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特許7629436電極用バインダー組成物及びその製造方法並びに電極用塗工液組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】電極用バインダー組成物及びその製造方法並びに電極用塗工液組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20250205BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20250205BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022196642
(22)【出願日】2022-12-08
(65)【公開番号】P2024082658
(43)【公開日】2024-06-20
【審査請求日】2023-01-05
【審判番号】
【審判請求日】2023-12-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 紘一
(72)【発明者】
【氏名】金子 文弥
(72)【発明者】
【氏名】西川 明良
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】岩間 直純
【審判官】須原 宏光
(56)【参考文献】
【文献】特許第(JP7161078,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00 - H01M4/62
H01G11/00 - H01G11/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極用バインダー組成物を含有する電極用塗工液組成物であって、
固形分濃度が50質量%以上、60質量%以下であり、
前記電極用バインダー組成物は、
ポリウレタン樹脂水分散体と、カーボンナノチューブと、カルボキシメチルセルロース又はその塩とを含み、
前記ポリウレタン樹脂は、D50体積平均粒子径が0.01μm以上0.05μm以下であり、かつ、D90体積平均粒子径が0.10μm以上0.15μm以下であり、
前記カーボンナノチューブの含有量は前記ポリウレタン樹脂100質量部に対して0.1~10質量部であり、
前記カルボキシメチルセルロース又はその塩の含有量は、前記ポリウレタン樹脂100質量部に対して0.1~10質量部である、電極用塗工液組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の電極用塗工液組成物の固形分を含有する、蓄電デバイス用電極。
【請求項3】
請求項2に記載の蓄電デバイス用電極を備える、蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用バインダー組成物、電極用塗工液組成物、蓄電デバイス用電極及び蓄電デバイス、並びに、電極用バインダー組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池に代表される二次電池は、各種の電子機器、自動車等において欠かすことのできない駆動電源であり、産業界において広く適用されており、現在も盛んにその研究開発が進められている。電池の特性は、電池を構成する各種材料の種類に大きく左右されることから、近年では電極をより高性能にするための開発も積極的に行われている。
【0003】
斯かる電極は、例えば、電極活物質、電極用バインダー及び分散剤等を含む塗工液を集電体に塗布することで形成されることが知られている。特に電池用の電極は、電極活物質や集電体により電極特性が決定されるが、バインダーも電極の特性を決定する上で重要な位置づけにある。この観点から、バインダーの特性を向上させることも重要であるとされている。例えば、特許文献1には、ウレタン樹脂を含む電極用バインダー組成物を用いた電極により、蓄電デバイスに優れたサイクル特性及びレート特性を付与する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-097906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のウレタン樹脂を含む電極用バインダーを使用して電極を形成しようとする場合、電極を形成するために使用する塗工液の固形分濃度を高くすると粘度が上昇し、これにより、分散性の低下及び作業性の低下をもたらすという問題があった。
【0006】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、電極を形成するための塗工液の固形分濃度を高くしても粘度上昇を抑制することができる電極用バインダー組成物及びその製造方法並びに該バインダー組成物を含む電極用塗工液組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、前記電極用塗工液組成物を用いて形成される蓄電デバイス用電極及び蓄電デバイスを提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の粒度分布を有するポリウレタン樹脂を用いることにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
ポリウレタン樹脂水分散体を含む電極用バインダー組成物であって、
前記ポリウレタン樹脂は、D50体積平均粒子径が0.01μm以上0.05μm以下であり、かつ、D90体積平均粒子径が0.10μm以上0.15μm以下である、電極用バインダー組成物。
項2
カーボンナノチューブを含む、項1に記載の電極用バインダー組成物。
項3
カルボキシメチルセルロース又はその塩を含む、項2に記載の電極用バインダー組成物。
項4
項1~3のいずれか1項に記載の電極用バインダー組成物を含有する、電極用塗工液組成物。
項5
項4に記載の電極用塗工液組成物の固形分を含有する、蓄電デバイス用電極。
項6
項5に記載の蓄電デバイス用電極を備える、蓄電デバイス。
項7-1
ポリウレタン樹脂水分散体を含む電極用バインダー組成物の製造方法であって、
D50体積平均粒子径が0.01μm以上0.05μm以下であり、かつ、D90体積平均粒子径が0.10μm以上0.15μm以下であるポリウレタン樹脂水分散体を調製する工程を備える、電極用バインダー組成物の製造方法。
項7-2
項1~3のいずれか1項に記載のバインダー組成物の製造方法であって、
D50体積平均粒子径が0.01μm以上0.05μm以下であり、かつ、D90体積平均粒子径が0.10μm以上0.15μm以下であるポリウレタン樹脂水分散体を調製する工程を備える、電極用バインダー組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電極用バインダー組成物を用いることにより、電極を形成するための塗工液の固形分濃度を高くしても粘度上昇を抑制することができるので、本発明の電極用バインダー組成物は、固形分濃度の高い電極形成用塗工液を調製するために適したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0011】
1.電極用バインダー組成物
本発明の電極用バインダー組成物を包含する。当該電極用バインダー組成物は、ポリウレタン樹脂水分散体を含むものであって、前記ポリウレタン樹脂は、D50体積平均粒子径が0.01μm以上0.05μm以下であり、かつ、D90体積平均粒子径が0.10μm以上0.15μm以下である。すなわち、本発明の電極用バインダー組成物は、特定の粒度分布を有するポリウレタン樹脂を含む水分散体を含有するものである。
【0012】
