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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/02 20060101AFI20250204BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20250204BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20250204BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20250204BHJP
   B60W 10/10 20120101ALI20250204BHJP
   B60W 20/40 20160101ALI20250204BHJP
   F16D 48/02 20060101ALI20250204BHJP
【FI】
B60W10/02 900
B60K6/48 ZHV
B60K6/547
B60W10/06 900
B60W10/10 900
B60W20/40
F16D48/02 640U
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2021135234
(22)【出願日】2021-08-20
(65)【公開番号】P2023029121
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2024-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】松原 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正幸
(72)【発明者】
【氏名】稲吉 智也
(72)【発明者】
【氏名】南 貴文
(72)【発明者】
【氏名】杉野 拓眞
【審査官】中川 隆司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/095970(WO,A1)
【文献】特開2010-195214(JP,A)
【文献】特開平11-178113(JP,A)
【文献】特開2013-95156(JP,A)
【文献】特開2009-274643(JP,A)
【文献】米国特許第9637109(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/02
B60K 6/48
B60K 6/547
B60W 10/06
B60W 10/10
B60W 20/40
F16D 48/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用駆動力源である内燃機関及び電動機と、前記内燃機関及び前記電動機の間の動力伝達を断接する油圧式の摩擦係合装置と、前記走行用駆動力源から出力された駆動力を変速する自動変速機と、を備えるハイブリッド車両の、制御装置であって、
前記内燃機関の始動制御及び前記自動変速機のダウンシフト制御が同時期に実行される場合において、
前記摩擦係合装置の同期が完了する前に前記ダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることが検知されないと、前記始動制御における前記摩擦係合装置の同期が完了するまで前記イナーシャ相の開始を遅延させ、
前記摩擦係合装置の同期が完了する前に前記イナーシャ相が開始していることが検知されると、前記イナーシャ相を進行させ、且つ、前記始動制御において前記摩擦係合装置を係合させる制御圧を前記イナーシャ相が開始していることが検知されない場合に比較して増圧させる
ことを特徴とするハイブリッド車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用駆動力源である内燃機関及び電動機と、それら内燃機関及び電動機の間の動力伝達を断接する摩擦係合装置と、走行用駆動力源から出力された駆動力を変速する自動変速機と、を備えるハイブリッド車両の、制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
走行用駆動力源である内燃機関及び電動機と、それら内燃機関及び電動機の間の動力伝達を断接する摩擦係合装置と、走行用駆動力源から出力された駆動力を変速する自動変速機と、を備えるハイブリッド車両において、内燃機関の始動制御及び自動変速機のダウンシフト制御が同時期に実行される場合には、内燃機関の回転速度が所定回転速度以上になったことを検知した後に始動制御とダウンシフト制御とを同時に進行させる方法が知られている。例えば、特許文献1に記載のものがそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5914520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内燃機関の回転速度が所定回転速度以上になる前にダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始されてしまった場合には、ダウンシフト制御が早期に完了するように制御されることが好ましいが、特許文献1に記載の方法では、内燃機関の回転速度が所定回転速度以上になるまでダウンシフト制御を進めることができず、運転者の要求に沿ったドライバビリティが実現されないおそれがある。一方、内燃機関の回転速度が所定回転速度以上になる前にダウンシフト制御を進める方法も考えられるが、このような方法では、ダウンシフト制御におけるイナーシャ相の進行によって摩擦係合装置における自動変速機側(=電動機側)の回転速度が上昇してしまい、摩擦係合装置の同期の完了が遅れてしまうすなわち内燃機関の始動制御の完了が遅れてしまう。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、内燃機関の始動制御における摩擦係合装置の同期が完了する前にダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始されていても、ダウンシフト制御の完了の遅れを抑制しつつ始動制御の完了の遅れを抑制できるハイブリッド車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨とするところは、走行用駆動力源である内燃機関及び電動機と、前記内燃機関及び前記電動機の間の動力伝達を断接する油圧式の摩擦係合装置と、前記走行用駆動力源から出力された駆動力を変速する自動変速機と、を備えるハイブリッド車両の、制御装置であって、(A)前記内燃機関の始動制御及び前記自動変速機のダウンシフト制御が同時期に実行される場合において、(a-1)前記摩擦係合装置の同期が完了する前に前記ダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることが検知されないと、前記始動制御における前記摩擦係合装置の同期が完了するまで前記イナーシャ相の開始を遅延させ、(a-2)前記摩擦係合装置の同期が完了する前に前記イナーシャ相が開始していることが検知されると、前記イナーシャ相を進行させ、且つ、前記始動制御において前記摩擦係合装置を係合させる制御圧を前記イナーシャ相が開始していることが検知されない場合に比較して増圧させることにある。
