(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】シャフト無し推進装置
(51)【国際特許分類】
B64D 27/24 20240101AFI20250206BHJP
B64D 33/00 20060101ALI20250206BHJP
B64D 33/10 20060101ALI20250206BHJP
B64C 27/20 20230101ALI20250206BHJP
H02K 7/14 20060101ALI20250206BHJP
F04D 25/16 20060101ALI20250206BHJP
F04D 29/053 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
B64D27/24
B64D33/00 B
B64D33/10
B64C27/20
H02K7/14 A
F04D25/16
F04D29/053 Z
(21)【出願番号】P 2021018076
(22)【出願日】2021-02-08
【審査請求日】2024-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】524036387
【氏名又は名称】株式会社ドローン技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】514151661
【氏名又は名称】株式会社アテック
(74)【代理人】
【識別番号】100166039
【氏名又は名称】富田 款
(72)【発明者】
【氏名】大川 由夫
(72)【発明者】
【氏名】奥村 直史
(72)【発明者】
【氏名】蘆田 拓也
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0007007(US,A1)
【文献】特開2020-093705(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110683041(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0159663(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0032032(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0057164(US,A1)
【文献】特開2009-145891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64D 27/24
B64D 33/00
B64D 33/10
B64C 27/20
H02K 7/14
F04D 25/16
F04D 29/053
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のステーターと環状のローターを具備する回転電動機を含んで構成されるシャフト無し推進装置であって、
前記ステーターは、リング状のコイル配列を有しており、
前記ローターは、リング状の永久磁石配列と、推力発生用のファンを有して
おり、
前記ローターに設けられた永久磁石配列は、
ステーターのコイル配列の内側に位置する、ハルバッハ配列の複数の永久磁石で構成される第1の永久磁石配列と、
ステーターのコイル配列の外側に位置する、ハルバッハ配列の複数の永久磁石で構成される第2の永久磁石配列と、
を含んで構成されることを特徴とするシャフト無し推進装置。
【請求項2】
前記ローターに設けられた推力発生用のファンが、
前記ステーターの中央にある空洞を取り囲むように設けられている、
ことを特徴とする請求項1に記載のシャフト無し推進装置。
【請求項3】
前記ローターは、さらに、冷却用のファンを有している、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシャフト無し推進装置。
【請求項4】
前記ステーターは、前記ローターを包み込む様に形成され、
前記ローターは、前記ステーターの内側で回転可能に設けられている、
ことを特徴とする請求項
1ないし3のいずれかに記載のシャフト無し推進装置。
【請求項5】
前記ステーターは吸音材を有している、
ことを特徴とする請求項
1ないし4のいずれかに記載のシャフト無し推進装置。
【請求項6】
前記ステーターは、
内部に吸気するための吸気口を上面側に有し、
内部から排気するための排気口を底面側に有する、
ことを特徴とする請求項
1ないし5のいずれかに記載のシャフト無し推進装置。
【請求項7】
シャフト無し推進装置は、前記推力発生用のファンによって噴流を生成し、ステーターの排気口から前記噴流を噴出させ、その反力を推進力として利用するものであり、
