(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】シリカ粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/18 20060101AFI20250204BHJP
【FI】
C01B33/18 D
(21)【出願番号】P 2023510836
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2022010943
(87)【国際公開番号】W WO2022209768
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-07-25
(31)【優先権主張番号】P 2021061689
(32)【優先日】2021-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】塩月 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】南川 孝明
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 孝治
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-050132(JP,A)
【文献】国際公開第2007/049811(WO,A1)
【文献】特開2001-261352(JP,A)
【文献】特開平06-040713(JP,A)
【文献】特開2015-036357(JP,A)
【文献】特開2007-070159(JP,A)
【文献】特開平08-290911(JP,A)
【文献】特開2004-131378(JP,A)
【文献】特開平9-255346(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/18
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融球状シリカ粉末10g中の金属シリコン粒子の数が30個以下であり、
誘電正接が0.004以下である
溶融球状シリカ粉末。
【請求項2】
塩素の含有率が0.05質量%以下である請求項1に記載の
溶融球状シリカ粉末。
【請求項3】
平均粒子径が0.5~10μmである請求項1又は2に記載の
溶融球状シリカ粉末。
【請求項4】
比表面積が1~8m
2/gである請求項1~3のいずれか1項に記載の
溶融球状シリカ粉末。
【請求項5】
塩素存在下で
溶融球状シリカ粉末を加熱する加熱工程を含むシリカ粉末の製造方法。
【請求項6】
前記加熱工程で加熱した前記
溶融球状シリカ粉末を不活性ガス雰囲気下で冷却する冷却工程をさらに含む請求項5に記載のシリカ粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂と混合して使用するシリカ粉末及びそのシリカ粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
5G(第5世代移動通信システム)では、データ通信が大容量及び高速となるため、5Gで使用される材料は、信号伝播を高速化できるとともに、信号の伝送損失を低減できるものであることが好ましい。5Gで使用される材料として、例えば、シリカ粉末及び樹脂を含む複合材料が挙げられる。シリカ粉末は誘電率及び誘電正接が低いので、シリカ粉末及び樹脂を含む複合材料は、信号伝播を高速化できるとともに信号の伝送損失を小さくできる可能性がある。しかし、シリカ粉末が着磁性異物を含むと、シリカ粉末の誘電正接が大きくなる。このため、着磁性異物の含有量が低いシリカ粉末が望まれている。着磁性異物の含有量が低いシリカ粉末として、例えば特許文献1に記載されているシリカ粉末が従来技術として知られている。特許文献1に記載のシリカ粉末では、特定の方法で測定した45μm以上の着磁性粒子の個数が0個である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2019/146454号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、シリカ粉末から着磁性異物を除去してもシリカ粉末に金属シリコンが残存する場合がある。金属シリコンは、着磁性を有さないので、着磁性異物に比べてシリカ粉末からの除去が難しい。シリカ粉末中に金属シリコンが存在すると、配線のショート不良が発生する可能性がある。このため、金属シリコンの含有量が低いシリカ粉末が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を進めたところ、塩素存在下でシリカ粉末を加熱することによって、シリカ粉末から金属シリコンを除去できることを見出した。
