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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】柱梁接合方法及び柱梁接合構造
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20250204BHJP
   E04B 1/22 20060101ALI20250204BHJP
   E04B 1/21 20060101ALI20250204BHJP
   E04C 5/08 20060101ALI20250204BHJP
   E04G 21/12 20060101ALI20250204BHJP
【FI】
E04B1/58 508A
E04B1/22
E04B1/21 B
E04C5/08
E04G21/12 104E
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021113263
(22)【出願日】2021-07-08
(65)【公開番号】P2023009741
(43)【公開日】2023-01-20
【審査請求日】2024-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永元 直樹
(72)【発明者】
【氏名】田野 健治
(72)【発明者】
【氏名】松永 健太郎
【審査官】神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-309669(JP,A)
【文献】特開平10-252222(JP,A)
【文献】実開昭52-035811(JP,U)
【文献】特開2000-291134(JP,A)
【文献】特開平06-173339(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04B 1/22
E04B 1/21
E04C 5/08
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレキャストコンクリート構造の柱梁接合方法であって、
凹形状の柱側シアキーを有するプレキャスト柱部材を所定の位置に立設するステップと、
前記プレキャスト柱部材に着脱可能な仮支持部材を取り付けるステップと、
凹形状の梁側シアキーを端面に有するプレキャスト梁部材の端部を前記仮支持部材の上に載置し、前記柱側シアキーと前記梁側シアキーとを対向させるステップと、
前記プレキャスト梁部材と前記プレキャスト柱部材との間に形成される空隙に充填材を充填するステップと、
前記プレキャスト梁部材と前記プレキャスト柱部材とに亘るように緊張材を配置するステップと、
前記充填材が硬化した後に、前記緊張材に緊張力を付与することで前記プレキャスト梁部材及び前記プレキャスト柱部材にプレストレスを導入するステップとを備え
前記柱側シアキー及び前記梁側シアキーは、立断面において奥に向けて低くなる上面を備え、平断面において一対の側面が奥に向けて広がる形状をしている、柱梁接合方法。
【請求項2】
前記緊張材に前記緊張力が与えられた後に、前記仮支持部材を撤去するステップを更に備える請求項1に記載の柱梁接合方法。
【請求項3】
プレキャストコンクリート造の柱梁接合構造であって、
所定の位置に立設され、凹形状の柱側シアキーを外面に有するプレキャスト柱部材と、
凹形状の梁側シアキーを端面に有し、前記梁側シアキーが前記柱側シアキーに対向するように配置されたプレキャスト梁部材と、
前記プレキャスト梁部材と前記プレキャスト柱部材との間に形成される空隙に充填された充填材と、
前記プレキャスト梁部材と前記プレキャスト柱部材とに亘るように配置され、前記プレキャスト梁部材及び前記プレキャスト柱部材にプレストレスを導入する緊張材とを備え
前記柱側シアキー及び前記梁側シアキーは、立断面において奥に向けて低くなる上面を備え、平断面において一対の側面が奥に向けて広がる形状をしている、柱梁接合構造。
【請求項4】
前記プレキャスト柱部材における前記プレキャスト梁部材の下方の部分には、前記プレキャスト梁部材を仮支持するための仮支持部材を着脱可能に保持する保持部材が設けられている請求項3に記載の柱梁接合構造。
【請求項5】
前記プレキャスト梁部材には、前記緊張材を挿通するべく長手方向に延びる梁側貫通孔が形成され、前記プレキャスト柱部材には、前記梁側貫通孔に整合する位置にて水平方向に延びる柱側貫通孔が形成され、前記梁側貫通孔と前記柱側貫通孔とが前記空隙から区画されて互いに連通しており、