前記ステーターは、噴流の噴射方向を制御して推進力を増強するための噴流制御部材を有している、ことを特徴とする請求項
1ないし6のいずれかに記載のシャフト無し推進装置。
【請求項8】
前記ステーターは、内部に人体や障害物が侵入するのを防ぐための侵入防止手段を有する、ことを特徴とする請求項
1ないし7のいずれかに記載のシャフト無し推進装置。
【請求項9】
請求項
1ないし8のいずれかに記載のシャフト無し推進装置を有する航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャフト無し推進装置に関するものであり、特に、ステーターとローターを具備する回転電動機を含んで構成される推進装置に関するものである。また、本発明は、シャフト無し推進装置を備えた無人航空機や有人航空機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、動力源として電気モータを使った有人航空機や無人航空機(ドローン)の開発が活発に行われている。電気モータを使う従来の航空機は、推進装置として、モータの出力軸であるモータシャフトにプロペラ(複数枚の長尺のブレード)を連結したものを用いている。モータシャフトに連結したプロペラを電気モータで高速回転させることで飛行に必要な推力を発生させている。
【0003】
しかしながら、モータシャフトにプロペラを連結した従来の推進装置では、複数枚の長尺のブレードからなるプロペラの回転により、大きな騒音が不可避的に発生する。プロペラの回転数を下げれば騒音を抑制できるが、そうすると必要な推力を得ることができない。そのため、電気モータを使った有人航空機や無人航空機の更なる普及にあたっては、推力を犠牲にすることなく、推進装置が生じる騒音を抑制することが課題となっている。
【0004】
また、モータシャフトにプロペラを連結した構造の従来の推進装置では、プロペラの直径が大きくなるほど推力が増すが、同時に危険性が増す。逆に、安全性の観点からプロペラの直径を短くすると、必要な推力を得ることができないといった問題がある。そのため、電気モータを使った有人航空機や無人航空機の更なる普及にあたっては、推進装置の安全性の向上も課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、上述した問題点に鑑み、本発明の目的は、従来の推進装置よりも安全で、推力を犠牲にすることなく騒音を抑制できる、新たな推進装置とこれを用いた航空機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、環状のステーターと環状のローターを具備する回転電動機(モータ)を含んで構成されるシャフト無し推進装置であって、
前記ステーターが、
内側に空洞を有する環状部を有するステーター本体と、
前記ステーター本体に設けられたリング状のコイル配列と、を有しており、
前記ローターが、
前記ステーター本体の環状部の外側で回転するように設けられたローター本体と
前記ローター本体に設けられたリング状の永久磁石配列と、
前記ローター本体に設けられた推力発生用のファンと、を有している、
ことを特徴とするシャフト無し推進装置によって達成される。
【0007】
上記シャフト無し推進装置では、ローター本体に設けられた推力発生用のファンが、前記ステーター本体の空洞を取り囲むように設けられている。
【0008】
また、上記シャフト無し推進装置では、ローターが冷却用のファンを更に有していることが好ましい。
【0009】
また、上記シャフト無し推進装置において、ステーターはローターを包み込む様に形成され、ローターはステーターの内側(包み込むステーターの内部空間)で回転可能に設けられている。
【0010】
また、上記シャフト無し推進装置において、ステーターは、ローターの回転に伴って生じる騒音を吸音するための吸音材(騒音抑制部材)を具備していてもよい。
【0011】
また、上記シャフト無し推進装置において、ステーターは、内部に吸気するための吸気口を上面側に有し、内部から排気するための排気口を底面側に有している。
【0012】
また、上記シャフト無し推進装置において、ステーターは、噴流の噴射方向を制御して推進力を増強するための噴流制御部材を有していてもよい。
【0013】
また、上記シャフト無し推進装置において、ステーターは、内部に人体や障害物が侵入するのを防ぐための侵入防止手段を有することが望ましい。
【0014】
また、上記シャフト無し推進装置において、ローター本体に設ける永久磁石配列は、
例えば、
ステーター本体のコイル配列の内側に位置する、ハルバッハ配列の複数の永久磁石で構成される第1の永久磁石配列と、
ステーター本体のコイル配列の外側に位置する、ハルバッハ配列の複数の永久磁石で構成される第2の永久磁石配列と、
