(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】動力伝達機構
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20250204BHJP
H02K 7/14 20060101ALI20250204BHJP
H02K 7/11 20060101ALI20250204BHJP
F16H 49/00 20060101ALI20250204BHJP
【FI】
H02P29/024
H02K7/14 Z
H02K7/11
F16H49/00 A
(21)【出願番号】P 2020207607
(22)【出願日】2020-12-15
【審査請求日】2023-11-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】弁理士法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 貴郁
(72)【発明者】
【氏名】井上 博登
(72)【発明者】
【氏名】佐原 琢郎
(72)【発明者】
【氏名】福島 龍
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】内田 和秀
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-163719(JP,A)
【文献】特開平11-13856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/024
H02K 7/14
H02K 7/11
F16H 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁力によって駆動力を出力するモータ部(11)と、前記モータ部の作動に伴って回転する駆動側軸(14、33s)と、前記駆動側軸の端部に配置された駆動側マグネット(20)とを有する駆動側機構部(10)と、
前記駆動側軸から伝達された前記駆動力によって回転する従動側軸(41)と、前記従動側軸の端部に配置された従動側マグネット(40)と、を有し、前記駆動側機構部から区画されて設けられた従動側機構部(35)と、
前記駆動側マグネットと、前記従動側マグネットを有し、前記駆動側軸と、前記従動側軸とを、磁力を利用して非接触で連結する非接触連結部(60)と、
前記駆動側マグネットの動作に関する回転負荷の変動を用いて、前記従動側マグネットのロックが発生しているか否かを判定するロック判定部(71)と、を有
し、
前記駆動側機構部(10)は、前記モータ部で出力される角速度を、予め定められた減速比で減速して、前記駆動側マグネットの角速度とする減速機構部(30)を有し、
前記非接触連結部(60)は、前記駆動側マグネットと前記従動側マグネットにより構成されるマグネットカップリング(60a)であり、
前記モータ部の極数に前記減速機構部の前記減速比を乗算した値が、前記マグネットカップリングの極数と異なっており、且つ、前記減速機構部の前記減速比が、前記マグネットカップリングの極数と異なっている動力伝達機構。
【請求項2】
前記ロック判定部(71)は、前記モータ部に対する入力電流の周波数分析を行い、予め定められた特定周波数(fs)の前記入力電流が基準値を超えた場合、前記従動側マグネットのロックが発生していると判定する
請求項1に記載の動力伝達機構。
【請求項3】
前記モータ部(11)は、三相モータ(11a)であり、
前記ロック判定部(71)は、前記三相モータの駆動電流に対する周波数分析を行い、予め定められた特定周波数(fs)の前記駆動電流が基準値を超えた場合、前記従動側マグネットのロックが発生していると判定する
請求項1に記載の動力伝達機構。
【請求項4】
前記モータ部(11)は、整流子及びブラシを有する直流モータ(11c)であり、
前記ロック判定部(71)は、前記直流モータの駆動電流に対する周波数分析を行い、予め定められた特定周波数(fs)の前記駆動電流が基準値を超えた場合、前記従動側マグネットのロックが発生していると判定する
請求項1に記載の動力伝達機構。
【請求項5】
前記モータ部(11)は、三相モータ(11a)であり、
予め定められた三角波と前記回転負荷の変動に連動して定められる判定電圧の関係から、前記三相モータにおけるオン時間とオフ時間の比であるデューティー比を特定する為の三相インバータ回路(72)を有し、
前記ロック判定部(71)は、前記回転負荷の変動に連動して変化する前記判定電圧に対する周波数分析を行い、予め定められた特定周波数(fs)の前記判定電圧が基準値を超えた場合に、前記従動側マグネットのロックが発生していると判定する
請求項1に記載の動力伝達機構。
【請求項6】
前記モータ部(11)は、三相モータ(11a)であり、
前記ロック判定部(71)は、前記三相モータにおける何れか一相の電流に対する周波数分析を行い、予め定められた特定周波数(fsa、fsb)の前記一相の電流が基準値を超えた場合、前記従動側マグネットのロックが発生していると判定する
請求項1に記載の動力伝達機構。
【請求項7】
前記モータ部(11)は、三相モータ(11a)であり、
前記ロック判定部(71)は、前記三相モータの何れか二相に関する線間電圧に対する周波数分析を行い、予め定められた特定周波数(fsa、fsb)の前記線間電圧が基準値を超えた場合、前記従動側マグネットのロックが発生していると判定する
請求項1に記載の動力伝達機構。
【請求項8】
前記駆動側機構部(10)に配置され、前記回転負荷の変動に伴う振動に起因した加速度を検出する加速度センサ(73d)を有し、
前記ロック判定部(71)は、前記加速度センサで検出された前記加速度に対する周波数分析を行い、予め定められた特定周波数(fs)の前記加速度の変化が基準値を超えた場合、前記従動側マグネットのロックが発生していると判定する
請求項1に記載の動力伝達機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、駆動側機構部で生じた動力を従動側機構部側へ伝達する動力伝達機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モータ部にて生じた動力を伝達させて、従動側の構成を動作させる技術として、特許文献1に記載された技術が知られている。特許文献1には、大気側にモータのステータを配置して、冷媒封止されたCAN構造の内部にロータを配置することで、高圧冷媒雰囲気側の出力軸を回転させる膨張弁に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
特許文献1に記載された技術の場合、モータが重力方向上方側になるように配置しなければ、ロータとケーシングの内壁にオイルが流入する虞がある。オイルが流入すると、オイルの粘性抵抗によってロータの回転が阻害される為、出力軸の回転に影響が及んでしまう。又、ケーシング内に配置された減速ギヤのグリスがオイルによって洗い流されてしまう虞がある。この為、動力伝達機構を有する装置に関して、搭載自由度に制約が生じてしまう。
【0005】
これらの点に対応する方策として、モータを含む駆動側と、弁体等が配置された従動側を、磁力を用いて非接触に結合する構成を採用することが考えられる。この構成を採用すれば、駆動側と従動側を区画することができ、オイル等に起因する制約を解消することができると考えられる。
【0006】
しかしながら、駆動側と従動側とを、磁力を用いて非接触に結合した構成とした場合、従動側がロックしてしまっても、駆動側の動作は許容される。この為、従動側におけるロックの発生を、駆動側の動作によって検知することが困難になる。この点については、特許文献1のように、従動側がロックしてしまうと駆動側の動作も制限される構成とは明確に相違する。
【0007】
本開示は、上記点に鑑み、駆動側機構部で生じた動力を、磁力を用いて非接触で結合された従動側機構部に伝達する動力伝達機構に関し、従動側のロックを検出可能な動力伝達機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本開示の一態様に係る動力伝達機構は、駆動側機構部(10)と、従動側機構部(35)と、非接触連結部(60)と、ロック判定部(71)と、を有する。駆動側機構部は、モータ部(11)と、駆動側軸(14、33s)と、駆動側マグネット(20)とを有する。モータ部は電磁力によって駆動力を出力する。駆動側軸はモータ部の作動に伴って回転する。駆動側マグネットは、駆動側軸の端部に配置されている。
【0009】
従動側機構部は、従動側軸(41)と、従動側マグネット(40)と、を有し、駆動側機構部から区画されて設けられている。従動側軸は駆動側軸から伝達された駆動力によって回転する。従動側マグネットは従動側軸の端部に配置されている。
【0010】
非接触連結部は、駆動側マグネットと、従動側マグネットを有し、駆動側軸と、従動側軸とを、磁力を利用して非接触で連結する。ロック判定部は、駆動側マグネットの動作に関する回転負荷の変動を用いて、従動側マグネットのロックが発生しているか否かを判定する。駆動側機構部(10)は、モータ部で出力される角速度を、予め定められた減速比で減速して、駆動側マグネットの角速度とする減速機構部(30)を有している。非接触連結部(60)は、駆動側マグネットと従動側マグネットにより構成されるマグネットカップリング(60a)である。モータ部の極数に減速機構部の減速比を乗算した値が、マグネットカップリングの極数と異なっており、且つ、減速機構部の減速比が、マグネットカップリングの極数と異なっている。
【0011】
これによれば、動力伝達機構では、駆動側機構部の駆動側軸と、従動側機構部の従動側軸が、非接触連結部にて、磁力を利用して非接触で連結されている。この為、駆動側軸と共に駆動側マグネットが回転している状態で、従動側マグネット及び従動側軸がロックした場合、駆動側マグネットと従動側マグネットの間に作用する磁力の影響で、駆動側軸及び駆動側マグネットの回転負荷が周期的に変動する。動力伝達機構によれば、駆動側機構部における回転負荷の変動を用いることによって、別に区画された従動側機構部における従動側マグネットのロックが発生しているか否かを判定することができる。
【0012】
尚、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係る膨張弁の構成を示す断面図である。
【
図2】第1実施形態における動力伝達機構の構成を示す説明図である。
【
図3】第1実施形態に係る膨張弁の制御系を示すブロック図である。
【
図4】第1実施形態における入力電流に対する周波数分析の結果を示すグラフである。
【
図5】第1実施形態におけるロック判定制御に関するフローチャートである。
【
図6】第2実施形態に係る膨張弁の構成を示す断面図である。
【
図7】第3実施形態に係る膨張弁の構成を示す断面図である。
【
図8】第3実施形態における動力伝達機構の構成を示す説明図である。
【
図9】第4実施形態に係る膨張弁の構成を示す断面図である。
【
図10】第4実施形態における動力伝達機構の構成を示す説明図である。
【
図11】第5実施形態に係る膨張弁の制御系を示すブロック図である。
【
図12】第5実施形態における駆動電流の包絡線に対する周波数分析の結果を示すグラフである。
【
図13】第6実施形態に係る膨張弁の制御系を示すブロック図である。
【
図14】第6実施形態における駆動電流に対する周波数分析の結果を示すグラフである。
【
図15】第7実施形態に係る膨張弁の制御系を示すブロック図である。
【
図16】第7実施形態における判定電圧に対する周波数分析の結果を示すグラフである。
【
図17】第8実施形態に係る膨張弁の制御系を示すブロック図である。
【
図18】第8実施形態における駆動電流に対する周波数分析の結果を示すグラフである。
【
図19】第9実施形態に係る膨張弁の制御系を示すブロック図である。
【
図20】第9実施形態における線間電圧に対する周波数分析の結果を示すグラフである。
