(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】化学補助剤を用いないバイオマスの水蒸気分解によって得られる粉体状基質およびその使用
(51)【国際特許分類】
C08H 8/00 20100101AFI20250205BHJP
C13K 1/02 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
C08H8/00
C13K1/02
(21)【出願番号】P 2022512480
(86)(22)【出願日】2020-04-30
(86)【国際出願番号】 FR2020050729
(87)【国際公開番号】W WO2020225504
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-02-10
(32)【優先日】2019-05-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】521480477
【氏名又は名称】ユーロペエンヌ ドゥ ビオマス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】マラン,ジャン-パプティストゥ
(72)【発明者】
【氏名】アバ,トマ
(72)【発明者】
【氏名】カンテロ-マルケス,アドゥリアナ
(72)【発明者】
【氏名】マーテル,フレデリック
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-099082(JP,A)
【文献】国際公開第2017/001590(WO,A1)
【文献】特表2012-509163(JP,A)
【文献】特開2018-154721(JP,A)
【文献】特表2019-500446(JP,A)
【文献】特表2012-512270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08H 8/00
C13K 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
いかなる化学補助剤をも用いることなく、3~5の範囲のシビアリティファクターを適用することによって、5%~27%の湿度レベルを有するリグノセルロースバイオマスを連続的に水蒸気分解することによっ
て化学的反応または生化学的反応の粉末状炭素基質
を得る粉末状炭素基質生成工程と、
前記粉末状炭素基質に、少なくとも1つの微生物を添加
して、
「すぐに使用可能」な乾燥組成物を得る乾燥組成物生成工程と、
を包含する、「すぐに使用可能」な乾燥組成物の製造方法。
【請求項2】
少なくとも1つの酵素を添加する、請求項1に記載の「すぐに使用可能」な乾燥組成物の製造方法。
【請求項3】
前記微生物が微生物バイオマスである、請求項1~2のいずれか1項に記載の「すぐに使用可能」な乾燥組成物の製造方法。
【請求項4】
前記微生物が微細藻類である、請求項1~2のいずれか1項に記載の「すぐに使用可能」な乾燥組成物の製造方法。
【請求項5】
化学反応のための基質として前記粉末状炭素基質を使用する、請求項1に記載の「すぐに使用可能」な乾燥組成物の製造方法。
【請求項6】
微生物の培養のための生産基質として前記粉末状炭素基質を使用する、請求項1に記載の「すぐに使用可能」な乾燥組成物の製造方法。
【請求項7】
リグノセルロース系バイオマスから糖を得るための方法であって、
請求項2~4のいずれか1項に記載の乾燥組成物を培養すること、に含まれる方法。
【請求項8】
目的の分子を製造するための方法であって、
請求項2~6のいずれか1項に記載の乾燥組成物を培養すること、に含まれる方法。
【請求項9】
前記目的の分子は、バイオエネルギー、バイオプラスチック、またはバイオ製品の分野を対象とする、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、バイオマスの水蒸気分解によって得られるエネルギー基質に関する。より具体的には、本発明は、乾燥粉末の形態であり、いかなる化学添加剤も含まない水蒸気分解バイオマス、その製造方法、ならびに酵素加水分解および発酵などの、グリーンケミストリ的方法およびバイオテクノロジー的方法のための基質としての、その使用に関する。
