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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   C01G 15/00 20060101AFI20250206BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20250206BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20250206BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20250206BHJP
【FI】
C01G15/00 Z
C01G15/00 D
H01L21/205
B82Y30/00
B82Y40/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020164727
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056788
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風間 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田村 渉
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康之
(72)【発明者】
【氏名】大森 貴幸
(72)【発明者】
【氏名】村松 淳司
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 澄志
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-111493(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0240770(US,A1)
【文献】特開2018-140931(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064094(WO,A1)
【文献】特開2004-284851(JP,A)
【文献】特表2012-515802(JP,A)
【文献】特開2006-111520(JP,A)
【文献】特開2012-246470(JP,A)
【文献】特開2016-135863(JP,A)
【文献】BARATON, M. I. et al.,An IR Spectroscopic Investigation of Nanostructured A1N and GaN Powder Surfaces,Journal of Cluster Science,1999年,Vol. 10, No.1.,133-154
【文献】O., Contreras et al.,Microstructural properties of Eu-doped GaN luminescent powders,APPLIED PHYSICS LETTERS,2002年,Vol. 81, No. 11,1993-1995
【文献】NICOLAI, L. et al.,Electron Tomography of Pencil-Shaped Gan/(In,Ga)N Core-Shell Nanowires,Nanoscale Research Letters,2019年,14, 232,1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 15/00
C01B 21/06
C01B 21/072
C09K 11/00-11/89
H01L 21/025
B82Y 30/00
B82Y 40/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlxGayInzN(0≦x,y,z≦1)で表されるIII族窒化物ナノ粒子であって、1つの粒子内にウルツ鉱構造と閃亜鉛鉱構造の2つの結晶構造が混在して含有されていて、XRDの回析強度比で閃亜鉛鉱構造の割合が25%以上であることを特徴とするIII族窒化物半導体ナノ粒子。
【請求項2】
前記III族窒化物ナノ粒子は、Ga y In z N(0≦y,z≦1)で表される請求項1に記載のIII族窒化物半導体ナノ粒子。
【請求項3】
