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  • 特許-ソイルセメント脱水率推定方法 図1
  • 特許-ソイルセメント脱水率推定方法 図2
  • 特許-ソイルセメント脱水率推定方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】ソイルセメント脱水率推定方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20250205BHJP
   E02D 1/00 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
E02D3/12 102
E02D1/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021107988
(22)【出願日】2021-06-29
(65)【公開番号】P2023005802
(43)【公開日】2023-01-18
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清塘 悠
(72)【発明者】
【氏名】田屋 裕司
(72)【発明者】
【氏名】谷川 友浩
(72)【発明者】
【氏名】山中 龍
(72)【発明者】
【氏名】九里 知宏
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-111879(JP,A)
【文献】特開2019-105112(JP,A)
【文献】特表2017-534783(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0023268(US,A1)
【文献】特開平07-197444(JP,A)
【文献】特開2016-142096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 3/12
E02D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントミルクと現地土とを混合して形成されたソイルセメントの未固結試料の含水比を測定する工程と、
蛍光X線分析計を用いて、前記未固結試料のセメントに含有されている所定元素含有量を測定する工程と、
前記未固結試料の前記所定元素含有量、現地土の前記所定元素含有量及び前記セメントミルクに用いられるセメントの前記所定元素含有量を用いて、前記ソイルセメントにおける土とセメントとの質量比を算出する工程と、
前記未固結試料の含水比と、前記質量比と、を用いて、前記未固結試料の有効セメント水比を算出する工程と、
算出された前記質量比、前記含水比、前記有効セメント水比、現地土の含水比及び前記セメントミルクにおける水セメント比から、前記ソイルセメントの脱水率を算出する工程と、
を備えたソイルセメント脱水率推定方法。
【請求項2】
前記現地土の前記所定元素含有量は、蛍光X線分析計を用いて測定される、請求項1に記載のソイルセメント脱水率推定方法。
【請求項3】
前記ソイルセメントは、杭孔の根固め部を形成する、請求項1又は2に記載のソイルセメント脱水率推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメント脱水率推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、地盤内から未固結状態のソイルセメント試料を採取し、そのソイルセメント試料の有効セメント水比を算出し、さらに、有効セメント水比と固結ソイルセメントの圧縮強さとの関係から、固結後のソイルセメントの圧縮強さを推定する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-111879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のソイルセメントの圧縮強さを推定する方法に示されるように、ソイルセメントの強度は、ソイルセメントの有効セメント水比に依存する。しかし、ソイルセメントは、地盤内において水分が失われることがある。特に、透水性の高い砂地盤や礫地盤では、周辺地盤の圧力に対して、相対的に削孔内の圧力が高くなり、この圧力差によって、ソイルセメントが脱水し易い。
【0005】
