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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】接合構造及び接合方法
(51)【国際特許分類】
   E01D 19/12 20060101AFI20250205BHJP
   E04B 5/02 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
E01D19/12
E04B5/02 C
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021196702
(22)【出願日】2021-12-03
(65)【公開番号】P2023082780
(43)【公開日】2023-06-15
【審査請求日】2024-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 公生
(72)【発明者】
【氏名】一宮 利通
(72)【発明者】
【氏名】新井 崇裕
(72)【発明者】
【氏名】藤代 勝
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-001457(JP,A)
【文献】特開2017-002559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 19/12
E04B 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼桁と前記鋼桁の上フランジ上に設置されるプレキャスト床版とを接合する接合構造であって、
前記上フランジの上面に設けられ上方に突出する突起を有するずれ止め部と、
前記プレキャスト床版の下面に埋設されたインサートナットと、
前記インサートナットに取付けられ前記プレキャスト床版の下面から下方に突出したボルトと、
前記突起と前記ボルトとを埋込むように前記上フランジの上面と前記プレキャスト床版の下面との間に充填された充填材と、を備え、
前記ずれ止め部の前記突起の上端が、前記ボルトの下端よりも、前記上フランジの上面に近い位置にある、接合構造。
【請求項2】
前記鋼桁の上フランジ上の床版の取替えにより構築されるプレキャスト床版の接合構造であって、
前記ずれ止め部の突起は、
取替え前の前記床版のずれ止めに含まれていた突起の残骸を有する、請求項1に記載の接合構造。
【請求項3】
前記充填材は、超高性能繊維補強セメント系複合材料である、請求項1~2の何れか1項に記載の接合構造。
【請求項4】
鋼桁と前記鋼桁の上フランジ上に設置されるプレキャスト床版とを接合する接合方法であって、
下面に埋設されたインサートナットを有し前記インサートナットにボルトが取付けられた状態の前記プレキャスト床版を、上方に突出する突起を有するずれ止め部が設けられた前記上フランジの上面に設置する床版設置工程と、
前記突起と前記ボルトとを埋込むように前記上フランジの上面と前記プレキャスト床版の下面との間に充填材を充填する充填工程と、を備え、
前記床版設置工程では、
前記ずれ止め部の前記突起の上端が、前記ボルトの下端よりも、前記上フランジの上面に近い位置にあるように、前記プレキャスト床版が設置される、接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼桁と当該鋼桁の上フランジ上に設置されるプレキャスト床版とを接合する接合構造及び接合方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に開示された接合構造及び接合方法は、鋼桁と当該鋼桁の上フランジ上に設置されるプレキャスト床版とを接合するものである。この接合構造及び接合方法では、鋼桁のフランジ上面にスタッドジベルが設けられている。プレキャスト床版の下面にはインサートナットが埋設されており、このインサートナットには下方に突出するようにボルトが取付けられる。プレキャスト床版を鋼桁上に接合する際には、ボルトの下端がスタッドジベルの上端よりも下方に位置するような位置関係でプレキャスト床版がフランジ上面に設置され、スタッドジベルとボルトとを埋込むように上フランジの上面とプレキャスト床版の下面との間に充填材が充填される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-1457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の接合構造はボルトとスタッドジベルとが干渉しないように設計する必要があり、設計での制約が多かった。また、上記の接合構造を構築する際には、ボルトがスタッドジベルに干渉しないように位置調整しながら、プレキャスト床版をフランジ上に設置する必要があるので、施工性が悪かった。本発明は、プレキャスト床版と鋼桁との接合構造において、設計の自由度を向上するとともに施工性を向上する接合構造及び接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の接合構造は、鋼桁と鋼桁の上フランジ上に設置されるプレキャスト床版とを接合する接合構造であって、上フランジの上面に設けられ上方に突出する突起を有するずれ止め部と、プレキャスト床版の下面に埋設されたインサートナットと、インサートナットに取付けられプレキャスト床版の下面から下方に突出したボルトと、突起とボルトとを埋込むように上フランジの上面とプレキャスト床版の下面との間に充填された充填材と、を備え、ずれ止め部の突起の上端が、ボルトの下端よりも、上フランジの上面に近い位置にある。
