(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】基材、特に腕時計ストラップを含浸させるための組成物
(51)【国際特許分類】
D06M 11/79 20060101AFI20250205BHJP
A01N 25/00 20060101ALI20250205BHJP
A01N 57/20 20060101ALI20250205BHJP
A01N 57/24 20060101ALI20250205BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20250205BHJP
D06M 10/02 20060101ALI20250205BHJP
D06M 11/83 20060101ALI20250205BHJP
D06M 13/288 20060101ALI20250205BHJP
C07F 9/38 20060101ALN20250205BHJP
C07F 9/6506 20060101ALN20250205BHJP
【FI】
D06M11/79
A01N25/00 102
A01N57/20 E
A01N57/24 103A
C09K3/18 101
C09K3/18 102
D06M10/02 C
D06M11/83
D06M13/288
C07F9/38 A
C07F9/38 B
C07F9/38 C
C07F9/38 Z
C07F9/6506
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020091888
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-05-01
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-マルク デューニャ
(72)【発明者】
【氏名】パブロ ソブリノ
(72)【発明者】
【氏名】フランク マルタン
(72)【発明者】
【氏名】ギヨーム グラシ
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-069842(JP,A)
【文献】国際公開第2014/127451(WO,A1)
【文献】特表2002-518594(JP,A)
【文献】国際公開第2005/087826(WO,A1)
【文献】特開2016-222869(JP,A)
【文献】特開平04-202848(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0008861(US,A1)
【文献】特開2013-108203(JP,A)
【文献】特表2009-539465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 10/00 - 13/00
D06M 15/00 - 16/00
D06M 19/00 - 23/00
C09K 3/18
C14C 9/00
A01N 25/00-25/34
A01N 57/20
A01N 57/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腕時計ストラップまたはその部品を含浸させるための組成物であって、前記組成物は、
a)エタノールもしくはイソプロパノールから選択される有機溶媒、またはシリカ粒子を含むゾル-ゲルと、
b)i.CH
3(CH
2)
nPO
3H
2であり、ここで、nが2~18であり、および、
ii.CF
3(CF
2)
n(CH
2)
mPO
3H
2であり、ここで、nおよびmが2~18であり、mおよびnが同一または異なる、
から選択される少なくとも1つの活性有機化合物と、
を含み、前記活性有機化合物は、任意で、
i.式:-O((CH
2)
mO)
n-のポリアルキレングリコール
基、ここで、mが2、3または4であり、nが2~18であり、水素または炭素数1~6のアルキルを末端基として有する、および
ii.1~3個の炭素数1~6のアルキル基、または1または2個の炭素数1~6のアルキル基および炭素数10~18のアルキル基で置換されていてもよいイミダゾリウム基、トリアゾリウム基、またはアンモニウム基
から選択される少なくとも1つの官能基を含
み、
腕時計ストラップまたはその部品が、天然皮革、植物繊維、コルク、および織物から作製された天然皮革代替物、ならびにそれらの組み合わせから選択される、前記組成物。
【請求項2】
銀ナノ粒子をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記有機溶媒がエタノールである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
式:-O((CH
2)
mO)
n-のmが、2である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
含浸によって基材を官能化する方法であって、
i.基材を選択するステップと、
ii.前記基材を脱気するステップと、
iii.前記基材を酸素プラズマまたは空気プラズマで処理するステップと、
iv.請求項1~4のいずれか一項に記載の前記組成物で前記基材を少なくとも部分的に含
浸し、前記組成物が、エタノールまたはイソプロパノールから選択される有機溶媒を含むものであるステップと、
v.前記処理された基材を乾燥するステップと
を含
み、
前記基材が、腕時計ストラップまたはその部品であり、そして、
前記基材が、天然皮革、植物繊維、コルク、および織物から作製された天然皮革代替物、ならびにそれらの組み合わせから選択される、方法。
【請求項6】
基材またはその1つ以上の部品の吸水率を低下させるための、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物の使用であって、
前記基材が、腕時計ストラップであり、
前記基材またはその1つ以上の部品が、天然皮革、植物繊維、コルク、および織物から作製された天然皮革代替物、ならびにそれらの組み合わせから選択され、そして、
前記組成物は、前記基材またはその1つ以上の部品を含浸させるために用いられる、前記使用。
【請求項7】
請求項
5に記載の方法によって得られる腕時計ストラップ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
説明
皮革の自然な外観および感触に影響を与えることなく、腕時計ストラップの寿命を改善する必要がある。撥水性と微生物耐性の改善を可能にする組成物が合成されている。完成した皮革腕時計ストラップは、顧客の満足度を向上させるために組成物で処理することができる。
【0002】
好都合なことに、皮革腕時計ストラップは、完全に組み立てられた状態で処理することができ、さまざまな供給者のストラップを処理することができる。これにより、希望者が提供する本物のストラップを、市場で入手可能な他のストラップと区別することができる。
【0003】
発明の分野
本発明は、とりわけ、腕時計ストラップとして使用される皮革、植物皮革、または織物の組成物および処理に関する。
【0004】
組成物は、ホスホン酸基および1つまたは複数の疎水性または超疎水性官能基(特に、アルキル基、好ましくはフッ素化アルキル基)を含む活性有機化合物(本説明では、「活性分子」と表すこともある)、および場合により防汚官能基(好ましくは、ポリアルキレングリコール基)および/または生物活性官能基(特に、アンモニウム、イミダゾリウム、またはトリアゾリウム基)を含む。
【背景技術】
【0005】
概要
解決すべき技術的問題
皮革腕時計ストラップおよび皮革宝飾品類は、時間とともに進化する天然製品である。現在の着用状態、特に、水や着用者の皮膚との接触により、それらは美的感覚および嗅覚の両方の点で急速に劣化する。皮革腕時計ストラップまたは皮革宝飾品類の急速な劣化は、他の要因の中でも、腕時計ストラップが湿気、水、および着用中に行われる活動に起因するさまざまな有機物(汗、石鹸、汚れなど)にさらされたことによるものである。さらに、皮革腕時計ストラップは、さまざまな種類の皮革および/または他の材料の複合の組み合わせとすることができる。それは、ライナー、仕上げ層、スタッフィングなどを含むことができる。スタッフィングは、皮革または別の材料にあり得る。しかし、ユーザーは、皮革の自然な外観および感触をできるだけ長く保ちたいと考えている。
【0006】
解決法の簡単な説明
本発明によって提案されるこの問題の解決法は、腕時計ストラップ、または腕時計ストラップの外面、ライニング、ステッチなどの腕時計ストラップを製造することを目的とした要素、および/またはパディングまたはリップストップ要素などの内部要素に組成物を適用することにある。この処理により、疎水性および/または殺生物性および/または防汚性がもたらされ、腕時計ストラップの外観および感触に悪影響を与えることなく、腕時計ストラップの耐久性を向上させることができる。
【0007】
最先端技術
腕時計ストラップ、ブレスレット、またはネックレスなどの多孔質の基材は、ユーザーの皮膚と接触する物品に一般的に使用されている。これらの基材は、水蒸気を通過させることができ、物品の着用を快適に保つ。しかし、それらはさまざまな撥水性を有する。これらの製品に悪臭が発生するのは、基材上または基材内の細菌の増殖によるものであることは周知である。しかし、腕時計ストラップ、ブレスレット、またはネックレスは、掃除が簡単ではない。
【0008】
皮革などの多孔質基材の複合構造は、特定の基材の正確な腐敗パターンを理解するのに困難をもたらす。腐敗は環境条件を含むいくつかの要因に依存する。皮革の場合、その加工も考慮される。化学的損傷は、紫外線、オゾン、空気中の硫黄および亜硝酸性汚染物質からの酸、汗などの環境要因への曝露から発生する可能性がある。皮革の場合、低相対湿度(40%未満)に長時間さらされると、その繊維構造に乾燥または不可逆的な変化が生じる可能性があることも知られている。(Preserver les objets de son patrimoine:precis de conservation preventive;International Institute for Conservation of Historic and Artistic Works.Section francaise;Editions Mardaga,2001;ISBN 2870097662,9782870097663).
