(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-03
(45)【発行日】2025-02-12
(54)【発明の名称】軌条運搬車、軌条運搬台車および軌条運搬装置
(51)【国際特許分類】
B61B 13/04 20060101AFI20250204BHJP
【FI】
B61B13/04 D
B61B13/04 C
(21)【出願番号】P 2024076932
(22)【出願日】2024-05-10
【審査請求日】2024-05-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】592070937
【氏名又は名称】光永産業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502002050
【氏名又は名称】株式会社ピューズ
(73)【特許権者】
【識別番号】524176649
【氏名又は名称】株式会社JHI
(74)【代理人】
【識別番号】100135781
【氏名又は名称】西原 広徳
(74)【代理人】
【識別番号】100217227
【氏名又は名称】野呂 亮仁
(72)【発明者】
【氏名】日野 文史
(72)【発明者】
【氏名】石川 智久
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃弘
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-128758(JP,A)
【文献】実開平03-060470(JP,U)
【文献】特開平10-024834(JP,A)
【文献】特開2007-253839(JP,A)
【文献】特開2021-041852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軌条を走行する軌条運搬車であって、
回転駆動力を出力する駆動部と、
前記軌条の下面に当接する下側車輪と、
前記下側車輪の対向位置に配置され、前記軌条の上面に当接する上側車輪と、
前記下側車輪および前記上側車輪のうち少なくとも1つに前記駆動部から出力される回転駆動力を伝達する動力伝達機構と、
前記下側車輪および前記上側車輪がそれぞれ前記軌条に当接する当接位置と、前記下側車輪および前記上側車輪の間の離間距離が前記軌条の上面および下面の距離よりも長くなる離間位置との間で、前記下側車輪および前記上側車輪の上下方向の相対位置を変化させる位置変更手段と、
前記当接位置において前記下側車輪および前記上側車輪を固定する固定手段と
、
前記駆動部から出力される回転駆動力が付与される駆動輪以外の車輪のみを回転可能に支持する非駆動輪フレームと、
前記駆動輪を含む車輪を回転可能に支持する駆動輪フレームとを備え、
前記非駆動輪フレームが前記駆動輪フレームに対し揺動可能に設けられており、前記非駆動輪フレームが前記駆動輪フレームに対し揺動することによって相対位置が変化する構成であり、
前記下側車輪は、前方に位置する下側前車輪と、前記下側前車輪よりも後方に位置する下側後車輪とを有しており、
前記上側車輪は、前方に位置する上側前車輪と、前記上側前車輪よりも後方に位置する上側後車輪とを有しており、
前記下側後車輪が前記駆動輪であり、
前記非駆動輪フレームは、前記下側前車輪および前記上側後車輪を支持し、
前記駆動輪フレームは、前記上側前車輪および前記下側後車輪を支持する
軌条運搬車。
【請求項2】
前記非駆動輪フレームおよび前記駆動輪フレームは、前記下側車輪および前記上側車輪を前記軌条の幅方向において同じ方向から軸支する
請求項
1記載の軌条運搬車。
【請求項3】
請求項1記載の軌条運搬車と、
前記軌条を走行し、前記軌条運搬車に牽引される台車とを備えた
軌条運搬装置。
【請求項4】
軌条を走行する軌条運搬台車であって、
前記軌条の下面に当接する下側車輪と、
前記下側車輪の対向位置に配置され、前記軌条の上面に当接する上側車輪と、
前記下側車輪および前記上側車輪がそれぞれ前記軌条に当接する当接位置と、前記下側車輪および前記上側車輪の間の離間距離が前記軌条の上面および下面の距離よりも長くなる離間位置との間で、前記下側車輪および前記上側車輪の上下方向の相対位置を変化させる位置変更手段と、
前記当接位置において前記下側車輪および前記上側車輪を固定する固定手段と