例えばソイルセメントの強度を推定したあとでソイルセメントが脱水すると、推定された強度と実際の強度との間で齟齬が生じる。このような状態では、ソイルセメントの強度を過少に評価してしまう可能性がある。このため、ソイルセメントの脱水率を把握して、ソイルセメントの強度を適切に管理する必要がある。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、ソイルセメントの脱水率を推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1のソイルセメント脱水率推定方法は、セメントミルクと現地土とを混合して形成されたソイルセメントの未固結試料の含水比を測定する工程と、蛍光X線分析計を用いて、前記未固結試料のセメントに含有されている所定元素含有量を測定する工程と、前記未固結試料の前記所定元素含有量、現地土の前記所定元素含有量及び前記セメントミルクに用いられるセメントの前記所定元素含有量を用いて、前記ソイルセメントにおける土とセメントとの質量比を算出する工程と、前記未固結試料の含水比と、前記質量比と、を用いて、前記未固結試料の有効セメント水比を算出する工程と、算出された前記質量比、前記含水比、前記有効セメント水比、現地土の含水比及び前記セメントミルクにおける水セメント比から、前記ソイルセメントの脱水率を算出する工程と、を備えている。
【0008】
ソイルセメントは、セメントミルク(セメントと水の混合体)と現地土(土粒子と水の混合体)とを混合して形成されている。そして、未固結状態のソイルセメントは、周辺地盤の圧力差によって、脱水することがある。理論上、脱水前のソイルセメントに含まれる水の体積から脱水後のソイルセメントに含まれる水の体積を引いた値を、脱水前の水の体積で除すと、脱水率が算出される。
【0009】
しかし、ソイルセメントにおけるセメントミルクと現地土との混合割合を把握することは困難である。このため、脱水前のソイルセメントに含まれる水の量や、脱水後のソイルセメントに含まれる水の量を直接把握することは難しい。すなわち、これらの水の体積から脱水率を算出することは難しい。
【0010】
ここで、セメント及び現地土には、それぞれ様々な元素が含まれている。この様々な元素のうち、特定の元素(所定元素、例えばカルシウムなど)に注目して、セメントやソイルセメント、及び、現地土の所定元素含有量を把握することができれば、ソイルセメントの脱水率を算出することができる。
【0011】
そこで、請求項1のソイルセメント脱水率推定方法では、ソイルセメントにおける未固結試料の所定元素含有量を、蛍光X線分析計を用いて測定する。
【0012】
そして、測定された未固結試料の所定元素含有量と、現地土の所定元素含有量と、セメントミルクに用いられるセメントの所定元素含有量と、を用いて、ソイルセメントにおける土とセメントとの質量比を算出する。
【0013】
また、未固結試料の含水比と、算出された質量比と、を用いて、未固結試料の有効セメント水比を算出する。
【0014】
さらに、算出された質量比、未固結試料の含水比、算出された有効セメント水比、現地土の含水比及びセメントミルクにおける水セメント比から、ソイルセメントの脱水率を算出する。
【0015】
このように、本態様のソイルセメント脱水率推定方法では、ソイルセメントの脱水率を推定することができる。
【0016】
請求項2のソイルセメント脱水率推定方法は、請求項1に記載のソイルセメント脱水率推定方法において、前記現地土の前記所定元素含有量は、蛍光X線分析計を用いて測定される。
【0017】
請求項2のソイルセメント脱水率推定方法では、現地土の所定元素含有量を蛍光X線分析計を用いて測定する。これにより、現地土の元素含有量を考慮しない、又は既往のデータに基づく現地土の推定元素含有量を用いる場合と比較して、現地土の所定元素含有量の精度が高い。
【0018】
請求項3のソイルセメント脱水率推定方法は、請求項1又は2に記載のソイルセメント脱水率推定方法において、前記ソイルセメントは、杭孔の根固め部を形成する。
【0019】
請求項3のソイルセメント脱水率推定方法では、杭孔の根固め部を形成するソイルセメントにおけるソイルセメント脱水率推定方法を推定することができる。これにより、根固め部の強度管理を適切に実施することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、ソイルセメントの脱水率を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(A)は本発明のソイルセメント脱水率推定方法が適用される既製杭を埋設するための杭孔を形成している状態を示す立断面図であり、(B)は杭孔に根固め部を形成している状態を示す立断面図であり、(C)は杭孔から掘削ロッドを引き上げながら杭周固定液を注入している状態を示す立断面図であり、(D)は杭孔に既製杭を挿入した状態を示す立断面図である。
図2】ソイルセメントの成分を示す概念図である。
