(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】組積構造
(51)【国際特許分類】
E04B 2/84 20060101AFI20250205BHJP
E04B 2/52 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
E04B2/84 Z
E04B2/52
(21)【出願番号】P 2024560581
(86)(22)【出願日】2024-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2024027534
【審査請求日】2024-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2023137847
(32)【優先日】2023-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523000178
【氏名又は名称】株式会社Aster
(74)【代理人】
【識別番号】110004222
【氏名又は名称】弁理士法人創光国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正臣
(72)【発明者】
【氏名】ラジャセカラン・シャンタヌ
(72)【発明者】
【氏名】山本 憲二郎
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2021/0054623(US,A1)
【文献】米国特許第04324080(US,A)
【文献】特公昭63-010261(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/84
E04B 2/00 - 2/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の組積材が水平方向及び鉛直方向に配置された組積造壁であって、前記組積材は複数の貫通孔が形成されるとともに端部に前記貫通孔と同じ方向に延びる凹部が形成されている、組積造壁と、
複数の前記貫通孔が鉛直方向に繋がることによって形成された複数の第1縦孔、及び、互いに隣接する前記組積材間で複数の前記凹部が鉛直方向に繋がることによって形成された第2縦孔のうちの少なくともいずれかに通された補強部材と、
前記補強部材が通された前記第1縦孔又は前記第2縦孔に充填された充填材と、
前記組積造壁の壁面に形成された補強コーティング層と、
を備え、
前記複数の第1縦孔及び前記第2縦孔のうち前記補強部材が通されていない複数の縦孔のうち少なくとも1つに前記充填材が充填されていない、
組積構造。
【請求項2】
互いに隣接する前記組積材の間に充填材が充填されており、前記充填材は、前記組積材の表面よりも突出した突出部を形成するように、又は、前記表面よりも窪んだ凹陥部を形成するように充填され、
前記補強コーティング層は、前記突出部又は前記凹陥部に密着するように形成されている、
請求項1に記載の組積構造。
【請求項3】
前記補強コーティング層は、前記組積造壁の前記壁面と、建物の構造体との両方に接触するように形成されている、
請求項1又は2に記載の組積構造。
【請求項4】
前記補強コーティング層は、
前記組積造壁の前記壁面に形成された領域のうち上方の第1領域の厚さが相対的に薄く、前記第1領域より下方の第2領域の厚さが相対的に厚くなるように形成されている、
請求項1又は2に記載の組積構造。
【請求項5】
前記補強コーティング層は、
前記組積造壁の前記壁面に形成された領域のうち中央領域の厚さが相対的に厚く、前記中央領域の周辺の周辺領域の厚さが相対的に薄くなるように形成されている、
請求項1又は2に記載の組積構造。
【請求項6】
前記補強コーティング層の材質が繊維強化樹脂である、
請求項1又は2に記載の組積構造。
【請求項7】
建物内に配置された前記組積造壁が倒れないように前記組積造壁と前記建物の構造体とを接続する転倒防止部品をさらに備え、
前記転倒防止部品は、
前記組積造壁の上端において、前記第1縦孔と前記第2縦孔のうち前記充填材が充填されていない縦孔に挿入される本体部と、
前記本体部から上方に向かって延び出し、前記構造体に固定される係止部材と、
を有する、
請求項1又は2に記載の組積構造。
【請求項8】
前記本体部は、下端側に向かうにつれて幅が狭くなるテーパ状の外周面を有する、
請求項7に記載の組積構造。
【請求項9】
