(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】エンジンのアイドリングストップ制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 29/02 20060101AFI20250205BHJP
【FI】
F02D29/02 321A
(21)【出願番号】P 2021052039
(22)【出願日】2021-03-25
【審査請求日】2024-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】工藤 新也
【審査官】小林 勝広
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0191005(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30、30/00-60/00
F02D 13/00-29/06、43/00-45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得部と、
前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報に基づいて環状交差点を検出する環状交差点検出部と、
予め設定されている停車前アイドリングストップ制御条件を調べる停車前アイドリングストップ制御条件判定部と、
前記停車前アイドリングストップ制御条件判定部で条件成立と判定した場合、アイドリングストップを実行させる停車前アイドリングストップ制御部と
を備えるエンジンのアイドリングストップ制御装置において、
先行車の車速に基づき該車速が高いほど低い値の制御禁止判定しきい値を設定する停車前アイドリングストップ制御禁止判定しきい値設定部
と、
前記環状交差点検出部で前記環状交差点を検出した場合、停車前アイドリングストップ制御禁止条件を調べる停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定部と
を更に
有し、
前記停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定部は、少なくとも前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報に基づき前記環状交差点に進入する前記先行車を検出した場合、該先行車に追従する前記自車両の車速が前記停車前アイドリングストップ制御禁止判定しきい値設定部で設定した前記制御禁止判定しきい値を超えていると判定した場合は前記禁止条件が成立と判定
し、
前記停車前アイドリングストップ制御部は、前記停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定部で前記禁止条件が成立と判定した場合、前記停車前アイドリングストップ制御条件判定部で条件成立と判定されていても前記アイドリングストップを禁止する
ことを特徴とす
るエンジンのアイドリングストップ制御装置。
【請求項2】
前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報に基づき前記環状交差点の環状道路を走行する優先車を認識する優先車認識部を更に有し、
前記停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定部は、少なくとも前記優先車認識部で前記優先車を認識した場合は前記禁止条件が不成立と判定する
ことを特徴とする請求項
1記載のエンジンのアイドリングストップ制御装置。
【請求項3】
自車両前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得部と、
前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報に基づいて環状交差点を検出する環状交差点検出部と、
予め設定されている停車前アイドリングストップ制御条件を調べる停車前アイドリングストップ制御条件判定部と、
前記停車前アイドリングストップ制御条件判定部で条件成立と判定した場合、アイドリングストップを実行させる停車前アイドリングストップ制御部と
を備えるエンジンのアイドリングストップ制御装置において、
前記環状交差点検出部で前記環状交差点を検出した場合、停車前アイドリングストップ制御禁止条件を調べる停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定部と、
