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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】車両の暖房装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/22 20060101AFI20250205BHJP
   B60H 1/32 20060101ALI20250205BHJP
   B60H 1/03 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
B60H1/22 611D
B60H1/32 625Z
B60H1/03 C
B60H1/22 671
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021052160
(22)【出願日】2021-03-25
(65)【公開番号】P2022149837
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2024-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣角 直彦
【審査官】奈須 リサ
(56)【参考文献】
【文献】独国特許出願公開第19601772(DE,A1)
【文献】特開2011-011686(JP,A)
【文献】特開2011-079491(JP,A)
【文献】特開2018-132014(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0113511(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00-3/06
F02D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正温度係数サーミスタの電気抵抗特性に従って加熱されるPTCヒータと、
前記PTCヒータへの電力の供給を制御する制御装置と、
エンジンを始動させるスタータが電気的に接続される低電圧系配線と、前記低電圧系配線の電圧よりも高い電圧の高電圧バッテリが電気的に接続される高電圧系配線とに接続され、前記高電圧系配線の直流電圧を降圧して前記低電圧系配線に供給するDCDCコンバータと、
を備え、
前記PTCヒータは、前記低電圧系配線に電気的に接続され、
前記制御装置は、
1つまたは複数のプロセッサと、
前記プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリと、
を有し、
前記プロセッサは、前記メモリに含まれるプログラムと協働し、
前記エンジンの始動よりも前に前記PTCヒータをオンさせるとともに前記DCDCコンバータの作動を開始させ、
前記エンジンを始動させるとした場合の前記PTCヒータの消費電力を含む補機の総消費電力を導出し、
前記エンジンを始動させる始動要求を受信したタイミングの前記総消費電力が所定閾値以上であれば、前記PTCヒータの電流を減少させてから前記エンジンを始動させる、
車両の暖房装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、減少させていた前記PTCヒータの電流を、前記エンジンの始動動作の完了後に増加させる、
請求項1に記載の車両の暖房装置。
【請求項3】
前記PTCヒータは、流れる電流に従って発熱する1または複数の加熱部を有し、
前記プロセッサは、
前記エンジンの始動よりも前に、1つまたは複数の前記加熱部のうち、いずれか1つ以上の前記加熱部に電流を流すことで前記PTCヒータをオンさせ、
前記始動要求を受信したタイミングの前記総消費電力が所定閾値以上であれば、電流を流している前記加熱部のうち、いずれか1つ以上の前記加熱部への電流を遮断することで、前記PTCヒータの電流を減少させる、