【0009】
皮革などの基材の仕上げ処理は、基材の自然な品質を向上させること、および/または表面に存在する可能性のある欠陥をカバーすることを目的とした一連の表面操作にある。機械的保護、色の均一性、および感触特性は、仕上げの主な要件である。多くのアクリル、ポリウレタン、およびその他のフィルム形成合成ポリマーは、仕上げ方策の一般的な成分であり、それらは、油、ワックス、カゼイン、アルブミン、セルロースエステル、および他の物質のような、自然のおよび/または改質の天然物質と混合される。多数の特許および論文に、抗菌耐性、撥水および/または撥油性、および/または防汚性を改善するために、これらのさまざまな方法が記載されている。
【0010】
一般に、皮革または織物などの耐水性または防汚性の基材は、基材表面に表面自由エネルギーの低い官能性コーティングを形成できる化学物質を使用して調製される。これらのコーティングは、シリコーン、フッ素化炭化水素、または長鎖炭化水素を含む高分子薄膜とすることができる。しかし、処理された基材の空気および水蒸気の透過性が損なわれる可能性があり、それらの自然な特性を維持するそのような基材を製造するための新しい方法の開発は依然として課題である。
【0011】
フルオロアルキルシランまたはアルキルシラン系の易洗浄性コーティング、すなわち、撥油性、撥水性、および防汚特性を有するコーティングの例は、多数の文献に記載されている(例えば、独国特許第834002号明細書、米国特許第3,012,006号明細書、英国特許第935,380号明細書、米国特許第3,354,022号明細書、独国特許第1518551号明細書、独国特許第3836815号明細書、独国特許第4218657号明細書、独国特許第19544763号明細書、国際公開第95/23830号パンフレット、欧州特許第0799873号明細書、欧州特許第0846716号明細書、特開2001/115151号明細書、欧州特許第1033395号明細書、欧州特許第1101787号明細書)。これらのコーティングは皮革を保護するが、見たり感じたりすることができ、皮革が処理されたという認識と人工的な外観につながる。
【0012】
撥油性および撥水性は、加水分解性フルオロカーボンシランによって表面に付与することができる。基材上でシランと活性水素官能基との間で化学結合が発生する。これは、シラン上の加水分解性基のシラノール基への最初の加水分解によって達成され、次いで、基材上の官能基と縮合する。フルオロカーボンシランに、基材と結合する加水分解性基が多いほど、コーティングの耐久性が高くなる(国際公開第95/23830号パンフレット参照)。
【0013】
抗菌剤を含む皮革腕時計ストラップは公知であり、例えば、文献独国実用新案第20315119(U1)号明細書に記載されている。この文献によれば、皮革からなる腕時計ストラップは、抗菌特性を有するように処理された皮革からなる、着用者の皮膚と接触する内側バンド(すなわち、ライナー)を備える。このストラップには、特に発汗の場合に、悪臭が発生しないという利点がある。しかし、抗菌剤などのストラップに組み込まれた特定の有効成分は、特に皮膚へのストラップの長時間の接触の場合、より具体的に高温多湿の状態の場合、皮膚に対して刺激性またはアレルギー性である可能性がある。
【0014】
説明
本願では、特に明記しない限り、「a」または「an」という用語の使用は「少なくとも1つ」を意味し、「または」の使用は、「および/または」を意味する。
【0015】
本説明では「官能化」と呼ばれる本発明の処理の1つの目的は、その外観および感触を損なうことなく、腕時計ストラップの不快な臭いの原因となる微生物の存在を低減または制限することである。処理された基材は、吸湿性、洗浄性、防汚性、および/または臭気吸着特性が改善される。官能化方法は、基材を実質的に劣化させず、元の感触と外観を維持する。
【0016】
より具体的には、本発明は、官能化組成物、天然皮革、植物性皮革(Pinatex(登録商標)、MycoTEX(登録商標)、Tencel(登録商標)、ユーカリ、竹、パラゴムノキなど)、コルクまたは織物(綿、麻、絹、ナイロン、ポリアミド、アラミド織物など)などの多孔質基材を官能化する方法、および前記基材からなる官能化製品に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】表2に示されるプラズマ圧力に関連するサンプルの吸水率を示す図である。
【
図2】表9に示すテスト0、23、33、35で得られた表面処理後の時間経過に対するサンプルの吸水率(%)を示す。
【
図3】表10にまとめたテスト0および22~25で得られた処理時間に対する吸水率(%)を示す。
【
図4】表11に示された試験0、23および26~29の処理溶液の濃度に対する吸水率(%)を示す。
【
図5】TEOS-AM_7比率に対する吸水率(%)を示す。
【
図6】以下に説明される本発明の2つの実施形態を概略的に示す。
【0018】
本発明は、以下の態様をもたらす:
1.腕時計ストラップまたはその部品を含浸させるための組成物であって、
a)有機溶媒またはゾル-ゲル、
b)ホスホネート基-PO3Hおよび疎水性または超疎水性基を含む、好ましくはそれらからなる少なくとも1つの活性有機化合物、
c)i.防汚官能基およびii.生物活性官能基から選択される任意の1つ以上の官能基
を含む組成物。
2.前記活性有機化合物の前記疎水性または超疎水性基が、2~18個の炭素原子を有する直鎖または分岐アルキル基であり、ハロゲンによって、好ましくは塩素またはフッ素によって、最も好ましくはフッ素によって部分的または完全に置換されてもよい、項目1に記載の組成物。
3.前記活性有機化合物が、
i.CH3(CH2)nPO3Hであり、ここで、nが2~18であり、または、
ii.CF3(CF2)n(CH2)mPO3Hであり、ここで、nおよびmが2~18であり、mおよびnが同一または異なる、項目1または2に記載の組成物。
4.前記活性有機化合物の前記防汚官能基が、式:-O((CH2)mO)n-のポリアルキレングリコール基であり、ここで、mが2、3または4、好ましくは2であり、nが2~18であり、水素または炭素数1~6のアルキル末端基を有する、項目1に記載の組成物。
5.前記活性有機化合物が、RO(CH2CH2O)n(CH2)mPO3Hであり、ここで、nおよびmが2~18であり、nおよびmが同一または異なり、RがHまたはCH3である、項目1または4に記載の組成物。
6.前記活性有機化合物の前記生物活性官能基が、1~3個の炭素数1~6のアルキル置換基、または0、1、または2個の炭素数1~6のアルキル置換基、および炭素数10~18のアルキル置換基で置換されていてもよいイミダゾリウム基、トリアゾリウム基、またはアルキルアンモニウム基である、項目1に記載の組成物。
7.前記活性有機化合物が、CH3(CH2)n(N(CH3)2)(+)(CH2)mPO3HCl(-)であり、ここで、nおよびmが2~18、mおよびnが同一または異なり、1-メチル-3-(ドデシルホスホン酸)イミダゾリウムブロミド、または1-メチル-3-(ドデシルホスホン酸)イミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドである、項目1または6に記載の組成物。
8.生物活性金属ナノ粒子、好ましくは銀ナノ粒子をさらに含む、項目1~7のいずれか1つに記載の組成物。
9.前記溶媒がエタノールまたはイソプロパノール、好ましくはエタノールである、項目1~8のいずれか1つに記載の組成物。
10.含浸によって基材を官能化するための方法であって、
i.基材を選択するステップと、
ii.前記基材を脱気するステップと、
iii.前記基材を酸素プラズマまたは空気プラズマで処理するステップと、
iv.項目1~8のいずれか1つに記載の前記組成物で前記基材を少なくとも部分的に含浸またはコーティングし、前記組成物が有機溶媒を含むものであるステップと、
v.前記処理された基材を乾燥するステップと
を含む、方法。
11.含浸によって基材を官能化するための方法であって、
i.基材を選択するステップと、
ii.酸性または塩基性条件で加水分解性シラン前駆体からゾル-ゲル溶液を調製するステップと、
