(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】積層体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 7/12 20060101AFI20250205BHJP
B32B 25/08 20060101ALI20250205BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20250205BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20250205BHJP
B32B 25/20 20060101ALI20250205BHJP
C09J 5/04 20060101ALI20250205BHJP
C09J 183/08 20060101ALI20250205BHJP
C09J 183/06 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
B32B7/12
B32B25/08
B32B27/00 101
B32B27/30 B
B32B25/20
B32B27/00 D
C09J5/04
C09J183/08
C09J183/06
(21)【出願番号】P 2023573982
(86)(22)【出願日】2022-12-28
(86)【国際出願番号】 JP2022048473
(87)【国際公開番号】W WO2023136157
(87)【国際公開日】2023-07-20
【審査請求日】2024-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2022003444
(32)【優先日】2022-01-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 玄暉
(72)【発明者】
【氏名】二嶋 諒
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-303479(JP,A)
【文献】特開2019-056750(JP,A)
【文献】特開2005-199394(JP,A)
【文献】特開2016-081582(JP,A)
【文献】国際公開第2016/132921(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 65/00-65/82
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
C08J 5/12
C09J 1/00- 5/10;9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンゴムにより形成された第1部材と、
ポリスチレンにより形成された第2部材と、
前記第1部材の第1面と前記第2部材の第2面とを接合する接着層とを具備し、
前記接着層は、
エポキシ基を有するシランカップリング剤により前記第1面に形成された第1層と、
アミノ基を有するシランカップリング剤により前記第2面に形成された第2層と
を含み、
前記エポキシ基と前記アミノ基との化学結合により前記第1面と前記第2面とが接合された
積層体。
【請求項2】
シリコーンゴムにより形成された第1部材の第1面に、エポキシ基を有するシランカップリング剤を溶媒に混合した第1接着剤を塗布する第1塗布工程と、
ポリスチレンにより形成された第2部材の第2面に、アミノ基を有するシランカップリング剤を溶媒に混合した第2接着剤を塗布する第2塗布工程と、
前記第1部材の前記第1面と前記第2部材の前記第2面とを、前記第1接着剤における前記エポキシ基と前記第2接着剤における前記アミノ基との化学結合により接合する接合工程と
を含む積層体の製造方法。
【請求項3】
前記第1接着剤は、エポキシ基を有するシランカップリング剤を1wt%以上10wt%以下の濃度で含み、
前記第2接着剤は、アミノ基を有するシランカップリング剤を1wt%以上10wt%以下の濃度で含む
請求項2の積層体の製造方法。
【請求項4】
前記第1塗布工程の実行前にエキシマ光を前記第1面に照射する第1活性化工程と、
前記第2塗布工程の実行前にエキシマ光を前記第2面に照射する第2活性化工程と
をさらに含む請求項2または請求項3の積層体の製造方法。
【請求項5】
前記第1接着剤および前記第2接着剤の各々は、エタノールと水とが混合比9:1で混合された混合溶液を、前記溶媒として含む
請求項
2の積層体の製造方法。
【請求項6】
前記エポキシ基を有するシランカップリング剤は、グリシジル基を有するシランカップリング剤である
請求項
2の積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の部材を接合する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
