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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】スクロール型圧縮機
(51)【国際特許分類】
   F04C 18/02 20060101AFI20250206BHJP
【FI】
F04C18/02 311J
F04C18/02 311E
F04C18/02 311B
F04C18/02 311U
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020209024
(22)【出願日】2020-12-17
(65)【公開番号】P2022096103
(43)【公開日】2022-06-29
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(72)【発明者】
【氏名】手島 淳夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 泰造
(72)【発明者】
【氏名】今井 哲也
【審査官】石黒 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-288166(JP,A)
【文献】特開平7-259756(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央部に吐出孔を有する固定基板、及び、前記固定基板に立設された渦巻状の固定ラップを有する固定スクロールと、
旋回基板、及び、前記旋回基板に立設されて前記固定ラップに噛み合う渦巻状の旋回ラップを有する旋回スクロールと、
前記旋回ラップの内壁面と前記固定ラップの外壁面とにより形成される第1圧縮室と、
前記固定ラップの内壁面と前記旋回ラップの外壁面とにより形成される第2圧縮室と、
前記旋回スクロールの自転を阻止する自転阻止機構と、
前記旋回スクロールの背面側に設けられる背圧室と、
を備え、前記自転阻止機構により前記旋回スクロールの自転を阻止しつつ、前記旋回スクロールを前記固定スクロールの軸心周りに公転旋回運動させて前記第1圧縮室の容積及び前記第2圧縮室の容積をそれぞれ変化させることにより、前記第1圧縮室内の流体及び前記第2圧縮室内の流体をそれぞれ圧縮して一緒に前記吐出孔から吐出室へ吐出するスクロール型圧縮機であって、
前記旋回基板は、前記第1圧縮室と前記背圧室とを連通可能な第1貫通孔、及び、前記第2圧縮室と前記背圧室とを連通可能な第2貫通孔を有し、
前記第2圧縮室が前記第2貫通孔を介して前記背圧室と連通するに先立って、前記第1圧縮室が前記第1貫通孔を介して前記背圧室と連通する、スクロール型圧縮機。
【請求項2】
前記背圧室内の圧力が前記第1圧縮室内の圧力よりも高く、かつ、前記第2圧縮室内の圧力よりも高い時期において、前記第1圧縮室と前記背圧室との前記第1貫通孔を介する連通を開始した後に、前記第2圧縮室と前記背圧室との前記第2貫通孔を介する連通を開始する、請求項1に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項3】
前記自転阻止機構は、前記旋回基板の背面と該背面に対向するハウジング壁とのいずれか一方に形成された円形穴に圧入されるリングと、他方に突設されて前記リングの内側に遊嵌されるピンとを含む、請求項1又は請求項2に記載のスクロール型圧縮機。
【請求項4】
前記固定ラップの基礎円上の基準点から前記固定ラップの巻き終わり端部までの伸開角と、前記旋回ラップの基礎円上の基準点から前記旋回ラップの巻き終わり端部までの伸開角とが同じである、請求項1~請求項3のいずれか1つに記載のスクロール型圧縮機。
【請求項5】
前記旋回ラップの巻き終わり端部と前記固定ラップの外壁面とが当接することによって前記第1圧縮室が密閉されると同時に、前記固定ラップの巻き終わり端部と前記旋回ラップの外壁面とが当接することによって前記第2圧縮室が密閉される、請求項1~請求項4のいずれか1つに記載のスクロール型圧縮機。
【請求項6】
前記固定ラップの基礎円上の基準点から前記固定ラップの巻き終わり端部までの伸開角が、前記旋回ラップの基礎円上の基準点から前記旋回ラップの巻き終わり端部までの伸開角よりも小さい、請求項1~請求項3のいずれか1つに記載のスクロール型圧縮機。
【請求項7】
前記旋回ラップの巻き終わり端部と前記固定ラップの外壁面とが当接することによって前記第1圧縮室が密閉された後に、前記固定ラップの巻き終わり端部と前記旋回ラップの外壁面とが当接することによって前記第2圧縮室が密閉される、請求項1~請求項3及び請求項6のいずれか1つに記載のスクロール型圧縮機。
【請求項8】
前記固定基板の中心と前記固定ラップの基礎円の中心とが互いに偏心しており、
前記旋回基板の中心と前記旋回ラップの基礎円の中心とが互いに偏心している、請求項1~請求項7のいずれか1つに記載のスクロール型圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置などに用いられるスクロール型圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示のスクロール型圧縮機は、基板(底板)に渦巻状のラップが立設されて基板の中心とラップの基礎円の中心(渦巻中心)とが互いに偏心している固定スクロール及び旋回スクロール(可動スクロール)を、互いのラップを対向して噛み合わせて密閉空間を形成するスクロールユニットと、旋回スクロールの自転を阻止する自転阻止機構と、を備えており、自転阻止機構により旋回スクロールの自転を阻止しつつ、旋回スクロールを固定スクロールの軸心周りに公転旋回運動させて前記密閉空間の容積を変化させている。特許文献1には、自転阻止機構が、旋回スクロールの基板の背面に形成された円形穴と、旋回スクロールの基板の背面に対向するハウジング壁に突設されて円形穴に係合するピンとにより構成されることが開示されている。また、特許文献1には、スクロール型圧縮機による圧縮に伴う圧縮反力によって旋回スクロールに自転モーメントが発生し、この自転モーメントによる荷重が自転阻止機構に作用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-059517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述のようなスクロール型圧縮機の作動時に、前述の自転モーメントの瞬間的な消失が発生し、その結果、前述のピンが円形穴の内周面から瞬間的に離れた後、円形穴の内周面に再衝突するという現象が発生していることを本発明者が見出した。
