(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
B60R 21/36 20110101AFI20250205BHJP
【FI】
B60R21/36 320
B60R21/36 310
B60R21/36 354
(21)【出願番号】P 2021054743
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2024-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】弁理士法人青海国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0106071(US,A1)
【文献】特開2000-108824(JP,A)
【文献】特開平02-155854(JP,A)
【文献】特開2007-269169(JP,A)
【文献】特開2006-123641(JP,A)
【文献】特開2009-101796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00 - 21/38
B60R 21/16 - 21/33
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車体前部から前方側へ展開するエアバッグと、
衝突可能性が所定の閾値以上である場合にプリクラッシュ判定を成立させる衝突判定部と、
前記プリクラッシュ判定に応じてインフレータに指令を与えて前記エアバッグに展開用ガスを導入させ前記エアバッグを展開させるエアバッグ展開制御部と
を備えるエアバッグ装置であって、
前記エアバッグは、展開時における内圧が異なる複数の気室を車両前後方向に配列して構成され、
前記エアバッグの前記複数の気室のうち、前端部及び後端部に配置される気室の内圧を、中間部に配置される気室の内圧に対して高圧としたこと
を特徴とするエアバッグ装置。
【請求項2】
前記エアバッグの前記複数の気室は、共通の前記インフレータから前記展開用ガスを供給されるとともに、前記インフレータからの前記展開用ガスの導入流路の圧力損失を異ならせることによって前記内圧を異ならせること
を特徴とする請求項1に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記エアバッグの前記複数の気室のうち前記中間部に配置される一部の気室は、他の気室の内部を経由して前記展開用ガスが導入されること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記エアバッグの前記複数の気室は、前記展開用ガスが相互に連通可能に構成されるとともに、前記中間部に配置される一部の気室にのみ前記展開用ガスを外部へ放出するベントホールを設けたこと
を特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記インフレータは、前記エアバッグの展開後に、前記エアバッグの複数の気室のうち前端部、後端部に配置される気室の少なくとも一方の内圧が所定以上となるよう展開用ガスを追加的に供給すること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の車体前部から車外側へ展開するエアバッグを有するエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両において、車外側へ展開するエアバッグを用いて衝突時における歩行者等の被害を抑制することが提案されている。
このような車外エアバッグ装置に関する技術として、例えば、特許文献1には、長身の歩行者との衝突時であっても衝撃を吸収するため、車両外側面に沿わせつつ車両前後方向に筒状のエアバッグを膨出展開させるとともに、バッグ長手方向を複数のテザーによって複数のチャンバに区切るとともに、各チャンバを連通させることが記載されている。
特許文献2には、乗員保護用のエアバッグ装置の膨張体が複数の膨張部を積層して構成されること、及び、乗員に最も近い側の膨張部の内圧が他の膨張部の内圧よりも高くなるよう設定することが記載されている。
特許文献3には、車両の表側にエアバッグを膨張展開させるエアバッグ装置において、エアバッグ内部を穴開き隔壁によって区画するとともに、インフレータから離れた側の領域にベントホールを設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-159970号公報
