(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】人工核酸に基づくアフィニティークロマトグラフィー
(51)【国際特許分類】
B01J 20/281 20060101AFI20250206BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20250206BHJP
B01D 15/38 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
B01J20/281 R
G01N30/88 D
B01J20/281 X
B01D15/38
B01J20/22 D ZNA
(21)【出願番号】P 2021574139
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(86)【国際出願番号】 JP2021003166
(87)【国際公開番号】W WO2021153717
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2023-12-05
(31)【優先権主張番号】P 2020015458
(32)【優先日】2020-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505218801
【氏名又は名称】学校法人渡辺学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池田 壽文
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-139754(JP,A)
【文献】特表2004-538479(JP,A)
【文献】特表2003-508763(JP,A)
【文献】DU, Kaifeng et al.,Industrial & Engineering Chemistry Research,2016年,vol.55,pp.499-504
【文献】RUTA, Josephine et al.,Analytical and Bioanalytical Chemistry,2008年,vol.390,pp.1051-1057
【文献】ORUM, Henrik,Current Issues in Molecular Biology,1999年,vol.1, no.2,pp.105-110.
【文献】PELLESTOR, Franck et al.,European Journal of Human Genetics,2004年,vol.12,pp.694-700
【文献】ORUM, H. et al.,BioTechniques,1995年,vol.19, no.3,pp.472-480
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/281-20/292
G01N 30/00-30/96
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体と、前記担体に固定された核酸リガンドとを備えたアフィニティークロマトグラフィー用充填剤であって、第1の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンド、及び第2の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンドが固定された担体を含み、
前記核酸リガンドが、ペプチド核酸(PNA)、ロック核酸(LNA)及びS-オリゴからなる群より選択される少なくとも1つの人工核酸を含み、
前記核酸リガンドが、ペプチド結合、ジスルフィド結合又はリンカーを介した結合により前記担体に固定されている、アフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
【請求項2】
担体と、前記担体に固定された核酸リガンドとを備えたアフィニティークロマトグラフィー用充填剤であって、第1の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンドが固定された第1の担体と、第2の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンドが固定された第2の担体とを含み、
前記核酸リガンドが、ペプチド核酸(PNA)、ロック核酸(LNA)及びS-オリゴからなる群より選択される少なくとも1つの人工核酸を含み、
前記核酸リガンドが、ペプチド結合、ジスルフィド結合又はリンカーを介した結合により前記担体に固定されている、アフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
【請求項3】
前記核酸リガンドがPNAを含む、請求項1又は2に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
【請求項4】
前記核酸リガンドが8~30マーである、請求項1~3のいずれか1項に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
【請求項5】
第1の配列と第2の配列とが標的核酸の異なる領域に対して相補的な配列を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
【請求項6】
第1の配列と第2の配列とが1~3塩基異なる配列を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
【請求項7】
前記リンカーが、SMCC、EMCS、LC-SMCC、SM(PEG)2、SIA、Sulfo-SANPAH、MBS、及びエポキシ樹脂硬化剤からなる群より選択される、請求項1~6のいずれか1項に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
【請求項8】
前記担体の表面に複数のリンカーが固定され、
前記複数のリンカーのうち一部に前記核酸リガンドが結合している、請求項1~7のいずれか1項に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
【請求項9】
前記複数のリンカーのうち前記核酸リガンドが結合していないリンカーにキャッピング剤が結合している、請求項8に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
【請求項10】
前記担体が、樹脂、多孔質粒子、ゲル、及び磁気ビーズからなる群より選択される、請求項1~9のいずれか1項に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤が充填されたアフィニティークロマトグラフィー用カラム。
【請求項12】
加熱手段を備える、請求項11に記載のアフィニティークロマトグラフィー用カラム。
【請求項13】
サンプル中の標的核酸を検出又は同定する方法であって、
サンプルを請求項1~10のいずれか1項に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤が充填されたアフィニティークロマトグラフィー用カラムに導入する工程、
前記アフィニティークロマトグラフィー用カラムからの溶出に基づいて標的核酸を検出又は同定する工程
を含
む、方法。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤を含む、サンプル中の標的核酸を検出するためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工核酸に基づくアフィニティークロマトグラフィー用充填剤、及び該充填剤が充填されたアフィニティークロマトグラフィー用カラムに関する。また本発明は、人工核酸に基づくアフィニティークロマトグラフィー充填剤が充填されたカラムを用いて標的核酸を検出するための方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