【発明の効果】
【0007】
本発明のハイブリッド車両の制御装置によれば、(A)前記内燃機関の始動制御及び前記自動変速機のダウンシフト制御が同時期に実行される場合において、(a-1)前記摩擦係合装置の同期が完了する前に前記ダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることが検知されないと、前記始動制御における前記摩擦係合装置の同期が完了するまで前記イナーシャ相の開始が遅延させられ、(a-2)前記摩擦係合装置の同期が完了する前に前記イナーシャ相が開始していることが検知されると、前記イナーシャ相が進行させられ、且つ、前記始動制御において前記摩擦係合装置を係合させる制御圧が前記イナーシャ相が開始していることが検知されない場合に比較して増圧させられる。このように、摩擦係合装置の同期が完了する前に自動変速機のダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることが検知されると、内燃機関の始動制御が進行させられるとともにイナーシャ相が進行させられる。また、始動制御において摩擦係合装置を係合させる制御圧は、イナーシャ相が開始していることが検知されない場合に比較して増圧させられる。ダウンシフト制御におけるイナーシャ相が進行させられることにより、ダウンシフト制御の完了の遅れが抑制されるとともに、始動制御において摩擦係合装置を係合させる制御圧が増圧させられることにより、摩擦係合装置の同期完了の遅れ(すなわち内燃機関の始動制御完了の遅れ)が抑制される。これにより運転者の要求に沿ったドライバビリティが実現されやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施例に係る電子制御装置を備えるハイブリッド車両の概略構成図であるとともに、ハイブリッド車両における各種制御のための制御機能の要部を表す機能ブロック図である。
図2図1に示す電子制御装置の制御作動を説明するフローチャートの一例である。
図3図2のフローチャートが実行されたタイムチャートであって、K0クラッチの同期が完了する前にダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることが検知されなかった場合の例である。
図4図2のフローチャートが実行されたタイムチャートであって、K0クラッチの同期が完了する前にダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることが検知された場合の例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比及び形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例
【0010】
本発明の実施例に係る電子制御装置90を備えるハイブリッド車両10(以下、単に「車両10」と記す。)の概略構成図であるとともに、車両10における各種制御のための制御機能の要部を表す機能ブロック図である。
【0011】
車両10は、走行用駆動力源であるエンジン12及び電動機MGと、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路PTに設けられた動力伝達装置16と、を備える。車両10は、ハイブリッド車両である。
【0012】
エンジン12は、周知の内燃機関である。エンジン12は、後述する電子制御装置90によって、車両10に備えられたスロットルアクチュエータや燃料噴射装置や点火装置等を含むエンジン制御装置50が制御されることによりエンジン12の出力トルクであるエンジントルクTe[Nm]が制御される。なお、エンジン12は、本発明における「内燃機関」に相当する。
【0013】
動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材であるケース18内において、エンジン12側から順に、エンジン連結軸34、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24の入力回転部材である変速機入力軸38、自動変速機24等を備える。動力伝達装置16は、自動変速機24の出力回転部材である変速機出力軸26に連結されたプロペラシャフト28、プロペラシャフト28に連結されたディファレンシャルギヤ30、ディファレンシャルギヤ30に連結された1対のドライブシャフト32等を備える。
【0014】
エンジン連結軸34は、エンジン12とK0クラッチ20とを連結する部材である。
【0015】
K0クラッチ20は、動力伝達経路PTのうちエンジン12と電動機MGとの間に配設され、エンジン12と電動機MGとの間の動力伝達を断接するクラッチである。電動機連結軸36は、K0クラッチ20とトルクコンバータ22とを連結している。K0クラッチ20は、例えば多板式或いは単板式のクラッチにより構成される油圧式の摩擦係合装置である。K0クラッチ20は、油圧制御回路56からK0クラッチ20の断接状態を制御する油圧アクチュエータに供給される調圧されたK0油圧PRk0[Pa]によりK0クラッチ20の伝達トルク容量(K0クラッチ20の係合力)であるK0トルクTk0[Nm]が変化させられる。これにより、K0クラッチ20は、完全係合状態、半係合状態(=スリップ係合状態)、及び解放状態などの作動状態つまり断接状態が切り替えられる。K0油圧PRk0の指示圧を「K0クラッチ指示圧Pk0[Pa]」ということとする。K0クラッチ指示圧Pk0は、K0クラッチ20の断接状態を制御する油圧の指令値であって、エンジン始動制御においてK0クラッチ20を係合させる油圧の指令値である。K0クラッチ20が完全係合状態又は半係合状態である場合、K0クラッチ指示圧Pk0が増圧されることでK0トルクTk0が大きくされる。なお、K0クラッチ20は、本発明における「摩擦係合装置」に相当する。また、K0クラッチ指示圧Pk0は、本発明における「制御圧」に相当する。
【0016】
トルクコンバータ22は、周知のトルクコンバータである。トルクコンバータ22は、電動機連結軸36に連結されたポンプ翼車22aと、変速機入力軸38に連結されたタービン翼車22bと、ポンプ翼車22aとタービン翼車22bとを直結するロックアップクラッチ40と、を備える。トルクコンバータ22は、走行用駆動力源(エンジン12、電動機MG)の走行用駆動力を流体を介して電動機連結軸36から変速機入力軸38へ伝達できる流体式伝動装置である。
【0017】
車両10は、機械式のオイルポンプであるMOP58、電動式のオイルポンプであるEOP60、ポンプ用モータ62等を備える。MOP58は、ポンプ翼車22aに連結されており、走行用駆動力源(エンジン12、電動機MG)により回転駆動させられて動力伝達装置16で用いられる作動油OILを吐出する。ポンプ用モータ62は、EOP60を回転駆動するためのEOP専用のモータである。EOP60は、ポンプ用モータ62により回転駆動させられて作動油OILを吐出する。MOP58やEOP60が吐出した作動油OILは、油圧制御回路56へ供給される。
【0018】
