(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】新規プラズマローゲン誘導体
(51)【国際特許分類】
C07F 9/10 20060101AFI20250205BHJP
A61K 31/685 20060101ALI20250205BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20250205BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20250205BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20250205BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20250205BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
C07F9/10 C CSP
A61K31/685
A61P25/00
A61P25/16
A61P25/18
A61P25/28
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2023543898
(86)(22)【出願日】2022-08-22
(86)【国際出願番号】 JP2022031555
(87)【国際公開番号】W WO2023027021
(87)【国際公開日】2023-03-02
【審査請求日】2023-11-21
(31)【優先権主張番号】P 2021135911
(32)【優先日】2021-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599035339
【氏名又は名称】株式会社 レオロジー機能食品研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120086
【氏名又は名称】▲高▼津 一也
(72)【発明者】
【氏名】藤野 武彦
(72)【発明者】
【氏名】馬渡 志郎
(72)【発明者】
【氏名】岡内 辰夫
(72)【発明者】
【氏名】久光 琢也
(72)【発明者】
【氏名】庭瀬 紗明
(72)【発明者】
【氏名】本庄 雅則
(72)【発明者】
【氏名】中島 欽一
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 秀行
【審査官】土橋 敬介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0131368(US,A1)
【文献】国際公開第2019/208392(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/071988(WO,A1)
【文献】特開平04-316585(JP,A)
【文献】LEE, Sheng-Han et al.,Brain lipid profiles in the spontaneously hypertensive rat after subchronic real-world exposure to a,Science of the Total Environment,2020年,707, 135603,p.1-10,DOI: 10.1016/j.scitotenv.2019.135603
【文献】LITTLE, S. J. et al.,Docosahexaenoic acid-induced changes in phospholipids in cortex of young and aged rats: A lipidomic,Prostaglandins, Leukotrienes and Essential Fatty Acids,2007年,77(3-4),p.155-162,DOI: 10.1016/j.plefa.2007.08.009
【文献】LIN, Don S. et al.,Effects of dietary n-3 fatty acids on the phospholipid molecular species of monkey brain,Journal of Neurochemistry,1990年,55(4),p.1200-7,DOI: 10.1111/j.1471-4159.1990.tb03125.x
【文献】ROZIN A. E., et al.,Mass spectrometry of lipids with an ether bond. Mass spectrometry of alkyl type glycerophospholipids,Bioorganicheskaya Khimiya,1977年,3(3),p.397-401,ISSN: 0132-3423
【文献】CONNOR, William E. et al.,Uneven distribution of desmosterol and docosahexaenoic acid in the heads and tails of monkey sperm,Journal of Lipid Research,1998年,39(7),p.1404-1411,ISSN: 0022-2275
【文献】SIKORSKAYA, T. V. et al.,Study of Total Lipidome of the Sinularia siaesensis Soft Coral,Russian Journal of Bioorganic Chemistry,2018年,44(6),p.712-723,DOI: 10.1134/s1068162019010151
【文献】JIA, Wei et al.,Effect of nisin and potassium sorbate additions on lipids and nutritional quality of Tan sheep meat,Food Chemistry,2021年07月05日,365, 130535,p.1-10,DOI: 10.1016/j.foodchem.2021.130535
【文献】WEST, Annette L. et al.,Lipidomic Analysis of Plasma from Healthy Men and Women Shows Phospholipid Class and Molecular Speci,Lipids,2020年12月07日,56(2),p.229-242,DOI: 10.1002/lipd.12293
【文献】FACCHINI, Laura et al.,Seasonal variations in the profile of main phospholipids in Mytilus galloprovincialis mussels: A stu,Journal of Mass Spectrometry,2018年,53(1),p.1-20,DOI: 10.1002/jms.4029
【文献】SCHUHMANN, Kai et al.,Bottom-Up Shotgun Lipidomics by Higher Energy Collisional Dissociation on LTQ Orbitrap Mass Spectrom,Analytical Chemistry,2011年,83(14),p.5480-5487,DOI: 10.1021/ac102505f
【文献】TANG, Chuan-Ho et al.,Glycerophosphocholine molecular species profiling in the biological tissue using UPLC/MS/MS,Journal of Chromatography B: Analytical Technologies in the Biomedical and Life Sciences,2011年,879(22),p.2095-2106,DOI: 10.1016/j.jchromb.2011.05.044
【文献】MYHER, J. J. et al.,Molecular species of glycerolipids of Ehrlich ascites cells and of their fat granules,Lipids,1988年,23(5),p.398-404,DOI: 10.1007/BF02535509
【文献】RYAN, Scott D. et al.,Amyloid-β42 signals tau hyperphosphorylation and compromises neuronal viability by disrupting alkyl,Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America,2009年,106(49),p.20936-20941, S20936/1-S20936/11,DOI: 10.1073/pnas.0905654106
【文献】SAVASAN Z. A. et al.,Metabolomic Profiling of Cerebral Palsy Brain Tissue Reveals Novel Central Biomarkers and Biochemica,Metabolites,2019年,9(2), 27,p.1-16, Supplementary materials,DOI:10.3390/metabo9020027
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で示される化合物、そのラセミ体又はそれらの塩。
【化1】
(一般式(I)中、Xは、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を表し、R
1は、
1つの二重結合を有する不飽和の脂肪族炭化水素基を表し、
該二重結合は、Xに結合する炭素に結合する炭素を1位の炭素とした場合に、該1位の炭素及び2位の炭素間に存在し、R
2は、飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基を表し、R
3は、コリン、エタノールアミン、イノシトール又はセリンを表す。)
【請求項2】
Xが、酸素原子であることを特徴とする請求項1記載の化合物、そのラセミ体又はそれらの塩。
【請求項3】
請求項1記載の化合物、そのラセミ体又はそれらの塩を有効成分として含むことを特徴とする組成物。
【請求項4】
抗炎症作用を有することを特徴とする請求項
3記載の組成物。
【請求項5】
脳神経炎症性疾患の予防又は改善用であることを特徴とする請求項
3又は
4記載の組成物。
【請求項6】
脳神経炎症性疾患が、認知症、パーキンソン病、うつ病及び統合失調症から選ばれる少なくとも1つの疾患であることを特徴とする請求項
5記載の組成物。
【請求項7】
Rett症候群の予防又は改善用であることを特徴とする請求項
3又は
4記載の組成物。
【請求項8】
医薬組成物であることを特徴とする請求項
3又は
4記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマローゲンに類似する構造をもつ新規化合物(プラズマローゲン誘導体)に関する。
【背景技術】
【0002】
リン脂質は、生体膜の構成成分として重要であり、中でもエーテルリン脂質であるプラズマローゲンは、哺乳動物の生体膜のリン脂質の約18%を占めている。このプラズマローゲンは、特に、脳神経、心筋、骨格筋、白血球、精子に多いことが知られている。
【0003】
プラズマローゲンは、ドコサヘキサエン酸及びアラキドン酸などの多価不飽和脂肪酸と多く結合しているため、これらの多価不飽和脂肪酸から産生するプロスタグランヂン及びロイコトリエンなどの細胞間シグナルの2次メッセンジャーの貯留所となっているだけでなく、細胞融合、イオン移送など重要な働きをしている。
【0004】
また、プラズマローゲン自身が特異的なG蛋白結合型受容体(GPCR)を介してシグナル伝達に関与していることも明らかになってきた。例えば、プラズマローゲンは、神経細胞のAKT及びERKなどの蛋白リン酸化酵素の活性を増強することによって神経細胞死を抑制するが(非特許文献1参照)、その細胞シグナル伝達機序として特定の5種のGPCRの関与が明らかにされている(非特許文献2参照)。
