(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】積層体の製造方法、塗装物の製造方法、接合構造体の製造方法、熱転写シート、及び積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 7/06 20190101AFI20250204BHJP
【FI】
B32B7/06
(21)【出願番号】P 2020175634
(22)【出願日】2020-10-19
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2019193740
(32)【優先日】2019-10-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】石黒 繁樹
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 明日香
(72)【発明者】
【氏名】下川 佳世
(72)【発明者】
【氏名】巻幡 陽介
(72)【発明者】
【氏名】大幡 涼平
(72)【発明者】
【氏名】岡田 研一
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-194702(JP,A)
【文献】特開2011-173298(JP,A)
【文献】特開2008-088410(JP,A)
【文献】国際公開第2007/123095(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/179463(WO,A1)
【文献】特開2007-136699(JP,A)
【文献】特開2010-070581(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型シートと熱転写層とを備える熱転写シートの熱転写層側を樹脂部材の表面の少なくとも一部に加熱貼着により積層する積層工程を含む、積層体の製造方法であって、
前記離型シートは、前記積層工程の成形温度Tβ℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、降伏点を有さず、かつ、破断点伸びが100~600%であ
り、
前記離型シートは、未延伸ポリアミド6、未延伸ポリアミド66、二軸延伸ポリアミド6、二軸延伸ポリアミド66、二軸延伸ポリプロピレン、キャスト成形ポリテトラフルオロエチレン、未延伸押出成形テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、未延伸押出成形テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、未延伸押出成形テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共同合体(FEP)、及びこれらを主層とした積層品から選ばれる少なくとも1種である、積層体の製造方法。
【請求項2】
前記離型シートは、前記積層工程の成形温度Tβ℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、降伏点を有さず、かつ、破断点伸びが150~600%である、請求項1に記載の積層体の製造方法。
【請求項3】
前記離型シートは、前記成形温度Tβ℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、弾性変形領域と塑性変形領域の変曲点から50%伸長後の塑性変形領域の傾きが0~50である請求項1又は2に記載の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記熱転写層は、平均厚みが0.1μm~50μmである請求項1~3のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記積層工程において、前記加熱貼着を加熱プレスにより行う、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層体の製造方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体の製造方法により得られた積層体から前記離型シートを剥離し、露出した前記熱転写層の上に塗膜を形成する塗膜形成工程を含む、塗装物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の積層体の製造方法により得られた積層体から前記離型シートを剥離し、露出した前記熱転写層の上に接着剤層を介して被着体を接合する接合工程を含む、接合構造体の製造方法。
【請求項8】
離型シートと熱転写層とを備え、
前記離型シートは、下記式(1)で表されるTα℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、降伏点を有さず、かつ、破断点伸びが100~600%であ
り、
前記離型シートは、未延伸ポリアミド6、未延伸ポリアミド66、二軸延伸ポリアミド6、二軸延伸ポリアミド66、二軸延伸ポリプロピレン、キャスト成形ポリテトラフルオロエチレン、未延伸押出成形テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、未延伸押出成形テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、未延伸押出成形テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共同合体(FEP)、及びこれらを主層とした積層品から選ばれる少なくとも1種である熱転写シート。
Tα℃ = 離型シートのガラス転移温度(Tg)℃+70℃ (1)
【請求項9】
前記離型シートは、前記式(1)で表されるTα℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、降伏点を有さず、かつ、破断点伸びが150~600%である請求項8に記載の熱転写シート。
【請求項10】
前記離型シートは、前記Tα℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、弾性変形領域と塑性変形領域の変曲点から50%伸長後の塑性変形領域の傾きが0~50である請求項8又は9に記載の熱転写シート。
【請求項11】
前記熱転写層は、平均厚みが0.1μm~50μmである請求項8~10のいずれか1項に記載の熱転写シート。
【請求項12】
前記熱転写層がポリマー成分を含み、該ポリマー成分が、非極性ユニットと極性ユニットとを有するポリマー、および、非極性ユニットで構成されるポリマーの一部を極性基を備える極性ユニットで変性したポリマーのうち、少なくとも1種を含む請求項8~11のいずれか1項に記載の熱転写シート。
【請求項13】
前記ポリマー成分が、メトキシメチル基含有ポリマー、水酸基含有ポリマー、カルボキシル基含有ポリマー、及びアミノ基含有ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含有する請求項12に記載の熱転写シート。
【請求項14】
加熱貼着用である請求項8~13のいずれか1項に記載の熱転写シート。
【請求項15】
請求項8~14のいずれか1項に記載の熱転写シートと、
前記熱転写シートの熱転写層側に積層した樹脂部材と、を備えた積層体。
【請求項16】
前記樹脂部材がプリプレグである、請求項15に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体の製造方法、塗装物の製造方法、接合構造体の製造方法、熱転写シート、及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄道車両、航空機、船舶、自動車等の輸送機器、電子機器、住宅設備等の部材には、軽量かつ対衝撃性に優れた樹脂が用いられ、その表面には種々の材質の被着体が接合されている。また、樹脂部材には種々の機能を有する塗膜が形成される場合がある。
そして、樹脂部材を金属や他の樹脂等の被着体と接合する際には、十分な接着強度が求められる。また、樹脂部材に塗膜を塗装する場合、塗膜にはベースポリマーとして様々な樹脂が用いられており、塗膜剥がれ防止のため、樹脂部材と塗膜との接着強化が求められる。また、形状についても様々であり、複雑な形状への対応も求められている。
【0003】
しかしながら、樹脂部材と被着体の種類によっては、接着剤となじみにくく従来の接着剤や接着シートを用いても十分な接着強度が得られない場合がある。また、樹脂部材に直接塗装を施すと、樹脂部材と塗膜の種類によってはなじみが悪く、樹脂部材と塗膜との十分な接着強度が得られず、むらや塗膜剥がれ等の問題が生じる場合がある。