コアとシェルとを有するコアシェル構造のIII族窒化物ナノ粒子であって、前記コアを構成する粒子は、請求項1又は2に記載のIII族窒化物ナノ粒子であることを特徴とするIII族窒化物半導体ナノ粒子。
【請求項4】
請求項3記載のIII族窒化物半導体ナノ粒子であって、前記コアと前記シェルとは、格子定数が異なることを特徴とするIII族窒化物半導体ナノ粒子。
【請求項5】
請求項3記載のIII族窒化物半導体ナノ粒子であって、形状異方性を有することを特徴とするIII族窒化物半導体ナノ粒子。
【請求項6】
請求項5記載のIII族窒化物半導体ナノ粒子であって、楕円状、ロッド状、及び、ディスク状のいずれかの形状を有することを特徴とするIII族窒化物半導体ナノ粒子。
【請求項7】
請求項1又は2に記載のIII族窒化物半導体ナノ粒子であって、粒子内に2つの結晶構造を有する粒子は、XRDの回析強度比で閃亜鉛鉱構造の割合が30%以上であることを特徴とするIII族窒化物半導体ナノ粒子。
【請求項8】
形状異方性を有する請求項1又は2に記載のIII族窒化物半導体ナノ粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al、Ga、In等のIII族窒化物のナノ粒子に関し、特にピエゾ電界による発光効率低下を抑制した窒化物半導体ナノ粒子に関する。
【0002】
III族窒化物半導体ナノ粒子(以下、単にIII族窒化物ナノ粒子という)は、照明やディスプレイなどのELデバイス、センサや太陽電池などの受光素子、水素生成などの光触媒への応用が期待されている材料である。
【0003】
III族窒化物には、主な結晶構造としてウルツ鉱構造(六方晶)と閃亜鉛鉱構造(立方晶)があることが知られている。そのうち、ウルツ鉱構造のナノ粒子は、結晶に非対称性があるため、結晶に応力が加わり歪を受けると、正の電荷を持つIII族元素と負の電荷を持つ窒素元素の分極のバランスが崩れ、これに起因してC軸方向に電界(ピエゾ電界)が生じる。ピエゾ電界が生じるとIII族窒化物半導体ナノ粒子のエネルギーバンドが曲がり、電子と正孔の波動関数の重なり度合いが小さくなるために、発光再結合の確率が低下する。これにより発光効率が低下する。
【0004】
これに対し、閃亜鉛鉱構造のIII族窒化物は上述したような結晶の非対称性に起因するピエゾ電界の問題はないが、III族窒化物において閃亜鉛鉱構造は準安定な構造であり、安定相であるウルツ鉱構造のように安定的に得ることは困難である。例えば、特許文献1には、III族窒化物ナノ粒子とその製造方法が開示されており、一部のInNコアについて立方晶(閃亜鉛鉱構造)が得られたとの記載があるのみである。
【0005】
またナノ粒子においては、粒子の形状に異方性がある場合には、粒子に内部応力が発生し、ピエゾ電界による発光効率の低下を招く。
【0006】
さらにIII窒化物ナノ粒子を、上述した用途、例えばナノ粒子蛍光体として用いる場合、発光効率を向上させるために、コア粒子をシェルで被覆したコアシェル構造のものが必要となるが、この構造に起因する発光効率の低下もあり得る。具体的には、コアとシェルの格子定数が異なることや、構成する材料やその比率が異なることに起因して、粒子に内部応力が発生し、コア単体の場合に比べコアシェル構造の場合には、さらに効率の低下が大きくなる。さらに、コアシェル粒子の形状に異方性がある場合、ロッド状やディスク状など、コアは形状異方性による応力を受けるためピエゾ電界による発光効率の低下を招く。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5847863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した粒子あるいはコアシェル構造の形状や格子定数や組成の違いに起因するピエゾ電界の発生の問題は、ウルツ鉱構造の結晶構造と相まって、III族窒化物ナノ粒子の発光効率を低下させる原因となっている。
【0009】
本発明は、ピエゾ電界に起因するIII族窒化物ナノ粒子の発光効率低下の問題を解決し、歪を有する構造の粒子であっても、発光効率の低下を抑制したIII族窒化物ナノ粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明は、一つの粒子内にウルツ鉱構造と閃亜鉛鉱構造の2つの結晶構造を混在させたIII族窒化物ナノ粒子を提供する。
また本発明のIII族窒化物ナノ粒子は、一つの組成から構成された、2つの結晶構造を混在させた粒子、及び、一つの組成から構成された、2つの結晶構造を混在させた粒子をコアとして、その周囲に、コアとは異なる組成から構成されたシェルを含むコアシェル構造の粒子を含む。
