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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-05
(45)【発行日】2025-02-14
(54)【発明の名称】自走式ロボット
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20250206BHJP
   G01N 21/84 20060101ALI20250206BHJP
【FI】
G01N21/27 B
G01N21/27 F
G01N21/84 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021066660
(22)【出願日】2021-04-09
(65)【公開番号】P2022127552
(43)【公開日】2022-08-31
【審査請求日】2024-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2021025487
(32)【優先日】2021-02-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506310865
【氏名又は名称】CYBERDYNE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山海 嘉之
(72)【発明者】
【氏名】馬場 和那
(72)【発明者】
【氏名】遠山 弘晃
(72)【発明者】
【氏名】中川 恒二
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-216265(JP,A)
【文献】国際公開第2019/187714(WO,A1)
【文献】特開2012-191903(JP,A)
【文献】国際公開第2016/009752(WO,A1)
【文献】特開2019-185213(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111753577(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
G05D 1/00 - G05D 1/87
A01D 46/00 - A01D 46/30
G06Q 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実に光を照射して糖度を推定する非破壊成分推定装置を搭載し、自律的にまたは外部操作に応じて地面を走行する自走式ロボットにおいて、
ロボット本体を前記地面の所望方向に所望速度で走行駆動する走行駆動部と、
多自由度を有する多関節機構を有するアーム部の根元部を支持し、かつ、前記アーム部と一体となって前記走行駆動部に対して回動自在に当該走行駆動部の上段に連結されたアーム支持部と、
前記走行駆動部および前記アーム支持部をそれぞれ駆動制御する走行制御部と
を備え、
前記非破壊成分推定装置は、
前記果実に対して光が照射されたとき、当該果実の内部から生じる散乱光を当該果実の皮表面を介して検出する光検出部と、
前記光検出部に隣設され、前記果実との接触状態を検知する接触検知部と、
先端が前記果実の皮表面に吸着可能な弾性材からなり、当該果実への吸着時に前記光検出部および前記接触検知部の周囲を被覆して外光から遮光するための吸着遮光部と、
前記吸着遮光部に吸着される前記果実の吸着部位の近傍を光照射するように、前記光を照射する光源と、
前記吸着遮光部による吸着対象を撮像すると同時に当該吸着対象までの距離を計測する撮像距離計測部と、
前記光検出部により検出された前記散乱光を分光して、波長ごとの光強度分布を表すスペクトルを計測する分光スペクトル計測部と、
前記果実と異なる複数の同種類の果実に対応する前記散乱光のスペクトルとして記憶されているライブラリと、
前記分光スペクトル計測部により計測されたスペクトルに対して、前記ライブラリに記憶されている複数の前記スペクトルとの相関性を多変量解析することにより、前記果実の内部成分の状態を推定するように学習した推定モデルを構築する推定モデル構築部と、
前記推定モデル構築部により構築された前記推定モデルに基づいて、前記果実の成長過程における内部成分の状態を推定する内部状態推定部と
を備え、
前記走行制御部は、
前記撮像距離計測部にて撮像される前記吸着遮光部による吸着対象の撮像内容と当該吸着対象までの計測距離とに基づいて、前記アーム支持部を回動させるとともに前記アーム部の各関節機構を屈曲または伸展させながら、前記吸着遮光部を前記吸着対象となる前記果実に位置合わせした後、前記接触検知部により前記果実の接触状態を検知しながら当該吸着遮光部を当該果実の外表面に吸着させる
