IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スクエア パワー リミテッドの特許一覧

特許7629448クローン病の予防および治療に使用するためのレバミピド含有医薬組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】クローン病の予防および治療に使用するためのレバミピド含有医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4704 20060101AFI20250205BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20250205BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20250205BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250205BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20250205BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20250205BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20250205BHJP
   A61K 9/28 20060101ALI20250205BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20250205BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20250205BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20250205BHJP
   A61K 31/4164 20060101ALI20250205BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20250205BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20250205BHJP
   A61K 31/635 20060101ALI20250205BHJP
   A61K 31/706 20060101ALI20250205BHJP
   A61K 38/13 20060101ALI20250205BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20250205BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
A61K31/4704
A61P1/04
A61P29/00
A61P43/00 121
A61K9/08
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/28
A61K9/48
A61K9/70
A61K31/196
A61K31/4164
A61K31/519
A61K31/573
A61K31/635
A61K31/706
A61K38/13
A61K39/395 N
A61K45/00
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2022513870
(86)(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-02
(86)【国際出願番号】 EP2020074501
(87)【国際公開番号】W WO2021043846
(87)【国際公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-08-25
(31)【優先権主張番号】19020504.7
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】521470984
【氏名又は名称】スクエア パワー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】ダンネック イバン
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2013-0106786(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0159396(US,A1)
【文献】特開2006-096702(JP,A)
【文献】特開2016-088926(JP,A)
【文献】特開2003-171313(JP,A)
【文献】DAVID LAHARIE; ET AL,EFFECT OF REBAMIPIDE ON THE COLONIC BARRIER IN INTERLEUKIN-10-DEFICIENT MICE,DIGESTIVE DISEASES AND SCIENCES,NE,KLUWER ACADEMIC PUBLISHERS-PLENUM PUBLISHERS,2006年12月22日,VOL:52, NR:1,PAGE(S):84 - 92,https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/17186389/
