(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】樹脂被覆長尺体
(51)【国際特許分類】
B32B 3/20 20060101AFI20250205BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20250205BHJP
E04F 15/02 20060101ALI20250205BHJP
B32B 15/082 20060101ALI20250205BHJP
B32B 15/085 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
B32B3/20
B32B15/08 M
E04F15/02 J
B32B15/082 A
B32B15/085
(21)【出願番号】P 2020180668
(22)【出願日】2020-10-28
【審査請求日】2023-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002462
【氏名又は名称】積水樹脂株式会社
(72)【発明者】
【氏名】赤木 竜也
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-203778(JP,A)
【文献】実開昭58-085071(JP,U)
【文献】特開昭50-006139(JP,A)
【文献】特開2016-067450(JP,A)
【文献】特開2013-227777(JP,A)
【文献】特開2008-213198(JP,A)
【文献】特開2009-228288(JP,A)
【文献】特開2011-161784(JP,A)
【文献】特開2017-210742(JP,A)
【文献】特開2018-131852(JP,A)
【文献】特開2019-194405(JP,A)
【文献】特開2018-039246(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00190825(EP,A1)
【文献】中国実用新案第208831973(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
E04F10/00-10/10
15/00-15/22
E06B1/00-1/70
3/04-3/46
3/50-3/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に段部が長手方向に沿って形成され、内部に中空部が長手方向に沿って形成された金属製の芯材と、該芯材の前記段部を含む外面を被覆する合成樹脂からなる被覆樹脂層とを備えた樹脂被覆長尺体であって、
前記段部は、一方の辺部と他方の辺部とを備え、
前記一方の辺部は、対向する外面に向けて形成された中間桟に接続され、
前記他方の辺部には、前記中間桟と隣接する蟻溝状の第一の溝部が該芯材の内方に向けて形成され、
開口が前記
一方の辺部へ向けられるように形成された前記第一の溝部の内部に被覆樹脂層の一部が入り込んでおり、
前記芯材の外面には前記第一の溝部と異なる蟻溝状の抜け止め溝部が芯材の内方に向けて形成され、該抜け止め溝部に被覆樹脂層の一部が入り込んでおり、
前記抜け止め溝部は前記一方の辺部側と前記他方の辺部側の両側にそれぞれ形成され、
樹脂被覆層が被覆される前記芯材の外面において、前記第一の溝部と前記他方の辺部側の抜け止め溝部との距離が、前記第一の溝部と前記一方の辺部側の抜け止め溝部との距離よりも長くなるように各抜け止め溝部が形成されていることを特徴とする樹脂被覆長尺体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の芯材の外面に、合成樹脂からなる被覆樹脂層が被覆された樹脂被覆
長尺体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属製の芯材の外面に被覆樹脂層が被覆された樹脂被覆長尺体としては、本出願人は、金属製の芯材の外面に合成樹脂を用いて被覆樹脂層が形成され、断面の一部に被覆樹脂層が設けられていない無被覆部が設けられると共に、前記芯材の被覆樹脂層の端縁と無被覆部との境界付近に蟻溝状の抜け止め溝が設けられ、抜け止め溝に被覆樹脂層の一部が入り込んでいる樹脂被覆長尺体であって、該抜け止め溝の開口部を覆って被覆樹脂層が設けられると共に、抜け止め溝の開口部と前記被覆樹脂層の端縁とが異なる位置に設けられており、前記芯材は、断面矩形であって、該矩形の三面の外側に被覆樹脂層が設けられると共に、残りの一面が無被覆部となされている樹脂被覆長尺体を提案している(特許文献1)。