ことを特徴とする自走式ロボット。
【請求項2】
前記ロボット本体の走行環境を撮像する環境撮像部と、
前記環境撮像部による撮像画像に基づいて、前記走行環境における特定の果樹を検知する対象検知部と、
前記走行環境に対して自己の位置を推定すると同時に、前記地面を含む平面的または立体的な環境地図を作成する環境地図作成部と
を備え、前記走行制御部は、前記環境地図作成部により作成された前記環境地図において、前記走行駆動部を制御して前記対象検知部により検知された特定の前記果樹に移動した後、前記アーム部を駆動しながら当該果樹に実る複数の前記果実に対して前記吸着遮光部をそれぞれ当接させるとともに、順次アドレスを割り当てておき、
前記内部状態推定部により推定された前記果実の成長過程における内部成分の状態を表すデータを、前記アドレス単位で管理する
ことを特徴とする請求項1に記載の自走式ロボット。
【請求項3】
前記推定モデル構築部は、前記推定モデルとして、教師あり機械学習法を用い、
前記内部状態推定部は、前記教師あり機械学習法による学習結果を、交差検証によって精度評価する
ことを特徴とする請求項1または2に記載の自走式ロボット
【請求項4】
前記果実は、果樹に実ったままの状態にあり、
前記果実の内部成分は、糖度、酸味、γ-アミノ酪酸、硬さ、密度および色合いの少なくとも1以上からなる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の自走式ロボット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自走式ロボットに関し、例えば果樹に実っている果実をもぎ取ることなく非破壊にて糖度を計測する非破壊成分推定装置を搭載する自走式ロボットに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トマト等の果実の糖度を計測するために、果実に対して近赤外光を照射して吸光度を計測し、その吸光度から糖度を推定する近赤外分光法を用いた非破壊計測方法が実用化されている。
【0003】
しかし、一般的な非破壊計測方法は果実を果樹から採取して集荷した状態で実施されるケースが多く、糖度が必要な値に満たしていないと判断された果実は、商品価値がないものとして廃棄される可能性が高い。
【0004】
この問題を解決すべく、果樹に実った状態のまま果実の糖度を直接計測するようになされたハンディ式の糖度計が開発されている(特許文献1参照)。このハンディ式糖度計は、光源から照射され、青果物表面で反射された光を受光センサにより測定することにより、反射光に基づいて糖度の算出を行うようになされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-114544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に示すハンディー式糖度計では、作業者が果樹に実る大量の果実を1つ1つ手で把持しながら計測する必要があり、作業者にとって非常に手間がかかるという問題がある。また野外では果樹が太陽光の影響も大きく影響を受けるため、光量調節手段に可変減光フィルタを設けているが、構成が煩雑になる。
【0007】
実際に太陽光に晒されている果樹において、当該果樹に実る大量の果実の成長過程を把握しながら、各果実の糖度を含む内部成分を高い精度で計測して管理することが望ましいが、上述の特許文献1では実用上不十分な問題が残る。
【0008】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、果実の成長過程における内部成分の状態を高い精度で推定することが可能な非破壊成分推定装置を搭載する自走式ロボットを提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため本発明においては、果実に光を照射して糖度を推定する非破壊成分推定装置を搭載し、自律的にまたは外部操作に応じて地面を走行する自走式ロボットにおいて、ロボット本体を地面の所望方向に所望速度で走行駆動する走行駆動部と、多自由度を有する多関節機構を有するアーム部の根元部を支持し、かつ、アーム部と一体となって走行駆動部に対して回動自在に当該走行駆動部の上段に連結されたアーム支持部と、走行駆動部およびアーム支持部をそれぞれ駆動制御する走行制御部とを備え、非破壊成分推定装置は、果実に対して光が照射されたとき、当該果実の内部から生じる散乱光を当該果実の皮表面を介して検出する光検出部と、光検出部に隣設され、果実との接触状態を検知する接触検知部と、先端が果実の皮表面に吸着可能な弾性材からなり、当該果実への吸着時に光検出部および接触検