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特許7628772キメラ抗原レセプター(CAR)を個別化細胞に提供するための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】キメラ抗原レセプター(CAR)を個別化細胞に提供するための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20250204BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20250204BHJP
   C07K 16/30 20060101ALN20250204BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20250204BHJP
   C12Q 1/16 20060101ALN20250204BHJP
   A61K 35/12 20150101ALN20250204BHJP
   A61K 35/17 20250101ALN20250204BHJP
   A61P 35/00 20060101ALN20250204BHJP
【FI】
C12N5/10
C07K16/28
C07K16/30
C07K19/00
C12Q1/16
A61K35/12
A61K35/17
A61P35/00
【請求項の数】 5
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020047181
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2020150943
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-03-15
(31)【優先権主張番号】19163598
(32)【優先日】2019-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520094891
【氏名又は名称】ミルテニー バイオテック ベー.フェー. ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Miltenyi Biotec B.V. & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Friedrich-Ebert-Strasse 68, 51429 Bergisch Gladbach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス ボズィオ
(72)【発明者】
【氏名】オーラフ ハート
(72)【発明者】
【氏名】ドミニク エッカート
(72)【発明者】
【氏名】クリストフ ヘアベル
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-065805(JP,A)
【文献】特開2016-136937(JP,A)
【文献】MACS & more,2019年01月,vol18,16-20
【文献】Transl Cancer Res,2016年,5(S1),S61-S65
【文献】Journal of Hematology & Oncology,2018年,11:132,1-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00- 5/28
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腫瘍細胞上に曝された1つ以上の標的抗原に特異的な少なくとも1種のキメラ抗原レセプター(CAR)を含むT細胞を提供するための方法であって、
- 細胞試料と、蛍光部分及び抗原認識部分を含む接合体とを接触させるステップ、ここで、前記細胞試料は、腫瘍細胞及び非腫瘍細胞を含むものであり、
- 前記細胞試料から結合していない接合体を取り除き、かつ、接合体と結合している腫瘍細胞及び非腫瘍細胞を、当該接合体の蛍光部分により発光した蛍光放射線によって検出するステップ、
- 前記接合体の蛍光部分により発光した蛍光を消すステップ、
ここで、接合体は、蛍光部分及び互いに異なる抗原を認識する抗原認識部分を含む少なくとも2個の接合体である、
を、腫瘍細胞と非腫瘍細胞とを識別可能な組み合わせであって、互いに異なる抗原を認識する抗原認識部分を備えた少なくとも2個の接合体を同定するまで繰り返し、
かつ、腫瘍細胞及び非腫瘍細胞に、同定された互いに異なる抗原を認識する少なくとも2個の抗原認識部分をキメラ抗原レセプター(CAR)として提供することを特徴とし、 その際、少なくとも2個の接合体が、細胞試料に含まれる腫瘍細胞の少なくとも20%及び細胞試料に含まれる非腫瘍細胞の5%未満と結合する、前記方法。
【請求項2】
少なくとも2個の抗原認識部分が、AND型又はNOT型として提供されることを特徴とする、請求項1に記載の方法であって、
AND型は、CAR細胞が、双方の抗原結合ドメインがそれぞれの抗原に結合した場合にのみ活性化されて、シグナルドメインのシグナルを誘発する型であり