【0002】
[技術分野]
バイオテクノロジー的方法またはグリーンケミストリ的方法は、集中的に、かつ高コストで製造された植物食品原料に由来する炭素基質を使用する。基質のLCA(life cycle analysis:ライフサイクル分析)、食品競争、および原料価格は、一般的には、これらのバイオソース製品の開発およびバイオエコノミーを妨げる。「第2世代」(2G)リグノセルロース系バイオマス(木材、農業廃棄物、農業および農産業の副産物)の使用により、環境への影響(化石CO2放出、肥料、植物衛生)、ならびに、食品分野における使用競争および価格競争を低減することができるであろう。
【0003】
この主題に関するプロジェクトは、2006年から数多く(世界で120件)推進されている。原理は、バイオマスの水蒸気爆発である。それらの大部分では、硫酸またはアルカリ性アンモニアなどの化学補助剤が添加される。全て「湿式(ウェット)」方法を使用し、バイオマスを40~70%の割合の水分を含むように湿らせる。いったん爆発が起こされると、材料は解毒されるか、または直接使用され、放出された糖を目的の分子に変換するために、糖ポリマーを加水分解する酵素を添加し、次いで、同時に、またはその後、微生物を添加する。
【0004】
リグノセルロースマトリックスの分解および分離を促進するために、水熱前処理(水分別、加溶媒分解、加水熱分解、または水熱処理とも呼ばれる)が高温および高圧下において水を使用することからなる点において、水蒸気分解は、当該水熱前処理とは異なる。
【0005】
したがって、リスクがない良好な環境履歴を有することに加えて技術的現実性が大きく、経済的に実行可能であるリグノセルロース系バイオマスを変換するための産業規模の方法は、希少である。今日、エタノールは、リグノセルロースに基づく数少ないバイオテクノロジーコモディティーの1つとして出現しつつある。
【0006】
[従来技術]
文献WO2013/018034A1は、マッシュルームを成長させるための基質を製造するための方法に関する。基質の製造は、様々な処理方法、特に蒸気爆発の処理方法を用いて行うことが可能である。蒸気爆発方法の使用プロセスは以下の通りである。まず、リグノセルロース材料は粉砕され、その後、蒸気によってバイオマスを160℃~230℃の温度まで加熱する反応器内に入れられる。反応器内が12~28気圧の圧力に達した後、反応器内の気圧を大気圧まで下げ、蒸気爆発を起こす。
【0007】
文献WO2013/105034には、液体組成物を得るためにリグノセルロース系バイオマスを処理する方法が記載されている。バイオマスの処理は、固体画分と液体画分とを得るために浸漬する工程によって特徴付けられている。次いで、液体画分の一部が分離される。その一方、固体画分および液体画分を再び得るために、その他の画分(固体画分および液体画分の一部)は、固体画分における蒸気爆発工程を経る。最後に、新たに得られた液体画分を、最初の(第1の)工程において得られた固体画分と混合する。
【0008】
文献WO2013/152771は、エタノール、ブタノール、水素、メタノール、およびバイオガスなどのバイオ燃料を生成するために、リグノセルロース系バイオマスを処理するための方法に関する。この方法は、機械的蒸気爆発の特性に基づく技術を用い、機械的非断熱分解によって、加圧下において実行される。
【0009】
文献FR2997094A1およびWO2014/060673A1には、それぞれ、リグノセルロースバイオマスからの「第2世代」と呼ばれるエタノールの製造方法、および、リグノセルロースバイオマスからの「第2世代」と呼ばれるアルコールの製造方法が記載されている。これらの方法は種々の工程、すなわち、(i)蒸気爆発による反応器内での前処理、(ii)その後の前処理済の基質の酵素加水分解工程、(iii)次いで、可溶化糖のエチル発酵工程、(iv)次いで、発酵流出液からのエタノールまたはアルコールの抽出、および、(v)エタノールまたはアルコールを含む内部水溶液流の上流または前処理反応器内でのリサイクル、を含む。
【0010】
