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特許7629758固定治具およびこれを用いたコンクリートの劣化の早期検知方法
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  • 特許-固定治具およびこれを用いたコンクリートの劣化の早期検知方法 図1A
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  • 特許-固定治具およびこれを用いたコンクリートの劣化の早期検知方法 図2A
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  • 特許-固定治具およびこれを用いたコンクリートの劣化の早期検知方法 図3
  • 特許-固定治具およびこれを用いたコンクリートの劣化の早期検知方法 図4
  • 特許-固定治具およびこれを用いたコンクリートの劣化の早期検知方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】固定治具およびこれを用いたコンクリートの劣化の早期検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20250206BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20250206BHJP
   G01N 21/88 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
G01N1/28 W
G01N33/38
G01N21/88 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021036654
(22)【出願日】2021-03-08
(65)【公開番号】P2022136851
(43)【公開日】2022-09-21
【審査請求日】2024-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100114258
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100125391
【弁理士】
【氏名又は名称】白川 洋一
(72)【発明者】
【氏名】内田 雅隆
(72)【発明者】
【氏名】小池 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】早野 博幸
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-87658(JP,U)
【文献】実開平5-28954(JP,U)
【文献】特開2020-153784(JP,A)
【文献】特開2004-333405(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015201130(DE,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/212094(US,A1)
【文献】中国実用新案第212391321(CN,U)
【文献】特開2012-2617(JP,A)
【文献】嶌田聖史 ほか,ラインセンサタイプ全視野ひずみ計測装置を用いたコンクリート断面内の乾燥収縮ひずみ評価,土木学会第70回年次学術講演会講演概要集,2015年,p.153,V-077
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00-1/44
G01N 33/38
G01N 21/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラインセンサスキャナーの読取り面上の定位置に読取り対象となるコンクリート供試体を固定する固定治具であって、
1つ以上の貫通孔を有する板状部材と、
前記貫通孔の一方の開口端部を囲繞し、前記コンクリート供試体を収容する中空部を有する中空柱状部材と、
前記中空柱状部材に設けられ、前記収容されたコンクリート供試体を固定する固定部と、を備え、
前記貫通孔の内径は、前記中空柱状部材の内径より小さいことを特徴とする固定治具。
【請求項2】
前記板状部材および前記中空柱状部材は、耐熱性の素材で形成されていることを特徴とする請求項1記載の固定治具。
【請求項3】
前記固定部は、前記中空柱状部材の側面に形成された2つ以上の係止孔と、前記係止孔に嵌まる固定部材で構成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の固定治具。
【請求項4】
前記固定部は、前記中空柱状部材の内側面に形成された2つ以上の係止爪で形成されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の固定治具。
【請求項5】
前記固定部は、前記収容されたコンクリート供試体を把持するよう閉状態に付勢する付勢手段と、一対の把持部で構成されることを特徴とする請求項1または請求項2記載の固定治具。
【請求項6】
前記固定部は、前記中空柱状部材の内側面に形成された弾性体であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の固定治具。
【請求項7】
