(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】グラウト注入装置
(51)【国際特許分類】
E02D 27/52 20060101AFI20250205BHJP
F03D 13/25 20160101ALI20250205BHJP
E02D 27/32 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
E02D27/52 A
F03D13/25
E02D27/32 Z
(21)【出願番号】P 2021191355
(22)【出願日】2021-11-25
【審査請求日】2024-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】浅香 康弘
(72)【発明者】
【氏名】中島 与博
(72)【発明者】
【氏名】島田 龍市
(72)【発明者】
【氏名】蒲田 幸穂
(72)【発明者】
【氏名】長崎 耕欣
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/089915(WO,A2)
【文献】特開2017-203317(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0218796(US,A1)
【文献】特表2021-505471(JP,A)
【文献】国際公開第2020/239427(WO,A1)
【文献】特表2022-529386(JP,A)
【文献】実開昭57-130732(JP,U)
【文献】特開平11-208362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/52
F03D 13/25
E02D 27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底に打設された杭基礎と、
前記杭基礎の上方に接続されて水面上方まで延びるとともに、前記水面上方に設けられた外部プラットフォームと、前記水面近傍から前記外部プラットフォームまで繋がる梯子を含み船舶を接舷させ当該船舶から前記外部プラットフォームまでの人のアクセスを可能にするアクセス経路部と、を有するトランジションピースと、
を備える洋上構造物の建造時において前記杭基礎の上端部と前記トランジションピースの下端部との接合部にグラウトを注入するためのグラウト注入装置であって、
前記トランジションピースの外周面に沿って前記外部プラットフォームから前記接合部まで前記グラウトを搬送するグラウト搬送路を備え、
前記グラウト搬送路は、前記アクセス経路部に含まれる筒状鋼管の中空部内を通過する鋼管内通部を有し、
前記外部プラットフォームから前記接合部まで延び前記グラウト搬送路を形成するグラウト管を備え、
前記グラウト管の少なくとも一部が前記筒状鋼管の前記中空部内に挿入されて前記鋼管内通部が形成されてい
る、グラウト注入装置。
【請求項2】
水底に打設された杭基礎と、
前記杭基礎の上方に接続されて水面上方まで延びるとともに、前記水面上方に設けられた外部プラットフォームと、前記水面近傍から前記外部プラットフォームまで繋がる梯子を含み船舶を接舷させ当該船舶から前記外部プラットフォームまでの人のアクセスを可能にするアクセス経路部と、を有するトランジションピースと、
を備える洋上構造物の建造時において前記杭基礎の上端部と前記トランジションピースの下端部との接合部にグラウトを注入するためのグラウト注入装置であって、
前記トランジションピースの外周面に沿って前記外部プラットフォームから前記接合部まで前記グラウトを搬送するグラウト搬送路を備え、
前記グラウト搬送路は、前記アクセス経路部に含まれる筒状鋼管の中空部内を通過する鋼管内通部を有し、
前記外部プラットフォームから下方に延び前記筒状鋼管に対して互いの中空部同士が連通するように接続される上部グラウト管と、
前記接合部から上方に延び前記筒状鋼管に対して互いの中空部同士が連通するように接続される下部グラウト管と、を備え、
前記筒状鋼管の前記中空部のうち前記上部グラウト管との接続部から前記下部グラウト管との接続部までの領域が前記鋼管内通部として構成されてい
る、グラウト注入装置。
【請求項3】
前記筒状鋼管は、前記梯子の支柱の少なくとも一部である、請求項1
又は2に記載のグラウト注入装置。
【請求項4】
水底に打設された杭基礎と、
前記杭基礎の上方に接続されて水面上方まで延びるとともに、前記水面上方に設けられた外部プラットフォームと、前記水面近傍から前記外部プラットフォームまで繋がる梯子を含み船舶を接舷させ当該船舶から前記外部プラットフォームまでの人のアクセスを可能にするアクセス経路部と、を有するトランジションピースと、
を備える洋上構造物の建造時において前記杭基礎の上端部と前記トランジションピースの下端部との接合部にグラウトを注入するためのグラウト注入装置であって、