【0005】
そこで、本発明は、旋回スクロールに発生する自転モーメントの低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によると、スクロール型圧縮機が提供される。このスクロール型圧縮機は、中央部に吐出孔を有する固定基板、及び、固定基板に立設された渦巻状の固定ラップを有する固定スクロールと、旋回基板、及び、旋回基板に立設されて固定ラップに噛み合う渦巻状の旋回ラップを有する旋回スクロールと、旋回ラップの内壁面と固定ラップの外壁面とにより形成される第1圧縮室と、固定ラップの内壁面と旋回ラップの外壁面とにより形成される第2圧縮室と、旋回スクロールの自転を阻止する自転阻止機構と、旋回スクロールの背面側に設けられる背圧室と、を備え、自転阻止機構により旋回スクロールの自転を阻止しつつ、旋回スクロールを固定スクロールの軸心周りに公転旋回運動させて第1圧縮室の容積及び第2圧縮室の容積をそれぞれ変化させることにより、第1圧縮室内の流体及び第2圧縮室内の流体をそれぞれ圧縮して一緒に吐出孔から吐出室へ吐出する。旋回基板は、第1圧縮室と背圧室とを連通可能な第1貫通孔、及び、第2圧縮室と背圧室とを連通可能な第2貫通孔を有する。第2圧縮室が第2貫通孔を介して背圧室と連通するに先立って、第1圧縮室が第1貫通孔を介して背圧室と連通する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第1圧縮室内の圧力を第2圧縮室内の圧力よりも高い状態とすることができるので、その分、旋回スクロールに発生する自転モーメントを増加させることができ、ひいては、自転モーメントの低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係るスクロール型圧縮機の概略構成を示す断面図
図2】旋回スクロールの平面図
図3】自転阻止機構を構成する自転阻止部の拡大断面図
図4】旋回基板における自転阻止機構の自転阻止部の配置図
図5】前記スクロール型圧縮機における気体冷媒及び潤滑油の流れを説明するためのブロック図
図6】圧縮室内の圧力及び背圧室内の圧力と渦巻旋回角度(クランク角)との関係を示す図
図7】スクロール型圧縮機の作動状態を示す図
図8】スクロール型圧縮機の作動状態を示す図
図9】スクロール型圧縮機の作動状態を示す図
図10】スクロール型圧縮機の作動状態を示す図
図11】スクロール型圧縮機の作動状態を示す図
図12】スクロール型圧縮機の作動状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0010】
図1は、本発明の一実施形態に係るスクロール型圧縮機10の概略構成を示す断面図である。スクロール型圧縮機10は、車両用空調装置などの冷媒回路に組み込まれ、当該冷媒回路から低圧の気体冷媒を受けて圧縮し、高圧化して当該冷媒回路に戻すように構成される。尚、図1における左側がスクロール型圧縮機10における前側、図1における右側がスクロール型圧縮機10における後側、図1における上側がスクロール型圧縮機10における上側、及び、図1における下側がスクロール型圧縮機10における下側である。また、前述の気体冷媒は、本発明における流体の一例である。
【0011】
スクロール型圧縮機10は、ハウジング20と、回転軸30と、回転軸30を回転させる電動モータ40と、回転軸30によって駆動されて(低圧の)気体冷媒を圧縮するスクロールユニット50と、電動モータ40を駆動制御するインバータ60とを有する。回転軸30、電動モータ40、スクロールユニット50及びインバータ60は、ハウジング20に収容されている。また、スクロールユニット50は、固定スクロール51と、固定スクロール51に対して旋回運転する旋回スクロール52とを含む。固定スクロール51と旋回スクロール52とは、スクロール型圧縮機10の中心軸方向に対向配置されている。
【0012】
ハウジング20は、フロントハウジング21、カバー部材22、センターハウジング23及びリアハウジング24を含む。そして、これらが図示省略の締結具などによって締結されてスクロール型圧縮機10のハウジング20が構成されている。
【0013】
フロントハウジング21は、前後に延びる円筒状の第1周壁部211と、第1周壁部211の内部を前後に仕切る第1隔壁部212とを有する。第1周壁部211の前端面がフロントハウジング21の前端面を構成し、第1周壁部211の後端面がフロントハウジング21の後端面を構成する。本実施形態において、第1周壁部211の内部(すなわち、フロントハウジング21の内部空間)は、第1隔壁部212によって、インバータ60を収容する前側のインバータ収容空間と、電動モータ40を収容する後側のモータ収容空間とに仕切られている。つまり、電動モータ40及びインバータ60は、フロントハウジング21に収容されている。
【0014】
第1隔壁部212には回転軸30の前端部を支持する支持部213が設けられている。具体的には、本実施形態において、支持部213は、第1隔壁部212の後側の面から前記モータ収容空間内に円筒状に突出して形成され、内部に装着された第1軸受214を介して回転軸30の前端部を回転自在に支持するように構成されている。
【0015】
フロントハウジング21の前端面にはカバー部材22が接合され、これにより、前記インバータ収容空間が閉塞されている(インバータ収容室が形成される)。フロントハウジング21の後端面にはセンターハウジング23の前端面が接合されている。尚、フロントハウジング21とカバー部材22との間及びフロントハウジング21とセンターハウジング23との間には必要に応じてシール部材が配置され得る。
【0016】
