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特許7629118芳香族化合物、パラフィンおよびエーテルに富む燃料組成物および該組成物の自動車への使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】芳香族化合物、パラフィンおよびエーテルに富む燃料組成物および該組成物の自動車への使用
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/02 20060101AFI20250204BHJP
【FI】
C10L1/02
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2023581002
(86)(22)【出願日】2022-07-01
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 FR2022051318
(87)【国際公開番号】W WO2022208038
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】2107178
(32)【優先日】2021-07-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】522178393
【氏名又は名称】トタルエナジーズ・ワンテック
【氏名又は名称原語表記】TOTALENERGIES ONETECH
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(74)【代理人】
【識別番号】100204582
【弁理士】
【氏名又は名称】大栗 由美
(72)【発明者】
【氏名】サーヴ,リサ
(72)【発明者】
【氏名】ドロルム,ジェラルディン
(72)【発明者】
【氏名】ピカール,フローラン
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-285204(JP,A)
【文献】特開平6-128570(JP,A)
【文献】国際公開第2019/206829(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0007489(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00- 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)
a)芳香族化合物35~55質量%;
b)少なくとも5個の炭素原子を含有する非環式パラフィン30~50質量%;および
c)ナフテン5~15質量%
を含む炭化水素混合物50~79質量%、
(ii)1種または複数種のエーテル20~40質量%;ならびに
(iii)ブタン1~10質量%
を含む、燃料組成物。
【請求項2】
前記炭化水素混合物(i)が、前記燃料組成物の総質量に対して55~75質量%、好ましくは60~70質量%を占めることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記芳香族化合物(i)a)が、7~12個の炭素原子を含むアルキルベンゼン、好ましくは7~10個の炭素原子を含むアルキル-ベンゼン混合物から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
芳香族化合物(i)a)の割合が、前記炭化水素混合物(i)の質量に対して40~53質量%、好ましくは45~52質量%の範囲であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記非環式パラフィン(i)b)が、5~12個の炭素原子、好ましくは5~9個の炭素原子、およびより優先的には5~8個の炭素原子を含むパラフィンから選択されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記炭化水素混合物(i)が、n-パラフィン5~10質量%およびイソパラフィン20~45質量%を含有することを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