前記貫通孔の前記板状部材の他方の面側に支持部を備えることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の固定治具。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の固定治具を用いたコンクリートの劣化の早期検知方法であって、
コンクリート供試体を、固定治具へ設置し、固定するステップと、
前記コンクリート供試体を設置した固定治具を、ラインセンサスキャナーに設置し、コンクリート供試体の画像取得対象面のデジタル画像を取得するステップと、
コンクリート供試体を設置した固定治具を、ラインセンサスキャナーから外し、固定治具にコンクリート供試体を設置した状態で、コンクリート供試体を乾燥、加熱、及び冷却のいずれかの処理を行うステップと、
前記乾燥、加熱、及び冷却のいずれかの処理を行ったコンクリート供試体を、固定治具にコンクリート供試体を設置した状態で、ラインセンサスキャナーに設置し、コンクリート供試体の取得対象面のデジタル画像を取得するステップと、
前記取得した2つのデジタル画像に基づき、デジタル画像相関法を用いてひずみを算出し、該ひずみに基づき最大主ひずみの変化の分布を得るステップと、
前記取得したひずみの正負の分布に基づき、コンクリートの劣化要因を推定するステップと、を少なくとも含むコンクリートの劣化の早期検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラインセンサタイプのデジタル画像取得用スキャナー(全視野ひずみ計測装置)に装着する固定治具、およびこれを用いたコンクリートの劣化の早期検知方法に関する。
【0002】
コンクリートが劣化する要因として、アルカリシリカ反応(ASR:Alkali-Silica-Reaction)、エトリンガイトの遅延生成(DEF:Delayed Ettringite Formation)、凍結融解、乾燥収縮、および鉄筋の腐食等が挙げられる。これらのうち、アルカリシリカ反応は、反応性骨材中のシリカと、コンクリート中のアルカリ金属イオンが、高いpH条件下で反応してアルカリシリカゲルを生成し、このゲルが吸収して膨張し、コンクリートにひび割れが生じる現象である。また、エトリンガイトの遅延生成は、コンクリートを蒸気養生すると数年後にエトリンガイトが集中して生じる場合があり、このエトリンガイトがコンクリートを膨張させてコンクリートが崩壊する現象である。凍結融解は、コンクリート中の水分が、長年にわたり凍結と融解を繰り返し、水分(氷)の体積膨張により、コンクリートにひび割れが生じる現象である。また、乾燥収縮は、コンクリートの乾燥によりコンクリート中の水分が蒸発してコンクリートが収縮しひび割れが生じる現象である。さらに、鉄筋の腐食は、中性化や塩害により鉄筋の不動態被膜が損傷し、鉄筋が発錆して膨張し、コンクリートにひび割れが生じる現象である。
【0003】
これらのコンクリートの劣化現象では、ひび割れが顕在化してひび割れを発見した時点では劣化が進み過ぎている場合が多い。したがって、コンクリートの劣化を効果的に防ぐには、ひび割れが顕在化する前に劣化の要因を早期に検知して、それぞれに要因に応じて対策をとる必要がある。
【0004】
ところで、従来、コンクリートの劣化を検知する方法は、いくつか提案されている。コンクリート構造物の亀裂検査方法として、コンクリート構造物を構成する基体の上に、下塗層、剥落防止用シート層、および上塗層を順次積層したうえに、さらに上塗層の上に、励起光によって発色する蛍光色素を混入した高弾性塗膜層と、励起光の透過を阻止する遮蔽剤を混入した低弾性塗膜層とを順次積層して、コンクリート構造物の供用を開始した後に、当該構造物に励起光を照射して、経時劣化により基体に発生した亀裂を検出する方法がある。
【0005】
また、コンクリート劣化因子検出方法として、コンクリート面を撮像して可視光画像を取得し、他方、そのコンクリート面に赤外線を照射すると共に、コンクリート面からの反射光を、スキャニング装置を介して分光器に入力し、その分光器で特定の劣化因子を検出するための特定の波長の光強度に基づく吸光度を検出すると共に、その吸光度を劣化因子の濃度に換算してその濃度を量子化し、その量子化した値を基に前記測定するコンクリート面に対応させて濃淡あるいは色に表して劣化因子画像を取得し、その劣化因子画像と上記可視光画像とを合成する方法がある。また、コンクリート劣化検知方法として、デジタル画像を経時的に取得し、デジタル画像相関法を用いてひずみの分布を得る方法がある。しかし、いずれの方法も作業が煩雑であったり、手間と時間を要する。
【0006】
このような状況の中、特許文献1では、ラインセンサタイプのデジタル画像取得用スキャナー(全視野ひずみ計測装置)を用いて、乾燥、加熱、及び冷却のいずれかを含む処置を行った前後のコンクリート表面のデジタル画像相関法により取得したひずみの分布から、劣化の要因を、早期かつ迅速に検知することができるコンクリートの劣化の早期検知方法について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2020-153784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1記載のコンクリートの劣化の早期検知方法では、測定対象のコンクリート構造物に、ラインセンサタイプのデジタル画像取得用スキャナー(全視野ひずみ計測装置)(以下、単にラインセンサスキャナーともいう)を直接固定し、画像を取得する必要がある。そのため、コンクリートの劣化要因を調べるためには、現地へ赴く必要があった。また、該ラインセンサスキャナーは、265×570mmの大きさを有するため、該コンクリート構造物の測定面には、該ラインセンサスキャナーを設置するための面積が必要とされ、かつ、測定エリアは平らでないと測定できない。