【
図21】第10実施形態に係る膨張弁の構成を示す断面図である。
【
図22】第10実施形態における加速度に対する周波数分析の結果を示すグラフである。
【
図23】ロック判定制御の変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照しながら本開示を実施するための複数の形態を説明する。各実施形態において、先行する実施形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各実施形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の実施形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組合せが可能であることを明示している部分同士の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、明示してなくとも実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0015】
(第1実施形態)
本開示における第1実施形態について、
図1~
図5を参照して説明する。第1実施形態では、本開示に係る動力伝達機構1を膨張弁Evに適用している。膨張弁Evは、いわゆる電気式膨張弁であり、駆動源としてのモータ部で電磁力によって生じた駆動力を伝達し、弁体を移動させることによって冷媒を減圧させる。つまり、動力伝達機構1は、膨張弁Evにおいて、モータ部11で生じた動力を伝達して、弁体48の移動制御を行う為に適用されている。
【0016】
そして、以下の実施形態においては、動力伝達機構1を含む膨張弁Evは、小型で大出力かつ高分解能の電動膨張弁であり、車両用空調装置における冷凍サイクルの構成機器の一つとして配置されている。冷凍サイクルは、図示は省略するが、膨張弁Evに加えて、少なくとも、圧縮機、凝縮器、蒸発器を有している。
【0017】
そして、膨張弁Evは、冷凍サイクルにて凝縮器と蒸発器の間に配置されており、凝縮器から流出した冷媒を減圧させ、蒸発器へ向かって流出させる。又、車両用空調装置は、空調制御装置を有しており、膨張弁Evにおける減圧量(即ち、絞り開度)は、空調制御装置からの制御信号によって制御される。
【0018】
先ず、第1実施形態に係る膨張弁Evの概略構成について、
図1、
図2を参照して説明する。
図1に示すように、第1実施形態に係る膨張弁Evは、本開示に係る動力伝達機構1を含んでおり、駆動側機構部10と、従動側機構部35を有している。
【0019】
膨張弁Evは、車両に縦置き配置されている。縦置き配置とは、弁体48の軸方向が車両上下方向と略平行となり、かつ駆動側機構部10が従動側機構部35に対して車両上方側になるような配置のことである。
【0020】
動力伝達機構1は、駆動側機構部10が発生する駆動力を、磁力を用いて従動側機構部35に伝達する。
【0021】
駆動側機構部10は、モータ部11およびモーターケース15を有している。モータ部11は、ステータ12、ロータ13及びシャフト14を有しており、第1実施形態では、三相モータ11aにより構成されている。シャフト14はロータ13と一体に回転する。従って、シャフトは駆動側軸の一例に相当する。モーターケース15は、従動側機構部35における本体部50の上面を構成する封止板51に対して接合されており、その内部にモータ部11を収容している。
【0022】
ステータ12はモーターケース15に固定されている。第1実施形態において、ステータ12は、円筒状に構成されており、ステータコイル12aを有している。第1実施形態のステータ12は、回路部70を介して、ステータコイル12aに三相交流電流(U相、V相、W相)を通電させることによって、ステータコアの内側に回転磁界を発生させる。第1実施形態におけるステータ12のスロット数は9である。
【0023】
ロータ13は、円筒状に構成されたステータ12の内部に配置されている。
図3に示すように、ロータ13は、N極およびS極からなる一対の磁石が円周方向に沿って複数組配置されている。第1実施形態では、N極及びS極は各6個であるので、ロータ13の極数は12である。
【0024】
モーターケース15には、駆動側機構部10のシャフト14と従動側機構部35の回転部材41とを軸合わせ(芯出し)するため軸合わせ部が形成されている。軸合わせ部は、従動側機構部35の本体部50に嵌め合わされている。そして、
図1に示すように、モーターケース15の内部には、回路部70が収容されている。
【0025】
図1に示すように、従動側機構部35は、回転部材41、雌ネジ部材42、ネジ部材43、ボール44、ボール受け部材45、ガイド部材46、コイルスプリング47、弁体48、及び本体部50を有している。
【0026】
回転部材41、雌ネジ部材42、ネジ部材43、ボール44、ボール受け部材45、ガイド部材46、コイルスプリング47及び弁体48は、本体部50に収容されている。本体部50には、弁室52、流入口側接続口53、流出口側接続口54及び弁座55が形成されている。
【0027】
回転部材41は、棒状の部材であり、本体部50の内部において、回転可能に支持されている。回転部材41は、駆動側機構部10から動力伝達機構1を介して伝達された駆動力によって回転する。従って、第1実施形態の回転部材41は、従動側軸の一例に相当する。
【0028】
そして、回転部材41は、シャフト14と同軸状に配置されている。回転部材41のうち駆動側機構部10と反対側の端部には噛合溝41aが形成されている。回転部材41の噛合溝41aには、ネジ部材43の突出片43aが噛み合っている。ネジ部材43は、回転部材41と同軸状に配置されている。これにより、回転部材41の回転力がネジ部材43に伝達される。
【0029】
突出片43aはネジ部材43の一端に形成されている。ネジ部材43の外周面には雄ネジが形成されている。ネジ部材43の雄ネジは、雌ネジ部材42に形成されたネジ孔42aに螺合していてネジ機構を構成している。雌ネジ部材42は、筒状であり、本体部50の内部に固定されている。これにより、ネジ部材43が回転するとネジ部材43は軸方向に移動する。
【0030】
ネジ部材43のうち回転部材41と反対側の部位には、ボール44が当接している。ボール受け部材45はボール44を受けている。ボール受け部材45のうち弁座55と反対側の端部には、弁体48が連結されている。
【0031】
弁体48は、弁室52内に配置された棒状の部材である。弁体48は、弁室52内に固定されたガイド部材46によって、ネジ部材43と同軸状に配置され、軸方向へ移動可能に保持されている。
【0032】
弁体48及びボール受け部材45と、ガイド部材46との間には、コイルスプリング47が配置されている。コイルスプリング47は、弁体48及びボール受け部材45を、弁体48が弁座55から軸方向に離れる方向に付勢している。
【0033】
従動側機構部35において、ネジ部材43が回転してネジ部材43が軸方向に移動すると、弁体48も軸方向に移動する。弁体48が軸方向に移動することにより弁体48が弁座55に当接したり弁座55から離れたりして弁室52が開閉される。
【0034】
弁室52は、本体部50内部に形成された冷媒流路を介して、流入口側接続口53及び流出口側接続口54に接続されている。流入口側接続口53には、車両用空調装置の冷凍サイクルにおいて、凝縮器の流出口から伸びる冷媒配管が、例えばロウ付けによって接合されている。
【0035】
そして、流出口側接続口54には、車両用空調装置の冷凍サイクルにおいて、蒸発器の流入口に向かって伸びる冷媒配管が、例えばロウ付けによって接合されている。従って、膨張弁Evでは、弁室52内において、弁体48が弁座55から離れることにより、冷媒が流入口側接続口53から流出口側接続口54へ流れて減圧膨張する。
【0036】
図1に示すように、膨張弁Evの動力伝達機構1は、非接触連結部60を備えている。非接触連結部60は、磁気ギヤ60b及び封止板51を有している。磁気ギヤ60bは、駆動側マグネット20、ポールピース25及び従動側マグネット40を備えている。
【0037】
第1実施形態に係る動力伝達機構1において、駆動側マグネット20は、モータ部11のシャフト14の端部に取り付けられており、シャフト14と一体に回転する。従って、モータ部11において、ロータ13を回転させる回転力が伝達されると、駆動側マグネット20は、シャフト14を中心として回転する。
【0038】
そして、駆動側マグネット20は、円板状に形成されており、駆動側マグネット20の下面には、N極20n及びS極20sからなる一対の磁石が、円周方向に沿って少なくとも一組配置されている。第1実施形態における駆動側マグネット20の極数は4である。
【0039】
モーターケース15の内部において、駆動側マグネット20の下方には、ポールピース25が配置されている。つまり、ポールピース25は、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間に配置されており、複数個の軟磁性体を有している。ポールピース25は、駆動側マグネット20と従動側マグネット40との間で磁束を変調させる。
【0040】
図2に示すように、ポールピース25における複数個の軟磁性体は、それぞれ扇台形状であり、モーターケース15の下面に対して接合されている。ポールピース25における複数個の軟磁性体は、円周方向に沿って一定の間隔をあけて配置されている。そして、ポールピース25の極数は、駆動側マグネット20の極数と従動側マグネット40の極数との合計と同じ個数になっている。
【0041】
尚、ポールピース25における各軟磁性体の間に間隔を設けた構成としていたが、各軟磁性体の間に非磁性体を配置する構成としても良い。この場合の非磁性体として、ステンレス又は樹脂を採用しても良い。又、モーターケース15の下面がなく、封止板51にポールピース25が埋め込まれている構成を採用することもできる。
【0042】
従動側マグネット40は、モーターケース15の下面及び封止板51を介して、駆動側マグネット20及びポールピース25と対向するように配置されている。封止板51は、膨張弁Evにおける本体部50の内部空間と外部とを区画すると共に、本体部50の内部空間を封止する。封止板51は、非磁性体(例えば、SUS305)で形成されており、封止板51の外縁は、本体部50の上面に対して固定されている。この為、封止板51は、本体部50の内部空間の冷媒(高圧冷媒)が本体部50の外部に漏れ出すことを防止することができる。
【0043】
従動側マグネット40は、封止板51の下方に位置する本体部50の内部空間に配置されており、円板状に形成されている。従動側マグネット40の上面には、N極40n及びS極40sからなる一対の磁石が円周方向に沿って略等間隔に複数個配置されている。従動側マグネット40の極数は、駆動側マグネット20の極数よりも多くなっており、第1実施形態では40である。
【0044】
従動側マグネット40における下面の中心には、回転部材41が接合されている。上述したように、回転部材41は、シャフト14と同軸状に配置されており、従動側マグネット40と共に回転可能に支持されている。
【0045】
次に、第1実施形態における動力伝達機構1の作動について説明する。モータ部11の作動を開始すると、ロータ13と共にシャフト14が回転して、駆動側マグネット20も一体に回転する。
【0046】
駆動側マグネット20の磁力は、ポールピース25、モーターケース15の下面及び封止板51を介して、従動側マグネット40の磁極に作用する。この時、駆動側マグネット20の磁極と従動側マグネット40の磁極の間を流れる磁束は、中間に配置されたポールピース25によって変調され、従動側マグネット40が駆動側マグネット20の回転方向とは逆方向に回転する。
【0047】
即ち、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間において、モータ部11で生じた動力が、磁力を用いることで、非接触で駆動側機構部10から従動側機構部35へ伝達される。