を含んで構成される。
【0015】
また、上記シャフト無し推進装置において、ローター本体に設ける永久磁石配列は、
例えば、ステーター本体のコイル配列の外側または内側に位置する、ハルバッハ配列の複数の永久磁石で構成される。
【0016】
また、前述した目的は、上記のシャフト無し推進装置を有する航空機(有人航空機やドローンなどの無人航空機を含む)によって達成される。
【0017】
なお、N極とS極を隣合せて配列する一般的な磁石配列と、前述したハルバッハ配列の違いは、次のとおりである。
【0018】
図15に、N極とS極を隣合せて配列する一般的な磁石配列と、断面矩形の永久磁石を90°ずつ回転させながら一列に並べて構成されるハルバッハ配列の磁束線を示す。なお、
図15(b)では、永久磁石の磁極を90°ずつ回転させているが、ハルバッハ配列では、必要なポールピッチと永久磁石の厚さに合わせて360°を3以上の整数で除した角度で回転させて差し支えない。
【0019】
図15(a)に示すNS配列では、磁束線が磁石列の上下に均等に分布しているのに対し、
図15(b)に示すハルバッハ配列では、磁石列の片側に磁束線が集中して分布していることがわかる。
【0020】
この性質を利用して、
図15(b)のハルバッハ配列を
図16に示すように2列に並べると、ハルバッハ配列間のエアギャップ中に磁束線が集中し、ハルバッハ配列の外側にはほとんど磁束線が見られなくなる。使用する磁石の量が同じなら、ギャップ中の磁束密度はほぼ2倍となる。このギャップ中に電機子コイルを配置すれば強い磁界をコイルに鎖交させることができるので、電機子に鉄を用いたモータと同等のトルクが得られることになる。
図16のように構成される界磁をデュアルハルバッハ配列界磁という。
【0021】
なお、
図16では直線型のデュアルハルバッハ配列界磁を例示しているが、回転電動機で利用にするためには、永久磁石配列をリング状に丸めることが必要となる。直線型のデュアルハルバッハ配列界磁をリング状に丸めても、直線型と同等のトルクや出力を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明はシャフトレスの推進装置である。従来技術ではモータシャフトにプロペラを取り付けているが、本発明では、(従来技術ではモータシャフトがあった部分を)空洞にして、ローターに推力発生用のファンを持たせている。これにより、推力を犠牲にすることなく、推進装置から生じる騒音を抑制することが可能になる。
【0023】
また、本発明では、(従来技術ではモータシャフトがあった部分を)空洞にして、その周囲で推力発生用のファンを持ったローターを回転させるので、プロペラ(複数枚の長尺のブレード)を用いる従来技術と比較して、推進装置の安全性の向上を図ることが可能になる。
【0024】
また、本発明では、ローターは、推力発生用のファンに加えて、冷却用のファンを備えている。これにより、推進装置の駆動中に、回転電動機を効率的に冷却することが可能になる。
【0025】
また、本発明では、ローター本体に設けられる永久磁石配列は、例えば、ハルバッハ配列の複数の永久磁石で構成される。これにより、無人航空機や有人航空機の推進装置で必要とされる超高効率のモータを構成することが可能になる。
【0026】
また、本発明では、ステーターはローターを包み込む様に形成され、ローターはステーターの内側で回転可能に設けられる。このような構成により騒音抑制が可能になる。
【0027】
また、本発明では、ステーターには吸音材が設けられる。これにより更なる騒音抑制が可能になる。
【0028】
また、本発明では、ステーターは、吸気口を上面側に有し、排気口を底面側に有している。そして、ローターの推力発生用のファンは、真上に吸気口が位置し、真下に排気口が位置するように設けられる。これにより、「ダクト内への吸気」、「空気流の圧縮」、「噴流の排出」の一連のプロセスにおいて、エネルギー損失を最小限に抑えることが可能になる。
【0029】
また、本発明では、ステーターは、噴流の噴射方向を制御して推進力を増強するための噴流制御部材(ダクト吹き出し形状)を有している。この噴流制御部材は、例えば、排気口(噴流を噴射する部位)を取り囲むようにステーターの底部に設けられ、コアンダ効果による推力増幅を最大化する役割を担うものである。このような噴流制御部材を設けることで、排気口から吹き出す噴流の拡散が抑制され、噴流が一定の方向へ集中して吹き出すようになり、更にこれにコアンダ効果も加わることで、推力の最大化を図ることが可能になる。すなわち、推力発生用のファンで生成する噴流を無駄なく推力に変換することが可能になる。
【0030】