目的分子を分離・同定するための技術として、結合親和性(アフィニティー)を利用して目的分子を分離するアフィニティークロマトグラフィーがある。例えば、抗原抗体反応、タンパク質とその受容体との結合、核酸の相補的結合などの結合親和性によって目的分子を分離することが行われている。具体的には、目的分子に特異的に結合するリガンドを固定した担体をアフィニティーカラムに充填し、サンプルをアフィニティーカラムに流す。サンプル中に含まれる目的分子はリガンドに結合する一方、その他の分子はアフィニティーカラム内を素通りするため、目的分子とその他の分子とでアフィニティーカラムからの溶出に差が生じる。その差を利用して、目的分子を分離又は同定することが可能である。
【0003】
一方、人工核酸とは、核酸塩基・糖・リン酸ジエステル部に化学修飾を加えることで水素結合様式や高次構造さらには極性などの物性を変化させた核酸のことである。人工核酸には特定の機能を化学的に導入することができ、天然の核酸にはできないことが可能になる。例えばヌクレアーゼに対する高い耐性機能や微視的な環境に応じた蛍光発光性機能などを有する人工核酸の作製が可能である。そのような人工核酸の例として、ペプチド核酸(PNA)、Locked Nucleic Acid(LNA)、ホスホロチオエート(S-オリゴヌクレオチド、S-オリゴ)、モルフォリノオリゴヌクレオチドなどが知られている。
【0004】
例えば、PNAは、リン酸結合ではなくペプチド結合で骨格が形成されている、核酸に類似した構造をもつ化合物である。PNAはDNAとの優れたハイブリダイゼーション親和性を有し、リン酸基による負電荷の反発がなく、塩濃度の影響を受けず、生物学的安定性及び熱耐性が良好であるなどの特性を有する。
【0005】
従来技術において、人工核酸の一種であるPNAをHisタグで担体に固定し、カラムに充填した報告がある(非特許文献1)。この方法は、PNAを使ったアフィニティークロマトグラフィーの可能性を示すものであるが、具体的なターゲット核酸をどのようにして濃縮精製することができたかという実例までは報告されておらず、このアフィニティークロマトグラフィーを使用して実際にターゲットDNAを精製できるか否かは疑義がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Orum H., Nielsen P.E., Jorgensen M., Larsson C., Stanley C., Koch T. BioTechniques第19巻第3号, 第472-480頁 (1995年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れた核酸親和性や安定性を有するアフィニティーカラムを作製し、それを利用して核酸を検出及び同定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、本発明者は、リガンドとして人工核酸を含む核酸をペプチド結合、ジスルフィド結合又はリンカーを介して担体に結合させることにより、核酸親和性が温度及びpHによる影響を受けず、保存安定性に優れたアフィニティークロマトグラフィー用充填剤を得ることができるという知見を得、本発明を完成するに至った。
【0009】
例えば、本発明は以下の実施形態を包含する:
[1]担体と、前記担体に固定された核酸リガンドとを備えたアフィニティークロマトグラフィー用充填剤であって、
前記核酸リガンドが、ペプチド核酸(PNA)、ロック核酸(LNA)及びS-オリゴからなる群より選択される少なくとも1つの人工核酸を含み、
前記核酸リガンドが、ペプチド結合、ジスルフィド結合又はリンカーを介した結合により前記担体に固定されている、アフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
[2]前記核酸リガンドがPNAを含む、[1]に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
[3]前記核酸リガンドが8~30マーである、[1]又は[2]に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
[4]第1の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンド、及び第2の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンドが固定された担体を含む、[1]~[3]のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
[5]第1の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンドが固定された第1の担体と、第2の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンドが固定された第2の担体とを含む、[1]~[3]のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
[6]第1の配列と第2の配列とが標的核酸の異なる領域に対して相補的な配列を有する、[4]又は[5]に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
[7]第1の配列と第2の配列とが1~3塩基異なる配列を有する、[4]又は[5]に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
[8]前記リンカーが、SMCC、EMCS、LC-SMCC、SM(PEG)2、SIA、Sulfo-SANPAH、MBS、及びエポキシ樹脂硬化剤からなる群より選択される、[1]~[7]のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
[9]前記担体の表面に複数のリンカーが固定され、
前記複数のリンカーのうち一部に前記核酸リガンドが結合している、[1]~[8]のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
[10]前記複数のリンカーのうち前記核酸リガンドが結合していないリンカーにキャッピング剤が結合している、[9]に記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
[11]前記担体が、樹脂、多孔質粒子、ゲル、及び磁気ビーズからなる群より選択される、[1]~[10]のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤。
[12][1]~[11]のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤が充填されたアフィニティークロマトグラフィー用カラム。
[13]加熱手段を備える、[12]に記載のアフィニティークロマトグラフィー用カラム。
[14]サンプル中の標的核酸を検出又は同定する方法であって、
サンプルを[1]~[11]のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤が充填されたアフィニティークロマトグラフィー用カラムに導入する工程、
前記アフィニティークロマトグラフィー用カラムからの溶出に基づいて標的核酸を検出又は同定する工程
を含む方法。
[15]前記アフィニティークロマトグラフィー用充填剤が、標的核酸の一の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンドが固定された担体を含む、[14]に記載の方法。
[16]前記アフィニティークロマトグラフィー用充填剤が、標的核酸の第1の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンド、及び標的核酸の第2の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンドが固定された担体を含む、[14]に記載の方法。