文献WO2014/204519A1およびWO2013/191897A1には、ガス化の前、または燃焼の前の前処理として、蒸気爆発法を使用するバイオマスの処理が記載されている。
【0011】
最後に、文書EP3054050Aには、第1の目標範囲(65%~85%)の湿度含有量を有する脱水リグノセルロース原料を製造するための、リグノセルロース原料の連続処理方法が記載されている。シビアリティファクター(厳しさ係数)2.8~5.3における蒸気爆発の工程を含み得る方法が記載されている。
【0012】
[従来技術の欠点]
これらの方法の大部分は、技術的および経済的な問題、すなわち、ある使用コストにおける化学補助剤(酸性またはアルカリ性)の使用によって妨げられる。これらの化学補助剤は、例えばシビアリティを増加させることによる前処理のため、および、生物学的補助剤(酵素、微生物)の使用のためのpHの中和のために使用される。さらに、前記補助剤は、糖の化学分解を亢進させ、その結果、収率の損失、ならびに、微生物の阻害物質およびバイオテクノロジー的方法またはグリーンケミストリにおいて使用される酵素を生成し、前記補助剤の過剰消費を招くか、または最終生成物から汚染物質を分離することが必要となる。さらに、補助剤を伴わない場合であっても、含浸によるバイオマスの希釈は、熱処理のエネルギーコストの増加、および基質力価の低下を引き起こし、その希釈は、精製プロセス(抽出または蒸留など)の間の費用(コスト)を増加させる。最後に、これらの方法は、専用機器の購入に費やされる(有形無形の)資本支出(capital expenditure, CAPEX)および運営費用(operational expenses, OPEX)の点で、高価である。
【0013】
さらに、従来技術によって提案された解決策は、シビアリティファクターが確立されたパラメータではないものを含む。しかしながら、シビアリティファクターは、その強度に依存して、異なる化合物を得ることを可能にするため、重要である。さらに、先行技術の解決策では、初期バイオマスに対して高い湿度レベルを有し、連続的に実行されない方法が提案されている。今日まで、産業的観点および経済的観点から実行可能な、高付加価値用途のためのバイオマス調製方法は存在しない。
【0014】
[本発明の開示]
本発明によって、添加された酸性化合物またはアルカリ性化合物を含まない炭素基質が提供される。当該基質は、生物工学的方法、化学的方法、またはグリーンケミストリ的方法における実施に関して、「すぐに使用可能(ready-to-use)」である。当該基質は、乾燥リグノセルロースバイオマスの連続水蒸気分解法によって、化学補助剤を添加することなく調製される。
【0015】
本発明はまた、例えば一次用途(黒色ペレット)と並行して、最終産物(粉末または「グラニューレット」、すなわち、平均圧密度のペレット)から中間産物を除去することによって、かつ、中間産物を加水分解基質(グリーンケミストリのための糖)または加水分解および発酵のための基質(バイオテクノロジーのための糖)として使用することによって、製造コストを低減することも目的とする。
【0016】
したがって本発明は、いかなる補助剤をも用いることなく、リグノセルロース系バイオマスを連続的に水蒸気分解することによって得られる、化学反応の粉末状炭素基質、この種の基質を含む組成物、およびその使用に関する。
【0017】
[本発明の利点]
この方法は、エネルギーなどのコモディティに対して経済的に実行可能であり、従って、より高い付加価値の製品に対して、なおさら実行可能である。得られる炭素基質は安定である。
【0018】
経済的側面は必須である。連続運転および乾燥運転により、装置の部品のサイズを減少させ(連続フロー)、処理されるべき体積を減少させる(乾燥フロー)ことが可能になり、したがってCAPEXを減少させる。技術的化学補助剤を使用しないことで、劣化による損失を制限し、購入コストおよび中和に要する手間に関して、ならびに処理されるべき汚染に関してのコスト(OPEX)を軽減し、装置を腐食から保護もする(CAPEX)。投入されるバイオマスは熱変形および力学的変形のみを受けており、したがって、アジュバント化されていない。したがって、それは、その「自然である」(natural)主要品質(一次的品質)を維持し、さらに、熱処理において湿式化学法(40%~70%の湿度)を使用する場合に比べて、製造するための費用が低い。最後に、それは、スケールの経済性、つまりOPEXおよびCAPEXの削減を可能にする体積の、水蒸気分解によって調製されたバイオマスへのアクセスを可能にする、実行可能かつロバスト性を有する、確立された産業的方法に由来する。