前記緊張材が前記梁側貫通孔及び前記柱側貫通孔に挿通され、前記プレキャスト梁部材及び前記プレキャスト柱部材に対してアンボンド状態とされている請求項3又は請求項4に記載の柱梁接合構造。
【請求項6】
前記充填材が、無収縮モルタル、繊維補強モルタル又は低弾性高じん性モルタルである請求項3~のいずれか1項に記載の柱梁接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレキャストコンクリート構造の柱梁接合方法及び、プレキャストコンクリート造の柱梁接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、RC構造に比べて高い弾性耐力を有する構造物としてプレストレストコンクリート構造物が知られている(特許文献1)。このプレストレストコンクリート構造物では、大梁受け用顎が一体成形された多数のプレキャストコンクリート柱がコンクリートの基礎上に立設され、端部に突起を有するプレキャストコンクリート大梁が大梁受け用顎に支持されて各柱間に架設される。大梁受け用顎と突起との接合面には充填材が設けられ、PC鋼線が緊張されることにより、プレストレスを付与されたプレキャストコンクリート大梁がプレキャストコンクリート柱に緊張定着される。
【0003】
また工期を短縮することのできる建物の施工方法として、複数のアンボンドプレキャストプレストレストコンクリート柱を用いた方法が知られている(特許文献2)。この方法では、複数のアンボンドプレキャストプレストレストコンクリート柱を含む建物のコア部について所定階層が施工された後に、建物の外周部について所定階層が施工される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-280092号公報
【文献】特開2020-56165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のプレストレストコンクリート構造物では、大梁受け用顎が柱の外面から突出するようにプレキャストコンクリート柱に一体成形される。プレキャストコンクリート梁は、大梁受け用顎を受容するための凹部が形成されることによって端部が突起形状とされる。このように大梁受け用顎がプレキャストコンクリート柱に突出形成さると、施工の自由度が制限される。また、大梁受け用顎や突起が柱や大梁に一体形成されるため、これらプレキャストコンクリート部材の製作コストが高くなる。また、プレキャストコンクリート柱は大梁受け用顎が一体形成されたことにより嵩張るため、運搬コストも高くなる。
【0006】
一方、特許文献2に記載の建物の施工方法では、コア部の柱はアンボンドプレキャストプレストレストコンクリート柱として施工されるが、コア部の梁は鉄筋コンクリート梁である。したがって、施工の自由度向上やコスト低減において改良の余地がある。なお、特許文献2の段落[0022]には、コア部の梁がアンボンドプレキャストプレストレストコンクリート梁、プレキャストプレストレストコンクリート梁等でもよいことが開示されているが、柱梁接合部の具体的な構成や柱梁の具体的な施工方法は示されていない。
【0007】
本発明は、以上の背景に鑑み、プレキャストコンクリート構造物における施工の自由度を向上し、且つコストを低減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、プレキャストコンクリート構造の柱梁接合方法であって、凹形状の柱側シアキー(21)を有するプレキャスト柱部材(12)を所定の位置に立設するステップ(図5(A))と、前記プレキャスト柱部材に着脱可能な仮支持部材(23)を取り付けるステップ(図5(A))と、凹形状の梁側シアキー(20)を端面に有するプレキャスト梁部材(13)の端部を前記仮支持部材の上に載置し、前記柱側シアキーと前記梁側シアキーとを対向させるステップ(図5(B))と、前記プレキャスト梁部材と前記プレキャスト柱部材との間に形成される空隙(G)に充填材(14)を充填するステップ(図5(C))と、前記プレキャスト梁部材と前記プレキャスト柱部材とに亘るように緊張材(15)を配置するステップ(図5(D))と、前記充填材が硬化した後に、前記緊張材に緊張力を付与することで前記プレキャスト梁部材及び前記プレキャスト柱部材にプレストレスを導入するステップ(図5(D))とを備える。
【0009】
この態様によれば、柱側シアキー及び梁側シアキーが凹形状であるため、上方及び水平方向のどちらからもプレキャスト梁部材の配置が可能であり、施工の自由度が制限されない。また、着脱可能な仮支持部材をプレキャスト柱部材に取り付け、プレキャスト梁部材の端部を仮支持部材の上に載置できるため、施工が容易である。更に、柱側シアキー及び梁側シアキーが凹形状であるため、プレキャスト柱部材及びプレキャスト梁部材に突部を形成する場合に比べ、それらプレキャスト部材の製造コスト及び運搬コストを低減することができる。