また、本発明では、ステーターには、内部に人体や障害物が侵入するのを防ぐための侵入防止手段(例えばハニカム状のカバー)が設けられる。これにより、推進装置の安全性を更に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明のシャフト無し推進装置を斜め上から見た斜視図である。
【
図2】本発明のシャフト無し推進装置を斜め下から見た斜視図である。
【
図3】本発明のシャフト無し推進装置(ハニカム状のカバーを省いた状態)を斜め上から見た斜視図である。
【
図4】本発明のシャフト無し推進装置(ハニカム状のカバーを省いた状態)を斜め下から見た斜視図である。
【
図5】本発明のシャフト無し推進装置を斜め上から見た断面斜視図である。
【
図6】本発明のシャフト無し推進装置を斜め下から見た断面斜視図である。
【
図7】本発明のシャフト無し推進装置を示す部分断面図(拡大図)である。
【
図8】本発明のシャフト無し推進装置が具備する回転電動機の構成を概略的に示す断面図であって、
図8(a)は、シャフト無し推進装置のステーターとローターを組み合わせた状態を図示しており、
図8(b)は、シャフト無し推進装置のローターだけを図示しており、
図8(c)は、シャフト無し推進装置のステーターだけを図示している。なお、
図8において、ローターのファンやステーターのダクトなどの図示は省略している。
【
図9】本発明のシャフト無し推進装置が具備する回転電動機の永久磁石配列とコイル配列の一例を示す平面図である。
【
図10】本発明のシャフト無し推進装置が具備する回転電動機の永久磁石配列の一例を示す拡大平面図である。
【
図11】本発明のシャフト無し推進装置の機能作用を示す断面図である
【
図12】本発明のシャフト無し推進装置(変形例)の機能作用を示す断面図である
【
図13】本発明のシャフト無し推進装置(変形例)の機能作用を示す断面図である
【
図14】本発明のシャフト無し推進装置(変形例)の機能作用を示す断面図である
【
図15】
図15(a)は、N極とS極を隣合せて配列する一般的な磁石配列を示す断面図であり、
図15(b)は、断面矩形の永久磁石を90°ずつ回転させながら一列に並べて構成されるハルバッハ配列を示す断面図である。
【
図16】ハルバッハ配列を2列に並べたもので構成されるデュアルハルバッハ配列を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面に基づいて、シャフト無し推進装置の具体的実施形態について説明する。
【0033】
(シャフト無し推進装置の概略構成)
はじめに、
図1~
図8に基づいて、シャフト無し推進装置(以下、単に「推進装置」という)の構成を概略的に説明する。
【0034】
本実施形態の推進装置1は、回転電動機を動力源として噴流(ジェット)を生成し、その反作用を推進力に利用する装置である。本実施形態では、推進装置は、
図1に示すように、中央に空洞を具備する円盤型の装置で構成されている。
【0035】
この中央に空洞を具備する円盤型の推進装置1は、
図1~
図8(主として
図5)に示すように、
・中央に空洞3を有する略リング状のステーター2と
・ステーター2内部の略リング状空間で回転する略リング状のローター5と、
・ローター5を回転自在に支持する略リング状のベアリングユニット8を
を具備する回転電動機を含んで構成される。
【0036】
図5に示すように、ステーター2は、ローター3を包み込む様に略リング状に形成され、ローター3は、ステーター2の内側空間(略リング状空間)で回転可能に設けられている。
【0037】
ステーター2は、ハニカム状のカバー33で覆われた吸気口27を上面側に有し、底面側に排気口28を有し、内部の略リング状空間にリング状のコイル配列23を備えている。リング状のコイル配列23は、ステーター2の底部によって支えられている。
【0038】
ステーター2の内側空間(略リング状空間)に回転自在に設けられたローター5は、リング状の永久磁石配列53,54と、空気流を圧縮して噴流を生み出すファン65と、コイル配列等で構成される回転電動機を冷却するための冷却用のファン66を有している。
【0039】
ローター5を回転自在に支持するベアリングユニット8は、
図7に示すように、ステーターに固定された内輪81と、ローターに固定された外輪83と、内輪81と外輪83の間に介在する転動体85を有している。
【0040】
本実施形態では、ローター5を回転自在に支持する手段としてベアリングユニット8を採用しているが、ベアリングレスの構成を採用することも可能である。そのようなベアリングレスは、例えば磁気浮上方式を採用することで実現できる。
【0041】
なお、従来の回転電動機で構成される推進装置は、装置中心にモーターシャフト(出力軸)を備えておりこれにプロペラを取り付けているが、本実施形態の推進装置はモーターシャフトが無く、装置中心は空洞になっている。すなわち、従来技術の推進装置は、「ローターの回転軸(仮想の回転軸)に一致するモータシャフト」を必須の構成としているのに対し、本実施形態の推進装置は、ローター5の回転軸(仮想の回転軸)に一致する部分は空洞になっており、モーターシャフトが無い。この点で従来のモータと大きく相違する。