電動機MGは、例えば電力から機械的な動力を発生させる電動機としての機能及び機械的な動力から電力を発生させる発電機としての機能を有する回転電気機械であって、所謂モータジェネレータである。本明細書では、動力は、特に区別しない場合には駆動力、トルク、及び力と同意である。電動機MGは、後述するインバータ52を介して車両10に備えられたバッテリ54に接続されている。バッテリ54は、電動機MGに対して電力を授受する蓄電装置である。電動機MGは、後述する電子制御装置90によってインバータ52が制御されることにより、電動機MGの出力トルクである電動機トルクTmg[Nm]が制御される。
【0019】
電動機MGは、ケース18内において、電動機連結軸36に動力伝達可能に連結されている。つまり、電動機MGは、動力伝達経路PTのうちK0クラッチ20とトルクコンバータ22との間の伝達経路に動力伝達可能に連結されている。
【0020】
自動変速機24は、動力伝達経路PTのうちトルクコンバータ22と駆動輪14との間に配設され、例えば不図示の1組又は複数組の遊星歯車装置と、複数の変速用係合装置CBと、を備える、公知の遊星歯車式の自動変速機である。自動変速機24は、走行用駆動力源から出力された駆動力を変速して駆動輪14に出力する。変速用係合装置CBは、例えば公知の油圧式の摩擦係合装置である。変速用係合装置CBは、各々、油圧制御回路56から変速用係合装置CBの断接状態を制御する油圧アクチュエータに供給される調圧されたCB油圧PRcb[Pa]により変速用係合装置CBの伝達トルク容量であるCBトルクTcb[Nm]が変化させられる。これにより、変速用係合装置CBは、各々、完全係合状態、半係合状態、及び解放状態などの断接状態が切り替えられる。
【0021】
自動変速機24は、例えば変速用係合装置CBのうちのいずれかの係合装置の係合によって、変速比(ギヤ比ともいう)γat(=AT入力回転速度Ni[rpm]/AT出力回転速度No[rpm])が異なる複数の変速段(ギヤ段ともいう)のうちのいずれかのギヤ段が形成される有段変速機である。変速比γatが大きいほど低速ギヤ段であり、変速比γatが小さいほど高速ギヤ段である。自動変速機24は、後述する電子制御装置90によって、運転者のアクセル操作や車速V[km/h]等に応じて、変速用係合装置CBのうちの自動変速機24の変速に関与する係合装置である所定の係合装置の断接状態が切り替えられることで、形成されるギヤ段が切り替えられる。AT入力回転速度Niは、変速機入力軸38の回転速度であり、自動変速機24の入力回転速度である。AT入力回転速度Niは、トルクコンバータ22の出力回転速度であるタービン回転速度Nt[rpm]と同値である。AT出力回転速度Noは、変速機出力軸26の回転速度であり、自動変速機24の出力回転速度である。
【0022】
例えば、自動変速機24の変速制御(以下、単に「変速制御」と記す。)においては、変速用係合装置CBのいずれかの掴み替えにより変速が実行される、すなわち変速用係合装置CBの完全係合状態と解放状態との切り替えにより変速が実行される、所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。ここで、クラッチツゥクラッチ変速において、解放状態から完全係合状態へ切り替えられる変速用係合装置CBを「係合側係合装置CBcon」といい、完全係合状態から解放状態へ切り替えられる変速用係合装置CBを「解放側係合装置CBdis」ということとする。また、係合側係合装置CBconの断接状態を制御する油圧アクチュエータに供給されるCB油圧PRcbの指示圧を「係合側指示圧Pcon[Pa]」といい、解放側係合装置CBdisの断接状態を制御する油圧アクチュエータに供給されるCB油圧PRcbの指示圧を「解放側指示圧Pdis[Pa]」ということとする。
【0023】
変速制御には、ダウンシフト制御とアップシフト制御とがある。ダウンシフト制御は、自動変速機24を低速ギヤ段側に切り替えて変速する変速制御であり、アップシフト制御は、自動変速機24を高速ギヤ段側に切り替えて変速する変速制御である。
【0024】
油圧制御回路56は、MOP58やEOP60から供給された作動油OILの油圧を元圧として、不図示のプライマリレギュレータバルブを用いて一定圧であるライン圧PL[Pa]を生成する。ライン圧PLは、自動変速機24の入力トルク等に応じた油圧とされる。また、油圧制御回路56は、ライン圧PLを元圧として調圧した各種の油圧を、ケース18内の必要な各部にそれぞれ供給する。
【0025】
例えば、油圧制御回路56内には、K0クラッチ20の断接制御用であるK0用電磁弁SC、及び、変速制御用である4つの変速用電磁弁SL1~SL4(以下、特に区別しない場合には、「変速用電磁弁SL」と記す。)が設けられている。これらK0用電磁弁SC,変速用電磁弁SLは、例えば周知のリニアソレノイド弁である。
【0026】
K0用電磁弁SCの駆動電流が制御されることによりK0油圧PRk0が調圧されて、K0クラッチ20の断接状態が制御される。例えば、K0用電磁弁SCの駆動電流が流れない状態とされることでK0クラッチ20が解放状態とされたり、K0用電磁弁SCの駆動電流の電流値が制御されることでK0クラッチ20が完全係合状態や半係合状態とされたりする。
【0027】
変速用電磁弁SLの各駆動電流が制御されることによりCB油圧PRcbが調圧されて、変速用電磁弁SLの断接状態がそれぞれ制御される。これにより、自動変速機24は、変速用係合装置CBのうちの所定の係合装置の断接状態に応じて、ニュートラル状態にされたり所望の変速比γatのギヤ段が形成されたりする。変速用係合装置CBは、ブレーキやクラッチなどの例えば湿式多板型の油圧式の摩擦係合装置である。
【0028】
動力伝達装置16において、エンジン12から出力される動力は、K0クラッチ20が係合された場合に、エンジン連結軸34から、K0クラッチ20、電動機連結軸36、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。電動機MGから出力される動力は、K0クラッチ20の断接状態にかかわらず、電動機連結軸36から、トルクコンバータ22、自動変速機24、プロペラシャフト28、ディファレンシャルギヤ30、及びドライブシャフト32等を順次介して駆動輪14へ伝達される。
【0029】
車両10は、電子制御装置90を備える。電子制御装置90は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用、電動機制御用、油圧制御用等の各コンピュータを含んで構成される。なお、電子制御装置90は、本発明における「制御装置」に相当する。
【0030】
電子制御装置90には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ70、タービン回転速度センサ72、出力回転速度センサ74、電動機回転速度センサ76、アクセル開度センサ78、スロットル弁開度センサ80、バッテリセンサ84など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne[rpm]、AT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Nt、車速Vに対応するAT出力回転速度No、電動機MGの回転速度である電動機回転速度Nmg[rpm]、運転者の加速操作の大きさを表す運転者のアクセル操作量であるアクセル開度θacc[%]、電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θth[%]、バッテリ54のバッテリ温度THbat[℃]やバッテリ充放電電流Ibat[A]やバッテリ電圧Vbat[V]など)が、それぞれ入力される。