前記トランジションピースの外周面に沿って前記外部プラットフォームから前記接合部まで前記グラウトを搬送するグラウト搬送路を備え、
前記グラウト搬送路は、前記アクセス経路部に含まれる筒状鋼管の中空部内を通過する鋼管内通部を有し、
前記筒状鋼管は、前記トランジションピースの外周面に沿って上下方向に延び前記船舶の前記外周面への直接衝突を回避するためのフェンダーの少なくとも一部であ
る、グラウト注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上構造物におけるグラウト注入装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の洋上構造物として下記特許文献1の洋上風力発電機が知られている。この洋上風力発電機の基礎として、水底に打設された杭基礎が用いられている。このような杭基礎は鉛直度が不十分である可能性があるので、杭基礎の上方に鉛直度を調整しながらトランジションピースを接続することで構造物の鉛直度を確保する、といった手法が採用される場合がある。この場合、杭基礎の上端部とトランジションピースの下端部との間にグラウトが注入されることで杭基礎とトランジションピースとの接合が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように杭基礎とトランジションピースとのグラウト接合部にグラウトを注入する手法として、例えば次のようなものが考えられる。グラウト接合部に対応する位置でトランジションピースの下端部には、当該下端部の外周面から内周面まで貫通するグラウト注入孔が設けられる。トランジションピースの上部の外部プラットフォームから上記グラウト注入孔までグラウト配管が繋がれる。このトランジションピースの近傍の海上にはセルフエレベーションプラットフォームが設置され、セルフエレベーションプラットフォームから延ばされたグラウト供給管が外部プラットフォームにおいて上記グラウト配管に接続される。そして、セルフエレベーションプラットフォームから送り出されるグラウトは、グラウト供給管、グラウト配管、及びグラウト注入孔を経由してトランジションピースの内周面側に位置するグラウト接合部にグラウトが注入される。
【0005】
グラウト配管はトランジションピースの外周面上で上下方向に延び、トランジションピースにより支持される。この場合、例えば、グラウト配管を支持するための支持部が所定の上下間隔をあけてトランジションピースの外周面に溶接等によって設けられる。トランジションピース全体が風などの影響で変形する際には、上記支持部が設けられた箇所に応力集中が発生する可能性があるので、このような支持部は少ないことが好ましい。本発明は、トランジションピースにおけるグラウト配管の支持部を削減することが可能なグラウト注入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のグラウト注入装置は、水底に打設された杭基礎と、杭基礎の上方に接続されて水面上方まで延びるとともに、水面上方に設けられた外部プラットフォームと、水面近傍から外部プラットフォームまで繋がる梯子を含み船舶を接舷させ当該船舶から外部プラットフォームまでの人のアクセスを可能にするアクセス経路部と、を有するトランジションピースと、を備える洋上構造物の建造時において杭基礎の上端部とトランジションピースの下端部との接合部にグラウトを注入するためのグラウト注入装置であって、トランジションピースの外周面に沿って外部プラットフォームから接合部までグラウトを搬送するグラウト搬送路を備え、グラウト搬送路は、アクセス経路部に含まれる筒状鋼管の中空部内を通過する鋼管内通部を有する。
【0007】
本発明のグラウト注入装置は、外部プラットフォームから接合部まで延びグラウト搬送路を形成するグラウト管を備え、グラウト管の少なくとも一部が筒状鋼管の中空部内に挿入されて鋼管内通部が形成されている、こととしてもよい。
【0008】
本発明のグラウト注入装置は、外部プラットフォームから下方に延び筒状鋼管に対して互いの中空部同士が連通するように接続される上部グラウト管と、接合部から上方に延び筒状鋼管に対して互いの中空部同士が連通するように接続される下部グラウト管と、を備え、筒状鋼管の中空部のうち上部グラウト管との接続部から下部グラウト管との接続部までの領域が鋼管内通部として構成されている、こととしてもよい。
【0009】
筒状鋼管は、梯子の支柱の少なくとも一部である、こととしてもよい。また、筒状鋼管は、トランジションピースの外周面に沿って上下方向に延び船舶の外周面への直接衝突を回避するためのフェンダーの少なくとも一部である、こととしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、トランジションピースにおけるグラウト配管の支持部を削減することが可能なグラウト注入装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態のグラウト注入装置が適用される風力発電機の正面図である。