、
回転駆動力が付与される駆動輪以外の車輪のみを回転可能に支持する非駆動輪フレームと、
前記駆動輪を含む車輪を回転可能に支持する駆動輪フレームとを備え、
前記非駆動輪フレームが前記駆動輪フレームに対し揺動可能に設けられており、前記非駆動輪フレームが前記駆動輪フレームに対し揺動することによって相対位置が変化する構成であり、
前記下側車輪は、前方に位置する下側前車輪と、前記下側前車輪よりも後方に位置する下側後車輪とを有しており、
前記上側車輪は、前方に位置する上側前車輪と、前記上側前車輪よりも後方に位置する上側後車輪とを有しており、
前記下側後車輪が前記駆動輪であり、
前記非駆動輪フレームは、前記下側前車輪および前記上側後車輪を支持し、
前記駆動輪フレームは、前記上側前車輪および前記下側後車輪を支持する
軌条運搬台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、たとえば、敷設された軌条を走行して人または物を運ぶような軌条運搬車、軌条運搬台車および軌条運搬装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、山林等の傾斜地で物を運搬するための軌条運搬機が使用されている。たとえば、モノレール(単軌道)に走行可能に構成され、人員を乗せる座席または物資を載せる荷台を備えた運搬車が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の運搬車は、モノレールの上面に当接する前転動ローラおよび後転動ローラと、モノレールの下面に設けられたラックに噛み合う駆動ローラおよび抑制ローラとを有している。
【0004】
特許文献1記載の運搬車では、モノレールの上方に位置する前転動ローラおよび後転動ローラと、モノレールの下方に位置する駆動ローラおよび抑制ローラとが、モノレールの上下面に丁度当接するように配置されており、駆動ローラに付与される駆動力によってモノレール上を走行する。また、特許文献1記載の運搬車では、駆動ローラおよび抑制ローラを下方から覆うカバー部材も設けられている。
【0005】
しかしながら、従来技術の運搬車では、運搬車をモノレール上に投入する場合には、モノレールの端部から挿入する必要がある。また、モノレールに運搬車を一度取り付けてしまうと、取り外す場合にわざわざモノレールの端部まで移動させる必要があり、不便である。特に、取り外したい運搬車とモノレールの端部との間に別の運搬車が存在する場合、当該別の運搬車を移動させる等の対処が必要となってしまう。以上のように、従来技術の運搬車は、モノレール上への投入容易性の観点で問題があり、利便性の観点で改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであり、軌条上への投入容易性を高め、利便性を向上させた、軌条運搬車、軌条運搬台車および軌条運搬装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、軌条を走行する軌条運搬車であって、回転駆動力を出力する駆動部と、前記軌条の下面に当接する下側車輪と、前記下側車輪の対向位置に配置され、前記軌条の上面に当接する上側車輪と、前記下側車輪および前記上側車輪のうち少なくとも1つに前記駆動部から出力される回転駆動力を伝達する動力伝達機構と、前記下側車輪および前記上側車輪がそれぞれ前記軌条に当接する当接位置と、前記下側車輪および前記上側車輪の間の離間距離が前記軌条の上面および下面の距離よりも長くなる離間位置との間で、前記下側車輪および前記上側車輪の上下方向の相対位置を変化させる位置変更手段と、前記当接位置において前記下側車輪および前記上側車輪を固定する固定手段とを備えた軌条運搬車、軌条運搬台車および軌条運搬装置であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本願発明により、軌条上への投入容易性を高め、利便性を向上させた、軌条運搬車、軌条運搬台車および軌条運搬装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の軌条運搬システムの構成を示す斜視図。
【
図5】固定部およびその周辺構成を示す一部拡大図。
【
図6】軌条運搬車の走行部の離間状態を示す側面図。
【
