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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/128 20210101AFI20250205BHJP
   H01M 50/107 20210101ALI20250205BHJP
   H01M 50/184 20210101ALI20250205BHJP
   H01M 50/119 20210101ALI20250205BHJP
   H01M 50/121 20210101ALI20250205BHJP
   H01M 50/131 20210101ALI20250205BHJP
   H01M 50/159 20210101ALI20250205BHJP
   H01M 50/164 20210101ALI20250205BHJP
   H01M 50/16 20210101ALI20250205BHJP
【FI】
H01M50/128
H01M50/107
H01M50/184 D
H01M50/119
H01M50/121
H01M50/131
H01M50/159
H01M50/164
H01M50/16
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020115346
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022013058
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-06-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000237721
【氏名又は名称】FDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】國谷 繁之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓也
(72)【発明者】
【氏名】藤波 大輔
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-026451(JP,A)
【文献】特開昭58-106756(JP,A)
【文献】特開2018-028961(JP,A)
【文献】特開昭53-076323(JP,A)
【文献】特開2002-231195(JP,A)
【文献】国際公開第2012/137823(WO,A1)
【文献】特開2016-195007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/10-50/198
H01M 50/50-50/598
H01M 10/05-10/0587
H01M 6/00-6/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とが格納される空間が内部に形成される電池缶と、
前記電池缶に形成された開口部を閉鎖する板と、
前記板と前記電池缶との間に形成される隙間を封止するガスケットとを備え、
前記電池缶は、
母材と、
前記母材の前記ガスケットに対向する領域を被覆するめっき層と
前記母材と前記めっき層との間に配置される合金層とを有し、
前記めっき層は、
前記母材が形成される第1金属と異なる第2金属から形成される層と、
前記層に分散される微粒子とを含み、
前記微粒子は、フッ素系材料から形成され
前記合金層は、前記第1金属と前記第2金属とを含む合金から形成され、前記母材に近いほど前記第1金属の濃度が大きくなるように、かつ、前記めっき層に近いほど前記第2金属の濃度が大きくなるように、形成され
電池。
【請求項2】
前記めっき層は、前記母材のうちの前記空間に対向する内側面の裏側の外側面をさらに被覆する
請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記めっき層は、前記母材のうちの前記電池缶に電気的に接触する機器側端子に対向する端子部分をさらに被覆する
請求項1または請求項2に記載の電池。
【請求項4】
前記板は、
他の母材と、
前記他の母材の前記ガスケットに対向する領域を被覆する他のめっき層と
前記他の母材と前記他のめっき層との間に配置される他の合金層とを有し、
前記他のめっき層は、
前記他の母材が形成される第3金属と異なる第4金属から形成される他の層と、
前記他の層に分散される他の微粒子とを含み、
前記他の微粒子は、フッ素系材料から形成され
前記他の合金層は、前記第3金属と前記第4金属とを含む合金から形成され、前記他の母材に近いほど前記第3金属の濃度が大きくなるように、かつ、前記他のめっき層に近いほど前記第4金属の濃度が大きくなるように、形成され
