(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】評価装置、評価方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20250206BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20250206BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20250206BHJP
G01N 21/21 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
G01N21/17 620
G01N21/17 A
G01N21/17 630
G01N33/48 Z
G01N33/483 C
G01N33/48 M
G01N21/21 Z
(21)【出願番号】P 2021556189
(86)(22)【出願日】2020-11-13
(86)【国際出願番号】 JP2020042497
(87)【国際公開番号】W WO2021095868
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-08-10
(31)【優先権主張番号】P 2019207348
(32)【優先日】2019-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020070309
(32)【優先日】2020-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和1年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、未来社会創造事業「仮想開口顕微鏡ハードウェア・信号画像処理ソフトウェア開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504171134
【氏名又は名称】国立大学法人 筑波大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】安野 嘉晃
(72)【発明者】
【氏名】ムカルジ プロティプト
(72)【発明者】
【氏名】ホセイン イブラヒム ガマル アブデルサデック
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 新
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-080724(JP,A)
【文献】特開2019-170997(JP,A)
【文献】特開2019-170706(JP,A)
【文献】APELIAN, C. et al.,Dynamic full field optical coherence tomography: subcellular metabolic contrast revealed in tissues by interferometric signals temporal analysis,Biomedical Optics Express,2016年03月24日,Vol. 7, No. 4,pp. 1511-1524,https://doi.org/10.1364/BOE.7.001511
【文献】HUANG, X. R. et al.,Temporal change of retinal nerve fiber layer reflectance speckle in normal and hypertensive retinas,Experimental Eye Research,2019年07月17日,Vol. 186, No. 107738,pp. 1-11,https://doi.org/10.1016/j.exer.2019.107738
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/17
G01N 33/48
G01N 33/483
A61B 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料とする生体組織の状態を示す光干渉断層(OCT:Optical Coherence Tomography)信号を取得し、
前記OCT信号に基づく信号値を、前記試料における観測点ごとに取得する計測部と、
前記信号値の所定期間内における時間変動特性を示す時間変動特性値を算出する評価部と、を有し
、
前記評価部は、
前記信号値と、当該信号値を時間シフト量τで時間シフトした信号値との相関係数を前記時間シフト量τごとに算出し、
前記時間シフト量τがゼロである前記相関係数を用いず、前記時間シフト量τがゼロでない前記相関係数を用いて、
前記時間シフト量τの増加に伴う前記相関係数の減衰速度を前記時間変動特性値として算出する
評価装置。
【請求項2】
前記評価部は、
前記所定期間内の各フレーム時刻における前記OCT信号の信号強度と当該信号強度の平均値との偏差の二乗和を分散として算出し、
前記所定期間内の各フレーム時刻における前記OCT信号の信号強度と当該信号強度の平均値との偏差と、当該フレーム時刻から時間シフト量τで時間シフトしたシフト時刻における前記OCT信号の信号強度と、時間シフトした当該信号強度の平均値との偏差との積の総和を共分散として算出し、
前記共分散を前記分散で除算して前記相関係数として、前記時間シフト量τごとに算出し、
前記時間シフト量τごとの前記相関係数を用いて所定の減衰関数を用いて回帰分析し、前記相関係数を近似する当該減衰関数のパラメータを前記減衰速度として観測点ごとに算出する
請求
項1に記載の評価装置。
【請求項3】
試料とする生体組織の状態を示す光干渉断層(OCT:Optical Coherence Tomography)信号を取得し、
前記OCT信号に基づく信号値を、前記試料における観測点ごとに取得する計測部と、
前記信号値の所定期間内における時間変動特性を示す時間変動特性値を算出する評価部と、を有し、
前記計測部は、
前記試料に第1偏光状態で入射される第1入射成分に対して前記試料から反射または散乱した成分に前記第1入射成分が干渉した第1干渉成分のうち第1偏光状態を有する第1計測信号、前記第1干渉成分に対する第2偏光状態を有する第2計測信号、前記試料に第2偏光状態で入射される第2入射成分に対して前記試料から反射または散乱した成分に前記第2入射成分が干渉した第2干渉成分のうち第1偏光状態を有する第3計測信号、および前記第2干渉成分に対する第2偏光状態を有する第4計測信号に基づいて、前記試料内の観測点における偏光特性に基づく偏光特性値を定め、
前記評価部は、
前記偏光特性値の時間変動特性を示す前記時間変動特性値を定める
評価装置。
【請求項4】
前記計測部は、前記第1計測信号、前記第2計測信号、前記第3計測信号、および前記第4計測信号に基づいて、観測点ごとにジョーンズ行列を定め、前記試料内の観測点におけるジョーンズ行列と前記試料の表面におけるジョーンズ行列から前記観測点における累積ジョーンズ行列を定め、
前記偏光特性値として、前記累積ジョーンズ行列の固有値間の位相差である累積位相遅指標値を定める
請求項
3に記載の評価装置。
【請求項5】
前記計測部は、前記第1計測信号、前記第2計測信号、前記第3計測信号、および前記第4計測信号に基づいて、観測点ごとにジョーンズ行列を定め、前記試料内の第1観測点におけるジョーンズ行列と前記試料内の第2観測点におけるジョーンズ行列から前記第1観測点ならびに前記第2観測点との間の局所ジョーンズ行列を定め、
前記局所ジョーンズ行列の固有値間の位相差である局所位相遅延に基づく前記偏光特性値を定める
請求項
3に記載の評価装置。
【請求項6】
前記計測部は、
前記局所位相遅延を前記試料に入射する入射光の波数と、前記第1観測点と前記第2観測点との厚みで除算して複屈折率を定める
請求項
5に記載の評価装置。
【請求項7】
前記評価部は、前記偏光特性値の分散または標準偏差に基づく前記時間変動特性値を算出する
請求項
3に記載の評価装置。
【請求項8】
前記評価部は、前記偏光特性値の対数値の分散または標準偏差に基づく前記時間変動特性値を算出する
請求項
3に記載の評価装置。
【請求項9】
前記評価部は、前記偏光特性値の標準偏差
を複屈折率の平均値で除算して動的コントラストを算出する
請求項
3に記載の評価装置。
【請求項10】
前記計測部は、前記偏光特性値として、前記第1計測信号と前記第2計測信号に基づく第1ジョーンズベクトル、および前記第3計測信号と前記第4計測信号に基づく第2ジョーンズベクトルを、それぞれ第1ストークスベクトル、および第2ストークスベクトルに変換し、
前記評価部は、前記時間変動特性値として、前記第1ストークスベクトルの時間平均値と前記第2ストークスベクトルの時間平均値に基づいて時間偏光均一度を定める
請求項
3に記載の評価装置。
【請求項11】
前記計測部は、前記第1ストークスベクトルからノイズ成分を差し引いた補正後の第1ストークスベクトルの時間平均値と、前記第2ストークスベクトルからノイズ成分を差し引いた補正後の第2ストークスベクトルの時間平均値に基づいて時間偏光均一度を定める
請求項
10に記載の評価装置。
【請求項12】
前記計測部は、前記偏光特性値として、前記第1計測信号、前記第2計測信号、前記第3計測信号、および前記第4計測信号に基づいて、観測点ごとにジョーンズ行列を定め、
前記評価部は、前記時間変動特性値として、前記ジョーンズ行列のフォンノイマンエントロピーを算出する
請求項
3に記載の評価装置。
【請求項13】
前記評価部は、
前記第1計測信号と前記第2計測信号に基づく第1ジョーンズベクトル、および前記第3計測信号と前記第4計測信号に基づく第2ジョーンズベクトルから、それぞれ変換された第1ストークスベクトルの時間偏光均一度、および第2ストークスベクトルの時間偏光均一度からノイズ成分のエントロピーを算出し、
前記フォンノイマンエントロピーを前記ノイズ成分のエントロピーに基づいて補正する
請求項
12に記載の評価装置。
【請求項14】
前記第1偏光状態は水平偏光であり、前記第2偏光状態は垂直偏光であり、
前記第1計測信号は第1水平偏波スペクトル干渉信号であり、
前記第2計測信号は第2水平偏波スペクトル干渉信号であり、
前記第3計測信号は第1垂直偏波スペクトル干渉信号であり、
前記第4計測信号は第2垂直偏波スペクトル干渉信号である
請求項
3から請求項
13のいずれか一項に記載の評価装置。
【請求項15】
前記評価部は、
前記所定期間よりも長い観測期間間隔ごとに前記時間変動特性値を算出する
請求項1から請求項
14のいずれか一項に記載の評価装置。
【請求項16】
前記時間変動特性値に基づいて前記試料の活性状態を示す評価値を定める出力処理部を備える
請求項1から請求項
15のいずれか一項に記載の評価装置。
【請求項17】
入力値の変化に対して単調に変化する出力値を与える関数を用いて前記観測点ごとの前記時間変動特性値に対する出力値を信号値として有する画像データを生成する画像処理部を備える
請求項1から請求項
16のいずれか一項に記載の評価装置。
【請求項18】
評価装置における方法であって、
試料とする生体組織の状態を示す光干渉断層(OCT:Optical Coherence Tomography)信号を取得し、
前記OCT信号に基づく信号値を、前記試料における観測点ごとに取得する計測ステップと、
前記信号値の所定期間内における時間変動特性を示す時間変動特性値を算出する評価ステップと、を有し
、
前記計測ステップにおいて、
前記試料に第1偏光状態で入射される第1入射成分に対して前記試料から反射または散乱した成分に前記第1入射成分が干渉した第1干渉成分のうち第1偏光状態を有する第1計測信号、前記第1干渉成分に対する第2偏光状態を有する第2計測信号、前記試料に第2偏光状態で入射される第2入射成分に対して前記試料から反射または散乱した成分に前記第2入射成分が干渉した第2干渉成分のうち第1偏光状態を有する第3計測信号、および前記第2干渉成分に対する第2偏光状態を有する第4計測信号に基づいて、前記試料内の観測点における偏光特性に基づく偏光特性値を定め、
前記評価ステップにおいて、
前記偏光特性値の時間変動特性を示す前記時間変動特性値を定める
評価方法。
【請求項19】
評価装置のコンピュータに、
試料とする生体組織の状態を示す光干渉断層(OCT:Optical Coherence Tomography)信号を取得し、
