(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】保持装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20250206BHJP
【FI】
H01L21/68 P
(21)【出願番号】P 2020161960
(22)【出願日】2020-09-28
【審査請求日】2023-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒津 貴久
(72)【発明者】
【氏名】田中 和孝
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-218364(JP,A)
【文献】特開2018-73886(JP,A)
【文献】特開2006-313816(JP,A)
【文献】特開平9-266242(JP,A)
【文献】特開2017-24150(JP,A)
【文献】特開2006-351572(JP,A)
【文献】特開2003-234398(JP,A)
【文献】特開2008-108766(JP,A)
【文献】特開2005-296705(JP,A)
【文献】国際公開第2008/105226(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に略直交する上面及び下面を有する板状の基体と、
前記基体の上面から上方に突出し、環状をなした外側凸部と、
前記基体の上面から前記外側凸部と略同一の高さで上方に突出し、前記第1の方向視で、前記外側凸部の内周側に位置する環状をなした内側凸部と、
前記第1の方向視で、前記基体の上面のうち前記外側凸部と前記内側凸部との間にある面に開口する形で設けられた吸引口と、
一端が前記吸引口に接続するように前記基体の内部に設けられ、真空引き可能な真空流路と、
前記第1の方向視で、前記基体の上面のうち前記内側凸部の内周側にある面と、前記基体の下面とを貫通する貫通孔とを備え、
前記外側凸部は、前記基体の最も外側の端部よりも内側に配置されて
おり、
前記基体は、前記内側凸部よりも内側にある内側領域部と、前記内側領域部の外側にあり、前記内側凸部から前記外側凸部に亘った環状の外側領域部とを有し、
前記内側領域部の内部又は前記内側領域部における前記基体の下面に設けられる第1ヒータと、
前記第1ヒータと独立して温度調節が可能であり、前記外側領域部の内部又は前記外側領域部における前記基体の下面に設けられる第2ヒータとを備える保持装置。
【請求項2】
前記吸引口が複数設けられると共に、各々の一端が複数の前記吸引口にそれぞれ接続するように前記真空流路が複数設けられ、
複数の前記真空流路の他端側は、1つに集約されている
請求項1に記載の保持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造過程等において、ウェハを真空吸着して保持する保持装置が知られている。この種の保持装置としては、例えば、特許文献1に示されるように、ウェハを真空吸着させる基体の表面に、ウェハを支持するための複数の凸部が設けられた所謂、ピンチャック式の保持装置が知られている。この方式の保持装置では、複数の凸部が基体の表面上に点在する形で設けられており、各凸部によってウェハが支持された状態で、ウェハが基体に真空吸着される。なお、この種の保持装置の基体内等には、真空吸着されたウェハを加熱するためのヒータが設けられている。
【0003】
また、他の保持装置としては、例えば、特許文献2に示されるように、基体の表面の外周部に連続的又は断続的に設けられた、互いに高さの異なる第1環状凸部と、その内側にある第2環状凸部と有する保持装置が知られている。この保持装置では、第1環状凸部及び第2環状凸部のうち、外側にある第1環状凸部の高さが相対的に高い場合、その第1環状凸部上に、ウェハが載せられる。そして、その状態の第1環状凸部の内側において、ウェハの裏面と基体の表面とで挟まれた空間が減圧される。第1環状凸部と第2環状凸部の間にある領域には、真空吸引装置に接続する開口部が設けられており、その開口部から前記空間にある気体が外側へ流される。特に、ウェハの裏面と第2環状凸部の上端面との間には隙間が形成されており、その隙間において、気体が第2環状凸部の内側から外側へ流れる速度が局所的に高くなるように設定されている。この保持装置では、前記隙間を流れる気体の局所的な速度上昇により、ウェハを基体の表面側へ引き付けるようなベルヌーイ力を発生させており、その力を利用してウェハが保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-50300号公報