【文献】特開2006-160122号公報
【文献】特開2007-137252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両と、歩行者や自転車乗員(以下、歩行者等と称する)との衝突において、歩行者等の被害を抑制することが要望されている。
本発明の課題は、歩行者等の被害を抑制したエアバッグ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明のエアバッグ装置は、車両の車体前部から前方側へ展開するエアバッグと、衝突可能性が所定の閾値以上である場合にプリクラッシュ判定を成立させる衝突判定部と、前記プリクラッシュ判定に応じてインフレータに指令を与えて前記エアバッグに展開用ガスを導入させ前記エアバッグを展開させるエアバッグ展開制御部とを備えるエアバッグ装置であって、前記エアバッグは、展開時における内圧が異なる複数の気室を車両前後方向に配列して構成され、前記エアバッグの前記複数の気室のうち、前端部及び後端部に配置される気室の内圧を、中間部に配置される気室の内圧に対して高圧としたことを特徴とする。
これによれば、エアバッグに例えば歩行者等の衝突対象物が衝突した際に、先ず中間部に配置される低圧の気室を収縮させ、その後順次比較的内圧が高い気室を収縮させることによって効果的にエネルギ吸収を図ることができる。
また、前端部、後端部に配置される気室を中間部に配置される気室に対して高圧とすることによって、これらの気室の形状安定性を高め、衝突対象物との接触状態やエネルギ吸収が不安定となるエアバッグの変形を抑制することができる。
また、エアバッグから衝突対象物へ与えられる反力を、当初は比較的低い状態から徐々に高くすることが可能となり、衝突初期に衝突対象物が高い反力を受けることを防止できる。
その結果、衝突エネルギを効果的に吸収するとともに衝突対象物を車両前方へ押し出して加速させ、衝突対象物と車体との相対速度を低減し、衝突対象物の被害を抑制することができる。
【0006】
本発明において、前記エアバッグの前記複数の気室は、共通の前記インフレータから前記展開用ガスを供給されるとともに、前記インフレータからの前記展開用ガスの導入流路の圧力損失を異ならせることによって前記内圧を異ならせる構成とすることができる。
これによれば、各気室の圧力を簡単な構成によって異ならせ、上述した効果を得ることができる。
【0007】
本発明において、前記エアバッグの前記複数の気室のうち前記中間部に配置される一部の気室は、他の気室の内部を経由して前記展開用ガスが導入される構成とすることができる。
これによれば、一部の気室の内圧を、展開用ガスが他の気室を通過する際の圧力損失を利用して、他の気室に対して簡単な構成により低下させることができる。
【0008】
本発明において、前記エアバッグの前記複数の気室は、前記展開用ガスが相互に連通可能に構成されるとともに、前記中間部に配置される一部の気室にのみ前記展開用ガスを外部へ放出するベントホールを設けた構成とすることができる。
これによれば、余剰な展開用ガスをベントホールから外部へ放出することにより、低圧とするべき気室の内圧が、当該気室の圧縮変形や他の気室からのガス流入によって高圧となり、上述した機能が損なわれることを防止できる。
【0009】
本発明において、前記インフレータは、前記エアバッグの展開後に、前記エアバッグの複数の気室のうち前端部、後端部に配置される気室の少なくとも一方の内圧が所定以上となるよう展開用ガスを追加的に供給する構成とすることができる。
これによれば、衝突後にベントホール等から展開用ガスの一部が流出した場合であっても、前端部、後端部に配置される気室の少なくとも一歩の内圧を所定以上に維持することが可能となり、衝突前後を通じたエアバッグの形状安定性を確保することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、歩行者等の被害を抑制したエアバッグ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明を適用したエアバッグ装置の実施形態の構成を模式的に示す図である。
【
図2】実施形態のエアバッグ装置におけるエアバッグの構造を示す模式的断面図である。
【
図3】実施形態のエアバッグ装置を制御するシステムの構成を模式的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用したエアバッグ装置の実施形態について説明する。