前記OCT信号に基づく信号値を、前記試料における観測点ごとに取得する計測手順と、
前記信号値の所定期間内における時間変動特性を示す時間変動特性値を算出する評価手順と、を実行させるためのプログラム
であって、
前記計測手順において、
前記試料に第1偏光状態で入射される第1入射成分に対して前記試料から反射または散乱した成分に前記第1入射成分が干渉した第1干渉成分のうち第1偏光状態を有する第1計測信号、前記第1干渉成分に対する第2偏光状態を有する第2計測信号、前記試料に第2偏光状態で入射される第2入射成分に対して前記試料から反射または散乱した成分に前記第2入射成分が干渉した第2干渉成分のうち第1偏光状態を有する第3計測信号、および前記第2干渉成分に対する第2偏光状態を有する第4計測信号に基づいて、前記試料内の観測点における偏光特性に基づく偏光特性値を定め、
前記評価手順において、
前記偏光特性値の時間変動特性を示す前記時間変動特性値を定める
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、評価装置、方法およびプログラムに関する。例えば、光干渉断層計(OCT:Optical Coherence Tomography)で計測された計測信号を処理することにより、生体組織などの試料の状態を可視化ならびに定量評価するための技術に関する。
本願は、2019年11月15日に日本に出願された特願2019-207348号と、2020年4月9日に日本に出願された特願2020-070309号と、について優先権を主張し、それらの内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、OCTを用いてex vivo試料をイメージングする「OCT顕微鏡」と呼ばれる技術が研究されている。しかし、一般にOCT顕微鏡は形態イメージングする技術であり、代謝等の組織の機能をイメージングすることはできない。これに対し、「ダイナミックOCT」と呼ばれる信号解析手法が提案されている(非特許文献1)。しかし、この手法は定量性に乏しく、この手法で生体の活動の度合いを正しく評価することは困難である。また、この手法は、Full-field OCT(FF-OCT)と呼ばれる特殊なタイプのOCTに適合しており、広く使われている走査型OCTでの実装は困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Apelian et al., “Dynamic Full Field Optical Coherence Tomography: Subcellular Metabolic Contrast Revealed in Tissues by Interferometric Signals Temporal Analysis.” Biomedical Optics Express 7, No.4, p.1511-1524, March 24, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、試料の動的特性、例えば、生体組織のダイナミクスや細胞内活動を定量的に評価することを可能とする評価方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を採用している。
【0006】
(1)本発明の一態様は、試料とする生体組織の状態を示す光干渉断層(OCT:Optical Coherence Tomography)信号を取得し、前記OCT信号に基づく信号値を、前記試料における観測点ごとに取得する計測部と、前記信号値の所定期間内における時間変動特性を示す時間変動特性値を算出する評価部と、を有し、前記評価部は、前記信号値と、当該信号値を時間シフト量τで時間シフトした信号値との相関係数を前記時間シフト量τごとに算出し、前記時間シフト量τがゼロである前記相関係数を用いず、前記時間シフト量τがゼロでない前記相関係数を用いて、前記時間シフト量τの増加に伴う前記相関係数の減衰速度を前記時間変動特性値として算出する評価装置。
【0010】
(2)本発明の他の態様において、前記評価部は、前記所定期間内の各フレーム時刻における前記OCT信号の信号強度と当該信号強度の平均値との偏差の二乗和を分散として算出し、前記所定期間内の各フレーム時刻における前記OCT信号の信号強度と当該信号強度の平均値との偏差と、当該フレーム時刻から時間シフト量τで時間シフトしたシフト時刻における前記OCT信号の信号強度と、時間シフトした当該信号強度の平均値との偏差との積の総和を共分散として算出し、前記共分散を前記分散で除算して前記相関係数として、前記時間シフト量τごとに算出し、前記時間シフト量τごとの前記相関係数を用いて所定の減衰関数を用いて回帰分析し、前記相関係数を近似する当該減衰関数のパラメータを前記減衰速度として観測点ごとに算出してもよい。
【0012】
(3)本発明の他の態様において、試料とする生体組織の状態を示す光干渉断層(OCT:Optical Coherence Tomography)信号を取得し、前記OCT信号に基づく信号値を、前記試料における観測点ごとに取得する計測部と、前記信号値の所定期間内における時間変動特性を示す時間変動特性値を算出する評価部と、を有し、前記計測部は、前記試料に第1偏光状態で入射される第1入射成分に対して前記試料から反射または散乱した成分に前記第1入射成分が干渉した第1干渉成分のうち第1偏光状態を有する第1計測信号、前記第1干渉成分に対する第2偏光状態を有する第2計測信号、前記試料に第2偏光状態で入射される第2入射成分に対して前記試料から反射または散乱した成分に前記第2入射成分が干渉した第2干渉成分のうち第1偏光状態を有する第3計測信号、および前記第2干渉成分に対する第2偏光状態を有する第4計測信号に基づいて、前記試料内の観測点における偏光特性に基づく偏光特性値を定め、前記評価部は、前記偏光特性値の時間変動特性を示す前記時間変動特性値を定めてもよい。
【0013】
(4)本発明の他の態様において、前記計測部は、前記第1計測信号、前記第2計測信号、前記第3計測信号、および前記第4計測信号に基づいて、観測点ごとにジョーンズ行列を定め、前記試料内の観測点におけるジョーンズ行列と前記試料の表面におけるジョーンズ行列から前記観測点における累積ジョーンズ行列を定め、前記偏光特性値として、前記累積ジョーンズ行列の固有値間の位相差である累積位相遅指標値を定めてもよい。
【0014】
(5)本発明の他の態様において、前記計測部は、前記第1計測信号、前記第2計測信号、前記第3計測信号、および前記第4計測信号に基づいて、観測点ごとにジョーンズ行列を定め、前記試料内の第1観測点におけるジョーンズ行列と前記試料内の第2観測点におけるジョーンズ行列から前記第1観測点ならびに前記第2観測点との間の局所ジョーンズ行列を定め、前記局所ジョーンズ行列の固有値間の位相差である局所位相遅延に基づく前記偏光特性値を定めてもよい。
【0015】
(6)本発明の他の態様において、前記計測部は、前記局所位相遅延を前記試料に入射する入射光の波数と、前記第1観測点と前記第2観測点との厚みで除算して複屈折率を定めてもよい。
【0016】
(7)本発明の他の態様において、前記評価部は、前記偏光特性値の分散または標準偏差に基づく前記時間変動特性値を算出してもよい。
【0017】
(8)本発明の他の態様において、前記評価部は、前記偏光特性値の対数値の分散または標準偏差に基づく前記時間変動特性値を算出してもよい。
【0018】
(9)本発明の他の態様において、前記評価部は、前記偏光特性値の標準偏差を前記複屈折率の平均値で除算して動的コントラストを算出してもよい。
【0019】
(10)本発明の他の態様において、前記計測部は、前記偏光特性値として、前記第1計測信号と前記第2計測信号に基づく第1ジョーンズベクトル、および前記第3計測信号と前記第4計測信号に基づく第2ジョーンズベクトルを、それぞれ第1ストークスベクトル、および第2ストークスベクトルに変換し、前記評価部は、前記時間変動特性値として、前記第1ストークスベクトルの時間平均値と前記第2ストークスベクトルの時間平均値に基づいて時間偏光均一度を定めてもよい。
【0020】
(11)本発明の他の態様において、前記計測部は、前記計測部は、前記第1ストークスベクトルからノイズ成分を差し引いた補正後の第1ストークスベクトルの時間平均値と、前記第2ストークスベクトルからノイズ成分を差し引いた補正後の第2ストークスベクトルの時間平均値に基づいて時間偏光均一度を定めてもよい。
【0021】
(12)本発明の他の態様において、前記計測部は、前記偏光特性値として、前記第1計測信号、前記第2計測信号、前記第3計測信号、および前記第4計測信号に基づいて、観測点ごとにジョーンズ行列を定め、前記評価部は、前記時間変動特性値として、前記ジョーンズ行列のフォンノイマンエントロピーを算出してもよい。
【0022】
(13)本発明の他の態様において、前記評価部は、前記第1計測信号と前記第2計測信号に基づく第1ジョーンズベクトル、および前記第3計測信号と前記第4計測信号に基づく第2ジョーンズベクトルから、それぞれ変換された第1ストークスベクトルの時間偏光均一度、および第2ストークスベクトルの時間偏光均一度からノイズ成分のエントロピーを算出し、前記フォンノイマンエントロピーを前記ノイズ成分のエントロピーに基づいて補正してもよい。
【0023】
(14)本発明の他の態様において、前記第1偏光状態は水平偏光であり、前記第2偏光状態は垂直偏光であり、前記第1計測信号は第1水平偏波スペクトル干渉信号であり、前記第2計測信号は第2水平偏波スペクトル干渉信号であり、前記第3計測信号は第1垂直偏波スペクトル干渉信号であり、前記第4計測信号は第2垂直偏波スペクトル干渉信号であってもよい。
【0024】
(15)本発明の他の態様において、前記評価部は、前記所定期間よりも長い観測期間間隔ごとに前記時間変動特性値を算出してもよい。
【0025】
(16)本発明の他の態様は、前記時間変動特性値に基づいて前記試料の活性状態を示す評価値を定める出力処理部を備えてもよい。
【0026】
(17)本発明の他の態様は、入力値の変化に対して単調に変化する出力値を与える関数を用いて前記観測点ごとの前記時間変動特性値に対する出力値を信号値として有する画像データを生成する画像処理部を備えてもよい。
【0027】
(18)本発明の他の態様は、評価装置における方法であって、試料とする生体組織の状態を示す光干渉断層(OCT:Optical Coherence Tomography)信号を取得し、前記OCT信号に基づく信号値を、前記試料における観測点ごとに取得する計測ステップと、前記信号値の所定期間内における時間変動特性を示す時間変動特性値を算出する評価ステップと、を有し、前記計測ステップにおいて、前記試料に第1偏光状態で入射される第1入射成分に対して前記試料から反射または散乱した成分に前記第1入射成分が干渉した第1干渉成分のうち第1偏光状態を有する第1計測信号、前記第1干渉成分に対する第2偏光状態を有する第2計測信号、前記試料に第2偏光状態で入射される第2入射成分に対して前記試料から反射または散乱した成分に前記第2入射成分が干渉した第2干渉成分のうち第1偏光状態を有する第3計測信号、および前記第2干渉成分に対する第2偏光状態を有する第4計測信号に基づいて、前記試料内の観測点における偏光特性に基づく偏光特性値を定め、前記評価ステップにおいて、前記偏光特性値の時間変動特性を示す前記時間変動特性値を定める評価方法である。
【0028】
(19)本発明の他の態様は、評価装置のコンピュータに、試料とする生体組織の状態を示す光干渉断層(OCT:Optical Coherence Tomography)信号を取得し、前記OCT信号に基づく信号値を、前記試料における観測点ごとに取得する計測手順と、前記信号値の所定期間内における時間変動特性を示す時間変動特性値を算出する評価手順と、を実行させるためのプログラムであって、前記計測手順において、前記試料に第1偏光状態で入射される第1入射成分に対して前記試料から反射または散乱した成分に前記第1入射成分が干渉した第1干渉成分のうち第1偏光状態を有する第1計測信号、前記第1干渉成分に対する第2偏光状態を有する第2計測信号、前記試料に第2偏光状態で入射される第2入射成分に対して前記試料から反射または散乱した成分に前記第2入射成分が干渉した第2干渉成分のうち第1偏光状態を有する第3計測信号、および前記第2干渉成分に対する第2偏光状態を有する第4計測信号に基づいて、前記試料内の観測点における偏光特性に基づく偏光特性値を定め、前記評価手順において、前記偏光特性値の時間変動特性を示す前記時間変動特性値を定めるプログラムである。