パラフィン(i)b)の割合が、前記炭化水素混合物(i)の質量に対して32~45質量%、好ましくは35~42質量%の範囲であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ナフテン(i)c)が、5~10個の炭素原子、およびより優先的には6~9個の炭素原子を含有する環式アルカンから選択されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
ナフテン(i)c)の割合が、前記炭化水素混合物(i)の質量に対して7~13質量%、好ましくは8~12質量%の範囲であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記1種または複数種のエーテルが、式R-O-R’(式中、RおよびR’は、同一または異なるC1~C5アルキル基を表す)の化合物から選択されることを特徴とする、請求項1から9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記1種または複数種のエーテルが、式R-O-R’(式中、RはC1またはC2アルキル基を表し、R’はC3、C4またはC5アルキル基を表す)の化合物から選択されることを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記1種または複数種のエーテルが、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、エチルtert-ブチルエーテル(ETBE)、tert-アミルメチルエーテル(TAME)、tert-アミルエチルエーテル(TAEE)、およびこれらの化合物の混合物から選択され、好ましくは前記エーテルがエチルtert-ブチルエーテル(ETBE)であることを特徴とする、請求項1から11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
エーテル総含有量が、前記燃料組成物の総質量に対して22~35質量%、好ましくは25~35質量%の範囲であることを特徴とする、請求項1から12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
ブタン含有量が、前記燃料組成物の総質量に対して1.5~8質量%、好ましくは2~6質量%の範囲であることを特徴とする、請求項1から13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
オレフィンを2.5質量%以下、好ましくはオレフィンを2質量%以下、より優先的にはオレフィンを1質量%以下、さらに優先的にはオレフィンを0.5質量%以下含むことを特徴とする、請求項1から14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
好ましくはC1~C6アルコールから、より優先的にはC1~C4アルコールから、さらに優先的にはエタノールまたはメタノールから選択される、1種または複数種のアルコールをさらに含有することを特徴とする、請求項1から15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記1種または複数種のアルコールが、1~10質量%、好ましくは2~8質量%の範囲の割合で存在することを特徴とする、請求項1から16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記炭化水素混合物(i)が、植物原料、好ましくは第2世代の植物材料に由来することを特徴とする、請求項1から17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
1種または複数種の生物由来のベースを少なくとも50質量%、好ましくは1種または複数種の生物由来のベースを少なくとも60質量%、より優先的には少なくとも65質量%、さらに好ましくは少なくとも70質量%含有し、前記生物由来の1種または複数種のベースが好ましくは植物由来であることを特徴とする、請求項1から18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
洗浄添加剤、潤滑性添加剤、バルブリセッション防止添加剤、酸化防止剤、オクタン価向上添加剤、およびかかる添加剤の混合物から有利に選択される、少なくとも1種の添加剤をさらに含むことを特徴とする、請求項1から19のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
制御点火エンジン、好ましくは自然吸気またはターボ圧縮制御点火エンジン、またはハイブリッドエンジン、より優先的には自動車競技用車両に使用されるエンジンに供給するための、請求項1から20のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【請求項22】