斯かるポリウレタン樹脂が本発明の電極用バインダー組成物に含まれることで、本発明の電極用バインダー組成物を、電極を形成するための塗工液に適用した場合、その塗工液の粘度上昇を抑制することができる。とりわけ、前記塗工液の固形分濃度が高くても粘度の上昇が抑制され得るものである。従って、本発明の電極用バインダー組成物は、固形分濃度の高い塗工液を調製するために適したものであり、蓄電デバイス用電極を製作するために使用する電極用塗工液組成物のバインダー成分(結着剤)として好適である。
【0013】
なお、ここでいうと塗工液とは、電極活物質、電極用バインダー及び分散剤等を含む塗工液であって、電極を形成するために用いられるものを意味し、特には、後記する本発明の電極用塗工液組成物を意味するものである。
【0014】
(ポリウレタン樹脂水分散体)
ポリウレタン樹脂水分散体は、ポリウレタン樹脂が水系媒体に分散してなるものである。ポリウレタン樹脂水分散体に含まれるポリウレタン樹脂は、前記粒度分布を有する限り、その種類は特に限定されず、例えば、公知のポリウレタン樹脂を広く挙げることができる。
【0015】
例えば、ポリウレタン樹脂は、下記の(A)成分及び(B)成分で形成することができ、必要に応じて(C)成分及び(D)成分の一方又は両方が含まれていてもよい。言い換えれば、ポリウレタン樹脂は、(A)成分及び(B)成分に基づく構成単位を有し、必要に応じて(C)成分及び(D)成分に基づく構成単位の一方又は両方を有するものである。
(A)成分:2個以上のイソシアネート基を有する化合物、
(B)成分:2個以上の活性水素基を有する化合物、
(C)成分:1個以上の活性水素基と親水性基を有する化合物、
(D)成分:鎖伸長剤
【0016】
(A)成分(2個以上のイソシアネート基を有する化合物)としては、公知のイソシアネート化合物を広く挙げることができ、例えば、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート、芳香脂肪族ジイソシアネート等の2官能型イソシアネート化合物を挙げることができる。
【0017】
脂肪族ジイソシアネートとしては、テトラメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、2-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート、3-メチルペンタン-1,5-ジイソシアネート等を挙げることができる。脂環族ジイソシアネートとしては、イソホロンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン等を挙げることができる。芳香族ジイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,5-ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート等を挙げることができる。芳香脂肪族ジイソシアネートとしては、ジアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、α,α,α,α-テトラメチルキシリレンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0018】
(A)成分としては、前記2官能型イソシアネート化合物に替えて、あるいは組み合わせて、3個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物を使用することもできる。
【0019】
(A)成分は、前記2官能型イソシアネート化合物を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことが特に好ましい。(A)成分は、前記2官能型イソシアネート化合物のみであってもよい。(A)成分は、1種単独であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0020】
(A)成分は公知の方法で製造することができ、あるいは、市販品から入手することもできる。
【0021】
(B)成分(2個以上の活性水素基を有する化合物)としては、分子末端又は分子内に2個以上のヒドロキシル基、2個以上のアミノ基、もしくは、2個以上のメルカプト基を有する化合物を挙げることができ、具体的には、公知のポリエーテル、ポリエステル、ポリエーテルエステル、ポリカーボネート、ポリチオエーテル、ポリアセタール、ポリオレフィン、ポリシロキサン、フッ素系、植物油系等が挙げられる。(B)成分はカルボキシ基を有さなくてもよく、また、スルホン酸基を有さなくてもよい。
【0022】
(B)成分としては2個以上のヒドロキシル基を有する化合物及び/又はポリオール化合物等が好ましい。2個以上のヒドロキシル基を有する化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、水素添加ビスフェノールA、ジブロモビスフェノールA、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ジヒドロキシエチルテレフタレート、ハイドロキノンジヒドロキシエチルエーテル等を挙げることができる。
【0023】
ポリオール化合物としては、例えば、公知のポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリエステルポリオ-ル、ポリチオエーテルポリオ-ル、ポリアセタールポリオ-ル、ポリテトラメチレングリコ-ル、ポリブタジエンポリオ-ル、ポリイソプレンポリオール、ポリクロロプレンポリオール等が挙げられる。
【0024】
ポリカーボネートポリオールとしては特に限定されず、例えば、公知のポリカーボネートポリオールを広く挙げることができる。ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、1,6-ヘキサンジオールのカーボネートポリオール、1,4-ブタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールのカーボネートポリオール、1,5-ペンタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールのカーボネートポリオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール及び1,6-ヘキサンジオールのカーボネートポリオール等が挙げられる。
【0025】
(B)成分は、ポリウレタン樹脂に分岐構造を導入するために、イソシアネート基と反応性のある活性水素基を3個以上有する化合物を含有することも好ましい。該化合物として具体的にはトリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコール又はこれらのオキシアルキレン誘導体を挙げることができる。
【0026】
また、(B)成分は、ポリウレタン内でウレタン結合を局在化させるために、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの単鎖の低分子量ジオールを含むことができる。
【0027】
(B)成分は公知の方法で製造することができ、あるいは、市販品から入手することもできる。
【0028】
(C)成分(1個以上の活性水素基と親水性基を有する化合物)は、(A)成分及び(B)成分以外の化合物である。例えば、(C)成分は、ポリオール化合物以外である。
【0029】
(C)成分において、親水性基としては、アニオン性親水基、カチオン性親水基、ノニオン性親水基のいずれであってもよい。アニオン性親水基としては、カルボキシル基及びその塩、スルホン酸基及びその塩が挙げられる。カチオン性親水基としては、第三級アンモニウム塩、第四級アンモニウム塩が挙げられる。ノニオン性親水基としては、エチレンオキシドの繰り返し単位からなる基、エチレンオキシドの繰り返し単位とその他のアルキレンオキシドの繰り返し単位からなる基等が挙げられる。
