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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】被覆丸線ワイヤ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/60 20060101AFI20250205BHJP
   C25D 5/50 20060101ALI20250205BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20250205BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
H01L21/60 301F
C25D5/50
C25D7/00 H
C25D5/12
C25D7/00 S
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023561052
(86)(22)【出願日】2022-05-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-04-03
(86)【国際出願番号】 SG2022050275
(87)【国際公開番号】W WO2022235219
(87)【国際公開日】2022-11-10
【審査請求日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】10202104654V
(32)【優先日】2021-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SG
(73)【特許権者】
【識別番号】515298442
【氏名又は名称】ヘレウス マテリアルズ シンガポール ピーティーイー. リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ロ,ミー ワン
(72)【発明者】
【氏名】サランガパニ,ムラリ
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ヨン シェン
【審査官】豊島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-504472(JP,A)
【文献】特表2016-517623(JP,A)
【文献】特開2014-053610(JP,A)
【文献】国際公開第2020/218968(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L21/447-21/449
H01L21/60 -21/607
C25D 5/00 - 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を有するワイヤコアを備える丸線ワイヤであって、前記ワイヤコアが、その表面上に重ね合わされている被覆層を有し、前記ワイヤコア自体が、銀系ワイヤコアであり、前記被覆層が、厚さ1~100nmのパラジウム又はニッケルの内層と、隣接する厚さ1~250nmの金の外層とで構成されている、二重層であり、前記金の外層が、以下の固有特性A1)及びA2):
A1)長手方向で測定された、前記金の外層中の結晶粒の平均粒径が、0.1~0.8μmの範囲であることと、
A2)前記金の外層中の前記結晶粒の60%~100%が、<100>方向で配向されており、かつ前記金の外層中の前記結晶粒の0~20%が、<111>方向で配向されており、各%が、前記ワイヤの伸線方向に平行な配向を有する結晶粒の総数に対するものであることと、の双方を示す、丸線ワイヤ。
【請求項2】
8~80μmの範囲の平均直径を有する、請求項1に記載の丸線ワイヤ。
【請求項3】
前記銀系ワイヤコアが、(a)ドープ銀、(b)銀合金、又は(c)ドープ銀合金の形態の銀系材料から成る、請求項1又は2に記載の丸線ワイヤ。
【請求項4】
前記ドープ銀が、(a1)>99.49~99.997重量%の範囲の量の銀と、(a2)30~<5000重量ppmの総量の、銀以外の少なくとも1種のドーピング元素と、(a3)0~100重量ppmの総量の更なる成分と、から成る、銀系材料である、請求項3に記載の丸線ワイヤ。
【請求項5】
前記銀合金が、(b1)89.99~99.5重量%の範囲の量の銀と、(b2)0.5~10重量%の総量の少なくとも1種の合金元素と、(b3)0~100重量ppmの総量の更なる成分と、から成る、銀系材料である、請求項3に記載の丸線ワイヤ。
【請求項6】
前記銀合金が、パラジウムを唯一の合金元素として含む、請求項5に記載の丸線ワイヤ。
【請求項7】
前記銀合金が、1~2重量%のパラジウム含有量を有する、請求項6に記載の丸線ワイヤ。
【請求項8】
前記ドープ銀合金が、(c1)>89.49~99.497重量%の範囲の量の銀と、(c2)30~<5000重量ppmの総量の少なくとも1種のドーピング元素と、(c3)0.5~10重量%の範囲の総量の少なくとも1種の合金元素と、(c4)0~100重量ppmの総量の更なる成分とから成り、前記少なくとも1種のドーピング元素(c2)が、前記少なくとも1種の合金元素(c3)以外である、銀系材料である、請求項3に記載の丸線ワイヤ。
【請求項9】
前記ワイヤコアの前記表面上に重ね合わされている前記被覆層が、厚さ1~30nmのパラジウム又はニッケルの内層と、隣接する厚さ1~200nmの金の外層とで構成されている、二重層である、請求項1又は2に記載の丸線ワイヤ。
【請求項10】
以下の固有特性A3)~A5):
A3)長手方向で測定された、前記ワイヤコア中の結晶粒の平均粒径が、0.7~1.1μmの範囲であることと、
A4)前記ワイヤコアの長手方向で測定された、双晶境界の割合が、5~40%の範囲であることと、
A5)前記ワイヤコアの前記結晶粒の20~70%が、<100>方向で配向されており、かつ前記ワイヤコアの前記結晶粒の3~40%が、<111>方向で配向されており、各%が、前記ワイヤの前記伸線方向に平行な配向を有する結晶粒の総数に対するものであることと、のうちの、少なくとも1つを示す、請求項1又は2に記載の被覆丸線ワイヤ。
【請求項11】
