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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】空気管付き水中ポンプとその設備
(51)【国際特許分類】
   F04D 13/08 20060101AFI20250206BHJP
   F04D 29/60 20060101ALI20250206BHJP
   F04D 29/66 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
F04D13/08 Y
F04D29/60 B
F04D29/66 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021086393
(22)【出願日】2021-05-21
(65)【公開番号】P2022179126
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2024-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000168193
【氏名又は名称】株式会社ミゾタ
(74)【代理人】
【識別番号】110001759
【氏名又は名称】弁理士法人よつ葉国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 元成
(74)【代理人】
【識別番号】100168468
【弁理士】
【氏名又は名称】富崎 曜
(72)【発明者】
【氏名】馬場 俊勝
【審査官】中村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-025521(JP,A)
【文献】特開昭63-189689(JP,A)
【文献】特開2021-014815(JP,A)
【文献】特開平08-312580(JP,A)
【文献】国際公開第2016/178387(WO,A1)
【文献】特開2020-159285(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 13/08
F04D 29/60
F04D 29/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方に吸込口と他方に排出口を有したケーシングと、
前記ケーシング内に固定され回転駆動するための電動機と、
前記電動機の出力軸の軸心が水平である横方向、又は、前記軸心が水平から所定角度傾斜して配置される前記出力軸に連結されて回転駆動される羽根車と、
前記ケーシングに固定され、流体を吸い込むための開口部が形成された吸込カバーと
からなる水中ポンプにおいて、
前記羽根車の上流側で、かつ前記水中ポンプ内に配置された吐出口から空気を前記水中ポンプ内に吸引するための空気管と、
前記空気管への空気の供給、又は遮断するための空気開閉弁と
前記吸込口側の水位を検知する水位計と、
前記水位計の水位検出値により前記空気開閉弁の開閉を制御する開閉弁制御手段と
前記空気管の前記吐出口は、前記羽根車と対向して、前記吐出口の中心軸が前記軸心と平行に配置されており、
前記吐出口の中心軸線は、前記出力軸の軸心より低い位置に配置されている
ことを特徴とする空気管付き水中ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の空気管付き水中ポンプにおいて、
前記空気管付き水中ポンプは、前記羽根車で駆動される流体の流路が前記軸心に対して傾斜している水中斜流ポンプ、又は前記流体の流路が前記軸心方向である水中軸流ポンプである
ことを特徴とする空気管付き水中ポンプ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の空気管付き水中ポンプにおいて、
前記開閉弁制御手段は、前記空気開閉弁を開閉するときの水位が、前記水位の上昇時と前記水位の下降時で異なる制御を行う
ことを特徴とする空気管付き水中ポンプ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の空気管付き水中ポンプにおいて、