【0004】
十分な接着強度を得るための手段として、成形後の樹脂部材の表面にプライマー溶液を塗布するプライマー処理(例えば、特許文献1)や、下処理としてサンドブラスト処理、コロナ処理、プラズマ処理などの各種表面処理方法が知られている。
【0005】
また、樹脂部材に十分な接着強度を付与するための手段の一つとして、表面改質シートを用いる技術がある。
例えば、特許文献2には、樹脂部材の熱成形の熱を利用して熱転写することで十分な接着強度を付与し得る、表面改質シートが記載されている。ここでは平板状での転写手法が記載されている。
また、特許文献3には、インモールド射出成型により接着層を樹脂基材に転写する一体成型技術が記載されている。ここでは、基材層、接着シート層、離型シート層をこの順で備える積層体を、後に射出一体成型する際と同形状の金型で予め成型して積層成型体とし、これを後の射出一体成型に用いることで、射出成型時の樹脂が隙間なくインサートされ、金型形状に沿った成型品が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-226536号公報
【文献】特開2017-128722号公報
【文献】特開2019-51687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のような従来の表面処理方法においては、表面処理工程および乾燥工程を設けなければならず、生産性が低下するという問題がある。
さらに、樹脂部材を金型で成形加工する際には離型剤を用いることが必要であるが、この離型剤により樹脂部材の表面が汚染されるため、プライマー処理により樹脂部材の表面に十分な強度の塗膜を形成することができない。このため、離型剤を除去するための洗浄処理工程や研磨処理工程が必要となる。その結果、これらの工程を行うための設備投資やランニング費用など、コスト上昇という問題がある。
【0008】
一方、特許文献2や3に記載のようなフィルムインモールド成形によれば、成形加工時に離型剤を使うことなく樹脂部材の表面処理を行うことができる。しかし、成形温度によっては成形加工時に離型シートにシワが発生し、そのシワが熱転写層の表面に転写され、得られる積層体の外観を損ねるという課題がある。また、フィルムインモールド成形による意匠層の付与が試みられているが、離型シートや意匠性基材の金型の三次元形状への追従性が課題となっている。さらに、表面処理された樹脂部材には塗装や被着体との接合が行われることがあり、したがって被着体に対する高い接着強度や高い塗装密着性が求められる。
【0009】
以上のような問題を鑑みて、本発明は、三次元形状への追従性が良好で、平面部及び曲面部におけるシワの発生を防ぎ、外観に優れた積層体を形成することができ、また高い接着性の付与と塗装密着性の付与が可能であり、さらには積層体の形成の際に熱転写層と樹脂部材との一体成形が可能な積層体の製造方法、及び、該積層体の製造方法により得られる積層体を用いた塗装物の製造方法及び接合構造体の製造方法を提供することを目的とする。また、該積層体の製造方法等に適した熱転写シート、ならびに該熱転写シートを備える積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は前記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、降伏点を有さず、かつ破断伸びが特定の範囲である引張特性を有する離型シートを備える熱転写シートを樹脂部材に加熱貼着することにより、高い接着強度及び高い塗装密着性を発揮し、三次元形状への追従性が良好で、平面部及び曲面部におけるシワの発生を防ぎ、外観に優れた積層体を形成することができ、積層体の形成の際に熱転写層と樹脂部材との一体成形が可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の〔1〕~〔16〕に関する。
〔1〕
離型シートと熱転写層とを備える熱転写シートの熱転写層側を樹脂部材の表面の少なくとも一部に加熱貼着により積層する積層工程を含む、積層体の製造方法であって、
前記離型シートは、前記積層工程の成形温度Tβ℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、降伏点を有さず、かつ、破断点伸びが100~600%である、積層体の製造方法。
〔2〕
前記離型シートは、前記積層工程の成形温度Tβ℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、降伏点を有さず、かつ、破断点伸びが150~600%である、〔1〕に記載の積層体の製造方法。
〔3〕
前記離型シートは、前記成形温度Tβ℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、弾性変形領域と塑性変形領域の変曲点から50%伸長後の塑性変形領域の傾きが0~50である〔1〕又は〔2〕に記載の積層体の製造方法。
〔4〕
前記熱転写層は、平均厚みが0.1μm~50μmである〔1〕~〔3〕のいずれか1に記載の積層体の製造方法。
〔5〕
前記積層工程において、前記加熱貼着を加熱プレスにより行う、〔1〕~〔4〕のいずれか1に記載の積層体の製造方法。
〔6〕
〔1〕~〔5〕のいずれか1に記載の積層体の製造方法により得られた積層体から前記離型シートを剥離し、露出した前記熱転写層の上に塗膜を形成する塗膜形成工程を含む、塗装物の製造方法。
〔7〕
〔1〕~〔5〕のいずれか1に記載の積層体の製造方法により得られた積層体から前記離型シートを剥離し、露出した前記熱転写層の上に接着剤層を介して被着体を接合する接合工程を含む、接合構造体の製造方法。
〔8〕
離型シートと熱転写層とを備え、
前記離型シートは、下記式(1)で表されるTα℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、降伏点を有さず、かつ、破断点伸びが100~600%である熱転写シート。
Tα℃ = 離型シートのガラス転移温度(Tg)℃+70℃ (1)
〔9〕
前記離型シートは、前記式(1)で表されるTα℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、降伏点を有さず、かつ、破断点伸びが150~600%である〔8〕に記載の熱転写シート。
〔10〕
前記離型シートは、前記Tα℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、弾性変形領域と塑性変形領域の変曲点から50%伸長後の塑性変形領域の傾きが0~50である〔8〕又は〔9〕に記載の熱転写シート。
〔11〕
前記熱転写層は、平均厚みが0.1μm~50μmである〔8〕~〔10〕のいずれか1に記載の熱転写シート。
〔12〕
前記熱転写層がポリマー成分を含み、該ポリマー成分が、非極性ユニットと極性ユニットとを有するポリマー、および、非極性ユニットで構成されるポリマーの一部を極性基を備える極性ユニットで変性したポリマーのうち、少なくとも1種を含む〔8〕~〔11〕のいずれか1に記載の熱転写シート。
〔13〕
前記ポリマー成分が、メトキシメチル基含有ポリマー、水酸基含有ポリマー、カルボキシル基含有ポリマー、及びアミノ基含有ポリマーから選ばれる少なくとも1種を含有する〔12〕に記載の熱転写シート。
〔14〕
加熱貼着用である〔8〕~〔13〕のいずれか1に記載の熱転写シート。
〔15〕
〔8〕~〔14〕のいずれか1に記載の熱転写シートと、
前記熱転写シートの熱転写層側に積層した樹脂部材と、を備えた積層体。
〔16〕
前記樹脂部材がプリプレグである、〔15〕に記載の積層体。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様に係る積層体の製造方法によれば、三次元形状への追従性が良好で、平面部及び曲面部におけるシワの発生を防ぎ、外観に優れた積層体を形成することができ、また高い接着性の付与と塗装密着性の付与が可能であり、さらには積層体の形成の際に熱転写層と樹脂部材との一体成形が可能である。
また、本発明の一態様に係る積層体は、塗膜や被着体との接着強度に優れ、シワの発生を防ぎ、外観に優れた樹脂成形品を形成することができる。
本発明の一態様に係る塗装物の製造方法及び接合構造体の製造方法によれば、優れた強度を有し、外観に優れた塗装物及び接合構造体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】樹脂部材の表面に熱転写層が設けられた積層体の一例を示す概略断面図である。