【0042】
以下、推進装置1が具備するステーター2とローター3の構成について具体的に説明する。
【0043】
(ステーターの構成)
図1~
図8に基づいて、推進装置1が具備するステーター2の構成について説明する。
【0044】
図5に示すように、推進装置1のステーター2は、主として、
・ローター5を内包する略リング状のステーター本体21と、
・ステーター本体21の内部に設けられたリング状のコイル配列23を
有している。
【0045】
ステーター本体21は、
・内側に空洞3を有する環状部25(筒状部)と、
・ステーター本体21の上面側に形成された吸気口27と、
・吸気口27に設けられたハニカム状のカバー33(侵入防止手段)と、
・略扇状の複数の排気口28が形成された底部29と、
・グラスウールなどの吸音材を具備するダクト31を
有している。
【0046】
環状部25は、本実施形態では略筒状に形成され、内側に空洞3を有している。
図7に示すように、環状部25の外周面には、ベアリングユニット8の内輪81が固定されている。環状部25は、内側のダクトとしても機能する。これに対し、ダクト31は、外側のダクトとして機能する。
【0047】
環状部25の内側に位置する空洞3は、上方の空気を誘引し、これを加速させて下方へ排出させるために形成されている。空洞3には、シャフトやスポークなどの機械的要素は一切設けられていない。すなわち、空洞3を通過する気流を妨げる要素は一切設けられていない。
【0048】
吸気口27は、ステーター本体21の上面側に形成されている。吸気口27の真下には、後述するローター5の推力発生用のファン65と冷却用のファン66が位置している。このように、吸気口27の真下にファン65,66が位置することで、装置上方の空気が効率的にダクト31内に取り込まれる。
【0049】
ハニカム状のカバー33は、ステーター2内部に人体や障害物が侵入するのを防ぐ侵入防止手段として機能する。このカバー33はステーター本体21上面側の吸気口27を塞ぐように設けられているが、多数の孔を有するハニカム構造のため、吸気口27からの吸気を妨げることはない。
【0050】
なお、本発明においてカバー33は必須の構成ではなく、
図3に示すようにカバー無しの構成を採用してもよいが、安全性を確保する観点から
図1に示すようにカバー33を設けるのが望ましい。また、カバー33を設ける場合、カバーの構成は必ずしも図示するようなハニカム構造に限られるものではなく、吸気を妨げないように孔やスリット、その他の通気口などが形成されたものであれば採用可能である。
【0051】
底部29は、環状部25の下端から外側に向かってフランジ状に拡がるように形成されている。この底部29は、
図7に示すように、リング状のコイル配列23を支持している。
【0052】
また、底部29には、ステーター2内部から排気するための排気口28が形成されている。本実施形態では、排気口28は、等間隔で形成された略扇状の複数の開口部で構成されている。この排気口28からは、推進力となる噴流が噴射されるほか、排熱口としての役割も担っている。
【0053】
ダクト31は、底部29の外縁から上方に向かって隆起するように設けられている。後述するローター5の外側磁石支持部64とダクト31との間の空間は、空気流を圧縮して噴流を生み出すための空気圧縮室として機能する。この空気圧縮室において、ファン65が回転するとともに空気流を圧縮することで、推進力となる噴流が生成され、排気口28から排出される。
【0054】
なお、
図1~
図11に示す実施形態では図示を省略しているが、
図12~
図14に示す変形例のように、噴流の噴射方向を制御して推進力を増強するための噴流制御部材35(噴流制御ノズル)を、底部29に設けてもよい。この噴流制御部材35は、コアンダ効果による推力増幅を最大化する役割を担うものである。
図12に示す変形例では、噴流制御部材35は、同心円状に設けられた二重環状のノズル(外側ノズルと内側ノズル)で構成されている。この噴流制御部材35は、例えば、排気口28(噴流を噴射する部位)を取り囲むようにステーター2の底部に設けられる。噴流制御部材35の形状は特に限定されるものではなく、
図12~
図14に例示するように、様々な断面形状の二重環ノズルを採用することができる。
【0055】
