(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】マラチオンの触媒による環境に優しい製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 9/165 20060101AFI20250204BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20250204BHJP
【FI】
C07F9/165 Z
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2021517207
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 EP2019025318
(87)【国際公開番号】W WO2020064149
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-20
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515347290
【氏名又は名称】ケミノバ アクティーゼルスカブ
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100216105
【氏名又は名称】守安 智
(72)【発明者】
【氏名】デーヴィッド・ホアン
(72)【発明者】
【氏名】ボーリン・ファン
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン・ルオ
【審査官】安藤 倫世
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-500422(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0204501(US,A1)
【文献】特開平09-255692(JP,A)
【文献】特公昭42-013854(JP,B2)
【文献】米国特許第02578652(US,A)
【文献】特公昭47-007917(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第102336781(CN,A)
【文献】Asian J. Org. Chem.,2018年,7,634-661,DOI: 10.1002/ajoc.201700609
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
O,O-ジメチルジチオリン酸(O,O-DMDTPA)とマレイン酸ジエチルを、
塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、またはそれらの任意の組合せから選択される、酸の存在下で反応させることを含む、マラチオンの製造方法。
【請求項2】
さらに、O,O-ジメチルジチオリン酸(O,O-DMDTPA)をマレイン酸塩と反応させる前に、以下のことを行う請求項1に記載の製造方法。
a)O,O-ジメチルジチオリン酸(O,O-DMDTPA)を酸と混合して混合物を形成する工程;および
b)マレイン酸ジエチルをその混合物に加える工程。
【請求項3】
上記工程(a)の温度を5~20℃に制御する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
上記工程(b)の温度を10~25℃に制御する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項5】
マレイン酸ジエチルの混合物への添加完了後、温度を20~50℃に制御する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
マレイン酸ジエチルの添加完了後、温度を35~45℃に制御する請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
上記工程(a)の混合物中、酸が0.1質量%から20質量%の範囲である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
上記工程(a)の混合物中、酸が1質量%から10質量%の範囲である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
酸が塩酸または硫酸である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
酸が、20質量%から37質量%の濃度の塩酸、または70質量%から98質量%の濃度の硫酸である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
酸が本質的に飽和塩酸であることを特徴とする、請求項1に記載の製造方法。
【請求項12】
O,O-DMDTPAとマレイン酸ジエチルのモル比が1:1.2から1:1である請求項1記載の製造方法。
【請求項13】
O,O-DMDTPAとマレイン酸ジエチルのモル比が、1:1.1から1:1.02の範囲である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項14】
マレイン酸ジエチルとO,O-DMDTPAとの反応が両者の接触により開始する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項15】
マレイン酸ジエチルとO,O-DMDTPAとの反応を、10時間未満継続させる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項16】
マレイン酸ジエチルとO,O-DMDTPAとの反応を、8時間未満継続させる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
反応後に水または水溶液で洗浄することをさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項18】
反応後、ワイプド・フィルム・スチル(WFS)により副生成物を除去することをさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項19】
マラチオンを単離することをさらに含み、単離されたマラチオンが、重量で0.55%未満のO,O-DMDTPAを含む不純物を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項20】