【文献】T MATYSIAK-BUDNIK; ET AL,REVIEW ARTICLE: REBAMIPIDE AND THE DIGESTIVE EPITHELIAL BARRIER,ALIMENTARY PHARMACOLOGY & THERAPEUTICS,英国,2003年07月,VOL:18, NR:S1,PAGE(S):55 - 62,http://dx.doi.org/10.1046/j.1365-2036.18.s1.6.x
【文献】日本消化器病学会雑誌,第98巻第6号,2001年,636頁~643頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K,A61P
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物であって、レバミピドを含み、クローン病の予防および/または治療使用するための医薬組成物
【請求項2】
前記方法が、レバミピドと、クローン病に対して有効な少なくとも1つの他の薬剤とを組み合わせることを含む
請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記方法が、クローン病に対して有効な、ある用量の少なくとも1つの他の薬剤で治療を受けている人にレバミピドを投与するステップ;および前記他の薬剤の用量を減量するステップを含む
請求項2に記載の医薬組成物
【請求項4】
レバミピド投与の開始時に前記他の薬剤の用量を減量する
請求項3に記載の医薬組成物
【請求項5】
症状改善後に前記他の薬剤の用量を減量する
請求項3に記載の医薬組成物
【請求項6】
前記人が寛解に達した後に前記他の薬剤を中止する
請求項2ないし5のいずれかに記載の医薬組成物
【請求項7】
レバミピドをクローン病の治療方法に使用する
請求項1ないし6のいずれかに記載の医薬組成物
【請求項8】
前記方法が、寛解をもたらすために、活動性クローン病を有する人にレバミピドを投与することを含む
請求項7に記載の医薬組成物
【請求項9】
前記方法が単剤療法である
請求項1に記載の医薬組成物
【請求項10】
レバミピドをクローン病の予防方法に使用する
請求項9に記載の医薬組成物
【請求項11】
前記方法が、疾患の再燃および/または再発を予防するために、前記疾患の寛解期にある人にレバミピドを投与することを含む
請求項9または10に記載の医薬組成物
【請求項12】
医薬組成物であって、
レバミピドと、クローン病に対して有効な少なくとも1つの他の薬剤とを含み、クローン病の予防および/または治療使用するための医薬組成物
【請求項13】
前記他の薬剤が、好ましくはスルファサラジンおよびメサラジンから選択される5-アミノサリチレート;好ましくはプレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、およびブデソニドから選択される副腎皮質ステロイド;好ましくはチオプリン、メトトレキサート、シクロスポリン、およびタクロリムスから選択される免疫抑制剤;好ましくはメトロニダゾールおよびシプロフロキサシンから選択される抗生物質;ならびに好ましくはインフリキシマブ、アダリムマブ、ベドリズマブおよびこれらのバイオ後続品から選択される抗体から選択される
請求項2ないし8のいずれかに記載の医薬組成物、または、請求項12に記載の医薬組成物の組み合わせから成る医薬組成物
【請求項14】
前記他の薬剤が、副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、および抗体から選択される
請求項13に記載の医薬組成物
【請求項15】
前記他の薬剤が、副腎皮質ステロイド、好ましくは20~60mgのプレドニゾンまたは等価用量の別の副腎皮質ステロイドである
請求項13または14に記載の医薬組成物
【請求項16】
レバミピドを、腸管透過性上昇を有する人または腸管透過性上昇のリスクがある人において、クローン病の予防および/または治療に使用する
請求項1ないし15のいずれかに記載の医薬組成物
【請求項17】
前記腸管透過性上昇を有する人が、腸壁の軽度の炎症、慢性便秘、または胃不全麻痺から選択される少なくとも1つの状態を有する人である
請求項16に記載の医薬組成物
【請求項18】
前記腸管透過性上昇のリスクがある人が、ストレス、バランスの悪い食事、細菌、ウイルス、または寄生虫感染を有する人である
請求項16に記載の医薬組成物
【請求項19】
前記腸管透過性上昇のリスクがある人が、非ステロイド系抗炎症薬、アルコール、ニコチン、食品添加物、化学療法薬、および抗生物質から選択される少なくとも1つの物質に曝露されている人である
請求項16に記載の医薬組成物
【請求項20】
前記腸管透過性上昇のリスクがある人が、ストレス性胃炎、食中毒、コール酸の不均衡、胃のHClおよびペプシン分泌、非感染性下痢、放射線療法、化学療法、GIT粘膜の感染性もしくは感染後障害、微生物異常から選択される少なくとも1つの状態を有する人または少なくとも1つの状態に曝露されている人である
請求項16に記載の医薬組成物
【請求項21】
レバミピドを、好ましくは、錠剤、カプセル剤、糖衣剤、顆粒剤、微粒剤(サシェ)、口内分散性錠剤もしくはフィルム、舌下錠、粉砕錠、内用液、内用懸濁液、シロップ、うがい薬、または口腔洗浄液から選択される経口剤形で投与する
請求項1ないし20のいずれかに記載の医薬組成物
【請求項22】
前記経口剤形が錠剤である
請求項21に記載の医薬組成物
【請求項23】
前記経口剤形が、腸溶性放出、好ましくは、腸溶性徐放または腸溶性制御放出の形態である
請求項21または22に記載の医薬組成物
【請求項24】
