(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】事業継続計画支援システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 50/26 20240101AFI20250204BHJP
【FI】
G06Q50/26
(21)【出願番号】P 2021092744
(22)【出願日】2021-06-02
【審査請求日】2024-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 寿
(72)【発明者】
【氏名】村江 行忠
(72)【発明者】
【氏名】栗木 茂
(72)【発明者】
【氏名】山本 健史
(72)【発明者】
【氏名】秋山 真吾
(72)【発明者】
【氏名】岡村 信之
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏達
(72)【発明者】
【氏名】田中 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】細川 幸哉
【審査官】酒井 優一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-055546(JP,A)
【文献】特開2015-111379(JP,A)
【文献】特開2017-194829(JP,A)
【文献】特開2014-232435(JP,A)
【文献】特開2003-168179(JP,A)
【文献】特開2018-000278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
災害の発生が感知されると、
施設の設備が供給可能な資源の残量をシミュレーションにより予測し、
前記シミュレーションの結果に基づき、前記設備の運転及び資源の供給
の制御を自動
制御だけでなく手動
でも制御できるように切り替え
るとともに、
前記施設内における前記設備から資源を供給するエリアを、資源を供給することの可能なエリアの一部に限定する設備情報管理部、
を備えることを特徴とする事業継続計画支援システム。
【請求項2】
請求項1に記載の事業継続計画支援システムであって、
前記施設が医療施設であり、
前記設備から資源が供給されるエリアが前記医療施設の透析部門である、
ことを特徴とする事業継続計画支援システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の事業継続計画支援システムであって、前記設備情報管理部は、中央監視装置から前記設備に関する運用状況を取得して、データベースに集積し、前記設備に関する必要な情報を
前記施設内の大型モニタに表示させることを特徴とする事業継続計画支援システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載の事業継続計画支援システムであって、前記設備情報管理部は、施設従事者の携帯端末機をチャットのグループに参加させ、災害発生時には、前記設備に関する前記施設従事者の携帯端末機
に災害状況を表示させることを特徴とする事業継続計画支援システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の事業継続計画支援システムであって、
災害の発生が感知される前では、前記施設の省エネルギを目的とした電力利用状況に関する情報、施設従事者及び前記施設の利用者の健康に関する情報、及び業務に関する連絡事項を前記施設従事者の携帯端末機にお知らせとして配信すること特徴とする事業継続計画支援システム。
【請求項6】
請求項5に記載の事業継続計画支援システムであって、
災害の発生が感知されると、前記災害に関する情報、及び前記災害により発生する二次災害に関する情報を前記施設従事者の携帯端末機にお知らせとして配信すること特徴とする事業継続計画支援システム。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の事業継続計画支援システムであって、停電を感知した場合は、非常用電源による電源供給の残余時間と、電力供給範囲とを携帯端末機にお知らせとして配信することを特徴とする事業継続計画支援システム。
【請求項8】
請求項5乃至7のいずれか1項に記載の事業継続計画支援システムであって、
前記施設へのガス供給が遮断した場合は、前記施設従事者の前記携帯端末機にお知らせとして配信することを特徴とする事業継続計画支援システム。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれか1項に記載の事業継続計画支援システムであって、断水を検知した場合は、貯水量の残量と水の供給可能な場所を前記施設従事者の携帯端末機にお知らせとして配信し、