図3】乾燥状態のソイルセメントの成分を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係るソイルセメント脱水率推定方法について、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。但し、明細書中に特段の断りが無い限り、各構成要素は一つに限定されず、複数存在してもよい。
【0023】
また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0024】
<杭の施工方法>
本発明の実施形態に係るソイルセメント脱水率推定方法は、一例として、杭の根固め部を形成するソイルセメントに用いられる。そこで、ソイルセメント脱水率推定方法の説明に先立ち、脱水率を推定する対象であるソイルセメントが用いられる杭の施工方法の概略について説明する。
【0025】
図1(A)~(D)には、既製杭10を埋込み工法で地盤Gへ埋設する方法の一例が示されている。図1(D)に示す既製杭10は、コンクリート製の杭であり、工場などにおいて予め成型された後、施工現場へ搬入される。
【0026】
既製杭10を地盤Gへ埋設するためには、まず、図1(A)に示すように、掘削ロッド20を用いて掘削液を注入しながら地盤Gを掘削し、杭孔GHを形成する。本実施形態においては既製杭10を先端支持杭とするために、杭孔GHの先端を、支持層GAに到達させる。地盤Gは、粘性土の地盤と比較して透水性が高い高透水性地盤であり、例えば砂地盤又は礫地盤である。なお、以下の説明における「土」は、砂や礫を含む。
【0027】
次に図1(B)に示すように、掘削ロッド20から杭孔GHの先端(底)へセメントミルクを注入する。このセメントミルクを攪拌することで、地盤G中の土と混合させ、根固め部を形成するソイルセメント12を構築する。
【0028】
なお、セメントミルクは、セメント及び水を混練して、又は、セメント、水及び各種添加剤を混練して形成される。また、ソイルセメントは、セメントミルクと土との混練体である。本明細書においては、「地盤G」を形成する鉱物、有機物、気体、液体及び生物等の混合物を「土」と称す。
【0029】
杭孔GHの先端には、杭孔GHの直径が拡径され、かつ、ソイルセメント12が充填された部分である根固め球根12Aを形成することが好適である。なお、根固め球根12Aを形成する場合、掘削ロッド20における掘削ヘッドは、拡径できる公知の構造とする。そして当該掘削ヘッドを所定の深度において拡径することで、根固め球根12Aが形成される。
【0030】
次に図1(C)に示すように、掘削ロッド20を引き抜きながら、ソイルセメント12の上方にセメントミルクを注入及び攪拌する。これにより杭周固定液としてのソイルセメント14を形成する。ソイルセメント14は、ソイルセメント12と比較して、単位体積当たりのセメント量が少ない貧調合のセメントミルクを用いて形成してもよい。
【0031】
次に図1(D)に示すように、杭孔GHへ既製杭10を挿入する。このとき、既製杭10の先端を、杭孔GHの先端の根固め球根12Aへ陥入する。これにより、既製杭10が地盤Gへ埋設される。
【0032】
なお、本実施形態において脱水率を推定するソイルセメントは、本設杭に用いられるものでなくてもよく、本設杭に用いられるものと略等しい成分のソイルセメントでよい。
【0033】
この場合、本設杭としての既製杭10が設けられる敷地と同じ敷地に仮設の杭孔を削孔し、セメントミルクを注入及び攪拌する。これにより、本設杭に用いられるソイルセメント12と略等しい成分のソイルセメントを形成できる。「略等しい」とは、例えばセメントと土との混合割合がほぼ等しいことを示す。
【0034】
また、本実施形態において脱水率を推定するソイルセメントは、必ずしも杭の根固め部に用いる必要はなく、杭の根固め部以外の部分に用いてもよい。さらに、ソイルセメントは、山留め壁や地盤改良体に用いるもの等としてもよい。以下の説明においては、本設杭に用いられるソイルセメント12を含むソイルセメント全般の脱水率推定方法について説明する。
【0035】
<ソイルセメントの脱水率推定方法の概要>
ソイルセメントは、セメントミルクと現地土(土粒子と水の混合体)とを混合して形成されている。そして、未固結状態のソイルセメントは、周辺地盤(地盤G)の圧力差によって、脱水することがある。理論上、脱水前のソイルセメントに含まれる水の体積(後述する体積V1[cm3])から脱水後のソイルセメントに含まれる水の体積(後述する体積V2[cm3])を引いた値を、脱水前の水の体積V1[cm3]で除すと、ソイルセメントの脱水率(後述する脱水率X)が算出される。
【0036】
しかし、ソイルセメントにおけるセメントミルクと現地土との混合割合を把握することは困難である。このため、脱水前のソイルセメントに含まれる水の体積V1[cm3]や、脱水後のソイルセメントに含まれる水の体積V2[cm3]を直接把握することは難しい。すなわち、これらの水の体積から脱水率Xを算出することは難しい。
