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特許7628968二軸配向SiC複合基板及び半導体デバイス用複合基板
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  • 特許-二軸配向SiC複合基板及び半導体デバイス用複合基板 図1
  • 特許-二軸配向SiC複合基板及び半導体デバイス用複合基板 図2
  • 特許-二軸配向SiC複合基板及び半導体デバイス用複合基板 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】二軸配向SiC複合基板及び半導体デバイス用複合基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20250204BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20250204BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20250204BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B25/20
H01L21/205
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021573119
(86)(22)【出願日】2021-01-15
(86)【国際出願番号】 JP2021001148
(87)【国際公開番号】W WO2021149598
(87)【国際公開日】2021-07-29
【審査請求日】2023-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2020009649
(32)【優先日】2020-01-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 守道
(72)【発明者】
【氏名】松島 潔
(72)【発明者】
【氏名】吉川 潤
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-323293(JP,A)
【文献】特開平11-268995(JP,A)
【文献】特開2005-239465(JP,A)
【文献】特表2004-533720(JP,A)
【文献】国際公開第2014/189008(WO,A1)
【文献】特開2007-277049(JP,A)
【文献】特開2012-046384(JP,A)
【文献】特開2014-031316(JP,A)
【文献】特開2014-185048(JP,A)
【文献】特開平11-147794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通らせん転位及び基底面転位を含む第1の二軸配向SiC層と、
前記第1の二軸配向SiC層に連続して形成され、希土類元素を1×1016atoms/cm3以上1×1019atoms/cm3以下含有する、第2の二軸配向SiC層と、
を備え、
前記第2の二軸配向SiC層表面の欠陥密度が前記第1の二軸配向SiC層の欠陥密度よりも小さく、
前記第2の二軸配向SiC層はAlを含有し、前記第2の二軸配向SiC層中のAlの濃度は1×10 16 atoms/cm 3 以上1×10 21 atoms/cm 3 以下であり、
前記第2の二軸配向SiC層はNを含有し、前記第2の二軸配向SiC層中のNの濃度は1×10 17 atoms/cm 3 以上1×10 22 atoms/cm 3 以下である、
二軸配向SiC複合基板。
【請求項2】
前記第2の二軸配向SiC層中に含まれる前記希土類元素は、Y,Sm,Ho,Dy及びYbからなる群より選ばれた少なくとも一つである、
請求項1に記載の二軸配向SiC複合基板。
【請求項3】
前記第2の二軸配向SiC層は、その表面まで到達する欠陥密度が1.0×101/cm2以下である、
請求項1又は2に記載の二軸配向SiC複合基板。
【請求項4】
前記第2の二軸配向SiC層中の(Alの濃度)/(希土類元素の濃度)が1×10-2以上1×105以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の二軸配向SiC複合基板。
【請求項5】
前記第2の二軸配向SiC層中の(Nの濃度)/(希土類元素の濃度)が1×10-2以上1×105以下である、
請求項1~4のいずれか1項に記載の二軸配向SiC複合基板。
【請求項6】
前記第2の二軸配向SiC層中の(Nの濃度)/(Alの濃度)が3以上5以下である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の二軸配向SiC複合基板。
【請求項7】
前記第2の二軸配向SiC層中の希土類元素、Al、Nの濃度が、N>Al>希土類元素の関係にある、
請求項1~6のいずれか1項に記載の二軸配向SiC複合基板。
【請求項8】
前記第2の二軸配向SiC層中の希土類元素、Al、N濃度が第1の二軸配向SiC層中より高い、
請求項1~7のいずれか1項に記載の二軸配向SiC複合基板。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の二軸配向SiC複合基板と、
前記二軸配向SiC複合基板の前記第2の二軸配向SiC層上に設けられる半導体デバイス用機能層と、
を備えた半導体デバイス用複合基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸配向SiC複合基板及び半導体デバイス用複合基板に関する。
【背景技術】
【0002】
SiC(炭化珪素)は大電圧及び大電力を低損失で制御できるワイドバンドギャップ材料として注目を集めている。SiC単結晶中に存在する代表的な転位には、基底面転位、貫通らせん転位、貫通刃状転位等があり、現在市販のSiC単結晶基板の全転位密度は、およそ103~104cm-2に上るといわれている(例えば特許文献1)。したがって、無転位結晶が工業的にも実現されているSiとは対照的に、SiCは一定の転位密度を有する領域から素子を作製せざるを得ない単結晶材料である。また、これらの転位は、素子性能への影響がそれぞれ異なることが分かっている。