【0048】
又、従動側マグネット40は、従動側マグネット40の回転速度と駆動側マグネット20の回転速度との関係が予め定められた減速比に従った回転速度となるように回転する。この場合の減速比は、駆動側マグネット20の極数及び従動側マグネット40の極数の比率によって定められる。
【0049】
そして、従動側マグネット40及び回転部材41が回転することによって、モータ部11にて発生した動力が弁体48に伝達され、弁座55に対して弁体48を移動させる。これにより、膨張弁Evは、弁室52における冷媒流路の絞り開度を調整することができ、車両用空調装置の冷凍サイクルにおいて、冷媒を適切に減圧膨張させることができる。
【0050】
次に、第1実施形態に係る回路部70について、
図3を参照して説明する。第1実施形態に係る回路部70は、モーターケース15の内部に配置されている。第1実施形態における回路部70は、モータ部11である三相モータ11aを制御する為の複数の電子部品を搭載した回路基板を有している。
【0051】
図3に示すように、回路部70には、モータ部11である三相モータ11a及びバッテリBが電気的に接続されている。バッテリBは、車両の各種電気機器に電力を供給するもので、例えば、充放電可能な二次電池(本実施形態では、リチウムイオン電池)が採用される。回路部70は、バッテリBからの入力電力の供給を受けて、三相モータ11aを駆動する為の駆動電流を出力する。
【0052】
そして、回路部70は、電子部品として、膨張弁Evの動作を制御する為のECU等の電子部品を有しており、膨張弁Evの動作に関する制御部として働く。回路部70は、ロック判定部71を有している。ロック判定部71は、制御部の一部を構成しており、膨張弁Evの動作に際し、駆動側機構部10で生じた動力が従動側機構部35に伝達されず、従動側にロックが生じているか否かを判定する。
【0053】
具体的に、ロック判定部71は、
図5のフローチャートに示すロック判定制御プログラムを実行することによって、従動側がロックし、弁体48に動作エラーが生じているか否かを判定する。ロック判定制御プログラムの詳細については後述する
又、第1実施形態に係る回路部70には、入力電流センサ73aが接続されている。入力電流センサ73aは、バッテリBから回路部70に入力される入力電流の値を測定する為のセンサである。第1実施形態では、ロック判定部71は、入力電流センサ73aの検出結果に対して、高速フーリエ変換を使った周波数分析を施し、その分析結果に基づいて、従動側にロックが生じているか否かを判定する。
【0054】
上述のように構成された動力伝達機構1において、従動側構成(例えば、従動側マグネット40及び回転部材41)がロックした場合の挙動について説明する。先ず、駆動側機構部10からの動力が従動側構成に正常に伝達され、従動側構成が回転部材41を軸に回転している場合について説明する。
【0055】
第1実施形態における非接触連結部60は、駆動側マグネット20と、ポールピース25と、従動側マグネット40により構成された磁気ギヤ60bである。駆動側マグネット20は、N極20n及びS極20sからなる磁極対を複数(本実施形態では、2対)有している。N極20n及びS極20sは、駆動側マグネット20の下面において、予め定められたピッチで環状となるように配置されている。
【0056】
又、従動側マグネット40は、N極40n及びS極40sからなる磁極対を複数(本実施形態では、20対)有している。N極40n及びS極40sは、従動側マグネット40の上面において、予め定められたピッチで環状となるように配置されている。
【0057】
そして、ポールピース25は、積層ケイ素鋼板等により構成された複数の軟磁性体を有している。各ポールピース25は、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40の磁極の間において、予め定められたピッチで環状になるように配置されている。本実施形態では、ポールピース25として、駆動側マグネット20における磁極対の個数である2と、従動側マグネット40における磁極対の数である20の合計となる22個の軟磁性体が配置されている。22個の軟磁性体は、それぞれ、モーターケース15の下面に対して溶接等により固定されている。
【0058】
又、磁気ギヤ60bでは、モータ部11の動作により駆動側マグネット20が回転すると、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間における磁気的相互作用により、従動側マグネット40及び回転部材41が駆動側マグネット20とは逆方向に回転する。
【0059】
具体的には、駆動側マグネット20における磁束は、所定ピッチをもって配置されたポールピース25によって分断されることで変調される。これにより、駆動側マグネット20に由来する変調磁束は、従動側マグネット40の磁束と噛み合う状態に変調され、従動側マグネット40の磁束と鎖交して、駆動側機構部10からの動力が従動側機構部35に伝達される。
【0060】
この時、駆動側マグネット20が予め定められた方向(例えば、時計回り)に回転すると、従動側マグネット40は、駆動側マグネット20とは逆方向(即ち、反時計回り)に回転する。そして、従動側マグネット40の角速度は、駆動側マグネット20における角速度を予め定められた減速比で減速した値となる。磁気ギヤ60bにおける減速比は、従動側マグネット40に配置されている磁極対の数/駆動側マグネット20に配置されている磁極対の数によって定められる。
【0061】
次に、第1実施形態における磁気ギヤ60bが標準状態にある場合の駆動側マグネット20における回転負荷の変動について説明する。尚、標準状態とは、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間で動力が好適に伝達され、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40が何れも円滑に回転する状態をいう。
【0062】
標準状態において、一回の回転における駆動側マグネット20と駆動側マグネット20の間における回転負荷の変動は、駆動側マグネット20の磁極対の数と、従動側マグネット40の磁極対の数の最小公倍数となる時点で発生する。
【0063】
例えば、標準状態において、駆動側マグネット20が一秒間に時計回りに10回転し、従動側マグネット40が一秒間に反時計回りに1回転する場合、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40における相対的な回転速度差は、1秒間に11回転となる。この為、標準状態における回転負荷の変動は220Hzで発生することになる。
【0064】
続いて、第1実施形態における磁気ギヤ60bがロック状態にある場合における回転負荷の変動について説明する。尚、ロック状態とは、駆動側マグネット20は回転自在な状態であるが、従動側マグネット40が何らかの事由で固着している状態を意味する。
【0065】
上述した標準状態の例を用いて、ロック状態を考察すると、従動側マグネット40とポールピース25の作用によって、駆動側マグネット20とポールピース25の間の空隙に4極の空間高調波が固定された状態になる。このため、駆動側マグネット20の4極とシャフト14の回転数から20Hzの回転負荷の変動を生じる。
【0066】
そして、第1実施形態では、駆動側マグネット20は、シャフト14を介して、モータ部11のロータ13と一体化している。この為、ロック状態における回転負荷の変動が発生すると、駆動側マグネット20の回転負荷の変動は、モータ部11に関する速度フィードバックによって、入力電流の変動として表れる。
【0067】
従って、第1実施形態では、入力電流センサ73aの検出結果に対して、ロック判定部71によって周波数分析を施すことで、
尚、ロック状態において発生する入力電流の変動に係る周波数は、モータ部11に対する駆動電流の変動に係る周波数とは異なっている為、入力電流の変動に係る周波数を特定することで、従動側マグネット40等がロックしたことを検知することができる。
【0068】
そして、標準状態における入力電力に対する周波数分析の結果と、ロック時分析結果RLを比較する際に、ある特定の周波数(以下、特定周波数という)に着目することによって、より容易に、従動側マグネット40等にロックが生じていることがわかる。
【0069】
図4は、入力電流センサ73aの検出結果に対して、ロック判定部71によって周波数分析を施したロック時分析結果RLの一例を示すグラフである。
図4に示すロック時分析結果RLからわかるように、特定周波数fsにおいて、入力電流のピークが表れており、従動側マグネット40等のロックによる回転負荷の変動によるものである。
【0070】
第1実施形態における特定周波数fsのピークは、モータ部11の極数と駆動側マグネット20の極数が異なっている(例えば、モータ部11の極数が12で駆動側マグネット20の極数が4)という条件を満たすことで、より明確に特定することができる。
【0071】
このように、第1実施形態に係る動力伝達機構1によれば、ロック判定部71にて入力電流の周波数分析を行った結果について、標準状態とロック状態を比較することで、従動側マグネット40等にロックが生じているか否かを、容易に判定することができる。
【0072】
続いて、第1実施形態に係る動力伝達機構1におけるロック判定制御の内容について、
図5を参照して説明する。上述したように、動力伝達機構1を含む膨張弁Evは、車両に搭載された車両用空調装置における冷凍サイクルの構成機器として搭載されている。従って、ロック判定制御は、車両が起動された時点で、ロック判定部71により実行される。
【0073】
先ず、車両の起動と共に実行されるステップS1では、駆動側機構部10を構成するモータ部11の駆動が行われる。この時、モータ部11は、ロータ13を一定回転で作動させる。
【0074】
ステップS2に移行すると、ステップS1における入力電流の検出結果に対する信号分析処理が実行される。即ち、ステップS1におけるモータ部11の駆動に際して検出した入力電流の検出結果に対して、高速フーリエ変換を用いた周波数分析が、ロック判定部71によって行われる。
【0075】
ステップS3では、ロック判定条件を満たすか否かが判定される。ロック判定条件とは、従動側マグネット40等がロックしていると判定される条件を意味しており、第1実施形態では、入力電流に対する周波数分析の結果にて、特定周波数fsにおける入力電流の値が基準値を超えることである。
【0076】
尚、基準値とは、標準状態を基準として定められ、例えば、標準状態における入力電流に対する周波数分析の結果にて、特定周波数fsにおける入力電流の値に基づいて定められる。
【0077】
入力電流に対する周波数分析の結果にて、特定周波数fsにおける入力電流の値が基準値を超えていた場合、ステップS12に処理を移行し、そうでない場合は、ステップS4に処理を進める。
【0078】
ステップS4においては、エアコン起動信号を受信したか否かが判定される。エアコン起動信号は、車両用空調装置を構成する空調制御装置から出力される制御信号であり、例えば、車両の操作パネルを用いて、空調運転の開始を指示する操作が行われた場合に出力される。エアコン起動信号を受信していない場合は、エアコン起動信号を受信するまで、処理を待機し、エアコン起動信号を受信した場合、ステップS5に処理を進める。
【0079】
ステップS5に移行すると、車両用空調装置における空調運転の開始に伴う初期化処理の一つとして、駆動側機構部10を構成するモータ部11の駆動が行われる。この場合もステップS1と同様に、モータ部11は、ロータ13を一定回転で作動させる。
【0080】
ステップS6においては、ステップS5における入力電流の検出結果に対する信号分析処理が実行される。即ち、ステップS5におけるモータ部11の駆動に際して検出した入力電流の検出結果に対して、高速フーリエ変換を用いた周波数分析が、ロック判定部71によって行われる。