前記金の外層が、アンチモン、ビスマス、ヒ素、及びテルルから成る群から選択される少なくとも1種の構成要素を、前記ワイヤの重量に基づいて10~300重量ppmの範囲の合計割合で含む、請求項1に記載の被覆丸線ワイヤ。
【請求項12】
アンチモン、ビスマス、ヒ素、及びテルルから成る群から選択される前記少なくとも1種の構成要素の前記合計割合が、前記金の外層の前記金の重量に基づいて300~9500重量ppmの範囲である、請求項11に記載の被覆丸線ワイヤ。
【請求項13】
アンチモンが前記金の外層内に単独で存在する、請求項11又は12に記載の被覆丸線ワイヤ。
【請求項14】
請求項に記載の被覆丸線ワイヤの製造プロセスであって、前記プロセスは、少なくとも工程(1)~(5):
(1)銀系前駆部材を準備する工程と、
(2)30~200μmの範囲の中間直径が得られるまで、前記前駆部材を伸長して、伸長前駆部材を形成する工程と、
(3)プロセス工程(2)の完了後に得られた前記伸長前駆部材の表面上に、パラジウム又はニッケルの内層と、隣接する金の外層との、二重層被覆を適用する工程と、
(4)所望の最終直径が得られ、かつ1~100nmの範囲の所望の最終厚さを有するパラジウム又はニッケルの内層と、1~250nmの範囲の所望の最終厚さを有する隣接する金の外層とで構成される、二重層が得られるまで、プロセス工程(3)の完了後に得られた前記被覆前駆部材を更に伸長する工程と、
(5)プロセス工程(4)の完了後に得られた前記被覆前駆体を、370超~520℃の範囲の炉設定温度で、0.8~10秒の範囲の曝露時間にわたって、最終的にストランド焼鈍することにより、前記被覆丸線ワイヤを形成する工程と、を含み、
工程(2)が、200~650℃の炉設定温度で、30~300分の範囲の曝露時間にわたって、前記前駆部材を中間バッチ焼鈍する、1つ以上のサブ工程を含み得るものであり、
工程(4)の前記更なる伸長が、以下の伸線パラメータB1)~B4):
B1)伸線速度が、毎分500~700mの範囲内であることと、
B2)各伸線ダイスの円錐角が、70~90度の範囲内であることと、
B3)各伸線ダイスにおけるベアリング長さが、対応する円形伸線ダイス開口部の直径の30~40%であることと、
B4)各伸線ダイスにおける前記被覆前駆部材の円形断面積の縮小が、7~15%の範囲であることと、が優先される、ダイス伸線を含む、プロセス。
【請求項15】
前記パラジウム又はニッケルの層と、前記金の外層とが、電気めっきによって適用される、請求項14に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀系ワイヤコアと、ワイヤコアの表面上に重ね合わされている被覆層とを備える、被覆丸線ワイヤに関する。本発明は更に、そのような被覆丸線ワイヤを製造するためのプロセスに関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0002】
エレクトロニクス用途及びマイクロエレクトロニクス用途におけるボンディングワイヤの使用は、周知の先行技術である。当初、ボンディングワイヤは金から作製されていたが、今日では、銅、銅合金、銀、及び銀合金などの、より安価な材料が使用されている。そのようなワイヤは、金属被覆を有し得る。
【0003】
ワイヤの形状に関して、最も一般的なものは、円形断面のボンディングワイヤ、及び、ほぼ矩形の断面を有するボンディングリボンである。どちらのタイプのワイヤ形状にも利点があり、特定の用途に対して有用である。
【0004】
本発明の目的は、ワイヤボンディング用途において使用するために好適な、被覆丸線銀系ワイヤを提供することであり、このワイヤは、ワイヤの柔軟性、空気雰囲気下でのFAB(free air ball;フリーエアボール)形成の実現可能性、並びに耐腐食性及び耐酸化性のような、基本的な要件を満たすことに加えて、特に、花状接合ボール(flowery bonded ball)の防止、並びに、ワイヤ揺れに関する安定したルーピング挙動にもまた秀でている。
【0005】
上述の目的の解決に貢献するものが、カテゴリを形成している請求項の主題によって提供される。カテゴリを形成している請求項の従属請求項は、本発明の好ましい実施形態を表すものであり、それらの主題もまた、上述の目的の解決に貢献する。
【0006】
本発明は、表面を有するワイヤコア(以降では、略して「コア」とも呼ばれるもの)を備える、丸線ワイヤであって、ワイヤコアが、その表面上に重ね合わされている被覆層を有し、ワイヤコア自体が、銀系ワイヤコアであり、被覆層が、厚さ1~100nmのパラジウム又はニッケルの内層と、隣接する厚さ1~250nmの金の外層とで構成されている、二重層であり、金の外層が、以下の固有特性A1)及びA2)(以下で説明されるような「試験方法A」を参照):
A1)長手方向で測定された、金の外層中の結晶粒の平均粒径が、0.1~0.8μm、好ましくは0.1~0.4μm、最も好ましい0.15~0.25μmの範囲であることと、
A2)金の外層中の結晶粒の60%~100%、好ましくは80~100%が、<100>方向で配向されており、かつ金の外層中の結晶粒の0~20%、好ましくは0~10%が、<111>方向で配向されており、各%が、ワイヤの伸線方向に平行な配向を有する結晶粒の総数に対するものであることとのうちの、少なくとも一方を示す、丸線ワイヤに関する。
【0007】
用語「固有特性」が、本明細書で使用される。固有特性とは、物体が(他の要因とは無関係に)それ自体で有する特性を意味するものであり、その一方で、外因的特性とは、その物体と他の外部要因との関係又は相互作用に依存する。
【0008】
本発明のワイヤは、好ましくは、マイクロエレクトロニクスにおけるボンディング用の、ボンディングワイヤである。それは、好ましくは、一体型の物体である。本発明に関して、用語「ボンディングワイヤ」は、円形断面と細い直径とを有するボンディングワイヤを含む。平均直径は、例えば、8~80μm、又は好ましくは12~55μmの範囲である。
【0009】
ワイヤ又はワイヤコアの平均直径、簡単に述べると直径は、「サイジング法」によって得ることができる。この方法によれば、規定の長さに対するワイヤの物理的重量が決定される。この重量に基づいて、ワイヤ又はワイヤコアの直径が、ワイヤ材料の密度を使用して算出される。直径は、特定のワイヤの5つの切片に対する5つの測定値の、算術平均として算出される。
