IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ヒラノテクシードの特許一覧

特許7629568ペロブスカイト膜形成装置及びペロブスカイト膜形成方法
<>
  • 特許-ペロブスカイト膜形成装置及びペロブスカイト膜形成方法 図1
  • 特許-ペロブスカイト膜形成装置及びペロブスカイト膜形成方法 図2
  • 特許-ペロブスカイト膜形成装置及びペロブスカイト膜形成方法 図3
  • 特許-ペロブスカイト膜形成装置及びペロブスカイト膜形成方法 図4
  • 特許-ペロブスカイト膜形成装置及びペロブスカイト膜形成方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-04
(45)【発行日】2025-02-13
(54)【発明の名称】ペロブスカイト膜形成装置及びペロブスカイト膜形成方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/50 20230101AFI20250205BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20250205BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20250205BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20250205BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
B05D7/24 302Z
B32B9/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024120739
(22)【出願日】2024-07-26
【審査請求日】2024-07-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000240341
【氏名又は名称】株式会社ヒラノテクシード
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】津田 武明
(72)【発明者】
【氏名】比良 臣伸
(72)【発明者】
【氏名】豕瀬 光輝
(72)【発明者】
【氏名】笹野 祐史
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2020-0020346(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0175425(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第111341919(CN,A)
【文献】国際公開第2023/181843(WO,A1)
【文献】中国実用新案第216064025(CN,U)
【文献】国際公開第2024/111394(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0338045(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0287137(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2022/0123242(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第113571648(CN,A)
【文献】特開2024-014771(JP,A)
【文献】特表2000-508049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 30/00-30/89
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペロブスカイト前駆体と溶媒とを含む溶液が塗布された基材上で前記ペロブスカイト前駆体を結晶化させてペロブスカイト膜とするペロブスカイト膜形成装置において、
連続して搬送される前記基材が通過する区域として、
前記基材上の前記溶液を、前記溶媒が蒸発し、かつ、前記ペロブスカイト前駆体が結晶化しない温度に加熱して、それにより、前記ペロブスカイト前駆体を結晶化させずに、前記基材に塗布された前記溶液から前記溶媒を除去する区域である溶媒除去室と、
前記溶媒除去室を通過後の前記溶媒が除去された前記基材上で、前記ペロブスカイト前駆体を結晶化温度以上に加熱することにより結晶化させて前記ペロブスカイト膜とする区域である結晶化室と、
が設けられ
前記溶媒と前記ペロブスカイト前駆体とで、吸収する赤外線の波長が異なり、
前記溶媒除去室に、前記溶媒に吸収される特定の波長の赤外線を照射する赤外線照射装置が設けられ、
前記赤外線照射装置は、前記溶液に前記特定の波長の赤外線を照射して、前記溶媒が蒸発し、かつ、前記ペロブスカイト前駆体が結晶化しない温度で前記溶液を加熱することにより、前記ペロブスカイト前駆体を結晶化させずに前記溶媒を蒸発させて除去するものであり、
前記溶媒除去室に、前記基材を上に載せて搬送する搬送ローラが設けられ、
前記搬送ローラは、前記溶液が塗布された面を上にして前記基材を搬送し、
前記搬送ローラを冷却するローラ冷却装置が設けられた、
ペロブスカイト膜形成装置。
【請求項2】
前記溶液を塗布する前の前記基材を巻き出す巻き出し部と、前記基材に前記溶液を塗布する塗布室と、前記ペロブスカイト膜が形成された前記基材を巻き取る巻き取り部とがさらに設けられ、