欧州議会および理事会の指令(EU)2018/2001に従って決定される温室効果ガス排出量を削減するための、請求項1から20のいずれか一項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の目的は、制御点火エンジン(またはガソリンエンジン)を含む車両用の燃料組成物であって、有利な特性を有する、燃料組成物である。
【0002】
本発明の別の目的は、従来の車両、特に自動車および競技用車両の両方の制御点火エンジンに供給するための、そのような組成物の使用である。
【背景技術】
【0003】
制御点火エンジン、特に自動車の制御点火エンジンに使用することができるガソリンタイプの燃料は、ノッキング現象を回避するために十分に高いオクタン価を有する必要がある。
【0004】
それ自体よく知られた方法で、オクタン価により、制御点火エンジンで使用される燃料の自己着火に対する耐性が測定される。
【0005】
通常、欧州で販売されているガソリン燃料は、EN228に準拠し、モーターオクタン価(MON)が85超、リサーチオクタン価(RON)が95以上である。これらの燃料は、大半の自動車エンジンに適している。
【0006】
効率を高めるために、最近の制御点火エンジンは、ますます高い体積圧縮比で作動する(すなわち、点火される前のエンジン内の混合気に適用される圧縮比が高い)傾向にある。
【0007】
しかし、エンジンの体積圧縮比を高くすると、火炎前面の上流でカーボンを含む混合気が局所的に自己着火することによって引き起こされるノッキングタイプの異常燃焼のリスクが高まる。この現象は特徴的なノイズを発生させ、エンジンを損傷させる可能性が高い。
【0008】
自動車競技用車両のエンジンのような非常に高出力のエンジンでは、高い体積圧縮比が特に求められる。
【0009】
したがってこのタイプのエンジンでは、ノッキングやプレイグニッションに対する耐性が高い燃料を使用することが必須であり、その結果、「リサーチ」オクタン価(RON)ができるだけ高い燃料が必要となる。オクタン価が不十分であると、燃料のノッキングや自己発火の現象が現れやすくなり、エンジンの性能を著しく低下させるだけでなく、エンジンに大きな損傷を与えることさえある。
【0010】
さらに、すべての車両、特に一般車両用途では、環境問題に対応し、化石資源の使用を制限するために、再生可能な起源のベース、特にいわゆる「生物由来の」ベースから配合された燃料を使用することがますます求められている。このように、現在の環境問題によって、消費者はより環境に優しい燃料を求めるように促されている。
【0011】
しかし、生物由来のベースを使用した燃料組成物の使用は、燃料の性能を損なうものであってはならず、特にオクタン価およびエンジンの出力は維持されるか、むしろ増大するものでなければならない。
【0012】
バイオ化合物を多く含むガソリン燃料で最もよく使用されているのは、E85燃料のような、バイオエタノールを含む燃料である。とはいえ、これらの燃料が使用されるのは、現在の自動車市場においてごく一部にすぎない。
【0013】
SP95タイプのガソリン燃料にバイオエタノールを混合することが公知である。その場合、特に含酸素化合物の配合に関してEN228の仕様に準拠するため、エタノールの含有量は最大で10体積%に制限される。
【0014】
したがって、一般車両用途(自家用自動車、大型トラック、オフロード車、すなわちノンロードなど)であろうと、競技用であろうと、現代の車両の要件を満たすことができる、制御点火エンジンに供給することを目的とした新しい燃料組成物を開発する必要がある。
【0015】
したがって、高オクタン価、特に高RONを有し、高い体積圧縮比で作動する自動車、特に競技用車両のエンジン出力を最大にすることが可能な、制御点火内燃機関用燃料が必要とされている。
【0016】
したがって、本発明の1つの目的は、ガソリン燃料組成物、特に、非限定的であるが、競技用車両用の燃料組成物の性能を向上させることである。その目的は、燃料のエネルギー含有量を増加させることであり、これにより、自然吸気型、ターボ圧縮(turbocompressed)、ハイブリッドであるか否かにかかわらず、エンジン内でのガソリン燃料組成物の燃焼中に、制御点火エンジンの出力が増加する。
【0017】