【
図2】風力発電機のプラットフォーム近傍を拡大して示す斜視図である。
【
図3】風力発電機の基礎上に設置されるトランジションピースを示す斜視図である。
【
図4】トランジションピースの外周面上のグラウト管を拡大して示す斜視図である。
【
図5】グラウト注入装置の第1実施形態におけるグラウト搬送路の下部を示す断面図である。
【
図6】グラウト注入装置の第2実施形態におけるグラウト搬送路の下部を示す断面図である。
【
図7】(a)は、グラウト注入装置の第3実施形態におけるグラウト搬送路の下部を示す断面図であり、(b)は、グラウト注入装置の第4実施形態におけるグラウト搬送路の下部を示す断面図である。
【
図8】トランジションピースのLVパイプ近傍を示す側面図である。
【
図9】LVパイプ用の固定クランプの一例を示す分解斜視図である。
【
図10】LVパイプ用の固定クランプの他の例を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明に係るグラウト注入装置について詳細に説明する。以下の説明において同一又は相当する要素には図面で同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、図面は、理解の容易化のため、簡略化又は誇張して描いている場合があり、寸法比率等は図面に記載のものに限定されない。
【0013】
図1は、本実施形態のグラウト注入装置が適用される洋上構造物の一例として、風力発電機1を示す正面図である。図に示されるように、風力発電機1は、例えば、海底Bに設けられており、洋上風力発電を行う。但し、風力発電機1は、海洋に限られず、例えば、湖又は河川等に設けられていてもよい。風力発電機1は、海底Bから海水面上に突出して鉛直に延びる脚部41と、脚部41の上端部に取付けられた発電機本体42と、を備えている。
【0014】
発電機本体42は、ナセル5と、ナセル5に取り付けられたブレード6と、を備える。ナセル5の内部には発電機及び増速器等が収容されており、例えば、増速器からはローター軸がナセル5の外部に突出している。ブレード6は、ナセル5のローター軸に固定されている。風力発電機1は、例えば、3枚のブレード6を備える。ブレード6が風を受けて回転すると、この回転はナセル5の内部の増幅器により一定の回転数に上げられて、この回転運動はナセル5の内部の発電機によって電力に変換される。例えば、ナセル5は、風向風速計を備えており、風速及び風向に対応してローターの向きとブレード6の角度を制御することにより、効率的な発電を行う。
【0015】
脚部41は、海底Bに打設されたモノパイルである基礎2(杭基礎)と、基礎2の上方に接続されたトランジションピース3と、トランジションピース3の更に上方に接続されたタワー4と、を備える。基礎2、トランジションピース3、及びタワー4の各本体部は、概ね円形断面をなし互いに同軸で鉛直方向に配置されている。なお、基礎2は、モノパイルの基礎形式に代えて、トリパイル式の洋上風力基礎、又はジャケット式の洋上風力基礎を備えていてもよく、基礎の形式は特に限定されない。
【0016】
基礎2の上端部は海水面下の高さに位置しテーパー形状をなしている。トランジションピース3の下端部は基礎2の上端部のテーパー形状に対応する円錐内側面を有しており、この下端部が基礎2の上端部に被せられるようにして、トランジションピース3が基礎2上に設置されている。施工時には、基礎2上でトランジションピース3の鉛直度が調整された上で、トランジションピース3の下端部と基礎2の上端部との間にグラウトが充填される。このグラウトを介して基礎2とトランジションピース3とが接合(グラウト接合)されており、トランジションピース3の鉛直度が確保され、ひいては風力発電機1の鉛直度が確保されている。タワー4は、例えばコンクリート製又は鋼製の鉛直柱であり、トランジションピース3の上端部にボルト接合されている。
【0017】
図2は、トランジションピース3とタワー4とのボルト接合部近傍を拡大して示す斜視図である。
図2に示されるように、トランジションピース3の内部には風力発電機1の運転や管理を行うための複数層の内部プラットフォーム9が設けられている。内部プラットフォーム9同士の間は、梯子等を介して作業者が移動可能である。更にトランジションピース3の上端部には、外周面3aから外側に水平に張出した外部プラットフォーム10が設けられている。また、トランジションピース3にボルト接合されたタワー4の下端部には、タワー4の内部に出入りするための出入口11が設けられている。風力発電機1の運転管理を行う作業者は、海水面近傍の着船部51(
