(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】コーティング用組成物及び積層体
(51)【国際特許分類】
C09D 151/00 20060101AFI20250205BHJP
C09D 5/02 20060101ALI20250205BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20250205BHJP
C09D 127/06 20060101ALI20250205BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
C09D151/00
C09D5/02
C09D133/00
C09D127/06
C09D175/04
(21)【出願番号】P 2024001795
(22)【出願日】2024-01-10
【審査請求日】2024-08-30
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000226666
【氏名又は名称】日信化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 晃司
(72)【発明者】
【氏名】奥田 治和
(72)【発明者】
【氏名】三田 安啓
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-80030(JP,A)
【文献】特開2020-90563(JP,A)
【文献】特開2012-172081(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109053975(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 151/00
C09D 5/02
C09D 133/00
C09D 127/06
C09D 175/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(I)成分と(II)成分を含むコーティング用組成物。
(I)塩化ビニル系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン及びウレタン系樹脂エマルジョンから選ばれる少なくとも1種のエマルジョン:固形分で60~99質量%
(II)(A)下記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンと(B)塩化ビニルとのグラフト共重合体であり、前記(A)オルガノポリシロキサンと前記(B)塩化ビニルとの質量比が(A):(B)=5:95~95:5である塩化ビニル・シリコーングラフト共重合樹脂エマルジョン:固形分で1~40質量%
【化1】
(式(1)中、R
1は同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R
2はラジカル反応性官能基である。Xは同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。YはX又は-[O-Si(X)
2]
d-Xで示される同一又は異種の基である。Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0~10,000の数、bは100~10,000の数、cは0.0001~100の数、dは1~1,000の数である。)
【請求項2】
請求項1に記載のコーティング用組成物の硬化物。
【請求項3】
硬化物がコーティング被膜である請求項2に記載の硬化物。
【請求項4】
請求項2に記載する硬化物を有する積層体。
【請求項5】
請求項3に記載する硬化物を有する積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティング用組成物に関するものであり、より詳しくは基材表面にコーティングすることで、透明性を維持し、摺動性を付与することができるエマルジョン型コーティング用組成物に関する。また、本発明は、このコーティング用組成物による被膜が形成された積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コーティング剤の分野においては、環境問題の点で有機溶剤系から水系へと分散媒の移行が進んでいる。塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂などのエマルジョンは優れた被膜形成能があり、コーティング剤として広く用いられてきた。
【0003】
また、シリコーン系樹脂は、基材に摺動性を付与することができる樹脂として知られている。しかしながら、シリコーン系樹脂をコーティング剤として使用する場合には、塗膜が白化するなどの不具合があった。
【0004】
シリコーン変性樹脂のエマルジョンとしては、アクリルシリコーンエマルジョンやウレタンシリコーンエマルジョン等の共重合体のエマルジョンが知られている。これらはアクリル系樹脂又はウレタン系樹脂のエマルジョンの性能にシリコーンの耐候性、耐熱性、耐寒性、撥水性、ガス透過性、摺動性などの利点を付与することができる一方で、共重合体のためにコストが高くなるだけでなく、変性前の樹脂が有している利点も減少するなどのデメリットもある。
【0005】
そこで、被膜形成能を有する塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂又はウレタン系樹脂のエマルジョンと、シリコーン系樹脂とを混合してコーティング剤として使用する方法が試みられている。しかし、混合することによって、シリコーン系樹脂の摺動性を発揮できなかったり、元のウレタン系樹脂、アクリル系樹脂及び塩化ビニル系樹脂の性能を低下させるなどして満足な性能を発揮できない場合もあった。
【0006】
例えば、特開2013-067787号(特許文献1)や特開2020-090596号(特許文献2)では、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂又はウレタン系樹脂のエマルジョンと、シリコーン系樹脂とを混合したコーティング剤が基材に撥水性や透明性を付与できることが開示されている。しかしながら、シリコーン系樹脂には、透明性、撥水性、摺動性、コストの点において、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-067787号公報