前記塗布室から前記巻き取り部までの間に設けられた区域として、前記溶媒除去室及び前記結晶化室が順番に設けられた、
請求項1に記載のペロブスカイト膜形成装置。
【請求項3】
前記溶媒除去室に、前記基材を上に載せて搬送する搬送ローラと、
前記搬送ローラよりも上において前記基材の搬送方向と同方向へ空気を送る整流装置が設けられた、
請求項1又は2に記載のペロブスカイト膜形成装置。
【請求項4】
前記結晶化室において、複数のノズルから熱風を当てることにより、前記溶媒が除去された後の前記ペロブスカイト前駆体を結晶化温度以上に加熱して結晶化させる、
請求項1又は2に記載のペロブスカイト膜形成装置。
【請求項5】
前記結晶化室において、熱風の吹き出し口を備える複数の前記ノズルが前後方向に並べて設けられ、
隣り合う前記ノズルの間に空気の吸い込み口が設けられた、
請求項に記載のペロブスカイト膜形成装置。
【請求項6】
前記溶媒除去室と前記結晶化室との間に圧力調整室が設けられ、
前記圧力調整室における吸気と排気により、前記溶媒除去室の気圧と前記結晶化室の気圧との差が解消されるように制御される、
請求項1又は2に記載のペロブスカイト膜形成装置。
【請求項7】
前記結晶化室を通過した前記基材が到達する区域としてアニール室が設けられ、
前記アニール室の温度が、前記結晶化室の温度よりも低く、常温よりも高い、
請求項1又は2に記載のペロブスカイト膜形成装置。
【請求項8】
ペロブスカイト前駆体と溶媒とを含む溶液が塗布された基材上で前記ペロブスカイト前駆体を結晶化させてペロブスカイト膜とするペロブスカイト膜形成方法において、
前記基材上の前記溶液を、前記溶媒が蒸発し、かつ、前記ペロブスカイト前駆体が結晶化しない温度に加熱して、それにより、前記ペロブスカイト前駆体を結晶化させずに、前記基材に塗布された前記溶液から前記溶媒を除去するステップと、
前記溶媒を除去するステップの後に、前記溶媒が除去された前記基材上で前記ペロブスカイト前駆体を結晶化温度以上に加熱することにより結晶化させて前記ペロブスカイト膜とするステップと、
を備え
前記溶媒と前記ペロブスカイト前駆体とで、吸収する赤外線の波長が異なり、
前記溶媒を除去するステップにおいて、赤外線照射装置が、前記溶媒に吸収される特定の波長の赤外線を前記溶液に照射して前記溶液を加熱することにより、前記ペロブスカイト前駆体を結晶化させずに前記溶媒を蒸発させて除去し、
前記溶媒を除去するステップは、搬送ローラが前記基材を上に載せて搬送する間に行われ、前記溶媒を除去するステップにおいて、前記搬送ローラは、前記溶液が塗布された面を上にして前記基材を搬送し、かつ、前記基材を下面側から冷却する、
ペロブスカイト膜形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペロブスカイト膜形成装置及びペロブスカイト膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、薄くて軽量で、高い発電効率を期待できる太陽電池として、ペロブスカイト型太陽電池が注目されている。ペロブスカイト型太陽電池は、ペロブスカイト膜において太陽光が吸収され自由電子と正孔が生成されることにより発電される電池である。
【0003】
ペロブスカイト膜の製造方法では、まず、基材に溶液を塗布する。この塗布方法は、ペロブスカイト前駆体及び溶媒を含む溶液を基材の上に吐出し、基材を回転させることにより基材上で溶液を広げる、所謂スピンコート法である。その後、溶液が塗布された基材をホットプレートにより加熱することにより、溶媒を除去すると共にペロブスカイト前駆体を結晶化させてペロブスカイト膜とする。
【0004】
また、特許文献1に記載のように、移動するノズルから基材に向けて溶液を塗布し、塗布後の基材を減圧環境下に置いて溶媒を揮発させると共にペロブスカイト前駆体からペロブスカイトへの結晶化(つまりペロブスカイト化)を進行させ、その後基材を加熱環境下に置いてさらにペロブスカイト化を進行させることも提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2024-14770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記のそれぞれの方法では、溶媒の蒸発とペロブスカイト化が同時に進行してしまう。そしてそのことが、発電効率の低下につながる不均一な結晶状態や、ショートの原因となる欠陥(ボイド)の形成の原因となっている。このように高品質なペロブスカイト膜を形成するのが難しいという現状が、ペロブスカイト型太陽電池の普及の妨げになっている。
【0007】
また、ペロブスカイト前駆体を含む溶液にイオン液体を添加する方法や、スピンコート中の基材上の溶液に貧溶媒を滴下するアンチソルベント法といった、溶液側の工夫によるペロブスカイト膜の品質向上の試みもなされてきた。しかし、これらの方法は、いずれも大学の実験や企業の研究開発段階における形成方法であり、ペロブスカイト型太陽電池を普及させるために必要な、ペロブスカイト膜を量産化する方法ではなかった。
【0008】