前記剤形が、レバミピドと、充填剤、結合剤、潤滑剤、流動化剤、崩壊剤/膨潤剤、可溶化剤、腸溶放出剤、粘膜付着性成分、徐放剤、防腐剤、コーティング、および着色剤から選択される少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤とを含む
請求項21または22に記載の医薬組成物
【請求項25】
レバミピドを、1~5000mg、より好ましくは50~2500mg、さらにより好ましくは100~1000mg、および最も好ましくは300~600mgの1日用量で投与する
請求項1ないし24のいずれかに記載の医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に腸管透過性上昇を有する人または腸管透過性上昇のリスクがある人における、クローン病の予防および/または治療の方法に使用するレバミピドに関する。
【背景技術】
【0002】
クローン病(CD)は、炎症性腸疾患(IBD)に属する病気であり、遺伝子、環境、および微生物因子が関与する慢性多因子性疾患である。正確な原因は不明であるものの、粘膜バリアを乱し、腸内微生物叢の健全なバランスを変化させ、腸管免疫反応を異常に刺激する環境因子が発症の引き金になると考えられている。これにより、下痢、体重減少、疲労、直腸出血、および腹痛などの典型的な症状を伴う腸管の慢性炎症が引き起こされる。
【0003】
この疾患は年齢を問わず発症する可能性があるが、通常は10~20代で始まる。欧州と北米では1,000人に約3人が罹患し、発生率は男女で同程度と推定されている。小腸末端部から大腸の始めの部分にかけて好発するが、口から肛門まで、消化管のどの部位でも起こり得る。非連続性の病変と斑状炎症がCDの典型的な所見である。
【0004】
現時点でクローン病を完治させる治療法はなく、現在の治療は、症状を引き起こす炎症を緩和することを目指している。長年にわたって、CD治療のためにいくつかのクラスの薬剤が開発されてきた。薬剤の選択は、炎症の部位、疾患の重症度、合併症、および内科的治療に対する患者の反応によって決まる。軽症であれば、5-アミノサリチレート単独または抗生物質との併用で治療が可能であるが、患者の多くは症状を抑えるために最終的に副腎皮質ステロイドを必要とする。これらは炎症を抑え、寛解をもたらすのに役立つが、長期間の使用には副作用が伴うことがよく知られているため、維持療法としては推奨されていない。さらに、副腎皮質ステロイドを中止すると、患者の約半数で疾患が悪化する。チオプリンやメトトレキサートなどの免疫抑制剤は、副腎皮質ステロイドに抵抗性や依存性のある患者によく処方されるが、これらの薬剤は作用発現が遅く、副作用も強く、臨床的寛解率は約40%である。
【0005】
インフリキシマブ(レミケード)やアダリムマブ(ヒュミラ)などのTNFαに対するモノクローナル抗体を用いた生物学的療法は、副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤による従来の治療に反応しない患者に使用される。その他の選択肢に、ヒトIL-12およびIL-23の拮抗薬として作用するウステキヌマブ(ステラーラ)のようなインターロイキンに対する抗体、およびインテグリンα4β7を標的として、腸管選択的な抗炎症活性を発揮するベドリズマブ(エンタイビオ)のようなヒトインテグリンに結合するものがある。モノクローナル抗体は作用の発現が比較的早く、粘膜治癒を促すが、最大で30%の患者が治療に反応せず(一次不応答者)、最初はこれらの薬剤が有効であった患者のうち最大50%が12ヵ月以内に治療に対する反応を失い(二次不応答者)、用量増量または治療変更が必要となることがある。単剤療法は比較的安全とみなされているが、患者は感染しやすくなり、悪性腫瘍のリスクも高くなる。さらに、寛解が持続している患者の治療中断は、根強い問題となっている。
【0006】
上述の治療の中には、長期間にわたって疾患症状を軽減し得るものもあるが、大多数のCD患者は最終的に手術が必要となる。そのため、腸の炎症を抑制し、疾患症状の持続的な完全寛解をもたらす治療法に対しては、なおも高いアンメットメディカルニーズがある。このニーズに応えるため、本発明は、CDの導入療法と維持療法の両方に適した安価な治療を提供する。
【0007】
レバミピド(化学名:2-[(4-クロロベンゾイル)アミノ]-3-(2-オキソ-1H-キノリン-4-イル)プロパン酸)は、急性および/または慢性胃炎や胃潰瘍の治療に用いられる。その作用機序は、粘膜の防御、フリーラジカルの捕捉、およびシクロオキシゲナーゼ-2をコードする遺伝子の一時的な活性化に関係している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Diao L et al.Rebamipide suppresses diclofenac-induced intestinal permeability via mitochondrial protection in mice.World J Gastroenterol.2012;18(10):1059-1066
【文献】Katz KD et al.Intestinal permeability in patients with Crohn’s disease and their healthy relatives.Gastroenterology.1989;97(4):927-931
【文献】Irvine EJ & Marshall JK.Increased intestinal permeability precedes the onset of Crohn’s disease in a subject with familial risk.Gastroenterology.2000;119(6),1740-1744