【0030】
(C)成分としては具体的に、活性水素基とカルボキシ基(又はその塩)を各1個以上含有する化合物、活性水素基とスルホン酸基(又はその塩)を各1個以上有する化合物、1個以上の活性水素基と第3級アンモニウム塩、1個以上の活性水素基と第4級アンモニウム塩、活性水素基とノニオン性親水基を各1個以上有する化合物を挙げることができる。
【0031】
活性水素基とカルボキシ基(又はその塩)を各1個以上含有する化合物としては、例えば、2,2-ジメチロールプロピオン酸、2,2-ジメチロール酪酸、2,2-ジメチロール吉草酸、ジオキシマレイン酸、2,6-ジオキシ安息香酸、3,4-ジアミノ安息香酸等のカルボン酸含有化合物及びこれらの誘導体並びにそれらの塩が挙げられ、また、カルボン酸含有化合物を使用して得られるポリエステルポリオール等を挙げることもできる。その他、活性水素基とカルボキシ基(又はその塩)を各1個以上含有する化合物としては、アラニン、アミノ酪酸、アミノカプロン酸、グリシン、グルタミン酸、アスパラギン酸、ヒスチジン等のアミノ酸類、コハク酸、アジピン酸、無水マレイン酸、フタル酸、無水トリメリット酸等のカルボン酸類も挙げられる。
【0032】
活性水素基とスルホン酸基(又はその塩)を各1個以上有する化合物としては、例えば、2-オキシエタンスルホン酸、フェノールスルホン酸、スルホ安息香酸、スルホコハク酸、5-スルホイソフタル酸、スルファニル酸、1,3-フェニレンジアミン-4,6-ジスルホン酸、2,4-ジアミノトルエン-5-スルホン酸等のスルホン酸含有化合物及びこれらの誘導体が挙げられ、また、前記スルホン酸含有化合物を2種以上共重合して得られるポリエステルポリオール、ポリアミドポリオール、ポリアミドポリエステルポリオール等が挙げられる。
【0033】
活性水素基とカルボキシ基(又はその塩)を各1個以上含有する化合物及び活性水素基とスルホン酸基(又はその塩)を各1個以上有する化合物はいずれも、カルボキシ基又はスルホン酸基が中和剤によって中和された塩であってもよい。これにより、ポリウレタン樹脂は水への分散性が良好となる。中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の不揮発性塩基、トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の三級アミン類、アンモニア等の揮発性塩基等が挙げられる。
【0034】
1個以上の活性水素基と第3級アンモニウム塩を含有する化合物の例としては、例えば、メチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられる。第3級アンモニウム塩は、中和剤によって中和された塩であってもよい。これにより、ポリウレタン樹脂は水への分散性が良好となる。中和剤としては、例えば、ギ酸、酢酸などの有機カルボン酸、または塩酸、硫酸などが挙げられる。乳化の容易性の観点から、1個以上の活性水素基と第3級アンモニウム塩を含有する化合物は、メチルジエタノールアミンが有機カルボン酸で中和されたものであることが好ましい。中和は、ウレタン樹脂が形成される前、形成途中、及び、形成後のいずれの段階で行われてもよい。
【0035】
1個以上の活性水素基と第4級アンモニウム塩を有する化合物の例としては、例えば、前述のメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン等のアルカノールアミンを、塩化メチル、臭化メチルなどのハロゲン化アルキル、ジメチル硫酸などのジアルキル硫酸により4級化した化合物等が挙げられる。乳化の容易性の観点から、1個以上の活性水素基と第4級アンモニウム塩を有する化合物は、メチルジエタノールアミンをジメチル硫酸等で4級化した化合物であることが好ましい。
【0036】
活性水素基とノニオン性親水基を各1個以上有する化合物は特に限定されず、エチレンオキシドの繰り返し単位を少なくとも30質量%以上含有し、数平均分子量300~20000である化合物が好ましい。斯かる化合物としては、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体グリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシブチレン共重合体グリコール、ポリオキシエチレン-ポリオキシアルキレン共重合体グリコール又はそのモノアルキルエーテル等のノニオン性基含有化合物、或いはこれらを共重合して得られるポリエステルポリエーテルポリオール等が例示される。
【0037】
(C)成分は、活性水素基とカルボキシル基を各1個以上含有する化合物であることが好ましい。この場合、本発明の電極用バインダー組成物は、集電体との密着性が向上しやすい。
【0038】
(C)成分がアニオン性親水基含有化合物の場合、分散性が優れやすい点で、ポリウレタン樹脂は、アニオン性親水基含有量を表す酸価が5~50mgKOH/gであることが好ましく、5~45mgKOH/gであることがより好ましい。酸価は、JISK0070-1992に準拠して、ポリウレタン水分散体の固形分1g中に含まれる遊離カルボキシル基を中和するのに要するKOHのmg数より求めることができる。(C)成分がノニオン性基含有化合物の場合は、ポリウレタン樹脂100質量部あたり、ノニオン性基含有化合物の含有量が1~30質量部であることが好ましく、3~25質量部であることがより好ましく、5~20質量部であることがさらに好ましい。
【0039】
(C)成分は公知の方法で製造することができ、あるいは、市販品から入手することもできる。
【0040】
(D)成分としては、例えば、ウレタン樹脂の製造で使用されている鎖伸長剤を広く挙げることができる。(D)成分としては具体的に、ジアミン化合物やポリアミン化合物が挙げられる。ジアミン化合物としては、エチレンジアミン、トリメチレンジアミン、ピペラジン、イソホロンジアミン、アミノ基含有シランカップリング剤などを例示することができ、ポリアミン化合物としては、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン等を例示することができる。(D)成分としては、ポリウレタンの内部架橋構造を導入し耐電解液性を向上させるために、3官能以上のポリアミンを含有することも好ましい。
【0041】
ポリウレタン樹脂は、(D)成分(鎖伸長剤)に基づく構成単位の含有割合が、ポリウレタン樹脂100質量部あたり、例えば、0.1質量部以上3質量部以下とすることができ、0.2質量部以上1質量部以下であることが好ましい。
【0042】
ポリウレタン樹脂は、前記(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分に基づく構成単位のみで形成することができ、本発明の効果が阻害されない限りは、その他の構成単位を含むこともできる。ポリウレタン樹脂に含まれる前記(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分に基づく構成単位の含有割合は特に限定されず、例えば、公知のポリウレタン樹脂と同様とすることができる。
【0043】
ポリウレタン樹脂は、柔軟性が低下しにくく、結着性にも優れやすいという点で、ウレタン結合量が300~20000g/eqであることが好ましく、400~10000geqであることがより好ましい。
【0044】
ポリウレタン樹脂の数平均分子量は特に限定されず、例えば、塗膜が形成されやすい点で50000以上、1000000以下とすることができる。また、ポリウレタン樹脂の架橋密度も特に限定されず、例えば、ポリウレタン樹脂の1000分子量あたり0.01~0.50であることが好ましい。なお、ポリウレタン樹脂の架橋密度は公知の方法によって測定することができる。