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電池。
【請求項5】
前記他のめっき層は、前記他の母材のうちの前記板に電気的に接触する機器側端子に対向する端子部分をさらに被覆する
請求項4に記載の電池。
【請求項6】
正極と負極とが格納される空間が内部に形成される電池缶と、
前記電池缶に形成された開口部を閉鎖する板と、
前記板と前記電池缶との間に形成される隙間を封止するガスケットとを備え、
前記板は、
母材と、
前記母材の前記ガスケットに対向する領域を被覆するめっき層と
前記母材と前記めっき層との間に配置される合金層とを有し、
前記めっき層は、
前記母材が形成される第1金属と異なる第2金属から形成される層と、
前記層に分散される微粒子とを含み、
前記微粒子は、フッ素系材料から形成され
前記合金層は、前記第1金属と前記第2金属とを含む合金から形成され、前記母材に近いほど前記第1金属の濃度が大きくなるように、かつ、前記めっき層に近いほど前記第2金属の濃度が大きくなるように、形成され
電池。
【請求項7】
正極と負極とが格納される空間が内部に形成される電池缶と、
前記電池缶に形成された開口部を閉鎖する板と、
前記板と前記電池缶との間に形成される隙間を封止するガスケットとを備え、
前記電池缶は、
母材と、
前記母材のうちの前記空間に対向する内側面の裏側の外側面を被覆するめっき層と
前記母材と前記めっき層との間に配置される合金層とを有し、
前記めっき層は、
前記母材が形成される第1金属と異なる第2金属から形成される層と、
前記層に分散される微粒子とを含み、
前記微粒子は、フッ素系材料から形成され
前記合金層は、前記第1金属と前記第2金属とを含む合金から形成され、前記母材に近いほど前記第1金属の濃度が大きくなるように、かつ、前記めっき層に近いほど前記第2金属の濃度が大きくなるように、形成され
電池。
【請求項8】
正極と負極とが格納される空間が内部に形成される電池缶と、
前記電池缶に形成された開口部を閉鎖する板と、
前記板と前記電池缶との間に形成される隙間を封止するガスケットとを備え、
前記電池缶は、
母材と、
前記母材のうちの前記電池缶に電気的に接触する機器側端子に対向する端子部分を被覆するめっき層と
前記母材と前記めっき層との間に配置される合金層とを有し、
前記めっき層は、
前記母材が形成される第1金属と異なる第2金属から形成される層と、
前記層に分散される微粒子とを含み、
前記微粒子は、フッ素系材料から形成され
前記合金層は、前記第1金属と前記第2金属とを含む合金から形成され、前記母材に近いほど前記第1金属の濃度が大きくなるように、かつ、前記めっき層に近いほど前記第2金属の濃度が大きくなるように、形成され
電池。
【請求項9】
正極と負極とが格納される空間が内部に形成される電池缶と、
前記電池缶に形成された開口部を閉鎖する板と、
前記板と前記電池缶との間に形成される隙間を封止するガスケットとを備え、
前記板は、
母材と、
前記母材のうちの前記板に電気的に接触する機器側端子に対向する領域を被覆するめっき層と
前記母材と前記めっき層との間に配置される合金層とを有し、
前記めっき層は、
前記母材が形成される第1金属と異なる第2金属から形成される層と、
前記層に分散される微粒子とを含み、
前記微粒子は、フッ素系材料から形成され
前記合金層は、前記第1金属と前記第2金属とを含む合金から形成され、前記母材に近いほど前記第1金属の濃度が大きくなるように、かつ、前記めっき層に近いほど前記第2金属の濃度が大きくなるように、形成され
電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の技術は、電池に関する。
【背景技術】
【0002】
絞り加工により形成された電池ケースの表面にめっきが施されている電池が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭55-050571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような電池は、非常用として長期間保存されることがある。電池は、保存中に、正極缶のめっき割れや絞り加工によるシワ部分の隙間を電解液が毛細管現象で這い上がるクリープ現象が発生し、電池ケースの内部から電解液が漏洩する漏液が発生することがある。また、シール剤で漏液が防止されている場合であっても、シール剤の塗布状態や製造時の部品の搬送によるスリ傷などにより漏液が生じる場合がある。
【0005】