実施形態のエアバッグ装置は、例えば、乗用車等の自動車の車体前部に設けられ、主に歩行者、自転車乗員等の人体と衝突した場合の保護(加害性抑制)を図るものである。
図1は、実施形態のエアバッグ装置の構成を模式的に示す図である。
図1は、実施形態のエアバッグ装置を有する車両を上方から見た状態を示している。
車両1は、例えば、車室10の前方側に張り出したエンジンコンパートメント20を有するいわゆる2ボックス型の車形を有する。
【0013】
車室10は、乗員等が収容される空間部を有する部分である。
エンジンコンパートメント20は、例えばエンジン、トランスミッションや、電動車両の場合にはモータジェネレータ及びその制御機器類などのパワートレーン構成部品が収容される空間部を有する部分である。
エンジンコンパートメント20には、フロントサイドフレーム21、バンパビーム22,フロントバンパ23等が設けられている。
【0014】
フロントサイドフレーム21は、車室10の前端部に設けられた隔壁である図示しないトーボードから、車両前方に突出して設けられた構造部材である。
フロントサイドフレーム21は、例えば、パワートレーン、フロントサスペンションが取り付けられるクロスメンバや、マクファーソンストラット式のフロントサスペンションのストラットを収容するストラットハウジングなどが取り付けられる基部として機能する。
フロントサイドフレーム21は、例えば、鋼板をプレス成型して形成した部材を集成し、溶接することによって、車両前後方向から見た断面形状が矩形状の閉断面となっている。
【0015】
バンパビーム22は、車体前部に設けられ車幅方向に延在する構造部材である。
バンパビーム22は、例えば鋼板をプレス成型して形成した部材を集成し溶接し、あるいは、アルミニウム系合金の押出材を用いることなどによって、断面形状が閉断面となる梁状に形成されている。
バンパビーム22は、中間部を左右のフロントサイドフレーム21の前端部に結合されている。
バンパビーム22の車幅方向における両端部は、フロントサイドフレーム21に対して車幅方向外側へ突出している。
バンパビーム22は、後述するエアバッグ30が衝突相手の人体や物体から受けた荷重を、フロントサイドフレーム21を介して車体後方側へ伝達する荷重伝達部材である。
【0016】
フロントバンパ23は、車体前端部に設けられる外装部材であって、例えばPP系樹脂などによって形成され表皮部分を構成するバンパフェイスを、図示しないブラケット等で車体に取り付けて構成されている。
フロントバンパ23の前面部は、車両1を上方から見たときに、車両前方側が凸となるよう湾曲して形成されている。
バンパビーム22は、車両1を上方から見たときに、フロントバンパ23の前面部の湾曲に沿うように、車両前方側が凸となる弧状に形成されている。
【0017】
実施形態のエアバッグ装置は、以下説明するエアバッグ30を備えている。
エアバッグ30は、例えば、ナイロン66織物などの基布からなるパネルを接合することによって袋状に形成されている。
エアバッグ30は、後述する各プリクラッシュ判定の成立に応じて、インフレータ111が発生する展開用ガスを導入されることによって展開し、さらに膨張する。
エアバッグ30は、車体前端部における車幅方向中央部から、車両前方側へ展開する。
エアバッグ30は、通常時(プリクラッシュ判定の成立前)においては、折り畳まれた状態でバンパビーム22に取り付けられるとともに、フロントバンパ23の内側に収容されている。
エアバッグ30は、衝突時においてはフロントバンパ23に形成された脆弱部を破断して車両前方側へ繰り出され、フロントバンパ23の前面に対して前方側に展開する。
【0018】
図2は、実施形態のエアバッグ装置におけるエアバッグの構造を示す模式的断面図である。
エアバッグ30は、車両前方側から順に、第1気室(チャンバ)C1、第2気室C2、第3気室C3、第4気室C4を順次配列して構成されている。
エアバッグ30は、ガス導入口31、隔壁32、隔壁33、隔壁34、ダクト35、開口36、開口37、ベントホール38等を有して構成されている。
【0019】
ガス導入口31は、エアバッグ30の後端部に設けられ、インフレータ111から展開用ガスが吹き込まれる部分である。
ガス導入口31は、導入された展開用ガスを、第4気室C4の内部に放出する。
【0020】
隔壁32は、第1気室C1と第2気室C2とを区画する部材である。
隔壁33は、第2気室C2と第3気室C3とを区画する部材である。