マラチオンを単離することをさらに含み、単離されたマラチオンが、重量で0.35%未満のO,O-DMDTPAを含む不純物を有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項21】
マラチオンの収率が90%以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項22】
マラチオンの収率が7時間未満の反応時間で90%以上に達する、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸を触媒として用いるマラチオンの新規合成方法に関する。反応時間が短く、不純物のレベルが低いため、本明細書に記載されている合成方法は、従来の方法よりも望ましくない環境への影響を著しく低減することができる。
【背景技術】
【0002】
マラチオンの製造および/または精製のための様々な方法が文献に示されている。マラチオン(CAS番号:121-75-5)は、生体内でコリンエステラーゼ活性を阻害する有機リン酸系殺虫剤である。しかし、マラチオンを効率的かつ経済的に製造することは、依然として課題となっている。
【0003】
例えば、マラチオンの製剤には数多くの不純物が含まれている。これらの不純物の一部は保管中に生成され、一部は製造工程で生成される。これらのマラチオンの不純物の多くは毒性があることがわかっている。
【0004】
O,O,S-トリメチルジチオリン酸(MeOOSPS)とO,S,S-トリメチルチオリン酸(MeOSSPO)は肝臓障害を引き起こす可能性がある。また、マラチオンは常温では液体(融点:2.9℃)であり、結晶化が困難であるなど、その物理的特性から従来の方法では不純物の除去が困難であった。
【0005】
そのため、マラチオンを調製するための改良された方法が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、良好な収率と著しく不純物が低減されたマラチオンの製造のための新規なアプローチを提供する。
【0007】
本発明の方法で製造されたマラチオンは、医薬用として文献で入手可能な他の方法と比較して、低いレベルの有害不純物と貯蔵安定性を有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の方法は一般に、酸の存在下で、O,O-ジメチルジチオリン酸(O,O- DMDTPA)をマレイン酸ジエチルと反応させることを含む。
【0009】
実施例において、本発明の方法は、O,O-ジメチルジチオリン酸(O,O-DMDTPA)をマレイン酸塩と反応させる前に、(a)O,O-ジメチルジチオリン酸(O,O-DMDTPA)を酸と混合して混合物を形成する工程と、(b)マレイン酸ジエチルを混合物に添加する工程とを含む。
【0010】
実施例において、工程(a)の温度は、約5~約20℃に制御される。実施例において、工程(b)の温度は、約10~約25℃に制御される。実施例において、温度は、混合物へのマレイン酸ジエチルの添加完了後、約20~約50℃に制御される。実施例において、温度は、マレイン酸ジエチルの混合物への添加完了後、約35℃から約45℃の間に制御される。
【0011】
実施例において、酸は、工程(a)の混合物中、重量で約0.1%から約20%の範囲である。実施例において、酸は、工程(a)の混合物中、重量比で約1%から約10%の範囲である。
【0012】
実施例において、酸は塩酸からなる。 実施例において、酸は、約20質量%から約37質量%の範囲の濃度を有する塩酸からなる。実施例において、酸は本質的に飽和塩酸からなる。
【0013】
実施例において、O,O-DMDTPAとマレイン酸ジエチルとの間のモル比は、約1:1.2から約1:1の範囲である。実施例において、モル比は、約1:1.1から約1:1.02の範囲である。実施例において、マレイン酸ジエチルは、混合物に添加されるとO,O-DMDTPAとの反応を開始する。
【0014】
実施例において、マレイン酸ジエチルとO,O-DMDTPAとの間の反応を、約10時間未満継続させる。実施例において、反応は、約8時間未満の期間継続するようにされる。
【0015】
実施例において、本発明の方法は、工程(b)の後に、工程(c)工程(b)の結果としての混合物を水溶液で洗浄してマラチオンを単離する工程をさらに含む。実施例において、工程(c)は、Wiped-Film Stills(WFS)によって副生成物を除去することを含む。
【0016】
実施例において、単離されたマラチオンは、重量で約0.55%未満のO,O-DMDTPAからなる不純物を含む。実施例において、単離されたマラチオンは、重量で約0.35%未満のO,O-DMDTPAからなる不純物を含む。
【0017】
実施例において、マラチオンの収率は約90%以上である。実施例において、マラチオンの収率は、約7時間未満の期間で約90%以上に達する。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、マラチオンを調製するための改良された製造方法に関するものである。従来の方法と比較して、本明細書に記載の方法は、より短い時間でマラチオンの高収率生産を達成する。さらに、不純物の量が減少したことにより、マラチオンの安定性も改善される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下の記載は、反応の特定の構成要素または反応の条件を示しているが、本発明の範囲をそのような特定の参照または例に限定するものではない。当業者であれば、反応物の量や反応の温度や長さなどを実用上および経済上の観点から、様々な変更を加えることができる。
【0020】
本明細書で使用される冠詞「a」および「an」は、特に示さない限り、「1つ以上」または「少なくとも1つ」を意味する。すなわち、不定冠詞「a」または「an」による本発明の任意の要素または構成要素の参照は、2つ以上の要素または構成要素が存在する可能性を排除するものではない。
【0021】
本明細書で使用される用語「約」は、参照される数値表示のプラスまたはマイナス10%を指す。
【0022】
本発明の方法は、酸の存在下で、O,O-ジメチルジチオリン酸(O,O- DMDTPA)をマレイン酸と反応させることを含む。このように酸が触媒として機能することで、より短い反応時間で収率が向上するだけでなく、不純物も減少する。このような効率的なアプローチは、製造コストが低く環境にも優しい。