【0081】
ステップS7では、ステップS3と同様に、ロック判定条件を満たすか否かが判定される。入力電流に対する周波数分析の結果にて、特定周波数fsにおける入力電流の値が基準値を超えていた場合、ステップS12に処理を移行し、そうでない場合は、ステップS8に処理を進める。
【0082】
ステップS8においては、ステップS4~ステップS7において、従動側マグネット40等のロックが発生していないと判定されている為、エアコン起動信号に基づいて、車両用空調装置における空調運転が開始される。
【0083】
この時、車両用空調装置では、空調制御用のセンサ群の検出信号および操作パネルからの操作信号に基づいて運転モードが選定され、選定された運転モードに基づいて車両用空調装置の各構成機器に対する制御信号が出力される。従って、膨張弁Evに対しては、運転モードに基づく開度制御を実現する為に、モータ部11の駆動制御信号が出力される。
【0084】
ステップS9では、車両用空調装置の空調運転中において、駆動側機構部10を構成するモータ部11の駆動が行われる。車両用空調装置の空調運転が実行されている為、膨張弁Evのモータ部11には、空調運転の態様に応じた絞り開度を実現する為の制御信号が出力され、モータ部11は、制御信号に基づいてロータ13を作動させる。
【0085】
ステップS10においては、ステップS9における膨張弁Evの開度制御に伴う入力電流の検出結果に対する信号分析処理が実行される。即ち、ステップS10におけるモータ部11の駆動に際して検出した入力電流の検出結果に対して、高速フーリエ変換を用いた周波数分析が、ロック判定部71によって行われる。
【0086】
ステップS11では、ステップS3、ステップS7と同様に、ロック判定条件を満たすか否かが判定される。入力電流に対する周波数分析の結果にて、特定周波数fsにおける入力電流の値が基準値を超えていた場合、ステップS12に処理を移行し、そうでない場合は、ステップS9に処理を戻し、空調運転中における従動側マグネット40等のロック判定を継続する。
【0087】
ステップS12に移行すると、ステップS3、ステップS7、ステップS11にてロック判定条件を満たすと判定されたことに基づいて、ロック発生信号を出力する。ロック発生信号は、従動側マグネット40や回転部材41が固着してロックしている状態であることを示す信号である。ロック発生信号を出力した後、ロック判定制御を終了する。
【0088】
尚、ロック発生信号の出力先としては、例えば、車両用空調装置の空調制御装置や、車両本体側の制御装置にすることができる。ロック発生信号を空調制御装置に対して出力した場合、空調制御装置は、動力伝達機構1の動作(即ち、膨張弁Evの動作)を停止させる。又、ステップS7、ステップS11において、ロック判定条件を満たした場合については、車両用空調装置の空調運転を停止させても良い。
【0089】
第1実施形態に係る動力伝達機構1によれば、
図5に示すロック判定制御を実行することによって、従動側マグネット40等にロックが発生しているか否かを常時監視することができる。つまり、従動側マグネット40等にロックが発生した時点で、ロックの発生を認知して、ロックを解消する為の対応策をとることができる。
【0090】
以上説明したように、第1実施形態に係る動力伝達機構1によれば、駆動側機構部10のシャフト14と、従動側機構部35の回転部材41が、非接触連結部60である磁気ギヤ60bにて、磁力を利用して非接触で連結されている。この為、駆動側マグネット20が回転している状態で、従動側マグネット40及び回転部材41がロックすると、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間における磁力の影響で、シャフト14及び駆動側マグネット20の回転負荷が周期的に変動する。
【0091】
動力伝達機構1によれば、駆動側機構部10における回転負荷の変動を用いることによって、別に区画された従動側機構部35における従動側マグネット40のロックが発生しているか否かを判定することができる。
【0092】
図1、
図2に示すように、第1実施形態に係る動力伝達機構1における非接触連結部60は、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間に、ポールピース25を配置した磁気ギヤ60bにより構成されている。そして、この構成において、モータ部11の極数が駆動側マグネット20におけるN極20n及びS極20sを合算した極数と異なっている。
【0093】
これにより、
図5に示すロック判定制御における周波数分析において、特定周波数fsを明確に区別することができ、ロック判定条件を満たすか否かの判定精度を向上させることができる。モータ部11の駆動電流と異なる周波数で、ロック判定条件を満たすか否かを判定できるので、機器の経年劣化等で発生する駆動電流の増加等に起因する誤検知を抑制することができる。
【0094】
そして、
図3~
図5に示すように、第1実施形態に係る動力伝達機構1において、モータ部11の入力電流に対する周波数分析が行われ、特定周波数fsにおける入力電流が基準値を超えた場合に、従動側マグネット40のロックが発生していると判定される。
【0095】
これにより、比較的検出が容易な入力電流の変動に基づいて、駆動側機構部10とは区画された従動側機構部35における従動側マグネット40のロックを、精度良く判定することができる。
【0096】
(第1実施形態の変形例)
上述した第1実施形態においては、モータ部11の極数と駆動側マグネット20の極数が異なるように構成されていることを条件として、ロック時分析結果RLにおける特定周波数fsの値を用いて、ロック判定条件を満たすか否かを判定していた。
【0097】
第1実施形態に係る変形例として、ロック判定条件を、2種類の特定周波数fs及び特定周波数fssの値を用いるように構成することも可能である。
【0098】
この態様を採用する際の条件の一つとして、モータ部11の極数の1/2が、駆動側マグネット20における極数の1/2と従動側マグネット40における極数の1/2の最小公倍数と異なっていることが挙げられる。この条件を満たすことによって、
図4に示すロック時分析結果RLにおける特定周波数fsにおけるピークを用いて、ロック判定条件を満たすか否かを判定することができる。
【0099】
又、モータ部11の極数とモータ部11のステータ12における突極数の最小公倍数が、駆動側マグネット20における極数の1/2と従動側マグネット40における極数の1/2の最小公倍数と異なっているという条件を満たしている。これにより、特定周波数fssの値を利用することができ、
図4に示すように、特定周波数fssは、特定周波数fsよりも高い周波数を示している。
【0100】
このように、ロック判定条件に際して、特定周波数fsの値による判定と、特定周波数fssの値による判定を用いることによって、より高い精度をもって、従動側マグネット40等のロックが生じているか否かを判定することができる。
【0101】
(第2実施形態)
次に、第1実施形態と異なる第2実施形態について、
図6を参照して説明する。第2実施形態では、非接触連結部60の構成が第1実施形態と相違している。その他の構成については、第1実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0102】
図6に示すように、第2実施形態に係る膨張弁Evにおいても、動力伝達機構1が配置されている。第2実施形態の動力伝達機構1には、非接触連結部60として、マグネットカップリング60aが採用されている。マグネットカップリング60aは、駆動側マグネット20と、従動側マグネット40によって構成されている。つまり、マグネットカップリング60aの場合、上述した磁気ギヤ60bと異なり、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間に、ポールピース25が配置されていない。
【0103】
第2実施形態に係る駆動側マグネット20は、第1実施形態と同様に、円板状に形成されており、駆動側マグネット20の下面には、N極20n及びS極20sからなる一対の磁石が、円周方向に沿って少なくとも一組配置されている。第2実施形態における駆動側マグネット20の極数は8である。
【0104】
そして、第2実施形態に係る従動側マグネット40は、第1実施形態と同様に、円板状に形成されており、
図6に示すように、封止板51の下方に位置する本体部50の内部空間に配置されている。従動側マグネット40の上面には、N極40n及びS極40sからなる一対の磁石が円周方向に沿って略等間隔に複数個配置されている。第2実施形態における従動側マグネット40の極数は、駆動側マグネット20の極数と同数であり、8である。
【0105】
第2実施形態における駆動側マグネット20の磁極の数と従動側マグネット40の磁極の数が同数である為、駆動側マグネット20と従動側マグネット40は、磁気的相互作用によって同期して回転する。つまり、従動側マグネット40の回転速度は、駆動側マグネット20の回転速度と等しくなる。
【0106】
第2実施形態によれば、モーターケース15及び封止板51を介して、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間で磁気的相互作用を発揮させることで、駆動側機構部10で生じた動力を、磁力を用いて従動側機構部35に伝達することができる。
【0107】
第2実施形態に係る動力伝達機構1においても、従動側マグネット40等が固着したロック状態になった場合、駆動側マグネット20側は、制限を受けることなく回転し続けることができる。この場合、マグネットカップリング60aの極数(即ち、駆動側マグネット20の極数又は従動側マグネット40の極数)に応じて、駆動側マグネット20に対する回転負荷の変動が特定周波数fsで発生する。
【0108】
そして、第2実施形態においても、回転負荷の変動は速度フィードバックによって入力電流等の変動となって現れる。この結果、第2実施形態に係る動力伝達機構1でも、入力電流等に対して周波数分析を施すことで、従動側マグネット40等のロックが発生したことを検知することができる。
【0109】
そして、この構成において、モータ部11の極数がマグネットカップリング60aの極数と異なっている。マグネットカップリング60aの極数は、駆動側マグネット20におけるN極20n及びS極20sを合算した極数であり、従動側マグネット40におけるN極40n及びS極40sを合算した極数である。
【0110】
これにより、第2実施形態に係る動力伝達機構1においても、ロック判定制御における周波数分析にて、上述した実施形態と同様に、特定周波数fsを明確に区別することができ、ロック判定条件を満たすか否かの判定精度を向上させることができる。
【0111】
以上説明したように、第2実施形態に係る動力伝達機構1によれば、非接触連結部60がマグネットカップリング60aにて構成されている場合であっても、上述した実施形態と同様の構成から、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0112】
即ち、第2実施形態に係る動力伝達機構1によれば、非接触連結部60としてマグネットカップリング60aを採用した場合でも、駆動側機構部10とは別に区画された従動側機構部35における従動側マグネット40のロックを、精度良く判定できる。
【0113】
又、第2実施形態においては、モータ部11の極数が、マグネットカップリング60aの極数と異なっている。この為、第2実施形態に係る動力伝達機構1においても、ロック判定制御における周波数分析にて、上述した実施形態と同様に、特定周波数fsを明確に区別することができる。
【0114】
(第3実施形態)
続いて、上述した実施形態と異なる第3実施形態について、
図7、