【文献】特開2020-090596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂のエマルジョンの持つ性能を低下させることなく、シリコーン系樹脂の持つ性能を付与し、かつコスト面も解決したエマルジョン型コーティング用組成物及び該組成物から形成された被膜を有する積層体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、(I)塩化ビニル系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン及びウレタン系樹脂エマルジョンから選ばれる少なくとも1種の樹脂エマルジョンと、(II)塩化ビニル・シリコーングラフト共重合樹脂とを所定の割合で配合したコーティング用組成物が上記課題を解決できることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、下記のコーティング用組成物及びその被膜、並びに積層体を提供する。
【0011】
[1]
下記(I)成分と(II)成分を含むコーティング用組成物。
(I)塩化ビニル系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン及びウレタン系樹脂エマルジョンから選ばれる少なくとも1種のエマルジョン:固形分で60~99質量%
(II)(A)下記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンと(B)塩化ビニルとのグラフト共重合体であり、前記(A)オルガノポリシロキサンと前記(B)塩化ビニルとの質量比が(A):(B)=5:95~95:5である塩化ビニル・シリコーングラフト共重合樹脂エマルジョン:固形分で1~40質量%
【化1】
(式(1)中、R
1は同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R
2はラジカル反応性官能基である。Xは同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。YはX又は-[O-Si(X)
2]
d-Xで示される同一又は異種の基である。Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0~10,000の数、bは100~10,000の数、cは0.0001~100の数、dは1~1,000の数である。)
[2]
[1]に記載のコーティング用組成物の硬化物。
[3]
硬化物がコーティング被膜である[2]に記載の硬化物。
[4]
[2]に記載の硬化物を有する積層体。
[5]
[3]に記載の硬化物を有する積層体。
【発明の効果】
【0012】
本発明のコーティング用組成物は、優れた透明性、撥水性、摺動性を有し、該コーティング用組成物から形成された被膜を有する積層体の外観を損なわずに高い耐摩耗性を維持することができる。また、本発明のコーティング用組成物は、分散媒が水系であるため、作業面・環境面での利点が大きい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(I)塩化ビニル系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン及びウレタン系樹脂エマルジョンから選ばれるエマルジョンは、1種類単独で用いてよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。(I)成分のエマルジョンは公知の方法、例えばアニオン系界
面活性剤又はノニオン系界面活性剤等を用いた乳化重合法で合成したものを用いてもよいし、市販品を使用してもよい。上記エマルジョンは被膜形成能を有する。
被膜形成能とは、一定温度以上で、乾燥後の塗膜表面の粒子性がなくなり、かつ、乾燥時に細かいひび割れなどを起こさない性能である。被膜形成のための乾燥温度範囲は特に限定されないが、好ましくは30~150℃、より好ましくは100~150℃である。また、乾燥時間は特に限定されないが1秒~10時間程度が好ましい。
【0014】
(I)成分の塩化ビニル系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン及びウレタン系樹脂エマルジョンから選ばれるエマルジョンが被膜形成能を有するためには、エマルジョンの平均粒子径が10~500nmであることが好ましい。平均粒子径は、動的光散乱式粒子径分布測定装置によって測定したものである。(I)成分のエマルジョンの粘度(25℃)は10~500mPa・sであるものが好ましい。粘度は回転粘度計にて測定できる。
また、(I)成分のエマルジョンのガラス転移温度(以下、Tgと記載することがある)は、120℃以下であり、60℃以下が好ましく、30℃以下が更に好ましい。なお、ガラス転移温度の下限値は-50℃が好ましい。ガラス転移温度は、JIS K7121に基づき測定できる。
【0015】
塩化ビニル系樹脂エマルジョン
(I)成分の塩化ビニル系樹脂エマルジョンは、塩化ビニル単量体の単独重合体のみならず、塩化ビニル単量体と酢酸ビニル単量体や塩化ビニル単量体と下記アクリル系樹脂エマルジョンで用いられるアクリル系単量体との共重合体(共重合樹脂)のエマルジョンであってもよい。
【0016】
アクリル系樹脂エマルジョン
また、(I)成分のアクリル系樹脂エマルジョンは下記の単量体から1種又は2種以上を混合した共重合体(共重合樹脂)のエマルジョンである。アクリル系樹脂単量体としては、例えば、炭素数1~18のアルキル基を有するアルコールとの(メタ)アクリル酸エステル、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートの総称である。また、上記に加えて下記単量体を併用してもよい。このような単量体としては、例えば、アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0017】
ウレタン系樹脂エマルジョン
ウレタン系樹脂エマルジョンは、ウレタン結合もしくはイソシアヌレート結合を持つ分子からなる単独重合体のみならず、アクリル系単量体、シラン系単量体、エポキシ系単量体、ポリエステル系重合体、ユリア系重合体との共重合体(共重合樹脂)のエマルジョンであってもよい。
【0018】
エマルジョンとしては、具体的には、塩化ビニル、塩化ビニル/酢酸ビニル又は塩化ビニル/(メタ)アクリル酸又はそのエステル等を用いた塩化ビニル系樹脂エマルジョン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系単量体を用いたアクリル系樹脂エマルジョン及びウレタン系樹脂エマルジョンが挙げられる。
【0019】
市販の塩化ビニル系樹脂エマルジョンとしては、日信化学工業(株)製ビニブランが挙げられる。また、市販のアクリル系樹脂エマルジョンとしては、日信化学工業(株)製ビニブラン、ヘンケルジャパン社製ヨドゾール、東亞合成(株)製アロンなどが挙げられる。市販のウレタン系樹脂エマルジョンとしては、ADEKA社製アデカボンタイターHUXシリーズ、DIC社製のWLSシリーズ、三洋化成工業社製のユーコート等が挙げられる。