【0003】
更に、本出願人は、内方に凹んだ凹み面が長手方向に沿って外面に形成された金属製の芯材と、該芯材の前記凹み面を含む外面に被覆された被覆樹脂層とを備えた樹脂被覆長尺体であって、前記芯材の凹み面に蟻溝状の抜け止め溝が該芯材の内方に向けて形成され、前記抜け止め溝に被覆樹脂層の一部が入り込んでいる樹脂被覆長尺体を提案している(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-213198号公報
【文献】特開2013-227777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、芯材の外面を樹脂被覆する場合、芯材の断面が矩形状の場合と、そうでない場合とがある。特許文献1においては芯材が断面矩形であるため、被覆樹脂は、抜け止め溝に被覆樹脂層の一部が入り込んだものとすれば、断面の一部に樹脂が被覆されていない無被覆部が設けられていても被覆樹脂層が外れる恐れを効果的に小さくできるものである。それに対して、特許文献2においては、芯材が断面矩形ではなく、内方に凹んだ箇所があるため、この凹んだ箇所の被覆する被覆樹脂層が剥離しないように凹み面にも抜け止め溝を形成したものである。
【0006】
芯材は、一般には中空形状であって、断面形状としては、方形状よりは、縦長形状、又は横長形状であることが多いため、強度を高めるために中空部を長手方向に分割する中間桟が形成されている。中間桟は、該中間桟が形成される付近の強度向上にも繋がるため、芯材が細長形状であれば上述の凹んだ箇所付近に形成されることが多い。
【0007】
ここで、芯材の断面が矩形状でない場合として、段付き形状を挙げることができる。この場合、上述の中間桟は、段部の角部付近の強度を高めるために、この角部付近から対向する芯材の外周面に向けて形成されていることが多い。
【0008】
また、段付き形状の芯材を被覆する場合は、段部の角部付近は被覆樹脂が剥離するおそれがあるので、抜け止め溝があることが好ましいが、そうすると角部付近に折れ部や切り欠き形状が形成された状態となり芯材の強度が低下するおそれがあった。
【0009】
本発明は、前記の如き問題点を解消し、段付き形状の芯材を樹脂被覆する場合に、段部の角部付近の被覆樹脂の剥離と強度低下を抑えることができる樹脂被覆長尺体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は次のような構成としている。
すなわち本発明に係る樹脂被覆長尺体は、外面に段部が長手方向に沿って形成され、内部に中空部が長手方向に沿って形成された金属製の芯材と、該芯材の前記段部を含む外面を被覆する合成樹脂からなる被覆樹脂層とを備えた樹脂被覆長尺体であって、前記段部は、一方の辺部と他方の辺部とを備え、前記一方の辺部は、対向する外面に向けて形成された中間桟に接続され、前記他方の辺部には、前記中間桟と隣接する蟻溝状の第一の溝部が該芯材の内方に向けて形成され、開口が前記一方の辺部へ向けられるように形成された前記第一の溝部の内部に被覆樹脂層の一部が入り込んでおり、前記芯材の外面には前記第一の溝部と異なる蟻溝状の抜け止め溝部が芯材の内方に向けて形成され、該抜け止め溝部に被覆樹脂層の一部が入り込んでおり、前記抜け止め溝部は前記一方の辺部側と前記他方の辺部側の両側にそれぞれ形成され、樹脂被覆層が被覆される前記芯材の外面において、前記第一の溝部と前記他方の辺部側の抜け止め溝部との距離が、前記第一の溝部と前記一方の辺部側の抜け止め溝部との距離よりも長くなるように各抜け止め溝部が形成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、段付き形状の芯材を樹脂被覆する場合に、段部付近の被覆樹脂の剥離を抑え、かつ芯材の強度低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る樹脂被覆長尺体の実施の一形態を示す説明図である。
【
図5】本発明に係る樹脂被覆長尺体の他の実施形態を示す説明図である。
【
図6】本発明に係る樹脂被覆長尺体を用いたベンチにおいて実施の一形態を示す用いた平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照し、具体的に説明する。図面において、10は芯材、20は芯材10の外面11を被覆する被覆樹脂層であり、本発明に係る樹脂被覆長尺体100は、主に、芯材10、被覆樹脂層20から構成されている。
【0014】
図1は、本発明に係る樹脂被覆長尺体100の実施の一形態を示す説明図であって、前後方向に形成された樹脂被覆長尺体100を縦方向に切断した斜視図を示している。