【0010】
上記の態様において、前記緊張材に前記緊張力が与えられた後に、前記仮支持部材を撤去するステップ(図5(E))を更に備えてもよい。
【0011】
この態様によれば、仮支持部材を転用することができるため、材料コストを低減することができる。また、仮支持部材を撤去することで、柱梁接合部の外観が向上する。柱梁接合部をボード等で覆う場合には、仮支持部材を撤去することで、デッドスペースを小さくすることができる。
【0012】
上記課題を解決するために本発明の他の態様は、プレキャストコンクリート造の柱梁接合構造(11)であって、所定の位置に立設され、凹形状の柱側シアキー(21)を外面に有するプレキャスト柱部材(12)と、凹形状の梁側シアキー(20)を端面に有し、前記梁側シアキーが前記柱側シアキーに対向するように配置されたプレキャスト梁部材(13)と、前記プレキャスト梁部材と前記プレキャスト柱部材との間に形成される空隙(G)に充填された充填材(14)と、前記プレキャスト梁部材と前記プレキャスト柱部材とに亘るように配置され、前記プレキャスト梁部材及び前記プレキャスト柱部材にプレストレスを導入する緊張材(15)とを備える。
【0013】
この態様によれば、柱側シアキー及び梁側シアキーが凹形状であるため、柱梁接合構造構築時の施工の自由度が制限されない。また、柱側シアキー及び梁側シアキーが凹形状であるため、プレキャスト柱部材及びプレキャスト梁部材に突部を形成する場合に比べ、それらプレキャスト部材の製造コスト及び運搬コストを低減することができる。
【0014】
上記の態様において、前記プレキャスト柱部材における前記プレキャスト梁部材の下方の部分には、前記プレキャスト梁部材を仮支持するための仮支持部材(23)を着脱可能に保持する保持部材(22)が設けられてもよい。
【0015】
この態様によれば、プレキャスト梁部材を仮支持するための仮支持部材をプレキャスト柱部材に取り付け、プレキャスト梁部材の端部を仮支持部材の上に載置できるため、施工が容易である。
【0016】
上記の態様において、前記プレキャスト梁部材には、前記緊張材を挿通するべく長手方向に延びる梁側貫通孔(18)が形成され、前記プレキャスト柱部材には、前記梁側貫通孔に整合する位置にて水平方向に延びる柱側貫通孔(19)が形成され、前記梁側貫通孔と前記柱側貫通孔とが前記空隙から区画されて互いに連通しており、前記緊張材が前記梁側貫通孔及び前記柱側貫通孔に挿通され、前記プレキャスト梁部材及び前記プレキャスト柱部材に対してアンボンド状態とされてもよい。
【0017】
この態様によれば、柱梁接合部がアンボンドプレストレストコンクリート構造になる。そのため、ボンド構造の場合に比べて、柱梁接合構造の弾性変形性能を高くすることができる。また、緊張材を撤去することによってプレキャスト梁部材とプレキャスト柱部材とを分離できるため、プレキャスト部材の再利用が可能あり、柱梁接合構造のライフサイクルコストを低減できる。更に、プレキャスト部材を再利用することにより、新たに部材を構築する場合に比べてCO排出などの環境負荷を低減できる。
【0018】
上記の態様において、前記柱側シアキー及び前記梁側シアキーは、立断面において奥に向けて低くなる上面(20a、21a)を備えてもよい。
【0019】
この態様によれば、充填材を空隙に充填する際に空隙内に空気溜まりが生じることが抑制される。
【0020】
上記の態様において、前記柱側シアキー及び前記梁側シアキーは、平断面において一対の側面(20b、21b)が奥に向けて広がる形状をしていてもよい。
【0021】
この態様によれば、柱側シアキー及び梁側シアキーがありほぞになり、充填材のプレキャスト梁部材及びプレキャスト柱部材に対する結合力が強固になる。したがって、仮に緊張材が破断し、緊張力による接合が解除されたとしても、プレキャスト梁部材のプレキャスト柱部材からの落下が抑制される。
【0022】
上記の態様において、前記充填材が、無収縮モルタル、繊維補強モルタル又は低弾性高じん性モルタルであってもよい。
【0023】
この態様によれば、充填材が破損し難くなるため、プレキャスト梁部材のプレキャスト柱部材に対する結合力が向上する。
【発明の効果】
【0024】
以上の態様によれば、プレキャストコンクリート構造物における施工の自由度を向上し、且つコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】第1実施形態に係る建物の正面図
図2図1に示す建物の立断面図
図3図2の要部拡大図