開示の技術は、かかる点に鑑みてなされたものであって、電池ケースから電解液が漏液することを防止する電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様による電池は、正極と負極とが格納される空間が内部に形成される電池缶と、前記電池缶に形成された開口部を閉鎖する負極端子板と、前記負極端子板と前記電池缶との間に形成される隙間を封止するガスケットとを備えている。前記電池缶は、母材と、前記母材のうちの前記ガスケットに対向する領域を被覆するめっき層と、前記母材と前記めっき層との間に配置される合金層とを有している。前記めっき層は、前記母材が形成される第1金属と異なる第2金属から形成される層と、前記層に分散される微粒子とを含んでいる。前記微粒子は、フッ素系材料から形成されている。前記合金層は、前記第1金属と前記第2金属とを含む合金から形成され、前記母材に近いほど前記第1金属の濃度が大きくなるように、かつ、前記めっき層に近いほど前記第2金属の濃度が大きくなるように、形成されている。
【発明の効果】
【0007】
開示の電池は、電池ケースから電解液の漏液を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態の電池を示す断面図である。
図2図2は、実施形態の電池の正極缶の一部を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本願が開示する実施形態にかかる電池について、図面を参照して説明する。なお、以下の記載により本開示の技術が限定されるものではない。また、以下の記載においては、同一の構成要素に同一の符号を付与し、重複する説明を省略する。
【0010】
実施形態の電池1は、いわゆるアルカリ電池であり、図1に示されているように、電池ケース2と正極3と負極5と集電棒6とセパレータ7とを備えている。図1は、実施形態の電池1を示す断面図である。電池ケース2の内部には、内部空間22が形成されている。電池ケース2は、正極缶11と負極端子板12と封口ガスケット14とを備えている。正極缶11は、有底円筒形に形成され、開口部15が形成されている。正極缶11は、中空の円柱状に形成され、側面部分16と底面部分17とを備えている。側面部分16は、円柱の側面に沿うように、形成されている。開口部15は、正極缶11のうちの円柱の一方の底面に対応する部位に形成されている。
【0011】
側面部分16には、ビーディング部18と接触面19とが形成されている。ビーディング部18は、側面部分16のうちの開口部15の近傍に形成されている。ビーディング部18は、側面部分16のうちの開口部15の近傍の一部の内径が小さくなるように、形成されている。接触面19は、側面部分16の内周面のうちのビーディング部18より開口部15に近い側の領域に形成されている。底面部分17は、円柱の他方の底面に沿うように、形成されている。底面部分17は、概ね円板状に形成され、中央に正極端子部分21が形成されている。正極端子部分21は、正極缶11の内側から外側に向かって突出するように形成されている。
【0012】
負極端子板12は、概ね円板状に形成されている。負極端子板12は、正極缶11の開口部15を封口するように、開口部15に配置されている。電池ケース2には、負極端子板12が開口部15を封口することにより、正極缶11と負極端子板12とに囲まれる内部空間22が形成されている。封口ガスケット14は、樹脂に例示される絶縁体から形成され、概ねリング状に形成されている。封口ガスケット14は、負極端子板12の縁を取り囲み、負極端子板12の縁と正極缶11の接触面19との間に形成される隙間を塞ぎ、内部空間22を外部から密閉している。封口ガスケット14は、さらに、負極端子板12と正極缶11とを電気的に絶縁している。
【0013】
正極3は、正極作用物質から形成され、中空円筒形に形成されている。正極作用物質は、電解二酸化マンガンと黒鉛とバインダーと水酸化カリウム水溶液とを含んでいる。正極3は、電池ケース2の内部空間22に配置され、正極作用物質が正極缶11に電気的に接続されるように、正極缶11の側面部分16の内周面に密着している。負極5は、負極作用物質から形成され、ゲル状に形成されている。負極作用物質は、亜鉛合金粉と水酸化カリウム水溶液とを含んでいる。負極5は、電池ケース2の内部空間22のうちの正極3の内側に配置されている。
【0014】
集電棒6は、導体から棒状に形成されている。集電棒6は、内部空間22に配置され、負極5の負極作用物質に電気的に接続されるように、負極5に埋設されている。集電棒6は、さらに、封口ガスケット14の中央を貫通している。集電棒6の一端は、集電棒6が負極端子板12に電気的に接続されるように、負極端子板12に接合されている。
【0015】