【文献】特開2019-62128号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体の製造過程等で使用されるウェハには、通常、反りやうねり等の変形が存在している。このように変形したウェハを、上述した従来のピンチャック式の保持装置で保持すると、ウェハが凸部と強く接触する部分(以下、接触部)と、ウェハが凸部から離れて接触しない部分(以下、非接触部)とが形成されることがあった。接触部は、非接触部と比べて、ヒータ等からの熱が凸部を介してウェハに伝わり易くなったり、ウェハから凸部を介した抜熱がし易くなっている。このように保持装置で保持されたウェハに、接触部と非接触部が形成されると、それらの間で大きな温度ムラが発生する虞があり、問題となっていた。
【0006】
なお、特許文献2に示されるように、ベルヌーイ力を利用した従来の保持装置では、第1環状凸部の高さと第2環状凸部の高さとを異ならせて、必ず、ウェハの裏面と第1環状凸部等との間にベルヌーイ力を発生させるための隙間を形成する必要がある。そのため、特許文献2には、第1環状凸部の高さと、第2環状凸部の高さとを互いに同じにする場合は、開示されていない。
【0007】
本発明の目的は、対象物との接触ムラが抑制された保持装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
<1> 第1の方向に略直交する上面及び下面を有する板状の基体と、前記基体の上面から上方に突出し、環状をなした外側凸部と、前記基体の上面から前記外側凸部と略同一の高さで上方に突出し、前記第1の方向視で、前記外側凸部の内周側に位置する環状をなした内側凸部と、前記第1の方向視で、前記基体の上面のうち前記外側凸部と前記内側凸部との間にある面に開口する形で設けられた吸引口と、一端が前記吸引口に接続するように前記基体の内部に設けられ、他端が前記下面に開口し、真空引き可能な真空流路と、前記第1の方向視で、前記基体の上面のうち前記内側凸部の内周側にある面と、前記基体の下面とを貫通する貫通孔とを備える保持装置。
【0009】
<2> 前記基体は、前記内側凸部よりも内側にある内側領域部と、前記内側領域部の外側にあり、前記内側凸部から前記外側凸部に亘った環状の外側領域部とを有し、前記内側領域部の内部又は前記内側領域部における前記基体の下面に設けられる第1ヒータと、前記第1ヒータと独立して温度調節が可能であり、前記外側領域部の内部又は前記外側領域部における前記基体の下面に設けられる第2ヒータとを備える前記<1>に記載の保持装置。
【0010】
<3> 前記吸引口が複数設けられると共に、各々の一端が複数の前記吸引口にそれぞれ接続するように前記真空流路が複数設けられ、複数の前記真空流路の他端側は、1つに集約されている前記<1>又は<2>に記載の保持装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、対象物との接触ムラが抑制された保持装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施形態1の保持装置の構成を模式的に表した縦断面図
【
図4】外側凸部及び内側凸部に載せられた対象物が真空吸着される前の状態の保持装置の構成を模式的に表した縦断面図
【
図5】外側凸部及び内側凸部に載せられた対象物が真空吸着された状態の保持装置の構成を模式的に表した縦断面図
【
図6】保持装置に保持された状態で加熱された対象物を模式的に表した上面図
【
図7】実施形態2の保持装置の構成を模式的に表した縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態1>
以下、本発明の実施形態1に係る保持装置1を、
図1~
図6を参照しつつ説明する。
図1は、実施形態1の保持装置1の構成を模式的に表した縦断面図であり、
図2は、
図1に示される範囲Mの拡大図であり、
図3は、保持装置1の構成を模式的に表した上面図である。なお、各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。例えば、