センターハウジング23は、前後に延びる円筒状の第2周壁部231と、第2周壁部231の内部を前後に仕切る第2隔壁部232とを有する。第2周壁部231の前端面がセンターハウジング23の前端面を構成し、第2周壁部231の後端面がセンターハウジング23の後端面を構成する。本実施形態において、第2周壁部231の内部(すなわち、センターハウジング23の内部空間)は、第2隔壁部232によって、フロントハウジング21の前記モータ収容空間に接続する前側の接続空間と、スクロールユニット50を収容する後側のスクロール収容空間とに仕切られている。つまり、スクロールユニット50は、センターハウジング23に収容されている。
【0017】
第2隔壁部232は、フロントハウジング21(モータ収容空間)側に突出する中空突出部233を有している。中空突出部233は、フロントハウジング21の第1隔壁部212に設けられた支持部213に対向するように、第2隔壁部232の径方向中央に設けられている。中空突出部233の頂部には、中空突出部233の内外を連通し且つ回転軸30の後端側が挿通される挿通孔234が形成されている。また、中空突出部233の内部には、回転軸30の後端側の部位を回転自在に支持する第2軸受235が装着されている。つまり、本実施形態において、回転軸30は、フロントハウジング21側に設けられた第1軸受214とセンターハウジング23側に設けられた第2軸受235とによって回転自在に支持されている。
【0018】
センターハウジング23の後端面にはリアハウジング24の前端面が接合されている。ここで、本実施形態において、センターハウジング23の後端面、すなわち、第2周壁部231の後端面には、スクロールユニット50を構成する固定スクロール51の固定基板511の外縁部を収容する凹部236が形成されている。そして、固定スクロール51は、固定基板511の外縁部がセンターハウジング23とリアハウジング24とに挟持され、これによって、固定スクロール51が固定されていると共に第2周壁部231の後側の開口が固定スクロール51の固定基板511で閉塞されている。尚、センターハウジング23とリアハウジング24との間には必要に応じてシール部材が配置され得る。
【0019】
リアハウジング24は、有底円筒状に形成されており、前後に延びる円筒状の第3周壁部241と、第3周壁部241の後側の開口を閉塞する底壁部242とを有する。そして、リアハウジング24の前端面を構成する第3周壁部241の前端面がセンターハウジング23の後端面である第2周壁部231の後端面に接合され、これによって、第3周壁部241の前側の開口が固定スクロール51の固定基板511で閉塞されている。
【0020】
電動モータ40は、例えば三相交流モータで構成されており、ステータコアユニット41と、ロータ42とを含む。
【0021】
ステータコアユニット41は、フロントハウジング21の第1周壁部211の内周面に固定されている。ステータコアユニット41には、図示しない車載バッテリなどからの直流電流がインバータ60によって交流電流に変換されて供給される。
【0022】
ロータ42は、ステータコアユニット41の径方向内側に所定の隙間を有して配置されている。ロータ42には永久磁石が組み込まれている。ロータ42は、円筒状に形成されており、その中空部に回転軸30が挿通された状態で回転軸30に固定されている。すなわち、ロータ42は、回転軸30と一体化されている。
【0023】
電動モータ40は、インバータ60からの給電によってステータコアユニット41に磁界が発生すると、ロータ42の前記永久磁石に回転力が作用してロータ42が回転し、これによって、回転軸30を回転させる。
【0024】
スクロールユニット50は、前述のように、固定スクロール51と、固定スクロール51に対して旋回運転する旋回スクロール52とを含む。
【0025】
固定スクロール51は、円板状の固定基板511と、固定基板511の一方の面に立設された渦巻状の固定ラップ512とを有する。本実施形態の固定スクロール51では、固定基板511上に渦巻状の固定ラップ512が一体に立設されている。固定ラップ512は、固定基板511の前記一方の面上を径方向内側の内端部(巻き始め端部)から径方向外側の外端部(巻き終わり端部)51c(図7参照)まで渦巻状に延びている。そして、固定スクロール51は、固定基板511の前記一方の面(固定ラップ512が立設された面)が前方を向いた状態で固定基板511の外縁部がセンターハウジング23とリアハウジング24とに挟持されて固定されている。
【0026】
図2は、旋回スクロール52の平面図である。図1及び図2に示すように、旋回スクロール(可動スクロール)52は、円板状の旋回基板(可動基板)521と、旋回基板521の一方の面に立設された旋回ラップ(可動ラップ)522とを有する。本実施形態の旋回スクロール52では、旋回基板521上に渦巻状の旋回ラップ522が一体に立設されている。旋回ラップ522は、旋回基板521の前記一方の面上を径方向内側の内端部(巻き始め部)から径方向外側の外端部(巻き終わり部)52cまで渦巻状に延びている。そして、旋回スクロール52は、旋回ラップ522が固定スクロール51の固定ラップ512に噛み合うように配置されている。すなわち、旋回スクロール52は、センターハウジング23の第2隔壁部232と固定スクロール51との間に、旋回基板521の前記一方の面(旋回ラップ522が立設された面)が後方を向いた状態で配置されている。ここにおいて、固定スクロール51と旋回スクロール52とは、固定ラップ512と旋回ラップ522とを噛み合わせ、固定ラップ512の突出側の端縁が旋回基板521に接触し、旋回ラップ522の突出側の端縁が固定基板511に接触するように配設されている。尚、固定ラップ512の突出側の端縁と旋回ラップ522の突出側の端縁とには、それぞれ、チップシールが設けられている。
【0027】
本実施形態では、図2に示すように、旋回ラップ522は、基礎円(仮想円)52aから延びるインボリュート曲線(仮想線)に沿うように形成されている。ここにおいて、旋回ラップ522の伸開角とは、基礎円52aの中心(固定渦巻中心)52b回りの角度であって、基礎円52a上の基準点(前記インボリュート曲線の始点)から旋回ラップ522の巻き終わり端部52cまでの角度である。