【0006】
本発明の接合構造は、鋼桁の上フランジ上の床版の取替えにより構築されるプレキャスト床版の接合構造であって、ずれ止め部の突起は、取替え前の床版のずれ止めに含まれていた突起の残骸を有する、こととしてもよい。また、充填材は、超高性能繊維補強セメント系複合材料である、こととしてもよい。
【0007】
本発明の接合方法は、鋼桁と鋼桁の上フランジ上に設置されるプレキャスト床版とを接合する接合方法であって、下面に埋設されたインサートナットを有しインサートナットにボルトが取付けられた状態のプレキャスト床版を、上方に突出する突起を有するずれ止め部が設けられた上フランジの上面に設置する床版設置工程と、突起とボルトとを埋込むように上フランジの上面とプレキャスト床版の下面との間に充填材を充填する充填工程と、を備え、床版設置工程では、ずれ止め部の突起の上端が、ボルトの下端よりも、上フランジの上面に近い位置にあるように、プレキャスト床版が設置される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、プレキャスト床版と鋼桁との接合構造において、設計の自由度を向上するとともに施工性を向上する接合構造及び接合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態の接合構造及び接合方法が適用される道路橋の分解斜視図である。
図2】(a),(b),(d)は、鋼桁の上部を拡大して示す側面図であり、(c)は、プレキャスト床版の下部を拡大して示す側面図である。
図3】プレキャスト床版の断面図である。
図4】(a),(b)は、プレキャスト床版と鋼桁とを示す断面図である。
図5】(a),(b)は、プレキャスト床版を鋼桁上に設置した状態を示す断面図である。
図6】(a),(b)は、プレキャスト床版と鋼桁との間に充填材を充填した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しつつ本発明に係る接合構造及び接合方法の実施形態について詳細に説明する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る接合構造及び接合方法が適用される道路橋101の分解斜視図である。プレキャスト床版3は、コンクリート系の材料からなり、道路橋の建造時に用いられてもよく、既存の道路橋の床版の取替え用として用いられてもよい。プレキャスト床版3は、例えば、橋軸方向に約2m、橋軸直角方向に約11mの平面視矩形をなしている。
【0012】
道路橋101は、橋軸方向に延びる複数の(ここでは、図の例のように3つとする)の鋼桁103を備えている。プレキャスト床版3は、3つの鋼桁103上に亘って架け渡され、各鋼桁103の各上フランジ105の接合部107において、3箇所で接合される。そして、複数のプレキャスト床版3が橋軸方向に配列され設置されることで道路構造が構築される。なお、プレキャスト床版3同士は所定の継手構造によって橋軸方向に連結される。道路橋101は合成桁であり、鋼桁103とプレキャスト床版3とが一体化されて荷重に抵抗するように、プレキャスト床版3と鋼桁103との間のずれ止めが重要である。
【0013】
この道路橋101において、鋼桁103とプレキャスト床版3とを接合する接合構造及び接合方法について説明する。以下に説明する接合構造及び接合方法は、道路橋101の古い床版を新しいプレキャスト床版3に取替える際に適用される。
【0014】
図2図6は、1つのプレキャスト床版3の接合方法の各段階を順次示す断面図であり、接合部107に対応する位置の断面図を示す。図2(a),(b),(d)は、鋼桁103の上部を拡大して示す側面図である。図2(c)は、プレキャスト床版3の下部を拡大して示す側面図である。図3は、橋軸方向に延びる鉛直断面を取ったプレキャスト床版3の断面図である。図4図6の各図の(a)は、橋軸方向に延びる鉛直断面を取ったプレキャスト床版3及び鋼桁103の断面図であり、(b)は、橋軸直角方向に延びる鉛直断面を取ったプレキャスト床版3及び鋼桁103の断面図である。
【0015】