セパレータ7は、ポリプロピレン不織布から形成され、有底中空円筒形に形成されている。すなわち、セパレータ7は、側面部分25と底面部分26とを備えている。側面部分25は、円柱の側面に沿うように形成されている。底面部分26は、円柱の一方の底面に沿うように形成されている。セパレータ7は、側面部分25が正極3と負極5との間に配置されるように、かつ、底面部分26が負極5と正極缶11の底面部分17との間に配置されるように、電池ケース2の内部空間22に配置されている。セパレータ7は、正極3と負極5とが電気的に接続されないように、正極3と負極5とを隔て、負極5と正極缶11とが電気的に接続されないように、負極5と正極缶11とを隔てている。電池1は、電解液をさらに備えている。電解液は、水酸化カリウムKOHを含有する水溶液から形成されている。電解液は、セパレータ7に染み込んでいる。
【0016】
図2は、正極缶11を示す断面図である。正極缶11は、母材31と外面側PTFE共析めっき層32と内面側PTFE共析めっき層33と外面側合金層34と内面側合金層35とニッケルめっき層36とを備えている。母材31は、鋼鉄から形成され、屈曲した板状に形成されている。外面側PTFE共析めっき層32は、ニッケルから形成されるめっき層に微粒子が分散している分散系から形成され、膜状に形成されている。微粒子は、ポリテトラフルオロエチレンPTFEから形成されている。外面側PTFE共析めっき層32は、母材31のうちの正極缶11の外側の表面を被覆している。内面側PTFE共析めっき層33は、外面側PTFE共析めっき層32と同様に、ニッケルから形成されるめっき層に微粒子が分散している分散系から形成されている。内面側PTFE共析めっき層33は、母材31のうちの正極缶11の内側の表面を被覆している。
【0017】
外面側合金層34は、鉄とニッケルとの合金から形成され、膜状に形成されている。外面側合金層34は、母材31と外面側PTFE共析めっき層32との間に配置され、一方の面が母材31に接合され、他方の面が外面側PTFE共析めっき層32に接合されている。このとき、外面側合金層34は、詳細には、母材31に近いほど鉄の濃度が大きくなるように、かつ、外面側PTFE共析めっき層32に近いほどニッケルの濃度が大きくなるように、濃度勾配が形成されている。外面側合金層34は、濃度勾配が形成されていることにより、母材31に強固に接合されることができ、外面側PTFE共析めっき層32に強固に接合されることができる。電池1は、外面側合金層34に濃度勾配が形成されていることにより、外面側PTFE共析めっき層32が母材31から剥離することを防止することができる。
【0018】
内面側合金層35は、鉄とニッケルとの合金から形成され、膜状に形成されている。内面側合金層35は、母材31と内面側PTFE共析めっき層33との間に配置され、一方の面が母材31に接合されている。ニッケルめっき層36は、ニッケルから形成され、膜状に形成されている。ニッケルめっき層36は、内面側合金層35と内面側PTFE共析めっき層33との間に配置され、一方の面が内面側合金層35に接合され、他方の面が内面側PTFE共析めっき層33に接合されている。このとき、内面側合金層35は、詳細には、母材31に近いほど鉄の濃度が大きくなるように、かつ、ニッケルめっき層36に近いほどニッケルの濃度が大きくなるように、濃度勾配が形成されている。内面側合金層35は、濃度勾配が形成されていることにより、母材31に強固に接合されることができ、ニッケルめっき層36に強固に接合されることができる。また、内面側PTFE共析めっき層33は、内面側PTFE共析めっき層33とニッケルめっき層36とがニッケルで形成されていることにより、ニッケルめっき層36に強固に接合されている。電池1は、内面側PTFE共析めっき層33と母材31とがニッケルめっき層36と内面側合金層35とを介して接合されていることにより、内面側PTFE共析めっき層33が母材31から剥離することを防止することができる。
【0019】
正極缶11は、外面側PTFE共析めっき層32と内面側PTFE共析めっき層33とに被覆されていることにより、表面が撥水性を有している。電池1は、正極缶11の接触面19が撥水性を有することにより、内部空間22に配置される液体が毛細管現象で正極缶11と封口ガスケット14との間に浸入することを防止することができる。電池1は、内部空間22に配置される液体が正極缶11と封口ガスケット14との間に浸入することが防止されることにより、内部空間22に配置される液体が外部に漏液することを防止することができる。
【0020】
負極端子板12は、正極缶11と同様に、母材とPTFE共析めっき層とを備えている。母材は、母材31と同様に、鋼鉄から形成されている。PTFE共析めっき層は、外面側PTFE共析めっき層32と内面側PTFE共析めっき層33と同様に、ニッケルから形成される連続相に微粒子が分散している分散系から形成され、膜状に形成されている。微粒子は、ポリテトラフルオロエチレンPTFEから形成されている。母材は、PTFE共析めっき層に被覆されている。
【0021】