隔壁34は、第3気室C3と第4気室C4とを区画する部材である。
隔壁32,33,34は、それぞれ可撓性を有する基布パネルによって形成されている。
隔壁32,33,34は、それぞれ上下方向及び車幅方向に延在するとともに、車両前方側から相互に間隔を隔てて順次配列されている。
隔壁32,33,34の外周縁部は、エアバッグ30の表皮部分の内面に全周にわたって接合されている。
隔壁32,33,34の中央部には、ダクト35が設けられる開口がそれぞれ形成されている。
また、隔壁33には、後述する開口37が形成されている。
【0021】
ダクト35は、エアバッグ30の内部において車両前後方向に延在する展開用ガスGの流路である。
ダクト35は、基布パネルを筒状に形成して構成されている。
ダクト35の後端部は、隔壁34の中央部の開口に接合され、第4気室C4と連通した状態で開口している。
ダクト35の前端部は、隔壁32の中央部の開口に接合され、第1気室C1と連通した状態で開口している。
ダクト35は、第4気室C4に導入された展開用ガスGを、第1気室C1等へ供給する機能を有する。
ダクト35の中間部は、第2気室C2、第3気室C3の内部を貫通している。
隔壁33の中央部の開口の内周縁部は、ダクト35の中間部の外周面部と接合されている。
【0022】
開口36は、ダクト35内を流れる展開用ガスGの一部を、第3気室C3に導入するものである。
開口36は、第3気室C3の内部に露出したダクト35の周面部の一部を貫通させて形成されている。
【0023】
開口37は、第3気室C3に導入された展開用ガスGの一部を、第2気室C2に導入するものである。
開口37は、第2気室C2と第3気室C3とを区画する隔壁33を貫通させて形成されている。
開口37は、隔壁33に複数形成されている。
【0024】
ベントホール38は、第2気室C2に導入された展開用ガスGの一部を、外部に排気(大気開放)するものである。
ベントホール38は、エアバッグ30の表皮部分であって第2気室C2の一部を構成する部分を貫通させて複数形成されている。
ベントホール38は、展開用ガスGを排気することにより、エアバッグ30の内圧が過度に高くなることを防止し、エアバッグ30の収縮によるエネルギ吸収を妨げないようにする効果を有する。
【0025】
図3は、実施形態のエアバッグ装置を制御するシステムの構成を模式的に示すブロック図である。
エアバッグ装置を制御するシステムは、エアバッグ制御ユニット110、環境認識ユニット120等を有して構成されている。
これらの各ユニットは、例えば、CPU等の情報処理部(プロセッサ)、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有するマイクロコンピュータとして構成することができる。
また、各ユニットは、例えばCAN通信システムなどの車載LANを介して、あるいは直接に接続され、相互に通信が可能となっている。
【0026】
エアバッグ制御ユニット110は、インフレータ111に指令を与え、制御することにより、エアバッグ30を展開させるとともに、展開状態を制御するものである。
エアバッグ制御ユニット110は、本発明のエアバッグ展開制御部として機能する。
インフレータ111は、エアバッグ制御ユニット110からの指令に応じて、エアバッグ30を展開させる展開用ガスGを発生する化薬式(火薬式)のガス発生装置である。
インフレータ111は、展開用ガスGを、時間間隔をおいて複数回発生させることが可能な多段式のインフレータである。
【0027】
エアバッグ制御ユニット110には、圧力センサ112が設けられている。
圧力センサ112は、エアバッグ30の第4気室C4の内圧を検出する機能を有する。
エアバッグ制御ユニット110は、圧力センサ112の出力に基づいて、エアバッグ30への荷重の入力状態を検知することができる。
また、圧力センサ112の出力は、後述するインフレータ111による展開用ガスGの追加供給の制御にも用いられる。
【0028】
環境認識ユニット120は、各種センサの出力に基づいて、自車両周囲の環境を認識するものである。
環境認識ユニット120は、例えば、車両1(自車両)周辺の歩行者、自転車乗員等の人体、他車両、建築物、樹木、地形などの各種物体、道路形状(車線形状)等を認識する機能を有する。
環境認識ユニット120は、例えば歩行者、自転車乗員、二輪車乗員などの人体や、他車両等の人体以外との物体との衝突が不可避である場合(衝突可能性が所定以上である場合)に、プリクラッシュ判定を成立させる衝突判定部として機能する。