知部の周囲を被覆して外光から遮光するための吸着遮光部と、吸着遮光部に吸着される果実の吸着部位の近傍を光照射するように、光を照射する光源と、吸着遮光部による吸着対象を撮像すると同時に当該吸着対象までの距離を計測する撮像距離計測部と、光検出部により検出された散乱光を分光して、波長ごとの光強度分布を表すスペクトルを計測する分光スペクトル計測部と、果実と異なる複数の同種類の果実に対応する散乱光のスペクトルとして記憶されているライブラリと、分光スペクトル計測部により計測されたスペクトルに対して、ライブラリに記憶されている複数のスペクトルとの相関性を多変量解析することにより、果実の内部成分の状態を推定するように学習した推定モデルを構築する推定モデル構築部と、推定モデル構築部により構築された推定モデルに基づいて、果実の成長過程における内部成分の状態を推定する内部状態推定部とを備え、走行制御部は、撮像距離計測部にて撮像される吸着遮光部による吸着対象の撮像内容と当該吸着対象までの計測距離とに基づいて、アーム支持部を回動させるとともにアーム部の各関節機構を屈曲または伸展させながら、吸着遮光部を吸着対象となる果実に位置合わせした後、接触検知部により果実の接触状態を検知しながら当該吸着遮光部を当該果実の外表面に吸着させるようにした。
【0010】
このように自走式ロボットにおいては、所望の果樹のある位置まで自走して到達した後、当該果樹に実る複数の果樹に対してそれぞれアーム部に搭載された非破壊成分推定装置を位置決めして、当該各果実の成長過程における内部成分の状態を比較的高い精度で推定することができる。果樹に実る果実の数が多い場合には、人手による個別作業よりも格段と作業効率が向上するために非常に有効である。
【0011】
その際、非破壊成分推定装置では、果実の成長過程における内部成分の状態を比較的高い精度で推定することができる。特に果実の成長過程における内部成分の変化状態を時系列的に記録しておくことにより、当該記録に基づいて、果樹に実る各果実をより一層高い価値をもつ品種となるような改良研究に寄与することが可能となる。また、非破壊成分推定装置では、外乱光の影響を受けることなく、果実の成長過程における内部成分の状態を比較的高い精度で推定することができる。
【0012】
また本発明においては、ロボット本体の走行環境を撮像する環境撮像部と、環境撮像部による撮像画像に基づいて、走行環境における特定の果樹を検知する対象検知部と、走行環境に対して自己の位置を推定すると同時に、地面を含む平面的または立体的な環境地図を作成する環境地図作成部とを備え、走行制御部は、環境地図作成部により作成された環境地図において、走行駆動部を制御して対象検知部により検知された特定の果樹に移動した後、アーム部を駆動しながら当該果樹に実る複数の果実に対して吸着遮光部をそれぞれ当接させるとともに、順次アドレスを割り当てておき、非破壊成分推定装置の内部状態推定部により推定された果実の成長過程における内部成分の状態を表すデータを、アドレス単位で管理するようにした。
【0013】
この結果、自走式ロボットでは、栽培エリア内における所望の果樹の植立位置まで自動的に移動することができるとともに、特定の果樹に実る複数の果実について、個別にアドレス管理することによって、当該各果実の成長過程における内部成分の状態を時系列的に記憶することが可能となる。
【0014】
さらに本発明においては、推定モデル構築部は、推定モデルとして、教師あり機械学習法を用い、内部状態推定部は、教師あり機械学習法による学習結果を、交差検証によって精度評価する。この結果、非破壊成分推定装置では、学習回数の増加に伴い、内部状態推定部による精度評価の正確度が向上するため、より一層、果実の成長過程における内部成分の状態を高い精度で推定することが可能となる。
【0015】
さらに本発明においては、果実は、果樹に実ったままの状態にあり、果実の内部成分は、糖度、酸味、γ-アミノ酪酸、硬さ、密度および色合いの少なくとも1以上からなる。この結果、非破壊成分推定装置では、果実の成長過程における内部成分の変化を具体的に個別または組み合わせによる相関性も確認することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、果実の成長過程における内部成分の状態を比較的高い精度で推定することが可能な非破壊成分推定装置を搭載する自走式ロボットを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施の形態による非破壊成分推定装置の全体構成を示す外観図である。
図2図1に示す非破壊成分推定装置の内部構成を示すブロック図である。
図3】糖度推定に最適な波長領域を探索するためのグラフである。
図4】糖度推定による結果を表すグラフである。