【0045】
ポリウレタン樹脂は、前述のように、D50体積平均粒子径が0.01μm以上0.05μm以下であり、かつ、D90体積平均粒子径が0.10μm以上0.15μm以下である。ポリウレタン樹脂が斯かる粒度分布を有することで、当該ポリウレタン樹脂水分散体を含む電極用バインダー組成物は、電極を形成するための塗工液の粘度上昇を抑制することができ、このため、塗工液の固形分濃度が高くても粘度が上昇しにくい。従って、ポリウレタン樹脂水分散体を含む電極用バインダー組成物は、固形分濃度の高い塗工液を調製するために適したものであり、蓄電デバイス用電極を製作するために使用する電極用塗工液組成物のバインダー成分(結着剤)として好適である。
【0046】
ここで、D50体積平均粒子径は、ポリウレタン樹脂の粒度分布曲線において、体積累積分布が50%である点における粒子径を意味し、また、D90体積平均粒子径は、ポリウレタン樹脂の粒度分布曲線において、体積累積分布が90%である点における粒子径を意味する。ポリウレタン樹脂のD50体積平均粒子径及びD90体積平均粒子径(以下、それぞれ単に「D50」及び「D90」と表記する)は、動的光散乱式(DLS)粒子径分布測定装置(Nanotrac WaveII(マイクロトラック・ベル製))を用いて測定した値をいう。
【0047】
ポリウレタン樹脂水分散体中のポリウレタン樹脂のD50が0.01μm未満である場合、ポリウレタン樹脂水分散体の合成方法が極めて複雑になり、あるいは、合成することが難しくなる。また、ポリウレタン樹脂水分散体中のポリウレタン樹脂のD50が0.05μmを超過すると、塗工液の粘度上昇を抑制することが難しくなり、この結果、塗工液の固形分濃度を高くすることが難しくなる。ポリウレタン樹脂水分散体中のポリウレタン樹脂のD50は、0.015μm以上であることが好ましく、0.02μm以上であることがより好ましい。
【0048】
ポリウレタン樹脂水分散体中のポリウレタン樹脂のD90が0.10μm未満である場合、塗工液の粘度上昇を抑制することが難しくなり、この結果、塗工液の固形分濃度を高くすることが難しくなる。また、ポリウレタン樹脂水分散体中のポリウレタン樹脂のD90が0.15μmを超過すると、塗工液の粘度上昇を抑制することが難しくなり、この結果、塗工液の固形分濃度を高くすることが難しくなる。ポリウレタン樹脂水分散体中のポリウレタン樹脂のD90は、0.11μm以上であることが好ましい。
【0049】
ポリウレタン樹脂水分散体中のポリウレタン樹脂のD50及びD90を調節する方法は特に限定されず、例えば、ポリウレタン樹脂水分散体の粒度分布を制御する方法を広く採用することができる。具体的には後記するように、ポリウレタン樹脂水分散体の製造において、乳化分散の条件をコントロールすることでポリウレタン樹脂のD50及びD90を調節することが好ましい。その他、ポリウレタン樹脂を製造する際に使用する原料((A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分及び鎖長伸長剤)等の使用量や、水の使用割合等によってポリウレタン樹脂のD50及びD90を調節することもできる。
【0050】
ポリウレタン樹脂水分散体において、媒体である分散媒の種類は特に限定されず、水、炭素数1~3の低級アルコールを挙げることができ、これらの混合溶媒も挙げることができる。中でも、ポリウレタン樹脂の分散性に優れるという観点から、分散媒は水であることが好ましい。
【0051】
ポリウレタン樹脂水分散体の固形分濃度も特に限定されない。作業性の観点等から、ポリウレタン樹脂水分散体の固形分濃度は1質量%以上、60質量%以下が好ましく、3質量%以上、55質量%以下がより好ましく、4質量%以上、50質量%以下がさらに好ましい。
【0052】
(ポリウレタン樹脂水分散体の製造方法)
ポリウレタン樹脂水分散体の製造方法は特に限定されず、例えば、公知のポリウレタン樹脂水分散体の製造方法と同様の方法を採用することができる。例えば、前記(A)成分、(B)成分及び必要に応じて(C)成分を混合処理することでウレタンプレポリマーを調製し、このウレタンプレポリマーを乳化分散することで、ポリウレタン樹脂水分散体を得ることができる。混合処理は必要に応じて溶媒中で行うことができる。斯かる溶媒は、イソシアネート基に対して不活性、かつ、生成するウレタンプレポリマーを溶解し得る性質を有することが好ましい。この観点から、溶媒は、ジオキサン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、N-メチル-2-ピロリドン、アセトン、トルエン、ジオキサン、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等を挙げることができる。反応で使用した溶媒は最終的に除去することが好ましい。
【0053】
前記混合処理の温度は特に限定されず、例えば、30℃~130℃とすることができる。混合処理の時間は温度に応じて適宜設定することができ、例えば、0.5時間~10時間である。混合処理によって(A)成分及び(B)成分との反応が進行し、ウレタンプレポリマーが生成する。溶媒を使用して混合処理をした場合は、ウレタンプレポリマー溶液が得られる。ウレタンプレポリマーが生成した後、乳化分散する前には必要に応じて、(C)成分のアニオン性親水基の中和、カチオン性親水基の中和又は4級化を公知の方法で行うことができる。
【0054】
前記混合処理において、(A)成分、(B)成分及び(C)成分の使用量は特に限定されず、例えば、公知の方法と同様の使用量を採用することができる。例えば、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分中の、イソシアネート基との反応性を有する活性水素基の総量と、(A)成分のイソシアネート基との当量比が1:0.85~1:1.1となるように(A)成分を使用することができる。(A)成分は、化学量論的に過剰量を使用してもよい。
【0055】
混合処理によって得たウレタンプレポリマーを乳化分散する方法は特に限定されず、公知の方法を広く採用することができる。例えば、ウレタンプレポリマーの溶液とアルカリ水とを混合し、ホモジナイザー等の乳化分散機によってせん断を与えることで、ウレタンプレポリマーを乳化分散することができる。
【0056】
乳化分散に使用するアルカリ水は、例えば、各種のアルカリ成分の水溶液を挙げることができる。中でもアルカリ成分としては、水酸化ナトリウムであることが好ましい。すなわち、アルカリ水は水酸化ナトリウム水溶液であることが好ましい。この場合、ポリウレタン樹脂のD50及びD90を所望の範囲に調節しやすい。ポリウレタン樹脂のD50及びD90を所望の範囲に調節しやすい点で、アルカリ水の濃度は、例えば、0.5~1質量%とすることが好ましく、0.6~0.9質量%であることがより好ましく、0.65~0.85質量%であることがさらに好ましい。ウレタンプレポリマーの溶液とアルカリ水とを混合し、ホモジナイザー等の乳化分散機によってせん断を与えた後、さらに水を加えることもできる。
【0057】
ウレタンプレポリマーの溶液とアルカリ水とを混合する方法は特に限定されず、ポリウレタン樹脂のD50及びD90を所望の範囲になるように適宜調節することができる。例えば、ウレタンプレポリマーの溶液にアルカリ水を滴下して混合することが好ましい。ポリウレタン樹脂のD50及びD90を所望の範囲に調節しやすい点で、アルカリ成分換算での滴下量(すなわち、1分あたりのアルカリ成分の滴下量)が、ウレタンプレポリマー100質量部に対して0.55×10-2(質量部/分)以上、1×10-2(質量部/分)以下となるようにアルカリ水を滴下することが好ましい。アルカリ水の滴下において、アルカリ成分換算での滴下量は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して好ましくは0.6×10-2(質量部/分)以上、より好ましくは0.65×10-2(質量部/分)以上、さらに好ましくは0.66×10-2(質量部/分)以上であり、また、好ましくは0.95×10-2(質量部/分)以下、より好ましくは0.9×10-2(質量部/分)以下、さらに好ましくは0.85×10-2(質量部/分)以下である。