前記組積造壁の上端と前記建物の構造体との間に隙間が生じるように、前記組積造壁が設けられている、請求項7に記載の組積構造。
【請求項10】
前記組積造壁は、前記組積造壁の外周部から突出し、建物内に配置された前記組積造壁が倒れないように前記建物の構造体に固定される固定部をさらに有する、
請求項1又は2に記載の組積構造。
【請求項11】
複数の組積材が水平方向及び鉛直方向に配置された組積造壁であって、前記組積材には貫通孔が形成されている、組積造壁と、
複数の前記貫通孔が鉛直方向に繋がることによって形成された複数の縦孔のうちの少なくともいずれかに通された補強部材と、
前記補強部材が通された前記縦孔に充填された充填材と、
前記組積造壁の壁面に形成された補強コーティング層と、
を備え、
前記複数の縦孔のうち前記補強部材が通されていない前記縦孔の少なくとも1つに前記充填材が充填されていない、
組積構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組積構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、貫通孔が形成された複数のレンガが積層され、そのレンガ群の内部に補強用の鉄筋が設けられるとともに、レンガの貫通孔内にモルタルが充填された組積造壁が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の組積造壁は、鉄筋やモルタルによって補強されているものの壁の強度が十分に確保されない場合がある。一方、壁の強度を向上させるために例えば組積材の内部に充填されるモルタルや鉄筋の量を増やすと、壁全体の重量が増加してしまうという問題が生じる。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、壁を軽量化することができ、壁の強度も向上させることが可能な組積構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の組積構造は、複数の組積材が水平方向及び鉛直方向に配置された組積造壁であって、前記組積材は複数の貫通孔が形成されるとともに端部に前記貫通孔と同じ方向に延びる凹部が形成されている、組積造壁と、複数の前記貫通孔が鉛直方向に繋がることによって形成された複数の第1縦孔、及び、互いに隣接する前記組積材間で複数の前記凹部が鉛直方向に繋がることによって形成された第2縦孔のうちの少なくともいずれかに通された補強部材と、前記補強部材が通された前記第1縦孔又は前記第2縦孔に充填された充填材と、前記組積造壁の壁面に形成された補強コーティング層と、を備え、前記複数の第1縦孔及び前記第2縦孔のうち前記補強部材が通されていない複数の縦孔のうち少なくとも1つに前記充填材が充填されていない。
【0007】
互いに隣接する前記組積材の間に充填材が充填されており、前記充填材は、前記組積材の表面よりも突出した突出部を形成するように、又は、前記表面よりも窪んだ凹陥部を形成するように充填され、前記補強コーティング層は、前記突出部又は前記凹陥部に密着するように形成されていてもよい。
【0008】
前記補強コーティング層は、前記組積造壁の前記壁面と、建物の構造体との両方に接触するように形成されていてもよい。
【0009】
前記補強コーティング層は、前記組積造壁の前記壁面に形成された領域のうち上方の第1領域の厚さが相対的に薄く、前記第1領域より下方の第2領域の厚さが相対的に厚くなるように形成されていてもよい。
【0010】
前記補強コーティング層は、前記組積造壁の前記壁面に形成された領域のうち中央領域の厚さが相対的に厚く、前記中央領域の周辺の周辺領域の厚さが相対的に薄くなるように形成されていてもよい。
【0011】
前記補強コーティング層の材質が繊維強化樹脂であってもよい。
【0012】
本発明の組積構造は、建物内に配置された前記組積造壁が倒れないように前記組積造壁と前記建物の構造体とを接続する転倒防止部品をさらに備え、前記転倒防止部品は、前記組積造壁の上端において、前記第1縦孔と前記第2縦孔のうち前記充填材が充填されていない縦孔に挿入される本体部と、前記本体部から上方に向かって延び出し、前記構造体に固定される係止部材と、を有していてもよい。
【0013】
前記本体部は、下端側に向かうにつれて幅が狭くなるテーパ状の外周面を有していてもよい。
【0014】
前記組積造壁の上端と前記建物の構造体との間に隙間が生じるように、前記組積造壁が設けられていてもよい。
【0015】