【0009】
本願発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、現地へ赴くことなく、測定対象のコンクリート構造物のコア試料(以下、コンクリート供試体ともいう)を用いて、コンクリートの劣化を早期検知することを可能とする固定治具およびこれを用いたコンクリートの劣化の早期検知方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の固定治具は、ラインセンサスキャナーの読取り面上の定位置に読取り対象となるコンクリート供試体を固定する固定治具であって、1つ以上の貫通孔を有する板状部材と、前記貫通孔の一方の開口端部を囲繞し、前記コンクリート供試体を収容する中空部を有する中空柱状部材と、前記中空柱状部材に設けられ、前記収容されたコンクリート供試体を固定する固定部と、を備え、前記貫通孔の内径は、前記中空柱状部材の内径より小さいことを特徴としている。
【0011】
これにより、測定対象のコンクリート構造物に直接ラインセンサスキャナーを設置する必要がなくなる。コンクリート構造物から取得したコア試料を用いて、コンクリート構造物の劣化を早期検知することが可能となる。また、従来は、測定対象のコンクリート構造物において、ラインセンサスキャナーを設置するための平らで広い設置スペースが必要であったが、本発明の固定治具を用いることにより、測定対象のコンクリート構造物がどのような場所にあっても、コア試料が取得できれば測定することが可能となる。
【0012】
(2)また、本発明の固定治具において、前記板状部材および前記中空柱状部材は、耐熱性の素材で形成されていることを特徴としている。これにより、ひずみ顕在化処置(詳細は後述する)において、固定治具にコンクリート供試体を固定した状態のまま、加熱等の処置を行っても、変形することなく、コンクリート供試体を固定した状態を保つことが可能となる。
【0013】
(3)また、本発明の固定治具において、前記固定部は、前記中空柱状部材の側面に形成された2つ以上の係止孔と、前記係止孔に嵌まる固定部材で構成されることを特徴としている。これにより、撮像中にコンクリート供試体が動かないように固定することが可能となり、正確な画像を取得することが可能となる。
【0014】
(4)また、本発明の固定治具において、前記固定部は、前記中空柱状部材の内側面に形成された2つ以上の係止爪で形成されていることを特徴としている。これにより、撮像中にコンクリート供試体が動かないように固定することが可能となり、正確な画像を取得することが可能となる。また、コンクリート供試体を簡易に固定することが可能となる。
【0015】
(5)また、本発明の固定治具において、前記固定部は、前記収容されたコンクリート供試体を把持するよう閉状態に付勢する付勢手段と、一対の把持部で構成されることを特徴としている。これにより、撮像中にコンクリート供試体が動かないように固定することが可能となり、正確な画像を取得することが可能となる。また、コンクリート供試体を簡易に固定することが可能となる。
【0016】
(6)また、本発明の固定治具において、前記固定部は、前記中空柱状部材の内側面に形成された弾性体であることを特徴としている。これにより、撮像中にコンクリート供試体が動かないように固定することが可能となり、正確な画像を取得することが可能となる。また、コンクリート供試体を簡易にかつ破損させることなく固定することが可能となる。
【0017】
(7)また、本発明の固定治具において、前記貫通孔の他方の開口端部に支持部を備えることを特徴としている。これにより、前記コンクリート供試体がラインセンサスキャナーの画像読み取り面に、コンクリート供試体が当接することを防ぐ。また、コンクリート供試体とラインセンサスキャナーとの間に一定距離を保つことで、撮像時にコンクリート供試体への焦点を調整することが可能となる。
【0018】
(8)また、本発明のコンクリートの劣化の早期検知方法は、(1)から(7)のいずれかに記載の固定治具を用いたコンクリートの劣化の早期検知方法であって、コンクリート供試体を、固定治具へ設置し、固定するステップと、前記コンクリート供試体を設置した固定治具を、ラインセンサスキャナーに設置し、コンクリート供試体の画像取得対象面のデジタル画像を取得するステップと、コンクリート供試体を設置した固定治具を、ラインセンサスキャナーから外し、固定治具にコンクリート供試体を設置した状態で、コンクリート供試体を乾燥、加熱、及び冷却のいずれかの処理を行うステップと、前記乾燥、加熱、及び冷却のいずれかの処理を行ったコンクリート供試体を、固定治具にコンクリート供試体を設置した状態で、ラインセンサスキャナーに設置し、コンクリート供試体の取得対象面のデジタル画像を取得するステップと、前記取得した2つのデジタル画像に基づき、デジタル画像相関法を用いてひずみを算出し、該ひずみに基づき最大主ひずみの変化の分布を得るステップと、前記取得したひずみの正負の分布に基づき、コンクリートの劣化要因を推定するステップと、を少なくとも含むことを特徴とする。
