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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】モールドコイル及びリアクトル
(51)【国際特許分類】
   H01F 37/00 20060101AFI20250206BHJP
   H01F 27/32 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
H01F37/00 J
H01F37/00 M
H01F27/32 170
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021033293
(22)【出願日】2021-03-03
(65)【公開番号】P2022134263
(43)【公開日】2022-09-15
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 孝輔
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-216147(JP,A)
【文献】特開2020-021854(JP,A)
【文献】特開2015-153957(JP,A)
【文献】特開2015-130410(JP,A)
【文献】特開2018-011019(JP,A)
【文献】特公昭51-030930(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/02、27/32、30/10、37/00、41/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒軸を平行にして並設された筒状の複数のコイルと、
前記複数のコイルの各同一面に嵌り、隣り合わせになって並んだ複数の枠体と、
前記枠体の枠内を除いて前記コイルの一部又は全部を被覆するモールド樹脂と、
を備え、
前記枠体の各々は、隣の前記枠体に面する隣接辺に、前記隣の枠体に向けて延び、互いに突き合わされた第1突起部を有すること、
を特徴とするモールドコイル。
【請求項2】
前記複数のコイルは、1本の導電線中の離間した複数箇所が巻回されて成り、当該複数のコイルを繋ぐ連結線を有すること、
を特徴とする請求項1記載のモールドコイル。
【請求項3】
前記枠体の各々は、前記隣接辺と対向する外側辺に、リアクトルの外側に向けて延びた第2突起部を有すること、
を特徴とする請求項1又は2記載のモールドコイル。
【請求項4】
前記枠体は、
前記コイルが嵌る第1枠開口面と、
前記第1枠開口面とは反対の第2枠開口面と、
を有し、
前記第2突起部は、前記第1枠開口面と前記第2枠開口面の中間高さよりも、前記第1枠開口面側の高さから突出していること、
を特徴とする請求項3記載のモールドコイル。
【請求項5】
前記コイルは、筒軸に沿って延びる湾曲面を有し、
前記枠体は、前記コイルの筒軸に沿って延び、前記コイルの前記湾曲面と密着する一対の縦辺部を有し、
前記第2突起部は、前記縦辺部のうち、前記コイルの前記湾曲面に密着した位置から突出していること、
を特徴とする請求項3又は4記載のモールドコイル。
【請求項6】
前記第2突起部は、前記外側辺に沿って間隔を空けて複数突出し、
前記モールド樹脂は、前記第2突起部間から、少なくとも前記第2突起部のうちの前記コイルとは反対に向く面にかけて延在する枠支持部を有すること、
を特徴とする請求項3乃至5の何れかに記載のモールドコイル。
【請求項7】
前記第1突起部は、前記隣接辺に沿って間隔を空けて複数突出し、
前記モールド樹脂は、前記第1突起部間から、少なくとも前記第1突起部のうちの前記コイルとは反対に向く面にかけて延在する枠支持部を有すること、
を特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のモールドコイル。
【請求項8】
前記枠体のうちの前記隣接辺と直交する辺から延びる第3突起部を有し、
前記モールド樹脂は、少なくとも前記第3突起部のうちの前記コイルとは反対に向く面に延在する枠支持部を有すること、
を特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載のモールドコイル。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れかに記載のモールドコイルと、
前記コイルが装着される磁性体を含むコアと、
を備えること、