図1の上下方向がZ軸方向に対応する。本明細書では、Z軸方向を「第1の方向」と称する。また、説明の便宜上、Z軸正方向を上方向、Z軸負方向を下方向と称する場合がある。
【0014】
保持装置1は、対象物(例えば、半導体ウェハ)Wを真空吸着により保持しつつ所定の処理温度(例えば、200℃以上700℃以下程度)に加熱する装置である。保持装置1は、例えば、成膜装置(CVD成膜装置、スパッタリング成膜装置等)やエッチング装置(プラズマエッチング装置等)といった半導体製造装置の一部として使用される。このような保持装置1は、本体部2と柱状支持体3とを備えている。なお、本実施形態の保持装置1には、静電引力を発生させるチャック電極は設けられていない。
【0015】
本体部2は、対象物Wの保持や加熱を行う部分であり、概ね円盤状の外観形状を備えている。このような本体部2は、主として、基体21と、外側凸部22と、内側凸部23と、吸引口24と、真空流路25と、貫通孔26と、ヒータ27とを備えている。
【0016】
基体21は、第1の方向視で、円盤型の板状をなしており、第1の方向(Z軸方向)に略直交する上面21a及び下面21bを備えている。基体21は、例えば、窒化アルミニウム(AlN)やアルミナ(Al2O3)を主成分とするセラミックスにより形成されている。なお、本明細書における主成分とは、含有割合(質量割合)の最も多い成分を意味する。
【0017】
基体21の直径は、例えば、200mm以上450mm以下であり、基体21の厚みは、例えば、5mm以上30mm以下である。
【0018】
外側凸部22及び内側凸部23は、対象物Wを真空吸着する際に、対象物Wの周縁部が載せられる部分である。外側凸部22は、基体21の上面21aから上方に突出しつつ、第1の方向視で、円環状(環状の一例)をなしている。このような外側凸部22は、上面21aから凸状に盛り上がった形をなしている。
【0019】
内側凸部23は、基体21の上面21aから外側凸部22と略同一の高さで上方に突出し、第1の方向視で、外側凸部22の内周側に位置する円環状(環状の一例)をなしている。内側凸部23は、外側凸部22と同様、上面21aから凸状に盛り上がった形をなしている。外側凸部22及び内側凸部23は、基体21に対して一体的に形成されており、基体21と同様のセラミックスからなる。
【0020】
外側凸部22は、所定の厚みを有する円環状の壁からなり、その上面22aは、略一定の線幅を有する円環状をなしている。内側凸部23は、所定の厚みを有する、外側凸部22よりも一回り小さな円環状の壁からなり、その上面23aは、外側凸部22の上面22aと略同じ線幅を有する円環状をなしている。外側凸部22及び内側凸部23は、基体21の上面21aにおいて、同心円状に配置されている。外側凸部22及び内側凸部23の各中心位置は、円形状をなした上面21aの中心位置Oに設定されている。
図1には、基体21の上面21aの中心位置Oを通るZ軸方向(第1の方向)に延びた仮想的な軸線AXが示されている。
【0021】
外側凸部22の厚み(線幅)は、例えば、0.2mm以上2.0mm以下に設定され、内側凸部23の厚み(線幅)は、例えば、0.2mm以上2.0mm以下に設定される。外側凸部22の厚みと、内側凸部23の厚みは、互いに同じであってもよいし、互いに異なっていてもよい。
【0022】
基体21の上面21aは、X軸及びY軸(ZY平面)に沿った略平坦な面であり、そのような上面21aから外側凸部22の上面22aまでの高さ(つまり、外側凸部22の高さ)と、上面21aから内側凸部23の上面23aまでの高さ(つまり、内側凸部23の高さ)とは、互いに同じ(略同じ)となるように設定されている。
【0023】
外側凸部22及び内側凸部23の各高さは、互いに同じ(略同じ)であり、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、0.02mm以上1.0mm以下に設定されることが好ましい。外側凸部22及び内側凸部23の各高さがこのような範囲であると、外側凸部22及び内側凸部23を利用して、対象物Wを確実に真空吸着によって保持することができる。
【0024】