図4図3中のIV―IV断面線に沿う平断面図
図5】第1実施形態に係る建物の構築手順を示す図
図6】第2実施形態に係る柱梁接合構造の正面図
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。本発明は、鉄筋コンクリート又は鉄骨鉄筋コンクリートからなるラーメン構造の建物1に適用される。
【0027】
≪第1実施形態≫
まず、図1図5を参照して本発明の第1実施形態を説明する。図1は第1実施形態に係る建物1の正面図である。図1に示すように、建物1は、1対の柱2と、1対の柱2に延在方向の両端部が接合される梁3とを備えている。柱2は、平面視で互いに直交するX方向及びY方向に所定の間隔を空けて所定の位置に配置される。柱2は、X方向及びY方向の少なくとも一方に3列以上に設けられてもよい。梁3はX方向及びY方向のそれぞれに延在するように設けられる。また、梁3は、建物1の階層ごとに鉛直方向の所定の位置に設けられ、床(図示せず)を支持する。梁3の端部は柱梁接合構造11によって柱2に接合されている。
【0028】
柱2は、少なくとも1つのプレキャスト柱部材12を含んでいる。プレキャスト柱部材12は、下方に構築された下部柱や基礎の上等の所定の位置に立設される。プレキャスト柱部材12は、1階層の階高と同じ長さとされてもよく、1階層の階高よりも長い長さとされてもよい。或いは、プレキャスト柱部材12は1階層の階高よりも短い長さとされてもよい。プレキャスト柱部材12は、アンボンド緊張材によって下方の下部柱や基礎等に接合されることが好ましい。
【0029】
梁3は、1つのプレキャスト梁部材13により構成される。プレキャスト梁部材13は、1対のプレキャスト柱部材12間距離よりも若干短い長さとされている。プレキャスト梁部材13は、1対のプレキャスト柱部材12間に配置される。したがって、プレキャスト梁部材13の端部とこれに対向するプレキャスト柱部材12との間には空隙G(図5(B)参照)が形成される。この空隙Gには充填材14が充填される。充填材14の充填後、プレキャスト梁部材13は、両端を1対のプレキャスト柱部材12に接合され、1対のプレキャスト柱部材12に掛け渡される。
【0030】
プレキャスト柱部材12及びプレキャスト梁部材13は、プレキャストコンクリートを用いて工場で予め製作され、建設現場に搬入される。充填材14は、時間経過に伴って硬化する流動性材料であり、例えば、モルタルやセメントミルクであってよい。硬化後に充填材14が破損し難くなるように、充填材14として繊維補強モルタルや低弾性高じん性モルタルを採用することが好ましい。
【0031】
このように柱梁接合構造11は、プレキャスト梁部材13の一端とプレキャスト柱部材12との接合構造であり、プレキャスト梁部材13の両端に構成される。本実施形態では、一方のプレキャスト柱部材12から他方のプレキャスト柱部材12に亘るように配置される緊張材15により、プレキャスト梁部材13の各端部が対応するプレキャスト柱部材12に圧着接合される。これにより、柱梁接合構造11はプレストレストコンクリート造とされる。
【0032】
具体的には、プレキャスト梁部材13の上部及び下部に複数の緊張材15が配置される。各緊張材15は、緊張力を付与された状態で、定着具16によってプレキャスト柱部材12の外側の外面に両端部を定着される。これにより、プレキャスト柱部材12及びプレキャスト梁部材13にプレストレスが導入されると共に、プレキャスト梁部材13の各端部が対応するプレキャスト柱部材12に圧着される。
【0033】
緊張材15は、PC鋼棒、PC鋼線、PC鋼より線、又は、アラミド繊維、炭素繊維若しくはガラス繊維等の繊維強化プラスチック製の棒若しくはケーブル等を素材とする。緊張材15は、プレキャスト柱部材12及びプレキャスト梁部材13に対して接着されないアンボンド緊張材とすることが好ましい。緊張材15をアンボンドとすることにより、地震終了後の残留変形が小さくなる。
【0034】
図2は、図1に示す建物1の立断面図である。図2に示すように、プレキャスト梁部材13には、緊張材15を挿通するための梁側貫通孔18が形成されている。梁側貫通孔18は、プレキャスト梁部材13の長手方向に沿って水平に延びている。プレキャスト柱部材12には、挿通するための柱側貫通孔19が形成されている。柱側貫通孔19は、梁側貫通孔18に整合する位置にて水平方向に延びており、梁側貫通孔18に連続している。
【0035】
プレキャスト梁部材13の両端面には凹形状の梁側シアキー20が形成されている。プレキャスト柱部材12の内側の外面における梁側シアキー20に対向する位置には、凹形状の柱側シアキー21が形成されている。
【0036】