を特徴とするリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルを樹脂によってモールドして成るモールドコイル、及びこれを備えるリアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
リアクトルは主としてコイルとコアとから成る。コイルは、通電により巻数に従って磁束を発生させる。コアは、コイルが発生させた磁束を真空よりも高い透磁率に従って通す閉磁路となる。即ち、リアクトルは、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品である。
【0003】
このようなリアクトルは、多種多様の用途に使用されている。代表的なリアクトルとして、昇圧リアクトル、直列リアクトル、並列リアクトル、限流リアクトル、始動リアクトル、分路リアクトル、中性点リアクトル及び消弧リアクトル等が挙げられる。
【0004】
昇圧リアクトルは、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動システム等の車載用の昇圧回路に組み込まれる。直列リアクトルは、電動機回路に直列に接続し短絡時の電流を制限する。並列リアクトルは、並列回路間の電流分担を安定させる。限流リアクトルは、短絡時の電流を制限しこれに接続される。始動リアクトルは、機械を保護する電動機回路に直列に接続して始動電流を制限する。分路リアクトルは、送電線路に並列接続されて進相無効電力の補償や異常電圧を抑制する。中性点リアクトルは、中性点と大地間に接続して電力系統の地絡事故時に流れる地絡電流を制限するために使用する。消弧リアクトルは、三相電力系統の1線地絡時に発生するアークを自動的に消滅させる。
【0005】
リアクトルとしては、コイルとコアとの電気的絶縁を図るべく、コアとコイルの外周を樹脂によって被覆した樹脂モールドタイプが各所で使用されている。例えば、コアは樹脂部材で被覆され、コイルは樹脂部材の上からコアに装着される。また、更なる樹脂部材がコアに装着されたコイルの一部又は全部を覆うように形成される。コイルを被覆する樹脂は射出成型によって形成される。コアに装着されたコイルが金型内に収容され、樹脂が金型内に射出され、コイル周りに流れ込んだ樹脂が固化することで、コイルを被覆する樹脂が形成される(特許文献1乃至3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5869518号公報
【文献】特開2015-130410号公報
【文献】特開2018-011019号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
コイルは、巻軸に沿って1ターンごとに巻き位置をずらしながら導電線を螺旋状に巻回して筒状に作成される。コイルの製造精度上の理由から、コイルの表面には凹凸が存在し、必ずしも表面が平滑面にはなっていない。そのため、金型とコイルとを隙間無く密着させようとして、金型をコイルの表面に強く押し付けてしまうと、コイルを傷付けてしまったり、コイルの導電線の被覆を破損させてしまったりして、絶縁性を損なうなどの問題が発生する。
【0008】
しかしながら、金型をコイルの表面に強く押し付けることできないと、コイルが金型内で射出圧により煽られ、金型内でのコイルの位置ズレが発生してしまい、樹脂形成に不具合が発生してしまう虞がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、金型をコイルの表面に強く押し付けなくても、金型内でコイルの位置ズレが起こり難く、精度良くコイル上に樹脂が形成されたモールドコイル及びリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の実施形態に係るモールドコイルは、筒軸を平行にして並設された筒状の複数のコイルと、前記複数のコイルの各同一面に嵌り、隣り合わせになって並んだ複数の枠体と、前記枠体の枠内を除いて前記コイルの一部又は全部を被覆するモールド樹脂と、を備え、前記枠体の各々は、隣の前記枠体に面する隣接辺に、前記隣の枠体に向けて延び、互いに突き合わされた第1突起部を有すること、を特徴とする。
【0011】
前記複数のコイルは、1本の導電線中の離間した複数箇所が巻回されて成り、当該複数のコイルを繋ぐ連結線を有するようにしてもよい。
【0012】
前記枠体の各々は、前記隣接辺と対向する外側辺に、リアクトルの外側に向けて延びた第2突起部を有するようにしてもよい。
【0013】
