(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】放熱性部品
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20250204BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20250204BHJP
【FI】
H01L23/36 Z
H05K7/20 B
(21)【出願番号】P 2019123142
(22)【出願日】2019-07-01
【審査請求日】2022-05-19
【審判番号】
【審判請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】木村 和樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 悟郎
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】緑川 隆
【審判官】三浦 みちる
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/038159(WO,A1)
【文献】特開2009-88218(JP,A)
【文献】特開2003-60137(JP,A)
【文献】特開2006-13420(JP,A)
【文献】特許第3676268(JP,B2)
【文献】特開2012-21767(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L23/12
H01L23/36-23/373
H05K7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材からなる放熱性部品であって、
前記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)および(2)を同時に満たし、
前記金属部材に樹脂部材が接合されておらず、
ヒートシンクまたは熱交換器である放熱性部品。
(1)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が30%以下である直線部を
4直線部以上含む
(2)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(R
zjis)が
10μm以上である
【請求項2】
請求項1に記載の放熱性部品において、
前記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(3)をさらに満たす放熱性部品。
(3)切断レベル40%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が60%以下である直線部を1直線部以上含む
【請求項3】
請求項1または2に記載の放熱性部品において、
前記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、すべての直線部の前記十点平均粗さ(R
zjis)が5μmを超える放熱性部品。
【請求項4】
請求項3に記載の放熱性部品において、
前記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、すべての直線部の前記十点平均粗さ(R
zjis)が15μm以上である放熱性部品。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の放熱性部品において、
前記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(4)をさらに満たす放熱性部品。
(4)すべての直線部の、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μmを超え300μm未満である
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の放熱性部品において、
前記金属部材はアルミニウム製部材、アルミニウム合金製部材、銅製部材および銅合金製部材からなる群から選択される少なくとも一種の部材により構成されている放熱性部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱性部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車等の動力源として電池が注目されている。高出力で、かつ、大容量の電池は充放電過程において多量の熱を発生し、この熱によって電池の劣化が引き起こることが知られている。よって、電池には放熱性を高める部品が求められている。
また、発熱素子である半導体素子を搭載した電子部品は従来から熱対策が重要視されている。特に、近年の電子部品の小型化・高密度実装化の傾向、あるいはマイクロプロセッサ類の高速化に伴い、電子部品1つあたりの消費電力は著しく増大しており、放熱性を高める部品が求められている。
【0003】
放熱部品として、例えば、金属樹脂複合体が挙げられる。このような金属樹脂複合体に関する技術としては、例えば、特許文献1(国際公開第2016/084397号)に記載のものが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、熱伝導性樹脂組成物よりなる部材と表面処理した金属よりなる部材とが、上記熱熱伝導性樹脂組成物の射出成形によって接触接合されている金属樹脂複合体であって、上記熱伝導性樹脂組成物が熱可塑性樹脂(A)と無機充填材(B)を含有し、面方向の熱伝導率が1W/(m・K)以上のものであり、さらに上記無機充填材(B)が特定の物性を有する無機粒子および特定の物性を有する無機繊維よりなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする、金属樹脂複合体が開示されている。