【0019】
これにより、測定対象のコンクリート構造物に直接ラインセンサスキャナーを設置する必要がなくなる。コンクリート構造物から取得したコア試料を用いて、コンクリート構造物の劣化を早期検知することが可能となる。また、従来は、測定対象のコンクリート構造物において、ラインセンサスキャナーを設置するための平らで広い設置スペースが必要であったが、本発明のコンクリートの劣化の早期検知方法は、測定対象のコンクリート構造物がどのような場所にあっても、コア試料が取得できれば測定することが可能となる。さらに、ひずみ顕在化処置である乾燥、加熱、及び冷却のいずれかの処理、およびその前後に行うコンクリート供試体の測定面の画像取得処理、すべて固定治具にコンクリート供試体を固定した状態で行うため、ラインセンサスキャナーの同一読み取り位置、同一の方向に設置し、撮像することが可能となり、ひずみ顕在化処置前後の変化をより明確に取得することが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、現地へ赴くことなく、測定対象のコンクリート構造物のコア試料を用いて、簡易でより正確にコンクリートの劣化を早期検知することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】本実施形態に係る固定治具の概略構成を示す平面図である。
図1B図1AのA-Aにおける断面を示す図である。
図1C図1BのB部分の拡大図である。
図2A】本実施形態に係る固定治具をラインセンサスキャナーに設置した状態を示す概略図である。
図2B図2AのA-Aにおける断面を示す図である。
図3】固定部の変形例を示す図である。
図4】本実施形態の固定治具を用いたコンクリートの劣化の早期検知方法の手順を示す図である。
図5】本実施例において取得したひずみ分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者らは、ラインセンサスキャナーにコンクリート供試体を固定することができる固定治具を用いることによって、現地へ赴くことなく、測定対象のコンクリート構造物のコア試料を用いて、コンクリートの劣化を早期検知することが可能であることを見出し、本発明をするに至った。本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
[固定治具の構成]
図1Aは、本実施形態に係る固定治具1の概略構成を示す平面図である。図1Bは、図1AのA-Aにおける断面を示す図である。図1Cは、図1BのB部分の拡大図である。固定治具1は、コンクリート構造物のコア試料の画像を取得するために、ラインセンサスキャナーの画像読み取り面上に設置し、使用するものである。また、該ラインセンサスキャナーは、平面の大きさが265×570mmのものを使用するが、これに限定されない。平面の大きさが265×570mm以上でもよいし、それ以下でもよい。ラインセンサスキャナーの平面の大きさに応じて、以下に説明する固定治具およびそれを構成する各構成要素の大きさや数を変更することが可能であることはいうまでもない。
【0024】
固定治具1は、貫通孔13を有する板状部材11と、貫通孔13の一方の開口端部にコンクリート供試体を収容する中空部を有する中空柱状部材15と、収容されたコンクリート供試体を固定する固定部17と、貫通孔13の他方の開口端部に支持部19を備える。
【0025】
板状部材11は、ラインセンサスキャナーの画像を読み取り面とほぼ同じ大きさの面を有する。本実施形態では、板状部材11は、耐熱性の素材で形成され、約242×550mmの大きさを有する。板状部材11を形成する耐熱性の材料として、例えば、アルミニウムを用いることができる。さらに、加熱、冷却および乾燥に耐えることができ、かつ軽量化できる材料として、例えば、チタン、マグネシウム等を用いてもよい。
【0026】
図2Aは、本実施形態に係る固定治具1をラインセンサスキャナー3に設置した状態を示す概略図である。図2Bは、図2AのA-Aにおける断面を示す図である。該ラインセンサスキャナー3への固定治具1の設置は、ボルトやビスなどの部材で該ラインセンサスキャナー3に固定してもよいし、固定治具1の板状部材11の形状を該ラインセンサスキャナー3の形状に合致するよう嵌合形状に形成し、該ラインセンサスキャナー3に嵌合させて固定してもよく、特に限定されない。また、該ラインセンサスキャナー3上に、固定治具1を固定するための設置枠や支持部材などが設けられていてもよい。
【0027】
また、板状部材11には、φ100mmの貫通孔が2つ、φ75mmの貫通孔が1つ、φ50mmの貫通孔が1つ、合計4つの貫通孔が設けられており、各貫通孔13にはコンクリート供試体を設置する。貫通孔13の数は、4つに限定されない。1つでもよいし、2つ以上設けられていてもよい。また、各貫通孔13のサイズは、上述した3つのサイズに限定されない。設置するコンクリート供試体の大きさに応じて、貫通孔13のサイズを変更してもよい。また、本実施形態に係る貫通孔13の形状は、略円形であるが、円形に限定されない。例えば、三角形や四角形などの多角形の形状を有していてもよい。
【0028】