前記枠体は、前記コイルが嵌る第1枠開口面と、前記第1枠開口面とは反対の第2枠開口面と、を有し、前記第2突起部は、前記第1枠開口面と前記第2枠開口面の中間高さよりも、前記第1枠開口面側の高さから突出しているようにしてもよい。
【0014】
前記コイルは、筒軸に沿って延びる湾曲面を有し、前記枠体は、前記コイルの筒軸に沿って延び、前記コイルの前記湾曲面と密着する一対の縦辺部を有し、前記第2突起部は、前記縦辺部のうち、前記コイルの前記湾曲面に密着した位置から突出しているようにしてもよい。
【0015】
前記第2突起部は、前記外側辺に沿って間隔を空けて複数突出し、前記モールド樹脂は、前記第2突起部間から、少なくとも前記第2突起部のうちの前記コイルとは反対に向く面にかけて延在する枠支持部を有するようにしてもよい。
【0016】
前記第1突起部は、前記隣接辺に沿って間隔を空けて複数突出し、前記モールド樹脂は、前記第1突起部間から、少なくとも前記第1突起部のうちの前記コイルとは反対に向く面にかけて延在する枠支持部を有するようにしてもよい。
【0017】
前記枠体のうちの前記隣接辺と直交する辺から延びる第3突起部を有し、前記モールド樹脂は、少なくとも前記第3突起部のうちの前記コイルとは反対に向く面に延在する枠支持部を有するようにしてもよい。
【0018】
このモールドコイルと、コイルが装着される磁性体を含むコアと、を備えるリアクトルも本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、枠体が金型内で当接しあって不動となり、枠体に嵌っているコイルも不動となり、樹脂の射出圧によってもコイルの位置ズレが起こり難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】各部を被覆する部材を省いて示したリアクトルの斜視図である。
図2】コアを被覆するコア被覆樹脂を示す斜視図である。
図3】リアクトルを示す上面斜視図である。
図4】リアクトルを示す下面斜視図である。
図5】枠体を示す斜視図である。
図6】枠体を示すA-A断面斜視図である。
図7】金型に収容されたリアクトルを示す下面斜視図である。
図8】金型に収容されたリアクトルを示す正面図である。
図9】樹脂の流入態様を示す断面図である。
図10】モールド樹脂で支持された枠体を示す下面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態のモールドコイル及びリアクトルについて説明する。各図面においては、理解容易のため、厚み、寸法、位置関係、比率又は形状等を強調して示している場合があり、本発明は、それら強調に限定されるものではない。
【0022】
図1は、本実施形態のリアクトルの主構成を示す斜視図であり、説明の都合上、各部を被覆する部材を省いて示してある。リアクトル10は、1個の環状のコア1と2個のコイル2,2を備えている。2個のコイル2,2は、1個のコア1に横並びになって嵌っている。このコイル2,2は、通電により巻数に従って磁束を発生させる。コア1は、コイル2,2が発生させた磁束を真空よりも高い透磁率に従って通す閉磁路となる。即ち、このリアクトル10は、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品である。
【0023】
コア1は、圧粉磁心、フェライト磁心、メタルコンポジットコア又は積層鋼板等の磁性体を含んでいる。圧粉磁心は、磁性粉末を押し固めた圧粉成形体を焼鈍したものである。磁性粉末は、鉄を主成分とし、純鉄粉、鉄を主成分とするパーマロイ(Fe-Ni合金)、Si含有鉄合金(Fe-Si合金)、センダスト合金(Fe-Si-Al合金)、アモルファス合金、ナノ結晶合金粉末、又はこれら2種以上の粉末の混合粉などが挙げられる。メタルコンポジットコアは、磁性粉末と樹脂とが混練され成型されて成るコアである。
【0024】
2個のコイル2,2は、銅線等の1本の導電線23中の離間した2箇所を切り離さずに別々に巻回して成る連結コイル29として形成されている。各コイル2は、巻き軸に沿って1ターンごとに巻位置をずらしながら螺旋状に導電線23を巻回することで形成される。2個のコイル2,2の軸を平行にし、双方のコイル2,2を流れる電流の方向が互いに逆向きになるように並設されている。2個のコイル2が並設されたとき、2個のコイル2,2の巻回方向は同一になっている。
【0025】