【発明の効果】
【0029】
本実施形態によれば、従来は見過ごされていた微小な変化(ゆらぎ)を検出することができ、生体組織のダイナミクスの定量的な評価を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】第1の実施形態に係る生体組織の評価方法について説明する図である。
【
図2】生体組織の一部に対し、比較例1、実施例1、2の方法を適用して得られた画像である。
【
図3A】実施例1の画像に対応するスペックルバリアンス(スペックル信号強度の時間分散)を示す図である。
【
図3B】実施例2の画像に対応するOCT相関の減衰速度を示す図である。
【
図3C】実施例3の方法を適用した場合のOCT信号強度の減衰係数を示す図である。
【
図4A】実施例1の方法を適用した生体組織の生死状態を示す図である。
【
図4B】実施例2の方法を適用した生体組織の生死状態を示す図である。
【
図5】生体組織の一部に対し、比較例2、実施例4、5の方法を適用して得られた画像である。
【
図6A】実施例4の画像に対応するスペックルバリアンスを示す図である。
【
図6B】実施例5の画像に対応するOCT相関の減衰速度を示す図である。
【
図6C】実施例6の方法を適用した場合のOCT信号強度の減衰係数を示す図である。
【
図7A】実施例4の方法を適用した生体組織の生死状態を示す図である。
【
図7B】実施例5の方法を適用した生体組織の生死状態を示す図である。
【
図8】第1の実施形態に係るOCTシステムの一例を示す構成図である。
【
図9】第2の実施形態に係るOCTシステムの一例を示す構成図である。
【
図10】第2の実施形態に係る計測信号処理装置の構成例を示すブロック図である。
【
図11】第2の実施形態に係るOCT信号処理の一例を示すフローチャートである。
【
図12】第2の実施形態に係る観測期間の説明図である。
【
図13】複屈折率の分散の空間分布の一例を示す図である。
【
図14】複屈折率の分散の空間分布の他の例を示す図である。
【
図15】平均局所複屈折率の分散の空間分布の一例を示す図である。
【
図16】複屈折率の分散と平均局所複屈折率との相関性の一例を示す図である。
【
図17】複屈折率の分散と対数強度の分散との相関性の一例を示す図である。
【
図18】第2の実施形態に係るTPUの算出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図20】複屈折率の分散の時間変化の一例を示す図である。
【
図21】TPUの時間変化の他の例を示す図である。
【
図22】複屈折率の動的コントラストの時間変化の一例を示す図である。
【
図23】対数強度分散の時間変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明を適用した実施形態に係る評価方法について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0032】
<第1の実施形態>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る生体組織の評価方法について説明する図である。本実施形態の生体組織の評価方法は、OCTシステム1において、所定の時間内に、試料Smに対して複数回のOCT(光干渉断層)撮影を行う撮影手段(撮影部)10と、各回のOCTの画像から得られるOCT信号強度の時間変化を計測する計測手段(計測部)22と、時間変化に基づいて、試料Smとする生体組織の活動を定量評価する評価手段(評価部)24と、を備えた生体組織の評価装置20を用い、次の手順に沿って、生体組織が有している微小な揺らぎを可視化するとともに、定量的に評価するものである(
図8参照)。
【0033】
まず、撮影手段10は、生体組織の同じ位置において、同じ部位に対し、所定期間内(例えば、1~15分、典型的には3分以内)に複数回(数回から数百回=数フレームから数百フレーム)、好ましくは10フレーム以上、より好ましくは15フレーム以上、OCT(光干渉断層)撮影(計測)を行う。1回のOCT撮影に係る所定期間(観測期間)は、隣接する観測期間までの観測期間間隔よりも短く、かつ、その時点におけるOCT撮影により得られるOCT信号に表れる試料の動的特性の評価に要求される精度を確保できる期間であればよい。より具体的には、試料の動的特性の周波数成分が、観測期間に対応する最低周波数からフレーム間隔に対応する最高周波数までの周波数帯域に含まれるように、フレーム間隔との間で観測期間を定めておけばよい。また、観測期間間隔は、試料とする生体組織の活動状態の大局的な変化傾向の評価に要求される精度を確保できる期間であればよい。例えば、母体から試料とする生体組織が母体から切り離され細胞死に至るまでの一連の過程(アポトーシス(apoptosis))や、母体において試料とする生体組織に原因が発生してから細胞死に要する一連の過程(壊死(necrosis))などの所要時間よりも十分に短い時間を観測期間間隔として定めておけばよい。試料全体の特性を知る観点から、同じOCT撮影を、他の部位に対しても行うことが好ましい。
【0034】
次に、計測手段22と、評価手段24は、各回のOCTの画像から得られるOCT信号強度の時間変化に基づいて、生体組織の活動を定量評価する。定量評価の具体的な方法としては、例えば、スペックルバリアンス(SV: Speckle Variance)、OCT相関の減衰速度(OCDS:OCT Correlation Decay Speed)等の算出、ひいては算出結果の評価が挙げられる。
【0035】
スペックルバリアンスは、短時間でのOCT信号強度の分散(揺らぎ)を示すものであり、下記(1)式を用いて算出することができる。
【0036】
【0037】
上記(1)式において、x,zは、それぞれ生体組織の表面内、表面から深さ方向の位置を示し、I(x,z,ti)は、線形スケールもしくは対数スケール等で表示された各位置、各時刻におけるOCT信号強度を示し、<I>は平均のOCT信号強度を示し、Nは、所定期間内におけるOCT信号のフレーム数を示している。x,zは、OCT画像をなす個々の画素に対応する観測点の位置に相当する。
【0038】
より詳細には、まず、計測手段22は、各フレームの時刻t1,t2,・・・tNにおいて、観測点(x,z)ごとに、それぞれOCT信号強度I(x,z,t1)、I(x,z,t2)、・・・I(x,z,tN)を測定する。続いて、評価手段24は、N回分のOCT信号強度の平均<I>を算出する。続いて、評価手段24は、各回のOCT信号強度と平均<I>との差を2乗する。すなわち、評価手段24は、[I(x,z,t1)―<I>]2、[I(x,z,t2)―<I>]2、・・・[I(x,z,tN)―<I>]2を算出する。最後に、評価手段24は、これらの和をNで割ることにより、スペックルバリアンスσ2(x,z)を得ることができる。
【0039】
OCT相関の減衰速度は、近接する時刻間(t、t+τ)の相関係数が時間シフト量τの増加に応じて小さくなる速度を示すものであり、下記(2)式を用いて相関係数ρ(x,z,τ)を算出することができる。
【0040】
【0041】
上記(2)式において、x,zは、それぞれ生体組織の表面内、表面から深さ方向の位置を示し、σcov
2(x,z,τ)、σI
2(x,z)は、それぞれ、OCT信号強度I(x、z、t)とI(x、z、t+τ)との共分散、スペックルバリアンス(分散)を示している。OCT信号強度I(x、z、t+τ)は、OCT信号強度I(x、z、t)を、時間シフト量τをもって時間シフトして得られる信号値である。即ち、相関係数ρ(x,z,τ)は、観測点(x,z)におけるOCT信号の信号値I(x,z,t)の自己相関関数(auto-correlation function)に相当する。
【0042】
より詳細には、評価手段24は、近接する時刻間(t,t+τ)での共分散σcov
2(x,z,τ)として、[I(x,z,t)―<I>]×[I(x,z,t+τ)―<I>]を算出する。続いて、評価手段24は、この共分散σcov
2(x、z、τ)を上記(1)式で算出したスペックルバリアンスσ2(x,z)で割ることにより、相関係数ρ(x,z,τ)を得ることができる。そして、評価手段24は、得られた相関係数ρ(x,z,τ)に対して回帰分析(regression)を行うことにより時間シフト量τの所定の関数に当てはめて、その関数の関数値が相関係数(x,z,τ)により近似するように、その関数のパラメータをOCT相関の減衰速度として得ることができる。所定の関数は、時間シフト量の増加に応じて、その時間シフト量に対して与えられる関数値が減衰する関数、例えば、指数関数であればよい。指数関数が用いられる場合には、そのパラメータである底が減衰速度の指標として得られる。回帰分析の手法として、線形分析が用いられてもよいが、これに限らず、非線形分析が用いられてもよい。
【0043】
以上のように、本実施形態に係る生体組織の評価方法は、生体組織のうち、特定の一部分の画像を短時間に多数回取得し、スペックルバリアンス、OCT相関の減衰速度等を算出することによって、生体組織の活動性を定量評価するものである。これにより、従来は見過ごされていた微小な変化(ゆらぎ)を検出することができ、生体組織のダイナミクスの定量的な評価を実現することができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本実施形態の効果をより明らかなものとする。なお、本実施形態は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0045】
(比較例1)
人がん組織由来の細胞を球状に培養した腫瘍凝集体サンプルに対して、4時間おきに、従来のOCT撮影を行った。
【0046】
(実施例1)
比較例1と同様の腫瘍凝集体サンプルに対して、一例として、2時間おきに、13ms間隔で100回の高速OCT撮影を行った。観測期間間隔を2時間としたのは、試料とする腫瘍凝集体組織が生体から取り出してから死に至るまでの期間(典型的には、1~3日程度)における活動状態の変化傾向を捉えるために十分なためである。また、1回の観測期間を13ms間隔で100回、即ち、1.3秒としたのは、この観測期間が観測期間間隔よりも十分に短く、組織を構成する細胞の運動もしくは細胞内の活動(例えば、数Hz~20Hz)に応じた光学的特性の時間変化を把握するのに十分なためである。続いて、各回のOCTの画像から得られるOCT信号強度の時間変化に基づいて、スペックルバリアンスを算出した。
【0047】
(実施例2)
比較例1と同様の腫瘍凝集体サンプルに対して、実施例1と同様の高速OCT撮影を行った。続いて、各回のOCTの画像から得られるOCT信号強度の時間変化に基づいて、OCT相関の減衰速度を算出した。
【0048】
(実施例3)
比較例1と同様の腫瘍凝集体サンプルに対して、実施例1と同様の高速OCT撮影を行った。続いて、各回のOCTの画像から得られるOCT信号強度に基づいて、深さ方向に対するOCT信号強度の減衰係数(AC:Attenuation Coefficient)を算出した。
【0049】
図2は、比較例1、実施例1、2の方法を適用して得られた腫瘍凝集体サンプルの画像である。上段、中段、下段の画像が、それぞれ比較例1、実施例1、2に対応している。0hr、8hr、28hrとの数値は、それぞれ人体から切り出され培養を開始した時点からの経過時間を示す。比較例1の画像では、腫瘍凝集体サンプルの状態に、時間経過による変化は見られない。これに対し、実施例1、2の画像では、初期の段階で中心に暗い部分があり、その周囲に明るい部分あるが、時間経過により、明るい部分が暗く変わってゆく様子が見られる。暗い部分が死んでいる状態を表し、明るい部分が生きている状態を表していると考えられるため、これらの画像の変化から、腫瘍凝集体サンプルの生死状態について確認することができる。
【0050】
図3A、
図3Bは、それぞれ
図2の実施例1、2の画像に示すサンプルから個々の観測期間について算出されたスペックルバリアンス、OCT相関の減衰速度の経時変化を示す図である。
図3Cは、実施例3の方法を適用して得られるOCT信号強度の減衰係数を示す図である。
図3A、
図3B、