相異なる材料で形成された複数の部材をシランカップリング剤により接合する技術が従来から提案されている。例えば特許文献1には、シリコーンゴムにより形成されたシートと、樹脂材料または金属材料により形成されたシートとを、1種類のシランカップリング剤により接合する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、1種類のシランカップリング剤を使用した形態では、部材間の接合の耐久性を充分に確保することが困難であり、特に高湿な環境下で部材間の剥離等の問題が発生し易い。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、第1部材と第2部材との接合の耐久性を充分に確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のひとつの態様に係る積層体は、シリコーンゴムにより形成された第1部材と、ポリスチレンにより形成された第2部材と、前記第1部材の第1面と前記第2部材の第2面とを接合する接着層とを具備し、前記接着層は、エポキシ基を有するシランカップリング剤により前記第1面に形成された第1層と、アミノ基を有するシランカップリング剤により前記第2面に形成された第2層とを含む。
【0006】
本発明のひとつの態様に係る積層体の製造方法は、シリコーンゴムにより形成された第1部材の第1面に、エポキシ基を有するシランカップリング剤を含む第1接着剤を塗布する第1塗布工程と、ポリスチレンにより形成された第2部材の第2面に、アミノ基を有するシランカップリング剤を含む第2接着剤を塗布する第2塗布工程と、前記第1部材の前記第1面と前記第2部材の前記第2面とを前記第1接着剤と前記第2接着剤とにより接合する接合工程とを含む。なお、第1塗布工程と第2塗布工程との順序は任意である。例えば、第1塗布工程の実行後に第2塗布工程が実行される形態、第2塗布工程の実行後に第1塗布工程が実行される形態、または、第1塗布工程と第2塗布工程とが一部または全部において並列に実行される形態が、以上の態様には包含される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1部材と第2部材との接合の耐久性を充分に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】第1部材と第2部材との接合に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A:積層体
図1は、本発明のひとつの形態に係る積層体100の断面図である。本実施形態の積層体100は、例えば各種の細胞(より詳細にはスフェロイド)の培養に使用されるウェルプレートであり、第1部材10と第2部材20と接着層30とを具備する。
【0010】
第1部材10は、シリコーンゴムにより形成された薄板状の成形体である。すなわち、第1部材10は、シリコーンゴムを材料に含む部材である。シリコーンゴムは、例えばポリジメチルシロキサン(PDMS:polydimethylsiloxane)である。第1部材10は第1面11を有する。第1面11には多数の微細な凹部(図示略)が形成される。各凹部は、例えば直径1mm程度の半球状の窪みである。
【0011】
第2部材20は、ポリスチレン(PS:polystyrene)により形成された薄板状の成形体である。すなわち、第2部材20は、ポリスチレンを材料に含む部材である。第1部材10と第2部材20とは、相異なる種類の樹脂材料により形成される。第1部材10の外形寸法と第2部材20の外形寸法とは実質的に共通する。第2部材20は第2面21を有する。第1部材10の第1面11と第2部材20の第2面21とは相互に対向する。第2部材20には複数の貫通孔22が形成される。各貫通孔22は、第2部材20を貫通する円形状の開口である。複数の貫通孔22は行列状に配列される。貫通孔22の直径は、第1面11の凹部の直径と比較して充分に大きい。各貫通孔22の内側において第1部材10の第1面11を底面とする空間に、培養対象となる細胞が収容される。
【0012】
第1部材10と第2部材20との間には接着層30が介在する。接着層30は、第1面11と第2面21とを接合するための接合材である。接着層30は、第1層31と第2層32との積層で構成される。第1層31は、第1面11に塗布された第1接着剤により形成される。第2層32は、第2面21に塗布された第2接着剤により形成される。第1接着剤と第2接着剤との結合により第1部材10と第2部材20とが相互に接合される。第1接着剤と第2接着剤とは相異なる材料で構成される。具体的には、第1接着剤と第2接着剤とは、官能基が相違するシランカップリング剤を含有する。
【0013】
第1接着剤は、官能基としてエポキシ基を有するシランカップリング剤(以下「エポキシシランカップリング剤」という)を含有する。エポキシシランカップリング剤としては、例えば、エポキシ基を含むグリシジル基を有する3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、または、エポキシ基を有する2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが例示される。なお、グリシジル基を有するエポキシシランカップリング剤として、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、または3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が使用されてもよい。
【0014】