【0058】
ポリウレタン樹脂のD50及びD90を所望の範囲に調節しやすい点で、水換算での滴下量(すなわち、1分あたりの水の滴下量)が、ウレタンプレポリマー100質量部に対して0.6(質量部/分)以上、5(質量部/分)以下となるようにアルカリ水を滴下することが好ましい。アルカリ水中に含まれる水の滴下量は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して0.7(質量部/分)以上であることがより好ましく、0.8(質量部/分)以上であることがさらに好ましく、0.9(質量部/分)以上であることが特に好ましい。また、アルカリ水中に含まれる水の滴下量は、ウレタンプレポリマー100質量部に対して、4(質量部/分)以下であることがより好ましく、3.5(質量部/分)以下であることがさらに好ましく、3(質量部/分)以下であることが特に好ましい。
【0059】
なお、本明細書において、ウレタンプレポリマーの溶液中のウレタンプレポリマーの総質量は、ウレタンプレポリマーの製造に使用する(A)成分、(B)成分及び(C)成分の総使用量と同一視することができる。
【0060】
乳化分散に使用するアルカリ水及び水の総質量は、ポリウレタン樹脂の粒度分布が所望の範囲になりやすい点で、ウレタンプレポリマー100質量部に対して100~900質量部とすることが好ましく、110~800質量部とすることがより好ましく、120~700質量部とすることがさらに好ましい。
【0061】
上記のように本発明では、乳化分散の条件、とりわけ乳化分散に使用するアルカリ水やその添加速度を調節することで、ポリウレタン樹脂のD50及びD90を所望の範囲に調節しやすい。
【0062】
前記乳化分散と同時に、もしくは乳化分散の後、(D)成分を加えて鎖伸張をすることもできる。これにより、乳化ミセル中のイソシアシネート基と(D)成分である鎖伸長剤との界面重合反応によりウレア結合が生成するので、乳化ミセル内の架橋密度が向上し、三次元架橋構造が形成される。なお、(D)成分を使用しない場合であっても、ウレタンプレポリマーが水中に乳化分散されることで、系中に存在する水分子が鎖伸長を起こし得る。
【0063】
(D)成分を使用する場合、その使用量は特に限定されず、例えば、ウレタンプレポリマー中のイソシアネート基と、(D)成分との当量比が1:0.5~1:0.9となるように(D)成分の使用量を調節することができる。
【0064】
乳化分散の後、必要に応じて使用した溶媒等を除去することにより、ポリウレタン水分散体を得ることができる。
【0065】
上記の方法で得られたポリウレタン樹脂水分散体は、D50が0.01μm以上0.05μm以下であり、かつ、D90が0.10μm以上0.15μm以下であるので、前述のとおり、本発明の電極用バインダー組成物に適したものである。
【0066】
(電極用バインダー組成物に含まれる他の成分)
本発明の電極用バインダー組成物は、前記ポリウレタン樹脂水分散体以外に他の成分を含むことができる。他の成分としては特に限定されず、例えば、公知の電極用バインダー組成物と同様とすることができる。
【0067】
例えば、本発明の電極用バインダー組成物は、カーボンナノチューブを含むことができる。カーボンナノチューブの種類は特に限定されず、例えば、公知の電極用バインダー組成物に含まれるカーボンナノチューブと同様とすることができる。カーボンナノチューブの具体例として、シングルウォールカーボンナノチューブ(SWCNT)、マルチウォールカーボンナノチューブ(MWCNT)等が挙げられ、少量で電子伝導性を高めることができる点で、シングルウォールカーボンナノチューブが好ましい。
【0068】
カーボンナノチューブの繊維径や繊維長は特に限定されず、例えば、数平均繊維径が0.5nm以上20nm以下であることが好ましく、数平均繊維長が0.5μm以上1mm以下であることが好ましい。数平均繊維径を0.5nm以上とすることにより、粘度が高くなりすぎることを抑制できるため、後記する電極用塗工組成物の調製が容易になりやすい。また、数平均繊維径を20nm以下とすることにより、柔軟性が向上するため、電池にした際の耐久性が向上しやすい。数平均繊維径は、1nm以上10nm以下がより好ましく、2nm以上8nm以下がさらに好ましい。また、数平均繊維長を0.5μm以上とすることにより、得られる電極の耐久性が向上しやすく、得られる電池のサイクル寿命が向上しやすい。数平均繊維長を1mm以下とすることにより、カーボンナノチューブのレオロジー制御が容易となりやすい。数平均繊維長は、1μm以上10μm以下とすることがより好ましく、2μm以上7μm以下とすることがさらに好ましい。数平均繊維長および数平均繊維径は、例えば透過電子顕微鏡写真、走査型プローブ型顕微鏡写真で無作為に選んだカーボンナノチューブ100個の長軸及び径を測定し、その数平均として算出できる。
【0069】
本発明の電極用バインダー組成物がーボンナノチューブを含む場合、その含有量は特に限定されず、例えば、ウレタン樹脂100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、0.5~5質量部であることがより好ましい。
【0070】
本発明の電極用バインダー組成物がカーボンナノチューブを含む場合は、本発明の電極用バインダー組成物は、分散剤Aを含むこともできる。これにより、電極用バインダー組成物においてカーボンナノチューブの分散性が向上しやすくなる。
【0071】
前記分散剤Aとしては、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びそのアルカリ金属塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等のセルロース類を挙げることができる。中でも、カルボキシメチルセルロース又はその塩であることがより好ましい。本発明の電極用バインダー組成物がカルボキシメチルセルロース又はその塩を含む場合は、カーボンナノチューブの分散性がさらに向上しやすくなる。カルボキシメチルセルロース又はその塩は、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩であることが特に好ましい。
【0072】
本発明の電極用バインダー組成物が前記分散剤Aを含む場合、その含有量は特に限定されず、例えば、ウレタン樹脂100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、0.2~8質量部であることがより好ましい。
【0073】
本発明の電極用バインダー組成物は、その他、酸化防止剤、光安定剤等の各種の成分を含むことができる。本発明の電極用バインダー組成物は、前記ポリウレタン樹脂水分散体を60質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、90質量%以上含むことがさらに好ましく、95質量%以上含むことが特に好ましい。
【0074】
本発明の電極用バインダー組成物を製造する方法は特に限定されない。本発明の電極用バインダー組成物の製造方法は、前記ポリウレタン樹脂水分散体を調製する工程を備える。すなわち、本発明の電極用バインダー組成物の製造方法は、D50体積平均粒子径が0.01μm以上0.05μm以下であり、かつ、D90体積平均粒子径が0.10μm以上0.15μm以下であるポリウレタン樹脂水分散体を調製する工程を備える。斯かるポリウレタン樹脂水分散体は、前述のポリウレタン樹脂水分散体の製造方法により得ることができる。