図5】糖度の平均値と誤差との関係を表すグラフである。
図6】本実施の形態による自走式ロボットの全体構成を示す外観図である。
図7図6に示す自走式ロボットの底面側の構成を示す略線図である。
図8】自走式ロボットの制御系の構成を示すブロック図である。
図9】自走式ロボットの自律移動の説明に供する略線図である。
図10】非破壊成分推定装置によるトマトの糖度推定動作の説明に供する略線図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0024】
(1)本実施の形態による非破壊成分推定装置の構成
図1(A)および(B)は、本実施の形態にかかる非破壊成分推定装置1を示し、装置全体を統括制御するための制御基板および電装系を内部に含む本体部2と、当該本体部2の前端に設けられる光学検知ユニット3と、当該本体部の上側に設けられる撮像ユニット4とを有する。
【0025】
光学検知ユニット3は、果実に対して光を照射する一対の光源5A、5Bと、果実の内部から生じる散乱光を当該果実の皮表面を介して検出する光検出部6とから構成されている。各光源5A、5Bは、波長範囲が350〔nm〕~3,500〔nm〕のハロゲンランプからなる。光検出部6は、598〔nm〕~1,047〔nm〕の光検出能を有し、果実の内部から得られる散乱光を検出する。
【0026】
光学検知ユニット3は、光検出部6の隣に、果実との接触状態を検知する接触検知部10を有し、光検出部6および接触検知部10の周りを囲むように、弾性材からなる吸着遮光部11が設けられている。
【0027】
接触検知部10は、例えば硫化カドミウム(CdS)セルのような光導電素子からなり、果実との接触状態を検知する。吸着遮光部11は、先端が果実の皮表面に吸着可能な構造(例えば吸盤構造など)からなり、当該果実への吸着時に光検出部6および接触検知部10の周囲を被覆して外光から遮光するようになされている。
【0028】
光学検知ユニット3において、一対の光源5A、5Bは、吸着遮光部(光検出部6および接触検知部10を含む)11を上下から挟む位置に設けられ、当該吸着遮光部11に吸着される果実の吸着部位の近傍を光照射し得るようになされている。
【0029】
なお、一対の光源5A、5Bは、光学検知ユニット3の筐体の照射口に設けられた内部ミラーによる反射光を併せて集合光として照射し得るとともに、光学検知ユニット3自体を可能な限り小型化し得るようになされている。
【0030】
また撮像ユニット4は、吸着遮光部11による吸着対象を撮像する対象撮像部20と、当該対象撮像部20により撮像された吸着対象との距離を計測する測距部21とから構成されている。対象撮像部20は、CMOSイメージセンサのような撮像素子からなり、測距部21は、光学式変位センサからなる。なお、測距部21は、非接触式の測距センサであれば、光学式以外にも、過電流式や超音波式、レーザフォーカス式など種々の方式のものを適用してもよい。
【0031】
この非破壊成分推定装置1において、本体部2には、図2に示すように、装置全体を統括制御する制御基板としてデバイス制御部30および記憶部31が設けられている。このデバイス制御部30は、分光スペクトル計測部32と、推定モデル構築部33と、内部状態推定部34としての機能を有する。
【0032】
本実施の形態では、果実としてトマトを適用するとともに、当該果実の内部成分として糖度を推定する場合について実験した。
【0033】
分光スペクトル計測部32は、光検出部6により検出された散乱光を分光して、598〔nm〕~1,047〔nm〕の波長帯における波長ごとの光強度分布を表すスペクトルを計測する。記憶部31には、果実と異なる複数の同種類の果実に対応する散乱光のスペクトルがライブラリとして記憶されている。
【0034】
推定モデル構築部33は、分光スペクトル計測部32により計測されたスペクトルに対して、記憶部31のライブラリに記憶されている複数のスペクトルとの相関性を多変量解析することにより、果実の内部成分の状態を推定するように学習した推定モデルを構築する。この推定モデルは、教師あり機械学習法からなり、例えば、ニューラルネットワークやサポートベクタマシン、隠れマルコフニコフなど種々の手法を適用するようにしてもよい。
【0035】
例えば、図3に示すように、波長領域が598〔nm〕~1,047〔nm〕における散乱光の組み合わせの中で、最も糖度の推定精度が高い波長帯域は794〔nm〕~961〔nm〕であること(図中の枠Fに含まれる領域)が実験により得られた。
【0036】
内部状態推定部34は、推定モデル構築部33により構築された推定モデルに基づいて、果実の成長過程における内部成分の状態を推定する。すなわち、内部状態推定部34は、教師あり機械学習法による学習結果を、交差検証によって精度評価する。