本発明は、上記の知見に基づくものであり、以下を要旨とする。
[1]シリカ粉末10g中の金属シリコン粒子の数が30個以下であり、誘電正接が0.004以下であるシリカ粉末。
[2]塩素の含有率が0.05質量%以下である上記[1]に記載のシリカ粉末。
[3]均粒子径が0.5~10μmである上記[1]又は[2]に記載のシリカ粉末。
[4]比表面積が1~8m2/gである上記[1]~[3]のいずれか1つに記載のシリカ粉末。
[5]塩素存在下でシリカ粉末を加熱する加熱工程を含むシリカ粉末の製造方法。
[6]前記加熱工程で加熱した前記シリカ粉末を不活性ガス雰囲気下で冷却する冷却工程をさらに含む上記[5]に記載のシリカ粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、誘電正接及び金属シリコンの含有量が低いシリカ粉末及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明のシリカ粉末を説明する。本発明のシリカ粉末は、シリカ粉末10g中の金属シリコン粒子の数が30個以下であり、誘電正接が0.004以下である。
【0008】
(シリカ粉末10g中の金属シリコン粒子の数)
シリカ粉末原料として金属シリコン粒子を使用した場合、シリカ粉末中に金属シリコン粒子が残存する場合がある。この場合、本発明のシリカ粉末10g中の金属シリコン粒子の数は、30個/10g以下である。シリカ粉末10g中の金属シリコン粒子の数が30個/10gよりも大きいと、シリカ粉末を半導体封止材に使用した場合、リード間のショート不良が発生する場合がある。このような観点から、本発明のシリカ粉末10g中の金属シリコン粒子の数は、より好ましくは5個/10g以下であり、さらに好ましくは2個/10g以下である。シリカ粉末10g中の金属シリコン粒子の数は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。なお、シリカ粉末10g中の金属シリコン粒子の数は、塩素存在下でシリカ粉末を加熱することにより、容易に30個/10g以下、さらに2個/10g以下にすることができる。本発明のシリカ粉末10g中の金属シリコン粒子の数の範囲の下限値は、特に限定されないが、0個/10gであってよく、1個/10gであってよい。
【0009】
(誘電正接)
本発明のシリカ粉末の誘電正接は0.004以下である。シリカ粉末の誘電正接が0.004よりも大きいと、シリカ粉末を含む材料が移動通信システムに使用された場合、伝送損失を十分に低減できない場合がある。このような観点から、シリカ粉末の誘電正接は、好ましくは0.003以下であり、より好ましくは0.001以下である。シリカ粉末の誘電正接は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。なお、本発明のシリカ粉末の誘電正接は0.00005以上であってよく、0.0001以上であってよい。
【0010】
(塩素含有率)
本発明のシリカ粉末における塩素の含有率は、好ましくは0.06質量%以下である。0.05質量%以下、0.04質量%以下であってよい。シリカ粉末における塩素の含有率が0.05質量%以下であると、シリカ粉末中の塩素に起因する腐食の発生を抑制することができる。シリカ粉末における塩素の含有率は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。なお、塩素存在下で加熱したシリカ粉末を不活性ガス雰囲気下で冷却することにより、シリカ粉末における塩素の含有率を0.05質量%以下にすることがさらに容易になる。なお、シリカ粉末における塩素の含有率は、生産性の観点から50質量ppm以上であってよい。
【0011】
(平均粒子径)
本発明のシリカ粉末の平均粒子径は、好ましくは0.5~10μmである。シリカ粉末の平均粒子径が0.5μm以上であると、塩素処理の工程で生じる粒子の合着を抑制でき、シリカ粉末の樹脂に対するなじみがさらに良好になる。シリカ粉末の平均粒子径が10μm以下であると、樹脂中のシリカ粉末の充填性をさらに高くすることができる。このような観点から、本発明のシリカ粉末の平均粒子径は、より好ましくは0.7~8μmであり、さらに好ましくは0.8~5μmである。シリカ粉末の平均粒子径は、レーザー回折散乱法により測定された粒度分布のメジアン径である。