請求項1または2に記載の車両の暖房装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の暖房装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、乗車前にヒートポンプサイクルによる暖房運転を行うプレ空調を実行可能な車両用空調装置が開示されている。かかる車両用空調装置では、乗車後の通常空調時に比べて、プレ空調時のヒートポンプサイクルによる暖房運転の負荷を低減させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-11686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の暖房装置の熱源として、PTC(Positive Temperature Coefficient)ヒータが設けられることがある。PTCヒータの消費電力は、オンされたタイミングが最も大きく、時間の経過に従って小さくなっていく。また、エンジンの始動時には、スタータの消費電力が大きい。これらより、エンジンの始動時にPTCヒータの消費電力が大きいと、電力不足が生じるおそれがある。
【0005】
そこで、本発明は、電力不足を回避することが可能な車両の暖房装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の車両の暖房装置は、
正温度係数サーミスタの電気抵抗特性に従って加熱されるPTCヒータと、
前記PTCヒータへの電力の供給を制御する制御装置と、
エンジンを始動させるスタータが電気的に接続される低電圧系配線と、前記低電圧系配線の電圧よりも高い電圧の高電圧バッテリが電気的に接続される高電圧系配線とに接続され、前記高電圧系配線の直流電圧を降圧して前記低電圧系配線に供給するDCDCコンバータと、
を備え、
前記PTCヒータは、前記低電圧系配線に電気的に接続され、
前記制御装置は、
1つまたは複数のプロセッサと、
前記プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリと、
を有し、
前記プロセッサは、前記メモリに含まれるプログラムと協働し、
前記エンジンの始動よりも前に前記PTCヒータをオンさせるとともに前記DCDCコンバータの作動を開始させ、
前記エンジンを始動させるとした場合の前記PTCヒータの消費電力を含む補機の総消費電力を導出し、
前記エンジンを始動させる始動要求を受信したタイミングの前記総消費電力が所定閾値以上であれば、前記PTCヒータの電流を減少させてから前記エンジンを始動させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電力不足を回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態にかかる暖房装置が適用された車両の構成を示す概略図である。
図2図2は、PTCヒータの加熱部における温度の時間推移の一例を示す図である。
図3図3は、PTCヒータの加熱部における消費電力の時間推移の一例を示す図である。
図4図4は、制御装置の動作を説明するタイムチャートである。
図5図5は、制御装置の動作の流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0010】
図1は、本実施形態にかかる暖房装置10が適用された車両1の構成を示す概略図である。車両1は、エンジン12および駆動モータ14を備えるハイブリッド車である。車両1は、低電圧バッテリ20、低電圧系配線22、スタータ24、高電圧バッテリ26および高電圧系配線28を備える。
【0011】
低電圧バッテリ20は、例えば、鉛蓄電池である。低電圧バッテリ20の電圧は、例えば、12Vである。低電圧バッテリ20は、低電圧系配線22に電気的に接続されている。スタータ24は、低電圧系配線22に電気的に接続されている。スタータ24は、後述の制御装置42の制御の下、エンジン12を始動させる。以後、スタータ24などの、低電圧系配線22に接続される機器を、補機と呼ぶ場合がある。
【0012】
高電圧バッテリ26は、例えば、リチウムイオンバッテリである。高電圧バッテリ26の電圧は、例えば、200Vなどであり、低電圧バッテリ20の電圧および低電圧系配線22の電圧よりも高い。高電圧バッテリ26は、高電圧系配線28に電気的に接続されている。駆動モータ14は、高電圧系配線28に電気的に接続されている。駆動モータ14は、高電圧系配線28を通じて高電圧バッテリ26から供給される電力によって駆動する。
【0013】
車両1の暖房装置10は、例えば、車内に温風を送出可能な車載空調装置である。車両1の暖房装置10は、DCDCコンバータ30、ブロアファン32、PTCヒータ34、冷却水温度検出部36、車内温度検出部38、外気温検出部40および制御装置42を備える。