前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報に基づき対向車の走行情報を取得する対向車走行情報取得部
と
を更に有し、
前記停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定部は、少なくとも前記対向車走行情報取得部で取得した前記対向車の走行情報から対向車線の渋滞を検出した場合は前記禁止条件が不成立と判定
し、
前記停車前アイドリングストップ制御部は、前記停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定部で前記禁止条件が不成立と判定した場合、前記アイドリングストップを実行させる
ことを特徴とす
るエンジンのアイドリングストップ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アイドリングストップ条件が成立した場合、エンジンを一時的に停止させるエンジンのアイドリングストップ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃費向上、及びCO2排出量の抑制等を目的として、アクセルペダルが開放、且つ、ブレーキペダルが踏込まれ、且つ、自車速が所定車速以下、(且つバッテリ電圧が所定以上)等の条件が満足された場合、自車両のエンジンを停車前に自動的に停止させる、停車前アイドリングストップ制御が知られている。
【0003】
この停車前アイドリングストップ制御では、上述したアイドリングストップ条件が成立した場合、一律にアイドリングストップとなるが、外部環境によってはアイドリングストップ条件が満足された場合であっても、エンジンを停止させない方が良い場合がある。
【0004】
そのため、例えば、特許文献1(特許第5608180号公報)では、アイドリングストップ開始車速を外部環境に応じて可変設定する技術が開示されている。すなわち、例えば、信号現示(点灯色)が青色のときは、黄色や赤色に比し、アイドリングストップ開始車速を低速側に設定する。これにより、アイドリングストップ開始車速が一律に設定される場合に比し、信号機の手前で減速した後の再加速をスムーズに行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、交差点の種類に環状交差点(ラウンドアバウト)がある。この環状交差点は、三叉路以上が、一方通行の環状道路(環道)を介して互いに接続された交差点である。この環状交差点は、原則的には、信号機が設置されておらず、加えて、特に定めがない限り進入時に一時停止する義務もない。従って、環状交差点では、自車両を停車させることなく、極低速で環道に進入する場合も多い。
【0007】
このような場合、上述した文献に開示されているように、外部環境に応じてアイドリングストップ開始車速を設定したとしても、運転者がブレーキペダルを踏んで、自車速がアイドリングストップ開始車速以下になるとエンジンが自動的に停止してしまう。上述したように、環状交差点では環道に進入するに際し、原則的には一時停止する義務がないので、運転者、又は制御システムはブレーキ操作とアクセル操作とにより自車速を調整しながら環道に進入させることになる。
【0008】
環状交差点の環道に進入するに際し、エンジン停止と再始動とが繰り返された場合、運転者にぎくしゃく感を与えてしまうばかりでなく、短期間でのエンジン停止と再始動とを繰り返すことで、燃費悪化を招いてしまう不具合がある。更に、停車前アイドリングストップ状態からアクセルペダルを踏込んだ際に、始動遅れが生じると運転者に違和感を覚えさせてしまうことになる。
【0009】
本発明は、停車前アイドリングストップ制御機能を有する車両において、運転者にぎくしゃく感や違和感を与えることなく、更に、燃費悪化を抑制して、スムーズに環状交差点に進入し、走行させることのできるエンジンのアイドリングストップ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、自車両前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得部と、前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報に基づいて環状交差点を検出する環状交差