図3Cの横軸は、いずれも腫瘍凝集体サンプルを切り出してからの経過時間を示しており、縦軸は、それぞれ、腫瘍凝集体サンプル全体でのスペックルバリアンス、OCT相関の減衰速度、OCT信号強度の減衰係数の平均値を示している。いずれの図においても、時間経過とともに、それぞれの平均値の減少傾向が見られる。これら3つの図の比較から、OCT相関の減衰速度の傾きが大きいため、腫瘍サンプル定量評価する上で最も適していると考えられる。そして、スペックルバリアンスに対する傾きの大きさが次に大きく、従来提案されたOCT信号強度の減衰係数に対する傾きよりも有意に大きい。なお、A.U.とは、任意単位(arbitrary unit)を示す。
【0051】
なお、複数回の前記OCTの画像のうち1回目のものは、それ以降のサンプルとの相関係数の減衰傾向を正しく反映せず、その減衰傾向から推定される推定値と有意差を生ずるため、定量評価においては、時間シフト量τがゼロとなる場合における相関係数を除外し、ゼロ以外となる非零の時間シフト量τに対する相関係数を用いてOCT相関の減衰速度を算出することが好ましい。
【0052】
図4A、
図4Bは、それぞれ実施例1、2の方法を適用した生体組織の生死状態を示す図である。
図4A、
図4Bの横軸は、いずれも経過時間を示しており、縦軸は、生きている細胞または死んでいる細胞の含有率を示している。生死の境界について、実施例1(SV)では3.0とし、実施例2(OCDS)では5×10
-4ms
-1とした。いずれのグラフにおいても、時間経過とともに、生きている状態の細胞が減少し、死んでいる細胞が増加する傾向が見られる。
【0053】
(比較例2)
生体組織の一部として切り出した、ネズミの肝臓サンプルに対して、1時間おきに、従来のOCT撮影を行った。
【0054】
(実施例4)
比較例2と同様の肝臓サンプルに対して、1時間おきに、10ms間隔で100回の高速OCT撮影を行った。続いて、各回のOCTの画像から得られるOCT信号強度の時間変化に基づいて、スペックルバリアンスを算出した。
【0055】
(実施例5)
比較例2と同様の肝臓サンプルに対して、実施例4と同様の高速OCT撮影を行った。続いて、各回のOCTの画像から得られるOCT信号強度の時間変化に基づいて、OCT相関の減衰速度を算出した。
【0056】
(実施例6)
比較例2と同様の肝臓サンプルに対して、実施例4と同様の高速OCT撮影を行った。続いて、各回のOCTの画像から得られるOCT信号強度に基づいて、深さ方向に対するOCT信号強度の減衰係数(AC)を算出した。
【0057】
図5は、比較例2、実施例4、5の方法を適用して得られた肝臓サンプルの画像である。上段、中段、下段の画像が、それぞれ比較例2、実施例4、5に対応している。0hr、8hr、16hrなどの数値は、それぞれ母体とするネズミから切り出された時点からの経過時間を示す。比較例2の画像では、肝臓サンプルの状態に、時間経過による変化は見られない。これに対し、実施例4、5の画像では、初期の段階で下側に暗い部分があり、上側に明るい部分あるが、時間経過により、明るい部分が暗く変わってゆく様子が見られる。暗い部分が死んでいる状態を表し、明るい部分が生きている状態を表していると考えられるため、これらの画像の変化から、肝臓サンプルの生死状態について確認することができる。
【0058】
図6A、
図6Bは、それぞれ実施例4、5の画像に示すサンプルから個々の観測期間について算出されたスペックルバリアンス、OCT相関の減衰速度を示す図である。
図6Cは、実施例6の方法を適用して得られたOCT信号強度の減衰係数を示す図である。
図6A、
図6B、
図6Cの横軸は、いずれも肝臓サンプルを切り出してからの経過時間を示しており、縦軸は、それぞれ、肝臓サンプル全体でのスペックルバリアンス、OCT相関の減衰速度、減衰係数の平均値を示している。いずれの図においても、時間経過とともに、それぞれの平均値について、傾きが異なる二段階の減少傾向が見られる。これら3つの図の比較から、OCT相関の減衰速度の傾きが大きいため、腫瘍サンプル定量評価する上で最も適していると考えられる。そして、スペックルバリアンスに対する傾きの大きさが次に大きく、従来提案されたOCT信号強度の減衰係数に対する傾きよりも有意に大きい。
【0059】
なお、複数回の前記OCTの画像のうち1回目のものは、それ以降のサンプルとの相関係数の減衰傾向を正しく反映せず、その減衰傾向から推定される推定値と有意差を生ずるため、定量評価においては、τがゼロとなる場合を除外して、OCT相関の減衰速度を算出することが好ましい。
【0060】
図7A、
図7Bは、それぞれ実施例4、5の方法を適用した生体組織の生死状態を示す図である。
図7A、
図7Bの横軸は、いずれも経過時間を示しており、縦軸は、生きている細胞または死んでいる細胞の含有率を示している。生死の境界について、実施例4(SV)では3.0とし、実施例5(OCDS)では5×10
-4ms
-1とした。いずれのグラフにおいても、時間経過とともに、生きている状態の細胞が減少し、死んでいる細胞が増加する傾向が見られる。このように、本実施形態によれば各観測期間においてスペックルバリアンス(SV)、OCT相関(OCDS)の減衰速度などの時間変動特性値を算出して、これらをより長期間にわたり観測をすることで細胞の生死に関するダイナミクスを観察することができる。
【0061】
<第2の実施形態>
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
上記のダイナミックOCTと呼ばれる解析手法によれば、細胞など生体組織をなす内因性散乱因子の局所的活動を表現可能とする。しかしながら、非特許文献1に記載の手法では、表現される局所的活動の定量性に乏しいため、生体の活性を正しく評価することが困難なことがあった。
他方、糖尿病研究、循環器研究などの応用面では、微小血管、リンパ管、心筋など特定の組織に特異性を有する可視化するための手法としてダイナミクスイメージングの応用が期待されている。生体組織の活性を定量的に評価するために、生体組織の同じ位置において、複数回のOCT計測を行い、各回の計測により得られるOCT信号強度の時間変化を解析することも考えられる。しかしながら、組織内のあらゆる微小な動きがOCT信号の時間変化に反映されるため、単に信号強度の時間変化を解析するだけでは、特定の組織に対する活性を定量的に評価することができないことがあった。本実施形態は、この点に鑑みて提案されたものである。
【0062】
図9は、本実施形態に係るOCTシステム1の一例を示す構成図である。OCTシステム1は、PS-OCTを構成する。PS-OCTは、試料Smに対して偏光状態が既知である入射光を照射し、試料Smから反射した反射光と参照光とを干渉させた干渉光を取得するための光学系を備える。また、OCTシステム1は、光学系により取得された干渉光の偏光状態から、試料Smにおける偏光状態の変化特性を解析する計測信号処理装置200を備える。計測信号処理装置200は、OCT信号を用いて試料Smとする生体組織の状態を解析する評価装置として機能する。計測信号処理装置200は、解析した変化特性を可視化した画像を生成する。
【0063】
試料Smとする観測対象の物体は、主に、人間もしくは動物などの生体の一部である。より具体的には、眼底、血管、歯牙、皮下組織などのいずれであってもよい。これにより、試料Sm内部の状態を非侵襲で計測または観測することができる。そのため、生体内組織、例えば、眼底などの微小血管、リンパ管、心筋などの診断への応用が期待されている。
【0064】
図9に例示されるOCTシステム1は、光源102で発生する光の波長を掃引してスペクトル干渉信号を得るための波長掃引型OCT(SS-OCT:Swept Source-OCT)を応用した観測システムをなす。OCTシステム1は、光源102から出射される光をプローブアーム(後述)と参照アーム130に分岐して入射させる。OCTシステム1は、プローブアームに分岐した光を水平偏光成分と、垂直偏光成分に分離し、相互間で光路長が異なる偏光成分を含む光を計測対象の試料Smに走査(B-スキャン)しながら照射し、試料Smから反射した反射光(物体光)を取得する。OCTシステム1は、参照アーム130に分岐した参照光と試料Smから反射、散乱または、その両者により得られた成分である反射光を干渉させて干渉光を取得する。なお、本願では、試料Smに対して光が照射される方向を深さ方向とする。試料Smの深さ方向への観測点の走査による計測信号の取得は、A-スキャンと呼ばれる。SS-OCTでは、波長掃引光源を用いることでA-スキャンが実現される。B-スキャンとは、試料Smの深さ方向に垂直な方向への走査を指す。
【0065】
OCTシステム1は、光源102、カプラー104、偏光遅延ユニット110、サーキュレータ120、プローブ128、参照アーム130、偏光分離検出ユニット150、光検出器190および計測信号処理装置200を備える。光源102、カプラー104、偏光遅延ユニット110、サーキュレータ120、プローブ128、偏光分離検出ユニット150および光検出器190は、それぞれ光学系を構成する構成要素である。光学系の構成要素間は光路として光ファイバを用いて結合されている。
【0066】
光源102は、周期的に所定の波長幅(例えば、40~120nm)内で掃引する波長を有する光を発生させる波長掃引光源(Wavelength Swept Source)である。光源102は、例えば、SLD(スーパールミネセントダイオード;Superluminescent Diode)など近赤外の波長(例えば、1000~1400nm)を有する。光源102が発生させた光は、カプラー104に入射する。
【0067】
カプラー104は、光源102から入射される光を所定の強度比でプローブアームと参照アーム130の2系統に分離する。プローブアームへの光強度と参照アーム130への光強度の比は、例えば、90%:10%である。プローブアームに供給された光は偏光分離検出ユニット(PDDU:Polarization Diversity Detection Unit)150に供給される。プローブアームは、ファイバコリメータ106、偏光制御器108、偏光遅延ユニット(PDU:Polarization Delay Unit)110、サーキュレータ120、ファイバコリメータ122、偏光制御器124、対物レンズ126およびプローブ128がその順序で接続されてなる経路である。プローブアームは、サンプルアームまたは測定アームとも呼ばれる。プローブアームに供給される光は、ファイバコリメータ106、偏光制御器108を経由して偏光遅延ユニット110に入射される。他方の系統の光は、参照アーム130を経由してPPDU150に入射される。なお、偏光制御器108は、入射光の強度を所定の十分な強度に増幅し、増幅した光を出射する。
【0068】
PDU110は、直線偏光器(Linear Polarizer)112、偏光ビームスプリッタ(PBS:Polarization Beam Splitter)114および2個の直角プリズム(RAP:Right Angle Prism)116、118を備える。PDU110は、入射光を相互に直交する2つの偏光状態を有する成分として水平偏光成分と垂直偏光成分に分離し、分離された各成分を合波して得られる光をサーキュレータ120に供給する。
【0069】
直線偏光器112は、カプラー104から入射される光の偏光状態を直線偏光に変換し、変換した光をPBS114に出射する。出射される光の水平偏光成分と垂直偏光成分を等しくするため、直線偏光器112の偏光角度を45°と設定されている。PBS114は、その表面が入射角を45°とする方向に配置された反射層を有し、直線偏光器112から反射層に入射される入射光のうち垂直偏光成分が透過光として透過し、反射層の表面を水平偏光成分が反射光として反射する。PBS114からの水平偏光成分を含む反射光、垂直偏光成分を含む透過光は、それぞれRAP116、118に入射される。他方、PBS114の反射層は、RAP116から反射層に入射される水平偏光成分を含む入射光を透過した透過光と、PBS118から入射される垂直偏光成分を含む入射光に対する反射光を合波し、合波された光をサーキュレータ120に出射する。
【0070】
RAP116、118は、それぞれ光路に平行な断面が直角二等辺三角形となる形状を有し、直角二等辺三角形の底辺がPBS114からの光路に直交する向きに配置される。PBS114から入射される光は、直角二等辺三角形の底辺に平行な側面を透過し、底辺に向かい合う2つの辺のうちの一辺に平行な側面で反射され、その反射光を他方の辺に平行な側面で反射されて底辺に平行な側面に戻り、その側面を透過してPBS114に入射される。なお、PBS114とRAP116との光路長と、PBS114とRAP118との光路長が有意に異なるようにRAP118の位置を予め調整しておく。これにより、PBS114から試料Smに入射される水平偏光成分と垂直偏光成分が、相互間で所定の位相差をもって重畳して出射される。