【0003】
溶液法を用いて製造された貫通らせん転位が少ないSiC単結晶が提案されている。例えば、特許文献2には、成膜中に種結晶上にマクロステップを形成する手法を用いて作製したSiC単結晶基板が開示されており、種結晶の結晶成長面においてSiC単結晶からなる高さの大きいマクロステップが形成されることで、その後のマクロステップの進展による結晶成長によって貫通らせん転位の少ないSiC単結晶が得られるとされている。特許文献2に開示される手法は、マクロステップの進展に伴って、貫通らせん転位を積層欠陥に変換して結晶外に排出するため、マクロステップの進展方向に積層欠陥が伝搬するという特徴を有している。また、特許文献3には、SiC単結晶中にNb、Ta、Mo、W、Irを所定量添加することで、SiC単結晶の成長中に生じる熱応力による転位が発生しにくく、エピタキシャル成長によってSiC単結晶上にSiC層を形成する際にも転位が発生しにくくなることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6197722号公報
【文献】特開2014-43369号公報
【文献】特開2019-218229号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2の手法で作製したSiC単結晶は反りが大きくなるという問題があった。この原因は定かではないが、積層欠陥が一方向(マクロステップの進展方向)に並ぶことで基板内部に何らかの応力分布が生じた結果、反りが生じたものと考えられる。また、特許文献2では、貫通らせん転位の積層欠陥への変換による貫通らせん転位の低減に主眼が置かれており、基底面転位の低減についての具体的な検討はなされていない。貫通らせん転位が多いと、絶縁膜の長期信頼性が低下しリーク破壊が起こりやすくなるため、デバイスの寿命が短くなる。基底面転位が多いと、オン抵抗が大きくなりやすくデバイス動作時の電力損失が大きくなるため、デバイスの省エネ性能が低下する。したがって、貫通らせん転位及び基底面転位の両方の転位を少なくすることが望まれる。また、特許文献3では、SiC単結晶に添加されるNb、Ta等の成分が半導体の特性に好ましくない影響を与える場合には、Nb、Ta等を添加することができなかった。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、表面に到達する欠陥密度が低く、反りが小さい二軸配向SiC複合基板を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の二軸配向SiC複合基板は、
貫通らせん転位及び基底面転位を含む第1の二軸配向SiC層と、
前記第1の二軸配向SiC層の一方の面に連続して形成され、希土類元素を1×1016atoms/cm3以上1×1019atoms/cm3以下含有する、第2の二軸配向SiC層と、
を備え、
前記第2の二軸配向SiC層表面の欠陥密度が前記第1の二軸配向SiC層の欠陥密度よりも小さい、
ものである。
【0008】
この二軸配向SiC複合基板のうち、第2の二軸配向SiC層は、希土類元素の濃度が1×1016atoms/cm3以上1×1019atoms/cm3以下の範囲内に設定されている。そのため、この第2の二軸配向層の表面に到達する欠陥密度を第1の二軸配向SiC層より低減させることができる。こうした二軸配向SiC複合基板は、反りが小さく、第2の二軸配向SiC層の表面に到達する欠陥密度が低いため、表面上にエピタキシャル成長等によって機能層を形成して半導体デバイスを作製するのに適している。また、第2の二軸配向SiC層は、Nb、Ta等を含有していないため、Nb、Ta等の成分が半導体特性に影響を与える状況下であっても使用することができる。
【0009】
ここで、二軸配向SiC層とは、a軸及びc軸の二つの軸に方位が揃ったSiC層である。欠陥密度とは、貫通らせん転位(TSD)の密度と基底面転位(BPD)の密度の総和である。
【0010】
第2の二軸配向SiC層の表面に到達する欠陥密度が小さい理由は定かではないが、以下のようなメカニズムが考えられる。
【0011】
欠陥が形成される1つ目の原因として、下地となる層に存在する欠陥が伝搬する場合が考えられる。すなわち、第2の二軸配向SiC層を第1の二軸配向SiC層上へ形成する場合、第1の二軸配向SiC層中に存在する欠陥が第2の二軸配向SiC層へ伝搬する可能性がある。第2の二軸配向SiC層に希土類元素を所定量含むことで、欠陥の伝搬を抑制する効果が考えられる。このメカニズムも定かではないが、二軸配向SiC層内に伝搬した欠陥に希土類元素やAl、Nが集積することで欠陥周囲の二軸配向SiC層の形成が抑制され、欠陥の無い健全な領域からの二軸配向SiC層が優先的に成長して、結果的に第2の二軸配向SiC層表面に到達する欠陥が低減すると推定される。また、第2の二軸配向SiC層中に伝搬した欠陥が、希土類元素やAl、Nを所定量、所定比率含有することで、早期に欠陥同士の対消滅を生じやすくなるとも考えられる。
【0012】
欠陥が形成される2つ目の原因として、格子ミスマッチが考えられる。第1の二軸配向SiC層と第2の二軸配向SiC層の不純物含有量が異なるとき、格子ミスマッチが生じる場合がある。このとき、第2の二軸配向SiC層中に所定量、所定比率の希土類元素、Al、Nを含有することで膜中の格子ミスマッチの応力を緩和して欠陥密度が低減できると考えられる。あるいは欠陥同士の対消滅が生じやすくなると考えられる。また、第2の二軸配向SiC層が所定量、所定比率の希土類元素、Al、Nを含有することで格子ミスマッチの応力を緩和しつつ、所望の特性(例えば電気特性)を有する第2の二軸配向SiC層を得ることができる。
【0013】
欠陥が形成される3つ目の原因として、第2の二軸配向SiC層の形成時や形成後に室温まで降温するときの温度分布による熱応力が考えられる。このとき、第2の二軸配向SiC層が所定量、所定比率の希土類元素、Al、Nを含有することで熱応力が緩和され、新たな欠陥の生成を抑制できると考えられる。
【0014】