【0037】
そこで、本発明においては、脱水前のソイルセメントに含まれる水の体積V1[cm3]を「理論値」で求め、また、脱水後のソイルセメントに含まれる水の体積V2[cm3]を、後述する方法で測定した「測定値」から導出し、ソイルセメントの脱水率Xを算出する。
【0038】
<脱水前の水の体積>
図2(左側の<脱水前>)に示すように、ソイルセメントを形成するセメントミルクは、一例として、C[g]のセメントと、C・R[g]の水とを混練して形成されている。Rはセメントミルクにおける水セメント比(質量比)であり、任意に設定できる既知の値である。
【0039】
また、セメントミルクと攪拌される土である現地土には、S[g]の土粒子(乾燥状態)と、S・ωs[g]の水と、が含まれている。「ωs」は現地土の含水比(質量比)であり、後述する事前調査によって測定できる値である。
【0040】
また、水の密度を1とすると、(C・R)[g]の水の体積は(C・R)[cm3]であり、(S・ωs)[g]の水の体積は(S・ωs)[cm3]である。すなわち、脱水前のソイルセメントには、以下の(1)式で示す体積V1[cm3]の水が含まれている。
【0041】
V1=C・R+S・ωs ・・・(1)
【0042】
<脱水後の水の体積、ソイルセメントの脱水率>
【0043】
ここで、セメント及び現地土には、それぞれカルシウムが含まれている。ソイルセメント、現地土、及びセメントのカルシウム含有量を把握することができれば、以下に示す方法で、脱水後の水の体積及びソイルセメント脱水率を算出することができる。なお、カルシウムは本発明における所定元素の一例である。本発明に用いる「所定元素」とは、カルシウムのようにセメントに含有されているものであればよい。
【0044】
(セメントのカルシウム濃度及びセメントミルクの水セメント比)
図3にも示すように、C[g]のセメントにおけるカルシウム含有量Ccaは、次の(2)式で示される。なお、セメントのカルシウム濃度は、蛍光X線分析計を用いて測定してもよい。
【0045】
Cca=C・Ca(c) ・・・(2)
【0046】
また、セメントミルクにおける水セメント比Rは、上述したように任意に設定できる値である。セメントと水とは、予め決められた水セメント比となるように調合されるが、例えば図1に示す杭孔GHへ注入するセメントミルクの水セメント比Rは、プラントでのセメントミルク製造時に調査することが好ましい。
【0047】
(事前調査-試料採取)
ソイルセメントの脱水率を算出するためには、事前調査を実施する。事前調査の一例としては、まず、地盤(例えば図1に示す地盤G)から現地土の試料を採集する。試料の採集は、地盤調査のためのボーリング試験と併せて実行することが好適である。この試料とは、例えば図1に示す支持層GAを形成する現地土(以下、「土試料」と称す場合がある)である。
【0048】
(事前調査-現地土の測定)
次に、採集した土試料の質量を測定後、乾燥して、粉砕する。土試料の乾燥には、加熱乾燥式水分計や電子レンジ等、任意の機材を用いることができる。また、土試料の粉砕には、ミル等を用いることができる。そして、乾燥後の土試料の質量を測定する。
【0049】
これにより、土粒子(乾燥状態)の質量S[g]及び乾燥前の土試料の含水比ωsを把握することができる。すなわち、土試料には、図2(左側の<脱水前>)に示すように、S[g]の土粒子(乾燥状態)と、S・ωs[g]の水と、が含まれている。
【0050】
(事前調査-現地土のカルシウム含有量の測定)
次に、蛍光X線分析計を用いて、乾燥及び粉砕した土試料(土粒子)におけるカルシウム濃度を測定する。図3にも示すように、土粒子(乾燥状態)のカルシウム濃度が、Ca(s)[ppm]と測定された場合、S[g]の土粒子(乾燥状態)におけるカルシウム含有量Scaは、次の(3A)式で示される。
【0051】
Sca=S・Ca(s) ・・・(3A)
【0052】
(ソイルセメントの含水比の測定)
次に、例えば図1に示す杭孔GHの内部においてセメントミルクと現地土とを混練し、ソイルセメントを形成する。そして、未固結状態のソイルセメントを未固結試料として採取する。
【0053】
なお、未固結試料を採取する時点で、ソイルセメントから地盤Gへ、水が脱水しているものと考え、以下の説明において「未固結試料」と称した場合は、脱水後のソイルセメントから採取した未固結試料を指すものとする。
【0054】
未固結試料を採取後、未固結試料の質量を測定する。未固結試料の質量W1は、図2(右側の<脱水後>)及び(3-1)式に示すように、セメントミルクと現地土の質量の合計である、C+S+W+Sw[g]で示される。
【0055】