図8を参照して説明する。第3実施形態では、駆動側機構部10の構成が上述した実施形態と相違している。従動側機構部35等の構成については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0115】
図7、
図8に示すように、第3実施形態に係る動力伝達機構1では、モータ部11で生じた動力は、減速機構部30を介して、駆動側マグネット20に伝達されるように構成されている。
【0116】
第3実施形態に係る減速機構部30は、遊星歯車機構によって構成され、太陽歯車31と、リングギヤである出力ギヤ33と、これらのギヤと噛み合う3つの遊星歯車32を回転自在に支持するキャリヤとを有している。減速機構部30は、遊星歯車機構の差動を利用して、モータ部11のロータ13の回転を大きく減速して、駆動側マグネット20に伝達している。
【0117】
第3実施形態に係る動力伝達機構1において、シャフト14の下端部には、太陽歯車31が取り付けられている。上述したように、シャフト14はロータ13と一体的に回転する為、太陽歯車31はロータ13の回転と同期して回転する。
【0118】
上述したように、出力ギヤ33はリングギヤによって構成されており、リングギヤの内側に予め定められた歯数の内歯を有している。
図7、
図8に示すように、太陽歯車31は出力ギヤ33に係るリングの中央部に配置されている。
【0119】
キャリヤは、リング状に形成されており、太陽歯車31の外歯と出力ギヤ33の内歯の間に位置するように、モーターケース15に固定されている。3つの遊星歯車32は、太陽歯車31の外歯と、出力ギヤ33の内歯と夫々噛み合うように配置されており、キャリヤによって回転自在に支持されている。
【0120】
このように構成することで、減速機構部30では、太陽歯車31の回転が、予め定められた減速比で減速されて出力ギヤ33に伝達される。出力ギヤ33には、出力軸33sが取り付けられている。第3実施形態において、出力軸33sは、シャフト14及び回転部材41と同軸状に配置されており、出力ギヤ33と共に回転する。
【0121】
図7、
図8に示すように、第3実施形態では、出力軸33sの下端部に対して、駆動側マグネット20が取り付けられている。駆動側マグネット20は、出力ギヤ33の回転に伴って一体的に回転する。つまり、第3実施形態において、モータ部11のロータ13の回転は、予め定められた減速比で減速されて、出力ギヤ33に伝達されるので、駆動側マグネット20は、モータ部11によって回転させられる。
【0122】
そして、第3実施形態に係る動力伝達機構1において、非接触連結部60として、マグネットカップリング60aが採用されており、駆動側マグネット20と、従動側マグネット40によって構成されている。マグネットカップリング60aの構成及び作用については、第2実施形態において既に説明済みである為、再度の説明は省略する。
【0123】
従って、第3実施形態においても、回転負荷の変動は速度フィードバックによって入力電流等の変動となって現れる。この結果、第3実施形態に係る動力伝達機構1でも、入力電流等に対して周波数分析を施すことで、従動側マグネット40等のロックが発生したことを検知することができる。
【0124】
そして、第3実施形態において、モータ部11の極数に対して減速機構部30の減速比を乗算した値が、マグネットカップリング60aの極数と異なっているという条件を満たすように構成されている。更に、第3実施形態では、減速機構部30の減速比がマグネットカップリング60aの極数と異なっているという条件を満たすように構成されている。
【0125】
このように構成することで、第3実施形態に係る動力伝達機構1でも、ロック判定制御における周波数分析にて、上述した実施形態と同様に、特定周波数fsを明確に区別することができ、ロック判定条件を満たすか否かの判定精度を向上させることができる。
【0126】
以上説明したように、第3実施形態に係る動力伝達機構1によれば、モータ部11から駆動側マグネット20の間に減速機構部30を配置した構成であっても、上述した実施形態と同様の構成から、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0127】
即ち、第3実施形態に係る動力伝達機構1によれば、減速機構部30を介して、駆動側マグネット20に動力を伝達する構成とした場合でも、駆動側機構部10とは別に区画された従動側機構部35における従動側マグネット40のロックを、精度良く判定できる。
【0128】
又、第3実施形態においては、モータ部11の極数に減速機構部30の減速比を乗算した値が、マグネットカップリング60aの極数と異なっており、且つ、減速機構部30の減速比がマグネットカップリング60aの極数と異なるように構成されている。この為、第3実施形態に係る動力伝達機構1においても、ロック判定制御における周波数分析にて、上述した実施形態と同様に、特定周波数fsを明確に区別することができる。
【0129】
(第4実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第4実施形態について、
図9、
図10を参照して説明する。第4実施形態では、駆動側機構部10におけるモータ部11の構成が上述した実施形態と相違している。従動側機構部35及び非接触連結部60等の構成については、上述した第1実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0130】
図9、
図10に示すように、第4実施形態に係る動力伝達機構1では、モータ部11として、アキシャルギヤップモータ11bが採用されている。アキシャルギヤップモータ11bは、ステータ12と、ロータ13と、シャフト14を有しており、ステータ12及びロータ13がシャフト14の軸方向に重なるように配置されている。
【0131】
アキシャルギヤップモータ11bは、ステータ12及びロータ13が軸方向に重なるように配置することで、ステータ12とロータ13の対向面積を確保することができる。即ち、アキシャルギヤップモータ11bは、モータ部11の薄型化と、高トルクの維持を両立させている。
【0132】
アキシャルギヤップモータ11bにおけるステータ12は、環状に形成されたバックヨークと、バックヨークから垂直に伸びる複数のティースを有するステータコアに対して、三相(即ち、U相、V相、W相)のステータコイル12aを巻回して構成されている。
【0133】
図10に示すように、ロータ13は、円板状に形成されており、ステータ12の下側において、同軸上に配置されている。ロータ13には、ロータマグネットが円環状に設けられており、ステータ12における複数のティースと対向するように配置されている。そして、ロータ13の中心部には、シャフト14の一端部が接合されている。ロータ13より下方に伸びるシャフト14の他端部には、駆動側マグネット20が取り付けられている。
【0134】
従って、第4実施形態においても、アキシャルギヤップモータ11bの動作によってロータ13が回転すると、駆動側マグネット20は、ロータ13及びシャフト14と一体的に回転する。又、
図9に示すように、モーターケース15の内部において、駆動側マグネット20の下方には、第1実施形態と同様に、ポールピース25が配置されている。
【0135】
つまり、第4実施形態に係る動力伝達機構1によれば、アキシャルギヤップモータ11bで生じた動力を、非接触連結部60である磁気ギヤ60bを介して、従動側機構部35の従動側マグネット40及び弁体48に伝達することができる。
【0136】
そして、第4実施形態に係る動力伝達機構1においても、駆動側マグネット20に係る回転負荷の変動は入力電流等に影響を及ぼす為、第1実施形態と同様に、従動側マグネット40等のロックが発生したことを検知することができる。
【0137】
以上説明したように、第4実施形態に係る動力伝達機構1によれば、駆動側機構部10のモータ部11として、アキシャルギヤップモータ11bを採用した場合であっても、上述した実施形態と同様の構成から、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0138】
即ち、第4実施形態に係る動力伝達機構1によれば、モータ部11をアキシャルギヤップモータ11bで構成とした場合でも、駆動側機構部10とは別に区画された従動側機構部35における従動側マグネット40のロックを、精度良く判定できる。
【0139】
尚、第4実施形態において、アキシャルギヤップモータ11bのロータ13と、駆動側マグネット20を一体化して、円盤状に構成することも可能である。この場合、円盤状に形成された磁石の上面を、アキシャルギヤップモータ11bのステータ12と作用させて電磁力を発生させ、円盤状の磁石の下面をポールピース25と作用させる。非接触連結部60をマグネットカップリング60aで構成した場合、円盤状の磁石の下面を、従動側マグネット40の上面と作用させる。
【0140】
(第5実施形態)
続いて、上述した実施形態と異なる第5実施形態について、
図11、
図12を参照して説明する。第5実施形態では、従動側マグネット40等のロックが発生していることを判定する判定手法が上述した実施形態と相違している。駆動側機構部10、従動側機構部35等の基本的な構成については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0141】
図11に示すように、第5実施形態に係る動力伝達機構1において、駆動側機構部10を構成するモータ部11として、三相モータ11aが採用されている。そして、第5実施形態に係る回路部70は、ロック判定部71と、三相インバータ回路72と、駆動電流センサ73bを有している。
【0142】
ロック判定部71は、第1実施形態と同様である。又、駆動電流センサ73bは、三相モータ11aにおける各相のステータコイル12aに供給される駆動電流を検出する為のセンサである。
【0143】
そして、三相インバータ回路72は、バッテリBから供給される直流電力を交流電力に変換する電力変換回路であり、複数のMOSFETを組み合わせて構成されている。
図11に示すように、三相インバータ回路72は、バッテリBと三相モータ11aと電気的に接続されており、バッテリBの直流電力を三相交流に変換して、三相モータ11aの各相のステータコイル12aに供給する。
【0144】
第5実施形態に係る三相インバータ回路72は、整流回路(RCF)と、包絡線検波器(ENV)とを有している。整流回路は、三相信号をアナログ信号に変換することにより三相交流波形を生成すると共に、三相交流波形を全波整流する。包絡線検波器は、全波整流波形の包絡線を検出して出力する。
【0145】
次に、第5実施形態におけるロック判定制御について、
図12を参照して説明する。非接触連結部60がロック状態にある場合、駆動側マグネット20側は回転するが、従動側マグネット40は停止した状態となる。この為、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40の間における回転負荷の変動は、上述した実施形態と同様に、磁気的相互作用によって一定の周期で発生する。
【0146】
この為、回転負荷の変動に伴って、駆動側マグネット20の回転速度が変動することになる。モータ部11の駆動電流は、駆動側マグネット20等の回転速度と同期した周波数で流れる為、回転負荷の変動に伴って、駆動電流の周波数も変動し、駆動電流の包絡線にも表れる。
【0147】
第5実施形態では、ロック判定条件を満たすか否かを判定する際に、三相インバータ回路72の包絡線検波器から出力される駆動電流の包絡線に対する周波数分析が行われる。
図12に、駆動電流の包絡線に対する周波数分析の結果の一例を示す。
図12には、標準分析結果RSと、ロック時分析結果RLが示されている。標準分析結果RSは、標準状態における駆動電流の包絡線に対する周波数分析の結果を示している。そして、ロック時分析結果RLは、ロック状態における駆動電流の包絡線に対する周波数分析の結果を示している。
【0148】