点検出部と、予め設定されている停車前アイドリングストップ制御条件を調べる停車前アイドリングストップ制御条件判定部と、前記停車前アイドリングストップ制御条件判定部で条件成立と判定した場合、アイドリングストップを実行させる停車前アイドリングストップ制御部とを備えるエンジンのアイドリングストップ制御装置において、先行車の車速に基づき該車速が高いほど低い値の制御禁止判定しきい値を設定する停車前アイドリングストップ制御禁止判定しきい値設定部と、前記環状交差点検出部で前記環状交差点を検出した場合、停車前アイドリングストップ制御禁止条件を調べる停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定部とを更に有し、前記停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定部は、少なくとも前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報に基づき前記環状交差点に進入する前記先行車を検出した場合、該先行車に追従する前記自車両の車速が前記停車前アイドリングストップ制御禁止判定しきい値設定部で設定した前記制御禁止判定しきい値を超えていると判定した場合は前記禁止条件が成立と判定し、前記停車前アイドリングストップ制御部は、前記停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定部で前記禁止条件が成立と判定した場合、前記停車前アイドリングストップ制御条件判定部で条件成立と判定されていても前記アイドリングストップを禁止する。
本発明の一態様は、自車両前方の走行環境情報を取得する走行環境情報取得部と、前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報に基づいて環状交差点を検出する環状交差点検出部と、予め設定されている停車前アイドリングストップ制御条件を調べる停車前アイドリングストップ制御条件判定部と、前記停車前アイドリングストップ制御条件判定部で条件成立と判定した場合、アイドリングストップを実行させる停車前アイドリングストップ制御部とを備えるエンジンのアイドリングストップ制御装置において、前記環状交差点検出部で前記環状交差点を検出した場合、停車前アイドリングストップ制御禁止条件を調べる停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定部と、前記走行環境情報取得部で取得した前記走行環境情報に基づき対向車の走行情報を取得する対向車走行情報取得部とを更に有し、前記停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定部は、少なくとも前記対向車走行情報取得部で取得した前記対向車の走行情報から対向車線の渋滞を検出した場合は前記禁止条件が不成立と判定し、前記停車前アイドリングストップ制御部は、前記停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定部で前記禁止条件が不成立と判定した場合、前記アイドリングストップを実行させる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、環状交差点検出部で環状交差点を認識した場合、停車前アイドリングストップ制御禁止条件を調べ、禁止条件が成立したと判定した場合はアイドリングストップの実行を禁止するようにしたので、ブレーキ操作とアクセル操作により極低速で環状交差点に進入しても、エンジン停止と再始動との繰り返が抑制され、運転者にぎくしゃく感や違和感を与えることなく、自車両をスムーズに走行させることができる。又、エンジン停止と再始動とが不必要に繰り返されることがなくなるので、燃費悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】停車前アイドリングストップ制御機能を備えるエンジンを搭載する車両の概略図
【
図2】停車前アイドリングストップ制御機能を有するエンジン制御装置の構成図
【
図3】停車前アイドリングストップ制御条件判定ルーチンを示すフローチャート
【
図4】停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定ルーチンを示すフローチャート(その1)
【