【0037】
具体的には、内部状態推定部34は、上述した図3にて得られた最も推定精度が高い波長帯域794〔nm〕~961〔nm〕を用いて検量線を、多変量解析のうちの重回帰分析によって算出する。なお、重回帰分析以外にも、主成分分析、因子分析、クラスタ分析など種々の多変量解析の手法を適用するようにしてもよい。
【0038】
実際に336個のトマト(Frutica:商品名)による散乱光スペクトルを基に作成した推定モデル(794〔nm〕~961〔nm〕の波長領域を使用)によって、同品種のトマト100個の糖度を推定した結果を図4(A)に示す。図4(B)に図4(A)の結果に基づく、糖度の平均値と誤差との関係を示す。この図4(B)に示すように、糖度推定精度は±0.60度であることがわかる。
【0039】
なお、本体部2の内部には、二次電池からなる内蔵バッテリ35が設けられており、当該本体部2の後端には、自走式ロボット40(図5)のアーム部44の先端を着脱自在に取り付けるためのアームマウント(図示せず)が設けられている。
【0040】
このアームマウントには、内蔵バッテリ35と導電可能な給電端子が内設され、必要に応じて自走式ロボット40側の駆動用バッテリ76(図7)から供給される電力を当該給電端子を介して内蔵バッテリ35に供給して充電することが可能となる。一方、非破壊成分推定装置1を自走式ロボット40に取り付けた状態では、自走式ロボット40側の駆動用バッテリ76からの電力をそのまま非破壊成分推定装置1全体の動作用電力として供給することも可能である。
【0041】
(2)本実施の形態による自走式ロボットの構成
図5は全体として本実施の形態による自走式ロボット40を示す。自走式ロボット40は、自律的または外部操作に応じて床面を走行する二輪駆動型の移動体であり、一対の駆動輪41A、41Bを同時にまたは独立して回転駆動してロボット本体42を所望方向に走行させる走行ベース部(走行駆動部)43と、当該走行ベース部43の上段に連結されるとともに、少なくとも1以上の関節機構を有するアーム部44の端部を支持するアーム支持部45とを備える。
【0042】
走行ベース部43は、図6の底面図に示すように、一対のオムニホイール46A、46Bが前輪として設けられるとともに、後輪である一対の駆動輪41A、41Bの間の後端中心には補助輪47が設けられている。これにより自走式ロボット40は、走行ベース部43が一対の駆動輪41A、41Bを同時に回転駆動して前後方向に走行することができる一方、一対の駆動輪41A、41Bを独立して回転移動して各オムニホイール46A、46Bが追従して左右いずれにも走行することができる。
【0043】
すなわち一対の駆動輪41A、41Bはそれぞれ駆動モータ(例えばインホイールモータ)48A、48Bによってそれぞれ独立して回転駆動し、駆動輪41A、41Bの前進回転或いは後進回転によって前進及び後進し、駆動輪41A、41Bの前進回転角度に差を与えることによって前進しつつ右或いは左に走行する。また、駆動輪41A、41Bを互いに逆方向に回転駆動することによって自走式ロボット40がスピン、即ちその位置で方向転換する。
【0044】
アーム支持部45は、走行ベース部43の上段に連結される根元本体部50を基台として、少なくとも1以上の関節機構を有するアーム部45の端部が鉛直方向を回動中心として回転自在に支持するようになされている。なお、走行ベース部43の上段には、アーム支持部45の連結部に近い位置にトレイ51が固定されている。
【0045】
走行ベース部43の前面側(進行方向側)には、レーザレンジセンサ52および3次元スキャン可能なRGB-Dセンサ53が設けられるとともに、その上側の周囲全方向を囲むように所定間隔で複数の3D距離画像センサ54が配置されており、斜め前方方向および左右方向の障害物の検知を行うようになされている。
【0046】
具体的にレーザレンジセンサ52は、設置位置から見た対象物(障害物)に照射し、その反射光を受光して距離を算出する。これを一定角度間隔で距離を測定することにより、平面上に扇状の距離情報を最大30m、角度240度の範囲で得ることができる。
【0047】
またRGB-Dセンサ53は、RGBカラーカメラ機能に加えて、当該カメラから見た対象物(障害物)までの距離を計測できる深度センサを有し、対象物の3次元スキャンを行うことができる。この深度センサは赤外線センサからなり、構造化光の単一のパターンを対象物に投影した状態で対象を撮影し、そのパラメータを用いて三角測量により画像上の各点のデプスを算出する。
【0048】