特許文献1には、このような金属樹脂複合体は、優れた放熱性及び成形加工性を有し、軽量であり、且つ容易に安価で製造できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子部品や電池等の発熱体の高性能化に伴い、発熱体の発熱量が増加している。そのため、放熱性部品には、さらなる放熱性の向上が求められている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、放熱特性に優れた放熱部品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、金属部材からなる放熱性部品の放熱性を向上させるために、金属部材の表面の十点平均粗さ(Rzjis)を調整することを検討した。
しかし、金属部材の表面の十点平均粗さ(Rzjis)を単に調整するだけでは金属部材の放熱性を十分に向上させることができないことが明らかとなった。
そこで、本発明者らは、金属部材からなる放熱性部品の放熱性を向上させるための設計指針についてさらに鋭意検討した。その結果、金属部材表面の粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)という尺度がこうした設計指針として有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、以下に示す放熱性部品が提供される。
【0010】
[1]
金属部材からなる放熱性部品であって、
上記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)および(2)を同時に満たす放熱性部品。
(1)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が30%以下である直線部を1直線部以上含む
(2)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rzjis)が2μmを超える
[2]
上記[1]に記載の放熱性部品において、
上記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(3)をさらに満たす放熱性部品。
(3)切断レベル40%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が60%以下である直線部を1直線部以上含む
[3]
上記[1]または[2]に記載の放熱性部品において、
上記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、すべての直線部の上記十点平均粗さ(Rzjis)が5μmを超える放熱性部品。
[4]
上記[3]に記載の放熱性部品において、
上記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、すべての直線部の上記十点平均粗さ(Rzjis)が15μm以上である放熱性部品。
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか一つに記載の放熱性部品において、
上記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(4)をさらに満たす放熱性部品。
(4)すべての直線部の、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μmを超え300μm未満である
[6]
上記[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の放熱性部品において、
上記金属部材はアルミニウム製部材、アルミニウム合金製部材、銅製部材および銅合金製部材からなる群から選択される少なくとも一種の部材により構成されている放熱性部品。
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の放熱性部品において、
上記金属部材に樹脂部材が接合されていない放熱性部品。
[8]
上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の放熱性部品において、
上記金属部材に樹脂部材が接合された放熱性部品。
[9]
上記[1]乃至[8]のいずれか一つに記載の放熱性部品において、
放熱性筐体、ヒートシンクまたは熱交換器である放熱性部品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、放熱特性に優れた放熱部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態に係る金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部の測定箇所を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、文中の数字の間にある「~」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。