そこで本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、高品質なペロブスカイト膜を量産化することのできる装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態のペロブスカイト膜形成装置は、ペロブスカイト前駆体と溶媒とを含む溶液が塗布された基材上で前記ペロブスカイト前駆体を結晶化させてペロブスカイト膜とするペロブスカイト膜形成装置において、連続して搬送される前記基材が通過する区域として、前記基材上の前記溶液を、前記溶媒が蒸発し、かつ、前記ペロブスカイト前駆体が結晶化しない温度に加熱して、それにより、前記ペロブスカイト前駆体を結晶化させずに、前記基材に塗布された前記溶液から前記溶媒を除去する区域である溶媒除去室と、前記溶媒除去室を通過後の前記溶媒が除去された前記基材上で、前記ペロブスカイト前駆体を結晶化温度以上に加熱することにより結晶化させて前記ペロブスカイト膜とする区域である結晶化室と、が設けられ、前記溶媒と前記ペロブスカイト前駆体とで、吸収する赤外線の波長が異なり、前記溶媒除去室に、前記溶媒に吸収される特定の波長の赤外線を照射する赤外線照射装置が設けられ、前記赤外線照射装置は、前記溶液に前記特定の波長の赤外線を照射して、前記溶媒が蒸発し、かつ、前記ペロブスカイト前駆体が結晶化しない温度で前記溶液を加熱することにより、前記ペロブスカイト前駆体を結晶化させずに前記溶媒を蒸発させて除去するものであり、前記溶媒除去室に、前記基材を上に載せて搬送する搬送ローラが設けられ、前記搬送ローラは、前記溶液が塗布された面を上にして前記基材を搬送し、前記搬送ローラを冷却するローラ冷却装置が設けられたことを特徴とする
【0010】
また、実施形態のペロブスカイト膜形成方法は、ペロブスカイト前駆体と溶媒とを含む溶液が塗布された基材上で前記ペロブスカイト前駆体を結晶化させてペロブスカイト膜とするペロブスカイト膜形成方法において、前記基材上の前記溶液を、前記溶媒が蒸発し、かつ、前記ペロブスカイト前駆体が結晶化しない温度に加熱して、それにより、前記ペロブスカイト前駆体を結晶化させずに、前記基材に塗布された前記溶液から前記溶媒を除去するステップと、前記溶媒を除去するステップの後に、前記溶媒が除去された前記基材上で前記ペロブスカイト前駆体を結晶化温度以上に加熱することにより結晶化させて前記ペロブスカイト膜とするステップと、を備え、前記溶媒と前記ペロブスカイト前駆体とで、吸収する赤外線の波長が異なり、前記溶媒を除去するステップにおいて、赤外線照射装置が、前記溶媒に吸収される特定の波長の赤外線を前記溶液に照射して前記溶液を加熱することにより、前記ペロブスカイト前駆体を結晶化させずに前記溶媒を蒸発させて除去し、前記溶媒を除去するステップは、搬送ローラが前記基材を上に載せて搬送する間に行われ、前記溶媒を除去するステップにおいて、前記搬送ローラは、前記溶液が塗布された面を上にして前記基材を搬送し、かつ、前記基材を下面側から冷却することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記のペロブスカイト膜形成装置によれば、基材を溶媒除去室と結晶化室に順番に通過させることにより、高品質なペロブスカイト膜を形成でき、量産化もできる。また、上記のペロブスカイト膜形成方法によれば、基材に塗布された溶液から溶媒を除去した後にペロブスカイト前駆体を結晶化させることにより、高品質なペロブスカイト膜を形成でき、量産化もできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ペロブスカイト膜形成装置の側面図。
図2】溶液が塗布された基材の側面図。
図3】溶媒除去室の側面図。
図4】結晶化室の側面図。
図5】ペロブスカイト膜形成装置のブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態であるペロブスカイト膜形成装置10について、図1図5に基づき説明する。以下の説明において、長尺状の基材1の進行方向側を前とし、その反対側を後ろとする。また、左右とは、前から後ろを見たときの左右のことである。
【0014】
(1)ペロブスカイト膜形成装置10の全体構成
図1に示すように、ペロブスカイト膜形成装置10は、塗布室13、溶媒除去室14、結晶化室15及びアニール室16が後方から前方へ向かって並んで構成されている。また、塗布室13と溶媒除去室14との間には第1圧力調整室17が設けられ、溶媒除去室14と結晶化室15との間には第2圧力調整室18が設けられ、結晶化室15とアニール室16との間には第3圧力調整室19が設けられている。それぞれの圧力調整室17、18、19と、それらの前後両隣の区域との間は、基材1が通過可能な開口が形成された区画壁29(図3及び図4参照)で仕切られている。また、ペロブスカイト膜形成装置10は、巻き出し部11及び表面処理部12も備えている。
【0015】
(2)巻き出し部11及び表面処理部12の構成
巻き出し部11には巻き取り軸20が設けられている。巻き取り軸20に、溶液を塗布する前の基材1が巻き取られている。巻き取り軸20はモータの駆動により回転し、基材1を巻き出す。溶液を塗布する前の基材1は、ポリエチレンテレフタラートフィルムのような透明なフィルム上に、透明導電膜と、電子輸送層が積層されたものである。基材1の幅は、例えば200mm~1000mmである。
【0016】
表面処理部12は、巻き出し部11から搬送されて来た基材1に対し、表面処理を行う部分である。表面処理は、基材1の電子輸送層の濡れ性を向上させる処理であり、例えばコロナ処理、プラズマ処理、UV処理等のいずれかである。また、表面処理部12では、基材1の除塵も行われる。
【0017】
(3)塗布室13の構成