なお、本明細書において、外側凸部22の高さと内側凸部23の高さとが略同一の高さであるか否かは、以下の方法で判断することができる。先ず、外側凸部22及び内側凸部23を、第1の方向視で、四等分するように切断する。この場合、第1の方向に延びた軸線AXを通ると共に、互いに直交する2つの面で、外側凸部22及び内側凸部23が切断されることになる。得られた外側凸部22の4箇所の切断面から外側凸部22の上端部の平均高さが求められ、内側凸部23の4箇所の切断面から内側凸部23の上端部の平均高さが求められる。外側凸部22の上端部の平均高さと、内側凸部23の上端部の平均高さの差が、0.5μm未満の場合、外側凸部22の高さと内側凸部23の高さとは、略同一の高さであると判断される。
【0025】
外側凸部22と内側凸部23との間には、第1の方向視で環状(円環状)をなした環状空間(隙間)S1が形成されている。環状空間S1は、外側凸部22の内周面22cと、内側凸部23の外周面23bとの間に形成されている。なお、基体21の上面21aのうち、外側凸部22と内側凸部23との間にある円環状をなした面を、特に「環状面21a1」と称する場合がある。環状空間S1は、外側凸部22の内周面22cと、内側凸部23の外周面23bと、環状面21a1とで囲まれている。対象物Wが載せられる前の状態では、環状空間S1の上方(つまり、外側凸部22と内側凸部23との間における上方)は、開放されている。
【0026】
外側凸部22の外周面22bは、外側を向いており、その外周面22bよりも更に外側に、基体21の外周縁部21cが配置している。つまり、本実施形態の場合、外側凸部22は、基体21の最も外側の端部(外周縁部21c)ではなく、それよりも内側に配置されている。外側凸部22の内周面22cは、環状空間S1を間に置きつつ内側凸部23の外周面23bと対向している。内側凸部23の内側には、空間(内側空間)S2があり、その空間S2の周りを取り囲むように、内側凸部23の内周面23cが配置されている。本実施形態の場合、基体21の上面21aのうち、内側凸部23の内側にある上面21aを、特に、内側上面21a2と称する場合がある。内側上面21a2は、平坦(略平坦)であり、凸状に盛り上がった部分等は形成されていない。
【0027】
なお、基体21の上面21aにおける中心位置Oから、基体21の外周縁部21cまでの長さRと、前記中心位置Oから内側凸部23の内周面23cまでの長さrとの間には、0.8≦r/R≦0.9のような関係式が成り立つことが好ましい。
【0028】
吸引口24は、第1の方向視で、基体21の上面21aのうち、外側凸部22と内側凸部23との間にある面(つまり、環状面21a1)に開口する形で設けられている。吸引口24は、第1の方向視で、円形状をなしており、外側凸部22と内側凸部23との間に収まるような大きさに設定されている。なお、他の実施形態においては、吸引口は、第1の方向視で、楕円状、長円状等の他の形状であってもよい。吸引口24は、環状面21a1に複数個設けられており、それらの吸引口24は、互いに間隔(等間隔)を保ちつつ、環状に一列に並ぶように、環状面21a1に設けられている。つまり、複数の吸引口24は、環状面21a1の周方向において、均等に配置されている。なお、吸引口24は、後述する真空流路25の一端に接続している。
【0029】
真空流路25は、環状空間S1内を真空引きするために基体21の内部に設けられた流路である。真空流路25は、外側凸部22及び内側凸部23に対象物Wが載せられた状態において、環状空間S1内が負圧になるように真空引きを行う(
図4及び
図5参照)。真空流路25の一端は、吸引口24に接続している。真空流路25は、複数あり、1つの吸引口24に対して、1つの真空流路25が割り当てられている。本実施形態の場合、吸引口24は5つあり、それらに接続する形で、5つの真空流路25が基体21内に設けられている。
【0030】
図3に示されるように、5つの真空流路25は、各吸引口24側から、1つの中心位置Oに向かって集まるような形で設けられている。つまり、各真空流路25は、吸引口24の反対側にある他端側が、1つに集約されており、1つの流路を構成している。このように、複数の真空流路25が1つに集約されていると、環状空間S1内が負圧になるように効率的に真空引きすることができる。なお、真空流路25の他端は、基体21の下面21bに開口する形で設けられている。
【0031】
真空流路25は、吸引口24から下方に向かって延びる第1流路25aと、第1流路25aに接続しつつ、第1の方向に直交する方向に延びる第2流路25bと、第2流路25bに接続しつつ、第1の方向に延びる第3流路25cとを備えている。第3流路25cは、複数の真空流路25において共通化されており、1つの第3流路25cに対して、複数の真空流路25の各第2流路25bが他端側で接続している。