【0005】
さらに、マウスにLipopolysaccharide(LPS)を7日間腹腔内注射すると、前頭前野と海馬においてIL-1βおよびTNF-α mRNAが強く発現し、βアミロイド(Аβ1-16)陽性ニューロンが発現するとともにグリア細胞が活性化されたが、LPSを注射した後に、プラズマローゲンを腹腔内に同時投与すると、サイトカイン産生を伴うグリア細胞の活性化とАβタンパク質の蓄積が著しく減弱した。また、前頭前野と海馬においてLPSによりプラズマローゲンの含有量が減少したが、プラズマローゲンの同時投与で、その減少は抑制された。
すなわち、プラズマローゲンには、抗神経炎症作用とアミロイド生成予防効果があると考えられ、アルツハイマー病の予防又は改善(治療)への応用が示唆されている(非特許文献3参照)。
【0006】
プラズマローゲンは、認知症、パーキンソン病、うつ病、統合失調症などの脳神経病の他、糖尿病、メタボリックシンドローム、虚血性心疾患、種々の感染症及び免疫異常において減少していることが知られている。
例えば、1999年にアルツハイマー病の脳(死体の脳)でエタノールアミン型プラズマローゲンが前頭葉と海馬で非常に有意に減少していることが報告され(非特許文献4参照)、さらに2007年にアルツハイマー病患者の血清でプラズマローゲンが減少していることが報告されている(非特許文献5参照)。
また、虚血性心疾患の患者群では、コリン型プラズマローゲンが正常コントロール群に比べて減少していることが報告されている(非特許文献6参照)。
【0007】
減少しているプラズマローゲンを外的に補充することにより、それら疾患の予防及び改善効果が期待できると考えられることから、従来より、このようなプラズマローゲンを動物組織から抽出する試みがなされている。例えば、特許文献1においては、レイヤーのムネ肉からエタノールを抽出溶媒として抽出処理し、抽出液を回収する方法が提案されている。
【0008】
また、特許文献2においては、ホタテ貝等の二枚貝から非極性有機溶媒と分岐アルコールとの混合溶媒により抽出処理を行うこと、及びホスホリパーゼA1(PLA1)で処理して、夾雑物であるジアシル型グリセロリン脂質を加水分解して除くことを特徴とする方法が提案されている。
そして、軽症アルツハイマー病、軽度認知障害のヒトを対象とした無作為化二重盲検臨床試験で上記ホタテ貝のヒモから抽出したプラズマローゲンを経口投与した結果、軽症アルツハイマー病で認知機能が改善されることが強く示唆されるという報告がなされている(非特許文献7参照)。
【0009】
一方、プラズマローゲン誘導体の合成例としては、低下したプラズマローゲンレベルを上昇させることにより、プラズマローゲンの欠乏に起因する種々の疾患を予防又は改善することを目的として、プラズマローゲンのsn-3位にα-リポ酸を結合した新規プラズマローゲン前駆物質が提案されている(特許文献3参照)。そして、これら誘導体はサルのパーキンソン病モデルに有効であることが示されている(非特許文献8参照)。
また、特許文献4においては、sn-1位をアセチル化した誘導体がドコサヘキサエン酸の良いキャリアであることが提案されており、ラットの急性脳卒中モデルに有効であることが報告されている(非特許文献9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5483846号公報
【文献】特開2016-108466号公報
【文献】国際公開第2010/071988号
【文献】国際公開第2013/037862号
【非特許文献】
【0011】
【文献】Md. Shamim Hossain et al, Plasmalogens rescue neuronal cell death through an activation of AKT and ERK survival signaling. PLoS ONE 8 (12): e83508, 2013
【文献】Md. Shamim Hossain et al, Neuronal Orphan G-Protein Coupled Receptor Proteins Mediate Plasmalogens-Induced Activation of ERK and Akt Signaling. PLoS ONE 11 (3):e0150846, 2016
【文献】M. Ifuku et al, Anti-inflammatory / anti-amyloidogenic effects of plasmalogens in lipopolysaccharide-induced neuroinflammation in adult mice. J of Neuroinflammation, 9:197, 2012
【文献】Z. Guan et al, Decrease and Structural Modifications of Phosphatidylethanolamine Plasmalogen in the Brain with Alzheimer Disease, J Neuropathol Exp Neurol , 58 (7), 7400-747, 1999
【文献】D. B. Goodenowe et al, Peripheral ethanolamine plasmalogen deficiency: a logical causative factor in Alzheimer's disease and dementia, J Lipid Res, 48, 2485-2498, 2007
【文献】真田竹生ら, 虚血性心疾患における血清Plasmalogenの動態, 動脈硬化, 11, 535‐539, 1983
【文献】T. Fujino et al, Efficacy and Blood Plasmalogen Changes by Oral Administration of Plasmalogen in Patients with Mild Alzheimer's Disease and Mild Cognitive Impairment: A Multicenter, Randomized, Double-blind, Placebo-controlled Trial, EBioMedicine, 17: 199-205, 2017
【文献】L. Gregoire et al, Plasmalogen precursor analog treatment reduces levodopa-induced dyskinesias in parkinsonian monkeys, Behav Brain Res, 286: 328-337, 2015
【文献】C. Fabien et al, Brain-Targeting Form of Docosahexaenoic Acid for Experimental Stroke Treatment: MRI Evaluation and Anti-Oxidant Impact, Current Neurovascular Res, 8 (2): 95-102, 2011
【文献】P. Wang et al, Improved Plasmalogen Synthesis Using Organobarium Intermediates, J. Org. Chem, 72: 5005-5007, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、プラズマローゲンに類似した構造をもち、優れた抗炎症作用を示す新規化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、プラズマローゲン及びその類似化合物に関する研究を行う中で、プラズマローゲンの大きな特徴であるsn-1位におけるビニールエーテル結合が形成されなくとも、sn-1位に不飽和結合が存在することにより、優れた抗炎症作用を示すことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、以下のとおりのものである。
[1]一般式(I)で示される化合物、そのラセミ体又はそれらの塩。
【0015】
【0016】
(一般式(I)中、Xは、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を表し、R1は、不飽和の脂肪族炭化水素基を表し、R2は、飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基を表し、R3は、コリン、エタノールアミン、イノシトール又はセリンを表す。)
【0017】
[2]Xが、酸素原子であることを特徴とする上記[1]記載の化合物、そのラセミ体又はそれらの塩。
[3]R1は、少なくとも1つの二重結合を有することを特徴とする上記[1]又は[2]記載の化合物、そのラセミ体又はそれらの塩。
[4]R1は、1つの二重結合を有することを特徴とする上記[3]記載の化合物、そのラセミ体又はそれらの塩。
[5]R1の二重結合は、Xに結合する炭素に結合する炭素を1位の炭素とした場合に、該1位の炭素及び2位の炭素間に存在することを特徴とする上記[3]又は[4]記載の化合物、そのラセミ体又はそれらの塩。
【0018】
[6]上記[1]~[5]のいずれか記載の化合物、そのラセミ体又はそれらの塩を有効成分として含むことを特徴とする組成物。
[7]抗炎症作用を有することを特徴とする上記[6]記載の組成物。
[8]脳神経炎症性疾患の予防又は改善用であることを特徴とする上記[6]又は[7]記載の組成物。
[9] 脳神経炎症性疾患が、認知症、パーキンソン病、うつ病及び統合失調症から選ばれる少なくとも1つの疾患であることを特徴とする[8]記載の組成物。
[10]Rett症候群の予防又は改善用であることを特徴とする上記[6]又は[7]記載の組成物。
[11]医薬組成物であることを特徴とする上記[6]~[9]のいずれか記載の組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明の新規化合物は、優れた抗炎症作用を示す。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の化合物(KIT-008)を投与したマウスのミクログリア細胞(BV2)におけるLPS誘発炎症性サイトカインIL-1βの発現量(コントロールに対する相対発現量)の測定結果(半定量PCR)である。
【
図2】本発明の化合物(KIT-008及びKIT-020)を投与したマウスのミクログリア細胞(BV2)におけるLPS誘発によるp65の核内発現量(コントロールに対する相対発現量)の測定結果(ウエスタンブロッティング法)である。
【
図3】本発明の化合物(KIT-019及びKIT-020)を投与したマウスのミクログリア細胞(MG6)におけるLPS誘発によるp65の核内発現量(コントロールに対する相対発現量)の測定結果(ウエスタンブロッティング法)である。
【
図4】本発明の化合物(KIT-019及びKIT-020)を投与したマウスのミクログリア細胞(MG6)におけるLPS誘発炎症性サイトカインIL-1βの発現量(コントロールに対する相対発現量)の測定結果(ELISA法)である。
【
図5】本発明の化合物(KIT-008)を投与したMeCP2欠損マウスの生存率を示す図である。
【
図6】本発明の化合物(KIT-008、KIT-019、KIT-020)を投与したMeCP2欠損マウスのRTT様症状についてのスコアリングによる評価結果である。
【
図7】本発明の化合物(KIT-008、KIT-019、KIT-020)を投与したMeCP2欠損マウスの体重の変化を示す図である。
【
図8】本発明の化合物(KIT-008、KIT-019、KIT-020)を投与した野生型マウスの体重の変化を示す図である。
【
図9】LPS投与したBV2ミクログリアの培養上清によって誘発される神経細胞Neuro2aのリソソームの酸性化が障害されたことを示す顕微鏡写真である。
【