中空柱状部材15は、コンクリート供試体を収容するための部材であり、貫通孔13の一方の開口端部を囲繞するように設けられている。中空柱状部材15は、耐熱性の素材で形成されている。板状部材11を形成する耐熱性の材料として、例えば、アルミニウムを用いることができる。さらに、加熱、冷却および乾燥に耐えることができ、かつ軽量化できる材料として、例えば、チタン、マグネシウム等を用いてもよい。
【0029】
貫通孔13の内径の大きさは、中空柱状部材15の横断面の内径の大きさより小さい。中空柱状部材15は、板状部材11と一体成型されていてもよいし、板状部材11にボルトやビスなどで固定する構造をとっていてもよい。本実施形態では、中空柱状部材15の横断面は、略円形として説明するが、円形に限定されない。例えば、三角形や四角形などの多角形の形状を有していてもよい。また、貫通孔13の形状と中空柱状部材15の横断面形状は、同じ形状であることが好ましいが、それに限定されない。
【0030】
また、中空柱状部材15には、中空柱状部材15内に収容したコンクリート供試体を動かないように固定するため、固定部17が設けられている。固定部17は、中空柱状部材15の中空柱状の側面に形成された2つ以上の係止孔21と、係止孔21に嵌まる固定部材23で構成される。コンクリート供試体を中空柱状部材15内に収容した後、中空柱状部材15の外側面から、係止孔21に固定部材23を嵌めることにより、コンクリート供試体を固定する。固定部材23には、例えば、ボルトを用いてもよいが、これに限定されない。中空柱状部材15内に収容したコンクリート供試体を固定できる部材であればよい。このように、コンクリート供試体を固定部材23等で固定することで、正確な画像を取得することが可能となる。
【0031】
また、図示しないが、固定部17は、係止孔21と固定部材23以外に、例えば、中空柱状部材15の内側面に形成された2つ以上の係止爪であってもよい。固定部17を係止爪で形成することにより、コンクリート供試体を中空柱状部材15内に収容するだけで、コンクリート供試体を固定することが可能となる。係止爪は、中空柱状部材15と同様の材料で形成されていてもよい。
【0032】
また、図示しないが、固定部17は、収容されたコンクリート供試体を把持するよう閉状態に付勢する付勢手段と、一対の把持部で構成されていてもよい。コンクリート供試体を中空柱状部材内に収容する際に、付勢手段によって一対の把持部を開状態にし、コンクリート供試体収容後、一対の把持部を閉状態にすることで、コンクリート供試体を固定することが可能となる。一対の把持部は、中空柱状部材15と同様の耐熱性を有する材料で形成されていてもよい。
【0033】
図3は、固定部17の変形例を示す図である。図3(a)は固定部17の変形例の平面図、図3(b)は図3(a)のA-Aにおける断面図である。例えば、図3(a)、(b)に示すように、固定部17は、中空柱状部材15の内側面にコンクリート供試体よりも小さい内径を有するよう形成された弾性体であってもよい。このように、固定部17を中空柱状部材15の内側面に形成し、かつ弾性体とすることで、コンクリート供試体を中空柱状部材15内に収容するだけで、コンクリート供試体を固定することが可能となる。弾性体は、コンクリート供試体を固定できればよいため、中空柱状部材15の内側面全体に設ける必要はなく、中空柱状部材15の内側面の一部に設けられていてもよい。また、弾性体は、耐熱性を有する樹脂などの材料で形成されていてもよい。さらに、加熱、冷却および乾燥に耐えることができる材料として、シリコーンゴム等を用いてもよい。
【0034】
支持部19は、板状部材11のラインセンサスキャナー3に接する面側となる、貫通孔13の他方の開口端部に設けられている。支持部19の内径は、板状部材11に設けられた貫通孔13の内径よりも小さい径を有する。支持部19の形状は、貫通孔13と同一の形状であることが好ましいが、これに限定されない。中空柱状部材15内に収容されたコンクリート供試体がラインセンサスキャナー3の画像読み取り面に当接しないよう、支えることができれば、どのような形状であってもよい。また、図1Cに示すように、支持部19は、板状部材11と一体成型されていてもよい。このように、支持部19を設けることで、ラインセンサスキャナー3の画像読み取り面にコンクリート供試体が当接し、ラインセンサスキャナー3の画像読み取り面を傷つけてしまうことを防ぐ。また、支持部19を設けることで、コンクリート供試体とラインセンサスキャナー3との間に一定距離を保つことができ、その結果、撮像時において、コンクリート供試体に焦点を調整することが可能となる。
【0035】
さらに、固定治具1には、板状部材11上に把手29を設けられていてもよい。コンクリート供試体を固定した後、ラインセンサスキャナー3へ固定治具1を設置する際に、把手29を持ち、設置することができる。
【0036】
さらに、固定治具1に遮光用の蓋31を設けられていてもよい。コンクリート供試体を収容しない中空柱状部材15があった場合、該中空柱状部材15の上部に遮光用の蓋31を設置し、ラインセンサスキャナー3での撮像時に発生する光を遮光することが可能となる。
【0037】
このように構成された固定治具1を用いることで、コンクリート構造物自体に直接ラインセンサスキャナー3を設置することなく、コンクリート供試体を用いてコンクリート構造物の画像解析を可能とする。
【0038】
[コンクリートの劣化の早期検知方法]