図2は
図1の芯材10の右上端部付近の部分拡大図、
図3は
図1の樹脂被覆長尺体100において右上端部付近の部分拡大図である。ここで、特に説明しない限り、樹脂被覆長尺体100の左右方向、上下方向は
図1の左右方向、上下方向と同じであって、これに基づき説明する。
【0015】
芯材10は、本形態では、中空状で同一断面が連続して長尺に形成されたアルミニウム合金製の長尺体である。すなわち、芯材10は、外面11を形成する薄肉部12と内側の中空部13とを備え、薄肉部12は、上下に間隔をあけて形成された上面部12aと下面部12bとを有している。また、上下方向に沿って形成された桟材14によって上面部12aと下面部12bとが接続されて、中空部13が左右方向に複数分割されている。
【0016】
芯材10は、側端部において内方に向けて凹んだ段部30を有しており、本形態では、段部30の位置は、右上端部と左下端部である。右上端部の段部30は、
図2に示す様に、上面部12aと交差する方向に形成された一方の辺部31と、一方の辺部31と段部30を形成する他方の辺部32とを備えている。また、一方の辺部31は、他方の辺部32と交差する付近から中間桟40を介して下面部12bと接続されている。本形態においては、芯材10の右上端部においては、上面部12aの右端部から下方に向けて一方の辺部31が形成されて、芯材10の上下方向中間部で他方の辺部32と接続されており、更に一方の辺部31は、中空部13を経て下面部12bに向けて形成された中間桟40に接続されている。一方の辺部31と中間桟40は、同方向に形成されている。
【0017】
また、芯材10の右下端部においては、下面部12bが上面部12aの右端部よりも更に右方に延設されており、下面部12bの右端部から上方に向けて立ち上がる立上り部12cが形成されている。立上り部12cの上端部は、芯材10の高さ方向の中間部に達しており他方の辺部32に接続されている。
【0018】
他方の辺部32には、蟻溝状の溝部33が芯材10の内方、すなわち、
図2においては上方を開口部33aとして下方に向けて形成されている。溝部33は、開口部33aと、開口部33aより幅広の底部33bと、開口部33aの両側端部から斜め下方に向けて形成されて底部33bの両側端に接続される側壁部33c、33cと、これらに囲まれた空間部33dと、を備えている。溝部33は、中間桟40に隣接している。
【0019】
図4は芯材の比較例を示す説明図である。すなわち、
図4は、
図2に対して、段部30の溝部33付近の構造が異なる比較例を示すものである。
図4のように、溝部133が一方の辺部131と他方の辺部132との交点を含む位置に形成されると、一方の辺部131と中間桟140との間に、一方の辺部131又は中間桟140の幅方向全域にわたって溝部133の空間部133dが位置する。
【0020】
これにより、一方の辺部131から中間桟140に繋がる箇所付近で溝部133による折れ部が形成された状態となる。こうなると、芯材110に荷重が掛かった場合に、溝部133による折れ部を起点として変形しやすくなる。
【0021】
図2に示す様に、溝部33が中間桟40に隣接した本形態であれば、上記の様な変形が生じにくくなる。ここで、溝部33が中間桟40に隣接している状態とは、溝部33の開口部33aの一方の辺部31側の開口縁33eが、一方の辺部31又は、一方の辺部31の仮想延長した際の領域よりも外側に位置しており、かつ、溝部33の一方の辺部31側の開口縁33eから側壁部33cを経て底部33bに至るまで、一方の辺部31は中間桟40と一体に形成されている状態である。なお、溝部33の空間部33dにおいて、一方の辺部31側の端部が、一方の辺部31の仮想延長した際の領域と外側で接した状態となるか、それよりも外側に位置していることが更に好ましい。
【0022】
芯材10としては、本形態のように、押出成形が容易であり、しかも軽量である、アルミニウム若しくはアルミニウム合金を用いて形成するのが好ましいが、他の金属を用いてもよい。
【0023】
なお、芯材10の左下端部に形成された段部30は、右側端部の段部30と上下及び左右の関係が逆となったものであり、既に説明した内容と同じ構成要素には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0024】
樹脂被覆長尺体100は、
図1、
図2に示す様に、押出成形などの熱成形によって芯材10の外面11に合成樹脂を被覆するとともに熱成形時に溶融状態の合成樹脂の一部が溝部33内に入り込んで被覆樹脂層20が形成されたものである。溝部33内に樹脂が入り込むことにより、段部30付近の被覆樹脂の剥離を抑えることができる。