前記施設内に非常用汚水槽がある場合には、前記非常用汚水槽の水位情報を前記
施設従事者の携帯端末機にお知らせとして配信することを特徴とする事業継続計画支援システム。
【請求項10】
請求項5乃至9のいずれか1項に記載の事業継続計画支援システムであって、近隣に河川がある場合には、前記河川の水位情報を前記施設従事者の前記携帯端末機にお知らせとして表示させ、
前記施設内に気象警報情報及び公共交通機関情報を表示することを特徴とする事業継続計画支援システム。
【請求項11】
請求項5乃至10のいずれか1項に記載の事業継続計画支援システムであって、中央監視装置は、感染症に関する情報として施設従事者のウエアラブル端末による体温異常の常時監視及び入館者の検温結果を前記施設従事者の前記携帯端末機にお知らせとして表示することを特徴とする事業継続計画支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事業継続計画(BCP)支援システムに係り、特に、災害発生時にライフラインの供給が停止しても事業継続を可能とする自動支援システムを提供する事業継続計画支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
事業継続計画(BCP;Business continuity Plannimg)とは、「災害時に優先的に取り組むべき重要な業務を継続し、最短で事業の復旧を図るために事前に必要な資源の準備や対応方針や手段を定める計画」のことをいう。ここで、「災害」には、地震、津波、台風、洪水、干ばつ、竜巻等の自然災害と、交通災害、都市災害等の人為災害、放射線事故、有毒物質の拡散汚染、戦争等の特殊災害がある。新型コロナウイルスによる感染は特殊災害に含まれる。
【0003】
この事業継続計画は、特に、災害時において、人の命に拘わり地域の安全確保が要求される施設等の事業継続計画が問題となる。そこで、本発明では、事業継続計画支援システムの一つの実施例として、災害時の施設等の事業継続計画について検討する。
【0004】
特許文献1には、災害等の緊急時であっても、その後の避難生活のことも考慮した上で従業員を守り、事業の継続を可能にする防災計画を実現することができる防災事業継続システムが開示されている。ここでは、防災事業継続システムは、従業員が所有する携帯情報端末および従業員が勤務している事業所の情報端末装置からインターネットを介してアクセスすることが可能な中央サーバが、防災相談機能、事業継続計画書作成機能、安否確認避難誘導機能、避難訓練アラーム機能、受援・支援事業所マッチング掲示板機能、備蓄品自動検索機能、従業員間課題解決掲示板機能、事業継続計画書閲覧機能の8つの機能を備え、従業員および事業所に対して種々の防災関連情報を提供することが記載されている。
【0005】
特許文献2には、事業継続計画の意思決定を行う上で有効な情報を提示することのできる意思決定支援装置、意思決定支援方法及び意思決定支援プログラムが開示されている。ここでは、CPUにより、事業継続計画の意思決定の対象とする建物に関する設備毎の所定種類の被害に対する脆弱レベルに基づいてこの建物全体としての復旧期間及び復旧費用を示す復旧関係情報を導出し、導出した復旧関係情報に基づいて、この建物に対し被害が生じて予め定められた対策を行った場合の効果を示す効果情報を導出して、導出した効果情報をディスプレイにより表示することが記載されている。
【0006】
特許文献3には、緊急性の高い災害情報を、確実かつ速やかに受信することが可能な災害情報通知方法が開示されている。ここでは、複数のユーザーのいずれかに携帯される第1の携帯情報端末(スマートフォン)が、その災害情報を受信し、この災害情報を受信した第1の携帯情報端末が、携帯端末機(リスト機器)に、ブロードキャスト通信を行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-215751号公報
【文献】特開2008-192005号公報
【文献】特開2018-81606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来、災害時において、電力や水資源の供給先に重要度の設定がされている場合がある。しかし、非常用飲料水や非常用電源が用意される程度で、災害時に電力や水資源を供給するエリアを制限して省エネルギの運用を行うことまでは考慮されていない、という問題があった。
【0009】