【0011】
ここで、一つの粒子内に2つの結晶構造が混在するとは、多数の粒子が集まったIII族窒化物ナノ粒子において、個々の粒子がその粒子内に2つの結晶構造を混在させていることを意味する。
【0012】
また本発明のIII族窒化物ナノ粒子の製造方法は、III族窒化物原料と溶媒とを用いて、熱分解法によりIII族窒化物を合成するIII族窒化物ナノ粒子の製造方法であって、前記溶媒として含リン系溶媒を含む溶媒を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、III族窒化物ナノ粒子において、ウルツ鉱構造と閃亜鉛鉱構造の2つの結晶構造を一つの粒子内に混在させることで結晶の非対称性を緩和させることができる。これにより、正の電荷を持つIII族元素と負の電荷を持つ窒素元素の分極のバランスを安定化させることができ、ウルツ鉱構造特有のピエゾ電界を抑制することができ、発光効率の低下を防ぐことができる。
【0014】
またピエゾ電界は、III族窒化物ナノ粒子が成長面内方向に歪を受ける時に生じる電界であるので、歪を大きくする要因(形状、組成)を持つIII族窒化物ナノ粒子に対し、本発明を適用することで大きい効果が得られ、また、III窒化物ナノ粒子の設計の自由度が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ウルツ鉱構造のX線回折パターンを示す図。
図2】本発明のIII族窒化物ナノ粒子が採りえる形状の例を示す図で、(A)は楕円状粒子、(B)は球状のコアシェル粒子、(C)はロッド形状のコアシェル粒子、(D)はディスク状のコアシェル粒子である。
図3】III族窒化物ナノ粒子の組成と、エネルギーギャップ及び格子定数との関係を示す図。
図4】実施例1のIII族窒化物ナノ粒子のX線回折パターンを示す図。
図5】実施例1~3及び比較例のIII族窒化物ナノ粒子の、結晶構造混在比と発光輝度の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のIII族窒化物ナノ粒子とその製造方法の実施形態を説明する。
本発明のIII族窒化物ナノ粒子は、InGaAlN(0≦x,y,z ≦ 1)で表されるナノ粒子であり、一つの粒子内にウルツ鉱構造と閃亜鉛鉱構造の2つの結晶構造が混在している。一つの粒子内に2つの結晶構造が混在することにより、六方晶の格子に歪を与える組成や形状等の種々の条件においても歪が生じにくく、高い発光効率が得られる。粒子内に2つの結晶構造が混在している状態は、例えば、リートベルト法などの精密構造解析や、X線回折パターンの (110)と(103)との強度比から算出することができる。
【0017】
リートベルト法は、回折パターン全体を最小二乗法でフィッティングして格子定数等の定量値を算出する手法であり、算出した格子定数とウルツ鉱構造の格子定数/閃亜鉛鉱構造の格子定数との比から混在比を算出することができる。リートベルト法による測定は、Bruker社製の結晶構造解析ソフトウェア(TOPAS)を用いて行った。
【0018】
ウルツ鉱構造のX線回折パターンは、図1に示すように、立方晶にはない(103)のピークが、(110)のピークと識別しやすい位置に現れる。一方、立方晶には、(110)の近傍には(103)のピークはない。このため、1つの粒子の中に2つの結晶構造が混在することは、TEMにて1つの粒子のみを観察し、回折パターンからウルツ鉱構造と閃亜鉛鉱構造に共通する(110)のピークとウルツ鉱構造特有の(103)のピークの強度比を算出することで確認できる。
【0019】
さらに、本発明のIII族窒化物ナノ粒子の多数の集合に対するX線回折パターンを測定し、ウルツ鉱の(110)と(103)との強度比X0に対する測定対象(結晶構造の混在系)の強度比X1の割合Rを算出することで、混在系における閃亜鉛鉱の比率を算出することができ、混在比を算出できる。
R=(X1/X0)×100
混在比=R:(100-R)
【0020】
ウルツ鉱構造の比率は、10%以上が好ましく、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上とする。ウルツ鉱の10%程度では、ウルツ鉱構造単独の窒化物ナノ粒子と比べ優位な発光輝度を得ることができない。一方、閃亜鉛鉱構造の比率は50%以下であることが好ましい。準安定相である閃亜鉛鉱構造の比率を半分以下とすることで、III族窒化物ナノ粒子の結晶構造を安定に保つことができる。
【0021】