図10】本発明の化合物(KIT-008、KIT-019、KIT-020)の投与によって、神経細胞Neuro2aで誘発されたリソソームの酸性化障害が抑制されたことを示す顕微鏡写真である。
【
図11】本発明の化合物(KIT-008)の投与によって、神経細胞Neuro2aで誘発されたリソソームにおけるアミロイドベータ(Aβ)の蓄積が抑制されたことを示す顕微鏡写真である。
【
図12】本発明の化合物(KIT-008、KIT-020)を投与したLPS誘発性記憶障害マウスの水迷路試験の結果を示す図である。
【
図13】本発明の化合物(KIT-008、KIT-020)の投与によって、マウスの海馬組織で、LPS誘発アミロイドベータ(Aβ)の沈着が抑制されたことを示す顕微鏡写真である。
【
図14】本発明の化合物(KIT-008、KIT-020)の投与によって、マウスの海馬組織で、LPS誘発アミロイドベータ(Aβ)の沈着が抑制されたことを示す図であり、沈着したアミロイドベータの数の平均値を示すグラフである。
【
図15】本発明の化合物(KIT-008、KIT-020)の投与によって、マウスの海馬組織で、誘導型ー酸化窒素合成酵素 (iNOS)の発現増加が抑制されたことを示す顕微鏡写真である。
【
図16】本発明の化合物(KIT-008、KIT-020)の投与によって、マウスの海馬組織で、誘導型ー酸化窒素合成酵素 (iNOS)の発現増加が抑制されたことを示す図であり、iNOS陽性神経細胞数の平均値を示すグラフである。
【
図17】本発明の化合物(KIT-008、KIT-020)の投与によって、マウスの海馬組織で、LPS誘発性のアメーバ状ミクログリア(Iba1陽性細胞)及びアメーバ状アストロサイト(GFAP陽性細胞)の増加が抑制されたことを示す顕微鏡写真である。
【
図18】本発明の化合物(KIT-008、KIT-020)の投与によって、マウスの海馬組織で、LPS誘発性のアメーバ状ミクログリア(Iba1陽性細胞)及びアメーバ状アストロサイト(GFAP陽性細胞)の増加、並びにアストロサイト(GFAP陽性細胞)の増加が抑制されたことを示す図であり、上段は、アメーバ状のミクログリア及びアメーバ状のアストロサイトの割合を示すグラフであり、下段は、アストロサイト(GFAP陽性細胞)の数の平均値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[本発明の新規化合物]
本発明の新規化合物は、下記一般式(I)で示される化合物、そのラセミ体又はそれらの塩である。なお、一般式(I)中のグリセロール骨格の炭素原子は、置換基を有していてもよい。置換基としては、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基等を挙げることができる。
【0022】
【0023】
一般式(I)中、Xは、酸素原子、窒素原子又は硫黄原子を表し、酸素原子が好ましい。
【0024】
R1は、不飽和の脂肪族炭化水素基を表し、二重結合を少なくとも1つ備えるものが好ましい。R1における二重結合の位置としては、いずれの位置に存在していてもよいが、Xに隣接する炭素に結合する炭素を1位の炭素とした場合に、1位の炭素及び2位の炭素間に少なくとも存在することが好ましい。
【0025】
また、R1は、直鎖状、分岐状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。炭素数としては、4~50が好ましく、8~30がより好ましく、10~25がさらに好ましく、15~20が特に好ましい。また、R1は、置換基を有していてもよく、置換基としては、炭素数1~4のアルコキシ基等を挙げることができる。
【0026】
R2は、飽和及び不飽和の脂肪族炭化水素基を表し、不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。R2の不飽和脂肪族炭化水素基としては、少なくとも1つの二重結合を備えているものが好ましく、2つ以上の二重結合を備えていてもよい。
【0027】
R2は、直鎖状、分岐状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。炭素数としては、1~50が好ましく、8~30がより好ましく、10~25がさらに好ましく、15~20が特に好ましい。また、R2は、置換基を有していてもよく、置換基としては、炭素数1~4のアルコキシ基等を挙げることができる。
具体的に、R2は、R2COOHとした場合に、ω-3脂肪酸、ω-6脂肪酸、ω-7脂肪酸、ω-9脂肪酸、ω-10脂肪酸を表すものが好ましく、ω-3脂肪酸、ω-6脂肪酸、ω-9脂肪酸を表すものがより好ましく、ω-6脂肪酸を表すものが特に好ましい。
【0028】
R3は、コリン、エタノールアミン、イノシトール又はセリンを表す。これらは、置換基を有していてもよく、置換基としては、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基等を挙げることができる。
【0029】
本発明の新規化合物は、抗炎症作用を有する。また、Rett症候群の予防又は改善(治療)に有効である。
【0030】
[本発明の組成物]
本発明の組成物は、上記一般式(I)で示される本発明の新規化合物、そのラセミ体又はそれらの塩を有効成分として含むことを特徴とする。本発明の組成物は、薬学的に許容される他の成分を含んでいてもよい。
【0031】
本発明の組成物は、抗炎症作用を有することから、炎症性疾患の予防又は改善(治療)に用いることができ、特に脳神経炎症性疾患の予防又は改善(治療)に有効である。具体的には、認知症、パーキンソン病、うつ病、統合失調症などの脳神経炎症性疾患の予防又は改善(治療)に好適に用いることができ、アルツハイマー型認知症に特に有効である。また、脳機能の改善に有効である。
【0032】
また、本発明の組成物は、X染色体上にあるMECP2遺伝子の変異によって引き起こされる進行性の神経発達障害であるRett症候群の予防又は改善(治療)に有効である。
【0033】
本発明の組成物は、医薬品又は健康食品として用いることができる。また、本発明の組成物は、経口剤又は非経口剤として使用することができる。
【0034】
経口剤として用いる場合、その形態としては、例えば、錠状、カプセル状、粉末状、顆粒状、液状、粒状、棒状、板状、ブロック状、固体状、丸状、ペースト状、クリーム状、カプレット状、ゲル状、チュアブル状、スティック状等を挙げることができる。
非経口剤としては、外用剤又は注射剤・点滴剤を挙げることができる。
【0035】
[本発明の新規化合物の製造方法]
本発明の新規化合物は、例えば、下記構造式で示される(R)-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メタノールに対して、R1~R3を含む化合物を反応させることにより得ることができる。なお、下記構造式で示される化合物は、アセトナイド以外の保護基で保護されたものを用いることも可能である。
【0036】
【0037】
ここで、R1を含む化合物としては、ハロゲン化不飽和脂肪族炭化水素(A-C-R1(A;ハロゲン))が挙げられ、例えば、-R1が、(-C=C-R1’)の場合、ハロゲン化不飽和脂肪族炭化水素(A-C-C=C-R1’)は、以下のように製造することができる。
【0038】
出発原料として、例えば、下記化学式で示すプロパルギルアルコール等の三重結合を含むアルコールを用いる。
【0039】
【0040】
まず、この三重結合を含むアルコールのOH基に対して保護基(Z1)を導入する。
【0041】
【0042】
続いて、この保護した三重結合を含むアルコールに対して、ハロゲン化脂肪族炭化水素を反応させることで、所望の脂肪族基(R1’)を導入する。すなわち、本工程で、所望の炭素鎖のハロゲン化脂肪族炭化水素を反応させることで、最終的に生成するハロゲン化不飽和脂肪族炭化水素(A-C-C=C-R1’)の炭素鎖(R1’)を目的のものとすることができる。
【0043】
【0044】
次に、上記導入した保護基(Z1)の脱保護を行う。
【0045】
【0046】
続いて、シス型の二重結合を含むアルコール(HO-C-C=C-R1’)へと変換する。
【0047】
【0048】
最後に、ハロゲンを導入して、ハロゲン化不飽和脂肪族炭化水素(A-C-C=C-R1’(A;ハロゲン))に変換する。
【0049】
【0050】
ここで、ハロゲン(A)としては、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。ハロゲンとして塩素を導入する場合、PCl3、SOCl2、(COCl)2、CCl4とPPh3との組合せ、N-クロロスクシンイミド(NCS)とPPh3との組合せ等を用いて導入することができる。ハロゲンとして臭素を導入する場合、PBr3、CBr4とPPh3との組合せ、N-ブロモスクシンイミド(NBS)とPPh3との組合せ、イミダゾールとPPh3とBr2との組合せ等を用いて導入することができる。ハロゲンとしてヨウ素を導入する場合、イミダゾールとPPh3とI2との組合せ、N-ヨードスクシンイミド(NIS)とPPh3との組合せ等を用いて導入することができる。
【0051】
上記製造したハロゲン化不飽和脂肪族炭化水素(A-C-C=C-R1’(A-C-R1))を用いて本発明の新規化合物を製造する。
【0052】
まず、このハロゲン化不飽和脂肪族炭化水素(A-C-R1)と、(R)-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メタノールとを反応させることにより、下記化合物が得られる。
【0053】
【0054】
続いて、上記化合物のアセトナイドを脱保護して、下記化合物を得る。
【0055】
【0056】
続いて、2つのOH基に対して保護基(Z,Z’)を導入する。
【0057】
【0058】
その後、保護基(Z)を選択的に脱保護してOH基とする。
【0059】
【0060】
次に、リン酸基及びR3を含む置換基を導入し、下記化合物を得る。なお、リン酸基及びR3は、それぞれ保護基により保護されたものを用いることが好ましい。
【0061】
【0062】
続いて、保護基(Z’)を脱保護してOH基とする。
【0063】
【0064】
その後、脱保護したOH基をR2COOHと縮合する。
【0065】
【0066】
最後に、リン酸基及びR3Zの保護基を脱保護等して、下記本発明の化合物を得る。
【0067】
【実施例1】
【0068】
下記構造式で示される本発明の化合物KIT-008、KIT-019及びKIT-020の製造を行った。概要を以下に示す。
【0069】
【0070】
以下、具体的に説明する。
<KIT-008の製造>
[工程1:プロパルギルアルコールのOH基の保護]
【0071】
【0072】
プロパルギルアルコール(5.6 g, 100 mmol)の酢酸エチル(100 mL)溶液に、室温で、p-トルエンスルホン酸一水和物(190 mg, 1.0 mmol)を加えた。これに、3,4-ジヒドロ-2H-ピラン(10 mL,110 mmol)を0℃でゆっくり加えた。この溶液を0℃で5分間撹拌した後、反応混合物を室温まで昇温させた。室温で40分攪拌した後、反応混合物に飽和NaHCO3を加え、酢酸エチルで2回抽出した。酢酸エチル層を合わせて、水および飽和食塩水で洗浄した後、Na2SO4で乾燥させ、減圧下で溶媒を留去した。残渣を減圧蒸留(沸点 76℃ / 10 mmHg)により精製すると、THP保護したプロパルギルアルコールが黄色の液体として得られた(11.9 g, 85%)。
【0073】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 4.83 (1H, d, J = 3.4 Hz), 4.30 (1H, dd, J = 2.4, 15.7 Hz), 4.24 (1H, dd, J = 2.4, 15.7 Hz), 3.84 (1H, ddd, J = 2.8, 9.0, 11.5 Hz), 3.84 (1H, ddt, Jd = 1.5, 11.1 Hz, Jt = 4.3 Hz), 2.42 (1H, t, J = 2.4 Hz), 1.89-1.79 (1H, m), 1.78-1.71 (1H, m), 1.67-1.50 (4H, m).