また、電力や水資源の供給先の制限を行う場合は、例えば、ブレーカやバルブを供給先ごと確認しながら個別に開閉する必要があり、非常時に対応することは難しかった。さらに、供給制限を行ったエリアに関する情報は、データとして整理されて保管されておらず、利用者に周知させるにはこれらの情報を整理し直して図面化したり、放送案内をしたり等の手間をかけなければならないという問題があった。
【0010】
本願の目的は、かかる課題を解決し、災害時の資源を効率的に活用することで施設機能の維持期間を長期化させる事業継続計画支援システムを提供することである。
【0011】
また、資源供給の有無や供給可能エリア等の供給状況に関する情報を携帯端末機により容易に利用者に確認させ、必要なサービスを必要な場所に提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る事業継続計画支援システムは、設備情報管理部が、災害の発生が感知されると自動的に設備の運用モードを通常時モードから災害時モードに切替え、設備が供給可能な資源の残量をシミュレーションにより予測し、災害による被害の長期化が予想される場合には、設備の運転及び資源の供給を自動から手動に切り替えて重要度の高い設備及び供給エリアに限定し、設備の維持期間を延長させることを特徴とすることを特徴とする。
【0013】
上記構成により、本発明の事業継続計画支援システムは、災害時に運用モードを「通常時モード」から「災害時モード」、或いは「災害時長期モード」に切替える。また、災害状況に即した供給エリアを設定する。これにより、災害時において、最小限しかない電力や水資源であっても、絶対に欠かせないエリアに限って供給するように設備機器を制御し、その施設の機能の維持期間を延ばすことができる「災害時モード」による設備運用パターンを構築することができる。その際に、電力や水の供給可能な残り時間をシミユレーションにより推定する機能を併せ持つ。さらに、電力、給排水等の各インフラの状況をデータベース上に集約し、施設従事者の携帯端末や施設内の大型モニタから状態を把握できる「見える化」を行うことができる。なお、「通常時モード」では、各種エネルギの使用状況や新型コロナウイルス等の感染防止対策を目的とした情報提供を行うことができる。
【0014】
また、事業継続計画支援システムは、設備情報管理部が、災害時モードでは、設備から必要箇所に必要量を供給させ、災害時長期モードでは、最小限の供給エリアに対して使用目的の重要度に応じた供給制限を行うことで設備の維持期間を延長すると好ましい。これにより、中央監視装置は、設備機器やエネルギ使用量等を常に把握し管理する。そして、災害時には、インフラの状況を即座に把握するとともに、燃料や水源等の残量を計測し、絶対に欠かせないエリアに限って供給するように設備機器を制御することができる。
【0015】
また、事業継続計画支援システムは、設備情報管理部が、中央監視装置から設備に関する運用状況を取得して、データベースに集積し、設備に関する必要な情報を施設内の大型モニタに表示させることが好ましい。これは災害発生時に施設従事者に対してリアルタイムでの情報伝達が難しいことが予想できるため、設備の維持時間や供給中のエリア情報等を大型モニタにより随時確認できるようにする。また、大型モニタに表示することで、施設従事者や施設利用者だけでなく施設入館者全員にその災害に関するあらゆる情報を提供することができる。
【0016】
また、事業継続計画支援システムは、設備情報管理部が、災害発生時には、施設従事者の携帯端末機を自動的に災害時モードに切替えて表示させることを特徴とする。このように、事業継続計画支援システムは、災害時に施設従事者と施設の利用者に対し、迅速に災害情報を提供することができる。また、チャットの機能により、施設従業者は携帯端末を用いて、施設従業者同士で施設の運用に関する情報を共有することを可能とする。
【0017】
また、事業継続計画支援システムは、通常時モードでは、施設の省エネルギを目的とした電力利用状況に関する情報、施設従事者及び施設の利用者の健康に関する情報、及び業務に関する連絡事項を施設従事者の携帯端末機にお知らせとして配信することが好ましい。これにより、通常時には、施設従事者及び施設の利用者に対して各種の関連情報を提供することができる。
【0018】
また、事業継続計画支援システムは、災害時モードでは、災害に関する情報、及び災害により発生する二次災害に関する情報を施設従事者の携帯端末機にお知らせとして配信することが好ましい。これにより、災害時には、施設従事者及び施設の利用者に対し、地震の二次災害に関する情報を提供して共有化することでパニックを防止することができる。