【0014】
[放熱性部品]
以下、本実施形態に係る放熱性部品について説明する。
本実施形態に係る放熱性部品は金属部材からなり、上記金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1)および(2)を同時に満たす。
(1)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が30%以下である直線部を1直線部以上含む
(2)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rzjis)が2μmを超える
【0015】
図1は、本実施形態に係る金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部を説明するための模式図である。
上記6直線部は、例えば、
図1に示すような6直線部B1~B6を選択することができる。まず、基準線として、金属部材の表面の中心部Aを通る中心線B1を選択する。次いで、中心線B1と平行関係にある直線B2およびB3を選択する。次いで、中心線B1と直交する中心線B4を選択し、中心線B1と直交し、中心線B4と並行関係にある直線B5およびB6を選択する。ここで、各直線間の垂直距離D1~D4は、例えば、2~5mmである。
【0016】
上記要件(1)および(2)を同時に満たす金属部材からなる放熱性部品は放熱性に優れている。この理由は必ずしも明らかではないが、上記要件(1)および(2)を同時に満たす金属部材は表面の微細凹凸構造が複雑な形状になっており、熱を外部に拡散するための面積が広くなり、外部に熱を効果的に拡散できる構造になっているからだと考えられる。
本発明者らは、金属部材からなる放熱性部品の放熱性を向上させるために、金属部材の表面の十点平均粗さ(Rzjis)を調整することを検討した。
しかし、金属部材の表面の十点平均粗さ(Rzjis)を単に調整するだけでは金属部材の放熱性を十分に向上させることができないことが明らかとなった。
ここで、本発明者らは、負荷長さ率という尺度が金属部材表面の凹凸形状の鋭利性を表す指標として有効であると考えた。負荷長さ率が小さい場合は、金属部材表面の凹凸形状の鋭利性が大きいことを意味し、負荷長さ率が大きい場合は、金属部材表面の凹凸形状の鋭利性が小さいことを意味する。
そこで、本発明者らは、金属部材からなる放熱性部品の放熱性を向上させるための設計指針として、金属部材表面の粗さ曲線の負荷長さ率という尺度に注目し、さらに鋭意検討を重ねた。その結果、金属部材表面の負荷長さ率を特定値以下に調整することにより、熱を外部に拡散するための面積が広くなり、その結果、放熱特性に優れた放熱性部品を実現できることを見出して本発明を完成するに至った。
【0017】
本実施形態に係る放熱性部品の放熱特性をより一層向上させる観点から、金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(1A)~(1C)のうち1つ以上の要件をさらに満たすことが好ましく、要件(1C)を満たすことがとりわけ好ましい。なお、要件(1C)は上述した要件(3)に同一である。
(1A)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が30%以下である直線部を好ましくは2直線部以上、より好ましくは3直線部以上、最も好ましくは6直線部含む
(1B)切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が20%以下である直線部を好ましくは1直線部以上、より好ましくは2直線部以上、さらに好ましくは3直線部以上、最も好ましくは6直線部含む
(1C)切断レベル40%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)が60%以下である直線部を好ましくは1直線部以上、より好ましくは2直線部以上、さらに好ましくは3直線部以上、最も好ましくは6直線部含む
【0018】
また、本実施形態に係る放熱性部品の放熱特性をより一層向上させる観点から、金属部材の表面上の、JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される切断レベル20%、評価長さ4mmにおける粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)の平均値が好ましくは0.1%以上40%以下であり、より好ましくは0.5%以上30%以下であり、さらに好ましくは1%以上20%以下であり、最も好ましくは2%以上15%以下である。
なお、上記負荷長さ率(Rmr)の平均値は、前述の任意の6直線部の負荷長さ率(Rmr)を平均したものを採用することができる。
【0019】
本実施形態に係る金属部材の表面の各負荷長さ率(Rmr)は、金属部材の表面に対する粗化処理の条件を適切に調節することにより制御することが可能である。
本実施形態においては、とくにエッチング剤の種類および濃度、粗化処理の温度および時間、エッチング処理のタイミング等が、上記各負荷長さ率(Rmr)を制御するための因子として挙げられる。
【0020】
本実施形態に係る放熱性部品の放熱特性をより一層向上させる観点から、金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(2A)をさらに満たすことが好ましい。