本発明のIII族窒化物ナノ粒子は、このように粒子内に2つの結晶構造を混在させているため、結晶の成長面方向に受ける歪を抑制することができ、歪を受けたときに生じるピエゾ電界を抑制することができる。III族窒化物ナノ粒子に歪を与える主な要因には、大きく分けて、次の2つがある。一つはナノ粒子の形状であり、例えば、単独の粒子の場合、図2(A)に示すような楕円球状の粒子はその形状異方性により歪が生じる。またコアシェル構造のナノ粒子の場合、図2(B)に示すように、歪の点からは球状のコアをほぼ均一にシェルが形成されることが理想的であるが、合成条件や組成の組み合わせ等によって、(C)に示すようなロッド状や、(D)に示すようなディスク状が形成される。これら形状異方性により歪が生じる。なお、ここで言う形状異方性とは、TEMによって当該粒子を観察したときに最大の径を最小の径で割った値、すなわちアスペクト比が1.1以上のものである。
【0022】
もう一つの要因は、コアシェル構造のナノ粒子における材料の組み合わせによって生じる、コアとシェルとの格子不整合である。Type1型の量子ドットでは、コア粒子のエネルギーギャップに対し、エネルギーギャップの大きいシェルとなる組み合わせとする。図3はIII族窒化物(バルク結晶)の組成とエネルギーギャップ及び格子定数との関係を示す図であり、図中、縦軸に沿って線上に位置する組成の組み合わせであれば格子定数を等しくすることができる。しかし、その場合、エネルギーギャップの差を大きくするのには限界がある。エネルギーギャップの差を大きくする組み合わせでは、ある程度の格子不整合が不可避となる。
【0023】
本発明のIII族窒化物ナノ粒子は、コア粒子が粒子内に所定の比率で対称性のよい閃亜鉛鉱構造を含むため、これらの要因で生じる歪を抑制することができ、これによりウルツ鉱構造単独の粒子に比べ発光効率を高めることができる。
【0024】
III族窒化物ナノ粒子の組成は、従来のIII族窒化物と同様であり、InN、GaN、AlNなどの二元系窒化物のいずれでもよいし、InxGayAlzN(但し、x,y,zはそれぞれ0以上1以下であり、x+y+z=1を満たす)で表される三元系窒化物であってもよい。
【0025】
コアをシェルで覆った構造のコアシェル型ナノ粒子の場合には、上記組成のうち、コア粒子のエネルギーギャップに対し、エネルギーギャップの大きいシェルとなる組み合わせとする。図3に示したように、Alの比率が高いほどエネルギーギャップは大きく、Inの比率が高いほどエネルギーギャップが小さく、Gaはこれらの中間に位置する。従って、シェル材料としては、AlやGaの比率を高めることが好ましく、コアはそれよりもエネルギーギャップが低くなる組成とすればよい。
【0026】
またコアとシェルの材料は、両者の格子整合を考慮して組成を調整する。格子整合についても図3に示したグラフにおいて、格子定数の近い組成の組み合わせとすることで、構成整合性のよいコアシェル構造とすることができる。ただし、上述したように本発明の結晶構造が混在することで、後述するように、格子不整合による歪を抑制することができるので、比較的自由な組成の組み合わせが可能である。
【0027】
次に本発明のIII族窒化物ナノ粒子の製造方法の一例について説明する。
本発明のIII族窒化物ナノ粒子は、基本的には、従来の熱分解法による化学合成によって製造することができ、III族原料と窒素原料とを所定の溶媒とともに、高温で反応させる。但し、従来の化学合成では、溶媒として、テトラデシルベンゼン、1-オクタデセン、トリオクチルホスフィン、ジフェニルエーテル、ベンゼンなどが用いられるが、本発明においては、粒子内に2つの結晶構造を混在させるために、含リン系の溶媒を用いることにことが好ましい。含リン系の溶媒としては、トリオクチルホスフィン(TOP)、トリオクチルホスフィンオキシド、などを用いることができ、特にTOPが好適である。
【0028】
溶媒は含リン系溶媒100%でもよいが、上述した一般的な合成溶媒との混合溶媒を用いてもよい。但し、反応に用いる溶媒における含リン系溶媒の割合が多いほど、閃亜鉛鉱構造の比率を高めることができる。溶媒100%が含リン系溶媒でもよく、この場合、閃亜鉛鉱構造の比率を40%近くまで高めることができる。
【0029】
III族原料及び窒素原料が化学反応によってIII族窒化物に合成される際には、最初に前駆体が形成され、その後、核形成、結晶成長の工程を経て、結晶粒子となるが、前駆体形成の時点で反応系に窒素と同じV族のリンが存在することによって、III-V族結合の共有結合性が変わり、これによって原子間距離が変化することにより、部分的に閃亜鉛構造が生成されるものと考えられる。