【0074】
[工程2:脂肪族基の導入]
【0075】
【0076】
THP保護したプロパルギルアルコール(4.6 g, 33 mmol)のテトラフラン溶液(122 mL)に、-78℃でnBuLiのヘキサン溶液(1.57 mol/L)を21 mL (33 mmol)滴下した。0℃で1-ブロモペンタデカン(8.7 g, 30 mmol)をゆっくりと加え、室温まで昇温した後、50℃で21時間加熱した。この混合物を室温まで冷却し、飽和NH4Cl水溶液を加え、Et2Oで2回抽出した。Et2O層を合わせ、飽和食塩水で洗浄した後、Na2SO4で乾燥させ、シリカゲルのパッドでろ過をした。ろ液を減圧下で濃縮した。残渣をメタノール(73 mL)に溶解し、DOWEXTM 50WX8(強酸性イオン交換樹脂)(994 mg)を加え、40℃で3時間撹拌した。反応混合物をろ過し、ろ液を減圧下で濃縮した。残渣を30-40℃の石油エーテルに溶解し、得られた溶液を室温まで冷却した。溶液を-78℃に冷却し、得られた沈殿物をろ過して回収すると、目的のアルコールが白色固体として得られた(6.1g, 77%)。
【0077】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 4.25 (2H, t, J = 2.1 Hz), 2.21 (2H, tt, J = 2.1, 7.1 Hz), 1.60 (1H, brs), 1.50 (2H, tt, J = 7.4, 7.4 Hz), 1.40-1.33 (2H, m), 1.33-1.21 (22H, m), 0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz).
【0078】
[工程3:シス型のアリルアルコールへの変換]
【0079】
【0080】
LiAlH4(42 mg, 1.1 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(6 mL)に、オクタデカ-2-イン-1-オール(266 mg, 1.0 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(4 mL)を0℃で加えたのち、室温まで昇温し、19時間撹拌した。反応混合物に0℃で飽和ロッシェル塩水溶液を加え、1時間撹拌した後、ろ過した。ろ液を酢酸エチルで2回抽出した。酢酸エチル層を合わせ、水および飽和食塩水で洗浄した後、Na2SO4で乾燥させ、減圧下で溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製すると、目的とする(E)-オクタデカ-2-エン-1-オール(244 mg, 91%)が白色固体として得られた。
【0081】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.73-5.60 (2H, m), 4.11-4.07 (2H, m), 2.06-2.01 (2H, m), 1.40-1.34 (2H, m), 1.32-1.21 (24H, m), 0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz).
【0082】
[工程4:アルコールのハロゲン化]
【0083】
【0084】
(E)-オクタデカ-2-エン-1-オールの酢酸エチル溶液に、0℃でPBr3を加え、そのまま30分間撹拌した。氷水を加え、酢酸エチルで2回抽出した。酢酸エチル層を合わせて、飽和食塩水で洗浄した後、Na2SO4で乾燥させ、減圧下で溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製すると、目的とする(E)-1-ブロモオクタデカ-2-エンが無色の液体として得られた。
【0085】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.78 (1H, dt, Jd = 15.1 Hz, Jt = 6.6 Hz), 5.68 (1H, dtt, Jd = 15.1 Hz, Jt = 1.2, 7.5 Hz), 3.95 (2H, dd, J = 0.6, 7.5 Hz), 2.05 (2H, dt, Jd = 7.0 Hz, Jt = 7.0 Hz), 1.40-1.34 (2H, m), 1.32-1.21 (24H, m), 0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz).
【0086】
[工程5:(R)-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メタノール(以下、基質という)のSn-1位への脂肪族基の導入]
【0087】
【0088】
tBuOK(1.65 g, 14.7 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(50 mL)に、(R)-(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メタノール(1.30 g, 9.8 mmol)を0℃で加え、そのまま1時間撹拌した。これに、上記製造した(E)-1-ブロモオクタデカ-2-エン(4.86 g, 14.7 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(50 mL)を加え、40℃まで加熱し、そのまま終夜撹拌した。これにリン酸緩衝液(pH 7)を加えて、Et2Oで2回抽出した。Et2O層を合わせ、水および飽和食塩水で洗浄した後、Na2SO4で乾燥させ、減圧下で溶媒を留去した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製すると、目的とする(R,E)-2,2-ジメチル-4-((オクタデカ-2-エン-1-イルオキシ)メチル)-1,3-ジオキソランが無色の液体として得られた(3.62 g, 97%)。
【0089】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.69 (1H, dt, Jd = 15.3 Hz, Jt = 6.7 Hz), 5.53 (1H, dtt, Jd = 15.3 Hz, Jt = 1.4, 6.3 Hz), 4.28 (1H, tt, J = 6.0, 6.0 Hz), 4.06 (1H, dd, J = 6.4, 8.2 Hz), 4.01-3.93 (2H, m), 3.72 (1H, dd, J = 6.4, 8.3 Hz),3.50 (1H, dd, J = 5.9, 9.8 Hz), 3.41 (1H, dd, J = 5.6, 9.8 Hz), 2.03 (2H, dt, Jd = 6.9 Hz, Jt = 6.9 Hz), 1.43 (3H, s), 1.39-1.33 (2H, m), 1.36 (3H, s), 1.32-1.21 (24H, m), 0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz).
【0090】
[工程6:基質の脱保護]
【0091】
【0092】
(R,E)-2,2-ジメチル-4-((オクタデカ-2-エン-1-イルオキシ)メチル)-1,3-ジオキソラン(6.91 g, 18.0 mmol)のエタノール(60 mL)-水(7.5 mL)溶液に、0℃でトシル酸1水和物(0.69 g, 3.6 mmol)のエタノール溶液(15 mL)を加えた。混合物を70℃に加熱し、そのまま6時間撹拌した後,0℃に冷却し、トリエチルアミンで中和した。混合物を減圧下で濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製すると、目的の(S,E) -3-(オクタデカ-2-エン-1-イルオキシ)プロパン-1,2-ジオールが白色の固体として得られた(5.9 g, 95%)。
【0093】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.70 (1H, dt, Jd = 15.3 Hz, Jt = 6.8 Hz), 5.53 (1H, dtt, Jd = 15.3 Hz, Jt = 1.4, 6.3 Hz), 3.96 (2H, d, J = 6.2 Hz), 3.90-3.85 (1H, m), 3.72 (1H, ddd, J = 4.0, 7.0, 11.2 Hz), 3.65 (1H, dt, Jd = 11.0 Hz, Jt = 5.4 Hz), 3.54 (1H, dd, J = 3.8, 9.7 Hz), 3.49 (1H, dd, J = 6.3, 9.7 Hz), 2.56 (1H, d, J = 5.0 Hz), 2.04 (2H, dt, Jd = 6.8 Hz, Jt = 6.9 Hz), 1.40-1.34 (2H, m), 1.32-1.21 (24H, m), 0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz).
【0094】
[工程7:基質のSn-3位のOH基の保護]
【0095】
【0096】
(S,E)-3-(オクタデカ-2-エン-1-イルオキシ)プロパン-1,2-ジオール(436 mg, 1.27 mmol)とピリジン(0.31 mL, 3.81 mmol)のジクロロメタン溶液(13 mL)に、塩化ピバロイル(0.19 mL, 1.52 mmol)を0℃で加えた。反応混合物を室温まで昇温し,そのまま8時間撹拌した。これにリン酸緩衝液(pH 7)を加えて、Et2Oで2回抽出した。Et2O層を合わせ,水および飽和食塩水で洗浄した後、Na2SO4で乾燥させ、減圧下で溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製すると、目的とする(R,E)-2-ヒドロキシ-3-(オクタデカ-2-エン-1-イルオキシ)プロピルピバレートが無色の液体として得られた(440 mg, 81%)。
【0097】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.70 (1H, dt, Jd = 15.3 Hz, Jt = 6.7 Hz), 5.53 (1H, dtt, Jd = 15.3 Hz, Jt = 1.4, 6.3 Hz), 4.16 (1H, dd, J = 4.8, 11.4 Hz), 4.13 (1H, dd, J = 5.5, 11.3 Hz), 4.03-3.98 (1H, m), 3.96 (2H, d, J = 6.3 Hz), 3.49 (1H, dd, J = 4.3, 9.7 Hz), 3.43 (1H, dd, J = 6.3, 9.7 Hz), 2.46 (1H, d, J = 4.3 Hz), 2.04 (2H, dt, Jd = 6.9 Hz, Jt = 6.9 Hz), 1.40-1.34 (2H, m), 1.32-1.22 (24H, m), 1.22 (9H, s), 0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz).