次に、本実施形態の固定治具を用いたコンクリートの劣化の早期検知方法について説明する。図4は、本実施形態の固定治具を用いたコンクリートの劣化の早期検知方法の手順を示す図である。以下の工程を経て得た最大主ひずみの分布の像に現れた模様を用いてコンクリートの劣化を検知する。
【0039】
(手順)
(A)コンクリートの劣化を測定するためのコンクリート供試体として、測定対象のコンクリート構造物からコア試料を取得し、コンクリート供試体5を準備する。取得したコア試料は、切断、研磨を行い、測定面(画像取得対象面)に骨材が見え、かつ平らな状態にする。もし平らであっても骨材が見えない場合は、ランダムパターン処置を行う。
(B)準備したコンクリート供試体5を、固定治具1へ設置し、固定する(図4(1))。
(C)次に、コンクリート供試体5を設置した固定治具1を、ラインセンサスキャナー3に設置し、乾燥、加熱、及び冷却のいずれかを含む処理(ひずみ顕在化処置工程)を行う前に、コンクリート供試体5の画像取得対象面のデジタル画像を取得する(ひずみ顕在化処置前の画像取得工程)(図4(2))。なお、コンクリート供試体5を収容しない中空柱状部材15があった場合は、該中空柱状部材15の上部に遮光用の蓋31を設置し、ラインセンサスキャナー3での撮像時に発生する光を遮光する。
(D)コンクリート供試体5を設置した固定治具1を、ラインセンサスキャナー3から外し、固定治具1にコンクリート供試体5を設置した状態で、コンクリート供試体5を乾燥、加熱、及び冷却のいずれかの処理を行う(ひずみ顕在化処置工程)(図4(3))。
(E)乾燥、加熱、及び冷却のいずれかを含む処理(ひずみ顕在化処置工程)を行った後に、コンクリート供試体5を設置した固定治具1を、再度ラインセンサスキャナー3に設置し、コンクリート供試体5の取得対象面のデジタル画像を取得する(ひずみ顕在化処置後の画像取得工程)(図4(4))。なお、ひずみ顕在化処置工程において、加熱による処理を行った場合は、コンクリート供試体5上部にラバーヒーター39を設置した状態を保持し、コンクリート供試体5の温度低下を防止してもよい。
(F)処置前及び処置後のデジタル画像に基づき、デジタル画像相関法を用いてひずみを算出し、該ひずみに基づき最大主ひずみの変化の分布を得る(最大主ひずみ分布取得工程)。
(G)ひずみの正負の分布に基づき、コンクリートの劣化要因を推定する。
【0040】
次に、上記(D)~(F)の工程の詳細を説明する。
(D)ひずみ顕在化処置前(F)ひずみ顕在化処置後の画像取得工程
該工程は、コンクリート供試体5の表面のデジタル画像を取得する工程である。ここで、前記コンクリート供試体5のコンクリートは、特に制限されず、普通コンクリート、水密コンクリート、暑中コンクリート、寒中コンクリート、マスコンクリート、流動化コンクリート、高流動コンクリート、高強度コンクリート、低発熱コンクリート、膨張コンクリート、プレストレストコンクリート、低収縮コンクリート、繊維補強コンクリート、軽量コンクリート、およびポリマーコンクリートが挙げられる。
【0041】
良好なデジタル画像を取得するために、コンクリートの取得対称面は、研磨することが好ましい。また、取得対象面のデジタル画像はコンクリートを乾燥、加熱、及び冷却のいずれかを含む処理を行う前後において取得する。また、画像を取得する時期は、ひび割れが発生すると蓄積されたひずみが解放されてしまうため、好ましくは、コンクリートが硬化した後から、少なくともひび割れが発生する前までに取得する。ここで、コンクリートの画像取得時に、画像の取得面に水分が付着していると、色のコントラストが小さくなり、また色むらが生じて、処理前後で取得した画像の相関性が低下する場合がある。この相関性の低下を避けるため、画像取得前に、コンクリートの撮影面の水分を布などに吸収して除去するか、または撮影面から水分がなくなるまで静置して風乾するなどの処理を行う。なお、当該処理は、画像の取得面に水分が付着している場合に行う任意の処理である。
【0042】
(E)ひずみ顕在化処置工程
該工程は、コンクリート供試体5の取得対象面を乾燥、加熱、及び冷却のいずれかを含む処置を行う工程である。長時間にかけて経時的に画像を取得することなく、乾燥を行うことで乾燥収縮による長さ変化をもたらし、ひずみ分布により明確にすることができる。コンクリート表面の乾燥は、扇風機や圧縮空気などで送風したり、ジェットヒーター、バーナーなどを用いて温風をあてることで可能である。また、ハロゲンヒーターや太陽光などで表面を加熱して乾燥してもよい。乾燥温度は、特に制限されないが、乾燥の速さを考慮すると、コンクリートの表面温度で好ましくは30℃以上、より好ましくは40℃以上になるように行う。乾燥温度は、コンクリートの劣化を生じさせないよう、コンクリートの表面温度で好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下とする。乾燥時間の下限は、乾燥方法にもよるが、温風や加熱による方法の場合、ひずみ分布をより明確にできるよう、好ましくは10分、より好ましくは1時間、さらに好ましくは3時間である。また、乾燥時間の上限は、検知方法の迅速性確保とコンクリートの劣化を生じさせないために、好ましくは1週間、より好ましくは3日間、さらに好ましくは1日間である。
【0043】
その他の乾燥方法として、アルコールやアセトンなどの有機溶剤に浸漬したり、噴霧などを行いコンクリート中の水分を脱水(吸水)させることが挙げられる。脱水時間は少なくとも30分以上とするのが好ましい。有機溶剤に浸漬した後は、結露する場合があるので迅速に有機溶剤を拭き取るなどして除去するか、乾燥した条件下に静置するとよい。