【0023】
反応物質の初期混合は、例えば、約25℃以下、約20℃以下、約15℃以下の温度で制御することができる。
【0024】
すべての反応物質が混合された後、温度は、例えば、約20~約50℃、約35~約45℃、約35~約40℃に上昇させることができる。実施例において、全体の反応時間は一般に、約15時間未満、約12時間未満、約10時間未満、約8時間未満、約7時間未満、約6時間未満、または約5時間未満である。
【0025】
実施例においては、本方法はO,O-ジメチルジチオリン酸(O,O-DMDTPA)を酸と混合して混合物を形成すること;マレイン酸ジエチルを混合物に添加することを含む。
【0026】
マレイン酸ジエチルは、制御された温度で混合物に部分的に添加して、反応の効率を損なうことなく、まだ副生成物の形成を最小限に抑えることができる。例えば、マレイン酸ジエチルは、10~25℃、15~20℃、または1~20℃の温度で、混合物に滴下して添加することができる。添加の速度と温度は、未反応のマレイン酸ジエチルが過度に蓄積することなく反応が進行するように調整する。
【0027】
マレイン酸ジエチルの添加後、反応混合物を約50、約45、約40、または約35℃の温度まで温めることができる。反応は、約3時間から約12時間、約5時間から約12時間、約3時間から約10時間、約4時間から約6時間、約5時間から約10時間、約6時間から約8時間、または約6時間から約7時間の間、継続させる。
【0028】
実施例において、温度を段階的に上げることができ、例えば、最初に約20℃または約25℃まで上げてから約40℃に維持することができる。
【0029】
酸の量は、ステップ(a)の混合物の重量で、約0.1%から約20%の範囲である。ある実施例では、混合物中の酸は、約0.5%から約10%まで、約1%から約10%まで、約3%から約10%まで、約5%から約10%まで、約3%から約8%まで、または約4%から約8%までの範囲である。
【0030】
酸は、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、リン酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、またはそれらの任意の組み合わせとすることができる。実施例において、酸は、約20質量%、約25質量%、約30質量%、または約35質量%の濃度を有する塩酸である。実施例において、酸は飽和塩酸である。実施例において、酸は塩酸ガスであり、これは例えばバブリングによって混合物に導入される。実施例において、酸は本質的に飽和塩酸である。マレイン酸ジエチルを添加する前に、混合物を、例えば、約10~約20℃、または約10~約15℃の温度に冷却することができる。
【0031】
O,O-DMDTPAの完全な反応を保証するために、O,O-DMDTPAとマレイン酸ジエチルとの間のモル比を、例えば約1:1.2から約1:1に制御することができる。実施例において、O,O-DMDTPAとマレイン酸ジエチルの間のモル比は、約1:1.1から約1:1.01、約1:1.05から約1:1.01、または1:1.03から約1:1.01の範囲である。
【0032】
生成物を分離することは、不純物の除去および/またはマラチオンの精製を含むこととなる。例えば、不純物のレベルを低下させるために、上記工程によって調製されたマラチオンは、水または水溶液による洗浄をしてもよい。実施例において、粗生成物を硫黄溶液で処理する。実施例において、ダイマー不純物の形成を排除するために、約7未満のpHを有する硫黄溶液が有効である。硫黄溶液のpHは、約6.0~約7.0の範囲である。実施例において、マラチオンをメタノールなどの適切な溶媒で結晶化させ、純度を向上させる。
【0033】
有機相は、マラチオン生成物を含む。 必要に応じて追加の有機溶媒を使用することができる。有機相は、MP-1-S(ホスホノチオ酸Phosphonothioic acid、O,O-ジメチルエステル)、MOOOPS(ホスホノチオ酸、O,O,O-トリメチルエステル)、ME(マレイン酸ジエチル)、FE(フマル酸ジエチル)、MOSSPOおよびMOOSPS(ホスホノジチオ酸、O,O,S-トリメチルエステル)を含む不純物を除去するために蒸留することができる。 実施例において、不純物を除去するためにワイプドフィルムスチルwiped-film stills(WFS)が適用される。
【0034】
本発明によって得られるマラチオンは、従来の方法よりもはるかに少ない不純物を有する。実施例において、O,O-DMDTPAの不純物は、重量比で約0.65%以下、約0.55%以下、約0.5%以下、約0.45%以下、約0.4%以下、約0.35%以下、約0.3%以下、約0.25%以下、約0.15%以下、または約0.1%以下である。
【0035】
本発明の方法は、従来の方法よりもはるかに高いマラチオンの収率を達成する。実施例において、収率は約80%以上、約85%以上、約90%以上、または約95%以上である。
【0036】
マレイン酸ジエチルは水相に不溶なので、反応を促進するためには反応物の混合が必要である。例えば、反応物の混合を促進するために、機械的な振とう、撹拌、または任意のタイプの撹拌を適用することができる。実施例において、反応物の混合を促進するために、不活性有機溶媒を反応混合物に加えることができる。
【実施例】
【0037】
【0038】
MP-1(45.1g)と濃塩酸(2.5g)を秤量し、0.5Lのジャケット付き反応器に順に加えた。温度を10-15℃に調整した。マレイン酸ジエチル(50.0g)を、温度を15~20℃に保ちながら滴下して添加した。添加後、20℃で1.0時間、一定の撹拌下で反応をコントロールした。 その後、温度を40°Cに昇温し、7時間維持した。
【0039】
サンプルを採取し、変換GC-FID(MP-1≦ 0.5 A %)を定期的に確認した。変換が許容できると判断された後、温度を30℃にして水を加えた(25.0g)。有機相をWFS蒸留し、MP-1-S, MOOOPS, ME, FE, MOSSPO, MOOSPSなどの不純物を除去した。マラチオンの収量は87.2g(98%wt)であった。
【0040】
【0041】
本発明の精神から逸脱することなく、数多くの様々な変更を加えることができることは、当業者であれば理解できる。したがって、本明細書に記載された様々な実施例は例示に過ぎず、本発明の範囲を限定することを意図したものではないことを理解すべきである。