【0098】
[工程8:基質のSn-2位のOH基の保護]
【0099】
【0100】
tert-ブチルジメチルクロロシラン(R,E)-2-ヒドロキシ-3-(オクタデカ-2-エン-1-イルオキシ)プロピルピバレート(774 mg, 1.81 mmol)とイミダゾール(493 mg, 7.24 mmol)のDMF溶液(9 mL)に、tert-ブチルジメチルクロロシラン(546 mg, 3.62 mmol)のDMF溶液(9 mL)を0℃で加えた後、室温まで昇温し,20時間攪拌した。これにリン酸緩衝液(pH 7)を加えて,Et2Oで2回抽出した。Et2O層を合わせ,水および飽和食塩水で洗浄した後、Na2SO4で乾燥させ、減圧下で溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製すると、目的の(R,E)-2-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-3-(オクタデカ-2-エン-1-イルオキシ)プロピル ピバレートが無色の液体として得られた(921 mg, 94%)。
【0101】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.68 (1H, dt, Jd = 15.3 Hz, Jt = 6.7 Hz), 5.51 (1H, dt, Jd = 15.3 Hz, Jt = 6.2 Hz), 4.19-4.14 (1H, m), 4.02-3.95 (2H, m), 3.93 (2H, dd, J = 0.6, 6.2 Hz), 3.49 (2H, dd, J = 4.3, 9.7 Hz), 3.43-3.35 (2H, m), 2.03 (2H, dt, Jd = 6.9 Hz, Jt = 7.0 Hz), 1.40-1.32 (2H, m), 1.32-1.22 (24H, m), 1.20 (9H, s), 0.88 (3H, t, J = 6.9 Hz), 0.88 (9H, s), 0.09 (6H, s).
【0102】
[工程9:基質のSn-3位の脱保護]
【0103】
【0104】
(R,E)-2-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-3-(オクタデカ-2-エン-1-イルオキシ)プロピルピバレート(915 mg, 1.69 mmol)のジクロロメタン溶液(60 mL)に、水素化ジイソブチルアルミニウムの1.014 mol/Lトルエン溶液(5 mL, 5.07 mmol)を-78℃で加えた後,3時間攪拌した。これに、30%ロッシェル塩水溶液を加え、1時間攪拌した後、セライトろ過し、酢酸エチルで2回抽出した。酢酸エチル層を合わせ,水および飽和食塩水で洗浄した後、Na2SO4で乾燥させ、減圧下で溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製すると、目的とする(S,E)-2-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-3-(オクタデカ-2-エン-1-イルオキシ)プロパン-1-オールが無色の液体として得られた(756 mg, 98%)。
【0105】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.68 (1H, dt, Jd = 15.3 Hz, Jt = 6.8 Hz), 5.51 (1H, dt, Jd = 15.3 Hz, Jt = 6.2 Hz), 3.92 (2H, d, J = 6.2 Hz), 3.91-3.87 (1H, m), 3.65 (1H, dt, Jd = 11.1 Hz, Jt = 4.7 Hz), 3.58 (1H, ddd, J = 4.5, 7.1, 11.3 Hz), 3.41 (2H, d, J = 6.2 Hz), 2.12-2.08 (1H, m), 2.03 (2H, dt, Jd = 7.0 Hz, Jt = 7.0 Hz), 1.40-1.33 (2H, m), 1.32-1.21 (24H, m), 0.90 (9H, s), 0.88 (3H, t, J = 7.1 Hz), 0.10 (3H, s), 0.09 (3H, s).
【0106】
[工程10:基質のSn-3位への保護されたリン酸基及びR3の導入]
【0107】
【0108】
(S,E)-2-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-3-(オクタデカ-2-エン-1-イルオキシ)プロパン-1-オール(722 mg, 1.58 mmol)のトルエン溶液(8 mL)に対して、tBuOLiの0.1 mol/Lヘキサン溶液(16 mL, 1.60 mmol)を0℃で加え,そのまま1時間撹拌した。これに対して、tert-ブチル(2-((tert-ブトキシ(2,2,2-トリフルオロエトキシ)ホスホリル)オキシ)エチル)カルバメート(899 mg, 2.37 mmol)のトルエン溶液(8 mL)を0℃で加えた後、室温に昇温し、そのまま24時間撹拌した。これにリン酸緩衝液(pH 7)を加えて、酢酸エチルで2回抽出した。酢酸エチル層を合わせ、水および飽和食塩水で洗浄した後、Na2SO4で乾燥させ、減圧下で溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製すると、目的のtert-ブチル (2-((tert-ブトキシ((R)-2-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-3-(((E)-オクタデカ-2-エン-1-イル)オキシ)プロポキシ)ホスホリル)オキシ)エチル)カルバメートが無色の液体として得られた(1.035 g, 89%)。
【0109】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.71-5.64 (1H, m), 5.55-5.47 (1H, m), 5.15 (1H, brs), 4.09-4.02 (3H, m), 4.00-3.88 (4H, m), 3.44-3.35 (4H, m), 2.03 (2H, dt, Jd = 6.5 Hz, Jt = 6.6 Hz), 1.50 (9H, s), 1.44 (9H, s), 1.39-1.33 (2H, m), 1.32-1.22 (24H, m), 0.89 (9H, s), 0.88 (3H, t, J = 7.1 Hz), 0.094+0.091+0.086+0.064+0.060 (6H, five singlet signals).
【0110】
[工程11:基質のSn-2位OH基の脱保護]
【0111】
【0112】
tert-ブチル (2-((tert-ブトキシ((R)-2-((tert-ブチルジメチルシリル)オキシ)-3-(((E) -オクタデカ-2-エン-1-イル)オキシ)プロポキシ)ホスホリル)オキシ)エチル)カルバメート(1.00 g, 1.36 mmol)のテトラヒドロフラン溶液(14 mL)に対し、トリエチルアミン 三フッ化水素酸塩(1.7 mL, 13.6 mmol)を室温で加えた後,40℃に昇温し,そのまま10時間撹拌した。これに飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて,酢酸エチルで2回抽出した。酢酸エチル層を合わせ、飽和食塩水で洗浄した後、Na2SO4で乾燥させ、減圧下で溶媒を留去した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製すると、目的のtert-ブチル (2-((tert-ブトキシ((R)-2-ヒドロキシ-3-(((E)-オクタデカ-2-エン-1-イル)オキシ)プロポキシ)ホスホリル)オキシ)エチル)カルバメートが無色の液体として得られた(0.535 g, 65%)。
【0113】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.73-5.66 (1H, m), 5.55-5.48 (1H, m), 5.15 (1H, brs), 4.15-3.98 (5H, m), 3.96 (2H, dd, J = 0.8, 6.3 Hz), 3.48 (2H, d, J = 5.3 Hz), 3.43-3.38 (2H, m), 3.10 (1H, brs), 2.03 (2H, dt, Jd = 7.1 Hz, Jt = 7.1 Hz), 1.51 (9H, s), 1.44 (9H, s), 1.39-1.33 (2H, m), 1.32-1.22 (24H, m), 0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz).
【0114】
[工程12:基質のSn-2位への脂肪族基(R2)の導入]
【0115】
【0116】
tert-ブチル(2-((tert-ブトキシ((R)-2-ヒドロキシ-3-(((E)-オクタデカ-2-エン-1-イル)オキシ)プロポキシ)ホスホリル)オキシ)エチル)カルバメート(131.6 mg, 0.21 mmol)のジクロロメタン溶液(0.5 mL)に対して、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(81.8 mg, 0.42 mmol)とジメチルアミノピリジン(26.7 mg, 0.21 mmol)とドコサヘキサエン酸(93.4 mg, 0.28 mmol)とのジクロロメタン溶液(0.5 mL)を室温で加え、そのまま5時間撹拌した。反応混合物をそのまま減圧下で濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製すると、目的の(2R)-1-((tert-ブトキシ(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)エトキシ)ホスホリル)オキシ)-3-(((E)-オクタデカ-2-エン-1-イル)オキシ)プロパン-2-イル(4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,16,19-ヘキサエノエートが無色の液体として得られた(0.535 g, 65%)。
【0117】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.72-5.65 (1H, m), 5.53-5.46 (1H, m), 5.43-5.28 (12H, m), 5.19-5.12 (2H, m), 4.25-4.10 (2H, m), 4.08-4.02 (2H, m), 3.97-3.90 (2H, m), 3.59 (2H, d, J = 5.2 Hz, one diastereomer), 3.55 (2H, d, J = 5.2 Hz, the other diastereomer), 3.42-3.37 (2H, m), 2.87-2.80 (10H, m), 2.41-2.39 (4H, m), 2.11-2.00 (4H, m), 1.50 (9H, s, the other diastereomer), 1.49 (9H, s, one diastereomer), 1.44 (9H, s), 1.39-1.33 (2H, m), 1.32-1.22 (24H, m), 0.97 (3H, t, J = 7.5 Hz), 0.89 (3H, t, J = 7.0 Hz).
【0118】
[工程13:基質のSn-3位の脱保護及びアミン化]
【0119】
【0120】
(2R)-1-((tert-ブトキシ(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)エトキシ)ホスホリル)オキシ)-3-(((E)-オクタデカ-2-エン-1-イル)オキシ)プロパン-2-イル (4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,16,19-ヘキサエノエート(29.1 mg, 0.031 mmol)のジクロロメタン溶液(0.3 mL)に対して,室温で0.3 mLのトリフルオロ酢酸を加え,そのまま2時間撹拌した。反応混合物をそのまま減圧下で濃縮すると、目的の2-((((R)-2-(((4Z,7Z,10Z,13Z,16Z,19Z)-ドコサ-4,7,10,13,16,19-ヘキサエノイル)オキシ)-3-(((E)-オクタデカ-2-エン-1-イル)オキシ)プロポキシ)(ヒドロキシ)ホスホリル)オキシ)エタン-1-アンモニウム 2,2,2-トリフルオロアセテート(KIT-008)が無色の液体として得られた(27.4 mg, quant)。
【0121】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 8.09 (3H, brs), 5.67 (1H, dt, Jd = 15.1 Hz, Jt = 6.9 Hz), 5.48 (1H, dt, Jd = 15.0 Hz, Jt = 6.5 Hz), 5.43-5.28 (12H, m), 5.18-5.12 (1H, m), 4.19-3.88 (6H, m), 3.53 (2H, brd, J = 4.2 Hz), 3.21 (2H, brs), 2,87-2.79 (10H, m), 2.42-2.34 (4H, m), 2.11-1.99 (4H, m), 1.39-1.22 (26H, m), 0.97 (3H, t, J = 7.6 Hz), 0.88 (3H, t, J = 7.0 Hz).