【0019】
また、事業継続計画支援システムは、停電を感知した場合は、非常用電源による電源供給の残余時間と、電力供給範囲とを携帯端末機にお知らせとして配信することが好ましい。このように、地震により電気に関連する二次災害が発生することを素早く報知することができる。
【0020】
また、事業継続計画支援システムは、施設へのガス供給が遮断した場合は、施設従事者の携帯端末機にお知らせとして配信することが好ましい。これにより、地震等の災害が発生した際にはガス漏れ等の危険に関する情報を警告させることができる。
【0021】
また、事業継続計画支援システムは、断水を検知した場合は、貯水量の残量と水の供給可能な場所を施設従事者の携帯端末機にお知らせとして配信し、施設内に非常用汚水槽がある場合には、非常用汚水槽の水位情報を前記施設従業者の携帯端末機にお知らせとして配信することが好ましい。これにより、施設内において、地震の二次災害が発生することを素早く報知することができる。
【0022】
また、事業継続計画支援システムは、近隣に河川がある場合には、河川の水位情報を施設従事者の携帯端末機にお知らせとして表示させ、施設内に気象警報情報及び公共交通機関情報を表示することを特徴とする。これにより、施設の近隣に河川がある場合には、降雨による河川が氾濫する災害を迅速に報知することができる。
【0023】
また、事業継続計画支援システムは、感染症に関する情報として施設従事者のウエアラブル端末による体温異常の常時監視及び入館者の検温結果を施設従事者の携帯端末機にお知らせとして表示することが好ましい。これにより、施設内での感染症のリスクに関する情報を周知させ、感染症拡大の予防の徹底を図ることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明に係る事業継続計画支援システムによれば、災害時のリソースを効率的に活用することで施設機能の維持期間を延長させることができる。
【0025】
また、資源の供給の有無や供給可能エリア等の情報を携帯端末機により容易に確認でき、必要に応じて適切な場所で提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明に係る事業継続計画支援システムのシステム構成図である。
【
図2】事業継続計画支援システムの給水に関する「通常時モード」と「災害時モード」とを比較した説明図である。
【
図3】事業継続計画支援システムの災害時モード(自動制御)と災害時長期モード(手動制御)との説明図である。
【
図4】地震発生時に携帯端末機に表示される災害時モードの表示画面であり、電力、ガス、水、医療ガス、エレベータ等の運用状況を総括して示す説明図である。
【
図5】携帯端末機の通常時時モードの表示画面を示す説明図である。
【
図6】携帯端末機の災害時モードの「地震」の表示画面を示す説明図である。
【
図7】携帯端末機の災害時モードの「電気」の表示画面を示す説明図である。
【
図8】携帯端末機の災害時モードの「水」の表示画面を示す説明図である。
【
図9】携帯端末機の災害時モードの「医療ガス」の表示画面を示す説明図である。
【
図10】携帯端末機の災害時モードの「エレベータ」の表示画面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(事業継続計画支援システム)
以下に、図面を用いて本発明に係る事業継続計画支援システム1につき、詳細に説明する。本明細書では、事業継続計画支援システム1の代表的な適用例として、公共性が高く、かつ、災害時の事業継続が重要となる医療施設について説明するが、この医療施設に限らず、オフィス、教育施設、商業施設、生産工場等の幅広い施設に適用される。
【0028】
図1に、本発明に係る事業継続計画支援システム1をシステム構成図で示す。本事業継続計画支援システム1は、BCP・設備運用情報管理部2、地震観測・建物モニタリング部3、中央監視装置4、管理パーソナルコンピュータ部5、地震感知部6、及び表示部7から構成される。災害発生時のこれらの構成要素の機能については、例えば、地震発生時を例にとって説明するが、これに限らず、台風発生時、津波発生時、火災発生時、竜巻発生時等の各災害発生時についても同様に本発明に係る事業継続計画支援システム1が適用される。なお、BCP・設備運用情報管理部2及び地震観測・建物モニタリング部3は、ユーザーがインフラやソフトウエアを持たなくてもインターネットを通じ、そのサービスを必要な時に必要なだけ利用できる、いわゆる「クラウド・コンピューティング」と言われるサービス上に構築される。
【0029】