【0071】
サーキュレータ120は、PDU110から入射される光をファイバコリメータ122および偏光制御器124を経由して対物レンズ126に出射する。対物レンズ126は、自部に入射される光を集光し、プローブ128を経由して試料Smに照射する。試料Smから反射、散乱、または、その両者により取得された光はプローブ128を経由して対物レンズ126で平行光に変換され計測ビームとして偏光制御器124およびファイバコリメータ122を経由してサーキュレータ120に戻り、PPDU150に入射される。
【0072】
参照アーム130は、ファイバコリメータ132、ファイバブラッググレーティング(FBG:Fiber Bragg Grating)134、ファイバコリメータ136、ディレイライン(Delay Line)138、ファイバコリメータ140および偏光制御器142がその順序で接続されてなる経路である。
【0073】
FBG134は、入射される光のうち特定の波長の成分を反射光として反射し、それ以外の残りの成分を透過して透過光としてファイバコリメータ136を経由してディレイライン138に入射される。FBG134からの反射光は、ファイバコリメータ132を経由してカプラー104に戻り、カプラー104から光検出器190に入射される。FBG134から反射される成分の帯域は、光源102で生成される光の帯域よりも十分に狭い。光検出器190は、FBG136からの反射光の強度を検出し、検出した強度を示す強度信号をトリガ信号として計測信号処理装置200に出力する。トリガ信号は、A-スキャンのトリガとして用いられる。光源102で生成される光の波長が所定の波長幅の範囲内で周期的に変化するが、波長が所定の波長となるタイミングが光検出器190で検出され、そのタイミングでA-スキャンが光学系制御部212でリセットされる。光検出器190には、例えば、その波長幅の下限を検出対象の波長として予め設定しておく。SS-OCTでは、観測目標とする観測点の深度がプローブ光の波長により定まるためである。
【0074】
ディレイライン138は、FBG134から入射される入射光を遅延させ、遅延させた光をファイバコリメータ140および偏光制御器142を経由してPPDU150に出射する。ディレイライン138は、入射光に対する遅延量を可変とし、プローブアームの光路長と参照アーム130の光路長が等しくなるように遅延量を調整させておく。なお、偏光制御器142は、入射光の強度を所定の強度に調整し、強度が調整された光を出射する。
【0075】
PPDU150は、直線偏光器152、非偏光ビームスプリッタ(NPBS:Non-Polarization Beam Splitter)154、2個のPBS156、158、4個の受光器162、164、166、168および2個のバランス偏光検出器(BPD:Balanced Polarization Detector)170、172を備える。
【0076】
直線偏光器152は、参照アーム130から入射される光の偏光状態を直線偏光に変換し、変換した光をNPBS154に出射する。直線偏光器152の偏光角度は45°と設定されている。NPBS154は、参照アーム130から直線偏光器152を経由して入射される入射光と、プローブアームから入射される入射光を合波する。NPBS154は、参照アーム130からの入射光、プローブアームからの入射光のそれぞれに対して、その表面が入射角を45°とする方向に配置された反射層を有する。反射層は、参照アーム130からの入射光を透過して得られる透過光と、プローブアームからの入射光を反射して得られる反射光を合波し、合波により得られる干渉光をPBS158に出射する。反射層は、参照アーム130からの入射光を透過して得られる反射光と、プローブアームからの入射光を透過して得られる透過光を合波し、合波により得られる干渉光をPBS156に出射する。
【0077】
PBS156は、NPBS154から入射される干渉光を水平偏波成分と垂直偏波成分に分離し、分離した水平偏波成分と垂直偏波成分をそれぞれ受光器162、166に出射する。受光器162、166は、それぞれPBS156から入射される水平偏波成分、垂直偏波成分を受光し、それぞれ第1水平偏波成分、第1垂直偏波成分としてBPD170、172に導光する。第1水平偏波成分、第1垂直偏波成分は、それぞれ試料Smへ入射される水平偏波成分に基づく干渉光の水平偏波成分、垂直偏波成分に相当する。
【0078】
PBS158は、NPBS154から入射される光を水平偏波成分と垂直偏波成分に分離し、分離した水平偏波成分と垂直偏波成分をそれぞれ受光器164、168に出射する。受光器164、168は、それぞれPBS158から入射される水平偏波成分、垂直偏波成分を受光し、それぞれ第2水平偏波成分、第2垂直偏波成分としてBPD170、172に導光する。第2水平偏波成分、第2垂直偏波成分は、それぞれ試料Smへ入射される垂直偏波成分に基づく干渉光の水平偏波成分、垂直偏波成分に相当する。
【0079】
BPD170は、受光器162、166からそれぞれ導光される第1水平偏波成分、第2水平偏波成分を検出し、検出した第1水平偏波成分、第2水平偏波成分の強度を示すアナログの電気信号である第1水平偏波スペクトル干渉信号、第2水平偏波スペクトル干渉信号に変換する。BPD170は、生成した第1水平偏波スペクトル干渉信号、第2水平偏波スペクトル干渉信号を低域通過フィルタ(LPF:Low Pass Filter)182と高域通過フィルタ(HPF:High Pass Filter)186を経由して計測信号処理装置200に出力する。
【0080】
BPD172は、受光器164、168からそれぞれ導光される第1垂直偏波信号、第2垂直偏波成分を検出し、検出した第1垂直偏波成分、第2垂直偏波成分の強度を示すアナログの電気信号である第1垂直偏波スペクトル干渉信号、第2垂直偏波スペクトル干渉信号に変換する。BPD172は、生成した第1垂直偏波スペクトル干渉信号、第2垂直偏波スペクトル干渉信号をLPF184とHPF188を経由して計測信号処理装置200に出力する。第1水平偏波スペクトル干渉信号、第2水平偏波スペクトル干渉信号、第1垂直偏波スペクトル干渉信号、第2垂直偏波スペクトル干渉信号は、それぞれ各1フレームのOCT画像の生成に用いられ、ジョーンズ行列断層撮影(JM-OCT:Jones Matrix-OCT)を実現可能とする。
【0081】
なお、光源102が発光する光の波長の幅をBPD170、172は、1回のA-スキャンごとに所定のサンプル数(例えば、400~2000サンプル)の信号値を所定のサンプリング周波数でサンプリングする。LPF182、184、HPF186、188は、例えば、それぞれチェビシェフフィルタである。LPF182、184のカットオフ周波数は、例えば、62MHzである。HPF186、188のカットオフ周波数は、例えば、1MHzである。
【0082】
(計測信号処理装置)
次に、本実施形態に係る計測信号処理装置200の構成例について説明する。
図10は、本実施形態に係る計測信号処理装置200の構成例を示すブロック図である。計測信号処理装置200は、PPDU150から入力される第1水平偏波スペクトル干渉信号、第2水平偏波スペクトル干渉信号、第1垂直偏波スペクトル干渉信号および第2垂直偏波スペクトル干渉信号から試料内の観測点における偏光特性をそれぞれ解析し、解析した偏光特性を示す偏光特性値の時間変更特性を解析し、解析した時間変動特性を示す時間変動特性値を定める。計測信号処理装置200は、観測点ごとに定めた時間変動特性値に応じた色または階調を示す信号値に変換し、変換した信号値を観測点に対応する画素ごとに画像データを生成し、生成した画像データを出力してもよい。
【0083】
計測信号処理装置200は、制御部210と、記憶部230と、入出力部240と、表示部250と、操作部260と、を含んで構成される。制御部210の一部または全部の機能は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成されるコンピュータとして実現される。プロセッサは、予め記憶部230に記憶させておいたプログラムを読み出し、読み出したプログラムに記述された指令で指示される処理を行って、その機能を奏する。本願では、プログラムに記述された指令で指示される処理を行うことを、プログラムを実行する、プログラムの実行、などと呼ぶことがある。制御部210の一部または全部は、プロセッサなどの汎用のハードウェアに限られず、LSI(Large Scale Integration)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用のハードウェアを含んで構成されてもよい。
制御部210は、光学系制御部212、計測信号取得部214、偏光解析部216、変動特性解析部218、画像処理部220および出力処理部222を含んで構成される。本実施形態に係る計測信号取得部214と偏光解析部216は、OCT信号を取得し、取得したOCT信号に基づく信号値を試料の観測点ごとに取得する計測部として機能する。変動特性解析部218は、所定期間ごとに、取得された信号値の時間変動特性を示す時間変動特性値を算出する評価部として機能する。
【0084】
光学系制御部212は、プローブの位置を可変にする駆動機構を駆動させ、試料Smの観測点を走査する(B-スキャン)。光学系制御部212は、試料Smの観測点を試料Smの深さ方向(以下、z方向)に交差する所定の方向(例えば、試料Smの深さ方向に直交する正面上のx方向)に走査される。光学系制御部212は、例えば、光検出器190から入力されるトリガ信号が所定の強度以上となるとき、その方向へのプローブ128の位置の移動を示す制御信号を駆動機構に出力する。この移動距離は、予め設定されたx方向の観測点間隔に相当する。また、このとき、光学系制御部212は、基準点からのx方向の観測点数が所定の個数(ライン数)に達するごとに、プローブ128の位置を基準点に戻す。その後、計測信号取得部214は、次のフレームの計測信号を取得する。計測信号の繰り返しにより、時間経過に応じて計測信号がフレームごとに累積される。
図12に示す例では、x方向、z方向、時刻tが、それぞれ右方、下方、右上方に示され、各フレームが個々の長方形で示される。
【0085】
計測信号取得部214には、PPDU150から入出力部240を経由して第1水平偏波スペクトル干渉信号、第2水平偏波スペクトル干渉信号、第1水平偏波スペクトル干渉信号および第2垂直偏波スペクトル干渉信号が計測信号として入力される。計測信号取得部214は、第1水平偏波スペクトル干渉信号、第2水平偏波スペクトル干渉信号、第1垂直偏波スペクトル干渉信号および第2垂直偏波スペクトル干渉信号をそれぞれフーリエ変換し、それぞれの複素振幅を示す第1水平偏波OCT信号、第2水平偏波OCT信号、第1垂直偏波OCT信号および第2垂直偏波OCT信号を観測点ごとに算出する。計測信号取得部214は、算出した第1水平偏波OCT信号、第2水平偏波OCT信号、第1垂直偏波OCT信号および第2垂直偏波OCT信号を偏光解析部216に出力する。
【0086】
偏光解析部216は、計測信号取得部214から入力される第1水平偏波OCT信号、第2水平偏波OCT信号、第1垂直偏波OCT信号および第2垂直偏波OCT信号に基づいて観測点における偏光特性を示す偏光特性値を試料Sm内の観測点ごとに算出する。偏光解析部216は、計測に係る光波の偏光特性を示すジョーンズ行列を構成し、構成したジョーンズ行列から偏光特性を表す指標値として所定の偏光特性値を算出する。
【0087】
ジョーンズ行列は、偏光状態の変化を示す2行2列の行列である。ジョーンズ行列の第1列、第2列には、それぞれ第1ジョーンズベクトル、第2ジョーンズベクトルが配置される。第1ジョーンズベクトル、第2ジョーンズベクトルは、相互に直交する偏光成分を有する入射光を用いて取得される。即ち、第1ジョーンズベクトルは、第1水平偏波OCT信号と第1垂直偏波OCT信号でそれぞれ示される複素振幅を要素として含む2次元のベクトルである。第2ジョーンズベクトルは、第2水平偏波OCT信号と第2垂直偏波OCT信号でそれぞれ示される複素振幅を要素として含む2次元のベクトルである。ジョーンズ行列の各列には入射に係る偏光状態、各行には検出された偏光状態が対応する。偏光解析部216は、算出した観測点ごとの偏光特性値を変動特性解析部218に出力する。なお、本願では、この段階でOCT信号またはその周波数領域の変換係数から直接構成されるジョーンズ行列を計測ジョーンズ行列(Measured Jones Matrix)と呼ぶことがある。