【0019】
本発明に係る粉末状基質の製造方法の別の利点は、それがいかなる化学処理(特に酸性)をも含まないので、流出液を生成しないことである。当該基質は安定であり、貯蔵および輸送が可能である。それは、酸性またはアルカリ性の前処理がないにもかかわらず、50%から70%まで酵素によって加水分解することができる。最後に、この製品は安価であり、水または流出液の使用を必要とせず、安価なコモディティ製品から誘導され、高付加価値製品を製造するために使用されることが可能である。
【0020】
本発明に係る粉末状炭素基質は、糖およびリグニンなどの副産物の製造のために有利に使用される。
【0021】
粉末形態の水蒸気分解されたバイオマスは、化学放出によってキシロースなどの糖に利用されること、およびセルロース分解酵素によって加水分解されて、単純な糖を形成することが可能である前処理されたセルロース部分に利用されることができる。次いでこれらの糖は、化学的に、または生物変換反応/発酵によって、バイオテクノロジーおよびグリーンケミストリの分野において、より付加価値の高い分子へ変換されることが可能である。
【0022】
[本発明の詳細な説明]
本発明の第1の目的は、5%~27%の湿度レベルにおいて、いかなる化学補助剤をも用いることなく、リグノセルロースバイオマスを連続的に水蒸気分解することによって得られる、化学反応または生化学反応の粉末状炭素基質に関する。
【0023】
好ましい実施形態では、3~5の範囲のシビアリティファクターを適用することによって、水蒸気分解が実行される。
【0024】
本発明における定義では、「化学反応」(chemical reaction)は、従来の化学変換に加えて、発酵、酵素加水分解、バイオテクノロジー的方法などの生化学反応を含む任意の反応を意味する。化学反応の概念は、燃焼反応を含まない。
【0025】
本発明における定義では、「粉末状基質」(pulverulent substrate)は、粉末の形態またはペレットの形態の基質、または「グラニューレット」(granulettes)とも呼ばれる低圧縮度を有するペレットを意味する。前記グラニューレットは、圧縮粉末の形態に対応し、前記粉末にペレットの形態を与えるが、浸漬によって粉末を急速に放出する(ペレット化が少ない)。製品の取り扱いを容易にするために、製品のパッケージ中にこの形態を採用することができるが、基質が溶液(酵素、酸性など)によって含浸される瞬間から、粉末の特性を有する。
【0026】
水蒸気分解によって得られるバイオマス粉末は、0.5ミリメートル未満の断面を有する粉末状化合物を少なくとも50%含み、かつ、1ミリメートルを超える長さを有する繊維状化合物を少なくとも10%含む。
【0027】
ペレットの形状は円筒形である。その長さは、99.9%が5cm未満であり、99.0%が4cm未満であり、かつ、10%未満が1cm未満であると定義することができる。さらに、複数のペレットのうちの少なくとも99.0%は、選択された直径、すなわち、例えば6mm、8mm、または10mmの直径かこれを超える直径を有する。最後に、そのかさ密度(bulk density)(ペレット5リットル分の体積を有するシリンダを、20cmの高さから落下させることによってタップすることを3回繰り返して得られる値)は、600g/l~700g/lである。
【0028】
グラニューレットは、ペレットと同等の寸法を有するが、600g/l未満、一般的には300~600g/lの密度を有する。
【0029】
前記粉末状基質は、酵素加水分解、発酵、または任意の他の化学反応もしくは生化学反応などの生化学反応の実施に特に適している。
【0030】