OT型は、CAR細胞が、一方の抗原結合ドメインがそれぞれの抗原に結合し、かつ他方は結合しない場合にのみ活性化されて、シグナルドメインのシグナルを誘発する型である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも2つの接合体が、細胞試料の非腫瘍細胞よりも、少なくとも10倍高く腫瘍細胞を結合することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
蛍光部分により発光される蛍光放射線を、接合体の酵素による分解によって消光することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
蛍光部分により発光される蛍光放射線を、放射線によって消光することを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適切なキメラ抗原レセプター(CAR)を細胞に提供するための個体の健康な細胞ではなく癌細胞に曝された抗原を選択する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、無秩序な細胞増殖を含む広範囲の疾患の群である。癌においては、細胞が制御不能に分裂及び成長して、悪性腫瘍を形成し、そして身体の近くの部分に浸潤する。癌は、リンパ系又は血流を介して身体のより遠い部位にも拡散することがある。
【0003】
キメラ抗原レセプター(CAR)の技術は、癌のための養子細胞免疫療法について見込みのあるアプローチを提供しうる。慣用的に、CARは、ヒンジ及び膜貫通領域を介してT細胞シグナル伝達分子の細胞質ドメインに結合した腫瘍関連抗原(TAA)に特異的な抗体の単鎖フラグメント可変(scFv)を含む。
【0004】
キメラ抗原レセプター(CRA)をT細胞に導入することにより(以下CAR T細胞という)、腫瘍細胞を「非自己細胞」として認識するように作成されたT細胞が生じ、したがって、免疫系が腫瘍細胞を根絶するのに役立つ。例えば、CAR T細胞は、標的細胞の表面分子と接触してCAR T細胞の活性化を引き起こし、そして標的細胞の溶解を導きうる。
【0005】
しかしながら、効果的なCAR T細胞を開発することは、とりわけ以下の問題に直面している:
i)1つの表面分子は十分に特異的ではない場合があり、非腫瘍細胞でも発現しうる(安全性の問題)
ii)表面分子は全ての腫瘍細胞で発現しておらず、生き延びた(逃れた)腫瘍細胞は再発につながる
iii)腫瘍細胞は表面分子の発現を遮断し、治療から逃れる
iv)抗原の発現レベル又は単一バインダーの親和性が、効率的なT細胞活性化を可能にするためには低すぎる
v)腫瘍試料内及び腫瘍試料間での抗原発現の強い異種性が、腫瘍マーカー発現の個別化プロファイリング(動態学)を要求し、いくつかのマーカーは、同一のタイプからの腫瘍の腫瘍細胞の全てに出現するか又は全く出現しない。
【0006】
前記問題に対処する潜在的な方法は、標的として1つより多い表面分子、すなわち、いわゆる所与の細胞で1つより多い標的を検出する「DUAL CAR T細胞」を使用することである。
【0007】
「DUAL CAR T細胞」アプローチは、これまでに適切に確立されておらず、特に、より複雑な複数の標的の組み合わせが適切に腫瘍を攻撃する必要があり、この特定の組み合わせは1人より多くの又は数人の患者に適合する可能性が低くなる(治療の個別化が必要である)という事実をもたらす。さらに、最初の治療後に腫瘍がさらに成長する場合に、腫瘍をさらに根絶するためにCARの新しい組み合わせを見出す必要がある可能性が非常に高い。
【0008】
さらに、患者個人について腫瘍マーカー発現の個別化した表現型決定を実施するために、CARとCAR T細胞との組み合わせは、患者及び徴候により示される許容できる時間枠で開発される必要がある。臨床実践において、最適な時間枠は数週間である。
【0009】
したがって、CAR細胞に基づく癌についての任意の免疫療法の成功は、それぞれの腫瘍細胞に特異的な抗原の速く確実な選択に依存する。
【0010】
細胞表面抗原の特定の群がヒト癌細胞で発現されるが、しかし非悪性細胞では発現されないか、又はより低いレベルで発現されることが見出されている。これらの抗原(「マーカー」とも呼ばれる)は、マーカーに特異的に結合するリガンドを介して、かかる癌細胞の逃避メカニズムを同定及び/又は印付け及び/又は破壊及び/又は無能化するために使用されうる。
【0011】
したがって、本発明の目的は、非腫瘍細胞を攻撃することなく癌細胞を死滅させる/溶解する細胞を設計するために、健康な組織では発現しない癌細胞に特異的な抗原を選択する方法を提供することであった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第一の目的は、腫瘍細胞及び非腫瘍細胞を含む細胞試料を提供すること、及び
- 細胞組織と、蛍光部分及び抗原認識部分を含む接合体(以下「接合体」と呼ぶ)とを接触させるステップ
- 細胞組織から結合していない接合体を取り出し、そして最初の接合体の蛍光部分により発光した蛍光放射線により接合体に結合した細胞を検出するステップ
- 接合体の蛍光部分により発光した蛍光放射線を消すステップ
を繰り返すことにより特徴付けられる、腫瘍細胞で曝された1つ以上の標的抗原に特異的なキメラ抗原レセプター(CAR)を含む細胞を提供するための方法であり、