【0088】
変動特性解析部218は、偏光解析部216から入力される偏光特性値について予め設定された所定期間である観測期間における時間変化特性を示す指標値として所定の時間変動特性値を算出する。観測期間は、例えば、フレームレートが60フレーム/秒であるとき、典型的には150-600フレーム程度である。変動特性解析部218は、算出した時間変動特性値を画像処理部220に出力する。なお、偏光特性値と時間変動特性値の例については、後述する。
【0089】
画像処理部220は、変動特性解析部218から入力される時間変動特性値を、所定の関数を用いて画素ごとのビット深度で表現可能な所定の値域内の画素値に変換する。画像処理部220は、例えば、時間変動特性値に対するシグモイド関数(Sigmoid Function)の関数値に所定の倍数を乗じて得られる乗算値に所定のオフセット値を加算して画素値を算出する。時間変動特性値を画素値に変換するための関数は、シグモイド関数に限られず、一次関数、対数関数など、入力値に対して得られる関数値が、入力値の増加に対して関数値が単調に増加または減少する関数であれば利用可能である。画像処理部220は、観測点ごとに変換した画素値を示す出力画像データを生成し、生成した出力画像データを表示部250に出力する。
画像処理部220は、出力処理部222から入力される制御信号に応じて出力画像データを記憶部230に記憶してもよい。
【0090】
出力処理部222は、操作部260から入力される操作信号に基づいて表示画像を示す出力画像データの生成または出力を制御する。操作信号により、例えば、表示画像の表示または記憶の要否、観測対象領域などがパラメータとして指示される。制御部210が、複数の種別の時間変動特性値を算出する能力を有する場合には、それらの複数の種別の時間変動特性値のうち、算出もしくは表示対象の種別が操作信号により指示されてもよい。出力処理部222は、操作により設定可能とするパラメータ、パラメータの設定、設定可能とするパラメータを案内するための設定画面を表示部に表示させ、画像の表示に係るユーザインタフェースを構成してもよい。
【0091】
例えば、表示画像の表示の要否を示す操作信号が入力されるとき、出力処理部222は、その表示の要否を示す制御信号を画像処理部220に出力する。画像処理部220は、出力処理部222から表示要を示す制御信号が入力されるとき出力画像データを表示部に出力し、出力処理部222から表示否を示す制御信号が入力されるとき出力画像データを表示部に出力しない。
【0092】
観測対象領域を示す操作信号が入力されるとき、出力処理部222は、その観測対象領域内のx座標またはy座標の範囲を示す制御信号を計測信号取得部214に出力する。計測信号取得部214は、出力処理部222から入力される制御信号で示される範囲でB-スキャンを実行する。観測対象領域は、例えば、試料Smの表面の範囲がパラメータとして定められる。
【0093】
記憶部230は、上記のプログラムの他、制御部210が実行する処理に用いられる各種のデータ、制御部210が取得した各種のデータを記憶する。記憶部230は、例えば、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)などの不揮発性の(非一時的)記憶媒体を含んで構成される。記憶部230は、例えば、RAM(Random Access Memory)、レジスタなどの揮発性の記憶媒体を含んで構成される。
【0094】
入出力部240は、無線または有線で他の機器と各種のデータを入出力可能に接続する。入出力部240は、例えば、入出力インタフェースを備える。入出力部240は、例えば、偏光分離検出ユニット150と光検出器190に接続される。
表示部250は、制御部210から入力される出力画像データに基づく画像を表示する。表示部250は、例えば、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイなどのいずれを備えてもよい。
【0095】
操作部260は、例えば、ボタン、つまみ、ダイヤル、マウス、ジョイスティックなど、ユーザの操作を受け付け、受け付けた操作に応じた操作信号を生成する部材を含んで構成されてもよい。操作部260は、取得した操作信号を制御部210に出力する。操作部260は、他の機器(例えば、リモートコントローラ等の携帯機器)から操作信号を無線または有線で受信する入力インタフェースであってもよい。
【0096】
(OCT信号処理)
次に、本実施形態に係るOCT信号処理の例について説明する。
図11は、本実施形態に係るOCT信号処理の一例を示すフローチャートである。
(ステップS102)計測信号取得部214は、光学系から第1水平偏波スペクトル干渉信号、第2水平偏波スペクトル干渉信号、第1垂直偏波スペクトル干渉信号および第2垂直偏波スペクトル干渉信号を取得し、取得された信号のそれぞれから第1水平偏波OCT信号、第2水平偏波OCT信号、第1垂直偏波OCT信号および第2垂直偏波OCT信号を算出する。
(ステップS104)偏光解析部216は、計測信号取得部214により取得された第1水平偏波OCT信号、第2水平偏波OCT信号、第1垂直偏波OCT信号および第2垂直偏波OCT信号に基づいて観測点ごとにジョーンズ行列を構成する。偏光解析部216は、構成したジョーンズ行列から所定の偏光特性値を算出する。
【0097】
(ステップS106)変動特性解析部218は、予め設定された観測期間における偏光解析部216により算出された変更特性値から所定の時間変動特性値を算出する。
(ステップS108)画像処理部220は、変動特性解析部218で算出された観測点ごとの時間変動特性値を、個々の観測点に対応する画素における画素値に変換する。
(ステップS110)画像処理部220は、変換した画素値を示す出力画像データを表示部250に出力する(画像表示)。よって、表示部250は、観測対象領域における偏光特性を示す時間変動特性値の観測対象領域における分布を可視化する。
【0098】
(偏光特性値、時間変動特性値の例)
次に、偏光特性値と時間変動特性値の例について説明する。偏光解析部216は、偏光特性値として、例えば、位相遅延(Phase Retardation)を算出する。位相遅延は、複屈折(Birefringence)により生ずる通常光線と異常光線との位相差である。即ち、通常光線と異常光線は、試料の光学軸に対して互いに直交する偏光方向を有し、それぞれ異なる速度で試料を透過する。位相遅延のうち表面から試料内の注目する観測点まで累積された位相遅延は累積位相遅延(CPR:Cumulative Phase Retardation)と呼ばれる。偏光解析部216は、(3)式に示すように深さzの観測点に対応する試料表面上の位置におけるジョーンズ行列の逆行列Jm0
-1に深さzの観測点における計測ジョーンズ行列Jmzを乗じて観測点における累積ジョーンズ行列(Cumulative Jones Matrix)Jczを算出する。累積ジョーンズ行列Jczは試料表面から深さzの観測点までの偏光状態の変化を示す。
【0099】
【0100】
偏光解析部216は、累積ジョーンズ行列Jczに対して固有値分解を行って得られる2個の固有値λc1、λc2の位相差arg(λc1λc2
*)をCPRとして算出することができる。なお、arg(…)は、複素数…の偏角を示し、~*は、複素数~の複素共役を示す。
【0101】
なお、偏光解析部216は、偏光特性値の他の例として、局所的な深さ領域における偏光位相遅延である局所位相遅延(LPR:Local Phase Retardation)を算出してもよい。より具体的には、偏光解析部216は、(4)式に示すように深さz1の観測点における累積ジョーンズ行列の逆行列Jcz1
-1に深さz2の観測点における累積ジョーンズ行列を、Jcz2を乗じて得られる深さz1、z2の観測点間における局所ジョーンズ行列Jl12を算出する。局所ジョーンズ行列Jl12は深さz1の観測点から深さz2の観測点までの偏光状態の変化を示す。
【0102】
【0103】
深さz1の観測点から深さz2の観測点までの厚みΔz12は、例えば、操作部260から操作信号で指示される観測対象の組織の厚みであってもよいし、z方向の観測点間距離であってもよい。偏光解析部216は、局所ジョーンズ行列Jl12の2個の固有値λl1、λl2の位相差arg(λl1λl2
*)をLPRとして算出することができる。なお、偏光解析部216は、深さz1の観測点における計測ジョーンズ行列の逆行列Jmz1
-1に深さz2の観測点における計測ジョーンズ行列Jmz2を乗じて深さz1、z2の観測点間における局所ジョーンズ行列Jl12を算出してもよい。
【0104】
また、偏光解析部216は、偏光特性値の他の例として、(5)式に示すように、LPRを2k0Δz12で除算して深さz1、z2の観測点間における複屈折率b12を算出してもよい。但し、k0は、入射光の中心波数を示す。
【0105】
【0106】
変動特性解析部218は、所定の観測期間内における時間変動特性値の例として、偏光特性値の分散を算出する。算出される時間変動特性値は、偏光特性値で示される偏光状態の時間変動の大きさを示す。(6)式において、σl
2(x,z)はLPRの分散を示す。N、φ(x,z,ti)、<φ(x,z)>は、それぞれ所定の観測期間におけるフレーム数、LPR、LPRの時間平均値を示す。(x,z)は観測点のx-z平面内の座標を示す。tiは、第i番目のサンプル時刻を示す。
【0107】
【0108】
式(6)は、LPRの分散を例示するが、変動特性解析部218は、LPRに代えて、CPRの分散または複屈折率の分散を算出してもよい。変動特性解析部218は、これらの分散の平方根を標準偏差として算出してもよい。
【0109】
変動特性解析部218は、時間変動特性値の他の例として、偏光特性値の対数値の分散または標準偏差を算出してもよい。分散または標準偏差を算出する過程で、各時刻の偏光特性値の対数値から時間平均値の対数値が差し引かれるため、偏光特性値に潜在的に乗じられた定数が消去される。従って、実質的な時間変動特性の評価に適用されうる。また、対数値をとることで、スケールが大きく異なる現象同士の比較に適用されうる。(7)式において、logσl
2(x,z)はLPRの対数値の分散を示す。
【0110】
【0111】
(7)式は、LPRの対数値の分散を例にするが、変動特性解析部218は、LPRの対数値の分散に代えて、CPRの対数値の分散または複屈折率の対数値の分散を算出してもよい。変動特性解析部218は、これらの分散の平方根を標準偏差として算出してもよい。
【0112】
変動特性解析部218は、所定の観測期間内における時間変動特性値として、例えば、偏光特性値の動的コントラスト(Dynamic Contrast)を算出してもよい。偏光特性値の動的コントラストは、偏光特性値に対する標準偏差を時間平均値で除算することによって正規化された値に相当する。(8)式において、φdはLPRの動的コントラストを示す。
【0113】
【0114】
(8)式は、LPRの動的コントラストを例にするが、変動特性解析部218は、LPRに代えて、CPRまたは複屈折率の動的コントラストを算出してもよい。動的コントラストを算出する過程では、標準偏差が時間平均値で正規化されるため、動的コントラストは標準偏差よりも実質的な時間変動特性の評価に適用されうる。
【0115】
なお、変動特性解析部218は、時間変動特性値の他の例として、時間偏光均一度(TPU:Temporal Polarization Uniformity)を算出してもよい。
図18を参照しながら、TPUの算出方法について説明する。まず、偏光解析部216は、偏光特性値の他の例として、観測点に係る計測ジョーンズ行列J
mzの部分空間をなす第1ジョーンズベクトルJ
1、第2ジョーンズベクトルJ
2を、それぞれ第1ストークスベクトルS
1、第2ストークスベクトルS
2に変換する(
図18、ステップS122)。(9)式に示すように第1ジョーンズベクトルJ
1、第2ジョーンズベクトルJ
2は、それぞれジョーンズ行列J
mzの第1列の要素、第2列の要素を含んで構成される。
【0116】
【0117】