図3図2の要部拡大図である。図3に示すように、プレキャスト柱部材12におけるプレキャスト梁部材13の下方の部分には、複数の埋込アンカー22が設けられている。埋込アンカー22は、プレキャスト梁部材13の下方にてプレキャスト柱部材12の外面にねじ孔を開口させている。埋込アンカー22は、ねじ孔に螺合するボルトBと協働してブラケット23を着脱可能に保持する保持部材である。
【0037】
ブラケット23は、プレキャスト梁部材13をプレキャスト柱部材12に接合する際に仮支持するための仮支持部材である。ブラケット23は、例えば山形鋼や溝形鋼、H形鋼等の形鋼から構成されてよい。ブラケット23は、プレキャスト柱部材12の建て込み前に取り付け、プレキャスト梁部材13の接合後に取り外すとよい。
【0038】
この構成により、プレキャスト梁部材13を仮支持するためのブラケット23をプレキャスト柱部材12に取り付け、プレキャスト梁部材13の端部をブラケット23の上に載置できるため、施工が容易になる。
【0039】
上記のようにプレキャスト梁部材13の端部とプレキャスト柱部材12との間に形成される空隙G(図5(B)参照)には充填材14が充填される。充填材14が緊張材15に付着することを防止するために、プレキャスト梁部材13とプレキャスト柱部材12との間には付着防止材24が設けられている。付着防止材24は、円環状をなし、梁側貫通孔18と柱側貫通孔19とを空隙Gから区画して連通させる。これにより、空隙Gに充填される充填材14が梁側貫通孔18及び柱側貫通孔19に流入することが防止される。付着防止材24は、プレキャスト梁部材13とプレキャスト柱部材12との間に圧縮状態で配設された弾性部材であってよい。他の実施形態では、付着防止材24は、空隙Gを横切るように配置されて梁側貫通孔18及び柱側貫通孔19に挿入される円筒部材であってもよい。
【0040】
付着防止材24が設けられ、緊張材15がアンボンド状態とされることで、柱梁接合部はアンボンドプレストレストコンクリート構造となる。これにより、ボンド構造の場合に比べて、柱梁接合構造11の弾性変形性能が高くなる。また、緊張材15を撤去することによってプレキャスト梁部材13とプレキャスト柱部材12とを分離することができる。そのため、これらプレキャスト部材の再利用が可能であり、柱梁接合構造11のライフサイクルコストを低減できる。更に、プレキャスト部材を再利用することにより、新たに部材を構築する場合に比べてCO排出などの環境負荷が低減される。
【0041】
図3の立断面において、梁側シアキー20の上面20aは空隙G側から奥に向けて低くなっている。柱側シアキー21の上面21aも、空隙G側から奥に向けて低くなっている。そのため、充填材14を空隙Gに充填する際に空隙G内に空気溜まりが生じることが抑制される。梁側シアキー20の底面及び柱側シアキー21の底面は、図3の立断面において空隙G側から奥に向けて高くなっている。
【0042】
図4図3中のIV―IV断面線に沿う平断面図である。図4に示すように、平断面において、梁側シアキー20は一対の側面20bが奥に向けて広がる形状をしている。柱側シアキー21も、一対の側面21bが奥に向けて広がる形状をしている。これにより、梁側シアキー20及び柱側シアキー21がありほぞになり、充填材14のプレキャスト梁部材13及びプレキャスト柱部材12に対する結合力が強固になる。したがって、仮に緊張材15が破断し、緊張力による接合が解除されたとしても、プレキャスト梁部材13のプレキャスト柱部材12からの落下が抑制される。
【0043】
ここで、実施形態では充填材14として破損し難い繊維補強モルタルが採用されている。そのため、プレキャスト梁部材13のプレキャスト柱部材12に対する結合力が向上している。他の実施形態では、繊維補強モルタルの代わりに無収縮モルタルや低弾性高じん性モルタルが充填材14として採用されてもよい。これによってもプレキャスト梁部材13のプレキャスト柱部材12に対する結合力が向上する。
【0044】
建物1の柱梁接合構造11は以上のように構成されている。次に、このようなプレキャストコンクリート構造の柱梁接合方法について説明する。図5は第1実施形態に係る建物1の構築手順を示す図である。建物1は作業者によって以下の手順(ステップ)により構築される。
【0045】
建物1の構築に先立ち、上記の構成のプレキャスト柱部材12及びプレキャスト梁部材13を必要な数だけ用意する。上記のようにプレキャスト柱部材12には、凹形状の柱側シアキー21が形成されているものの、梁受け用顎のような突起は形成されていない。そのため、プレキャスト柱部材12は嵩張らないことから運搬コストを低減できる。また、プレキャスト梁部材13には、凹形状の梁側シアキー20が形成されているものの、梁受け用顎の上に載置される突起形状部が端部に形成されていない。このようにプレキャスト柱部材12及びプレキャスト梁部材13に突起形状部が形成されないため、これらプレキャストコンクリート部材の製造コストを低減できる。