本発明の二軸配向SiC複合基板において、第2の二軸配向SiC層に含まれる希土類元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの17種類の元素からなる群より選ばれた少なくとも1種類以上の元素を含む。希土類元素としては、Y,Sm,Ho,Dy及びYbからなる群より選ばれた少なくとも一つ以上であることが好ましい。こうすれば、第2の二軸配向SiC層の表面に到達する欠陥密度を、より低減させることができる。
【0015】
本発明の二軸配向SiC複合基板において、第2の二軸配向SiC層の表面に到達する欠陥密度は特に限定がないが、欠陥密度1.0×102/cm2以下が好ましく、1.0×101/cm2以下が更に好ましく、1.0×100/cm2以下が更に好ましい。
【0016】
本発明の二軸配向SiC複合基板において、前記第2の二軸配向SiC層は、Alを含有していることが好ましく、前記第2の二軸配向SiC層中のAlの濃度は1×1016atoms/cm3以上1×1021atoms/cm3以下であることが好ましい。こうすれば、第2の二軸配向SiC層の表面に到達する欠陥密度を、より低減させることができる。第2の二軸配向SiC層中の(Alの濃度)/(希土類元素の濃度)は1×10-2以上1×105以下であることが好ましい。
【0017】
本発明の二軸配向SiC複合基板において、前記第2の二軸配向SiC層はAlの他にNを含有していることが好ましく、前記第2の二軸配向SiC層中のNの濃度は1×1017atoms/cm3以上1×1022atoms/cm3以下であることが好ましい。こうすれば、第2の二軸配向SiC層の表面に到達する欠陥密度を、更に低減させることができる。第2の二軸配向SiC層中の(Nの濃度)/(希土類元素の濃度)は1×10-2以上1×105以下であることが好ましい。
【0018】
本発明の二軸配向SiC複合基板において、前記第2の二軸配向SiC層中の(Nの濃度)/(Alの濃度)が3以上5以下であることが好ましく、前記第2の二軸配向SiC層中の希土類元素、Al、Nの濃度が、N>Al>希土類元素の関係にあることが好ましく、前記第2の二軸配向SiC層中の希土類元素、Al、N濃度が第1の二軸配向SiC層中より高いことが好ましい。
【0019】
本発明の二軸配向SiC複合基板において、第2の二軸配向SiC層の表面に到達する欠陥密度を低減する観点から、第1の二軸配向SiC層と第2の二軸配向SiC層との界面付近にはArが含まれていることが好ましく、第1の二軸配向SiC層の欠陥密度は低い方が好ましい。
【0020】
本発明の半導体デバイス用複合基板は、
上述したいずれかの二軸配向SiC複合基板と、
前記二軸配向SiC複合基板の前記第2の二軸配向SiC層上に設けられる半導体デバイス用機能層と、
を備えたものである。
【0021】
こうした半導体デバイス用複合基板としては、例えば、MOSFET、IGBT、LED、HEMT等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】二軸配向SiC複合基板10の模式図。
図2】二軸配向SiC複合基板10の製造工程図。
図3】AD装置50の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の好適な実施形態を、図面を参照しながら以下に説明する。図1は本実施形態の二軸配向SiC複合基板10の模式図である。
【0024】
図1に示されるように、二軸配向SiC複合基板10は、第1の二軸配向SiC層20と、第2の二軸配向SiC層30とを備える。ここで、二軸配向SiC層とは、a軸及びc軸共に方位が揃った層を意味する。第1の二軸配向SiC層20は、貫通らせん転位(TSD)及び基底面転位(BPD)を含む。第2の二軸配向SiC層30は、第1の二軸配向SiC層20の一方の面に連続して形成され、希土類元素を1×1016atoms/cm3以上1×1019atoms/cm3以下含有する。第2の二軸配向SiC層の欠陥密度は第1の二軸配向SiC層20の欠陥密度よりも小さい。このような2層構成を採用することで、基板表面に到達する貫通らせん転位及び基底面転位が少なく、かつ、反りが小さい、二軸配向SiC複合基板を提供することができる。ここで、基板表面とは、第2の二軸配向SiC層30のうち第1の二軸配向SiC層20と接している面とは反対側の面をいう。希土類元素は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの17種類の元素からなる群より選ばれた少なくとも1種類以上の元素を含む。希土類元素としては、Y,Sm,Ho,Dy及びYbからなる群より選ばれた少なくとも一つ以上であることが好ましい。
【0025】
第1の二軸配向SiC層20は、結晶成長面を有する。第1の二軸配向SiC層20は、SiC単結晶で構成される層であることが好ましい。また、SiC単結晶のポリタイプ、オフ角、及び極性は特に限定されるものではないが、ポリタイプは4H又は6Hが好ましく、オフ角はSiC単結晶の[0001]軸から0.1~12°であることが好ましく、第2の二軸配向SiC層30が形成される面はSi面であることが好ましい。ポリタイプは4H、オフ角はSiC単結晶の[0001]軸から1~5°、第2の二軸配向SiC層30が形成される面はSi面であることがより好ましい。
【0026】
第2の二軸配向SiC層30は、第1の二軸配向SiC層20の結晶成長面上に形成される。第2の二軸配向SiC層30は、a軸及びc軸の2軸方向に配向したSiC層である。この二軸配向SiC層は、c軸及びa軸の2軸方向に配向している限り、SiC単結晶であってもよいし、SiC多結晶であってもよいし、モザイク結晶であってもよい。モザイク結晶とは、明瞭な粒界は有しないが、結晶の配向方位がc軸及びa軸の一方又は両方がわずかに異なる結晶の集まりになっているものをいう。配向の評価方法は、特に限定されるものではないが、例えばEBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)法やX線極点図等の公知の分析手法を用いることができる。例えば、EBSD法を用いる場合、二軸配向SiC層の表面(板面)又は板面と直交する断面の逆極点図マッピングを測定する。