前記空気管は、前記吸込カバー又は前記ケーシングに接続されている
ことを特徴とする空気管付き水中ポンプ。
【請求項5】
請求項1ないしから選択される1項に記載の空気管付き水中ポンプを用いた水中ポンプ設備であって、
前記空気管付き水中ポンプは、河川又は水路を横断する水門、又は樋門に搭載されている
ことを特徴とする空気管付き水中ポンプ設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気管付き水中ポンプとその設備に関する。更に詳しくは、河川等を横断して設けられる水門の扉体に固定して配置される水中ポンプにおいて、吸込口側の水位が全量排水運転可能な最低水位以下でも、定格回転数の運転を維持し、ポンプの起動と停止の繰り返しを抑制することを可能にした空気管付き水中ポンプとその設備に関する。
【背景技術】
【0002】
水中ポンプでは、吸込口側の水位がある水位以下になると、吸込口から空気がポンプケーシングに吸いまれて気水混合運転となり、排水量が低下して振動や騒音が大きくなる。そのため、吸込口側の水位がある水位以下になると、ポンプの運転を一旦停止させ、その後流入量が増大して吸込口側の水位が上昇した時にポンプを再起動している。このような場合、吸込口側の水位に応じて頻繁にポンプのオン、オフが繰り返されると、運転管理が煩雑で、ポンプの起動、停止の頻度が煩雑になり、水中電動機及び始動器への負担が大きくなるため好ましくない。
【0003】
特許文献1に記載のポンプゲートは、ポンプの吸込口の上部に整流効果を備えた吸込カバーを設置することで、空気吸込渦、水中渦の発生を抑え、より低水位まで運転できるようにしている。特許文献2に記載の先行待機運転ポンプは、排水運転から保持運転に切替えられるとき、異常振動や騒音を防ぐために、立軸であるポンプの主軸内に圧縮空気供給通路を設けたものである。この圧縮空気供給通路は、羽根車の入口側から圧縮空気を吐出し、吐出管内の残存水を速やかに給水井に落水して、ポンプ井の水位に関係なく全速運転が可能な保持運転を短時間にするものである。更に、特許文献3に記載の水中ポンプは、吸込口側の水位の低下時には、吸込カバーに設けた切り欠き、又は吸気管から空気を吸わせ、気水混合運転を行って排水量を低下させ、吸込口側の水位が全量排水運転時の水位以下でも、定格回転数での運転を維持し、ポンプのオン、オフの繰り返しを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-3450号公報
【文献】特開平8-312580号公報
【文献】WO2016/178387
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載のポンプは、連続的な空気吸込渦の発生を防止し空気を吸い込むと発生する振動騒音を防ぐものであるが、吸込口側の水位に応じてポンプのオン、オフを繰り返すものであり、最低水位以下でも、定格回転数での運転を可能にするものではない。特許文献2に記載の先行待機運転ポンプは、羽根車の駆動軸は立軸のポンプであり、横軸、又は斜軸を想定したものではない。特許文献3に記載の水中ポンプは、横軸であり、ある水位以下になると空気を導入するものであるが、気水混合運転中は振動や騒音が大きくなり、排水量も低下する。また、更に水位が低下すると、排水量が失われたまま定格回転数で運転すると、気水混合運転から気中待機運転に移行するが、この気水混合運転は可能な限り短時間、又は事実上ないほうが良い。
本発明は、以上のような背景で発明されたものであり、以下の目的を達成するものである。
本発明の目的は、空気開閉弁を用いて、気水混合運転のない空気管付き水中ポンプとその設備を提供することにある。
本発明の他の目的は、吸込口側の水位が全量排水運転可能な最低水位以下でも、定格回転数での運転を維持し、ポンプの起動と停止の繰り返しを抑制することを可能にした空気管付き水中ポンプとその設備を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するために、次の手段を採る。