【0010】
ワイヤコアは、銀系ワイヤコアであり、すなわち、ワイヤコアは、(a)ドープ銀、(b)銀合金、又は(c)ドープ銀合金の形態の、銀系材料から成る。
【0011】
本明細書で使用される用語「ドープ銀」とは、(a1)99.49超~99.997重量%の範囲の量の銀と、(a2)30~5000重量ppm未満の総量の、銀以外の少なくとも1種のドーピング元素と、(a3)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀及び少なくとも1種のドーピング元素以外の成分)とから成る、銀系材料を意味する。好ましい実施形態では、本明細書で使用される用語「ドープ銀」とは、(a1)99.49超~99.997重量%の範囲の量の銀と、(a2)30~5000重量ppm未満の総量の、カルシウム、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム、及びルテニウムから成る群から選択される少なくとも1種のドーピング元素と、(a3)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀、カルシウム、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム、及びルテニウム以外の成分)とから成る、ドープ銀を意味する。
【0012】
本明細書で使用される用語「銀合金」とは、(b1)89.99~99.5重量%、好ましくは97.99~99.5重量%の範囲の量の銀と、(b2)0.5~10重量%、好ましくは0.5~2重量%の範囲の総量の少なくとも1種の合金元素と、(b3)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀及び少なくとも1種の合金元素以外の成分)とから成る、銀系材料を意味する。好ましい実施形態では、本明細書で使用される用語「銀合金」とは、(b1)89.99~99.5重量%、好ましくは97.99~99.5重量%の範囲の量の銀と、(b2)0.5~10重量%、好ましくは0.5~2重量%の範囲の総量の、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム、及びルテニウムから成る群から選択される少なくとも1種の合金元素と、(b3)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム、及びルテニウム以外の成分)とから成る、銀合金を意味する。パラジウムを唯一の合金元素として含む銀合金、特に、1~2重量%、特に1.5重量%のパラジウム含有量を有する銀合金が、最も好ましい。
【0013】
本明細書で使用される用語「ドープ銀合金」とは、(c1)89.49超~99.497重量%、好ましくは97.49~99.497重量%の範囲の量の銀と、(c2)30~5000重量ppm未満の総量の少なくとも1種のドーピング元素と、(c3)0.5~10重量%、好ましくは0.5~2重量%の範囲の総量の少なくとも1種の合金元素と、(c4)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀、上記少なくとも1種のドーピング元素、及び上記少なくとも1種の合金元素以外の成分)とから成り、上記少なくとも1種のドーピング元素(c2)が、上記少なくとも1種の合金元素(c3)以外である、銀系材料を意味する。好ましい実施形態では、本明細書で使用される用語「ドープ銀合金」とは、(c1)89.49超~99.497重量%、好ましくは97.49~99.497重量%の範囲の量の銀と、(c2)30~5000重量ppm未満の総量の、カルシウム、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム、及びルテニウムから成る群から選択される少なくとも1種のドーピング元素と、(c3)0.5~10重量%、好ましくは0.5~2重量%の範囲の総量の、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム、及びルテニウムから成る群から選択される少なくとも1種の合金元素と、(c4)0~100重量ppmの総量の更なる成分(銀、カルシウム、ニッケル、白金、パラジウム、金、銅、ロジウム、及びルテニウム以外の成分)とから成り、上記少なくとも1種のドーピング元素(c2)が、上記少なくとも1種の合金元素(c3)以外である、ドープ銀合金を意味する。
【0014】
本開示は、「更なる成分」及び「ドーピング元素」に言及している。任意の更なる成分の個々の量は、30重量ppm未満である。任意のドーピング元素の個々の量は、少なくとも30重量ppmである。重量%及び重量ppmで示された全ての量は、コア又はその前駆部材若しくは伸長された前駆部材の総重量に基づく。
【0015】
本発明のワイヤのコアは、0~100重量ppm、例えば10~100重量ppmの範囲の総量の、いわゆる更なる成分を含み得る。本文脈において、「不可避不純物」とも称される場合が多い更なる成分は、使用される原料中に存在する不純物又はワイヤコア製造プロセスに由来する、微量の化学元素及び/又は化合物である。更なる成分の総量が、0~100重量ppmと低いことにより、ワイヤ特性の良好な再現性が保証される。コア中に存在する更なる成分は、通常、別途添加されているものではない。個々の更なる成分のそれぞれは、ワイヤコアの総重量に基づいて、30重量ppm未満の量で含まれている。
【0016】
ワイヤのコアは、バルク材料の均質領域である。いかなるバルク材料も、ある程度異なる特性を示し得る表面領域を常に有するものであるため、ワイヤのコアの特性は、バルク材料の均質領域の特性として理解される。このバルク材料領域の表面は、形態、組成(例えば、硫黄、塩素、及び/又は酸素の含有量)、及び他の特徴の点で異なり得る。この表面は、ワイヤコアと、そのワイヤコア上に重ね合わされている被覆層との間の、界面領域である。典型的には、被覆層は、ワイヤコアの表面上に完全に重ね合わされている。ワイヤのコアと、その上に重ね合わされている被覆層との間の、このワイヤの領域には、コアと被覆層との双方の材料の組み合わせが存在し得る。