図7】軌条運搬車が軌条に装着された状態を示す斜視図。
【
図8】軌条に対する軌条運搬車の着脱動作の一例を示す斜視図。
【
図9】軌条に対する軌条運搬車の着脱動作の一例を示す斜視図。
【
図10】軌条に対する軌条運搬車の着脱動作の一例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願発明の一実施形態を図面と共に説明する。
図1は本発明の軌条運搬システム1の構成を示す斜視図である。
図2は本発明の軌条運搬車3の構成を示す側面図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の軌条運搬システム1は、軌条2を有している軌条ユニット2Uと、軌条2を走行する軌条運搬車(軌条運搬機)3とを有している。
【0013】
また、軌条2は、平地に敷設されたものでもよいが、主に、一般的な自動車や一般的な鉄道車両が走行不可能な山林等の傾斜地に敷設されている。すなわち、軌条2の出発地と目的地の間には、平地が含まれることもあるが、少なくとも一部に傾斜地が存在することが多い。出発地または目的地が傾斜地となっている場合もある。したがって、出発地と目的地の間において、軌条運搬車3が傾斜した状態となる区間がある。
【0014】
軌条2は、軌条運搬車3に係り合うことによって軌条運搬車3の走行方向を決定するものであり、軌条ユニット2Uの一部として構成されている。なお、軌条2の形態は、軌条運搬システムの分野で通常使用されるものであれば特に限定される必要が無い。
【0015】
本実施形態の軌条ユニット2Uは、軌条2と、軌条2を地上から支持するための支持機構20と、軌条2の両側から軌条運搬車3の荷重を受ける補助レール21とを有している。なお、補助レール21は、支持機構20によって支持されていてもよいし、補助レール21を地上から支持するための別の支持部材を設けてもよい。
【0016】
軌条2は、横断面視矩形状を有する角パイプ状(角型管状)に形成されている。軌条2は、たとえば鋼材の押し出しにより横断面視矩形状に形成されるか、あるいは長尺状の鋼板を折り曲げることにより横断面視矩形状に成形されてなる。
【0017】
軌条2の上面または底面には、底面視(平面視)真円形状をなす複数の係合穴(係合部)が設けられている。また、複数の係合穴は、軌条2の延伸方向(軸線方向)において等間隔に設けられている。本実施形態では、軌条2の底面に複数の係合穴(係合部)が設けられている。
【0018】
なお、係合穴は、底面視真円形状をなすものとしているが、楕円形状または矩形状をなすように形成されていてもよい。複数の係合穴に代えて、軌条2の延伸方向(軸線方向)において交互に等間隔に設けられた凹凸が軌条2の上面または底面に設けられていても良い。
【0019】
また、軌条2の係合部の構成としては、係合穴によるものに代えて、軌条2の上面または下面に平板状の歯型(ラック)を設ける構成であってもよい。すなわち、軌条2は、ラックレール(ラック式軌条)とすることもできる。
【0020】
補助レール21は、断面略円形状に形成されており、たとえば金属製丸パイプ状または中実な丸棒状に形成されている。この補助レール21は軌条2から所定の間隔を隔てて対をなして配置されている。具体的には、補助レール21は、軌条2の延伸方向(軌条運搬車3の進行方向)から見て、軌条2を中心に、幅方向の両側(左右)のそれぞれに配置されている。
【0021】
また、補助レール21の上面(上端部)は、軌条2よりも下方に位置する。さらに、補助レール21は、上面側が湾曲面となっており、かつ、軌条運搬車3にける補助レール21上を走行転輪する補助輪の走行面が円筒面となっている。このため、軌条運搬車3が走行中に側方に多少のブレを生じたとしても、安定して軌条運搬車3を支持し得る。
【0022】
支持機構20は、棒状、柱状または筒状に形成されており、軌条2の延伸方向において適宜の間隔で複数配置されている。支持機構20の下端部は地面に接地しており、軌条2を所定の位置および向きで支持している。
【0023】
そして、本実施形態では、このような軌条ユニット2Uの軌条2上を軌条運搬車3が走行可能に載置されている。すなわち、軌条運搬車3は、軌条2上を走行することによって出発地から目的地までの間で移動することができる。
【0024】
図1および