1本の導電線23中のコイル2,2よりも端の線材は、各コイル2の第1端面21から引き出されている。この第1端面21から引き出された導電線23が電気回路と接続され、コイル2に通電可能となる。また、1本の導電線23中のコイル2,2間の線材は、2個のコイル2,2を繋ぐ連結線24になっており、一方のコイル2の第2端面22から引き出され、他方のコイル2の第2端面22に導入されている。
【0026】
このコイル2は、第1端面21及び第2端面22と直交し、筒軸と平行な4枚の湾曲面と4枚の平坦面を交互につなぎ合わせた外形形状を有する。即ち、コイル2は、コア1の環状形状が現れる面と平行な平坦面である上面25を有し、また上面25とは反対側に平坦な下面26を有する。コイル2は、上面25と下面26に対して直交する平坦面である側面27を有する。コイル2は、下面26と側面27との間に下側湾曲面28を有する。
【0027】
尚、コイル2における平坦面とは、湾曲面との相対的な比較において平坦な面であり、導電線の巻き膨らみによって緩やかな曲率で大きな弧を描いた面も平坦面に含まれる。上下は、モールド成型によってリアクトル10を被覆する際に、リアクトル10を収容する上型と下型に倣ったものであり、リアクトル10が設置対象の実機に搭載された際の位置関係や方向を指すものではない。
【0028】
以下、リアクトル10において、上下方向とは、上面25と下面26に対して直交するZ軸方向をいう。下面26から上面25に向かう方向を上側といい、上面25から下面26に向かう方向を下側という。横方向とは、コイル2の下面26と平行で、コイル2の側面27と直交するY軸方向を指す。横方向のうち、2個のコイル2から等距離の位置に引かれたリアクトル軸11に近づく向きを内側といい、リアクトル軸11から離れる向きを外側という。縦方向とは、横方向と直交し、下面26と平行で、筒軸に沿い、側面27と平行なX軸方向をいう。
【0029】
図2乃至図4に示すように、このリアクトル10は、各部を被覆するコア被覆樹脂3、板体6、枠体7及びモールド樹脂5を備えている。コア被覆樹脂3、板体6、枠体7及びモールド樹脂5は、一定の形を保持する成形品であり、絶縁性及び耐熱性を備えている。コア被覆樹脂3、板体6、枠体7及びモールド樹脂5は同種の材質により成るものであってもよいし、異なる材質により成るものであってもよい。コア被覆樹脂3、板体6、枠体7及びモールド樹脂5に熱伝導性のフィラーを混入させてもよい。
【0030】
例えば、コア被覆樹脂3、板体6、枠体7及びモールド樹脂5は、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)、又はこれらの複合が材質として用いられている。
【0031】
図2は、コア被覆樹脂3を示す斜視図である。図2に示すように、コア被覆樹脂3は、コア1を被覆している。コア被覆樹脂3は、コア1の全周囲を覆ってもよいし、コア1の一部表面を放熱性等の観点で露出させていてもよい。コイル2は、このコア被覆樹脂3の上からコア1に嵌め込まれており、このコア被覆樹脂3によってコイル2とコア1とは電気的に絶縁されている。
【0032】
図3は、板体6、枠体7及びモールド樹脂5が形成されたリアクトル10の上面斜視図であり、図4は、このリアクトル10の下面斜視図である。図3に示すように、板体6は、各コイル2の上面25に1枚ずつ配置され、上面25を被覆している。また、図4に示すように、枠体7は、各コイル2の同一面である下面26に1枚ずつ設置されている。2個のコイル2は、筒軸を平行にして並設されているため、一対の枠体7は隣り合わせにして並んでいる。
【0033】
この板体6は、モールド樹脂5を成型する際、コイル2の上面25が金型で傷つかないように、上面25と金型との間に介在する緩衝材である。コイル2は、板体6を介して金型によって押圧されて、金型内での位置ズレを抑制するように支持され、また板体6が押し付けられることにより表面の凹凸や捻れが矯正される。従って、板体6は、金型によって押圧されても損傷しない程度の強度が確保される面積を有していればよく、内側が開口し、コイル2の上面25の一部を放熱の観点から露出させていてもよい。
【0034】
また、枠体7は、コイル2の下面26が金型で傷つかないように、下面26と金型との間に介在する緩衝材である。コイル2は、枠体7を介して金型によって押圧されて、金型内での位置ズレを抑制するように支持され、また枠体7が押し付けられることにより表面の凹凸や捻れが矯正される。各枠体7は、更に、各コイル2の下面26の全横幅範囲を枠内に含め、枠内へのモールド樹脂5の流入を阻止する障壁となり、コイル2をモールド樹脂5から露出させ、コイル2の放熱性を向上させている。