【0030】
それ以外は、従来の製造方法の方法を採用することができ、例えば、最初に原料を所定の昇温速度で140~150℃程度の温度に昇温して所定時間反応させて前駆体を形成する。次いでそれより高い温度、例えば、300℃~400℃程度まで昇温し、反応を進めて結晶を成長させる。この反応時間を制御することで、生成するナノ粒子の粒子径を制御することができる。
【0031】
粒子生成後は、エタノール等の溶媒を用いた遠心分離及び遠心洗浄を行い、ナノ粒子を回収する。必要に応じて、ナノ粒子に分散性を与える処理を行ってもよい。
【0032】
コアシェル構造の場合には、含リン系溶媒を用いて、粒子内に結晶構造が混在するコア粒子を製造した後、コア粒子とシェル原料及び溶媒を用いて、コア粒子と同様に合成を行う。シェル合成の際の溶媒は、上述した一般的な反応溶媒を用いることができる。これにより、粒子内に結晶構造が混在するコア粒子の周囲をシェルが覆ったコアシェル構造の窒化物ナノ粒子を得ることができる。
【0033】
III族原料としては、一般的な化学合成に用いられている材料、例えばヨウ化インジウム等のIII族のハロゲン化物を用いることができる。またトリメチル化物やトリエチル化物などの有機系材料を用いることも可能である。窒素材料としては、アンモニア、金属アジド化合物、金属窒化物、アミン類、金属アミドなどを用いることができる。特に、ナトリウムアミド、リチウムアミド等の金属アミドが好ましい。
【0034】
コア及びシェルに用いるIII族原料の量は、化学量論的な量で組成が決まるので、設計した組成となる量のIII族原料を用いればよく、それに対し当量以上の窒素原料を用いることで、目的の組成のIII族窒化物が得られる。また窒素(V)原料の量を過剰にし(例えば、VV/III=40)、反応温度を400℃程度の高温とすることで、コア粒子の形状を楕円形とすることができる。またシェルについても、窒素原料の量を過剰にする(例えば、V/III=40)か、反応温度(前駆体形成時あるいは結晶成長時)を400℃程度の高温とすることで、コアシェル型粒子の形状を制御することができ、ロッド型やディスク型の粒子を得ることができる。
【実施例
【0035】
以下、本発明のIII族窒化物半導体ナノ粒子の合成方法の実施例を説明する。
以下の実施例では、合成容器はParr社製4740、加熱装置はMS-ESB(アズワン製)を用いた。これはマントルヒーターとスターラーが一体化しているものである。また合成は、酸素・水分濃度が1ppm以下に管理されたグローブボックス内で、溶媒と原料を白金製の蓋付き内筒に投入し、それを合成容器に入れて行った。
【0036】
また各実施形態における結晶構造の解析、特に閃亜鉛鉱構造とウルツ鉱構造との混合比は、リートベルトなどの精密構造解析による定量化及びXRDの(110)と(103)の強度比より算出した。
【0037】
<実施例1>(InGaN粒子)
インジウム原料としてヨウ化インジウム(Aldrich製99.998%)を53.5mg(0.0.108mmol)、ガリウム原料としてヨウ化ガリウム(Aldrich製 99.99%)を194.6mg(0.0.432mmol)、窒素原料として、リチウムアミド(Aldrich製 97%)を987.6mg(43.20mmol)を用いた。また溶媒として、トリオクチルホスフィン(TOP)(Sigma Aldrich製 97%)6mlを用いた。
【0038】
上記原料及び溶媒を内筒に充填し、合成容器に内筒を収納した後、合成容器をマントルヒーターにセットし、5℃/分の昇温速度で150℃まで昇温した。温度140℃~160℃の間で5分反応させることで固相の前駆体を形成した。この際、溶媒への溶解度の低いリチウムアミドを均一に反応させるため、撹拌子にて撹拌を行った。撹拌速度は600rpmとした。その後、合成容器を400℃まで昇温し1時間合成を行った。合成後は反応を速やかに停止させるため、冷水にて容器を冷却した。
【0039】
合成終了後、合成液にエタノールを加え、超遠心にて遠心分離を行った。遠心後の上澄みを除去したのち再びエタノールを加え遠心分離を行った。この工程を3回行った後、ヘキサンを加えさらに遠心分離を行い、最後にエタノールで遠心洗浄を行い、粒子を回収した。遠心分離の条件は、28000rpm×30minとした。
【0040】