図2に示すように、軌条運搬車3は、軌条2に沿って走行する運搬機(動力車)であり、メインボディ4と、軌条2上を走行する車輪6,7を有している走行部5とを有している。
【0025】
メインボディ4は、軌条運搬車3を運転する運転者が着席するための座席41、座席41の位置に対応して座席41の前方に配置された操作部42、および軌条運搬車3を駆動させるための駆動部43、駆動部43の出力を走行部5の駆動輪(本実施形態では下側後車輪6b)へ伝達するための動力伝達機構44を有している。
【0026】
座席41は、座面および背もたれ等を有しており、運転者が進行方向を向いて座るように構成されている。なお、座席41は、地面の傾斜に応じるべくメインボディ4に対し予めある程度の角度で傾斜した姿勢で設けられている。また、座席41は、メインボディ4に対して傾斜する角度を適宜変更したり、調節可能としたりする機能を有していてもよい。
【0027】
操作部42は、軌条運搬車3を前進、後退、および停止させるための操作レバーや操作ボタン等を有している。運転者が操作部42を操作することによって、軌条運搬車3を操作(運転)することができる。
【0028】
駆動部43は、回転駆動力を出力する動力源(駆動源)としてのエンジンまたはモータと、駆動源に燃料または電力を供給するための燃料タンクや電池等とを有している。
【0029】
動力伝達機構44は、歯車(ギヤ)、プーリ、ベルトなどの適宜の動力伝達要素を有しており、駆動部43(駆動源)から出力された回転駆動力を適度な速度およびトルクに変換しつつ走行部5の駆動輪(下側後車輪6b)へ伝達する。
【0030】
図3は、軌条運搬車3の走行部5の構成を示す側面図である。
図4は、軌条運搬車3の走行部5の構成を示す背面図である。
図5は、固定部9の構成を示す側面図である。
図6は、軌条運搬車3の走行部5の離間状態を示す側面図である。なお、
図3~
図6では、説明の便宜上、メインボディ4の図示を省略している。
【0031】
図3および
図4に示すように、走行部5は、メインボディ4の下方に配置されてメインボディ4を支持する。走行部5は、軌条2の下面に当接する下側車輪6と、下側車輪6の対向位置(上下に対向する位置)に配置され、軌条2の上面に当接する上側車輪7と、下側車輪6および上側車輪7を支持するフレーム8とを有している。下側車輪6および上側車輪7における対向位置(上下に対向する位置)とは、互いの車輪の回転軸が略平行であって、かつ、上下方向に並ぶ位置のことである。また、上下方向とは、軌条2の進行方向を向いた場合の上下方向のことであり、傾斜地においては鉛直方向とは一致しない場合がある。
【0032】
下側車輪6および上側車輪7のそれぞれは、略円柱状ないし略円筒状の部材(ローラ)であって、フレーム8に回転可能に支持(軸支)されている。下側車輪6および上側車輪7は、軸方向が軌条2の幅方向(進行方向に向かって左右方向)となるように配置されている。
【0033】
また、
図4に示すように、下側車輪6および上側車輪7のそれぞれには、軸方向両端部にフランジ部61,71が形成されている。下側車輪6および上側車輪7のそれぞれは、軸方向両端部のフランジ部61,71の間に形成された軌道接触面を有している。下側車輪6および上側車輪7は、軌道接触面が軌条2の上面または下面に当接しながら軌条2上を転輪する。下側車輪6および上側車輪7が軌条2上を転輪する際に、フランジ部61,71が軌条2の側面に当接する。すなわち、下側車輪6および上側車輪7は、フランジ部61,71および軌道接触面によって形成される略U字状の形状が軌条2の当接面に嵌まる構成であるので、軌道接触面を軌条2上で保持することができ、脱線を防止することができる。
【0034】
図3~6に示すように、本実施形態では、下側車輪6は、前方に位置する下側前車輪6aと、下側前車輪6aよりも後方に位置する下側後車輪6bとを有しており、上側車輪7は、前方に位置する上側前車輪7aと、上側前車輪7aよりも後方に位置する上側後車輪7bとを有している。
【0035】
また、下側前車輪6aと上側前車輪7aとは、互いに上下に対向する対向位置に配置され、下側後車輪6bと上側後車輪7bとは、互いに上下に対向する対向位置に配置されている。つまり、走行部5は、軌条2を上下2個ずつ、合計4つの車輪で挟み込む構造となっている。また、本実施形態の走行部5は、側面視において矩形の頂点に位置するように配置された4つの車輪によって軌条2を挟み込む構成である。