さらに、このような組成物を、生物由来の化合物とも呼ばれる再生可能な起源のベースおよび/または化合物から配合できるようにする必要性が高まっている。
【0018】
従来技術において周知であるように、オクタン価向上添加剤(またはオクタンブースター)は、通常、ガソリンタイプの燃料組成物に添加される。特に鉄、鉛、マンガンを含む有機金属化合物は、オクタン価向上剤として周知である。
【0019】
このように、テトラエチル鉛(TEL)は、オクタン価を非常に効果的に向上させる添加剤として広く使用されてきた。しかし、世界の大半の地域において、TELおよび他の有機金属化合物は、毒性がある可能性、エンジンに損傷を与える可能性があり、環境に有害であるため、現在はごく少量でなければ燃料に使用できないか、あるいは全く使用できない。
【0020】
金属をベースとしないオクタン価向上剤には、含酸素化合物(例えばエーテルやアルコール)および芳香族アミンが含まれる。しかし、これらのアミンにはさまざまな欠点がある。例えば、芳香族アミンであるN-メチルアニリン(NMA)は、燃料のオクタン価に大きな影響を与えるためには、比較的高い処理レベル(燃料ベースに対して添加剤1.5~2質量/質量%)で使用する必要がある。NMAには毒性がある可能性もある。
【0021】
例として、文献US-A-4812146には、ブタン、イソペンタン、トルエン、MTBE(メチルtert-ブチルエーテル)およびアルキレートから選択される少なくとも4種の成分を含む、競技用エンジン用の無鉛ガソリン燃料組成物が記載されている。
【0022】
文献WO2010/014501には、分岐パラフィン少なくとも45体積%、1種または複数種のモノ-およびジ-アルキル化ベンゼン34体積%以下、3~5個の炭素原子(C3~C5と表記)を有する少なくとも1種の直鎖状パラフィン5~6体積%、AKI(英語のAnti-Knock Indexから)、すなわち(RON+MON)/2を少なくとも93増加させるのに十分な量の、2~4個の炭素原子(C2~C4と表記)を有する1種または複数種のアルカノールを含む、無鉛ガソリン燃料組成物が記載されている。これらの組成物は、高いトルクと最大出力を有する組成物として提示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
このように、良好な固有の特性を有する、すなわち、上記のようなオクタン価向上添加剤の添加が必ずしも必須でない燃料組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本出願人は、ガソリンエンジン用燃料配合物の開発における研究を継続し、この度、上記の目的の達成を可能にする組成物を発見した。
【0025】
したがって、本発明の目的は、
(i)
a)芳香族化合物35~55質量%;
b)少なくとも5個の炭素原子を含有する非環式パラフィン30~50質量%;および
c)ナフテン5~15質量%
を含む炭化水素混合物50~79質量%、
(ii)1種または複数種のエーテル20~40質量%;ならびに
(iii)ブタン1~10質量%
を含む、燃料組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
これらの組成物は、制御点火エンジン(またはガソリンエンジン)へ供給することを目的としている。
【0027】
本発明による燃料組成物は、高いオクタン価RON(リサーチオクタン価)を有する。
【0028】
燃料の投入に上限がある用途、特に競技用車両の場合、本発明による組成物の使用により、一定の燃料投入で、エンジンの優れた出力レベルを達成することが可能になる。
【0029】
特に、上記で定義した化合物および特定の割合での組成物の配合は、オクタン価RON、正味発熱量NCVおよびエンジン出力の点で相乗的に性能を得ることが可能とすることを証明している。
【0030】
特に競技用車両での使用において、これらの特性が求められている。
【0031】
本発明による組成物はまた、競技用車両以外の用途、例えば、いわゆる一般車両用途、特に自家用車(またはPV)用にも大きな利点を有する。本組成物は、該当する場合、EN228の要件を満たすことができる。
【0032】
本組成物はまた、例えば窒素酸化物(NOx)のような不要な化合物の排出量が少ない。
【0033】
本発明による組成物は、有利には、全部または一部を、再生可能な起源、例えば植物由来のベースおよび/または化合物から調製することができる。特に、本発明による組成物は、1種または複数種の生物由来のベースを少なくとも50質量%、好ましくは1種または複数種の生物由来のベースを少なくとも60質量%、より優先的には少なくとも65質量%、さらに好ましくは少なくとも70質量%含有してもよい。