【0014】
DCDCコンバータ30は、低電圧系配線22と高電圧系配線28との間に位置する。DCDCコンバータ30は、低電圧系配線22に電気的に接続されているとともに、高電圧系配線28に電気的に接続されている。DCDCコンバータ30は、高電圧系配線28の直流電圧を降圧して低電圧系配線22に供給する。
【0015】
ブロアファン32は、低電圧系配線22に電気的に接続されている。ブロアファン32は、車載空調装置の熱交換器に空気を供給し、熱交換後の空気を車内に送出させる。
【0016】
エンジン12を冷却する冷却水は、車載空調装置の熱交換器に導かれている。エンジン12が始動されてから十分な時間が経過すると、エンジン12の冷却水は、例えば、80℃程度まで上昇する。冷却水がそのような温度となると、その冷却水は、熱交換器における熱源とすることができる。つまり、エンジン12の暖気が完了すると、冷却水を通じて伝熱されるエンジン12の熱を用いた暖房を行うことができる。
【0017】
しかし、エンジン12の暖気が完了する以前は、エンジン12の冷却水の温度が十分に上昇していないため、ブロアファン32をオンしても、熱交換器で空気が暖まらず、暖房の機能が発揮されないことがある。
【0018】
そこで、本実施形態では、エンジン12の冷却水が車載空調装置の熱交換器に導かれていることに加え、PTCヒータ34が車載空調装置の熱交換器に設置されている。そして、後述するが、エンジン12の暖気が完了する以前において、PTCヒータ34をオン状態とさせることでPTCヒータ34の熱によって暖房の機能を発揮させる。
【0019】
PTCヒータ34は、低電圧系配線22に電気的に接続される。PTCヒータ34は、流れる電流に従って発熱する1つまたは複数の加熱部50を有する。図1の例では、3つの加熱部50を示している。なお、加熱部50の数は、3つに限らず、1つ、2つ、または、4つ以上あってもよい。PTCヒータ34では、加熱部50が複数ある場合には、複数の加熱部50を、それぞれ独立してオンさせることができる。つまり、PTCヒータ34では、オンさせる加熱部50の数を、任意に変更させることができる。
【0020】
PTCヒータ34の加熱部50は、正温度係数サーミスタ(Positive Temperature Coefficient Thermal Resistor)の電気抵抗特性に従って加熱される。
【0021】
図2は、PTCヒータ34の加熱部50における温度の時間推移の一例を示す図である。図3は、PTCヒータ34の加熱部50における消費電力の時間推移の一例を示す図である。図2の時間軸と図3の時間軸は、共通しているとする。図2および図3では、タイミングT0において加熱部50がオンされたとする。
【0022】
加熱部50がオンされたタイミングT0では、加熱部50の温度は、正温度係数サーミスタのキュリー温度H1より低い温度H0となっているとする。キュリー温度H1は、正温度係数サーミスタの材料によって定まる指標であり、その材料の構成によって任意に設定することができる。キュリー温度H1は、温度に対する電気抵抗値の関係において、電気抵抗値が急激に上昇する変化点の温度を示す。
【0023】
加熱部50の温度がキュリー温度H1より低いときには、加熱部50の電気抵抗値が低く、加熱部50に電流が流れ易くなっている。このため、加熱部50は、流れる電流に従って発熱し、図2で示すように、加熱部50の温度は、温度H0から上昇していく。
【0024】
また、加熱部50の温度が温度H0のときには、上述のように電流が流れ易いため、図3で示すように、加熱部50の消費電力は、消費電力P0のように大きくなる。そして、加熱部50の温度が温度H0から上昇すると、加熱部50の電気抵抗値が上昇していくため、図3で示すように、加熱部50の消費電力は、消費電力P0から小さくなっていく。
【0025】
図2で示すように、加熱部50の温度がキュリー温度H1まで上昇すると、電気抵抗値が急激に上昇するため、加熱部50に電流が流れ難くなる。そうすると、キュリー温度H1に到達したタイミングT1以降、加熱部50の温度は、キュリー温度H1で維持される。
【0026】
また、タイミングT1のときには、上述のように電流が流れ難くなるため、図3で示すように、加熱部50の消費電力は、消費電力P0より小さい消費電力P1となる。そして、タイミングT1以降、加熱部50の温度がキュリー温度H1で維持されるため、図3で示すように、加熱部50の消費電力は、消費電力P1で維持される。