環境認識ユニット120には、ステレオカメラ装置121、ミリ波レーダ装置122、レーザスキャナ装置123等が接続されている。
【0029】
ステレオカメラ装置121は、所定の間隔(基線長)だけ離間して配置された一対のカメラを有し、例えば、歩行者、自転車乗員などの人体や、他車両、建築物などの物体を認識するとともに、公知のステレオ画像処理により、車両1に対する人体、物体等の相対位置を検出する機能を備えている。
ステレオカメラ装置121は、撮像画像のパターン認識等により、被写体の属性を認識する機能を有する。
例えば、歩行者等の人体である場合には、体格、想定される体重、姿勢などを認識する機能を有する。
また、例えば、物体が他車両である場合には、他車両の車種、大きさ(トラック、バス、大型SUVなどの車両1よりも顕著に重量が大きい大型車であるか否かなど)を認識する機能を有する。
【0030】
ミリ波レーダ装置122は、例えば30乃至300GHzの周波数帯域の電波を用いたレーダ装置であって、人体、物体等の有無、及び、車両1に対する人体、物体等の相対位置を検出する機能を備えている。
レーザスキャナ装置(LIDAR)123は、例えば近赤外レーザ光をパルス状に照射して車両1周辺を走査し、反射光の有無及び反射光が戻るまでの時間差に基づいて、人体、物体等の有無、車両1に対する人体、物体等の相対位置、形状等を検出する機能を備えている。
環境認識ユニット120は、例えば歩行者等の人体や、他車両等の物体との衝突が不可避である場合(プリクラッシュ判定が成立した場合)に、人体、物体等との衝突形態(例えば、衝突対象の車両1に対する速度ベクトル、車両1に対する衝突位置等)、及び、衝突対象の属性(人体の体格や他車両の車種等)を認識可能となっている。
【0031】
以下、実施形態のエアバッグ装置の機能、作用、効果について説明する。
環境認識ユニット120は、車両1の前方から接近する歩行者、自転車乗員等の人体や、人体以外の物体を認識すると、公知のプリクラッシュ判定ロジックを用いて、衝突が発生する可能性を推定するとともに、推定された可能性が予め設定された閾値以上である場合には、衝突が不可避であるものとしてプリクラッシュ判定を成立させる。
【0032】
環境認識ユニット120によるプリクラッシュ判定の成立に応じて、エアバッグ制御ユニット110は、インフレータ111に指令を与えて展開用ガスGを発生させる。
エアバッグ30は、展開用ガスGを導入されることにより、フロントバンパ23の脆弱部を破断して車両1の前方側に展開する。
【0033】
展開時のエアバッグ30の内部の展開用ガスGの圧力(内圧)は、4つの気室のうち、ガス導入口31が設けられた第4気室C4が最も高くなる。
第4気室C4からダクト35を介して展開用ガスGが導入されかつベントホール等が設けられていない第1気室C1は、第4気室C4に次いで高圧となる。
ダクト35の側面の開口36から展開用ガスGが導入される第3気室C3は、ダクト35により展開用ガスGがストレートに導入される第1気室C1に対して、展開用ガスGの導入流路の圧力損失(圧損)が大きく、かつ、開口37からの第2気室C2への展開用ガスGの流出もあることから、第1気室C1よりも低圧となる。
第2気室C2は、展開用ガスGが第4気室C4、ダクト35、開口36、第3気室C3、開口37を順次通過して導入されるため、導入流路の圧力損失が大きく、さらに、ベントホール38からの展開用ガスGの排気もあることから、4つの気室のなかでは最も低圧となる。
すなわち、エアバッグ30の各気室の内圧は、第4気室C4、第1気室C1、第3気室C3、第2気室C2の順に高圧となっている。
【0034】
展開を完了したエアバッグ30の前面部に、衝突対象物(一例として歩行者)が衝突し、エアバッグ30に前後方向の圧縮荷重が作用すると、先ず4つの気室のなかで最も低圧であり、前後方向の圧縮剛性が低い第2気室C2が、ベントホール38から展開用ガスGを排気しつつ前後方向に収縮する。
また、第2気室C2の収縮に引き続いて、あるいは、第2気室C2の収縮と同時に、第3気室C3は、開口37から第2気室C2へ展開用ガスGを移動させながら前後方向に収縮する。
【0035】
一方、第2気室C2と第3気室C3が収縮する間、歩行者等と直接接触する第1気室C1、及び、車体側の基部となる第4気室C4は、第2気室C2、第3気室C3に対して内圧が高い状態に維持される。
これにより、第2気室C2,第3気室C3の収縮によってエアバッグ30が車両前後方向に圧縮される際の形状安定性を高めることができる。