【
図2】熱転写シートの一例を示す概略断面図である。
【
図3】離型シートと熱転写層の積層体である熱転写シートの熱転写層側を樹脂部材の表面の少なくとも一部に載置する形態を示す概略断面図である。
【
図6】せん断接着力評価に用いた接合構造体の概略斜視図である。
【
図7】実施例2の離型シートについての成形温度Tβ℃での引張試験により測定された応力歪み曲線である。
【
図8】比較例5の離型シートについての成形温度Tβ℃での引張試験により測定された応力歪み曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0015】
<積層体の製造方法>
本発明の実施形態に係る積層体の製造方法は、離型シートと熱転写層とを備える熱転写シートの熱転写層側を樹脂部材の表面の少なくとも一部に加熱貼着により積層する積層工程を含む。ここで、該積層体の製造方法において、離型シートは、前記積層工程の成形温度Tβ℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、降伏点を有さず、かつ、破断点伸びが100~600%である。
【0016】
〔熱転写シート〕
本発明の実施形態に係る積層体の製造方法において用いられる熱転写シートは、離型シートと熱転写層とを備える。ここで、熱転写シートにおける熱転写層はシート状であるため、部材の表面に塗設するのではなく、載積して加熱処理することで一体成形ができる。そのため、ハジキ発生等によるむらの発生を防ぎ部材の表面に均一な厚みで熱転写層を形成することができる。また、部材の表面の一部に熱転写層を施す際には、はみだし等により歩留りが低下するのを抑制できる。
【0017】
〔離型シート〕
本発明の実施形態の積層体の製造方法において、熱転写シートにおける離型シートは、積層工程の成形温度Tβ℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、降伏点を有さず、かつ、破断点伸びが100~600%である。
なお、降伏点の有無、破断点伸び、及び、後述する弾性変形領域と塑性変形領域の変曲点から50%伸長後の塑性変形領域の傾きといった引張特性は、離型シートの構成や使用材料、それらの組み合わせ等により調節することができる。
【0018】
(引張試験)
ここで、引張試験は恒温槽付き引張試験機を用い、以下の試験条件で行うものとする。
試験装置:島津製作所社製 AG-X 200N
試料片:ダンベル1号片に打ち抜いたものを使用する。
引張速度:200mm/min
標線間:40mm
予備加熱:Tβ℃にセットした恒温槽内で、試料片をチャック間にセットし、扉を閉めて槽内の温度が安定してから(およそ10分経過した後に)、試験を開始する。
【0019】
(降伏点)
Tβ℃における上記引張試験により、横軸を伸び(%)、縦軸を引張応力(MPa)とした応力歪み曲線をとると、試料の弾性領域から塑性領域に移行する際に、通常、変曲点が現れる。
この際に、応力歪み曲線において極大点が現れ、一旦応力が低下してから、再度応力が上昇する現象をネッキング現象と呼び、この応力歪み曲線上の極大点を降伏点と呼ぶ。
ここで、離型シートが成形温度Tβ℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において降伏点を有さない場合、成形時における離型シートの局部的な伸びが抑制されるため、平面部のみならず局部的に伸びやすい曲面部においても折れ曲がりや破れが発生せず、曲面追従性が良好となる。したがって、平面部のみならず曲面部においてもシワの発生が良好に防止される。
【0020】
(破断伸び)
また、Tβ℃における上記引張試験により測定された応力歪み曲線において、離型シートが切れた点を破断点とし、その際の伸び値を破断点伸びとする。
ここで、破断点伸びが100~600%であることで、均一な伸びが得られるため、三次元形状へ追従することが可能となる。破断点伸びが100%よりも小さいと、伸びが不十分なため、シワが発生したり、シートが破断するおそれがある。また、破断点伸びが600%よりも大きいと、成形後に熱転写層の十分な厚みが得られないおそれがある。破断点伸びは、好ましくは110~500%であり、より好ましくは120~400%であり、さらに好ましくは150~400%である。また、一態様において、破断点伸びは150~600%であってよい。
【0021】
また、Tβ℃における上記引張試験により測定された応力歪み曲線において、離型シートの弾性変形領域と塑性変形領域の変曲点から50%伸長後の塑性変形領域の傾きが0~50であることが好ましい。
当該傾きが0~50であることで、より広範囲で均一な伸びが得られ、さらに良好な三次元追従性が得られるため好ましい。当該傾きが0よりも小さいと、局部的な伸びが発生するおそれがある。また、当該傾きが50よりも大きいと、成形時に十分な伸びが得られずシワが発生するおそれがある。当該傾きは、より好ましくは5~40、さらに好ましくは10~30である。
ここで、弾性領域から塑性領域に移行する時に変曲点が存在するため、変曲点から50%経過した点を起点に以下の式(i)により傾きaを求めることができる。
a=((S2-S1)/(E2-E1))×100 (i)
E1:(変曲点の伸び+50)(%)
E2:((変曲点の伸び+50)+30)(%)
S1:(変曲点の伸び+50)(%)時の応力(MPa)
S2:((変曲点の伸び+50)+30)(%)時の応力(MPa)
【0022】
上記の熱転写シートに使用できる離型シートとしては、例えば、未延伸ポリアミド6、未延伸ポリアミド66、二軸延伸ポリアミド6、二軸延伸ポリアミド66、二軸延伸ポリプロピレン、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート、易成形ポリエチレンテレフタレート、キャスト成形ポリテトラフルオロエチレン、未延伸押出成形テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、未延伸押出成形テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、未延伸押出成形テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共同合体(FEP)、これらを主層とした積層品などが挙げられる。
離型シートの厚みは、取り扱い性と破断抑制の観点から、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは20μm以上であり、よりさらに好ましくは30μm以上である。また、三次元形状への追従性の観点から、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下である。
また、必要に応じて、離型シートの熱転写層側の面あるいは両面にシリコーンなどの適宜な離型処理剤による離型処理を施してもよい。
【0023】
〔熱転写層〕
熱転写層(熱転写層の材料であってもよい)は、好ましくは、ポリマー成分を含み、該ポリマー成分が非極性ユニットと極性基を備える極性ユニットを有するポリマー、および、非極性ユニットで構成されるポリマーの一部を極性基を備える極性ユニットで変性したポリマーのうち、少なくとも1種を含むことがより好ましい。熱転写層中の上記ポリマー成分の含有割合は、好ましくは50質量%~100質量%であり、より好ましくは70質量%~100質量%であり、さらに好ましくは90質量%~100質量%であり、特に好ましくは92質量%~100質量%であり、最も好ましくは95質量%~100質量%である。
【0024】
ポリマー成分における非極性ユニットとしては、例えば、脂肪族系炭化水素ユニット、芳香族系炭化水素ユニット、脂環族系炭化水素ユニットなどが挙げられる。非極性ユニットの炭素数は好ましくは2~40、より好ましくは3~30、さらに好ましくは4~20である。非極性ユニットは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0025】
ポリマー成分における極性基を備える極性ユニットとしては、例えば、エポキシ基、カルボキシル基、ニトリル基、アミド基、エステル基、水酸基、酸無水物、シラノール基などが挙げられる。このような極性基を有する極性ユニットとしては、例えば、グリシジルメタクリレートユニット、酢酸ビニルユニット、アクリロニトリルユニット、アミドユニット、(メタ)アクリル酸エステルユニット、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートユニット、無水マレイン酸ユニットなどが挙げられる。極性ユニットは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0026】