【0017】
ワイヤコアの表面上に重ね合わされている被覆層は、厚さ1~100nm、好ましくは厚さ1~30nmのパラジウム又はニッケルの内層と、厚さ1~250nm、好ましくは厚さ20~200nmの隣接する金の外層とで構成されている、二重層である。この文脈において、用語「厚さ」又は「被覆層厚さ」とは、コアの長手方向軸線に対して垂直方向の、被覆層のサイズを意味する。
【0018】
本発明の被覆丸線ワイヤ、又はその金の外層は、それぞれ、以下の固有特性A1)及びA2):
A1)長手方向で測定された、金の外層中の結晶粒の平均粒径が、0.1~0.8μm、好ましくは0.1~0.4μm、最も好ましい0.15~0.25μmの範囲であることと、
A2)金の外層中の結晶粒の60~100%、好ましくは80~100%が、<100>方向で配向されており、かつ金の外層中の結晶粒の0~20%、好ましくは0~10%が、<111>方向で配向されており、各%が、ワイヤの伸線方向に平行な配向を有する結晶粒の総数に対するものであることと、のうちの、少なくとも一方を示す。
【0019】
本発明の被覆丸線ワイヤは、固有特性A1)及びA2)の双方を示すことが好ましい。
【0020】
好ましい実施形態では、本発明の被覆丸線ワイヤはまた、以下の固有特性A3)~A5)(以下で説明されるような「試験方法B及びC」を参照):
A3)長手方向で測定された、ワイヤコア中の結晶粒の平均粒径が、0.7~1.1μmの範囲であることと、
A4)ワイヤコアの長手方向で測定された、双晶境界の割合が、5~40%の範囲であることと、
A5)ワイヤコアの結晶粒の20~70%が、<100>方向で配向されており、かつワイヤコアの結晶粒の3~40%が、<111>方向で配向されており、各%が、ワイヤの伸線方向に平行な配向を有する結晶粒の総数に対するものであることと、のうちの、少なくとも1つを示す。
【0021】
好ましい実施形態の被覆丸線ワイヤは、固有特性A3)~A5)のうちの少なくとも2つを示すことが好ましい。好ましい実施形態のワイヤは、固有特性A3)~A5)の全てを示すことがより好ましい。
【0022】
有利な実施形態では、金層は、アンチモン、ビスマス、ヒ素、及びテルルから成る群から選択される少なくとも1種の構成要素を、本発明のワイヤの重量に基づいて、10~300重量ppm、好ましくは10~150重量ppmの範囲の合計割合で含む。それと同時に、一実施形態では、アンチモン、ビスマス、ヒ素、及びテルルから成る群から選択される少なくとも1種の構成要素の合計割合は、金層の金の重量に基づいて、300~9500重量ppm、好ましくは300~5000重量ppm、最も好ましくは600~3000重量ppmの範囲とすることができる。
【0023】
有利な実施形態では、アンチモンが金層内に存在することが好ましく、更に、アンチモンが金層内に単独で存在すること、すなわち、ビスマス、ヒ素、及びテルルが同時に存在しないことが、より好ましい。換言すれば、有利な実施形態の最も好ましい変形形態では、金層は、金層内にビスマス、ヒ素、及びテルルが存在することなく、ワイヤ(ワイヤコア+被覆層)の重量に基づいて、10~300重量ppm、好ましくは10~150重量ppmの範囲の割合でアンチモンを含み、それと同時に、一実施形態では、アンチモンの割合は、金層の金の重量に基づいて、300~9500重量ppm、好ましくは300~5000重量ppm、最も好ましくは600~3000重量ppmの範囲とすることができる。
【0024】
有利な実施形態では、アンチモン、ビスマス、ヒ素、及びテルルから成る群から選択される少なくとも1種の構成要素は、金層内で濃度勾配を示し得るものであり、上述の勾配は、ワイヤコアに向けた方向で、すなわち、ワイヤコアの長手方向軸線に対して垂直方向で増大する。
【0025】
別の態様では、本発明はまた、上記で開示されたその実施形態のいずれかにおける本発明の被覆丸線ワイヤの、製造プロセスにも関する。本プロセスは、少なくとも、工程(1)~(5):
(1)銀系前駆部材を準備する工程と、
(2)30~200μmの範囲の中間直径が得られるまで、前駆部材を伸長して、伸長前駆部材を形成する工程と、
(3)プロセス工程(2)の完了後に得られた伸長前駆部材の表面上に、パラジウム又はニッケルの内層と、隣接する金の外層との、二重層被覆を適用する工程と、
(4)所望の最終直径が得られ、かつ1~100nmの範囲の所望の最終厚さを有するパラジウム又はニッケルの内層と、1~250nmの範囲の所望の最終厚さを有する隣接する金の外層とで構成される、二重層が得られるまで、プロセス工程(3)の完了後に得られた被覆前駆部材を更に伸長する工程と、
(5)プロセス工程(4)の完了後に得られた被覆前駆体を、370超~520℃の、好ましくは400超~460℃の範囲の炉設定温度で、0.8~10秒、好ましくは0.8~2秒の範囲の曝露時間にわたって、最終的にストランド焼鈍することにより、被覆丸線ワイヤを形成する工程とを含み、
工程(2)が、200~650℃の炉設定温度で、30~300分の範囲の曝露時間にわたって、好ましくは、300~500℃の炉設定温度で、60~180分の範囲の曝露時間にわたって、前駆部材を中間バッチ焼鈍する、1つ以上のサブ工程を含み得るものであり、
工程(4)の更なる伸長が、以下の伸線パラメータB1)~B4):
B1)伸線速度が、毎分500~700mの範囲内であることと、
B2)各伸線ダイスの円錐角が、70~90度の範囲内であることと、
B3)各伸線ダイスにおけるベアリング長さが、対応する円形伸線ダイス開口部の直径の30~40%であることと、
B4)各伸線ダイスにおける被覆前駆部材の円形断面積の縮小が、7~15%の範囲であることと、が優先される、ダイス伸線を含む。
【0026】
用語「ストランド焼鈍」が、本明細書で使用される。これは、再現性の高いワイヤの高速生産を可能にする、連続プロセスである。本発明の文脈において、ストランド焼鈍とは、焼鈍されるべき被覆された前駆体が、従来の焼鈍炉を通して引っ張られるか又は移動され、焼鈍炉から出た後にリール上に巻き取られる間に、焼鈍が動的に行われることを意味する。この場合、焼鈍炉は、典型的には、所与の長さの円筒管の形態である。例えば、10~60メートル/分の範囲で選択することが可能な所与の焼鈍速度における、その焼鈍炉の規定の温度プロファイルを使用して、焼鈍時間/炉温度のパラメータを規定し、設定することができる。