【0027】
このように、加熱部50は、オンされたタイミングT0の消費電力が最も大きく、時間が経過するに従って消費電力が小さくなる。また、タイミングT0からタイミングT1までの時間は、車内温度または外気温にもよるが、例えば、数分程度である。
【0028】
また、PTCヒータ34全体の消費電力は、それぞれの加熱部50の消費電力を合計した値となる。このため、電流を流す加熱部50の数、すなわち、オン状態の加熱部50の数が多いほど、PTCヒータ34の消費電力は大きくなる。以後、PTCヒータ34のオンは、オフ状態の加熱部50のうち1つ以上の加熱部50をオンさせること示す。PTCヒータ34のオフは、オン状態の加熱部50のうち1つ以上の加熱部50をオフさせることを示す。
【0029】
図1に戻って、冷却水温度検出部36は、エンジン12の冷却水の流路に設けられる。冷却水温度検出部36は、エンジン12の冷却水の温度を検出する。車内温度検出部38は、車内の温度を検出する。外気温検出部40は、外気温を検出する。
【0030】
制御装置42は、1つまたは複数のプロセッサと、プロセッサに接続される1つまたは複数のメモリとを備える。メモリは、プログラム等が格納されたROM、ワークエリアとしてのRAMを含む。制御装置42のプロセッサは、メモリに含まれるプログラムと協働して、車両1全体を制御する。例えば、制御装置42のプロセッサは、メモリに含まれるプログラムと協働して、PTCヒータ34への電力の供給を制御する。
【0031】
例えば、冬季では、運転者が車両1に搭乗し、エンジン12の始動と同じタイミングで暖房を機能させたい場合がある。このような場合、エンジン12の暖気が完了していないため、PTCヒータ34をオンさせるようにする。上述のようにPTCヒータ34の加熱部50の消費電力は、オンさせたタイミングが最も大きい。このため、エンジン12の始動と同じタイミングでPTCヒータ34をオンさせた場合、スタータ24の消費電力に、PTCヒータ34の最大の消費電力が重畳される。そうすると、低電圧系配線22において電力不足が生じるおそれがある。
【0032】
また、スタータ24の消費電力およびPTCヒータ34の消費電力は、低電圧系配線に繋がる他の補機に比べて大きい。このことから、エンジン12の始動と同じタイミングで、DCDCコンバータ30に、高電圧系配線28から低電圧系配線22に電力を供給させることがある。しかし、スタータ24の消費電力にPTCヒータ34の最大の消費電力が重畳された消費電力を、DCDCコンバータ30を通じた電力で補うとすると、DCDCコンバータ30のサイズを大型化しなくてはならない。
【0033】
そこで、本実施形態の制御装置42は、エンジン12の始動よりも前にPTCヒータ34をオンさせる。換言すると、制御装置42は、エンジン12が停止している状態において、所定の加熱開始条件が成立すると、PTCヒータ34をオンさせる。すなわち、制御装置42は、エンジン12の始動にかかる電力の消費タイミングよりも、PTCヒータ34のオンにかかる電力の消費タイミングを前倒しさせる。
【0034】
具体的には、制御装置42は、エンジン12が停止している状態において、運転者が携帯する遠隔通信装置から、PTCヒータ34をオンさせる指令を受信した場合に、PTCヒータ34をオンさせる。また、制御装置42は、エンジン12が停止している状態において、運転席のドアの開閉が検出された場合に、PTCヒータ34をオンさせてもよい。また、制御装置42は、エンジン12が停止している状態において、運転席のシートに設けられたセンサによって運転者の着座が検出された場合に、PTCヒータ34をオンさせてもよい。また、制御装置42は、エンジン12が停止している状態において、光学カメラまたはサーマルカメラなどによって運転者が検出された場合に、PTCヒータ34をオンさせてもよい。
【0035】
エンジン12の始動よりも前にPTCヒータ34をオンさせると、PTCヒータ34の最大の消費電力が生じるタイミングを、スタータ24の消費電力が生じるタイミングからシフトさせることができる。これにより、スタータ24の消費電力にPTCヒータ34の最大の消費電力が重畳されることによる、低電圧系配線22における電力不足を、回避させることが可能となる。
【0036】