【0034】
したがって、再生可能な資源から生成されるエネルギーの使用の促進に関する2018年12月11日の欧州議会および理事会の指令(EU)2018/2001に従って決定される温室効果ガスの排出量を非常に大幅に削減することが可能になる。
【0035】
本発明の燃料組成物によって得られる温室効果ガス排出量の削減は、本指令で定義された基準となる化石燃料と比較して、少なくとも50%である。
【0036】
本発明の別の目的は、制御点火エンジンに供給するための、本発明による組成物の使用である。
【0037】
特定の実施形態によれば、本発明による組成物は、高効率および高出力の制御点火エンジン、好ましくは自動車競技用車両エンジンに供給するための燃料として使用される。
【0038】
本発明の他の目的、特徴、態様および利点は、以下の説明および実施例を読めば、さらに明らかになるであろう。
【0039】
以下において、特に断りのない限り、数値の範囲の境界値は、特に以下の表現においてこの範囲内に含まれる:「と…との間にある(lying between...and...)」、「…~…の範囲にある(lying in the range from...to...)」、「…~…の範囲である(ranging from...to...)」。
【0040】
さらに、本明細書で使用される「少なくとも1つ(at least one)」および「少なくとも(at least)」という表現は、それぞれ「1つまたは複数(one or more)」および「以上(greater than or equal to)」という表現と同等である。
【0041】
最後に、それ自体公知であるように、C化合物とは、その化学構造中にN個の炭素原子を含有する化合物を意味する。
【0042】
燃料組成物
本発明による組成物は、
a)芳香族化合物35~55質量%;
b)少なくとも5個の炭素原子を含有する非環式パラフィン30~50質量%;および
c)ナフテン5~15質量%を含有する炭化水素混合物(i)を含有する。
これらの含有量は、炭化水素混合物(i)の質量に対する質量で表される。
【0043】
このような炭化水素混合物は、燃料組成物の総質量に対して50~79質量%、好ましくは燃料組成物の総質量に対して55~75質量%、より優先的には60~70質量%を占める。
【0044】
1種または複数種の芳香族化合物(i)a)は、好ましくは、7~12個の炭素原子を含むアルキルベンゼンから選択される。アルキルベンゼンとは、それ自体公知であるように、1つまたは複数の水素原子が1つまたは複数のアルキル基で置換されたベンゼンの誘導体を意味する。
【0045】
1種または複数種の芳香族化合物は、特に、トルエン(メチルベンゼン)、エチルベンゼン、キシレン(特に、1,2-ジメチルベンゼンまたはオルト-キシレン、1,3-ジメチルベンゼンまたはメタ-キシレンおよび1,4-ジメチルベンゼンまたはパラ-キシレン)、1-エチル-3-メチルベンゼン、メシチレン(1,3,5-トリメチルベンゼン)、1-エチル-3,5-ジメチルベンゼンならびにこれらの化合物の混合物から選択することができる。
【0046】
芳香族化合物の混合物が特に好ましく、より詳細には、メチルベンゼン、エチルベンゼン、キシレン(特に1,2-ジメチルベンゼンまたはオルト-キシレン、1,3-ジメチルベンゼンまたはメタ-キシレンおよび1,4-ジメチルベンゼンまたはパラ-キシレン)、1-エチル-3-メチルベンゼン、メシチレン(1,3,5-トリメチルベンゼン)および1-エチル-3,5-ジメチルベンゼンのような、7~10個の炭素原子を含むアルキルベンゼンの混合物である。
【0047】
好ましくは、芳香族化合物(i)a)の割合は、炭化水素混合物(i)の質量に対して40~53質量%、好ましくは45~52質量%の範囲である。
【0048】
本発明による組成物は、少なくとも5個の炭素原子を含有する非環式パラフィン(i)b)をさらに含む。
【0049】
「パラフィン」とは、それ自体公知であるように、分岐アルカン(イソパラフィンまたはイソアルカンとも呼ばれる)および非分岐アルカン(n-パラフィンまたはn-アルカンとも呼ばれる)を意味する。
【0050】
パラフィンは、好ましくは5~12個の炭素原子、より優先的には5~9個の炭素原子、さらに好ましくは5~8個の炭素原子を含むものから選択される。
【0051】