【0027】
用語「炉設定温度」が、本明細書で使用される。これは、焼鈍炉の温度コントローラにおいて固定された温度を意味する。焼鈍炉は、チャンバ炉型炉(バッチ焼鈍の場合)又は管状焼鈍炉(ストランド焼鈍の場合)とすることができる。
【0028】
本開示は、前駆部材、伸長前駆部材、被覆前駆部材、被覆前駆体、及び被覆丸線ワイヤを区別するものである。用語「前駆部材」は、ワイヤコアの所望の最終直径に達していない丸線ワイヤ前段階に対して使用され、その一方で、用語「前駆体」は、所望の最終直径のワイヤ前段階に対して使用される。プロセス工程(5)の完了後に、すなわち、所望の最終直径の被覆前駆体の最終ストランド焼鈍の後に、本発明の意味するところの被覆丸線ワイヤが得られる。
【0029】
プロセス工程(1)で準備されるような前駆部材は、銀系前駆部材であり、すなわち、前駆部材は、(a)ドープ銀、(b)銀合金、又は(c)ドープ銀合金から成る。用語「ドープ銀」、「銀合金」、及び「ドープ銀合金」の意味に関しては、前述の開示を参照されたい。
【0030】
銀系前駆部材の実施形態では、銀系前駆部材は、所望の量の必要な成分で銀を合金化すること、ドーピングすること、あるいは合金化及びドーピングすることによって得ることができる。ドープ銀又は銀合金又はドープ銀合金は、金属合金の当業者には既知の従来のプロセスによって、例えば、所望の比率で成分を一体に溶融することによって調製することができる。その際には、1種以上の従来の母合金を利用することが可能である。溶融プロセスは、例えば、誘導炉を利用して実行することができ、真空下又は不活性ガス雰囲気下で作業することが好都合である。使用される材料は、例えば99.99重量%以上の純度グレードを有し得る。そのようにして生成された溶融物を冷却することにより、銀系前駆部材の均質片を形成することができる。典型的には、そのような前駆部材は、例えば2~25mmの直径と、例えば2~100mの長さとを有する、丸いロッドの形態である。そのようなロッドは、適切な鋳型を使用して銀系溶融物を連続鋳造し、続いて冷却及び固化することによって作製することができる。
【0031】
プロセス工程(2)では、30~200μmの範囲の中間直径が得られるまで、銀系前駆部材を伸長されて、伸長前駆部材を形成する。前駆部材を伸長する技術は公知であり、本発明の文脈において有用であると考えられる。好ましい技術は、圧延、スエージ加工、ダイス伸線などであり、これらのうち、ダイス伸線が特に好ましい。最後のものの場合、前駆部材は、所望の中間断面又は所望の中間直径に達するまで、数回のプロセス工程で伸線される。そのようなワイヤダイス伸線プロセスは、当業者には周知である。従来のタングステンカーバイド及びダイヤモンドの伸線ダイスを採用することができ、従来の伸線潤滑剤を採用して伸線を支援することができる。
【0032】
本発明のプロセスの工程(2)は、200~650℃の範囲の炉設定温度で、30~300分の範囲の曝露時間にわたって、好ましくは、300~500℃の炉設定温度で、60~180分の範囲の曝露時間にわたって、伸長前駆部材を中間バッチ焼鈍する、1つ以上のサブ工程を含み得る。上述の任意選択的な中間バッチ焼鈍は、例えば、ロッドを2mmの直径まで伸線して、ドラム上に巻き付けた状態で実行することができる。
【0033】
プロセス工程(2)の任意選択的な中間バッチ焼鈍は、不活性雰囲気下又は還元性雰囲気下で実行することができる。数多くのタイプの不活性雰囲気並びに還元性雰囲気が、当技術分野において既知であり、焼鈍炉をパージするために使用されている。既知の不活性雰囲気のうち、窒素又はアルゴンが好ましい。既知の還元性雰囲気のうち、水素が好ましい。別の好ましい還元性雰囲気は、水素と窒素との混合物である。水素と窒素との好ましい混合物は、90~98体積%の窒素と、それに応じた2~10体積%の水素とであり、これらの体積%は合計で100体積%である。窒素/水素の好ましい混合物は、それぞれ混合物の総体積に基づいて、93/7、95/5、及び97/3の、体積%/体積%に等しい。
【0034】
プロセス工程(3)では、パラジウム又はニッケルの内層と、隣接する金の外層との、二重層被覆の形態の被覆が、プロセス工程(2)の完了後に得られた伸長前駆部材の表面上に、その表面の上に被覆が重ね合わされるように適用される。
【0035】
当業者には、ワイヤの実施形態に対して開示されている層厚さの被覆を最終的に得るための、すなわち、被覆前駆部材を最終的に伸長した後の、伸長前駆部材上のそのような被覆の厚さを、どのようにして算出するかが既知である。当業者には、実施形態による材料の被覆層を銀系表面上に形成するための、数多くの技術が既知である。好ましい技術は、電気めっき及び無電解めっきなどのめっき、スパッタリング、イオンプレーティング、真空蒸着、及び物理蒸着などの気相からの材料の堆積、溶融物からの材料の堆積である。パラジウム又はニッケルの内層と、金外層とで構成されている、上述の二重層を適用する場合、パラジウム又はニッケルの層は、電気めっきによって適用することが好ましい。
【0036】
金層もまた、好ましくは電気めっきによって適用される。金電気めっきは、金電気めっき浴、すなわち、パラジウム又はニッケルのカソード表面が金で電気めっきされることを可能にする、電気めっき浴を利用して実行される。換言すれば、金電気めっき浴は、カソードとして配線されているパラジウム又はニッケルの表面上に、元素状の金属の形態で金を直接適用することを可能にする、組成物である。
【0037】