床版の取替え前の道路橋101では、鋼桁103の上フランジ105の上面105a(以下では「フランジ上面105a」という)にスタッドジベルが設けられ、このスタッドジベルを下面に埋込むようにコンクリートで床版が設けられている。このスタッドジベルは、取替え前の床版のずれ止めとして機能していたものである。床版の取替えの際には、古い床版の下面とフランジ上面105aとの間に切断工具が挿入されスタッドジベルの頭部が切断されることにより、この古い床版が除去される。そして、古い床版の除去後においては、図2(a)に示されるように、切断された多数のスタッドジベルの残骸10がフランジ上面105aに残った状態となる。残骸10は、スタッドジベルから頭部が切断除去され丸棒状の胴部のみが残った状態のものであり、フランジ上面105aから上方に突出している。
【0016】
(鋼桁処理工程)
鋼桁処理工程では、図2(b)に示されるように、フランジ上面105a上にある一部の残骸10が更に切断除去され、除去跡が研磨されて平滑化される。一方、フランジ上面105aに残った他の残骸10はそのまま残置される。ここで、残置される残骸10の本数は、残骸10全体の例えば1/4~1/3程度である。また、残置される残骸10の配置は、不規則であってもよいし、所定の規則に従うものであってもよい。
【0017】
(プレキャスト床版準備工程)
図3に示されるように、プレキャスト床版3が準備される。プレキャスト床版3は、コンクリート系の材料からなる版状の構造体部5と、構造体部5に埋設された複数のインサートナット7と、を有している。インサートナット7は、プレキャスト床版3の下面3aに埋設されており、構造体部5の下面に露出している。なお、「下面」とは、プレキャスト床版3が最終的に道路橋101に設置されたときに下面をなす面を言う。インサートナット7の下端面は、プレキャスト床版3の下面3aとほぼ面一の位置にある。
【0018】
平面視において、インサートナット7は、上フランジ105との接合部107に対応する領域に二次元的に配列されている。例えば1つの接合部107に対して百数十個程度のインサートナット7が配置されている。上記のようなインサートナット7の個数や配列は一例であって、実際の個数や配列は、プレキャスト床版3と鋼桁103との間に要求されるずれ止めの性能に応じて適宜設定される。このようなプレキャスト床版3は、工場等で予め製作され道路橋101の施工現場に搬入される。
【0019】
(ボルト取付け工程)
次に、図4に示されるように、プレキャスト床版3の各インサートナット7に対してボルト9が螺着される。このとき、図2(c)に拡大して示されるように、ボルト9のうち少なくとも一部のボルト9kは、インサートナット7のネジ部よりも長いネジ部を有し、ネジ部の先端がインサートナット7の雌ネジ底部に当接するまでねじ込まれ、プレキャスト床版3の下面3aから下方に突出する。ボルト9の頭部とプレキャスト床版3の下面3aとの間には上下方向の隙間が形成される。これらの各ボルト9kの頭部側は、プレキャスト床版3の下面3aから下方にほぼ同じ長さで突出する。ボルト9のうち残りの他のボルト9jは、インサートナット7のネジ部よりも短いネジ部を有し、頭部が下面3aに当接するまでねじ込まれ、頭部の厚み分だけ下面3aから下方に突出する。このように、突出量が互いに異なる2種類のボルト9k,9j同士の配置は、不規則であってもよいし、所定の規則に従うものであってもよい。このボルト取付け工程は、プレキャスト床版3が施工現場に搬入される前に予め工場等で行われてもよい。
【0020】
(スタッドジベル設置工程)
図4に示されるように、鋼桁103のフランジ上面105aには、上方に突出する複数のスタッドジベル11が設置される。図2(d)にも拡大して示されるように、スタッドジベル11は、フランジ上面105aから上方に延びる丸棒状の胴部11bと、胴部11bの上端に設けられ胴部11bよりも大径に形成された頭部11aと、を備えている。各スタッドジベル11は、フランジ上面105aから鉛直上方にほぼ同じ長さで突出する。各スタッドジベル11は、前述のようにフランジ上面105aに残されていた残骸10の設置位置に重複しないように、公知の方法によってフランジ上面105aに溶植される。例えば、スタッドジベル11は、研磨された残骸10の除去跡の位置に溶植されてもよい。ここで溶植されるスタッドジベル11は、取替え前の床版の古いスタッドジベルと同じものであってもよいし異なるものであってもよい。
【0021】
以下では、フランジ上面105aに溶植されたスタッドジベル11と、フランジ上面105aに残されていた残骸10と、を合わせて「突起21」と呼ぶ。フランジ上面105aにはこのような多数の突起21によってずれ止め部23が構成される。突起21は、平面視において接合部107に対応する領域に二次元的に配列され、前述のボルト9と同等の本数の突起21が設けられる。図4図6の例では、各突起21と各ボルト9とが上下に対向する位置に設けられているが、このような配置には限定されず、各突起21と各ボルト9とが平面視でずれた位置に配置されてもよい。
【0022】
なお、各図に示される、フランジ上面105aに残される残骸10、フランジ上面105aに溶植されるスタッドジベル11、プレキャスト床版3のボルト9k、ボルト9j、の本数や配置状態は一例であり、実際の個数や配置状態は、プレキャスト床版3と鋼桁103との間に要求されるずれ止めの性能に応じて適宜設定される。