第2接着剤は、官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤(以下「アミノシランカップリング剤」という)を含有する。アミノシランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシランが例示される。なお、アミノシランカップリング剤としては、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、またはN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が使用されてもよい。
【0015】
図2に例示される通り、接着層30の第1層31を構成するエポキシシランカップリング剤(第1接着剤)のエポキシ基と、第2層32を構成するアミノシランカップリング剤(第2接着剤)のアミノ基とが相互に化学結合することで、第1部材10と第2部材20とが接合される。具体的には、第1層31の2個のエポキシ基と第2層32の1個のアミノ基とが反応することで化学結合が形成される。
【0016】
以上に説明した通り、本実施形態においては、シリコーンゴムの第1部材10における第1面11に形成された第1層31と、ポリスチレンの第2部材20における第2面21に形成された第2層32と、を含む接着層30により、第1部材10と第2部材20とが接合される。第1層31は、エポキシ基を有するシランカップリング剤により形成され、第2層32は、アミノ基を有するシランカップリング剤により形成される。したがって、1種類のシランカップリング剤により第1部材10と第2部材20とが接合される形態と比較して、第1部材10と第2部材20との接合に関する耐久性を高い水準に維持できる。また、接着層30による接着力が向上することで水分の進入が抑制され、結果的に耐水性も向上させることが可能である。
【0017】
B:積層体100の製造方法
図3は、積層体100を製造する手順を例示する工程図である。
図3に例示される通り、積層体100の製造工程は、第1部材10および第1層31に関する第1工程Saと、第2部材20および第2層32に関する第2工程Sbと、第1部材10と第2部材20とを接合する接合工程Scとを含む。
【0018】
B1:第1工程Sa
第1工程Saは、第1活性化工程Sa1と第1調製工程Sa2と第1塗布工程Sa3とを含む。なお、
図3においては第1活性化工程Sa1の実行後に第1調製工程Sa2を実行する場合を便宜的に図示したが、第1活性化工程Sa1と第1調製工程Sa2との時間的な関係は任意である。すなわち、第1調製工程Sa2の実行後に第1活性化工程Sa1が実行されてもよいし、第1活性化工程Sa1と第1調製工程Sa2とが並列に実行されてもよい。
【0019】
第1活性化工程Sa1においては、第1部材10の第1面11を光照射により活性化する表面処理が実行される。具体的には、第1活性化工程Sa1における表面処理は、第1面11にエキシマ光(真空紫外光:VUV)を照射する処理である。具体的には、例えば15秒にわたり第1面11にエキシマ光が照射される。
【0020】
第1調製工程Sa2においては、エポキシシランカップリング剤を含有する第1接着剤が調製される。具体的には、エポキシシランカップリング剤と溶媒とを混合することで第1接着剤が生成される。溶媒は、例えば、エタノールと水とが混合比9:1で混合された混合溶液、またはイソプロピルアルコール(IPA)と水とが混合比9:1で混合された混合溶液である。ただし、溶媒の種類は以上の例示に限定されない。第1調製工程Sa2においては、エポキシシランカップリング剤を1wt%(重量パーセント)以上10wt%以下の濃度により溶媒に混合することで第1接着剤が調製される。
【0021】
第1活性化工程Sa1および第1調製工程Sa2の実行後に第1塗布工程Sa3が実行される。第1塗布工程Sa3においては、第1部材10の第1面11に第1接着剤が塗布される。第1接着剤の塗布には、例えば刷毛、スプレーまたはローラー等が利用される。第1部材10の第1面11を第1接着剤に浸漬することで、第1面11に第1接着剤を塗布してもよい。以上が第1工程Saの具体例である。
【0022】
B2:第2工程Sb
第2工程Sbは、第2活性化工程Sb1と第2調製工程Sb2と第2塗布工程Sb3とを含む。なお、
図3においては第2活性化工程Sb1の実行後に第2調製工程Sb2を実行する場合を便宜的に図示したが、第2活性化工程Sb1と第2調製工程Sb2との時間的な関係は任意である。すなわち、第2調製工程Sb2の実行後に第2活性化工程Sb1が実行されてもよいし、第2活性化工程Sb1と第2調製工程Sb2とが並列に実行されてもよい。
【0023】
第2活性化工程Sb1においては、第2部材20の第2面21を光照射により活性化する表面処理が実行される。具体的には、第2活性化工程Sb1における表面処理は、第1活性化工程Sa1と同様に、第2面21にエキシマ光を照射する処理である。具体的には、例えば30秒にわたり第2面21にエキシマ光が照射される。すなわち、第2活性化工程Sb1において第2面21にエキシマ光が照射される時間は、第1活性化工程Sa1において第1面11にエキシマ光が照射される時間よりも長い。ただし、第1活性化工程Sa1および第2活性化工程Sb1の具体的な時間長および長短の関係は、以上の例示に限定されない。
【0024】