【0075】
本発明の電極用バインダー組成物がカーボンナノチューブ及び/又は分散剤Aを含む場合は、例えば、前述のように得られた電極用バインダー組成物前記ポリウレタン樹脂水分散体と、カーボンナノチューブ及び/又は分散剤Aとを混合することで、電極用バインダー組成物を調製することができる。カーボンナノチューブ及び/又は分散剤Aは、分散媒に分散又は溶解させた状態で用いることができ、この場合の分散媒は、例えば、ポリウレタン樹脂水分散体の分散媒と同様とすることができる。
【0076】
本発明の電極用バインダー組成物は、前述のように、蓄電デバイス用電極を製作するために使用する電極用塗工液組成物のバインダー成分(結着剤)として好適である。特に、本発明の電極用バインダー組成物は、前記塗工液の粘度上昇を抑制することができ、塗工液の固形分濃度を高くしても粘度が上昇しにくくすることができる。従って、本発明の電極用バインダー組成物を含む電極用塗工液組成物は、優れた性能を有する電極の形成を可能とするものである。
【0077】
2.電極用塗工液組成物
本発明の電極用塗工液組成物は、電極用バインダー組成物を含有する限り、その他含まれる成分は特に限定されない。例えば、本発明の電極用塗工液組成物は、公知の極用塗工液組成物に含まれる成分をさらに含むことができる。
【0078】
具体的に本発明の電極用塗工液組成物は、電極用バインダー組成物の他、活物質と、導電助剤とを含み、さらに必要に応じて分散剤B等を含むことができる。
【0079】
(活物質)
活物質は、正極活物質または負極活物質を挙げることができ、分散性が向上し、固形分濃度を高くしても粘度が上昇しにくい点で、負極活物質が好ましい。
【0080】
正極活物質としては、公知の正極活物質を広く挙げることができ、リチウムイオンの挿入、脱離が可能である各種正極活物質挙げることができる。具体例としては、CuO、CuO、MnO、MoO、V、CrO等の金属酸化物、LixCoO、LixNiO等のリチウムと遷移金属との複合酸化物のほか、金属カルコゲン化物、導電性高分子化合物等が挙げられる。中でも、一般に高電圧系と呼ばれる、コバルト、ニッケル、マンガン等の遷移金属から選ばれる1種以上とリチウムとの複合酸化物がリチウムイオンの放出性や、高電圧が得られやすい点で好ましい。
【0081】
負極活物質としては、公知の負極活物質を広く挙げることができ、金属リチウム又はリチウムイオンを挿入/脱離することができる各種負極活物質を挙げることができる。具体例として、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素などの炭素材料;金属リチウムや合金、スズ化合物などの金属材料;リチウム遷移金属窒化物;結晶性金属酸化物;非晶質金属酸化物;ケイ素化合物;導電性ポリマー等を挙げることができる、中でも固形分濃度を高くしても粘度が特に上昇しにくい点で、ケイ素化合物であることがより好ましく、SiOであることがさらに好ましい。
【0082】
(導電助剤)
導電助剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料を広く挙げることが
きる。例えば、アセチレンブラックやケッチンブラック等のカーボンブラックの他、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛、土状黒鉛など)、人造黒鉛、カーボンウイスカー、炭素繊維や金属( 銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金等)粉末、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料も挙げることができる。また、電極用バインダー組成物がカーボンナノチューブを含む場合は、電極用塗工液組成物はカーボンナノチューブを含まなくてもよい。電極用塗工液組成物に含まれる導電助剤は、1種又は2種以上とすることができる。
【0083】
電極用塗工液組成物において、導電助剤の含有割合は公知の電極用塗工液組成物と同様とすることができ、例えば、活物質に対して0.1~30質量%が好ましく、0.2~20質量%が好ましい。
【0084】
(分散剤B)
分散剤Bは特に限定されず、公知の電極用塗工液組成物に含まれる分散剤を広く挙げることができる。具体例として、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びそのアルカリ金属塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース類;化学変性セルロースナノファイバー等のセルロースナノファイバー類;ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ソーダなどのポリカルボン酸系化合物;ポリビニルピロリドンなどのビニルピロリドン構造を有する化合物;その他、ポリエステル樹脂、ポリアクリルアマイド、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、アルギン酸ソーダ、キサンタンガム、カラギーナン、グアーガム、カンテン、デンプン等の高分子化合物;等を挙げることができる。中でも分散剤Bは、セルロース類が好ましく、特にカルボキシメチルセルロース塩が好適である。また、電極用バインダー組成物が分散剤Aを含む場合は、電極用塗工液組成物は分散剤Bを含まなくてもよいし、あるいは、分散剤Aとは異なる種類の分散剤Bを含むことができる。電極用塗工液組成物に含まれる分散剤Bは、1種又は2種以上とすることができる。
【0085】
電極用塗工液組成物において、分散剤B(ただし、ポリウレタン樹脂水分散体中のポリウレタン樹脂を除く)の含有割合は公知の電極用塗工液組成物と同様とすることができ、例えば、電極用塗工液組成物中の固形分に対し0.01質量%以上とすることができ、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、0.2質量%以上がさらに好ましく、0.3質量%以上が特に好ましく、また、5質量%以下とすることができ、3質量%以下が好ましく、2.5質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましく、1.5質量%以下が特に好ましい。
【0086】
(その他成分)
電極用塗工液組成物は、その他、界面活性剤を含むこともできる。界面活性剤は、公知の電極用塗工液組成物に含まれる界面活性剤を広く挙げることができ、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤のいずれでもよい。
【0087】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系非イオン性界面活性剤等が挙げられる。アセチレングリコール系非イオン性界面活性剤としては、例えば、日信化学工業社製のサーフィノール420、サーフィノール423、サーフィノール424、サーフィノール425、サーフィノール440、サーフィノール465や、ダウ・ケミカル社製のTRITON(登録商標)HW-1000、日信化学工業株式会社製のオルフィンAF-103、オルフィンAF-300、花王社製のアンチフォーム013A等が挙げられる。非イオン性界面活性剤は、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤であってもよい。
【0088】