【0035】
図3及び図4に示すように、モールド樹脂5は、これら板体6、枠体7及びコイル2が金型内に設置され、金型内に射出されて固化することで形成されている。モールド樹脂5は、板体6及び枠体7と共に、枠体7の枠内を除いてコイル2を被覆する。即ち、リアクトル10には、コイル2と、このコイル2を被覆するモールド樹脂5とを備えるモールドコイル9が組み込まれている。モールドコイル9とは、コイル2と、このコイル2を被覆するモールド樹脂5の一体品を言い、モールド樹脂5が他の部材を追加的に被覆してもよい。このモールド樹脂5は、引き出された導電線23を除き、連結線24を含めてコイル2を被覆している。本実施形態では、このモールド樹脂5は、更にコア被覆樹脂3も被覆しており、モールドコイル9は、コア1も一体化させている。
【0036】
その他、リアクトル10にはセンサ4が設置されている。センサ4は、例えば温度を検出するサーミスタである。このセンサ4は、2個のコイル2,2間に間挿されている。本実施形態では、モールド樹脂5は、更に、このセンサ4も含めて被覆し、モールドコイル9は、コイル2とコア1とセンサ4とを一体化させていてもよい。
【0037】
枠体7について更に詳細に説明する。図5は、この枠体7の詳細構成を示す斜視図である。図6は、図5のA-A断面斜視図である。図5に示すように、各コイル2に設置される各枠体7は、同形同大の合同形状である。この枠体7は、一対の横辺部71と一対の縦辺部72を有し、これら縦辺部72と横辺部71とで画成される概略長方形の枠である。枠体7の一方の開口面である第1枠開口面731にコイル2を嵌め込むように、枠体7はコイル2に設置される。コイル2を枠体7に嵌め込んだとき、第1枠開口面731とは反対の第2枠開口面732を通じてコイル2の表面が露出する。
【0038】
一対の縦辺部72は、コイル2の下面26を挟んで離間し、コイル2の筒軸に対して平行に延びる。従って、一方の縦辺部72は、隣の枠体7に面する隣接辺81であり、この隣接辺81に対向する他方の縦辺部72は、リアクトル10の横方向外側に位置する外側辺82となる。これら縦辺部72はコイル2の筒軸方向長さと同長である。そして、これら縦辺部72はコイル2の下側湾曲面28に密着している。
【0039】
また、一方の横辺部71は、コイル2の第1端面21に密着して延在し、第1端面21を完全に横断する。他方の横辺部71は、コイル2の第2端面22に密着して延在し、第2端面22を完全に横断する。即ち、枠体7からは、コイル2の下面26が露出する。枠体7は、コイル2の下側湾曲面28に縦辺部72が密着したとき、下面26よりも下方まで延びるように高さを有する。
【0040】
この枠体7は、縦辺部72のうちの隣接辺81に第1突起部76を備えている。第1突起部76は、隣接辺81に沿って空隙78を設けて複数突出している。例えば、第1突起部76は、隣接辺81の両端及び中心から突出している。各第1突起部76は、リアクトル10の横方向に平行に突出し、端面が上下方向及び縦方向と平行に拡がる垂直な絶壁になっている。また、各第1突起部76は、枠体7に対する突出高さ、突出長、突出幅及び厚みが共通である。
【0041】
また、この枠体7は、縦辺部72のうちの外側辺82に第2突起部77を備えている。第2突起部77は、外側辺82に沿って空隙78を設けて複数突出している。例えば、第2突起部77は、外側辺82の両端及び中心から突出している。各第2突起部77は、リアクトル10の横方向に平行に突出し、端面が上下方向及び縦方向と平行に拡がる垂直な絶壁になっている。また、各第2突起部77は、枠体7に対する突出高さ、突出長、突出幅及び厚みが共通である。
【0042】
更に、この枠体7は、第3突起部79を備えている。第3突起部79は、両横辺部71から突出している。この第3突起部79は、横辺部71に沿って連続して延びている。これら第1突起部76、第2突起部77及び第3突起部79は、枠体7の同一高さから突出し、枠体7の第1枠開口面731と第2枠開口面732との中間の高さより、第1枠開口面731側の高さから突出している。
【0043】
図6に示すように、縦辺部72は、垂直部74と湾曲部75とを有する。湾曲部75と垂直部74は継ぎ目無く一繋ぎになっており、湾曲部75の下端部から垂直部74が延び、コイル2の下面26が拡がる平面に対して垂直に延びる。垂直部74は、枠体7の第2枠開口面732の周囲を包囲し、湾曲部75は、湾曲した内周面でコイル2と密着する。この湾曲部75は、垂直部74との接続域及び横辺部71との接続域を除き、密着面751と上側端面753と外面752とによって画成されている。