塗布室13には、ダイ21と、ダイ21に対して前方のバックアップローラ22とが設けられている。バックアップローラ22は基材1を搬送するローラの一つであり、モータが駆動することにより回転する。バックアップローラ22の回転軸は左右方向に延びている。バックアップローラ22よりも下方にある表面処理部12から搬送されてきた基材1は、バックアップローラ22において搬送方向を変え、前方へ搬送されていく。ダイ21の近傍においては、バックアップローラ22は基材1を下から上へ搬送する。
【0018】
ダイ21は、バックアップローラ22に接している基材1へ向かって溶液を吐出し、基材1の幅方向(左右方向)全体に溶液を予め設定された塗布厚で塗布する。基材1における溶液が塗布される面は、溶媒除去室14及び結晶化室15において上側となる面である。
【0019】
参考のため、基材1上に溶液が塗布されて溶液層2が形成された様子を図2に示す。図2は、溶媒除去室14に入った直後の基材1を示す図である。なお、本明細書において、溶液が塗布された後の基材1のことも単に「基材1」と表現することがある。
【0020】
溶液は、ペロブスカイト前駆体と溶媒とを含むものである。ペロブスカイト前駆体は、結晶化してペロブスカイトとなる前の段階の材料のことである。例えば、ペロブスカイトとしてヨウ化鉛メチルアンモニウムCHNHPbIを生成しようとする場合は、ペロブスカイト前駆体として、ヨウ化鉛PbIとヨウ化メチルアンモニウムCHNHIが使用される。また、溶媒は、吸収する赤外線の波長が明らかなものであり、例えば波長が10μm以下の赤外線を吸収するものである。溶媒とペロブスカイト前駆体は、吸収する赤外線の波長が異なる。吸収する赤外線の波長が異なるとは、赤外吸収スペクトルが異なることを意味する。溶媒の具体例としては、N.N-ジメチルホルムアミド(DMF)及びジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。
【0021】
(4)溶媒除去室14の構成
溶媒除去室14を図3に示す。溶媒除去室14は、外観形状が直方体であり、断熱性を有し、他の区域とは隔離されている。また、溶媒除去室14は、後面に基材1の搬入口、前面に基材1の搬出口を有している。溶媒除去室14では、複数の搬送ローラ30が前後方向に沿って並んでいる。それぞれの搬送ローラ30はモータの駆動により回転する。それぞれの搬送ローラ30の回転軸は左右方向に延びている。これらの搬送ローラ30は、基材1を上に載せて搬送する。搬送ローラ30には、塗布された溶液が流れないように基材1を水平に維持する役割もある。
【0022】
これら複数の搬送ローラ30の少なくとも外周面を冷却するローラ冷却装置33(図5参照)が設けられている。図示省略するが、ローラ冷却装置33は、搬送ローラ30の内部に形成された流体の流路と、それらの流路に流体(例えば水又は空気)を循環させるための循環装置とを備えている。又は、ローラ冷却装置33は、それぞれの搬送ローラ30に設けられたペルチェ素子と、それらのペルチェ素子に通電するための電源とを備えている。
【0023】
ローラ冷却装置33は、搬送ローラ30を冷却し、それにより搬送ローラ30の上に載った基材1(図2参照)を下面側から冷却することになる。次に説明するように溶媒除去室14では基材1上の溶液層2から溶媒が蒸発するが、その際に溶液層2における表面(上側の面)から蒸発潜熱が奪われる。このとき奪われる潜熱と同じ大きさの熱量を、冷却された搬送ローラ30が基材1側から奪うことができるように、ローラ冷却装置33の冷却能力が設定される。
【0024】
溶媒除去室14における搬送ローラ30よりも上の場所には、1つの赤外線照射装置31が設けられている。赤外線照射装置31は、溶媒に吸収され、ペロブスカイト前駆体に吸収されにくい波長の赤外線を照射する装置である。溶媒として波長が10μm以下の赤外線を吸収するものが使用される場合は、赤外線照射装置31として波長が10μm以下の赤外線を照射するものが使用される。このような特定の波長範囲の赤外線を照射する赤外線照射装置31は、より広い波長範囲の赤外線を照射する装置に、特定の波長範囲の赤外線のみを通過させるフィルタ(例えば波長が10μm以下の赤外線のみを通過させるローパスフィルタ)を組み合わせることにより、実現される。
【0025】
赤外線照射装置31は、前後及び左右に十分に大きいもの(例えば、平面状に形成されたもの)であり、基材1の前後方向の広範囲と左右方向(幅方向)の全体に赤外線を照射できるものである。赤外線照射装置31の左右方向の長さは、基材1に対して赤外線を均一に照射できる範囲で長くすることが好ましく、例えば、基材1の左右方向の長さよりも長いことが好ましく、さらに、搬送ローラ30の左右方向の長さよりも長いことが好ましい。
【0026】
このような赤外線照射装置31の赤外線は、図3に破線の矢印で示すように基材1上に照射され、溶液中の溶媒を輻射により蒸発させる。赤外線が照射されることにより、溶液の温度は溶媒除去室14の雰囲気温度よりも高くなる(例えば70℃付近になる)が、ペロブスカイト前駆体が結晶化する温度(例えば100℃付近)までは上昇しない。
【0027】
なお、溶媒除去室14の雰囲気温度は、ペロブスカイト前駆体が結晶化してペロブスカイトとなる温度よりも十分に低い温度であり、例えば30℃~50℃である。
【0028】