基質が粉末形態で存在するという事実は、基質が乾燥形態であり、好ましくは基質の湿度が5%~27%であることを意味する。この特性により、基質は、生化学反応に使用される、液体状である他の形態のバイオマスから区別される。実際に、先行技術のバイオマスは、処理前に、特に化学補助剤で含浸され、前記補助剤を除去するために、水蒸気分解後に液体中で処理される。液体形態または湿潤形態で示す形質が生化学的用途に適している場合であっても、このことは、必然的に発酵するバイオマスを保存する上で問題になる。
【0031】
従って、本発明に係る基質は、予備含浸なしに水蒸気分解させる調製法により、例えば、好ましくは(直接的に、または任意に乾燥後に)5~27%の湿度を有するバイオマスからなり、乾燥しているという長所を有する。さらに、この方法は、化学補助剤(または添加剤)の添加を伴わず、清浄な基質を生成する。
【0032】
本発明における定義では、「化学補助剤」(chemical auxiliary)は、水蒸気分解生成物中または流出液中に残留しうる、任意の化合物または任意の溶液を意味する。前記補助剤は、水蒸気分解生成物中に使用の観点での不純物と、拒絶された流出液中の汚染物資とを生成する。この種の化学補助剤は、例えば、酸、塩基、有機溶媒または有機分子、塩などである。石灰、二酸化炭素、および再生可能な分離された形態の二酸化炭素などの製品は、意図される使用および環境に対して不活性であるため、化学補助剤とはみなされない。
【0033】
シビアリティファクターは、圧力、温度、および処理期間に依存する。好ましい実施形態では、シビアリティファクターは、3~5である。本発明の特定の実施形態では、当該シビアリティファクターは、複数分間(一般に5~30分間)の処理に相当する。
【0034】
本発明の第2の目的は、上記の通り定義された粉末状基質と、少なくとも1つの酵素とを含む、「すぐに使用可能」な乾燥組成物に関する。
【0035】
乾燥組成物は、保存および輸送することができ、安定である。
【0036】
いったんバイオマスが含浸されると、酵素によって、ユーザによるバイオマスの加水分解が可能になる。実際、乾燥環境(バイオマスは粉末形態)中の酵素は不活性であり、その活性化は、組成物を湿らせること、実際には浸漬することによって開始される。
【0037】
この種の組成物中のバイオマスと結びつけることができる酵素は、例えば、セルラーゼ、β-グルコシダーゼ、ヘミセルラーゼなどから選択することができる。
【0038】
本発明の第3の目的は、上記の通り定義された粉末状基質と、少なくとも1つの微生物とを含む、「すぐに使用可能」な乾燥組成物に関する。
【0039】
乾燥組成物は、保存および輸送することができ、安定である。
【0040】
いったんバイオマスが含浸されると、微生物によって、ユーザによるバイオマスの加水分解が可能になる。実際、乾燥環境(バイオマスは粉末形態)中の微生物は活動しておらず、その代謝は、組成物を湿らせること、実際には浸漬することによって活性化される。
【0041】
基質に関連する微生物は、異なる種類、特に微生物バイオマスまたは微細藻類であってもよい。微生物バイオマスは、細菌、酵母、真菌、または任意の他の型の細胞を含んでもよい。
【0042】
特定の実施形態では、本発明は、粉末状基質と、少なくとも1つの酵素と、少なくとも1つの微生物とを含む、「すぐに使用可能」な乾燥組成物に関する。
【0043】
本発明の第3の目的は、化学反応のための基質としての、上記の通り定義された基質の使用に関する。
【0044】
特定の実施形態において、基質は、微生物培養のための生産基質として使用される。
【0045】
バイオマスを構成する微生物に、増殖に必要な栄養素を供給するために基質を使用する場合がある。微生物を増殖させるためには、バイオマスのサンプルを適切な条件(湿度、温度など)で基質と混合すれば十分である。
【0046】
本発明の第4の目的は、リグノセルロース系バイオマスから糖を得るための方法に関する。当該方法は、(i)粉末状炭素基質を酵素加水分解に供すること、または、(ii)粉末状基質および酵素を含む「すぐに使用可能」な乾燥組成物を培養すること、からなる。
【0047】
バイオマスから得られる基質は、キシロース、グルコースなどの高付加価値糖を提供するように、酵素加水分解を受けてもよい。