【0032】
なお、真空流路25の前記他端は、後述する柱状支持体3内の真空流路32に接続されている。このような真空流路25は、柱状支持体3内の真空流路32を介して、外部に配置された真空ポンプ(不図示)に接続されている。この真空ポンプが作動すると、吸引口24から環状空間S1内の空気(気体)が吸い出され、その吸い出された空気が真空流路25等を通って、最終的に外部へ排出される。
【0033】
貫通孔26は、基体21を厚み方向(Z軸方向)に貫通する形で設けられている。このような貫通孔26は、第1の方向視で、基体21の上面21aのうち内側凸部23の内周側にある面21a2(つまり、内側上面21a2)と、基体21の下面21bとを貫通するように設けられている。
【0034】
本実施形態の貫通孔26は、外側凸部22及び内側凸部23に載せられた対象物Wをリフトピン(不図示)で持ち上げる際に、そのリフトピンを通すための孔である。貫通孔26は、基体21に複数設けられている。これらの貫通孔26は、内側凸部23の内側にある空間(ウェハを吸着した際に形成される内部空間)S2と、基体21の下面21bの外側にある外部空間とを連通する機能を備えている。
【0035】
また、基体21の内部には、基体21等を加熱するための複数のヒータ27が設けられている。各ヒータ27は、ヒータ電極としての抵抗発熱体を備えている。抵抗発熱体は、例えば、タングステン、モリブデン、これらの合金又はこれらの炭化物を主成分として構成される。このような抵抗発熱体としては、例えば、導体ペーストを印刷した導体層が焼結したメタライズが使用されてもよい。各ヒータ27は、第1の方向視で、略同心円状に延びる線状のパターンを構成しており、それらは基体21内において仮想的な同一平面上に配置されている。
【0036】
基体21は、ヒータ27による加熱の観点等より、2つの領域部に分けられる。1つは、基体21のうち、内側凸部23よりも内側にある内側領域部H1であり、もう1つは、内側領域部H1の外側にあり、内側凸部23から外側凸部22に亘った環状の外側領域部H2である。
【0037】
本実施形態のヒータ27は、主に内側領域部H1を加熱するための第1ヒータ271と、主に外側領域部H2を加熱するための第2ヒータ272とに分けられる。第1ヒータ271と第2ヒータ272は、互いに独立して温度調節できるように構成されている。本実施形態の場合、第1ヒータ271は、内側領域部H1の内部に設けられており、第2ヒータ272は、外側領域部H2の内部に設けられている。
【0038】
第1ヒータ271は、複数からなり、各々の抵抗発熱体が、内側領域部H1において、同心円状に延びる線状のパターンをなすように配置されている。各第1ヒータ271には、外部に設置された所定の電源装置(不図示)から所定の電圧が供給される。本実施形態の場合、第1ヒータ271は、真空流路25(第2流路25b)よりも上方に配置されている。
【0039】
第2ヒータ272も、複数からなり、各々の抵抗発熱体が、外側領域部H2において、同心円状に延びる線状のパターンをなすように配置されている。各第2ヒータ272には、外部に設定された所定の電源装置(不図示)から所定の電圧が供給される。なお、第2ヒータ272は、第1の方向視で、真空流路25(第1流路25a)と重ならないように、適宜、配置されている。
【0040】
外側領域部H2には、加熱時に対象物Wと接触する外側凸部22及び内側凸部23が設けられている。そのため、ヒータ27からの熱が外側凸部22及び内側凸部23を伝って対象物Wへ移動し易い。これに対して、内側領域部H1には、加熱時に対象物Wに直に接触する構造はないため、外側領域部H2と比べて、ヒータからの熱が対象物Wへ相対的に伝わり難くなっている。このように、外側凸部22及び内側凸部23の有無により、対象物Wに対する熱の伝わり易さに差が生じるため、内側領域部H1に配置される第1ヒータ271と、外側領域部H2に配置される第2ヒータ272とが、互いに独立して印加電圧を制御できるように構成されている。例えば、第2ヒータ272の方が、第1ヒータ271よりも発熱量が小さくなるように、第1ヒータ271及び第2ヒータ272に対してそれぞれ適切な電圧が印加される。
【0041】
なお、内側領域部H1を、更に複数の領域部に分割し、分割された領域部毎に第1ヒータ271を適宜、配置することで、前記領域毎に独立した印加電圧の制御を行ってもよい。また、外側領域部H2についても同様に、更に複数の領域部に分割し、分割された領域部毎に第2ヒータ272を適宜、配置することで、前記領域毎に独立した印加電圧の制御を行ってもよい。