iii.前記ゾル-ゲル溶液をエージングするステップと、
iv.前記ゾル-ゲル溶液を使用して、前記基材を少なくとも部分的に含浸またはコーティングするステップと、
v.前記処理された基材を乾燥するステップと、
vi.前記ゾル-ゲルを焼き戻しにより前記基材に固定するステップと
を含む、方法。
12.前記ゾル-ゲルが、項目1~9のいずれか1つに記載の活性有機化合物を含む、項目11に記載の方法。
13.前記基材が、天然皮革、植物繊維、コルク、および織物から作製された天然皮革代替物、およびそれらの組み合わせから選択される、項目10~12のいずれか1つに記載の方法。
14.前記基材が、腕時計ストラップまたはその部品である、項目10~13のいずれか1つに記載の方法。
15.基材、好ましくは腕時計ストラップまたはその1つ以上の部品の吸水率を低下させるための、項目1~9のいずれか1つに記載の組成物の使用。
16.項目10~14のいずれか1つに記載の方法によって入手可能な腕時計ストラップ。
17.項目1~9のいずれか1つに記載の活性有機化合物および/またはシリカゾル-ゲルネットワークを含む腕時計ストラップ。
【0019】
発明の詳細な説明
課題を解決するための手段
微生物が活動するためには水が必要であることが知られている。基材の疎水性または超疎水性官能化を発生させることにより、前記基材の内部および/または表面上の水の存在を制限することが可能である。これは微生物の活動に影響を与える。その結果、基材は不快な臭いを発生させない、またはそのような悪臭を発生させるにはるかに多くの時間を必要とする。
【0020】
不快な臭いを防ぐ別の方法は、微生物の汚染を避けることである。これにより、基材上での手首の摩擦や拭き取りなどの単純な機械的挙動によって微生物を取り除くことができる。さらに、化合物は悪臭の原因となる微生物に対して生物活性を示すこともできる。
【0021】
異常な臭いの発生を制限するために、皮革時計バンドライナー上または内部での微生物の増殖の制限は、2つの異なる方法:悪臭の原因となる微生物の付着を制限する基材の表面の防汚処理により、または殺生物剤処理により行うことができる。防汚と殺生物処理の組み合わせも可能である。死んでいるかどうかにかかわらず、微生物によるバイオフィルムの生成を回避することで、悪臭の発生が防止される。微生物の存在を制限することによる防汚処理は、悪臭の出現を回避する、または少なくとも制限する。皮革の劣化も遅くすることができる。
【0022】
本発明のすべての実施形態において、発明者は3つのアプローチを使用した:
A.疎水性または超疎水性処理を適用して、基材の水分濃度を制御し、基材への水の導入を回避し得る。悪臭の原因となる物質の蓄積と濃度は、好ましくない水分条件によって微生物を不活性化することによって制限できる。
B.「防汚」ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール)系の処理は、表面に堆積した微生物および細胞がそれに付着するのを防ぐ。その結果、手首の摩擦や拭き取りといった単純な機械的挙動で、それらを排除することができる。
C.カチオン性生物活性表面を得るための処理は、ポリアルキレングリコール処理と同じ「防汚」効果を有する。
【0023】
アプローチAは、1つのおよび同一の活性分子(活性有機化合物)内で本発明による他のアプローチと組み合わせることができる。一般に、本発明では、1つの活性分子または2つ以上の異なる活性分子の混合物を適用することができる。
【0024】
官能基
本発明の官能化組成物中の活性有機化合物は、ホスホン酸基および疎水性または超疎水性基を有する。本発明の組成物に使用される疎水性および/または超疎水性基含有化合物は、アルキルホスホネートまたはハロゲン化アルキルホスホネート、好ましくはフッ素化アルキルホスホネートである。アルキル基は、直鎖または分枝であってもよく、2~18個の炭素原子を有していてもよい。ハロゲン化アルキルホスホネート化合物は、完全にまたは部分的にハロゲン化されていてもよい。本発明で使用するための疎水性または超疎水性官能基を有する典型的な化合物は、例えば、CH3(CH2)nPO3Hであり、ここで、nは2~18であり、または、CF3(CF2)n(CH2)mPO3Hであり、ここで、nおよびmは2~18であり、mおよびnは同一または異なる。ハロゲン化アルキルホスホネートが好ましく、フッ素化アルキルホスホネートが最も好ましい。
【0025】
本明細書では、「ホスホネート」という用語は、ホスホン酸およびその塩を指定するために使用される。塩の対イオンは、金属カチオンなどの任意の適切なカチオン(例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、および化合物の特性を損なわない他の任意の金属カチオン)、またはアンモニウムなどの有機カチオンであり得る。ホスホン酸基が好ましい。
【0026】
本発明での使用に好ましい疎水性または超疎水性基含有活性有機化合物は、オクチルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、n-オクタデシル
ホスホン酸、3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキサデシルホスホン酸、12,12,13,13,14,14,
15,15,15-ノナフルオロペンタデシルホスホン酸、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10-ヘプタデカフルオロデシルホスホン酸である。
【0027】
必要に応じて、活性有機化合物は、以下の官能基の少なくとも1つをさらに含み得る:
i.防汚官能基;
ii.生物活性官能基。
【0028】
本発明による官能基は、上述の効果の少なくとも1つを満たすために選択される。有利には、化合物はこれらの効果の少なくとも2つを組み合わせる。
【0029】
基材の表面に「防汚」効果をもたらす化合物は、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、またはブチレングリコール含有化合物などのポリアルキレングリコールである。
【0030】
その上、ポリアルキレングリコール含有化合物は、通常、メチル、エチル、プロピル、またはブチル末端基などのヒドロキシル末端をアルキル化することにより得られるアルコキシ末端基を有する。末端がアルキル化されていない場合、末端基はヒドロキシ基である。
【0031】
ホスホネート基、疎水性または超疎水性基とポリアルキレングリコール基とが組み合わされている化合物は、本発明による組成物に特に適している。
【0032】
疎水性または超疎水性基と防汚基とが組み合わされている化合物は、例えば、RO(CH2CH2O)n(CH2)mPO3H(ここで、nおよびmが2~18、nおよびmが同一または異なり、RがHまたはCH3である)である。本発明に従って使用し得るそのような化合物の具体的で好ましい例は、6-[2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]エトキシ]ヘキシルホスホン酸、2-[2-(2-メトキシエトキシ)-エトキシ]エチルホスホン酸、2-[2-(2-メトキシエトキシ)エトキシ]ヘキシルホスホン酸、2-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]エチルホスホン酸、2-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]-ヘキシルホスホン酸、および{2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)-エトキシ]エトキシ]エトキシ]エトキシ]エトキシ]エトキシ]-エトキシ]エトキシ]エトキシ]エトキシ]エトキシ]-エチル]}ホスホン酸である。
【0033】
基材の表面にカチオン性の特性を与える生物活性官能基を有する化合物は、例えば、アンモニウム含有化合物、トリアゾリウム含有化合物、および/またはイミダゾリウム含有化合物である。アンモニウム基の場合、化合物は、残りの分子への共有結合によってアンモニウムを形成する、アンモニウム基-NH3