【0044】
上記乾燥前には浸漬、噴霧、濡れた布を覆うなどで水に接触させて十分吸水したコンクリート表面を処置前とし、その後乾燥したものを処置後とすると、より明確なひずみ分布を得ることができる。吸水時間は少なくとも30分以上とするとよい。
【0045】
長時間にかけて経時的に画像を取得することなく、加熱を行うことで温度ひずみによる長さ変化をもたらし、ひずみ分布をより明確にすることができる。本発明におけるコンクリート表面の過熱は、前記乾燥も兼ねてジェットヒーター、バーナーなどを用いて温風をあててもよいし、ハロゲンヒーターや太陽光などで加熱してもよい。また、ラバーヒーターなどのシートヒーターや温水でコンクリート表面を覆って加熱することもできる。加熱温度は、特に限定されないが、ひずみ分布をより明確にできるよう、コンクリートの表面温度で元の温度よりも好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上高くなるようにする。乾燥温度は、コンクリートの劣化を生じさせないよう、コンクリートの表面温度で好ましくは80℃以下、より好ましくは60℃以下とする。加熱時間は、コンクリート表面が十分に加熱されるよう、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、さらに好ましくは1時間以上である。また、乾燥時間は、検知方法の迅速性確保とコンクリートの劣化を生じさせないために、好ましくは1日以内、より好ましくは6時間以内、さらに好ましくは3時間以内である。
【0046】
長時間かけて経時的に画像を取得することなく、冷却を行うことで温度ひずみによる長さ変化をもたらし、ひずみ分布をより明確にすることができる。本発明におけるコンクリート表面の冷却は、冷風発生装置などを用いて冷風をあてたり、冷却スプレーを噴霧することで可能である。また、保冷材や冷水でコンクリート表面を覆って冷却することもできる。冷却効率の向上や冷却のばらつきをなくすために、コンクリート表面に金属などの電熱板を設置した上から保冷材で覆うとさらによい。冷却温度は、特に制限されないが、ひずみ分布をより明確にできるよう、コンクリートの表面温度で元の温度よりも好ましくは20℃以上、より好ましくは40℃以上低くする。冷却温度は、コンクリートの劣化を生じさせないよう、コンクリートの表面温度で好ましくは10℃以上、より好ましくは0℃以上とする。冷却時間は、コンクリート表面が十分に冷却されるよう、好ましくは10分以上、より好ましくは30分以上、さらに好ましくは1時間以上である。また、冷却時間は、検知方法の迅速性の確保とコンクリートの劣化を生じさせないために、好ましくは1日以内、より好ましくは6時間以内、さらに好ましくは3時間以内である。なお、前記加熱の方法を用いて加熱しておいて、大気に曝して周辺の環境温度まで冷ますことでも可能である。
【0047】
(G)最大主ひずみ分布取得工程
該工程は、取得したデジタル画像に基づき、デジタル画像相関法を用いてひずみを算出し、該ひずみに基づき最大主ひずみの分布を得る工程である。取得したデジタル画像は、コンクリート供試体5の処置前後のデジタル画像であり、デジタル画像相関法を用いて変形後の最大主ひずみを算出する。デジタル画像相関法は、処置の前後に取得したデジタル画像の輝度値の分布に基づいて、コンクリート上の移動量を算出し最大主ひずみに変換する方法である。
【0048】
具体的には、以下の計算過程を経てひずみを算出する。
(i)処置前のデジタル画像において、任意の位置を中心とするサブセット内の輝度値分布を求める。
(ii)処置後のデジタル画像の輝度値分布と最も相関性が高い輝度値分布を有する、処置前のデジタル画像のサブセットを探索し、その中心点を着目点が変位した後の位置として捉えて、着目点から該中心点へ変位した量を算出し、さらに該変位した量を最大主ひずみに変換する。なお、処置前後のサブセットの相関性は、下記(1)式の相関係数Rを用いて表す。
【0049】
【数1】
ただし、(1)式中、Mは、サブセットのx,y方向の画素数、
f(x,y)は変形前のデジタル画像の座標(x,y)におけるサブセット内の輝度値、
g(x*,y*)は変形後のデジタル画像の座標(x*,y*)におけるサブセット内の輝度値を表す。
【0050】
ただし、実際は、矩形に設定した処置前のサブセットに対し、処置後のデジタル画像そのものが変形しているため、サブセットが矩形にならない場合がある。この場合、これを補正するため、サブセット内部において変位勾配が一定と仮定して、処置前後の座標(x,y)および(x*,y*)には下記(2)式を用いる。
【数2】
【0051】
ただし、(2)式中、u及びvはサブセット画像の中心における変位成分であり、Δx,Δyはサブセットの中心から点(x,y)までの距離である。以上の計算は、市販の画像解析用ソフトウェア(例えば、digital:Correlated solutions社製)を用いて行うことができる。
【0052】
次に、上記取得したひずみ分布画像から、コンクリートの劣化の要因を検知するための基準を以下に記す。
(a)ひずみ分布画像において、亀甲状の模様が出願した部分は、アルカリシリカ反応(ASR)として検知する。また、模様の線部はより大きいプラス(膨張)のひずみを示し、基質部(模様以外の部分)も全体的にプラス(膨張)のひずみを示す。