即ち、本発明1の空気管付き水中ポンプは、
一方に吸込口と他方に排出口を有したケーシングと、
前記ケーシング内に固定され回転駆動するための電動機と、
前記電動機の出力軸の軸心が水平である横方向、又は、前記軸心が水平から所定角度傾斜して配置される前記出力軸に連結されて回転駆動される羽根車と、
前記ケーシングに固定され、流体を吸い込むための開口部が形成された吸込カバーと
からなる水中ポンプにおいて、
前記羽根車の上流側で、かつ前記水中ポンプ内に配置された吐出口から空気を前記水中ポンプ内に吸引するための空気管と、
前記空気管への空気の供給、又は遮断するための空気開閉弁と
前記吸込口側の水位を検知する水位計と、
前記水位計の水位検出値により前記空気開閉弁の開閉を制御する開閉弁制御手段と
前記空気管の前記吐出口は、前記羽根車と対向して、前記吐出口の中心軸が前記軸心と平行に配置されており、
前記吐出口の中心軸線は、前記出力軸の軸心より低い位置に配置されていることを特徴とする。
【0007】
本発明2の空気管付き水中ポンプは、本発明1の空気管付き水中ポンプにおいて、前記空気管付き水中ポンプは、前記羽根車で駆動される流体の流路が前記軸心に対して傾斜している水中斜流ポンプ、又は前記流体の流路が前記軸心方向である水中軸流ポンプであることを特徴とする。
本発明3の空気管付き水中ポンプは、本発明1又は2の空気管付き水中ポンプにおいて、前記開閉弁制御手段は、前記空気開閉弁を開閉するときの水位が、前記水位の上昇時と前記水位の下降時で異なる制御を行うことを特徴とする。
【0008】
本発明4の空気管付き水中ポンプは、本発明1又は2の空気管付き水中ポンプにおいて、前記空気管は、前記吸込カバー又は前記ケーシングに接続されていることを特徴とする。
本発明5の空気管付き水中ポンプ設備は、本発明1ないし4の空気管付き水中ポンプを用いた水中ポンプ設備であって、前記空気管付き水中ポンプは、河川又は水路を横断する水門、又は樋門に搭載されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の空気管付き水中ポンプとその設備は、吸込口側水位が全量排水運転可能な最低水位以下になれば、空気管から空気を供給するので、全量排水運転から気中待機運転に瞬時に移行できる。気中待機運転中に吸込口側水位が上昇すれば、空気を遮断して、気中待機運転から全量排水運転に瞬時に移行できる。従って、気水混合運転を短時間に、又は無くして終了させるので、振動を小さくしながら、定格回転数での運転を維持し、ポンプの起動と停止の繰り返しを抑制することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の第1の実施の形態の空気供給回路60を備えた水中斜流ポンプ1を示す縦断面図である。
図2図2は、本発明の第1の実施の形態の水中斜流ポンプ1へ空気を供給又は遮断するための空気供給回路60の概要を示す説明図である。
図3図3は、本発明の第1の実施の形態の水中斜流ポンプ1へ空気を供給又は遮断するための電動弁制御回路71の動作の一例を示すフロー図である。
図4図4は、吸込口側水位を上下した時の本発明の第1の実施の形態の水中斜流ポンプ1の電流と振動を示すグラフである。
図5図5は、吸込口側水位を上下した時の従来の水中斜流ポンプの電流と振動を示すグラフである。
図6図6は、本発明の第2の実施の形態の空気供給回路60を備えた水中軸流ポンプ10を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔第1の実施の形態の水中斜流ポンプ1〕
以下、本発明の第1の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態の水中斜流ポンプ1を示す縦断面図である。図1に示すように、本発明の第1の実施の形態の水中斜流ポンプ1は、河川、水路、下水路等を横断して設けられた水門又は樋門の扉体100に、ブラケット101等を介してボルト等で固定されている。なお、水中斜流ポンプ1のケーシング2のフランジ部を、直接、水門又は樋門の扉体100に固定する構造のものでも良い。これらの構造は、水門(ゲート)に水中ポンプを搭載して両者を一体化したものであり、ゲートポンプ(商標登録第2585973号、一般名称は「ポンプゲート」である。)と呼ばれているものである。