また、溶媒除去室14における搬送ローラ30よりも上の場所には、整流装置が設けられている。整流装置は、空気を送風する送風装置32aと、空気を吸引する吸気装置32bとからなる。送風装置32aは、溶媒除去室14における搬送ローラ30よりも上かつ後方の場所に設けられ、前方かつ水平に空気を送風する。吸気装置32bは、溶媒除去室14における送風装置32aと同じ高さかつ前方の場所に設けられ、後方から吹いてきた空気を吸気する。
【0029】
送風装置32aと吸気装置32bのこの配置により、図3に実線の矢印で示すように、送風装置32aから吸気装置32bへ向かって空気が送られる。そのため、搬送ローラ30上の基材1の上を、基材1の搬送方向と同方向に空気が流れることになる。空気の流れの速さは、基材1の搬送の速さと同じになるように制御される。送風装置32aから送られる空気の温度は、溶媒除去室14における空気の温度と同じで、例えば30℃~50℃である。
【0030】
(5)結晶化室15の構成
結晶化室15を図4に示す。結晶化室15は、外観形状が直方体であり、断熱性を有し、他の区域とは隔離されている。また、結晶化室15は、後面に基材1の搬入口、前面に基材1の搬出口を有している。結晶化室15では、複数の搬送ローラ40が前後方向に並んでいる。それぞれの搬送ローラ40はモータの駆動により回転する。それぞれの搬送ローラ40の回転軸は左右方向に延びている。これらの搬送ローラ40は、基材1を上に載せて搬送する。
【0031】
結晶化室15において、搬送ローラ40よりも上に、複数のノズル41が前後方向に並んでいる。これらのノズル41は、搬送ローラ40によって搬送される基材1に熱風を当て、ペロブスカイト前駆体を結晶化する温度(例えば100℃付近)以上に加熱して結晶化を行う。それぞれのノズル41の内部は上下方向に延びる熱風の流路である。それぞれのノズル41の下部には、前方吹き出し口41aと後方吹き出し口41bが形成されている。前方吹き出し口41aは、ノズル41内の熱風を、前方かつ下方へ斜めに吹き出す吹き出し口である。また、後方吹き出し口41bは、ノズル41内の熱風を、後方かつ下方へ斜めに吹き出す吹き出し口である。
【0032】
また、搬送ローラ40よりも上に、結晶化室15内の熱風を吸い込む吸い込み口42が設けられている。吸い込み口42と上記のノズル41は前後方向に交互に並んでおり、隣り合うノズル41の間に吸い込み口42が配置されている。吸い込み口42は、ノズル41の前方吹き出し口41a及び後方吹き出し口41bよりも高い位置にある。このような構造により、ノズル41の前方吹き出し口41aと後方吹き出し口41bから斜め下方に噴き出した熱風は、比較的短時間のうちに上昇して吸い込み口42に吸い込まれる。その熱風の流れを図4に矢印で示す。このような熱風の流れにより、熱風が結晶化室15の外に漏れにくくなっている。
【0033】
全てのノズル41と全ての吸い込み口42は、結晶化室15の側面ではなく天井に設けられている。そのため、結晶化室15において、左右方向への熱風の流れが生じにくく、左右方向への温度変化が生じにくい。
【0034】
また、前方吹き出し口41a、後方吹き出し口41b及び吸い込み口42の幅(左右方向の長さ)は、それぞれ、搬送ローラ40の左右方向の長さと略同じであり、搬送ローラ40の左右方向の長さに対して例えば100%~120%である。これにより、結晶化室15の幅方向(左右方向)の全体が均一に加熱されやすい。なお、ノズル41の構造に関しては、この構造に限らず、基材1を均等に加熱する構造であればよい。
【0035】
結晶化室15は、全体が略均一な温度に維持される。結晶化室15の雰囲気温度は、ペロブスカイト前駆体が結晶化する温度であり、例えば100℃付近である。
【0036】
結晶化室15の上には、吸い込み口42に通じる排気チャンバー43が設けられている。また、排気チャンバー43に囲まれる形で給気チャンバー44が設けられ、給気チャンバー44からそれぞれのノズル41へ給気路45が設けられている。ペロブスカイト膜形成装置10の外から取り込まれた空気が不図示のヒータで加熱され、給気チャンバー44、給気路45及びノズル41を通過して結晶化室15に吹き出す。また、吸い込み口42から吸い込まれた空気は、排気チャンバー43を通過してペロブスカイト膜形成装置10の外へ排出される。
【0037】
(6)アニール室16の構成
図1に示すように、アニール室16には、ヒータで加熱された熱風をアニール室16内に供給する吸気口51と、アニール室16内の空気をアニール室16外に排出する排出口52が設けられている。吸気口51から供給される熱風により、アニール室16の雰囲気温度は、結晶化室15の温度よりも低く、常温よりも高い温度に維持される。常温とは、ペロブスカイト膜形成装置10の稼働状態での、ペロブスカイト膜形成装置10の周辺温度のことである。
【0038】
また、アニール室16には不図示の除湿器が設けられている。除湿器は、アニール室16の湿度が例えば30%以下になるよう制御する。なお、塗布室13、溶媒除去室14及び結晶化室15にも除湿器が設けられ、それぞれの湿度が例えば30%以下になるよう制御されることが好ましい。
【0039】
アニール室16は、基材1上にペロブスカイト膜が形成されたペロブスカイト膜積層体3を巻き取る巻き取り部でもある。巻き取り部には巻き取り軸50が配置されている。巻き取り軸50は、モータが駆動することにより回転し、ペロブスカイト膜積層体3を巻き取る。
【0040】
(7)圧力調整室17、18、19の構成
溶媒除去室14と結晶化室15との間にある第2圧力調整室18について説明する。図4に示すように、第2圧力調整室18には、給気口23と排気口24が設けられている。給気口23と排気口24に通じるそれぞれのダクトには、ダンパ23a、24a(図5参照)が設けられており、ダンパ23a、24aを制御することにより給気口23からの給気量と排気口24からの排気量が制御可能となっている。ダクトには、ファンが設けられても良い。
