とは、第1の領域にある全ての第1のピン状凸部24の体積の合計である。第1のピン状凸部の体積は、基体10の上面12より上側にある部分の体積をいう。第1の領域の全体の体積とは、第1の領域の基体10の上面12と基準面30の間の体積であり、第1の領域の凸部の体積と第1の領域の空間体積の和である。また、第2の領域の凸部の体積とは、第2の領域にある全ての第1のピン状凸部24および第2のピン状凸部26の体積の合計である。第2のピン状凸部の体積は、基体10の上面12より上側にある部分の体積をいう。第2の領域の全体の体積とは、第2の領域の基体10の上面12と基準面30の間の体積であり、第2の領域の凸部の体積と第2の領域の空間体積の和である。
【0043】
基体10が円板状に形成されている場合、第1の領域と第2の領域の境界は、例えば、最も外周に近い位置に形成された第2のピン状凸部26と、それに隣接する第1のピン状凸部24の中心間距離の1/2の点を通る仮想円とすることができる。
【0044】
第1のピン状凸部24および第2のピン状凸部26の高さは、50μm以上500μm以下であることが好ましい。なお、第1のピン状凸部24の高さとは、基体10の上面12から第1のピン状凸部の上端24aまでの距離をいう。また、第2のピン状凸部26の高さとは、基体10の上面12から第2のピン状凸部の上端26aまでの距離をいい、基体10の上面12から第1凸要素26bの上端までの距離と第1凸要素26bの上端から第2凸要素26cの上端までの距離の和である。なお、基体10の上面12が一平面でない場合、基準面30から基体10の上面12までの距離のうち最も遠い距離にある点を通る仮想的な平面を基体10の上面12として距離を測ることとする。
【0045】
第1のピン状凸部24および第2のピン状凸部26の配置は、三角格子上、正方格子状、同心円状など規則的な配置のほか、局部的に疎密が生じているような不規則的な配置であってもよい。また、隣接する第1のピン状凸部24同士、第2のピン状凸部26同士、および第1のピン状凸部24と第2のピン状凸部26との間隔は、中心間の距離が1.5mm以上8mm以下であることが好ましい。
【0046】
なお、基板保持部材100は、図示しないリフトピン孔等を備えていてもよい。
【0047】
[第2の実施形態]
図4は、本発明の第2の実施形態に係る基板保持部材の上面の一例を示した模式図である。また、図5は、第2の実施形態に係る基板保持部材の一例を示した部分断面図である。また、図6は、図5における第1の領域および第2の領域を示した部分断面図である。本実施形態に係る基板保持部材200は、基本的な構成は第1の実施形態に係る基板保持部材100と同様であるので、以下では、異なる点のみ説明する。
【0048】
本実施形態に係る基板保持部材200は、1つの第1凸要素26bに対し、複数の第2凸要素26cが形成される。図4および図5に示される基板保持部材200は、第1凸要素26bが1つのみである例を示している。
【0049】
このように、1つの第1凸要素26bに対し、複数の第2凸要素26cが形成されることで、同一の高さの第1凸要素26bを複数に分けて形成する場合と比較して当該部分の空間容積をより低減することができるので、吸着力をより向上させることができる。その結果、撓みや反りの大きい基板Wであっても、平坦性高く保持することができる。
【0050】
図4および図5に示される例では、基体の中心16から所定の範囲に第1凸要素26bが1つのみ形成されているが、第1凸要素26bが複数形成されてもよい。また、第1凸要素26bが複数形成される場合、1つの第2凸要素26cが形成された第1凸要素26bと、複数の第2凸要素26cが形成された第1凸要素26bとが混在していてもよい。
【0051】
[基板保持部材の製造方法]
周知の方法により、原料粉末から平板状の成形体が作成され、この成形体を焼成することにより平板状のセラミック焼結体が得られる。図1などでは円板形状の基板保持部材が図示されているが、多角形形状、楕円形状など、どんな形状でもよい。セラミック焼結体としては、炭化珪素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などが用いられる。
【0052】
次に、セラミック焼結体の上面となる面に通気孔、環状凸部、第1のピン状凸部、第2のピン状凸部等を形成する。形成方法としては、ブラスト加工、ミリング加工、レーザ加工等によって形成することが可能である。また、複数の凸部を形成した後に、各凸部の上端面を研磨等してもよい。
【0053】
環状凸部は、基体の上面の外周に沿って環状に形成される。環状凸部の基体の上面からの突出量は、ピン状凸部(第1のピン状凸部および第2のピン状凸部)の基体の上面からの突出量に応じて決定されることが好ましい。例えば、第1のピン状凸部および第2のピン状凸部の高さに対して、1μm以上5μm以下低く形成されることが好ましい。環状凸部の幅は、0.05mm以上8mm以下の範囲で形成されることが好ましい。