【0028】
図示は省略するが、旋回ラップ522と同様に、固定ラップ512についても、基礎円(仮想円)から延びるインボリュート曲線(仮想線)に沿うように形成されている。ここにおいて、固定ラップ512の伸開角とは、固定ラップ512の基礎円の中心(固定渦巻中心)回りの角度であって、当該基礎円上の基準点(前記インボリュート曲線の始点)から固定ラップ512の巻き終わり端部51c(図7参照)までの角度である。
【0029】
本実施形態では、固定ラップ512の伸開角と旋回ラップ522の伸開角とが同じである。しかしながら、固定ラップ512の伸開角と旋回ラップ522の伸開角とが異なっていてもよい。
【0030】
本実施形態では、固定ラップ512は、固定基板511の中心(図示せず)に対してその基礎円の中心を偏心させて形成されている。また、旋回ラップ522は、旋回基板521の中心(図示せず)に対してその基礎円52aの中心52bを偏心させて形成されている。これにより、スクロールユニット50の外径を小さくでき、スクロール型圧縮機10の胴径を縮小でき、スクロール型圧縮機10の小型化を図ることができる。
【0031】
旋回スクロール52は、回転軸30によってクランク機構70を介して駆動され、固定スクロール51に対して旋回運動するように、換言すれば、固定スクロール51の軸心周りに公転するように構成されている。
【0032】
クランク機構70は、回転軸30と旋回スクロール52とを連結すると共に、回転軸30の回転運動を旋回スクロール52の旋回運動に変換するように構成されている。本実施形態において、クランク機構70は、センターハウジング23の第2隔壁部232の中空突出部233の内部に配設されている。クランク機構70は、回転軸30の後端部に立設されたクランクピン71と、クランクピン71に対して偏心状態で取り付けられた偏心ブッシュ72と、旋回スクロール52の旋回基板521の背面に突出形成された円筒部73とを含む。偏心ブッシュ72は、図示省略の軸受を介して円筒部73の内周面に回転自在に支持されている。尚、回転軸30の後端部には、旋回スクロール52の旋回運動によって発生する遠心力に対抗するバランサウェイト74が取り付けられている。
【0033】
スクロールユニット50は、旋回スクロール52が固定スクロール51に対して旋回運動を行うことで低圧の気体冷媒を取り込んで圧縮するように構成されている。尚、旋回スクロール52の旋回基板521とセンターハウジング23の第2隔壁部232との間には円環板状のスラストプレート80が配置されており、第2隔壁部232の後側の面がスラストプレート80を介して旋回スクロール52からのスラスト力を受けるようになっている。
【0034】
旋回スクロール52は、その自転が、自転阻止機構300によって阻止され得る。ここで、自転阻止機構300について、図3及び図4を用いて説明する。
【0035】
図3は、自転阻止機構300を構成する自転阻止部303の拡大断面図である。図4は、旋回基板521における自転阻止機構300の自転阻止部303の配置図である。
【0036】
自転阻止機構300は、図3に示すように、旋回基板521の他方の面である背面に形成された円形穴に圧入されるリング301と、センターハウジング23の第2隔壁部232に突設されてスラストプレート80を貫通してリング301の内側に遊嵌されるピン302とで構成される自転阻止部303を、図4に示すように、旋回基板521の背面の外周縁近傍の周方向に沿って等間隔に複数(本実施形態では5個)配置して構成されている。尚、自転阻止部303は、少なくとも3個以上あれば、旋回スクロール52は自転をすることなく固定スクロール51の軸心周りに公転旋回運動することができる。ここで、第2隔壁部232は、本発明の「ハウジング壁」の一例である。
【0037】
図1に戻り、本実施形態において、スクロール型圧縮機10は、低圧の気体冷媒が流入する吸入室H1と、低圧の気体冷媒を圧縮する圧縮室H2と、圧縮室H2で圧縮された気体冷媒が吐出される吐出室H3と、圧縮室H2で圧縮された気体冷媒から潤滑油を分離する気液分離室H4と、旋回スクロール52の背面側(旋回基板521の背面側)に設けられた背圧室H5とを有する。
【0038】
吸入室H1は、フロントハウジング21の第1周壁部211、フロントハウジング21の第1隔壁部212、センターハウジング23の第2周壁部231及びセンターハウジング23の第2隔壁部232によって区画形成されている。すなわち、本実施形態においては、フロントハウジング21の前記モータ収容空間とセンターハウジング23の前記接続空間とによって吸入室H1が形成されている。第1周壁部211には、吸入口P1が形成されている。吸入口P1は、図示省略の接続管などを介して前記冷媒回路(の低圧側)に接続されている。このため、吸入室H1には、吸入口P1を介して、前記冷媒回路からの低圧の冷媒が流入する。また、センターハウジング23には、吸入室H1内の低圧の気体冷媒をスクロールユニット50の外端部近傍の空間H6に導くための冷媒通路L1が形成されている。
【0039】
圧縮室H2は、スクロールユニット50内、すなわち、固定スクロール51と旋回スクロール52との間に形成される。スクロールユニット50は、圧縮室H2の形成時に空間H6から低圧の気体冷媒を取り込むことで低圧の気体冷媒を圧縮するように構成されている。
【0040】
本実施形態では、固定スクロール51と旋回スクロール52とは、固定ラップ512と旋回ラップ522とで周方向の角度が互いにずれた状態で、固定ラップ512の壁面と旋回ラップ522の壁面とが互いに部分的に接触するように配設される。それゆえ、本実施形態では、図2及び図7図10に示すように、旋回ラップ522の内壁面522aと固定ラップ512の外壁面512bとにより三日月状の第1圧縮室C1が形成され、固定ラップ512の内壁面512aと旋回ラップ522の外壁面522bとにより三日月状の第2圧縮室C2が形成される。ここで、図10図12に示す最終圧縮室C3は、第1圧縮室C1と第2圧縮室C2とが合わさって一体化されたものである。本実施形態では、第1圧縮室C1、第2圧縮室C2、及び、最終圧縮室C3は、前述の圧縮室H2を構成し得るものである。