第1ストークスベクトルS1、第2ストークスベクトルS2は、式(10)に示すように、それぞれ第1ジョーンズベクトルJ1、第2ジョーンズベクトルJ2で示される偏光状態を表現する4次元のベクトルであり、それぞれ第1ジョーンズベクトルJ1、第2ジョーンズベクトルJ2の要素値を含んで構成される。以下の説明では、第1ストークスベクトルS1、第2ストークスベクトルS2のそれぞれをなす各4個の要素値s10~s13、s20~s23を第0~第3ストークスパラメータs10~s13、s20~s23と呼ぶ。
【0118】
【0119】
(10)式に示すように、第0ストークスパラメータs10、s20は、水平方向成分のパワー|g1H|2、|g2H|2と垂直方向成分のパワー|g1V|2、|g2V|2の和、つまり光の全体の強度を示す。第1ストークスパラメータは、水平方向成分のパワー|g1H|2、|g2H|2から垂直方向成分のパワー|g1V|2、|g2V|2の差、つまり、相互に直交する成分間の差を示す。第2ストークスパラメータは、水平方向成分と垂直方向成分の複素共役の積g1Hg1V
*、g2Hg2V
*の実部の2倍、つまり、水平方向成分g1H、g2Hと垂直方向成分g1V、g2Vそれぞれの強度の積|g1H||g1V|、|g2H||g2V|、水平方向成分、と垂直方向成分の位相差δ1、δ2の余弦値cosδ1、cosδ2に2を乗じて得られる値に相当する。第3ストークスパラメータは、水平方向成分と垂直方向成分の複素共役の積g1Hg1V
*、g2Hg2V
*の虚部の2倍、つまり、水平方向成分g1H、g2Hと垂直方向成分g1V、g2Vそれぞれの強度の積|g1H||g1V|、|g2H||g2V|、水平方向成分、と垂直方向成分の位相差δ1、δ2の正弦値sinδ1、sinδ2に2を乗じて得られる値に相当する。
【0120】
変動特性解析部218は、第1ストークスベクトルS
1、第2ストークスベクトルS
2のそれぞれに対して観測期間内における時間平均値<S
1>、<S
2>を算出し、それぞれの要素値である第0~第3ストークスパラメータの和を第0時間平均値<s
10+s
20>、第1時間平均値<s
11+s
21>、第2時間平均値<s
12+s
22>、第3時間平均値<s
13+s
23>として算出する(
図18、ステップS124)。
【0121】
そして、変動特性解析部218は、(11)式に示すように第1時間平均値、第2時間平均値および第3時間平均値に対する二乗和の平方根を、第0時間平均値で除算して得られる値をTPUとして定める(
図18、ステップS126)。TPUは、偏光状態の時間変動が少ないほど小さい値をとる。そのため、試料とする生体組織の活動が活発なほどTPUが小さくなることが期待される。これに対し、CPR、LPRまたは複屈折に対する上記の時間変動特性値は、偏光状態の時間変動が著しいほど大きい値をとる。
【0122】
【0123】
なお、測定ジョーンズ行列には、(12)式に示すようにノイズ成分が含まれる。(12)式において、n1H,n1V,n2H,n2Vは、それぞれ信号成分E1H,E1V,E2H,E2Vに加わるノイズ成分を示す。
【0124】
【0125】
偏光解析部216は、(13)式に示すように第1ストークスベクトルの時間平均値<S1>、第2ストークスベクトルの時間平均値<S>について、それぞれに含まれる要素値の時間平均パワーからノイズ成分の要素値の時間平均パワーを差し引くことによりノイズ成分を補償することができる。ここで、変動特性解析部218は、(11)式において、ノイズ成分の補正前の第1ストークスベクトルの時間平均値<S1>、第2ストークスベクトルの時間平均値<S2>に代え、ノイズ成分の補正後の信号成分に対する第1ストークスベクトルの時間平均値<S1’>、第2ストークスベクトルの時間平均値<S2’>を代入してノイズ成分が除去されたTPUを算出することができる。
【0126】
【0127】
その他、変動特性解析部218は、所定の観測期間内における時間変動特性値として、例えば、観測点において定めたジョーンズ行列のフォンノイマンエントロピー(von Neumann Entropy)を算出してもよい。フォンノイマンエントロピーは、(14)式により定義される。(14)式において、λiは、エルミート行列T(後述)の固有値を示し、個々の固有値λiをそれらの固有値の総和で正規化して正規化固有値λi’が得られる。
【0128】
【0129】
【0130】
(15)式に示すようにLPRの期待値E(R)は個々の固有値に対応する光軸のLPRであるRiの加重平均値となることが知られている。加重平均における個々の光軸のLPRに乗算される重み係数が、その光軸に対応する正規化固有値λi’で与えられる。そのため、正規化固有値λi’を用いて定義されるジョーンズ行列のフォンノイマンエントロピーも偏光状態に係る時間変動特性値の一種とみることができる。ジョーンズ行列のフォンノイマンエントロピーは、次に示す文献に詳しく記載されているが、本実施形態では、偏光特性値としてジョーンズ行列の時間変動による乱雑性(Randomness)を評価する。
【0131】
Masahiro Yamanari et al.: “Estimation of Jones matrix, birefringence and entropy using Cloude-Pottier decomposition in polarization-sensitive optical coherence tomography,” Biomedical Optics EXPRESS Vol. 7, No.9, p.3551-3572, published 1 Sep. 2016
Masahiro Yamanari et al.: “Estimation of Jones matrix, birefringence and entropy using Cloude-Pottier decomposition in polarization-sensitive optical coherence tomography: erratum,” Biomedical Optics EXPRESS Vol. 7, No.11, p.4636-4637, published 1 Nov. 2016
【0132】
偏光解析部216と変動特性解析部218は、次の手順でフォンノイマンエントロピーHを算出することができる。まず、偏光解析部216は、観測点ごとに計測ジョーンズ行列Jmzの2行2列の要素を各行各列の順に並び替えて構成される4次元のベクトル[g1H g2H g1V g2V]Tを目標ベクトルκLとして構成する。この目標ベクトルκLは、計測ジョーンズ行列Jmzと実質的に同じ値を示す。
【0133】
偏光解析部216は、目標ベクトルのエルミート共役κL
+にその目標ベクトルκLを乗じて4行4列の正方行列κLκL
+を算出する。変動特性解析部218は、(16)式に示すように所定期間内における正方行列κLκL
+の時間平均値<κLκL
+>を行列Tとして定める。行列Tは、4行4列の半正定値エルミート行列(Positive Semidefinite Hermitian Matrix)となる。
【0134】
【0135】
そして、変動特性解析部218は、行列Tを対角化し、4個の固有値λi(i=1~4)を算出する。但し、iは、固有値λiの降順に定められるインデックスである。変動特性解析部218は、個々の固有値λiを4個の固有値の総和Σj=1
4λjで除算して正規化固有値λi’を算出する。変動特性解析部218は、(14)式に示すように、正規化固有値λi’とその対数値log(λi’)との積の総和を正負反転して得られる値をフォンノイマンエントロピーHとして算出することができる。フォンノイマンエントロピーは0以上1以下の値をとる。完全にランダムなジョーンズ行列のセットに対しては、フォンノイマンエントロピーHは1となる。但し、(14)式において対数値の底を4とする。
【0136】
なお、変動特性解析部218は、(17)式に示すように、測定ジョーンズ行列に基づいて定めたフォンノイマンエントロピーHmから、ノイズ成分のフォンノイマンエントロピーHnを差し引いて、信号成分のフォンノイマンエントロピーHsを定めてもよい。
【0137】
【0138】
変動特性解析部218は、(18)式に示すように、ノイズ成分のフォンノイマンエントロピーHn(E1,E2)をジョーンズ行列Jmzの部分空間をなす第1ジョーンズベクトルE1、第2ジョーンズベクトルE2のそれぞれに加わる第1ノイズ成分n1のエントロピーである第1ノイズ成分エントロピーH(E1)と第2ノイズ成分n2のエントロピーである第2ノイズ成分エントロピーH(E2)の和に近似することができる。但し、第1ノイズ成分n1と第2ノイズ成分n2は互いに独立と仮定する。
【0139】
【0140】
変動特性解析部218は、(19)式に示すように、第iノイズ成分エントロピーH(Ei)を、第iノイズ成分の第j固有値ζj
(i)とその対数値log(ζj
(i))との総和を正負反転して算出することができる。
【0141】
【0142】
但し、変動特性解析部218は、(20)式に示すように、1に第iジョーンズベクトルのTPUであるP(i)を加算もしくは減算した値に2で除算した値をそれぞれ第1固有値ζ1
(i)、第2固有値ζ2
(i)として算出することができる。
【0143】
【0144】
変動特性解析部218は、(21)式に示すように、第iジョーンズベクトルのTPUであるP(i)を、上記のノイズ成分で補正後の第1ストークスベクトル、第2ストークスベクトルのそれぞれの第1~第3ストークスパラメータの時間平均値の平方和の平方根を第0ストークスパラメータの時間平均値で除算して算出することができる。
【0145】
【0146】
(時間変動特性値の算出例)
次に、上記の時間変動特性値の算出例について説明する。
図13は、複屈折率の分散の空間分布の一例を示す図である。
図13では、生体組織内の観測点ごとの複屈折率の分散を濃淡で示す。観測点は、x-z平面内に分布している。明るい部分ほど複屈折率の分散が大きく、暗い部分ほど複屈折率の分散が小さい。
図13において上方の黒で塗りつぶされている部分は組織外を示す。全体として組織の表面よりも内部の方が複屈折率の分散が大きくなる傾向がある。
【0147】
図14は、複屈折率の分散の空間分布の他の例を示す図である。
図14は、生体組織内の観測点ごとの複屈折率の分散を濃淡で示す。
図15は、観測点ごとの平均局所複屈折率(mean local birefringence)を示す。
図15に示す例では、
図14と同じ生体組織を観測対象としている。但し、
図14に示す例では、
図13とは異なる生体組織を観測対象としている。
図14、
図15ともに周囲よりも明るい部分が生体組織の分布範囲を示す。いずれも、図面の下方において複屈折率または平均局所複屈折率が相対的に高く、図面の左方において複屈折率または平均局所複屈折率が相対的に高い傾向がある。
図16は、複屈折率の分散と平均局所複屈折率との相関性の一例を示す図である。
図16の縦軸、横軸にそれぞれ複屈折率の分散、平均局所複屈折率を示す。
図16は、局所複屈折率と複屈折率の分散との間に有意な相関性があることを示す。相関係数は、0.776となった。このことは、局所複屈折率が高い部分ほど複屈折率の分散が大きい傾向があることを裏付ける。
図17は、複屈折率の分散と対数強度の分散との相関性の一例を示す図である。
図17の縦軸、横軸にそれぞれ複屈折率の分散、対数強度の分散を示す。対数強度は、観測点ごとの信号強度の対数値である。
図17は、局所複屈折率と複屈折率の分散との間に有意な相関性がないことを示す。相関係数は、0.280となった。このことは、対数強度だけでは偏光状態を表現しきれないことを裏付ける。
【0148】
図19は、TPUの空間分布の一例を示す図である。
図19は、生体組織内の観測点ごとのTPUを濃淡で示す。
図19に示す例では、
図13と同じ生体組織を観測対象としている。明るい部分ほどTPUが大きく、暗い部分ほどTPUが小さいことを示す。全体として組織の表面よりも内部においてTPUが小さくなる傾向がある。この傾向は、複屈折率の分散とは逆の傾向を示す。TPUが大きいほど偏光状態の時間変化が少ないことを示すのに対し、複屈折率の分散が大きいほど偏光状態の時間変化が大きいことによる。
【0149】
図20は、複屈折率の分散の時間変化の一例を示す図である。
図21は、TPUの時間変化の他の例を示す図である。
図22は、複屈折率の動的コントラストの時間変化の一例を示す図である。
図23は、対数強度分散の時間変化の一例を示す図である。
図20、
図21、
図22、
図23は、共通の生体組織内の、ある観測点における1時間ごとの複屈折率の分散、TPU、複屈折率、対数強度分散をそれぞれ示す。当該生体組織は時間経過により活動状態が低下する。