例えばRGB-Dセンサ53として、例えばkinect(マイクロソフト社、登録商標)を適用した場合、水平視野57度、垂直視野43度、センサ範囲は1.2m~3.5mの範囲を撮影することが可能であり、RGB画像は640×480、Depth(深度)画像は320×240画素で共に30フレーム/秒で取得できる。
【0049】
RGB-Dセンサ53を走行ベース部43の上部中央に設置したのは、垂直視野を確保すべく、床面から0.6m~1.8mの高さ確保が必要となる。
【0050】
3D距離画像センサ54は、LEDパルスを照射し、対象物からの反射光の到達時間を画素単位で計測すると同時に取得した画像情報を重畳することにより、対象物までの距離情報を画素単位で算出する。
【0051】
この3D距離画像センサ54は、上述のRGB-Dセンサ53よりも高精度の検出能力を有し、かつレーザレンジセンサ52よりも視野角が広いことから、屋外向けの補完センサとして必要である。3D距離画像センサ54として、例えばピクセルソレイユ(日本信号株式会社の商品名)を適用した場合、水平視野72度、垂直視野72度、センサ範囲は0.3m~4.0mの範囲を撮影することが可能である。
【0052】
本発明の自走式ロボット40では、レーザレンジセンサ52、RGB-Dセンサ53および3D距離画像センサ54を用いて、外部環境に対して自己の位置を推定すると同時に環境地図を作成するSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術が実現するようになされている。
【0053】
このSLAM技術を用いた自走式ロボット40は、高精度に自己の位置を推定しながら、実空間内に存在する物体の3次元位置を表現する環境地図を動的に生成することにより、自己の移動経路を特定して環境内を自律的に移動することが可能である。
【0054】
またアーム支持部45の根元本体部50には、複数の超広角レンズを搭載する撮像カメラ55が設けられており、自走式ロボット40の全方位(360度)の空間を撮像し得るようになされている。さらにアーム支持部45の根元本体部50には、集音マイクおよびスピーカ(ともに図示せず)が搭載されており、周囲環境の音声を集音し、必要に応じて発話や警告音を発するようになされている。
【0055】
(3)本実施の形態によるアーム部の構成
アーム支持部45においては、走行ベース部43に連結された根元本体部50を基台として、当該根元本体部50に対して回動自在に連結された回動支持部60と、当該回動支持部60に対して垂直方向に旋回可能に連結された第1上腕部61と、当該第1上腕部61と同じ方向に旋回可能に連結された第2上腕部62と、当該第2上腕部62の旋回方向に対して垂直方向に旋回可能に連結された前腕部63と、当該前腕部63の旋回方向と垂直方向に旋回可能に連結された手首部64とからアーム部44を構成する。
【0056】
すなわちアーム支持部45は、根元本体部50に対して5自由度をもつ多関節構造のアーム部44(回動支持部60、第1上腕部61、第2上腕部62、前腕部63、手首部64)が各軸(A軸~E軸)を回転中心として回動自在に連結された構成からなる。アーム部44を構成する手首部64の先端には、エンドエフェクタとして非破壊成分推定装置1(図1)が着脱自在に取り付けられるようになされている。
【0057】
具体的には、根元本体部50と回動支持部60はA軸を中心に回動可能に連結され、回動支持部60と第1上腕部61はB軸を中心に回動可能に連結され、第1上腕部61と第2上腕部62はC軸を中心に回動可能に連結され、第2上腕部62と前腕部63はD軸を中心に回動可能に連結され、前腕部63と手首部64はE軸を中心に回動可能に連結されている。
【0058】
これら根元本体部50と回動支持部60の関節部位、回動支持部60と第1上腕部61の関節部位、第1上腕部61と第2関節部62の関節部位、第2関節部62と前腕部63の関節部位、前腕部63と手首部64の関節部位にはそれぞれ例えば直流サーボモータからなるアクチュエータが設けられ、図示しない伝達機構を介して回転駆動されるようになされている。
【0059】
このアーム部44を構成する手首部64には、先端にコネクタ(図示せず)が形成され、非破壊成分推定装置1の本体部2に形成されたアームマウント(図示せず)と導通接続し得るようになされている。自走式ロボット40は、非破壊成分推定装置1がアーム部44に接続された際、当該非破壊成分推定装置1をエンドエフェクタとしてアーム部44の動作に連動して駆動制御し得るようになされている。
【0060】
(4)自走式ロボットの内部構成
図7に自走式ロボット40の内部の回路構成を示す。自律的にまたは外部操作に応じて床面を走行する自走式ロボット40において、ロボット全体の制御を司る走行制御部70は、マイクロコンピュータを主体として構成されている。
【0061】