その際、接合体は、蛍光部分と異なる抗原を認識する抗原認識部分とを含み、
異なる抗原を認識する抗原認識部分を備えた少なくとも2つの接合体を同定するまで、腫瘍細胞に結合するが本質的に非腫瘍細胞には結合せず、かつ
キメラ抗原レセプター(CAR)として、同定された少なくとも2個の抗原認識部分、好ましくは2個、3個、4個もしくは5個の抗原認識部分を細胞又は細胞試料又は細胞集団に提供する。
【0013】
キメラ抗原レセプター(CAR)を含む細胞は、T細胞、NK細胞、又は他の細胞に結合することによって誘発される場合に他の細胞を破壊する(溶解する)ように遺伝子操作された細胞からなる群から選択されうる。
【0014】
腫瘍細胞の一部のみが同定又は攻撃される場合でさえも腫瘍が破壊されうるために、同定された接合体は全ての腫瘍細胞に結合する必要はない。好ましくは、本発明の方法は、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備えた少なくとも2つの接合体を同定し、腫瘍細胞の少なくとも1%、より好ましくは少なくとも10%及び最も好ましくは少なくとも30%に結合するまで実施される。
【0015】
接合体が0%の非腫瘍細胞に結合するように所望される場合に、一定量の非腫瘍細胞を標的とすることが治療に容認できる。好ましくは、本発明の方法は、少なくとも異なる抗原を認識する抗原認識部分を備えた少なくとも2つの接合体を同定し、いくつかのタイプの組織又は器官の腫瘍細胞に及び非腫瘍細胞の最大10%、より好ましくは最大5%及び最も好ましくは最大1%に結合するまで実施される。「いくつかのタイプの組織又は器官」という用語は、例えば膵臓又は肝臓をいう。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法は、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備えた2つの接合体の1セット以上の、及び続いてキメラ抗原レセプター(CAR)として抗原認識部分と同定された少なくとも2つを有する1つ以上の異なる細胞の急速な同定を可能にする。1セットより多くの接合体及び1つより多くのCAR細胞を提供することは、腫瘍細胞を破壊し、及び/又は腫瘍細胞を標的として抗原を下方制御して標的を逃れる機会が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、キメラ抗原レセプター(CAR)の一般的なドメインを示す。
図2図2は、キメラ抗原レセプターの一般的な構造概念を示す。
図3図3は、AND論理を提供するCAR-T細胞の機能の概略図を示す。
図4図4は、NOT論理を提供するCAR-T細胞の機能の概略図を示す。
図5図5は、膵臓癌細胞で発現されるマーカーを検出するための蛍光部分及び抗原認識部分を含む複数の接合体での1つ及び同一の膵臓癌標本の染色を示す。
図6図6は、健康な組織ではなく特異的に膵臓癌細胞を標識化するマーカーの組み合わせを検出するための、膵臓癌細胞及び健康な組織での選択マーカーの比較標識化を示す。
図7図7は、潜在的な標的候補を同定するための高悪性度漿液性卵巣癌の標識化を示す。
図8図8は、健康な組織ではなく特異的に卵巣癌細胞を標識化するマーカーの組み合わせを検出するための、高悪性度漿液性卵巣癌及び健康な組織での選択マーカーの比較発現分析を示す。
【0018】
定義
「キメラ抗原レセプター」又は「CAR」という用語は、異なる源に由来する新たな特異性を備えた遺伝子操作された細胞をいう。
【0019】
「腫瘍」という用語は、「新生物」として医学的に公知である。全ての腫瘍が癌性であるわけではなく、良性腫瘍は隣接組織に浸潤せず、かつ身体全体に拡散しない。本発明の方法は、新生物及び良性腫瘍の双方に適用されうる。
【0020】
「癌」という用語は、無秩序な細胞成長を伴う疾患の広範な群をいう。癌において、細胞(癌性細胞)は、制御不能に分裂及び成長して、悪性腫瘍を形成し、そして身体の近くの部位に浸潤する。癌は、リンパ系又は血流を介して身体のより遠い部位にも拡散することがある。
【0021】
抗体のようなリガンドの、それらの断片の又はCARの抗原結合ドメインに関する「バインダー」又は「特異的に結合」又は「~に特異的な」という用語は、特定の抗原を認識し結合するが、実質的に試料中で他の分子を認識せず又は結合しない抗原結合ドメインをいう。1つの種からの抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインは、他の種からの抗原にも結合してよい。この異種間反応は、特異的な抗原結合ドメインの定義に反しない。抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインは、その抗原の異なる対立遺伝子の形(対立遺伝子バリアント、スプライスバリアント、アイソフォーム等)にも結合してもよい。この交差反応は、特異的な抗原結合ドメインの定義に反しない。
【0022】
