(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】肉醤含有調味料
(51)【国際特許分類】
A23L 27/24 20160101AFI20250204BHJP
A23L 27/50 20160101ALI20250204BHJP
【FI】
A23L27/24
A23L27/50 E
(21)【出願番号】P 2020160593
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2023-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】301032517
【氏名又は名称】エバラ食品工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本告 知子
(72)【発明者】
【氏名】白數 みう
【審査官】千葉 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-028068(JP,A)
【文献】特表2018-518193(JP,A)
【文献】特開2015-104360(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉醤含有調味料であって、
肉醤及び味噌を含有し、肉醤と味噌の質量比が
1:3~1:9であ
り、更に
リンゴ酢を含有し、肉醤と
リンゴ酢の質量比が、
リンゴ酢を酢酸換算酸度5.0%に換算した場合、
1:0.25~1:1.5であ
り、
更に
ごま油、及び香味食用油から選ばれる少なくとも1種である食用油脂を含有し、肉醤と食用油脂の質量比が
1:0.1~1:5であ
り、肉醤が肉醤含有調味料に対して0.5~8質量%含まれ
る肉醤含有調味料。
【請求項2】
更に醤油を含有し、醤油が生醤油(なましょうゆ)又は生揚げ醤油(きあげしょうゆ)である請求項
1記載の肉醤含有調味料。
【請求項3】
醤油が肉醤含有調味料に対して5~30質量%含まれる請求項1
又は2に記載の肉醤含有調味料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の肉醤含有調味料の製造方法であって、以下の[1]~[10]のいずれかの方法で
肉醤を製造
し、該肉醤並びに味噌、リンゴ酢及び食用油脂を調味料に混合することを含む方法:
[1] 以下の工程を含む、食肉を原材料とし、麹を用いて肉醤を製造する方法:
(A) 細断された食肉を加熱する工程、
(B) 加熱した食肉を冷却する工程、
(C) 麹を添加し、醸造する工程、
(D) 醸造中に食肉から放出された油脂を除去する油脂除去工程;
[2] 工程(A)の加熱工程が、50~99℃まで加熱達温後、0~60分保持する、[1]の方法;
[3] 工程(C)において、プロテアーゼ力価が500U/ml以上の麹を、肉醤100g当たり、5~30gとなるように添加する、[1]又は[2]の方法;
[4] 醸造が、30~60℃で7~42日間行われる、[1]~[3]のいずれかの方法;
[5] 工程(A)において、(A-1)加熱により食肉から放出された油脂を回収する工程を含む、[1]~[4]のいずれかの方法;
[6](A-1)の油脂回収工程において、細断された食肉に対して少なくとも2質量%の油脂を回収し、(D)の油脂除去工程において、工程(C)で得られた醸造終了物に対して少なくとも1質量%の油脂を除去する、[1]~[5]のいずれかの方法;
[7] 工程(D)の後、(E)油脂を添加する工程を含む、[1]~[6]のいずれかの方法;
[8] 添加する油脂が工程(A-1)の油脂回収工程において回収した油脂である、[7]の方法;
[9] 工程(C)で得られた醸造終了物に対して少なくとも0~10質量%の油脂を添加する、[7]又は[8]の方法;又は
[10] 肉醤に対して0.01~0.5質量%となるように抗酸化剤が混合された油脂を添加する、[7]~[9]のいずれかの方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調味料に関する。
【背景技術】
【0002】
日本の代表的な発酵調味料には、大豆や麦などの穀類を主な原料として発酵させた醤油や魚介類やその内臓を塩漬けして発酵させた魚醤が知られている。それに対して食肉を原料として発酵させた「肉醤」については、仏教の伝来とともに肉食が敬遠されるようになり、それ以来ほとんど製造されなくなった。現在では、一部の醤油メーカーが特徴的な肉由来のうま味を有するものとして販売しているのに留まっている(非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】三上正幸他、「豚肉発酵調味料"肉醤"の性質」、日本食品科学工学会誌 第54巻、第4号、2007年4月、p.152-159
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
肉醤は肉由来のうま味や肉の発酵感を有する一方、肉醤の原料である肉の強いレバー様の獣臭を有するため、調味料の原料には用いられてこなかった。
そこで本発明の目的は、肉由来のうま味と発酵感を有しつつ、独特なレバー様の臭いが抑えられた、肉醤含有調味料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、前記課題を解決するための方法について鋭意検討を行った。
その結果、肉醤を含有する調味料において、味噌を含有させ、さらに、食酢、食用油脂、醤油の1種、2種又は3種を含有させることにより、由来のうま味と発酵感を有しつつ、独特なレバー様の臭いが抑えられた調味料が得られることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1) 肉醤及び味噌を含有し、肉醤と味噌の質量比が1:0.2~1:15である肉醤含有調味料。
(2) 更に食酢を含有し、肉醤と食酢の質量比が、食酢を酢酸換算酸度5.0%に換算した場合、1:0.05~1:6である(1)の肉醤含有調味料。
(3) 食酢がリンゴ酢である、(1)又は(2)の肉醤含有調味料。
(4) 更に食用油脂を含有し、肉醤と食用油脂の質量比が1:0.02~1:15である(1)~(3)のいずれかの肉醤含有調味料。
(5) 食用油脂が、ごま油、及び香味食用油から選ばれる少なくとも1種である(4)の肉醤含有調味料。