走行制御部70による制御の下、走行駆動部71は、左右のモータドライバ65A、65Bを制御して駆動モータ48A、48Bの回転を制御することにより、ロボット本体42を床面の所望方向に所望速度で走行駆動する。
【0062】
環境地図作成部72は、予め設定された走行経路情報を記憶する目標走行経路記憶部73からの走行経路情報と、レーザレンジセンサ52、RGB-Dセンサ53および3D距離画像センサ54による各検出信号とに基づいて、走行環境に対して自己の位置を推定すると同時に、床面を含む平面的または立体的な環境地図を作成しながら、走行経路の適否や変更の要否を判断するとともに、走行障害物の有無を判断する。
【0063】
例えばビニールハウス(栽培エリア)における自走式ロボット40がティーチングされた走行経路上を走行する際に壁面や石段直前などの走行障害物に接触するか否かを判断し、接触する直前に一旦停止して当該走行経路に沿う方向に走行経路を変更する。
【0064】
実際に自走式ロボット40は、上述したSLAM技術を利用して、ビニルハウス(栽培エリア)内のロボット本体42が移動可能な対象エリアの環境地図を自動的に作成する。具体的には自走式ロボット40は、レーザレンジセンサ52および3D距離画像センサ54から得られる対象物との距離情報および角度情報に基づいて、2次元格子で区切ったグリッド上の局所地図を移動環境を示すエリアとして設定していきながら、所望の対象エリア全体を表す環境地図を作成する。
【0065】
それと同時に自走式ロボット40の一対の駆動輪41A、41Bに対応するエンコーダ(図示せず)から読み出された回転角度に基づいて、自機の走行量を演算し、次の居所地図と現時点までに作成された環境地図とのマッチングおよび自機の走行量から自己位置を推定する。実際に対象エリア全体を表す環境地図M1図8(A)に示す。
【0066】
また自走式ロボット40においては、ロボット本体42の走行環境を撮像カメラ(環境検知部)55により撮像し、対象検知部74は、当該撮像カメラ55による撮像画像に基づいて、走行環境における特定対象を検知する。図8(B)において、上述の図8(A)に示す環境地図M1上に走行環境における特定対象S1が重畳表示された状態を示す。
【0067】
また走行制御部70は、走行ベース部43およびアーム支持部45をそれぞれ駆動制御するとともに、アーム部44にエンドエフェクタとして取り付けられた非破壊成分推定装置1を制御する。この自走式ロボット40では、アーム部44に非破壊成分推定装置1が接続された際、当該非破壊成分推定装置1は、走行制御部70により機能発揮のための制御を受けるようになされている。
【0068】
また自走式ロボット40は、外部の情報入力装置(図示せず)と無線通信する通信部75を備え、走行制御部70の制御に応じて、環境地図のデータを送信するとともに、情報入力装置からの操作指示の内容を示すデータを受信する。
【0069】
さらに自走式ロボット40は、二次電池またはキャパシタからなる比較的大容量の駆動用バッテリ76を内蔵しており、外部との給電台(図示せず)に設けられた給電端子に駆動用バッテリ76の充電端子を導電接続させることにより、商用電源から供給される電力を当該給電端子を介して駆動用バッテリ76に供給して充電することが可能となる。
【0070】
(5)本実施の形態による自走式ロボットの動作
本実施の形態において、自走式ロボット40の走行制御部70は、例えばビニルハウス(栽培エリア)内に植立されている複数のトマト果樹のうち計測対象となる特定のトマト果樹の手前位置まで移動するように、走行ベース部43およびアーム支持部45を駆動制御する。
【0071】
すなわち、走行制御部70は、ロボット本体42の走行環境を撮像した撮像画像に基づいて、走行環境における特定の果樹を検知しながら、走行環境に対して自己の位置を推定すると同時に、地面を含む平面的または立体的な環境地図を作成しておき、当該環境地図において特定の果樹に移動するように走行駆動部71を制御する。この結果、自走式ロボット40では、栽培エリア内における所望のトマト果樹の植立位置まで自動的に移動することができる。
【0072】
続いて、走行制御部70は、非破壊成分推定装置1における撮像ユニット4を制御すると同時に、アーム部44を駆動制御することにより、特定のトマト果樹に実る複数の果実について、一つずつ光学検知ユニット3の吸着遮光部11を当接させる(図9)。
【0073】
すなわち、走行制御部70は、非破壊成分推定装置1の撮像ユニット4における対象撮像部20により果実を撮像すると同時に、測距部21により当該果実との距離を計測しながら、アーム部44を駆動制御して光学検知ユニット3の吸着遮光部11を果実に位置合わせした後、光学検知ユニット3の接触検知部10により果実との接触状態を検知しながら、当該吸着遮光部11を当該果実の表面に吸着させる(図10)。