電極用塗工液組成物において、界面活性剤の含有割合は公知の電極用塗工液組成物と同様とすることができ、例えば、電極用塗工液組成物中の固形分に対し0.001質量%以上とすることができ、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.02質量%以上がさらに好ましく、0.03質量%以上が特に好ましく、また、3質量%以下とすることができ、2質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下がさらに好ましく、0.1質量%以下が特に好ましい。
【0089】
電極用塗工液組成物は、その他、必要に応じて、各種添加剤を含むことができ、例えば、耐候剤、抗菌剤、抗カビ剤、顔料、防錆剤、染料、造膜助剤、シランカップリング剤、ブロッキング防止剤、粘度調整剤、レベリング剤、消泡剤、分散安定剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、無機充填剤、有機充填剤、可塑剤、滑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0090】
(電極用塗工液組成物)
電極用塗工液組成物は、電極用バインダー組成物由来のポリウレタン樹脂を含有する。ポリウレタン樹脂の含有割合は、電極用塗工液組成物の粘度上昇が起こりにくい点で、活物質に対して0.5質量%以上とすることができ、1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましく、7質量%以上が特に好ましい。また、ポリウレタン樹脂の含有割合は、電極用塗工液組成物の粘度上昇が起こりにくい点で、活物質に対して30質量%以下とすることができ、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、13質量%以下が特に好ましい。
【0091】
電極用塗工液組成物に含まれる溶媒は特に限定されず、例えば、ポリウレタン樹脂水分散体に含まれる溶媒と同一とすることができ、また、異なっていても良い。
【0092】
電極用塗工液組成物の固形分濃度は特に限定されないが、固形部分濃度が高いほど、活物質等を多く含むことができるので、バインダー効果を高めることができると共に電極性能を向上させることができる。この観点から、電極用塗工液組成物の固形分濃度は40質量%以上とすることが好ましく、43質量%以上がより好ましく、45質量%以上がさらに好ましく、48質量%以上が特に好ましい。電極用塗工液組成物の固形分濃度は50質量%以上とすることもできる。また、電極用塗工液組成物の固形分濃度は、凝集の発生が起こりにくく塗工性が優れやすいという点で、60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、53質量%以下であることがさらに好ましい。
【0093】
本発明の電極用塗工液組成物の固形分濃度が50質量%における粘度は、凝集が発生しにくく塗工性に優れるという点で、1000~25000mPa・sであることが好ましく、2000~23000mPa・sであることがより好ましく、3000~20000mPa・sであることがさらに好ましく、3000~18000mPa・sであることが特に好ましい。本発明の電極用塗工液組成物の粘度は、B型回転粘度計(25℃、6rpm)により測定された値を意味する。
【0094】
本発明の電極用塗工液組成物を調製する方法は特に限定されず、例えば、公知の電極用塗工液組成物の調製方法と同様の方法を採用することができる。例えば、活物質と、導電助剤と、分散剤と、電極用バインダー組成物とを所定の含有割合で混合することで調製できる。この混合にあたっては、例えば、ホモディスパー、プラネタリーミキサー、プロペラミキサー、ニーダー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ビーズミル、サンドミル、高圧ホモジナイザー等を用いることができる。
【0095】
本発明の電極用塗工液組成物により、蓄電デバイス用電極を形成することができる。例えば、電極用塗工液組成物を集電体に塗布して塗膜を形成することで、電極を形成することができる。従って、蓄電デバイス用電極は、電極用塗工液組成物の固形分を含有する。特に、電極用塗工液組成物は固形分濃度を従来の電極用塗工液組成物よりも高くすることができるので、バインダーとしての機能が十分に発揮されると共に優れた特性を有する電極を形成しやすい。
【0096】
本発明の電極用塗工液組成物を集電体に塗布する方法は特に限定されず、例えば、公知の塗布方法を広く採用することができる。
【0097】
本発明の電極用塗工液組成物を塗布させる集電体の種類も特に限定されず、例えば、リチウム二次電池に使用される正極用集電体及び負極集電体を広く適用することができる。正極用集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス等が挙げられ、負極用集電体としては、銅、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、チタン、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金等を挙げることができる。
【0098】
本発明の電極用塗工液組成物を用いて得られる蓄電デバイス用電極は、各種蓄電デバイスの適用することができる。蓄電デバイスは、本発明の電極用塗工液組成物を用いて得られる蓄電デバイス用電極を備えるので、優れた特性を有することができる。蓄電デバイスとしては、公知の蓄電デバイスを挙げることができ、例えば、リチウム二次電池、リチウムイオンキャパシタ等が挙げられる。
【0099】
蓄電デバイスの構成も特に限定されず、本発明の電極用塗工液組成物を用いて得られる蓄電デバイス用電極を備える限りは、例えば、公知の蓄電デバイスと同様の構成を採用することができる。
【0100】
蓄電デバイス(例えば、リチウム二次電池)は、円筒型、コイン型、角型、その他任意の形状に形成することができ、電池の基本構成は形状によらず同じであり、目的に応じて設計変更して実施することができる。
【0101】
本開示に包含される発明を特定するにあたり、本開示の各実施形態で説明した各構成(性質、構造、機能等)は、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各構成のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例
【0102】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0103】
(製造例1;ポリウレタン樹脂水分散体A1)
撹拌機、還流冷却管、温度計及び窒素吹き込み管を備えた4つ口フラスコに、ポリブタジエンポリオール(出光興産社製、PolybdR-45HT、平均水酸基価46.5mgKOH/g)71.3質量部と、ジメチロールプロピオン酸4.2質量部と、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート24.5質量部と、メチルエチルケトン100質量部とを加えた。その後、75℃で4時間反応させることにより、ポリウレタンプレポリマーのメチルエチルケトン溶液を得た。このメチルエチルケトン溶液の不揮発分に対する遊離のイソシアネート基含有量は2.5%であった。次に、この溶液を45℃まで冷却した後、次のように乳化分散を行った。前記メチルエチルケトン溶液に、水酸化ナトリウム1.25質量部を溶解させた水186質量部を1質量部/分(アルカリ成分換算で0.67×10-2質量部/分)で加えながらホモジナイザーを使用して乳化分散させ、さらに水114質量部を加えて乳化分散を行った。得られた乳化分散体に、エチレンジアミン1.6質量部を水24質量部に溶解させた水溶液を添加した後、1時間鎖伸長反応を行った。その後、反応溶媒であるメチルエチルケトンを50℃で減圧蒸留することにより、固形分濃度が30質量%であるポリウレタン樹脂水分散体A1を得た。