【0122】
<KIT-019の製造>
工程1~11は、上記「KIT-008の製造」と同様である。
【0123】
[工程12:基質のSn-2位への脂肪族基(R2)の導入]
【0124】
【0125】
tert-ブチル(2-((tert-ブトキシ((R)-2-ヒドロキシ-3-(((E)-オクタデカ-2-エン-1-イル)オキシ)プロポキシ)ホスホリル)オキシ)エチル)カルバメート(61.0 mg, 0.10 mmol)のジクロロメタン溶液(0.5 mL)に対して,1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(38.0 mg, 0.20 mmol)とジメチルアミノピリジン(12.0 mg, 0.10 mmol)とオレイン酸(34.0 mg, 0.12 mmol)とのジクロロメタン溶液(0.5 mL)を室温で加え,そのまま17時間撹拌した。反応混合物をそのまま減圧下で濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製すると、目的の(2R)-1-((tert-ブトキシ(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)エトキシ)ホスホリル)オキシ)-3-(((E)-オクタデカ-2-エン-1-イル)オキシ)プロパン-2-イル オレエートが無色の液体として得られた(49.0 mg, 55%)。
【0126】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.68 (1H, dt, Jd = 15.2 Hz, Jt = 6.8 Hz), 5.49 (1H, dtt, Jd = 15.3 Hz, Jt = 1.3, 6.3 Hz), 5.38-5.30 (2H, m), 5.19-5.12 (2H, m), 4.21-4.15 (1H, m), 4.14-4.09 (1H, m), 4.08-4.01 (2H, m), 3.97-3.90 (2H, m), 3.55 (2H, d, J = 5.2 Hz), 3.42-3.37 (2H, m), 2.33 (2H, t, J = 7.6 Hz), 2.06-1.98 (6H, m), 1.65-1.58 (2H, m), 1.502 (9H, s, one diastereomer), 1.495 (9H, s, the other diastereomer), 1.44 (9H, s), 1.38-1.23 (46H, m), 0.88 (6H, t, J = 6.9 Hz).
【0127】
[工程13:基質のSn-3位の脱保護及びアミン化]
【0128】
【0129】
(2R)-1-((tert-ブトキシ(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)エトキシ)ホスホリル)オキシ)-3-(((E)-オクタデカ-2-エン-1-イル)オキシ)プロパン-2-イル オレエート(46.0 mg, 0.055 mmol)のジクロロメタン溶液(0.55 mL)に対して,室温で0.55 mLのトリフルオロ酢酸を加え,そのまま2時間撹拌した。反応混合物をそのまま減圧下で濃縮すると、目的の2-((ヒドロキシ((R)-3-3-(((E)-オクタデカ-2-エン-1-イル)オキシ)-2-(オレオイルオキシ)プロピル)ホスホリル)オキシ)エタン-1-アンモニウム 2,2,2-トリフルオロアセテート(KIT-019)が無色の液体として得られた(46.2 mg, quant)。
【0130】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.88 (3H, brs), 5.68 (1H, dt, Jd = 15.2 Hz, Jt = 6.7 Hz), 5.48 (1H, dt, Jd = 15.0 Hz, Jt = 6.5 Hz), 5.38-5.30 (2H, m), 5.19-5.12 (1H, m), 4.22-3.97 (4H, m), 3.97-3.89 (2H, m), 3.53 (2H, brd, J = 4.1 Hz), 2.32 (2H, t, J = 7.6 Hz), 2,05-1.97 (6H, m), 1.61-1.55 (2H, m), 1.37-1.21 (m, 46H), 0.88 (6H, t, J = 6.9 Hz).
【0131】
<KIT-020の製造>
工程1~11は、上記「KIT-008の製造」と同様である。
【0132】
[工程12:基質のSn-2位への脂肪族基(R2)の導入]
【0133】
【0134】
tert-ブチル(2-((tert-ブトキシ((R)-2-ヒドロキシ-3- (((E)-オクタデカ-2-エン-1-イル)オキシ)プロポキシ)ホスホリル)オキシ)エチル)カルバメート(61.0 mg, 0.10 mmol)のジクロロメタン溶液(0.5 mL)に対して、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(38.0 mg, 0.20 mmol)とジメチルアミノピリジン(12.0 mg, 0.10 mmol)とアラキドン酸(37.0 mg, 0.12 mmol)とのジクロロメタン溶液(0.5 mL)を室温で加え、そのまま16時間撹拌した。反応混合物をそのまま減圧下で濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製すると、目的の(2R)-1-((tert-ブトキシ(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)エトキシ)ホスホリル)オキシ)-3-(((E)-オクタデカ-2-エン-1-イル)オキシ)プロパン-2-イル(5Z,8Z,11Z,14Z)-イコサ-5,8,11,14-テトラエノエートが無色の液体として得られた(33.8 mg, 38%)。
【0135】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 5.68 (1H, dt, Jd = 15.3 Hz, Jt = 6.8 Hz), 5.49 (1H, dtt, Jd = 15.3 Hz, Jt = 1.3, 6.3 Hz), 5.43-5.30 (8H, m), 5.19-5.12 (2H, m), 4.21-4.16 (1H, m), 4.15-4.09 (1H, m), 4.08-4.01 (2H, m), 3.97-3.89 (2H, m), 3.55 (2H, d, J = 5.2 Hz), 3.42-3.37 (2H, m), 2.86-2.78 (6H, m), 2.36 (2H, t, J = 7.6 Hz), 2.11 (2H, dt, Jd = 7.0 Hz, Jt = 6.9 Hz), 2.06 (2H, dt, Jd = 7.1 Hz, Jt = 7.1 Hz), 2.03 (2H, dt, Jd = 7.2 Hz, Jt = 7.2 Hz), 1.75-1.67 (2H, m), 1.50 (9H, s, one diastereomer), 1.49 (9H, s, the other diastereomer), 1.44 (9H, s), 1.39-1.22 (32H, m), 0.89 (3H, t, J = 6.9 Hz), 0.88 (3H, t, J = 6.9 Hz).
【0136】
[工程13:基質のSn-3位の脱保護及びアミン化]
【0137】
【0138】
(2R)-1-((tert-ブトキシ(2-((tert-ブトキシカルボニル)アミノ)エトキシ)ホスホリル)オキシ)-3-(((E)-オクタデカ-2-エン-1-イル)オキシ)プロパン-2-イル (5Z,8Z,11Z,14Z) -イコサ-5,8,11,14-テトラエノエート(32.5 mg, 0.036 mmol)のジクロロメタン溶液(0.36 mL)に対して、室温で0.36 mLのトリフルオロ酢酸を加え、そのまま2時間撹拌した。反応混合物をそのまま減圧下で濃縮すると、目的の2-((ヒドロキシ((R)-2-(((5Z,8Z,11Z,14Z)-イコサ-5,8,11,14-テトラエノイル)オキシ)-3-(((E)-オクタデカ-2-エン-1-イル)オキシ)プロポキシ)ホスホリル)オキシ)エタン-1-アンモニウム 2,2,2-トリフルオロアセテート(KIT-020)が無色の液体として得られた(31.3 mg, quant)。
【0139】
1H NMR (500 MHz, CDCl3) δ 7.91 (3H, brs), 5.68 (1H, dt, Jd = 15.2 Hz, Jt = 6.8 Hz), 5.48 (1H, dt, Jd = 14.7 Hz, Jt = 6.6 Hz), 5.43-5.30 (8H, m), 5.19-5.14 (1H, m), 4.22-4.12 (2H, m), 4.12-3.97 (2H, m), 3.96-3.89 (2H, m), 3.53 (2H, d, J = 4.7 Hz), 3.30-3.21 (2H, m), 2.85-2.78 (6H, m), 2.35 (2H, t, J = 7.7 Hz), 2.10 (2H, dt, Jd = 7.2 Hz, Jt = 7.2 Hz), 2.05 (2H, dt, Jd = 7.5 Hz, Jt = 7.5 Hz), 2.02 (2H, dt, Jd = 7.4 Hz, Jt = 7.4 Hz), 1.72-1.64 (2H, m), 1.38-1.22 (32H, m), 0.89 (3H, t, J = 6.9 Hz), 0.88 (3H, t, J = 7.5 Hz).