本明細書において使用される「遺伝子操作された細胞」及び「遺伝的に改変された細胞」という用語は、互換可能に使用できる。これらの用語は、細胞又はその子孫の遺伝型又は表現型を順に改変する外来遺伝子又は核酸配列を含むこと及び/又は発現することを意味する。特に、これらの用語は、天然の状態でこれらの細胞中で発現されないペプチド又はタンパク質を安定して又は一過性で発現するために当業者に周知の組換え法により操作された細胞、好ましくはT細胞をいう。例えば、T細胞は、それらの細胞表面で、人工的な構築物、例えばキメラ抗原レセプターを発現するために遺伝子操作される。例えば、CARをコードする配列は、レトロウイルスベクター又はレンチウイルスベクターを使用して細胞中に送達されてよい。
【0023】
本明細書において使用される「標的」という用語は、抗原結合ドメイン、例えば抗体又はCARの抗原結合ドメインによって特異的に認識されるべき細胞に関連する抗原又はエピトープをいう。抗体認識のための抗原又はエピトープは、細胞表面に結合することができるが、分泌され、細胞外膜の一部であり、又は細胞から脱落されてもよい。
【0024】
本明細書において使用される「抗体」という用語は、当業者に周知の方法により作出されてよいポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体及びそれらの断片をいう。抗体は、任意の種、例えばマウス、ラット、ヒツジ、ヒトのものであってよい。治療目的のために、非ヒト抗原結合断片が使用されるべきである場合に、当業者に公知の任意の方法によりヒト化することができる。抗体は、改変された抗体(例えば、オリゴマー、縮小された抗体、酸化された抗体、及び標識した抗体)であってもよい。
【0025】
本明細書において使用される「キラー細胞」という用語は、他の細胞、例えば癌細胞を死滅させる/破壊する/溶解することができる細胞をいう。最も頻繁に、T細胞、NK細胞、樹状細胞及びマクロファージが、キラー細胞として使用されうる。
【0026】
本明細書において使用される「遺伝子操作されたキラー細胞」という用語は、標的細胞の特異的な死滅を可能にするために遺伝的に改変されたキラー細胞、例えばそれぞれの標的を発現する腫瘍細胞を死滅させるために標的に対してCARで改変させた細胞をいう。
【0027】
発明の詳細な説明
本発明の方法は、接合体の適したセットの急速な同定、続いて細胞試料の腫瘍細胞を破壊するための適切なCAR細胞の急速な遺伝子操作を可能にする。腫瘍細胞及び非腫瘍細胞を含む細胞試料は、好ましくは同一の患者からの同一の組織又は器官に由来する。
【0028】
細胞試料中で腫瘍細胞及び非腫瘍細胞を識別するために、当業者、例えば病理学者は、細胞試料に腫瘍が含まれているかどうか、含まれている場合に細胞試料のどの部分かを、公知の基準又は腫瘍学における専門家に従って決定してよい。かかる基準は、例えば、Arbeitsgemeinschaft der Wissenschaftlichen Medizinischen Fachgesellschaften(AWMF)によって出版されたガイドラインであり、例えば細胞、組織構造、倍数性、バイオマーカー発現(例えばHer2、p53、BRAC1、APC、EGFR等)の形態を含んでよい。
【0029】
そして、細胞試料を複数のバインダーと接触させて認識パターンを特徴付け、腫瘍細胞に特異的なバインダー及び非腫瘍細胞に特異的なバインダーを選択する。したがって、同定されたバインダーを、後で特定されるようにその後の治療に使用できる。
【0030】
異なる方法において、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備えた少なくとも2つの接合体は、細胞試料の腫瘍細胞の少なくとも20%及び非腫瘍細胞の5%未満に結合する。好ましくは、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備えた少なくとも2つの接合体は、細胞試料の腫瘍細胞の少なくとも50%及び非腫瘍細胞の5%未満に結合する。より好ましくは、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備えた少なくとも2つの接合体は、細胞試料の腫瘍細胞の少なくとも70%及び非腫瘍細胞の5%未満に結合する。
【0031】
他の変法において、抗原認識部分を備えた少なくとも2つの接合体が、細胞試料の非腫瘍細胞よりも、少なくとも10倍、好ましくは少なくとも50倍、より好ましくは少なくとも100倍多い腫瘍細胞を破壊することにより特徴付けられる。
【0032】
本発明の方法は、実質的に非腫瘍細胞ではなく腫瘍細胞に結合する、異なる抗原を認識する抗原認識部分を備えた少なくとも2つの接合体を同定することを含む。
【0033】
CARが少なくとも2つの抗原認識部分を備える場合に、CARは、種々の論理ゲートで実施するためのトリガーとなってよい。論理ゲートは、「AND」型、「NOT」型、「OR」型のCAR細胞として文献に記載されている。後により詳細に開示されるように、本発明の方法において、少なくとも2つの抗原認識部分は、AND型、OR型又はNOT型として提供され、かつ/又は抗原認識部分を有する少なくとも2つはADAPTER型として提供される。これら全ての変法における少なくとも2つの抗原認識部分は、キメラ抗原レセプター(CAR)として提供される。
【0034】
キメラ抗体レセプター(CAR)