[17]前記アフィニティークロマトグラフィー用充填剤が、標的核酸の第1の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンドが固定された第1の担体と、標的核酸の第2の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンドが固定された第2の担体とを含む、[14]に記載の方法。
[18]第1の配列と第2の配列とが1~3塩基異なる配列を有する、[16]又は[17]に記載の方法。
[19][1]~[11]のいずれかに記載のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤を含む、サンプル中の標的核酸を検出するためのキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、アフィニティークロマトグラフィー用充填剤及びカラムが提供される。本発明のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤及びカラムは、人工核酸に基づくものであるため、核酸親和性及び保存安定性に優れている。そのため、かかるアフィニティークロマトグラフィー用充填剤及びカラムを使用することで、短時間かつ高感度に標的核酸を検出及び同定することが可能である。したがって、本発明は、核酸の検出及び同定、診断薬、分子生物学研究などの分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】Fmoc-PNA12mer-C
10-Cys-NH
2(1)の化学構造を示す。
【
図2】LNA12mer (GacAatGtaGct)-C
6-SH(3)の化学構造を示す。
【
図3】S-オリゴ12mer (GacAatGtaGct)-C
3-SH(4)の化学構造を示す。
【
図4】アフィニティーカラムにリガンドPNA(1)を固定するための合成スキームを示す。
【
図5】アフィニティーカラムにリガンドPNA(2)を固定するための合成スキームを示す。
【
図6】アフィニティーカラムにリガンドPNA(1)及びPNA(2)を固定するための合成スキームを示す。
【
図7】アフィニティーカラムにリガンドLNA(3)を固定するための合成スキームを示す。
【
図8】アフィニティーカラムにリガンドS-オリゴ(4)を固定するための合成スキームを示す。
【
図9】アフィニティーカラムの評価方法の概要を示す。
【
図10】アフィニティーカラムにリガンドを固定する形態のバリエーションの概念図を示す。
【
図11】リガンドPNA(1)を用いたアフィニティーカラムの評価結果を示すグラフである。
【
図12】リガンドPNA(2)を用いたアフィニティーカラムの評価結果を示すグラフである。
【
図13】2種類のリガンドPNA(1)及びPNA(2)がそれぞれ固定されている2種類の担体を含むアフィニティーカラムの評価結果を示すグラフである。
【
図14】2種類のリガンドPNA(1)及びPNA(2)が固定されている担体を含むアフィニティーカラムの評価結果を示すグラフである。
【
図15】塩基ミスマッチを有するDNAに対するアフィニティーカラムの評価の概要及び結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。本願は、2020年1月31日出願の特願2020-015458の優先権を主張するものであり、その全内容を参照により本明細書に援用する。
一態様において、本発明は、担体と、前記担体に固定された核酸リガンドとを備えたアフィニティークロマトグラフィー用充填剤であって、
前記核酸リガンドが、ペプチド核酸(PNA)、ロック核酸(LNA)及びS-オリゴからなる群より選択される少なくとも1つの人工核酸を含み、
前記核酸リガンドが、ペプチド結合、ジスルフィド結合又はリンカーを介した結合により前記担体に固定されている、アフィニティークロマトグラフィー用充填剤に関する。
【0013】
本発明に係るアフィニティークロマトグラフィー用充填剤は、標的核酸と結合するリガンドとして人工核酸を含む核酸が固定された担体を含むものである。人工核酸とは、核酸塩基・糖・リン酸ジエステル部に化学修飾を加えることで水素結合様式や高次構造さらには極性などの物性を変化させた核酸のことである。人工核酸の例を以下に示す。
【化1】
【0014】
LNA(Locked Nucleic Acid)とは核酸の糖部コンホメーションを完全にN型(RNA型)に固定した人工核酸である(下記構造において矢印部分が固定されていることによって完全なN型に固定される)。標的となる一本鎖DNA/RNAとはワトソン・クリック型水素結合を介して強固に二重鎖を形成する。糖部コンホメーションがあらかじめ固定されているためRNAとの二重鎖形成時のエントロピーの損失が大幅に少なくなると考えられる。これによりLNAはこれまでに類を見ないほど安定な二重鎖を形成することが可能となる。
【化2】
【0015】
一般に人工核酸の二重鎖形成能は二重鎖の融解温度(Tm)を測定することで評価される。LNAと標的RNAからなる二重鎖のTm値を詳細に解析したところLNA修飾1か所当たり+4~+6度ものTm値の上昇が認められた(Obika S et al., Tetrahedron Lett, 39:5401-5404, 1998)。
【0016】
また天然のオリゴヌクレオチドに比べて高い酵素耐性能を有している。DNA/RNAハイブリッド二本鎖を形成しているRNAを切断し、一本鎖DNAを生じるリボヌクレアーゼであるRNaseH の活性について試験され、LNAが天然のヌクレオチドに比べて高い酵素耐性を有していることが報告されている(Wahlestedt et al., (2000) PNAS 97, 5633-5638)。また、LNAがギャップマーよりもミックスマーの方がより高い酵素耐性を示していることも知られている。別の人工核酸であるホスホロチオエートも同じような酵素耐性を示していることが分かった。ホスホロチオエート(S-オリゴヌクレオチド又はS-オリゴとも称する)とはヌクレオチド間の結合部位にあるすべてのリン酸基を硫黄化したオリゴDNAのことであり(下記構造)、前述の通り、ヌクレアーゼの耐性を有する(Wahlestedt et al., (2000) PNAS 97, 5633-5638)。
【化3】
【0017】
別の人工核酸はペプチド核酸(PNA)である。PNAは、リン酸結合ではなくペプチド結合で骨格が形成されている、核酸に類似した構造をもつ化合物である。PNAはDNAとの優れたハイブリダイゼーション親和性を有し、リン酸基による負電荷の反発がなく、塩濃度の影響を受けず、生物学的安定性及び熱耐性が良好であるなどの特性を有する。
【0018】
また別の人工核酸はモルフォリノオリゴヌクレオチドである。モルフォリノとは、核酸(RNA、DNA)のリボース又はデオキシリボースの代わりにモルフォリン環を有するオリゴヌクレオチドである。
【0019】
核酸リガンドは、少なくとも1つの人工核酸を含むものであり、全て人工核酸からなるものであってもよいし、一部に人工核酸を含むものであってもよい。一部に人工核酸を含む場合、例えば、数塩基(2塩基、3塩基、4塩基、5塩基など)おきに人工核酸を含んでもよいし、あるいは核酸リガンドの担体に固定化されている端とは反対の端の領域に人工核酸を含むようにしてもよい。
【0020】
核酸リガンドは、アフィニティークロマトグラフィーにおいて単離又は検出の対象となる標的核酸に対して適度なアフィニティーを有するものとする。好ましくは、核酸リガンドは、標的核酸に結合(ハイブリダイズ)する配列を有するもの、例えば、標的核酸の一の配列(標的配列)に対して相補的な配列を有するものである。なお、本明細書において「配列」とは、別に記載しない場合、塩基配列を意味する。
【0021】