【0054】
第1のピン状凸部は、複数形成される。第1のピン状凸部の形状は、円柱形、角柱形等の柱状に形成される。ただし、製造上の制約等があることを考慮し、基体の上面と第1のピン状凸部の側面とのなす角が45°以上90°以下であれば、例えば、円錐形、角錐形、円錐台形、角錐台形等であっても柱状であるとみなす。
【0055】
複数のピン状凸部の上端は、環状凸部の上端より基体の上面から遠い位置に上端を有するように、略面一に形成される。第1のピン状凸部は、例えば、突出量は50μm以上500μm以下、上端面の径は100μm以上500μm以下、ピン状凸部の間隔は1.5mm以上8mm以下の範囲で、吸着する基板等の条件に応じて設計することが好ましい。
【0056】
第2のピン状凸部は、環状凸部の内側に複数形成される。第2のピン状凸部の形状は、基体の上面から上方に突出する第1凸要素と、第1凸要素の上端から上方に突出した円柱形、角柱形等の柱状に形成される第2凸要素と、によって形成される形状である。ただし、製造上の制約等があることを考慮し、基体の上面と第2凸要素の側面の延長とのなす角が45°以上90°以下であれば、例えば、第2凸要素が円錐形、円錐台形、角錐形、角錐台形等であっても柱状であるとみなす。
【0057】
第2のピン状凸部は、例えば、第1凸要素と第2凸要素との突出量の合計は50μm以上500μm以下、第2凸要素の上端面の径は100μm以上500μm以下、ピン状凸部の間隔は1.5mm以上8mm以下の範囲で、吸着する基板等の条件に応じて設計することが好ましい。
【0058】
ピン状凸部の配置は特に限定されない。既知の形態またはそれに類似する形態であればよく、例えば、配置は、三角格子上、正方格子状、同心円状など規則的な配置のほか、局部的に疎密が生じているような不規則的な配置であってもよい。
【0059】
このようにして、本発明の基板保持部材を製造することができる。
【0060】
[実施例および比較例]
(実施例1)
実施例1は、図1に示されるような、第1凸要素と第2凸要素が一対一に対応する第2のピン状凸部を基体の中心を含む円形の所定の領域内に形成した基板保持部材である。炭化珪素の焼結体からなる、径φ300mm、厚さt2.0mmの略円板状の基体を準備し、ブラスト加工をすることで、真空吸引装置に接続される通気孔、複数のピン状凸部、および環状凸部が形成された。通気孔は、基体の中心にφ2.0mmで形成された。
【0061】
複数のピン状凸部は、基体の中心からφ200mm以内となる領域2(直径をRとするとき、0.666Rとなる領域内)に、第1凸要素となるφ1.0mm、高さ0.1mmの端面上に、第2要素となるφ0.3mm、高さ0.05mmで、凸部の中心間間隔が3mmの三角格子状となるように第2のピン状凸部を形成した。同様に、領域2の外縁からφ298mmまでの領域(領域1)にφ0.3mm、高さ0.15mmで、凸部の中心間間隔が3mmの第2のピン状凸部から連続する三角格子状となるように第1のピン状凸部を形成した。続いて、遊離砥粒によるラップ研磨を行い、これら複数のピン状凸部の表面粗さRaが0.05μmとなるように仕上げ加工を行った。
【0062】
環状凸部は、最外径がφ299mm、幅が0.5mmの円環状に形成され、追加工により複数のピン状凸部より高さが3μm低くなるように形成された。
【0063】
(実施例2)
実施例2は、図4に示されるような、第2のピン状凸部が、1の第1凸要素に対して複数の第2凸要素が形成された基板保持部材である。第2のピン状凸部として、第1凸要素をφ200mm、高さ0.1mmの円柱状とし、その端面上にφ0.3mm、高さ0.05mmで、凸部の中心間間隔が3mmの三角格子状となるように複数の第2凸要素を形成した。これ以外は、実施例1と同様の条件で基板保持部材を作製した。
【0064】
(実施例3)
実施例3は、領域2として、基体の中心からφ240mm以内となる領域2(0.8Rとなる領域内)に第2のピン状凸部を形成したことを除き、実施例1と同様の条件で基板保持部材を作製した。
【0065】
(比較例1)
比較例1は、第2のピン状凸部を形成せず、すべてのピン状凸部を第1のピン状凸部のみで形成したことを除き、実施例1と同様の条件で基板保持部材を作製した。
【0066】
(比較例2)
比較例2は、第1のピン状凸部を形成せず、すべてのピン状凸部を第2のピン状凸部のみで形成したことを除き、実施例1と同様の条件で基板保持部材を作製した。
【0067】
(評価方法)