このダクト31の内壁には、グラスウールなどの吸音材が設けられている。ダクト31の内側では、ローター5の回転に伴って騒音が生じるが、ローター5を取り囲むダクト31の内周面に吸音材が設けることで、駆動時の騒音が抑制される。なお、吸音材の取り付け部位は特に限定されるものではない。例えば、ダクト31を二重構造にして、その内部に吸音材が設けてもよい。このようにダクト31を二重構造にすることで更なる静音化を図ることができ、また、吸音材をダクト内部に収めることでその脱落を確実に防止できる。
【0056】
本実施形態では、ステーター本体21は、環状部25と底部29とダクト31とハニカム状のカバー33を一体的に有するように略リング状(略ドーナツ状)に形成されている。また、ステーター本体21は、その内側に、ローター5が回転可能に設けられるリング状空間を有している。
【0057】
(ローターの構成)
次に、
図1~
図8に基づいて、推進装置1が具備するローター5の構成について説明する。
【0058】
推進装置1のローター5は、
図5に示すように、ステーター2の内側で回転可能に設けられており、ステーター2は、ローター5を包み込む様に形成されている。
【0059】
このローター5は、
図5~
図7に示すように、
・内側ダクトである環状部25と外側ダクトであるダクト31の間で回転するように設けられたローター本体51と、
・リング状に配列された内側磁石配列53(第1の永久磁石配列)と、
・リング状に配列された外側磁石配列54(第2の永久磁石配列)を
有している、
【0060】
ローター本体51は、
図7に示すように、
・ベアリングユニット8の外輪81が固定された外輪支持部61と、
・内側磁石配列53を支持する内側磁石支持部63(第1の磁石支持部)と、
・外側磁石配列54を支持する外側磁石支持部64(第2の磁石支持部)と、
・排気口28の真上に位置する推力発生用のファン65と、
・コイル配列23及び永久磁石配列63,64の真上に位置する冷却用のファン66を
一体的に有している。
【0061】
内側磁石支持部63によって支持された内側磁石配列53は、ハルバッハ配列の複数の永久磁石で構成される。この内側磁石配列53は、コイル配列23の内側に位置するようにリング状に配列されている。
【0062】
外側磁石支持部64によって支持された外側磁石配列54は、ハルバッハ配列の複数の永久磁石で構成される。この外側磁石配列54は、コイル配列23の外側に位置するようにリング状に配列されている。
【0063】
磁石支持部63,64によって支持されたリング状の永久磁石配列53,54は、ステーター2の底部29に固定されたコイル配列23を隔てて、互いに向かいように設けられている。
【0064】
推力発生用のファン65は、ステーター本体21内のリング状空間の外側に位置し、かつ、排気口28の真上に位置するように設けられている。この推力発生用のファン65は、外側磁石支持部64の外周面とダクト31の内周面の間の空間において空気流を圧縮する。ダクト31内で圧縮された空気流は噴流となって、ファン65の真下の排気口28から排出される。
【0065】
冷却用のファン66は、ステーター本体21内のリング状空間の内側に位置し、かつ、コイル配列23及び永久磁石配列53,54を隔てて排気口28の真上に位置するように設けられている。
【0066】
(永久磁石の配列構造)
一般的なモータでは、永久磁石をN極とS極とが交互になるように配列するが、そのような配列構造だと、磁場が磁石配列の表側と裏側の両方に発生してしまい、磁場を有効に利用できない。そこで、本実施形態では、モータの磁場を高める手段として、「ハルバッハ配列」という永久磁石の配列構造を採用している。
【0067】
本実施形態で採用するハルバッハ配列では、永久磁石の磁極を90°ずつ回転させながら配列しているので、磁石配列の一方の側の磁場が弱まり、その磁石配列の他方の側では、その分磁場が強くなって、永久磁石の配列の片側に強い磁場を発生させることができる。そこで、本実施形態では、
図9に示すように、それぞれハルバッハ配列された2列の永久磁石配列53,54(いわゆるデュアルハルバッハ配列)の間に、電機子コイルからなるコイル配列23を配置した回転電動機構造を採用している。
【0068】
以下、具体的に説明する。
【0069】
本実施形態の推進装置1は、ステーター2とローター5を備えている。ステーター2は、コイル配列23を備えている。ローター5は、永久磁石配列53、54を備えている。永久磁石配列53、54はそれぞれリング状に構成され、コイル配列23もそれぞれリング状に構成されている。永久磁石配列53、54およびコイル配列23は同心円状に配置されている。内側磁石配列53は、外側磁石配列54の内側に設けられている。
【0070】
永久磁石配列53、54は、
図10に示す様に、それぞれ永久磁石の磁極を略90°ずつ回転させながら配列したハルバッハ配列となっている。
【0071】
図9に示すように、内側磁石配列53の永久磁石の数と外側磁石配列54の永久磁石の数は同じである。
【0072】