本発明の組積構造は、前記組積造壁は、前記組積造壁の外周部から突出し、建物内に配置された前記組積造壁が倒れないように前記建物の構造体に固定される固定部をさらに有していてもよい。
【0016】
本発明の組積構造は、複数の組積材が水平方向及び鉛直方向に配置された組積造壁であって、前記組積材には貫通孔が形成されている、組積造壁と、複数の前記貫通孔が鉛直方向に繋がることによって形成された複数の縦孔のうちの少なくともいずれかに通された補強部材と、前記補強部材が通された前記縦孔に充填された充填材と、前記組積造壁の壁面に形成された補強コーティング層と、を備え、前記複数の縦孔のうち前記補強部材が通されていない前記縦孔の少なくとも1つに前記充填材が充填されていない。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、壁を軽量化することができ、壁の強度も向上させることが可能な組積構造を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一形態の組積構造を示す斜視図である。
【
図3】
図1の組積構造を前面側から見た模式図である。
【
図4】
図1の組積構造を水平方向に切断した断面図である。
【
図6】第1変形例の組積構造の他の例を示す断面図である。
【
図10】第3変形例の組積構造の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<第1実施形態>
図1は、本発明の一形態の組積構造を示す斜視図である。
図2は、組積造壁を構成する組積材の斜視図である。
図1では、補強コーティング層40は、一部分が切除された状態で描かれている。図中の上下方向は鉛直方向に対応する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の組積構造S100は、組積造壁10と、補強部材20と、充填材30と、補強コーティング層40とを備えている。組積構造S100は、建物の内壁又は外壁として使用される。
【0021】
組積造壁10は、水平方向及び鉛直方向に配置された複数の組積材11を有している。
組積造壁10は、複数の組積材11が格子状に積まれたいわゆる芋積みの積層方式で設けられている。組積造壁10は、上下それぞれの段で組積材11の位置を水平方向にずらしたいわゆる馬積みの積層方式で設けられていてもよい。
【0022】
組積材11は、建築用のレンガ又はブロック材であり、
図2に示すように一例として直方体である。組積材11の密度は、例えば1.5g/cm
3以上である。組積材11は、例えばウレタンフォームのブロック材のような軽量のものではなく、この例では、比較的重量のあるブロック材である。組積材11は、複数の貫通孔11hと、凹部11gが形成されている。貫通孔11hは、組積材11の高さ方向に延在している。本実施形態の組積材11では、3つの貫通孔11hが形成されている。
【0023】
本発明では、密度が0.3g/cm3以上の組積材が使用されてもよい。組積材11は、木材又はAAC発泡コンクリート等であってもよい。
【0024】
凹部11gは、組積材11の幅方向の両端部に形成されている。凹部11gは、貫通孔11hと同様、組積材11の高さ方向に延在している。なお、本実施形態では
図2の組積材11を例示するが、組積材11は
図2のような構成に限定されるものではない。例えば、凹部11gは両端ではなく片方の端部のみに形成されていてもよい。凹部11gのみが形成され、貫通孔11hが設けられていない組積材が利用されてもよい。また、凹部11gが形成されておらず、貫通孔11hのみを有する組積材が利用されてもよい。また、組積造壁10には、組積材11の上面及び下面の両方又は片方の面に水平方向に延在する凹部が形成された形状のものが含まれていてもよい。
【0025】
図3は、
図1の組積構造を前面側から見た模式図である。
図3では、組積構造の一部を断面図で示している。
図4は、
図1の組積構造を水平方向に切断した断面図である。組積構造S100は、
図3に示すように、第1縦孔15と、第2縦孔16とを有している。
【0026】
第1縦孔15は、互いに積層された組積材11の貫通孔11hが鉛直方向に繋がることによって形成された孔であり、鉛直方向に延びている。第2縦孔16は、
図3及び
図4に示すように、水平方向に互いに隣接する組積材11、11間で、複数の凹部11gが鉛直方向に繋がることによって形成された孔である。
【0027】