負極端子板12は、PTFE共析めっき層に被覆されていることにより、表面が撥水性を有している。電池1は、負極端子板12の縁が撥水性を有することにより、負極端子板12のガス抜き穴からの外気中の水分の侵入を阻害し、封口ガスケット14を透過して内部に水分が浸入することを防止することができる。電池1は、内部空間22に水分が侵入することで内圧が上昇し、封口ガスケット14の弁が作動し、電解液が外部に漏液することを防止することができる。
【0022】
[電池1の製造方法]
電池1を製造する製造方法は、正極缶11の作製と、負極端子板12の作製と、電池1の組立とを備えている。正極缶11と負極端子板12の材料となる鋼板の表面にニッケルめっきを行い、更に連続焼鈍を実施する。このような焼鈍により、鉄ニッケル合金が形成され、外面側合金層34と内面側合金層35とニッケルめっき層36とが形成される。その後鋼板をポリテトラフルオロエチレンPTFEから形成される微粒子が分散されためっき液に浸漬して共析めっきすることにより、めっき鋼板を作製する。そのめっき鋼板を深絞り加工することで正極缶11を作製する。正極缶11の両面には、このような共析めっきにより、外面側PTFE共析めっき層32と内面側PTFE共析めっき層33とが形成される。
【0023】
負極端子板12の作製では、上記めっき鋼板をプレス加工することにより、負極端子板12を作製する。負極端子板12の表面には、共析めっきにより、PTFE共析めっき層が形成される。
【0024】
電池1の組立では、電解二酸化マンガンと黒鉛とバインダーと水酸化カリウム水溶液とを用いて調整された正極作用物質がリング状に成型されることにより、正極3が作製される。正極3は、正極3の外周面が正極缶11に内周面に接触するように、正極缶11に嵌合される。正極缶11は、正極3が正極缶11に嵌合された後に、ビーディング部18が形成されるように、加工される。正極缶11にビーディング部18が形成された後に、セパレータ7が正極3の内側に挿入される。セパレータ7が正極3の内側に挿入された後に、電解液がセパレータ7に染み込ませられる。
【0025】
電池1の組立では、さらに、亜鉛合金粉と水酸化カリウム水溶液とを用いてゲル状の負極5が調製される。負極5は、セパレータ7に電解液が染み込んだ後に、セパレータ7の内側に注入される。負極5が注入された後に、負極端子板12に接合された集電棒6が負極5に埋め込まれるように、かつ、負極端子板12と封口ガスケット14とが開口部15を閉鎖するように、集電棒6と負極端子板12と封口ガスケット14とが正極缶11に取り付けられる。集電棒6と負極端子板12と封口ガスケット14とが正極缶11に取り付けられた後に、負極端子板12の縁と正極缶11の接触面19との間に形成される隙間が封口ガスケット14により封止されるように、正極缶11の開口部15の近傍の部分がかしめられる。正極缶11がかしめられることにより、封口ガスケット14が変形し、集電棒6と負極端子板12と封口ガスケット14とが正極缶11に固定され、内部空間22が外部から密閉され、電池1が作製される。
【0026】
電池1が製造される製造ラインでは、正極缶11は、搬送装置により搬送路に沿って搬送され、他の正極缶や搬送路を形成する案内面に摺動する。電池1は、正極缶11の外側の表面が外面側PTFE共析めっき層32により被覆されていることにより、滑り性が良好であり、他の正極缶11や搬送路の案内面に引っ掛かることが防止され、搬送路に沿って適切に搬送されることができる。
【0027】
正極端子部分21と負極端子板12とは、電池1が機器に適切に搭載されることにより、機器に設けられる2つの機器側端子にそれぞれ接触する。電池1は、正極端子部分21と負極端子板12とが機器の2つの機器側端子にそれぞれ接触することにより、直流電力を機器に供給する。正極缶11の正極端子部分21の機器側端子に接触する部分は、外面側PTFE共析めっき層32から形成され、すなわち、母材31のうちの機器側端子に対向する領域は、外面側PTFE共析めっき層32に被覆されている。電池1は、正極缶11の外側の表面が外面側PTFE共析めっき層32により被覆されていることにより、硬質めっき層に比較して、酸化皮膜が生成され難く、機器側端子との電気的接触が良好である。
【0028】
負極端子板12のうちの機器側端子に接触する部分は、PTFE共析めっき層から形成され、すなわち、負極端子板12の母材のうちの機器側端子に対向する領域は、PTFE共析めっき層に被覆されている。電池1は、負極端子板12の外側の表面がPTFE共析めっき層により被覆されていることにより、硬質めっき層に比較して、酸化皮膜が生成され難く、機器側端子との電気的接触が良好である。このため、電池1は、電池1が搭載される機器に直流電力を供給する放電性能を向上させることができる。
【0029】
[電池1の評価試験]