【0020】
(I)成分の塩化ビニル系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン及びウレタン系樹脂エマルジョンから選ばれるエマルジョンの配合量は、コーティング用組成物中、固形分で60~99質量%であり、好ましくは65~95質量%である。このエマルジョンが60質量%未満であると、耐摩耗性など被膜特性が悪くなる場合があり、99質量%を超えると表面が滑らかでないために触感が悪くなる場合がある。
【0021】
(II)塩化ビニル・シリコーングラフト共重合樹脂エマルジョンは、(A)下記一般式(1)で示されるオルガノポリシロキサンと(B)塩化ビニルとをグラフト共重合して得られ、上記(A)オルガノポリシロキサンと上記(B)塩化ビニルとの質量比が(A):(B)=5:95~95:5である塩化ビニル・シリコーングラフト共重合樹脂エマルジョンである。
【0022】
本発明における(A)オルガノポリシロキサンは、下記式(1)で示されるものである。
【化2】
(式(1)中、R
1は同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、R
2はラジカル反応性官能基である。Xは同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。YはX又は-[O-Si(X)2]d-Xで示される同一又は異種の基である。Zは炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基である。aは0~10,000の数、bは100~10,000の数、cは0.0001~100の数、dは1~1,000の数である。)
【0023】
ここで、R1は同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等のシクロアルキル基、ビニル基、アリル基等のアルケニル基、フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、ビニルフェニル基等のアルケニルアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニルベンジル基、ビニルフェニルプロピル基等のアルケニルアラルキル基などや、これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、アクリロキシ基、メタクリロキシ基、カルボキシル基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、アルキル又はアルコキシもしくは(メタ)アクリロキシ置換アミノ基などで置換されたものが挙げられる。R1としては、好ましくはメチル基である。
【0024】
R2はラジカル反応性官能基であり、メルカプト基またはエチレン性二重結合含有基置換の炭素数1~8のアルキル基が好ましい。具体的には、ビニル基、スチリル基、メルカプト基、アクリロキシ基もしくはメタクリロキシ基置換の炭素数1~8のアルキル基である。ビニル基、スチリル基、オクテニル基、メタクリロキシオクチル基、メルカプトプロピル基、アクリロキシプロピル基、メタクリロキシプロピル基、メタクリロキシオクチルビニル基等が挙げられる。
【0025】
Xは、同一又は異種の置換もしくは非置換の炭素数1~20の1価炭化水素基、炭素数1~20のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、非置換もしくは置換の炭素数1~20の1価炭化水素基としては、R1で例示したものと同一のものが例示でき、炭素数1~20のアルコキシ基としては、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、デシルオキシ基、テトラデシルオキシ基等が挙げられる。これらのなかでも、ヒドロキシル基、メチル基、ブチル基、フェニル基が好ましい。
Yは、X又は-[O-Si(X)2]d-Xで示される同一又は異種の基である。該Xとしては、上記で例示したものと同一のものが例示できる。
【0026】
Zは、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基又はヒドロキシル基であり、好ましくはヒドロキシル基又はメチル基である。
【0027】
aは0~10,000の数、好ましくは0~1,000の数、より好ましくは0~200の数である。a単位を構成する場合には、最下限を0.5とするとよい。aは10,000より大きくなると、(A)成分を含む組成物をコーティング被膜として用いた場合に得られる被膜の強度が不十分となる場合がある。
bは100~10,000の数、好ましくは1,000~5,000の数である。bは100未満では被膜の柔軟性が乏しいものとなる場合があり、10,000より大きいとその引き裂き強度が低下する場合がある。
cは0.0001~100の数であり、100を超えると、摺動効果が発揮できない場合がある。
ここで、c/(a+b+c)×100は、好ましくは0.0001~10であり、より好ましくは0.001~10である。
dは1~1,000の数であり、1~200の数が好ましい。
【0028】
上記式(1)で示されるオルガノポリシロキサンは、エマルジョンの形態で使用されることが好ましく、市販品を使用してもよいし、合成してもよい。合成する場合は、公知の乳化重合法で合成でき、例えば環状オルガノシロキサンあるいはα,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー、アルコキシシラン等と、下記式(2)で示されるシランカップリング剤とを、アニオン系界面活性剤を用いて水中に乳化分散させた後、必要に応じて酸等の重合触媒を添加して重合反応を行うことにより容易に合成することができる。環状オルガノシロキサンはフッ素原子、(メタ)アクリロキシ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基を有してもよい。
【化3】
(式(2)中、R
3はラジカル反応性官能基である。特にアクリロキシ基、メタクリロキシ基、ビニル基又はメルカプト基置換の炭素数1~8のアルキル基、又はスチリル基又はビニル基を示す。R
4は炭素数1~4のアルキル基またはヒドロキシ基であり、R
5は炭素数1~4のアルキル基であり、eは2又は3、fは0又は1であり、e+fは2又は3である。)
【0029】