図1に示す地震感知部6は、振動センサ61及び地震計測部62から構成され、地震観測・建物モニタリング部3は、地震情報発信部34及び地震観測情報収集部35から構成される。発生した地震動は、振動センサ61が感知し、地震計測部62が地震動の揺れの大きさを数値化し、地震観測情報収集部35へ地震感知報告と共にその揺れの大きさのデータを送る。地震情報発信部34は、地震観測情報収集部35が地震感知報告を受けると、災害時モード表示自動切替え部25にその地震情報を発信する。
【0030】
BCP・設備運用情報管理部2は、地震観測・建物モニタリング部3から地震情報を受信する。そして、その地震情報から設備運用情報表示部21の災害時モード表示自動切替え部25に地震情報を伝達する。この設備運用情報表示部21は、運用モード表示を通常時から災害時に自動的に切替える災害時モード表示自動切替え部25、連絡事項を手入力により表示させる手入力連絡部26、携帯端末機28及び大型モニタ29へ通知をして情報発信する通知・発信部27から構成される。これは、生命に拘わる制御が多い病院施設等では自動制御だけでは危険な場合が多いため、手動制御により入力できるように切替え可能にしている。災害時モード表示自動切替え部25は、地震発生の情報を受けると自動的に通常時モードを災害時モードに切替える。そして、通知・発信部27は、災害時モード表示における災害状況を表示する表示部7である施設内の携帯端末機28や大型モニタ29に地震発生の表示情報を通知する。
【0031】
この設備運用情報表示部21は、設備機器運用管理部22から各設備の運用情報を受信して表示部7に表示させる。設備機器運用管理部22は、設備の運用モードを切替える運用モード切替え部30、自動と手動との切替えを行う自動/手動切替え部31,供給エリアを設定する供給エリア設定部32から構成される。そして、設備機器運用管理部22は、各設備の運用情報を収集して第2データベースとする設備運用情報収集部23からの情報と、設備の資源の残量をシミュレーションにより予測する資源残余予測部24からの情報とを取得して、各設備の運用を管理する。設備機器運用管理部22は、管理パーソナルコンピュータ部5の機器制御部52に運用モード切替え、自動/手動切替え、供給エリア設定等に関する制御信号を送り、その制御信号をデータ収集部51にデータベースとして収集する。また、施設外部の河川の氾濫状況等は、外部情報元33から外部災害情報として設備運用情報収集部23に第2データベースとして収集される。
【0032】
中央監視装置4は、医療施設の設備機器として、例えば、電力系統8、給排水系統9を監視して制御信号を発信して制御する。
図1に示すように、各医療施設の設備機器は具体的に下記の設備を含む。電力系統8は、受変電設備8a、非常用電源8b、太陽光発電8c等を含む。給排水系統9は、水圧センサ9a、受水槽9b、非常用排水槽9c等を含む。ガス系統10は、ガス圧センサ10a、ガス検知器10b等を含む。搬送系統11は、エレベータ11a、エスカレータ11b等を含む。医療用ガス系統12は、ガス圧センサ12a等を含む。なお、各医療施設の設備機器は、これらに限らず、その他の設備系統として、例えば、排水系統等を含んでも良い。また、これらの設備系統及び設備機器については医療施設によって異なっても良い。
【0033】
中央監視装置4は、機器制御部41及びデータ収集部42から構成される。また、管理パーソナルコンピュータ部5もまたデータ収集部51及び機器制御部52から構成される。中央監視装置4の機器制御部41及びデータ収集部42は、管理パーソナルコンピュータ部5のデータ収集部51及び機器制御部52に接続され、管理パーソナルコンピュータ部5により制御可能となっている。管理パーソナルコンピュータ部5のデータ収集部51は、電力系統8、給排水系統9、ガス系統10、搬送系統11,医療用ガス系統12等の各設備から運用状況情報を収集する。そして、データ収集部51は、収集した各設備のデータを設備運用状況情報として、上述した設備運用情報収集部23に報告する。管理パーソナルコンピュータ部5の機器制御部52は、電力系統8、給排水系統9、ガス系統10、搬送系統11,医療用ガス系統12等の各設備に対して制御信号を発信して制御する。
【0034】
また、管理パーソナルコンピュータ部5は、医療施設内の感染症対策情報元53から施設従事者のウエアラブル端末による体温監視情報と、入館者の体温監視情報とをデータとして受信する。そして、その結果を設備運用情報収集部23に収集する。
【0035】
このように、災害時の限られた設備リソースを切り詰めて利用し、その運用の切替えが容易にできるようにすることで、必要に応じて適切なエリア乃至は場所において利用できる事業継続計画支援システム1が提供される。