図1及び2において一般的に示したように、キメラ抗原レセプター(CAR)は、抗原結合ドメインを含む細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内シグナル伝達ドメインを含んでよい。細胞外ドメインは、リンカーにより膜貫通ドメインに連結されてよい。細胞外ドメインは、シグナルペプチドにも連結されてもよい。
【0035】
「シグナルペプチド」という用語は、細胞内のタンパク質の輸送及び局在化を、例えばある細胞小器官(例えば小胞体)及び/又は細胞表面に向けるペプチド配列をいう。
【0036】
「抗原結合ドメイン」という用語は、抗原に特異的に結合する(それにより、抗原を含む細胞を標的にすることができる)CARの領域をいう。本発明により得られるCARは、1つ以上の抗原結合ドメインを含んでよい。一般的に、CARの抗原結合ドメインは細胞外である。抗原結合ドメインは、抗体又はそれらの断片を含んでよい。抗原結合ドメインは、例えば、完全長重鎖、Fab断片、単鎖Fv(scFv)断片、二価単鎖抗体又は二重抗体を含んでよい。所与の抗原に特異的に結合する任意の分子、例えば天然に生じるレセプター由来のアフィボディ又はリガンド結合ドメインが、抗原結合ドメインとして使用されうる。しばしば、抗原結合ドメインは、scFvである。通常、scFvにおいて、免疫グロブリンの重鎖及び軽鎖の可変域は、可動性リンカーにより融合されて、scFvを形成する。かかるリンカーは、例えば「(G4/S13-リンカー」であってよい。
【0037】
CARの膜貫通ドメインは、例えば4-1BB、CD8及び/又はCD28の膜貫通ドメインの配列を含んでよい。さらに、CD28、CD137又はCD3ゼータの細胞内シグナル伝達ドメインの配列を含む活性化細胞内シグナル伝達ドメインが存在してよい。
【0038】
活性化細胞内シグナル伝達ドメインの代わりに、PD1又はCTLA4のような細胞内シグナル伝達ドメインの配列を有する細胞内シグナル伝達ドメインを阻害するCARを含んでよい。
【0039】
この実施形態の好ましい変法において、キメラ抗原レセプター(CAR)は、追加の抗原結合ドメイン又は追加のCARを有さないCD20に特異的な抗原結合ドメインを含み、該抗原結合ドメインは、1つの膜貫通ドメイン及び1つ以上のシグナル伝達ドメインに接合している。この変法は図2Aにおける例により示される。
【0040】
場合により、抗原結合ドメインは、CARが使用される種と同一の種に由来することが有益である。例えば、CARがヒトにおいて治療的に使用することが計画されている場合に、CARの抗原結合ドメインは、ヒトもしくはヒト化抗体又はそれらの断片を含むことが有益でありうる。ヒトもしくはヒト化抗体又はそれらの断片は、当業者に周知の種々の方法により製造されることができる。
【0041】
本明細書において使用される「スペーサー」又は「ヒンジ」という用語は、抗原結合ドメインと膜貫通ドメインとの間にある親水性領域をいう。本発明により同定されるCARは、細胞外スペーサードメインを含んでよいが、しかしかかるスペーサーを省略することも可能である。スペーサーは、抗体もしくはそれらの断片のFc断片、抗体もしくはそれらの断片のヒンジ領域、抗体のCH2もしくはCH3領域、アクセサリータンパク質、人工スペーサー配列、又はそれらの組み合わせを含んでよい。スペーサーの著名な例は、CD8アルファヒンジである。
【0042】
CARの膜貫通ドメインは、かかるドメインのための任意の所望の天然源又は合成源に由来しうる。供給源が天然である場合に、ドメインは、任意の膜結合タンパク質又は膜貫通タンパク質に由来してよい。
【0043】
本発明のCARの細胞質ドメイン又は細胞内シグナル伝達ドメインは、CARが発現される免疫細胞の少なくとも1つの通常のエフェクター機能の活性化に関与する。「エフェクター機能」は、細胞の特殊化された機能を意味し、例えば、T細胞におけるエフェクター機能は、細胞溶解活性又はヘルパー活性であってよく、これはサイトカインの分泌を含む。細胞内シグナル伝達ドメインは、エフェクター機能シグナルを伝達し、本発明のCARを発現する細胞に特殊化された機能を果たすように指示するタンパク質の部分をいう。細胞内シグナル伝達ドメインは、エフェクター機能シグナルを伝達するために十分な所与のタンパク質の細胞内シグナル伝達ドメインの任意の完全又は切断部分を含んでよい。
【0044】
CARにおいて使用するための細胞内シグナル伝達ドメインの著名な例は、T細胞レセプター(TCR)の細胞質配列、及び抗原レセプターの会合(engagement)に続いてシグナル伝達を開始するために共同作用するコレセプターを含む。
【0045】
少なくとも2つの抗原結合ドメインを有するCARについて、抗原結合ドメインは異なる機能を有してよい。本発明の方法は、「AND」型、「NOT」型、「OR」型のCAR細胞として提供されうる腫瘍治療に適した新たなCAR細胞についての開発時間を縮める。
【0046】
本発明の一実施形態において、CAR細胞は活性化されるのみであり、すなわち、双方の抗原結合ドメインがそのそれぞれの抗原に結合した場合にのみシグナルドメインのシグナルが誘発される。かかるCAR細胞を、以降「AND-CAR」という。「AND-CAR」細胞の抗原結合ドメインは、本発明の方法により、例えば、全くないか又は多くても1つが健康な細胞で発現されている腫瘍細胞に存在する2つの抗原を同定することにより同定されてよい。図3(Transl Cancer Res 2016;5(S1):S61-S65において出版されている)は、AND-CARが、健康な細胞(i)及び(ii)により不活性化されるが、しかし腫瘍細胞(iii)により活性化される様子を示す。