【文献】Sequeira I.R.et al.(2014)PLoS One;9(6):e99256
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
クローン病患者にレバミピドを投与すると、疾患症状を抑えることができ、さらに疾患の完全寛解に至るかもしれないことが、予想外に判明した。胃腸疾患の治療のみに臨床使用されているレバミピドが、主に腸管に発現するクローン病に有効である可能性については報告がなかったため、これは非常に驚くべきことである。レバミピドは1990年以降市販されているが、消化管内での挙動についてはほとんど知られていない。この分子は消化管でほとんど吸収されないため、経口投与では治療効果を発揮するのに十分な濃度で腸管粘膜に到達するとみられる。それにもかかわらず、知る限り、レバミピドの経口投与がクローン病の治療に有効だとする報告はない。
【0010】
レバミピドの作用機序は、腸内でムチン産生を促進し、炎症を抑制し、さらに上皮細胞のタイトジャンクション機能を回復させることで、腸壁の透過性を低下させ、腸機能を正常化するという能力に基づいている可能性が高い(非特許文献1)。これが、慢性炎症の抑制や腸の回復をもたらし、さらなる組織損傷を防ぎ、疾患症状を軽減する。実際、さまざまな作用物質に対する小腸管透過性の上昇はクローン病患者に多くみられ(非特許文献2)、遺伝的な傾向のある人では発症に先行することが報告されている(非特許文献3)。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって本発明は、特に腸管透過性を低下させることによる、クローン病の予防および/または治療の方法に使用するためのレバミピドまたはその医薬組成物を提供する。方法は、有利には、炎症を軽減し、症状を緩和し、および/もしくは以下に定義する寛解をもたらすための導入療法、ならびに/または寛解に達した人における疾患の再燃もしくは再発を防ぐための維持療法に使用し得る。
【0012】
本明細書で使用する「レバミピド」は、無水物形態、水和物形態、または溶媒和形態(例えば半水和物形態)、結晶形態など、この活性成分のあらゆる形態、および薬学的に許容されるこれらの塩を含むものとする。
【0013】
「予防」または「予防的使用」は、本明細書において、以前の治療を経て完全寛解または部分寛解した患者における再発を含む、疾患およびその症状の発現を予防すること、または遅延させることと理解されるものとする。以前の治療を段階的に縮小または中止した後に寛解が維持されること、および/または疾患症状が悪化しないことも含むものとする。さらに、腸閉塞、潰瘍および瘻孔、裂肛、結腸がん、関節炎、ブドウ膜炎、結節性紅斑、壊疽性膿皮症、またはアフタ性口内炎などの疾患合併症の予防も含む。
【0014】
「治療」は、本明細書において、疾患の進行を抑制する、阻止する、遅延させる、もしくは逆転させることができる、および/または小腸もしくは消化管の他の場所における慢性炎症を抑制できる療法と理解されるものとする。また、腹痛、下痢、腹部膨満感、血便、口内炎、疲労、食欲減退および体重減少、栄養不良、皮膚炎などの疾患の臨床症状の改善または緩和を含むことも意図される。
【0015】
さらに本発明は、こうした治療を必要とする被験者に、薬学的に有効な量のレバミピドまたはその医薬組成物を投与することによる、クローン病の予防および/または治療の方法を提供する。被験者は、好ましくはヒト被験者、特に、腸管透過性上昇を有する人または腸管透過性上昇のリスクがある人である。さらに本発明は、特に、腸管透過性上昇を有する人または腸管透過性上昇のリスクがある人において、クローン病を予防および/または治療する薬剤の製造におけるレバミピドの使用も含む。
【0016】
一態様では、レバミピドは、腸管透過性上昇を有する人、または、例えば家族の既往症のために、もしくは腸管透過性上昇を誘発する条件もしくは物質に曝露されているために、腸管透過性上昇のリスクがある人におけるクローン病の予防および/または治療の方法に使用される。
【0017】
本明細書で使用する「腸管透過性上昇」という用語は、腸壁の無症状の慢性炎症(軽度の炎症)に起因するものなど、わずかな腸壁欠損を指す。こうした腸壁欠損は、クローン病だけでなく、慢性便秘や胃不全麻痺など他の医学的状態を呈することもある。腸管透過性上昇は、ラクツロース・マンニトール試験(LAMA試験、例えば非特許文献4)、A-1-AT試験、またはゾヌリン試験などの特定の試験を用いて診断し得る。通常、腸管透過性上昇とは、半径が4オングストロームより大きい粒子に対する腸壁の透過性をいう。
【0018】
腸管透過性上昇を誘発する物質に、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)、例えばアセチルサリチル酸、イブプロフェン、ナプロキセン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、フルルビプロフェン、ジクロフェナク、ケトロラク、エトドラク、インドメタシン、トルメチン、ピロキシカム、メロキシカム、ならびに選択的COX-2阻害薬、例えばセレコキシブおよびエトリコキシブ、アルコール、ニコチン、食品添加物、抗生物質、ならびに化学療法薬などがある。したがって、レバミピドと、非ステロイド系抗炎症薬、化学療法薬、もしくは抗生物質との同時または連続併用投与は腸壁損傷を防ぎ、それにより腸管透過性上昇に関連するクローン病の発症を予防する、または遅延させる。また、レバミピドの予防的使用も、アルコール、ニコチン、または腸壁を損傷することが知られている他の薬物を乱用する人に有益であり得る。本明細書で使用する「乱用する」という用語は、医学的な理由で必要な消費ではなく、依存状態および/または腸壁の軽度の炎症などの健康障害をもたらす任意の消費を含む意味がある。