実施形態の電池1の効果を確認するために、PTFE共析量が互いに異なる複数の電池試料が作製され、複数の評価試験が実行されている。PTFE共析量は、正極缶11の外面側PTFE共析めっき層32と内面側PTFE共析めっき層33とのうちの微粒子の濃度を示し、微粒子の体積を外面側PTFE共析めっき層32と内面側PTFE共析めっき層33との体積で除算した値を示している。複数の電池試料は、PTFE共析量が互いに異なること以外は、互いに同様に作製されている。複数の電池試料は、比較例の電池と実施例1の電池と実施例2の電池と実施例3の電池と実施例4の電池と実施例5の電池とを含んでいる。
【0030】
比較例の電池におけるPTFE共析量は、0vol.%である。実施例1の電池におけるPTFE共析量は、1vol.%である。実施例2の電池におけるPTFE共析量は、5vol.%である。実施例3の電池におけるPTFE共析量は、10vol.%である。実施例4の電池におけるPTFE共析量は、15vol.%である。実施例5の電池におけるPTFE共析量は、20vol.%である。
【0031】
電池1の効果を確認する複数の評価試験は、撥水性試験と漏液試験と滑り性試験と接触抵抗測定とを含んでいる。撥水性試験では、複数の電池試料に対応する複数の接触角が測定されている。複数の接触角のうちのある電池試料に対応する1つの接触角は、予め定められた量の水滴がその電池試料の正極缶11の表面に載置されるときに、水滴の自由表面が正極缶11の表面に接する点において,水滴の液面と正極缶11の表面とがなす角を示している。接触角は、値が大きいほど正極缶11の表面の撥水性が大きいことを示している。
【0032】
表1は、撥水性試験の結果を示している。
【表1】
比較例の電池に対応する接触角は、48度を示している。実施例1の電池に対応する接触角は、77度を示している。実施例2の電池に対応する接触角は、80度を示している。実施例3の電池に対応する接触角は、97度を示している。実施例4の電池に対応する接触角は、99度を示している。実施例5の電池に対応する接触角は、100度を示している。撥水性試験の結果は、PTFE共析量が大きいほど接触角が大きいことを示し、実施例1の電池から実施例5の電池に対応する接触角が、比較例の電池に対応する接触角より大きいことを示している。
【0033】
漏液試験では、複数の電池試料に対応する複数のクリープ漏液発生率が測定されている。複数のクリープ漏液発生率のうちのある電池試料に対応する1つのクリープ漏液発生率は、その電池試料が60℃湿度90%の雰囲気に150日間保存されたときに、その電池試料に漏液が発生する割合を示している。漏液は、電池試料のうちの正極缶11と負極端子板12との間を介して、内部空間22から外部に電解液が漏液することを示している。クリープ漏液発生率は、値が小さいほど電池試料の耐漏液特性が良好であることを示している。
【0034】
表2は、漏液試験の結果を示している。
【表2】
比較例の電池に対応するクリープ漏液発生率は、20%を示している。実施例1の電池に対応するクリープ漏液発生率は、0%を示している。実施例2の電池に対応するクリープ漏液発生率は、0%を示している。実施例3の電池に対応するクリープ漏液発生率は、0%を示している。実施例4の電池に対応するクリープ漏液発生率は、0%を示している。実施例5の電池に対応するクリープ漏液発生率は、0%を示している。漏液試験の結果は、PTFE共析量が0vol.%であるときに漏液が発生するものの、PTFE共析量が1vol.%に等しいか1vol.%より大きいときに漏液が発生しないことを示している。
【0035】
滑り性試験では、JIS規格JIS K7125に準拠し、島津製作所製オートグラフを用いて、複数の電池試料に対応する複数の動摩擦係数と複数の静摩擦係数とが測定されている。複数の動摩擦係数のうちのある電池試料に対応する1つの動摩擦係数は、その電池試料が60℃湿度90%の雰囲気に150日間保存された後の、その電池試料の正極缶11の表面の動摩擦係数を示している。複数の静摩擦係数のうちのある電池試料に対応する1つの静摩擦係数は、その電池試料が60℃湿度90%の雰囲気に150日間保存された後の、その電池試料の正極缶11の表面の静摩擦係数を示している。動摩擦係数と静摩擦係数とは、値が小さいほど電池試料の正極缶11の表面の滑り性が良好であることを示している。
【0036】
表3は、滑り性試験の結果を示している。
【表3】