(6) 肉醤が肉醤含有調味料に対して0.5~8質量%含まれる(1)~(5)のいずれかの肉醤含有調味料。
(7) 更に醤油を含有し、醤油が生醤油(なましょうゆ)又は生揚げ醤油(きあげしょうゆ)である(1)~(6)のいずれかの肉醤含有調味料。
(8) 醤油が肉醤含有調味料に対して5~30質量%含まれる(1)~(7)のいずれかの肉醤含有調味料。
(9) 肉醤が以下の[1]~[10]のいずれかの方法で製造される、(1)~(8)のいずれかの肉醤含有調味料:
[1] 以下の工程を含む、食肉を原材料とし、麹を用いて肉醤を製造する方法:
(A) 細断された食肉を加熱する工程、
(B) 加熱した食肉を冷却する工程、
(C) 麹を添加し、醸造する工程、
(D) 醸造中に食肉から放出された油脂を除去する油脂除去工程;
[2] 工程(A)の加熱工程が、50~99℃まで加熱達温後、0~60分保持する、[1]の方法;
[3] 工程(C)において、プロテアーゼ力価が500U/ml以上の麹を、肉醤100g当たり、5~30gとなるように添加する、[1]又は[2]の方法;
[4] 醸造が、30~60℃で7~42日間行われる、[1]~[3]のいずれかの方法;
[5] 工程(A)において、(A-1)加熱により食肉から放出された油脂を回収する工程を含む、[1]~[4]のいずれかの方法;
[6](A-1)の油脂回収工程において、細断された食肉に対して少なくとも2質量%の油脂を回収し、(D)の油脂除去工程において、工程(C)で得られた醸造終了物に対して少なくとも1質量%の油脂を除去する、[1]~[5]のいずれかの方法;
[7] 工程(D)の後、(E)油脂を添加する工程を含む、[1]~[6]のいずれかの方法;
[8] 添加する油脂が工程(A-1)の油脂回収工程において回収した油脂である、[7]の方法;
[9] 工程(C)で得られた醸造終了物に対して少なくとも0~10質量%の油脂を添加する、[7]又は[8]の方法;又は
[10] 肉醤に対して0.01~0.5質量%となるように抗酸化剤が混合された油脂を添加する、[7]~[9]のいずれかの方法。
【発明の効果】
【0007】
肉由来のうま味と発酵感を有しつつ、独特なレバー様の臭いが抑えられた調味料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、肉醤含有調味料である。本発明において、肉醤を肉発酵物または肉発酵食品ともいう。
肉醤は、原材料として肉を用い、肉を麹と混合し、発酵させ醸造して製造した発酵物をいう。
本明細書において「%」は、「質量%」を意味する。特に言及していない限り、「%」は肉発酵食品中の含有量を指す。
【0009】
1.麹の調製
本発明で使用する麹は、米、大豆、脱脂大豆、小麦等の穀類を原料として、常法により製麹して得られる麹でも良く、液体培地で麹菌を培養した液体麹でも良い。液体麹とは、種々の発酵食品等に用いられる麹であり、栄養源となる原料を水に添加し、液体培地を調製し、該調製液に麹菌を接種して培養して得られる麹をいう。
【0010】
液体麹の場合、麹菌を培養する培地をオートクレーブ滅菌器等の培地殺菌器によって完全に滅菌することが可能であるため、醸造過程で雑菌が増殖するリスクを低減することができ、結果として腐敗臭の発生による畜肉油脂の香りの低下を防止する点から好ましい。
【0011】
用いる麹に含まれるプロテアーゼ活性は、500U/ml以上であることが好ましい。500U/ml以上のプロテアーゼ活性であれば醸造期間が短期間であっても十分なうま味の肉発酵食品とすることができる。また、醸造期間を短期間とすることができるため、醸造工程過程で残っている油脂の酸化に伴う酸化臭の発生を抑えることができる。
具体的には以下の方法で液体麹の調製を行う。
【0012】
(1)麹菌について
用いる麹菌として、アスペルギルス属に属する麹菌が挙げられる。アスペルギルス属に属する麹菌は、日本酒、味噌、食酢、漬物、醤油、焼酎、泡盛、鰹節などの発酵食品や発酵調味料を製造するときに用いるアスペルギルス属に属する菌株で、黄麹菌、白麹菌、黒麹菌、カツオブシ菌が挙げられ、黄麹菌として、アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)、白麹菌としてアスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、黒麹菌としてアスペルギルス・ルーチェンシス(Aspergillus luchuensis(旧名:Aspergillus awamori))、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、カツオブシ菌としてアスペルギルス・グラウカス(Aspergillus glaucus)等が挙げられる。これらの野生型株を用いても変異型株を用いてもよい。
これらの麹菌の1種類の菌株を接種してもよいし、2種類、3種類、4種類又は5種類以上の複数種類の菌株を接種して混合培養してもよい。
【0013】
(2)液体培地
本発明において液体麹を用いる場合、以下の[1]~[6]の麹菌プロテアーゼ産生用液体培地を用いて培養された液体麹である。
[1] 少なくとも脱脂大豆並びに畜産副産物若しくはその加工品を含む麹菌プロテアーゼ産生用液体培地。
[2] 畜産副産物又はその加工品が臓器乾燥粉砕物又はゼラチンである[1]の麹菌プロテアーゼ産生用液体培地。
[3] 畜産副産物又はその加工品に加えて畜肉抽出物を含み、畜産副産物又はその加工品と畜肉抽出物(乾燥換算含有量)の質量比が1:19~19:1である[1]又は[2]の麹菌プロテアーゼ産生用液体培地。
[4] 畜産副産物又はその加工品と畜肉抽出物(乾燥換算含有量)の合計含有量が液体培地全体に対して、1.6~2.5質量%である[3]の麹菌プロテアーゼ産生用液体培地。[5] 畜産副産物又はその加工品の含有量が培地全体に対して0.1~2.0質量%である[1]~[4]のいずれかの麹菌プロテアーゼ産生用液体培地。
[6] 液体培地に対する油脂量が0.1質量%以下である[1]~[5]のいずれかの麹菌プロテアーゼ産生用液体培地。
【0014】
脱脂大豆とは、大豆から大豆油を抽出した残りをいい、大豆かすとも呼ばれる。市販品として、例えば株式会社日清商会の「ZFS Soya」を用いることができる。
【0015】