一実施形態において、本発明に係るアフィニティークロマトグラフィー用充填剤は、第1の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンド、及び第2の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンドが固定された担体を含む。
【0022】
別の実施形態において、本発明に係るアフィニティークロマトグラフィー用充填剤は、第1の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンドが固定された第1の担体と、第2の配列に対して相補的な配列を有する核酸リガンドが固定された第2の担体とを含む。
【0023】
上記実施形態において、第1の配列及び第2の配列は、同じ標的核酸の異なる領域に対して相補的な配列を有するものであってもよいし、別の標的核酸の領域に対して相補的な配列を有するものであってもよい。具体的な実施形態において、第1の配列及び第2の配列は1~3塩基(例えば、1塩基)異なる配列を有する、すなわち、第1の配列及び第2の配列は、1~3塩基の多型(例えば、1塩基多型)を含む領域に対してそれぞれ相補的な配列を有する。
【0024】
「相補的」又は「相補性」とは、塩基対合する核酸の塩基の対応を指し、アデニン(A)とチミン(U)又はウラシル(U)、グアニン(G)とシトシン(C)との対応である。本明細書では、完全な相補性だけではなく、ある配列に対して部分的な相補性を有することからその配列に結合することができる能力を保持している部分的な相補性も意味する。
【0025】
核酸リガンドの長さは、アフィニティークロマトグラフィーにおいて単離又は検出の対象となる標的核酸に対して適度なアフィニティーを有するように選択される。アフィニティーの保持と合成容易性などを考慮して、核酸リガンドの長さは、一般的に8~30マー、好ましくは10~25マー、より好ましくは10~23マーである。
【0026】
核酸リガンドの設計、すなわち全体の長さ、含まれる人工核酸の種類及び配置などの決定は、当業者であれば、標的核酸の種類及び長さ、目的、使用する溶出液の種類などを考慮して適当に行うことができる。また、核酸リガンドの調製も慣用的な方法により、例えば人工核酸を合成することができる合成装置を使用して、行うことができる。
【0027】
リガンドを固定する担体は、アフィニティークロマトグラフィーにおいて慣用的に使用されている担体を使用することができ、用途、溶出液の種類、溶出量などに応じて、材質及び形態を適宜選択することができる。例えば、多孔質粒子、ゲル、樹脂磁気ビーズなどの形態の担体を使用することができる。加熱、溶出、洗浄などの処理に対して耐性であり、保存安定性に優れた担体を使用することが好ましい。
【0028】
担体へのリガンドの固定は、ペプチド結合、ジスルフィド結合又はリンカーを介した結合により行うことができる。ペプチド結合を利用する場合は、担体の反応末端がカルボン酸になっているところにHATUなどのペプチド縮合剤により活性エステル体とした後でリガンド側の1級アミノ基を反応させることでペプチド結合を得ることが可能である。また、担体の反応末端が1級アミノ基になっている場合は、活性エステル体とした後でリガンド側のカルボン酸をあらかじめ活性エステル化しておいて反応させることでペプチド結合を得ることも可能である。ジスルフィド結合の場合は、担体とリガンドの両方の反応末端がそれぞれSH基になっているものを用いて、酸化反応を介して結合させることが可能である。
【0029】
リンカーを介して担体へリガンドを固定する場合、リンカーは、例えばヘテロクロスリンカー、エポキシ樹脂硬化剤、ホモクロスリンカーなどを使用することができる。ヘテロクロスリンカーとしては、例えば炭化水素母核の両側にN-ヒドロキシスクシンイミドエステルとマレイミドの両方を共有し、それぞれの活性基がアミノ基、スルフヒドリル基の架橋を行う試薬が利用可能であり、具体的にはSMCC(succinimidyl 4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxylate)、EMCS(N-ε-malemidocaproyl-oxysuccinimide ester)、LC-SMCC(succinimidyl 4-(N-maleimidomethyl)cyclohexane-1-carboxy-(6-amidocaproate))、SM(PEG)2(PEGylated SMCC crosslinker)、SIA(succinimidyl iodoacetate)、Sulfo-SANPAH(sulfosuccinimidyl 6-(4'-azido-2'-nitrophenylamino)hexanoate)、MBS(3-Maleimidobenzoic Acid N-Succinimidyl Ester)などが挙げられる。エポキシ樹脂硬化剤もまたヘテロクロスリンカーと同様に、アミノ基又はスルフヒドリル基の架橋を行う試薬として利用可能であり、例えばjERキュア(登録商標)(三菱ケミカル)などが市販されている。ホモクロスリンカーとしては、例えば炭化水素鎖の両末端に同一のN-ヒドロキシスクシンイミドエステル又はイミドエステル又はマレイミドを有し、アミノ基間又はスルフヒドリル基間の架橋を行う試薬が利用可能であり、具体的にはDSG(disuccinimidyl glutarate)、DMP(dimethyl pimelimidate)、BMOE(bismaleimidoethane)などが挙げられる。また別のホモクロスリンカーとして、炭化水素鎖以外にポリエチレングリコール鎖で構成され、アミノ基間又はスルフヒドリル基間の架橋を行う試薬も利用可能であり、具体的にはBS(PEG)5(PEGylated bis(sulfosuccinimidyl)suberate)、BM(PEG)3(1,11-bismaleimido-triethyleneglycol)などを使用することができる。
【0030】
好ましいリンカーの1つであるSMCCは、活性エステル基及びマレイミド基を有するクロスリンカーであり、例えば、担体に結合させたNH2基とSMCCの活性エステル基とを反応させ、リガンドに導入したSH基とSMCCのマレイミド基とを反応させることにより、担体にSMCCを介してリガンドを固定することができる。
【0031】
担体の表面には1つ以上のリンカーを固定することができる。1つのリンカーが固定された担体には、リガンドを1つ固定することができる。一方、担体の表面に複数のリンカーが固定される場合、その複数のリンカーの一部にリガンドが結合していてもよいし、複数のリンカーの全部にリガンドが結合していてもよい。複数のリンカーの一部にリガンドが結合している場合には、リガンドが結合していないリンカーにキャッピング剤を結合させることが好ましい。そのようなキャッピング剤としては、例えば1,4-ジアミノブタン(アミノ基)、H-Arg-NH2・2HCl(グアニジノ基)、5-アミノ吉草酸(カルボキシル基)、アミルアミン(メチル基)、4-フェニルブチルアミン(フェニル基)、及びFmoc-Lys-OH・HCl(アミノ基・カルボキシル基)などが挙げられる。また、担体の表面に複数のリンカーが固定される場合、1種類のリガンド(すなわち同じ配列を有するリガンド)が結合してもよいし、2種類以上のリガンド(すなわち異なる配列を有する複数のリガンド)が結合してもよい。
【0032】
化学反応の容易性、化学構造の安定性、溶解性の向上などを考慮して、核酸リガンド及び/又は担体にスペーサーを導入してもよい。例えば、C3、C6、C10などをスペーサーとして使用することができる。
【0033】
本発明に係るアフィニティークロマトグラフィー用充填剤は、リガンドへの人工核酸の導入により、優れた結合親和性で標的核酸と結合することができ、また塩濃度の影響を受けず、生物学的安定性(ヌクレアーゼ及びプロテアーゼに対する分解耐性)及び熱安定性に優れるものである。また、繰り返し使用することができ、低コストの利点がある。
【0034】