【0044】
即ち、縦辺部72周りに一周すると、密着面751から始まり、密着面751から上側端面753が続き、上側端面753から第1突起部76又は第2突起部77を介して外面752が続き、外面752から垂直部74が続き、垂直部74から密着面751に戻る。
【0045】
密着面751は、枠体7の内周面であり、コイル2の下側湾曲面28の一部円弧範囲と一致して湾曲する。枠体7は、この密着面751で下側湾曲面28と密着する。上側端面753は、密着面751と隣接する上側の端面である。上側端面753は、密着面751と隣接し、下側湾曲面28から離れる方向に拡がる。
【0046】
外面752は、上側端面753と隣接し、枠体7の外周面を構成する。この外面752は、密着面751の反対面であり、密着面751の湾曲形状が影響して湾曲又は傾斜している。第1突起部76と第2突起部77は、この湾曲した外面752から突出している。例えば、第1突起部76と第2突起部77は、上側端面753と面一になる高さから突出している。そのため、枠体7の横方向最外部は、第1突起部76と第2突起部77の絶壁により垂直になっている。
【0047】
図7は、金型に収容されたリアクトル10を示す下面斜視図である。図7に示すように、このような枠体7は、各コイル2に嵌め込まれ、横方向外側が金型と当接し、隣接辺81側では互いの第1突起部76を押し付けあっている。そのため、金型内で枠体7は、横方向の位置が不動となっている。コイル2も、モールド樹脂5の射出圧に煽られたとしても、位置不動の枠体7の第1枠開口面731に嵌っているために、金型内で位置ズレを起こし難くなっている。そのため、モールド樹脂5は、精度良くコイル2を被覆できる。
【0048】
特に、2個のコイル2,2が連結コイル29である場合、製造上、2個のコイル2,2の離間距離に個体ごとのバラツキが生じたり、2個のコイル2,2の平行度に個体ごとのバラツキが生じたりする。しかし、枠体7はコイル2ごとに分離している。従って、各コイル2は枠体7に精度良く嵌まり込み、金型内で射出圧によって枠体7から外れ難くしている。
【0049】
しかも、枠体7が第1突起部76を互いに押し付け合っているために、枠体7は精度良く位置決めされており、この枠体7に載る各コイル2の離間距離や平行度も矯正される。従って、コイル2は、連結コイル29であったとしても金型内で精度良く位置決めされ、精度良く被覆されている。
【0050】
図8は、金型に収容されたリアクトル10を示す正面図である。図8に示すように、金型は下型K1を有しており、下型K1上に枠体7が載置され、枠体7にコイル2が嵌め込まれ、コイル2に板体6が載置され、板体6の上から上型K2が被せられる。この下型K1は、枠体7を横方向から支持する側方部K12を有する。そのため、一対の枠体7は、互いに第1突起部76で押し付け合いながら、両端を側方部K12で挟まれるため、金型内でより安定し、コイル2も金型内で更に位置ズレし難くなり、モールド樹脂5は、更に精度良くコイル2を被覆する。
【0051】
しかも、第2突起部77は、垂直部74と湾曲部75に大別される縦辺部72のうちの湾曲部75の位置から突出している。即ち、第1枠開口面731と第2枠開口面732との中間位置よりも第1枠開口面731側の高い位置から突出している。この高い位置から突出した第2突起部77を介して、枠体7と下型K1の側方部K12に支持されるため、枠体7は、金型内で更に安定する。
【0052】
尚、下型K1の側方部K12は、第2突起部77と当接するため、湾曲又は屈曲している枠体7の外面752に影響されず、第2突起部77の絶壁に従って垂直に立ち上がっている。垂直に立ち上がった側方部K12は、枠体7の外面752に倣って屈曲又は湾曲した場合と比べると、安価で高い寸法精度で作出される。そのため、リアクトル10の生産コストも低減する。
【0053】
このように、金型内で枠体7を安定させ、枠体7の第1枠開口面731に嵌ったコイル2を位置固定した状態でモールド樹脂5は金型内に射出される。ここで、モールド樹脂5を射出するゲートは、枠体7の第1枠開口面731よりも上型K2側に位置するが、複数の第1突起部76間と複数の第2突起部77には空隙78が設けられているため、図9に示すように、モールド樹脂5は、この空隙78を通じて第1突起部76及び第2突起部77の下方にも流れ込んでいく。また、第3突起部79を回り込んで、第3突起部79の下方にもモールド樹脂5が流れ込んでいく。
【0054】