+またはアルキル置換アンモニウム基を有していてもよい。それは、窒素上に炭素数10~18のアルキル鎖および水素または炭素数1~6のアルキル基(エチルが好ましい)などの短鎖アルキル基を有することが好ましい。生物活性官能基は、疎水性または超疎水性基を介してホスホネート基に結合されており、すなわち、それは、ホスホネート基に対して疎水性または超疎水性基の「他端」に位置する。
【0034】
対イオンは、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、トリフルオロメチルスルホニルなどの任意のアニオン、または無機酸もしくは有機酸の他のアニオンであり得る。ハロゲン化物およびトリフルオロメチルスルホニルが好ましく、塩化物、臭化物、およびトリフルオロメチルスルホニルが特に好ましい。
【0035】
超疎水性、防汚性、および生物活性基が組み合わされた化合物は、CH3(CH2)n(N(CH3)2)(+)(CH2)mPO3HCl(-)(ここで、nおよびmが2~18、mおよびnが同一または異なる)である。
【0036】
このタイプの分子の好ましい例は、12-アミノドデシルホスホン酸塩酸塩、(12-ドデシルホスホン酸)トリエチルアンモニウムクロリド、および(12-ドデシルホスホン酸)-N,N-ジメチル-N-オクタデシルアンモニウムクロリドである。
【0037】
ホスホネート基、疎水性基、およびイミダゾリウム基の両方を含む本発明の組成物に適した化合物の例は、1-メチル-3-(ドデシルホスホン酸)イミダゾリウムブロミドおよび1-メチル-3-(ドデシルホスホン酸)イミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドである。疎水性基およびトリアゾリウム基を有する化合物の例は、1-メチル-1,2,4-(ドデシル-ホスホン酸)トリアゾリウムブロミドである。
【0038】
さらに、銀ナノ粒子などの生物活性ナノ粒子を官能化組成物に含めることができる。
【0039】
活性有機化合物は、特定の効果を持つ異なる分子の混合物であり得る。
【0040】
特に、ホスホン酸および疎水性または超疎水性基含有化合物は適合性があり、エタノールに可溶であり、天然皮革との反応性が非常に低いため、本発明によれば好ましい。
【0041】
本発明で使用される化合物は市販されている、または市販の前駆体化合物から当技術分野で公知の方法によって合成することができる。
【0042】
テストされた活性分子(AM)
ホスホン酸(-PO3H2)基を含むポリアルキレングリコール(例えば、PAG、PEG)、またはC16H30N2PO3H2
(+)Br(-)(1-メチル-3-(ドデシルホスホン酸)イミダゾリウム)ブロミド;C16H30N2PO3H2
(+)C2F6NO4S2
(-);H3N(+)C12H24PO3H2Cl(-)(1-メチル-3-(ドデシルホスホン酸)イミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)などのアルキル鎖、フルオロアルキル鎖、および/または直鎖ポリエーテル鎖
【0043】
テスト分子の例を以下の表に示すことができる。
【0044】
本明細書に記載されている例は、エタノール中のAM_7溶液(12,12,13,13,14,14,15,15,15-ノナフルオロペンタデシルホスホン酸)濃度が1.21・10-2mol・L-1で行われ、「溶液1」と呼ばれる。
【0045】
ゾル-ゲルで処理された腕時計ストラップ要素は、アレルギー物質について外面的にテストされ、そのような物質は見つからず、処理されたブレスレットの一部は、炎症なく6か月着用された。
【表1】
【0046】
プロセス
本発明による基材を官能化するために、有機溶媒での含浸、ゾル-ゲルプロセス、または任意の他の適合された方法などのさまざまなプロセスを使用することができる。
【0047】
有機溶媒は、処理される基材の性質、プロセス温度、および化合物の溶解度に従って選択されるべきである。
【0048】
プロセスの組み合わせも可能である。
【0049】
さらに、基材の前処理は、O2や空気プラズマ処理、脱気、および/または洗浄などで行うことができる。
【0050】
含浸に関しては、天然皮革を含む構造が、選択された温度と期間の範囲でエタノールによって損傷されないことがテストされた。
【0051】
サンプルとプロセスステップを評価するために、処理されたサンプルの水分吸着を測定した。
【0052】
第1の実施形態
活性分子と有機溶媒を使用する含浸方法は、次のステップを含む:1)天然皮革、植物皮革、または織物などの基材を選択する;
2)基材を脱気して、とりわけ過剰な水を除去する、または目的物内の水分量を制御する;
3)表面活性化のためにO2プラズマまたは空気プラズマで基材を処理する;
4)選択した有機溶媒に溶解した少なくとも1つの選択した活性有機化合物で基材を少なくとも部分的に含浸またはコーティングする;
5)処理された基材を乾燥して、残っている液体を除去する。
【0053】
基材
本発明による腕時計ストラップは、異なる種類の皮革および/または他の材料、例えば織物の複合アセンブリであり得る。この場合、腕時計ストラップは多層構造を有する。腕時計ストラップは、ライナー、すなわち、皮膚に直接接触し、腕時計ストラップの内側に配置された層を含むことができる。
【0054】
ライナーは、通常、異なる質感の2つの面を有する。外面は皮膚と接触するように意図されている面であり、内面はリップストップ層またはスタッフィングと接触するように意図されている面である。内面は、通常、「粗い」、つまり、より多孔性である。
【0055】
最も外側の表面層は、普通、皮革層であり、時計を着用する場合に腕時計ストラップの外観が決まる。引裂き防止中間強化層(リップストップ層)および/またはスタッフィングなども存在し得る。スタッフィングは、皮革または別の材料にあり得る。腕時計ストラップのさまざまな部品は、材料の組み合わせに適合される公知技術、つまり、縫製、接着などによって組み立てることができる。
【0056】
腕時計ストラップのすべての異なる部品、すなわち、ライナー、糸、スタッフィングなどは、本発明に従って別々に官能化することができ、基材であり得る。
【0057】
さらに、腕時計ストラップを組み立てる前に、一部のみまたはすべての部品を官能化できる。
【0058】
別の方法として、組み立てられた腕時計ストラップまたは事前に組み立てられた腕時計ストラップ要素は、本発明に従って官能化され得る。
【0059】
これらの代替物はすべて、本発明による適切な基材である。
【0060】
有利には、基材は多孔質であり、例えば天然皮革、植物皮革、すなわち植物の葉から抽出されたセルロース繊維などの繊維からなる天然皮革代替物(Pinatex(登録商標)、MycoTEX(登録商標)、Tencel(登録商標)、Lyocell(登録商標)、パイナップル、ユーカリ、竹、パラゴムノキなど)、コルク、綿、麻、絹、ナイロン、ポリアミド、アラミド織物などの織物である。
【0061】
植物皮革を製造するために、パイナップルまたはユーカリ繊維などの長い植物繊維、キノコの菌糸体などの植物材料を使用して、天然皮革に非常に類似した外観を有する不織布基材を作製する。
【0062】
好ましくは、腕時計ストラップのほとんどの部品と、ライナー、スタッフィング、および外面層などのその別個の部品は、多孔性材料からなる。しかし、引裂き保護層(リップストップ層)などの一部の部品は、通常、非多孔性である。
【0063】
多孔質基材は、広い意味で理解されるべきであり、例えば、空気または溶媒が通過し得る間質空間または空隙を含むマトリックスである。多孔性は、相互接続されたミクロ多孔性、折りたたみ部分、および内包物から外部表面に見えるマクロ多孔性まで、いくつかの形態を取り得る。織物糸または繊維の間の空間は、多孔性に同化することができる。
【0064】
多孔質とは、特に水蒸気を透過することを意味する。
【0065】
本発明によれば、天然皮革は、好ましくは基材として使用される。
【0066】
表面処理