しかし、エンジン12の始動タイミングによっては、電力不足を回避できない場合がある。例えば、運転者の着座が検出されて、PTCヒータ34がエンジン12の始動よりも前にオンされたとする。ここで、運転者は、着座後に遅滞なくエンジン12を始動させたとする。このような場合、加熱部50の消費電力が十分に小さくなる前に、エンジン12が始動されるおそれがある。そうすると、スタータ24の消費電力にPTCヒータ34の消費電力が重畳された消費電力によって、依然として、低電圧系配線22における電力不足が生じるおそれがある。
【0037】
そこで、本実施形態の制御装置42は、エンジン12の始動よりも前にPTCヒータ34をオンさせるとともに、エンジンを始動させるとした場合のPTCヒータの消費電力を含む補機の総消費電力を導出する。そして、制御装置42は、エンジン12を始動させる始動要求を受信したタイミングの総消費電力が所定閾値以上であれば、PTCヒータ34の電流を一時的に減少させてからエンジン12を始動させる。
【0038】
図4は、制御装置42の動作を説明するタイムチャートである。図4の例では、タイミングT10において、エンジン12がオフ状態であり、所定の加熱開始条件が成立したとする。これにより、制御装置42は、タイミングT10において、PTCヒータ34をオンさせる。PTCヒータ34がオンされたタイミングT10では、スタータ24で電力が消費されないため、PTCヒータ34のオンによる電力不足を回避することができる。
【0039】
また、制御装置42は、PTCヒータ34のオンと並行して、DCDCコンバータ30の作動を開始させる。そうすると、DCDCコンバータ30を通じて低電圧系配線22に流れる電流、すなわち、DCDCコンバータ30の電流は、基準値i0から第1所定値i1まで上昇する。
【0040】
タイミングT10以後のタイミングT11において、制御装置42は、エンジン12の始動要求を受信したとする。図4のエンジン始動フラグは、始動要求の受信から、エンジン12の始動動作が完了するまでの間、オン状態とされる。
【0041】
図4では、始動要求を受信したタイミングT11において、補機の総消費電力が所定値以上であったとする。制御装置42は、タイミングT11において、PTCヒータ34をオフさせて、PTCヒータ34の電流を一時的に減少させる。この際、制御装置42は、PTCヒータ34の電流を一時的に減少させればよく、加熱部50のすべてをオフさせる態様に限らず、加熱部50の一部をオフさせてもよい。なお、始動要求を受信したタイミングT11において、補機の総消費電力が所定値未満であった場合、制御装置42は、加熱部50のオフを行わず、オン状態とされる加熱部50の数を維持させてもよい。
【0042】
タイミングT11においてPTCヒータ34の電流を一時的に減少させる際、制御装置42は、DCDCコンバータ30の作動を継続させ、DCDCコンバータ30の電流を第1所定値i1で維持させる。
【0043】
タイミングT11以後のタイミングT12において、制御装置42は、スタータ24にエンジン12を始動させる。この際、PTCヒータ34の電流が一時的に減少されているため、PTCヒータ34の消費電力が抑制されている。このため、スタータ24によって電力が消費されても、低電圧系配線22における電力不足を回避できる。エンジン12がオン状態となると、エンジン12の熱によって冷却水の温度が上昇していく。
【0044】
タイミングT12以後のタイミングT13において、エンジン12の始動動作が完了したとする。そうすると、制御装置42は、PTCヒータ34をオンさせて、PTCヒータ34の電流を増加させる。この際、制御装置42は、一時的にオフさせていた加熱部50をオンさせる。タイミングT11からタイミングT13までの時間は短いため、この時間におけるPTCヒータ34の温度の低下は少ない。また、PTCヒータ34が、再度、オンされるため、エンジン12の暖気が完了するまで、PTCヒータ34の温度を、暖房に要する温度に維持させることができる。
【0045】
例えば、タイミングT13以後のタイミングT14に、ブロアファン32がオンされたとする。ブロアファン32は、加熱されているPTCヒータ34が設置されている熱交換器に空気を供給する。このため、PTCヒータ34の熱によって空気が暖められ、暖められた空気が車内に送出される。
【0046】