【0013】
本実施の形態の水中斜流ポンプ1は、羽根車から吐出される流体の流れが、出力軸31の中心線から斜め方向に流体を送る斜流ポンプと呼ばれているものである。水中斜流ポンプ1は、一方に吸込口21(図1の左側)と他方(図1の右側)に排出口22を有したケーシング2を有している。ケーシング2の内部には、羽根車32を回転駆動するための電動機3が固定されている。水中斜流ポンプ1の電動機3には、吸込口21側に出力軸31が取り付けられ、出力軸31に羽根車32が固定され、電動機3の回転トルクが羽根車32に伝達される。羽根車32よりも下流側に隣接して、ケーシング2の内周とオイル室34の外周との間に、案内羽根33が固定されている。案内羽根33は、羽根車32で汲み上げられる水を案内している。
【0014】
ケーシング2の排出口22側には、開閉可能に支持されたフラップ弁4が配置されている。このフラップ弁4は、ケーシング2の上部に配置した支点4aで、揺動自在に取り付けられている。フラップ弁4は、排出口22からの水の吐出圧力が低い時には、自重により閉じ、水の吐出圧力が高くなると、上部の支点4aを中心にして開くことで、排出口22からの水の排出を可能にする。ケーシング2の吸込口21には、水を吸込口21に円滑に誘導するための吸込カバー5が固定されている。吸込カバー5の先端の開口部53は、水平から斜め下方を向いており(迎角θ)、この開口部53から上流側の河川水を吸い込む。
【0015】
図1に示すように、水中斜流ポンプ1は、この出力軸31の軸心311が水平に配置されている。水路の底面102から、吸込カバー5の開口部53の上縁(吸込案内板511の下面)531までの高さをY1、水路の底面102から羽根車32の下端までの高さをY3とすると、Y1がY3よりも高い位置に配置されている。なお、吸込カバー5の開口部53の上縁531は、電動機3の出力軸31の軸心311よりも低い位置に配置されている。開口部53の下縁532は、水路の底面102からY2の高さである。水位が開口部53の下縁532の水位Y2以下のときは、羽根車32の下端までの高さY3より低い位置であるので、水中斜流ポンプ1は河川水を吸い込むことはない。図1の左に示す水位は、本発明の第1の実施の形態の水中斜流ポンプ1の運転において、水位下降時、又は、水位上昇時の全量排水運転可能な水位と、待機運転水位(気中待機運転)の境界を示したものである。
【0016】
空気供給回路60
図2は、水中斜流ポンプ1に空気を供給又は遮断するための空気供給回路60の概要を示すブロック図である。空気供給回路60は、水位計70、電動弁制御回路71、電動空気弁63、空気管64、吐出口65等からなる。大気である空気は、水中斜流ポンプ1の運転中の吸引力(負圧)により、電動空気弁63、空気管64を通り、吐出口65からケーシング2内へ吸引される。吐出口65は、吸込カバー5に取り付けられた空気管64に配管されている。電動空気弁63は、水に濡れないように、水密に密封された収納室66内に収納されている(図1参照)。管である吐出口65の中心軸線は、水中斜流ポンプ1の出力軸31の軸心311と平行に配置されている。より正確には、吐出口65の中心軸線は、出力軸31の軸心311より低い位置に配置されている。すなわち、羽根車32と対向して、軸心311より低い位置に吐出口65が配置されている。
【0017】
このために、吐出口65から吸引された空気は、その空気の浮力により若干上方に向かいながら、羽根車32の中心方向と羽根車32の上下にほぼ均一に吸い込まれる。電動空気弁63の開閉のタイミングは、電動弁制御回路71により制御される。水位計70は、上流側の河川の水位を常時計測するものであり、水圧等でその水位を計測するものである。この構造、機能は、周知技術でありその説明は省略する。電動弁制御回路71は、水中斜流ポンプ1が稼働しているとき、水位計70の水位を見ながら電動空気弁63の開閉を制御する。電動空気弁63の開閉制御は、水位計70で検知された水位に応じて行う。図1において、最左部には、水位下降時の全量排水運転時から気中待機運転に切り替えるとき、電動空気弁63を開く水位を示している。この右には、水位上昇時に、気中待機運転から全量排水運転に切り替えるときの電動空気弁63を閉じる水位を示している。