官能化処理が適用される前に、基材の表面は、本発明の方法に従って準備(前処理)される。この準備処理の主な段階は、脱気および空気またはO2プラズマでの処理である。
【0067】
皮革などの基材の脱気は、本発明において良好な品質の官能化を得るために重要である。それは主にライナー内の水の除去を保証する。通常、脱気は、真空下で適度な温度に加熱することで行われる。脱気の1つの例は、0.1hPaの圧力下、40℃で16時間基材を処理することにある。
【0068】
本発明の官能化処理を適用する前に、基材を最初に脱気し、次に特定の事前選択湿度まで「再湿潤」して、基材を安定化させ、さらなる乾燥を回避してもよい。再湿潤は、例えば、系が平衡状態になるまで、特定の事前選択湿度および適切な温度で環境チャンバー内に基材を保管することによって行うことができる。
【0069】
酸素または空気プラズマを所定の期間、選択された出力で基材の表面に照射することにより、天然皮革などの基材を処理すると、官能化が改善されることが示される。空気プラズマはO2プラズマよりもわずかに良好な結果を示すため、好ましい。プラズマは、当業者に公知の通常の手段によって生成される。プラズマ処理により、基材の表面が活性化される。
【0070】
高出力プラズマは表面活性化を改善しない。結果は、25~60Wの出力で満足できる結果が得られることを示し、本発明によれば、有利には、30Wの出力が使用される。プラズマは、例えば、空気またはO2を使用して、25~60Wで、0.3~3hPaで30秒~6分間適用されてもよい。
【0071】
より長い処理時間では表面の活性化が改善しない。30秒~6分の処理時間で十分な結果が得られ、有利には、30秒~4分の期間、より有利には、30秒の期間が採用される。
【0072】
1.21・10
-2mol・L
-1の濃度のAM_7のエタノール溶液で処理した後、プラズマの圧力変動の大きな影響は観察されなかった。結果を表2に示す。
【表2】
【0073】
【0074】
最高の官能化は、0.1hPaの圧力下、40℃で16時間の脱気と、その後の30秒、30W、0.5hPaの空気プラズマによる処理からなる準備処理で得られる。
【0075】
表面活性化後の時間
官能化は、空気プラズマまたは酸素プラズマによる前処理の直後に行う必要もある。前処理の効果はわずか30分後に消えることが観察されている。したがって、本発明の方法によれば、官能化処理は、プラズマ処理が終了した後30分以内に行われる。
【0076】
官能化処理
本発明による官能化処理について、いくつかのパラメーターが重要であることが見出された。
【0077】
溶媒
溶媒は有機溶媒である。エタノールおよびイソプロパノールは、本発明の官能化組成物を調製するための適切な溶媒である。
【0078】
メタノール、n-プロパノールなどの他の脂肪族アルコールも適している。
【0079】
さらに、基材を保護し、活性分子と適合性がある限り、直鎖または環状アルコール類、ジエチルエーテル、ジエチルtertブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの直鎖および環状エーテル類、酢酸エチルなどのエステル類、アセトン、ジエチルケトン、エチルメチルケトン、双極性非プロトン性溶媒などのケトン類などの他の有機溶媒または有機溶媒の組み合わせが可能である。溶媒は、強い臭いがあってはならず、皮膚に接触したり、吸入したりしたときに毒性が高くてはならない。さらに、それは基材と適合性がある必要がある。溶媒は極性溶媒である。
【0080】
驚いたことに、エタノールが最良の結果を示す。
【0081】
本発明の第1の実施形態で使用される最も好ましい有機溶媒はエタノールである。
【0082】
処理
通常、官能化処理は、前処理された基材を活性分子の溶液に浸漬することによって行われる。しかし、コーティングやスプレーなどの他の方法も適用可能である。しかし、活性分子が基材に十分に浸透できるように、溶液が基材と密接に接触するように注意する必要がある。
【0083】
浸透の深さは、組成物の粘度または任意の他の適切な方法によって制御することができる。浸透の深さは100%まで可能である。
【0084】
処理時間
特定の浸漬時間の後、処理された表面の撥水性はさらに改善されない。例えば、6時間の含浸後、浸漬時間を増やしても、基材の挙動に大きな影響はない。したがって、好ましくは、浸漬時間は6時間~10時間である。
【0085】
浸漬処理は、室温、すなわち、22~25℃、大気圧で行うことができる。皮革が劣化しない限り、他の条件を採用することもできる。
【0086】
活性分子の濃度
活性分子の濃度は、沈殿を形成することなく、可能な限り高くする必要があり、したがって、それぞれの溶媒における活性分子の溶解限度にできるだけ近づけて設定する必要がある。
【0087】
空気プラズマ(例えば、30秒、30W、0.5hPa)で表面処理した後、表面プラズマ処理後1分以内に基材を活性分子含有組成物に浸漬し、含浸のために基材を溶液に6時間浸漬することによって、最適な官能化を得ることができる。
【0088】
乾燥
基材は、含浸後に乾燥される。望ましい乾燥温度は、皮革構造を維持するために、20℃~85℃、好ましくは25℃~65℃、より好ましくは30℃である。溶媒が十分に蒸発するまで乾燥を行う。85℃での15時間の期間で、溶媒を十分に蒸発させることができる。30℃での72時間の期間で、溶媒を十分に蒸発させることができる。
【0089】
有利には、乾燥中に空気が換気される。
【0090】
例えば、基材を乾燥のためにグライナー管に設置することができる。
【0091】
有利には、官能化された基材は、換気空気下で30℃で72時間乾燥される。
【0092】
含浸法の最適なパラメーター
最も好ましくは、第1の実施形態は、
・活性分子
・12,12,13,13,14,14,15,15,15-ノナフルオロペンタデシルホスホン酸(AM_7)
・溶液
・(12,12,13,13,14,14,15,15,15-ノナフルオロペンタデシルホスホン酸)(AM_7)エタノール中に1.21・10-2mol・L-1の濃度
・最適化された方法
・0.1hPaの圧力下、40℃で16時間、基材を脱気する;
・空気プラズマで30W、30秒、0.5hPa処理する;
・空気プラズマ処理後1分以内に含浸を進める;
・基材を室温、すなわち、22~25℃、大気圧で6時間含浸する;
・基材を乾燥する(換気空気下で72時間、30℃)。
【0093】
第2の実施形態
本発明の第2の実施形態では、皮革基材は、ゾル-ゲルプロセスを使用してシリカ粒子によって含浸される。場合により、および好ましくは、ゾル-ゲルは、少なくとも1つの活性分子をさらに含む。活性分子は、本発明の第1の実施形態について記載されたものから選択することができる。
【0094】
本発明の第2の実施形態の方法は、好ましくは、以下のステップを含む:
1)基材を選択するステップ;
2)酸性または塩基性条件でゾル-ゲル溶液を調製するステップ:
3)ゾル-ゲルをエージングするステップ;
4)ゾル-ゲルを使用して、基材を少なくとも部分的に含浸またはコーティングするステップ;
5)処理された基材を乾燥して残りの液体を除去するステップ;
6)焼き戻しにより基材上にゾル-ゲルを固定するステップ。
【0095】
基材
本実施形態においても、第1の実施形態と同様の基材を好適に用いることができる。
【0096】
表面処理
この実施形態では、特定の表面処理は必要ない。しかし、代替として、第1の実施形態の例で説明したように、処理される基材上で脱気および/またはプラズマ前処理を行うことができる。
【0097】
ゾル-ゲルの準備
ゾル-ゲル溶液は、酸性または塩基性の条件で作製できる。
【0098】
一般に、基本的なゾル-ゲルプロセス(いわゆるStroberプロセス)により、シリカ(すなわち、二酸化ケイ素)粒子、好ましくはナノ粒子が形成される。加水分解可能な前駆体、典型的にはテトラエトキシシラン(TEOS)は、最初にアルコール溶液中で水と反応し、次に結果として生じる分子がさらに反応して、より大きな構造を形成する。この反応により、条件に応じて直径50~2000nmのシリカ粒子が生成される。
【0099】