別の態様において、本発明は、上記のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤が充填されたアフィニティークロマトグラフィー用カラムに関する。アフィニティークロマトグラフィー用のカラムは、アフィニティークロマトグラフィーにおいて慣用的に使用されているものであれば特に限定されるものではない。アフィニティークロマトグラフィー用のカラムは様々な種類が市販されており、当業者であれば、用途、溶出液の種類、溶出量、使用する機器などに応じて、材質、形態及び容積を適宜選択することができる。
【0035】
本発明に係るアフィニティークロマトグラフィー用カラムは、加熱手段をさらに備えてもよい。加熱手段は、カラムと一体的に存在するものであってもよいし、カラムから取り外し可能なものであってもよい。また加熱手段は、カラムの全体を加熱するものであってもよいし、一部を加熱するものであってもよい。本発明に係るアフィニティークロマトグラフィー用充填剤に使用される核酸リガンドは、加熱手段により加熱に対しても熱変性することなく使用することが可能である。
【0036】
さらなる態様において、本発明は、サンプル中の標的核酸を検出又は同定する方法であって、
サンプルを上記のアフィニティークロマトグラフィー用充填剤が充填されたアフィニティークロマトグラフィー用カラムに導入する工程、
前記アフィニティークロマトグラフィー用カラムからの溶出に基づいて標的核酸を検出又は同定する工程
を含む方法に関する。
【0037】
本発明に係るアフィニティークロマトグラフィー用充填剤に使用される核酸リガンドは、標的核酸と結合することができる。この結合親和性を利用して、サンプルを充填剤が充填されたアフィニティークロマトグラフィー用カラムに導入した場合、標的核酸は核酸リガンドに結合する一方、他の分子は素通りすることから、カラムからの溶出を調べることで、サンプル中の標的核酸を検出又は同定することができる。
【0038】
サンプルは、標的核酸について検出又は同定しようとするサンプルであれば特に限定されるものではない。例えば生体液サンプル(血液、血清、血漿、尿等)、組織又は細胞サンプル、環境サンプル(土壌、河川等)が挙げられる。血液サンプルの場合、採血後は氷冷又は冷蔵保存することが好ましい。また、血漿を使用する場合には、抗凝固剤としてEDTAを使用することが好ましいが、ヘパリン、クエン酸ナトリウムなど当該分野で公知又は汎用されているものを使用することができる。
【0039】
本発明において、「サンプル中の標的核酸の検出又は同定」とは、サンプル中に標的核酸が存在するか否かを決定すること、並びにサンプル中の標的核酸の量又は濃度を測定することを意味する。
【0040】
本発明に係る方法では、サンプルを本発明に係るアフィニティークロマトグラフィー用充填剤が充填されたアフィニティークロマトグラフィー用カラムに導入する。サンプルのカラムへの導入は、特に限定されるものではない。例えば、サンプルをそのまま又は適当な溶液若しくは緩衝液で希釈して、自然落下により又はシリンジを使用してカラムに導入することができる。
【0041】
続いて、アフィニティークロマトグラフィー用カラムからのサンプルの溶出を調べ、その溶出する画分に応じて標的核酸を検出又は同定する。サンプルの溶出は、例えば液体クロマトグラフィー/質量分析法(LC/MS)などの当技術分野で公知の方法又は装置を使用して調べることができる。カラムに固定されているリガンド核酸が有する配列と相補的な配列を有する標的核酸がサンプルに含まれる場合には、その標的核酸はリガンド核酸と結合して溶出が遅くなる。そのため、そのような溶出の特徴を基に標的核酸を検出又は同定することが可能である。また、リガンド核酸は、塩基ミスマッチを区別して結合する。例えば、リガンド核酸は、1~3塩基のミスマッチ、好ましくは1~2塩基のミスマッチ、特には1塩基ミスマッチを区別し得る。そのため、本発明に係る方法は、塩基ミスマッチを有する標的核酸の検出にも使用可能である。
【0042】
本発明に係る方法は、サンプルをカラムに導入する前又は導入した後に、サンプルを加熱する工程を含んでもよい。二本鎖核酸は核酸リガンドに結合することができないため、加熱により二本鎖核酸を熱変性させて一本鎖核酸の形態とすることが好ましい。加熱する温度は、二本鎖核酸の融解温度以上、例えば75~100℃とすることができる。
【0043】
他の態様において、本発明は、アフィニティークロマトグラフィー用充填剤を含む、サンプル中の標的核酸を検出するためのキットに関する。本発明に係るキットにより、サンプル中の標的核酸の検出又は同定を容易かつ簡便に行うことができる。本発明に係るキットは、アフィニティークロマトグラフィー用充填剤以外にも標的核酸の検出に有用な他の成分、例えばアフィニティークロマトグラフィー用の溶出剤、対照、説明書などを含んでもよい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例及び図面によりさらに具体的に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0045】
[実施例1]アフィニティーカラム用担体及びカラムの準備
(1)アフィニティーカラム用担体
アフィニティー担体には様々な製品が存在する。ChromSpeedTMCM103(三菱ケミカル)はメタクリル酸系の弱酸性陽イオン交換樹脂であり、抗生物質やアミノ酸の精製等に使用される。用途がバイオ医薬品精製である担体を使用することにより、精密であり純粋な目的物を得ることができるアフィニティーカラムを作製できるのではないかと考え、今回はChromSpeedTMCM103を用いることとした。
【0046】
(2)アフィニティーカラム用カートリッジ
アフィニティー担体を充填するカートリッジには、Sigma-Aldrich社の0.5 mL Empty PP Rev Tube Kitを用いた。これは、任意の充填剤を用いたSPEカートリッジの作製が可能なエンプティーカラムである。また、PNAが高価であるため、なるべくリガンド量を少なくした状態でカートリッジを作製することが課題として存在していたため、株式会社巴製作所のルアー型カートリッジ Type Mini (0.1 mL)も場合により使用した。
【0047】
(3)アフィニティーカラム用担体へのPNA固定化方法
合成したリガンドであるPNAは芳香環にNH2基を有しているため担体にリガンドを固定化させる際にペプチド結合は利用できない。そこで2つ以上の分子を共有結合により化学的に結合することのできる架橋剤を使用することとした。
【0048】
[実施例2]アフィニティーカラム用PNA(リガンド)の合成
図1に示す構造を有するアフィニティーカラム用PNAを合成した。架橋剤(リンカー)はスペーサー部分にシクロヘキサンを有し、活性エステル基及びマレイミド基を有するSMCCを使用した。マレイミド基はSH基と反応し、活性エステル基はNH
2基と特異的に反応する。このSMCCの特徴を活用するためにSH基を有するFmoc-Cys(Mmt)-OHをリガンドに導入する構造にした。また、PNA12merとFmoc-Cys(Mmt)-OHの立体障害を回避するため、スペーサーとしてFmoc-Aund(11)-OH(C10)を導入する構造とした(
図1)。PNA部分の塩基配列はGACAATGTAGCT(配列番号1)とした。
【0049】