【0031】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置50、インバータ52、油圧制御回路56、ポンプ用モータ62など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御するためのエンジン制御信号Se、電動機MGを制御するための電動機制御信号Smg、変速用係合装置CBを制御するためのCB油圧制御信号ScbやK0クラッチ20を制御するためのK0油圧制御信号Sk0やロックアップクラッチ40を制御するためのLU油圧制御信号Slu、EOP60を制御するためのEOP制御信号Seopなど)が、それぞれ出力される。
【0032】
電子制御装置90は、ハイブリッド制御部92、クラッチ制御部94、変速制御部96、及びイナーシャ検知部98を機能的に備える。
【0033】
ハイブリッド制御部92は、エンジン12の作動を制御するエンジン制御部92aと、インバータ52を介して電動機MGの作動を制御する電動機制御部92bと、を機能的に備え、それらの制御機能によりエンジン12及び電動機MGによるハイブリッド駆動制御等を実行する。
【0034】
ハイブリッド制御部92は、例えば駆動要求量マップに実際のアクセル開度θacc及び車速Vを適用することで、運転者による車両10に対する駆動要求量を算出する。駆動要求量マップは、アクセル開度θacc及び車速Vと駆動要求量との間の関係が実験的に或いは設計的に予め定められて記憶されたマップである。駆動要求量は、例えば駆動輪14における要求駆動トルクTrdem[Nm]である。要求駆動トルクTrdemは、見方を換えればそのときの車速Vにおける要求駆動パワーPrdem[W]である。駆動要求量としては、駆動輪14における要求駆動力Frdem[N]、変速機出力軸26における要求出力トルク等を用いることもできる。駆動要求量の算出では、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良い。
【0035】
ハイブリッド制御部92は、伝達損失、補機負荷、自動変速機24の変速比γat、バッテリ54の充電可能電力Win[W]や放電可能電力Wout[W]等を考慮して、要求駆動パワーPrdemを実現するように、エンジン12を制御するエンジン制御信号Seと、電動機MGを制御する電動機制御信号Smgと、を出力する。エンジン制御信号Seは、例えばそのときのエンジン回転速度NeにおけるエンジントルクTeを出力するエンジン12のパワーであるエンジンパワーPe[W]の指令値である。電動機制御信号Smgは、例えばそのときの電動機回転速度Nmgにおける電動機トルクTmgを出力する電動機MGの消費電力Wm[W]の指令値である。
【0036】
バッテリ54の充電可能電力Winは、バッテリ54の入力電力の制限を規定する入力可能な最大電力であり、バッテリ54の入力制限を示している。バッテリ54の放電可能電力Woutは、バッテリ54の出力電力の制限を規定する出力可能な最大電力であり、バッテリ54の出力制限を示している。バッテリ54の充電可能電力Winや放電可能電力Woutは、例えばバッテリ温度THbat及びバッテリ54の充電状態値(予め定められた満充電容量に対する実際に蓄電されている充電量の比)SOC[%]に基づいて電子制御装置90により算出される。
【0037】
ハイブリッド制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合には、走行モードをモータ走行(=BEV走行)モードとする。BEV走行モードでは、ハイブリッド制御部92は、K0クラッチ20の解放状態において走行用駆動力源(エンジン12、電動機MG)のうちの電動機MGのみから走行用駆動力を出力して走行するBEV(Battery Electric Vehicle)走行を行う。一方で、ハイブリッド制御部92は、少なくともエンジン12の出力を用いないと要求駆動トルクTrdemを賄えない場合には、走行モードをエンジン走行モードすなわちハイブリッド走行(=HEV走行)モードとする。HEV走行モードでは、ハイブリッド制御部92は、K0クラッチ20の完全係合状態において走行用駆動力源(エンジン12、電動機MG)のうちの少なくともエンジン12から走行用駆動力を出力して走行するエンジン走行すなわちHEV(Hybrid Electric Vehicle)走行を行う。他方で、ハイブリッド制御部92は、電動機MGの出力のみで要求駆動トルクTrdemを賄える場合であっても、バッテリ54の充電状態値SOCが予め定められたエンジン始動閾値未満となる場合やエンジン12等の暖機が必要な場合などには、HEV走行モードを成立させる。エンジン始動閾値は、エンジン12を強制的に始動してバッテリ54を充電する必要がある充電状態値SOCであることを判定するための予め定められた閾値である。このように、ハイブリッド制御部92は、要求駆動トルクTrdem等に基づいて、HEV走行中にエンジン12を自動停止したりそのエンジン停止後にエンジン12を再始動したり、BEV走行中にエンジン12を始動したり、停車中にエンジン12を自動停止したりそのエンジン停止後にエンジン12を再始動したりして、BEV走行モードとHEV走行モードとを切り替える。
【0038】
エンジン制御部92aは、車両10に対する駆動要求量を実現するようにエンジントルクTeを制御する。電動機制御部92bは、車両10に対する駆動要求量を実現するように電動機トルクTmgを制御する。具体的には、BEV走行モードにおいては、電動機制御部92bは、要求駆動トルクTrdemを実現するように電動機トルクTmgを制御する。HEV走行モードにおいては、エンジン制御部92aは、要求駆動トルクTrdemの全部又は一部を実現するようにエンジントルクTeを制御し、電動機制御部92bは、要求駆動トルクTrdemに対してエンジントルクTeでは不足するトルク分を補うように電動機トルクTmgを制御する。
【0039】
ハイブリッド制御部92は、エンジン12の始動判定を行う始動判定部92cと、エンジン12の始動制御(以下、「エンジン始動制御」と記す。)を実行する始動制御部92dと、を機能的に更に備える。
【0040】
始動判定部92cは、エンジン12の始動が要求されたか否かを判定する。つまり、始動判定部92cは、エンジン12の始動要求の有無を判定する。例えば、始動判定部92cは、BEV走行モード時において、(a)要求駆動トルクTrdemが電動機MGの出力のみで賄える範囲よりも増大した場合、(b)エンジン12等の暖機が必要である場合、又は、(c)バッテリ54の充電状態値SOCがエンジン始動閾値未満である場合には、エンジン12の始動要求が有ると判定する。
【0041】