図1)に接舷された船舶から梯子で外部プラットフォーム10に移動する。そして作業者は、出入口11のドアを開けてタワー4の内部に入り、更に内部の梯子等を通じて内部プラットフォーム9にアクセスすることができる。外部プラットフォーム10は、上記のように作業員のアクセス経路の他、資材の搬入、搬出、仮置き等の目的でも使用され、例えばダビットクレーン(図示せず)が外部プラットフォーム10上に設置される。
【0018】
図3に示されるように、船舶から外部プラットフォームまでの作業者のアクセスを可能にするために、アクセス経路部53がトランジションピース3の外周面3a上に設けられている。アクセス経路部53は、海水面W(
図1)よりも下方の位置から外部プラットフォーム10まで延びる梯子56と、梯子56の下部に沿って左右両側にそれぞれ設けられた2つのフェンダー57,57とを有している。ここで、「海水面W」とは平均海水面を意味する。また、以下において単に「海水面上方」、「海水面下方」と言うときには、それぞれ、海水面Wよりも上方の領域、海水面Wよりも下方の領域を意味するものとする。
【0019】
フェンダー57,57は前述の着船部51の一部でもあり、着船部51に接舷しようとする船舶をトランジションピース3の外周面3aに直接衝突させないためのものである。フェンダー57,57は、外周面3aから外周側に浮いた位置で鉛直に延びる円形鋼管(筒状鋼管)であり、船舶が接触する際にこの接触を緩衝する機能を有する。フェンダー57,57は、海水面Wを跨いで海水面上方から海水面下方に亘って設けられており外周面3aに固定されている。
【0020】
梯子56は、2本の鉛直支柱56aと、鉛直支柱56a同士を水平方向に接続する多数の踏桟56bと、を有している。鉛直支柱56aは円形鋼管(筒状鋼管)で構成され、踏桟56bは例えば鉛直支柱56aよりも細い角柱部材で構成されている。梯子56の下端部は海水面下方に没しており、梯子56の上端部は外部プラットフォーム10の床板のハッチを抜けてやや上方まで延びている。梯子56の下部は、接舷する船舶が衝突しないように、フェンダー57,57よりも外周面3aに近い位置に配置されている。なお、梯子56の下部は、外周面3aには直接接続されておらず、2本のフェンダー57,57により幅方向で両持ち支持されている。梯子56の上部はフェンダー57,57よりも更に上方において外周面3aに固定されている。なお、梯子56の途中にレストプラットフォーム(図示せず)が適宜設けられてもよい。
【0021】
続いて、トランジションピース3と基礎2との接合について、
図3を参照しながら更に説明する。風力発電機1の建造時において、トランジションピース3を基礎2上に設置する際には、基礎2の近傍の海上にセルフエレベーションプラットフォーム(図示せず)が載置され、セルフエレベーションプラットフォーム(以下「SEP」と言う)のクレーンでトランジションピース3全体が吊り下げられて基礎2上に設置される。ここでは前述の通り、テーパー形状をなす基礎2の上端部に対し、円錐内側面をもつトランジションピース3の下端部が外周側に重ねて被せられる。この工程ではトランジションピース3の上端にはタワー4(
図2)が未だ接続されていないために、タワー4に代えてトランジションピース3の上端の開口を塞ぐためのカバー3cが取付けられている。このカバー3cにより外部の海洋環境からトランジションピース3の内部が仕切られ、内部の塩害等が抑制される。その後、トランジションピース3の鉛直度が調整され、トランジションピース3と基礎2との隙間(接合部61)にSEPから供給されるグラウトが注入される。このグラウトが硬化することで、トランジションピース3と基礎2との接合が図られる。
【0022】
上記のようにトランジションピース3と基礎2との接合部61へのグラウト注入を行うために、トランジションピース3にはグラウト注入装置63が設けられている。以下では、グラウト注入装置63の第1~第4実施形態について説明するが、各実施形態において同一又は同等の構成要素には図面で同一の符号を付し重複する説明を省略する。
【0023】
(グラウト注入装置の第1実施形態)
上記グラウト注入装置の第1実施形態について説明する。グラウト注入装置63は、外部プラットフォーム10から接合部61の下端部までグラウトを搬送するための2系統のグラウト搬送路65を備えている。グラウト搬送路65の具体的な構成として、
図3に示されるように、接合部61の下端部において、外部プラットフォーム10の外周面3aから内周面まで肉厚方向に貫通するグラウト注入孔65aが設けられている。そして、外部プラットフォーム10とグラウト注入孔65aとを接続し上下方向に延びる鋼製のグラウト管67が、トランジションピース3の外周面3a上に設けられている。グラウト管67の一部は梯子56の鉛直支柱56a内を通過しているが、この構成については後述する。なお、