そのため、図10に示すように、モールド樹脂5には、複数の第1突起部76間を通って、第1突起部76の下面を支持するように第1突起部76を包み込み、隣接辺81側から枠体7を支持する枠支持部51が作出される。また、モールド樹脂5には、複数の第2突起部77間を通って、第2突起部77の下面を支持するように第2突起部77を包み込み、外側辺82側から枠体7を支持する枠支持部51が作出される。
【0055】
更に、モールド樹脂5には、第3突起部79を回り込んで、第3突起部79の下面を支持するように第3突起部79を包み込み、両横辺部71側から枠体7を支持する枠支持部51が作出される。ここで、モールド樹脂5は、枠体7の横辺部71や縦辺部72の上面に密着することで枠体7が落体しないよう支持し、また第1突起部76間又は第2突起部77間の空隙78に入り込むことで枠体7が落体しないように更に確実に支持している。しかし、これら枠支持部51は、モールド樹脂5が硬化した後は枠体7がリアクトル10から外れることを、これらにも増して更に確実に防止している。
【0056】
以上のように、モールドコイル9又はリアクトル10は、筒軸が平行にして並設された筒状の複数のコイル2と、複数のコイル2の下面26等の同一面に嵌り、隣り合わせになって並んだ一対の枠体7と、枠体7の枠内を除いてコイル2の一部又は全部を被覆するモールド樹脂5とを備えるようにした。そして、枠体7の各々は、隣の枠体7に面する隣接辺81に、隣の枠体7に向けて延び、互いに突き合わされた第1突起部76を有するようにした。
【0057】
これにより、隣接辺81側では枠体7同士が互いの第1突起部76を押し付けあい、金型内で枠体7は、横方向の位置が不動となる。コイル2も、位置不動の枠体7に嵌っているために、モールド樹脂5の射出圧に煽られたとしても、金型内で位置ズレを起こし難くなっている。そのため、モールド樹脂5によって、精度良くコイル2を被覆することができる。
【0058】
また、複数のコイル2は、1本の導電線23中の離間した複数箇所が巻回されて成り、当該複数のコイル2を繋ぐ連結線24を有するようにした。即ち、連結コイル29に対して、第1突起部76を有し、コイル2ごとに分離した枠体7を用意するようにした。
【0059】
これにより、連結コイル29であっても、各コイル2が枠体7に精度良く嵌まり込み、金型内で射出圧によって枠体7から外れ難くなる。また、枠体7が第1突起部76を互いに押し付け合っているために、枠体7は精度良く位置決めされており、この枠体7に載る各コイル2の離間距離や平行度も矯正される。
【0060】
また、枠体7の各々は、隣接辺81と対向する外側辺82に、リアクトル10の外側に向けて延びた第2突起部77を有するようにした。これにより、枠体7が、コイル2の下側湾曲面28と密着する一対の縦辺部72を有しているとしても、下型K1の側方部K12を垂直に立ち上がった形状にでき、下型K1は安価で高い寸法精度となる。そのため、リアクトル10の生産コストも低減する。
【0061】
また、枠体7は、コイル2が嵌る第1枠開口面731と、第1枠開口面731とは反対の第2枠開口面732とを有し、第2突起部77は、第1枠開口面731と第2枠開口面732との間の高さよりも、第1枠開口面731側の高さから突出しているようにした。これにより、下型K1は、高い位置で枠体7の側方を支えることでき、枠体7の金型内での安定性が向上する。そのため、コイル2も、モールド樹脂5の射出圧に煽られたとしても、更に金型内で位置ズレを起こし難くなる。
【0062】
また、第2突起部77が外側辺82に沿って間隔を空けて複数突出することで、モールド樹脂5は、第2突起部77間から、少なくとも第2突起部77のうちのコイル2とは反対に向く下面にかけて延在する枠支持部51を有するようにした。これにより、枠体7を外側辺82側からモールド樹脂5で支持することができ、枠体7がリアクトル10から落体することを防止できる。
【0063】
また、第1突起部76が隣接辺81に沿って間隔を空けて複数突出することで、モールド樹脂5は、第1突起部76間から、少なくとも第1突起部76のうちのコイル2とは反対に向く下面にかけて延在する枠支持部51を有するようにした。これにより、枠体7を隣接辺81側からモールド樹脂5で支持することができ、枠体7がリアクトル10から落体することを防止できる。
【0064】
また、枠体7のうちの外側辺82及び隣接辺81と直交する辺、即ち横辺部71から延びる第3突起部79を有することで、モールド樹脂5は、少なくとも第3突起部79のうちのコイル2とは反対に向く下面に延在する枠支持部51を有するようにした。これにより、枠体7を横辺部71側からモールド樹脂5で支持することができ、枠体7がリアクトル10から落体することを防止できる。