始動判定部92cによりエンジン12の始動が要求されたと判定された場合、クラッチ制御部94は、エンジン始動制御を実行するようにK0クラッチ20を制御する。
【0042】
例えば、エンジン始動制御が早期点火始動方式である場合には、クラッチ制御部94は、エンジン回転速度Neを引き上げるトルクであるクランキングトルクTcr[Nm]をエンジン12側へ伝達するためのK0トルクTk0が得られるように、K0クラッチ指示圧Pk0を制御する。早期点火始動方式は、K0クラッチ20を係合させて電動機MGによりエンジン12をクランキングし、K0クラッチ20の同期完了前にエンジン12に燃料を噴射し点火してその燃焼が継続可能になったら一旦K0クラッチ20を解放し、その後にK0クラッチ20を再係合する始動方式である。「K0クラッチ20の同期完了」とは、K0クラッチ20におけるエンジン12側の回転速度(=エンジン回転速度Ne)と、K0クラッチ20における電動機MG側の回転速度(=電動機回転速度Nmg)と、が一致することである。早期点火始動方式では、エンジン回転速度Neが低回転の段階で圧縮TDC(Top Dead Center;上死点)付近で燃料が噴射され点火されてエンジン12が始動させられる。なお、エンジン12の「始動」とは、単にエンジン12が完爆して(運転を開始して)自立運転可能になるまでのことの他に、K0クラッチ20が完全係合されるまでのエンジン12の始動に関わる一連の制御作動のことでもある。クラッチ制御部94は、K0クラッチ20の同期完了前にエンジン12に燃料を噴射し点火してその燃焼が継続可能になるまで、クランキングトルクTcrをエンジン12側へ伝達させる。クラッチ制御部94は、エンジン12の燃焼が継続可能になると、クランキングを終了し、一旦K0クラッチ20を解放させ、その後にK0クラッチ20を再係合させる。なお、クラッチ制御部94は、クランキングが終了する前であるか否かを判定する。
【0043】
始動判定部92cによりエンジン12の始動が要求されたと判定された場合、始動制御部92dは、エンジン始動制御を実行するようにエンジン12及び電動機MGを制御する。例えば、始動制御部92dは、クラッチ制御部94によるK0クラッチ20の解放状態から完全係合状態への切り替えに合わせて、クランキングが終了するまで電動機MGがクランキングトルクTcrを出力するための電動機制御信号Smgをインバータ52へ出力する。つまり、始動制御部92dは、エンジン始動制御において、クランキングが終了するまでクランキングトルクTcrを電動機MGが出力するように電動機MGを制御するための電動機制御信号Smgをインバータ52へ出力する。
【0044】
始動判定部92cによりエンジン12の始動が要求されたと判定された場合、始動制御部92dは、K0クラッチ20及び電動機MGによるエンジン12のクランキングに連動して、燃料供給や点火などを開始するためのエンジン制御信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。つまり、始動制御部92dは、エンジン始動制御において、エンジン12が運転を開始するようにエンジン12を制御するためのエンジン制御信号Seをエンジン制御装置50へ出力する。このように、始動制御部92dは、始動判定部92cによりエンジン12の始動が要求されたと判定された場合に、エンジン始動制御を実行する。なお、始動制御部92dは、エンジン始動制御が開始された後であるか否を判定する。
【0045】
始動制御部92dは、BEV走行中におけるエンジン始動制御において、BEV走行用の電動機トルクTmgつまり駆動トルクTr[Nm]を生じさせる電動機トルクTmgに、クランキングトルクTcr分を加えた電動機トルクTmgを電動機MGから出力させる。
【0046】
変速制御部96は、例えば変速マップを用いて自動変速機24の変速判断を行い、必要に応じて変速制御を実行するためのCB油圧制御信号Scbを油圧制御回路56へ出力する。変速マップは、例えば車速V及び要求駆動トルクTrdemを変数とする二次元座標上に、自動変速機24の変速が判断されるための変速線を有する予め定められた所定の関係である。変速マップでは、車速Vに替えてAT出力回転速度Noなどを用いても良いし、又、要求駆動トルクTrdemに替えて要求駆動力Frdemやアクセル開度θaccやスロットル弁開度θthなどを用いても良い。
【0047】
自動変速機24の変速フェーズ(変速段階)には、トルク相及びイナーシャ相の各フェーズがある。トルク相とは、自動変速機24の変速期間(変速制御開始から変速制御完了までの期間)のうちで、自動変速機24の出力トルクが変化しているフェーズである。イナーシャ相とは、自動変速機24の変速期間のうちで、自動変速機24におけるAT入力回転速度Niと同値であるタービン回転速度Ntが、理論上の変速前タービン回転速度Nt_pre(変速前のギヤ段における変速比γat及び車速Vから算出される理論上のタービン回転速度Nt)から理論上の変速後タービン回転速度Nt_post(変速後のギヤ段における変速比γat及び車速Vから算出される理論上のタービン回転速度Nt)へ変化しているフェーズである。トルク相は、係合側係合装置CBcon及び解放側係合装置CBdisの伝達トルク容量であるCBトルクTcbが変化している期間でもある。
【0048】
BEV走行中において変速制御が実行されていない期間にエンジン12の始動要求が発生した場合には、上述したように始動制御部92dによりエンジン始動制御が実行される。また、BEV走行中において始動制御部92dによるエンジン始動制御が実行されていない期間に変速制御が実行される場合には、上述したように変速制御部96により変速制御が実行される。
【0049】
BEV走行中においてエンジン始動制御及び変速制御が同時期に実行される場合がある。そのような場合には、始動制御部92dは、エンジン始動制御を実行し、且つ、変速制御部96は、変速制御のトルク相を進行させるがイナーシャ相の開始をK0クラッチ20の同期が完了するまで遅延させる。K0クラッチ20の同期完了により、エンジン始動制御が完了する。したがって、変速制御部96は、エンジン始動制御の完了後に、イナーシャ相の開始の遅延を解除してイナーシャ相を開始させる。
【0050】
ところで、上記のように、BEV走行中においてエンジン始動制御及び変速制御が同時期に実行される場合に、意図せずにエンジン始動制御の完了前に、変速制御のイナーシャ相が開始されてしまう場合がある。変速制御におけるイナーシャ相は、逆進すなわち逆方向に進行させることができない。そのため、変速制御がダウンシフト制御である場合にイナーシャ相を進行させると、K0クラッチ20における自動変速機24側(=電動機MG側)の回転速度である電動機回転速度Nmgが上昇してしまう。電動機回転速度Nmgの上昇に伴い、K0クラッチ20におけるエンジン12側の回転速度であるエンジン回転速度Neを上昇させる必要量が大きくなるため、K0クラッチ20の同期の完了が遅れてしまうすなわちエンジン始動制御の完了が遅れてしまうおそれがある。なお、変速制御がアップシフト制御である場合にイナーシャ相を進行させると、K0クラッチ20における自動変速機24側(=電動機MG側)の回転速度である電動機回転速度Nmgが下降するので、K0クラッチ20の同期の完了が遅れるおそれはない。