図5】停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定ルーチンを示すフローチャート(その2)
【
図6】停車前アイドリングストップ制御禁止判定しきい値テーブルの概念図
【
図7】自車両が環状交差点に進入する状態を示す説明図
【
図8】環状交差点に接続する対向車線が渋滞している状態を示す説明図
【
図9】自車両の前方に環状交差点に進入しようとする先行車を検出した状態を示す説明図
【
図10】自車両が進入しようとする環状交差点の環状道路を優先車が走行している状態を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明の一実施形態を説明する。
図1に示す車両(自車両)Mには、エンジン1が搭載されている。このエンジン1の各気筒にインジェクタ1a、点火プラグ1bがそれぞれ設けられており、又、各点火プラグ1bがイグナイタ2に接続されている。更に、このエンジン1に、停止時のエンジン1を起動させるスタータモータ1cが設けられている。
【0014】
又、自車両Mに、走行環境情報取得部としての車載カメラ3が搭載されている。この車載カメラ3はメインカメラ3aとサブカメラ3bを有するステレオカメラ、及び、この両カメラ3a,3bからの画像信号を所定に処理する画像処理ユニット(IPU)3cとを備えている。メインカメラ3aとサブカメラ3bとは所定基線長を有し、車両M前方の走行環境を撮影できるように、室内側のフロントガラス上部であって、車幅方向中央を挟んで左右対称な位置に配置されている。
【0015】
更に、自車両Mにはナビゲーションユニット4が搭載されている。このナビゲーションユニット4は、GNSS(Global Navigation Satellite System)受信機、及び道路地図データベースを備えている。ナビゲーションユニットはGNSS受信機で受信した自車位置情報に基づき道路地図データベース上の自車位置を推定する。
【0016】
又、自車両Mにはエンジン1を制御するエンジン制御ユニット(E/G_ECU)11が搭載されている。尚、E/G_ECU11で実行するエンジン制御は、運転者が自らアクセルとブレーキを操作して走行させる場合に限らず、制御システムがアクセルとブレーキとを操作して走行させる場合も対象となる。
【0017】
このE/G_ECU11は、CPU、RAM、ROM、書き換え可能な不揮発性メモリ(フラッシュメモリ又はEEPROM)、及び周辺機器を備えるマイクロコントローラで構成されている。ROMにはCPUにおいて各処理を実行させるために必要なプログラムや固定データ等が記憶されている。又、RAMはCPUのワークエリアとして提供され、CPUでの各種データが一時記憶される。尚、CPUはMPU(Microprocessor)、プロセッサとも呼ばれている。
【0018】
E/G_ECU11は、各気筒に供給する最適な燃料噴射量を演算すると共に、各気筒の最適点火時期を求める。そして、E/G_ECU11は、所定燃料噴射タイミングに達したとき噴射対象のインジェクタ1aに燃料噴射量に対応する駆動信号を出力すると共に、所定点火タイミングに達したときイグナイタ2を介して点火対象気筒の点火プラグ1bに駆動信号を出力して点火させる。
【0019】
又、
図2に示すように、このE/G_ECU11の入力側には、停車前アイドリングストップ(IS)制御機能を実行する際に必要とするパラメータを検出する各種センサ類が接続されている。又、このE/G_ECU11の出力側にエンジン1を駆動させるインジェクタ1a、イグナイタ2、スタータモータ1cが接続されている。
【0020】
E/G_ECU11の入力側に接続されたセンサ類としては、自車速VSを検出する車速センサ5、アクセルの動作を検出するアクセルセンサ6、ブレーキの動作を検出するブレーキセンサ7、右左折時に動作させて曲がりたい方向のウインカ(右折側のウインカ、或いは左折側のウインカ)を点滅させるウインカスイッチ8、及び車両挙動検出センサ9等がある。この車両挙動検出センサ9は自車両Mに作用する挙動を検出するもので、操舵角を検出する操舵角センサ、ヨーレートを検出するヨーレートセンサ等が含まれている。
【0021】
又、このE/G_ECU11の出力側に、エンジン1を駆動させるインジェクタ1a、点火プラグ1bに接続されているイグナイタ2が接続されていると共に、エンジン1を起動させるスタータモータ1cが接続されている。尚、スタータモータ1cはモータジェネレータであっても良い。
【0022】