得られた逆極点図マッピングにおいて、(A)板面の略法線方向の特定方位(第1軸)に配向していること、(B)第1軸に直交する、略板面内方向の特定方位(第2軸)に配向していること、(C)第1軸からの傾斜角度が±10°以内に分布していること、(D)第2軸からの傾斜角度が±10°以内に分布していること、という4つの条件を満たすときに略法線方向と略板面方向の2軸に配向していると定義できる。言い換えると、上記4つの条件を満たしている場合に、c軸及びa軸の2軸に配向していると判断する。例えば板面の略法線方向がc軸に配向している場合、略板面内方向がc軸と直交する特定方位(例えばa軸)に配向していればよい。二軸配向SiC層は、略法線方向と略板面内方向の2軸に配向していればよいが、略法線方向がc軸に配向していることが好ましい。略法線方向及び/又は略板面内方向の傾斜角度分布は小さい方が二軸配向SiC層のモザイク性が小さくなり、ゼロに近づくほど単結晶に近くなる。このため、二軸配向SiC層の結晶性の観点では、傾斜角度分布は略法線方向及び略板面方向共に小さいほうが好ましく、例えば±5°以下が好ましく、±3°以下がさらに好ましい。
【0027】
第2の二軸配向SiC層30は、その表面まで到達する基底面転位及び貫通らせん転位の単位面積当たりの数として定義される欠陥密度が1.0×102/cm2以下であるのが典型的であり、好ましくは1.0×101/cm2以下、より好ましくは1.0×100/cm2以下である。欠陥密度の下限値は特に限定されないが、典型的には1.0×10-3/cm2以上、より典型的には1.0×10-2/cm2以上である。欠陥密度の評価方法には、公知のKOH融液エッチングによるエッチピット評価を用いるものとする。KOH融液エッチングによるエッチピット評価が不可能な場合にはPLマッピング、X線トポグラフィー、CLマッピング等を実施してもよい。このような手法を用いても欠陥密度の評価が可能である。
【0028】
前述のとおり、第2の二軸配向SiC層30の表面へ伝搬する結晶欠陥の密度を著しく低減することができる。さらに、本実施形態の二軸配向SiC複合基板10は、結晶欠陥密度が低い上、反りを小さくすることもできる。この理由は定かではないが、第2の二軸配向SiC層30の内部での結晶欠陥の面内分布が小さい、或いはなく、基板面内の応力の偏りがないためと考えられる。
【0029】
二軸配向SiC複合基板に厚み方向の導電性を付与する観点では、第1の二軸配向SiC層20及び第2の二軸配向SiC層30は、抵抗率が低い層であることが好ましく、典型的には20mΩcm以下である。低抵抗な二軸配向SiC層としては、n型SiCからなる層が好ましい。このような導電性を有する二軸配向SiC層を備えた二軸配向SiC複合基板は、厚み方向に導電性を有し、縦型デバイス(例えばパワーデバイス)の基板として用いることができる。また、用途によっては二軸配向SiC複合基板をp型SiCとしてもよい。
【0030】
二軸配向SiC複合基板10に厚み方向の絶縁性を付与する観点では、第1の二軸配向SiC層20及び第2の二軸配向SiC層30は抵抗率が高い層であることが好ましく、典型的には1×107Ωcm以上である。例えば、高抵抗な二軸配向SiC層としては、ドーピング元素が含まれていないものがある。また、n型ドーパントとp型ドーパントが共に含まれる場合においてもこのような高抵抗を得ることができる。このような絶縁性を付与した二軸配向SiC層を備えた二軸配向SiC複合基板は、絶縁性を有し、横型デバイス(例えば二軸配向SiC複合基板上にGaN層、AlGaN層等を成膜した高周波用パワーデバイス)の下地基板として用いることができる。
【0031】
次に、二軸配向SiC複合基板10の製造方法について説明する。本実施形態の二軸配向SiC複合基板10は様々な製造方法により製造することができるが、ここでは第1の二軸配向SiC層20としてSiC単結晶層を使用し、その表面上に第2の二軸配向SiC層30を作製する場合について説明する。
【0032】
なお、第2の二軸配向SiC層の形成方法については、希土類元素を含有し、第1の二軸配向SiC層より欠陥密度が小さい第2の二軸配向SiC層が得られる限り特に限定はない。CVDや昇華法などの気相法でもよいし、溶液法などの液相法でもよいし、固相法を用いてもよい。
【0033】
以下では配向前駆体層を形成し、熱処理工程によって二軸配向SiC層が得られる工程について説明する。具体的には、(a)配向前駆体層40の形成工程、(b)熱処理工程、(c)研削工程、を含む。配向前駆体層40は、後述の熱処理により第2の二軸配向SiC層30となるものである。以下、これらの工程を図2を用いて順に説明する。このような(a)~(c)工程でSiC複合基板を製造することで、第1の二軸配向SiC層(SiC単結晶層)に対する第2の二軸配向SiC層の欠陥密度の低減効果をより一層高めることができる 。
【0034】
(a)配向前駆体層40の形成工程(図2(a)参照)
配向前駆体層40の形成工程では、第1の二軸配向SiC層20としてSiC単結晶層を使用し、SiC単結晶層の結晶成長面に配向前駆体層40を形成する。SiC単結晶層としては、4H又は6Hポリタイプを用いることが好ましい。また、SiC単結晶層の結晶成長面としては、SiC[0001]軸から0.1~12°のオフ角を有するSi面が好ましい。オフ角は1~5°であることがより好ましい。なお、第1の二軸配向SiC層20は、特にSiC単結晶層に限定されるものではなく、a軸及びc軸の2軸方向に配向したSiC層であれば使用可能である。
【0035】
配向前駆体層40の形成方法は、公知の手法が採用可能である。配向前駆体層40の形成方法は、例えば、AD(エアロゾルデポジション)法、HPPD(超音速プラズマ粒子堆積法)法などの固相成膜法、スパッタリング法、蒸着法、昇華法、各種CVD(化学気相成長)法などの気相成膜法、溶液成長法などの液相成膜法が挙げられ、配向前駆体層40を直接、第1の二軸配向SiC層20上に形成する手法が使用可能である。CVD法としては、例えば熱CVD法、プラズマCVD法、ミストCVD法、MO(有機金属)CVD法などを用いることができる。また、配向前駆体層40として、予め昇華法や各種CVD法、焼結などで作製した多結晶体を使用し、第1の二軸配向SiC層20上に載置する方法も用いることができる。あるいは、配向前駆体層40の成形体を予め作製し、この成形体を第1の二軸配向SiC層20上に載置する手法であってもよい。このような配向前駆体層40は、テープ成形により作製されたテープ成形体でもよいし、一軸プレス等の加圧成形により作製された圧粉体でもよい。