(2A)すべての直線部の、評価長さ4mmにおける十点平均粗さ(Rzjis)が好ましくは5μm超、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上である
【0021】
本実施形態に係る放熱性部品の放熱特性をより一層向上させる観点から、金属部材の表面上の、十点平均粗さ(Rzjis)の平均値が好ましくは2μmを超えて50μm以下、より好ましくは5μmを超えて45μm以下、さらに好ましくは10μm以上40μm以下、特に好ましくは15μm以上30μm以下である。
なお、上記十点平均粗さ(Rzjis)の平均値は、前述の任意の6直線部の十点平均粗さ(Rzjis)を平均したものを採用することができる。
【0022】
本実施形態に係る放熱性部品の放熱特性をより一層向上させる観点から、金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該3直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部について、JIS B0601:2001(対応国際規格:ISO4287)に準拠して測定される表面粗さが以下の要件(4)をさらに満たすことが好ましい。
(4)すべての直線部の、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)が10μmを超え300μm未満であり、より好ましくは20μm以上200μm以下である。
【0023】
本実施形態に係る放熱性部品の放熱特性をより一層向上させる観点から、金属部材の表面上の、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の平均値が好ましくは10μmを超え300μm未満、より好ましくは20μm以上200μm以下である。
なお、上記粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の平均値は、前述の任意の6直線部のRSmを平均したものを採用することができる。
【0024】
本実施形態に係る金属部材の表面の十点平均粗さ(Rzjis)および粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)は、金属部材の表面に対する粗化処理の条件を適切に調節することにより制御することが可能である。
本実施形態においては、とくに粗化処理の温度および時間、エッチング量等が、上記十点平均粗さ(Rzjis)および粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)を制御するための因子として挙げられる。
【0025】
本実施形態に係る放熱性部品の放熱特性をより一層向上させる観点から、本実施形態に係る金属部材は伝熱性に優れることが好ましい。このような視点から、本実施形態に係る金属部材を構成する金属種としては、アルミニウム系金属または銅系金属が用いられ、具体的には、本実施形態に係る金属部材はアルミニウム製部材、アルミニウム合金製部材、銅製部材および銅合金製部材からなる群から選択される少なくとも一種の部材により構成されていることが好ましい。また本実施形態に係る金属部材の平均厚みは、伝熱性、強度および軽量性を総合的に勘案して、例えば0.5mm~30mm、好ましくは0.5mm~20mmである。
アルミニウム合金としては、JIS H4000に規定された合金番号1050、1100、2014、2024、3003、5052、7075等が好ましく用いられる。
【0026】
金属部材の形状は、放熱性部品の種類によって適宜選択されるため特に限定されない。
本実施形態に係る放熱性部品としては、例えば、放熱性筐体、ヒートシンク、熱交換器等が挙げられる。ヒートシンクはフィンを備えていてもよいし、フィンを備えていなくてもよい
【0027】
本実施形態に係る金属部材は、金属材料を切断、プレス等による塑性加工、打ち抜き加工、切削、研磨、放電加工等の除肉加工によって上述した所定の形状に加工された後に、後述する粗化処理がなされたものが好ましい。要するに、種々の加工法により、必要な形状に加工されたものを用いることが好ましい。
【0028】
(金属部材表面の粗化処理方法)
次に、本実施形態に係る金属部材の表面の粗化処理方法について説明する。
本実施形態に係る金属部材の表面は、例えば、エッチング剤を用いて粗化処理することにより形成することができる。
ここで、エッチング剤を用いて金属部材の表面を粗化処理すること自体は従来技術においても行われてきた。しかし、本実施形態では、エッチング剤の種類および濃度、粗化処理の温度および時間、エッチング処理のタイミング、等の因子を高度に制御している。本実施形態に係る金属部材を得るためには、これらの因子を高度に制御することが重要となる。
以下、本実施形態に係る金属部材表面の粗化処理方法の一例を示す。ただし、本実施形態に係る金属部材表面の粗化処理方法は、以下の例に限定されない。
【0029】
(1)前処理工程
まず、金属部材の表面に酸化膜や水酸化物等からなる厚い被膜がないことが望ましい。このような厚い被膜を除去するため、次のエッチング剤で処理する工程の前に、サンドブラスト加工、ショットブラスト加工、研削加工、バレル加工等の機械研磨や、化学研磨により表面層を研磨してもよい。また、金属部材の表面に機械油等の著しい汚染がある場合は、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液等のアルカリ性水溶液による処理や、脱脂を行なうことが好ましい。
【0030】
(2)表面粗化処理工程