上記環状オルガノシロキサンとしては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)、1,1-ジエチルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、フェニルヘプタメチルシクロテトラシロキサン、1,1-ジフェニルヘキサメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラビニルテトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラシクロヘキシルテトラメチルシクロテトラシロキサン、トリス(3,3,3-トリフロロプロピル)トリメチルシクロトリシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-メタクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-アクリロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-カルボキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(3-ビニロキシプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(p-ビニルフェニル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ[3-(p-ビニルフェニル)プロピル]テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N-アクリロイル-N-メチル-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン、1,3,5,7-テトラ(N,N-ビス(ラウロイル)-3-アミノプロピル)テトラメチルシクロテトラシロキサン等が例示される。好ましくは、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサンが用いられる。
【0030】
シランカップリング剤としては、具体的には、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシランなどのビニルシラン類;γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジイソプロポキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジブトキシシランなどのアクリルシラン類;γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのメルカプトシラン類、スチリルトリメトキシシランなどのスチリルシラン類等が挙げられる。また、これらを縮重合したオリゴマーはアルコールの発生が抑えられより好ましい場合がある。ここで、(メタ)アクリロキシは、アクリロキシ又はメタクリロキシを示す。
これらシランカップリング剤は、環状オルガノシロキサンあるいはα,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー、アルコキシシラン等100質量部に対して0.01~20質量部使用することが好ましく、0.01~5質量部使用することが更に好ましい。
【0031】
環状オルガノシロキサンあるいはα,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー、アルコキシシラン等と、シランカップリング剤とを共重合することにより、上記式(1)中の繰り返し数cの単位([Si(R2)(Z)O]で表される単位)を有するオルガノポリシロキサンとなり、(B)塩化ビニルをグラフト重合可能となる。
【0032】
重合触媒としては、公知の重合触媒を使用すればよい。中でも強酸が好ましく、塩酸、硫酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、クエン酸、乳酸、アスコルビン酸が例示される。好ましくは界面活性能を有するドデシルベンゼンスルホン酸である。
酸触媒の使用量は、環状オルガノシロキサンあるいはα,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー、アルコキシシラン等100質量部に対して0.01~10質量部であることが好ましく、0.2~2質量部であることがより好ましい。
【0033】
また、アニオン系界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ミリストイルメチルタウリンナトリウム等が好ましい。更に好ましくは、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ミリストイルメチルタウリンナトリウムであり、特に好ましくは、ラウロイルメチルタウリンナトリウム、ミリストイルメチルタウリンナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウムである。
【0034】
なお、アニオン系界面活性剤の使用量は、環状オルガノシロキサンあるいはα,ω-ジヒドロキシシロキサンオリゴマー、α,ω-ジアルコキシシロキサンオリゴマー、アルコキシシラン等100質量部に対して0.1~20質量部であることが好ましく、0.5~10質量部であることがより好ましい。
【0035】
重合温度は50~75℃が好ましく、重合時間は10時間以上が好ましく、15時間以上が更に好ましい。更に、重合後に5~30℃で10時間以上熟成させることが特に好ましい。
【0036】
重合反応終了後、中和剤(10%炭酸ナトリウム水溶液等)を用いて、pH2.5~14、好ましくは4~11に中和してもかまわない。
【0037】
(A)オルガノポリシロキサンの粘度測定による重量平均分子量(Mw)は、摺動効果の点で、10,000~1,000,000が好ましく、100,000~500,000がより好ましい。
【0038】
ここで、オルガノポリシロキサンの粘度測定による重量平均分子量(Mw)は、1g/100ml濃度のオルガノポリシロキサンのトルエン溶液の比粘度ηsp(25℃)から計算したものである。
ηsp=(η/η0)-1
(η0:トルエンの粘度 η:溶液の粘度)
ηsp=[η]+0.3[η]2
[η]=0.215×10-4M0.65
具体的には、エマルジョン20gをIPA(イソプロピルアルコール)20gと混合し、エマルジョンを破壊した後、IPAを廃棄し、残ったゴム状のオルガノポリシロキサンを60℃で一晩乾燥する。これを1g/100ml濃度のオルガノポリシロキサンのトルエン溶液とし、ウベローデ粘度計にて25℃で測定を行う。上記式に粘度を代入することにより分子量を求めることができる(参考文献:中牟田、日化、77 858[1956]、Doklady Akad. Nauk. U.S.S.R. 89 65[1953])。