回収した粒子を、XRD、XRF、TEMで測定し、結晶構造及び粒子サイズ等を評価した。図4に、実施例1の粒子のXRD回折パターンを示す。また図4中に、ウルツ型構造及び閃亜鉛鉱構造のX線回折パターンのピーク位置を併せて示す。この回折パターンから、ウルツ鉱構造のピークが鈍化し、閃亜鉛鉱構造のピークが鮮明になっていることがわかる。さらに、XRDの(110)と(103)の強度比と、リートベルト法の精密構造解析による定量化とを用いて、ウルツ鉱構造と閃亜鉛鉱構造の混在比を算出した。その結果、実施例1の粒子は、ウルツ鉱構造:閃亜鉛鉱構造=70 : 30であった。
【0041】
<実施例2、3、比較例1>
反応容器(内筒)に投入する溶媒を、実施例1で用いた溶媒TOPを以下のように異ならせて、それ以外は実施例1と同様にして、窒化物粒子を合成し、回収した。
比較例1:DPE(ジフェニルエーテル)
実施例2:TDB(テトラデシルベンゼン)
実施例3:DPEとTOPの混合溶媒(DPE:TOP=1:1)
【0042】
比較例1及び実施例2の粒子のXRD回折パターンを、実施例1の結果を示す図4に示す。図4からわかるように、比較例1(溶媒:DPE)の粒子の結晶構造は、100%ウルツ鉱型であった。実施例2(溶媒:TDB)は実施例1と比較例1との中間的なパターンを示した。実施例1と同様に算出したウルツ鉱構造と閃亜鉛鉱構造の混在比(ウルツ鉱構造:閃亜鉛鉱構造)は、実施例2は90:10、実施例3は、80:20であり、いずれも両構造が混在していることが確認された。
【0043】
さらに、実施例1~3及び比較例1の発光輝度を、分光蛍光光度計を用い、励起波長365nmとして測定した。結果を図5に示す。この結果からわかるように、混在比と発光輝度とはほぼ比例関係にあり、閃亜鉛鉱構造の比率が高いほど発光輝度が高いことがわかる。また溶媒におけるTOPの割合が多いほど、閃亜鉛鉱構造の比率が高くなることがわかる。さらに溶媒としてTDBを用いた実施例2でも、10%程度の閃亜鉛鉱構造の混在が認められたが、この場合の発光輝度は、DPEを用いた比較例1と変わらず、本実施例の組成では、閃亜鉛鉱構造の比率が10%以上で発光輝度が向上することが確認された。なお、実施例1,2,3および比較例1の方法で作製した粒子は、形状異方性を有していた。
【0044】
<実施例4>(2.1 InGaNコア/GaNシェル)
インジウム原料としてヨウ化インジウム(Aldrich製99.998%)を53.5mg(0.108mmol)、ガリウム原料としてヨウ化ガリウム(Aldrich製 99.99%)を194.6mg(0.432mmol)、窒素原料として、リチウムアミド(Aldrich製 97%)を246.9mg(10.80mmol)用いた。溶媒として、トリオクチルホスフィン(Sigma Aldrich製 97%)を6ml用いた。
【0045】
上記原料及び溶媒を内筒に充填し、合成容器に内筒を収納した後、合成温度を350℃とした以外は実施例1と同様の条件で合成を行い、遠心分離及び遠心洗浄を行い、粒子を回収した。この粒子の組成は、In0.2Ga0.8N、粒子サイズは約5nmであった。また実施例1と同様に、XRD回折パターンから算出したウルツ鉱構造と閃亜鉛構造の混在比は、ウルツ鉱構造:閃亜鉛鉱構造=68 : 32であった。
【0046】
続いて、合成したInGaNナノ粒子をコア粒子として、GaNシェルを合成した。シェルの材料は、ガリウム原料としてヨウ化ガリウム(Aldrich製 99.99%)を243.2mg(0.540mmol)、窒素原料として、リチウムアミド(Aldrich製 97%)を246.9mg(10.80mmol)を用い、溶媒として、ジフェニルエーテル(Sigma Aldrich製 99%)6mlを用いた。
【0047】
これらシェル材料及び溶剤と、InGaNコア粒子25.0mg(0.27mmol)を内筒に充填し、内筒を合成容器に収納した。合成容器をマントルヒーターにセットし、5℃/minにて150℃まで昇温し、温度140℃~160℃の間で、撹拌速度は600rpm しながら5分反応させることで固相の前駆体を形成した。その後、合成容器を350℃まで昇温し、1時間合成をおこなった合成後は反応を速やかに停止させるため、冷水にて容器を冷却した。
合成終了後、実施例1の粒子回収手順と同様に、遠心分離とエタノールを用いた遠心洗浄を行い、粒子を回収した。この結果、InGaNをコア、GaNをシェルとするコアシェル型粒子を得た
【0048】
<実施例5>( GaNコア/AlGaNシェル)
コアとシェルの組成を異ならせて、実施例4と同様に、コアシェル構造の窒化物ナノ粒子を製造した。
【0049】