【0019】
腸管透過性上昇などの状態は、ストレス、バランスの悪い食事、アレルギー、細菌、ウイルス、または寄生虫感染、およびさまざまな薬物治療に関係する。そのような状態には、具体的には、ストレス性胃炎、食中毒、コール酸の不均衡、胃のHClおよびペプシン分泌、非感染性下痢、放射線療法、化学療法、GIT粘膜の感染性または感染後障害、(例えば抗生剤治療によって誘発される)微生物異常(dysmicrobia)などがある。
【0020】
腸管透過性上昇を有する人は、通常、腸壁の軽度の炎症、慢性便秘、または胃不全麻痺から選択される少なくとも1つの状態を有する。
【0021】
一態様では、レバミピドは、クローン病に対して有効な少なくとも1つの他の薬剤を用いた併用療法に使用され、該他の薬剤は、レバミピドと同時に、別々に、または連続的に投与することができる。好ましくは、併用療法は、活動性クローン病の治療法で用いられる。より好ましくは、併用療法は、炎症を軽減し、症状を緩和し、および/または寛解をもたらす維持療法に使用される。
【0022】
薬剤という用語は、低分子、すなわち分子量が約900g/モル未満のものと、高分子、特に抗体の両方を包含する意味がある。クローン病に対して有効な少なくとも1つの他の薬剤は、好ましくは、5-アミノサリチレート、副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、抗生物質、および抗体から選択される。より好ましくは、該他の薬剤は、副腎皮質ステロイド、免疫抑制剤、および抗体から選択される。最も好ましくは、該他の薬剤は副腎皮質ステロイドである。
【0023】
5-アミノサリチレートは、主に軽度から中等度のクローン病の管理に使用される抗炎症化学療法剤である。これらの化合物は、メサラジン(すなわち5-アミノサリチル酸、5-ASA、またはメサラミン)、ならびにスルファサラジン、オルサラジン、およびバルサラジドなど抗炎症性が知られているこれらの複合誘導体を含む。好ましくは、5-アミノサリチレートはメサラジンおよびスルファサラジンから選択される。
【0024】
副腎皮質ステロイドは抗炎症薬の一種で、消化管内の炎症を軽減し、症状を緩和するために使用される。本発明によるレバミピドと併用される副腎皮質ステロイドは、好ましくは、プレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、またはブデソニドから選択される。有利には、少なくとも1つのチオプリンとさらに組み合わせて、3剤併用とすることができる。副腎皮質ステロイドは、経口、直腸、または静脈内投与し得る。
【0025】
一実施形態では、副腎皮質ステロイドは経口製剤(例えば錠剤またはカプセル剤)である。この剤形は、通常、軽度から中等度の活動性疾患を有する人に投与される。有利には、経口ブデソニドも、小腸末端部から大腸の始めの部分にかけて発症している軽度から中等度の疾患に使用される。
【0026】
別の実施形態では、副腎皮質ステロイドは直腸製剤(例えば座剤、浣腸、または注腸フォーム)であり、好ましくは、ヒドロコルチゾン、メチルプレドニゾロン、およびブデソニドから選択される。直腸製剤は、結腸または直腸の下部に発症している活動性疾患を有する人に特に好適である。疾患に冒されている領域を特異的に標的とするため、経口製剤よりも副作用が少ない。
【0027】
別の実施形態では、副腎皮質ステロイドは静脈内投与され、好ましくは、ヒドロコルチゾンおよびメチルプレドニゾロンから選択される。静脈内投与は、重度の活動性疾患を有する患者に特に好適である。
【0028】
免疫抑制剤は免疫系の活動を阻害し、それにより炎症を軽減する薬剤である。好ましくは、チオプリン、メトトレキサート、シクロスポリン、およびタクロリムスから選択される。チオプリンおよびメトトレキサートが特に好ましい。チオプリンは、好ましくはアザチオプリンおよび6-メルカプトプリンから選択されるプリン代謝拮抗剤である。有利には、これらはレバミピドおよび少なくとも1つの副腎皮質ステロイドまたは少なくとも1つの抗体と組み合わせて、3剤併用とすることができる。
【0029】
抗生物質は、主に軽度から中等度の疾患で使用され、腸内細菌の量を低減し、構成を変えることにより、症状を緩和する。膿瘍、瘻孔、および回腸嚢炎など感染症やクローン病の合併症の管理にも使用される。好ましくは、抗生物質は、メトロニダゾール、シプロフロキサシン、リファキシミン、およびアンピシリンから選択される。とりわけ静脈内注入剤形であるメトロニダゾールおよびシプロフロキサシンが特に好ましい。
【0030】
抗体(生物製剤)は、サイトカインまたはインテグリンなど疾患の特異的なメディエーターを標的とするタンパク質分子である。これらは、ヒト化抗体およびキメラ抗体を含む、ヒト由来またはマウス由来など任意の起源であってよい。本明細書で使用する「抗体」という用語は、抗体の抗原結合断片、すなわち、F(ab’)2、Fab、Fab’、Fv、およびscFv断片などの抗体の可変領域を含む断片、ならびに化学的に変化したもの、例えばペグ化したものなどの誘導体も含む意味がある。
【0031】
一実施形態では、抗体は、TNFαに対する抗体から、好ましくは、インフリキシマブ、アダリムマブ、ゴリムマブ、セルトリズマブペゴル、およびこれらのバイオ後続品から選択される。より好ましくは、抗体は、インフリキシマブ、アダリムマブ、およびこれらのバイオ後続品から選択される。