Fmoc-PNA12mer-C10-Cysの合成は通常のFmoc固相合成法を用いた。合成には、Biotage社製全自動マイクロウェーブ合成装置Initiator+Alstraを使用した。担体はN-末端がFmoc基で保護されているFmoc-NH-SAL-PEG Resin(0.22 mmol/g)を使用した。PNAの縮合試薬は自動合成装置Initiator+Alstraで推奨されるN,N'-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)とエチルシアノグリオキシレート-2-オキシム(Oxyma)を使用し、PNAモノマー 5当量、DIC 5当量、Oxyma 5当量の割合で用いた。また、Fmoc-Cys(Mmt)-OHとFmoc-Aund(11)-OHの縮合試薬はO-(7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N',N'-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)とN,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)を使用し、Fmoc-Cys(Mmt)-OH 5当量、Fmoc-Aund(11)-OH 5当量、HATU 6.5当量、DIPEA 2.3当量の割合で用いた。これによりFmoc-PNA12mer-C10-Cys-NH2(1)を得た。
【0050】
[実施例3]PNA以外のアフィニティーカラム用人工核酸(リガンド)の設計
(1)LNA(3)の設計
図2に示す構造を有するアフィニティーカラム用LNAを合成した。LNAは株式会社ジーンデザイン社から購入した。LNAの設計にあたって、ギャップマーと比較するとミックスマーである方がより強く酵素耐性を強く示していたので、12mer中で3塩基ごとにLNAを挿入する構造にした(配列GacAatGtaGct(配列番号3)において、大文字が挿入した箇所を示す)。また、固定化の際にPNAと同様の構造をとり、条件統一をとるために3’末端にスペーサー(C6)とチオールを修飾した。
【0051】
(2)S-オリゴ(4)の設計
図3に示す構造を有するアフィニティーカラム用S-オリゴを合成した。ホスホロチオエートを有するS-オリゴはユーロフィン株式会社から購入した。挿入条件を統一するためにLNA同様3塩基ごとにホスホロチオエートを挿入した(配列GacAatGtaGct(配列番号4)において、大文字が挿入した箇所を示す)。また、3’末端にスペーサー(C3)とチオールを修飾した。
【0052】
[実施例4]アフィニティーカラムへのリガンドPNA(1)の固定化
以下に説明するように、アフィニティーカラムChromSpeedTMCM103に実施例2で調製したPNA(1)を固定化した。
【0053】
(1)使用試薬
・ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)
・11-[(9-フルオレニルメトキシカルボニル)アミノ]ウンデカン酸 (Fmoc-Aund(11)-OH)・N,N’-ジメチルホルムアミド (DMF)
・ジクロロメタン (DCM)
・N-メチルピロリドン (NMP)
・O-(7-アザベンゾトリアゾール-1-イル)-1,1,3,3-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート (HATU)
・20% ピペリジン/NMP
・N,N'-ジスクシンイミジルカーボネート(DSC)
・6-[(9-フルオレニルメトキシカルボニル)アミノ]ヘキサン酸(Fmoc-Acp(6)-OH)
・ChromSpeedTMCM103
・ヘキサメチレンジアミン (1,6-ジアミノヘキサン)
・4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサンカルボン酸N-スクシンイミジルエステル (SMCC)
・L-システイン
【0054】
(2)合成スキーム
合成スキームを
図4に示す。ChromSpeed
TMCM103へのPNA(1)の固定化はEYELA製パーソナル有機合成機(CCS-600)を使用した。Fmoc定量法を用いてChromSpeed
TMCM103の単位容積当たりの反応可能なカルボン酸量を確認するため、まずFmoc-Acp(6)-OHを導入した。
【0055】
ChromSpeedTMCM103(5, 約0.08 meq/ml)へのPNA固定化の前準備として、MeOHに浸っている5(2 mL)をDMFで置換し乾燥した。DSC(0.313 g, 1.2 mmol)をDMF(2 mL)に溶解した後でDIPEA(195μL, 1.2 mmol)を加えた反応液を、5に加え、室温で1時間攪拌した。反応終了後、反応液を除去し、再度同濃度のDSC反応液による活性化の操作を行った。反応終了後、反応液を除去し、DMF(2 mL)で洗浄し6を得た。
【0056】
次に1,6-ジアミノヘキサン(0.929 g, 8 mmol)をNMP(1 mL)、DMF(1 mL)により懸濁したあと、6に加え室温で終夜攪拌した。反応終了後で反応液を除去しDMF(2 mL)で1回、MeOH(2 mL)で5回洗浄し7を得た。
【0057】
次にFmoc-Acp(6)-OH(0.141 g, 0.4 mmol)、HATU(0.1977 g, 0.52 mmol)、DIPEA(90μL, 0.52 mmol)をNMP(1.5 mL)に溶解し7へ加え、室温で1時間攪拌した。反応終了後、反応液を除去し、再度同濃度のFmoc-Acp(6)-OH反応液による縮合反応を室温で30分間行った。ニンヒドリン試験で陰性であることを確認した後で反応液を除去し、DMF(2 mL)で2回、DCM(2 mL)で2回、MeOH(2 mL)で2回洗浄し8を得た。
【0058】
次に吸光光度計にてFmoc定量をし、Fmoc-Acp(6)-OHの導入量を算出した。よく乾燥させた固相担体(5~10 mg)に20%ピペリジン/DMF(400μL)を加え室温で30分間攪拌した溶液をDMFで50倍に希釈した溶液をサンプルとし、その301 nmにおける吸光度を測定し、モル吸光係数ε(301 nm)を7800 M-1cm-1としてFmoc基の量を算出したところ、今回のFmoc-Acp(6)-OHの導入量は0.20838 mmol/gであった。
【0059】
20%ピペリジン/DMFで脱Fmoc反応を行い、9を得た。
【0060】
次にSMCC(17.1 mg, 0.051 mmol)をDMF(3 mL)に溶解し9(48.9 mg)へ加え室温で1時間攪拌した。反応終了後、反応液を除去しDMF(2 mL)で洗浄し、過剰なSulfo-SMCCを除去した。その後、DMFでの洗浄を繰り返し1 mLごとの吸光度(280 nm)を測定し、吸光度が完全になくなるまで洗浄を続け、10を得た。
【0061】
次にリガンドであるFmoc-PNA12mer-C10-Cys-NH2(1, 1.94 mg, 0.51μmol)をDMF (500μL), HFIP(100μL)で溶解し10に加え、室温で終夜攪拌をした。反応終了後、反応液を除去しDMF(2 mL)で洗浄し、過剰なFmoc-PNA12mer-C10-Cys-NH2(1)を除去した。その後、DMFでの洗浄を繰り返し1 mLごとの吸光度(260 nm)を測定し、吸光度が完全になくなるまで洗浄を続け、11を得た。吸光光度計にてFmoc定量したところ、10へのFmoc-PNA12mer-C10-Cys-NH2(1)の導入量は0.01532 mmol/gであった。
【0062】
次に、未反応のSMCCを失活させる目的でキャッピング反応を行った。L-システイン(61.8 mg, 0.51 mmol)をNMP(10 mL)に溶解し11に加え、室温で3時間攪拌をした。反応終了後、反応液を除去し、DMF(5 ml)で洗浄し、過剰なL-システインを除去した。
【0063】
最後に20%ピペリジン/DMFを加えて5分間撹拌してFmoc-PNA12mer-C10-Cys-NH2(1)のFmoc基を除去し12を得た。
【0064】
[実施例5]アフィニティーカラムへのリガンドPNA(2)の固定化
以下に説明するように、アフィニティーカラムChromSpeedTMCM103にPNA(2)を固定化した。
【0065】
実施例2と同様の手順で、PNA(1)の塩基配列GACAATGTAGCT(配列番号1)の代わりに塩基配列GAAACCCAGCAG(配列番号2)を有するPNA(2)を合成した。
【0066】
ChromSpeed
TMCM103へのPNA(2)の固定化は、実施例4のPNA(1)の固定化と同様にEYELA製パーソナル有機合成機を使用して実施した(