また、
図10に示すように、
内側磁石配列53の永久磁石のうち“径方向”に着磁した永久磁石の磁極方向と、外側磁石配列54の永久磁石のうち“径方向”に着磁した永久磁石の磁極方向は、同じ半径上に配置されているもの同士は“同じ”である。
内側磁石配列53の永久磁石のうち“周方向”に着磁した永久磁石の磁極方向と、外側磁石配列54の永久磁石のうち“周方向”に着磁した永久磁石の磁極方向は、同じ半径上に配置されているもの同士は“反対”である。
【0073】
内側磁石配列53では、永久磁石の磁極を周方向に略90°ずつ回転させながら配列しているので、配列の一方の側(内側)の磁場が弱まり、その配列の他方の側(外側)では、その分磁場が強くなって、内側磁石配列53の片側(外側)に強い磁場を発生させることができる。
【0074】
外側磁石配列54では、永久磁石の磁極を周方向に略90°ずつ回転させながら配列しているので、配列の一方の側(外側)の磁場が弱まり、その配列の他方の側(内側)では、その分磁場が強くなって、外側磁石配列54の片側(内側)に強い磁場を発生させることができる。
【0075】
上述した実施形態では、外側磁石配列54では、永久磁石の磁極を周方向に略90°ずつ回転させながら配列して、リング状配列の外側の磁場が弱まり、そのリング状配列の内側では、その分磁場が強くなって、外側磁石配列54の内側に強い磁場を発生させ、また、内側磁石配列53では、永久磁石の磁極を周方向に略90°ずつ回転させながら配列して、リング状配列の内側の磁場が弱まり、そのリング状配列の外側では、その分磁場が強くなって、内側磁石配列53の外側に強い磁場を発生させたが、磁極を周方向に略90°ずつ回転させなくても、例えば、略45°ずつ回転させてもよい。あるいは、360°を3以上の整数で除した角度で回転させてもよい。
【0076】
なお、本実施形態では、永久磁石配列の一例としてハルバッハ配列を採用しているが、本発明における永久磁石配列はハルバッハ配列に限定されるものではなく、N極とS極を隣合せて配列する一般的な磁石配列を採用することも可能である。
【0077】
また、本実施形態では、ハルバッハ配列された2列の永久磁石配列(デュアルハルバッハ配列)の間に電機子コイルを配置した構造を採用していが、電機子コイルの内側・外側のいずれか一方の側だけにハルバッハ配列された1列の永久磁石配列(いわゆるシングルハルバッハ配列)を採用することも可能である。
【0078】
(推進装置の機能作用)
次に、
図11に基づいて、上述した構成を具備する推進装置の機能作用について説明する。なお、推進装置の構成については、必要に応じて
図5~
図7を参照する。
【0079】
ファン65,66を備えたローター5がステーター2内で回転すると、吸気口27を介してステーター2の内部(ダクト31内)に空気が吸い込まれる。
【0080】
ダクト31内に吸い込まれた空気の一部は、冷却用のファン66によってコイル配列23の方へ導かれてコイルを含む回転電動機の全体を冷却し、その真下の排気口28から排熱する。
【0081】
また、ダクト31内に吸い込まれた空気の大部分は、推力発生用のファン65の回転によってダクト31の内側で圧縮され、噴流(ジェット)となってその真下の排気口28から排出される。
このとき、コアンダ効果によって、ダクト31周囲の空気が引き寄せられて噴流に取り込まれる。これにより推力が増強する。
さらに、推進装置の中央の空洞3にも、推進装置上方の空気が誘引され、周囲の噴流によって加速されて、空洞3の下部から加速した状態で排出される。
【0082】
なお、
図12~
図14に示す様な噴流制御部材35(噴流制御ノズル)を設けた場合には、排気口28からの噴流は、噴流制御部材35の外側ノズルと内側ノズルの間を通って噴射される。これにより、噴流の噴射方向が制御されて推進力の増強が図れる。すなわち、噴流制御部材35を設けることで、排気口28から吹き出す噴流の周囲への拡散が抑制され、噴流が一定の方向へ集中して吹き出すようになり、更にこれにコアンダ効果も加わることで、推力の最大化を図ることが可能になる。
【符号の説明】
【0083】
1 シャフト無し推進装置
2 ステーター
3 空洞
5 ローター
8 ベアリングユニット
21 ステーター本体
23 コイル配列
25 環状部(筒状部/内側のダクト)
27 吸気口
28 排気口
29 底部
31 ダクト
33 ハニカム状のカバー(侵入防止手段)
35 噴流制御部材(噴流制御ノズル/ダクト吹き出し形状)
51 ローター本体
53 内側磁石配列(第1の永久磁石配列)
54 外側磁石配列(第2の永久磁石配列)
61 外輪支持部
63 内側磁石支持部(第1の磁石支持部)
64 外側磁石支持部(第2の磁石支持部)
65 推力発生用のファン
66 冷却用のファン
81 内輪
83 外輪
85 転動体