畜産副産物とは、家畜の生体から枝肉を採取した残り、及び枝肉から除かれた骨をいい、内臓、皮膚及び原皮を含む。ここで家畜とは、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、シカ、イノシシ、ウサギ、ロバ、ラバ、スイギュウ、ヤク、ラマ、アルパカ、トナカイ、イヌ等をいう。家畜は、一般的には人間が利用するために繁殖させ、飼育する動物をいうが、本発明においては、狩猟で得た天然の野生獣(ジビエ)も含む。畜産副産物の加工品は、これらの畜産副産物をさらに抽出、加熱、酵素処理、粉砕等により加工したものをいう。畜産副産物の加工品は、粉末品であっても液状品であってもよい。
【0016】
畜産副産物又はその加工品として、ゼラチン及びゼラチンを含む畜産副産物が挙げられる。ゼラチンとは、動物の皮膚、骨、腱、内臓等に含まれるコラーゲンに熱を加え抽出したものをいい、アミノ酸の直鎖状ポリマー構造を有している。
【0017】
ゼラチンとして、ウシ又はブタの皮又は骨由来のものが挙げられる。そのようなゼラチンとして酸処理した等電点が6~9のゼラチン、アルカリ処理した等電点が約5のものが挙げられる。粉末状ゼラチンも顆粒状ゼラチンも用いることができる。市販のゼラチンにはゼリー強度が異なる製品があり、どのようなゼリー強度のものも用いることができる。例えば、新田ゼラチン株式会社の「ゼラチンR」、「APH-250」、「APH-200」、「APH-150」、「APH-100」、「PSV(ブタ皮を酸処理したもの)」、「GBL-250」、「GBL-200」、「GBL-150」、「GBL-100」、「PGD(ブタ骨を酸処理したもの)」、「#300」、「#250」、「#200」、「#150」、「#100」、「ゼラチン21」、「RR」、「ニューシルバー(ウシ骨をアルカリ処理したもの)」等を用いることができる。
【0018】
ゼラチンを含む畜産副産物として、ともずね、アキレス、ショウチョウ、ダイチョウ、チョクチョウ、テール、コブクロ、モウチョウ、レバー、ハツ、ウシのミノ(第1胃)、ハチノス(第2胃)、センマイ(第3胃)、ギアラ(第4胃)、ブタのガツ(胃)、ハラアブラ等の臓器肉が挙げられる。これらの臓器肉を用いる場合、脱脂し、乾燥して用いることが望ましい。これらの臓器肉の乾燥粉末品を臓器乾燥粉砕物と呼ぶ。
【0019】
ゼラチンは、魚由来のものを用いてもよく、この場合は、畜産副産物又はその加工品の代わりに魚由来のゼラチンを用いればよい。魚由来のゼラチンとして、例えば、ニチエー株式会社の「フィッシュコラーゲン」、エンテック有限会社の「マリンゼラチン」、新田ゼラチン株式会社の「FGL-250TS」、「FGL-200SP」等を用いることができる。
【0020】
ゼラチンは、プロテアーゼ産生量の向上と安定の点より、動物由来のものを用いることが好ましい。更に好ましくは牛及び豚由来のゼラチンを用いることが好ましく、牛由来のゼラチンを用いることが特に好ましい。
【0021】
畜肉抽出物は、肉エキスともいう。肉エキスは、獣肉または魚介肉より水溶性の成分として抽出されるものをいい、肉を熱水で抽出した抽出液を濃縮したもの、又は肉を酵素及び/若しくは酸で分解した液汁を濃縮したものをいう。肉エキスには、ペプチド化された中~低分子のタンパク質が多く含まれる。
【0022】
肉エキスは、獣肉または魚介肉由来のペプチドが含まれていればいかなる肉エキスを用いることもできる。例えば、重量平均分子量が500~5000(Mw)、好ましくは600~4000(Mw)、さらに好ましくは840~3600(Mw)のものを用いることができる。市販品として、関東化学株式会社の「LAB LEMCO POWDER」、DSP五協フード&ケミカル株式会社の「ビーフエキス4543M」、日研フード株式会社の「ビーフエキスSE」、株式会社司食品工業の「チキンエキスBS」、日本ピュアフード株式会社の「ポークエキスTH-K」等がある。
【0023】
好ましくは、高分子タンパク質であるゼラチンを含む畜産副産物又はその加工品と肉エキスを混合して含む。また、畜産副産物又はその加工品は2種類、3種類、4種類又は5種類等、複数種類含まれていてもよい。
【0024】
(3)培養方法(条件)
(2)の液体培地を滅菌処理した後に麹菌をスターターとして接種し、培養を行う。滅菌処理は、オートクレーブ滅菌(121℃、15分以上)、又はこれに相当する滅菌効果の処理条件であれば特段限定されない。
【0025】
培養温度は、25~45℃、好ましくは25~40℃、さらに好ましくは25~37℃である。培養時間は、24~72時間、好ましくは36~60時間、さらに好ましくは42~54時間である。液体培地のpHは4.0~7.0、好ましくは5.0~6.0である。 上記の条件で培養することにより、プロテーゼが高生産され、プロテアーゼ含有量が高くなり、プロテアーゼ活性が向上した液体麹を得ることができる。
【0026】
プロテアーゼは、複数のプロテアーゼが含まれ、その中には中性pH域が至適pHであるもの、弱アルカリ性pH域が至適pHであるもの、弱酸性pH域が至適pHであるものが含まれる。
【0027】
本発明の液体培地を用いた培養方法において、プロテアーゼ産生は、pH7で力価測定して評価することができる。すなわち、pH7における力価測定は複数種のプロテアーゼの産生量を反映している。
プロテアーゼの力価測定は、例えば以下の方法で行うことができる。
【0028】
0.5mlの培養後の溶液に対し、66.7mMリン酸バッファを10 ml加え、スターラーにて10分攪拌する。ろ紙(アドバンテックNo.131ろ紙)でろ過し、ろ液とする。基質溶液5mlを試験管に入れ、恒温水槽(ヤマト科学社製)にて37℃、5分間をプレインキュベーションする。その後、ろ液1mlを加え(検体数が複数ある場合、等間隔で加え、各検体のインキュベーション時間を一定にする)、37℃、10分間インキュベーションする。10分後、沈殿試薬を5ml加え(複数検体の場合は同様に等間隔)、酵素反応を停止させる。さらに37℃、30分間インキュベーションした後、ろ紙でろ過して反応液を得る。一方バックグラウンドが各検体に必要となるため、ろ液1mlに沈殿試薬を先に加えて攪拌した後、さらに基質溶液を加えて37℃、30分間インキュベートして凝固させ、同様にろ過したものを各検体のバックグラウンドの反応液とする。
【0029】