【0039】
塩化ビニル・シリコーングラフト共重合体(共重合樹脂)は、(A)オルガノポリシロキサンと(B)塩化ビニルとをグラフト重合させて得ることができる。
【0040】
塩化ビニル・シリコーングラフト共重合体(共重合樹脂)の製造方法は、式(1)のオルガノポリシロキサン((A)成分)と塩化ビニル((B)成分)とを質量比(式(1)のオルガノポリシロキサンと塩化ビニル単位との質量比)で5:95~95:5、好ましくは20:80~85:15でグラフト重合させる工程を有する。式(1)のオルガノポリシロキサン成分の割合が上記の5より少ないと摺動効果が発揮できない場合がある。
【0041】
塩化ビニル・シリコーングラフト共重合体(共重合樹脂)の製造で使用されるラジカル開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過硫酸水素水、t-ブチルハイドロパーオキサイド、過酸化水素が挙げられる。必要に応じ、酸性亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、L-アスコルビン酸、酒石酸、糖類、アミン類等の還元剤を併用したレドックス系化合物も使用することができる。
また、ラジカル開始剤の使用量は、(B)塩化ビニルの0.1~5質量%が好ましく、0.5~3質量%が更に好ましい。
【0042】
(A)成分に対する(B)成分の重合温度は25~85℃が好ましく、55~85℃が更に好ましい。また、重合時間は2~20時間が好ましく、3~10時間が更に好ましい。
【0043】
更に、ポリマーの分子量、重合率を調整するために連鎖移動剤を添加することができる。例えば、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素;n-ドデシルメルカプタン、tert-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等のメルカプタン類等を例示することができる。
連鎖移動剤の使用量は、単量体100質量部に対して0.1~1質量部が好ましく、0.3~0.8質量部がより好ましい。
【0044】
このようにして得られた塩化ビニル・シリコーングラフト共重合体(共重合樹脂)は、(B)成分の塩化ビニルが(A)成分のオルガノポリシロキサンにランダムに結合しているポリマーであり、かつ、多種の構造のものが混合したポリマーであり、当該物をその構造又は特性により直接特定することは不可能なものである。
【0045】
塩化ビニル・シリコーングラフト共重合体(共重合樹脂)のエマルジョンの製造方法は、式(1)のオルガノポリシロキサン((A)成分)と塩化ビニル((B)成分)とを質量比(式(1)のオルガノポリシロキサンと塩化ビニル単位との質量比)で5:95~95:5、好ましくは20:80~85:15で乳化重合させる工程を有することが好ましい。
オルガノポリシロキサンエマルジョン中に含まれている界面活性剤で十分にグラフト重合可能であるが、安定性向上のためアニオン系界面活性剤として、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、N-アシルアミノ酸塩、N-アシルタウリン塩、脂肪族石けん、アルキルりん酸塩等を添加することができる。また、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル等のノニオン系乳化剤を添加することもできる。界面活性剤を添加する場合の使用量は、(B)塩化ビニルの0.1~5質量%が好ましい。
【0046】
また、塩化ビニル・シリコーングラフト共重合体(共重合樹脂)は、エマルジョンの固形分が25~40質量%であることが好ましい。また、このエマルジョンの粘度(25℃)は、1~500mPa・sが好ましく、1~200mPa・sが更に好ましい。粘度は回転粘度計にて測定できる。エマルジョンの平均粒子径は、0.1μm(100nm)~0.5μm(500nm)が好ましい。なお、平均粒子径は、動的光散乱式粒子径分布測定装置によって測定した値である。
【0047】
(II)成分の塩化ビニル・シリコーングラフト共重合樹脂エマルジョンの配合量は、コーティング用組成物中、固形分で1~40質量%であり、好ましくは5~30質量%である。塩化ビニル・シリコーングラフト共重合樹脂エマルジョンが1質量%未満であると耐摩耗性において全く改善が見られない場合があり、40質量%を超えると白化する上に耐摩耗性も低下する場合がある。
【0048】
本発明のコーティング用組成物は、(I)成分の塩化ビニル系樹脂エマルジョン、アクリル系樹脂エマルジョン及びウレタン系樹脂エマルジョンから選ばれるエマルジョンと、(II)成分の塩化ビニル・シリコーングラフト共重合樹脂エマルジョンとを水系下でプロペラ式撹拌機やホモジナイザーなどの公知の混合調製方法で混合することによって得られる。
【0049】
また、本発明のコーティング用組成物には、性能に影響を与えない範囲で、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤、増粘剤、界面活性剤、有機溶剤(造膜助剤など)、他の樹脂等を添加してもよい。
【0050】
本発明のコーティング用組成物を基材の片面又は両面に塗布又は浸漬することで、積層体を得ることができる。
【0051】
本発明のコーティング用組成物については、所望の高い透明性を確保する点から、基材に塗布した際のヘーズ増加率が、塗布前の基材のヘーズ値に対して1500%以下であることが好適であり、基材の種類によるが、より好ましく1000%以下とするものである。本発明でいう「ヘーズ」は、JIS K7136(2000年)の規格に従い、全光線透過率及び拡散透過率から下記式により算出されるHAZE(曇価)である。
HAZE(曇価) = (拡散透過率Td/全光線透過率Tt)×100(%)
基材に塗布したヘーズ値は、例えば、日本電色工業社製のヘーズメーターによって測定することができる。また、コーティング用組成物の塗布前の基材のヘーズ値も上記と同様の規格にしたがって測定することができる。また、本発明でいう「ヘーズ増加率」は、基材のヘーズ値をHX、コーティング用組成物を塗布した後のヘーズ値をHYとすると、下記式から算出することができる。
[ヘーズ値の増加率(%)] = 〔(HY-HX)/HX〕×100
【0052】