補強部材20は、組積造壁10の剛性等を確保するために壁内に配置された部材である。補強部材20は、例えば棒状の鉄筋である。補強部材20は、第1縦孔15及び第2縦孔16のうちの一部の縦孔に配置される。本実施形態では、補強部材20は、第2縦孔16に配置されている。なお、補強部材20は、複数の第2縦孔16のうちの一部にだけ配置されてもよい。なお、補強部材20の機能としては、必ずしも剛性の向上のみではなく、組積造壁10の例えば曲げ・引張・せん断抵抗性を補ったり、組積造壁10の靭性を向上させたりする機能も挙げられる。
【0028】
充填材30は、例えばモルタルである。充填材30は、補強部材20が通された第2縦孔16に充填されている。充填材30は、補強部材20と各組積材11とを固定する。充填材30は、また、隣接する組積材11どうしを固定する。
【0029】
充填材30は、例えば、第2縦孔16に補強部材20が配置された状態で、第2縦孔16の上方から第2縦孔16内に注入されることによって充填される。
図1では、複数の組積材11が互いに接するように描かれているが、
図4に示すように、組積材11は、互いに所定の隙間dを空けた状態で配置されていてもよい。この隙間dを埋めるように、充填材30が充填される。
【0030】
充填材30は、第1縦孔15と第2縦孔16との複数の縦孔のうち、一部の縦孔に充填される。本実施形態では、補強部材20が配置された第2縦孔16に充填材30が充填されている。本実施形態のように、補強部材20が通されていない複数の縦孔のうち少なくとも1つに充填材30が充填されていない構成によれば、組積構造S100を軽量化することができる。なお、充填材30が充填されていない第1縦孔15又は第2縦孔16の一部又は全部に充填材30とは別の部材が入れられていてもよい。当該部材は、例えば、モルタル以外の軽量物であり、樹脂発泡体やグラスウールが例示される。当該部材が入れられた第1縦孔15又は第2縦孔16には、補強部材20が通されていないことも好ましい。モルタル以外の軽量物は、例えば、密度が1.0g/cm3未満のものであってもよい。
【0031】
組積構造S100における補強部材20の量は、例えば、組積造壁10の体積1m3に対して、0kg超50kg以下である。組積構造S100における充填材30の量は、例えば、組積造壁10の体積1m3に対して、0t超2.5t以下(好ましくは0t超1.7t以下)である。補強部材20及び/又は充填材30の量をこのような範囲に調整することで、壁の強度の向上を図りつつ、壁の軽量化を実現し得る。
【0032】
補強コーティング層40は、組積造壁10の壁面に設けられて組積造壁10を補強するコーティング層である。補強コーティング層40は、組積造壁10の両面に形成されていてもよいし、片面に形成されていてもよいが、本実施形態では片面に形成されている。補強コーティング層40は、組積造壁10の壁面のうち一部にのみ形成されていてもよいし、全面に形成されていてもよい。
【0033】
塗布された塗料が乾燥することにより、組積造壁10の壁面に所定の厚さの補強コーティング層40が形成される。補強コーティング層40は、壁面に密着するように形成されることで、組積構造S100の剛性、強度及び変形能の少なくとも何れかを高める。補強コーティング層40は、例えば繊維強化樹脂の層である。補強コーティング層40は、具体的には、一種又は複数種の繊維材料を含む塗料である。補強コーティング層40は、硬化前は流動性を有し、組積造壁10に対して例えばローラ、コテ、刷毛又はスプレーにより塗布される。なお、塗料の硬化は、硬化剤による硬化であってもよいし、乾燥による硬化であってもよいし、乾燥と硬化剤の併用による硬化であってもよい。
【0034】
(補強コーティング層40の具体例)
補強コーティング層40の材質は、具体的には次のようなものであってもよい。補強コーティング層40は、塗料にガラス繊維が混入され、スラリ状を呈する。塗料としては、塗布面が単層のゴム状を呈するいわゆる弾性塗料であってもよい。塗料は、例えば、架橋性アクリルエマルジョンを主成分としたアクリル塗料が好ましい。
【0035】
ガラス繊維は、例えば1μm~20μmの直径である。ガラス繊維の長さは、例えば、1mm~20mmの範囲である。
【0036】
ガラス繊維をアクリル系塗料に混入することによりガラス繊維が塗料中に懸濁したスラリを得ることができる。塗料の重量に対するガラス繊維の重量比率は、例えば1%~40%である。
【0037】