E/G_ECU11では、車載カメラ3、及び各センサ・スイッチ類からの信号に基づいて、停車前IS制御条件を調べる。そして、E/G_ECU11は、停車前IS制御条件成立と判定した場合、エンジン1のインジェクタ1aに燃料カット信号を出力し、更に、イグナイタ2に対して点火カット信号を出力して、エンジン1を停止させる。
【0023】
一方、停車前IS制御の解除条件が成立したと判断した場合、エンジン1のスタータモータ1cにON信号を出力して、エンジン1を起動させると共に、インジェクタ1aに所定に計量された燃料噴射信号を出力し、更に、イグナイタ2を介して点火プラグ1bに所定タイミングで点火信号を出力して、エンジン1を再始動させる。従って、このE/G_ECU11は、本発明の停車前アイドリングストップ制御部としての機能を備えている。
【0024】
E/G_ECU11で実行する停車前IS制御条件が成立したか否かの判定は、具体的には、
図3に示す停車前IS制御条件判定ルーチンに従って行われる。このルーチンは、システムが起動した後、所定演算周期毎に実行され、先ず、ステップS1で、現在アイドリングストップ中か否かを調べる。アイドリングストップ中か否かは、例えば、後述するステップS6で停止前IS制御の実行を指示した際にフラグをセットし、又、ステップS8で停止前IS制御を解除した際にフラグをクリアし、このフラグの値を参照することで判定する。
【0025】
そして、アイドリングストップが解除されている場合は、ステップS2へ進み、ステップS2~S4において、予め設定されている停車前IS制御条件が成立しているか否かを調べる。尚、このステップS2~S4での処理が、本発明の停車前アイドリングストップ制御条件判定部に対応している。
【0026】
一方、アイドリングストップ中の場合は、ステップS7へ分岐し、停車前IS制御解除条件が成立したか否かを調べる。
【0027】
先ず、ステップS2~S4に示す一般的な停車前IS制御条件について説明する。ステップS2では、アクセルセンサ6の出力信号を読込み、アクセルが開放されているか否かを調べる。そして、アクセルセンサ6からの信号に基づきアクセル開放と判定した場合は、ステップS3へ進む。又、アクセルセンサ6がアクセル操作を検出した場合は、停車前IS制御条件不成立と判定しルーチンを抜ける。
【0028】
そして、ステップS3へ進むと、ブレーキセンサ7の出力信号を読込み、ブレーキが動作しているか否かを調べる。尚、このブレーキには、いわゆるフットブレーキとパーキングブレーキとの双方が含まれる。
【0029】
そして、ブレーキセンサ7でブレーキ非作動と判定した場合は、停車前IS制御条件不成立と判定しルーチンを抜ける。一方、ブレーキセンサ7にてブレーキ作動を検出した場合は、ステップS4へ進む。
【0030】
ステップS4では、車速センサ5で検出した自車速VSと、停車前IS判定しきい値Voとを比較する。この停車前IS判定しきい値Voは停車前IS制御を実行するか否かを判定する車速であり、8[Km/h]や15[Km/h]等、予め設定された固定値である。そして、VS>Voの場合は、停車前IS制御条件不成立と判定し、ルーチンを抜ける。又、VS≦Voの場合は、ステップS5へ進む。
【0031】
ステップS2~S4に示す停車前IS制御条件が全て満足されたと判定して、ステップS5へ進むと、停車前IS制御禁止フラグFINGの値を調べる。そして、FING=0の停車前IS制御が許可されている場合、ステップS6へ進む。又、FING=0の停車前IS制御が禁止されている場合、ルーチンを抜ける。尚、この停車前IS制御禁止フラグFINGの値は、後述する停車前IS制御禁止条件判定ルーチンにおいて設定される。
【0032】
そして、ステップS6へ進むと、停車前IS制御の実行を指示してルーチンを抜ける。すると、E/G_ECU11は、エンジン1のインジェクタ1aに対する燃料噴射信号、イグナイタ2に対する点火信号を何れもカットして、エンジン1を停止させる。
【0033】
従って、上述したステップS2~S4において停車前IS制御条件が成立したとしても、ステップS5において停車前IS制御禁止フラグFINGがセットされていると判定された場合(FING=1)、停車前IS制御は禁止され、エンジン1の稼動状態が継続される。尚、停車前IS制御条件として、水温センサで検出した冷却水温、バッテリ電圧センサで検出したバッテリ電圧等を加えても良い。この場合、冷却水温が暖機温度以下、或いはバッテリ電圧が所定電圧以下の場合、停車前IS制御条件不成立と判定し、ステップS6へ進むことなくルーチンを抜ける。