【実施例2】
【0140】
上記製造した本発明の化合物KIT-008、KIT-019、KIT-020について、その効果の確認を行った。
【0141】
[試験1:本発明の化合物KIT-008のIL-1βの低減効果(抗炎症効果)の評価]
2%FBS(ウシ胎仔血清)を含むDMEM培地を用い、本発明の化合物KIT-008の添加あり(5μg/ml)、及び添加なしの各条件下でマウスのミクログリア細胞(BV2)を12時間培養した。その後、LPS(1μg/ml)で2時間処理し、RNA抽出キット(TRI Reagent, Molecular Research Center Inc.)を用いて細胞内のRNAを抽出し、炎症性サイトカインIL-1βの発現、及びコントロールとしてGapdh遺伝子のRNA発現を半定量PCR(TaKaRa PrimeScript 1st strand cDNA synthesis Kit, TAKARA BIOTECHNOLOGY Co., LTD.)によって検出した。
【0142】
その結果を
図1に示す。
図1に示すように、KIT-008を添加した培地で培養したミクログリア細胞(BV2)において、LPS誘発炎症性サイトカインIL-1βの発現が低減された。
【0143】
[試験2:本発明の化合物KIT-008及びKIT-020のp65核内蓄積抑制効果(抗炎症効果)の評価]
2%FBS(ウシ胎仔血清)を含むDMEM培地を用い、本発明の化合物KIT-008及びKIT-020の添加あり(5μg/ml)、及び添加なしの各条件下でマウスのミクログリア細胞(BV2)を12時間培養した。その後、LPS(1μg/ml)で2時間処理し、細胞核内のタンパク質を抽出して、一次抗体としてNF-κB p65(Cell Signaling Technology, クローン名D14E12)及び二次抗体としてAnti-Rabbit IgG HRP-linked antibody (Cell Signaling Technology)を用いてウエスタンブロッティング法によりp65(NFkB)タンパク発現を検出した。
【0144】
その結果を
図2に示す。
図2に示すように、KIT-008及びKIT-020を添加した培地で培養したミクログリア細胞(BV2)において、LPS誘発によるp65の核内蓄積が抑制された。特に、KIT-020を用いた場合に、顕著にp65の核内蓄積が抑制されることが明らかとなった。
【0145】
[試験3:本発明の化合物KIT-019及びKIT-020のp65核内蓄積抑制効果(抗炎症効果)の評価]
2%FBS(ウシ胎仔血清)を含むDMEM培地を用い、本発明の化合物KIT-019及びKIT-020の添加あり(5μg/ml)、及び添加なしの各条件下でマウスのミクログリア細胞(MG6)を24時間培養した。その後、LPS(1μg/ml)で8時間処理し、細胞核内のタンパク質を抽出して、一次抗体としてNF-κB p65(Cell Signaling Technology, クローン名D14E12)及び二次抗体としてAnti-Rabbit IgG HRP-linked antibody (Cell Signaling Technology)を用いてウエスタンブロッティング法によりp65(NFkB)タンパク発現を検出した。
【0146】
その結果を
図3に示す。
図3に示すように、KIT-019及びKIT-020を添加した培地で培養したミクログリア細胞(MG6)において、LPS誘発によるp65の核内蓄積が顕著に抑制された。
【0147】
[試験4:本発明の化合物KIT-019及びKIT-020のIL-1βの低減効果(抗炎症効果)の評価]
2%FBS(ウシ胎仔血清)を含むDMEM培地100μl入りの96ウェルディッシュで、マウスのミクログリア細胞(MG6)5000個を培養した。次いで、本発明の化合物KIT-019及びKIT-020を5μg/ml添加し、24時間培養した。その後、LPS(1μg/ml)で8時間処理した。培養液を回収し、DuoSet Mouse IL-1β(R&D Systems)を用いたELISA法により分泌されたIL-1βタンパクを測定した。
【0148】
その結果を
図4に示す。
図4に示すように、KIT-019及びKIT-020を添加したミクログリア細胞(MG6)において、LPS誘発炎症性サイトカインIL-1βタンパクの発現が顕著に低減された。
【0149】
以上より、本発明の化合物は、優れた抗炎症作用を示すことがわかる。
【実施例3】
【0150】
Rett症候群(RTT)は、X染色体上にあるMeCP2遺伝子の変異によって引き起こされる進行性の神経発達障害である。主に女児に発症し、生後半年から一年程は正常に成長するが、その後、自閉症傾向等の様々な神経学的症状を示す。しかしながら、MeCP2の機能不全がRTTのような発達障害を引き起こす分子メカニズムの詳細は明らかになっていない。
本実施例では、RTTと同様の表現型を示すMeCP2欠損マウスを用いて、本発明の化合物がマウスの成長に与える影響を調査した。
【0151】
[試験1:寿命への関与の評価]
実験には、4週齢の雄性MeCP2欠損マウスを用いた。MeCP2欠損マウスを、KIT-008投与群(KO-KIT-008、n=13)、対照群(KO-All、n=28)の2群に分けた。投与群マウスの体重を予め測定し、KIT-008を20ng/g体重で摂取するように超音波処理により化合物KIT-008を水に懸濁し、1週間に2回飲水投与し続け、生存を検証した。また、対照群には水のみを同様に与えた。
【0152】
その結果を
図5に示す。
図5に示すように、本発明の化合物KIT-008を投与したMeCP2欠損マウスは、投与しないMeCP2欠損マウスより生存率が高く、生存率が50%となるまでの日数は、対照群のマウスは64.5日間であった。一方、KO-KIT-008投与群のマウスの生存日数は、平均78日間であった。
【0153】
以上より、本発明の化合物を投与したマウスにおいては、寿命が長くなることが示された。
【0154】
[試験2:RTT様スコアリングの評価]
本発明の化合物を投与したMeCP2欠損マウスのRTT様症状について、スコアリングによる評価を行った。実験には、4週齢の雄性MeCP2欠損マウスを用いた。MeCP2欠損マウスを、KIT-020投与群(KO-KIT-020、n=15)、KIT-019投与群(KO-KIT-019、n=16)、KIT-008投与群(KO-KIT-008、 n=13)、対照群(KO-2021、n=15)の4群に分けた。投与群には、化合物を上記と同じ方法で20ng/g体重となるように水に溶解し、飲水投与した。また、対照群には水のみを同様に与えた。
スコアリングは、以下の1~6の項目について、5週齢から週に1回行った。
【0155】
1.Mobility
マウスを台の上に穏やかに置いて観察。
0点:野生型と同じ。
1点:野生型と比較して、動きが少ない。(始めに台に置いた時にフリージング期間が長い、じっとしている時間が長い。)
2点:台に置いてから自発的な動きがない。穏やかな刺激またはすぐ近くに置かれたエサに反応して動くことは出来る。
2. Gait
0点:野生型と同じ。
1点:骨盤の高度の減少を伴って、歩行または走行時、後ろ足が野生型よりも広がっている。よたつき歩行。あひる歩行。
2点:より顕著な異常。足が上がった時に揺れる、後方へ歩く、後ろ足が同時に持ち上がる。
【0156】
3. Hindlimb clasping
尻尾の付け根を持って吊るした時のマウスを観察。
0点:足を外に広げる。
1点:後ろ足をもう片方の方向へ引く、または片足を体へ引く。
2点:両足をきつく引き寄せる。お互いが引っ付くまたは体に触れる。
4. Tremor
平らな手のひらの上に立っているマウスを観察。
0点:揺れない。
1点:断続的で軽度な揺れ。
2点:連続した揺れ、または断続的な激しい揺れ。
【0157】
5. Breathing
動物が静止状態にある間の脇腹の動きを観察する。
0点:普通の呼吸。
1点:規則的な呼吸の期間と、短期間のより速い呼吸または呼吸停止がともに散在する。
2点:かなり不規則な呼吸。喘ぎまたは息切れ。
6. General condition
コート条件(毛なみ)、目、姿勢のような一般的な幸福の指標に基づいて観察した。
0点:きれいでつやのある毛、きれいな目、通常の姿勢。
1点:うつろな目、光沢のない毛/毛繕いしない、若干の猫背姿勢。
2点:目をつぶったままの状態または細めた目、立毛、猫背姿勢。
【0158】
その結果を
図6に示す。
図6に示すように、本発明の化合物を用いることにより、マウスのRTT様スコアが低下することが確認された。したがって、本発明の化合物を投与することにより、RTT様症状が改善されることが明らかとなった。
【0159】
[試験3:体重の推移の評価]
本発明の化合物を投与したMeCP2欠損マウスの体重を毎週測定し、体重の推移を評価した。実験には、4週齢の雄性MeCP2欠損マウスを用いた。MeCP2欠損マウスを、KIT-020投与群(KO-KIT-020、n=16)、KIT-019投与群(KO-KIT-019、n=16)、KIT-008投与群(KO-KIT-008、n=12)、対照群(KO-2021、n=21)の4群に分けた。投与群には、化合物を上記と同じ方法で20ng/g体重となるように水に溶解し、飲水投与した。また、対照群には水のみを同様に与えた。
【0160】
その結果を
図7に示す。体重の推移は、当初の体重に対する相対値で示した。
図7に示すように、本発明の化合物を投与したマウスでは、対照群であるKOマウスの体重推移と統計的な差は見出されなかった(t-検定)。
【0161】
[試験4:毒性の評価]
本発明の化合物を投与した野生型マウスの体重の推移から、本発明の化合物がマウスに与える毒性を評価した。
【0162】
4週齢の雄性野生型マウスに対して、試験3と同様の方法で、20ng/g体重の本発明の化合物を飲水投与した。また、野生型対照群には水のみを与えた。