【0051】
始動制御部92d及びクラッチ制御部94によりエンジン始動制御が実行され且つ変速制御部96により変速制御が実行された場合には、イナーシャ検知部98は、K0クラッチ20の同期が完了する前にダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始しているか否かを検知する。
【0052】
例えば、K0クラッチ20の同期が完了する前であるか否かは、エンジン回転速度Neと電動機回転速度Nmgとの差回転ΔNk0[rpm](=|Nmg-Ne|)が所定の判定差回転ΔNk0_jdg[rpm](>0)以下の範囲内である状態が所定期間TM_jdg[ms]継続しているか否かにより検知することができる。具体的には、差回転ΔNk0が所定の判定差回転ΔNk0_jdgの範囲内である状態が所定期間TM_jdg継続している場合には、K0クラッチ20の同期が完了したことが検知され、そうでない場合には、K0クラッチ20の同期が完了する前であることが検知される。所定の判定差回転ΔNk0_jdg及び所定期間TM_jdgは、それぞれK0クラッチ20の同期の完了を検知するために実験的に或いは設計的に予め定められた判定値である。
【0053】
例えば、ダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始しているか否かは、理論上の変速前タービン回転速度Nt_preから理論上の変速後タービン回転速度Nt_postへ向かってタービン回転速度Ntが変化しているか否かにより検知することができる。ダウンシフト制御では、変速後タービン回転速度Nt_postは変速前タービン回転速度Nt_preよりも高くなる。具体的には、変速前タービン回転速度Nt_preから変速後タービン回転速度Nt_postへ向かってタービン回転速度Ntが所定の判定回転速度ΔNt_jdg[rpm]だけ高くなった場合には、イナーシャ相が開始していることが検知される。所定の判定回転速度ΔNt_jdgは、イナーシャ相の開始を検知するために実験的に或いは設計的に予め定められた零近傍の値(>0)である。なお、アップシフト制御では、変速後タービン回転速度Nt_postは変速前タービン回転速度Nt_preよりも低くなる。
【0054】
イナーシャ検知部98は、K0クラッチ20の同期が完了する前であることを検知し且つダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることを検知することで、K0クラッチ20の同期が完了する前にダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることを検知する。
【0055】
イナーシャ検知部98によりK0クラッチ20の同期が完了する前にダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることが検知されると、変速制御部96は、ダウンシフト制御におけるイナーシャ相を進行させ、且つ、始動制御部92d及びクラッチ制御部94は、K0クラッチ20を同期させる制御を実行する。具体的には、変速制御部96は、例えばイナーシャ相の進行速度及び係合ショックが許容範囲内となるように、実験的に或いは設計的に予め定められたイナーシャ相進行用タイムチャートに従って解放側指示圧Pdis及び係合側指示圧Pconを制御する。また、差回転ΔNk0が次第に減少するように、始動制御部92dはエンジン12及び電動機MGを制御し、クラッチ制御部94はK0クラッチ指示圧Pk0を制御する。このK0クラッチ20を同期させる制御が実行されている場合におけるK0トルクTk0を、同期用トルクTsyn[Nm]ということとする。K0クラッチ20の同期が完了する前にイナーシャ相が開始していることが検知された場合には、クラッチ制御部94は、イナーシャ相が開始していることが検知されない場合に比較して同期用トルクTsynを増加(嵩上げ)したものに変更する。また、好適には、クラッチ制御部94は、同期用トルクTsynに対して下限ガード処理を行う。下限ガード処理は、例えばエンジン回転速度Neの上昇率が所定の率以上となるように、同期用トルクTsynを所定の下限値以上に設定する処理である。なお、所定の率及び所定の下限値は、K0クラッチ20の同期が完了するまでの期間が許容範囲内となるように、実験的に或いは設計的に予め定められた値である。前述の増加(嵩上げ)させられた同期用トルクTsynが所定の下限値未満である場合には、同期用トルクTsynは所定の下限値まで増加させられる。
【0056】
イナーシャ検知部98によりK0クラッチ20の同期が完了する前にダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることが検知されないと、始動制御部92d及びクラッチ制御部94は、K0クラッチ20を同期させる制御を実行し、且つ、変速制御部96は、K0クラッチ20の同期が完了するまでダウンシフト制御におけるイナーシャ相の開始を遅延させる。なお、この場合、クラッチ制御部94は、同期用トルクTsynに対して前述した増加(嵩上げ)は行わない。
【0057】
K0クラッチ20の同期が完了する前にダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることが検知される、検知されない、にかかわらず、K0クラッチ20の同期完了後は、クラッチ制御部94は、K0クラッチ20が完全係合状態となるように、K0クラッチ指示圧Pk0を制御する。このK0クラッチ20を完全係合状態にさせる制御が実行されている場合におけるK0トルクTk0を、係合用トルクTcon[Nm]ということとする。
【0058】
K0クラッチ20の同期が完了する前にダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることが検知されない場合におけるK0クラッチ20の同期完了後に、変速制御部96は、ダウンシフト制御におけるイナーシャ相の開始の遅延を解除してイナーシャ相を開始させる。具体的には、変速制御部96は、例えば前述したイナーシャ相進行用タイムチャートに従って解放側指示圧Pdis及び係合側指示圧Pconを制御する。
【0059】
図2は、図1に示す電子制御装置90の制御作動を説明するフローチャートの一例である。図2のフローチャートは、BEV走行中においてエンジン始動制御及び変速制御が同時期に実行される場合に繰り返し実行される。図2は、エンジン始動制御が早期点火始動方式で行われる例である。
【0060】
まず、始動制御部92dの機能に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S10において、エンジン始動制御が開始された後であるか否かが判定される。S10の判定が肯定された場合は、クラッチ制御部94の機能に対応するS20において、クランキングが終了する前であるか否かが判定される。S10の判定が否定された場合は、リターンとなる。
【0061】
S20の判定が肯定された場合は、始動制御部92d及びクラッチ制御部94の機能に対応するS30において、クランキングトルクTcrが算出され且つK0トルクTk0がクランキングトルクTcrに制御されてクランキングが実行され、そしてリターンとなる。