【0012】
(比表面積)
本発明のシリカ粉末の比表面積は、好ましくは1~8m2/gである。シリカ粉末の比表面積が1m2/g以上であると、樹脂中のシリカ粉末の充填性をさらに高めることができる。シリカ粉末の比表面積が8m2/g以下であると、シリカ粒子同士が合着することを抑制でき、シリカ粉末の樹脂に対するなじみがさらに良好になる。このような観点から、本発明のシリカ粉末の比表面積は、より好ましくは2~7m2/gであり、さらに好ましくは3~6m2/gである。シリカ粉末の比表面積は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0013】
(本発明のシリカ粉末の製造方法)
以下、本発明のシリカ粉末の製造方法の一例を示す。なお、本発明のシリカ粉末を製造できれば、本発明のシリカ粉末の製造方法は、以下に示す製造方法に限定されない。
本発明のシリカ粉末の製造方法は、例えば、シリカ粉末を用意する工程(A)及びシリカ粉末を昇温し、塩素存在下で加熱保持し、冷却する工程(B)を含む。
【0014】
(工程(A))
工程(A)ではシリカ粉末を用意する。例えば、市販のシリカ粉末を用いて、シリカ粉末を用意してもよい。また、シリカ粉末を製造してシリカ粉末を用意してもよい。さらに、市販のシリカ粉末の製造の途中で取り出したシリカ粉末を用いて、シリカ粉末を用意してもよい。
【0015】
工程(A)で用意するシリカ粉末の平均粒子径は、好ましくは0.5~10μmである。シリカ粉末の平均粒子径が0.5μm以上であると、塩素存在下でシリカ粉末を加熱するとき、シリカ粒子同士が合着することを抑制できる。シリカ粉末の平均粒子径が10μm以下であると、シリカ粉末の樹脂に対するなじみがさらに良好になる。このような観点から、工程(A)で用意するシリカ粉末の平均粒子径は、より好ましくは0.7~8μmであり、さらに好ましくは0.8~5μmである。シリカ粉末の平均粒子径は、レーザー回折散乱法により測定された粒度分布のメジアン径である。
【0016】
(比表面積)
工程(A)で用意するシリカ粉末の比表面積は、好ましくは1~8m2/gである。シリカ粉末の比表面積が1m2/g以上であると、シリカ粉末の樹脂に対するなじみがさらに良好になる。シリカ粉末の比表面積が8m2/g以下であると、塩素存在下でシリカ粉末を加熱するとき、シリカ粒子同士が合着することを抑制できる。このような観点から、工程(A)で用意するシリカ粉末の比表面積は、より好ましくは2~7m2/gであり、さらに好ましくは3~6m2/gである。シリカ粉末の比表面積は、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0017】
工程(A)で用意するシリカ粉末は、例えば、以下のようにして製造することができる。
工程(A)で用意するシリカ粉末の製造方法は、例えば、シリカ粉末原料を用意する工程(a)、シリカ粉末原料を溶融し球状化して未分級溶融球状シリカ粉末を作製する工程(b)、未分級溶融球状シリカ粉末を分級して粒度別の溶融球状シリカ粉末を作製する工程(c)、及び粒度別の溶融球状シリカ粉末をブレンドして溶融球状シリカ粉末のブレンド品を作製する工程(d)を含む。
【0018】
(工程(a))
工程(a)では、シリカ粉末原料を用意する。シリカ粉末原料には、例えば、高純度天然珪石を粉砕することによって得られる珪石粉、珪酸アルカリと鉱酸との湿式反応により合成されたシリカゲル、アルコキシシランからゾルゲル法で得られたゲルの粉砕物、金属シリコン粒子などが挙げられる。これらのシリカ粉末原料の中で、製造コストや原料粉末の粒度調整の容易さから、高純度天然珪石の珪石粉及び金属シリコン粒子が好ましい。
【0019】
シリカ粉末原料となる珪石粉は、例えば、以下のようにして製造される。珪石を水洗後、振動ミル、ボールミル等の粉砕機を使用して粉砕して珪石粉を作製する。そして、振動ふるいや分級機を使用して、作製した珪石粉の粒度分布が調整される。
【0020】
(工程(b))
工程(b)では、シリカ粉末原料を溶融し球状化して未分級溶融球状シリカ粉末を作製する。例えば、シリカ粉末原料を火炎中に噴射する。その結果、シリカ粉末原料は、溶融し、それと同時に、表面張力により球状化する。火炎を通過したシリカ粉末原料の液滴は急冷され、非晶質の球状シリカである未分級溶融球状シリカ粉末となる。火炎を形成するための燃料ガスとしては、例えばプロパン、ブタン、プロピレン、アセチレン、水素等が使用され、また助燃ガスとしては、例えば空気、酸素等が使用される。