図2においては図の煩雑化を避けるためにグラウト管67の図示が省略されている。
【0024】
グラウト管67の上端部は外部プラットフォーム10の床板近傍まで達しており、グラウト管67の上端開口が、グラウト導入口67aとして外部プラットフォーム10の床板上面に露出している。なお、グラウト導入口67aの使用時以外には、当該グラウト導入口67aが外部プラットフォームの床板の下に隠されていてもよい。グラウト搬送路65は、このようなグラウト管67の中空部によって構成されている。2系統のグラウト搬送路65の各グラウト注入孔65aは互いに高さをずらして配置されている。グラウト注入の際には、外部プラットフォーム10上のグラウト導入口67aに対してSEPから延びるグラウト供給管(図示せず)が接続される。そして、SEPから供給されるグラウトが、グラウト導入口67a、グラウト管67、及びグラウト注入孔65aを通じて接合部61に注入される。なお、接合部61へのグラウト注入に時間がかかる場合には、接合部61の下部に注入されたグラウトが硬化する場合があり、2つのうち下方に位置するグラウト注入孔65aが閉塞する可能性がある。しかしこの場合にも、上方に位置するグラウト注入孔65aを用いて接合部61へのグラウト注入を継続することができる。
【0025】
続いて、外周面3a上におけるグラウト管67の設置態様について説明する。
図3に示されるように、グラウト管67のうち、概ねフェンダー57の上端よりも上方に位置する部分は、梯子56の鉛直支柱56aの直ぐ隣の位置で鉛直に延びている。そして、
図4に示されるように、外周面3a上には支持プレート69が所定の間隔で複数溶接されており、グラウト管67は支持プレート69に保持されて所定の間隔で外周面3aに支持されている。なお、一部の支持プレート69はグラウト管67の上下方向の動きを拘束し、他の支持プレート69はグラウト管67の上下方向の動きを拘束しないように当該グラウト管67を保持する。支持プレート69は、例えばゴム等の緩衝材を介してグラウト管67を保持してもよい。
【0026】
グラウト管67は、梯子56の概ね中間の高さの位置において、梯子56の鉛直支柱56aと交錯しており、この交錯位置56cにおいてグラウト管67の下部が鉛直支柱56aの内部に挿入されている。交錯位置56cは、例えばフェンダー57の上端よりもやや低い位置にある。すなわち、
図5に示されるように、グラウト管67の下部は、交錯位置56cにおいて鉛直支柱56aの円柱外壁を貫通し鉛直支柱56aの下部の中空部56d内を通過している。そしてグラウト管67の最下部は、鉛直支柱56aの下端開口56eから再び外に引き出され、当該下端開口56eの下方に位置するグラウト注入孔65aに接続されている。このような構成により、グラウト管67により形成されるグラウト搬送路65は、鉛直支柱56aの中空部56d内を通過する鋼管内通部65dを有している。
【0027】
上記のようにグラウト管67の一部が鉛直支柱56a内を通過することによる作用効果について説明する。グラウト管67が鉛直支柱56aの外側を通過する部分では、
図4に示されるように、支持プレート69によってグラウト管67を支持する必要がある。これに対して、グラウト管67が鉛直支柱56aの中空部56d内を通過する部分においては、グラウト管67は鉛直支柱56aによって支持されるので、支持プレート69は不要である。従って、グラウト管67の一部が鉛直支柱56a内を通過することによって、グラウト管67を支持するための支持プレート69の個数を削減することができる。
【0028】
トランジションピース3全体が風などの影響で変形する際には、支持プレート69が溶接された箇所に応力集中が発生する可能性がある。この種の支持プレート69やグラウト管67は、風力発電機1の運用開始後も残置されていることが多い。この場合は特に、運転中の風力発電機本体42が風による大きな力を受けることで、トランジションピース3には曲げ変形が繰返し生じることになる。そして、トランジションピース3のうち支持プレート69が設けられた箇所には上記の曲げ変形に起因する応力集中が繰返し作用し、疲労の原因にもなり得る。これに対し、本実施形態のグラウト注入装置63においては、上記のように支持プレート69の個数が削減されることにより、支持プレート69が設けられる箇所の応力集中に起因する問題が低減される。
【0029】
また、グラウト管67が鉛直支柱56aの外側を通過する部分は、波に晒され波力を受ける。従って、グラウト管67の一部が鉛直支柱56a内を通過することで、グラウト管67に対する波力の影響も低減することができる。このような観点から、特にグラウト管67の中でも海水面Wに近く波力を受けやすい下部が、鉛直支柱56a内を通過するようにすることが好ましい。