図5)。即ち、10の合成までは実施例4と同じように実施し、リガンドはFMOC-PNA12MER-C
10-Cys-NH
2(2)に変更した。
【0067】
リガンドであるFmoc-PNA12mer-C10-Cys-NH2(2, 1.93 mg, 0.51μmol)をDMF(600μL), HFIP(200μL)で溶解し10に加え、室温で終夜攪拌をした。反応終了後、反応液を除去しDMF(2 mL)で洗浄し、過剰なFmoc-PNA12mer-C10-Cys-NH2(2)を除去した。その後、DMFでの洗浄を繰り返し1 mLごとの吸光度(260 nm)を測定し、吸光度が完全になくなるまで洗浄を続け、13を得た。吸光光度計にてFmoc定量したところ、10へのFmoc-PNA12mer-C10-Cys-NH2(2)の導入量は0.0113 mmol/gであった。
【0068】
次に、未反応のSMCCを失活させる目的でキャッピング反応を行った。L-システイン(6.18 mg, 0.051 mmol)をNMP(10 mL)に溶解し13に加え、室温で3時間攪拌をした。反応終了後、反応液を除去し、DMF(5 ml)で洗浄し、過剰なL-システインを除去した。
【0069】
最後に20%ピペリジン/DMFを加えて5分間撹拌してFmoc-PNA12mer-C10-Cys-NH2(2)のFmoc基を除去し14を得た。
【0070】
[実施例6]アフィニティーカラムへのリガンドPNA(1)及びPNA(2)の固定化
以下に説明するように、アフィニティーカラムChromSpeedTMCM103にPNA(1)とPNA(2)の混合物(1:1)を固定化した。
【0071】
ChromSpeed
TMCM103へのPNA(1)とPNA(2)の混合物(1:1)の固定化は、実施例4のPNA(1)の固定化と同様にEYELA製パーソナル有機合成機を使用して実施した(
図6)。即ち、10の合成までは実施例4と同じように実施し、リガンドはFmoc-PNA12mer-C
10-Cys-NH
2(1 and 2)混合物に変更した。
【0072】
リガンドである各Fmoc-PNA12mer-C10-Cys-NH2(1, 1.62 mg, 0.85μmol:2, 1.61 mg, 0.85μmol)を混合しDMF(600μL), HFIP(200μL)で溶解し10に加え、室温で終夜攪拌をした。反応終了後、反応液を除去しDMF(2 mL)で洗浄し、過剰なFmoc-PNA12mer-C10-Cys-NH2を除去した。その後、DMFでの洗浄を繰り返し1 mLごとの吸光度(260 nm)を測定し、吸光度が完全になくなるまで洗浄を続け、15を得た。
【0073】
次に、未反応のSMCCを失活させる目的でキャッピング反応を行った。L-システイン(10.4 mg, 0.085 mmol)をNMP(10 mL)に溶解し15に加え、室温で3時間攪拌をした。反応終了後、反応液を除去し、DMF(5 ml)で洗浄し、過剰なL-システインを除去した。
【0074】
最後に20%ピペリジン/DMFを加えて5分間撹拌してFmoc-PNA12mer-C10-Cys-NH2(1 and 2)のFmoc基を除去し16を得た。
【0075】
[実施例7]アフィニティーカラムへのリガンドLNA(3)の固定化
以下に説明するように、アフィニティーカラムChromSpeedTMCM103にLNA(3)を固定化した。
【0076】
ChromSpeed
TMCM103へのLNA(3)の固定化は実施例4のPNA(1)の固定化と同様にして実施した(
図7)。即ち、10の合成までは前述の通りに実施し、リガンドはLNA 12mer L(GacAatGtaGct:配列番号3)-C
6-SH(3)に変更した。
【0077】
LNA(3)をDMSO、TEバッファーにて溶解し、10に加え室温で終夜攪拌した。反応終了後、反応液を徐去しDMSO(2 mL)で洗浄し、過剰なLNA(3)を除去した。その後、DMSOでの洗浄を繰り返し1 mLごとの吸光度(260 nm)を測定し、吸光度が完全になくなるまで洗浄を続け、17を得た。分光光度計にて、洗浄液の各フラクション(1 ml)の吸光度(260 nm)を測定し、LNA(3)が完全に消失するまで洗浄を繰り返した。
【0078】
次に、未反応のSMCCを失活させる目的でキャッピング反応を行った。Fmoc-L-システインをDMSOにて溶解し、17に加えて室温で10分攪拌した((i)の反応)。反応終了後、反応液を除去し、DMSOの洗浄を2回、DCMでの洗浄を2回行い、18を得た。なお、最後に、20%ピペリジン/NMPを加えて5分間撹拌してLNA(3)のFmoc基を除去してもよい((ii)の反応)。
【0079】
次に、分光光度計にてFmoc定量を実施したところ、LNA(3)の導入量は0.01474 mmol/gであった。
【0080】
[実施例8]アフィニティーカラムへのリガンドS-オリゴ(4)の固定化
以下に説明するように、アフィニティーカラムChromSpeedTMCM103にS-オリゴ(4)を固定化した。
【0081】
ChromSpeed
TMCM103へのS-オリゴ(4)の固定化は実施例4のPNA(1)の固定化と同様にして実施した(
図8)。即ち、11の合成までは前述の通りに実施し、リガンドはS-オリゴ12mer H-(GacAatGtaGct:配列番号4)-C
3-SH(4)に変更した。
【0082】
S-オリゴ(4)をDMSO、TEバッファーにて溶解し、10に加え室温で終夜攪拌した。反応終了後、反応液を徐去しDMSO(2 mL)で洗浄し、過剰なS-オリゴ(4)を除去した。その後、DMSOでの洗浄を繰り返し1 mLごとの吸光度(260 nm)を測定し、吸光度が完全になくなるまで洗浄を続け、19を得た。分光光度計にて、洗浄液の各フラクション(1 ml)の吸光度(260 nm)を測定し、S-オリゴ(4)が完全に消失するまで洗浄を繰り返した。
【0083】
次に、未反応のSMCCを失活させる目的でキャッピング反応を行った。Fmoc-L-システインをDMSOにて溶解し、19に加えて室温で10分攪拌した((i)の反応)。反応終了後、反応液を除去し、DMFでの洗浄を15回行い、過剰なL-システインを除去し20を得た。なお、最後に、20%ピペリジン/NMPを加えて5分間撹拌してS-オリゴ(4)のFmoc基を除去してもよい((ii)の反応)。
【0084】
次に、分光光度計にてFmoc定量を実施したところ、S-オリゴ(4)の導入量は0.00618 mmol/gであった。
【0085】
[実施例9]DNAオリゴの調製
捕捉対象のターゲット一本鎖DNA配列を表1に示す。これらはユーロフィンジェノミクス株式会社から購入したスタンダードオリゴを使用した。
【表1】
【0086】
上記オリゴは乾燥品であるためモル収量を参考に濃度調整をして使用した。調整後はすべて冷蔵庫で保存した。
・A:TE溶液(10 mM Tris-HCl, 1 mM EDTA)150μLを加え100 pmol/μLに調製した。
・B:TE溶液200μLを加え100 pmol/μLに調製した。
・C:TE溶液150μLを加え100 pmol/μLに調製した。
・D:TE溶液150μLを加え100 pmol/μLに調製した。
・E:TE溶液 381μLを加え100 pmol/μLに調製した。
・AB:A(25μL)、B(25μL)を混合し熱水にて5分加熱後、徐々に温度を下げ冷却させ50 pmol/μLの二重鎖DNAを作製した。
・AB-C:AB(1μL)、C(9μL)を混合し作製した。
・AB-D:AB(1μL)、D(9μL)を混合し作製した。
・それぞれをさらに50倍、1000倍希釈し、2 pmol/μL及び100 fmol/μLに調整した。
【0087】
[実施例10]アフィニティーカラム評価実験-1
(1)基本手順
・カラムの洗浄方法と初期化
ディスポーザブルシリンジ(10 mL)を使い、カートリッジ上部から蒸留水を10 mL流し、カートリッジ内のDMSOを除去した。次いで、カートリッジ上部に存在するDMSOを完全に除去するために、カートリッジを上下反転させ同様の洗浄を行った。その後、UV 260nmにおいてDMSOに由来する吸光が存在しないことを確認したうえで、1xSSCを12 mL流し、カートリッジを初期化した。