【0041】
旋回スクロール52は、旋回基板521の中心(軸心)が固定基板511の中心(軸心)に対して偏心して組み付けられ、自転阻止機構300によって自転が阻止されつつ、回転軸30によってクランク機構70を介して固定基板511の中心回りに公転旋回運動される。この公転旋回運動の旋回半径は、固定ラップ512と旋回ラップ522との接触により規定され得る。この公転旋回運動によって、第1圧縮室C1及び第2圧縮室C2が旋回ラップ522の巻き終わり端部52c及び固定ラップ512の巻き終わり端部51cから中心部へ向かって移動されることにより、第1圧縮室C1の容積と第2圧縮室C2の容積とがそれぞれ縮小方向に変化する。従って、旋回ラップ522の巻き終わり端部52c側から第1圧縮室C1内に取り込まれた気体冷媒が圧縮されると共に、固定ラップ512の巻き終わり端部51c側から第2圧縮室C2内に取り込まれた気体冷媒が圧縮される。第1圧縮室C1内で圧縮された気体冷媒と、第2圧縮室C2で圧縮された気体冷媒とは、第1圧縮室C1と第2圧縮室C2とが合わさって一体化された最終圧縮室C3内で一緒になる。
【0042】
図1に示す吐出室H3は、リアハウジング24の第3周壁部241と、リアハウジング24の底壁部242と、固定スクロール51の固定基板511とによって形成されている。つまり、リアハウジング24の第3周壁部241の内部が吐出室H3を構成している。固定スクロール51の固定基板511の径方向中央には、最も内側に移動した(最も容積が小さくなった)圧縮室H2(最終圧縮室C3)と吐出室H3とを連通する吐出孔L2が形成されている。このため、吐出室H3には、スクロールユニット50の圧縮室H2(最終圧縮室C3)で圧縮された気体冷媒が吐出孔L2を介して吐出される。尚、吐出室H3を臨む、固定スクロール51の固定基板511の他方の面には、圧縮室H2(最終圧縮室C3)から吐出室H3への気体冷媒の流通を許容するが、吐出室H3から圧縮室H2(最終圧縮室C3)への気体冷媒の流通を規制する、例えばリード弁からなる逆止弁90が取り付けられている。
【0043】
気液分離室H4は、リアハウジング24に設けられている。具体的には、本実施形態において、気液分離室H4は、リアハウジング24の底壁部242を外周面から内部へと向かって下方に延びる円柱状空間として形成されている。気液分離室H4内には、気体冷媒に含まれる潤滑油を分離するオイルセパレータ100が配置されている。ここでは遠心分離式のオイルセパレータが用いられているが、これに限られるものではなく、他の方式のオイルセパレータが用いられてもよい。気液分離室H4におけるオイルセパレータ100より上部には、吐出口P2が設けられている。吐出口P2は、図示省略の接続管などを介して前記冷媒回路(の高圧側)に接続されている。また、リアハウジング24の底壁部242には、吐出室H3と気液分離室H4とを連通する連通孔L3が形成されている。
【0044】
このため、吐出室H3内の気体冷媒、すなわち、圧縮室H2で圧縮された気体冷媒(高圧の気体冷媒)は、連通孔L3を介して気液分離室H4に流入し、オイルセパレータ100によって潤滑油が分離され、その後、吐出口P2から前記冷媒回路の高圧側へと導出される。一方、オイルセパレータ100によって高圧の気体冷媒から分離された潤滑油は、重力によって気液分離室H4の下部へと導かれる。
【0045】
背圧室H5は、旋回スクロール52の旋回基板521とセンターハウジング23の第2隔壁部232との間に形成されている。本実施形態において、背圧室H5は、第2隔壁部232の中空突出部233の内部空間を含む。センターハウジング23、固定スクロール51の固定基板511、及び、リアハウジング24には、背圧室H5と気液分離室H4とを接続する潤滑油通路L4が形成されている。潤滑油通路L4の途中には、オリフィス(絞り部)OL1が配置されている。
【0046】
このため、気液分離室H4において、オイルセパレータ100によって高圧の気体冷媒から分離された潤滑油(気液分離室H4の下部に一時的に貯留された潤滑油を含む)は、潤滑油通路L4を介して背圧室H5に供給される。
【0047】
本実施形態では、図2に示すように、旋回スクロール52の旋回基板521に、第1貫通孔701と第2貫通孔702とが形成されている。第1貫通孔701は、旋回基板521における第1圧縮室C1と背圧室H5とを連通可能な位置に貫通形成されている。第2貫通孔702は、旋回基板521における第2圧縮室C2と背圧室H5とを連通可能な位置に貫通形成されている。第1貫通孔701は旋回基板521における旋回ラップ522の内壁面522aの近傍にて開口している。これに対し、第2貫通孔702は旋回基板521における旋回ラップ522の外壁面522bの近傍にて開口している。
【0048】
次に、図1及び図5を参照してスクロール型圧縮機10における気体冷媒及び潤滑油の流れを説明する。図5は、スクロール型圧縮機10における気体冷媒及び潤滑油の流れを説明するためのブロック図である。尚、図1においては、潤滑油が混合される前又は潤滑油が分離された後の気体冷媒の流れが斜線付き矢印で示され、潤滑油を含む気体冷媒の流れが黒塗り矢印で示され、気体冷媒から分離された潤滑油の流れが白抜き矢印で示されている。
【0049】
図1及び図5に示されるように、前記冷媒回路からの低圧の気体冷媒は、吸入口P1を介して吸入室H1に流入し、その後、冷媒通路L1を介してスクロールユニット50の外端部近傍の空間H6に導かれる。空間H6に導かれた低圧の気体冷媒は、旋回スクロール52の旋回運動に伴って、スクロールユニット50の圧縮室H2(第1圧縮室C1、第2圧縮室C2、及び、最終圧縮室C3)に取り込まれて圧縮される。圧縮室H2で圧縮された気体冷媒(高圧の気体冷媒)は、吐出孔L2(及び逆止弁90)を介して吐出室H3に吐出され、その後、連通孔L3を介して気液分離室H4に流入する。気液分離室H4に流入した気体冷媒は、オイルセパレータ100によって、そこに含まれた潤滑油が分離される。そして、オイルセパレータ100によって潤滑油が分離された気体冷媒は、吐出口P2から前記冷媒回路へと導出される。一方、オイルセパレータ100によって気体冷媒から分離された潤滑油は、気液分離室H4の下部から潤滑油通路L4を流れて背圧室H5に供給される。背圧室H5は、第1貫通孔701及び第2貫通孔702を介して圧縮室H2(第1圧縮室C1、第2圧縮室C2、及び、最終圧縮室C3)に連通可能である。