【0036】
さらに、下側車輪6および上側車輪7のうち少なくとも1つが、回転駆動力を受けて駆動する駆動輪である。本実施形態では、下側後車輪6bが駆動輪である。また、駆動輪である下側後車輪6bの外周には、軌条2の係合穴と同じ間隔で配置された複数の係合突起62が形成されている。軌条運搬車3は、駆動輪である下側後車輪6bの係合突起62が軌条2の係合穴と係合しつつ回転することで、傾斜面でも滑り落ちることなく安定して、前進、後退、停止を実現できる。
【0037】
なお、軌条運搬車3は、補助レール21上を走行転輪する補助輪を有していてもよい。補助輪は、軌条運搬車3の幅方向両側に正面視対をなして補助レール21の位置に合わせて設けられたものである。この補助輪の平面視の寸法は、軌条運搬車3が側方(幅方向または左右方向)に多少ずれようとしても、補助レール21に好適に支持され得るとともに、速やかにずれないし傾きが戻るよう、補助レール21よりも幅広な、好適にたとえば3倍以上に幅広な寸法に設定されている。
【0038】
下側車輪6および上側車輪7は、下側車輪6および上側車輪7がそれぞれ軌条2に当接する当接位置(
図3~
図5参照)と、対向する下側車輪6および上側車輪7の間の離間距離(下側車輪6および上側車輪7の最も近い部分の距離)が軌条2の上面および下面の距離(軌条の上下厚み)よりも長くなる離間位置(
図6参照)との間で、下側車輪6および上側車輪7の上下方向の相対位置が変化できるような構造(位置変更構造)となっている。また、下側車輪6および上側車輪7のそれぞれを当接位置で固定するための固定部9が設けられている。
【0039】
図3~
図5に示すように、当接位置は、対向する下側車輪6および上側車輪7の間の離間距離(上下の離間距離)と軌条の上下厚みとがほぼ同じになる位置ともいえる。また、下側車輪6および上側車輪7が当接位置に位置するときに、駆動輪である下側後車輪6bの係合突起62が軌条2の係合穴と係合した状態となる。
【0040】
図6に示すように、離間位置は、下側車輪6および上側車輪7が軌条2から離間しているだけでなく、軌条の上下厚みよりも下側車輪6および上側車輪7が離間している位置のことである。
【0041】
具体的には、離間位置は、側面視において対向する車輪のフランジ部61,71の最短距離(上下方向の最短距離)が軌条の上下厚みよりも大きく、かつ、側面視において駆動輪とそれに対向する車輪(本実施形態では下側後車輪6bと上側後車輪7b)の最短距離(係合突起62と上側後車輪7bのフランジ部71)が軌条の上下厚みよりも大きくなる位置のことである。すなわち、下側車輪6および上側車輪7が離間位置に位置する場合、下側車輪6および上側車輪7の間には、側面視において軌条の上下厚みよりも大きい隙間が形成されている。なお、軌条2がラックレールである場合、軌条の上下厚みにはラック部分も含まれる。
【0042】
図3~
図6に示すように、本実施形態では、フレーム8は、互いに独立して設けられており相対的に変位可能な第1フレーム8aと、第2フレーム8bとを有している。
【0043】
また、下側前車輪6aと上側後車輪7bとが第1フレーム8aに軸支されており、下側後車輪6bと上側前車輪7aとが第2フレーム8bに軸支されている。すなわち、フレーム8は、側面視において上下の対角に位置する車輪を軸支(支持)する第1フレーム8aと、第2フレーム8bとを有している。
【0044】
また、本実施形態では下側後車輪6bが駆動輪であるので、第1フレーム8aは、駆動輪以外の車輪のみを回転可能に支持する非駆動輪フレームということができ、第2フレーム8bは、駆動輪を含む車輪を回転可能に支持する駆動輪フレームということができる。
【0045】
第1フレーム8aは、全体として前後(軌条2の延伸方向)に延びる棒状の部材であり、第2フレーム8bに対し揺動可能に設けられている。第2フレーム8bは、複数の棒状の部材により構成されており、走行部5の骨格を形成する。具体的には、第1フレーム8aは、長手方向の中央に設けられた軸支部81において第2フレーム8bに回転可能(揺動可能)に軸支されている。第1フレーム8aの長手方向の一方の端部に下側前車輪6aが軸支されており、第1フレーム8aの長手方向の他方の端部に上側後車輪7bが軸支されている。
【0046】