【0036】
(設備運用モード)
図2に、事業継続計画支援システム1の一つの実施例として医療施設の「給排水系統9」に関する「災害時モード」と「災害時長期モード」とを設定し、それらの違いを比較して示す。「災害時モード」は、災害が発生した直後のモードであり、「災害時長期モード」は、災害発生後、その復旧に長時間かかる場合のモードである。「災害時モード」では、設備が供給可能な残量をシミュレーションにより予測し、設備の供給を自動から手動に切り替えて重要度の高い設備及び供給エリアに限定し、設備の維持期間を延長させる。「災害時長期モード」では、最小限の救急エリアに対し、その設備の使用目的の重要度や緊急度に応じた給水制限が実施される。この給水制限により、設備機器の維持期間をさらに延長させることができる。
【0037】
図2に示すように、災害時モードでは、施設内の受水槽9bから医療施設に給水され、主に従業員用シャワー、トイレ・手洗い、透析部門、厨房部門等に給水される。災害時モードでは、各給水先へは、
図2中に◎で示すように、特に制限もなく給水される。一方、災害時長期モードでは、透析部門には通常時モードと同様に制限なく給水される。これは、患者の生命に拘わるからである。また、従業員用シャワーは、災害時長期モードでは、重要度や緊急度が低いため
図2中に×で示すように、給水がストップされる。また、「トイレ・手洗い」は、仮設トイレ等の代替手段によりカバーができるため、
図2中に△で示すように、状況に応じた使用制限をすればよい。また、「厨房部門」では、長期災害時に支給される食料、弁当、飲料等で賄えるため、
図2中に△で示すように、「災害時長期モード」として、状況に応じた給水制限をすればよい。このように、「災害時長期モード」では、最小限の給水エリアに対して使用目的の重要度に応じた供給制限を行うことで、設備機器の維持期間を延長することができる。
【0038】
(災害時モード及び災害時長期モード)
図3に、事業継続計画支援システム1の一つの実施例として医療施設の場合の災害時モード(自動制御)と、災害時長期モード(手動制御)との比較を説明図で示す。
図3(a)は、災害時モード(自動制御)である。
図3(b)は、災害時長期モードの手動制御である。
図3(a)及び
図3(b)の上段は医療施設の主な「エリア」を示し、例えば、一般病棟、手術室、外来、その他が存在する。「その他」には、ナースステーション、トイレ、浴室等がある。
図3(a)及び
図3(b)の下段は医療施設の「設備」の種別を示し、例えば、照明、コンセント、及び、空調等とした。
【0039】
本事業継続計画支援システム1では、発電機の燃料や水の残量の計測、又は予測により、どのエリアに供給すれば、その設備機器を残り何日利用できるかというシミュレーションを随時行う。そして、そのシミュレーション結果に基づき、「自動制御」に加えて、さらに「手動制御」によりその設備機器の供給エリア等に制限を加えて、より災害状況に即した事業継続計画(BCP)支援システム1とすることができる。また、本実施例の手動制御システムの場合は、
図3(b)に示す一般病棟の照明、コンセント、手術室の照明、コンセント、空調に関しては、災害時に手動で制御することで、きめこまかい資源の節約が達成できる。そして、
図3(a)の自動制御システムの下部と、手動制御システムの下部に、「あと、○○時間運転が可能です。」というコメントが表示され、施設従事者に情報提供する。
【0040】
(地震発生時の各設備の運用状況の表示画面)
図4に、地震等の災害時モードにおける各設備の運用状況を総括した携帯端末機28の端末画面を表示する。
図4(a)に、災害時モードとして「設備類に異常が発生しています」とのコメントを表示する。
図4(b)には、発生した地震の震度を、例えば「6強」と表示する。そして、この地震に対する警告として「専門家による安全確認をお勧めします」等の注意喚起のメッセージを表示する。
図4(c)~
図4(g)には、電力、ガス、水、医療ガス、エレベータ等の重要な設備の運用状況を総括して表示する。例えば、
図4(c)の電力の表示欄であれば「正常」又は「停電中」と表示され、
図4(d)のガスの表示欄であれば「正常」又は「注意」と表示され、
図4(e)の水の表示欄であれば「正常」又は「断水中」と表示され、
図4(f)の医療ガスの表示欄であれば「正常」又は「注意」と表示され、
図4(g)のエレベータの表示欄であれば「正常」又は「制限中」と表示される。これらの各設備の表示は状況に応じて最適なコメントが選択される。このように、地震発生時に各設備の運用状況が総括して携帯端末機28に表示されることで、地震発生時に施設の各設備に関して全体の状況を素早くかつ的確に把握することができる。