【0034】
一方、ステップS1でアイドリングストップ中と判定されて、ステップS7へ分岐すると、ブレーキセンサ7の出力値に基づいて停車前IS制御の解除条件を調べる。そして、ブレーキセンサ7がブレーキ解除を検出した場合、ステップS8へ進み、停車前IS制御を解除し、エンジン1を再始動させてルーチンを抜ける。又、ブレーキセンサ7がブレーキ操作を検出している場合は、ルーチンを抜け、停車前IS制御を継続させる。
【0035】
E/G_ECU11は、エンジン1を再始動させるに際し、スタータモータ1cによりエンジン1を起動せると共に、インジェクタ1aからの燃料噴射、及びイグナイタ2から各気筒の点火プラグに対する点火信号の出力を再開させる。
【0036】
又、E/G_ECU11は、上述したステップS5で読込む、停車前IS制御禁止フラグFINGの値を設定する。この停車前IS制御禁止フラグFINGの値は、
図4、
図5に示す停車前IS制御禁止条件判定ルーチンで設定される。
【0037】
このルーチンでは、先ず、ステップS11で、自車両M前方の走行路に環状交差点(ラウンドアバウト)が検出されているか否かを調べる。尚、このステップS11での処理が、本発明の環状交差点検出部に対応している。
【0038】
図7~
図10に示すように、環状交差点は、交差する3つ以上道路(図において四叉路)どうしを中央の環状道路(環道)で結んだものである。信号機を必要とせず、自車両Mは徐行しながら環道へ進入し、一定の方向へ通行することで、目的の道路へ分岐するようにしたものである。尚、図においては、左側通行規制の道路が示されており、環道は時計回り方向への一方通行となっている。従って、右側通行規制の道路では、環道は反時計回り方向へ走行する。
【0039】
この環状交差点は、車載カメラ3で撮像して取得した、自車両M前方の走行環境情報に基づき、認識した道路形状から抽出する。或いは
図7~
図10に示す環状交差点を示す道路標識を、車載カメラ3で撮像して取得した走行環境情報から環状交差点を認識するようにしても良い。或いは、ナビゲーションユニット4に設けられている道路地図データベースから環状交差点の存在を認識するようにしても良い。或いは、路車間通信により環状交差点の情報を取得するようにしても良い。
【0040】
そして、環状交差点ありと判定した場合は、ステップS12へ進み、ステップS12~S17,S19において、停車前アイドリングストップ制御禁止判定を行う。又、環状交差点が検出されていない場合は、ステップS20へジャンプする。従って、ステップS12~S17,S19での処理が、本発明の停車前アイドリングストップ制御禁止条件判定部に対応している。尚、以下に示す制御禁止判定条件は、何れか1つ以上の条件が満足された場合、禁止条件成立と判定するようにしても良い。
【0041】
ステップS12へ進むと、対向車線が渋滞しているか否かを調べる。
図8に示すように、対向車線が渋滞している場合、この対向車線に繋がる環道も渋滞していと予測できる。尚、このステップS12での処理が、本発明の対向車走行情報取得部に対応している。
【0042】
この場合、対向車線が渋滞しているか否かは、車載カメラ3で撮像して取得した、自車両M前方の走行環境情報に基づき、対向車Oの走行速度や車列等の走行情報を取得し、取得した走行情報に基づいて判定する。或いは、対向車線付近に設置した路側機との路車間通信や対向車Oとの車々間通信により走行情報を取得するようにしても良い。或いは、外部の道路交通情報センタにインターネット等を介してアクセスして走行情報を取得し、渋滞か否かを判定するようにしても良い。
【0043】
そして、対向車線が渋滞していると判定した場合は、ステップS20へジャンプする。又、対向車Oの流れはスムーズであると判定した場合は、ステップS13へ進む。ステップS13では、自車両Mの直前を走行し、環道に進入しようとする先行車Fの有無を調べる。
【0044】
自車両Mの直前に先行車Fが存在しているか否かは、車載カメラ3で撮像して取得した自車両M前方の走行環境情報から判断する。或いは先行車Fとの車々間通信により取得しても良い。或いは環状交差点付近に設置した路側機との路車間通信により取得するようにしても良い。
【0045】
そして、
図7に示すように、環道に進入しようとする先行車Fが検出されていない場合は、ステップS17へジャンプする。又、