【0150】
図20は、時刻0から44時間経過後までは、時間経過により複屈折率の分散が有意に減少する傾向を示すのに対し、45時間経過後から60時間経過後までは複屈折率がほぼ一定となる。
図20は、時刻0から44時間経過後までは、時間経過により複屈折率の分散が有意に減少する傾向を示す。相関係数は、-0.9486となった。これに対し、45時間経過後から60時間経過後までは複屈折率がほぼ一定となった。相関係数は、-0.1711となった。
図21は、時刻0から42時間経過後までは、時間経過によりTPUが有意に増加する傾向を示す。相関係数は、0.9413となった。これに対し、43時間経過後から60時間経過後まではTPUがほぼ一定となった。相関係数は、0.0735となった。
図22は、時間経過により複屈折率の動的コントラストが有意に減少する傾向を示す。相関係数は、-0.905となった。
図20は、時刻0から3時間経過後までは対数強度分散が減少し、4時間経過後から19時間経過後までは対数強度分散が増加し、20時間経過後から42時間経過後までは対数強度分散が減少し、42時間経過後から60時間経過後までは対数強度分散がほぼ一定となった。これらの例は、本実施形態によれば試料内の観測点ごとに偏光特性値の時間変動特性値を計測することができ、計測された時間変動特性値に基づいて生体組織の活動状態を評価することができることを示す。
【0151】
以上に説明したように、上述した実施形態に係る計測信号処理装置200は、試料に第1偏光状態で入射される第1入射成分(例えば、水平偏光成分)に対して試料から反射または散乱した成分に第1入射成分が干渉した第1干渉成分のうち第1偏光状態(例えば、水平偏光)を有する第1計測信号(例えば、第1水平偏波スペクトル干渉信号)、第1干渉成分に対する第2偏光状態(例えば、垂直偏光)を有する第2計測信号(例えば、第2水平偏波スペクトル干渉信号)、試料に第2偏光状態で入射される第2入射成分(例えば、垂直偏光成分)に対して試料から反射または散乱した成分に第1入射成分が干渉した第1干渉成分のうち第1偏光状態を有する第3計測信号(例えば、第1垂直偏波スペクトル干渉信号)、および第2干渉成分に対する第2偏光状態を有する第4計測信号(例えば、第2垂直偏波スペクトル干渉信号)に基づいて、試料内の観測点における偏光特性に基づく偏光特性値を定める偏光解析部216と、偏光特性値の時間変動特性を示す時間変動特性値を定める変動特性解析部218と、を備える。この構成により、試料内の観測点ごとに偏光特性値の時間変動特性値が定まる。偏光特性値の時間変動は組織の活性と有意な相関があるため、観測点ごとに定まった時間変動特性値の分布により組織の活性を定量的に評価することができる。
【0152】
また、偏光解析部216は、第1計測信号、第2計測信号、第3計測信号および第4計測信号に基づいて、観測点ごとにジョーンズ行列を定め、試料内の観測点におけるジョーンズ行列と試料の表面におけるジョーンズ行列から観測点における累積ジョーンズ行列を定め、偏光特性値として、累積ジョーンズ行列の固有値間の位相差であるCPRを定めてもよい。この構成により、試料の表面と観測点の間の偏光成分間の位相差に相当するCPRの時間変動特性値が組織の活性の評価に利用することができる。
【0153】
また、偏光解析部216は、第1計測信号、第2計測信号、第3計測信号、および第4計測信号に基づいて、観測点ごとにジョーンズ行列を定め、試料内の第1観測点におけるジョーンズ行列と試料内の第2観測点におけるジョーンズ行列から第1観測点ならびに第2観測点との間の局所ジョーンズ行列を定め、局所ジョーンズ行列の2個の固有値間の位相差であるLPRを定めてもよい。この構成により、第1観測点と第2観測点の区間に生じる偏光成分間の位相差に相当するLPRの時間変動特性値が組織の活性の評価に利用することができる。そのため、微小な領域ごとに組織の活性を評価することができる。
【0154】
また、偏光解析部216は、局所位相遅延を試料に入射する入射光の波数と、第1観測点と第2観測点の厚みで除算して複屈折率を定めてもよい。そのため、微小な領域ごとに組織の活性を評価することができるとともに、複屈折率を用いることで観測対象とする他の組織または既存の物質との複屈折率の比較が容易となる。
【0155】
変動特性解析部218は、偏光特性値の分散または標準偏差に基づく時間変動特性値を算出してもよい。そのため、偏光特性値の時間変動の大きさが定量的に評価される。
【0156】
変動特性解析部218は、偏光特性値の対数値の分散または標準偏差に基づく時間変動特性値を算出してもよい。分散または標準偏差の算出の過程で、偏光特性値に潜在的に乗じられた定数が消去されるため、偏光特性値の実質的な時間変動が評価される。また、対数値をとることで、観測対象とする他の組織または既存の物質とのスケールの異なる時間変動特性値の比較が容易になる。
【0157】
変動特性解析部218は、偏光特性値の標準偏差を複屈折率の平均値で除算して動的コントラストを算出してもよい。偏光特性値の平均値で除算することで、偏光特性値の標準偏差が正規化されるので、スケールの変化を伴わずに偏光特性値の実質的な時間変動が評価される。
【0158】
偏光解析部216は、偏光特性値として、前記第1計測信号と前記第2計測信号に基づく第1ジョーンズベクトル、および前記第3計測信号と前記第4計測信号に基づく第2ジョーンズベクトルを、それぞれ第1ストークスベクトル、および第2ストークスベクトルに変換し、変動特性解析部218は、時間変動特性値として、第1ストークスベクトルの時間平均値と前記第2ストークスベクトルの時間平均値に基づいてTPUを定めてもよい。この構成によれば、TPUを用いることで観測点における偏光状態の時間経過による一様性が定量化される。TPUは、組織の活性が低いほど大きくなる傾向がある。そのため、観測点ごとに定まったTPUの分布により組織の不活発な状態を定量的に評価することができる。
【0159】
変動特性解析部218は、第1ストークスベクトルからノイズ成分を差し引いた補正後の第1ストークスベクトルの時間平均値と、第2ストークスベクトルからノイズ成分を差し引いた補正後の第2ストークスベクトルの時間平均値に基づいてTPUを定めてもよい。この構成によれば、第1ストークスベクトルと第2ストークスベクトルからノイズ成分が除去され、信号成分が残される。そのため、TPUに対するノイズの影響を抑制して、組織の活性の評価を的確に行うことができる。
【0160】
偏光解析部216は、前記偏光特性値として、前記第1計測信号、前記第2計測信号、前記第3計測信号、および前記第4計測信号から観測点ごとにジョーンズ行列を定め、変動特性解析部218は、前記時間変動特性値として、前記ジョーンズ行列のフォンノイマンエントロピーを算出してもよい。この構成によれば、観測点における偏光状態を示すジョーンズ行列の乱雑性が定量化される。そのため、観測点ごとに定まったフォンノイマンエントロピーの分布により組織の活性を定量的に評価することができる。
【0161】
変動特性解析部218は、前記第1計測信号と前記第2計測信号に基づく第1ジョーンズベクトル、および前記第3計測信号と前記第4計測信号に基づく第2ジョーンズベクトルから、それぞれ変換された第1ストークスベクトルの時間偏光均一度、および第2ストークスベクトルの時間偏光均一度からノイズ成分のエントロピーを算出し、フォンノイマンエントロピーをノイズ成分のエントロピーに基づいて補正してもよい。この構成によれば、フォンノイマンエントロピーからノイズ成分のエントロピーの寄与が補償され、信号成分のフォンノイマンエントロピーが得られる。そのため、フォンノイマンエントロピーに対するノイズの影響を抑制して、組織の活性の評価を的確に行うことができる。
【0162】
計測信号処理装置200は、入力値の変化に対して単調に変化する出力値を与える関数を用いて観測点ごとの時間変動特性値に対する出力値を信号値として有する画像データを生成する画像処理部220を備えてもよい。この構成によれば、観測点ごとの時間変動特性値に対応する輝度または色調の分布を有する画像が得られる。計測信号処理装置200は、時間変動特性値に基づいて試料とする生体組織の活性状態を示す評価値を定める出力処理部222を備えてもよい。かかる評価値は、例えば、活性度が高いほど大きい実数値であればよい。出力処理部222には、例えば、予め評価値と時間変動特性値と関係を示す関数およびそのパラメータを設定しておく。出力処理部222は、その評価値を記憶部230に記憶してもよいし、他の機器に出力してもよい。画像処理部220は、出力処理部222が観測点ごとに算出した評価値を上記のように画素ごとの信号値に変換し、変換した信号値を有する画像データを生成してもよい。そのため、利用者は得られた画像に接することで観測領域における組織の活性を容易に評価することができる。
【0163】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【0164】
例えば、上記の説明では、評価装置20、計測信号処理装置200が、それぞれOCTシステム1の一部である場合を例にしたが、これには限られない。評価装置20、計測信号処理装置200は、それぞれOCTシステム1から独立し、光学系を備えない単一の機器であってもよい。その場合、計測信号処理装置200の制御部210において光学系制御部212が省略されてもよい。同様に、評価装置20には、光学系を制御するための制御手段が省略されてもよい。評価装置20、計測信号取得部214は、それぞれ光学系に限られず、データ蓄積装置、PCなど、他の機器から検出信号と計測信号を無線または有線で、例えば、ネットワークを経由して取得してもよい。
また、計測信号処理装置200は、上記のように入出力部240、表示部250および操作部260のいずれも備えてもよいし、それらの一部または全部が省略されてもよい。また、評価装置20も、入出力部240、表示部250および操作部260に相当する機能構成のいずれも備えてもよいし、それらの一部または全部が省略されてもよい。
また、計測信号処理装置200の制御部210において画像処理部220と出力処理部222の一方または両方が省略されてもよい。画像処理部220が省略される場合、制御部210は、生成した時間変動特性値を示すデータを、データ蓄積装置、PC、他の画像処理装置など、他の機器に無線または有線で、例えば、ネットワークを経由して出力してもよい。また、評価装置20も、画像処理部220と出力処理部222の一方または両方に相当する機能構成のいずれも備えてもよいし、それらの一部または全部が省略されてもよい。出力先とする機器は、画像処理部220と同様の機能、つまり、評価装置20または計測信号処理装置200から入力されるデータに基づいて出力画像データを生成し、生成した出力画像データに基づく画像を表示する機能を有してもよい。評価装置20において、計測信号処理装置200の画像処理部220と出力処理部222の一方または両方に相当する機能構成が省略されてもよい。
また、上述した実施形態における評価装置20もしくは計測信号処理装置200の一部、または全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。評価装置20もしくは計測信号処理装置200の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこれら実施形態及びその変形例に限定されることはない。本発明の主旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能である。
また、本発明は前述した説明によって限定されることはなく、添付の特許請求の範囲によってのみ限定される。
【産業上の利用可能性】
【0165】
上記の実施形態によれば、例えば、再生医療用培養組織、オルガノイドの品質管理、動物実験、培養組織による薬効測定の際の薬効評価、眼底視細胞の遺伝子治療における治療効果評価等において、きわめて有用である。
【符号の説明】
【0166】
1…OCTシステム、10…撮影手段、20…評価装置、22…計測手段、24…評価手段、102…光源、110…偏光遅延ユニット、128…プローブ、130…参照アーム、150…偏光分離検出ユニット、200…計測信号処理装置、210…制御部、212…光学系制御部、214…計測信号取得部、216…偏光解析部、218…変動特性解析部、220…画像処理部、222…出力処理部、230…記憶部、240…入出力部、250…表示部、260…操作部