パラフィンは、n-パラフィン(またはノルマルパラフィン、すなわち直鎖状アルカン)およびイソパラフィン(すなわち分岐アルカン)から選択することができる。
【0052】
上記のものから選択されるn-パラフィンとイソパラフィンとの混合物が特に好ましく、好ましくはイソパラフィンの割合がより大きく、n-パラフィンの量に対するイソパラフィンの量の質量比が3以上、好ましくは4以上、さらに好ましくは4~5の範囲にある。
【0053】
炭化水素混合物(i)は、有利には、パラフィン5~10質量%およびイソパラフィン20~45質量%を含有する。
【0054】
好ましくは、パラフィン(i)b)の割合は、炭化水素混合物(i)の質量に対して32~45質量%、より優先的には35~42質量%の範囲である。
【0055】
本発明による組成物は、さらにナフテン(i)c)を含有する。
【0056】
「ナフテン」とは、それ自体公知であるように、5~10個の炭素原子を含有する環式アルカン(またはシクロアルカン)を意味する。好ましくは、ナフテンは、5~10個の炭素原子、より優先的には6~9個の炭素原子を含有する環式アルカンから選択される。
【0057】
好ましくは、ナフテン(i)c)の割合は、炭化水素混合物(i)の質量に対して7~13質量%、より優先的には8~12質量%の範囲である。
【0058】
好ましい実施形態によれば、炭化水素混合物(i)は植物原料に由来する。したがって、混合物(i)は、有利には、完全に生物由来の炭化水素からなる。元の植物原料は、例えば、穀類(例えば、小麦、トウモロコシ)、ナタネ、ヒマワリ、大豆、パーム油、サトウキビ、ビートルート、木屑、わら、バガス、ブドウ搾りかす、廃植物性食用油、藻類、およびリグノセルロース系材料から選択することができる。炭水化物を含有する植物原料、例えば穀類、サトウキビ、ビートルート、木屑、わら、バガス、ブドウ搾りかす、木材産業由来であり得るリグノセルロース系材料が特に好ましい。
【0059】
好ましくは、いわゆる第2世代(2G)または先進的な植物材料、特に食糧資源と競合しない植物材料が使用される。
【0060】
炭化水素混合物(i)は、好ましくは、植物材料を、1~5個の炭素原子を含有するアルコール、好ましくはメタノールおよび/またはエタノールに変換することによって得られる。アルコールは、触媒の存在下で炭化水素に転化される。触媒により、アルコールを脱水し、次いで触媒的に炭化水素へと変換される反応中間体を生成することが可能になる。
【0061】
本発明による組成物は、少なくとも1種のエーテルも含有する。
【0062】
エーテルオキシドまたはアルコキシアルキルとも呼ばれるエーテルは、式R-O-R’(式中、RおよびR’は、同一または異なるアルキル基を表す)の化合物である。
【0063】
好ましい実施形態によれば、1種または複数種のエーテルは、式R-O-R’(式中、RおよびR’は、同一または異なるC1~C5アルキル基を表す)の化合物から選択される。
【0064】
好ましくは、RはC1またはC2アルキル基を表し、R’はC3、C4またはC5アルキル基を表す。
【0065】
特に好ましくは、1種または複数種の含酸素化合物(ii)は、メチルtert-ブチルエーテル(MTBE)、エチルtert-ブチルエーテル(ETBE)、tert-アミルメチルエーテル(TAME)、tert-アミルエチルエーテル(TAEE)、およびこれらの化合物の混合物から選択される。
【0066】
エチルtert-ブチルエーテル(ETBE)が特に好ましい。
【0067】
好ましい実施形態によれば、1種または複数種の植物由来のエーテル、すなわちバイオエーテルが使用される。このエーテルは、例えば再生可能アルコールと、再生可能な供給原料の熱分解もしくは接触分解、または水蒸気分解により得られるオレフィンとを使用することによって、再生可能な状態で得ることができる。
【0068】
バイオエーテルは、例えば、アルコールとオレフィン(一般に分岐オレフィン)との反応によって製造することができる。バイオエーテルは、例えば、再生可能な原料の変換(例えば発酵)により得られるアルコール、および再生可能な供給原料の分解(熱分解もしくは接触分解、または水蒸気分解)により得られるオレフィン、またはアルコールの脱水により、再生可能な原料(特に植物原料)から製造することができる。好ましくは、オレフィンは、植物由来のトリグリセリドの脱酸素化および異性化による再生可能ディーゼル燃料の製造で生じる副生成物であるバイオナフサの水蒸気分解によって製造される。
【0069】