【0032】
別の実施形態では、抗体は、IL-12および/またはIL-23などのインターロイキンに対する抗体から選択される。好ましくは、抗体はウステキヌマブまたはこれらのバイオ後続品である。
【0033】
さらに別の実施形態では、抗体は、インテグリン、特にインテグリンα4β7に対する抗体から選択される。好ましくは、抗体は、ナタリズマブ、ベドリズマブ、およびこれらのバイオ後続品から選択される。より好ましくは、抗体はベドリズマブまたはこれらのバイオ後続品である。
【0034】
より具体的には、上記で定義されたクローン病に対して有効な少なくとも1つの他の薬剤との併用療法は、クローン病に対して有効な、ある用量の少なくとも1つの他の薬剤で治療を受けている人にレバミピドを投与するステップ;および該他の薬剤の用量を減量するステップを含む。
【0035】
有利には、併用療法は、クローン病に対して有効な少なくとも1つの他の薬剤、特に20~60mgのプレドニゾンまたは等価用量の別の副腎皮質ステロイドを用いた治療へのアドオンとしてレバミピドを投与するステップ;および該他の薬剤の用量を減量するステップを含む。
【0036】
一実施形態では、他の薬剤の用量は、レバミピド投与の開始時に、すなわち、患者にレバミピドを与え始めると同時に減量する。
【0037】
別の実施形態では、該他の薬剤の用量は、CDAIの100点を超える低下、または糞便中カルプロテクチンの150μg/gを超える低下と定義される症状改善後に減量する。
【0038】
少なくとも1つの他の薬剤は、内視鏡検査(粘膜治癒)および/またはCDAIが150点未満(臨床的寛解)および/または糞便中カルプロテクチンが200μg/g未満(炎症抑制)と定義される寛解に患者が到達した後に完全に中止し得る。
【0039】
併用療法は、有利には、他の薬剤の用量節約のために、特に副腎皮質ステロイドの用量を節約して有害作用を防ぐために使用し得る。したがって、さらに本発明は、クローン病に対して有効な少なくとも1つの他の薬剤の用量を節約する方法に使用するためのレバミピドを提供する。方法は、有利には、クローン病に対して有効な、ある用量の該他の薬剤、好ましくは20~60mgのプレドニゾンまたは等価用量の別の副腎皮質ステロイドを用いて治療を受けている人にレバミピドを投与するステップ;および該他の薬剤の用量を減量するステップを含む。
【0040】
一態様では、レバミピドは単剤療法に使用される。すなわち、治療される被験者はレバミピドのみの投与を受け、クローン病に対して有効な任意の他の薬剤を受け取らない。好ましくは、レバミピド単剤療法は、例えば腸管透過性上昇を有する、または腸管透過性上昇のリスクがあるためにクローン病に罹患しやすい人における最初の発症の予防、および/または導入療法に反応して上記に定義した寛解に達した人における疾患の再燃または再発の予防を含むクローン病の予防方法に使用される。より好ましくは、レバミピド単剤療法は、炎症を予防および/または寛解を維持するためのクローン病の維持療法に使用される。
【0041】
さらに本発明は、レバミピドと、クローン病に対して有効な少なくとも1つの他の薬剤とを含む治療の組み合わせを提供する。薬物という用語は、低分子、すなわち分子量が約900g/モル未満のものと、高分子、例えば、好ましくはTNFα、インターロイキン、またはインテグリンα4β7などのインテグリンから選択される抗体の両方を包含する意味がある。少なくとも1つの他の薬剤は、5-アミノサリチレート、好ましくはスルファサラジンまたはメサラジン;副腎皮質ステロイド、好ましくはプレドニゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、またはブデソニド;免疫抑制剤、好ましくはアザチオプリン、6-メルカプトプリン、メトトレキサート、シクロスポリン、およびタクロリムス;抗生物質、好ましくはメトロニダゾールおよびシプロフロキサシン;ならびに抗体(生物製剤)、好ましくはインフリキシマブ、アダリムマブ、ベドリズマブおよびこれらのバイオ後続品から選択される。
【0042】
好ましい実施形態では、この組み合わせは、レバミピドと、副腎皮質ステロイド、チオプリン、および抗体から選択される少なくとも1つの他の薬剤とを含む。より好ましい実施形態では、本発明は、レバミピドと、少なくとも1つの副腎皮質ステロイド、特に20~60mgのプレドニゾンまたは等価用量の別の副腎皮質ステロイドとを含む治療の組み合わせを提供する。
【0043】
本発明に記載する治療適応において、レバミピドは、好ましくは、錠剤、カプセル剤、糖衣剤、顆粒剤、微粒剤(サシェ)、口内分散性錠剤もしくはフィルム、舌下錠、粉砕錠、内用液、内用懸濁液、シロップ、うがい薬、または口腔洗浄液などの経口投与用の剤形で使用し得る。好ましくは、錠剤、カプセル剤、糖衣剤、および顆粒剤などの経口剤形は、腸溶性徐放または腸溶性制御放出などの腸溶性放出形態である。
【0044】
剤形は、充填剤、結合剤、潤滑剤、流動化剤、崩壊剤/膨潤剤、可溶化剤、腸溶放出剤、粘膜付着性成分、徐放剤、防腐剤、コーティング、および着色剤から選択される少なくとも1つの薬学的に許容される賦形剤を含み得る。このような賦形剤は、医薬製剤の技術分野で知られており、当業者であれば、関連する剤形に好適な賦形剤を選択できる。
【0045】
剤形および組成物を調製する好適な方法には、活性成分を補助物質および成分と一緒に湿式造粒もしくは乾式造粒する工程、または活性成分を補助物質および成分と一緒に直接ホモジナイズする工程がある。
【0046】