図9に示すように、自車両Mが環道に進入しようとする先行車Fに追従して走行している場合は、ステップS14へ進む。ステップS14では、先行車Fが環道の手前で停車しているか否かを調べる。
【0046】
先行車Fが停車しているか否かは、車載カメラ3で取得した先行車Fの情報に基づき、自車両Mと先行車Fとの相対車速を求め、この相対車速から先行車速VFを求めて判定する。或いは、先行車Fとの車々間通信により先行車Fの停車情報を取得しても良い。或いは環状交差点付近に設置した路側機との路車間通信により先行車Fの停車情報を取得するようにしても良い。
【0047】
そして、先行車Fが停車していると判定した場合、自車両Mは先行車Fに追従して停車することが予測できるためステップS20へジャンプする。又、先行車Fが走行していると判定した場合、自車両Mは停車することなく先行車Fに追従して環道に進入する、或いは環道に進入するに際し停車しても直ぐに再発進することが予測できるため、ステップS15へ進む。
【0048】
ステップS15では、先行車速VFに基づき停車前IS制御禁止判定しきい値(以下、「制御禁止判定しきい値」と称する)VISを設定する。
図6に示すように、制御禁止判定しきい値VISは、先行車速VFが0[Km/h]のとき、停車前IS判定しきい値Voと同じ値に設定されている。そして、この制御禁止判定しきい値VISは先行車速VFが高くなるに従い、次第に低い値に設定される。従って、同図にハッチングで示す領域が制御禁止領域となる。
【0049】
先行車速VFが0[Km/h]、すなわち先行車Fが停車している場合、自車両Mはブレーキ操作により減速させて車間距離を詰めることになるため、停車前IS判定しきい値Vo以下で、早期にエンジン1を停止させる。一方、先行車速VFが高ければ、ブレーキ操作により自車速Vsを減速させても車間距離か開くだけであり、自車両Mの停車する確率は低くなる。そのため、先行車速VFが高くなるに従い制御禁止判定しきい値VISを低く設定する。尚、制御禁止判定しきい値VISは先行車速VFに基づき、予め設定されている演算式から求めるようにしても良い。
【0050】
これにより、自車両Mが環状交差点にブレーキを動作させて極低速で進入し、環道をブレーキ動作とアクセル動作とを行いながら低速で走行しても、停車前IS制御が実行され難くなる。従って、エンジン停止と再始動とを繰り返すことにより生じるぎくしゃく感を低減させることができるばかりでなく、再始動を繰り返すことによって生じる燃費悪化を改善することができる。尚、ステップS13~S15での処理が、本発明の停車前アイドリングストップ制御禁止判定しきい値設定部に対応している。
【0051】
次いで、ステップS16へ進み、自車速VSと制御禁止判定しきい値VISとを比較する。そして、VS>VISの場合、ステップS17へ進み、環状交差点の環道を優先車Pが走行しているか否かを調べる。尚、このステップでの処理が、本発明の優先車認識部に対応している。
【0052】
図10に示すように、自車両Mが環道に進入しようとするに際し、自車両Mに接近する車両が環道を走行している場合、当該接近車両を優先車Pとし、この優先車Pの通過を確認してから自車両Mは環道に進入する必要がある。
【0053】
環道を優先車Pが走行しているか否かは、車載カメラ3で撮像して取得した環道の走行環境情報に基づき調べる。そして、環道を走行する優先車Pが検出されていない場合、自車両Mは停車することなく、徐行して環道に進入することができると判定し、ステップS18へ進む。一方、優先車Pが検出された場合、自車両Mは停車して優先車Pの通過を待つ必要があると判定し、ステップS20へジャンプする。
【0054】
この場合、優先車Pの検出は、例えば、環道を走行する接近車両の車速と自車両Mとの相対距離とに基づき、自車両Mに到達する時間を求める(到達時間=相対距離/接近車速)。そして、この到達時間と自車両Mの進入可能時間とを比較し、到達時間<進入可能時間の場合、この接近車両を優先車Pと設定する。一方、到達時間≧進入可能時間の場合、この接近車両が到達する前に自車両Mは環道に進入することができるため、優先車Pなしと判定する。尚、進入可能時間とは、自車両Mが環道に進入して前後車両の流れに沿って走行できるまでに要するタイミング時間であり、進入時の自車速VSに基づいて設定する。
【0055】
ステップS18へ進むと、停車前IS制御禁止条件が成立と判定し、停車前IS制御禁止フラグFINGをセットして(FING←1)、ステップS19へ進む。
【0056】