タイミングT14以後のタイミングT15において、冷却水の温度が、エンジン12の暖気が完了したことを示す所定温度H10に到達したとする。そうすると、制御装置42は、PTCヒータ34をオフさせる。暖気が完了しているため、PTCヒータ34がオフされても、冷却水に伝達されたエンジン12の熱によって空気が暖められ、暖められた空気が車内に送出される。
【0047】
制御装置42は、PTCヒータ34のオフとともに、DCDCコンバータ30の電流を第1所定値i1以下の第2所定値i2に減少させる。これは、PTCヒータ34のオフにより、低電圧系配線22における必要な電力が減少するからである。
【0048】
図5は、制御装置42の動作の流れを説明するフローチャートである。制御装置42は、所定の加熱開始条件が成立すると、図5の一連の処理を実行する。
【0049】
制御装置42は、まず、高電圧バッテリ26の現在のSOC(State Of Charge)を取得し、現在のSOCが所定値以上であるか否かを判断する(S10)。所定値は、例えば、10%などとするが、例示した値に限らず、任意に設定することができる。
【0050】
現在のSOCが所定値未満の場合(S10におけるNO)、制御装置42は、一連の処理を終了する。この場合、高電圧バッテリ26のSOCが少ないため、高電圧系配線28から低電圧系配線22への電力の供給、および、PTCヒータ34のオンは、実行されない。なお、制御装置42は、現在のSOCが所定値未満である旨を報知させて、運転者に高電圧バッテリ26の充電を行わせるようにしてもよい。
【0051】
現在のSOCが所定値以上の場合、(S10におけるYES)、制御装置42は、車内温度検出部38から車内の温度を取得し、外気温検出部40から外気温を取得する(S11)。
【0052】
次に、制御装置42は、車内の温度および外気温に基づいて、オンさせる加熱部50の数を導出する(S12)。例えば、制御装置42のメモリには、車内の温度、外気温および加熱部50の数が関連付けられたマップが予め記憶されている。このマップは、例えば、それぞれの温度が低いほど、加熱部50の数が多くなるように設定される。制御装置42は、このマップを参照して、オンさせる加熱部50の数を導出する。
【0053】
次に、制御装置42は、DCDCコンバータ30の作動を開始させる(S13)。制御装置42は、DCDCコンバータ30の作動の開始と並行して、PTCヒータ34の加熱部50を、ステップS12で導出した数だけオンさせる(S14)。
【0054】
次に、制御装置42は、補機の総消費電力を導出する(S15)。例えば、制御装置42のメモリには、エンジン12の始動前における補機全体の待機電力の代表値、および、エンジン12を始動させるとした場合のスタータ24の消費電力の代表値が予め記憶されている。制御装置42は、PTCヒータ34の現在の電流値を取得し、取得された電流値からPTCヒータ34の現在の消費電力を導出する。制御装置42は、待機電力の代表値、スタータ24の消費電力の代表値およびPTCヒータ34の現在の消費電力を合計して、総消費電力を導出する。
【0055】
次に、制御装置42は、エンジン12の始動要求を受信したか否かを判断する(S16)。エンジン12の始動要求を受信していない場合(S16におけるNO)、制御装置42は、エンジン12の始動要求を受信するまで、ステップS15に戻って、総消費電力の導出を繰り返す。なお、エンジン12の始動要求の受信前に、現在のSOCが所定値以下となった場合、制御装置42は、PTCヒータ34のオフ、および、DCDCコンバータ30の作動停止を実行してもよい。
【0056】
エンジン12の始動要求を受信した場合(S16におけるYES)、制御装置42は、ステップS15で導出された総消費電力が所定閾値以上であるか否かを判断する(S17)。所定閾値は、例えば、DCDCコンバータ30の降圧能力に基づいて設定される。例えば、所定閾値は、DCDCコンバータ30の降圧能力が高いほど大きな値となるように設定される。
【0057】
総消費電力が所定閾値以上である場合(S17におけるYES)、制御装置42は、電流を流している加熱部50のうち、電流を遮断する加熱部50の数、すなわち、オフさせる加熱部50の数を導出する(S20)。例えば、制御装置42のメモリには、総消費電力と所定閾値との差分値と、オフさせる加熱部50の数とが関連付けられたマップが予め記憶されている。このマップは、総消費電力と所定閾値との差分値が大きいほど、オフされる加熱部50の数が多くなるように設定される。制御装置42は、現在の総消費電力と所定閾値との差分値を導出し、このマップに当てはめて、オフさせる加熱部50の数を導出する。