【0030】
(グラウト注入装置の第2実施形態)
上記グラウト注入装置の第2実施形態について説明する。
図6に示されるように、本実施形態におけるグラウト注入装置63のグラウト管71は、上部グラウト管71aと、下部グラウト管71bと、を備えている。上部グラウト管71aは、外部プラットフォーム10のグラウト導入口67a(
図3)から梯子56の鉛直支柱56aとの交錯位置56cまで延び、当該交錯位置56cにおいて梯子56の鉛直支柱56aに接続されている。そして、上部グラウト管71aの中空部71dと鉛直支柱56aの中空部56dとが連通している。一方、下部グラウト管71bの上端は鉛直支柱56aの下端開口56eに接続されており、下部グラウト管71bの中空部71eと鉛直支柱56aの中空部56dとが連通している。下部グラウト管71bの下端はグラウト注入孔65aに接続されている。
【0031】
上記の構成により、上部グラウト管71aの中空部71d、鉛直支柱56aの下部の中空部56d、及び下部グラウト管71bの中空部71eが互いに連通して、グラウト導入口67aからグラウト注入孔65aまで繋がるグラウト搬送路75が形成されている。また、このグラウト搬送路75は、鉛直支柱56aの下部の中空部56d内を通過する鋼管内通部75dを有している。すなわち、鉛直支柱56aの中空部56dのうち、上部グラウト管71aとの接続部(交錯位置56c)から下部グラウト管71bとの接続部(下端開口56e)までの領域が上記鋼管内通部75dとして構成されている。
【0032】
この構成に基づき、SEPから供給されるグラウトは、グラウト導入口67a、上部グラウト管71a、鉛直支柱56aの中空部56d、下部グラウト管71b、及びグラウト注入孔65aを通じて接合部61に注入される。なお、交錯位置56cのやや上方の位置において、中空部56dの断面を塞ぐ蓋板56fが設けられている。この蓋板56fにより、中空部56d内を流動するグラウトが鋼管内通部75d以外の領域(蓋板56fよりも上方の領域)に流動することを抑制することができる。また、蓋板56fにより、鋼管内通部75d以外の領域の中空部56dの空気がグラウトに取り込まれることを抑制することができる。
【0033】
このような本実施形態のグラウト注入装置63によっても、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。なお、本実施形態では、グラウト管71と鉛直支柱56aとの内径を同じにすることでグラウトの搬送効率を確保することができる。
【0034】
(グラウト注入装置の第3実施形態)
上記グラウト注入装置の第3実施形態について説明する。前述の第1実施形態では、グラウト管67の一部が鉛直支柱56aの中空部56dを通過しているが、これに代えて、本実施形態では、
図7(a)に示されるように、グラウト管67の一部がフェンダー57の中空部57dを通過している。具体的には、グラウト管67の下部は、フェンダー57の上端部の円柱外壁を貫通してフェンダー57の中空部57dに挿入されている。そしてグラウト管67の下部は、中空部57d内を通過し、鉛直支柱56aの下端部から再び引き出され、更に下方に位置するグラウト注入孔65aに連結されている。このような構成により、グラウト管67により形成されるグラウト搬送路65は、フェンダー57の中空部57d内を通過する鋼管内通部65dを有している。このような本実施形態のグラウト注入装置63によっても、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0035】
(グラウト注入装置の第4実施形態)
上記グラウト注入装置の第4実施形態について説明する。前述の第2実施形態では、グラウト搬送路75が鉛直支柱56aの中空部56dの一部を含んでいるが、これに代えて、本実施形態では、
図7(b)に示されるように、グラウト搬送路75がフェンダー57の中空部57dの少なくとも一部を含んでいる。すなわち、上部グラウト管71aの下端がフェンダー57の上端部に接続され下部グラウト管71bの上端はフェンダー57の下端部に接続されている。そして、上部グラウト管71aの中空部71dと、フェンダー57の中空部57dの少なくとも一部と、下部グラウト管71bの中空部71eと、でグラウト搬送路75が構成されている。このような構成により、グラウト搬送路75は、フェンダー57の中空部57d内を通過する鋼管内通部75dを有している。なお、フェンダー57と上部グラウト管71aとの接続部よりもやや上方の位置と、フェンダー57と下部グラウト管71bとの接続部よりもやや下方の位置と、には、フェンダー57の断面を塞ぐ蓋板57fが設けられている。この蓋板57fにより、中空部57d内を流動するグラウトが鋼管内通部75d以外の領域に流動することを抑制することができる。また、蓋板57fにより、鋼管内通部75d以外の領域の中空部57dの空気がグラウトに取り込まれることを抑制することができる。このような本実施形態のグラウト注入装置63によっても、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。なお、本実施形態においても、グラウト管71とフェンダー57との内径を同じにすることでグラウトの搬送効率を確保することができる。