【0021】
(工程(c))
工程(c)では、未分級溶融球状シリカ粉末を分級して粒度別の溶融球状シリカ粉末を作製する。例えば、シリカ粉末原料が火炎を通過して得られた未分級溶融球状シリカ粉末を捕集するとき、粒子サイズごとに分級してから捕集する。粗粒は、重力沈降室、サイクロンなどを使用して捕集されてもよく、細粒は、バグフィルタ、電気集塵機などを使用して捕集されてもよい。分級された溶融球状シリカ粉末は、その後、気流式分級機、振動ふるい、円筒ふるいなどの分級機を使用して、さらに粒子サイズごとに分級されてもよい。
【0022】
(工程(d))
工程(d)では、粒度別の溶融球状シリカ粉末をブレンドして溶融球状シリカ粉末のブレンド品を作製する。例えば、粒度別の溶融球状シリカ粉末が組み合わさって最密充填するような割合で粒度別の溶融球状シリカ粉末が配合される。そして、配合された溶融球状シリカ粉末は、V型ブレンダー、ダブルコーンブレンダー、エアーブレンダーなどの混合機を使用して混合される。これにより、充填性のよい溶融球状シリカ粉末のブレンド品が製造される。このブレンド品を工程(A)で用意するシリカ粉末として使用できる。
【0023】
(工程(B))
工程(B)は、シリカ粉末を昇温し、塩素存在下で加熱保持し、冷却する工程である。
昇温速度は1~10℃/min、昇温の際の雰囲気は不活性雰囲気とすることが好ましい。
昇温後の加熱保持では、塩素存在下でシリカ粉末を加熱する。これにより、シリカ粉末中の金属シリコン粒子は塩素と反応して四塩化ケイ素となる。加熱により四塩化ケイ素は昇華するので、シリコン粉末から金属シリコン粒子が除去される。これにより、シリカ粉末10g中の金属シリコン粒子の数を、容易に30個/10g以下、さらに2個/10g以下とすることができる。なお、シリカ粉末原料として金属シリコン粒子を使用した場合、シリカ粉末中に金属シリコン粒子が残存するおそれがある。
【0024】
シリカ粉末中の金属シリコンの除去の観点及びシリカ粒子同士の合着抑制の観点から、昇温後の加熱保持における加熱温度は、好ましくは800~1200℃であり、より好ましくは800~1050℃であり、さらに好ましくは800~1000℃である。また、シリカ粉末中の金属シリコンをより完全に除去する観点及び工程(B)の効率の観点から、工程(B)における加熱時間は、好ましくは30分~10時間であり、より好ましくは70分~4時間であり、さらに好ましくは90分~2時間である。金属シリコンを塩素化することにより生成した四塩化ケイ素を昇華させるという観点及び雰囲気中の塩素量の観点から、真空ポンプ等で雰囲気ガスを吸引できる真空雰囲気での塩素処理が望ましい。しかしながら、生産性及びコストの観点から常圧雰囲気で熱処理することが望ましい。
塩素は腐食性を有するので、窒素、アルゴン、乾燥空気などの不活性ガスと混合して塩素を供給することが好ましい。シリカ粉末から金属シリコンを除去するという観点及び塩素の腐食性の観点から、シリカ粉末の周囲の雰囲気中の塩素の含有率は、好ましくは5~35体積%であり、より好ましくは10~25体積%である。なお、乾燥空気とは、水分量3500質量ppm以下の空気である。塩素ガスの流量は50~200L/hrが好ましい。
【0025】
加熱保持後の冷却は、昇温時と同様の不活性ガス雰囲気で、降温速度1~10℃/minが好ましい。塩素存在下で降温すると粉末表面に塩素が付着し、塩素含有率が上がりすぎるという理由で好ましくない。
【0026】
(その他の工程)
本発明のシリカ粉末の製造方法は、シリカ粉末の凝集を抑制するために、工程(B)で加熱したシリカ粉末に対してシランカップリング剤による表面処理を行う工程をさらに含んでもよい。また、本発明のシリカ粉末の製造方法は、粗大粒子を精密に除去する分級処理を行う工程等をさらに含んでもよい。
【実施例】
【0027】
以下、本発明について、実施例及び比較例により、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例及び比較例のシリカ粉末について、以下の評価を行った。
【0029】
(誘電正接)
摂動方式空洞共振器測定システム(株式会社キーエンス製)を用いて、周波数1.0GHzにてシリカ粉末の誘電正接を測定した。
【0030】
(平均粒子径)
レーザー式粒度分布測定機(商品名「MT-3300EX」、日機装株式会社製)を使用して、シリカ粉末の粒度分布の頻度の累積が50%となる粒子径(d50)を平均粒子径として測定した。
【0031】
(比表面積)