酸性ゾル-ゲルシリカ方法により、基材表面および/または基材の内部構造に直接結合できる拡大ネットワークが得られる。浸透の深さは、ゾル-ゲル溶液の粘度またはその他の任意の適切な方法で制御できる。浸透の深さは100%まで可能である。
【0100】
前駆物質として、テトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシランなどの加水分解性シランが適しており、ここで、アルキルは、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、シクロペンチル、シクロヘキシルなどの直鎖または分岐または環状の炭素数1~8のアルキルを意味し、アルコキシは、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペントキシ、ヘキシルオキシなどの炭素数1~8のアルコキシを意味し、それらはすべて直鎖または分岐であってもよい。
【0101】
好ましくは、テトラエトキシシラン(TEOS)、メチルトリメトキシシラン(MTMOS)、メトキシプロピルオキシシラン、またはブトキシシランが、本発明に従って使用される。
【0102】
酸性手順におけるpHは、通常、0.5~4、好ましくは1~2.5、最も好ましくは1.5~2である。基本的な手順では、pHは、通常、7~10、好ましくは8~9である。
【0103】
通常、ゾル-ゲルは、前駆体とエタノールなどの適切な溶媒から適切な時間、例えば1~4時間、好ましくは2時間、30~85℃、好ましくは40~70℃、通常62℃に昇温しながら攪拌し、次いで、室温、つまり22~25℃に冷却することによって調製する。次いで、それは、ディッピング(浸漬)などの適切な方法で皮革基材上にコーティングされ、次いで、コーティングされた基材が焼き戻される。
・酸性条件の場合、ゾル-ゲル溶液は、15~1gのEtOHに少なくとも3gのTEOSおよび1.5~0.5gのHCl(0.5M)(pH=1.5~2)を含むことが好ましく、任意に、少なくとも1つの活性分子をゾル-ゲル溶液中に溶解限界より低い濃度で、またはほぼその溶解限界で含む。
・基本的な条件については、アンモニアを触媒として使用するStrober手順による条件が適用される(W Strober,A.Fink et E.J.Bohn,J.Coll.Interface Sci,1968,26,62参照)。任意に、ゾル-ゲルは、少なくとも活性分子を、ゾル-ゲル溶液中に溶解限界より低い濃度で、またはほぼその溶解限界で含む。
【0104】
さらに、生物活性金属ナノ粒子、好ましくは銀ナノ粒子をゾル-ゲルに添加することができる。
【0105】
活性分子を含むまたは含まないゾル-ゲル溶液
ゾル-ゲルは、選択した溶液(適合TEOS/EtOH比率)を使用して、適切な時間、例えば1~4時間、好ましくは2時間、30~85°C、好ましくは40~70°C、通常62°Cの温度で攪拌還流して調製することが好ましい。ゾル-ゲルは、適切な時間冷却され、通常は少なくとも20分である。
【0106】
活性分子を含まないゾル-ゲルは、例えば、15.0gのエタノールと3.0gのTEOS(3.2mL、1.44・10-2mol)および1.1gのHCl(0.5mol・L-1)を混合することによって得られる。モル比率TEOS:EtOH:H2Oは、必要に応じて選択される。好ましくは、それは1:23:4である。
【0107】
皮革基材は、例えば、ゾル-ゲルに約5分浸漬すことにより処理される。
【0108】
次いで、基材を高温のオーブンで特定の時間、通常は85°Cで15時間焼き戻す。
【0109】
皮革基材の異なるバッチは、処理効率の変動を示す可能性がある。
【0110】
ゾル-ゲル溶液中の活性分子の濃度
好ましくは、前述のように調製されたゾル-ゲルに、活性分子(すなわち、活性有機化合物)を添加することができる。活性分子は、本発明の第1の実施形態について説明したものと同じである。活性分子の好ましい例は、実施形態1と同じである。特に、AM_7およびAM_5は、この実施形態ではゾル-ゲル溶液で試験されており、特に好ましい。1つの活性分子または2つ以上の異なる活性分子の混合物を使用することができる。通常、活性分子は、適切な溶媒、好ましくはエタノール中の溶液の形態でゾル-ゲルに添加される。
【0111】
TEOSなどのゾル-ゲル溶液の前駆体の活性分子に対する濃度比率は、10:1~100:1の広い範囲で選択できる。好ましくは、TEOS:AM比率は15:1~65:1の範囲内であり、具体的には17:1、43:1、および62:1を使用してもよい。しかし、活性分子の濃度の変動は、処理された皮革の最終的な性能に大きな影響を与えない。
【0112】
AMによるゾル-ゲル溶液のエージング
本説明で使用されるエージングという用語は、ゾル-ゲル化学で周知であるそれぞれの段階と必ずしも一致しない。本明細書では、それは本質的に実験室の操作ステップを表すために使用される。
【0113】
本明細書では、エージングという用語は、一般には還流下で、特定の温度で特定の時間攪拌することを指定するために使用される。ゾル-ゲルのエージングに使用される還流パラメーターの変更にもかかわらず、異なるサンプル間の吸水率に有意な変動はない。
【0114】
エージング温度を上げることにより、処理時間を短縮できるという利点とともに、望ましいゾル-ゲル特性が維持される。しかし、還流温度が高いほど、冷却時間が長くなる。
【0115】
ゾル-ゲル溶液をエージングさせる温度範囲は、20℃~70℃で1~24時間とすることができる。
【0116】
有利には、56℃~62℃の温度で3時間50分~1時間45分で、エージングステップの妥当な期間を維持しながら、冷却時間を制限することができる。
【0117】
官能化処理
基材のゾル-ゲル処理は、ディップコーティングまたは当業者に周知の任意の他の適切な技術によって処理される。ゾル-ゲル溶液を皮革基材に完全に含浸させるために、最小処理時間(5~10分)が選択されている。
【0118】
AMを用いたゾル-ゲル溶液による官能化後のサンプルの焼き戻し
ゾル-ゲルを基材上にコーティングした後、焼き戻し、すなわち、所定の温度に特定の時間加熱することが行われる。焼き戻しステップにより、ゾル-ゲルのシリカへの重合および溶媒の蒸発が達成される。焼き戻し時間が短すぎると、ゾル-ゲルの完全な重合および溶媒の全体の蒸発を達成することができない。
【0119】
温度が上がると反応時間が短くなる。しかし、より高い温度は皮革の劣化につながる可能性がある。105℃と120℃で処理されたサンプルの視覚的な変化は検出されなかったが、基材の性質のため、85℃を超える温度では皮革サンプルの収縮が観察された。
【0120】
焼き戻し時間は、ゾル-ゲルの完全な重合と溶媒の全体の蒸発を可能にする必要がある。結果は、65℃で17時間後に重合が完了したことを示す。
【0121】
選択した温度範囲での最小焼き戻し時間は約5時間である。24時間以上焼き戻す必要はない。短い時間で十分な場合でも、サンプルを一晩(約15~17時間)放置した。
【0122】
皮革構造を維持するために、望ましい焼き戻し温度は、好ましくは55℃~85℃、好ましくは65℃である。
【0123】
ゾル-ゲルの組成/比率前駆体/AM
TEOS/AM比率を変更することにより、皮革基材の吸水率(%)が影響を受ける。
【0124】
一般に、AM濃度ごとに、前駆体濃度に最適な範囲があるが、この範囲の上または下では、吸水率が増加する。最適な比率前駆体(好ましいTEOS)/活性分子は、簡単な実験テストで選択できる。
【0125】
AM濃度の増加は、皮革基材の吸水率の低下を全体的に引き起こす。
【0126】
例として、
図5に示すように、AM_7濃度が7倍増加すると(1.21・10
-2mol・L
-1の代わりに8.54・10
-2mol・L
-1)、わずか4%の吸水率の増加が観察される。
【0127】
例として、AMがAMを含むゾル-ゲル溶液全体に対して0.09mol%である場合、TEOSの濃度が2.9mol%であることが好ましく、吸水率は17%である。AM_7が同じ0.09mol%およびTEOSの濃度が1.8mol%または3.8mol%の場合、吸水率は高くなる。