本組成物のエーテル総含有量は、燃料組成物の総質量に対して20~40質量%、好ましくは22~35質量%、さらに好ましくは25~35質量%の範囲である。
【0070】
本発明による組成物は、n-ブタン(直鎖状ブタン)、イソブタン(2-メチルプロパン)およびこれら2つの化合物の混合物から選択することができるブタンも含有する。
【0071】
n-ブタンとイソブタンとの混合物を使用するのが好ましい。
【0072】
ブタンは再生可能な原料から得ることができる。ブタンは、例えば、植物由来のトリグリセリド、動物性脂肪または使用済み食用油の脱酸素化および異性化によって得られる再生可能ディーゼル燃料の製造中に、接触分解によって生成される軽質炭化水素の分取によって得られる。
【0073】
本組成物のブタン含有量は、燃料組成物の総質量に対して1~10質量%、好ましくは1.5~8質量%、さらに好ましくは2~6質量%の範囲である。
【0074】
好ましい実施形態によれば、本発明による組成物は、オレフィンを2.5質量%以下、好ましくはオレフィンを2質量%以下、より優先的にはオレフィンを1質量%以下、さらに優先的にはオレフィンを0.5質量%以下含む。
【0075】
上記のような組成物は、一般に、95以上、好ましくは99以上、より優先的には100以上のリサーチオクタン価(RON価)を有する。RONはASTM D2699-86に従って測定される。
【0076】
上記の値は、組成物の固有のオクタン価、すなわち、特にオクタンブースター添加剤のような補助化合物を添加しない場合のオクタン価に関する。
【0077】
本発明による組成物は、好ましくはC1~C6アルコール、より優先的にはC1~C4アルコールから選択される1種または複数種のアルコールを含有することもできる。
【0078】
特にメタノール、エタノール、イソプロパノールおよびヘキサノールについて言及することができる。メタノールおよびエタノールが特に好ましい。
【0079】
好ましい実施形態によれば、再生可能な原料由来のアルコール、特にバイオアルコールとも呼ばれる植物由来のアルコールが使用される。
【0080】
このようなアルコールは、本発明による組成物中に、1~10質量%、好ましくは2~8質量%の範囲の割合で存在してもよい。
【0081】
上記のベース化合物に加えて、本発明による燃料組成物は、ガソリン燃料に通常用いられるものから選択される1種または複数種の添加剤も含むことができる。
【0082】
特に、本発明による組成物は、エンジンの清浄性を確保する少なくとも1種の洗剤添加剤を含むことができる。このような添加剤は、例えば、任意にポリイソブチレン基で置換されたスクシンイミド、ポリエーテルアミン、ベタイン、マンニッヒ塩基および第4級アンモニウム塩、例えば、文献US4171959およびWO2006/135881に記載されているものからなる群から選択することができる。
【0083】
組成物はまた、(非限定的であるが)脂肪酸およびそのエステル誘導体またはアミド誘導体、特にグリセロールモノオレエート、ならびに単環式および多環式カルボン酸の誘導体からなる群から選択される、特に少なくとも1種の潤滑性添加剤または摩耗防止剤も含むことができる。このような添加剤の例は、以下の文献:EP680506、EP860494、WO98/04656、EP915944、FR2772783、FR2772784、に記載されている。
【0084】
本発明による燃料組成物には、他の添加剤、例えばバルブリセッション防止添加剤、酸化防止剤、オクタン価向上添加剤、特に酸素を含むまたは含まないアミン、好ましくは芳香族から選択されるオクタン価向上添加剤も配合することができる。
【0085】
上記の添加剤は、燃料組成物の総質量に対して、それぞれ10~5000質量ppm、好ましくは50~1000質量ppm、さらに好ましくは100~500質量ppmの範囲の量で燃料組成物に添加することができる。
【0086】
好ましい実施形態によれば、組成物は、洗浄添加剤、潤滑性添加剤、バルブリセッション防止添加剤、酸化防止剤、オクタン価向上添加剤、およびそのような添加剤の混合物から有利には選択される少なくとも1種の添加剤を含む。
【0087】
本発明による燃料組成物の鉛含有量は、一般に最大で5mg/L(例えばテトラエチル鉛の形で存在する)であり、好ましくは無鉛、すなわち該組成物が鉛または鉛含有化合物を含有しない。該組成物はまた、硫黄を含まない(最大含有量10重量ppm)。
【0088】
燃料組成物の調製
本発明による組成物は、成分の単純な混合によって調製することができる。