なお、未固結試料において、セメントミルク由来の水の質量がW[g]であり、現地土に由来する水の質量がSw[g]である。これらの質量W[g]、Sw[g]は、脱水後における水の質量である。
【0056】
W1=C+S+W+Sw ・・・(3-1)
【0057】
次に、採取した未固結試料を乾燥して、粉砕する。未固結試料の乾燥には、土試料と同様に、加熱乾燥式水分計や電子レンジ等、任意の機材を用いることができる。また、未固結試料の粉砕には、ミル等を用いることができる。電子レンジ等による乾燥、粉砕及びカルシウム測定に要する時間は約1時間程度(このうち、加熱乾燥式水分計による乾燥は30分程度、電子レンジによる乾燥は15分程度)であり、一軸圧縮試験用の試験及び試験体の養生に要する時間(3~7日程度)と比較して十分に短い。
【0058】
なお、本発明において「乾燥」と「脱水」とは異なる概念である。「乾燥」とは、未固結試料や、土試料から、意図的に水分を除くことであり、「脱水」とは、ソイルセメントの水分が自動的に地盤Gへ移動することである。
【0059】
そして、乾燥した未固結試料(つまり、乾燥状態のソイルセメント)の質量を測定する。乾燥状態のソイルセメントの質量W2は、図2(右側の<脱水後>)及び次の(3-2)式に示すように、未固結試料におけるセメントと土粒子(乾燥状態)の質量の合計である、C+S[g]で示される。
【0060】
W2=C+S ・・・(3-2)
【0061】
ここで、未固結試料の質量W1と乾燥状態のソイルセメントの質量W2の差から算出される値W3は、図2(右側の<脱水後>)及び次の(3-3)式に示すように、未固結試料の含水量W+Sw[g]を示している。
【0062】
なお、本発明における「未固結試料の含水量を測定する工程」とは、未固結試料の質量W1と、乾燥状態のソイルセメントの質量W2とを測定して、未固結試料の含水量(脱水後のソイルセメントに含まれる水の質量)W3を算出することを含む。
【0063】
W3=W+Sw ・・・(3-3)
【0064】
以上の(3-1)~(3-3)式から、未固結試料の含水比(脱水後のソイルセメントの含水比)「ωsc」が、以下の(3B)式のように算出される。
【0065】
ωsc=W3/W2=(W+Sw)/(C+S) ・・・(3B)
【0066】
(ソイルセメントのカルシウム含有量の測定)
次に、蛍光X線分析計を用いて、乾燥及び粉砕した未固結試料(つまり、乾燥状態のソイルセメント)におけるカルシウム濃度を測定する。このとき、未固結試料は乾燥及び粉砕されているため、セメント成分と現地土成分とが均一に混合され、カルシウム含有量を精度よく測定できる。
【0067】
図3に示すように、ソイルセメント(乾燥状態)のカルシウム濃度が、Ca(sc)[ppm]と測定された場合、このソイルセメント(乾燥状態)におけるカルシウム含有量Cca+Scaは、次の(4)式で示される。
【0068】
Cca+Sca=(C+S)・Ca(sc) ・・・(4)
【0069】
(ソイルセメントにおけるセメントと土粒子(乾燥状態)の質量比)
図4に示すように、ソイルセメントにおけるセメントと土粒子(乾燥状態)との質量比C:Sを、1:αとすると、この係数α(以下、質量比αと称す)は、次の(5-1)式で示される。
【0070】
α=S/C ・・・(5-1)
【0071】
また、ソイルセメントにおけるカルシウム濃度Ca(sc)は、(2)、(3A)、(4)式から、次の(5-2)式で示される。
【0072】
Ca(sc)=[C・Ca(c)+S・Ca(s)]/(C+S) ・・・(5-2)
【0073】
これらの(5-1)、(5-2)式から、質量比αは次の(5)式のように算出される。
【0074】
α=[Ca(c)-Ca(sc)]/[Ca(sc)-Ca(s)] ・・・(5)
【0075】
ここで、ソイルセメントにおいて、水に対するセメントの割合β(以下、有効セメント水比βと称す)は、未固結試料におけるセメントの質量C[g]と水の質量W3[g]とを用いて、次の(6-1)式で表される。
【0076】
β=C/W3 ・・・(6-1)
【0077】
なお、(6-1)式を変形すると、未固結試料に含まれる水の質量W3[g]は、次の(6-2)式で表される。
【0078】
W3=C/β ・・・(6-2)
【0079】
また、水の密度を1とすると、脱水後のソイルセメントに含まれる水の体積V2[cm3]は、未固結試料に含まれる水の質量W3[g]を用いて、次の(7)式で示される。
【0080】
V2=W3 ・・・(7)
【0081】
さらに、以上の(1)式~(5)式及び(6-1)式を用いて、有効セメント水比βが、次の(8)式のように算出される。
【0082】
β=Ca(sc)/{[α・Ca(s)+Ca(c)]・ωsc} ・・・(8)
【0083】
(ソイルセメントの脱水率の算出)