【0128】
「多層」
ゾル-ゲル処理の機械的または物理化学的特性を向上させる目的で、連続処理を使用できる。すなわち、実施形態2のステップは、同じ組成物または異なる組成物を使用して繰り返される。層、つまり、活性分子のない第1の層、次に官能層(つまり、活性分子のある層など)は、同一の性質または交互の特性を持つことができる。または、AMなし/AM/AMなし、AM1/AM2/…、AM1/AM1、または任意の組み合わせなど、さまざまな活性分子を持つ層も可能である。
【0129】
基材官能化のメカニズム
皮革の場合、選択されたゾル-ゲル溶液は、コラーゲン構造との良好な化学的適合性を有する。したがって、ゾル-ゲルの三次元ネットワークは、皮革の内部に少なくとも部分的に組み込まれる。SEMーEDXによる分析は、酸性条件で調製されたゾル-ゲルが皮革の内部、好ましくは本質的に全体厚さに渡って浸透し、皮革のトポロジーに測定可能な影響を与えないことを示している。SEMーEDXはフィルムや微細構造を識別できなかった。しかし、観察されたゾーンにはシリカが存在した。結果を考慮すると、ゾル-ゲルネットワークは、皮革のコラーゲンネットワークに直接結合されたナノメートルネットワークであるように思われる。
【0130】
SEMーEDXを使用した分析により、基本的な条件で調製されたゾル-ゲルは、直径50~2000nmのシリカ粒子からなることが示されている。粒子は、多孔性とシリカ粒子のサイズの関数として皮革の内部に浸透する。
【0131】
SEMーEDX測定には、EDXを搭載したMEB Zeiss Sigma 300を使用した。
【0132】
同じ論理が、織物などの他の多孔質基材にも適用される。本発明の第2の実施形態による官能化の1つの効果は、微生物が適切な成長条件を見出すことができる空隙率を低減するために、少なくともいくつかの間隙を低減するか、または少なくともいくつかの空隙を埋めることである。
【0133】
ゾル-ゲル法の最適パラメーター
最後に、本発明のゾル-ゲル実施形態の最も好ましい実施形態は、以下のものである:
・活性分子
・12,12,13,13,14,14,15,15,15-ノナフルオロペンタデシルホスホン酸(AM_7)
・ゾル-ゲル組成
・モル比率TEOS:EtOH:H2Oが1:23:4のテトラエトキシシラン(TEOS)ゾル-ゲル溶液は、3.0gのTEOSを15.0gの1.21・10-2mol/Lの12,12,13,13,14,14,15,15,15-ノナフルオロペンタデシルホスホン酸(AM_7)エタノール溶液と混合して調製した。1.5gのHCl(0.5M)を添加することにより、pHをpH2に調整した。
・最適化された方法
・62℃で2時間攪拌還流してゾル-ゲルを調製する。
・ゾル-ゲルを少なくとも20分間冷却する。
・5分間の浸漬および攪拌によって基材を処理する。
・基材を65℃のオーブンで17時間焼き戻す。
【実施例】
【0134】
本説明に記載されているすべての実施例は、アルザベル(カーフ皮革)からなる天然皮革ライナーで作製されている。
【0135】
実施例における吸水率測定は、熱重量測定の原理に基づいて作用する乾燥剤スケールを使用して行われた。実験装置はOHAUS(商標)MB35であった。測定するサンプルは、通常、測定前に乾燥する(最後の操作はオーブン内の移動または事前の水分摂取量の測定である)。サンプルのプロトコルは次のとおりである:
・熱重量計に秤量皿を設置する。
・超純水を入れた容器にサンプルを1分間完全に浸漬する。
・ペーパータオルでサンプルを拭き取る。
・浸漬と拭き取り操作を5回繰り返す。
・サンプルを熱重量計の秤量皿に設置する。
・乾燥プログラムを開始する。このプログラムはサンプルを60℃に加熱し、熱の影響で水が蒸発するときにサンプルの重量を追跡する。
【0136】
活性分子間の比較
空気プラズマ(30または60W、30秒、0.5hPa)で処理された基材上のさまざまな活性分子を比較し、その後、周囲温度で6時間エタノール溶液(活性分子の濃度10-2M)に浸漬した。
【0137】
テスト40、41、43、44、45のサンプルの結果は、これらの活性分子に疎水性の特性が存在することを示す。これらの疎水性官能基化基材は、基材の表面を通して水滴が拡散しないことを示す。
【0138】
測定のために、水滴が皮革に付着し、水の吸収期間(目視で観察)はクロノメーターで記録される。
【0139】
さらに、皮革層ライナーからなる基材の場合、単独で、または引き裂けない層および/またはフィラーおよび/または仕上げ層と組み合わせて、官能化溶液への48時間の浸漬後、水はほとんどのライナーに浸透しない。
【0140】
驚くべきことに、活性分子を含むポリエチレングリコールで官能化された表面(テスト46~49)は、落下角度の点で比較的疎水性であり、処理された表面を通して1滴の水が拡散することはない。しかし、水に浸漬したサンプル全体の水分摂取はほぼ瞬時で、活性分子の使用でまとまりがある。末端OH官能基を有するPEG含有活性分子とメトキシ官能基を有するものとの間に違いは観察されない。
【0141】
56%は、カーフ皮革(Alzavel)が水で飽和したときの最大の水の増加である。異なるタイプの皮革および異なるバッチの同じ皮革タイプは、異なる水飽和レベルを有し得、それは当業者に公知である。
【0142】
落下角度はゴニオメトリーによって測定される。結果を表3に示す。
【表3】
【0143】
表面処理
脱気
脱気は、0.1hPaの圧力下、40℃で16時間基材を処理することによって行われた。
【0144】
事前脱気を行った場合と行わない場合の吸水率を比較すると、前処理(空気またはO
2)について、脱気を行った場合の改善が次の表4に示されている。サンプル1~6は、1.21・10
-2mol・L
-1の濃度のAM_7のエタノール溶液で官能化された。
【表4】
【0145】
表面活性化(表5のテスト結果4~21参照)
サンプル4~21は、1.21・10-2mol・L-1の濃度のAM_7のエタノール溶液で官能化された。
【0146】
以下の表5の結果は、次のことを示す。
・プラズマ対プラズマなし
酸素または空気プラズマを所定の期間、選択された出力で基材の表面に照射することにより、天然皮革などの基材を処理すると、官能化が改善されることが示される。
・O
2対空気プラズマ
空気プラズマは、O
2プラズマよりもわずかに良好な結果を示す。
・プラズマ出力
プラズマの出力は30W~300Wの間でテストされている。高出力プラズマは表面活性化を改善しない。結果は、25~60Wの出力で満足できる結果が得られることを示しており、有利には、30Wの出力が使用される。
・プラズマ処理期間
処理時間は30秒~8分間でテストされている。より長い処理時間では表面の活性化が改善しない。結果(表5のテスト17~21参照)は、30秒~6分の処理時間が満足できる結果をもたらすことを示しており、有利には、30秒~4分の持続時間であり、より有利には、30秒の持続時間である。
・プラズマ圧力
圧力は0.1hPa~3hPaの間で変化している。
図1に示すように、プラズマの圧力変動の大きな影響は観察されていないことに留意されたい。
【0147】
次の表5に示すように、エタノール中の1.21・10
-2mol・L
-1の濃度のAM_7を使用した最適な官能化は、30秒、30W、0.5hPaの脱気と空気プラズマで得られた。
【表5】
【0148】
ゾル-ゲルの準備
ゾル-ゲル
選択した溶液(適合TEOS/EtOH比率)を使用して、62℃で2時間攪拌還流してゾル-ゲルを調製した。ゾル-ゲルを少なくとも20分間冷却した。15.0gのエタノールと3.0gのTEOS(3.2mL、1.44・10-2mol)および1.1gのHCl(0.5mol・L-1)を混合することにより、活性分子のないゾル-ゲルが得られた。モル比率TEOS:EtOH:H2Oは1:23:4であった。
【0149】
皮革基材は、ゾル-ゲルに5分間浸漬することにより処理された。次いで、基材を85℃のオーブンで15時間焼き戻した。表6にまとめた結果は、1.11の質量比率まで、エタノール中のTEOSの濃度が高いほど、吸水率が低くなることを示している。結果を表6に示す。