【0047】
本発明の他の実施形態において、CAR細胞は活性化されるのみであり、すなわち、1つの抗原結合ドメインがそのそれぞれの抗原に結合し、かつ他には結合しない場合にのみ、シグナルドメインのシグナルが誘発される。かかるCAR細胞を、以降「NOT-CAR」という。「NOT-CAR」細胞の抗原結合ドメインは、本発明の方法により、例えば、1つのみが腫瘍細胞で発現されている健康な細胞に存在する2つの抗原を同定することにより同定されてよい。図4(Transl Cancer Res 2016;5(S1):S61-S65において出版されている)は、NOT-CARが、健康な細胞(i)により不活性化されるが、しかし腫瘍細胞(ii)により活性化される様子を示す。
【0048】
本発明のさらに他の実施形態において、CAR細胞は既に活性化されており、すなわち、2つの抗原結合ドメインのうち1つのみがそのそれぞれの抗原に結合した場合にシグナルドメインのシグナルが誘発される。かかるCAR細胞を、以降「OR-CAR」という。「OR-CAR」細胞の抗原結合ドメインは、本発明の方法により、例えば、健康な細胞ではなく、腫瘍細胞に存在する2つの抗原を同定することにより同定されてよい。
【0049】
処理時間におけるさらなる短縮は、いわゆる「ADAPTER CAR」技術を使用することにより達成されうる。「ADAPTER CAR」細胞は、シグナル伝達ドメイン、膜貫通ドメイン及び抗原認識特性を有さないリンカードメインを含む。そして、このリンカードメインに、1つ以上の抗原認識部分が接合される(リンカー+分子=アダプター)。したがって、本発明による方法において、キメラ抗原レセプター(CAR)として抗原認識部分を有する少なくとも2つを、ADAPTER型として提供してよい。
【0050】
本発明の変法において、キメラ抗原レセプター(CAR)の抗原認識部分としてビオチンを含む細胞を提供し、かつ同定される少なくとも2つの抗原認識部分と抗ビオチン部分との接合体を提供し、そして該接合体と該細胞とを接合することによって、キメラ抗原レセプター(CAR)として同定された少なくとも2つの抗原認識部分を細胞に提供する。
【0051】
本発明の他の変法において、第一のキメラ抗原レセプター(CAR)の抗原認識部分としてビオチン及び第二のキメラ抗原レセプター(CAR)の抗原認識部分として第二のエピトープを含む細胞を提供し、かつ同定される少なくとも2つの抗原認識部分と抗ビオチン部分及び第二の部分との接合体を提供し、そして前記接合体と前記細胞とを接合することによって、キメラ抗原レセプター(CAR)として同定された少なくとも2つの抗原認識部分を細胞に提供する。
【0052】
適したリンカーは、哺乳動物(ヒト)の体に存在しないか、又は哺乳動物(ヒト)の体中で天然に存在する抗体に対して低い親和性を有する分子である。例えば、適切なアダプター、例えば所望の接合した抗原認識部分に接合した抗ビオチン抗体により同定されるビオチン単位又は改変型ビオチンが適している。
【0053】
「ADAPTER CAR」技術は、国際出願番号第EP2017/077545号(PCT/EP2017/077545)において開示されており、CAR細胞に結合したリンカーについて「リンカー/標識エピトープ」(LLE)という用語を使用している。
【0054】
好ましくは、LLEは、CARを発現している細胞で治療することを意図した被験者に免疫反応を引き起こさない。これは、天然に生じるエピトープ認識分子に由来するCARの細胞外LLE結合ドメインを使用して、リンカー部分を有さない内因性標識部分、すなわち被験者において天然に存在する分子(自己抗原)よりも高い選択性でLLEが結合することにより達成できる。
【0055】
例えば、CARの細胞外LLE結合ドメインは、前記の天然に生じる分子よりも少なくとも2倍、好ましくは少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍高い親和性で、前記LLEに結合する。
【0056】
「ADAPTER」CAR細胞の場合に、リンカー単位及びアダプターを備えたCAR細胞が患者に並行して適用される。この実施形態の利点は、リンカーを有するCAR細胞が、同定された抗原認識部分とは無関係に製造されてよく、ゼロから開発される必要がないことである。アダプターのみが生じ、試験されるべきである。このアプローチは、従来の化学療法と同様に、治療の強度及び動態を制御することも可能である。
【0057】
検出プロセス
複数の潜在的なバインダー又は接合体を調査するために、接合体の酵素による分解によって蛍光部分により発せられる蛍光放射線を消光することが好ましい。かかる接合体は、例えば、欧州特許公開番号第3037821号(EP3037821A1)、欧州特許出願番号第16203689.1号(EP16203689.1)又は欧州特許出願番号第16203607.3号(EP 16203607.3)において開示されている。
【0058】
代わりに、蛍光部分により発せられる蛍光放射線を、放射線により消光する。
【0059】
癌治療のための使用