比表面積測定機(商品名「Macsorb HM model-1208」、MACSORB社製)を使用して、BET法により、シリカ粉末の比表面積を測定した。
【0032】
(塩素の含有率)
自動試料燃焼装置(商品名「AQF-2100H型」、日東精工アナリテック株式会社製)を用いて1gのシリカ粉末を加熱し、発生したガスを水に溶解させた。イオンクロマトグラフ(商品名「ICS-2100」、サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製)を用いて、JIS R 1603:2007に準じて水中に溶解した塩素の濃度を測定した。この測定値に基づいて、シリカ粉末に含まれる塩素の含有率を算出した。
【0033】
(シリカ粉末10g中の金属シリコン粒子の数)
シリカ粉末10gを50mL遠心分離管に入れた後、イオン交換水40mLを遠心分離管に入れた。シリカ粉末及びイオン交換水を入れた遠心分離管を、水を入れたポリ容器に入れた。なお、ポリ容器の内径は150mmであり、ポリ容器中の水の水位は、遠心分離管中の水位と同じとした。遠心分離管を入れたポリ容器をホモジナイザーにセットした後、700Wの出力で、遠心分離管中のシリカ粉末及びイオン交換水を2分間攪拌して、シリカ粉末及びイオン交換水のスラリーを作製した。深さ0.2mmの樹脂トレイの中に、得られたスラリーを流し込んだ。磁力12000ガウスの棒磁石を使用して、トレイに流し込んだスラリー中の着磁性異物を回収した。着磁性異物を回収したスラリーを遠心分離管に戻した後、遠心分離管を、水を入れたポリ容器に入れ、ホモジナイザーを使用して、700Wの出力で2分間攪拌した。攪拌したスラリーを深さ0.2mmの樹脂トレイの中に流し込んだ。磁力12000ガウスの棒磁石を使用して、スラリー中の着磁性異物を回収した。このようなスラリーの攪拌及びスラリー中の着磁性異物の回収の作業を10回繰り返した。着磁性異物を回収した後のスラリーを吸引ろ過(商品名「JAWP04700」、Millopore社製、孔径:1μm)を使用したろ過した。光学顕微鏡を使用して、100倍の倍率で、フィルター上の全エリアを観察し、黒色粒子の数を数えた。なお、着磁性異物はスラリーから回収されているので、黒色粒子は金属シリコン粒子のみということになる。
【0034】
以下のシリカ粉末を作製した。
(シリカ粉末A)
市販のシリカ粉末(平均粒子径:0.8μm、比表面積:6.2m2/g、塩素の含有率:0.4質量ppm)100gをムライト容器に充填した。シリカ粉末を充填したムライト容器を、アルミナの管状炉にセットした。そして、炉内の酸素濃度が0.0%になるまで炉内の雰囲気をアルゴンガスで置換した。5℃/分の昇温速度で1000℃の加熱温度まで昇温した。塩素ガスの濃度が20体積%である、塩素ガス及びアルゴンガスの混合ガスを500L/時間の流量で供給しながら、1000℃の加熱温度でムライト容器を120分間加熱した。その後、供給するガスをアルゴンガスのみとして、塩素ガス及びアルゴンガスの混合ガスの雰囲気から、アルゴンガスのみの雰囲気に置換した。そして、アルゴンガスのみの雰囲気に置換しながら、2℃/分の降温速度で、室温までムライト容器を冷却し、シリカ粉末Aを得た。アルゴンガスのみの雰囲気に置換した雰囲気中の塩素の含有率は、最終的には0.1質量ppm以下となった。
【0035】
(シリカ粉末B)
加熱温度を1000℃から820℃に変更した以外は、シリカ粉末Aと同様な方法でシリカ粉末Bを作成した。
【0036】
(シリカ粉末C)
加熱温度を1000℃から900℃に変更した以外は、シリカ粉末Aと同様な方法でシリカ粉末Cを作成した。
【0037】
(シリカ粉末D)
塩素ガスの濃度を20体積%から10体積%に変更した以外は、シリカ粉末Aと同様な方法でシリカ粉末Dを作成した。
【0038】
(シリカ粉末E)
塩素ガスを供給しなかった以外は、シリカ粉末Aと同様な方法でシリカ粉末Eを作成した。
【0039】
【0040】
実施例の結果から、塩素存在下でシリカ粉末を加熱する加熱工程を含むシリカ粉末の製造方法により、シリカ粉末10g中の金属シリコン粒子の数が30個以下であり、誘電正接が0.004以下であるシリカ粉末を製造できることがわかった。また、比較例であるシリカ粉末Eの誘電正接は低かった。これは、シリカ粉末E中の着磁性不純物の含有量が低いためであると考えられる。しかし、シリカ粉末E10g中の金属シリコン粒子の数は高かった。このことから、シリカ粉末から着磁性異物を除去することは容易であるが、金属シリコンを除去することは難しいことがわかる。