金層の電気めっき適用は、カソードとして配線されているパラジウム被覆又はニッケル被覆伸長前駆部材を、金電気めっき浴に通るように誘導することによって実行される。そのようにして得られた、金電気めっき浴から出る金被覆前駆部材を、プロセス工程(4)が実行される前に、すすいで乾燥させることができる。すすぎ媒体として、水を使用することが好都合であるが、アルコール、及びアルコール/水混合物が、すすぎ媒体の更なる例である。パラジウム被覆又はニッケル被覆伸長前駆部材が金電気めっき浴を通過する、この金電気めっきは、例えば0.2~20Vの範囲の直流電圧で、例えば、0.001~5A、特に0.001~1A、又は0.001~0.2Aの範囲の電流で実施することができる。典型的な接触時間は、例えば0.1~30秒、好ましくは2~8秒の範囲とすることができる。この文脈において使用される電流密度は、例えば0.01~150A/dmの範囲とすることができる。金電気めっき浴は、例えば45~75℃、好ましくは55~65℃の範囲の温度を有し得る。
【0038】
金被覆層の厚さは、本質的に以下のパラメータを介して、すなわち、金電気めっき浴の化学組成、伸長前駆部材と金電気めっき浴との接触時間、電流密度を介して、所望されるように調節することができる。この文脈において、金層の厚さは一般に、金電気めっき浴中の金の濃度を増加させることによって、カソードとして配線されている伸長前駆部材と金電気めっき浴との接触時間を増加させることによって、及び電流密度を増加させることによって、増大させることができる。
【0039】
一実施形態では、本発明のプロセスは、上記で開示された有利な実施形態における本発明の被覆丸線ワイヤの、製造プロセスである。この場合、工程(3)における金層の適用は、金と、アンチモン、ビスマス、ヒ素、及びテルルから成る群から選択される少なくとも1種の構成要素とを含む、金電気めっき浴から、金層を電気めっきすることによって実行される。それゆえ、上述の実施形態では、金電気めっき浴は、元素状の金の堆積を可能にするだけではなく、その金層内の、アンチモン、ビスマス、ヒ素、及びテルルから成る群から選択される上述の少なくとも1種の構成要素の堆積もまた可能にする、組成物である。上述の少なくとも1種の構成要素が、いかなる化学種であるか、すなわち、金層中に元素形態で存在するか又は化合物として存在するかは不明である。上述の実施形態では、金電気めっき浴は、好適な化学形態の、上述の少なくとも1種の構成要素(例えば、Sb、BiPO、As、又はTeOのような化合物)を、溶解塩又は溶解塩類として金を含有している水性組成物に添加することによって、作製することができる。少なくとも1種の構成要素を添加することが可能な、そのような水性組成物の例は、Atotech製のAurocor(登録商標)K24HF、並びに、Umicore製のAuruna(登録商標)558及びAuruna(登録商標)559である。あるいは、例えば、Metalor製のMetGold Pure ATFに基づく金電気めっき浴のような、アンチモン、ビスマス、ヒ素、及びテルルから成る群から選択される少なくとも1種の構成要素を予め含む、金電気めっき浴を使用することもできる。金電気めっき浴中の金の濃度は、例えば、8~40g/L(グラム毎リットル)、好ましくは10~20g/Lの範囲とすることができる。金電気めっき浴中の、アンチモン、ビスマス、ヒ素、及びテルルから成る群から選択される少なくとも1種の構成要素の濃度は、例えば、15~50重量ppm、好ましくは15~35重量ppmの範囲とすることができる。
【0040】
プロセス工程(4)では、プロセス工程(3)の完了後に得られた被覆丸線前駆部材は、1~100nm、好ましくは1~30nmの範囲の所望の最終厚さを有するパラジウム又はニッケルの内層と、1~250nm、好ましくは20~200nmの範囲の所望の最終厚さを有する隣接する金の外層とで構成される二重層を有するワイヤの所望の最終直径が得られるまで、更に伸長される。工程(4)で採用される伸長技術は、ダイス伸線を含むか、又はダイス伸線である。従来のタングステンカーバイド及びダイヤモンドの伸線ダイスを採用することができ、従来の伸線潤滑剤を採用して伸線を支援することができる。しかしながら、工程(4)のダイス伸線の間、以下の伸線パラメータB1)~B4):
B1)伸線速度が、毎分500~700mの範囲内であることと、
B2)各伸線ダイスの円錐角が、70~90度の範囲内であることと、
B3)各伸線ダイスにおけるベアリング長さが、対応する円形伸線ダイス開口部の直径の30~40%であることと、
B4)各伸線ダイスにおける被覆前駆部材の円形断面積の縮小が、7~15%の範囲であることとが、優先されることが必須である。
【0041】
理論に束縛されるものではないが、全ての伸線パラメータB1)~B4)が一体となって相互作用することは、本発明の被覆丸線ワイヤの有益な特性を得るための、1つの鍵である(決定的な鍵とまでは言えないにせよ)と考えられる。
【0042】
当業者には、工程(4)の過程におけるダイス伸線は、被覆前駆部材を、1つ以上の伸線ダイスのセット、例えば、1つ、2つ、又は3つの伸線ダイスのセットに通して引っ張ることを意味するものである点が既知である。伸線ダイスのセットは、いくつかの連続的に配置されている伸線ダイス、例えば、9~22個の連続的に配置されている伸線ダイスを含む。換言すれば、工程(4)の過程におけるダイス伸線は、被覆前駆部材を、円錐状の入口をそれぞれが有する連続的に配置されている伸線ダイスに通して引っ張ることを意味するものであり、それらの伸線ダイスの円形開口部は、伸線方向により狭くなっていき、被覆前駆部材は、最終ワイヤ直径で最終伸線ダイスから出て行くように、それらの伸線ダイスの開口部を通過することによって細くなっていく。
【0043】
本明細書で言及される伸線パラメータB1)は、毎分500~700メートルの範囲内の伸線速度を指す。誤解を避けるために、この伸線速度は、被覆前駆部材が最終伸線ダイスの円形開口部から出て行く速度、すなわち、プロセス工程(5)の最終ストランド焼鈍の前の、最終ワイヤ直径における速度である。
【0044】
本明細書で言及される伸線パラメータB2)は、各伸線ダイスの円錐角(入口角)が、70~90度の範囲内であることを指す。
【0045】
本明細書で言及される伸線パラメータB3)は、各伸線ダイスにおけるベアリング長さが、対応の円形伸線ダイス開口部の直径の30~40%であることを指す。各伸線ダイスの円形開口部は、その直径と円筒の長さ(=ベアリング長さ)とによって特徴付けられる、円筒状の中空空間を形成している。
【0046】