【0062】
S20の判定が否定された場合は、イナーシャ検知部98の機能に対応するS40において、K0クラッチ20の同期が完了する前であるか否かが検知される。
【0063】
S40の検知が肯定された場合は、クラッチ制御部94の機能に対応するS50において、K0クラッチ20の同期用トルクTsynが算出され、イナーシャ検知部98の機能に対応するS60において、ダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始しているか否かが検知される。S40の検知が否定された場合は、クラッチ制御部94の機能に対応するS90において、K0クラッチ20の係合用トルクTconが算出され且つK0トルクTk0が係合用トルクTconに制御され、そしてリターンとなる。
【0064】
S60の検知が肯定された場合は、クラッチ制御部94の機能に対応するS70において、S50で算出された同期用トルクTsynが増加させられるとともに下限ガード処理が行われ、K0トルクTk0が下限ガード処理後の同期用トルクTsynに制御され、そしてリターンとなる。S60の検知が否定された場合は、クラッチ制御部94の機能に対応するS80において、K0トルクTk0がS50で算出された同期用トルクTsynに制御され、そしてリターンとなる。
【0065】
図3は、図2のフローチャートが実行されたタイムチャートであって、K0クラッチ20の同期が完了する前にダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることが検知されなかった場合の例である。本タイムチャートは、図2のフローチャートにおいて、S60の検知が肯定されることがなかった場合の例である。本タイムチャートでは、ロックアップクラッチ40は解放状態となっている。図3の横軸は、時間t[ms]である。
【0066】
時刻t1以前は、BEV走行中であって、例えば車速Vが低い低車速且つ要求駆動トルクTrdemが低い低負荷の走行状態である。また、K0クラッチ20は解放状態となっており、K0クラッチ指示圧Pk0は油圧値Pk0aとされている。
【0067】
時刻t1において、運転者によるアクセル操作(例えば不図示のアクセルべダルが踏み増し操作)によりアクセル開度θaccの増加が開始される。
【0068】
アクセル開度θaccの増加に伴って要求駆動トルクTrdemが増加することで走行用駆動力源(エンジン12、電動機MG)のうちの電動機MGのみでは要求駆動トルクTrdemを賄えないと判断され、時刻t2(>t1)において、エンジン始動制御が開始される。時刻t2において、K0クラッチ20のパック詰めを速やかに行うために、K0クラッチ指示圧Pk0が急速充填用の油圧値Pk0fとされる。油圧値Pk0fは、例えばライン圧PLである。時刻t2から時刻t3(>t2)までの期間(急速充填期間)において、K0クラッチ指示圧Pk0が油圧値Pk0fとされることでK0クラッチ20のパック詰めが速やかに行われる。時刻t3(>t2)において、K0クラッチ指示圧Pk0が油圧値Pk0fから油圧値Pk0eに低下させられる。この油圧値Pk0eは、K0トルクTk0がクランキングトルクTcrとなるK0クラッチ指示圧Pk0である。
【0069】
時刻t4(>t2)において、パワーオンダウンシフト制御が開始される。パワーオンダウンシフト制御とは、運転者によるアクセル操作によりアクセル開度θaccが増加して実行されるダウンシフト制御である。時刻t4において、変速用係合装置CBの掴み替えが開始される。時刻t4以前においては、解放側指示圧Pdisは解放側係合装置CBdisを完全係合状態とする油圧値Patb[Pa]とされるとともに、係合側指示圧Pconは係合側係合装置CBconを解放状態とする油圧値Pata[Pa]とされている。時刻t4以降(時刻t4から後述する時刻t9まで)の期間における係合側指示圧Pcon及び解放側指示圧Pdisは、ダウンシフト制御におけるトルク相は進行させるが、イナーシャ相は開始されない実験的に或いは設計的に予め定められた油圧値とされる。例えば、時刻t4から時刻t9までのほとんどの期間において、解放側指示圧Pdisは係合側指示圧Pconよりも高くされている。
【0070】
時刻t5(>t4)において、クランキングによりエンジン回転速度Neが上昇し始める。
【0071】
時刻t6(>t5)において、エンジン12は燃料が噴射され点火されてその燃焼が継続可能となっている。すなわち、エンジン12は、完爆して自立運転可能な状態となっている。そのため、時刻t6において、K0クラッチ指示圧Pk0が油圧値Pk0eから油圧値Pk0bに低下させられてK0クラッチ20が一旦解放させられる。時刻t6から時刻t7(>t6)までの期間において、K0クラッチ指示圧Pk0は油圧値Pk0bとされる。油圧値Pk0bは、K0クラッチ20を速やかに解放させるために実験的に或いは設計的に予め定められた油圧値である。
【0072】
時刻t7(>t6)において、K0クラッチ指示圧Pk0が油圧値Pk0bから油圧値Pk0cに上昇させられてK0クラッチ20の再係合が開始される。油圧値Pk0cは、K0トルクTk0が同期用トルクTsynとなる油圧値である。
【0073】
時刻t8(>t7)から時刻t9(>t8)までの期間において、K0クラッチ指示圧Pk0が油圧値Pk0cから一定の上昇率で次第に上昇させられ、時刻t9において、油圧値Pk0fまで上昇させられる。このK0クラッチ指示圧Pk0の上昇により時刻t9以前において、K0クラッチ20の差回転ΔNk0が所定の判定差回転ΔNk0_jdg以下の範囲内である状態が所定期間TM_jdg継続している。前述したように、油圧値Pk0fは、例えばライン圧PLである。時刻t9においてK0クラッチ指示圧Pk0が油圧値Pk0fとされることで、K0トルクTk0はエンジントルクTeを伝達可能な大きさとされる。これにより、K0クラッチ20の同期が完了し、エンジン始動制御が完了する。
【0074】
K0クラッチ20の同期が完了した時刻t9において、ダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始されるように、係合側指示圧Pcon及び解放側指示圧Pdisの制御が開始される。具体的には、時刻t9以降(時刻t9から後述する時刻t12までの期間)において、解放側指示圧Pdis及び係合側指示圧Pconは、前述したイナーシャ相進行用タイムチャートに従って制御される。時刻t9において、解放側指示圧Pdisの低下が開始され、時刻t10(>t9)において、解放側指示圧Pdisは係合側指示圧Pconよりも低くされている。
【0075】
時刻t10において、変速前タービン回転速度Nt_preから変速後タービン回転速度Nt_postへ向かってタービン回転速度Ntが変化し始める、すなわちダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始される。トルクコンバータ22は、ロックアップクラッチ40が解放状態であってタービン翼車22bとポンプ翼車22aとが流体を介して連結された状態であるため、タービン回転速度Ntの上昇に伴ってエンジン回転速度Ne及び電動機回転速度Nmgも上昇する。
【0076】