充填剤は、好ましくは、糖アルコール(マンニトール、ソルビトール、キシリトールなど)、乳糖、デンプン、α化デンプン、セルロース、ケイ化セルロース、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、ショ糖、および硫酸カルシウムから選択し得る。充填剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して5~90重量%の量で存在し得る。
【0047】
結合剤は、好ましくは、デンプン、α化デンプン、ポビドン、コポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、セルロースから選択し得る。結合剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して1~20重量%の量で存在し得る。
【0048】
潤滑剤は、好ましくは、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、ポリエチレングリコール、およびフマル酸ステアリルナトリウムから選択し得る。潤滑剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して最大5重量%の量で存在し得る。
【0049】
流動化剤は、好ましくは、シリカ、タルク、およびラウリル硫酸ナトリウムから選択し得る。流動化剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して0.5~10重量%の量で存在し得る。
【0050】
崩壊剤および/または膨潤剤は、好ましくは、クロスポビドン、コポビドン、ポビドン、クロスカルメロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デンプン、α化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、デンプングリコール酸ナトリウムから選択し得る。崩壊剤および/または膨潤剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して1~50重量%の量で存在し得る。
【0051】
可溶化剤は、好ましくは、ポロクサマー、ラウリル硫酸ナトリウム、ポリソルベート、ポリオキシル化(polyoxylated)オレイン酸グリセリド、グリセロールモノステアレート、およびシクロデキストリンから選択し得る。可溶化剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して最大30重量%の量で存在し得る。
【0052】
腸溶放出剤は、好ましくは、フタル酸ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリ(メタクリル酸-co-メタクリル酸メチル)、酢酸フタル酸セルロース、ポリ(酢酸フタル酸ビニル)、アロイリット酸のエステルから選択し得る。腸溶放出剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して2~40重量%の量で存在し得る。
【0053】
粘膜付着性成分は、好ましくは、アルギン酸プロピレングリコール、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸カリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルメロースナトリウム、ポリアクリル酸、ポリエチレンオキシド、ポビドン、およびコポビドンから選択し得る。粘膜付着性成分は、好ましくは、組成物の総重量に対して5~70重量%の量で存在し得る。
【0054】
徐放剤は、好ましくは、セルロースおよびセルロースエーテル、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、エチルセルロース、メチルセルロース、ポリ酢酸ビニル、アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコール、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸カリウム、ポリメタクリル酸塩、グアーガム、キサンタンガム、カラギーナン、ヒマシ油、ミツロウ、カルナウバロウ、パルミトステアリン酸グリセロール、モノステアリン酸グリセロール、ベヘン酸グリセロール、ステアリルアルコール、ポリアクリル酸から選択し得る。徐放剤は、好ましくは、組成物の総重量に対して5~70重量%の量で存在し得る。
【0055】
経口医薬組成物は、いくつかの実施形態では、胃液と接すると二酸化炭素を発生する可能性のある薬学的に許容される成分をさらに含み、このような成分は、好ましくは、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の炭酸塩および炭酸水素塩から選択し得、また好ましくは、組成物の総重量に対して1~50重量%の範囲の量で存在し得る。
【0056】
レバミピドの通常の1日用量は、平均的なヒト(体重70kg)で1~5000mg、より好ましくは50~2500mg、さらにより好ましくは100~1000mg、および最も好ましくは300~600mgまたは300~900mgに及び得る。
【0057】
レバミピドの即放性製剤を投与する際、1日用量は通常、複数の用量に分割し、これを別々に投与する。1日用量は2~6回分の用量に分割し、1日2回または1日3回または1日4回または1日5回または1日6回投与し得る。好ましい実施形態では、1日用量を3回分の用量に分割し、1日3回投与、例えば100mg用量を1日3回投与する。別法として、1日用量すべてを1回で投与することができ、特に、徐放性製剤の形態である場合には、例えば300mg用量を1日1回投与する。