【0025】
また、上述の通り、溝部33の位置は、他方の辺部32であって、中間桟40に隣接している位置である。ここで、芯材10において、上面部12a及び下面部12bには、溝部33と同様な形態の抜け止め溝部15が形成されている。ここで、熱変化(冷却時)において収縮率が大きいのは、金属製の芯材10よりは被覆樹脂層20であり、また、溝部33と抜け止め溝部15付近の樹脂は移動しにくいので、その間の樹脂が収縮するように振る舞うため、溝部33と抜け止め溝部15との距離が長いほど大きな収縮が生じて、その収縮によって溝部33内の樹脂が引き出されようとする引張力も大きくなる。本形態では、溝部33に対して、他方の辺部32側で隣合う抜け止め溝部15の方が距離が長いので、上記の様な収縮が生じた場合、溝部33内の樹脂は他方の辺部32側に相対的に強く引っ張られることになるが、
図3に示す様な溝部33が段部30の角部付近に形成されている場合や、図示しないが、一方の辺部31に形成された場合に比べると、溝部33が他方の辺部32に形成されている本形態の方が溝部33内の樹脂が引き抜かれにくくなり、段部30付近の被覆樹脂層20の剥離を効果的に抑えることができる。
【0026】
被覆樹脂層20を形成するための合成樹脂としては、熱成形時に溶融して蟻溝状の溝部33内に流入可能となる熱可塑性合成樹脂を用いるのが好ましく、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、AAS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂等を用いることができる。また被覆樹脂層20の形成に用いる合成樹脂として、金属材料との接着性を有する熱可塑性合成樹脂を用いれば、芯材10の外面11と被覆樹脂層20とが接着して、被覆樹脂層20を更に外れにくくすることができる。芯材10との接着性を有する熱可塑性合成樹脂としては、例えばEVA(エチレン酢酸ビニル共重合体)、PVB(ポリビニルブチラール)、無水マレイン酸等で変性した変性ポリエチレン、変性ポリプロピレン、EAA樹脂等のα-オレフィンと不飽和カルボン酸の共重合体などを用いることができる。また前述の合成樹脂には、シリカ粉末、マイカ粉末、タルク、ガラスファイバー、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、クレー、鉱物、マイクロバルーン、金属粉、木粉、パルプ等のセルロース粉末等の充填材を適宜配合してもよい。
【0027】
図5は、本発明の樹脂被覆長尺体200の他の実施形態を示す説明図である。
図1~2に示された樹脂被覆長尺体100と比べて、芯材10の断面形状が略円弧状に形成されている点が異なるものである。他の構成については、例えば、芯材10の側端部に段部30を有している点、段部30に形成された溝部33の位置、芯材10の外面11が合成樹脂で被覆されて被覆樹脂層20が形成されている点等は同様であるので、既に説明した内容と同じ構成要素には同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0028】
図6~
図8は、本発明に係る樹脂被覆長尺体100、200を利用したベンチ300の実施形態を示すものであり、
図6は平面図、
図7は側面図、
図8は
図6のA-A断面図である。このように、
図1及び
図4に示された樹脂被覆長尺体100、200において、形材10の段部30同士が被覆樹脂層20を介して嵌合して、ベンチ300の座部と背もたれ部としたものである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明によれば、段付き形状の芯材を樹脂被覆する場合に、段部付近の被覆樹脂の剥離を抑え、かつ芯材の強度低下を抑えることができるので、デッキ材やルーバー材、ベンチ等に、好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0030】
10 芯材
11 外面
12 薄肉部
12a 上面部
12b 下面部
12c 立上り部
13 中空部
14 桟材
15 抜け止め溝部
20 被覆樹脂層
30 段部
31 一方の辺部
32 他方の辺部
33 溝部
33a 開口部
33b 底部
33c 側壁部
33d 空間部
33e 開口縁33e
40 中間桟
100、200 樹脂被覆長尺体
110 芯材
131 一方の辺部
132 他方の辺部
133 溝部
133d 空間部
140 中間桟
300 ベンチ