熱転写層(熱転写層の材料であってもよい)が含み得るポリマー成分は、メトキシメチル基含有ポリマー、水酸基含有ポリマー、カルボキシル基含有ポリマー、アミノ基含有ポリマーから選ばれる少なくとも1種であってもよい。
【0027】
熱転写層(熱転写層の材料であってもよい)が含み得るこのようなポリマー成分は、好ましくは、付加型硬化剤であり、より好ましくは、エポキシ基と反応する付加型硬化剤である。
【0028】
メトキシメチル基含有ポリマーとしては、例えば、メトキシメチル化ポリアミド樹脂などが挙げられる。
メトキシメチル基含有ポリマーとしては、市販品を採用してもよい。このような市販品としては、例えば、「Fine Resin」(登録商標)FR-101、FR-104、FR-105、EM-120、EM-220シリーズ(株式会社鉛市製)などが挙げられる。
メトキシメチル基含有ポリマーは、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0029】
メトキシメチル基含有ポリマーは、本発明の効果をより発現させ得る点で、その重量平均分子量(Mw)が、好ましくは1000~1000000であり、より好ましくは3000~500000であり、さらに好ましくは5000~100000であり、特に好ましくは7000~70000であり、最も好ましくは10000~50000である。重量平均分子量(Mw)の測定方法については後述する。
【0030】
水酸基含有ポリマーとしては、例えば、水酸基含有アクリル系ポリマーなどが挙げられる。
水酸基含有ポリマーとしては、市販品を採用してもよい。このような市販品としては、例えば、「ARUFON(登録商標) UH-2000シリーズ」(東亜合成株式会社製)などが挙げられる。
水酸基含有ポリマーは、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0031】
水酸基含有ポリマーは、本発明の効果をより発現させ得る点で、その重量平均分子量(Mw)が、好ましくは500~1000000であり、より好ましくは700~500000であり、さらに好ましくは1000~100000であり、特に好ましくは1500~70000であり、最も好ましくは2000~50000である。重量平均分子量(Mw)の測定方法については後述する。
【0032】
カルボキシル基含有ポリマーとしては、例えば、カルボキシル基含有アクリル系ポリマー、カルボンキシル基含有アクリル系オリゴマーなどが挙げられる。
カルボキシル基含有ポリマーとしては、市販品を採用してもよい。このような市販品としては、例えば、「ARUFON(登録商標) UC-3000、UC3510、UC3080シリーズ」(東亜合成株式会社製)などが挙げられる。
カルボキシル基含有ポリマーは、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0033】
カルボキシル基含有ポリマーは、本発明の効果をより発現させ得る点で、その重量平均分子量(Mw)が、好ましくは500~1000000であり、より好ましくは700~500000であり、さらに好ましくは1000~100000であり、特に好ましくは1500~70000であり、最も好ましくは2000~50000である。重量平均分子量(Mw)はGPC測定におけるポリスチレン換算分子量を用いた。
【0034】
アミノ基含有ポリマーとしては、アミノ基(-NH2)を含有するポリマーであれば、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なポリマーを採用し得る。
アミノ基含有ポリマーとしては、市販品を採用してもよい。
アミノ基含有ポリマーは、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
熱転写層(熱転写層の材料であってもよい)は、3級アミン含有化合物、強酸から選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0035】
熱転写層(熱転写層の材料であってもよい)が含み得るこのような3級アミン含有化合物や強酸は、好ましくは、触媒型硬化剤であり、より好ましくは、エポキシ基と反応する触媒型硬化剤である。
【0036】
3級アミン含有化合物としては、例えば、イミダゾール誘導体、ポリエチレンイミンなどが挙げられる。
3級アミン含有化合物としては、市販品を採用してもよい。このような市販品としては、例えば、イミダゾール誘導体として、「キュアゾール」シリーズ(イミダゾール系エポキシ樹脂硬化剤、四国化成工業株式会社製)などが挙げられ、ポリエチレンイミンとして、「エポミン」(登録商標)シリーズ(株式会社日本触媒製)などが挙げられる。
3級アミン含有化合物は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0037】
強酸としては、例えば、トリフルオロボラン、イオン液体、ナフィオンなどが挙げられる。
イオン液体としては、例えば、BF3-C2H5NH2、HMI-PF6などが挙げられる。
強酸としては、市販品を採用してもよい。
強酸は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0038】
本発明の実施形態において、熱転写層は平均厚みが0.1μm~50μmであることが好ましい。
部材の表面にピンホールがあると、その後の塗装等により得られる樹脂部材の外観を損なう。本発明の実施形態において、熱転写層の平均厚みが0.1μm~50μmであることにより、部材の表面のピンホール等の凹凸を埋め、より優れた外観を得ることができることから好ましい。
また、熱転写層の厚みが0.1μm~50μmであると、熱成形時に熱転写層が適度に流動するため、剥離シートに摺動性を付与でき、金型形状への追従性が向上することから好ましい。
熱転写層の平均厚みは、部材の表面のピンホール等の凹凸を埋め、より優れた外観を得る観点から、より好ましくは0.5μm以上、さらに好ましくは0.7μm以上である。また、熱転写層の平均厚みは、接着強度の観点から、より好ましくは40μm以下であり、さらに好ましくは20μm以下である。
熱転写層の厚みはダイヤルシックネスゲージ(例えば、ピーコックGC-9)により熱転写シートの厚みを測定し、その箇所の熱転写層を除去した離型シートの厚みを測定し、その差を熱転写層の厚みとして測定できる。
熱転写層の平均厚みとは10点を測定した平均値である。
【0039】
(積層工程)
本発明の実施形態に係る積層体の製造方法においては、熱転写シートの該熱転写層側を樹脂部材の表面の少なくとも一部に積層し、加熱貼着を行うことにより積層体を製造することができる。
加熱貼着は、熱転写シートの積層と同時に行ってもよいし、熱転写シートを積層した後に行ってもよい。
このような方法で樹脂部材の表面処理を行うことにより、樹脂部材に十分な接着強度を付与することができ、積層体を高い生産性と低コストで製造することができる。積層体の製造方法は、樹脂部材の表面を処理する方法(樹脂の表面処理方法)でもあり得る。
【0040】
樹脂部材に含有される樹脂は、熱可塑性樹脂であっても、熱硬化性樹脂であってもよい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、PP(ポリプロピレン)、PA(ポリアミド)、PPE(ポリフェニレンエーテル)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、POM(ポリアセタール)、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、PC(ポリカーボネート)、PES(ポリエーテルサルファイド)、EP(エポキシ)などが挙げられる。これらの樹脂の中でも、本発明の効果を有利に発現し得る熱可塑性樹脂としては、PPS(ポリフェニレンサルファイド)、PA(ポリアミド)、PES(ポリエーテルサルファイド)、EP(エポキシ)が挙げられる。
【0041】
熱可塑性樹脂としては、繊維強化熱可塑性樹脂(FRTP)を採用し得る。
繊維強化熱可塑性樹脂(FRTP)としては、例えば、炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)、ガラス繊維強化熱可塑性樹脂(GFRTP)などが挙げられる。