【0023】
(床版設置工程)
次に、図5に示されるように、プレキャスト床版3が鋼桁103上に設置される。設置状態においては、プレキャスト床版3の下面3aと鋼桁103のフランジ上面105aとが所定の隙間を空けて対面する。上記のように下面3aとフランジ上面105aとの隙間を形成するために、両者の間にスペーサ(図示せず)などが挟み込まれる。また、この設置状態においては、ずれ止め部23の突起21の上端が、ボルト9の下端よりも、フランジ上面105aに近い位置に(すなわち下方に)ある。すなわち、突起21のうち最も上方に突出するもの(スタッドジベル11)の上端が、ボルト9のうち最も下方に突出するボルト9kの下端よりも、フランジ上面105aに近い位置にある。更に換言すれば、プレキャスト床版3の下面3aとフランジ上面105aとの間隙が、ボルト9kの突出量とスタッドジベル11の突出量との和よりも大きくなる。この位置関係によれば突起21とボルト9との間には上下方向の隙間が存在し、突起21とボルト9との干渉が発生しない。
【0024】
(充填工程)
続いて、図6に示されるように、下面3aとフランジ上面105aとの間に型枠材13が挿入され、下面3aとフランジ上面105aとの間の空間に硬化性の充填材15が導入される。充填材15を上記空間に適切に充填するために、プレキャスト床版3を上下方向に貫通する充填材導入孔(図示せず)が設けられてもよい。充填された充填材15は、ボルト9の突出部分と突起21とを埋込んだ状態で硬化する。上記のような充填材15としては、例えば水硬性材料が採用され、例えば無収縮モルタルが採用される。
【0025】
また、充填材15は、高強度の繊維補強モルタルであってもよい。高強度の繊維補強モルタルとは、圧縮強度が120N/mm2以上で,短繊維が負担する引張強度が1N/mm2以上の短繊維補強モルタルである。
【0026】
また、充填材15は、超高性能繊維補強セメント系複合材料(Ultra HighPerformance Fiber Reinforced cement-based Composites)であってもよい。超高性能繊維補強セメント系複合材料は、一般的に略称として「UHPFRC」と呼ばれる場合がある。
【0027】
UHPFRCは、例えば、セメントと、無機系粉体と、骨材と、練混ぜ水と、コンクリート用化学混和剤と、補強用繊維とを含む混合物である。上記のセメントは、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントである。無機系粉体は、シリカフューム、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、珪石微粉末、ワラストナイト、膨張材などがある。
【0028】
一例として、前述の骨材は、粒径5.0mm以下、絶乾密度2.5g/cm以上、吸水率3.0%以下、粘度塊量1.0%以下、微粉分量2.0%以下、NaCl含有量0.02%以下、の骨材である。この骨材は、JIS(日本工業規格:Japanese Industrial Standards) A 1105に規定された細骨材の有機不純物の試験結果が「淡い」とされたものである。また、この骨材は、JIS A 1122に規定された硫酸ナトリウムで骨材の安定性試験方法による安定性が10%以下であって、更にJIS A 5308付属書1に規定されたアルカリシリカ反応性による区分が区分Aとされた骨材である。
【0029】
前述の練混ぜ水は、例えば、JSCE-B 101-2013に規定された回収水以外の練混ぜ水である。前述のコンクリート用化学混和剤は、JIS A 6204に規定された高性能減水剤である。また、前述の補強用繊維は、直径0.1~0.25mm、長さ10~24mm、及び引張強度2×10N/mm以上の繊維である。前述の補強用繊維は、例えば、鋼繊維、高強度アラミド繊維、又は炭素繊維であってもよい。
【0030】
充填材15を構成するUHPFRCは、例えば、マトリクスが、ポルトランドセメント、ポゾラン材、及びエトリンガイド生成系材料などの無機系粉体を加えた結合材、粒径2.5mm以下の骨材、水、並びに減水剤によって構成されている。充填材15の配合は、標準示方配合である。また、補強用繊維は、直径0.2mm、長さ15mm(製造誤差±2mm未満)、及び引張強度2×10N/mm以上の鋼繊維とを混合したものを1.75vol.%混入させたものであってもよい。また、UHPFRCの硬化後の各強度の特性値は、圧縮強度150N/mm以上、ひび割れ発生強度4N/mm、及び引張強度5N/mmであることが好ましい。
【0031】
充填材15を成すUHPFRCの標準示方配合は、フロー値250±20mm、結合材に対する練混ぜ水の比率が15%、空気量2.0%、練混ぜ水195kg/m、高性能減水剤32.2kg/m、及び補強用繊維137.4kg/m(1.75vol.%)とすることができる。
【0032】