上述したように、駆動電流の包絡線の値は、従動側マグネット40等がロックすると、回転負荷の変動に伴って変動する。この為、
図12に示すように、回転負荷の変動に対応する特定周波数fsにおいて、ロック時分析結果RLにおける値のピークは、標準分析結果RSの値よりも突出して大きな値を示す。
【0149】
従って、第5実施形態では、駆動電流の包絡線に対して、ロック判定部71によって周波数分析を施すことで、従動側マグネット40等のロックが発生したことを検知することができる。
【0150】
そして、第5実施形態におけるロック判定制御においては、ロック判定条件として、駆動電流の包絡線に対する周波数分析の結果において、特定周波数fsにおける駆動電流の包絡線の値が基準値を超えていることが採用される。この場合の基準値は、標準状態を基準として定められ、例えば、標準状態における駆動電流の包絡線に対する周波数分析の結果(即ち、標準分析結果RS)にて、特定周波数fsにおける駆動電流の包絡線の値に基づいて定められる。
【0151】
この場合、特定周波数fsにおける駆動電流の包絡線の値が基準値を超えていれば、駆動側マグネット20における回転負荷の変動が発生しており、従動側マグネット40等が固着して、ロック状態にあると判定することができる。そうでない場合は、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間で、適切に動力が伝達され、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40が回転可能な標準状態であると判定することができる。
【0152】
以上説明したように、第5実施形態に係る動力伝達機構1によれば、三相モータ11aの駆動電流の包絡線に対して周波数分析を行う構成とした場合であっても、上述した実施形態と同様の構成から、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0153】
即ち、第5実施形態に係る動力伝達機構1によれば、駆動電流の包絡線の変動に基づいて、駆動側機構部10とは別に区画された従動側機構部35における従動側マグネット40のロックを、精度良く判定することができる。
【0154】
(第6実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第6実施形態について、
図13、
図14を参照して説明する。第6実施形態では、モータ部11及び従動側マグネット40等のロックが発生していることを判定する判定手法が上述した実施形態と相違している。その他の従動側機構部35等の構成については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0155】
図13に示すように、第6実施形態に係る動力伝達機構1においては、モータ部11として、直流モータ11cが採用されている。直流モータ11cは、整流子及びブラシを有する直流整流子電動機である。
【0156】
そして、第6実施形態に係る回路部70は、ロック判定部71と、駆動電流センサ73bを有している。回路部70には、バッテリBと直流モータ11cが電気的に接続されている。ロック判定部71は、上述した実施形態と同様である。又、第6実施形態に係る駆動電流センサ73bは、直流モータ11cに供給される駆動電流を検出する為のセンサである。
【0157】
次に、第6実施形態におけるロック判定制御について、
図14を参照して説明する。第6実施形態に係る動力伝達機構1では、モータ部11として、整流子及びブラシを有する直流モータ11cを採用している。従って、直流モータ11cにおいて、ロータ13の回転方向を所定方向に保つために、ロータ13の回転位相が予め定められた位相となった時点で、整流子及びブラシによって電流の向きが切り替えられる。
【0158】
従って、直流モータ11cの駆動電流に対して周波数分析を行った場合、
図14に示すように、標準分析結果RS及びロック時分析結果RLの何れにおいても、整流子及びブラシによる電流切替に起因するピークが表れる。
【0159】
そして、第6実施形態においても、非接触連結部60がロック状態にある場合、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40の間における回転負荷の変動は、上述した実施形態と同様に、磁気的相互作用によって一定の周期で発生する。回転負荷が変動する周期は、整流子及びブラシの電流切替に関する周期とは異なる為、特定周波数fsにおいて、ロック時分析結果RLに係る駆動電流のピークは、標準分析結果RSに係る駆動電流の値と明確に区別することができる。
【0160】
従って、第6実施形態では、直流モータ11cの駆動電流に対して、ロック判定部71によって周波数分析を施すことで、従動側マグネット40等のロックが発生したことを検知することができる。
【0161】
そして、第6実施形態におけるロック判定制御においては、ロック判定条件として、直流モータ11cの駆動電流に対する周波数分析の結果において、特定周波数fsにおける駆動電流が基準値を超えていることが採用される。この場合の基準値は、標準状態を基準として定められ、例えば、標準状態における直流モータ11c駆動電流に対する周波数分析の結果(即ち、標準分析結果RS)にて、特定周波数fsにおける駆動電流の値に基づいて定められる。
【0162】
この場合、特定周波数fsにおける直流モータ11cの駆動電流の値が基準値を超えていれば、駆動側マグネット20における回転負荷の変動が発生しており、従動側マグネット40等が固着して、ロック状態にあると判定することができる。そうでない場合は、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間で、適切に動力が伝達され、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40が回転可能な標準状態であると判定することができる。
【0163】
以上説明したように、第6実施形態に係る動力伝達機構1によれば、直流モータ11cの駆動電流に対する周波数分析を行う構成とした場合であっても、上述した実施形態と同様の構成から、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0164】
即ち、第6実施形態に係る動力伝達機構1によれば、直流モータ11cの駆動電流の変動に基づいて、駆動側機構部10とは別に区画された従動側機構部35における従動側マグネット40のロックを、精度良く判定することができる。
【0165】
(第7実施形態)
続いて、上述した実施形態と異なる第7実施形態について、
図15、
図16を参照して説明する。第7実施形態では、従動側マグネット40等のロックが発生していることを判定する判定手法が上述した実施形態と相違している。その他の従動側機構部35等の構成については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0166】
図15に示すように、第7実施形態に係る動力伝達機構1において、駆動側機構部10を構成するモータ部11として、三相モータ11aが採用されている。そして、第7実施形態に係る回路部70は、ロック判定部71と、三相インバータ回路72と、判定電圧特定部74を有している。
【0167】
ロック判定部71は、上述した実施形態と同様である。そして、三相インバータ回路72は、上述した実施形態と同様に、バッテリBと三相モータ11aと電気的に接続されており、バッテリBの直流電力を三相交流に変換して、三相モータ11aの各相のステータコイル12aに供給する。
【0168】
第7実施形態に係る三相インバータ回路72は、モータ部11のオン時間とオフ時間の比であるデューティー比を決定し、決定されたディーティー比に基づいて、直流モータ11cに対する電力供給を行う。即ち、三相モータ11aに対するPWM制御が行われる。
【0169】
具体的には、予め定められた三角波と、判定電圧とを比較して、三角波が判定電圧よりも高い期間と、三角波が判定電圧よりも低い期間の比により、三相モータ11aに供給される電圧のデューティー比が定められる。判定電圧特定部74は、デューティー比を決定する為の判定電圧を特定する。判定電圧特定部74は、例えば、コンパレータに対して、三角波と判定電圧が入力される場合に、コンパレータに入力される判定電圧の値を特定する。
【0170】
次に、第7実施形態におけるロック判定制御について、
図16を参照して説明する。上述したように、第7実施形態における三相モータ11aの作動は、PWM制御によって制御されている。従って、デューティー比が高いほど、三相モータ11aにおけるロータ13の回転速度は速くなり、デューティー比が低くなれば、ロータ13の回転速度は遅くなる。
【0171】
この為、第7実施形態において、従動側マグネット40等が固着してロック状態になって、駆動側マグネット20に係る回転負荷が変動すると、回転負荷の変動に連動して、デューティー比が変動することになる。上述したように、デューティー比は、三角波と判定電圧を比較することによって定められる為、判定電圧がディーティー比の変動と同じ周期で変動する。
【0172】
一方、標準状態である場合には、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間の回転負荷に大きな変動が発生しない為、デューティー比及び判定電圧についても、大きな変動は生じない。
【0173】
第7実施形態に係るロック判定制御においては、判定電圧に対して周波数分析を行っている。
図16に示すように、ロック時分析結果RLでは、回転負荷の変動に対応する特定周波数fsにて、判定電圧のピークが表れる。一方、標準状態の場合、回転負荷の大きな変動はなく、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40が適切に回転している。この為、標準分析結果RSにおいては、特定周波数fsにて、判定電圧の値が大きく変動することはない。
【0174】
従って、第7実施形態では、PWM制御に係る判定電圧に対して、ロック判定部71によって周波数分析を施すことで、従動側マグネット40等のロックが発生したことを検知することができる。
【0175】
そして、第7実施形態におけるロック判定制御においては、ロック判定条件として、PWM制御に係る判定電圧に対する周波数分析の結果において、特定周波数fsにおける判定電圧が基準値を超えていることが採用される。この場合の基準値は、標準状態を基準として定められ、例えば、標準状態における判定電圧に対する周波数分析の結果(即ち、標準分析結果RS)にて、特定周波数fsにおける判定電圧の値に基づいて定められる。
【0176】
この場合、特定周波数fsにおける判定電圧の値が基準値を超えていれば、駆動側マグネット20における回転負荷の変動が発生しており、従動側マグネット40等が固着して、ロック状態にあると判定することができる。そうでない場合は、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間で、適切に動力が伝達され、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40が回転可能な標準状態であると判定することができる。
【0177】
以上説明したように、第7実施形態に係る動力伝達機構1によれば、モータ部11のPWM制御に係る判定電圧に対して周波数分析を行う構成とした場合であっても、上述した実施形態と同様の構成から、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0178】
即ち、第7実施形態に係る動力伝達機構1によれば、判定電圧の変動に基づいて、駆動側機構部10とは別に区画された従動側機構部35における従動側マグネット40のロックを、精度良く判定することができる。
【0179】
(第8実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第8実施形態について、