【表6】
【0150】
異なるバッチの皮革基材が使用されており、これに直接関連する処理の効率に変動があることに留意されたい。
【0151】
ゾル-ゲル溶液中の活性分子の濃度
ゾル-ゲルは、選択された溶液(適合モル濃度)を使用して、62℃で2時間攪拌還流して調製した。ゾル-ゲルを少なくとも20分間冷却した。
【0152】
ゾル-ゲルAおよびゾル-ゲルBを使用している。
【0153】
実施例1:ゾル-ゲルA
モル比率TEOS:EtOH:H2Oが1:23:4のテトラエトキシシラン(TEOS)ゾル-ゲル溶液は、3.0gのTEOSをエタノール中に1.21・10-2mol/lの12,12,13,13,14,14,15,15,15-ノナフルオロペンタデシルホスホン酸(AM_7)の15.0gの溶液と混合して調製した。1.5gのHCl(0.5M)を添加することによりpHを調整した。
【0154】
実施例2:ゾル-ゲルB
モル比率TEOS:EtOH:H2Oが1:23:4のテトラエトキシシラン(TEOS)ゾル-ゲル溶液を、3.0gのTEOSとエタノール中に1.21・10-2mol/lのn-オクタデシルホスホン酸(AM_5)の15.0gの溶液を混合して調製した。1.5gのHCl(0.5M)を添加してpHを調整した。
【0155】
皮革基材は、ゾル-ゲルに5分間浸漬することにより処理された。次いで、基材を85℃のオーブンで15時間焼き戻した。結果を表7に示す。
【表7】
【0156】
nーオクタデシルホスホン酸(AM_5)を活性分子(ゾル-ゲルB)として処理すると、12,12,13,13,14,14,15,15,15-ノナフルオロペンタデシルホスホン酸(AM_7)を使用した場合よりも、興味深い性能がわずかに低下する(ゾル-ゲルA)が、かなり小さな違いである。
【0157】
調査された範囲では、活性分子の濃度の変動は、処理された皮革の最終的な性能に大きな影響を与えない。
【0158】
実施例3:ゾル-ゲルC
モル比率TEOS:EtOH:H2Oが1:23:4のテトラエトキシシラン(TEOS)ゾル-ゲル溶液は、3.0gのTEOSを15.0gのエタノールおよび0.66重量%の銀ナノ粒子(40nmまたは60nm)と混合することで調製した。1.5gのHCl(0.5M)を添加することによりpHを調整した。
【0159】
実施例4:ゾル-ゲルD
モル比率MTMOS:EtOH:H2Oが1:23:4のメチルトリメトキシシラン(MTMOS)ゾル-ゲル溶液は、3.0gのMTMOSをエタノール中の1.21・10-2mol/lの12,12,13,13,14,14,15,15,15-ノナフルオロペンタデシルホスホン酸(AM_7)の15.0gの溶液と混合して調製した。1.5gのHCl(0.5M)を添加することによりpHを調整した。
【0160】
溶液の他の実施例
1.21・10-2mol・L-1から溶解限界の所定の濃度のn-オクタデシルホスホン酸のエタノール溶液を調製した。溶液を約60℃で加熱し、攪拌して固体を完全に溶解させた。この第2の溶液で基材を処理すると、溶液1のように同じ傾向が示される。
【0161】
ゾル-ゲル溶液およびAMのエージング
1つの未処理ライナー(54.6%)と処理されたライナー(27%~22%)との間で吸水率が大幅に減少することが分かった。しかし、ゾル-ゲルのエージングに使用される還流パラメーターが変更されているにもかかわらず、異なるサンプル間の吸水率に大きな変動はない。
【0162】
対応する試験の結果を以下の表8に示す。表8の結果から分かるように、官能化はライナーの内面に大きな影響を与え、これは、外面よりも多孔性である。
【表8】
【0163】
ライナーの内面の疎水性(落下角)の明らかな改善は、処理されたライナーと未処理のライナーの間で測定されるが、異なるライナー間では変動は認識できない。
【0164】
官能化処理
選択した活性分子(AM)を選択した溶媒と混合する。混合は、エタノールなどの選択された溶媒中の選択された活性分子の10-4M~溶解限界の溶液で6時間行われる。他の溶媒または溶媒の混合物も、それらが基材およびゾル-ゲルプロセスと適合性がある限り可能でもある。必要であれば、活性分子が完全に溶解するまで混合物を加熱および/または攪拌することができる。
【0165】
溶媒
エタノールおよびイソプロパノールがテストされた。どちらも適している。
【0166】
表面活性化後の時間(テスト23、33~35)
官能化は、酸素プラズマまたは空気プラズマによる前処理の直後に行う必要もある。プラズマ前処理の効果はわずか30分後に本質的に消えることが観察された。結果を表9に示す。
【表9】
【0167】
【0168】
処理時間(試験22~25)
特定の浸漬時間の後、処理された表面の撥水性は改善されないことが示されている。エタノール中に1.21・10
-2mol・L
-1(溶液1)の濃度のAM_7の場合、含浸の6時間後、吸収は18%であり、時間を増やしても基材の挙動に大きな影響はない。結果を表10に示す。
【表10】
【0169】
【0170】
溶液の濃度(テスト23および26~29)
活性分子の濃度は、沈殿を形成することなく、可能な限り高くする必要があり、したがって、表11に示すように、それぞれの溶媒に対する活性分子の溶解限度にできるだけ近づけて設定する必要がある。
【0171】
エタノール中に1.21・10
-2mol・L
-1の濃度のAM_7(溶液1)を使用した最適な官能化は、空気プラズマ(30秒、30 W、0.5hPa)で得られ、その後、基材を表面プラズマ処理後1分以下の間浸漬し、基材を溶液に6時間浸漬したままにした。
【表11】
【0172】
【0173】
ゾル-ゲル溶液およびAMによる官能化後のサンプルの焼き戻し
上記のAM_7を含むゾル-ゲルAは、56℃で3.5時間攪拌還流(ゾル-ゲル溶液のエージング)して調製された。ゾル-ゲルを少なくとも20分間冷却した。上記条件下でゾル-ゲルに5分間浸漬することにより皮革基材を処理した。
【0174】
次いで、基材をオーブン内でさまざまな時間と温度で焼き戻した。結果を表12に示す。
【表12】
【0175】
テスト62および68は、最初の吸水率の測定値が高く、第2の測定値が低い。この観察は、ゾル-ゲルの完全な重合および溶媒の完全な蒸発を可能にするには短すぎるように思われる焼き戻し時間に関連している可能性がある。
【0176】
温度が上がると反応時間が短くなる。しかし、より高い温度は皮革の劣化につながる可能性がある。105℃および120℃で処理されたサンプルの視覚的な変化は検出されなかったが、基材の性質のため、85℃を超える温度では皮革サンプルの収縮が観察された。
【0177】
乾燥
基材は、含浸後に乾燥される。望ましい乾燥温度は、皮革構造を維持するために、20℃~85℃、好ましくは25℃~65℃、より好ましくは30℃である。溶媒が蒸発するまで乾燥する。85℃での15時間の期間で、溶媒を十分に蒸発させることができる。30℃での72時間の期間で、溶媒を十分に蒸発させることができる。有利には、乾燥中に空気が換気される。
【0178】
例えば、基材を乾燥のためにグライナー管に設置することができる。
【0179】
有利には、基材は換気空気下で30℃で72時間乾燥される。
【0180】
ゾル-ゲルの組成
異なるTEOS/AM_7比率で得られた吸水率を
図5に示す。
【0181】
図5は、TEOS/AM_7比率を変更することにより、皮革基材の吸水率(%)が影響を受けることを示す。AM_7の濃度ごとに、TEOS濃度の最適な範囲があるが、この範囲より上または下では、吸水率が増加する。
【0182】
例として、AMがAMを含むゾル-ゲル溶液全体に対して0.09mol%である場合、TEOSの濃度が2.9mol%であることが好ましく、吸水率は17%である。同じ0.09 mol%のAM_7およびTEOSの濃度が1.8 mol%または3.8 mol%の場合、吸水率は高くなる。
【0183】
AM_7濃度の増加は、皮革基材の吸水率の低下を全体的に引き起こす。
【0184】
AM_7濃度が7倍増加すると(1.21・10
-2mol・L
-1の代わりに、8.54・10
-2mol・L
-1)、
図5に示すように、4%だけの吸水率の増加が観察される。