【0050】
ここで、潤滑油通路L4の途中にはオリフィスOL1が配置されている。このため、オイルセパレータ100によって気体冷媒から分離された潤滑油は、その圧力が吐出室H3内の圧力Pdから減圧されて背圧室H5に供給される。また、背圧室H5は第1貫通孔701及び第2貫通孔702を介して圧縮室H2(第1圧縮室C1、第2圧縮室C2、及び、最終圧縮室C3)に連通可能である。このため、絞り部として機能し得る第1貫通孔701及び第2貫通孔702によって、背圧室H5と圧縮室H2(第1圧縮室C1、第2圧縮室C2、及び、最終圧縮室C3)との間を行き来する流体(潤滑油及び/又は気体冷媒)の流量が制限される。この結果、背圧室H5内の圧力が吸入室H1内の圧力Psと吐出室H3内の圧力Pdとの間の中間圧力(背圧)Pmに保持され、この中間圧力(背圧)Pmによって旋回スクロール52が固定スクロール51に向かって押し付けられる。つまり、背圧室H5は、固定スクロール51に向かって押し付ける背圧Pmを旋回スクロール52に作用させる。換言すれば、背圧室H5は、旋回スクロール52を固定スクロール51側へ押圧付勢する背圧Pmを生じ得る。
【0051】
尚、第1貫通孔701及び第2貫通孔702は、背圧Pmを制御する背圧制御孔として機能し得る。
【0052】
かかる構成のスクロール型圧縮機10の作動について図6図12を用いて説明する。図6は、第1圧縮室C1内の圧力、第2圧縮室C2内の圧力、及び、最終圧縮室C3内の圧力と、背圧室H5内の圧力(背圧Pm)と、圧縮室H2(第1圧縮室C1及び第2圧縮室C2)での気体冷媒の圧縮開始からの渦巻旋回角度(クランク角)との関係を示す図である。図7図12はスクロール型圧縮機10の作動状態を示す。
【0053】
電動モータ40からの回転駆動力により回転軸30が回転し、クランク機構70を介して旋回スクロール52が、自転阻止機構300により自転が阻止されつつ固定スクロール51の軸心周りに公転旋回運動する。旋回スクロール52の公転旋回運動により、気体冷媒が吸入口P1から吸入室H1、冷媒通路L1、及び空間H6を経由して、スクロールユニット50の固定ラップ512及び旋回ラップ522間の第1圧縮室C1及び第2圧縮室C2内に取り込まれる。
【0054】
ここで、本実施形態では、固定ラップ512の巻き終わり端部51cまでの伸開角と、旋回ラップ522の巻き終わり端部52cまでの伸開角とが同じである。それゆえ、図7に示すように、旋回ラップ522の巻き終わり端部52cと固定ラップ512の外壁面512bとが当接することによって第1圧縮室C1が密閉されると同時に、固定ラップ512の巻き終わり端部51cと旋回ラップ522の外壁面522bとが当接することによって第2圧縮室C2が密閉される。尚、この図7は、図6におけるクランク角0°に対応する。
【0055】
図6に示す期間Z0では、旋回スクロール52の公転旋回運動によって第1圧縮室C1の容積が縮小して内圧が上昇すると共に、第2圧縮室C2の容積が縮小して内圧が上昇する。この期間Z0では、図7に示すように、第1貫通孔701は第1圧縮室C1から離れた位置にあり、また、第2貫通孔702は第2圧縮室C2から離れた位置にある。
【0056】
次に、図6の期間Z0から期間Z1に移る時点で、第1貫通孔701を閉塞していた固定ラップ512の突出側の端縁から第1貫通孔701が外れることにより、第1貫通孔701が開口する。そして、この時点で、第1圧縮室C1と背圧室H5との第1貫通孔701を介する連通が開始される(図8参照)。第1貫通孔701の開口状態は、図6の期間Z1及びZ2にて継続される。一方、期間Z1において、第2貫通孔702は第2圧縮室C2から離れた位置にある。ここで、期間Z1では、背圧室H5内の圧力(背圧Pm)が第1圧縮室C1内の圧力よりも高い。ゆえに、背圧室H5内の流体が背圧室H5内から第1貫通孔701を通って第1圧縮室C1に流入するので、その分、第1圧縮室C1内の圧力が第2圧縮室C2内の圧力よりも高くなる。尚、この期間Z1においても、旋回スクロール52の公転旋回運動によって第1圧縮室C1の容積が縮小して内圧が上昇すると共に、第2圧縮室C2の容積が縮小して内圧が上昇することは言うまでもない。
【0057】
期間Z1では、第1圧縮室C1内の圧力が第2圧縮室C2内の圧力よりも高い。それゆえ、その分、旋回スクロール52に発生する自転モーメントを増加させることができる。尚、この自転モーメントの向きは、旋回スクロール52の公転旋回運動の向きと一致している。
【0058】
次に、図6の期間Z1から期間Z2に移る時点で、第2貫通孔702を閉塞していた固定ラップ512の突出側の端縁から第2貫通孔702が外れることにより、第2貫通孔702が開口する。そして、この時点で、第2圧縮室C2と背圧室H5との第2貫通孔702を介する連通が開始される(図9参照)。第2貫通孔702の開口状態は、図6の期間Z2及びZ3にて継続される。
【0059】
この期間Z2の途中のクランク角360°にて、旋回スクロール52の公転旋回運動による第1圧縮室C1の容積の縮小変化によって圧縮された気体冷媒と、第2圧縮室C2の容積の縮小変化によって圧縮された気体冷媒とが、図10に示すように、最終圧縮室C3内にて混合される。期間Z2の開始時点からクランク角360°までの間は、期間Z1における第1圧縮室C1内の圧力と第2圧縮室C2内の圧力との大小関係が維持されている。期間Z2の開始時点からクランク角360°までの間においても、旋回スクロール52の公転旋回運動によって第1圧縮室C1の容積が縮小して内圧が上昇すると共に、第2圧縮室C2の容積が縮小して内圧が上昇することは言うまでもない。従って、期間Z2の開始時点からクランク角360°までの間においても、第1圧縮室C1内の圧力が第2圧縮室C2内の圧力よりも高いので、その分、旋回スクロール52に発生する自転モーメントを増加させることができる。尚、この自転モーメントの向きは、旋回スクロール52の公転旋回運動の向きと一致している。
【0060】