【0048】
さらに、酵素および発酵反応は、有効なLCVを有するリグニンおよび繊維を含有する加水分解残渣または発酵残渣、樹脂誘導体またはテルペン誘導体、フェノール化合物(クマル化合物、フェルラ化合物)、フルルアルデヒドに富んだ縮合物(重合モノマー)、酢酸およびギ酸などの、利用できる可能性が極めて高い副産物(連産物)を生成する。可溶性または不溶性リグニン副産物は、材料(樹脂、結合剤、原料)として使用することが可能である。
【0049】
本発明の第5の目的は、(i)粉末状炭素基質を発酵に供すること、(ii)粉末状基質および少なくとも1つの微生物を含む「すぐに使用可能」な乾燥組成物を培養すること、または、(iii)粉末状基質を(従来の)化学変換法に供すること、からなる、リグノセルロースバイオマスから目的の分子を得るための方法に関する。
【0050】
得られる目的の分子は、例えば、バイオエネルギー(バイオエタノール、バイオメタノール、バイオメタンなどのバイオ燃料油、バイオガスなど)、バイオプラスチック(バイオマテリアル、バイオ合成物)またはバイオ製品(タンパク質、溶媒、任意の他の化学分子など)の分野を意図している。
【0051】
本発明に係る基質は、様々な用途に応用され得る。具体的には、バイオエタノールおよびイソブタンならびにファルネセンを製造して、液体バイオ燃料(特に、BP、SHELLが扱っている軽自動車または大型車のためのバイオ燃料オイル、TOTALが扱っている航空機産業のためのバイオ燃料オイル)を製造しようとする製造業者、産業用の塩基性シントン(ビルディングブロック)、バイオプラスチックまたはバイオ製品(メタン、メタノール、ギ酸、ホルムアルデヒド、エタノール、エチレン、酢酸、シュウ酸、エタナール、プロパン二酸、アセトン、ポピオン酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、フマル酸、コハク酸、ブタノール、ブタン二酸、イソブテン、酪酸、ヒドロキシ酪酸、バレリアン酸、グルタル酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、アミノ酸など)を得るために2G-糖(セルロース由来のグルコースおよびキシロース)を発酵させようとする生物工学研究者、非食品由来の微生物バイオマス(タンパク質もしくは油分に富んだ酵母、または光がない状態で従属栄養である微細藻類)を生産しようと計画する製造業者(スタートアップまたはスピンオフ)によって使用され得る。
【0052】
第6の目的は、リグノセルロース系バイオマスの水蒸気分解による、上記の通り定義された化学反応の粉末状基質の連続調製方法であって、5~27%の湿度レベルにおいて、かつ化学補助剤を用いずに実行されること方法に関する。
【0053】
好ましい実施形態において、この方法は、燃焼を除く化学反応の粉末状基質の調製を可能にする。
【0054】
[実施例]
<実施例1:粉末状炭素基質を得ることができる水蒸気分解法の実施>
以下の工程を実施することによって、木材から出発して本発明に係る粉末状炭素基質を製造することができる。
【0055】
(i)5~27%の湿度レベルを有する、0.5~14mmのサイズの木片を得ること;
(ii)前記得られた木片を、ほぼ飽和した水蒸気が供給される加圧反応器内に、1分あたり所定の体積ずつ連続的に導入すること;この工程において、圧力は10~25バールであり、温度は180~220℃である;
(iii)前記反応器内に導入された木片を、5~30分間の水蒸気分解を達成するために十分な期間、前記水蒸気に暴露すること;前記暴露期間の値、および前記ほぼ飽和した水蒸気の温度の値は、シビアリティファクターが3~5、好ましくは3.5~4であるように選択される;
(iv)ほぼ大気圧のチャネルに通じる複数の開口部を通して、前記反応器から、同じ前記1分あたり所定の体積の木片を連続的に抽出し、前記チャネルにおいて前記反応器から抽出された前記木片に対する爆発的減圧を引き起こすこと;
(v)前記反応器から、抽出された水蒸気分解粉末と残留蒸気とを分離すること;分離後に得られた前記水蒸気分解木材粉末は、前記粉末状基質を形成する。