【0018】
水位下降時と水位上昇時において、電動空気弁63の開閉の水位位置が異なる理由は、以下の通りである。即ち、水位の上昇時と下降時に、気水混合運転を回避するために、『水位降下時は、吸込カバー5の開口部53の上縁531付近まで水位があれば、ケーシング2内は満水状態で全量排水運転がなされ、上縁531より水位が下がれば吸込カバー5から空気を吸込む。上縁531付近の水位となる「空気弁開水位」(本実施の形態では、上縁531より10ミリ程度高い水位)で電動空気弁63を開き、空気管64から空気をケーシング2内に吸引し、ケーシング2内の水を一気に落水させ、瞬時に全量排水運転から気中待機運転に移行する。』又、『水位上昇時は、水位が羽根車32の60%以上の高さになると、羽根車32が自らケーシング2内の水を吐出できるようになる。水位上昇時のこの付近の水位において、気水混合運転を確実に回避するため、その水位より少し低い水位となる「空気弁閉水位」(本実施の形態では、羽根車32の55%程度の水位)で電動空気弁63を閉じ、空気管64からの空気を遮断し、水位が全量排水運転可能水位(羽根車32の約60%水位)に達すれば、気中待機運転から全量排水運転に瞬時に移行する。』以上の理由で、水位下降時と水位上昇時において、電動空気弁63の開閉の水位位置が異なる。
【0019】
空気供給回路60の作動
図3は、空気供給回路60の電動弁制御回路71の動作例を示すフロー図である。このフロー図は、図1に示す位置に、電動空気弁63の「空気弁開水位」、「空気弁閉水位」を設定した場合の制御例である。電動機3(図1)の電源をオンにする(S1)。電動機3の運転時間を設定するタイマーカウンターをゼロに設定し、空気を遮断する状態である電動空気弁63の弁を閉じる(S2、S3)。この制御装置の動作開始時は、制御上は全量排水運転状態である。次に、水位計70で、取水側の水位を計測し水位データを得る(S4)。この水位データが、「空気弁閉水位以上」(図1参照)か、否かを判断する(S5)。
【0020】
S3で電動空気弁63は閉じており、このS5において、水位が「空気弁閉水位以上」である場合(YES)、即ち、この水位は気中待機運転ではなく、全量排水運転領域の水位である(図1参照)。この場合(YES)、「電動空気弁63:閉?」か、否かを判断する(S12)。電動空気弁63が閉じている場合(YES)は、全量排水運転可能な状態であり、タイマーカウンターをゼロに設定して(S14)、「水位計測」(S4)に戻り全量排水運転を続行する。電動空気弁63が閉じていない場合(NO)、電動空気弁63が閉じて(S13)、タイマーカウンターをゼロに設定して(S14)、同様に「水位計測」(S4)に戻り全量排水運転を続行する。
【0021】
S5において、水位が「空気弁閉水位以上?」でない場合(NO)、更に、この水位が「空気弁開水位以下?」か、否かを判断する(S6)。このS6で、水位が「空気弁開水位以下」である場合(YES)、このときの水位は、「水位下降時」、「水位上昇時」を問わず、気中待機運転領域であることを意味する(図1参照)。この気中待機運転領域と判断された場合(YES)、電動空気弁63が開いている必要があるので、確認のために次のステップS7に進み、「電動空気弁63:開?」か、否かを判断する(S7)。既に、電動空気弁63が開いている場合(YES)、ステッブS9に進む。電動空気弁63が閉じている場合(NO)、気中待機運転領域であるから、電動空気弁63を開き、電動機3を気中待機運転する稼働時間を設定する(S8、S9)。この稼働時間の設定は、水位が低い領域であり、必要以上に気中待機運転を継続する必要はないので、電動機3の稼働時間を設定するものである。S10において、気中待機運転に移行した時間が「稼働時間以上?」か、否かを判断する。
【0022】