反応後のろ液2 mlを正確に新しい試験管に分注した後、炭酸Na試液5 mlを加えて攪拌する。3倍に薄めたフォーリン試液1 mlを加えて攪拌し、恒温水槽にて37℃、30分間インキュベートする。発色した溶液は分光光度計(島津製作所社製)にて吸光度660nmで測定する。
【0030】
pH7-プロテアーゼ力価の算出方法は、(Abs・S-Abs・BG)×Σ×N/n×M/m(U/ml)となる(Abs・S:サンプルの吸光度、Abs・BG:バックグラウンドの吸光度、N:反応時の全液量11、n:反応時の液から分注した量2、M:希釈時のリン酸バッファ量10、m:希釈時の培養後の溶液量0.5)。
【0031】
なお係数Σはチロシン標準液を用い、以下のように作成し導き出した。すなわち各チロシン標準溶液1 mlに炭酸ナトリウム溶液5 mlとフェノール試液1 mlを加えて、37℃30分間発色を行い、チロシンを含まない溶液を対象として光路長10 mmの吸光度セルで660 nmにおける吸光度を測定して検量線を作成する。pH7-プロテアーゼ活性は、37℃1分間で1μgのチロシン相当量の呈色を示す活性を1単位とする。
【0032】
2.肉醤の製造
肉醤は、原材料として肉を用い、肉を麹と混合し、発酵させ醸造して製造した発酵物をいう。
本発明においては、肉醤を肉発酵食品ともいう。
本発明で用いる肉醤は、肉を麹と混合し、発酵させ醸造して製造した発酵物ならば、いかなるものも含まれるが、好ましくは以下の方法で製造する。
【0033】
本発明の肉醤は、材料を前処理により細断し、加熱することにより製造する。加熱後に肉から出た油脂を回収してもよい。冷却後、麹を混合し、醸造タンクに入れ醸造する。醸造開始後肉から出た油脂を除去する。醸造終了後、油脂を添加してもよい。また、醸造終了後に加熱処理をすることが好ましい。
【0034】
以下、肉醤の製造方法について詳述する。
(1)材料
原材料として、用いる肉は一般的に食肉に用いるものであれば制限はない。牛、豚、鶏、羊、山羊、馬等いずれの肉を用いても良い。肉醤は、用いる肉の種類に応じて、牛肉醤、豚肉醤、鶏肉醤等と呼ぶ。
【0035】
原材料として用いる肉の使用量は、醸造させて得られる肉醤の総量に対して20~85%、好ましくは40~80%、さらに好ましくは60~80%である。肉の使用量を20%以上とすることで十分なうま味を得ることができる。一方、85%以下とすることで肉に対して麹を全体に行き渡らせることができ、効率よく発酵させることができる。
【0036】
原材料として用いる肉の部位の内訳は、原材料として仕込む肉総量に対して内臓肉が0~80%、好ましくは0~60%、さらに好ましくは10~50%である。内臓肉を使用することで、様々な部位の肉のうま味を肉醤に付与することができる。一方、80%以下とすることで内臓の臭みを抑え、油脂の香りを好ましいものとすることができる。
【0037】
副原料として、粉乳及び/又は穀粉を用いることが好ましい。粉乳としては脱脂粉乳、全粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダーが用いられ、好ましくは脱脂粉乳が用いられる。また、乳製品と乳糖の混合物も用いることができる。乳製品と乳糖の混合物としてクリープ(商品名、森永乳業製)が挙げられる。殻粉としては小麦粉、米粉、大麦粉、ライ麦粉、トウモロコシ粉、大豆粉、きな粉、エンドウマメ粉、蕎麦粉、片栗粉、葛粉、タピオカ粉が用いられ、好ましくは小麦粉が用いられる。これら粉乳及び/又は穀粉には、影響を与えない範囲で他の粉末組成物が含まれてもよい。副原料を用いる場合、その使用量は、粉乳と殻粉を合わせて、醸造させて得られる肉醤の総量に対して、1~60%、好ましくは5~40%、さらに好ましくは10~20%である。1%以上用いることで、正肉や内臓肉由来の過度な獣臭や油脂の酸化臭を抑えることができる。一方、60%以下用いることで、肉と合わせて加熱する際の焦げ付きが抑えられ、肉醤の焦げ臭を抑えることができ、うま味の優れた肉醤とすることができる。
【0038】
(2)肉の前処理
原材料の肉をミートチョッパーやボーンチョッパー等の機器を用いて細断処理し、大きさを20 mm以下、好ましくは15 mm以下、さらに好ましくは10 mm以下に加工して用いることが好ましい。ここで、大きさとは、細断した肉の最も長い部分の長さをいう。また、既に上記の大きさまで細断処理された肉を用いてもよい。肉の大きさを、20 mm以下とすることで麹のプロテアーゼの分解効率が上がり、発酵に要する期間を短期間とすることができ、醸造工程過程で残っている油脂の酸化が抑えられ、肉醤の酸化臭を抑えることができる。
【0039】
(3)肉の加熱処理
上記の前処理を行った肉前処理物を醸造する前に加熱する。加熱することで醸造過程において雑菌の増殖を抑制することができる。
加熱温度は50~99℃であり、好ましくは70~90℃、より好ましくは75~85℃、さらに好ましくは80~85℃である。この際、撹拌しながら、加熱することが好ましい。50℃以上で加熱することにより醸造過程での肉の分解効率の向上と雑菌増殖の抑制ができる。また、99℃以下で加熱することにより香ばしい風味を付与することができる。また、90℃以下で加熱することにより肉の焦げ付きが抑えられ、肉醤の焦げ臭を抑えることができる。肉の加熱工程は、肉の殺菌工程でもある。
加熱は上記温度に達温するまで短時間で上げることにより行うことが好ましい。
【0040】
加熱達温後は、0~60分、好ましくは10~40分、さらに好ましくは10~20分で保持する。加熱達温後0分保持するとは、目標とする加熱温度に達温すればよいことを指し、達温後直ちに次の工程に移ればよい。
【0041】
加熱に用いる設備は肉の温度を所定の範囲まで加熱できる設備であればどのような設備でも良い。加熱しながら撹拌できる加熱設備である方が焦げ付き防止の点から好ましい。例えば、撹拌機能が付いた横軸又は縦軸ニーダーを用いて行うことができる。ニーダーは、好ましくは二重ジャケットによる調温機能がついたものを用いる。また、加熱と混合を行う設備が異なる場合、加熱工程後、混合設備に移して混合しても良く、その逆の工程でも良い。
【0042】
(4)油脂の回収処理