【0041】
また、第2圧力調整室18の両隣の区域である溶媒除去室14と結晶化室15には、それぞれ、気圧を測定する気圧センサ25a、25b(図5参照)が設けられている。
【0042】
次に説明する制御部60が、気圧センサ25a、25bで測定された溶媒除去室14の気圧と結晶化室15の気圧の差を常時監視している。そして、これら2つの区域(つまり溶媒除去室14と結晶化室15)の気圧に差が生じた場合、又は、これら2つの区域の気圧差が所定値以上となった場合、制御部60はダンパ23a、24aを制御して第2圧力調整室18に給気又は排気を行うことにより、これら2つの区域の気圧差を略解消する。例えば、制御部60が第2圧力調整室18に給気すると、外部から第2圧力調整室18に給気された空気が2つの区域のうち気圧の低い方に流入し、2つの区域の気圧差が略解消される。また、制御部60が第2圧力調整室18から排気すると、2つの区域のうち気圧の高い方の空気が第2圧力調整室18を通過して外部へ排気され、2つの区域の気圧差が略解消される。
【0043】
溶媒除去室14と結晶化室15の気圧の差が略解消されることにより、溶媒除去室14と結晶化室15との間での空気の流れがほとんど生じなくなり、溶媒除去室14と結晶化室15それぞれにおいて温度等の条件が維持される。
【0044】
第1圧力調整室17と第3圧力調整室19は、第2圧力調整室18と同じ構造を有し、第2圧力調整室18と同様に制御される。それにより、圧力調整室17、19の両隣の区域間での空気の流れが生じにくくなり、それらの区域において温度等の条件が維持される。
【0045】
(8)ペロブスカイト膜形成装置10の電気的構成
ペロブスカイト膜形成装置10は、コンピュータよりなる制御部60を備えている。図5に示すように、制御部60には、赤外線照射装置31、ローラ冷却装置33、送風装置32a、吸気装置32b、ダンパ23a、24a、気圧センサ25a、25bが接続されている。また、図示省略するが、制御部60には、各種ローラを回転させるそれぞれのモータや、空気を加熱するヒータ等も接続されている。制御部60は、接続されている機器類を制御する。
【0046】
(9)ペロブスカイト膜形成方法
本実施形態では、1枚の長尺の基材1が、一方では巻き出し部11において巻き取り軸20から巻き出され、他方ではアニール室16において巻き取り軸50に巻き取られる。それにより、基材1が、塗布室13、第1圧力調整室17、溶媒除去室14、第2圧力調整室18、結晶化室15、第3圧力調整室19、アニール室16の順に連続して搬送されていく。巻き出し部11からアニール室16までの基材1の搬送の速さは、適宜調整されるが、例えば5~20m/分である。
【0047】
塗布室13では、バックアップローラ22に接している基材1へ向かってダイ21から溶液が吐出され、その溶液が基材1における電子輸送層側の面(フィルム側とは反対側の面)に塗布される。
【0048】
溶媒除去室14では、複数の搬送ローラ30の上を基材1が搬送される。溶媒除去室14において、基材1は溶液が塗布された面を上にしている。以後、アニール室16において巻き取り軸50に巻き取られる直前まで、基材1は溶液が塗布された方の面を上にしたまま水平に搬送される。
【0049】
溶媒除去室14を搬送中の基材1に対し、上方の赤外線照射装置31から、溶媒に吸収されペロブスカイト前駆体に吸収されにくい波長の赤外線が照射される。それにより、溶液の中の溶媒が輻射により蒸発し、基材1上から除去される。なお、赤外線が照射されることにより溶液の温度は溶媒が蒸発する温度(例えば70℃付近)まで上昇するが、ペロブスカイト前駆体が結晶化する温度(例えば100℃付近)までは上昇しない。そのため、溶媒除去室14においてはペロブスカイトが生成されない。
【0050】
ところで、溶媒が蒸発するとき、溶液から蒸発潜熱が奪われ、溶液層2の表面(上側の面)の温度が低下する。仮に、溶液層2において表面の温度が低下したにもかかわらず基材1側の温度が高いとすると、溶液中で対流が起こりベナール・セルが発生する。ベナール・セルが発生した状態でペロブスカイト前駆体が結晶化すると、セルの境界が結晶粒界となり、その結晶粒界でクラックが生じやすくなる。なお、「ベナール・セル(Benard cells)」とは、薄い層状の流体を下側から均一に熱したときに生じる、規則的に区切られた細胞(セル)状の対流構造をいう。
【0051】
しかし、本実施形態の溶媒除去室14では、ローラ冷却装置33により搬送ローラ30が冷却され、搬送ローラ30により基材1が下面側から冷却される。その結果、溶液層2において表面の温度と基材1側の温度が略等しくなり溶液中で対流が起こりにくい。
【0052】
また、溶媒除去室14を搬送中の基材1の上では、整流装置により、基材1の搬送方向と同方向に、基材1の搬送の速さと同じ速さになるように制御された空気が送られる。それにより、基材1上の溶液層2の上で空気の対流が生じにくく、溶液層2に風紋としての凹凸が形成されにくい。また、蒸発した溶媒が送風装置32aからの空気に乗って吸気装置32bに吸い込まれ、溶媒除去室14の外に排出される効果もある。
【0053】