【0042】
柱状支持体3は、Z軸方向(第1の方向)に延びる略円柱状部材である。柱状支持体3は、本体部2の基体21等と同様、例えば、窒化アルミニウムやアルミナを主成分とするセラミックスにより形成されている。柱状支持体3の外径は、本体部2よりも小さく、例えば、40mm以上90mm以下に設定されてもよい。柱状支持体3の高さ(上下方向における長さ)は、本発明の目的を損なわない限り、特に制限はないが、例えば、100mm以上200m以下に設定されてもよい。
【0043】
柱状支持体3と本体部2とは、柱状支持体3の上面3aと、本体部2(基体21)の下面21bとが上下方向で対向するように配置されている。柱状支持体3は、本体部2(基体21)の下面21bの中心部付近に、公知の接合材料(不図示)を介して接合されている。
【0044】
柱状支持体3の内部には、上下方向に延びた孔からなる真空流路32が設けられている。なお、柱状支持体3の内部には、真空流路32以外に、ヒータ27等に電力を供給するための各種の端子(不図示)が設けられている。
【0045】
次いで、
図4~
図6を参照しつつ、保持装置1が対象物Wを保持して加熱する動作を説明する。
図4は、外側凸部22及び内側凸部23に載せられた対象物Wが真空吸着される前の状態の保持装置1の構成を模式的に表した縦断面図である。対象物(例えば、シリコン製の半導体ウェハ)の理想的な形状は、平坦な板状(円板状)であるものの、実際に使用される対象物Wには、通常、反りやうねり等の変形が生じている。そのため、対象物Wの上面Waや下面Wbは、通常、平坦ではなく、歪んでいる。
【0046】
対象物Wを保持装置1で保持させる場合、対象物Wは、
図4に示されるように、第1の方向視で、周縁部W1が外側凸部22及び内側凸部23と重なるように、保持装置1に載せられる。その際、対象物Wの周縁部W1における下面Wbは、外側凸部22の上面22aや内側凸部23の上面23aと対向した形となる。ただし、上述したように、対象物Wには変形が生じているため、対象物Wの周縁部W1における下面Wbには、外側凸部22及び内側凸部23の各上面22a,上面23aと密着する部分と、外側凸部22の上面22aや内側凸部23の上面23aから離れて浮き上がった部分とがある。このように、対象物Wが真空吸着される前の状態では、周縁部W1の一部に浮き上がりが見られる。
【0047】
図5は、外側凸部22及び内側凸部23に載せられた対象物Wが真空吸着された状態の保持装置1の構成を模式的に表した縦断面図である。対象物Wが、外側凸部22及び内側凸部23に載せられた後、真空ポンプ(真空吸引装置)が作動することにより、外側凸部22と内側凸部23との間にある環状空間S1内の空気(ガス)が吸引口24から吸い出され、その吸い出された空気が基体21内の真空流路25等を通って外部へ排出さる。このように環状空間S1内の空気が外部へ排出されると、環状空間S1内が負圧となり、対象物Wの周縁部W1における下面Wb全体が、外側凸部22の上面22a及び内側凸部23の上面23aに対して吸着される(つまり、真空吸着される)。なお、本実施形態の保持装置1は、従来品のようなベルヌーイ力を利用して、対象物Wを保持するものではない。
【0048】
内側凸部23の内側には、内側凸部23の内周面23cと、内側上面21a2と、対象物Wの下面Wbとで囲まれた空間(内部空間)S2が存在している。環状空間S1内の空気が吸引口24から吸い出された際に、仮に、空間S2内の空気が内側凸部23の上面23aと対象物Wの下面Wbとの間にある極僅かな隙間から環状空間S1内へ吸い出されて空間S2内が負圧になると、対象物Wの中央部W2が内側上面21a2側に吸い寄せられて近付くように撓んだ形となる。このように対象物Wが撓むと、対象物Wの周縁部W1に、外側凸部22の上面22aや内側凸部23の上面23aから離れて浮き上がろうとする力が作用し、環状空間S1内の負圧が弱くなって対象物Wを保持する力が弱くなる虞がある。しかしながら、本実施形態の保持装置1では、空間S2内と保持装置1の外部とを繋ぐ貫通孔26が基体21に設けられているため、空間S2内の圧力は、負圧とならず、しかも環状空間S1内の圧力よりも大きくなるため、上述したような対象物Wの撓みが防止される。
【0049】