図17、
図18を参照して説明する。第8実施形態では、従動側マグネット40等のロックが発生していることを判定する判定手法が上述した実施形態と相違している。その他の従動側機構部35等の構成については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0180】
図17に示すように、第8実施形態に係る動力伝達機構1において、駆動側機構部10を構成するモータ部11として、三相モータ11aが採用されている。そして、第8実施形態に係る回路部70は、ロック判定部71と、三相インバータ回路72と、駆動電流センサ73uを有している。
【0181】
ロック判定部71は、上述した実施形態と同様である。そして、三相インバータ回路72は、上述した実施形態と同様に、バッテリBと三相モータ11aと電気的に接続されており、バッテリBの直流電力を三相交流に変換して、三相モータ11aの各相のステータコイル12aに供給する。
【0182】
第8実施形態に係る駆動電流センサ73uは、三相モータ11aに対するU相、V相、W相のうち、U相の駆動電流を検出するセンサである。駆動電流センサ73uは、三相モータ11aに対する駆動電流の内、何れか一相に係る駆動電流を検出すればよい。
【0183】
次に、第8実施形態におけるロック判定制御について、
図18を参照して説明する。非接触連結部60がロック状態にある場合、駆動側マグネット20側は回転するが、従動側マグネット40は停止した状態となる。この為、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40の間における回転負荷の変動は、上述した実施形態と同様に、磁気的相互作用によって一定の周期で発生する。
【0184】
従動側マグネット40が停止している為、駆動側マグネット20が回転する際に、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間において、磁気が吸引するように作用する状態と、磁気が反発するように作用する状態が生じる。駆動側マグネット20側の回転速度は、従動側マグネット40との間における磁気の吸引及び反発の影響によって、加速及び減速する。モータ部11の駆動電流は、駆動側マグネット20等の回転速度と同期した周波数で流れる為、回転速度の変動に伴って、駆動電流の周波数も変動する。
【0185】
尚、以下の説明では、従動側マグネット40との間の磁力の影響で回転速度が遅くなった場合の特定周波数を第1特定周波数fsaといい、従動側マグネット40との間の磁力の影響で回転速度が速くなった場合の特定周波数を第2特定周波数fsbという。
【0186】
一方、標準状態にある場合は、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40は、一定の回転速度で回転する為、駆動電流の周波数も一定となる。標準状態における一定の回転速度に対応する周波数を標準周波数fcという。
【0187】
そして、第8実施形態に係るロック判定制御では、三相モータ11aに対する何れか一相の駆動電流に対して周波数分析を行っている。
図18に示すように、標準分析結果RSでは、標準周波数fcにて駆動電流のピークが表れる。
【0188】
一方、ロック時分析結果RLにおいては、標準周波数fcよりも小さな第1特定周波数fsaにて、駆動電流のピークが表れる。第1特定周波数fsaにおける駆動電流は、回転負荷の変動によって駆動側マグネット20の回転速度が遅くなった時点の値を示している。
【0189】
又、ロック時分析結果RLでは、標準周波数fcよりも大きな第2特定周波数fsbにおいて、駆動電流のピークが表れる。第2特定周波数fsbにおける駆動電流は、回転負荷の変動によって駆動側マグネット20の回転速度が速くなった時点の値を示している。
【0190】
上述したように、標準状態であるならば、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40は一定の回転速度で回転している為、標準周波数fcにピークが表れ、第1特定周波数fsa及び第2特定周波数fsbにピークが表れることはない。
【0191】
従って、第8実施形態では、三相モータ11aに対する何れか一相の駆動電流に対して周波数分析を施し、第1特定周波数fsa及び第2特定周波数fsbの値を比較することで、従動側マグネット40等のロックが発生したことを検知できる。
【0192】
そして、第8実施形態におけるロック判定制御では、ロック判定条件として、三相モータ11aの何れか一相の駆動電流に対する周波数分析の結果にて、第1特定周波数fsa及び第2特定周波数fsbにおける駆動電流が基準値を超えていることが採用される。
【0193】
この場合の基準値は、標準状態を基準として定められ、例えば、第1特定周波数fsaに係る基準値は、標準分析結果RSにおいて、第1特定周波数fsaにおける駆動電流の値に基づいて定められる。又、第2特定周波数fsbに係る基準値は、標準分析結果RSにおいて、第2特定周波数fsbにおける駆動電流の値に基づいて定められる。
【0194】
第1特定周波数fsaにおける駆動電流の値が基準値を超えていれば、駆動側マグネット20における回転負荷の変動が発生しており、従動側マグネット40等が固着して、ロック状態にあると判定することができる。そうでない場合は、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間で、適切に動力が伝達され、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40が回転可能な標準状態であると判定することができる。
【0195】
第1特定周波数fsa及び第2特定周波数fsbの何れにおいても、駆動電流の値がそれぞれの基準値を超えていた場合に、従動側マグネット40等のロックが発生していると判定することで、より確実に、ロック状態の発生を検知することができる。
【0196】
尚、第1特定周波数fsa及び第2特定周波数fsbの何れか一方において、駆動電流の値がそれぞれの基準値を超えていた場合に、ロック状態が発生していると判定するように構成しても良い。
【0197】
以上説明したように、第8実施形態に係る動力伝達機構1によれば、三相モータ11aの何れか一相の駆動電流に対して周波数分析を行う構成とした場合であっても、上述した実施形態と同様の構成から、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0198】
即ち、第8実施形態に係る動力伝達機構1によれば、三相モータ11aの何れか一相の駆動電流の変動に基づいて、駆動側機構部10とは別に区画された従動側機構部35における従動側マグネット40のロックを、精度良く判定することができる。
【0199】
(第9実施形態)
続いて、上述した実施形態と異なる第9実施形態について、
図19、
図20を参照して説明する。第9実施形態では、従動側マグネット40等のロックが発生していることを判定する判定手法が上述した実施形態と相違している。その他の従動側機構部35等の構成については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0200】
図19に示すように、第9実施形態に係る動力伝達機構1において、駆動側機構部10を構成するモータ部11として、三相モータ11aが採用されている。そして、第9実施形態に係る回路部70は、ロック判定部71と、三相インバータ回路72と、線間電圧センサ73cを有している。
【0201】
ロック判定部71は、上述した実施形態と同様である。そして、三相インバータ回路72は、上述した実施形態と同様に、バッテリBと三相モータ11aと電気的に接続されており、バッテリBの直流電力を三相交流に変換して、三相モータ11aの各相のステータコイル12aに供給する。
【0202】
線間電圧センサ73cは、三相モータ11aに対する三相のうち、何れか二相の間の電圧の値を検出するセンサである。線間電圧センサ73cは、例えば、三相モータ11aに対するU相、V相、W相のうち、U相とV相の間の線間電圧の値を検出する。
【0203】
次に、第9実施形態におけるロック判定制御について、
図20を参照して説明する。上述したように、ロック状態にある場合、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40の間における回転負荷の変動は、上述した実施形態と同様に、磁気的相互作用によって一定の周期で発生する。
【0204】
そして、従動側マグネット40が停止している為、駆動側マグネット20が回転する際に、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間において、磁気が吸引するように作用する状態と、磁気が反発するように作用する状態が生じる。この為、駆動側マグネット20側の回転速度は、従動側マグネット40との間における磁気の吸引及び反発の影響によって加速及び減速する。モータ部11の駆動電流は、駆動側マグネット20等の回転速度と同期した周波数で流れる為、回転速度の変動に伴って、三相モータ11aにおける何れか二相の線間電圧も変動する。
【0205】
そして、第9実施形態に係るロック判定制御では、三相モータ11aの何れか二相の線間電圧に対して周波数分析を行っている。
図20に示すように、標準分析結果RSでは、標準周波数fcにて線間電圧のピークが表れる。
【0206】
一方、ロック時分析結果RLでは、第1特定周波数fsa及び第2特定周波数fsbにて、駆動電流のピークが表れる。第1特定周波数fsaにおける線間電圧は、回転負荷の変動によって駆動側マグネット20の回転速度が遅くなった時点の値を示している。第2特定周波数fsbにおける線間電圧は、回転負荷の変動によって駆動側マグネット20の回転速度が速くなった時点の値を示している。
【0207】
上述したように、標準状態であるならば、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40は一定の回転速度で回転している為、標準周波数fcにピークが表れ、第1特定周波数fsa及び第2特定周波数fsbにピークが表れることはない。
【0208】
従って、第9実施形態では、三相モータ11aの何れか二相の線間電圧に対して周波数分析を施し、第1特定周波数fsa及び第2特定周波数fsbの値を比較することで、従動側マグネット40等のロックが発生したことを検知できる。
【0209】
そして、第9実施形態におけるロック判定制御では、ロック判定条件として、三相モータ11aの何れか二相の線間電圧に対する周波数分析の結果にて、第1特定周波数fsa及び第2特定周波数fsbにおける線間電圧が基準値を超えていることが採用される。
【0210】
この場合の基準値は、標準状態を基準として定められ、例えば、第1特定周波数fsaに係る基準値は、標準分析結果RSにおいて、第1特定周波数fsaにおける線間電圧の値に基づいて定められる。又、第2特定周波数fsbに係る基準値は、標準分析結果RSにおいて、第2特定周波数fsbにおける線間電圧の値に基づいて定められる。
【0211】
第1特定周波数fsaにおける線間電圧の値が基準値を超えていれば、駆動側マグネット20における回転負荷の変動が発生しており、従動側マグネット40等がロック状態にあると判定することができる。そうでない場合は、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40が回転可能な標準状態であると判定することができる。
【0212】
第1特定周波数fsa及び第2特定周波数fsbの何れにおいても、線間電圧の値がそれぞれの基準値を超えていた場合に、従動側マグネット40等のロックが発生していると判定することで、より確実に、ロック状態の発生を検知することができる。
【0213】