(3)の加熱処理により肉から油脂が放出され、浮いてくる。これらの油脂を、加熱後から醸造開始前の間に回収する。油脂の回収は冷却前(肉加熱後)であっても、冷却後(醸造前)であってもよい。この際、加熱処理を行った醸造前の肉前処理物に対して少なくとも2%、好ましくは少なくとも6%、さらに好ましくは少なくとも10%除去することで油脂の酸化臭の発生を抑制することができる。ここで除去%は、肉醤の製造に肉100kgを用いて回収した油の計量結果が5kgであった場合に、5%とする。
油脂は、加熱処理後浮き上がっている油脂をそのまま柄杓等を用いて回収しても良く、遠心分離処理によって油脂を分離後回収しても良い。
【0043】
油脂の回収は、加熱後から醸造開始の前であれば、どの操作の時点で回収してもよい。好ましくは、冷却後に液体麹を添加した後、30分から1時間静置し、回収することが望ましい。冷却後に液体麹を加えることによって流動性が増し、静置することによって放出された油脂の分離が進み、容易に回収することができる。また、静置における温度変化を抑えることができ、その後の醸造工程に速やかに移行することができる。
【0044】
回収した油脂は、最終的に発酵物に添加することもあるので、冷蔵又は冷凍保管しておくことが好ましい。油脂の品質が変化しないように冷凍保管しておくことがさらに好ましい。
【0045】
(5)冷却
加熱終了後は、冷却を行うことが好ましい。冷却することによって、肉加熱処理物(副原料も含む)が過度に高温状態に維持されることなく、焦げ付きを防ぐことができる。また、その後、麹を混合するにあたって、プロテアーゼの失活の懸念がなくなり、即座に醸造工程に移ることができる。前記の二重ジャケットを備えたニーダーを用いる場合、ジャケットに蒸気を入れて加熱し、その後ジャケットに水を入れて冷却することができる。
【0046】
(6)醸造
次いで、加熱し冷却した肉処理物(醸造前処理物)を醸造タンクに1の方法で製造した麹とともに醸造タンクに移す。そして、醸造タンクをドラムヒーターのような熱媒体で覆う、もしくは恒温室に設置することで醸造を開始する。
麹は、品温が60℃以下になってから添加する。
【0047】
麹は、プロテアーゼ力価が500U/ml以上のものを、肉醤100g当たり5~30g、好ましくは7.5~25g、さらに好ましくは10~20g添加する。
【0048】
醸造に液体麹を用いることにより、高い温度で短時間で醸造を行うことができる。液体麹を用いる利点として、(i)微生物的汚染のリスクが低いということと、(ii)液状ということが挙げられる。(i)により高い温度でも微生物制御が容易になる。また、(ii)により攪拌しやすく酵素の利用効率が上がるため、速醸に向いている。
また、肉醤の製造に液体麹を用いることで、肉中の油脂が浮きやすくなるので、油脂を除去する工程において、容易に油脂を除去することができる。
【0049】
・水分調整
醸造前処理物は、前記加熱工程で蒸発した水分量を加水し調製することが望ましい。蒸発した水分量は、醸造タンクに移す際に計量する。もしくはロードセル(重量計)付きの加熱設備を用いる場合、加熱終了時の重量と加熱開始時の重量から計算することができる。塩分濃度を調整することで、プロテアーゼ活性の至適塩分濃度を維持することができる。
【0050】
・醸造温度
醸造前処理物を60℃以下まで冷却後、麹を混合した後醸造タンクに移して醸造を開始する。醸造温度は30~60℃、好ましくは35~55℃、さらに好ましくは40~50℃である。30℃以上で醸造することで醸造過程において雑菌の増殖による腐敗臭の発生が抑制され、油脂の香りを優れたものにすることができる。一方、60℃以下で醸造することでプロテアーゼ活性が維持され、安定した発酵工程を維持することができる。また、醸造前処理物に残存する油脂の酸化が抑えられ、肉醤の油脂の酸化臭の発生を抑えることができる。
【0051】
・醸造温度の管理方法
醸造温度は醸造タンク内の温度を安定させることができればいかなる方法を用いても良い。上記のような高い醸造温度で醸造するにあたって、好適にはドラムヒーターのような熱媒体で醸造タンクを覆うことで、より温度安定的に醸造することができる。また、恒温室に醸造タンクを設置しても良い。
【0052】
・醸造期間
醸造前処理物と麹を混合して醸造タンクに移し、醸造タンクをドラムヒーターのような熱媒体で覆う、もしくは恒温室に設置することで醸造を開始した時点より、7~42日、好ましくは14~35日、さらに好ましくは21~28日醸造させればよい。7日以上醸造することで麹による肉の分解が進み、充分なうま味の肉醤とすることができる。一方、42日以下で醸造することで、雑菌の増殖、過度な褐変臭の発生、醸造前処理物に残存する油脂の酸化を抑えることができる。
14~21日程度でプロテアーゼによる分解反応は低下する。そこから更に7~14日醸造を続けることで肉醤に醸造香を付与することができる。
【0053】
・醸造期間中の撹拌操作
醸造期間中は醸造タンク内を撹拌することが好ましい。撹拌操作を行うにあたり、櫂棒もしくは柄杓を用いてもよく、醸造タンク自体が撹拌設備を有する場合、そちらを用いてもよい。撹拌操作は、(7)の油脂の除去処理以降に行い、油脂の除去処理以降醸造開始7日目までは1日毎に撹拌操作を行うことが好ましい。醸造開始7日目以降は7日毎に撹拌操作を行うことが好ましい。撹拌操作によって、醸造タンク内の塩分やプロテアーゼが均質になり、プロテアーゼ反応を効率よく進めることができる。
【0054】
(7)醸造工程における油脂の除去処理
醸造開始後、(4)油脂の回収処理では分離しきれなかった油脂が液面に浮かんでくる。これは、加熱のみでは放出されなかった油脂が醸造前処物の内部に含まれており、麹による肉の分解が進むことで肉内部の油脂が放出され、液面に浮かんでくるものと推察される。これら醸造工程で浮いた油脂を除去することは重要であり、醸造前処理物対して少なくとも1%、好ましくは少なくとも2%、さらに好ましくは少なくとも3%除去することで油脂の酸化臭の発生を抑制することができる。また、醸造開始後、1~7日で油脂を除去する。好ましくは1~3日で油脂を除去することが好ましい。
【0055】
(8)油脂添加工程
醸造終了時に、醸造終了物に対して油脂を添加して製造した肉醤だけでなく、油脂を添加しないで製造した肉醤も用いることができる。油脂を添加する場合は、醸造終了物に対して0~10%、好ましくは1.5~7.5%、さらに好ましくは3~5%である。油脂を添加することで油脂の香りが優れた肉醤にすることができる。10%以下添加することで、油脂によるうま味のマスキングを抑制し、口当たりの優れた肉醤とすることができる。