第1フレーム8aが揺動することによって、第1フレーム8aおよび第2フレーム8bが相対的に変位する。第1フレーム8aが揺動するとき、第1フレーム8aの長手方向両端部は側面視において軸支部81を中心に円運動する。ここで、第1フレーム8aが或る方向に回転した場合、下側前車輪6aと上側後車輪7bとがそれぞれ対向する車輪(下側後車輪6bと上側後車輪7b)に近づくように変位し、第1フレーム8aが反対方向に回転した場合に、下側前車輪6aと上側後車輪7bとがそれぞれ対向する車輪(下側後車輪6bと上側後車輪7b)から遠ざかるように変位する。
【0047】
第1フレーム8aは、少なくとも、下側車輪6および上側車輪7が当接位置となる角度から下側車輪6および上側車輪7が離間位置となる角度の間で回転可能な構成である。
【0048】
下側車輪6および上側車輪7が当接位置に位置する場合、上下の車輪で軌条2を挟み込む状態となるので、第1フレーム8aは、上下の車輪が近づく方向にはそれ以上回転できなくなる。一方、下側車輪6および上側車輪7が離間位置に位置する場合、第1フレーム8aは、上下の車輪が遠ざかる方向には回転可能である。なお、離間位置または離間位置よりも上下の車輪が遠ざかる方向に第1フレーム8aが回転した状態(規制角度)で、第1フレーム8aが上下の車輪がそれ以上遠ざかる方向に回転しないように規制する回転規制部が設けられていてもよい。回転規制部としては、第2フレーム8bに固定され、規制角度において第1フレーム8aに当接する当接部材等を採用することができる。
【0049】
また、第1フレーム8aおよび第2フレーム8bは、下側車輪6および上側車輪7を軌条2の幅方向において同じ方向から支持している。したがって、下側車輪6および上側車輪7の間の部分(軌条2が挟み込まれる部分)について、軌条2の幅方向のいずれか一方(本実施形態では紙面手前側)には第1フレーム8aおよび第2フレーム8bが存在せず、また、軌条運搬車3を構成するその他の部材も存在しない。すなわち、下側車輪6および上側車輪7の間の部分(軌条2が挟み込まれる部分)について、軌条2の幅方向のいずれか一方に向かって開放された空間(開放空間)が存在している。
【0050】
本実施形態では、第1フレーム8aおよび第2フレーム8bは、進行方向を向いた場合の右側から下側車輪6および上側車輪7を支持している。したがって、下側車輪6および上側車輪7の間の部分について、進行方向を向いた場合の左側に開放空間が存在している。
【0051】
固定部9は、第1フレーム8aに設けられた第1係合部材91と、第2フレーム8bに設けられ、第1係合部材91に係合する第2係合部材92とを有している。第1係合部材91に第2係合部材92が係合されることによって第2フレーム8bに対し第1フレーム8aが固定される。すなわち、下側車輪6および上側車輪7のそれぞれが固定される。
【0052】
本実施形態の固定部9は、工具を用いずに固定/解除できる構成である。たとえば、第1係合部材91および第2係合部材92は、スナップ錠(いわゆるパッチン錠)を構成する部材の組み合わせとすることができる。この場合、フックを突起に引っ掛けてフックに連結されたレバーを倒すことで第2フレーム8bに対し第1フレーム8aを固定し、レバーを戻すことで固定を解除することができる。また、第1係合部材91および第2係合部材92は、係合孔と当該係合孔に係合する係合ピンの組み合わせとすることができる。この場合、係合孔に係合ピンを挿入することで第2フレーム8bに対し第1フレーム8aを固定し、係合孔から係合ピンを抜去することで固定を解除することができる。
【0053】
なお、本実施形態においてはフレーム8の構成により位置変更構造が実現されるものであるが、位置変更構造は、本実施形態の構造に限定されない。たとえば、位置変更構造の具体的構造としては、上下方向にスライド可能な部材(スライドレールやボールねじなど)に下側車輪6および上側車輪7の一方を取付ける構造等の他の構造とすることができる。
【0054】
図7は、軌条運搬車3(走行部5)が軌条2に装着された状態を示す斜視図である。
図8~
図10は、軌条2に対する軌条運搬車3(走行部5)の着脱動作の一例(流れ)を示す斜視図である。なお、
図7~
図10では、説明の便宜上、メインボディ4の図示を省略している。以下、
図7~
図10を参照して軌条2に対する軌条運搬車3(走行部5)の着脱動作を説明する。