炭素繊維強化熱可塑性樹脂(CFRTP)としては、例えば、PPS系炭素繊維強化熱可塑性樹脂、PA系炭素繊維強化熱可塑性樹脂、PES系炭素繊維強化熱可塑性樹脂、EP系炭素繊維強化熱可塑性樹脂、PP系炭素繊維強化熱可塑性樹脂などが挙げられる。
ガラス繊維強化熱可塑性樹脂(GFRTP)としては、例えば、PPS系ガラス繊維強化熱可塑性樹脂、PA系ガラス繊維強化熱可塑性樹脂、PP系ガラス繊維強化熱可塑性樹脂などが挙げられる。
【0042】
熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、ポリイミド樹脂等を挙げることができる。
【0043】
樹脂部材の形状としては、例えば、平面を有する板状、曲面を有する板状、シート状、フィルム状などが挙げられる。
樹脂部材の厚みは、例えば、0.001mm~10mmである。
樹脂部材がプリプレグであってもよい。プリプレグとは、炭素繊維やガラス繊維等の強化材に、硬化剤等の添加物を混合した熱硬化性樹脂を含浸させ、加熱または乾燥して半硬化状態にしたものである。
【0044】
「樹脂部材の表面の少なくとも一部」とは、樹脂部材が有する全ての表面の中の少なくとも一部を意味する。例えば、樹脂部材が板状やシート状やフィルム状の場合は、その少なくとも一方の表面の一部や、その少なくとも一方の表面の全部などを意味する。
【0045】
樹脂部材における樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合、積層体の製造においては、熱可塑性樹脂の融点をT1℃としたとき、該熱可塑性樹脂部材の表面の少なくとも一部に熱転写層を設け、(T1-50)℃以上の温度で加熱貼着を行うことが好ましい。この加熱貼着の温度は、好ましくは(T1-50)℃~(T1+150)℃であり、より好ましくは(T1-25)℃~(T1+100)℃であり、さらに好ましくは(T1-10)℃~(T1+75)℃であり、特に好ましくは(T1)℃~(T1+50)℃である。加熱貼着温度すなわち成形温度Tβ℃を上記範囲内として、上記のような方法で樹脂部材の表面処理を行うことにより、熱転写層と熱可塑性樹脂部材の界面が溶融接触して溶着混合し、熱可塑性樹脂部材に十分な接着強度を付与することができる。このような付与を高い生産性と低コストで行うことができる。
【0046】
樹脂部材における樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合、熱可塑性樹脂部材の表面の少なくとも一部を溶融状態とした後、溶融状態の該熱可塑性樹脂部材の表面に熱転写層を設けることもできる。熱可塑性樹脂部材の溶融状態の表面に熱転写層を設けることにより、熱可塑性樹脂部材の表面の熱によって熱転写層が溶着混合し、熱可塑性樹脂部材に十分な接着強度を付与することができる。
【0047】
樹脂部材における樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合、積層体の製造においては、熱硬化性樹脂の硬化温度をT2℃としたとき、熱硬化性樹脂部材の表面の少なくとも一部に熱転写層を設け、(T2-50)℃以上の温度で加熱貼着を行うことが好ましい。なお、硬化温度はDSCにて測定した発熱曲線のピーク温度とする。この加熱貼着の温度は、好ましくは(T2-50)℃~(T2+50)℃であり、より好ましくは(T2-40)℃~(T2+40)℃であり、さらに好ましくは(T2-30)℃~(T2+30)℃であり、特に好ましくは(T2-20)℃~(T2+20)℃である。加熱貼着温度すなわち成形温度Tβ℃を上記範囲内として、上記のような方法で樹脂部材の表面処理を行うことにより、熱転写層と熱硬化性樹脂部材の界面が化学結合し、熱硬化性樹脂部材に十分な接着強度を付与することができる。このような付与を高い生産性と低コストで行うことができる。
【0048】
樹脂部材がプリプレグである場合、プリプレグと熱転写層との間に、プリプレグと前記熱転写層とが混合した混合層を備えることが好ましい。
樹脂部材に含有される樹脂が熱硬化性樹脂である場合、熱硬化性樹脂部材の表面の少なくとも一部を加温により軟化させた後、該熱硬化性樹脂部材の表面に熱転写層を設けることもできる。加温により軟化した熱硬化性樹脂部材の表面に熱転写層を設けることにより、熱硬化性樹脂部材の表面の熱によって熱転写層が化学結合し、熱硬化性樹脂部材に十分な接着強度を付与することができる。
【0049】
「化学結合」とは、樹脂部材と熱転写層の材料が化学的に共有結合を為すことによって成し得る。
【0050】
加熱貼着の方法としては、例えば、オーブン加熱、赤外線加熱、高周波加熱、加熱プレスなどが挙げられ、好ましくは加熱プレス(プレス成形)である。
加熱貼着の時間は、好ましくは1秒~10分である。
【0051】
積層工程では、前記樹脂部材を熱転写シートの熱転写層側に積層後、加熱プレスにより成形してもよい。
加熱プレスとしては、例えば、成形加工機(例えば、プレス機など)内で、樹脂部材の表面の少なくとも一部に熱転写シートの熱転写層側を積層し、加熱を伴う成形加工(例えば、加熱プレスによる一体成形)を行う態様である。このような態様によれば、樹脂部材の表面処理とともに、樹脂部材の成形加工も同時に行うことができるため、高い生産性と低コストを提供できる。
【0052】
また、積層体から離型シートを剥離することにより、熱転写層を表面に備えた積層体が得られる。離型シートの剥離は、手で剥離したり、専用の剥離設備を用いて剥離する等、特に限定されない。
【0053】
離型シートと熱転写層の積層体である熱転写シートの熱転写層側を樹脂部材の表面の少なくとも一部に載置し、加熱貼着した後、好ましくは、離型シートが除去される。このように離型シートが除去されることにより、樹脂部材の表面に熱転写層が転写され、積層体(樹脂部材と熱転写層の積層部材と称することもある)が得られる。
なお、前述したように、好ましくは、樹脂部材と熱転写層との間に、該樹脂部材と該熱転写層とが混合した混合層を備える。
【0054】
上記の製造方法により、
図1に示すように、樹脂部材100の表面に熱転写層10が設けられ、積層体が得られる。なお、
図1においては、樹脂部材100の表面に熱転写層10が積層されているが、好ましくは、樹脂部材100と熱転写層10との間に、該樹脂部材と該熱転写層とが混合した混合層(図示せず)を備える。
【0055】
離型シートと熱転写層の積層体である熱転写シートは、
図2に示すように、離型シート20と熱転写層10の積層体である熱転写シート200である。
【0056】
本発明の実施形態に係る積層体の製造方法において、離型シートと熱転写層の積層体である熱転写シートの該熱転写層側を該樹脂部材の表面の少なくとも一部に載置する形態は、
図3に示すように、熱転写シート200を、該熱転写シート200の熱転写層10側が樹脂部材100の表面側になるように該熱転写シート200を該樹脂部材100の表面に載置させた形態である。
【0057】
<塗装物の製造方法>
また、本発明の実施形態に係る塗装物の製造方法は、上述した積層体の製造方法により得られた積層体の離型シートを剥離し、露出した熱転写層の上に塗膜を形成する塗膜形成工程を含む。
該塗膜形成工程により、積層体の熱転写層側の表面の少なくとも一部に塗膜を備えた塗装物を得ることができる。
塗装物の一例として、
図4に樹脂部材100の表面に熱転写層10が設けられた積層体の、熱転写層側の表面に塗膜30を備えた塗装物300を示す。
熱転写層は樹脂部材の表面に塗設するのではなくシート状の熱転写シートを用いて形成されるため、ハジキ発生等によるむらの発生を防ぐことができる。そのため、熱転写層が樹脂部材の表面に均一な厚みで形成することができ、塗膜を均一な膜厚で塗設することができる。また、溶融状態の樹脂部材の表面に熱転写層を設けることにより、樹脂部材の表面の熱によって熱転写層が溶着混合し、熱転写層と樹脂部材との接着強度が高いため、密着性に優れた塗膜が形成できる。さらに、塗装物の形成に際して、熱転写層と樹脂部材との一体成形が可能であるため、塗膜を形成する前に離型剤を除去するための有機溶剤を用いた洗浄処理工程や研磨処理工程が必要なく、安全性に優れ環境負荷や作業負荷が軽減できる。
【0058】
塗膜としては、特に制限されず、例えば、塗装、印刷層、蒸着層、めっき層等が挙げられる。塗膜を形成する材料としては、特に制限されず、例えば、アクリル系、ウレタン系、エポキシ系、フッ素系、ポリエステル・メラミン系、アルキド・メラミン系、アクリル・メラミン系、アクリル・ウレタン系、アクリル・多酸硬化剤系などの各種ポリマーを含む組成物が挙げられる。
塗膜の厚みは、特に制限は無く、0.01~2000μmであり、より好ましくは0.1~1000μmであり、さらに好ましくは0.5~500μmであり、特に好ましくは1~200μmである。