コア材料は、ガリウム原料としてヨウ化ガリウム(Aldrich製 99.99%)を243.2mg(0.540mmol)、窒素原料として、リチウムアミド(Aldrich製 97%)を246.9mg(10.80mmol)を用いた。溶媒は、実施例4と同様に、トリオクチルホスフィン(Sigma Aldrich製 97%)を6ml用い、実施例4と同様の方法で合成を行い、GaNコア粒子を回収した。
【0050】
コア粒子のウルツ鉱構造と閃亜鉛鉱構造の混在比は、ウルツ鉱構造:閃亜鉛鉱構造=65 : 35であった。
【0051】
このGaNコア粒子を22.6mg(0.27mmol)用い、アルミニウム原料としてヨウ化アルミニウム(Aldrich製 99.999%)を110.1mg(0.27mmol)、ガリウム原料としてヨウ化ガリウム(Aldrich製 99.99%)を121.6mg(0.270mmol)、窒素原料として、リチウムアミド(Aldrich製 97%)を246.9mg(10.80mmol)を用い、溶媒として、ジフェニルエーテル(Sigma Aldrich製 99%を)6ml用い、実施例4と同様の方法でGaNコア粒子の上にAl0.5Ga0.5Nシェルを形成し、粒子を回収した。
【0052】
<実施例6、7>
シェルの組成を異ならせて、実施例4と同様に、コアシェル構造の窒化物ナノ粒子を製造した(実施例6:InGaNコア/AlInNシェル 実施例7:InGaNコア/InGaNシェル)。
【0053】
実施例6では、Al0.8In0.2Nシェルとするため、アルミニウム原料としてヨウ化アルミニウム(Aldrich製 99.999%)を176.1mg(0.432mmol)、インジウム原料としてヨウ化インジウム(Aldrich製 99.998%)を53.5mg(0.108mmol)、窒素原料として、リチウムアミド(Aldrich製 97%)を246.9mg(10.80mmol)を用いた。
【0054】
実施例7では、In0.1Ga0.9Nシェルとするため、インジウム原料としてヨウ化インジウム(Aldrich製 99.998%)を176.1mg(0.054mmol)、ガリウム原料としてヨウ化ガリウム(Aldrich製 99.99%)を53.5mg(0.486mmol)、窒素原料として、リチウムアミド(Aldrich製 97%)を246.9mg(10.80mmol)を用いた。
【0055】
両実施例でも、実施例4と同様にIn0.2Ga0.8Nコア粒子を合成し、このInGaNコア粒子25.0mg(0.270mmol)を上記シェル材料及び溶媒ジフェニルエーテル(Sigma Aldrich製 99%)6mlとともにとともに内筒に充填した後、内筒を合成容器に収納し、実施例4と同じ条件でシェルを合成し、InGaNコア粒子上にAlInNシェル(実施例6)またはInGaNシェル(実施例7)を積層した粒子を得た。
【0056】
<実施例8>(ロッド)
実施例4と同様に合成したInGaNコア粒子(In0.2Ga0.8Nコア粒子25.0mg(0.27mmol))を用いて、GaNシェルを合成した。合成の際に用いるIII族(Ga)とV族(窒素)との割合を異ならせて、形状がロッド状のシェルを合成した。
【0057】
すなわち、ガリウム原料としてヨウ化ガリウム(Aldrich製 99.99%)を243.2mg(0.540mmol)、窒素原料として、リチウムアミド(Aldrich製 97%)を987.6mg(43.20mmol)用いた。溶媒は、ジフェニルエーテル(Sigma Aldrich製 99%)を6ml用いた。
合成終了後、実施例4と同様に、遠心分離及び遠心洗浄を行い、粒子を回収した。
【0058】
<実施例9>(ディスク)
実施例4と同様に合成したInGaNコア粒子を用いて、シェルの合成温度を制御することにより、形状がディスク状のシェルを合成した。
【0059】
本実施例では、コア組成及びシェル組成を実施例4と同様にし、シェルを合成する際に前駆体形成後の合成温度を、実施例4では350℃であったのに対し、400℃まで昇温して1時間合成を行った。それ以外は実施例4と同様にして、InGaNコア粒子にGaNシェルが形成されたコアシェル粒子を得た。
【0060】
以上の実施例により、粒子内にウルツ鉱構造と閃亜鉛鉱構造の2つの結晶構造が混在するIII族窒化物ナノ粒子が製造できることが確認された。また合成に用いるIII族原料と窒素原料の割合(V/III)や反応温度を制御することで粒子の形状が制御でき、楕円形やロッド形状などのIII族窒化物ナノ粒子が製造できることが確認された。
【符号の説明】
【0061】
10:III族窒化物ナノ粒子、1:コア、2:シェル
図1
図2
図3
図4
図5