本発明のコーティング用組成物を基材、例えば、プラスチック(PET、PI等)、硝子(汎用ガラス、SiO2等)、金属(Si、Cu、Fe、Ni、Co、Au、Ag、Ti、Al、Zn、Sn、Zr、それらの合金等)、木材、繊維(布、糸等)、紙、セラミック(酸化物、炭化物、窒化物等の焼成物など)などの基材の片面又は両面に塗布又は浸漬、乾燥(室温~150℃)すると、アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂又はウレタン系樹脂の長所を維持しながら、シリコーン系樹脂の撥水性、耐候性、耐熱性、耐寒性、ガス透過性、摺動性などの利点を、長期に亘って付与することができる。
なお、本明細書において、室温とは、1℃~40℃のことをいう。
【0053】
ここで、プラスチック基材としては、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、セルロース、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートポリマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレンポリマー、ポリウレタン、及びエポキシ樹脂等が使用される。プラスチック加工品としては、自動車内装材や有機ガラス、電材や建材、建築物の外装材、液晶ディスプレイ等に使用する光学フィルム、光拡散フィルム、携帯電話、家電製品等がある。乾燥させる方法としては、室温下で1~10日間放置する方法が挙げられるが、硬化を迅速に進行させる観点から、20~150℃の温度で、1秒~10時間加熱する方法が好ましい。また、前記プラスチック基材が加熱によって変形や変色を引き起こしやすい材質からなるものである場合には、20~100℃の比較的低温下で乾燥することが好ましい。
【0054】
ガラス基材としては、ソーダ石灰ガラス、石英ガラス、鉛ガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス等が使用される。ガラス加工品としては、建築用板ガラス、自動車等車両用ガラス、レンズ用ガラス、鏡用ガラス、ディスプレイパネル用ガラス、太陽電池モジュール用ガラス等がある。乾燥させる方法としては、室温で1~10日程度放置したり、20~150℃、特に60~150℃の温度で、1秒~10時間加熱する方法が好ましい。
【0055】
木材基材としては、カエデ科、カバノキ科、クスノキ科、クリ科、ゴマノハグサ科、ナンヨウスギ科、ニレ科、ノウゼンカズラ科、バラ科、ヒノキ科、フタバガキ科、フトモモ科、ブナ科、マツ科、マメ科、モクセイ科等の木材が使用される。木材加工品としては、木そのものを原料とする加工及び成形品、合板及び集成材及びそれらの加工及び成形品、及びそれらの組み合わせから選択されるものであってよく、例えば、建物の外装及び内装用資材を包含する住建築用資材、机などの家具類、木のおもちゃ、楽器等がある。20~150℃、特に50~150℃で0.5~5時間熱風乾燥させる方法が好ましい。また、乾燥温度は120℃以下にすれば塗膜の変色を避けることができる。
【0056】
繊維基材としては、木綿、麻、リンネル、羊毛、絹、カシミヤ、石綿等の天然繊維及び、ポリアミド、ポリエステル、ビスコース、セルロース、ガラス、炭素等の化学繊維が例示される。繊維加工品としては、すべての種類の織物、編物、不織布、あるいはフィルム、紙等がある。乾燥させる方法としては、室温で10分~数十時間放置したり、20~150℃の温度で、0.5分~5時間乾燥させる方法が好ましい。
【0057】
最終的に得られた組成物の粘度(23℃)は10mPa・s以上3,000mPa・s以下が好ましく、更に好ましくは20mPa・s以上2,500mPa・s以下が好ましい。なお、この粘度はB型粘度計(23±0.5℃)による値である。
また、該組成物は、塩基又は酸性化合物を配合させて、pH2~12まで、アルカリ、酸の両方の環境においても有効に活用することが可能である。
【0058】
また、基材へのコーティング方法は特に限定されないが、直接浸漬、スプレー塗装、バーコータ、ロールコータ等の方法が挙げられ、ドライアップ後の膜厚は透明性も考慮し、0.5~50μm程度、更に1~20μmが好ましい。また、浸漬による膜成形の場合には、10秒~30分浸漬し、適宜調整しながら室温~150℃で1秒~10日間程度乾燥させて所望の厚さ、好ましくは0.01~5kg/m2になるように処理する。
【0059】
塗布による膜成形の場合には、本発明のコーティング用組成物の基材への塗布量は、特に限定しないが、通常は、防汚性、施工作業性などの点から固形分換算で、好ましくは1~300g/m2、より好ましくは5~100g/m2の範囲または厚さ1~500μm、好ましくは5~100μmで形成し、自然乾燥又は100~200℃に加熱乾燥して成膜させるとよい。
【0060】
得られた膜の水接触角は、温度23℃、湿度45%の雰囲気下で、自動接触角計CA-V(協和界面科学社製)を使用し、イオン交換水1.8μLの液滴を接触させ、接触後30秒後の接触角が50°以上であることが好ましい。
【実施例】
【0061】
以下、製造例、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の製造例及び実施例に制限されるものではない。また、下記記載の分子量は、1g/100ml濃度のオルガノポリシロキサンのトルエン溶液の比粘度から求めた粘度測定による重量平均分子量(Mw)である。なお、下記の例において、部及び%はそれぞれ質量部、質量%を示す。
【0062】
[製造例1]
オクタメチルシクロテトラシロキサン1200g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン4.8g、ラウリル硫酸ナトリウム12gを純水108gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸12gを純水108gに溶解したものを4Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水728gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計及び還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液でpH7に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が44%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。このエマルジョン(シリコーン組成物)はトルエン溶液の粘度から分子量約250,000の下記式(A)で表わされる構造であった。式(A)においてR
2はγ-メタクリロキシプロピル基である。上記重合反応により得られるオルガノポリシロキサンの構造は