塗膜の塗装方法に特に制限は無く、刷毛塗り、ローラー塗装、スプレー塗装、各種コーター塗装などの一般的な方法を用いることができ、その塗布量は特に限定されるものではない。また、塗膜を加熱する時間や温度等も、用いる塗料、塗布量等によって適宜決定することができる。
【0059】
<接合構造体の製造方法>
また、本発明の実施形態に係る接合構造体の製造方法は、積層体の製造方法により得られた積層体から離型シートを剥離し、露出した熱転写層の上に接着剤層を介して被着体を接合する接合工程を含む。
該接合工程により、積層体の熱転写層側の表面の少なくとも一部に接着剤層を介して被着体が接合された接合構造体を得ることができる。
接合構造体の一例として、
図5に樹脂部材100の表面に熱転写層10が設けられた積層体の、熱転写層10側の表面に接着剤層40を介して被着体50が接合された接合構造体500を示す。
熱転写層は樹脂部材の表面に塗設するのではなくシート状の熱転写シートを用いて形成されるため、ハジキ発生等によるむらの発生を防ぐことができる。そのため、熱転写層が樹脂部材の表面に均一な厚みで形成することができ、接着剤層を均一な膜厚で塗設することができる。また、溶融状態の樹脂部材の表面に熱転写層を設けることにより、樹脂部材の表面の熱によって熱転写層が溶着混合し、熱転写層と樹脂部材との接着強度が高いため、接着剤層を密着性よく形成できる。さらに、接合構造体の形成に際して、熱転写層と樹脂部材との一体成形が可能であるため、接着剤層を形成する前に離型剤を除去するための有機溶剤を用いた洗浄処理工程や研磨処理工程が必要なく、安全性に優れ環境負荷や作業負荷が軽減できる。
【0060】
接着剤層に含まれる接着剤としては、特に限定されず、アクリル系、シリコーン系、エポキシ系、フェノール系、ポリウレタン系、シアノアクリレート系、ポリアミド系等の適宜な接着剤を使用できる。
【0061】
また、接合構造体を構成する被着体としては、例えば、上述した樹脂部材に用いた熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂や、炭素繊維やガラス繊維にこれらの樹脂を含浸させたFRPからなる樹脂系部材、鉄、アルミニウム、チタン、銅、あるいはこれらを主とした合金などの金属系部材、ガラス、タイル、コンクリート等の無機系部材、木材等の木質系部材、などを例示することができるが、これに限定されるものではない。
【0062】
<熱転写シート>
また、本発明の一態様に係る熱転写シートは、離型シートと熱転写層とを備え、前記離型シートは、下記式(1)で表されるTα℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、降伏点を有さず、かつ、破断点伸びが100~600%である。
Tα℃ = 離型シートのガラス転移温度(Tg)℃+70℃ (1)
本態様に係る熱転写シートは、熱転写層がシート状であるため、部材の表面に塗設するのではなく、載積して加熱処理することで一体成形ができる。そのため、ハジキ発生等によるむらの発生を防ぎ部材の表面に均一な厚みで熱転写層を形成することができる。また、部材の表面の一部に熱転写層を施す際には、はみだし等により歩留りが低下するのを抑制できる。
【0063】
〔熱転写層〕
本態様の熱転写シートにおける熱転写層としては、上述した積層体の製造方法に用いられる熱転写シートにおける熱転写層の説明をそのまま援用し得る。
【0064】
〔離型シート〕
本態様の熱転写シートにおける離型シートは、下記式(1)で表されるTα℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、降伏点を有さず、かつ、破断点伸びが100~600%である。
Tα℃ = 離型シートのガラス転移温度(Tg)℃+70℃ (1)
【0065】
(引張試験)
ここで、引張試験は恒温槽付き引張試験機を用い、以下の試験条件で行うものとする。
試験装置:島津製作所社製 AG-X 200N
試料片:ダンベル1号片に打ち抜いたものを使用する。
引張速度:200mm/min
標線間:40mm
予備加熱:Tα℃にセットした恒温槽内で、試料片をチャック間にセットし、扉を閉めて、槽内の温度が安定してから(およそ10分経過した後に)、試験を開始する。
【0066】
(降伏点)
Tα℃における上記引張試験により、横軸を伸び(%)、縦軸を引張応力(MPa)とした応力歪み曲線をとると、試料の弾性領域から塑性領域に移行する際に、通常、変曲点が現れる。
この際に、応力歪み曲線において極大点が現れ、一旦応力が低下してから、再度応力が上昇する現象をネッキング現象と呼び、この応力歪み曲線上の極大点を降伏点と呼ぶ。
ここで、離型シートがTα℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において降伏点を有さない場合、成形時における離型シートの局部的な伸びが抑制されるため、平面部のみならず局部的に伸びやすい曲面部においても折れ曲がりや破れが発生せず、曲面追従性が良好となる。したがって、平面部のみならず曲面部においてもシワの発生が良好に防止される。
【0067】
(破断伸び)
また、Tα℃における上記引張試験により測定された応力歪み曲線において、離型シートが切れた点を破断点とし、その際の伸び値を破断点伸びとする。
ここで、破断点伸びが100~600%であることで、均一な伸びが得られるため、三次元形状へ追従することが可能となる。破断点伸びが100%よりも小さいと、伸びが不十分なため、シワが発生したり、シートが破断するおそれがある。また、破断点伸びが600%よりも大きいと、成形後に熱転写層の十分な厚みが得られないおそれがある。破断点伸びは、好ましくは110~500%であり、より好ましくは120~400%であり、さらに好ましくは150~400%である。また、一態様において、破断点伸びは150~600%であってよい。
【0068】
また、Tα℃における上記引張試験により測定された応力歪み曲線において、離型シートの弾性変形領域と塑性変形領域の変曲点から50%伸長後の塑性変形領域の傾きが0~50であることが好ましい。
当該傾きが0~50であることで、より広範囲で均一な伸びが得られ、さらに良好な三次元追従性が得られるため好ましい。当該傾きが0よりも小さいと、局部的な伸びが発生するおそれがある。また、当該傾きが50よりも大きいと、成形時に十分な伸びが得られずシワが発生するおそれがある。当該傾きは、より好ましくは5~40、さらに好ましくは10~30である。
ここで、弾性領域から塑性領域に移行する時に変曲点が存在するため、変曲点から50%経過した点を起点に以下の式(i)により傾きaを求めることができる。
a=((S2-S1)/(E2-E1))×100 (i)
E1:(変曲点の伸び+50)(%)
E2:((変曲点の伸び+50)+30)(%)
S1:(変曲点の伸び+50)(%)時の応力(MPa)
S2:((変曲点の伸び+50)+30)(%)時の応力(MPa)
【0069】
なお、離型シートのガラス転移温度(Tg)については、貯蔵弾性率と損失弾性率を測定し、tanδ(E”(損失弾性率)/E’(貯蔵弾性率))の値を算出し、低温側でのtanδのピーク温度をガラス転移温度(Tg)とする。
【0070】
上記の熱転写シートに使用できる離型シートとしては、例えば、未延伸ポリアミド6、未延伸ポリアミド66、二軸延伸ポリアミド6、二軸延伸ポリアミド66、二軸延伸ポリプロピレン、二軸延伸ポリエチレンテレフタレート、二軸延伸ポリブチレンテレフタレート、易成形ポリエチレンテレフタレート、キャスト成形ポリテトラフルオロエチレン、未延伸押出成形テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(ETFE)、未延伸押出成形テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体(PFA)、未延伸押出成形テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共同合体(FEP)、これらを主層とした積層品などが挙げられる。
離型シートの厚みは、取り扱い性と破断抑制の観点から、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは20μm以上であり、よりさらに好ましくは30μm以上である。また、三次元形状への追従性の観点から、好ましくは200μm以下であり、より好ましくは150μm以下であり、さらに好ましくは100μm以下である。