以上のような接合方法によって、鋼桁103とプレキャスト床版3との接合構造1が構築され、鋼桁103とプレキャスト床版3との接合が図られる。この接合構造1において、充填材15を介して連結されたボルト9及び突起21は、プレキャスト床版3と鋼桁103との水平方向のずれ止めとして機能する。なお、ボルト9に含まれるボルト9kにおいては当該ボルト9kの頭部が充填材15に係合しており、同様に、突起21に含まれるスタッドジベル11においては当該スタッドジベル11の頭部11aが充填材15に係合している。従って、接合構造1では、ボルト9k及びスタッドジベル11の存在によって、鋼桁103からプレキャスト床版3を上方に引き離そうとする力に対しても抵抗することができる。
【0033】
上述の接合構造1及び接合方法による作用効果について説明する。上記の接合構造1及び接合方法では、プレキャスト床版3の下面3aのボルト9と鋼桁103の突起21とが充填材15を介して連結され、プレキャスト床版3と鋼桁103との水平方向のずれ止めが図られる。
【0034】
前述の通り、床版設置工程では、ずれ止め部23の突起21の上端が、ボルト9の下端よりも、フランジ上面105aに近い位置に(すなわち下方に)あるようにプレキャスト床版3が鋼桁103上に設置されるので、この位置関係によれば突起21とボルト9との間には上下方向の隙間が存在し、突起21とボルト9との干渉が発生しない。そうすると、接合構造1の設計においては、突起21とボルト9との干渉を避けるといった制約が削減される。また、床版設置工程でプレキャスト床版3をフランジ上面105aに設置する際には、突起21とボルト9との干渉を避けるようにプレキャスト床版3を位置調整する、といったことが不要である。また、フランジ上面105a上の突起21の設置位置の精度も高くする必要がなく、スタッドジベル設置工程におけるスタッドジベル11の溶植等の作業負担も軽減される。従って、プレキャスト床版3と鋼桁103との接合構造1において、設計の自由度が向上するとともに施工性も向上する。
【0035】
上記のように、接合構造1は、充填材15内において突起21とボルト9とが上下方向でオーバーラップしていない構造をなすので、突起21とボルト9とが上下方向でオーバーラップする構造(例えば特許文献1記載の接続構造)に比較すれば、ずれ止め機能がやや劣るとも考えられる。しかしながら、特に、充填材15の材料として高強度の材料(例えば、高強度の繊維補強モルタル、UHPFRC)を用いた場合には、高いせん断耐力をもつ充填材15を介して、プレキャスト床版3と鋼桁103との間で十分に水平せん断力が伝達されるので、プレキャスト床版3と鋼桁103との十分なずれ止めを図ることができる。
【0036】
また、フランジ上面105aのずれ止め部23には、スタッドジベル11のみならずフランジ上面105aに残された残骸10が突起21として再利用されている。この構成によれば、古い床版が除去された後の鋼桁処理工程では、フランジ上面105aの残骸10のすべてを除去する必要はなく、その結果、残骸10の切断除去作業及び除去跡の研磨作業の負担が軽減される。
【0037】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して変形例を構成することも可能である。各実施形態の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0038】
例えば、実施形態では合成桁である道路橋101に接合構造1及び上記接合方法を適用しているが、接合構造1及び上記接合方法は非合成桁方式の橋に対しても適用することができる。また、実施形態では鋼桁方式の道路橋101に接合構造1及び上記接合方法を適用しているが、接合構造1及び上記接合方法は箱桁方式の橋に対しても適用することができる。
【0039】
また、実施形態におけるフランジ上面105aのスタッドジベル11に代えて、例えば上フランジ105に孔を設けて取り付けたボルト・ナットを設置してもよい。フランジ上面105a上の突起21は、残骸10を含まず新設のスタッドジベル11で構成されるものであってもよい。すなわち、前述の鋼桁処理工程において、フランジ上面105a上のすべての残骸10が除去されてもよい。また、プレキャスト床版3のボルト9には、突出量が小さいボルト9jが存在することは必須ではなく、すべてのボルト9がボルト9kで構成されてもよい。
【0040】
また、実施形態における接合構造1及び接合方法は、道路橋101の古い床版を新しいプレキャスト床版3に取替える際に適用されるものであるが、本発明は、床版の取替え時だけでなく、道路橋101を新設する際にも適用可能である。なおこの場合には、フランジ上面105a上の突起21はすべて新設のスタッドジベル11で構成され、残骸10は存在しない。
【符号の説明】
【0041】
1…接合構造、3…プレキャスト床版、3a…下面、7…インサートナット、9…ボルト、10…残骸、15…充填材、21…突起、23…ずれ止め部、103…鋼桁、105…上フランジ、105a…フランジ上面。
図1
図2
図3
図4
図5
図6