この電動機3の稼働時間が設定時間以上でない場合(NO)、ステップS4に戻る、即ち、気中待機運転を継続する。電動機3が稼働時間以上の場合(YES)、電動機3の電源を切る(ステップS11)。即ち、設定した水中斜流ポンプ1の運転時間が設定時間に達したので運転を停止するものである。他方、S6において、水位が「空気弁開水位以下?」でない場合(NO)、S15に移行する。このときの水位は、「空気弁閉水位以上?」(S5)でもなく、「空気弁開水位以下?」(S6)でもないので、この時の水位は、「空気弁開水位」と「空気弁閉水位」の間の中間水位を意味する(図1参照)。この中間水位では、水位上昇時は電動空気弁63を開いておき、水位下降時は電動空気弁63を閉じておく設定領域である。
【0023】
このS15の「電動空気弁63:開?」において、電動空気弁63を開いている場合(YES)、「水位上昇時」の状態であることを意味する。「水位上昇時」において、上記中間水位である水位領域は、気中待機運転領域である。電動空気弁63をそのまま開いている状態とし、S9に飛び気中待機運転を設定時間まで続行する。即ち、この中間水位において、電動空気弁63が既に開いているということは、通常は水位が上昇していることを意味し、この水位では気中待機運転水位を意味する。このために電動空気弁63は開いた状態のままである。そして、S4に飛び、電動機3の運転を続行する。このステップS15の「電動空気弁63:開?」において、電動空気弁63を開いていない場合(NO)は、水位下降状態であることを意味する。電動空気弁63を閉じたまま運転を続行する。即ち、この中間水位において、電動空気弁63が開いていないということは、水位が下降している「水位下降時」であり、全量排水運転領域である領域を意味し、電動空気弁63が閉じた状態で、タイマーカウンターをゼロ設定(S16)し、「水位計側」(S4)に戻り全量排水運転を続行する。
【0024】
以上の動作を概括すれば、以下のような制御となる。例えば、運転員が水中斜流ポンプ1の電動機3のスイッチ(図示せず)を入れてONにすると、電動機3は回転を開始し、上流側の河川水を汲み上げて下流側に流す。電動弁制御回路71は、水位計70からの水位信号により、現在の水位を判断し、電動空気弁63の開閉を制御し、全量排水運転、気中待機運転かを選択する。そして、その水位が上昇中か、又は下降中か否かによって、電動空気弁63の開閉のタイミングを変える。水位が下降中、全量排水運転中に吸込口側水位が低下しても、図1に示すように、吸込口側水位が「空気弁開水位」以上高ければ、開口部53から空気を吸い込まないので、吸込カバー5内及びケーシング2内は水で満たされている。従って、水中斜流ポンプ1は定格回転数で全量排水運転が継続して行われる。そして、全量排水運転の水位から水位が下降する場合、電動弁制御回路71は、「空気弁開水位」の位置に達したら電動空気弁63を開いて、空気を空気管64を介して、水中斜流ポンプ1に供給する。この空気の供給により、水中斜流ポンプ1は、一気に気中待機運転モードになる。
【0025】
気中待機運転から水位が上昇する場合、電動弁制御回路71は、「空気弁閉水位」の位置に達したら電動空気弁63を閉じて、空気管64による水中斜流ポンプ1への空気を遮断する。この空気の遮断により、本実施の形態では水位が羽根車32の60%以上となったとき、羽根車が自らケーシング2内の水を吐出できる状態となるので、水中斜流ポンプ1は、一気に気中待機運転モードから全量排水運転モードになる。また、水位が上昇中、全量排水運転中に吸込口側水位が低下しても、図1に示すように、吸込口側水位が「空気弁閉水位」で、電動空気弁63を閉じるので、この水位より高ければ、開口部53から空気を吸い込まないので、吸込カバー5内及びケーシング2内は水で満たされている。従って、水中斜流ポンプ1は定格回転数で全量排水運転が継続して行われる。「空気弁開水位」と「空気弁閉水位」は、ポンプ(水中斜流ポンプ1)が設置される自然条件、正確には現場条件でも異なるので、実際に設置される河川で運転を行って、その結果で最適な水位を決めると良い。
【0026】