【0036】
続いて、トランジションピース3に設けられるLVパイプ(Law Voltage パイプ)81について説明する。LVパイプ81は
図3及び
図8に示される。なお、
図2においては図の煩雑化を避けるためにLVパイプ81の図示が省略されている。LVパイプ81とは、トランジションピース3内部にある(例えば内部プラットフォーム9にある)設備から外部プラットフォーム10上まで延びる配線等を通すための鋼製のパイプである。例えば、外部プラットフォーム10上には標識用のライト等が設置され、このライト等に対してはLVパイプ81内を通過する電源ケーブルを通じてトランジションピース3の内部から電力が供給される。
【0037】
図3及び
図8に示されるように、トランジションピース3におけるLVパイプ81は、外部プラットフォーム10よりもやや低い位置においてトランジションピース3の外周面3aから径方向に水平に延び出し、外部プラットフォーム10の外周縁を越えた位置で鉛直上方に屈曲され、更に外部プラットフォーム10の床板よりもやや高い位置で再び内周側に向けて屈曲されている。LVパイプ81の一端はトランジションピース3に対して溶接されるとともにトランジションピース3の内部に挿入され開口されている。LVパイプ81の他端は外部プラットフォーム10の手摺の隙間から当該外部プラットフォーム10内に挿入され開口されている。このようなLVパイプ81を通じて、トランジションピース3内部と外部プラットフォーム10上との間で機器類の配線等が接続される。
【0038】
このLVパイプ81を固定するために、外部プラットフォーム10の最外周の梁10aの外側面に固定クランプ83が設けられている。固定クランプ83は梁10aの外側面から外周側に張出すように梁10aに取付けられるとともに、LVパイプ81の上部を把持している。このような固定クランプ83を梁10aに取付ける際には、LVパイプ81や固定クランプ83の製作誤差を吸収すべく、固定クランプ83によるLVパイプ81の把持位置をトランジションピース3の周方向及び径方向に微調整する必要がある。そこで、固定クランプ83には、LVパイプ81の把持位置を周方向及び径方向に微調整する構造が設けられている。以下、この微調整の構造を含め、
図9を参照しながら固定クランプ83の構成について説明する。以下で単に「周方向」、「径方向」と言うときには、トランジションピース3の周方向、径方向を意味するものとする。
【0039】
図9に示されるように、固定クランプ83は、クランプ本体部83aと、把持部材83bと、2つの台座部材83cと、2つのシムプレート83dと、を備えている。把持部材83bは、クランプ本体部83aの外周側端部にボルト止めされ、当該クランプ本体部83aとの間にLVパイプ81を挟み込んでいる。クランプ本体部83a及び把持部材83bは、互いに対向する半円状のパイプ受け凹部83eを有しており、この2つのパイプ受け凹部83e,83eで画成される円形の領域にLVパイプ81が挿通され把持されている。なお、パイプ受け凹部83e,83eとLVパイプ81の外周面との間に緩衝材が挟み込まれてもよい。
【0040】
クランプ本体部83aには、梁10aに対面する端部で鉛直に立ち上がるボルト取付部83fが形成されており、ボルト取付部83fには周方向に間隔を空けて2箇所にボルト穴83hが形成されている。各ボルト穴83hに対応する2箇所において、台座部材83c及びシムプレート83dが間に挟み込まれるようにして、外部プラットフォーム10の梁10aにクランプ本体部83aがボルト止めされている。上記のボルト穴83hは、周方向に延びる長孔をなしているので、クランプ本体部83aの取付時において取付け位置を周方向に微調整することができる。また、クランプ本体部83aは予め径方向寸法が短めに製作され、仮に上記シムプレート83dが無い場合には、パイプ受け凹部83eがLVパイプ81の設計位置に届かないようになっている。そして、シムプレート83dとして適切な厚みのものを採用することにより、クランプ本体部83aの取付時において取付け位置を径方向に微調整することができる。このように、固定クランプ83によれば、取付時においてクランプ本体部83aの周方向及び径方向の位置が微調整可能であるので、その結果、固定クランプ83によるLVパイプ81の把持位置を周方向及び径方向に微調整可能である。
【0041】