【0089】
非限定的な第1の実施形態は、以下の工程を含む。
1)芳香族化合物35~55質量%、少なくとも5個の炭素原子を含有する非環式パラフィン30~50質量%、およびナフテン5~15質量%を含む炭化水素混合物(i)を調製すること;次いで
2)前記混合物(i)50~79質量%を、1種または複数種のエーテル20~40質量%およびブタン1~10質量%と混合すること。
【0090】
非限定的な第2の実施形態は、以下の工程を含む。
1’)炭化水素混合物(i)とブタンとを含むベースBを調製すること;次いで
2’)最終組成物中のエーテル含有量が20~40質量%の範囲となるように、ベースBを1種または複数種のエーテルと混合すること;および
3’)任意に、最終混合物中のブタンの量が1~10質量%の範囲となるように、ブタンを添加すること。
【0091】
この第2の実施形態の好ましい変形例は、以下の工程を含む。
1’)炭化水素混合物(i)とブタンとを含むベースBを調製すること;次いで
2’)ベースB60~80質量%と、1種または複数種のエーテル20~40質量%とを混合すること;好ましくは、前記ベースB65~78質量%と、1種または複数種のエーテル22~35質量%とを混合すること。
【0092】
上記の第2の実施形態およびその好ましい変形例が好ましい。
【0093】
本実施形態において、ベースBは有利には生物由来のベースであり、すなわち有利には植物原料、好ましくは炭水化物を含有する植物原料、例えば穀類、サトウキビ、ビートルート、木屑、ベーカリー廃棄物、わら、バガス、ブドウ搾りかすおよびリグノセルロース系材料の発酵により得られるアルコールから得られる。
【0094】
このような植物原料を、公知の触媒変換法によってバイオ炭化水素に変換することができる。
【0095】
同様に、1種または複数種のエーテルは、好ましくはバイオエーテルである。
【0096】
このように、本発明による組成物は、完全に再生可能な起源の原料から調製することができる。
【0097】
用途
本発明の別の目的は、制御点火エンジンに供給するための、上記のような組成物の使用である。エンジンは、直接噴射式であっても、間接噴射式であってもよい。
【0098】
燃料組成物は、有利には、従来の自動車車両(いわゆる「一般車両」)のエンジンと、自動車競技用車両のエンジンのような高効率で高出力の制御点火エンジンの両方に供給するために使用することができる。特に、競技用車両(サーキットやラリー)に使用される自然吸気エンジンやターボ圧縮エンジン、あるいはハイブリッドエンジン、すなわち電気モーターと連結した熱機関の場合が考えられる。
【0099】
本発明の別の目的は、再生可能な資源から生成されるエネルギーの使用の促進に関する2018年12月11日の欧州議会および理事会の指令EU2018/2001に従って決定される温室効果ガス排出量を削減するための、上記のような組成物の使用である。
【0100】
本指令によると、温室効果ガス排出量の削減は、基準となる化石燃料に対して決定される。削減率の計算方法は、特に指令の附属書V、パートCに定義されている。
【0101】
本発明の燃料組成物によって得られる温室効果ガス排出量の削減は、指令に定義された基準となる化石燃料に対して少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、さらに好ましくは少なくとも65%である。
【0102】
以下の実施例は、単に本発明を説明することを目的とするものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるものではない。
【実施例
【0103】
以下の実施例は、バイオマスの変換により得られるバイオアルコールの変換により得られる生物由来の炭化水素のベースBを使用して実施した。
【0104】
ベースBは以下の組成を有する。
【0105】
【表1】
【0106】
本発明による燃料組成物Cを、
- ベースB66質量%と;
- エチルtert-ブチルエーテル(ETBE)34質量%とを混合することにより調製した。
【0107】
本発明による燃料Cは、ETBEだけでなく、生物由来のベースを非常に大きい割合で含有しており、これにより、正味発熱量(NCV)およびオクタン価(RON)の点で十分な性能を得ることが可能となった。
【0108】
本組成物により、温室効果ガス排出量が65%削減される。この削減は、欧州議会および理事会の指令(EU)2018/2001の附属書VパートCに規定される方法に従って決定される。