結晶化室15では、複数の搬送ローラ40の上を、溶媒が除去された基材1が搬送される。その搬送中に、ノズル41からの熱風によって基材1上でペロブスカイト前駆体が加熱され結晶化してペロブスカイトとなり、ペロブスカイト膜が形成される。このとき、溶媒が除かれた基材1が搬送されてくるので、溶媒の蒸発とペロブスカイト化が同時に進行することがなく、均一な結晶状態となり、また、ショートの原因となる欠陥(ボイド)も形成されにくい。また、上記のように基材1上の溶液中で対流が起こりにくくなっており、さらに、結晶化室15全体が略均一な温度であるため、基材1上の全体に、均一な品質のペロブスカイト膜が形成される。
【0054】
アニール室16では、基材1上にペロブスカイト膜が形成されたペロブスカイト膜積層体3が、巻き取り軸50に巻き取られていき、最後に大きなロール状となる。ペロブスカイト膜は、ペロブスカイト膜積層体3がアニール室16に入った時から、ロール状となったペロブスカイト膜積層体3がアニール室16から取り出される時まで、加熱される。アニール室16での加熱により、ペロブスカイト膜における応力が緩和される。なお、アニール室16は結晶化室15よりも低温であるため、ペロブスカイト膜積層体3がアニール室16から取り出された時に急冷とならず、ペロブスカイト膜にクラックが生じにくい。
【0055】
アニール室16から取り出されたペロブスカイト膜積層体3は別の装置へ運搬される。そしてその装置において、ペロブスカイト膜積層体3におけるペロブスカイト膜の上に正孔輸送層と電極が積層され、ペロブスカイト型太陽電池となる。
【0056】
(10)効果
本実施形態のペロブスカイト膜形成装置10は、ペロブスカイト前駆体を結晶化させずに基材1に塗布された溶液から溶媒を除去する区域である溶媒除去室14と、溶媒除去室14を通過後の基材1上でペロブスカイト前駆体を結晶化させてペロブスカイト膜とする区域である結晶化室15とを備えている。そのため、溶媒の除去と、ペロブスカイトの結晶化とが同時に進行することを防ぐことができ、均一な結晶構造で欠陥も少ない高品質なペロブスカイト膜を形成することができる。その上、基材1を溶媒除去室14と結晶化室15に順番に通過させることによりペロブスカイト膜を形成できるため、ペロブスカイト膜を連続して製造可能であり量産化を行うことができる。
【0057】
上記のようにペロブスカイト膜が高品質であることにより、ペロブスカイト型太陽電池が、発電効率が良く耐久性も良いものとなる。また、高品質なペロブスカイト膜を形成することができるため、量産時の歩留まりが向上する。これらのことが、ペロブスカイト型太陽電池の普及につながるため、化石燃料を使用した発電とそれに伴う二酸化炭素の排出を減少させることが期待される。
【0058】
また、ペロブスカイト膜形成装置10には、溶液を塗布する前の基材1を巻き出す巻き出し部11と、基材1上にペロブスカイト膜が形成されたペロブスカイト膜積層体3を巻き取る巻き取り部(アニール室16)とが設けられ、巻き出し部11から巻き取り部までの間に塗布室13、溶媒除去室14及び結晶化室15が設けられている。これにより、1枚の長尺の基材1が、一方では巻き出し部11から巻き出され、他方では巻き取り部において巻き取られる。そして、上記のように巻き出し部11から巻き取り部までの基材1の搬送中に、基材1への溶液の塗布、溶液からの溶媒の除去及びペロブスカイト前駆体の結晶化を行うことができる。そのため、ペロブスカイト膜積層体3をより効率良く量産することができる。
【0059】
また、溶媒除去室14に、溶媒に吸収されペロブスカイト前駆体に吸収されにくい波長の赤外線を照射する赤外線照射装置31が設けられ、赤外線照射装置31が溶液に赤外線を照射する。それにより、溶媒が蒸発でき、かつ、ペロブスカイト前駆体が結晶化しない温度で溶液を加熱して、溶媒を除去する。そのため、ペロブスカイト前駆体の温度を結晶化する温度まで上げることなく溶液から溶媒を除去することができ、溶媒除去と結晶化とが同時に進行することを防ぐことができる。
【0060】
また、溶媒除去室14に、基材1を上に載せて搬送する搬送ローラ30と、搬送ローラ30を冷却するローラ冷却装置33とが設けられ、搬送ローラ30は溶液が塗布された面を上にして基材1を搬送する構成となっている。そのため、搬送ローラ30を冷却することにより基材1を下面側から冷却することができ、溶液層2における基材1側の温度を低下させることができる。それにより、溶媒の蒸発により溶液層2における表面(上側の面)の温度が低下しても、溶液層2内で温度差が生じて対流が生じることを防ぐことができ、ベナール・セルの発生及びそれに基づくクラックの発生を防ぐことができる。
【0061】
また、溶媒除去室14において、搬送ローラ30よりも上において空気を送る整流装置が設けられているため、基材1上の溶液層2の上で空気の流れを整流することができ、溶液層2に凹凸が形成されることを防ぐことができる。ここで、整流装置が送る空気の方向が基材1の搬送方向と同方向であるため、溶液層2に風紋としての凹凸が形成されにくい。
【0062】
また、溶媒除去室14と結晶化室15との間に第2圧力調整室18が設けられ、第2圧力調整室18における吸気と排気により、溶媒除去室14の気圧と結晶化室15の気圧との差が解消されるように制御される。そのため、溶媒除去室14の気圧と結晶化室15の気圧との差がほとんどなくなり、結晶化室15と溶媒除去室14との間で空気の流れが生じにくくなり、結晶化室15と溶媒除去室14それぞれにおいて温度等の条件が維持される。例えば、結晶化室15の高温の空気が溶媒除去室14に流れて溶媒除去室14が高温になり、溶媒除去室14においてペロブスカイト前駆体が結晶化してしまう、といった事態が生じにくい。