以上説明したように、第9実施形態に係る動力伝達機構1によれば、三相モータ11aの線間電圧に対して周波数分析を行う構成とした場合であっても、上述した実施形態と同様の構成から、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0214】
即ち、第9実施形態に係る動力伝達機構1によれば、三相モータ11aの線間電圧の変動に基づいて、駆動側機構部10とは別に区画された従動側機構部35における従動側マグネット40のロックを、精度良く判定することができる。
【0215】
(第10実施形態)
次に、上述した実施形態と異なる第10実施形態について、
図21、
図22を参照して説明する。第10実施形態では、従動側マグネット40等のロックが発生していることを判定する判定手法が上述した実施形態と相違している。その他の従動側機構部35等の構成については、上述した実施形態と同様である為、再度の説明を省略する。
【0216】
第10実施形態に係る動力伝達機構1では、回路部70は、ロック判定部71と、加速度センサ73dを有している。
図21に示すように、加速度センサ73dは、駆動側機構部10のモーターケース15に配置されており、駆動側機構部10に生じた加速度の変化を検出する。従って、第10実施形態に係る動力伝達機構1では、駆動側機構部10のモータ部11の作動によって生じた振動を、加速度センサ73dによって検出することができる。
【0217】
次に、第10実施形態におけるロック判定制御について、
図22を参照して説明する。上述したように、標準状態にある場合、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40の間における回転負荷の変動は、ほとんどなく、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40が一体的に回転する。つまり、駆動側機構部10は、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40が一体的に回転することにより一定の周期で振動する。
【0218】
一方、ロック状態にある場合、従動側マグネット40が停止している為、駆動側マグネット20が回転する際に、従動側マグネット40との間における磁気的相互作用によって回転負荷が変動する。回転負荷の変動によって、駆動側マグネット20及びシャフト14の回転速度が変化する為、モータ部11を含む駆動側機構部10には、回転負荷の変動に起因した振動が生じる。
【0219】
ロック状態における振動の発生周期は、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間における磁気の影響によって、標準状態における振動の発生周期と相違する。これにより、加速度センサ73dによって、駆動側機構部10に生じた振動の周期を分析することで、従動側マグネット40等のロックが生じているか否かを判定できる。
【0220】
そして、第10実施形態に係るロック判定制御では、加速度センサ73dの検出信号に対して周波数分析を行っている。
図22に示すように、標準分析結果RSでは、標準周波数fcにて加速度のピークが表れる。標準周波数fcは、標準状態において、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40の回転による振動の発生周期に対応している。
【0221】
一方、ロック時分析結果RLでは、特定周波数fsにて、加速度のピークが表れる。特定周波数fsにおける加速度のピークは、回転負荷の変動によって駆動側機構部10の振動に起因している。
【0222】
上述したように、標準状態であるならば、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40は一定の回転速度で回転している為、標準周波数fcにピークが表れ、特定周波数fsに加速度のピークが表れることはない。
【0223】
従って、第10実施形態では、加速度センサ73dの検出信号に対して周波数分析を施し、特定周波数fsの値を比較することで、従動側マグネット40等のロックが発生したことを検知できる。
【0224】
そして、第10実施形態におけるロック判定制御では、ロック判定条件として、加速度センサ73dの検出信号に対する周波数分析の結果にて、特定周波数fsにおける加速度の値が基準値を超えていることが採用される。この場合の基準値は、標準状態を基準として定められ、例えば、標準分析結果RSにおいて、特定周波数fsにおける加速度の値に基づいて定められる。
【0225】
特定周波数fsにおける加速度の値が基準値を超えていれば、駆動側マグネット20における回転負荷の変動が発生しており、従動側マグネット40等がロック状態にあると判定することができる。そうでない場合は、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40が回転可能な標準状態であると判定することができる。
【0226】
以上説明したように、第10実施形態に係る動力伝達機構1によれば、加速度センサ73dで検出された加速度に対する周波数分析を行う構成とした場合であっても、上述した実施形態と同様の構成から、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0227】
即ち、第10実施形態に係る動力伝達機構1によれば、加速度センサ73dで検出される加速度の変動に基づいて、駆動側機構部10とは別に区画された従動側機構部35における従動側マグネット40のロックを、精度良く判定することができる。
【0228】
(他の実施形態)
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではない。
【0229】
(1)上述した実施形態においては、
図5に示すフローチャートに従って、車両の起動時、車両用空調装置の起動時、及び空調運転中に、ロック判定条件を満たすか否かを判定することで、従動側マグネット40等のロックの発生を常時監視している。
【0230】
しかしながら、ロック判定制御及びロック判定条件に関する判定タイミングは、上述したタイミングに限定されるものではなく、適宜変更することができる。例えば、
図5に示すフローチャートに替えて、
図23に示すフローチャートを実行するように構成しても良い。
【0231】
図23に示すように、先ず、ステップS21にて、エラー発生信号を受信したか否かが判定される。エラー発生信号を受信した場合、ステップS22に進み、エラー発生信号を受信していない場合、そのまま、
図23に示すロック判定制御を終了する。
【0232】
ここで、エラー発生信号とは、外部に配置された制御装置から出力される制御信号であって、動力伝達機構1の動作にエラーがあると考えられる場合に出力される。例えば、車両用空調装置の冷凍サイクルにおける冷媒温度や冷媒圧力が明らかな異常値を示していた場合、車両用空調装置の空調制御装置は、エラー発生信号を出力する。
【0233】
ステップS22では、動力伝達機構1の動作をチェックする為、モータ部11を駆動させる。この時、ステップS2等と同様に、ロータ13を一定回転で作動させる。ステップS23においては、ステップS22におけるモータ部11の駆動で出力される出力信号(例えば、入力電流)に対する信号分析処理が行われる。信号分析処理の内容は、ステップS3等と同様であり、出力信号に対する周波数分析が行われる。
【0234】
ステップS24に移行すると、ロック判定条件を満たすか否かが判定される。ロック判定条件を満たす場合は、従動側マグネット40等が固着したロック状態であると判定し、ステップS25にてロック発生信号を出力する。
【0235】
ロック判定条件を満たしていない場合、ステップS26において、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40が回転可能な標準状態であると判定して、正常信号を出力する。正常信号は、駆動側マグネット20及び従動側マグネット40が一体的に回転する標準状態であることを示す。
【0236】
図23に示す変形例に係るロック判定制御では、外部からのエラー発生信号の受信を契機として、モータ部11の駆動、周波数分析、ロック判定条件に関する判定を行う構成である。この為、変形例に係る動力伝達機構1は、適切なタイミングで従動側マグネット40等のロックが発生しているかを判定することができる。又、常時監視する構成と比較して、ロック判定部71の処理負担を軽減することができる。
【0237】
(2)又、上述した実施形態においては、駆動側マグネット20に対する回転負荷の変動に対応する入力電流等に対して周波数分析を施し、その結果に基づいて、従動側マグネット40等がロックしているかを判定していたが、これに限定されるものではない。
【0238】
例えば、駆動側マグネット20に対する回転負荷の変動に対応する信号において、その波形の周期が基準値を超えた場合に、ロック状態であると判定する方式を採用することも可能である。この方式に対応する信号としては、回路部70に対する入力電流や、ロータ13の回転を測定しているホール素子の電圧信号等を挙げることができる。
【0239】
(3)又、駆動側マグネット20に対する回転負荷の変動に対応する信号において、その波形の振幅が基準値を超えた場合に、ロック状態であると判定する方式を採用することも可能である。この方式に対応する信号としては、回路部70に対する入力電流や、モータ部11の相電流等を挙げることができる。
【0240】
(4)更に、従動側マグネット40等がロックしているかを判定する方式として、従動側マグネット40の回転を検出する為のセンサ(例えば、ホール素子やサーチコイル)を配置しても良い。この場合、センサの検出信号によって、モータ部11に対する回転指示に対して従動側マグネット40が回転していないことが検出された場合に、ロック状態であると判定される。
【0241】
(5)そして、第3実施形態では、減速機構部30として、遊星歯車機構を採用していたが、この構成に限定されるものではない。減速機構部30としては、駆動側の回転速度を減じて出力することができる構成であれば、サイクロイドギヤ等の種々の減速機構を採用することができる。
【0242】
(6)又、上述した実施形態において、非接触連結部60における駆動側マグネット20、従動側マグネット40の位置関係を、シャフト14に沿ったアキシャル方向(
図1等における上下方向)としていたが、これに限定されるものではない。
【0243】
非接触連結部60における駆動側マグネット20及び従動側マグネット40の配置を、シャフト14を中心としたラジアル方向(径方向)に配置しても良い。この配置で、非接触連結部60が磁気ギヤ60bで構成される場合には、径方向において、駆動側マグネット20と従動側マグネット40の間に、ポールピース25が位置するように構成される。
【0244】
(7)又、上述した実施形態では、膨張弁Evは車両に縦置き配置されているが、膨張弁Evは車両に横置き配置されていてもよい。横置き配置とは、弁体48の軸方向が車両前後左右方向と略平行となるような配置のことである。膨張弁Evの配置として、駆動側機構部10が下方に位置し、従動側機構部35が上方に位置する態様を採用することも可能である。
【0245】
(8)そして、上述した実施形態では、動力伝達機構1を蒸気圧縮式冷凍サイクルの膨張弁Evに適用しているが、これに限定されるものではない。モータ部11を含む駆動側機構部10で生じた動力を、マグネットカップリング60a等の非接触連結部60を介して、従動側機構部35に伝達する構成を有していれば、種々の機器に採用することができる。例えば、流体回路における流量調整弁の構成として、動力伝達機構1を採用しても良く、小型ポンプ等の回転機械の構成として、動力伝達機構1を採用しても良い。
【符号の説明】
【0246】
1 動力伝達機構
10 駆動側機構部
11 モータ部
14 シャフト
20 駆動側マグネット
25 ポールピース
35 従動側機構部
40 従動側マグネット
41 回転部材
60 非接触連結部