本発明の方法により得られる細胞集団は、医薬組成物として、好ましくはヒト癌、特にヒト膵臓癌の治療方法において使用されてよい。
【0060】
医薬組成物は、好ましくは、本発明の方法により得られるCARを発現する遺伝子操作した細胞集団を含む。本発明の変法において、医薬組成物は、癌の治療のために化学療法、放射線、又は免疫調節剤と組み合わせて使用される。
【0061】
治療されるべき癌は、造血組織系血液癌、骨髄異形成症候群、膵臓癌、頭頸部癌、皮膚腫瘍、急性リンパ芽球性白血病(ALL)における微小残存病変(MRD)、急性骨髄性白血病(AML)、肺癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、結腸癌、メラノーマもしくは他の血液学的癌、及び充実性腫瘍、又はそれらの任意の組み合わせを含んでよい。他の実施形態において、癌は、血液学的癌、例えば白血病(例えば慢性リンパ球白血病(CLL)、急性リンパ球白血病(ALL)、急性骨髄性白血病(AML)、又は慢性骨髄性白血病(CML))、リンパ腫(例えばマントル細胞リンパ腫、非ホジキンリンパ腫又はホジキンリンパ腫)、又は多発性骨髄腫、又はそれらの任意の組み合わせを含む。さらに、癌は、口腔及び咽頭の癌(舌、口、咽頭、頭頸部)、消化器系の癌(食道、胃、小腸、結腸、直腸、肛門、肝臓、肝内胆管、胆嚢、膵臓)、呼吸器系の癌(喉頭、肺及び気管支)、骨及び関節の癌、軟組織の癌、皮膚の癌(メラノーマ、基底細胞癌及び扁平上皮癌)、小児腫瘍(神経芽細胞腫、横紋筋肉腫、骨肉腫、ユーイング肉腫)、中枢神経系の腫瘍(脳、星状細胞腫、グリア芽腫、神経膠腫)、並びに乳房、生殖器系(子宮頸部、子宮体、卵巣、外陰部、膣、前立腺、精巣、陰茎、子宮内膜)、泌尿器系(膀胱、腎臓及び腎盂、尿管)、眼及び眼窩、内分泌系(甲状腺)、並びに脳、並びに他の神経系の癌、又はそれらの任意の組み合わせを含む成人癌腫を含んでよい。
【0062】
癌の治療は、開示された少なくとも1種の抗原又は標的分子として開示された抗原の任意の組み合わせを含む任意の方法を包含してよい。かかる方法は、例えば、抗原に結合し、この抗原を発現する癌性細胞の生存能力に影響を及ぼし、好ましくは癌性細胞を死滅させる作用剤での治療であってよい。その例は、既に開示されている腫瘍崩壊性ウイルス、BiTEs(登録商標)、ADCC及びイムノトキシンである。
【0063】
治療のために、被験体の免疫細胞、例えばT細胞を単離してよい。被験体は、前記癌に罹患していてよく、又は健康な被験体であってもよい。これらの細胞は、in vitro又はin vivoで遺伝的に改変されて、本発明の1種以上のCARを発現する。これらの遺伝子操作された細胞は、in vitro又はin vivoで活性化及び増加されてよい。細胞療法において、これらの遺伝子操作された細胞は、それを必要とするレシピエントに注入されてよい。これらの細胞は、医薬組成物(前記細胞+製剤学的に認容性のキャリヤー)であってよい。注入された細胞は、レシピエントにおける開示された抗原の1種以上を発現する癌性細胞を死滅させる(又は癌性細胞の成長を少なくとも停止させる)ことができる。レシピエントは、細胞を得た同一の被験体であってよく(自己細胞療法)、又は同種の別の被験体からであってもよい(同種細胞療法)。
【0064】
例えば、キメラ抗原レセプター(CAR)として次の抗原認識部分を有する細胞が、ある癌のタイプを治療するために使用されてよい。
【0065】
a)もっぱら腫瘍、例えば膵臓腫瘍のための陽性マーカーとしてCLA、TSPAN8。
【0066】
b)健康な細胞からの腫瘍、例えば膵臓腫瘍を識別するための陽性マーカーとしてCLA及びNOTマーカーとしてCD45。
【0067】
c)もっぱら腫瘍、例えば卵巣癌のための陽性マーカーとしてEpcam及びCD90。
【0068】
d)健康な細胞からの腫瘍、例えば乳癌を識別するための陽性マーカーとしてSSEA4並びに陰性マーカーとしてCD34及びCD133。
【実施例
【0069】
以下の実施例は、本発明のより詳細な説明を目的とするが、本発明はこれらの実施例に制限されない。
【0070】
実施例1:膵臓癌(PaCa)細胞と非PaCa細胞との識別を可能にする組み合わせでの蛍光部分及び抗原認識部分を含む接合体の組み合わせの同定。
【0071】
患者からの膵臓癌(PaCa)を、異なる抗体蛍光色素接合体での染色に続いて、画像化、及び脱染色により分析した。
【0072】
PaCa試料の凍結切片を固定し、それぞれの標本を101個の蛍光標識した抗体及び核標識色素DAPIで染色した(図5)。そのようにして得られた画像を、単一ピクセル及び分割細胞のレベルで抗原の定量化及びパターン認識について分析した。
【0073】
潜在的な標的の選択を絞り込むために、同一の標本を抗EpCAM+(CD326)抗体蛍光色素接合体で染色した場合に観察されるパターンと同様の染色パターンを示した抗体接合体を選択した。EpCAMは、種々のヒト上皮組織及びカルシノーマに対するその発現についての分野において周知である。これは、図5において示されているように、例えばCLA、CD66c、CD318及びTSPAN8にあてはまった。
【0074】