【0036】
これらの配向前駆体層40を形成するにあたり、配向前駆体層40の原料粉末に、第2の二軸配向SiC層30の希土類元素の濃度に応じた希土類化合物が含まれるようにする。希土類化合物としては、特に限定されるものではないが、上述した17種類の希土類元素のうちの少なくとも1種類の元素の酸化物、窒化物、炭化物、フッ化物などが挙げられる。また、第2の二軸配向SiC層30にAlが含有される場合には、第2の二軸配向SiC層30中のAl濃度に応じてAl化合物を配向前駆体層40の原料粉末に含有させる。Al化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、フッ化アルミニウムなどが挙げられる。更に、第2の二軸配向SiC層30にNが含有される場合には、第2の二軸配向SiC層30中のN濃度に応じて窒素化合物を配向前駆体層40の原料粉末に含有させる。窒素化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば窒化アルミニウムなどが挙げられる。また、第2の二軸配向SiC層30にNが含有される場合には次のような方法でもNを添加することができる。配向前駆体層40の原料粉末から第2の二軸配向SiC層を窒素雰囲気下で合成するか、あるいは合成された第2の二軸配向SiC層を窒素雰囲気下でアニールすることでもNを含有させることができる。
【0037】
なお、第1の二軸配向SiC層20上に直接配向前駆体層40を形成する手法において、各種CVD法や昇華法、溶液成長法などを用いる場合、後述する熱処理工程を経ることなく第1の二軸配向SiC層20上にエピタキシャル成長を生じ、第2の二軸配向SiC層30が成膜される場合がある。しかし、配向前駆体層40は、形成時には配向していない状態、即ち非晶質や無配向の多結晶であり、後段の熱処理工程でSiC単結晶を種として配向させることが好ましい。このようにすることで、第2の二軸配向SiC層30の表面に到達する結晶欠陥を効果的に低減することができる。この理由は定かではないが、一旦成膜された固相の配向前駆体層がSiC単結晶を種として結晶構造の再配列を生じることも結晶欠陥の消滅に効果があるのではないかと考えている。従って、各種CVD法や昇華法、溶液成長法などを用いる場合は、配向前駆体層40の形成工程においてエピタキシャル成長が生じない条件を選択することが好ましい。
【0038】
しかしながら、AD法、各種CVD法で第1の二軸配向SiC層20上に直接配向前駆体層40を形成する手法又は昇華法、各種CVD法、焼結で別途作製した多結晶体を第1の二軸配向SiC層20上に載置する手法が好ましい。これらの方法を用いることで配向前駆体層40を比較的短時間で形成することが可能となる。AD法は高真空のプロセスを必要とせず、成膜速度も相対的に速いため、特に好ましい。配向前駆体層40として、予め作製した多結晶体を用いる手法では、多結晶体と第1の二軸配向SiC層20の密着性を高めるため、多結晶体の表面を十分に平滑にしておくなどの工夫が必要である。このため、コスト的な観点では配向前駆体層40を直接形成する手法が好ましい。また、予め作製した成形体を第1の二軸配向SiC層20上に載置する手法も簡易な手法として好ましいが、配向前駆体層40が粉末で構成されているため、後述する熱処理工程において焼結させるプロセスを必要とする。いずれの手法も公知の条件を用いることができるが、以下ではAD法又は熱CVD法により第1の二軸配向SiC層20上に直接配向前駆体層40を形成する方法及び予め作製した成形体を第1の二軸配向SiC層20上に載置する手法について述べる。
【0039】
AD法は、微粒子や微粒子原料をガスと混合してエアロゾル化し、このエアロゾルをノズルから高速噴射して基板に衝突させ、被膜を形成する技術であり、常温で被膜を形成できるという特徴を有している。このようなAD法で用いられる成膜装置(AD装置)の一例を図3に示す。図3に示されるAD装置50は、大気圧より低い気圧の雰囲気下で原料粉末を基板上に噴射するAD法に用いられる装置として構成されている。このAD装置50は、原料成分を含む原料粉末のエアロゾルを生成するエアロゾル生成部52と、原料粉末を第1の二軸配向SiC層20に噴射して原料成分を含む膜を形成する成膜部60とを備えている。エアロゾル生成部52は、原料粉末を収容し図示しないガスボンベからのキャリアガスの供給を受けてエアロゾルを生成するエアロゾル生成室53と、生成したエアロゾルを成膜部60へ供給する原料供給管54と、エアロゾル生成室53及びその中のエアロゾルに10~100Hzの振動数で振動が付与する加振器55とを備えている。成膜部60は、第1の二軸配向SiC層20にエアロゾルを噴射する成膜チャンバ62と、成膜チャンバ62の内部に配設され第1の二軸配向SiC層20を固定する基板ホルダ64と、基板ホルダ64をX軸-Y軸方向に移動するX-Yステージ63とを備えている。また、成膜部60は、先端にスリット67が形成されエアロゾルを第1の二軸配向SiC層20へ噴射する噴射ノズル66と、成膜チャンバ62を減圧する真空ポンプ68とを備えている。噴射ノズル66は、原料供給管54の先端に取り付けられている。
【0040】
AD法は、成膜条件によって膜中に気孔を生じる場合や、膜が圧粉体となることが知られている。例えば、原料粉末の基板への衝突速度や原料粉末の粒径、エアロゾル中の原料粉末の凝集状態、単位時間当たりの噴射量などに影響を受けやすい。原料粉末の基板への衝突速度に関しては、成膜チャンバ62と噴射ノズル66内の差圧や、噴射ノズルの開口面積などに影響を受ける。このため、緻密な配向前駆体層中を得るには、これらのファクターを適切に制御することが必要である。
【0041】
熱CVD法では、成膜装置は市販のものなど公知のものを利用することができる。原料ガスは特に限定されるものではないが、Siの供給源としては四塩化ケイ素(SiCl4)ガスやシラン(SiH4)ガス、Cの供給源としてはメタン(CH4)ガスやプロパン(C38)ガス等を用いることができる。成膜温度は1000~2200℃が好ましく、1100~2000℃がさらに好ましく、1200~1900℃が好ましい。