なお、空間S2内の圧力は、保持装置1の外部の圧力(例えば、大気圧)と略同じになる。このように、対象物Wが外側凸部22及び内側凸部23に載せられた状態で真空吸着されると、
図5に示されるように、対象物Wは概ね真っ直ぐに延ばされた状態なり、しかも対象物Wの周縁部W1における下面Wbと外側凸部22の上面22aとの間の密着や、対象物Wの周縁部W1における下面Wbと内側凸部23の上面23aとの間における密着が、それぞれ均一に確保される。このように真空吸着を利用して対象物Wを保持する保持装置1では、対象物Wと、それを支持する外側凸部22及び内側凸部23との間の接触ムラが抑制される。
【0050】
対象物Wが保持装置1によって保持された状態で、各ヒータ27(各第1ヒータ271、各第2ヒータ272)の抵抗発熱体に所定の電圧が印加されることにより、各ヒータ27が発熱して、対象物Wが所定の温度で加熱される。
図6は、保持装置1に保持された状態で加熱された対象物Wを模式的に表した上面図である。
図6において、対象物Wの周縁部W1と中央部W2とが、仮想的な円形状の境界線L1によって分けられている。境界線L1は、第1の方向視で、対象物Wと内側凸部23の内周面23cとが重なった部分に対応している。対象物Wのうち、境界線L1よりも内側の部分が、平面視で円形状をなした中央部W2であり、境界線L1から外側の部分が平面視で円環状をなした周縁部W1である。
【0051】
中央部W2は、外側凸部22や内側凸部23と接触していない部分であり、主として、保持装置1の内側領域部H1に配置された第1ヒータ271よって加熱される部分である。これに対して、周縁部W1は、外側凸部22と内側凸部23と接触する部分であり、主として、外側領域部H2に配置された第2ヒータ272によって加熱される部分である。
【0052】
本実施形態の保持装置1では、対象物Wのうち、少なくとも中央部W2は、保持装置1の本体部2(外側凸部22、内側凸部23等)と接触しないため、対象物Wを支える部分との接触ムラが発生しない。そのため、保持装置1で保持された対象物Wのうち、特に、中央部W2は、均一に加熱し易い環境となっている。また、周縁部W1は、対象物Wを支えるための外側凸部22や内側凸部23が接触する部分となっており、中央部W2と比べて、本体部2側から熱が移動し易い環境となっている。しかしながら、本実施形態の保持装置1では、上述したように、周縁部W1を加熱するための第2ヒータ272を、中央部W2を加熱するための第1ヒータ271と独立して作動させることができる。したがって、本実施形態の保持装置1では、第2ヒータ272の印加電圧や第1ヒータ271の印加電圧を適宜、調節することによって、周縁部W1の温度と、中央部W2の温度とが互いに同じになるように容易に制御することができる。
【0053】
ここで、保持装置1の製造方法を説明する。保持装置1(本体部2及び柱状支持体3)の製造方法は、例えば、以下の通りである。先ず、本体部2と柱状支持体3とを作製する。
【0054】
本体部2の作製方法は、例えば以下の通りである。先ず、窒化アルミニウム粉末に、酸化イットリウム(Y2O3)粉末と、アクリル系バインダと、適量の分散剤及び可塑剤とを加えた混合物に、更に有機溶剤を加えたものを、ボールミルにて混合し、グリーンシート用スラリーを作製する。このグリーンシート用スラリーを、キャスティング装置でシート状に成形し、その後、得られた成形物を乾燥させて、グリーンシートを複数枚作製する。
【0055】
また、窒化アルミニウム粉末、アクリル系バインダ、有機溶剤の混合物に、タングステンやモリブデン等の導電性粉末を添加して混練することにより、メタライズペーストを作製する。このメタライズペーストを、例えばスクリーン印刷装置を用いて印刷することにより、特定の各グリーンシートに、後に第1ヒータ271や第2ヒータ272等となる未焼結導体層を形成する。さらに、グリーンシートに予め吸引口24となる孔部と、真空流路25となる溝部と、貫通孔26となる孔部とを設ける。
【0056】
続いて、これらのグリーンシートを複数枚(例えば、20枚)熱圧着し、必要に応じて外周を切断して、グリーンシート積層体を作製する。このグリーンシート積層体をマシニングによって切削加工して円板状の成形体を作製し、この成形体を脱脂し、さらに脱脂後の成形体を焼成して、焼成体を作製する。次に、得られた焼成体の平面状の表面に、外側凸部22及び内側凸部23に対応する部分を、遮蔽するマスクを配置し、例えばセラミックス等の粒体を投射するショットブラストを行うことにより、外側凸部22及び内側凸部23を形成する。その後、この焼成体の表面を研磨加工することにより、本体部2が得られる。