尚、期間Z2の開始時点からクランク角360°までの間において、背圧室H5内の圧力(背圧Pm)が第2圧縮室C2内の圧力よりも高い。ゆえに、背圧室H5内の流体が背圧室H5内から第2貫通孔702を通って第2圧縮室C2に流入するので、その分、第2圧縮室C2内の圧力が上昇する。この点は第1圧縮室C1についても同様である。
【0061】
期間Z2におけるクランク角360°以降では、旋回スクロール52の公転旋回運動によって最終圧縮室C3の容積が縮小して内圧が上昇する。
【0062】
次に、図6の期間Z2から期間Z3に移る時点で、固定ラップ512の突出側の端縁によって第1貫通孔701が閉塞される。つまり、この時点で、最終圧縮室C3と背圧室H5との第1貫通孔701を介する連通が遮断される(図11参照)。これ以降は、第1貫通孔701が最終圧縮室C3から離れた位置となる。一方、期間Z3にて、第2貫通孔702の開口状態は継続されているので、最終圧縮室C3と背圧室H5との第2貫通孔702を介する連通は継続されている。
【0063】
次に、図6の期間Z3から期間Z4に移る時点で、固定ラップ512の突出側の端縁によって第2貫通孔702が閉塞される。つまり、この時点で、最終圧縮室C3と背圧室H5との第2貫通孔702を介する連通が遮断される(図12参照)。これ以降は、第2貫通孔702が最終圧縮室C3から離れた位置となる。
【0064】
ここで、期間Z2において、最終圧縮室C3内の圧力が背圧室H5内の圧力(背圧Pm)よりも高いときには、最終圧縮室C3内の流体が第1貫通孔701及び第2貫通孔702の両方を通って背圧室H5に流入し得る。また、期間Z3では、最終圧縮室C3内の圧力が背圧室H5内の圧力(背圧Pm)よりも高いので、最終圧縮室C3内の流体が第2貫通孔702を通って背圧室H5に流入し得る。
【0065】
従って、図6において、期間Z1では、第1圧縮室C1が第1貫通孔701を介して背圧室H5に連通しているが、第2圧縮室C2と背圧室H5とは互いに連通していない。期間Z2の開始時点からクランク角360°までの間では、第1圧縮室C1が第1貫通孔701を介して背圧室H5に連通していると共に、第2圧縮室C2が第2貫通孔702を介して背圧室H5に連通している。クランク角360°から期間Z2の終了時点までの間では、最終圧縮室C3が第1貫通孔701及び第2貫通孔702を介して背圧室H5に連通している。期間Z3では、最終圧縮室C3が第2貫通孔702を介して背圧室H5に連通しているが、第1圧縮室C1と背圧室H5とは互いに連通していない。
【0066】
旋回スクロール52の公転旋回運動によって最終圧縮室C3の容積が縮小して最終圧縮室C3内の圧力が吐出圧に達すると、逆止弁90が開弁して、最終圧縮室C3内の気体冷媒が、吐出孔L2を通って、吐出室H3に吐出される。
【0067】
本実施形態のスクロール型圧縮機10では、前述したように、旋回基板521の中心と旋回ラップ522の基礎円52aの中心52bとを互いに偏心させている。この場合、旋回スクロール52の1旋回中で、旋回スクロール52に作用する圧縮反力の中心と旋回基板521の中心との間の距離α(図示せず)が変動する。旋回スクロール52に作用する圧縮反力の中心は、第1圧縮室C1と第2圧縮室C2とが同圧であれば固定ラップ512の基礎円の中心と旋回ラップ522の基礎円52aの中心52bとの中点にある。第1圧縮室C1内の圧力が第2圧縮室C2内の圧力よりも高いほど、圧縮反力の中心は旋回基板521の中心から更に遠くなり(つまり、前述の距離αが大きくなり)、逆の場合は、圧縮反力の中心が旋回基板521の中心に近づく(つまり、前述の距離αが小さくなる)。ここで、前述の自転モーメントは、旋回基板521の中心回りのモーメントであり、圧縮反力と前述の距離αとの積である。圧縮反力は、旋回スクロール52の1旋回中に変動し、例えば図6に示すクランク角360°の付近で最小となる。従って、圧縮反力が最小となるクランク角360°の付近での自転モーメントの低下を抑制するためには、クランク角360°の付近で前述の距離αを大きくするために、クランク角360°の付近で第1圧縮室C1内の圧力を第2圧縮室C2内の圧力よりも一層高くすることが好ましい。
【0068】
それゆえ、本実施形態では以下の対策〔1〕を講じている。
【0069】
〔1〕図6図9に示すように、第2圧縮室C2が第2貫通孔702を介して背圧室H5と連通するに先立って、第1圧縮室C1が第1貫通孔701を介して背圧室H5と連通する。これにより、例えば、図6に示す期間Z1、及び、期間Z2の開始時点からクランク角360°までの間において、第1圧縮室C1内の圧力と第2圧縮室C2内の圧力との差を拡大することができ、ひいては、自転モーメントの低下を抑制することができる。
【0070】
この対策を講じることにより、例えば図6に示すクランク角360°の付近での自転モーメントの低下が抑制されるので、ピン302をリング301の内周面に良好に当接させることができる。従って、ピン302がリング301に衝突することを防止することができるので、自転阻止機構300での振動・騒音の発生を抑制することができる。
【0071】
また、本実施形態では以下の追加的な対策〔2〕を講じてもよい。
【0072】
〔2〕固定ラップ512の巻き終わり端部51cまでの伸開角を旋回ラップ522の巻き終わり端部52cまでの伸開角よりも小さくする。これにより、旋回ラップ522の巻き終わり端部52cと固定ラップ512の外壁面512bとが当接することによって第1圧縮室C1が密閉された後に、固定ラップ512の巻き終わり端部51cと旋回ラップ522の外壁面522bとが当接することによって第2圧縮室C2が密閉される。従って、第1圧縮室C1が第2圧縮室C2よりも常に先行して気体冷媒の圧縮を行うので、第1圧縮室C1内の圧力は第2圧縮室C2内の圧力よりも常に高い状態になり、その結果、発生する自転モーメントの底上げを図ることができる。
【0073】