本明細書で言及される伸線パラメータB4)は、各伸線ダイスにおける被覆前駆部材の円形断面積の縮小が、7~15%の範囲であることを指す。換言すれば、伸線パラメータB4)は、被覆前駆部材が各伸線ダイスにおいて経験する、段階的な細径化を説明している。
【0047】
プロセス工程(5)では、プロセス工程(4)の完了後に得られた被覆前駆体が、370超~520℃の範囲の炉設定温度で、0.8~10秒、好ましくは0.8~2秒の範囲の曝露時間にわたって、最終的にストランド焼鈍されて、本発明の被覆丸線ワイヤが形成される。好ましい実施形態では、炉設定温度の範囲は更に狭く、すなわち、400超~460℃の範囲である。
【0048】
好ましい実施形態では、最終的にストランド焼鈍された被覆前駆体、すなわち、依然として熱い被覆丸線ワイヤは、一実施形態では1種以上の添加剤、例えば0.01~0.2体積%の添加剤を含有し得る、水中で急冷される。水中での急冷とは、最終的にストランド焼鈍された被覆前駆体を、即座に又は急速に、すなわち0.2~0.6秒以内に、工程(5)で経験した温度から室温まで、例えば浸漬又は滴下によって冷却することを意味する。
【0049】
プロセス工程(5)及び任意選択的な急冷の完了後に、本発明の被覆丸線ワイヤが完成する。このワイヤの特性を十分に享受するためには、ワイヤボンディング用途のために即座に、すなわち遅滞なく、例えばプロセス工程(5)の完了後25~70日以内、好ましくは60日以内に、ワイヤを使用することが好都合である。あるいは、このワイヤの、広いワイヤボンディングプロセスウィンドウ特性を維持するために、並びに、酸化/硫化又は他の化学的攻撃から防ぐために、完成したワイヤは、典型的には、プロセス工程(5)の完了の直後に、すなわち遅滞なく、例えばプロセス工程(5)の完了後1時間未満~5時間以内に巻き取られて真空シールされ、次いで、ボンディングワイヤとして更に使用するために保管される。真空シール状態での保管は、12ヶ月を超えるべきではない。真空シールを開放した後、ワイヤは、25~70日以内、好ましくは60日以内に、ワイヤボンディングのために使用するべきである。
【0050】
全てのプロセス工程(1)~(5)、並びに巻き取り及び真空シールは、クリーンルーム条件(US FED STD 209Eクリーンルーム規格、1,000規格)下で実施されることが好ましい。
【0051】
本発明の第3の態様は、上記で開示されたプロセスによって、その任意の実施形態により得ることが可能な、被覆丸線ワイヤである。本発明の被覆丸線ワイヤは、ワイヤボンディング用途におけるボンディングワイヤとしての使用に対して、非常に適したものであることが判明している。ワイヤボンディング技術は、当業者には周知である。ワイヤボンディングの過程においては、ボールボンド(第1のボンド)及びステッチボンド(第2のボンド、ウェッジボンド)が形成されることが典型的である。ボンドを形成している間、ある力(通常は、グラム単位で測定される力)が加えられ、超音波エネルギー(通常は、mA単位で測定される超音波エネルギー)の適用によって支援される。本発明の被覆丸線ワイヤは、著しく広いワイヤボンディングプロセスウィンドウを示す。
【0052】
以下の非限定的な実施例により本発明を説明する。これらの実施例は、本発明を例示的に説明するために役立つものであり、本発明の範囲又は特許請求の範囲を何ら限定するものではない。
【0053】
試験方法
全ての試験及び測定は、T=20℃及び相対湿度RH=50%で行った。
【0054】
A.金外層の結晶粒の結晶方位及び粒径を判定するための、電子後方散乱回折(EBSD)パターン分析:
ワイヤを試料ホルダ上に配置して、導電性銅テープを使用して固定し、FESEM(電界放出形走査型電子顕微鏡)で、通常のFESEM試料保持テーブル表面に対して、ホルダを70°傾斜させた状態で観察した。FESEMには更に、EBSD検出器を搭載した。金外層のワイヤ表面の結晶学的情報を含む、電子後方散乱パターン(EBSP)を得た。
【0055】
これらのパターンを、結晶粒の配向の割合、平均結晶粒径などに関して更に分析した(Oxford Instrumentsによって開発されたEBSDプログラムと呼ばれるソフトウェアを使用)。同様の配向の点を一体にグループ化して、集合組織成分を形成した。
【0056】
最初に、冷間埋込エポキシ樹脂を使用してワイヤをポッティングし、次いで、標準的な金属組織学的技術によって研磨(断面処理)した。マルチプレップ半自動研磨機を、低い力及び最適な速度で使用して、試料表面上の変形ひずみを最小限に抑えつつ、試料を研削及び研磨した。最後に、研磨された表面をイオンミリングして薄層を除去することにより、変形ひずみをゼロ近くまで更に低減する。結晶粒径は、ASTM E2627-13(2019)規格によるEBSDツールを使用して、臨界方位差角(>15°)を定義する粒界抽出の概念を使用して測定した。粒径を正確に測定するために、粒界を最初に、最も高い程度の粒界抽出で検出するものとした。
【0057】
異なる集合組織成分を区別するために、10°の最大許容角を使用するものとした。ワイヤの伸線方向を、基準配向として設定した。<100>及び<111>の集合組織のパーセンテージを、基準配向に平行な、<100>及び<111>の面方位を有する結晶のパーセンテージを測定することによって算出した。
【0058】
このEBSDパターン分析を、1つの試料当たり5つの異なる位置で実行して、平均値を得た。
【0059】
B.ワイヤコアの結晶粒の結晶方位及び双晶境界を判定するための、電子後方散乱回折(EBSD)パターン分析:
ワイヤの集合組織を測定するために採用した主な工程は、試料の調製、良好な菊池パターンの取得、及び成分の算出であり、
最初に、エポキシ樹脂を使用してワイヤをポッティングし、標準的な金属組織学的技術に従って研磨した。最終試料調製工程においてイオンミリングを適用することにより、ワイヤ表面のあらゆる機械的変形と、汚染及び酸化層とを除去した。イオンミリングで断面処理した試料表面を、金でスパッタリング蒸着した。次いで、イオンミリング及び金スパッタリング蒸着を、更に2回実施した。化学エッチングもイオンエッチングも実施しなかった。
【0060】
この試料を、FESEM(電界放出型走査電子顕微鏡)内に、通常のFESEM試料保持テーブル表面に対して、ホルダを70°傾斜させた状態で装填した。FESEMには更に、EBSD検出器を搭載した。ワイヤの結晶学的情報を含む、電子後方散乱パターン(EBSP)を得た。