第2調製工程Sb2においては、アミノシランカップリング剤を含有する第2接着剤が調製される。具体的には、アミノシランカップリング剤と溶媒とを混合することで第2接着剤が生成される。溶媒は、例えば、エタノールと水とが混合比9:1で混合された混合溶液、またはイソプロピルアルコール(IPA)と水とが混合比9:1で混合された混合溶液である。ただし、溶媒の種類は以上の例示に限定されない。第2調製工程Sb2においては、アミノシランカップリング剤を1wt%以上10wt%以下の濃度により溶媒に混合することで第2接着剤が調製される。
【0025】
第2活性化工程Sb1および第2調製工程Sb2の実行後に第2塗布工程Sb3が実行される。第2塗布工程Sb3においては、第2部材20の第2面21に第2接着剤が塗布される。第2接着剤の塗布には、前述の第1塗布工程Sa3と同様に、例えば刷毛、スプレーまたはローラー等が利用される。第2部材20の第2面21を第2接着剤に浸漬することで、第2面21に第2接着剤を塗布してもよい。以上が第2工程Sbの具体例である。
【0026】
B3:接合工程Sc
第1工程Saおよび第2工程Sbの実行後に接合工程Scが実行される。接合工程Scにおいては、第1部材10の第1面11と第2部材20の第2面21とが、第1接着剤と第2接着剤とにより相互に接合される。第1工程Saおよび第2工程Sbの終了から5分程度の間隔をあけて接合工程Scが開始される。接合工程Scは、配置工程Sc1と圧着工程Sc2とを含む。
【0027】
配置工程Sc1においては、第1面11上の第1接着剤と第2面21上の第2接着剤とが相互に接触するように第1部材10と第2部材20とが配置される。配置工程Sc1においては、第1面11の第1接着剤および第2面21の第2接着剤に対するエアブローにより余剰の溶液が除去される。また、配置工程Sc1においては、第1接着剤と第2接着剤との間の気泡を除去することで、第1接着剤と第2接着剤とを隙間なく充分に密着させる。
【0028】
圧着工程Sc2においては、第1部材10と第2部材20とを加熱しながら相互に加圧することで、第1部材10と第2部材20とが相互に接合される。具体的には、第1部材10と第2部材20とを80℃以上90℃以下の範囲内の所定の温度に加熱しながら、例えば0.002MPa以上1.2MPa以下の範囲内の圧力により、第1部材10と第2部材20とを相互に加圧する。圧着工程Sc2により、第1接着剤におけるエポキシシランカップリング剤のエポキシ基(グリシジル基)と第2接着剤におけるアミノシランカップリング剤のアミノ基とが結合し、第1接着剤と第2接着剤とが硬化することで接着層30が形成される。
【0029】
以上に説明した通り、本実施形態においては、シリコーンゴムの第1部材10における第1面11に第1接着剤が塗布され、ポリスチレンの第2部材20における第2面21に第2接着剤が塗布される。第1接着剤は、エポキシ基(グリシジル基)を有するシランカップリング剤を含み、第2接着剤は、アミノ基を有するシランカップリング剤を含む。したがって、1種類のシランカップリング剤により第1部材10と第2部材20とが接合される形態と比較して、第1部材10と第2部材20との接合に関する耐久性を高い水準に維持できる。
【0030】
ところで、特許文献1に記載された技術においては、シランカップリング剤を含む接着剤の塗布前および塗布後の双方において、コロナ放電処理、紫外線照射処理またはプラズマ処理を実行する必要がある。特許文献1の技術とは対照的に、本実施形態においては、接着剤の塗布前に第1面11および第2面21をエキシマ光により活性化することで、第1部材10と第2部材20とを強固に接合できる。すなわち、接着剤の塗布後における第1面11および第2面21の活性化は不要である。したがって、特許文献1の技術と比較して積層体100の製造工程が簡素化されるという利点もある。
【実施例】
【0031】
本発明の実施例を以下に説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例である。したがって、本発明の範囲は以下に例示する実施例には限定されない。
【0032】
表1は、本発明の実施例1~5に関する製造条件と評価試験の結果とを表す図表である。また、表2は、各実施例と対比される参考例1~5に関する製造条件と評価試験の結果とを表す図表である。各実施例および各参考例においては、所定のサイズ(110mm×74mm)の矩形状に成形されたPDMSシートを第1部材10として使用し、第1部材10と同等のサイズ(110mm×74mm)のポリスチレンのウェルプレートを第2部材20として使用した。表1および表2における「PDMS」は第1部材10を意味し、「ポリスチレン」は第2部材20を意味する。
【0033】
【0034】
表1および表2における「グリシジル基」は、グリシジル基を有するエポキシシランカップリング剤を意味する。具体的には、ダウ(DOW)社製の3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(製品コード:DOWSIL Z-6040)をエポキシシランカップリング剤として使用した。また、表1における「エポキシ基」は、エポキシ基を有するエポキシシランカップリング剤を意味する。具体的には、東京化成工業(TCI)株式会社製の2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン(製品コード:E0327)をエポキシシランカップリング剤として使用した。