【0058】
次に、制御装置42は、PTCヒータ34の加熱部50を、ステップS20で導出した数だけオフさせて、PTCヒータ34の電流を減少させる(S21)。これにより、加熱部50をオフさせた分だけ、低電圧系配線22における消費電力が低下し、スタータ24によるエンジン12の始動が行われても、低電圧系配線22における電力不足を回避できる。なお、制御装置42のメモリには、複数の加熱部50のうち、オンさせる加熱部50の優先順位が設定されていてもよい。制御装置42は、オン状態の加熱部50のうち、優先順位が低い順に、ステップS20で導出した数だけ加熱部50をオフさせてもよい。
【0059】
次に、制御装置42は、エンジン12を始動させる始動指令をスタータ24に送信する(S22)。これにより、始動指令を受信したスタータ24は、エンジン12を始動させる。
【0060】
次に、制御装置42は、エンジン12の始動動作が完了したか否かを判断する(S23)。エンジン12の始動動作が完了していない場合(S23におけるNO)、制御装置42は、エンジン12の始動動作が完了するまで待機する。
【0061】
エンジン12の始動動作が完了した場合(S23におけるYES)、制御装置42は、ステップS21でオフさせた加熱部50をオンさせることで、PTCヒータ34の電流を増加させ(S24)、ステップS30の処理に進む。換言すると、制御装置42は、ステップS21で電流を遮断させていた加熱部50に電流を流すことで、PTCヒータ34の消費電力を、加熱部50をオフさせる直前の消費電力に戻す。スタータ24は、エンジン12の始動動作の完了後には、電力を消費しない。このため、エンジン12の始動動作の完了後にPTCヒータ34の消費電力を戻しても、低電圧系配線22における電力不足を回避できる。
【0062】
ステップS17において、総消費電力が所定閾値未満である場合(S17におけるNO)、制御装置42は、始動指令をスタータ24に送信し(S26)、ステップS30の処理に進む。これは、所定閾値よりも総消費電力が小さいことで、エンジン12を始動しても、低電圧系配線22における電力不足が生じないからである。
【0063】
ステップS30では、制御装置42は、暖気が完了したか否かを判断する(S30)。具体的には、制御装置42は、冷却水温度検出部36から冷却水の温度を取得する。制御装置42は、冷却水の温度が所定温度以上であれば、暖気が完了したと判断する。
【0064】
暖気が完了していない場合(S30におけるNO)、制御装置42は、暖気が完了するまで待機する。暖気が完了した場合(S30におけるYES)、制御装置42は、PTCヒータ34のすべての加熱部50をオフさせる(S31)。そして、制御装置42は、DCDCコンバータ30の電流を第1所定値i1以下の第2所定値i2に減少させ(S32)、一連の処理を終了する。
【0065】
以上のように、本実施形態の車両1の暖房装置10では、エンジン12の始動よりも前にPTCヒータ34がオンされる。そして、本実施形態の車両1の暖房装置10では、エンジン12の始動要求を受信したタイミングの補機の総消費電力が所定閾値以上であれば、PTCヒータ34の電流を一時的に減少させてからエンジン12が始動される。
【0066】
したがって、本実施形態の車両1の暖房装置10によれば、低電圧系配線22における電力不足を回避しつつ、暖房の機能を発揮させることができる。
【0067】
また、本実施形態の車両1の暖房装置10では、低電圧系配線22における消費電力のピークが抑制されるため、低電圧系配線22に電力を供給するDCDCコンバータ30のサイズの大型化を防止することができる。
【0068】
なお、上記実施形態の車両1の暖房装置10は、車載空調装置であった。しかし、暖房装置10は、車載空調装置に限らない。例えば、暖房装置10は、PTCヒータ34がシートの内部に設置されてシートを加熱するシートヒータなどであってもよい。
【0069】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0070】
1 車両
10 暖房装置
12 エンジン
22 低電圧系配線
24 スタータ
26 高電圧バッテリ
28 高電圧系配線
30 DCDCコンバータ
34 PTCヒータ
42 制御装置
50 加熱部
図1
図2
図3
図4
図5