比較例の電池に対応する動摩擦係数は、0.12を示している。実施例1の電池に対応する動摩擦係数は、0.11を示している。実施例2の電池に対応する動摩擦係数は、0.10を示している。実施例3の電池に対応する動摩擦係数は、0.09を示している。実施例4の電池に対応する動摩擦係数は、0.08を示している。実施例5の電池に対応する動摩擦係数は、0.06を示している。比較例の電池に対応する静摩擦係数は、0.15を示している。実施例1の電池に対応する静摩擦係数は、0.14を示している。実施例2の電池に対応する静摩擦係数は、0.13を示している。実施例3の電池に対応する静摩擦係数は、0.12を示している。実施例4の電池に対応する静摩擦係数は、0.11を示している。実施例5の電池に対応する静摩擦係数は、0.10を示している。滑り性試験の結果は、PTFE共析量が大きいほど動摩擦係数が小さいことを示し、PTFE共析量が大きいほど静摩擦係数が小さいことを示している。
【0037】
接触抵抗測定では、複数の電池試料に対応する複数の接触抵抗値が測定されている。複数の接触抵抗値のうちのある電池試料に対応する1つの接触抵抗値は、その電池試料が60℃湿度90%の雰囲気に7日間保存された後の、その電池試料の正極缶11の表面の接触抵抗を示している。接触抵抗値は、値が小さいほど電池試料の機器との電気的接触が良好であることを示し、値が小さいほど電池試料の放電性能が良好であることを示している。
【0038】
表4は、接触抵抗測定の結果を示している。
【表4】
比較例の電池に対応する接触抵抗値は、144mΩを示している。実施例1の電池に対応する接触抵抗値は、31mΩを示している。実施例2の電池に対応する接触抵抗値は、28mΩを示している。実施例3の電池に対応する接触抵抗値は、28mΩを示している。実施例4の電池に対応する接触抵抗値は、27mΩを示している。実施例5の電池に対応する接触抵抗値は、27mΩを示している。接触抵抗測定の結果は、PTFE共析量が大きいほど接触抵抗値が小さいことを示している。
【0039】
表5は、複数の評価試験の結果を示している。
【表5】
複数の評価試験の結果は、PTFE共析量が1vol.%に等しいか1vol.%より大きい電池の正極缶11の表面の撥水性が良好であることを示している。すなわち、複数の評価試験の結果は、実施例1から実施例5の電池の正極缶11の表面の撥水性が、比較例の電池の正極缶11の表面の撥水性より良好であることを示している。複数の評価試験の結果は、さらに、実施例3から実施例5の電池の正極缶11の表面の撥水性が、実施例1から実施例2の電池の正極缶11の表面の撥水性よりさらに良好であることを示している。すなわち、複数の評価試験の結果は、PTFE共析量が10vol.%に等しいか10vol.%より大きい電池の正極缶11の表面の撥水性が、PTFE共析量が10vol.%より小さい電池の正極缶11の表面の撥水性より良好であることを示している。
【0040】
複数の評価試験の結果は、PTFE共析量が1vol.%に等しいか1vol.%より大きい電池の耐漏液特性が良好であることを示し、実施例1から実施例5の電池の耐漏液特性が、比較例の電池の耐漏液特性より良好であることを示している。複数の評価試験の結果は、さらに、正極缶11の表面の撥水性が良好である電池が耐漏液特性も良好であることを示している。
【0041】
複数の評価試験の結果は、PTFE共析量が1vol.%に等しいか1vol.%より大きい電池の正極缶11の表面の滑り性が良好であることを示している。すなわち、複数の評価試験の結果は、実施例1から実施例5の電池の正極缶11の表面の滑り性が、比較例の電池の正極缶11の表面の滑り性より良好であることを示している。このため、複数の評価試験の結果は、比較例の電池の正極缶11に比較して、実施例1から実施例5の電池の正極缶11が搬送路に沿ってより適切に搬送されることができることを示している。複数の評価試験の結果は、さらに、実施例3から実施例5の電池の正極缶11の表面の滑り性が、実施例1から実施例2の電池の正極缶11の表面の滑り性よりさらに良好であることを示している。すなわち、複数の評価試験の結果は、PTFE共析量が10vol.%に等しいか10vol.%より大きい電池の正極缶11の表面の滑り性が、PTFE共析量が10vol.%より小さい電池の正極缶11の表面の滑り性より良好であることを示している。
【0042】
複数の評価試験の結果は、PTFE共析量が1vol.%に等しいか1vol.%より大きい電池の機器との電気的接触が良好であり、電池試料の放電性能が良好であることを示している。すなわち、複数の評価試験の結果は、実施例1から実施例5の電池の機器との電気的接触が、比較例の電池の機器との電気的接触より良好であることを示している。このため、複数の評価試験の結果は、比較例の電池の正極缶11の放電性能に比較して、実施例1から実施例5の電池の正極缶11の放電性能がより良好であることを示している。
【0043】
[実施形態の電池1の効果]