【0042】
熱CVD法を用いて第1の二軸配向SiC層20上に成膜する場合、第1の二軸配向SiC層20上にエピタキシャル成長を生じ、第2の二軸配向SiC層30を形成する場合があることが知られている。しかし、配向前駆体層40は、その作製時には配向していない状態、即ち非晶質や無配向の多結晶であり、熱処理工程時にSiC単結晶を種結晶として結晶の再配列を生じさせることが好ましい。熱CVD法を用いてSiC単結晶上に非晶質や多結晶の層を形成するには、成膜温度やSi源、C源のガス流量及びそれらの比率、成膜圧力などが影響することが知られている。成膜温度の影響は大きく、非晶質又は多結晶層を形成する観点では成膜温度は低い方が好ましく、1700℃未満が好ましく、1500℃以下がさらに好ましく、1400℃以下が特に好ましい。しかし、成膜温度が低すぎると成膜レート自体も低下するため、成膜レートの観点では成膜温度は高い方が好ましい。
【0043】
配向前駆体層40として予め作製した成形体を用いる場合、配向前駆体の原料粉末を成形して作製することができる。例えば、プレス成形を用いる場合、配向前駆体層40は、プレス成形体である。プレス成形体は、配向前駆体の原料粉末を公知の手法に基づきプレス成形することで作製可能であり、例えば、原料粉末を金型に入れ、好ましくは100~400kgf/cm2、より好ましくは150~300kgf/cm2の圧力でプレスすることにより作製すればよい。また、成形方法に特に限定はなく、プレス成形の他、テープ成形、押出し成形、鋳込み成形、ドクターブレード法及びこれらの任意の組合せを用いることができる。例えば、テープ成形を用いる場合、原料粉末にバインダー、可塑剤、分散剤、分散媒等の添加物を適宜加えてスラリー化し、このスラリーをスリット状の細い吐出口を通過させることにより、シート状に吐出及び成形するのが好ましい。シート状に成形した成形体の厚さに限定はないが、ハンドリングの観点では5~500μmであるのが好ましい。また、厚い配向前駆体層が必要な場合はこのシート成形体を多数枚積み重ねて、所望の厚さとして使用すればよい。これらの成形体はその後の第1の二軸配向SiC層20上での熱処理により第1の二軸配向SiC層20近くの部分が、第2の二軸配向SiC層30となるものである。このような手法では、後述する熱処理工程において成形体を焼結させる必要がある。成形体が焼結し、多結晶体として第1の二軸配向SiC層20と一体となる工程を経たのちに、第2の二軸配向SiC層30を形成することが好ましい。成形体が焼結した状態を経ない場合、SiC単結晶を種としたエピタキシャル成長が十分に生じない場合がある。このため、成形体はSiC原料の他に、焼結助剤等の添加物を含んでいてもよい。
【0044】
(b)熱処理工程(図2(b)参照)
熱処理工程では、第1の二軸配向SiC層20上に配向前駆体層40が積層又は載置された積層体を熱処理することにより第2の二軸配向SiC層30を生成させる。熱処理方法は、第1の二軸配向SiC層20を種としたエピタキシャル成長が生じるかぎり特に限定されず、管状炉やホットプレートなど、公知の熱処理炉で実施することができる。また、これらの常圧(プレスレス)での熱処理だけでなく、ホットプレスやHIPなどの加圧熱処理や、常圧熱処理と加圧熱処理の組み合わせも用いることができる。熱処理の雰囲気は真空、窒素、不活性ガス雰囲気から選択することができる。熱処理温度は、好ましくは1700~2700℃である。温度を高くすることで、第1の二軸配向SiC層20を種結晶として配向前駆体層40がc軸及びa軸に配向しながら成長しやすくなる。したがって、温度は、好ましくは1700℃以上、より好ましくは1850℃以上、さらに好ましくは2000℃以上、特に好ましくは2200℃以上である。一方、温度が過度に高いと、SiCの一部が昇華により失われたり、SiCが塑性変形して反り等の不具合が生じたりする可能性がある。したがって、温度は、好ましくは2700℃以下、より好ましくは2500℃以下である。熱処理温度や保持時間はエピタキシャル成長で生じる第2の二軸配向SiC層30の厚みと関係しており、適宜調整できる。
【0045】
但し、配向前駆体層40として予め作製した成形体を用いる場合、熱処理中に焼結させる必要があり、高温での常圧焼成やホットプレスやHIP又はそれらの組み合わせが好適である。例えば、ホットプレスを用いる場合、面圧は50kgf/cm2以上が好ましく、より好ましくは100kgf/cm2以上、特に好ましくは200kgf/cm2以上が好ましく、特に上限はない。また、焼成温度も焼結とエピタキシャル成長が生じる限り、特に限定はない。1700℃以上が好ましく、1800℃以上がさらに好ましく、2000℃以上がさらに好ましく、2200℃以上が特に好ましい。焼成時の雰囲気は真空、窒素、不活性ガス雰囲気又は窒素と不活性ガスの混合ガスから選択することができる。原料となるSiC粉末は、α-SiC、β-SiCのいずれでもよい。SiC粉末は、好ましくは0.01~5μmの平均粒径を有するSiC粒子で構成される。なお、平均粒径は走査型電子顕微鏡にて粉末を観察し、1次粒子100個分の定方向最大径を計測した平均値を指す。
【0046】
熱処理工程では、配向前駆体層40内の結晶は第1の二軸配向SiC層20の結晶成長面からc軸及びa軸に配向しながら成長していくため、配向前駆体層40は、結晶成長面から徐々に第2の二軸配向SiC層30に変わっていく。生成した第2の二軸配向SiC層30は、欠陥密度の低い(例えば1×102/cm2以下)のものになる。
【0047】
(c)研削工程(図2(c)参照)
研削工程では、アニール工程後に第2の二軸配向SiC層30上に残った配向前駆体層40を研削除去して、第2の二軸配向SiC層30の表面を露出させ、露出した表面をダイヤモンド砥粒を用いて研磨加工し、更にCMP(化学機械研磨)仕上げを行う。こうすることにより、二軸配向SiC複合基板10を得る。
【0048】