【0041】
図4に示すように、災害発生時に各設備の運用状況を総括する画面は、地震時に限らず、例えば、台風発生時、津波発生時、火災発生時、竜巻発生時等の各災害発生時において同様に携帯端末機28に表示される。その場合、
図4(a)の画面は、発生した災害についてその二次災害の状況が一覧表により表示され、その災害につての適切な「コメント」が表示される。
【0042】
(災害発生時における携帯端末機の表示画面)
図5から
図10に携帯端末機28に表示される画面を(a)~(h)で示す。画面(a)は、設備表示モード部であり、「通常時モード」、「災害時モード」又は「災害時長期モード」が表示される。普段は「通常時モード」が表示されるが、地震時などの災害時をトリガーにして「災害時モード」に切り替わり、災害の復旧が長期化すると予想される場合は、「災害時長期モード」に切り換わる。
【0043】
図5は、通常時モードの表示画面であり、画面(a)に「通常時モード」であることを示し、画面(b)に電力デマンドが表示されている。この電力デマンドは、一日の変化をグラフで表し、画面をタップするとそのグラフが表示される。また、この現在値が閾値を超えると画面が赤表字に変わり注意喚起される。画面(c)には、受付ゲートを通過した施設入館者のうち測定された体温が所定の温度以上の人数が表示される。画面(d)には、その日に消費されたエネルギ量が目標値に対して表示される。エネルギ量の表示は、下段がその日の積算量であり、上段が去年の月ごとの日平均値である。画面(e)には、その日の出社率を個人の入館カード等から割り出して施設の管理者等の出社率が表示される。画面(f)には、施設内で警告(アラート)が発生したか否かが「正常」又は「異常」の表示により示される。この中央監視装置4に報告された警告は、携帯端末機28と連動され、施設外にいても確認可能である。そして、画面(g)には、施設従事者に対する「お知らせ」が表示され、例えば、「本日、13時から予定どおり冷凍庫のメンテナンスを実施します。」との情報が表示される。このおしらせ表示は、チャットのように使用できるようにして、関係者に知らせたい内容を誰もが打ち込めるようになっている。また、タップすると大画面に切り替わり、表示の履歴が確認できる。
【0044】
図6~
図10に、災害時において携帯端末機28に表示される画面を(a)~(h)に示す。画面(a)は、災害時モードを示し、例えば、地震感知部6の地震センサ61が地震を感知すると、停電、給水一次側圧力低下、ガス緊急遮断弁作動、降水量が閾値を超えたこと等がトリガーとなり、災害時モード表示自動切替え部25により災害時モードが表示される。そして、画面(b)~(g)には、各設備に関する現在の「正常」又は「異常」が一覧表により表示される。
【0045】
図6は、地震発生時に各設備に発生する二次災害を一覧表で示している。本明細書では、画面(b)~(g)が総て「正常」となっているため、地震は発生したが、各設備には二次災害は生じていないことを示している。また、地震に関する画面(b
1),(b
2),(b
3)には、地震の震度を表示し、安全性に関するコメントが表示されている。例えば、「この建物は安全です(b
1)」、「専門家による点検をお勧めします(b
2)」、「専門家による安全確認をお勧めします(b
3)」等である。また、ガスに関する向かって右端部の画面d
1は、地震発生によりガスを遮断して二次災害を防いでいることを示す。もしも、施設内にガス設備がない場合にはその旨が表示される。これは、ガス設備がないことを明確にすることでパニックになるのを防ぐことができるからである。上述したように、ガスに関しては緊急遮断弁作動がガス漏れのトリガーとなり、その時の画面表示は、「ガス遮断中」となり、表示画面は赤色に着色される。なお、本明細書では、各設備は「地震」、「電気」、「ガス」、「水」、「医療ガス」及び「エレベータ」であるが、これに限らず、他の設備が追加されても良く、これらの設備のうち除外される設備があっても良い。また、表示画面は「正常」の場合は緑色に着色され、「正常」以外の場合は、赤色に着色されても良い。そして、画面(h)には、地震発生に関する情報として地震発生日時、地震発生の震源地が表示される。
【0046】
図7は、地震発生時における「電力系統8」に関する供給状況を表示画面に示した例である。画面(c)~画面(g)には「正常」と表示されていることから、「電気」に関しては特に問題は生じていないことが分かる。「異常」である場合には、画面(c