本実施形態において金属部材の表面粗化処理方法としては、後述する酸系エッチング剤による処理を特定のタイミングで行うことが好ましい。具体的には、該酸系エッチング剤による処理を表面粗化処理工程の最終段階で行うことが好ましい。
【0031】
なお、特開2013-52671号公報には、アルミニウムを含む金属材料からなる金属部材の表面粗化処理に用いるエッチング剤として、アルカリ系エッチング剤を用いる態様、アルカリ系エッチング剤と酸系エッチング剤を併用する態様、酸系エッチング剤で処理した後アルカリ系溶液で洗浄する態様が開示されている。
当該アルカリ系エッチング剤は、金属部材との反応が穏やかなため、作業性の観点からは好ましく用いられる。しかし、本発明者らの検討によれば、このようなアルカリ系エッチング剤は反応性が穏やかであるため、金属部材表面の粗化処理の度合いが弱く、深い凹凸形状を形成するのが困難であることが明らかになった。また、酸系エッチング剤処理を行った後アルカリ系エッチング剤やアルカリ系溶液を併用する場合には、酸系エッチング剤によって形成した深い凹凸形状を後のアルカリ系エッチング剤やアルカリ系溶液での処理により該凹凸形状を幾分か滑らかにしてしまうことが明らかになった。
よって、当該アルカリ系エッチング剤を用いて処理した金属部材や、エッチング処理の最終工程でアルカリ系エッチング剤やアルカリ系溶液を使用して得られた金属部材では、放熱特性を十分に向上させることは難しいと考えられる。
【0032】
上記酸系エッチング剤を用いて粗化処理する方法としては、浸漬、スプレー等による処理方法が挙げられる。処理温度は20~40℃が好ましく、処理時間は5~350秒程度が好ましく、金属部材表面をより均一に粗化できる観点から、20~300秒がより好ましく、50~300秒が特に好ましい。
【0033】
上記酸系エッチング剤を用いた粗化処理によって、金属部材の表面が凹凸形状に粗化される。上記酸系エッチング剤を用いた際の金属部材の深さ方向のエッチング量(溶解量)は、溶解した金属部材の質量、比重および表面積から算出した場合、0.1~500μmであることが好ましく、5~500μmであることがより好ましく、5~100μmであることが更に好ましい。エッチング量が上記下限値以上であれば、本実施形態に係る放熱性部品の放熱特性をより一層向上させることができる。また、エッチング量が上記上限値以下であれば、処理コストの低減が可能となる。エッチング量は、処理温度や処理時間等により調整できる。
【0034】
なお、本実施形態では、上記酸系エッチング剤を用いて金属部材を粗化処理する際、金属部材表面の全面を粗化処理してもよく、部分的に粗化処理してもよい。本実施形態に係る放熱性部品の放熱特性をより一層向上させる観点から、金属部材表面の全面を粗化処理することが好ましい。
【0035】
(3)後処理工程
本実施形態では、上記表面粗化処理工程の後、通常、水洗および乾燥を行うことが好ましい。水洗の方法については特に制限はないが浸漬または流水にて所定時間洗浄することが好ましい。
【0036】
さらに、後処理工程としては、上記酸系エッチング剤を用いた処理により生じたスマット等を除去するため、超音波洗浄を施すことが好ましい。超音波洗浄の条件は、生じたスマット等を除去することができる条件であれば特に限定されないが、用いる溶媒としては水が好ましく、また、処理時間としては、好ましくは1~20分間である。
【0037】
(酸系エッチング剤)
本実施形態において、金属部材表面の粗化処理に用いられるエッチング剤としては、後述する特定の酸系エッチング剤が好ましい。上記特定のエッチング剤で処理することにより、金属部材の表面に、複雑な形状の微細凹凸構造が形成され、その微細凹凸構造により熱を外部に拡散するための面積が広くなり、本実施形態に係る放熱性部品の放熱特性が向上するものと考えられる。
【0038】
以下、本実施形態で使用できる酸系エッチング剤の成分について説明する。
【0039】
上記酸系エッチング剤は、第二鉄イオンおよび第二銅イオンの少なくとも一方と、酸と、を含み、必要に応じて、マンガンイオン、各種添加剤等を含むことができる。
【0040】
・第二鉄イオン
上記第二鉄イオンは、金属部材を酸化する成分であり、第二鉄イオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に該第二鉄イオンを含有させることができる。上記第二鉄イオン源としては、硝酸第二鉄、硫酸第二鉄、塩化第二鉄等が挙げられる。上記第二鉄イオン源のうちでは、塩化第二鉄が溶解性に優れ、安価であるという点から好ましい。
【0041】
本実施形態において、酸系エッチング剤中の上記第二鉄イオンの含有量は、好ましくは0.01~20質量%、より好ましくは0.1~12質量%、さらに好ましくは0.5~7質量%、さらにより好ましくは1~6質量%、特に好ましくは1~5質量%である。上記第二鉄イオンの含有量が上記下限値以上であれば、金属部材の粗化速度(溶解速度)の低下を防ぐことができる。一方、上記第二鉄イオンの含有量が上記上限値以下であれば、粗化速度を適正に維持することができるため、放熱性部品の放熱特性向上により適した均一な粗化が可能になる。
【0042】
・第二銅イオン
上記第二銅イオンは金属部材を酸化する成分であり、第二銅イオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に該第二銅イオン含有させることができる。上記第二銅イオン源としては、硫酸第二銅、塩化第二銅、硝酸第二銅、水酸化第二銅等が挙げられる。上記第二銅イオン源のうちでは、硫酸第二銅、塩化第二銅が安価であるという点から好ましい。