実施例および比較例により得られた基板保持部材にφ300mm、厚さ0.7mmのシリコンウエハ(基板)を吸着することで評価を行なった。凸状または凹状に最大400μmの反りを有する基板をそれぞれ準備し、吸着の可否の確認をした。
【0068】
非接触式のレーザ干渉計を用いて、保持された基板の任意の一辺20mmの正方形内の領域のPV値を測定し、このPV値をローカルフラットネス(LF)とし、このLFが0.3μm以下であった場合、良好な平面度を有すると判断した。
【0069】
基板保持部材にシリコンウエハを吸着しているときの真空圧を確認した。このとき大気圧を0としたゲージ圧において、-45KPa~-85KPaの真空圧であったとき、真空OFF時のシリコンウエハ脱着時間が良好であると判断した。
【0070】
(評価結果)
実施例1および実施例2の基板保持部材は、凸状の反りを有する基板および凹状の反りを有する基板ともに吸着できることが確認された。また、平面度の測定のおいても、基板の全ての位置においてLFが0.3μm以下となり、様々な反りの態様を有する基板を平坦性高く保持できることが確認された。また実施例1では、基板吸着時の真空圧は-75KPaであり、吸着力およびデチャック性ともに良好であった。
【0071】
ただし、実施例2においては、領域2の空間体積が非常に小さかったことから、基板吸着時の真空圧は-85KPaと大きな吸着力がかかってしまい、実施例1と比較して基板の離脱(デチャック性)に時間を要した。このことから、第2のピン状凸部は1つの第1凸要素に対し、1つの第2凸要素で構成したほうが良いことがわかった。
【0072】
また、実施例3においても他の実施例同様に中心領域(領域2)での吸着力が高めることができ、凸状の反りを有する基板および凹状の反りを有する基板ともに吸着できることが確認された。基板吸着時の真空圧は-78KPaであり、デチャック性については実施例1と同程度に良好であったが、基板の一部分においてLFが0.3μmを超える部分が発生した。これは、基板吸着時の外気流入と同時に侵入を許したパーティクルが、第2のピン状凸部の第2凸要素の上端(第2のピン状凸部の上端)に付着し、基板の平面度が悪化したものと考えられる。第2のピン状凸部は、第1凸要素の端面と基板裏面との間隔が狭くなっているため、領域2が環状凸部に近すぎる場合、第1凸要素の端面にパーティクルが付着するリスクが高くなると推定される。よって、領域2は0.7R以下とすることがより好ましいことが確認された。なお、領域1の第1のピン状凸部は、基体の上面と基板裏面との間隔が広いため、第1のピン状凸部の上端にパーティクルが付着するリスクは、第2のピン状凸部より低いと考えられる。
【0073】
一方で、比較例1の基板保持部材は、中心領域の吸着力を高めることができず、凸状の反りを有する基板を吸着することができなかった。比較例2の基板保持部材は、空間体積の全体的な減少により吸着力が高まったため、凸状の反りを有する基板および凹状の反りを有する基板ともに吸着できることが確認されたが、基板のエッジ部分においてLFが0.3μmを超える部分が発生した。これは実施例3と同様の原因によるものと考えられる。
【0074】
また、比較例2は他の実施例および比較例と比較して、全体的な空間体積が小さくなり基板吸着時の真空圧は-90KPaとなったため、デチャック性が悪化した。基板保持部材は、繰り返しの使用により頂面の表面粗さが悪化する場合があり、機能回復のため頂面の研磨が行われることがある。この研磨工程により凸部の高さは低くなるので、空間体積はさらに小さくなる。したがって、比較例2のように全面が2段ピンで形成されている基板保持部材は、このような場合に、さらにデチャック性に影響することになると考えられる。
【0075】
以上により、本発明の基板保持部材は、ベルヌーイタイプの基板保持部材において、吸着力を向上することで様々な撓みまたは反り(凸状、凹状、鞍状など)の態様を有する基板を平坦性高く保持すると共に、デチャック性を調整することができることが確かめられた。
【0076】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形および均等物に及ぶことはいうまでもない。また、各図面に示された構成要素の構造、形状、数、位置、大きさ等は説明の便宜上のものであり、適宜変更しうる。
【符号の説明】
【0077】
10 基体
12 上面
14 通気孔
16 基体の中心
20 凸部
22 環状凸部
22a 環状凸部の上端
24 第1のピン状凸部
24a 第1のピン状凸部の上端
26 第2のピン状凸部
26a 第2のピン状凸部の上端
26b 第1凸要素
26c 第2凸要素
30 基準面
31 第1の領域
32 第2の領域
100、200 基板保持部材
W 基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6