【0163】
その結果を
図8に示す。
図8に示すように、本発明の化合物を投与したマウスにおいて、対照群と同様の体重増加が確認された。
したがって、本発明の化合物には、毒性がないと考えられる。
【実施例4】
【0164】
細胞小器官「リソソーム」は、酸性条件下で働く酵素を持ち、代謝廃棄物、タンパク質、核酸などの分解や除去、再利用に関与している。しかし、アルツハイマー病等によって神経細胞が損傷すると、リソソーム内の酸性レベルが低下し、リソソームは、分解しきれなかった老廃物で満たされた「自己貪食液胞」と結合するにつれて肥大化していく。また、この自己貪食液胞には、初期のアミロイドベータ(Aβ)も含まれており、アミロイドベータが蓄積するよりも前に、神経細胞のリソソーム内の酸性度の障害に起因して神経細胞が損傷する(Ju-Hyun Lee et al. (2022) Faulty autolysosome acidification in Alzheimer’s disease mouse models induces autophagic build-up of Aβ in neurons, yielding senile plaques. Nat. Neurosci. 25: 688-701)。
【0165】
[試験1]
本試験では、本発明の化合物のリソソームの酸性度障害への影響を調査した。
【0166】
[予備試験:リソソームの酸性度を障害する実験系の確立]
通常のDMEM培地で培養したマウス神経細胞Neuro2a (N2a)において、酸性のオルガネラ(細胞小器官)であるリソソームに特異性が高くpH変化に抵抗性の蛍光色素であるLysoPrime Green (Dojindo)でリソソームを標識した。
次いで、エンドトキシンであるリポ多糖 (LPS)で処理(1μg/ml, 18 h)したマウスグリア細胞BV2の培養上清、あるいは未処理のBV2培養上清で、N2aを培養し、酸性オルガネラに標的するLysoTrackerTMRed DND-99 (Thermo Fisher Sciencific)で標識した。
【0167】
その結果、
図9に示すように、LPS投与したBV2の培養上清で培養したN2aのリソソームへのLysoTracker Redの標的化は著しく抑制され、リソソームの酸性度の障害が認められた。すなわち、炎症に起因する培地中のグリア細胞由来因子によって神経細胞のリソソームの酸性化が障害されるとことが示された。
【0168】
[試験:リソソームの酸性度障害に対する本発明の化合物の効果の確認]
上記実験系を用いて、本発明の化合物のリソソームの酸性化障害に対する効果を確認した。
【0169】
N2a細胞の培地に本発明のKIT-008, KIT-019, KIT-020それぞれを加え24時間培養した後に、LPS投与したBV2の培養上清で各化合物存在下さらに24時間培養した。この結果、
図10に示すように、本発明のKIT-008, KIT-019, KIT-020は、グリア細胞由来因子を原因とする神経細胞のリソソームの酸性化障害を改善した。中でもKIT-008の効果は、最も高かった。
【0170】
[試験2]
本試験では、本発明の化合物がN2a細胞で実際にアミロイドベータ(Aβ)蓄積を抑制するかを調査した。
【0171】
CFPAPPsw (BACEによって切断されやすいスウェーデン型のアミノ酸置換を有するアミロイド前駆体タンパク質(APPsw)のN末端部に蛍光タンパク質CFPを融合するCFPAPPsw)をコードするcDNAを有するプラスミドをN2a細胞に発現させ、未処理のマウスグリア細胞BV2培養上清 (-LPS)、LPSで処理したBV2の培養上清(LPS処理BV2由来培地)、およびKIT-008を投与したN2a細胞のアミロイドベータ (Aβ) の局在をAβ部分を認識する抗体6E10(BioLegend)で検証した。
【0172】
その結果、
図11に示すように、通常培地では、Aβはリソソームに局在しないが、炎症によるグリア細胞由来因子を原因とするリソソームの酸性化が障害されたN2a細胞では、リソソームにAβが検出された。このリソソームへのAβの蓄積は、KIT-008で予め処理することで解消された。すなわち、アルツハイマー病発症の初期に見られるリソソームの酸性度の障害によるAβのリソソームへの蓄積は、KIT-008によるリソソームの酸性度障害の改善によって抑制されたと考えられる。
【0173】
本発明の化合物は、リソソームの酸性度の障害を改善し、アミロイドベータ(Aβ)のリソソームへの蓄積を抑制することから、アルツハイマー病の予防、改善の効果が期待される。
【実施例5】
【0174】
マウスのLPS誘発性記憶障害に対する本発明の化合物の影響を調査した。
具体的には、8週齢の雄性c57BL6Jマウス(各群5匹、n=5)に、本発明の化合物(KIT-008、KIT-020)を10mg/50kg/日の用量で4週間飲用させた後、同様に化合物の飲用をさせつつLPS処理(200mg/kg/日)を7日間行った。その後、水迷路試験を2日間行った(1日3回試行)。
【0175】
その結果を
図12に示す。Escape Latencyは、脱出プラットフォームに到達するのに必要な時間(到達時間)を示す。群間比較は、ANOVA検定とBonferroniの事後検定により行った。LPS群は、コントロール群に比べ記憶力の低下(到達時間の増加)を示した(P<0.01)。KIT-008群、KIT-020群では、Trial 6において、LPS群に比べ、記憶力の向上が見られた(それぞれP<0.05)。したがって、本発明の化合物は脳機能(認知機能)の改善に有効である。
【実施例6】
【0176】
マウスの脳組織(海馬組織)でのLPS誘発アミロイドベータ(Aβ)の沈着に対する本発明の化合物の影響を調査した。
具体的には、8週齢の雄c57BL6Jマウスに、本発明の化合物(KIT-008, KIT-020)を10 mg/50kg/日の用量で4週間飲用させた後、同様に化合物の飲用をさせつつLPS処理(200 mg/kg/日)を10日間行った。マウスの海馬組織を、抗アミロイドベータ抗体(6E10 (BioLegend)および82E1 (Immuno-Biological Laboratories Co,Ltd)の2つの抗体のカクテル)を用いて免疫組織化学試験に供した。細胞核の染色にはDAPIを使用した。
【0177】
その結果を
図13及び
図14(グラフ)に示す。
図13のスケールバーは100μmであり、矢印は、沈着したアミロイドベータを示す。
図14のデータは、各群(3匹、n=3)の沈着したアミロイドベータの数の平均値を表す。LPS群は、コントロール群に比べ、アミロイドベータの沈着が認められたが、KIT-008群、KIT-020群では、LPSによるアミロイドベータの沈着が抑制された。
【実施例7】
【0178】
マウスの脳組織(海馬組織)での脳内炎症を原因とする誘導型ー酸化窒素合成酵素 (iNOS)の発現増加を指標とし、本発明の化合物のiNOS発現誘導に対する影響を調査した。
具体的には、8週齢の雄c57BL6Jマウスに、本発明の化合物(KIT-008, KIT-020)を10 mg/50kg/日の用量で4週間飲用させた後、同様に化合物の飲用をさせつつLPS処理(200 mg/kg/日)を10日間行った。マウス脳組織を、抗NeuN抗体(神経細胞マーカー、Millipore MAB377)および抗iNOS抗体(炎症マーカー、Invitrogen PA1-036)を用いて、免疫組織化学(IHC)研究に供した。細胞核の染色にはDAPIを使用した。
【0179】
その結果を
図15及び
図16(グラフ)に示す。
図15のスケールバーは50μmであり、矢印は、iNOS陽性神経細胞を示す。
図16のデータは、各群(3匹、n=3)の平均値を表す。LPS群は、コントロール群に比べ、iNOS陽性神経細胞数が増加したが、KIT-008群、KIT-020群では、LPSによるiNOS陽性神経細胞の増加が抑制された。
【実施例8】
【0180】
マウスの脳組織(海馬組織)でのLPS誘発性のアメーバ状ミクログリア(Iba1陽性細胞)及びアメーバ状アストロサイト(GFAP陽性細胞)の増加に対する本発明の化合物の影響を調査した。なお、アメーバ状は、ミクログリア及びアストロサイトにおける炎症を表す。また、マウスの脳組織(海馬組織)でのLPS誘発性アストロサイト(GFAP陽性細胞)の増加に対する本発明の化合物の影響を調査した。
【0181】
具体的には、8週齢の雄c57BL6Jマウスに、本発明の化合物(KIT-008, KIT-020)を10 mg/50kg/日の用量で4週間飲用させた後、同様に化合物の飲用をさせつつLPS処理(200 mg/kg/日)を10日間行った。マウス脳組織を、Iba1(ミクログリアマーカー、Fujifilm 019-19741)及びGFAP(アストロサイトマーカー、Sigma C9205)を用いて、免疫組織化学研究に供した。細胞核の染色にはDAPIを使用した。
【0182】
その結果を
図17及び
図18(グラフ)に示す。
図17のスケールバーは100μmである。
図18のデータは、各群(3匹、n=3)におけるアメーバ状のミクログリア及びアメーバ状のアストロサイトの割合(上段)、及びアストロサイト(GFAP陽性細胞)数(下段)を表す。LPS群は、コントロール群に比べ、アメーバ状のミクログリア(Iba1陽性細胞)及びアメーバ状のアストロサイト(GFAP陽性細胞)が増加した。また、アストロサイト(GFAP陽性細胞)が増加した。しかし、KIT-008群、KIT-020群では、LPSによるアメーバ状のミクログリア(Iba1陽性細胞)及びアメーバ状のアストロサイト(GFAP陽性細胞)、並びにアストロサイト(GFAP陽性細胞)の増加が抑制された。
【産業上の利用可能性】
【0183】
本発明の新規化合物は、医薬組成物等として用いることができるものであることから、産業上有用である。