【0043】
本実施形態において、酸系エッチング剤中の上記第二銅イオンの含有量は、0.001~10質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01~7質量%、さらに好ましくは0.05~1質量%、さらにより好ましくは0.1~0.8質量%、さらにより好ましくは0.15~0.7質量%、特に好ましくは0.15~0.4質量%である。上記第二銅イオンの含有量が上記下限値以上であれば、金属部材の粗化速度(溶解速度)の低下を防ぐことができる。一方、上記第二銅イオンの含有量が上記上限値以下であれば、粗化速度を適正に維持することができるため、放熱性部品の放熱特性向上により適した均一な粗化が可能になる。
【0044】
上記酸系エッチング剤は、第二鉄イオンおよび第二銅イオンの一方のみを含むものであってもよく、両方を含むものであってもよいが、第二鉄イオンおよび第二銅イオンの両方を含むことが好ましい。酸系エッチング剤が第二鉄イオンおよび第二銅イオンの両方を含むことで、放熱性部品の放熱特性向上により適した良好な粗化形状が容易に得られる。
【0045】
上記酸系エッチング剤が、第二鉄イオンおよび第二銅イオンの両方を含む場合、第二鉄イオンおよび第二銅イオンのそれぞれの含有量が、上記範囲であることが好ましい。また、酸系エッチング剤中の第二鉄イオンと第二銅イオンの含有量の合計は、0.011~20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~15質量%、さらに好ましくは0.5~10質量%、特に好ましくは1~5質量%である。
【0046】
・マンガンイオン
上記酸系エッチング剤には、金属部材表面をむらなく一様に粗化するために、マンガンイオンが含まれていてもよい。マンガンイオンは、マンガンイオン源を配合することによって、酸系エッチング剤中に該マンガンイオンを含有させることができる。上記マンガンイオン源としては、硫酸マンガン、塩化マンガン、酢酸マンガン、フッ化マンガン、硝酸マンガン等が挙げられる。上記マンガンイオン源のうちでは、硫酸マンガン、塩化マンガンが安価である等の点から好ましい。
【0047】
本実施形態において、酸系エッチング剤中の上記マンガンイオンの含有量は、0~1質量%であることが好ましく、より好ましくは0~0.5質量%である。
【0048】
・酸
上記酸は、第二鉄イオンおよび/または第二銅イオンにより酸化された金属を溶解させる成分である。上記酸としては、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、スルファミン酸等の無機酸や、スルホン酸、カルボン酸等の有機酸が挙げられる。上記カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、リンゴ酸等が挙げられる。上記酸系エッチング剤には、これらの酸を一種または二種以上配合することができる。上記無機酸のうちでは、臭気がほとんどなく、安価である点から硫酸が好ましい。また、上記有機酸のうちでは、粗化形状の均一性の観点から、カルボン酸が好ましい。
【0049】
本実施形態において、酸系エッチング剤中の上記酸の含有量は、0.1~50質量%であることが好ましく、0.5~50質量%であることがより好ましく、1~50質量%であることがさらに好ましく、1~30質量%であることがさらにより好ましく、1~25質量%であることがさらにより好ましく、2~18質量%であることがさらにより好ましい。上記酸の含有量が上記下限値以上であれば、金属の粗化速度(溶解速度)の低下を防止できる。一方、上記酸の含有量が上記上限値以下であれば、液温が低下した際の金属塩の結晶析出を防止できるため、作業性を向上できる。
【0050】
・他の成分
本実施形態において使用できる酸系エッチング剤には、指紋等の表面汚染物による粗化のむらを防ぐために界面活性剤を添加してもよく、必要に応じて他の添加剤を添加してもよい。他の添加剤としては、深い凹凸を形成するために添加されるハロゲン化物イオン源、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等を例示できる。あるいは、粗化処理速度を上げるために添加されるチオ硫酸イオン、チオ尿素等のチオ化合物や、より均一な粗化形状を得るために添加されるイミダゾール、トリアゾール、テトラゾール等のアゾール類や、粗化反応を制御するために添加されるpH調整剤等も例示できる。これら他の成分を添加する場合、その合計含有量は、酸系エッチング剤中に0.01~10質量%程度であることが好ましい。
【0051】
本実施形態の酸系エッチング剤は、上記の各成分をイオン交換水等に溶解させることにより容易に調製することができる。
【0052】
本実施形態に係る放熱性部品において、本実施形態に係る放熱性部品の放熱特性をより一層向上させる観点から、本実施形態に係る金属部材に樹脂部材が接合されていないことが好ましいが、金属部材に樹脂部材が接合されていてもよい。
【0053】
本実施形態に係る樹脂部材は、好ましくは熱可塑性樹脂組成物の成形体である。熱可塑性樹脂組成物は樹脂成分としての熱可塑性樹脂を含み、必要に応じて充填剤をさらに含んでもよい。
熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、ポリオレフィン系樹脂、極性基含有ポリオレフィン系樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂等のポリメタクリル系樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂等のポリアクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアルコール-ポリ塩化ビニル共重合体樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、無水マレイン酸-スチレン共重合体樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等の芳香族ポリエーテルケトン、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、スチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、アイオノマー、アミノポリアクリルアミド樹脂、イソブチレン無水マレイン酸コポリマー、ABS、ACS、AES、AS、ASA、MBS、エチレン-塩化ビニルコポリマー、エチレン-酢酸ビニルコポリマー、エチレン-酢酸ビニル-塩化ビニルグラフトポリマー、エチレン-ビニルアルコールコポリマー、塩素化ポリ塩化ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、カルボキシビニルポリマー、ケトン樹脂、非晶性コポリエステル樹脂、ノルボルネン樹脂、フッ素プラスチック、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、フッ素化エチレンポリプロピレン樹脂、PFA、ポリクロロフルオロエチレン樹脂、エチレンテトラフルオロエチレンコポリマー、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ポリフッ化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリパラメチルスチレン樹脂、ポリアリルアミン樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、オリゴエステルアクリレート、キシレン樹脂、マレイン酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリグルタミン酸樹脂、ポリカプロラクトン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、スチレン-アクリロニトリル共重合体樹脂等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は一種単独で使用してもよいし、二種以上組み合わせて使用してもよい。
【0054】
これらの中でも、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂、ポリアリーレンエーテル系樹脂およびポリアリーレンスルフィド系樹脂から選択される一種または二種以上の熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
【0055】
本実施形態に係る樹脂部材は、機械的特性の改良の視点や線膨張係数差の調整、熱伝導性の向上等の視点から任意成分と充填剤を併用できる。充填剤としては、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、炭素粒子、粘土、タルク、シリカ、ミネラル、セルロース繊維からなる群から一種または二種以上を選ぶことができる。これらのうち、好ましくは、ガラス繊維、炭素繊維、タルク、ミネラルから選択される一種または二種以上である。また、アルミナ、フォルステライト、マイカ、窒化アルミナ、窒化ホウ素、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等に代表される放熱性フィラーを用いることもできる。これらの充填剤の形状は特に限定されず、繊維状、粒子状、板状等どのような形状であってもよいが、金属部材表面に微細凹凸構造の凹部に侵入できる程度の大きさを含む充填剤を使用することが好ましい。
なお、本実施形態に係る樹脂部材が充填剤を含む場合、その含有量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上100質量部以下であり、より好ましくは5質量部以上90質量部以下であり、特に好ましくは10質量部以上80質量部以下である。
【0056】
本実施形態に係る樹脂部材として、熱硬化性樹脂組成物を用いることも可能である。熱硬化性樹脂組成物とは、熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物である。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラミン樹脂、オキセタン樹脂、マレイミド樹脂、ユリア(尿素)樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が用いられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。
これらの中でも、耐熱性、加工性、機械的特性、接着性および防錆性等の視点から、フェノール樹脂、エポキシ樹脂および不飽和ポリエステル樹脂からなる群より選択される1以上を含む熱硬化性樹脂組成物が好適に用いられる。熱硬化性樹脂組成物に占める熱硬化性樹脂の含有量は、樹脂組成物全体を100質量部としたとき、好ましくは15質量部以上60質量部以下であり、より好ましくは25質量部以上50質量部以下である。なお残余成分は例えば充填剤であり、充填剤としては、例えば、前述した充填剤を用いることができる。