1H-NMR(周波数600MHz、室温、積算回数128回)及び
29Si-NMR(周波数60MHz、室温、積算回数5000回)(装置名:JNM-ECA600、測定溶媒:CDCl
3)によって確認した。
【化4】
上記エマルジョン1207gを攪拌機、コンデンサー、温度計及び窒素ガス導入口を備えた重合容器に移し、塩化ビニル59g及び過硫酸アンモニウムを添加して60℃で8時間反応を行うことで上記シリコーン組成物へ塩化ビニルをグラフト共重合し、不揮発分30%の塩化ビニル・シリコーングラフト共重合体のエマルジョンを得た。得られた塩化ビニル・シリコーングラフト共重合体は、式(A)のR
2に塩化ビニルがグラフ
トされる塩化ビニル・シリコーングラフト共重合体であった。
【0063】
[製造例2]
製造例1の塩化ビニルの量を132gに代えた以外は同様の方法で不揮発分30%の塩化ビニル・シリコーングラフト共重合体のエマルジョンを得た。
【0064】
[製造例3]
製造例1の塩化ビニルの量を226gに代えた以外は同様の方法で不揮発分30%のシリコーン塩化ビニルグラフト共重合体のエマルジョンを得た。
【0065】
[製造例4]
オクタメチルシクロテトラシロキサン1200g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン0.96g、ラウリル硫酸ナトリウム12gを純水108gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸12gを純水108gに溶解したものを4Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水728gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm
2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計及び還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液でpH7に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が45%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。このエマルジョン(シリコーン組成物)はトルエン溶液の粘度から分子量約250,000の下記式(B)で表わされる構造であった。式(B)において、R
2はγ-メタクリロキシプロピル基である。
【化5】
上記エマルジョン1198gを攪拌機、コンデンサー、温度計及び窒素ガス導入口を備えた重合容器に移し、塩化ビニル231g及び過硫酸アンモニウムを添加して60℃で8時間反応を行うことで上記シリコーン組成物へ塩化ビニルをグラフト共重合し、不揮発分30%の塩化ビニル・シリコーングラフト共重合体のエマルジョンを得た。得られた塩化ビニル・シリコーングラフト共重合体は、式(B)のR
2に塩化ビニルがグラフ
トされる塩化ビニル・シリコーングラフト共重合体であった。
【0066】
[製造例5]
製造例1の塩化ビニルの量を528gに代えた以外は同様の方法で不揮発分30%の塩化ビニル・シリコーングラフト共重合体のエマルジョンを得た。
【0067】
[製造例6]
製造例1の塩化ビニルの量を1232gに代えた以外は同様の方法で不揮発分30%の塩化ビニル・シリコーングラフト共重合体のエマルジョンを得た。
【0068】
[比較製造例1]
オクタメチルシクロテトラシロキサン1200g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン4.8g、ラウリル硫酸ナトリウム12gを純水108gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸12gを純水108gに溶解したものを4Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水728gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計及び還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液でpH7に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分(固形分)が44%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものであった。このエマルジョン(シリコーン組成物)はトルエン溶液の粘度から分子量約250,000の上記式(A)で表わされる構造であった。
【0069】
[比較製造例2]
攪拌機、コンデンサー、温度計及び窒素ガス導入口を備えた重合容器に、塩化ビニル840g、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル16.8g、ペルオキソ二硫酸カリウムを添加して45℃で30時間反応を行うことで不揮発分40%の共重合体のエマルジョンを得た。
【0070】
[比較製造例3]
オクタメチルシクロテトラシロキサン1200g、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン0.96g、ラウリル硫酸ナトリウム12gを純水108gに溶解したもの、及びドデシルベンゼンスルホン酸12gを純水108gに溶解したものを2Lのポリエチレン製ビーカーに仕込み、ホモミキサーで均一に乳化した後、水400gを徐々に加えて希釈し、圧力300kgf/cm2で高圧ホモジナイザーに2回通し、均一な白色エマルジョンを得た。このエマルジョンを攪拌装置、温度計及び還流冷却器の付いた2Lのガラスフラスコに移し、55℃で24時間重合反応を行った後、15℃で24時間熟成してから10%炭酸ナトリウム水溶液でpH7に中和した。このエマルジョンは105℃で3時間乾燥後の不揮発分が45%で、エマルジョン中のオルガノポリシロキサンは非流動性の軟ゲル状のものである。このエマルジョン(シリコーン組成物)はトルエン溶液の粘度から分子量約250,000の式(B)で表わされる構造であった。
更に、このエマルジョンに、メタクリル酸メチル226.8g、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル4.6gを3~5時間かけて滴下しながら27℃でt-ブチルハイドロパーオキサイドを使用して反応を行うことで上記シリコーン組成物へアクリルをグラフト共重合し、不揮発分30%のアクリル・シリコーングラフト共重合体のエマルジョンを得た。
【0071】
[比較製造例4]