【0104】
(製造例2;ポリウレタン樹脂水分散体A2)
前記メチルエチルケトン溶液に、水酸化ナトリウム1.25質量部を溶解させた水150質量部を1質量部/分(アルカリ成分換算で0.83×10-2質量部/分)で加えながらホモジナイザーを使用して乳化分散させ、さらに水150質量部を加え加えて乳化分散を行ったこと以外は製造例1と同様の方法で、固形分濃度が30質量%であるポリウレタン樹脂水分散体A2を得た。
【0105】
(製造例3;ポリウレタン樹脂水分散体A3)
前記メチルエチルケトン溶液に、水酸化ナトリウム1.25質量部を溶解させた水450質量部を3質量部/分(アルカリ成分換算で0.83×10-2質量部/分)で加えながらホモジナイザーを使用して乳化分散させ、さらに水150質量部を加え加えて乳化分散を行ったこと以外は製造例1と同様の方法で、固形分濃度が30質量%であるポリウレタン樹脂水分散体A3を得た。
【0106】
(製造例4;ポリウレタン樹脂水分散体A4)
ポリブタジエンポリオールを水素添化ポリブタジエンポリオール(日本曹達社製、NISSO-PB GI-2000)に変更したこと以外は製造例1と同様の方法で、固形分濃度が30質量%であるポリウレタン樹脂水分散体A4を得た。
【0107】
(製造例5;ポリウレタン樹脂水分散体A5)
前記メチルエチルケトン溶液に、水酸化ナトリウム1.25質量部を溶解させた水300質量部を6質量部/分(アルカリ成分換算で2.4×10-2質量部/分)で加えながらホモジナイザーを使用して乳化分散を行ったこと以外は製造例1と同様の方法で、固形分濃度が30質量%であるポリウレタン樹脂水分散体A3を得た。
【0108】
(製造例6;ポリウレタン樹脂水分散体A6)
50%累積粒径が0.01μm未満、90%累積粒径が0.1~0.15μmのポリウレタン樹脂水分散体を得るべく、前記メチルエチルケトン溶液に、水酸化ナトリウム1.25質量部を溶解させた水122質量部を1質量部/分(アルカリ成分換算で1.02×10-2質量部/分)で加えながらホモジナイザーを使用して乳化分散させ、さらに水178質量部を加えて乳化分散を行ったこと以外は製造例1と同様の方法を行ったが、50%累積粒径が0.01未満μmであるポリウレタン樹脂水分散体A6を得ることができなかった。
【0109】
(製造例7;ポリウレタン樹脂水分散体A7)
50%累積粒径が0.05μm超過、90%累積粒径が0.1~0.15μmのポリウレタン樹脂水分散体を得るべく、前記メチルエチルケトン溶液に、水酸化ナトリウム1.25質量部を溶解させた水233質量部を1質量部/分(アルカリ成分換算で0.54×10-2質量部/分)で加えながらホモジナイザーを使用して乳化分散させ、さらに水67質量部を加えて乳化分散を行ったこと以外は製造例1と同様の方法を行ったが、50%累積粒径が0.05μmを超過するポリウレタン樹脂水分散体A7を得ることができなかった。
【0110】
(製造例8;ポリウレタン樹脂水分散体A8)
前記メチルエチルケトン溶液に、水酸化ナトリウム1.25質量部を溶解させた水150質量部を0.5質量部/分(アルカリ成分換算で0.42×10-2質量部/分)で加えながらホモジナイザーを使用して乳化分散させ、さらに水150質量部を加え加えて乳化分散を行ったこと以外は製造例1と同様の方法で、固形分濃度が30質量%であるポリウレタン樹脂水分散体A8を得た。
【0111】
(製造例9;ポリウレタン樹脂水分散体A9)
前記メチルエチルケトン溶液に、水酸化ナトリウム1.25質量部を溶解させた水150質量部を6質量部/分(アルカリ成分換算で5.0×10-2質量部/分)で加えながらホモジナイザーを使用して乳化分散させ、さらに水150質量部を加え加えて乳化分散を行ったこと以外は製造例1と同様の方法で、固形分濃度が30質量%であるポリウレタン樹脂水分散体A9を得た。
【0112】
【表1】
【0113】
表1は、各製造例で得られたポリウレタン樹脂水分散体のD50及びD90を測定した結果を示している。製造例1~4で得られたポリウレタン樹脂水分散体(A1、A2、A3、A4)は、D50が0.01μm以上0.05μm以下であり、かつ、D90が0.10μm以上0.15μm以下であった。
【0114】
(実施例1)
アセチレンブラック水分散体(固形分濃度25質量%)8.5質量部とSWCNT水分散体(固形分濃度1.0質量%)42.9質量部とを混合して1時間撹拌し、そこへ、製造例1で得たポリウレタン樹脂水分散体A1(固形分濃度30質量%)48.6質量部を加え、30分間撹拌を行い、混合液を得た。この混合液とカルボキシメチルセルロース水溶液(固形分濃度1.0質量%)77.4質量部とをホモディスパーで10分間撹拌した後、活物質(SiO)153.2質量部を投入し、ホモディスパーで10分間撹拌し、最後に水11.6質量部を撹拌しながら加え、固形分調製を行い固形分濃度が50質量%の電極用塗工液組成物を得た。
【0115】
(実施例2)
ポリウレタン樹脂水分散体A1を製造例2で得たポリウレタン樹脂水分散体A2(固形分濃度30質量%)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、固形分濃度が50質量%である電極用塗工液組成物を得た。
【0116】
(実施例3)
ポリウレタン樹脂水分散体A1を製造例3で得たポリウレタン樹脂水分散体A3(固形分濃度30質量%)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、固形分濃度が50質量%である電極用塗工液組成物を得た。
【0117】
(実施例4)
ポリウレタン樹脂水分散体A1を製造例4で得たポリウレタン樹脂水分散体A4(固形分濃度30質量%)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、固形分濃度が50質量%である電極用塗工液組成物を得た。
【0118】
(比較例1)
ポリウレタン樹脂水分散体A1を製造例5で得たポリウレタン樹脂水分散体A5(固形分濃度30質量%)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、固形分濃度が50質量%である電極用塗工液組成物を得た。
【0119】
(比較例4)
ポリウレタン樹脂水分散体A1を製造例8で得たポリウレタン樹脂水分散体A8(固形分濃度30質量%)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、固形分濃度が50質量%である電極用塗工液組成物を得た。
【0120】
(比較例5)
ポリウレタン樹脂水分散体A1を製造例9で得たポリウレタン樹脂水分散体A9(固形分濃度30質量%)に変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、固形分濃度が50質量%である電極用塗工液組成物を得た。
【0121】
【表2】
【0122】
表2には、各実施例及び比較例で調製した電極用塗工液組成物の、各固形分における粘度を示している。表2の結果から、実施例で調製した電極用塗工液組成物は、粘度の上昇が抑制されており、特に、固形分濃度が50質量%であるときでさえも、その粘度は比較例の電極用塗工液組成物の低固形分濃度領域の水準であった。すなわち、各実施例で調製した電極用塗工液組成物は、電極を形成するための塗工液の粘度上昇を抑制することができ、塗工液の固形分濃度を高くしても粘度が上昇しにくいものであった。従って、本発明の電極用バインダー組成物は、固形分濃度の高い塗工液を調製するために適したものであり、蓄電デバイス用電極を製作するために使用する電極用塗工液組成物のバインダー成分(結着剤)として好適であることが示された。