【0057】
また、柱状支持体3の作製方法は、例えば以下の通りである。先ず、窒化アルミニウム粉末に、酸化イットリウム粉末と、PVA(ポリビニルアルコール)バインダと、適量の分散剤及び可塑剤とを加えた混合物に、更に有機溶剤を加えたものを、ボールミルにて混合し、スラリーを得る。このスラリーをスプレードライヤーにて顆粒化し、原料粉末を作製する。次に、真空流路32に対応する中子が配置されたゴム型に原料粉末を充填し、ゴム型内の原料粉末を冷間静水圧プレスすることにより、成形体を得る。得られた成形体を脱脂し、脱脂後の成形体を焼成することにより、柱状支持体3が得られる。
【0058】
次いで、本体部2と柱状支持体3とを接合する。本体部2の裏面21b及び柱状支持体3の上面に対して、必要に応じてラッピング加工を行った後、本体部2の裏面21bと柱状支持体3の上面との少なくとも一方に、例えば希土類や有機溶剤等を混合してペースト状にした公知の接合剤を均一に塗布すると共に、その塗布物(接合剤)の脱脂処理を行う。その後、本体部2の裏面21bと柱状支持体3の上面とを重ね合わせ、焼成を行うことにより、本体部2と柱状支持体3とを接合する。以上のような製造方法により、上述した構成の保持装置1が得られる。
【0059】
<実施形態2>
次いで、本発明の実施形態2の保持装置1Aを、
図7を参照しつつ説明する。
図7は、実施形態2の保持装置1Aの構成を模式的に表した縦断面図である。本実施形態の保持装置1Aは、基本的な構成は、上記実施形態1の保持装置1と同じであり、本体部2Aと柱状支持体3Aとを備えている。ただし、本実施形態の保持装置1Aでは、ヒータ27Aの位置が、実施形態1とは異なり、本体部2Aが備える基体21Aの外側となっている。より具体的には、ヒータ27Aは、本体部2Aの下面21Ab側に設けられている。
【0060】
本体部2Aは、実施形態1と同様、外側凸部22Aと内側凸部23Aを備えている。また、本体部2Aの内部には、実施形態1と同様、真空流路25Aが形成されており、その一端に吸引口24Aが接続されている。また、柱状支持体3Aの内部には、真空流路25Aと接続する真空流路32Aが設けられている。
【0061】
ヒータ27Aは、複数からなり、実施形態1と同様、複数の第1ヒータ271Aと、複数の第2ヒータ272Aとからなる。ヒータ27Aは、セラミックス等からなる母材層270Aの中に埋設されており、そのような母材層270Aが、基体21Aの下面21Abに公知の接着剤等を利用して貼り付けられている。このようなヒータ27Aのうち、第1ヒータ271Aは、保持装置1Aの内側領域部HA1における基体21Aの下面21Ab1に配置され、第2ヒータ272Aは、保持装置1Aの外側領域部HA2における基体21Aの下面21Ab2に配置される。なお、貫通孔26Aは、実施形態1と同様、リフトピンが通される孔であり、基体21Aと母材層270Aを貫通する形で設けられている。本実施形態の保持装置1Aのように、ヒータ27Aを、基体21Aの下面21Ab側に配置してもよい。
【0062】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0063】
(1)上記各実施形態では、貫通孔としては、リフトピンが通される孔が利用されていたが、本発明はこれに限られず、他の実施形態においては、内側凸部の内側にある空間内の圧力を調節するために、専用の貫通孔が基体に設けられてもよい。
【0064】
(2)上記各実施形態では、第1ヒータ及び第2ヒータが、同一平面上に並ぶように形成されているが、本発明はこれに限られず、他の実施形態においては、例えば、第1ヒータと第2ヒータとを、第1の方向(Z軸方向)において、異なる高さでそれぞれ平面上に形成されてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1…保持装置、2…本体部、21…基体、21a…上面、21a1…環状面、21a2内側上面、21b…下面、22…外側凸部、23…内側凸部、24…吸引口、25…真空流路、26…貫通孔、27…ヒータ、271…第1ヒータ、272…第2ヒータ、3…柱状支持体、S1…環状空間、S2…空間(内側空間)、H1…内側領域部、H2…外側領域部、W…対象物、W1…周縁部、W2…中央部