上記比較製造例1で得たシリコーンエマルジョン160gと上記比較製造例2で得た塩化ビニルエマルジョン75gとを1時間攪拌混合し、不揮発分42.7%の混合エマルジョンを得た。
【0072】
上記の製造例1~6及び比較製造例1~4で得たエマルジョンを下記方法で評価した。その結果を表1及び表2に示す。
【0073】
<固形分測定方法>
試料約1gをアルミ箔製の皿に正確に量り取り、約105℃に保った乾燥器に入れ、1時間加熱後、乾燥器から取り出してデシケーターの中にて放冷し、乾燥後の試料を入れたアルミ箔皿の重さを量り、次式により固形分(蒸発残分)を算出した。
【数1】
R:固形分(蒸発残分)(%)
W:乾燥前の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
L:アルミ箔皿の質量(g)
T:乾燥後の試料を入れたアルミ箔皿の質量(g)
アルミ箔皿の寸法:65φ×23h(mm)
【0074】
<粘度測定方法>
試料の液温を23±0.5℃に保持し、回転粘度計(No.1ローター、6rpm、東機産業社製:商品名:VISCOMETER TVB-10)にて測定した。
【0075】
<平均粒子径>
平均粒子径は試料を0.01g計量し、レーザー回折式粒度分布測定装置(堀場製作所製、商品名:LA-950V2)を使用して、循環流量2、撹拌速度2の条件での平均粒子径(粒度累積分布の50%に相当する粒子径の値)を測定した。
[測定条件]
測定温度:25±1℃
溶媒:イオン交換水
【0076】
<最低造膜温度(MFT)の測定>
エマルジョンの最低造膜温度(MFT、℃)をJIS K-6828-2に準拠する方法にて測定した。詳細には、加熱源と冷却源とが一定の距離をおいて設置された簡易造膜温度測定装置(井元製作所製)を使用した。アルミホイルにエマルジョンを1μl塗布し、2時間後の塗膜状態を、該装置を使用して観察した。エマルジョンを温度こう配のもとで乾燥させ、造膜して透明な部分と、造膜していない部分との境界温度を測定して、最低造膜温度(MFT、℃)とした。MFTは塗膜生成時の乾燥性を考えると100℃以下が望ましい。
【0077】
【0078】
【0079】
[実施例1]
(I)ウレタン系樹脂エマルジョンとして、ハイドランWLS-213(DIC社製ポリカーボネート系の水性ウレタン樹脂)を用い、この樹脂エマルジョンを撹拌しているところに、製造例1で得られた塩化ビニル・シリコーン共重合樹脂エマルジョンを投入し、10分以上撹拌の後、80メッシュでろ過して、実施例1のコーティング用組成物を得た。
【0080】
[実施例2~9、比較例1~7]
表3(実施例1~6)、表4(実施例7~9)及び表5(比較例1~5)、表6(比較例6~7)で示した各成分の配合比率の通り、実施例1と同様の方法で各例のコーティング用組成物を製造した。なお、表3、表4及び表5中で示す原料比率は固形分での質量比率である。
【0081】
[実施例10]
(I)アクリル・塩化ビニル系エマルジョンとして、ビニブラン700(日信化学製)を用い、この樹脂エマルジョンを撹拌しているところに、製造例3で得られた塩化ビニル・シリコーン共重合樹脂エマルジョンを投入し、10分以上撹拌の後、80メッシュでろ過して、実施例10のコーティング用組成物を得た(表4)。
【0082】
[実施例11、比較例8]
表4(実施例11)及び表5(比較例8)で示した各成分の配合比率の通り、実施例10と同様の方法で各例のコーティング用組成物を製造した。
【0083】
得られた各実施例及び各比較例のコーティング用組成物の「ヘーズ値・ヘーズ増加率」及び「静・動摩擦係数」を測定した。その数値を表3~6に示す。なお、各測定は下記のように行った。
【0084】
<成膜方法>
各例のコーティング用組成物をバーコーターにて塗布し、105℃で3分乾燥を行い、ドライで約10μmになるように、PETフィルム及び軟質塩化ビニルシートの各基材の上に塗膜を形成した。
【0085】
<耐アルコール性>
バーコーターにて各実施例及び比較例のコーティング用組成物をPETフィルムに塗布し、105℃で3分乾燥を行い、乾燥後の膜厚が約10μmになるように塗膜を形成した。
塗膜上に98%エタノールを滴下し1晩常温で風乾した。風乾後の塗膜の変化を目視により評価した。
○:外観変化なし
△:跡が残るも白化なし
×:白化
【0086】
<水接触角測定>
バーコーターにて各実施例及び比較例のコーティング用組成物をPETフィルムに塗布し、105℃で3分乾燥を行い、乾燥後の膜厚が約10μmになるように塗膜を形成した。
2μlの純水を塗膜上に滴下し1秒後及び30秒後の接触角値それぞれを協和界面科学社製の接触角計CA-D型を用いて測定した。接触角は撥水による水性汚れの付着防止を考えると80°(度)以上が好ましい。
【0087】
<ヘーズ値の測定>
バーコーターにて各実施例及び比較例のコーティング用組成物をPETフィルム(ヘーズ値2.20)に塗布し、105℃で3分乾燥を行い、ドライで約10μmになるように塗膜を形成した。
製品名「ヘーズメーター COH400」(日本電色工業社製)にて上記各例のコーティング用組成物の塗膜を有する基材のヘーズ値を測定した。
【0088】
<静・動摩擦係数測定>
バーコーターにて各実施例及び比較例のコーティング用組成物をPETフィルムに塗布し、105℃で3分乾燥を行い、乾燥後の膜厚が約10μmになるように塗膜を形成した。
HEIDON TYPE-38(新東科学株式会社製)にて200gの金属圧子を上記塗膜に垂直に接触させ、3cm/分で移動させた時の摩擦力を測定し、摩擦力から摩擦係数を算出した。尚、上記条件での静・動摩擦係数の好ましい範囲は、静摩擦係数が0.2以下であり、動摩擦係数が0.1以下である。
【0089】
<耐摩耗性>
軟質塩化ビニル合皮シート上に形成した塗膜で綿帆布をこすって色移りから塗膜の破れ具合を確認(目視)した。摩擦条件は9.8Nで2000回で行った。
◎:優
〇:良
△:可
×:不可
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【要約】
【課題】塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂及びウレタン系樹脂のエマルジョンの持つ性能を低下させず、シリコーン系樹脂の持つ性能を付与し、かつコスト面も解決したエマルジョン型コーティング用組成物
【解決手段】
下記(I)成分と(II)成分を含むコーティング用組成物。
(I)塩化ビニル系樹脂、アクリル系樹脂及び/又はウレタン系樹脂のエマルジョン
(II)(A)オルガノポリシロキサンと(B)塩化ビニルとの重合体であり、質量比が(A):(B)=5:95~95:5である塩化ビニル・シリコーングラフト共重合樹脂エマルジョン
【選択図】なし