【0088】
・サンプルのアプライ
ピペットマン(2μL用)を用いて、カートリッジ上部から100 fmol/μlの濃度に調整したサンプルを2μl注入し、自然落下でカートリッジにサンプルを浸み込ませた。この時、サンプル100 fmol/μl(2μl)をNanodrop3300にて測定して、そのRFU値を100%とし、それぞれフラクションから得られたRFU値の累積値を百分率で求めた。
【0089】
・フラクションの回収方法
1xSSCを移動相として使用し、自然落下で得られたものを200μlずつ回収した。
【0090】
・回収したDNAの確認方法
それぞれのフラクション(画分)はNanodrop3300にて測定して、そのRFU値を求めた。それぞれフラクションから得られたRFU値の累積値を計算した。横軸をフラクション番号、縦軸をDNA回収率(%)としてプロットし、DNAの溶出状況を可視化した。
【0091】
(2)一本鎖DNAの保持の確認
作製したアフィニティーカラムに一本鎖DNAが保持されるか否かを確認するため、
図9に示すようにアフィニティーカラム評価実験を行った。まず、目的物である二本鎖DNAの末端に蛍光色素TAMRA(TMR)を結合させておき、除去したい一本鎖DNAの末端に蛍光色素FAMを結合させた。具体的には、実施例9において調製したオリゴCを一本鎖DNAサンプル(SSDNA)として使用し、オリゴABを二本鎖DNAサンプル(DSDNA)として使用し、オリゴAB-Cを一本鎖DNA及び二本鎖DNAの混合サンプル(SSDNA, DSDNA)として使用した。使用したアフィニティーカラムは、
図10の(a)に示すように、リガンドとして実施例4で調製したPNA(1)が固定されている担体を含むものとした。
【0092】
上記(1)の手順にしたがってサンプルをアフィニティーカラムにアプライし、それぞれの画分を回収し、RFU値を求めた。サンプルをカートリッジに通す前の蛍光色素それぞれの波長のRFU値と、カートリッジを通した後のろ液のそれぞれのRFU値を蛍光光度計を使用し比較した。
【0093】
結果を
図11に示す。一本鎖DNAは画分10以降に出現し(
図11のA及びC)、二本鎖DNAは画分1~4で100%回収された(
図11のB及びC)。この結果から、リガンドとしてのPNAは、相補鎖配列を有する一本鎖DNAを認識し、アフィニティーカラム内に保持する一方、二本鎖DNAは相補鎖配列を有していてもPNAには認識されないことがわかった。
【0094】
[実施例11]アフィニティーカラム評価実験-2
異なる配列を有するPNAをリガンドとして含むアフィニティーカラムを評価した。具体的には、
図10の(b)に示すように、リガンドとして実施例5で調製したPNA(2)が固定されている担体を含むアフィニティーカラムを使用して、実施例10と同様の手順で、サンプルをアフィニティーカラムにアプライし、それぞれの画分を回収し、RFU値を求めた。
【0095】
結果を
図12に示す。一本鎖DNAは画分8以降に出現し(
図12のA及びC)、二本鎖DNAは画分1~3で回収された(
図12のB及びC)。この結果から、実施例10と同様に、リガンドとしてのPNAは、相補鎖配列を有する一本鎖DNAを認識し、アフィニティーカラム内に保持する一方、二本鎖DNAは相補鎖配列を有していてもPNAには認識されないことがわかった。
【0096】
[実施例12]アフィニティーカラム評価実験-3
2種類の担体を含むアフィニティーカラムを評価した。具体的には、
図10の(c)に示すように、リガンドとして実施例4で調製したPNA(1)が固定されている担体と実施例5で調製したPNA(2)が固定されている担体を含むアフィニティーカラムを使用して、実施例10と同様の手順で、サンプルをアフィニティーカラムにアプライし、それぞれの画分を回収し、RFU値を求めた。なお、PNA(1)とPNA(2)は、ターゲットDNAのそれぞれ別の配列に対して相補的な配列を有するものである。
【0097】
結果を
図13に示す。一本鎖DNAは画分12以降に出現し(
図13のA及びC)、二本鎖DNAは主に画分1~3で回収された(
図13のB及びC)。この結果を、実施例10及び11(
図11及び12)と比較すると、2種類のリガンドをそれぞれ固定した2種類の担体を含むアフィニティーカラムは、1種類のリガンドを使用した場合よりも良好な分離能で一本鎖DNAと二本鎖DNAを分離することができることがわかった。
【0098】
[実施例13]アフィニティーカラム評価実験-4
2種類のリガンドを含むアフィニティーカラムを評価した。具体的には、
図10の(d)に示すように、リガンドとして実施例4で調製したPNA(1)と実施例5で調製したPNA(2)が固定されている担体を含むアフィニティーカラムを使用して、実施例10と同様の手順で、サンプルをアフィニティーカラムにアプライし、それぞれの画分を回収し、RFU値を求めた。なお、PNA(1)とPNA(2)は、ターゲットDNAのそれぞれ別の配列に対して相補的な配列を有するものである。
【0099】
結果を
図14に示す。一本鎖DNAは画分13以降に出現し(
図14のA及びC)、二本鎖DNAは主に画分1~4で回収された(
図14のB及びC)。この結果を、実施例10及び11(
図11及び12)と比較すると、2種類のリガンドを固定した担体を含むアフィニティーカラムは、1種類のリガンドを使用した場合よりも良好な分離能で一本鎖DNAと二本鎖DNAを分離することができることがわかった。
【0100】
[実施例14]アフィニティーカラム評価実験-5
作製したアフィニティーカラムが塩基ミスマッチを識別するか否かを確認するため、以下のアフィニティーカラム評価実験を行った。
【0101】
実施例9において調製したオリゴDを一本鎖DNAサンプル(SSDNA)として使用した。このオリゴDは、実施例10で評価を行ったオリゴCとは3塩基異なるものであり、
図15のAに示すように、PNA(1)は、その塩基ミスマッチを含む領域に対して相補的な配列を有するものである。リガンドとして実施例4で調製したPNA(1)が固定されている担体を含むアフィニティーカラムを使用して、実施例10と同様の手順で、サンプルをアフィニティーカラムにアプライし、それぞれの画分を回収し、RFU値を求めた。その結果を
図15のBに示す。
【0102】
図15のBでは、サンプルは複数の画分で溶出し、一本鎖DNAを分離できなかった。
図12のA及び
図15のBの結果から、リガンドとしてのPNAは、塩基ミスマッチを認識して一本鎖DNAに結合し、分離できることがわかる。
【0103】
[実施例15]リガンドのアフィニティー能をより良く向上させることが可能なキャッピング剤の選定
担体上のリガンドが固定化された以外の箇所をキャッピングすることが可能である。数種類のキャッピング剤を用いて固定相を作製し、アフィニティーカラムで精製を行う際に与える影響について比較した。
【0104】
キャッピング剤が有する官能基として、アミノ基・カルボキシル基・メチル基・グアニジノ基・フェニル基の5種類を候補とし、これに加えアミノ基とカルボキシル基を1つずつ有するキャッピング剤の計6種類の比較を行った。
【表2】
【0105】
その結果、正電荷を持つ1,4-ジアミノブタン (アミノ基)とH-Arg-NH2・2HCl (グアニジノ基)をコーティング剤に用いたカラムが最も一本鎖DNAの保持能力が高く、負電荷を持つ5-アミノ吉草酸 (カルボキシル基)、電荷を持たないアミルアミン (メチル基)と4-フェニルブチルアミン(フェニル基)、電荷が±0となるFmoc-Lys-OH・HCl (アミノ基・カルボキシル基)の順で一本鎖DNAの保持能力が低くなっていることがわかった。
【0106】
そのため、一本鎖DNAの単離又は検出の際には、担体のリガンド固定領域以外の箇所を上記のようなコーティング剤を使用してコーティングすることが好ましいことがわかった。
【配列表】