【0036】
なお、エアバッグ制御ユニット110は、圧力センサ112によって第4気室C4の内圧をモニタし、第4気室C4の内圧が所定以上となるように、インフレータ111に指令を与えて追加的な展開用ガスGを供給する。
これにより、第4気室C4の内圧が低下して剛性が低下し、エアバッグ30の折れ、倒れなどの好ましくない変形が生ずることを防止できる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)エアバッグ30に例えば歩行者等の衝突対象物が衝突した際に、先ず中間部に配置される低圧の第2気室C2を収縮させ、その後順次比較的内圧が高い第3気室C3、第1気室C1を収縮させることによって効果的にエネルギ吸収を図ることができる。
また、前端部、後端部に配置される第1気室C1、第4気室C4を、中間部に配置される第2気室C2、第3気室C3に対して高圧とすることによって、これらの気室の形状安定性を高め、衝突対象物との接触状態やエネルギ吸収が不安定となるエアバッグ30の変形(例えばエアバッグ30の折れ、倒れなど)を抑制することができる。
また、エアバッグ30から衝突対象物へ与えられる反力を、当初は比較的低い状態から徐々に高くすることが可能となり、衝突初期に衝突対象物が高い反力を受けることを防止できる。
その結果、衝突エネルギを効果的に吸収するとともに衝突対象物を車両1の前方へ押し出して加速させ、衝突対象物と車体との相対速度を低減し、衝突対象物の被害を抑制することができる。
(2)第1気室C1乃至第4気室C4のインフレータ111からの展開用ガスGの供給流路の圧力損失を異ならせて、各気室C1乃至C4の内圧を異ならせることにより、単一のインフレータ111を用いる簡単な装置構成により、上述した効果を得ることができる。
(3)最も低圧とする第2気室C2に、第3気室C3を経由して展開用ガスGを導入することにより、第2気室C2への展開用ガスGの供給流路の圧力損失を簡単な構成により増大させ、第2気室C2の内圧を低圧とすることができる。
(4)各気室C1乃至C4を連通可能にするとともに、中間部に設けられた第2気室C2にのみベントホール38を設けたことにより、余剰な展開用ガスGをベントホール38から外部へ放出することで、低圧とするべき第2気室C2の内圧が、当該気室の圧縮変形や第3気室C3等からのガス流入によって高圧となり、上述した機能が損なわれることを防止できる。
(5)インフレータ111が第4気室C4の内圧が所定以上となるよう展開用ガスGを追加的に供給することにより、衝突後のベントホール38からの展開用ガスGの流出に関わらず、第4気室C4の内圧を所定以上に維持することが可能となり、衝突前後を通じたエアバッグ30の形状安定性を確保することができる。
【0038】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)エアバッグ装置及び車両の構成は、上述した各実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
例えば、これらを構成する各部材、部品の構造、形状、材質、製法、配置、個数や、各種制御の具体的内容などは、各実施形態に限定されず適宜変更することができる。
(2)プリクラッシュ判定を行う手法や、衝突形態を判別する手法は、各実施形態の手法に限らず適宜変更することができる。
(3)実施形態におけるエアバッグの内部の気室の個数や、各気室への展開用ガスの導入流路の構成、ベントホールの配置等は一例であって、適宜変更することが可能である。また、各気室の圧力分布も適宜変更することが可能である。例えば、実施形態では中間部に設けられた気室のうち前方側の気室を後方側の気室に対して低圧としているが、後方側の気室を低圧としてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 車両 10 車室
20 エンジンコンパートメント 21 フロントサイドフレーム
22 バンパビーム 23 フロントバンパ
30 エアバッグ
C1 第1気室 C2 第2気室
C3 第3気室 C4 第4気室
31 ガス導入口 32 隔壁
33 隔壁 34 隔壁
35 ダクト 36 開口
37 開口 38 ベントホール
110 エアバッグ制御ユニット 111 インフレータ
112 圧力センサ 120 環境認識ユニット
121 ステレオカメラ装置 122 ミリ波レーダ装置
123 レーザスキャナ装置 G 展開用ガス