補強コーティング層40を塗布する工程においては、一例として、プライマー材が組積造壁10に塗布されてもよい。塗料中にガラス繊維を懸濁させた塗料が、プライマーの乾燥後に塗布される。架橋性アクリルエマルジョンの塗料は、塗布後、組積造壁10の表面形態にかかわらず同壁に強固に付着する単層の層を形成する。このように形成された層は防水性に優れたものとなる。なお、塗料としては、アクリル塗料に代えてウレタン系の塗料が用いられてもよい。
【0038】
補強コーティング層40は、特性の異なる複数の層が積層されるように形成されていてもよい。補強コーティング層40は、組積材11の表面に直接形成されるのではなく、組積材11の表面に形成されたモルタル等の層上に形成されてもよい。
【0039】
補強コーティング層40を構成し得る繊維強化樹脂に含まれる樹脂の一部(好ましくは質量基準で過半量)又は全部は、弾性樹脂であることが好ましく、アクリル樹脂、シリコン樹脂、アクリルシリコン樹脂、ウレタン樹脂又は天然樹脂(ラテックス塗料)が好ましい。
【0040】
補強コーティング層40の全質量に対して、樹脂の含有量は、30~99質量%が好ましく、40~96質量%がより好ましく、55~93質量%がさらに好ましい。
【0041】
補強コーティング層40を構成し得る繊維強化樹脂に含まれる繊維材料は、無機繊維(上述のガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維等)でも、有機繊維(アラミド繊維、植物繊維等)でもよく、無機繊維が好ましい。繊維材料の一部(好ましくは質量基準で過半量)又は全部は、無機繊維が好ましく、ガラス繊維がより好ましい。繊維材料は、樹脂との密着性を調整するために表面処理されていてもよい。
【0042】
補強コーティング層40の全質量に対して、繊維材料の含有量は、0.3~6質量%が好ましい。
【0043】
(組積構造S100の効果)
以上説明したように、本実施形態の組積構造S100では、組積造壁10に形成される第1縦孔15及び第2縦孔16のうち補強部材20が通された縦孔(ここでは第2縦孔16)には充填材30が充填され、第1縦孔15には充填材30は充填されていない。このように、充填材30が充填されていない第1縦孔15が存在するため、組積構造S100を軽量化することができる。
【0044】
充填材30が充填されない縦孔の数が多いと組積構造S100全体の剛性及び強度が低下するおそれがあるが、本実施形態では、補強コーティング層40が組積造壁10の壁面に形成され、補強コーティング層40が組積造壁10を補強する部材として機能するため、上記のように組積構造S100を軽量化した場合であっても、組積構造S100の剛性等を確保することができる。
【0045】
このように補強コーティング層40を設けることで、組積構造S100の軽量化と組積構造S100の剛性等の確保とを両立できる。補強コーティング層40は、ローラ、コテ又はスプレーにより塗布することができるため、例えば組積造壁10に対して複雑な構造の補強機構を物理的に固定して組積構造S100の剛性等を確保する方式と比較して、煩雑な作業が少なくて済む。
【0046】
また、本実施形態の組積構造S100では補強コーティング層40が設けられているので、例えばそれぞれの組積材11の強度が不十分な場合であっても、補強部材20、充填材30及び補強コーティング層40で補強された最終的な組積構造S100は十分な強度を有するものとなる。
【0047】
また、強度を維持ないし向上させつつも壁が軽量化した組積構造S100を用いることは、既存の組積造壁を使用した建造物と比べて建造物全体が軽量化されるため、建造物の全体的な設計も見直すことができ、建造物を建造する際の材料及びコストの削減や、二酸化炭素排出量の削減も実現し得る。
【0048】
<変形例1>
図5は、第1変形例の組積構造を示す断面図である。
図5の組積構造S101は、充填材30A及び補強コーティング層40Aを有している。充填材30Aの形状及び補強コーティング層40Aの形状は上記実施形態の構成と異なる。それ以外の構成要素は、上記実施形態と同様であるので、重複する説明は省略する。
【0049】
充填材30Aは、組積材11の側面よりも突出した突出部31を形成するように、隣接する組積材11どうしの間に充填されている。組積材11の表面からの突出部31の突出長さは、例えば組積材11の厚さの5%以上である。具体例として、組積材11の厚さが150mmの場合、突出部31の突出長さは7.5mm以上である。突出部31の突出長さは、また、例えば組積材11の厚さの20%以下である。突出部31は、補強コーティング層40Aの厚さより短いと望ましい。具体例として、組積材11の厚さが150mmの場合、突出部31の突出長さは30mm以下である。突出長さが短すぎないため、補強コーティング層40Aのアンカー効果が十分に得られやすい。また、突出長さが長すぎないため、充填材30Aを配置する工程の作業性が低下しにくい。