吸込口側水位が図1の「空気弁開水位」よりも低下すると、開口部53から空気が吸い込まれる。この開口部53から空気が吸込まれる前に電動空気弁63が開かれ、空気管64を通して、空気が供給される。その結果、水中斜流ポンプ1の吸込カバー5内及びケーシング2内の水が瞬時に落水して、羽根車32が水を吐き出させなくなるため、ポンプ内圧力が下がり、フラップ弁4が自重と外水の圧力により閉じ、羽根車32が空気中に露出した気中待機運転(電動機3は定格回転数で回転駆動状態を継続)となるために振動が小さく、電動機3への負担が少ない。吸込口側水位が更に低下しても、設定された時間内(例えば図示しないタイマーで設定)であれば、気中待機運転を継続する。従って、本発明の第1の実施の形態の水中斜流ポンプ1は、気水混合運転が無いため、振動が少ない。本実施の形態の水中斜流ポンプ1は、吸込口側水位が全量排水運転可能な最低水位以下になれば、全量排水運転から気中待機運転に瞬時に移行し、気中待機運転中に吸込口側水位が上昇し全量排水運転可能水位(羽根車32の約60%水位)に達すれば、気中待機運転から全量排水運転に瞬時に移行する。この結果、気水混合運転がなく、振動を小さくして、定格回転数での運転を維持できる。
【0027】
水位が吸込カバー5の開口部53の下縁532の水位Y2以下の場合、物理的に河川水を吸い込むことはできないので、空気管64の吐出口65からケーシング2内へ空気を吸引する必要はないが、気中待機運転の水位(図1参照)では、電動空気弁63を開いた状態で、設定された時間内(図示しないタイマーで設定)であれば、気中待機運転を継続する。この制御により、水中斜流ポンプ1の起動と停止の繰り返しを抑制することが可能となる。図4は本発明の本実施の形態の水中斜流ポンプ(ポンプ口径が300ミリ)1の電動機3の電流(A)と振動(注:X方向、Y方向、Z方向の合成振動)(μm)を示すグラフである。図4では、吸込口側水位を200ミリから600ミリまで上昇させた後、200ミリまで下降させている。図4に示すように、水位が上昇する時は、気中待機運転から全量排水運転に瞬時に移行し、水位が下降する時は、全量排水運転から気中待機運転に瞬時に移行し、気水混合運転が起きないため、電流(A)の変動と、振動(μm)の変動が小さくなる。
【0028】
図5は空気管を備えていない従来の水中斜流ポンプ(ポンプ口径が300ミリ)の電動機3の電流(A)と振動(注:X方向、Y方向、Z方向の合成振動)(μm)を示すグラフである。図5に示すように、従来の水中斜流ポンプは開口部53の上縁531より空気を吸い込んで気水混合運転が起きるため、気中待機運転から全量排水運転への切り替わり、及び、全量排水運転から気中待機運転への切り替わりに時間がかかり、振動も大きい。これに対して本発明の第1の実施の形態の水中斜流ポンプ1は、図4に示すように気水混合運転が起きないため、気中待機運転から全量排水運転への切り替わり、及び、全量排水運転から気中待機運転への切り替わりが瞬時に行われ、振動も小さい。
【0029】
〔第2の実施の形態の水中軸流ポンプ10〕
図6に示す第2の実施の形態の水中軸流ポンプ10は、前述した第1の実施の形態のものと異なる構造のポンプである。水中軸流ポンプ10は、出力軸31の軸心311方向に流体を送るポンプであり、一方(図6の左側)に吸込口21と、他方(図6の右側)に排出口22を有したケーシング2を有している。ケーシング2の内部には、回転駆動するための電動機3が固定されている。電動機3には、排出口22側に出力軸31が取り付けられ、出力軸31に羽根車32が固定され、電動機3の回転が羽根車32に伝達される。羽根車32よりも吸込口21側(上流側)には、ケーシング2の内周とオイル室34の外周との間に案内羽根33が固定されている。案内羽根33は、羽根車32で汲み上げられる水を案内している。
【0030】
ケーシング2には、排出口22側に開閉可能に支持されたフラップ弁4が取り付けられている。フラップ弁4は、排出口22からの水の吐出圧力が低い時には、自重により閉じ、水の吐出圧力が高くなると上部の支点4aを中心にして開くことで、排出口22からの水の排出を可能にする。ケーシング2の吸込口21には、水を吸込口21に円滑に誘導するための吸込カバー5が固定されている。図6に示すように、吸込カバー5は、一枚以上の板材から上板、側板等で形成されている。第2の実施の形態の水中軸流ポンプ10には、前述した第1の実施の形態と同様の原理で動作する空気供給回路60が配置されている。水位計70、電動弁制御回路71、電動空気弁63、空気管64、吐出口65等からなる。