【0055】
まず、軌条2に装着された軌条運搬車3(走行部5)を軌条2から外す(離脱させる)際の動作について説明する。
図7および
図8に示すように、走行部5(軌条運搬車3)が軌条2に装着されている場合、下側車輪6および上側車輪7は、それぞれ軌条2に当接する当接位置に位置し、この状態で固定部9によって固定されている。
【0056】
ここで、固定部9の固定を解除すると、第1フレーム8aが揺動可能な状態となる。上述したように第1フレーム8aは下側車輪6および上側車輪7が離間位置となる角度まで回転可能な構成である。したがって、
図9に示すように、下側車輪6および上側車輪7が離間位置となるまで第1フレーム8aを揺動(回転)させることができる。このとき、下側車輪6および上側車輪7の間には、側面視において軌条2上下厚みよりも大きい隙間が形成される。
【0057】
また、下側車輪6および上側車輪7の間の部分(軌条2が挟み込まれる部分)について、軌条2の幅方向のいずれか一方に開放空間が存在している。したがって、
図10に示すように、軌条2の幅方向のうち開放空間がある側に軌条2が抜けるように、幅方向に走行部5を移動させることによって軌条2から外す(離脱させる)ことができる。
【0058】
軌条運搬車3(走行部5)を軌条2に装着する際の手順は、軌条2から外す(離脱させる)場合の逆の手順となる。
図10に示すように、軌条2の幅方向のうち開放空間がある側に向かって走行部5を移動させる。ここで、
図9に示すように、下側車輪6および上側車輪7が幅方向において軌条2の対向位置(下側車輪6および上側車輪7の軌道接触面と、軌条2の上下面に対し対向する位置)に来るまで移動させる。次に、
図7および
図8に示すように、下側車輪6および上側車輪7の間の離間距離が近づく方向に第1フレーム8aを揺動(回転)させて軌条2を下側車輪6および上側車輪7で挟み込み、固定部9によって第1フレーム8aを固定する。これにより、走行部5(軌条運搬車3)が軌条2に装着された状態となる。
【0059】
以上のように、本発明の軌条運搬システム1における軌条運搬車3によれば、下側車輪6および上側車輪7がそれぞれ軌条2当接する当接位置と、下側車輪6および上側車輪7の間の離間距離が軌条2上面および下面の距離(軌条2上下厚み)も長くなる離間位置との間で、下側車輪6および上側車輪7の上下方向の相対位置を変化させることができ、当接位置において下側車輪6および上側車輪7を固定することができる。したがって、軌条2の途中でも軌条運搬車3を軌条2に着脱させることができ、別の運搬車が存在する場合でも軌条2端部まで移動させる必要が無くなり、便利である。すなわち、本発明によれば、利便性を向上させた軌条運搬車3を提供することができる。
【0060】
また、本実施形態の軌条運搬車3では、駆動輪以外の車輪のみを回転可能に支持する非駆動輪フレームである第1フレーム8aが、駆動輪を含む車輪を回転可能に支持する駆動輪フレームである第2フレーム8bに対し揺動可能に設けられており、第1フレーム8aが揺動することによって、第1フレーム8aおよび第2フレーム8bが相対的に変位する。このため、車輪のうち比較的軽量な駆動輪以外の車輪のみを支持する第1フレーム8aを揺動させるだけで軌条運搬車3を軌条2に容易に着脱させることができ、作業性が高く、便利である。
【0061】
さらに、本実施形態の軌条運搬車3では、第1フレーム8aおよび第2フレーム8bは、下側車輪6および上側車輪7を軌条2の幅方向において同じ方向から軸支している。このため、軌条2の幅方向のいずれか一方に向かって開放された空間(開放空間)を形成することができ、開放空間がある側に幅方向に走行部5を移動させるだけで軌条運搬車3を軌条2に容易に着脱させることができ、作業性が高く、便利である。
【0062】
さらにまた、本実施形態の軌条運搬車3では、フレーム8は、側面視において上下の対角に位置する車輪を軸支(支持)する第1フレーム8aと、第2フレーム8bとを有しており、下側前車輪6aと上側後車輪7bとが第1フレーム8aに軸支されており、下側後車輪6bと上側前車輪7aとが第2フレーム8bに軸支されている。すなわち、クロスさせた第1フレーム8aおよび第2フレーム8bで4つの車輪を支持している。このため、強度を確保しつつ簡単に軌条運搬車3を軌条2に容易に着脱させることができ、作業性が高く、便利である。