【0057】
樹脂部材の成形方法としては公知の方法を制限なく使用でき、例えば射出成形、押出成形、加熱プレス成形、圧縮成形、トランスファーモールド成形、注型成形、レーザー溶着成形、反応射出成形(RIM成形)、リム成形(LIM成形)、溶射成形等を例示することができる。これらの中でも、樹脂部材の成形方法としては、生産性および品質安定性の視点から射出成形法が好ましい。
【0058】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0059】
以下、本実施形態を、実施例・比較例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
(表面処理)
JIS H4100に規定された合金番号6063のアルミニウム合金部材からなるヒートシンク(MISUMI社製HEAT1-50)を、塩化第二鉄を15.6質量%と、塩化第二銅を0.4質量%と、硫酸マンガン(1水和物)を0.7質量%と、硫酸を8.2質量%とを含有する酸系エッチング水溶液(残部:イオン交換水、液温:30℃)中に40秒間浸漬し、揺動させることによってエッチングした。次いで、流水で超音波洗浄(水中、1分)を行い、乾燥させることにより表面処理済みのヒートシンクを得た。
【0061】
(粗さ曲線の負荷長さ率(Rmr)、十点平均粗さ(Rzjis)および粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)の測定)
次いで、得られた表面処理済みのヒートシンクの表面粗さを、表面粗さ測定装置「サーフコム1400D(東京精密社製)」を使用して測定し、6直線部について、切断レベル10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%および80%における負荷長さ率(Rmr)、十点平均粗さ(Rzjis)および粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)を求めた。このうち、切断レベル20%におけるRmr(20%)値、上記Rmr(20%)値が30%以下となる直線部の本数、切断レベル40%におけるRmr(40%)値、上記Rmr(40%)値が60%以下となる直線部の本数、6直線部のRzjis値、粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)、エッチング処理前後のヒートシンクの質量比から求めたエッチング率を以下に示す。
【0062】
切断レベル20%におけるRmr(20%)値[%]:49.6、25.0、10.4、33.5、5.7、16.7
Rmr(20%)値が30%以下となる直線部の本数:4本
切断レベル40%におけるRmr(40%)値[%]:75.4、63.3、42.1、65.3、47.6、50.1
Rmr(40%)値が60%以下となる直線部の本数:3本
6直線部のRzjis値[μm]:11.0、12.2、13.8、11.7、10.8、11.3
粗さ曲線要素の平均長さ(RSm)[μm]:73.1、74.2、88.1、93.0、92.6、99.1
エッチング率[質量%]:1.1
【0063】
なお、表面粗さ測定装置の測定条件は以下のとおりである。
・触針先端半径:5μm
・基準長さ:0.8mm
・評価長さ:4mm
・測定速度:0.06mm/sec
測定は、金属部材の表面上の、平行関係にある任意の3直線部、および当該直線部と直交する任意の3直線部からなる合計6直線部についておこなった(
図1参照)。
【0064】
(最高到達温度および熱抵抗の測定)
得られた表面処理済みのヒートシンクについて、放射温度分布測定および熱電対による温度計測をおこない、最高到達温度および熱抵抗値をそれぞれ求めた。
測定条件は以下のとおりである。
・試料熱源:セラミックヒーター
・加熱電圧:30[V]
・計測時間:最高到達温度で飽和するまで
・試料設置環境、周辺温度:アクリルチャンバ―内に設置、24.6[℃]
・黒体塗料の塗布:放射温度分布測定の反射による誤差低減のため、ヒートシンクの一部に黒体塗料の塗布をおこなった
・熱電対の設置場所:ヒートシンク表面の中央部分および裏面の中央部分の2か所に設置し、先端に熱伝導性グリスを塗布した。ヒートシンク裏面の熱電対は、ヒートシンク裏面に配置したセラミックヒーターと、ヒートシンクとの間に設置した。
【0065】
対象試料の温度を監視しながら電圧を印加し、測定システムの要求(約90℃)以下でコントロールが可能な条件として30Vを設定した。
次に、30Vの際の電流値から電力と熱電対による温度差(表面と裏面の温度差)を計算し、電力と温度差の関係から、熱抵抗値(温度差/電力値)の算出をおこなった。
また、赤外線サーモグラフィーを用いて対象試料の最高到達温度を測定した。
その結果、赤外線サーモグラフイーを用いて観測した際の最高到達温度は75.2℃、熱抵抗値は、0.09[K/W]であった。
【0066】
[比較例1]
JIS H4100に規定された合金番号6063のアルミニウム合金部材からなるヒートシンク(MISUMI社製HEAT1-50)を表面処理せずにそのまま用いた以外は実施例1と同様にして最高到達温度および熱抵抗値をそれぞれ測定した。その結果、赤外線サーモグラフイーを用いて観測した際の最高到達温度は79.4℃、熱抵抗値は0.39K/Wであった。