【0035】
表1および表2における「アミノ基」は、アミノ基を有するアミノシランカップリング剤を意味する。具体的には、東京化成工業(TCI)株式会社製の3-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品コード:A0439)をアミノシランカップリング剤として使用した。また、表2における「チオール基」は、官能基としてチオール基を有するシランカップリング剤を意味する。具体的には、東京化成工業(TCI)株式会社製の(3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン(製品コード:M0928)を、表2における「チオール基」として使用した。
【0036】
各実施例の詳細は以下の通りである。
[実施例1]
実施例1においては、グリシジル基を有するエポキシシランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を第1部材10の第1面11に塗布し、アミノシランカップリング剤(3-アミノプロピルトリメトキシシラン)を含む第2接着剤を第2部材20の第2面21に塗布した。第1接着剤および第2接着剤においては、エタノールと水とが混合比9:1で混合された混合溶液を溶媒として使用し、シランカップリング剤の濃度は1wt%とした。また、第1接着剤が塗布された第1部材10と第2接着剤が塗布された第2部材20とを、80℃に加熱した状態において1.2MPaの圧力(加重1t)により加圧することで相互に接合した。
【0037】
[実施例2]
実施例2においては、第1接着剤および第2接着剤におけるシランカップリング剤の濃度を、実施例1における1wt%から5wt%に変更した。シランカップリング剤の濃度以外の条件は実施例1と同様である。
[実施例3]
実施例3においては、第1接着剤および第2接着剤におけるシランカップリング剤の濃度を、実施例1における1wt%から10wt%に変更した。シランカップリング剤の濃度以外の条件は実施例1と同様である。
【0038】
[実施例4]
実施例4においては、第1接着剤におけるシランカップリング剤を、エポキシ基を有する2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランに変更した。第1接着剤におけるシランカップリング剤以外の条件は実施例1と同様である。
[実施例5]
実施例5においては、第1接着剤および第2接着剤の溶媒を、イソプロピルアルコールと水とが混合比9:1で混合された混合溶液に変更した。溶媒以外の条件は実施例1と同様である。
【0039】
各参考例の詳細は以下の通りである。
[参考例1]
参考例1においては、エポキシシランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)とアミノシランカップリング剤(3-アミノプロピルトリメトキシシラン)とが混合された接着剤(以下「混合接着剤」という)を、第1部材10と第2部材20との接合に使用した。具体的には、第1部材10の第1面11および第2部材20の第2面21の双方に混合接着剤を塗布することで、第1部材10と第2部材20とを接合した。接着剤以外の条件は実施例1と同様である。
【0040】
[参考例2]
参考例2においては、アミノシランカップリング剤(3-アミノプロピルトリメトキシシラン)のみを使用して第1部材10と第2部材20とを接合した。具体的には、第2部材20の第2面21に塗布されたアミノシランカップリング剤により、第1部材10と第2部材20とを接合した。第1部材10の第1面11には接着剤を塗布しなかった。接着剤以外の条件は実施例1と同様である。
[参考例3]
参考例3においては、エポキシシランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)のみを使用して第1部材10と第2部材20とを接合した。具体的には、第1部材10の第1面11に塗布されたエポキシシランカップリング剤により、第1部材10と第2部材20とを接合した。第2部材20の第2面21には接着剤を塗布しなかった。接着剤以外の条件は実施例1と同様である。
【0041】
[参考例4]
参考例4においては、アミノシランカップリング剤(3-アミノプロピルトリメトキシシラン)を含む第2接着剤を第1部材10の第1面11に塗布し、グリシジル基を有するエポキシシランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を第2部材20の第2面21に塗布した。すなわち、第1部材10および第2部材20の各々とシランカップリング剤の種類との組合せを実施例1とは反転させた。接着剤以外の条件は実施例1と同様である。
【0042】
[参考例5]
参考例5においては、グリシジル基を有するエポキシシランカップリング剤(3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)を第1部材10の第1面11に塗布し、チオール基を有するシランカップリング剤((3-メルカプトプロピル)トリメトキシシラン)を第2部材20の第2面21に塗布した。すなわち、第2面21に塗布されるシランカップリング剤の種類を実施例1から変更した。接着剤以外の条件は実施例1と同様である。
【0043】