実施形態の電池1は、正極3と負極5と正極缶11と負極端子板12と封口ガスケット14とを備えている。正極缶11は、正極3と負極5とが格納される内部空間22が内部に形成されている。負極端子板12は、正極缶11に形成された開口部15を閉鎖している。封口ガスケット14は、負極端子板12と正極缶11との間に形成される隙間を封止している。正極缶11は、母材31と、母材31の封口ガスケット14に対向する領域を被覆する内面側PTFE共析めっき層33とを備えている。内面側PTFE共析めっき層33は、ニッケルから形成される層と、層に分散される微粒子とを含んでいる。微粒子は、ポリテトラフルオロエチレンPTFEから形成されている。
【0044】
このとき、電池1は、正極缶11の封口ガスケット14に対向する接触面19が撥水性を有し、内部空間22に配置される液体が毛細管現象で正極缶11と封口ガスケット14との間に浸入することを防止することができる。電池1は、内部空間22に配置される液体が正極缶11と封口ガスケット14との間に浸入することが防止されることにより、内部空間22に配置される液体が外部に漏液することを防止することができる。
【0045】
また、実施形態の電池1の外面側PTFE共析めっき層32は、母材31のうちの内部空間22に対向する内側面の裏側の外側面をさらに被覆している。このとき、電池1は、正極缶11の外側面が滑り性を有し、電池1が搬送路に沿って搬送されるときに、他の電池や搬送路の案内面に引っ掛かることを防止し、生産性を向上させることができる。
【0046】
また、実施形態の電池1の外面側PTFE共析めっき層32は、母材31のうちの正極缶11に電気的に接触する機器側端子に対向する正極端子部分21をさらに被覆している。このとき、電池1は、正極缶11の正極端子部分21に酸化皮膜が形成され難いことにより、正極端子部分21と機器側端子との間の接触抵抗を低減することができ、電池1が搭載される機器に直流電力を供給する放電性能を向上させることができる。
【0047】
また、実施形態の電池1の負極端子板12のPTFE共析めっき層は、母材のうちの負極端子板12に電気的に接触する機器側端子に対向する端子部分をさらに被覆している。このとき、電池1は、負極端子板12に酸化皮膜が形成され難いことにより、負極端子板12と機器側端子との間の接触抵抗を低減することができ、電池1が搭載される機器に直流電力を供給する放電性能を向上させることができる。
【0048】
ところで、既述の外面側PTFE共析めっき層32と内面側PTFE共析めっき層33とは、PTFE共析量が互いに等しく形成されているが、PTFE共析量が互いに異なるように形成されていてもよい。このような場合でも、電池1は、漏液を防止したり、生産性を向上させたり、放電性能を向上させたりすることができる。
【0049】
ところで、既述の外面側PTFE共析めっき層32と内面側PTFE共析めっき層33とに分散される微粒子は、PTFEから形成されているが、PTFEと異なる他のフッ素系材料から形成されてもよい。フッ素系材料としては、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体FEP、エチレン・四フッ化エチレン共重合体ETFE、ポリクロロトリフルオロエチレンPCTFE、ポリフッ化ビニリデンPVDF、ポリフッ化ビニルPVFが例示される。フッ素系材料としては、さらに、テトラフルオロエチレンCとペルフルオロエーテルCFORfの共重合体PFAが例示される。ここで、Rfは、ペルフルオロ基であり、ペルフルオロ基としては、トリフルオロメチルCFが例示される。電池1は、微粒子がこのようなフッ素系材料から形成されている場合でも、漏液を防止したり、生産性を向上させたり、放電性能を向上させたりすることができる。
【0050】
ところで、既述の電池1は、アルカリ電池に形成されているが、アルカリ電池と異なる他の電池に形成されてもよい。このような場合でも、電池1は、漏液を防止したり、生産性を向上させたり、放電性能を向上させたりすることができる。
【0051】
以上、実施例を説明したが、前述した内容により実施例が限定されるものではない。また、前述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、前述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、実施例の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換及び変更のうち少なくとも1つを行うことができる。
【符号の説明】
【0052】
1 :電池
3 :正極
5 :負極
11 :正極缶
12 :負極端子板
14 :封口ガスケット
15 :開口部
16 :側面部分
17 :底面部分
19 :接触面
21 :正極端子部分
22 :内部空間
31 :母材
32 :外面側PTFE共析めっき層
33 :内面側PTFE共析めっき層
34 :外面側合金層
35 :内面側合金層
図1
図2