続いて、潜在的な標的の20個の蛍光色素を接合した抗体、例えばCLA、CD66c、CD318及びTSPAN8を、同一の染色/画像化/脱染色プロセスで、16個の健康な又は正常に近い(NAT)組織に対してそれらの染色パターンを評価し、その結果を図6において示した。これを、対象の抗原のオフ腫瘍発現(off tumor expression)を評価して、標的候補の潜在的なオンターゲットオフ腫瘍毒性(on-target off-tumor toxicity)の予測を可能にするために実施した。この分析の例を、マーカーCLA、CD66c、CD318及びTSPAN8について図6a~cにおいて示す。
【0075】
前記実施例はこれらのマーカーがPaCa試料で発現していることを示し、これらのマーカーが健康な組織でも発現するかどうかを調査した。例えば、CD318は、他にも結腸、肺及び肝臓の組織に見られる。したがって、単一マーカーとしてCD318を使用してCAR T細胞を誘導することは、示された組織でオンターゲットオフ腫瘍毒性を生じる可能性が最も高くなる。
【0076】
したがって、前記実験のデータを分析して、同一の膵臓癌標本で発現を示すが、同一の健康な組織標本では発現を示さないマーカーを見出した。図6a~cに示すように、画像の視覚的比較又は生体情報分析によって、多くの組み合わせを同定できた。視覚的比較は、2種の画像が実質的に2種の異なる接合体の同一の発現パターンを示す場合に、それぞれのマーカーが、実質的に同一の細胞で発現していることを意味する。一方で、2種の画像が2種の異なる接合体について異なる発現パターンを示す場合には、それぞれのマーカーは、同一の細胞で発現していない。例えば、CD318及びCLAは、健康な組織標本で複合発現を示さない。
【0077】
最終的に、得られた標的候補を、12個の異なるPaCa試料及び1個のProCa試料を使用して多数の患者試料アレイで試験して、これらのマーカーの組み合わせの適用性の広さを評価した。ここで、マーカーが大部分の膵臓癌で同時発現されることが示された。
【0078】
まとめると、CLA、CD66c、CD318及びTSPAN8は、健康な組織に影響を与える最小限のリスクで膵臓癌を根絶するCAR T細胞アプローチの候補として同定された。
【0079】
実施例2:卵巣癌(OvCa)細胞と非OvCa細胞との識別を可能にする組み合わせでの蛍光部分及び抗原認識部分を含む接合体の組み合わせの同定。
【0080】
新鮮凍結高悪性度漿液性卵巣癌切除体をスライスし、そしてアセトンで固定した。スクリーニングを、個々の生物学的試料の完全自動化された周期的蛍光イメージングを可能にする、新たなハイコンテンツイメージングプラットフォームを使用して実行した。蛍光部分に接合した20個の抗原認識部分での2個のOvCa標本の連続染色は、多くの抗原の発現を示した。ヒト上皮組織及びカルシノーマの周知のマーカーであるEpCAM(CD326)に加えて、例えばFOLR1、CD227、及びCD340があった(図7)。
【0081】
標的候補CD326、FOLR1、CD227、及びCD340を、2つの独立した高悪性度漿液性卵巣癌切除試料及び健康なヒト組織試料(腎臓、肺、心臓、皮膚、及び結腸)(図8a)、並びに第三の独立した高悪性度漿液性卵巣癌切除試料及び健康なヒト組織試料(肝臓、膵臓、甲状腺、及び下垂体)(図8b)でのそれらの発現レベルを比較することによって、染色/画像化/脱染色プロセスを使用して検証した。
【0082】
データ分析及びさらなる同時染色により、提示した4つのマーカーが全てOvCa試料で発現したが、健康な組織でも発現していたことが明らかになった。しかしながら、健康な組織での発現は、OvCa細胞の選択的な標識を得るために2つ以上のマーカーを組み合わせる可能性を少なくとも部分的に識別していることを見出した。例えば、CD227及びFOLR1は、大部分のOvCa細胞での発現を双方とも示した。CD227は肝臓、肺及び膵臓でさらに顕著な発現を示したが、FOLR1は腎臓、肺及び皮膚で顕著な発現を示した。双方のマーカーを組み合わせて細胞の同時発現を調べた場合に、前記健康な組織は、実質的な割合の細胞で細胞の同時発現を全く示さなかったことを見出した。したがって、CD227とFOLR1との組み合わせは、抗原CD227及びFOLR1の双方がオンターゲットオフ腫瘍毒性と結合しないか又は結合が大幅に減少した場合にのみ活性化されるCAR T(AND CAR T細胞)でOvCa細胞を根絶する選択肢がある。一方で、前記で概説したことと同様の分析を実施した場合に、例えばFOLR1とポドプラニンの組み合わせが、OvCaのNOT CAR T細胞治療の可能性をもたらすことを見出した。FOLR1はOvCa細胞だけでなく腎臓、肺及び皮膚でも発現するが、ポドプラニンはOvCa細胞でFOLR1との細胞の同時発現を示さず、腎臓、肺及び皮膚で強く発現する。
【0083】
したがって、FOLR1の検出によって活性化されるが、ポドプラニンの検出によって非活性化又は阻害されるCAR T細胞を使用することは、FOLR1が発現しないか、又はポドプラニンが発現するため、影響を受けない健康な細胞を残してOvCa細胞の効率的な死滅をもたらす。
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図6-1】
図6-2】
図6-3】
図6-4】
図6-5】
図6-6】
図6-7】
図6-8】
図6-9】
図6-10】
図7-1】
図7-2】
図8-1】
図8-2】