ソイルセメントの脱水率Xは、上述した脱水前の水の体積V1[cm3]及び脱水後のソイルセメントに含まれる水の体積V2[cm3]を用いて、次の(9-1)式で示される。
【0084】
X=(V1-V2)/V1 ・・・(9-1)
【0085】
この(9-1)式は、(1)式及び(7)式を用いて次の(9-2)式に変形できる。
【0086】
X=(C・R+S・ωs-W3)/(C・R+S・ωs) ・・・(9-2)
【0087】
さらにこの(9-2)式は、(5-1)式、(6-2)式を用いて次の(9)式に変形できる。
【0088】
X={R+α・ωs-(1/β)}/(R+α・ωs) ・・・(9)
【0089】
ここで、上述したように、(9)式を構成するRはセメントミルクにおける水セメント比(質量比)、αはソイルセメントにおける土とセメントとの質量比、ωsは現地土の含水比(質量比)、βはソイルセメントの有効セメント水比である。これらの値は、算出又は測定により得ることができる。このため、ソイルセメントの脱水率Xも算出することができる。
【0090】
(作用及び効果)
このように、本発明によれば、ソイルセメントの脱水率を推定することができる。なお、ソイルセメントは脱水することで、ソイルセメントに含まれるセメントの割合が大きくなり、有効セメント水比が大きくなる。このため、強度が大きくなる。
【0091】
もしソイルセメントの脱水率を考慮しない場合、つまりソイルセメントが脱水されていることを考慮しない場合は、ソイルセメントの強度が大きくなっていることを把握できないため、強度を小さく見積もってしまう虞がある。
【0092】
ここで、建物の用途変更や地域の再開発の際などに、将来的に杭を撤去する場合がある。この杭の撤去後に埋め戻して地盤改良して形成されたソイルセメントの強度を小さく見積もった場合、杭を撤去後、埋め戻した地盤の強度も低く見積もってしまう。
【0093】
このような強度を低く見積もった地盤に新たな杭を施工する場合、新たな杭を設置する杭孔を、想定した位置や形状に掘削することが難しい。なぜならば、埋め戻し地盤の強度が想定以上に高いため、掘削ロッドが周囲の地盤に逃げ、例えば鉛直方向に掘削することが難しくなる。
【0094】
これに対して、ソイルセメントの脱水率を把握して強度を適切に管理することで、新設杭の位置を調整したり、強度に応じた掘削方法を検討したりすることができ、新設杭の施工時のトラブルを避けることができる。
【0095】
また、ソイルセメントが脱水することで、脱水しない場合と比較して、ソイルセメントの体積が小さくなる。このため、ソイルセメントの形成時に、セメントミルクによって押し出されて掘削孔から排出される汚泥量も少なくなる。ソイルセメントの脱水率を把握することで、掘削孔から排出される汚泥量も管理することができる。
【0096】
なお、本実施形態では、上述したように、「未固結試料を採取する時点で、ソイルセメントから地盤Gへ、水が脱水している」ものとした。未固結試料を採取するタイミングとしては、セメントミルクを攪拌して地盤G中の土と混合させた直後でもよい。セメントミルクを攪拌して地盤G中の土と混合させた直後であって、脱水が生じていない場合でも、脱水率は上記の方法で算出し、脱水の有無を確認することができる。
【0097】
また、未固結試料を採取するタイミングは、セメントミルクを攪拌してから所定時間経過した後でもよい。さらに、例えば所定時間経過する毎(例えば3時間毎、6時間毎等)に、未固結試料を採取して、それぞれの未固結試料ごとに脱水率を算出してもよい。このような方法によって脱水率の経時変化を把握することで、最終的な脱水率を推定することもできる。
【0098】
また、本発明のソイルセメント脱水率推定方法は、透水性の高い砂地盤や礫地盤に限らず、粘性土で形成された地盤に適用することもできる。地盤の種類に関わらず、本発明を適用することで、地盤Gの透水性を把握することができるし、ソイルセメントから地盤Gへの脱水現象の発生有無を把握して、さらに脱水の程度を把握することもできる。
【0099】
さらに、上記の説明では、周辺地盤の圧力に対して削孔内の圧力が高くなってソイルセメントが脱水する場合について説明したが、本発明の本発明のソイルセメント脱水率推定方法は、ソイルセメントが「加水」される場合にも適用することができる。
【0100】
例えば透水性の低い粘性地盤などにおいて、周辺地盤の圧力に対して相対的に削孔内の圧力が「低く」なる場合に、ソイルセメントが「加水」される場合がある。このような場合においても、上記の方法を適用することで、加水率を算出することができる。加水率は、上記の(9)式で算出される脱水率が負の値の場合に、当該値の絶対値で示される値が加水率である。
【符号の説明】
【0101】
12 ソイルセメント
図1
図2
図3