ステップS19では、自車両Mが環状交差点の出口を通過したか否かを調べる。自車両Mが環状交差点の出口を通過したか否かは、車載カメラ3で撮像して取得した、自車両M前方の走行環境情報に基づき、道路形状を認識することで検出する。或いは、ナビゲーションユニット4に設けられている道路地図データベースから環状交差点の出口を抽出するようにしても良い。或いは、環状交差点の出口付近に設置した路側機との路車間通信により環状交差点の出口の情報を取得するようにしても良い。或いは、ウインカスイッチ8がオルタネイト式であれば、進路変更方向に一度ONさせた後、OFFしたときに環状交差点の出口を通過したと判定するようにしても良い。或いは、自車両Mに操舵角センサが搭載されていれば、操舵角センサにより切り増したハンドルが中立位置へ切り戻しされたことを検出した場合に環状交差点の出口を通過したと判定するようにしても良い。
【0057】
そして、自車両Mは環道を走行していて環状交差点の出口をまだ通過していないと判定した場合は、そのままルーチンを抜ける。従って、自車両Mが環道を走行中は、停車前IS制御禁止フラグFINGがセットされた状態が維持されている(FING=1)。
【0058】
一方、
図7に破線で示すように、自車両Mは環状交差点の出口を通過したと判定した場合は、ステップS20へ進む。
【0059】
ステップS11,S12,S14.S16,S17,S19の何れかからステップS20へ進むと、停車前IS制御禁止条件が不成立と判定し、停車前IS制御禁止フラグFINGをクリアして(FING←0)、ルーチンを抜ける。
【0060】
このステップS18,S20で設定した停車前IS制御禁止フラグFINGの値が、
図3に示すルーチンのステップS5で読込まれる。停車前IS制御禁止フラグFINGがクリアされている場合(FING=0)、ステップS5からステップS6へ進む。そして、ステップS6において、停車前IS制御が実行されてエンジン1が停止される。
【0061】
一方、停車前IS制御禁止フラグFINGがセットされている場合は(FING=1)、ステップS5からステップS6へは進まずに、ルーチンを抜けるため、停車前IS制御は禁止された状態が維持される。
【0062】
従って、例えば、
図7に一点鎖線で示すように、自車両Mが環道に進入し、環道を走行中において、ブレーキ操作により自車速VSを極定速まで減速させてもエンジン1が停止することはない。
【0063】
このように、本実施形態によれば、自車両Mが停車前IS制御機能を有しており、通常の走行においては、所定の停車前IS制御条件が満足されると、IS制御が実行されてエンジン1が停止される。一方、自車両Mが環状交差点に進入し、環道を走行するに際しては、停車前IS制御を禁止するようにしたので、ブレーキを動作させて環状交差点に極低速で進入し、且つ、環道をブレーキ動作とアクセル動作とを調整しながら極低速で走行しても、エンジン停止と再始動とが必要以上に繰り返されることが抑制される。その結果、運転者にぎくしゃく感や違和感、再始動の際のもたつき感を覚えさせることがなく、スムーズに環状交差点に進入して、環道を走行させることができる。
【0064】
更に、環状交差点に進入し、環道を走行するに際し、エンジン停止と再始動とが必要以上に繰り返されないので、再始動による発進遅れ、バッテリ及びスタータモータの劣化が抑制されるばかりでなく、始動時増量噴射による燃費悪化を改善することができる。
【0065】
尚、本発明は、上述した実施形態に限るものではなく、例えば自車両Mのアクセル操作、ブレーキ操作を運転者が行っている場合、アクセルセンサ6は、アクセルペダルの踏込みでONする常時OFFタイプのアクセルスイッチ、ブレーキセンサ7はブレーキペダルの踏込みでONする常時OFFタイプのブレーキスイッチであっても良い。
【符号の説明】
【0066】
1…エンジン、
1a…インジェクタ、
1b…点火プラグ、
1c…スタータモータ、
2…イグナイタ、
3…車載カメラ、
3a…メインカメラ、
3b…サブカメラ、
4…ナビゲーションユニット、
5…車速センサ、
6…アクセルセンサ、
7…ブレーキセンサ、
8…ウインカスイッチ、
9…車両挙動検出センサ、
11…エンジン制御ユニット、
F…先行車、
VF…先行車速、
FING…停車前アイドリングストップ制御禁止フラグ、
M…自車両、
O…対向車、
P…優先車、
VF…先行車速、
VIS…停車前アイドリングストップ制御禁止判定しきい値、
Vo…停車前アイドリングストップ判定しきい値、
VS…自車速