【0031】
大気である空気は、水中軸流ポンプ10の運転中の吸引力により、電動空気弁63に連結された空気管64が二つに分岐され、分岐管(図示せず)からそれぞれ二つの吐出口65からケーシング2内へ吸引される。二つの吐出口65は、電動機3の外周の左右、即ち電動機3の両側を挟んで吸込カバー5内に、吐出口65がそれぞれ配置されている。この吐出口65は、吸込カバー5に固定された空気管64に配管されている。吐出口65の中心軸線は、水中軸流ポンプ10の出力軸31の軸心311と平行に配置されている。正確には、吐出口65の中心軸線は、出力軸31の軸心311より若干低い位置に配置されている。すなわち、羽根車32の正面に対向するように、軸心311より低い位置に吐出口65が配置されている。第2の実施の形態の水中軸流ポンプ10の電動空気弁63を作動させるための水位計、制御回路等は、実質的に第1の実施の形態の水中斜流ポンプ1と同一であり、その説明は省略する。尚、図6の最左部に示すように、水位下降時と水位上昇時において、電動空気弁63の開閉の水位位置が異なる理由は、以下のとおりである。即ち、水位の上昇時と下降時に、気水混合運転を回避するために、『水位降下時は、吸込カバー5の開口部53の上縁531付近まで水位があれば、ケーシング2内は満水状態で全量排水運転がなされ、上縁531より水位が下がれば吸込カバー5から空気を吸込む。
【0032】
上縁531付近の水位となる「空気弁開水位」(本実施の形態では、上縁531より10ミリ程度高い水位)で電動空気弁63を開き、空気管64から空気をケーシング2内に吸引し、ケーシング2内の水を一気に落水させ、瞬時に全量排水運転から気中待機運転に移行する。』又、『水位上昇時は、水位が羽根車32の60%以上の高さになると、羽根車32が自らケーシング2内の水を吐出できるようになる。水位上昇時のこの付近の水位において、気水混合運転を確実に回避するため、その水位より少し低い水位となる「空気弁閉水位」(本実施の形態では、羽根車32の55%程度の水位)で電動空気弁63を閉じ、空気管64からの空気を遮断し、水位が全量排水運転可能水位(羽根車32の約60%水位)に達すれば、気中待機運転から全量排水運転に瞬時に移行する。』以上の理由で、水位下降時と水位上昇時において、電動空気弁63の開閉の水位位置が異なる。
【0033】
[その他の実施の形態]
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はこの実施例に限定されることはない。例えば、前述した実施の形態の電動空気弁63は、モーター(電動機)を使用したアクチュエーターで駆動する弁であるが、これをソレノイド電磁石を使用した電磁弁であっても良い。また、前述した水中斜流ポンプ1及び水中軸流ポンプ10は、何れも電動機3の出力軸31、及びこれに連結されている羽根車32の軸心は、水平である横方向に配置されているものである。しかしながら、この軸心を水平から傾斜させたものであっても良い。また、気水混合運転を回避するために空気管に供給される空気は大気であるが、積極的にポンプケーシング内の水を落水させるため、ブロワー又はコンプレッサーによる加圧空気を供給しても良い。更に、前述した水中斜流ポンプ1、及び水中軸流ポンプ10の吸込カバー5の形状は、水中ポンプの構造により異なる。従って、本発明でいう吸込カバー5とは、ポンプ本体の吸込側のカバーに限らず本体部分を含む概念である。
【符号の説明】
【0034】
1…水中斜流ポンプ
10…水中軸流ポンプ
100…扉体
101…ブラケット
102…水路の底面
2…ケーシング
21…吸込口
22…排出口
3…電動機
31…出力軸
311…軸心
32…羽根車
33…案内羽根
34…オイル室
4…フラップ弁
5…吸込カバー
60…空気供給回路
63…電動空気弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6