以上に例示した各例について、耐久性を評価するための評価試験を実施した。評価試験は、第1部材10と第2部材20との接合の耐久性と、接着剤の耐水性とを評価する試験であり、前述の各例に係るサンプルを50℃の水に浸漬した状態で実施された。具体的には、24時間毎に各サンプルに対して引張力等の外力を作用させる処理を7日間にわたり実行し、実行後に第1部材10と第2部材20との間の剥離の有無を判定した。以下の図表における「結果」は、評価試験における剥離の有無である。
【0044】
表1および表2から理解される通り、参考例1~5においては第1部材10と第2部材20との間に剥離が発生したのに対し、実施例1~5においては、第1部材10と第2部材20との剥離は発生しなかった。
【0045】
参考例1と実施例1~5との対比により、エポキシシランカップリング剤とアミノシランカップリング剤とが混合された接着剤では、第1部材10と第2部材20との接合の耐久性を充分に確保できないことが確認された。すなわち、実施例1~5のように、エポキシシランカップリング剤とアミノシランカップリング剤との各々を相異なる材料の部材(第1部材10および第2部材20)に単独で塗布したうえで、第1部材10と第2部材20とを接合することで、第1部材10と第2部材20との接合の耐久性を充分に確保できることが確認された。
【0046】
参考例2および3と実施例1~5との対比により、エポキシシランカップリング剤またはアミノシランカップリング剤を単独で使用した場合には、第1部材10と第2部材20との接合の耐久性を充分に確保できないことが確認された。すなわち、実施例1~5のように、エポキシシランカップリング剤およびアミノシランカップリング剤の双方を使用することで、第1部材10と第2部材20との接合の耐久性を充分に確保できることが確認された。
【0047】
参考例4と実施例1~5との対比により、シリコーンゴムで形成された第1部材10の第1面11にアミノシランカップリング剤を塗布し、ポリスチレンで形成された第2部材20の第2面21にエポキシシランカップリング剤を塗布した形態では、第1部材10と第2部材20との接合の耐久性を充分に確保できないことが確認された。すなわち、実施例1~5のように、シリコーンゴムの第1部材10にエポキシシランカップリング剤の第1接着剤を塗布し、ポリスチレンの第2部材20にアミノシランカップリング剤の第2接着剤を塗布する、という組合せにより、第1部材10と第2部材20との接合の耐久性を充分に確保できることが確認された。
【0048】
参考例5と実施例1~5との対比により、第2部材20に塗布されるシランカップリング剤としてアミノシランカップリング剤以外を使用した形態では、第1部材10と第2部材20との接合の耐久性を充分に確保できないことが確認された。すなわち、実施例1~5のように、第2部材20に塗布される第2接着剤としてアミノシランカップリング剤を使用することで、第1部材10と第2部材20との接合の耐久性を充分に確保できることが確認された。
【0049】
また、実施例1~3により、第1接着剤および第2接着剤の各々におけるシランカップリング剤の濃度が1wt%以上10wt%以下の範囲内である形態によれば、第1部材10と第2部材20との接合の耐久性を充分に確保できることが確認された。
【0050】
実施例4により、官能基としてグリシジル基を有するエポキシシランカップリング剤のほか、グリシジルを含まないエポキシシランカップリング剤を第1接着剤として使用した形態でも、第1部材10と第2部材20との接合の耐久性を充分に確保できることが確認された。
【0051】
実施例5により、第1接着剤および第2接着剤の各々の溶媒として、エタノールと水との混合溶液のほか、イソプロピルアルコールと水との混合溶液を使用した形態でも、第1部材10と第2部材20との接合の耐久性を充分に確保できることが確認された。
【0052】
D:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0053】
(1)前述の形態において、第1工程Saと第2工程Sbとの時間的な関係は任意である。すなわち、第1工程Saの実行後に第2工程Sbが実行されてもよいし、第2工程Sbの実行後に第1工程Saが実行されてもよい。また、第1工程Saの一部または全部と、第2工程Sbの一部または全部とが、相互に並列に実行されてもよい。
【0054】
以上の例示からも理解される通り、本願における「第1」および「第2」という表記は、各要素を表記上において区別するための形式的かつ便宜的な標識(ラベル)としてのみ使用され、如何なる実質的な意味も持たない。具体的には、「第1」および「第2」という表記は、各要素の位置または製造の順番を意味しない。したがって、「第1」が付加された工程は「第2」が付加された工程に先行するといった限定的な解釈の余地はない。
【0055】
(2)前述の形態においては、細胞の培養に利用されるウェルプレートを積層体100として例示したが、
図3に例示した製造工程により製造される積層体100の用途は、以上の例示に限定されない。また、第1部材10および第2部材20の形状または寸法は、積層体100の用途に応じて任意に変更される。例えば、前述の貫通孔22は必須ではない。
【符号の説明】
【0056】
100…積層体、10…第1部材、11…第1面、20…第2部材、21…第2面、22…貫通孔、30…接着層、31…第1層、32…第2層。