なお、ボルト穴83hを長孔にすることに代えて、ボルト穴83hは固定クランプ83の取付作業の直前に適切な位置に穿孔して形成するようにしてもよい。この場合、クランプ本体部83aの材料としてステンレスが採用されれば、穿孔後のボルト穴83hに防錆塗装等を施すことを省略することができる。
【0042】
また、
図9の固定クランプ83に代えて、
図10の固定クランプ85が採用されてもよい。以下の説明においては、固定クランプ85と固定クランプ83とで同一又は同等の構成要素には図面で同一符号を付して重複する説明を省略する。固定クランプ85のクランプ本体部85aは、ボルト取付部83fと、ボルト取付部83fから径方向外側に延びる2本の支持梁85j,85jと、を有している。支持梁85j,85j同士の間には周方向に延びる2本の棒ネジ85k,85kが径方向に並ぶように平行に架け渡され固定されている。そして、2つの把持部材83bが、パイプ受け凹部83e同士を対面させ、棒ネジ85k,85kに両端を挿通させるようにして、支持梁85j,85j同士の間に配置され保持されている。各棒ネジ85k,85kには、把持部材83b,83bの両端を周方向に挟むようにナット85p,85pが取付けられており、ナット85p,85pで把持部材83b,83bの両端が挟み込まれ締付けられる。なお、図面上では、1本の棒ネジ85kに対して取付けられたナット85pが1個のみ見えているが、実際には、把持部材83b,83bに隠れる位置にもう1個のナット85pが存在している。上記の2つの把持部材83b,83bによってLVパイプ81が周方向に挟み込まれ、パイプ受け凹部83e,83eで画成される円形の領域にLVパイプ81が挿通され把持されている。
【0043】
このクランプ本体部85aも予め径方向寸法が短めに製作され、仮に上記シムプレート83dが無い場合には、パイプ受け凹部83e,83eがLVパイプ81の設計位置に届かないようになっている。そして、シムプレート83dとして適切な厚みのものを採用することにより、クランプ本体部85aの取付時において取付け位置を径方向に微調整することができ、ひいては、固定クランプ83によるLVパイプ81の把持位置を径方向に微調整可能である。また、ナット85pによる把持部材83b,83bの固定位置を周方向に微調整することにより、固定クランプ83によるLVパイプ81の把持位置を周方向に微調整可能である。
【0044】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して、変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0045】
例えば、第1実施形態においてはグラウト管67が鉛直支柱56aの下部を通過するようにしているが、グラウト管67が鉛直支柱56aのどの部分を通過するようにするかは自由に設定することができる。すなわち、第1実施形態では、グラウト管67が、鉛直支柱56aの中央付近の位置(交錯位置56c)で鉛直支柱56a内に挿入され、鉛直支柱56aの下端(下端開口56e)から再び外に引き出されている。しかし、グラウト管67が鉛直支柱56a内に挿入される位置やグラウト管67が再び外に引き出される位置は、適宜上下に移動してもよい。例えば、グラウト管67が鉛直支柱56a内に挿入される位置を外部プラットフォーム10に近い位置とすることで、グラウト管67の大部分が鉛直支柱56a内を通過するようにしてもよい。なお、鉛直支柱56aが長手方向に接続された複数の円形鋼管で構成される場合があるところ、この場合には、グラウト管67の破損を回避するために、グラウト管67が上記円形鋼管同士の繋ぎ目を通過しないようにすることが好ましい。
【0046】
同様に、第3実施形態においてもグラウト管67がフェンダー57のどの部分を通過するようにするかは自由に設定することができる。また、第2実施形態において、上部グラウト管71aが鉛直支柱56aに接続される位置や下部グラウト管71bが鉛直支柱56aに接続される位置についても、適宜上下に移動してもよい。また、第4実施形態において、上部グラウト管71aがフェンダー57に接続される位置や下部グラウト管71bがフェンダー57に接続される位置についても、適宜上下に移動してもよい。
【符号の説明】
【0047】
1…風力発電機(洋上構造物)、2…基礎(杭基礎)、3…トランジションピース、3a…外周面、10…外部プラットフォーム、53…アクセス経路部、56…梯子、56a…鉛直支柱(筒状鋼管)、56c…交錯位置(接続部)、56d…中空部、56e…下端開口(接続部)、57…フェンダー(筒状鋼管)、57d…中空部、61…接合部、63…グラウト注入装置、65…グラウト搬送路、65d…鋼管内通部、67,71…グラウト管、71a…上部グラウト管、71b…下部グラウト管、71d…中空部、71e…中空部、75…グラウト搬送路、75d…鋼管内通部、B…海底(水底)、W…海水面。