【0056】
添加する油脂は、前記(4)油脂の回収処理により除いた油脂を醸造期間中冷凍保管しておき、その油脂を添加しても良い。回収処理により除いた油脂を冷凍保管しておき添加する場合、(4)油脂の回収処理により除いた油脂を用いることが油脂の酸化臭を抑える観点から好ましい。また、所望の香りを有する他の油脂を添加しても良い。
【0057】
添加する油脂の種類はいずれの油脂でもよい。例として、植物油脂は、大豆油、菜種油、米油、キャノーラ油、コーン油、ひまわり油、紅花油、パーム油、ココナッツ油、コーン油、クルミ油及びそれらのサラダ油やこれら植物油脂に香味原料を用いて香りを付与した香味食用油等が挙げられる。また、動物油脂としては、牛脂、豚脂、鶏油、バター等が挙げられる。好ましくは、香味食用油や動物油脂を用いることで肉醤に好ましい油脂の香りを付与することができる。
【0058】
油脂添加工程において、抗酸化剤を合わせて添加することが好ましい。抗酸化剤を用いることで、油脂添加工程以降の油脂の酸化も防止することができ、酸化臭の抑えられた肉醤とすることができる。用いる抗酸化剤としては、ビタミンE、ビタミンC、若しくはこれらを併用して用いることができる。また、抗酸化剤を用いる量は、肉醤に対して0.01~0.5%、好ましくは0.02~0.3%となるように用いることがよい。
油脂添加工程は次項の加熱工程をとる場合、加熱工程過程で添加してもよい。
上記の油脂を添加したものを、肉醤と呼ぶ。また、油脂を添加しない場合も、醸造終了物は肉醤と呼ぶ。
【0059】
(9)加熱工程
醸造した食肉である醸造終了物は加熱処理を行うことが好ましい。加熱処理を行うことで残存している麹のプロテアーゼを失活させ、以降の品質変化を防ぎ、安定した品質となる。また、加熱した状態で次項の充填工程に移り、充填することで商業的無菌を達成しやすくなる。更には、醸造過程で発生した低分子のペプチドがメイラード反応を起こし、優れた香りとなるため好ましい。
加熱は、醸造終了物の温度が70~90℃、好ましくは75~85℃、さらに好ましくは80~85℃になるように行うことが好ましい。
また、加熱工程を行わない場合、必要によりフィルター等で微生物を除くこともできる。
【0060】
(10)充填工程
充填工程は、製造した肉醤を容器に充填する工程をいう。
充填に用いる設備はいかなるものを用いてもよい。醸造タンク、もしくは加熱設備より充填設備に送液する際は、磨砕機能付きのポンプを用いることが好ましい。それにより、残存する肉の粒を細かくし、均一な品質にすることができる。
加熱した状態で充填し、温度が低下する前に密封することで商業的無菌状態とすることができる。
また、充填後、レトルト殺菌機による加圧加熱殺菌を行ってもよい。
用いる容器は、いかなる容器でもよく、例として、パウチ、ペットボトル、バックインボックス、一斗缶等が挙げられる。
【0061】
上記の肉醤の製造方法は、以下のようにまとめることができる。
[1] 以下の工程を含む、食肉を原材料とし、麹を用いて肉醤を製造する方法:
(A) 細断された食肉を加熱する工程、
(B) 加熱した食肉を冷却する工程、
(C) 麹を添加し、醸造する工程、
(D) 醸造中に食肉から放出された油脂を除去する油脂除去工程。
[2] 工程(A)の加熱工程が、50~99℃まで加熱達温後、0~60分保持する、[1]の方法。
[3] 工程(C)において、プロテアーゼ力価が500U/ml以上の麹を、肉醤100g当たり、5~30gとなるように添加する、[1]又は[2]の方法。
[4] 醸造が、30~60℃で7~42日間行われる、[1]~[3]のいずれかの方法。
[5] 工程(A)において、(A-1)加熱により食肉から放出された油脂を回収する工程を含む、[1]~[4]のいずれかの方法。
[6](A-1)の油脂回収工程において、細断された食肉に対して少なくとも2質量%の油脂を回収し、(D)の油脂除去工程において、工程(C)で得られた醸造終了物に対して少なくとも1質量%の油脂を除去する、[1]~[5]のいずれかの方法。
[7] 工程(D)の後、(E)油脂を添加する工程を含む、[1]~[6]のいずれかの方法。
[8] 添加する油脂が工程(A-1)の油脂回収工程において回収した油脂である、[7]の方法。
[9] 工程(C)で得られた醸造終了物に対して少なくとも0~10質量%の油脂を添加する、[7]又は[8]の方法。
[10] 肉醤に対して0.01~0.5質量%となるように抗酸化剤が混合された油脂を添加する、[7]~[9]のいずれかの方法。
【0062】
3.肉醤含有調味料の製造
本発明の肉醤含有調味料は、上記2.に記載の肉醤と味噌を含有する。本発明の肉醤含有調味料は、さらに、食酢、食用油脂、醤油の1種、2種又は3種を含有していてもよい。
本発明の肉醤含有調味料は、これらの成分を混合して製造することができる。
【0063】
本発明において、味噌は、大豆、麦、米などの穀物に塩や麹を添加して発酵させて製造した発酵物をいう。味噌は、大豆及び米麹の発酵物である米味噌、大豆及び大豆麹の発酵物である豆味噌、大豆及び麦麹(大麦)の発酵物である麦味噌を含む。さらに、味噌は調合味噌を含み、調合味噌とは、米味噌、豆味噌又は麦味噌を混合したものや米麹に麦麹若しくは豆麹を混合したものなどの、米味噌、麦味噌及び豆味噌以外の味噌をいう。本発明で用いる味噌は、発酵途中の製造中のものでもよい。このような製造中の味噌として、天地返しをした熟成中のものが含まれ、さらに、味噌の原料の仕込み混合物であって熟成前のものが含まれる。なお、天地返しとは、味噌の上部と下部を入れ替えて空気に触れさせる作業をいう。これらの中でも熟成後のもの、または熟成途中のものが好ましい。本発明においては、発酵途中で製造中の味噌も味噌という。味噌の色は限定されず、白味噌、赤味噌、淡色味噌いずれも用いることができる。
【0064】
肉醤含有調味料に味噌を含有させることで肉醤の発酵感が増強され、さらに、味噌の風味によりレバー様の香りをマスキングすることできる。ただし、味噌が多過ぎると味噌の風味が強くなり、肉醤の発酵感が弱くなってくる。
本発明の肉醤含有調味料において、肉醤と味噌の質量比は、1:0.2~1:15、好ましくは2:1~1:12、さらに好ましくは1:3~1:9である。
【0065】