【0050】
補強コーティング層40Aは、突出部31に密着するように形成されている。このように補強コーティング層40Aが突出部31に密着するように形成されている場合、アンカー効果により、補強コーティング層40Aが組積造壁10から剥離しにくくなる。
【0051】
図6は、第1変形例の組積構造の他の例を示す断面図である。
図6の組積構造S102のように、充填材30Bは、組積造壁10の壁面よりも窪んだ凹陥部32を形成するように充填されていてもよい。そして、補強コーティング層40Bは、この凹陥部32に密着するように形成されていてもよい。このような構成の場合、補強コーティング層40Bの一部が凹陥部32に入り込むように形成されるため、補強コーティング層40Bが組積造壁10から剥離しにくくなる。
【0052】
<変形例2>
図7は、第2変形例の組積構造を示す断面図である。本発明の組積構造は、補強コーティング層の厚さが組積造壁の全面にわたって均一ではなく、不均一であってもよい。
図7(a)の例では、補強コーティング層40Cは、第1領域43と、第2領域44とを含んでいる。
【0053】
第1領域43は、組積造壁の壁面に形成された領域のうち上方の領域に形成されている。第2領域44は、第1領域43より下方の領域に形成されている。第1領域43及び第2領域44では、一例として、補強コーティング層40Cの材質は同じであるが、厚さが異なっている。第1領域43は、相対的に薄く(すなわち、第2領域44よりも薄く)形成されている。第2領域44は、相対的に厚く(すなわち、第1領域43よりも厚く)形成されている。第2領域44の厚さは、第1領域43の厚さの2倍以上であってもよい。このような第2領域44は、組積造壁10に第一層目の補強コーティング層を形成した後、第二層目の補強コーティング層を形成することによって設けられてもよい。
【0054】
図7(a)では、第2領域44が補強コーティング層40Cの高さの半分の位置よりも低く形成されているが、第2領域44は補強コーティング層40Cの高さの半分の位置よりも高く形成されていてもよい。
【0055】
例えば、地震発生時に、組積造壁の下部側により大きな力が加わることが想定される。このような構成の場合、
図7(a)のように組積造壁の下部側の第2領域44が厚く形成されていることで、組積造壁の破壊や損傷を効果的に防止することができる。一方、第2領域44以外については薄いコーティング層が形成されるので、コーティング層の材料を減らすことができ、製造コストや施工コストを抑えることができる。
【0056】
図7(b)の補強コーティング層40Dでは、第2領域44が中央領域に形成され、その周辺の周辺領域に第1領域43が形成されている。第2領域44の厚さは、第1領域43の2倍以上であってもよい。このような構成によれば、相対的に厚く形成された第2領域44が壁の中央領域に形成されているので、壁の中央領域を効果的に補強することができる。また、上記同様、周辺領域では補強コーティング層が薄く形成されるので、製造コストや施工コストの削減に有利である。
【0057】
第2領域44の下端は、組積造壁の1/5の高さ以上の位置であってもよく、1/4の高さ以上の位置であってもよく、1/3の高さ以上の位置であってもよい。第2領域44の上端は、組積造壁の4/5の高さ以下の位置であってもよく、3/4の高さ以下の位置であってもよく、2/3の高さ以下の位置であってもよい。第2領域44の幅は、組積造壁の幅の4/5以下であってもよく、3/4以下であってもよく、2/3以下であってもよい。
【0058】
なお、第1領域43及び第2領域44を組積造壁の壁面のうちどのような領域に形成するかは、例えば有限要素法で地震時の組積造壁10の挙動をシミュレーションし、その結果に基づいて、応力が加わり易い領域に厚いコーティング層を形成し、それ以外の領域に薄いコーティング層を形成するようにしてもよい。したがって、例えば、第2領域44が組積造壁の上方の領域に形成され、その下方に第1領域43が形成されていてもよい。また、中央領域に第1領域43が形成され、周辺領域に第2領域44が形成されてもよい。また、第2変形例では、補強コーティング層を2つの領域(第1領域及び第2領域)で形成する例を示したが、これを3以上の領域で形成してもよい。
【0059】
<変形例3>