次に、二軸配向SiC複合基板10の第2の二軸配向SiC層30の表面に、SiCエピタキシャル層を成長させる方法について説明する。SiCエピタキシャル層を成長させる方法は、特に限定するものではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、CVD装置内のサセプタに、二軸配向SiC複合基板10を第2の二軸配向SiC層30の表面が上になるように配置し、原料ガスとしてシラン及びプロパンを用い、キャリアガスとして水素を供給してエピタキシャル成長を行うようにしてもよい。この際、成長温度は1570℃以上1610℃以下の範囲内で設定するのが好ましい。また、濃度比C/Siは0.7以上1.2以下の範囲内で設定するのが好ましい。
【0049】
以上詳述した本実施形態では、二軸配向SiC複合基板10のうち、第2の二軸配向SiC層30は、希土類元素の濃度が1×1016atoms/cm3以上1×1019atoms/cm3以下の範囲内に設定されている。そのため、この第2の二軸配向SiC層30の表面に到達する欠陥密度を第1の二軸配向SiC層20より低減させることができる。こうした二軸配向SiC複合基板10は、反りが小さく、第2の二軸配向SiC層30の表面に到達する欠陥密度が低いため、表面上にエピタキシャル成長等によって機能層を形成して半導体デバイスを作製するのに適している。また、第2の二軸配向SiC層30は、Nb、Ta等を含有していないため、Nb、Ta等の成分が半導体特性に影響を与える状況下であっても使用することができる。
【0050】
また、第2の二軸配向SiC層30に含まれる希土類元素としては、Y,Sm,Ho,Dy及びYbからなる群より選ばれた少なくとも一つ以上であることが好ましい。こうすれば、第2の二軸配向SiC層30の表面に到達する欠陥密度を、より低減させることができる。
【0051】
更に、第2の二軸配向SiC層30の表面に到達する欠陥密度は、1.0×102/cm2以下が好ましく、1.0×101/cm2以下が更に好ましく、1.0×100/cm2以下が更に好ましい。
【0052】
更にまた、第2の二軸配向SiC層30は、Alを含有していることが好ましく、第2の二軸配向SiC層30中のAlの濃度は1×1016atoms/cm3以上1×1021atoms/cm3以下であることが好ましい。こうすれば、第2の二軸配向SiC層30の表面に到達する欠陥密度を、より低減させることができる。第2の二軸配向SiC層30中の(Alの濃度)/(希土類元素の濃度)は1×10-2以上1×105以下であることが好ましい。
【0053】
そして、第2の二軸配向SiC層30はAlの他にNを含有していることが好ましく、第2の二軸配向SiC層30中のNの濃度は1×1017atoms/cm3以上1×1022atoms/cm3以下であることが好ましい。こうすれば、第2の二軸配向SiC層30の表面に到達する欠陥密度を、更に低減させることができる。第2の二軸配向SiC層30中の(Nの濃度)/(希土類元素の濃度)は1×10-2以上1×105以下であることが好ましい。
【0054】
そしてまた、第2の二軸配向SiC層30中の(Nの濃度)/(Alの濃度)は3以上5以下であることが好ましく、第2の二軸配向SiC層30中の希土類元素、Al、Nの濃度が、N>Al>希土類元素の関係にあることが好ましく、第2の二軸配向SiC層30中の希土類元素、Al、N濃度が第1の二軸配向SiC層中より高いことが好ましい。
【0055】
そして更に、第2の二軸配向SiC層30の表面に到達する欠陥密度を低減する観点から、第1の二軸配向SiC層20と第2の二軸配向SiC層30との界面付近にはArが含まれていることが好ましく、第1の二軸配向SiC層20の欠陥密度は低い方が好ましい。
【0056】
そして更にまた、二軸配向SiC複合基板10は、その二軸配向SiC複合基板10の第2の二軸配向SiC層30上に半導体デバイス用機能層を設けることにより、半導体デバイス用複合基板とすることもできる。半導体デバイス用機能層としては、例えばSiCエピタキシャル層が挙げられる。SiCエピタキシャル層は、第2の二軸配向SiC層30の表面(第1の二軸配向SiC層20と接する面とは反対側の面)にSiCを作製するための原料ガスを供給することにより、その表面に形成される。半導体デバイス用複合基板としては、例えば、MOSFET、IGBT、LED、HEMT等が挙げられる。
【0057】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0058】
例えば、上述した実施形態では、第1の二軸配向SiC層20上に第2の二軸配向SiC層30を1層のみ設けたが、2層以上設けてもよい。具体的には、二軸配向SiC複合基板10の第2の二軸配向SiC層30に配向前駆体層40を積層し、熱処理、アニール及び研削をこの順に行うことにより、第2の二軸配向SiC層30の上に2層目の第2の二軸配向SiC層30を設けることができる。
【実施例
【0059】
以下に、本発明の実施例について説明する。以下の実験例1~4が本発明の実施例に相当する。なお、以下の実施例は本発明を何ら限定するものではない。
【0060】
[実験例1]
1. SiC複合基板の作製
(1)配向前駆体層の作製
市販の微細β-SiC粉末(体積基準D50:0.7μm)を91.6重量%、酸化イットリウム粉末(体積基準D50:0.1μm)を7.1重量%、窒化アルミニウム粉末(体積基準D50:0.5μm)を1.3重量%含む原料粉体を、SiCボールを使用してエタノール中で24時間ボールミル混合し、乾燥することで混合粉末を得た。第1の二軸配向SiC層として市販のSiC単結晶基板(n型4H-SiC、直径50.8mm(2インチ)、Si面、(0001)面、オフ角4°、厚み0.35mm、オリフラなし)を用意し、図1に示すAD装置50によりSiC単結晶基板上に混合粉末を噴射してAD膜(配向前駆体層)を形成した。
【0061】
AD成膜条件は以下のとおりとした。まずキャリアガスはN2とし、長辺5mm×短辺0.4mmのスリットが形成されたセラミックス製のノズルを用いて成膜した。ノズルのスキャン条件は、0.5mm/sのスキャン速度で、スリットの長辺に対して垂直且つ進む方向に55mm移動、スリットの長辺方向に5mm移動、スリットの長辺に対して垂直且つ戻る方向に55mm移動、スリットの長辺方向且つ初期位置とは反対方向に5mm移動、とのスキャンを繰り返し、スリットの長辺方向に初期位置から55mm移動した時点で、それまでとは逆方向にスキャンを行い、初期位置まで戻るサイクルを1サイクルとし、これを1200サイクル繰り返した。このようにして形成したAD膜の厚みは約120μmであった。