【0074】
このように自走式ロボット40によれば、果樹に実る果実の数が多い場合には、人手による個別作業よりも格段と作業効率が向上するために非常に有効である。
【0075】
続いて、走行制御部70は、非破壊成分推定装置1のデバイス制御部30を制御して、一対の光源5A、5Bから果実に対して光照射するとともに、当該果実の内部から生じる散乱光を当該果実の皮表面を介して光検出部6にて検出させる。
【0076】
非破壊成分推定装置1のデバイス制御部30は、光検出部6により検出された散乱光を分光して、波長ごとの光強度分布を表すスペクトルを計測し、当該計測したスペクトルに対して、ライブラリ(記憶部31)に記憶されている複数のスペクトルとの相関性を多変量解析することにより、果実の内部成分の状態を推定するように学習した推定モデルを構築し、当該構築した推定モデルに基づいて、果実の成長過程における内部成分の状態を推定する。
【0077】
このように非破壊成分推定装置1では、果実の成長過程における内部成分の状態を比較的高い精度で推定することができる。特に果実の成長過程における内部成分の変化状態を時系列的に記録しておくことにより、当該記録に基づいて、果樹に実る各果実をより一層高い価値をもつ品種となるような改良研究に寄与することが可能となる。
【0078】
さらに自走式ロボット40は、対象検知部74により検知された特定の果樹について、アーム部44を駆動しながら当該果樹に実る複数の果実をそれぞれ非破壊成分推定装置1における光学検知ユニット3の吸着遮光部11を当接させるとともに、順次アドレスを割り当てておき、非破壊成分推定装置1の内部状態推定部34(デバイス制御部30)により推定された果実の成長過程における内部成分の状態を表すデータを、アドレス単位で管理する。
【0079】
この結果、自走式ロボット40では、特定の果樹に実る複数の果実について、個別にアドレス管理することによって、当該各果実の成長過程における内部成分の状態を時系列的に記憶することが可能となる。
【0080】
(6)他の実施の形態
なお上述のように本実施の形態においては、自走式ロボット40として、外部操作に応じてまたは自律的に走行可能な二輪駆動型の移動体を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、四輪駆動型でもよく、アーム部44を支持しながら移動できれば、駆動方法や車輪の数など多種多様のものを適用しても良い。また一対の前輪をそれぞれオムニホールにしたが、それ以外にもキャスタやキャタピラなど種々の走行機構を適用してもよい。
【0081】
また上述の実施の形態においては、アーム部44として5自由度をもつ多関節構造を適用した場合について述べたが、本発明はこれに限らず、多自由度を有する多関節機構からなるアーム部であれば、種々の孝蔵のものを適用するようにしてもよい。
【0082】
さらに上述の実施の形態においては、果実としてトマトを適用するとともに、当該果実の内部成分として糖度を推定する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、トマト以外の種々の果実(リンゴ、みかん等)を適用してもよく、さらに当該果実の内部成分としては、糖度以外にも、酸味、γ-アミノ酪酸、硬さ、密度および色合いの少なくとも1以上を適用するようにしてもよい。この結果、非破壊成分推定装置では、果実の成長過程における内部成分の変化を具体的に個別または組み合わせによる相関性も確認することが可能である。
【符号の説明】
【0083】
1…非破壊成分推定装置、2…本体部、3…光学検知ユニット、4…撮像ユニット、5A、5B…光源、6…光検出部、10…接触検知部、11…吸着遮光部、20…対象撮像部、21…測距部、30…デバイス制御部、31…記憶部、32…分光スペクトル計測部、33…推定モデル構築部、34…内部状態推定部、35…内蔵バッテリ、40…自走式ロボット、41A、41B…駆動輪、42…ロボット本体、43…走行ベース部、44…アーム部、45…アーム支持部、46A、46B…オムニホイール、47…補助輪、48A、48B…駆動モータ、50…根元本体部、51…トレイ、52…レーザレンジセンサ、53…RGB-Dセンサ、54…3D距離画像センサ、55…撮像カメラ、60…回動支持部、61…第1上腕部、62…第2上腕部、63…前腕部、64…手首部、65A、65B…モータドライバ、70…走行制御部、71…走行駆動部、72…環境地図作成部、73…目標走行経路記憶部、74…対象検知部、75…通信部、76…駆動用バッテリ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10