本発明において、食酢は原料を酢酸発酵させ製造した、酢酸を主成分とする酸味調味料をいう。本発明においては、農林水産省が定めた「食酢品質表示基準」で定められたものを食酢として用いることができる。すなわち、食酢として、米、大麦、小麦、酒かす、コーンなど1種又は2種以上の穀類を試料した穀物酢、1種類又は2種類以上の果実を使用した、リンゴ酢やブドウ酢などの果実酢が含まれる。穀物酢には、米酢、米黒酢、大麦黒酢等が含まれる。穀物酢や果実酢を醸造酢という。食酢は、氷酢酸又は酢酸の希釈液に砂糖類、調味料、食塩等を加えたもの、又はこれらに醸造酢を加えたものである合成酢も含む。
【0066】
肉醤含有調味料に食酢を含有させることで肉醤の発酵感が増強され、さらに、レバー様の香りをマスキングすることできる。ただし、食酢が多過ぎると肉のうま味や肉醤の発酵感が抑えられてしまう。
【0067】
本発明の肉醤含有調味料において、肉醤と食酢の質量比は、食酢を酢酸換算酸度5.0%に換算した場合、1:0.05~1:6、好ましくは1:0.1~1:5、さらに好ましくは1:0.5~1:4、さらに好ましくは1:0.5~1:1である。例えば、食酢として酸度10%のリンゴ酢を10g用いた場合、酢酸換算酸度5.0%に換算した場合の質量は、20gになる。
【0068】
本発明の肉醤含有調味料において、食用油脂は、食用にできる油(常温で液状)及び脂(常温で固体状)のすべてを含む。食用油脂として、ごま油、菜種油、綿実油、オリーブ油、ひまわり油、コーン油、落花生油、ベニバナ油、米糠油、こめ油、パーム油、パームオレイン、ぶどう油、大豆油、小麦はい芽油等の食用植物油脂、精製ラード、バター、肝油、魚油、鯨油等の動物性油脂が挙げられる。また、食用植物油脂に属する油脂に香辛料、香料又は調味料等の香味原料を加えた香味食用油も用いることができる。香味食用油を調味油やシーズニングオイルとも呼ぶ。香味食用油として、ラー油(トウガラシとごま油)、マー油、ネギオイル、ガーリックオイル、オニオンオイル、バジルオイル、炒香油、青花椒油、豆板醤オイル等が挙げられる。これらの油のうち、原料となる植物を加熱温度や加熱時間を調整することでローストしたときの香ばしい風味をもつローストオイルも好適に用いることができる。ローストオイルとして、ローストネギオイル、ローストガーリックオイル、ローストオニオンオイル等が挙げられる。この中でも、ごま油等の食用植物油脂及び香味食用油が好ましい。
【0069】
肉醤含有調味料に食用油脂を含有させることで肉醤の発酵感が増強され、さらに、レバー様の香りをマスキングすることできる。ただし、食用油脂が多過ぎると肉のうま味や肉醤の発酵感が抑えられてしまう。
【0070】
本発明の肉醤含有調味料において、肉醤と食用油脂の質量比は、1:0.02~1:15、好ましくは1:0.05~1:10、さらに好ましくは1:0.07~1:5、さらに好ましくは1:0.1~1:1である。
肉醤含有調味料全体の質量に対する肉醤の含有量は、0.5~8質量%、好ましくは2~6質量%、さらに好ましくは2~4質量%である。
【0071】
醤油は、大豆等の穀物、好ましくは大豆を原料とし、醸造により発酵させて製造する液体調味料をいう。本発明の肉醤含油調味料に含ませる醤油は、火入れあり及びろ過ありの生醤油(きじょうゆ)でも、火入れなし及びろ過ありの生醤油(なましょうゆ)でも、火入れなし及びろ過なしの生揚げ醤油(きあげしょうゆ)でもよいが、火入れ香のない生醤油(なましょうゆ)や生揚げ醤油を用いた場合、肉の風味が良好になるので、好ましい。
肉醤含有調味料全体の質量に対する醤油の含有量は、5~30質量%、好ましくは10~30質量%、さらに好ましくは20~30質量%である。
【0072】
本発明の肉醤含有調味料は、肉醤、味噌、食酢、食用油脂、醤油の他に、白糖などの糖類、食塩、胡椒等の香辛料、畜産物や農産物や水産物等から得られる抽出エキスや具材、胡麻、酵母エキス、香料、保存料、着色料、酸化防止剤等を含んでいてもよい。使用する形態は特に限定されず、液体、ペースト状、粉末及び顆粒状等のいずれであってもよい。また、30~60質量%、好ましくは40~55質量%、さらに好ましくは40~50質量%の水を含む。
【0073】
本発明の肉醤含有調味料は、肉由来のうま味を有し、肉の発酵感を有する。一方、レバー様の臭いが抑えられている。これらの特性は定量的に評価することは難しいので、複数名のパネリストを用いた官能評価により評価すればよい。例えば、上記の特性を表す特性用語(肉醤由来の肉のうま味、肉醤の発酵感、レバー様の香り)に基づいてその特性を定量化する方法で行うことができる。例えば、1~5などの数値を用いて上記特性に評点を与える採点法で行うことができる。その他、格付け法、定量的記述分析法(QDA法)等で行うことができる。
【実施例】
【0074】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0075】
実施例1 液体麹の調製
(1)菌株:アスペルギルス・オリゼー(Aspergillus oryzae)
(2)培地主成分:脱脂大豆(「ZFS Soya」、日清商会社製)、ビーフエキス(「ビーフエキス4543M」、DSP五協フード&ケミカル社製)、ゼラチン(「ゼラチンR」、新田ゼラチン社製)
(3)種
種として、固体フスマ麹を、小麦フスマに等しい重量の脱イオン水を加えてオートクレーブし、3日間培養することにより調製した。
(4)スターターの調製
固体フスマ麹を緩衝液に希釈してスターターとした。
【0076】
以下、(a)~(e)の手順で液体麹を調製した。
(a)緩衝液:370mM KH2PO4、30mM K2HPO4、0.5%NaCl、0.012%MgSO4・7H2Oの緩衝液を調製し、ジャーファーメンターのジャー内に投入した。
(b)培地主成分として、脱脂大豆1.5%、ビーフエキス1.7%、ゼラチン1.0%をそれぞれ添加し、蒸気にて121℃以上、20分間の条件で滅菌した。
(c)冷ました後にスターターを接種した。
(d)恒温振盪器で33℃、200rpmで48時間振盪培養した。
(e)培養終了後回収し、液体麹とした。
得られた液体麹のpH7-プロテアーゼ力価を測定した結果、943U/mlであった。
実施例1で調整した液体麹を以降の肉発酵食品(肉醤)の製造に用いた。
【0077】
実施例2 肉発酵食品(肉醤)の製造
以下の原料・操作により牛肉醤の製造を行った。
[原料]
・牛肉正肉100kg(9.8mm以下の大きさに挽肉処理したもの)