【0065】
以上の本発明の実施形態は例として提示したものであって、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。そして、実施形態やその変形は本発明の範囲に含まれるものである。
【0066】
本実施形態では、モールドコイル9を構成するモールド樹脂5は、コイル2のみならず、コア被覆樹脂3で被覆されたコア1もセンサ4も被覆するようにした。これに限らず、モールドコイル9はコイル2のみを被覆するようにしてもよい。
【0067】
この場合、コア被覆樹脂3で被覆されたコア1にモールドコイル9を装着し、センサ4を取り付け、金型内にこれらを収容して更に外側から樹脂で被覆し、これらモールドコイル9、コア被覆樹脂3でコア1及びセンサ4を更なる樹脂で一体化することで、リアクトル10を作製すればよい。または、コア被覆樹脂3で被覆されていないコア1にモールドコイル9を装着し、センサ4を取り付け、金型内にこれらを収容して更に外側から樹脂で被覆し、これらモールドコイル9、コア被覆樹脂3が無いコア1及びセンサ4を一体化することで、リアクトル10を作製すればよい。
【0068】
このようなリアクトル10に組み込まれるモールドコイル9においても、第1突起部76、第2突起部77、第3突起部79又はこれらの複数を備える枠体を有することにより、枠体7が金型内で当接しあって不動となり、枠体7に嵌っているコイル2も不動となり、樹脂の射出圧によってもコイル2の位置ズレが起こり難くなる。
【0069】
枠体7は、一対の横辺部71と一対の縦辺部72とが継ぎ目無く繋がった一部品に限らず、複数部品を組み合わせて構成されていてもよい。例えば、枠体7は、一辺の横辺部71と両側の縦辺部72とが継ぎ目無く繋がったコの字状枠部品と、一辺の横辺部71により成る直線状枠部品とを備え、コの字状の枠部品と直線状枠部品とを概略長方形を画成するように組み合わせて構成されていてもよい。
【0070】
例えば、一対の縦辺部72の隙間の幅と直線状枠部品の長さとを一致させ、コの字状部品に直線状枠部品を嵌め込むようにして枠体7を構成する。この構造によると、直線状枠部品を縦辺部72に沿ってスライドさせることができる。そうすると、コイル2がモールド樹脂5の射出圧によって巻軸方向が縮むように圧縮され、下面26の縦方向の長さが変動しても、直線状部品がスライドすれば下面26に合わせた枠体7になる。この枠体7は下面26を隙間無く囲み続ける。そのため、下面26を縦方向全域に亘って露出させつつ、下面26側にモールド樹脂5が入り込んでしまうことを阻止できる。
【0071】
コイル2を被覆する部材として板体6を排除してもよい。この場合、コイル2の上面25に上型K2を直接押し付けるようにすればよい。例えば、コイル2の下面26は金属製の冷却板等に放熱シートを介して接触させるために、コイル2の下面26の傷は絶縁不良を発生させる虞がある。一方、コイル2の上面25の近くには金属部材等が配置されず、コイル2の上面25に対する傷防止対策を下面26のように施す必要がない場合などにおいて、板体6は必須ではない。
【0072】
また、隣接辺81側で枠体7同士が互いの第1突起部76を押し付けあうことができれば、隣接辺81とは反対の外側辺82が下型K1の側方部K12で直接支持されていても、金型内で枠体7は、横方向の位置が不動となる。
【0073】
連結コイル29ではなく、別々に作製された2個のコイル2,2をリアクトル10が備えるようにしても、この枠体7を備えていれば、モールド樹脂5の射出圧によって煽られても位置ズレが抑制される。
【符号の説明】
【0074】
1 コア
2 コイル
21 第1端面
22 第2端面
23 導電線
24 連結線
25 上面
26 下面
27 側面
28 下側湾曲面
29 連結コイル
3 コア被覆樹脂
4 センサ
5 モールド樹脂
51 枠支持部
6 板体
7 枠体
71 横辺部
72 縦辺部
731 第1枠開口面
732 第2枠開口面
74 垂直部
75 湾曲部
751 密着面
752 外面
753 上側端面
76 第1突起部
77 第2突起部
78 空隙
79 第3突起部
81 隣接辺
82 外側辺
9 モールドコイル
10 リアクトル
11 リアクトル軸
K1 下型
K12 側方部
K2 上型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10