図8は、第3変形例の組積構造を示す図である。
図9は、転倒防止部品の一例の斜視図である。
図8の組積構造S101は、第1実施形態の構成に加え、転倒防止部品50を備えている。組積構造S101の細部の構造については、一部図示を省略している。
【0060】
転倒防止部品50は、建物内に配置された組積造壁10が倒れないように組積造壁10と建物の構造体60とを接続する部品である。建物の構造体60は、例えば梁又は天井(上階が存在する場合は天井が上階の床であってもよい)である。転倒防止部品50は、この例では、組積造壁10の上端に設けられる。転倒防止部品50は、
図9に示すように、本体部51と、係止部材52とを有している。
図8の例のように、組積造壁10の上端と構造体60との間に隙間が生じるように、組積造壁10が設けられていてもよい。また、組積造壁10の上端と構造体60との間に隙間が生じないように、組積造壁10が設けられていてもよい。
【0061】
本体部51は、第1縦孔15又は第2縦孔16に挿入可能な形状を有している。本体部51は、円柱形状であってもよいし角柱形状であってもよいが、この例では角柱形状である。本体部51は、具体的には、下端側に向かうにつれて本体部51の幅が狭くなるテーパ状の外周面を有している。本体部51は、コンクリートや金属などの剛体で形成されていてもよいし、ゴムやウレタンフォーム等の弾性体で形成されていてもよい。
【0062】
組積材11の貫通孔11hは、通常、抜き勾配(draft angle)を有している。そのため、貫通孔11hは、下端側に向かうにつれて先細りとなる形状に形成されている。転倒防止部品50の本体部51が、
図9に示すように下端側に向かうにつれて本体部51の幅が狭くなるように形成されていることで、本体部51を貫通孔11hに挿入し易いという効果が得られる。なお、本体部51の上端部分の長さ(
図9の前後方向の長さ及び左右方向の長さの一方又は両方)は、貫通孔11hの内径よりも長いことが一形態において好ましい。このような構成により、転倒防止部品50が貫通孔11h内に落ち込んでしまうことが防止される。
【0063】
係止部材52は、本体部51から上方に向かって延び出している。係止部材52は、建物の構造体60に接続されて固定可能な形状であれば、どのような形状であってもよい。係止部材52は、例えば金属製の棒材を屈曲させた部材である。係止部材52は、例えば、コンクリートである構造体60を形成する際に、その構造体60内に埋め込まれることによって、構造体60に固定される。係止部材52は、例えば、所定の取付け金具により、構造体60に対して固定されてもよい。係止部材52は構造体60に対して、水平方向には移動できないが鉛直方向には移動可能な態様で取り付けられていてもよい。このような構成によれば、地震発生時に組積造壁10が構造体60に対して鉛直方向に移動できるので、組積造壁10が構造体60に対してリジッドに固定されている構成と比べて、組積造壁10及び/又は構造体60が破損しにくい。
【0064】
転倒防止部品50が設けられた
図8の構成によれば、転倒防止部品50が構造体60に固定されることにより、地震発生時に組積構造S101が転倒することが防止される。
【0065】
本体部51がゴムやウレタンフォーム等の弾性体で形成されている場合、仮に係止部材52に上下方向の力が加わったとしても、係止部材52の上下方向の変位が本体部51によって吸収されることとなる。換言すれば、弾性体で形成された本体部51は、係止部材52の上下方向の変位を可能にする。このような構成によれば、組積構造S101が建物内に設置された状態で、地震が発生し、梁である構造体60が上下に動き、係止部材52に上下方向の力が加わったとしても、係止部材52が変位できるため、転倒防止部品50又はその周辺構造が損傷しにくいという効果が得られる。なお、これと同様の効果は、例えば本体部51に対して係止部材52が上下方向に移動可能に取り付けられた構成によっても得ることができる。
【0066】
また、
図8のように、組積造壁10と構造体60との間に隙間が生じている場合、地震発生時に構造体60が組積造壁10に当たることによって組積造壁10が損傷することが防止される。
【0067】
図10は、第3変形例の組積構造の他の例を示す図である。