【0063】
また、上側後車輪7bと下側後車輪6bの最大離間距離は、軌条2の上下方向の厚みよりも十分に広いため、上側前車輪7aを軌条2の上に乗せ、次に下側後車輪6bの係合突起62を軌条2の下面の係合穴に係合させるという位置決め作業が容易となり、その後に第1フレーム8aを回動させて軌条2を挟み込んで固定する一連の設置作業を簡易にすることができる。
【0064】
この発明における軌条運搬車は、軌条運搬車3に対応し、以下同様に、軌条は軌条2に対応し、駆動部は駆動部43に対応し、下側車輪は下側車輪6に対応し、上側車輪は上側車輪7に対応し、動力伝達機構は動力伝達機構44に対応し、位置変更手段は、フレーム8に対応し、固定手段は、固定部9に対応し、非駆動輪フレームは、第1フレーム8aに対応し、駆動輪フレームは、第2フレーム8bに対応し、下側前車輪は、下側前車輪6aに対応し、下側後車輪は、下側後車輪6bに対応し、上側前車輪は、上側前車輪7aに対応し、上側後車輪は、上側後車輪7bに対応するが、この発明は本実施形態に限られず他の様々な実施形態とすることができる。また、上述の実施形態で挙げた画面および具体的な構成等は一例であり、実際の製品に応じて適宜変更することが可能である。
【0065】
たとえば、軌条運搬車3を複数のユニットに分割可能な構成にすることができる。その上で、単一のユニットの重量を40kg以下、好ましくは30kg以下とすることができる。上述の実施形態の構成を例に挙げると、たとえば、メインボディ4と走行部5とを分割可能な構成とすることができる。また、メインボディ4において、座席41、操作部42、駆動部43、動力伝達機構44の少なくとも1つを別ユニットとして個別に着脱可能な構成にすることもできる。さらに、駆動部43において、燃料タンクや電池を別ユニットとして個別に着脱可能な構成にすることもできる。このようにすれば、各ユニットを軽量化して人力で運搬可能とすることができる。したがって、クレーンによる吊り下げ作業などが不要で、軌条2のどこからでも軌条運搬車3を装着または取外すことができ、利便性を向上させることができる。
【0066】
本発明は、上述した軌条運搬車3と、軌条2を走行し軌条運搬車3に牽引される軌条運搬台車とを備えた軌条運搬装置としても提供することができる。軌条運搬台車としては、人が乗る乗用台車や物品を搬送するための物流台車などがある。ここで、軌条運搬台車の走行部を上述した走行部5と同様に構成することもできる。すなわち、軌条運搬台車の走行部が、上述した位置変更手段および固定手段を有していてもよい。ただし、軌条運搬台車の走行部においては、駆動輪はあってもなくてもよい。さらに、本発明は、上記軌条運搬装置および軌条ユニット2Uを有する軌条運搬システム1としても提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本願発明は、山林等の傾斜地での運搬産業、山林内での鉄塔、橋、道路等の建設時における資材や人の運搬産業など、道路のない場所または道路の設置が困難な場所に軌条を敷設して軌条運搬機により物を運搬する種々の産業に利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
1…軌条運搬システム
2…軌条
2U…軌条ユニット
3…軌条運搬車
4…メインボディ
41…座席
42…操作部
43…駆動部
44…動力伝達機構
5…走行部
6…下側車輪
7…上側車輪
8…フレーム
8a…第1フレーム
8b…第2フレーム
9…固定部
9a…第1係合部材
9b…第2係合部材
【要約】
【課題】利便性を向上させた、軌条運搬車を提供できる。
【解決手段】
軌条2を走行する軌条運搬車3であって、回転駆動力を出力する駆動部43と、軌条2の下面に当接する下側車輪6と、下側車輪6の対向位置に配置され、軌条2の上面に当接する上側車輪7と、下側車輪6および上側車輪7のうち少なくとも1つに駆動部43から出力される回転駆動力を伝達する動力伝達機構44と、下側車輪6および上側車輪7がそれぞれ軌条2に当接する当接位置と、下側車輪6および上側車輪7の間の離間距離が軌条2の上面および下面の距離よりも長くなる離間位置との間で、下側車輪6および上側車輪7の上下方向の相対位置を変化させる位置変更手段と、当接位置において下側車輪6および上側車輪7を固定する固定部9とを備えている。
【選択図】
図2