【0046】
建物1の構築現場においては、図5(A)に示すように、プレキャスト柱部材12を所定の位置に立設する。ブラケット23は、プレキャスト柱部材12の建て込みの前にプレキャスト柱部材12に取り付けておくとよい。或いは、プレキャスト柱部材12を所定の位置に立設した後、プレキャスト柱部材12にブラケット23を取り付けてもよい。
【0047】
次に、図5(B)に示すように、プレキャスト梁部材13を図示しないクレーンで吊り上げて1対のプレキャスト柱部材12の間に配置し、プレキャスト梁部材13の両端部をブラケット23の上に載置する。その際、柱側シアキー21及び梁側シアキー20が凹形状であるため、上方及び水平方向のどちらからもプレキャスト梁部材13の配置が可能であり、施工の自由度が制限されない。また、プレキャスト梁部材13を仮支持するためのブラケット23が着脱可能にプレキャスト柱部材12に取り付けられることにより、施工の自由度が向上する。またブラケット23がプレキャスト柱部材12に取り付けられることにより、プレキャスト梁部材13の端部をブラケット23の上に載置できる。よって、施工が容易である。
【0048】
プレキャスト梁部材13がブラケット23上の所定の位置に配置されると、梁側シアキー20と柱側シアキー21とが互いに対向する。図5では省略しているが、プレキャスト梁部材13を所定の位置に配置する際、付着防止材24(図3参照)を所定の位置に配置する。
【0049】
その後、図5(C)に示すように、プレキャスト梁部材13とプレキャスト柱部材12との間に形成される空隙Gに充填材14を充填する。図5(D)に示すように、プレキャスト梁部材13と前記プレキャスト柱部材とに亘るように緊張材15を配置する。充填材14が硬化した後に、緊張材15に緊張力を付与することでプレキャスト梁部材13及びプレキャスト柱部材12にプレストレスを導入する。これにより、プレストレストコンクリート造の柱梁接合構造11が構築される。なお、緊張材15の配置は、図5(C)での充填材14の充填前に行ってもよい。
【0050】
その後、図5(E)に示すように、ブラケット23を撤去する。ブラケット23は、プレキャスト梁部材13の接合後に撤去することで、他の接合箇所に転用することができる。そのため、材料コストが低減される。また、ブラケット23を撤去することで、柱梁接合部の外観が向上する。柱梁接合部をボード等で覆う場合には、ブラケット23を撤去することで、デッドスペースを小さくすることができる。
【0051】
≪第2実施形態≫
次に、図6を参照して本発明の第2実施形態を説明する。図6に示すように、本実施形態では、プレキャスト梁部材13の両端部が、連続しない緊張材15によって1対のプレキャスト柱部材12に圧着により接合される点において第1実施形態と異なる。以下、具体的に説明する。
【0052】
プレキャスト梁部材13は、長手方向の中間部に比べて拡幅した梁拡幅部31を両端に備えている。梁拡幅部31は、プレキャスト梁部材13の端面と相反する側に定着具16を係止する肩面31aを形成する。肩面31aはプレキャスト梁部材13の断面において幅方向の両側に形成される。
【0053】
プレキャスト梁部材13がこのように構成され、プレキャスト梁部材13の両端が、連続しない独立した緊張材15によってプレキャスト柱部材12に圧着されても、第1実施形態と同様の作用効果が奏される。
【0054】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。例えば、各部材や部位の具体的構成や配置、数量、素材、手順など、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更することができる。一方、上記実施形態に示した各構成要素は必ずしも全てが必須ではなく、適宜選択することができる。
【符号の説明】
【0055】
11 :柱梁接合構造
12 :プレキャスト柱部材
13 :プレキャスト梁部材
14 :充填材
15 :緊張材
18 :梁側貫通孔
19 :柱側貫通孔
20 :梁側シアキー
20a :上面
20b :側面
21 :柱側シアキー
21a :上面
21b :側面
22 :埋込アンカー(保持部材)
23 :ブラケット(仮支持部材)
G :空隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6