図10の組積構造S103は、組積材11の一部が組積造壁10の外周部から突出した固定部12を有している。固定部12は、組積造壁10の上端から上方に突出しており、係止部材52と同様、構造体60に対して固定される。このように、組積造壁10自体に固定部12が設けられている構成であっても、固定部12が構造体60に対して固定されることで、組積構造S103の転倒を防止することが可能となる。組積造壁10に固定部12を固定する方法に制限はなく、例えば、固定部12に相当する構造部位を有する特殊な組石材(外周部に向けて一部が突出した組石材等)を組積造壁10の外周部に使用してもよい。また、組積造壁10又は組石材に固定部12を持たせるためのアタッチメント部材(転倒防止部品50はその一例である)を組積材11に設けてもよい。また、組積造壁10が有する補強部材20を組積造壁10から突出させることで固定部12としてもよい。
【0068】
<変形例4>
図11は、第4変形例の組積構造を示す図である。
図11の組積構造S104では、組積造壁10の壁面の補強コーティング層40Eが、建物の構造体60に接するように形成されている。構造体60は、例えば、建物の梁である。補強コーティング層40Eは、具体的には、組積造壁10の壁面と構造体60との両方に接触するように形成されている。
【0069】
図11では、構造体60が梁や天井であることを例示したが、構造体60は柱などであってもよい。補強コーティング層40Eは、組積造壁10の壁面、柱及び梁に接触するように形成されていてもよいし、組積造壁10の壁面及び柱に接触するように形成されていてもよい。
【0070】
このように、補強コーティング層40Eが組積造壁10の壁面だけではなく、建物の構造体60にも接触するように形成された構成によれば、地震発生時に組積構造S104がより転倒しにくくなる。
【0071】
図11の組積構造S104において、
図8及び
図9に示したような転倒防止部品50が併用されてもよいし、
図10に示したような構造体60に固定される固定部12が併用されてもよい。
【0072】
組積材11として
図2に示すような構造を例示したが、組積材は、例えば貫通孔11hのみが形成され、凹部11gが形成されていなくてもよい。このような組積材で構成された組積造壁は、第1縦孔15に相当する縦孔が複数設けられた構成となる。複数の縦孔のうち、補強部材が通された縦孔には充填材が充填され、補強部材が通されていない縦孔の少なくとも1つについては充填材が充填されない。このような構成であっても、補強コーティング層が設けられていることによる効果、及び、複数の縦孔の少なくとも1つに充填材が充填されないことによる効果は上記実施形態と同様に得ることができる。
【0073】
上記の実施形態では、補強部材20が鉛直方向に配置された構成を例示したが、例えば上下に積層された組積材11どうしの間を延在するように、補強部材が水平方向に設けられていてもよい。
【0074】
上記の実施形態では、複数の縦孔のうち、少なくとも1つには、補強部材が通されて充填材が充填された構成を例示したが、いずれの縦孔にも補強部材が通されていない構成、又は補強部材が通されておらず充填材も充填されていない構成としてもよい。
【0075】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0076】
10 組積造壁
11 組積材
11g 凹部
11h 貫通孔
12 固定部
15 第1縦孔
16 第2縦孔
20 補強部材
30 充填材
30A 充填材
30B 充填材
31 突出部
32 凹陥部
40 補強コーティング層
40A 補強コーティング層
40B 補強コーティング層
40C 補強コーティング層
40D 補強コーティング層
40E 補強コーティング層
43 第1領域
44 第2領域
50 転倒防止部品
51 本体部
52 係止部材
60 構造体
d 隙間
S100 組積構造
S101 組積構造
S102 組積構造
S103 組積構造
S104 組積構造
【要約】
組積構造S100は、複数の組積材11が水平方向及び鉛直方向に配置された組積造壁10であって、組積材11は複数の貫通孔11hが形成されるとともに凹部11gが形成されている、組積造壁10と、複数の貫通孔11hが鉛直方向に繋がることによって形成された複数の第1縦孔15、及び、互いに隣接する組積材11間で複数の凹部11gが鉛直方向に繋がることによって形成された第2縦孔16のうちの少なくともいずれかに通された補強部材20と、補強部材20が通された第1縦孔15又は第2縦孔16に充填された充填材30と、組積造壁10の壁面に形成された補強コーティング層40と、を備え、複数の第1縦孔15及び第2縦孔16のうち補強部材20が通されていない複数の縦孔のうち少なくとも1つに充填材30が充填されていない。