また、必要に応じて、離型シートの熱転写層側の面あるいは両面にシリコーンなどの適宜な離型処理剤による離型処理を施してもよい。
【0071】
また、別の一態様に係る熱転写シートは、離型シートと熱転写層とを備え、前記離型シートは、積層工程の成形温度Tβ℃における引張試験により測定された応力歪み曲線において、降伏点を有さず、かつ、破断点伸びが100~600%である。
【0072】
〔熱転写シートの製造〕
熱転写シートは、任意の適切な方法によって製造し得る。例えば、熱転写層の材料と溶剤を含む溶液(熱転写層形成用組成物)への離型シートのディッピングの後に必要に応じて乾燥する方法、離型シートの表面への熱転写層の材料と溶剤を含む溶液の刷毛塗りの後に必要に応じて乾燥する方法、離型シートの表面への熱転写層の材料と溶剤を含む溶液の各種コーターによる塗布の後に必要に応じて乾燥する方法、離型シートの表面への熱転写層の材料と溶剤を含む溶液のスプレー塗布の後に必要に応じて乾燥する方法などが挙げられる。
【0073】
熱転写層形成用組成物としては、熱転写層の材料を、溶剤に溶解した溶液が挙げられる。
溶剤としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類;メチルエチルケトンなどのケトン類;エステル;脂肪族、脂環族、並びに芳香族炭化水素;ハロゲン化炭化水素;ジメチルホルムアミドなどのアミド類;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類;ジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;などが挙げられ、ゲル化物の生成を抑制するため、エタノール又はエタノールと水との混合溶媒が好ましい。溶剤は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0074】
熱転写層形成用組成物における固形分濃度は、目的に応じて適宜設定し得る。熱転写層の厚み精度の観点から、質量割合として、好ましくは0.01質量%~20質量%であり、より好ましくは0.05質量%~10質量%であり、さらに好ましくは0.1質量%~5質量%である。
【0075】
熱転写層形成用組成物には、必要に応じて、pH調整剤、架橋剤、粘度調整剤(増粘剤等)、レベリング剤、剥離調整剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、着色剤(顔料、染料等)、界面活性剤、帯電防止剤、防腐剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の各種の添加剤を含有してもよい。
例えば、着色剤を添加することにより熱転写層が可視化し、樹脂部材の表面を既に改質したかどうかが判別し易くなり工程管理の面でメリットがある。
着色剤としては、例えば、染料、又は顔料が挙げられる。ブラックライトで視認できる蛍光材料でもよい。
【0076】
〔積層体〕
本発明の実施形態に係る積層体は、上記熱転写シートと、熱転写シートの熱転写層側に積層した樹脂部材とを備える。積層体は、樹脂部材と熱転写層との間に、樹脂と熱転写層とが混合した混合層を備えることが好ましい。
【0077】
熱転写シート、熱転写層、樹脂部材としては、上述の説明をそのまま援用し得る。
【0078】
混合層は、樹脂と熱転写層とが混合した層であり、例えば、樹脂部材の表面の少なくとも一部に熱転写層を設けて加熱溶着又は加熱貼着を行うことによって、熱転写層と樹脂部材の界面が溶融接触して溶着混合し、それによって得られる溶着混合部分の層である。混合層の形成により樹脂部材と熱転写層との接着強度が向上する。混合層において樹脂と、熱転写層とが共有結合等の化学反応により結合することが好ましい。共有結合等の化学反応により樹脂部材と熱転写層との界面が消失して樹脂部材と熱転写層とが一体化し、より優れた接着強度が得られる。
【0079】
混合層の厚みは、加熱溶着の条件や、樹脂部材に含有される樹脂や熱転写層の種類に応じて、適宜決定し得る。混合層の厚みは、好ましくは1.5nm以上であり、より好ましくは2.0nm以上である。
【0080】
本発明の実施形態に係る積層体において、熱転写層の厚みとしては、好ましくは0.001μm~20μmであり、より好ましくは0.01μm~15μmであり、さらに好ましくは0.5μm~10μmであり、特に好ましくは0.7μm~10μmである。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例になんら限定されるものではない。
【0082】
〔実施例1〕
(熱転写シート)
(株式会社鉛市製、Fine Resin FR-105(メトキシメチル化ポリアミド樹脂)/東亜合成株式会社製、ARUFON(登録商標) UC-3000(カルボキシル基含有アクリル系オリゴマー)(質量比100/2混合物))を60℃のエタノール(EtOH)/水/イソプロパノール(IPA)=60質量%/10質量%/30質量%の混合溶媒に溶解し、20質量%溶液(熱転写層形成用組成物)を作製した。
作製した熱転写層形成用組成物を目開き188μmのナイロンメッシュでろ過した後、離型シート(OT-P2171:東洋紡株式会社製 二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)、厚み30μm)にバーコーターにて塗工し、風乾した後、恒温乾燥器にて100℃×1分間さらに乾燥させ、離型シート上に熱転写層を備えた熱転写シートを作製した。
【0083】
<ガラス転移温度(Tg)>
離型シートの貯蔵弾性率と損失弾性率を測定し、tanδ(E”(損失弾性率)/E’(貯蔵弾性率))の値を算出し、低温側でのtanδのピーク温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0084】
<融点(Tm)>
離型シートの貯蔵弾性率と損失弾性率を測定し、tanδ(E”(損失弾性率)/E’(貯蔵弾性率))の値を算出し、高温側でのtanδのピーク温度を融点(Tm)とした。
熱可塑性樹脂の融点(T1)についても同様の手法で測定した。
なお、非晶性樹脂の場合は融点を持たないため、分解温度を融点とみなした。
【0085】
(貯蔵弾性率及び損失弾性率の測定)
離型シートを長さ10mm(測定長さ)×幅5mmの短冊状にカッターナイフで切り出し、固体粘弾性測定装置(RSAIII、TAインスツルメンツ(株)製)を用いて、25~500℃における貯蔵弾性率/損失弾性率を測定した。測定条件は、周波数1Hz、昇温速度5℃/minとした。
【0086】
(引張試験)
離型シートについて恒温槽付き引張試験機を用いて、以下の試験条件で引張試験を行い、その応力歪み曲線における降伏点の有無、破断点伸び、及び弾性変形領域と塑性変形領域の変曲点から50%伸長後の塑性変形領域の傾きを測定ないし算出した。
試験装置:島津製作所社製 AG-X 200N
試料片:ダンベル1号片に打ち抜いたものを使用した。
引張速度:200mm/min
標線間:40mm
予備加熱:成形温度Tβ℃又は下記式(1)で表されるTα℃にセットした恒温槽内で、試料片をチャック間にセットし、扉を閉めて、槽内の温度が安定してから(およそ10分経過した後に)、試験を開始した。
Tα℃ = 離型シートのガラス転移温度(Tg)℃+70℃ (1)
【0087】
<熱転写層の膜厚>
熱転写層の膜厚はダイヤルゲージ(ピーコック製GC-9)により測定した。熱転写シートの厚みを測定し、その箇所の熱転写層を除去した離型シートの厚みを測定し、その差を熱転写層の厚みとした。平均厚みは10点を測定した平均値である。なお、表中の厚みの単位はμmである。
【0088】
(積層体(1))
上記で作製した熱転写シートの熱転写層側を樹脂部材としての綾織カーボンファイバー強化熱硬化性エポキシ樹脂(C-EpTS)(幅200mm×長さ200mm×厚さ2mm)の上に重ね、表1に示す成形温度Tβ℃でプレス加工することにより平板形状の積層体(1)を作製した。
【0089】
(接合構造体)
上記で作製した積層体(1)(積層体500)の2つを、それぞれの離型シートを剥離してから、それぞれの熱転写層側同士が接合するように、接着シート600を用いて
図6の形態で接合し、接合構造体とした。接着シートとしては、特開2012-197427号公報記載のゴム変性エポキシ接着シートを用いて接着した。接着面積は25mm×10mmとした。接着剤の硬化条件は150℃×20分とした。
【0090】
<せん断接着力評価>
接合構造体における2つの積層部材同士の引張せん断接着力を、引張試験機(ミネベア製、型番;TG-100kN)にて測定した。測定は、25℃にて引張速度5mm/minで実施した。得られた測定値を単位面積あたりに換算し、せん断接着力とした。