【発明を実施するための形態】
【0058】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。しかしながら、以下の実施例は例示のためにのみ提供されており、したがって本発明はこれに限定されない。
【実施例
【0059】
5年以上クローン病に罹患し、標準的治療に十分な反応を示していない複数の患者に、レバミピド錠剤を1日3回投与した。これらの患者は、多様な薬剤による治療歴が長かったものの、標準的な選択肢では疾患再燃後に寛解に達することができなかった。重症度はCDAIで、炎症度は糞便中カルプロテクチンで定量化した。
【0060】
クローン病活動性指数(CDAI)は、クローン病患者の症状を定量化するのに用いられる調査手段である。8項目からなり、各項目を重み付けで調整した後に合計する。クローン病の寛解はCDAIが150未満と定義され、CDAIが450より大きければ、重症と定義される。
【0061】
カルプロテクチン(FC)は低分子のカルシウム結合タンパク質で、糞便中濃度が疾病重症度と相関しているため、炎症性腸疾患のバイオマーカーとして用いられている。糞便中カルプロテクチンの値が200μg/g未満であれば、正常とみなされる。これは市販の酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)キット(EK-CAL、Buhlmann)を用いて便試料で測定した。
【実施例1】
【0062】
16年前にクローン回結腸炎と診断された女性患者(39歳)は、疾患の過程で、経口、非経口、および外用副腎皮質ステロイド、アザチオプリン、ならびにTNFα阻害剤のインフリキシマブおよびアダリムマブを含むさまざまな薬剤の投与を受けてきた。これらの抗体に対し免疫反応が起こり、皮膚や関節に影響が出たため、ベドリズマブ(エンタイビオ)に変更したところ、その後22ヵ月間安定した状態が続いた。疾患再燃時に、患者は腹痛、排便回数増加、関節痛、筋肉痛、微熱、疲労、乾燥性皮膚炎を呈し、糞便中カルプロテクチン値は最大1939μg/g、CDAIは358点であった。メチルプレドニゾロン24mg/日を用いて治療を継続したが、奏功しなかった。副腎皮質ステロイド治療と同時にレバミピド100mgの1日3回投与を開始したところ、6週間の治療後に疾患症状の緩和(CDAIが181点)とカルプロテクチン値の228μg/gへの低下が示され、速やかに寛解に至った。その後、副腎皮質ステロイドの用量を半分に減量したが、特に有害作用は認められなかった。さらに6週間後、カルプロテクチン値が63μg/g、CDAIが73点に低下した時点で副腎皮質ステロイドを完全に中止し、レバミピドのみ投与を継続した。これまでのところ、疾患活動性の悪化は認められていない。
【実施例2】
【0063】
5年前にクローン回結腸炎と診断された男性患者(27歳)は、メサラジン(ペンタサ)、ブデソニド、およびメトロニダゾールを用いた治療を受けた。患者はメサラジン治療開始から3ヵ月後に膵炎を発症した。それを受けて、薬剤がアザチオプリンとプレドニゾンとの併用に、その後メトトレキサートとの併用に変更された。しかしながら、薬物療法は忍容性が良好でなく、生物療法が適応となった。患者はインフリキシマブ(レミケード)、続いてアダリムマブ(ヒュミラ)の治療を受けた。最後に再燃した後(カルプロテクチンが2215μg/g、CDAIが479点)、プレドニゾン40mg/日の投与を受けたが、寛解には至らなかった。プレドニゾンへのアドオンとして、レバミピド200mgの1日3回投与を開始した。6週間後(カルプロテクチンが356μg/g、CDAIが225点)、レバミピドを100mgの1日3回、プレドニゾンを30mg/日に調整した。続いて、プレドニゾンの用量を2週間ごとに10mgずつ減量し、6週間後に完全に中止した(カルプロテクチンが110μg/g、CDAIが84点)。レバミピド100mgの1日3回投与は継続された。これまでのところ、疾患活動性の悪化は認められていない。
【実施例3】
【0064】
12年前にクローン回腸炎と診断された女性患者(32歳)は、ブデソニドとメサラジンを用いた治療を受け、約10年間寛解が維持されていた。その後、1日に3、4回の腹痛と軟便で入院し、この時カルプロテクチン値が最大1051μg/g、CDAIが377点であった。アザチオプリンが処方されたが、2週間後に急性膵炎のため中止された。プレドニゾン50mg/日とレバミピド100mgの1日3回投与を併用して治療が継続された。臨床症状の緩和が認められたことから、14日後にプレドニゾンの用量を25mgに調整し、さらに6週間後、カルプロテクチン値が122μg/g、CDAIが98点に低下したところで完全に中止し、レバミピドのみ継続した。これまでのところ、疾患活動性の悪化は認められていない。
【0065】
レバミピドは、標準的治療の選択肢を使い切った患者においても、疾患症状を管理し、カルプロテクチン値を正常化し、寛解をもたらすことができることが、患者例で得られた結果から示される。本治療は、倫理的な理由から副腎皮質ステロイドのアドオンとして開始されたが、単剤療法として処方されても有効であると考えられる。重要な点として、副腎皮質ステロイドのみの治療では疾患症状を完全に抑制することも、糞便中カルプロテクチン値を200μg/g未満、かつCDAIを150点未満に低下させることもできなかった。さらに、レバミピドのみを用いた長期治療は忍容性が良好であり、寛解を維持できるように思われる。