時刻t11(>t10)において、タービン回転速度Ntが変速後タービン回転速度Nt_postとなり、イナーシャ相が終了する。
【0077】
イナーシャ相が終了した時刻t11から時刻t12までの期間において、解放側指示圧Pdisが解放側係合装置CBdisを解放状態とする油圧値Pataに下げられるとともに、係合側指示圧Pconが係合側係合装置CBconを完全係合状態とする油圧値Patbに上げられる。油圧値Patbは、例えばライン圧PLである。これにより、ダウンシフト制御が完了する。
【0078】
図4は、図2のフローチャートが実行されたタイムチャートであって、K0クラッチ20の同期が完了する前にダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることが検知された場合の例である。本タイムチャートは、図2のフローチャートにおいて、S60の検知が肯定されることがあった場合の例である。図4の横軸は、時間t[ms]である。本タイムチャートにおける時刻t7以前は、前述の図3のタイムチャートにおける時刻t7以前と同じである。そのため、図3と異なる部分を中心に説明することとし、図3と共通する部分には同一の符号を付して説明を適宜省略する。
【0079】
時刻t20(>t7)において、タービン回転速度Ntが変速前タービン回転速度Nt_preから上昇し始めている、すなわち意図せずにK0クラッチ20の同期完了前にダウンシフト制御のイナーシャ相が開始されている。
【0080】
時刻t21(>t20)において、タービン回転速度Ntが変速前タービン回転速度Nt_preから所定の判定回転速度ΔNt_jdgだけ高くなったことが検知されることで、K0クラッチ20の同期完了前にイナーシャ相が開始されたことが検知される。このイナーシャ相の開始の検知に伴い、時刻t21において、K0クラッチ指示圧Pk0が油圧値Pk0cから油圧値Pk0dに増圧させられる。このK0クラッチ指示圧Pk0の増圧より同期用トルクTsynが増加させられ、エンジン回転速度Neが電動機回転速度Nmg側に引き上げられやすくなってエンジン回転速度Neの上昇率が高められる。また、時刻t21以降(時刻t21から後述する時刻t26までの期間)において、解放側指示圧Pdis及び係合側指示圧Pconは、前述したイナーシャ相進行用タイムチャートに従って制御される。時刻t21において、解放側指示圧Pdisの低下が開始され、時刻t22(>t21)において、解放側指示圧Pdisは係合側指示圧Pconよりも低くされている。
【0081】
時刻t23(>t22)から時刻t25(>t23)までの期間において、K0クラッチ指示圧Pk0が油圧値Pk0dから一定の上昇率で次第に上昇させられ、時刻t25において、油圧値Pk0fまで上昇させられる。このK0クラッチ指示圧Pk0の上昇により時刻t25以前において、K0クラッチ20の差回転ΔNk0が所定の判定差回転ΔNk0_jdg以下の範囲内である状態が所定期間TM_jdg継続している。これにより、K0クラッチ20の同期が完了し、エンジン始動制御が完了する。
【0082】
時刻t24(t25>t24>t23)において、タービン回転速度Ntが変速後タービン回転速度Nt_postとなり、イナーシャ相が終了する。
【0083】
本タイムチャートでは、イナーシャ相が終了した時刻t24から時刻t26(>t24)までの期間において、解放側指示圧Pdisが解放側係合装置CBdisを解放状態とする油圧値Pataに下げられるとともに、係合側指示圧Pconが係合側係合装置CBconを完全係合状態とする油圧値Patbに上げられる。これにより、ダウンシフト制御が完了する。
【0084】
本実施例によれば、(A)エンジン始動制御及び自動変速機24のダウンシフト制御が同時期に実行される場合において、(a-1)K0クラッチ20の同期が完了する前にダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることが検知されないと、エンジン始動制御におけるK0クラッチ20の同期が完了するまでイナーシャ相の開始が遅延させられ、(a-2)K0クラッチ20の同期が完了する前にイナーシャ相が開始していることが検知されると、イナーシャ相が進行させられ、且つ、エンジン始動制御においてK0クラッチ20を係合させるK0クラッチ指示圧Pk0がイナーシャ相が開始していることが検知されない場合に比較して増圧させられる。このように、K0クラッチ20の同期が完了する前に自動変速機24のダウンシフト制御におけるイナーシャ相が開始していることが検知されると、エンジン始動制御が進行させられるとともにイナーシャ相が進行させられる。また、エンジン始動制御においてK0クラッチ20を係合させるK0クラッチ指示圧Pk0は、イナーシャ相が開始していることが検知されない場合に比較して増圧させられる。ダウンシフト制御におけるイナーシャ相が進行させられることにより、ダウンシフト制御の完了の遅れが抑制されるとともに、エンジン始動制御においてK0クラッチ20を係合させるK0クラッチ指示圧Pk0が増圧させられることにより、K0クラッチ20の同期完了の遅れ(すなわちエンジン始動制御完了の遅れ)が抑制される。これにより運転者の要求に沿ったドライバビリティが実現されやすくなる。
【0085】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0086】
前述の実施例では、自動変速機24は遊星歯車式であったが、本発明における自動変速機は、常時噛合型平行軸式など他の構成の有段変速機であっても良い。
【0087】
前述の実施例では、図3及び図4のタイムチャートは、アクセル開度θaccが増加するアクセル操作によりエンジン始動制御が開始されるとともに自動変速機24のパワーオンダウンシフト制御が開始される態様であったが、本発明はこの態様に限らない。例えば、バッテリ54の充電状態値SOCがエンジン始動閾値未満となってエンジン始動制御が開始されるとともに車速Vが低下することによりダウンシフト制御が開始される態様であっても良い。
【0088】
前述の実施例では、流体式伝動装置としてトルクコンバータ22が用いられたが、本発明はこの態様に限らない。例えば、流体式伝動装置として、トルクコンバータ22に替えて、トルク増幅作用のないフルードカップリングなどの他の流体式伝動装置が用いられても良い。また、流体式伝動装置は、必ずしも備えられている必要はなく、例えば発進用のクラッチに置き換えられても良い。
【0089】
前述の実施例では、エンジン始動制御が早期点火始動方式であったが、本発明はこの態様に限らない。例えば、エンジン始動制御は押しがけ始動方式であっても良い。押しがけ始動方式は、K0クラッチ20を係合させて電動機MGによりエンジン回転速度Neを上昇させ、K0クラッチ20の同期完了後にエンジン12に燃料を噴射し点火して始動させる始動方式である。
【0090】
なお、上述したのはあくまでも本発明の実施例であり、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0091】
10:ハイブリッド車両
12:エンジン(内燃機関)
20:K0クラッチ(摩擦係合装置)
24:自動変速機
90:電子制御装置(制御装置)
MG:電動機
Pk0:K0クラッチ指示圧(制御圧)
図1
図2
図3
図4