【0063】
また、塗布室13と溶媒除去室14との間、結晶化室15とアニール室16との間にも圧力調整室17、19が設けられているため、塗布室13と溶媒除去室14との間や、結晶化室15とアニール室16との間でも、空気の移動が生じにくく、各区域の温度等が適切な値に維持される。
【0064】
また、結晶化室15において、搬送ローラ40によって搬送される基材1に熱風を当ててペロブスカイト前駆体が結晶化する温度以上に加熱して結晶化を行うことができる。また、結晶化室15には、溶媒が除かれた基材1が搬送されてくるので、溶媒の蒸発とペロブスカイト化が同時に進行することがなく、ノズル41からの熱風によってペロブスカイト前駆体が結晶化してペロブスカイト膜となるときに、均一な結晶状態となり、また、ショートの原因となる欠陥(ボイド)も形成されにくい。
【0065】
また、結晶化室15において、熱風の吹き出し口41a、41bを備える複数のノズル41が前後方向に並べて設けられ、隣り合うノズル41の間に空気の吸い込み口42が設けられているため、吹き出し口41a、41bから噴き出した熱風が比較的短時間で吸い込み口42に吸い込まれて排出される。そのため、熱風による温度上昇が局所的なものとなり、熱風の温度が溶媒除去室14まで伝わりにくい。そのことから、溶媒除去室14においてペロブスカイト前駆体が結晶化することを防ぐことができる。
【0066】
また、結晶化室15を通過した基材1が到達する区域としてアニール室16が設けられているため、結晶化したペロブスカイトの応力を緩和することができる。ここで、アニール室16においてペロブスカイト膜積層体3が巻き取られるため、ペロブスカイト膜積層体3が巻き取られている間にペロブスカイトの応力を緩和することができる。また、アニール室16の温度が結晶化室15の温度よりも低く常温よりも高いため、ペロブスカイト膜積層体3が結晶化室15からアニール室16に移動した時も、アニール室16から外へ取り出された時も、ペロブスカイト膜が急冷されることにならず、ペロブスカイト膜にクラックが生じにくい。
【0067】
また、アニール室16において除湿器で湿度を制御することにより、ペロブスカイト膜の劣化を防ぐことができる。
【0068】
また、本実施形態のペロブスカイト膜形成方法は、ペロブスカイト前駆体を結晶化させずに、基材1に塗布された溶液から溶媒を除去するステップと、溶媒を除去するステップの後に基材1上でペロブスカイト前駆体を結晶化させてペロブスカイト膜とするステップと、を備えている。それにより、溶媒の除去を、ペロブスカイト前駆体からペロブスカイトへの結晶化とは別に行うことができ、均一な結晶構造で欠陥も少ない高品質なペロブスカイト膜を形成することができる。
【0069】
(11)変更例
以上の開示は例示に過ぎず、様々な変更を行うことができる。
【0070】
例えば、溶媒除去室14において、溶媒除去室14の温度以下(例えば常温又は結露を生じさせない程度の低温)の風を基材1へ向けて送る送風機が設けられ、送風機からの風により基材1上のペロブスカイト前駆体の温度上昇を防いでも良い。
【0071】
また、溶媒除去室14において搬送ローラ30を冷却して間接的に基材1を冷却する代わりに、溶媒除去室14における溶媒除去よりも前の段階で予め基材1を冷却しておいても良い。
【0072】
また、圧力調整室は、その前後両隣の区域の気圧差を低減できるものであれば良く、具体的な構成及び制御方法は、上記の圧力調整室17、18、19の構成及び制御方法と異なっても良い。
【0073】
また、アニール室16よりも前方に巻き取り軸50が配置され、アニール室16を通過後の基材1が巻き取り軸50に巻き取られても良い。この場合、巻き取り軸50が配置された場所が巻き取り部であると言える。
【0074】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
1…基材、2…溶液層、3…ペロブスカイト膜積層体、10…ペロブスカイト膜形成装置、11…巻き出し部、12…表面処理部、13…塗布室、14…溶媒除去室、15…結晶化室、16…アニール室、17…第1圧力調整室、18…第2圧力調整室、19…第3圧力調整室、20…巻き取り軸、21…ダイ、22…バックアップローラ、23…給気口、23a…ダンパ、24…排気口、24a…ダンパ、25a…気圧センサ、25b…気圧センサ、29…区画壁、30…搬送ローラ、31…赤外線照射装置、32a…送風装置、32b…吸気装置、33…ローラ冷却装置、40…搬送ローラ、41…ノズル、41a…前方吹き出し口、41b…後方吹き出し口、42…吸い込み口、43…排気チャンバー、44…給気チャンバー、45…給気路、50…巻き取り軸、51…吸気口、52…排出口、60…制御部

【要約】
【課題】高品質なペロブスカイト膜を形成することのできる装置を提供する。
【解決手段】実施形態のペロブスカイト膜形成装置10は、ペロブスカイト前駆体と溶媒とを含む溶液が塗布された基材1上でペロブスカイト前駆体を結晶化させてペロブスカイト膜とするペロブスカイト膜形成装置10において、基材1が通過する区域として、ペロブスカイト前駆体を結晶化させずに基材1に塗布された溶液から溶媒を除去する区域である溶媒除去室14と、溶媒除去室14を通過後の基材1上でペロブスカイト前駆体を結晶化させてペロブスカイト膜とする区域である結晶化室15と、が設けられたことを特徴とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5