【0062】
(2)配向前駆体層の熱処理
配向前駆体層であるAD膜を形成したSiC単結晶基板をAD装置から取り出し、N2雰囲気中で1950℃にて6時間アニールし、その後アルゴン雰囲気中で2450℃にて5時間アニールした。すなわち、配向前駆体層を熱処理して熱処理層とした。
【0063】
(3)研削及び研磨
(3-1)研磨その1
得られた熱処理層の表面全域が裏面(SiC単結晶基板の底面)と平行となるように、ダイヤモンド砥粒を用いて研磨加工した後、化学機械研磨(CMP)仕上げをして複合基板を得た。
【0064】
(3-2)研磨その2
(1)、(2)と同様の方法で別途作製した試料を準備し、板面と直交する方向で基板の中心部を通るように切断した。切断した試料に対してダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工にて断面を平滑化し、化学機械研磨(CMP)により鏡面仕上げとした。
【0065】
2.熱処理層の評価
(1)二軸配向性
EBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)法を用いて、(3-1)及び(3-2)にて作製した熱処理層の表面(板面)及び板面と直交する断面の逆極点図マッピングを測定したところ、傾斜角度分布は略法線方向・略板面方向ともに0.01°以下だったため、熱処理層は第1の二軸配向SiC層であるSiC単結晶基板上に形成され、c軸とa軸に配向した第2の二軸配向SiC層であると判断した。
[EBSD測定条件]
・加速電圧:15kv
・スポット強度:70
・ワーキングディスタンス:22.5mm
・ステップサイズ:0.5μm
・試料傾斜角:70°
・測定プログラム:Aztec(version 3.3)
【0066】
(2)二軸配向SiC層内のY、Al、Nの含有量
1.(1)~(3)(3-1)と同様の方法にて作製した複合基板の研磨面に対してダイナミック二次イオン質量分析(D-SIMS)を行った。Y、Alの分析装置はCAMECA社製IMF-6fを用い、一次イオン種O2 +、加速電圧8kvにて測定を実施した。Nの分析装置はCAMECA 社製IMF-7fを用い、一次イオン種Cs+、加速電圧14.5kvにて測定を実施し、第2の二軸配向SiC層中のY、Al、Nの含有量(最大値)を求めた。また、Al/Y濃度比やN/Y濃度比、N/Al濃度比も求めた。得られた結果を表1に記載した。
【0067】
(3)第2の二軸配向SiC層の欠陥密度
1.(1)~(3)(3-1)と同様の方法にて作製した複合基板の研磨面に対し、表面の欠陥密度を以下の方法で評価した。ニッケル製のるつぼに、複合基板をKOH結晶と共に入れ、500℃で10分間、電気炉にてエッチング処理を行った。エッチング処理後の評価サンプルを洗浄し、光学顕微鏡にて観察し、公知の方法にてBPD、TSDを示すピットの数を数えた。具体的には、評価サンプル表面の任意の箇所の部位について、縦2.3mm×横3.6mmの視野を倍率50倍で100枚分撮影してピットの総数を数え、数えたピットの総数をトータル面積である8.05cm2で除することにより欠陥密度を算出した。また第1の二軸配向層として使用したSiC単結晶基板の欠陥密度も同様の方法で算出した。結果は表1に示される通りであった。
【0068】
[実験例2]
β-SiC粉末を89.1重量%、酸化イットリウム粉末を7.1重量%、酸化アルミニウム粉末を3.8重量%含む原料粉体を用いたこと、及びN2雰囲気中での1950℃アニールを実施しなかったこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は第2の二軸配向SiC層であることが確認された。第2の二軸配向SiC層中のY、Alの濃度、Al/Y濃度比、二軸配向SiC層表面の欠陥密度は表1の通りとなった。
【0069】
[実験例3]
β-SiC粉末を92.9重量%、酸化イットリウム粉末を7.1重量%含む原料粉体を用いたこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は第2の二軸配向SiC層であることが確認された。第2の二軸配向SiC層中のY、Nの濃度、N/Y濃度比、二軸配向SiC層表面の欠陥密度は表1の通りとなった。
【0070】
[実験例4]
β-SiC粉末を88.16重量%、酸化サマリウム粉末(体積基準D50:0.1μm)を10.6重量%、窒化アルミニウム粉末を1.3重量%含む原料粉体を用いたこと以外は、実験例1と同様にして実験を実施した。得られた熱処理層は第2の二軸配向SiC層であることが確認された。第2の二軸配向SiC層中のSm、Al、Nの濃度、Al/Sm濃度比、N/Sm濃度比、N/Al濃度比、第2の二軸配向SiC層表面の欠陥密度は表1の通りとなった。
【0071】
【表1】
【0072】
[考察]
実験例1~4より、第2の二軸配向SiC層の表面のTSD及びBPDの欠陥密度を効果的に減少させるためには、第2の二軸配向SiC層中のイットリウムやサマリウム等の希土類元素濃度は1×1016~1×1019atoms/cm3の範囲が好適であることが分かった。また、この濃度範囲の希土類元素に加え、アルミニウムを適量含有していると、より欠陥密度の低減効果が高められ、更に窒素を適量で含有していると、より一層効果的であることが分かった。
【0073】
本出願は、2020年1月24日に出願された日本国特許出願第2020-009649号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、例えば半導体デバイスに利用可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 二軸配向SiC複合基板、20 第1の二軸配向SiC層、30 第2の二軸配向SiC層、40 配向前駆体層、50 AD装置、52 エアロゾル生成部、53 エアロゾル生成室、54 原料供給管、55 加振器、60 成膜部、62 成膜チャンバ、63 X-Yステージ、64 基板ホルダ、66 噴射ノズル、67 スリット、68 真空ポンプ。
図1
図2
図3