【0061】
これらのパターンを、結晶粒の配向の割合、平均結晶粒径などに関して更に分析した(Oxford Instrumentsによって開発されたEBSDプログラムと呼ばれるソフトウェアを使用)。同様の配向の点を一体にグループ化して、集合組織成分を形成した。
【0062】
異なる集合組織成分を区別するために、10°の最大許容角を使用するものとした。ワイヤの伸線方向を、基準配向として設定した。<100>及び<111>の集合組織のパーセンテージを、基準配向に平行な、<100>及び<111>の面方位を有する結晶のパーセンテージを測定することによって算出した。
【0063】
平均結晶粒径の算出では、双晶境界(Σ3CSL双晶境界とも呼ばれるもの)を除外した。双晶境界は、隣接する結晶学的ドメイン間の、<111>の面方位を中心とする60°の回転によって説明されるものとした。関心領域の走査点の数は、観察された最も微細な結晶粒径(約100nm)の1/5未満の、ステップサイズに応じるものとした。
【0064】
このEBSDパターン分析を、1つの試料当たり5つの異なる位置で実行して、平均値を得た。
【0065】
C.ワイヤコアの結晶粒のサイズを判定するための線形切片法:
最初に、冷間埋込エポキシ樹脂を使用してワイヤをポッティングし、次いで、標準的な金属組織学的技術によって研磨(断面処理)した。マルチプレップ半自動研磨機を、低い力及び最適な速度で使用して、試料表面上の変形ひずみを最小限に抑えつつ、試料を研削及び研磨した。最後に、研磨した試料を、塩化第二鉄を使用して化学エッチングすることにより、結晶粒界を露わにした。結晶粒径を、ASTM E112-12規格に従って、倍率1000の光学顕微鏡下で線形切片法を使用して測定した。
【0066】
花状接合ボール及びワイヤ揺れの評価:
D.1)FABの調製:
KNS Process User Guide for FAB(Kulicke & Soffa Industries Inc,Fort Washington,PA,USA,2002,31 May 2009)で説明されている手順に従って、周囲雰囲気中で作業した。FABは、従来の電気トーチ(EFO)放電を、標準的な放電(単一ステップ、20μmのワイヤ、50mAのEFO電流、315μsのEFO時間、2.3のBSR比(ワイヤ直径に対する接合ボール直径の比、IConn-KNSボンダを使用)によって実行することにより調製するものとした。
【0067】
D.2)ボールボンディング:
形成されたFABを、所定の高さ(203.2μmの先端)から所定の速度(6.4μm/秒の接触速度)で、0.5重量%のCuを含むAlのボンドパッドへと降下させた。ボンドパッドに触れると、一連の規定のボンディングパラメータ(100gのボンド力、95mAの超音波エネルギー、及び15msのボンド時間)が作用することにより、FABが変形して、接合ボールを形成した。ボールを形成した後、キャピラリを所定の高さ(152.4μmのキンク高さ、及び254μmのループ高さ)まで上昇させて、ループを形成した。ループを形成した後、キャピラリをリードまで降下させて、ステッチを形成した。ステッチを形成した後、キャピラリを上昇させ、ワイヤクランプを閉じてワイヤを切断することにより、所定の尾部長さを形成した(254μmの尾部延伸長さ)。各試料に対して、有意な数の2500本の接合ワイヤを、倍率1000倍の顕微鏡を使用して光学的に検査した。欠陥のパーセンテージを判定した。
【0068】
D.3)花状接合ボールに関する接合ボールの評価:
+不良:≧15%の接合ボールが丸くなく、変形している
++良好:≧10%~<15%の接合ボールが丸くなく、変形している
+++極めて良好:<10%の接合ボールが丸くなく、変形している
【0069】
D.4)ワイヤ揺れの評価:
++不良:<25%のワイヤが、ループ内で隣接するワイヤに向けて偏向している
++良好:<5%のワイヤが、ループ内で隣接するワイヤに向けて偏向している
+++優良:ワイヤがループの偏向を示していない
【0070】
ワイヤの実施例
全てのワイヤ実施例に関して、各金属に関して少なくとも99.99%の純度(「4N」)の、98.5重量%の銀(Ag)と1.5重量%のパラジウム(Pd)との量を、るつぼ内で溶融した。次いで、その溶融物から、8mmのロッドの形態のワイヤコア前駆部材を連続的に鋳造した。次いで、それらのロッドを、数回の伸線工程で伸線することにより、2mmの直径の円形断面を有するワイヤコア前駆体を形成した。これらのワイヤコア前駆体を、500℃の炉設定温度で、60分の曝露時間にわたって中間バッチ焼鈍した。それらのロッドを更に、数回の伸線工程で伸線することにより、46μmの直径を有するワイヤコア前駆体を形成した。
【0071】
全てのワイヤコア前駆体を、ニッケルの内層と、隣接する金の外層との、二重層被覆で電気めっきした。この目的のために、カソードとして配線されているワイヤコア前駆体を、60℃の温熱ニッケル電気めっき浴に通して移動させ、続いて61℃の温熱金電気めっき浴に通した。ニッケル電気めっき浴は、90g/L(グラム/リットル)のNi(SONH、6g/LのNiCl、及び35g/LのHBOを含むものとし、その一方で、金電気めっき浴(Metalor製のMetGold Pure ATFに基づくもの)は、13.2g/Lの金含有量及び20重量ppmのアンチモン含有量(Metalor製のMetGold Pure ATFに基づくもの)を有するものとした。
【0072】
その後、この被覆ワイヤ前駆体を、表1に示される伸線パラメータに従って、20μmの最終直径まで更に伸線した。全てのワイヤ試料を、410℃の炉設定温度で、0.9秒の曝露時間にわたって最終的にストランド焼鈍し、その直後に、そのようにして得られた被覆ワイヤを、0.07体積%の界面活性剤を含有する水中で急冷した。太さ20μmの全てのワイヤ試料は、厚さ9nmのニッケルの内層と、隣接する厚さ90nmの金の外層とを有していた。
【0073】
表1は、本発明の試料S1~S3及び比較試料C1~C5の、伸線パラメータ並びに評価についての概要を示す。
【0074】
【表1】