【0091】
(塗装物)
上記で作製した積層体(1)の離型シートを剥離後、熱転写層にソフト99コーポレーション(株)製「ボディーペン」アクリル系塗料(自動車用)をスプレーで塗装し、室温で一昼夜乾燥させて、膜厚50μmの塗膜を備えた塗装物を作製した。
【0092】
<塗装密着性評価>
塗装物を幅約4mmの短冊状に切り出し、JIS K5600-5-6記載のクロスカット法にてクロスカット評価を実施し、塗装密着性として評価した。
・カットの間隔: 2mm
・クロスカット個数: 100マス
・剥離テープ: (ニチバン)セロハンテープ24mm幅
【0093】
(積層体(2))
離型シート起因のシワによる外観不良を評価するために、スマートフォン筐体型の金型で積層体(2)を形成した。
具体的には、上記で作製した熱転写シートの熱転写層側を樹脂部材としての綾織カーボンファイバー強化熱硬化性エポキシ樹脂(C-EpTS)(幅100mm×長さ170mm×厚さ1mm)の上に重ね、表1に示す成形温度Tβ℃でプレス金型成型することにより積層体(2)を作製した。
なお、スマートフォン筐体のサイズは幅70mm×長さ140mmで、筐体の角部は高さ方向の曲率半径がR=5mmで、平面方向の曲率半径R=5mm、絞り深さ10mmであった。
【0094】
<外観評価>
積層体(2)について、平面形状、及び曲面形状における外観を目視観察し、下記の基準で評価した。
平面形状における外観については、積層体(2)の平坦部に離型シート起因のシワが形成されたものについては×、シワなく成形できたものについては○とした。
また、曲面形状における外観については、積層体(2)の角部に離型シート起因のシワが形成されたもの、及び、シワはないが離型シートの裂けや、側面下部での剥離シートの局所的な伸び起因の薄層化や破断切れが起こったものは×、シワなく成形できたものについては○とした。
また、ピンホールについては、ボイド状の外観欠点が1つでも確認されたものについては×、1つも形成されていないものは○と判断した。
【0095】
〔実施例2~16、比較例3~5〕
熱転写層、離型シート、樹脂部材及び成形温度Tβ℃を表1及び2のように変更した以外は、実施例1と同様にして熱転写シート、積層体(1)、接合構造体、塗装物及び積層体(2)を作製し、実施例1と同様にして各測定及び各評価を行った。
なお、実施例1と実施例5~7は、熱転写層の厚みが異なる。また、実施例1と実施例8は熱転写シートとしては同じものを使用しており、成形温度Tβ℃が異なる。また、実施例3と実施例10は熱転写シートとしては同じものを使用しており、成形温度Tβ℃が異なる。また、実施例4と実施例9は熱転写シートとしては同じものを使用しており、成形温度Tβ℃が異なる。また、実施例12~14は熱転写シートとしては同じものを使用しており、成形温度Tβ℃が異なる。
【0096】
<熱硬化性樹脂の硬化温度(T2)>
熱硬化樹脂の硬化前の樹脂を5mg切り出し、DSC(示差操作型熱分析)測定を行った。
・装置:TA Instruments製 高感度DSC Q2000
・雰囲気ガス:N2(50ml/min)
・昇温速度:2℃/min
・温度条件:-30℃→300℃
上記条件で測定を行った際の硬化に伴う発熱曲線のピーク温度を硬化温度(T2)とした。
【0097】
〔比較例1~2〕
比較例1~2においては、熱転写シートの熱転写層を設けずに離型シートのままで樹脂部材に重ねてプレス加工を行った。その後、離型シートを除去し、熱転写層を有さないプレス加工後の樹脂部材を用いて、実施例1と同様にして接合構造体を作製し、せん断接着力評価を行った。
また、熱転写層を有さないプレス加工後の樹脂部材に対して、直接スプレーでソフト99コーポレーション(株)製「ボディーペン」アクリル系塗料(自動車用)を塗装し、膜厚50μmの塗膜を備えた塗装物を作製し、塗装密着性評価を行った。
また、熱転写シートの熱転写層を設けずに離型シートのままで樹脂部材に重ね、スマートフォン筐体型の金型で成形し、外観評価を行った。
【0098】
実施例1~16、比較例1~5の各評価結果について下記表1及び2に記載した。
【0099】
ここで、実施例2の離型シートについて成形温度Tβ℃での引張試験により測定された応力歪み曲線を
図7に示す。
図7に示すように、この応力歪み曲線は降伏点を有していない。また、破断点伸びは357%である。さらに、弾性変形領域と塑性変形領域の変曲点から50%伸長後の塑性変形領域の傾きaとして、弾性領域から塑性領域に移行する時に変曲点が存在するため、変曲点から50%経過した点を起点に以下の式(i)により傾きaを求めると、13.7となる。
a=((S2-S1)/(E2-E1))×100 (i)
E1:(変曲点の伸び+50)(%)
E2:((変曲点の伸び+50)+30)(%)
S1:(変曲点の伸び+50)(%)時の応力(MPa)
S2:((変曲点の伸び+50)+30)(%)時の応力(MPa)
【0100】
また、比較例5の離型シートについて成形温度Tβ℃での引張試験により測定された応力歪み曲線を
図8に示す。
図8に示すように、この応力歪み曲線は降伏点を有する。また、破断点伸びは580%である。さらに、弾性変形領域と塑性変形領域の変曲点から50%伸長後の塑性変形領域の傾きaは0.3である。
【0101】
【0102】
【0103】
表中に記載の離型シートは下記のとおりである。
OT-P2171:東洋紡株式会社製 二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)
V-01:厦門新旺新材料科技有限公司社製 未延伸ポリアミド6フィルム(PA6)
R-08:厦門新旺新材料科技有限公司社製 未延伸ポリアミド66フィルム(PA66)
CF200:Textiles Coated International社製 キャスト成形ポリテトラフルオロエチレンフィルム(キャストPTFE)
ETFE MR:Textiles Coated International社製 未延伸押出成形エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体フィルム(未延伸ETFE)
MRF:三菱ケミカル株式会社製 二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)/シリコーン処理)
ニフトロンNo.900UL:日東電工株式会社製 切削成形ポリテトラフルオロエチレンフィルム(切削PTFE)
G930E50:三菱ケミカル株式会社製 易成形ポリエチレンテレフタレート(易成形PET)
G980E50:三菱ケミカル株式会社製 易成形ポリエチレンテレフタレート(易成形PET)
TPX 88BMT4:三井化学株式会社製 未延伸ポリメチルペンテンフィルム(PMP)
FMN-50WD:株式会社フジコー製 二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET/シリコーン処理)
MRF、FMN-50WDについてはシリコーン処理面に熱転写層を塗布した。
OT-P2171、CF200、ETFE MR、ニフトロンNo.900UL、TPX 88BMT4については未処理の状態で熱転写層を塗布した。
その他の離型シートは片面にシリコーン処理を施し、シリコーン処理面に熱転写層を塗布した。
【0104】
また、表中に記載の樹脂部材は下記のとおりである。
C-EpTP:一方向長繊維カーボンファイバー強化熱可塑性エポキシ樹脂
C-EpTS:綾織カーボンファイバー強化熱硬化性エポキシ樹脂
【0105】
実施例1~16では、離型シートが引張試験において降伏点を持たず、破断点伸びが100~600%の範囲であることで、積層体の外観が良好であり、それにより、熱転写層が樹脂部材に強固に密着するとともに、均一で平滑な熱転写層が形成できた。そのため、塗装密着性が良好な塗装物と、接着性が良好な接合構造体を得ることができた。
それに対し、比較例1および2では、離型シートは所定の応力ひずみ曲線であるが、熱転写層がないため、良好な塗装密着性と接着性が得られなかった。
比較例3では、離型シートは引張試験において降伏点を持たないが、破断点伸びが小さいため、角部でシワや破れが生じてしまった。
比較例4~5では、離型シートが引張試験において降伏点を持つため、局部的な伸びが生じて角部の下方部で離型シートが薄くなって擦り切れてしまっていた。
【符号の説明】
【0106】
10 熱転写層
20 離型シート
30 塗膜
40 接着剤層
50 被着体
100 樹脂部材
200 熱転写シート
300 塗装物
400 接合構造体
500 積層体
600 接着シート