1)に示すように「電気」の表示が赤色等に着色され「停電」であることが強調される。そして、画面(c
2)に示すように発電機燃料の残り時間が「残り72時間」と表示され、(c
3)に示すように、電力供給範囲が「1Fであること」が表示される。そして、画面(h)には、地震発生に関する情報として地震発生日時、地震発生の震源地が表示される。
【0047】
図8は、地震発生時における「給排水系統9」に関する供給状況を表示画面に示した例である。画面(b)~画面(g)には「正常」と表示されていることから、「水」に関しては特に問題は発生していない。「異常」である場合には、画面(e
1)に示すように「水」の表示が赤色等に着色され「断水」であることが強調される。そして、画面(e
2)に示すように受水槽9bの水量の残り時間が「残り3時間」であることが表示され、(e
3)に示すように、供給範囲が「1F」であることが表示される。そして、画面(h)には、地震発生に関する情報として地震発生日時、地震発生の震源地が表示される。
【0048】
図9は、地震発生時における「ガス系統10」又は「医療用ガス系統12」に関する供給状況を表示画面に示した例である。画面(c)~画面(g)には「正常」と表示されていることから、「医療ガス」又は「医療用ガス系統12」に関しては、特に問題は発生していない。災害時モード表示自動切替え部25は、ガス圧センサ10a,12aの圧力に異常を感知した場合は、災害時モードに切替えて表示させる。このように「異常」である場合には、画面(f)に「医療ガス」の表示が赤色等に着色され「注意」であることが強調される。そして、画面(h)には、地震発生に関する情報として地震発生日時、地震発生の震源地が表示される。
【0049】
図10は、「搬送系統11」に関する状況を表示画面に示した例である。画面(c)~画面(g)には「正常」と表示されていることから、「搬送系統11」に関しては特に問題は発生していない。災害時モード表示自動切替え部25は、地震を感知した場合は、災害時モードに切替えて表示させる。地震が発生した場合には、画面(g)に「地震発生」の表示が赤色等に着色され「エレベータ停止」であることが強調される。そして、画面(h)には、地震発生に関する情報として地震発生日時、地震発生の震源地が表示される。
【0050】
このように、事業継続計画支援システム1は、通常時モード時の場合は、設備機器から必要箇所に必要量を供給させ、災害時モードの場合は、最小限の供給エリアに対して使用目的の重要度に応じた供給制限を行うことで、設備機器の維持期間を延長させる。また、事業継続計画支援システム1は、設備機器の運用に関する情報を第2データベースである設備運用情報収集部23に集積し、設備機器に関する情報を施設内の大型モニタ29に表示させる。
【0051】
(新型コロナウイルス関連)
事業継続計画支援システム1は、感染症対策情報元53が把握した施設入館者の検温結果及び感染者数を感染症に関する対策情報として携帯端末機28に表示する。
【0052】
以上の実施形態で説明された事業継続計画支援システム1の構成、及び、携帯端末機28又は大型モニタ29の表示方法等については、本発明が理解、実施できる程度に概略的に示したものにすぎない。従って、本発明は、説明された実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示される技術的思想の範囲を逸脱しない限り様々な形態に変更することができる。
【符号の説明】
【0053】
1 事業継続計画支援システム、2 BCP・設備運用情報管理部、3 地震観測・建物モニタリング部、4 中央監視装置、5 管理パーソナルコンピュータ部、6 地震感知部、7 表示部、8 電力系統、8a 受変電設備、8b 非常用電源、8c 太陽光発電、9 給排水系統、9a 水圧センサ、9b 受水槽、9c 非常用排水槽、10 ガス系統、10a ガス圧センサ、10b ガス検知器、11 搬送系統、11a エレベータ、11b エスカレータ、12 医療用ガス系統、12a ガス圧センサ、12b ガス検知器、21 設備運用情報表示部、22 設備機器運用管理部、23 設備運用情報収集部(第2データベース)、24 資源残量予測部、25 災害時モード表示自動切替え部、26 手入力連絡部、27 通知・発信部、28 携帯端末機、29 大型モニタ、30 運用モード切替え部、31 自動/手動切替え部、32 供給エリア設定部,33 外部情報元(河川氾濫状況等)、34 地震情報発信部、35 地震観測情報収集部(第1データベース)、41,52 機器制御部、42,51 データ収集部、53 感染症対策情報元、61 振動センサ、62 地震計測部。