本実施形態によれば、スクロール型圧縮機10は、中央部に吐出孔L2を有する固定基板511、及び、固定基板511に立設された渦巻状の固定ラップ512を有する固定スクロール51と、旋回基板521、及び、旋回基板521に立設されて固定ラップ512に噛み合う渦巻状の旋回ラップ522を有する旋回スクロール52と、旋回ラップ522の内壁面522aと固定ラップ512の外壁面512bにより形成される第1圧縮室C1と、固定ラップ512の内壁面512aと旋回ラップ522の外壁面522bとにより形成される第2圧縮室C2と、旋回スクロール52の自転を阻止する自転阻止機構300と、旋回スクロール52の背面側に設けられる背圧室H5と、を備え、自転阻止機構300により旋回スクロール52の自転を阻止しつつ、旋回スクロール52を固定スクロール51の軸心周りに公転旋回運動させて第1圧縮室C1の容積及び第2圧縮室C2の容積をそれぞれ変化させることにより、第1圧縮室C1内の流体(例えば気体冷媒)及び第2圧縮室C2内の流体(例えば気体冷媒)をそれぞれ圧縮して一緒に吐出孔L2から吐出室H3へ吐出する。旋回基板521は、第1圧縮室C1と背圧室H5とを連通可能な第1貫通孔701、及び、第2圧縮室C2と背圧室H5とを連通可能な第2貫通孔702を有する。第2圧縮室C2が第2貫通孔702を介して背圧室H5と連通するに先立って、第1圧縮室C1が第1貫通孔701を介して背圧室H5と連通する。ゆえに、第1圧縮室C1内の圧力を第2圧縮室C2内の圧力よりも高い状態とすることができるので、その分、旋回スクロール52に発生する自転モーメントを増加させることができ、ひいては、自転モーメントの低下を抑制することができる。
【0074】
本実施形態によれば、図6に示すように、背圧室H5内の圧力が第1圧縮室C1内の圧力よりも高く、かつ、第2圧縮室C2内の圧力よりも高い時期において、第1圧縮室C1と背圧室H5との第1貫通孔701を介する連通を開始した後に(つまり期間Z1を開始した後に)、第2圧縮室C2と背圧室H5との第2貫通孔702を介する連通を開始する(つまり期間Z2を開始する)。これにより、第1圧縮室C1内の圧力が第2圧縮室C2内の圧力よりも高い状態を継続することができる。
【0075】
また本実施形態によれば、自転阻止機構300は、旋回基板521の背面とこの背面に対向するハウジング壁(例えば第2隔壁部232)とのいずれか一方に形成された円形穴に圧入されるリング301と、他方に突設されてリング301の内側に遊嵌されるピン302とを含む。このような構成の自転阻止機構300での振動・騒音の発生を抑制することができる。
【0076】
また本実施形態によれば、固定ラップ512は、固定ラップ512の基礎円に基づくインボリュート曲線によって形成され得る。旋回ラップ522は、旋回ラップ522の基礎円52aに基づくインボリュート曲線によって形成され得る。固定ラップ512の基礎円上の基準点から固定ラップ512の巻き終わり端部51cまでの伸開角と、旋回ラップ522の基礎円52a上の基準点から旋回ラップ522の巻き終わり端部52cまでの伸開角とが同じである。ゆえに、図7に示すように、旋回ラップ522の巻き終わり端部52cと固定ラップ512の外壁面512bとが当接することによって第1圧縮室C1が密閉されると同時に、固定ラップ512の巻き終わり端部51cと旋回ラップ522の外壁面522bとが当接することによって第2圧縮室C2が密閉され得る。
【0077】
尚、本実施形態において、固定ラップ512の基礎円上の基準点から固定ラップ512の巻き終わり端部51cまでの伸開角を、旋回ラップ522の基礎円52a上の基準点から旋回ラップ522の巻き終わり端部52cまでの伸開角よりも小さくしてもよい。この場合には、旋回ラップ522の巻き終わり端部52cと固定ラップ512の外壁面512bとが当接することによって第1圧縮室C1が密閉された後に、固定ラップ512の巻き終わり端部51cと旋回ラップ522の外壁面522bとが当接することによって第2圧縮室C2が密閉される。従って、第1圧縮室C1内の圧力が第2圧縮室C2内の圧力よりも常に高い状態となるので、旋回スクロール52に自転モーメントを常に発生させることができ、ひいては、自転モーメントの低下を抑制することができる。
【0078】
また本実施形態によれば、固定基板511の中心と固定ラップ512の基礎円の中心とが互いに偏心している。また、旋回基板521の中心と旋回ラップ522の基礎円52aの中心52bとが互いに偏心している。このような構成のスクロール型圧縮機10において、自転阻止機構300での振動・騒音の発生を抑制することができる。
【0079】
本実施形態のスクロール型圧縮機10を駆動する駆動源は、電動モータ40に限らず、例えば、車両エンジン等であってもよい。
【0080】
尚、前述のスクロールユニット50(固定スクロール51及び旋回スクロール52)はスクロール型膨張機にも適用可能である。このスクロール型膨張機は、例えば、車両用ランキンサイクル装置の冷媒回路に組み込まれ、当該冷媒回路から導入した冷媒を膨張させて動力を発生する(当該冷媒から動力を回収する)ように構成され得る。
【0081】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、前述の実施形態に制限されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて変形及び変更が可能であることはもちろんである。
【符号の説明】
【0082】
10…スクロール型圧縮機、20…ハウジング、21…フロントハウジング、23…センターハウジング、24…リアハウジング、50…スクロールユニット、51…固定スクロール、51c…巻き終わり端部、52…旋回スクロール、52a…基礎円、52b…中心、52c…巻き終わり端部、100…オイルセパレータ、232…第2隔壁部(ハウジング壁)、300…自転阻止機構、301…リング、302…ピン、303…自転阻止部、511…固定基板、512…固定ラップ、512a…内壁面、512b…外壁面、521…旋回基板、522…旋回ラップ、522a…内壁面、522b…外壁面、701…第1貫通孔、702…第2貫通孔、C1…第1圧縮室、C2…第2圧縮室、C3…最終圧縮室、H1…吸入室、H2…圧縮室、H3…吐出室、H4…気液分離室、H5…背圧室、H6…空間、L1…冷媒通路、L2…吐出孔、L3…連通孔、L4…潤滑油通路、OL1…オリフィス
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図12