(b)ひずみ分布画像において、全体的に一様な模様が出現した場合は、エトリンガイトの遅延生成(DEF)として検知する。また、表層に骨材が位置する部分は低いひずみ値を示すが、その他のペースト部分またはモルタル部分は全体的にプラス(膨張)のひずみを示す。
(c)ひずみ分布画像において、斑点状の模様が出現した場合は、凍結融解として検知する。また、斑点の部分は大きいプラス(膨張)のひずみを示す。斑点以外の部分は、コンクリートの配合条件や設置条件により、ひずみはプラス(膨張)やマイナス(収縮)になるため、劣化の検知には使えない。
(d)ひずみ分布画像において、鉄筋が存在しない箇所に線状の模様、または、構造物の柱若しくは梁等の部材に対して斜め方向の線状の模様が出現した場合は、乾燥収縮として検知する。なお、構造物において鉄筋の存在しない箇所は、図面や電波レーダー等の既存の方法を用いて事前に確認できる。さらに、柱または梁等の部材に対する斜め方向の模様は、各部材に対する角度を限定するものではない。また、模様の線部はプラス(膨張)のひずみを示し、基質部は全体的にマイナス(収縮)のひずみを示す。
(e)鉄筋の直上(鉄筋のかぶりの部分)に線状の模様が出現した場合は、鉄筋の腐食として検知する。なお、鉄筋位置は、構造物の図面や電波レーダー等の既存の方法を用いて事前に確認できる。また、模様の線部はプラス(膨張)のひずみを示し、その他の部分は、コンクリートの配合条件や設置条件により、ひずみはプラス(膨張)やマイナス(収縮)になる。
【0053】
このように、ひずみ分布を元画像に重ね合わせることで、粗骨材、モルタル位置とひずみの集中域が把握でき、劣化要因推定を行うことができる。また、各種の劣化の要因を検出するにあたり、表1に示すひずみ分布の形態と判断材料となる着目点も考慮すると、劣化現象をより効率よく検知することができ、総合的な劣化要因を推定することができる。また、各種劣化におけるひずみ分布の特徴、さらに、供用年数や供用環境のデータを学習(深層学習を含む)させることで、AIによる劣化要因の推定も可能となる。
【0054】
【表1】
【0055】
以上のように、コンクリートの劣化の早期検知方法は、コンクリートの各種の劣化の要因を早期に検知できるため、早期に劣化の対策をとることができ、コンクリートの維持管理や延命に寄与することができる。
【0056】
[実施例]
以下の手順で、本実施形態の固定治具を用いて、コンクリート供試体の劣化の早期検出を行った。
(1)コンクリート供試体の準備
測定対象のコンクリート構造物から、φ100mmのコア試料を採取した。コア試料の端部を切断し、φ100×厚さ20mmの形状に調整したコンクリート供試体を準備した。
(2)固定治具への設置
準備したコンクリート供試体を、固定治具へ設置し、さらに、コンクリート供試体を設置した固定治具を、ラインセンサスキャナーに設置した。
(3)処置前の画像取得
コンクリート供試体の画像取得対象面のデジタル画像を取得した(ひずみ顕在化処置前の画像取得工程)。
(4)ひずみ顕在化処置
ラインセンサスキャナーから固定治具を外し、固定治具にコンクリート供試体を設置したまま、コンクリート供試体の測定面の加熱処置を行った。本実施例では、ラバーヒーター39を用いて、加熱面が60℃になった時点から10分間加熱処置を続けた(ひずみ顕在化処置工程)。
(5)処置後の画像取得
ひずみ顕在化処置の後、ラバーヒーター39を固定治具から取り外し、コンクリート供試体を設置した状態の固定治具を、再度ラインセンサスキャナーに設置し、コンクリート供試体の取得対象面のデジタル画像を取得した(ひずみ顕在化処置後の画像取得工程)。
(6)ひずみ分布・劣化要因の推定
ひずみ顕在化処置前後の画像を比較し、画像相関法によりひずみ分布を取得し、得られたひずみ分布の特徴から、劣化要因を推定した。図5は、本実施例において取得したひずみ分布を示す図である。本実施例では、図5に示すように亀甲状の膨張を示すひずみ分布を示したため、アルカリ骨材反応と推定した。
【0057】
以上説明したように、本発明により、測定対象のコンクリート構造物に直接ラインセンサスキャナーを設置する必要がなくなり、コンクリート構造物から取得したコア試料を用いて、コンクリート構造物の劣化を早期検知することが可能となる。また、測定対象のコンクリート構造物において、ラインセンサスキャナーを設置するための平らで広い設置スペースが必要であったが、本発明の固定治具を用いることにより、測定対象のコンクリート構造物がどのような場所にあっても、コア試料が取得できれば測定することが可能となる。さらに、ひずみ顕在化処置である乾燥、加熱、及び冷却のいずれかの処理、およびその前後に行うコンクリート供試体の測定面の画像取得処理、すべて固定治具にコンクリート供試体を固定した状態で行うため、ラインセンサスキャナーの同一読み取り位置、同一の方向に設置し、撮像することが可能となり、ひずみ顕在化処置前後の変化をより正確に取得することが可能となる。
【符号の説明】
【0058】
1 固定治具
3 ラインセンサスキャナー
5 コンクリート供試体
11 板状部材
13 貫通孔
15 中空柱状部材
17 固定部
19 支持部
21 係止孔
23 固定部材
29 把手
31 遮光用の蓋
39 ラバーヒーター
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4
図5