・牛肉内臓肉20kg(9.8mm以下の大きさに挽肉処理したもの)
・脱脂粉乳(よつば乳業製)20kg
・小麦粉(日清製粉製)20kg
・液体麹(実施例1で調製したもの)20kg
・食塩 20kg
【0078】
[操作方法]
1) 牛肉正肉及び牛肉内臓肉をニーダーに投入し、ジャケットに蒸気を流して撹拌しながら加熱した。
2) その後、脱脂粉乳・小麦粉を投入した。
3) 80℃に達温してから30分間撹拌しながら温度を維持し、肉加熱処理物を調製した。
4) ジャケットに冷水を流しながら食塩を投入し溶解後、50℃まで冷却した。液体麹を投入した後、重さを計測した。2)の過程で蒸発した水分量を加水し、200kgとして醸造用タンクに移した。
5) 醸造タンクに移して、1時間静置し、柄杓を用いて分離した脂を回収し、すべて冷凍保管した。
6) ドラムヒーターを42℃設定として醸造タンクを覆い、醸造を開始した。
7) 醸造開始から1日後、柄杓を用いて醸造タンクの液面に浮いた脂を除去した。
8) 油脂除去後、柄杓を用いて撹拌操作を行い、その後醸造開始から7日目まで1日毎に撹拌操作を行った。7日目以降は、7日毎に撹拌操作を行った。
9) 醸造開始から28日間醸造した後、脂を添加することなく、醸造タンクよりニーダーに移し、80℃に達温するまで加熱し、牛肉醤を得た。
【0079】
実施例3 肉発酵食品(肉醤)の製造
以下の原料・操作により鶏肉醤の製造を行った。
[原料]
・廃鶏中抜き半割160kg(9.8mm以下の大きさに挽肉処理したもの)
・液体麹(実施例1で調製したもの)20kg
・食塩 20kg
【0080】
[操作方法]
1) 鶏肉をニーダーに投入し、ジャケットに蒸気を流して撹拌しながら加熱した。
2) 80℃に達温してから30分間撹拌しながら温度を維持し、肉加熱処理物を調製した。
3) ジャケットに冷水を流しながら食塩を投入し溶解後、50℃まで冷却した。液体麹を投入した後、重さを計測した。2)の過程で蒸発した水分量を加水し、200kgとして醸造用タンクに移した。
4) 醸造タンクに移して、1時間静置し、柄杓を用いて分離した脂を回収し、すべて冷凍保管した。
5) ドラムヒーターを42℃設定として醸造タンクを覆い、醸造を開始した。
6) 醸造開始から1日後、柄杓を用いて醸造タンクの液面に浮いた脂を除去した。
7) 油脂除去後、柄杓を用いて撹拌操作を行い、その後醸造開始から7日目まで1日毎に撹拌操作を行った。7日目以降は、7日毎に撹拌操作を行った。
8) 醸造開始から28日間醸造した後、醸造終了物の重量に対し5%の脂を添加し(冷凍しておいたもの)混合した。
9) 醸造タンクよりニーダーに移し、80℃に達温するまで加熱し、鶏肉醤を得た。
【0081】
実施例4 調味料の製造と評価
実施例2または3で得た肉醤を用いて、表1~5に示す処方で原材料を混合し、90℃まで加熱達温させ、焼肉のたれを作製した。
表中の食酢として用いているリンゴ酢の酸度は5.0%であり、用いた食酢(リンゴ酢)の質量は、酢酸換算酸度5.0%に換算した場合の質量である。
作製した各焼肉のたれを以下の評価基準で官能評価を行った。
【0082】
評価基準
・肉醤由来の肉のうま味
5:肉醤由来の肉のうま味がしっかりと強く感じられる
4:肉醤由来の肉のうま味が強く感じられる
3:肉醤由来の肉のうま味がやや強く感じられる
2:肉醤由来の肉のうま味が感じられる
1:肉醤由来の肉のうま味が感じられない
・肉醤の発酵感
5:肉醤由来の発酵感がしっかりと強く感じられる
4:肉醤由来の発酵感が強く感じられる
3:肉醤由来の発酵感がやや強く感じられる
2:肉醤由来の発酵感が感じられる
1:肉醤由来の発酵感が感じられない
・レバー様の香り
5:レバー様の香りが全く感じられない
4:レバー様の香りがほとんど感じられない
3:レバー様の香りがわずかに感じられる
2:レバー様の香りが感じられるが、許容できる
1:レバー様の香りが感じられ、許容できない
【0083】
【0084】
比較例1では肉醤のレバー様の香りがあまり目立たない程度に含有させると肉醤の発酵感が感じられなかった。
それに対して、実施例1~4の結果から、味噌を含有させることで肉醤の発酵感が飛躍的に増強されることがわかった。また、味噌の風味もレバー様の香りをマスキングすることがわかった。また、実施例5~7の結果から、肉醤に対する味噌の含有量が更に増加するにつれて徐々に肉醤の発酵感よりも味噌の風味が強くなり、それに応じて肉醤の発酵感が徐々に感じられ辛くなることがわかった。比較例2では、味噌の風味が過度に強く肉醤の発酵感が感じられなくなり、肉のうま味よりも味噌のうま味が感じられるようになった。
【0085】
【0086】
実施例8~11の結果から、肉醤に対する食酢の含有量が増加するにつれて肉醤の発酵感が増加し、レバー様の香りがマスキングされることがわかった。また、実施例12~14の結果から、食酢の含有量が更に増加するにつれて、食酢の酸味によって肉のうま味や発酵感もマスキングされることがわかった。通常、食酢を6質量%含有する焼肉のたれの場合、過度な酸味を有するが、肉醤と食酢のバランスにより酢カド(刺激的な酸味・酸臭)もマスキングされることもわかった。
【0087】
【0088】
実施例15~20の結果から、肉醤に対する食用油脂の含有量が増加するにつれて肉醤の持つレバー様の香りがマスキングされることがわかった。食用油脂にも肉醤の発酵感を増す効果があることがわかった。また、実施例21~23の結果から、肉醤に対する食用油脂の含有量が更に増加するにつれて、肉のうま味や発酵感も徐々にぼやけてしまうことがわかった。
【0089】
【0090】
実施例24~28の結果から、肉醤の調味料に対する含有量が少ないと味噌によって発酵感が増強されても肉のうま味は弱く感じられることがわかった。また、肉醤の調味料に対する含有量が多いと食酢や食用油脂を配合してもレバー様の香りが強く感じられた。
【0091】
【0092】
実施例29~33の結果から、香味食用油や鶏肉醤であっても肉のうま味と肉醤の発酵感が感じられ、レバー様の香りが低減された調味料となることがわかった。実施例34の結果から、火入れ香のない生揚げ醤油を使用すると、実施例33と比べ、肉の風味が際立っており更に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の方法で製造した肉醤含有調味料は、良好な調味料として利用することができる。